説明

高度に富化されたバター香味および非常に低いトランス脂肪酸含量を有する加工食用油を調製するための方法およびそれによって調製される加工食用油

本発明の方法は、水素硬化工程の前に脱臭工程を行うこと、および食用油の硬化およびトランス脂肪酸の生成を防止するために有効な穏和な条件下で水素添加反応を行うことを含み、その結果、不快臭を有さず、そして非常に低いトランス脂肪酸含量を有する、従来の水素硬化油より100倍強い富化されたバター香味を有する加工食用油が生産される。さらに、本発明の方法によって調製された加工食用油は、従来の食用油、食物製品および飼料製品への少量のみの添加でさえ、トランス脂肪酸含量または不快臭を増加することなしに富化されたバター香味を与えることができ、従って水素硬化植物油の代替油として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素硬化植物油を調製するための従来の方法において、水素硬化工程の前に脱臭工程を行い、次いで従来の水素硬化工程の代わりに食用油の硬化および不快臭化合物の形成を防止するために有効な温和な条件下で最適化された水素添加反応を行うことによって、高度に富化されたバター香味を非常に低レベルのトランス脂肪酸および不快臭とともに有する加工食用油を調製するための新規の方法に関する。
【0002】
背景技術
従来の水素硬化方法によって調製される水素硬化植物油は、それがファーストフードをパリパリにし、そして魅力的に見せ、そして富化されたバター香味を与えることによってファーストフード製品の香味を改善するので、マーガリン、ショートニング、ビスケット、シリアル、電子レンジポップコーン、ドーナッツ、パン、ケーキ、ハンバーガー、フライドチキン、ピザ、チョコレート、乳製品、および麺類などのファーストフードを調製するために広く使用されている。
【0003】
図1は、当該分野において周知の水素硬化植物油の調製および精製の方法を示す模式図である。従来の方法は典型的には以下の5つの工程を含む:(1)圧搾抽出された粗植物油からゴムを除去する工程(脱ゴム工程);(2)脱ゴム工程を経た油から遊離脂肪酸を除去する工程(中和工程);(3)中和された油を酸性白土を使用して脱色する工程(漂白工程);(4)漂白された油を水素硬化反応によって硬化させる工程(水素硬化工程);および(5)水素硬化された油を乾燥蒸気を用いてストリップすることによって最終的に不快臭を除去する工程(脱臭工程)。所望により、上記プロセスから脱ゴム工程または中和工程を省略し得る。
【0004】
上記の方法において漂白工程の後に得られる漂白された油は、粗油に由来する非常に不快な臭いを有するので、水素硬化油は水素硬化反応に起因する不快臭だけでなく粗油に由来する不快臭も有する。それゆえ、水素硬化油を食用に使用するためには、脱臭工程を行うことによって水素硬化油から不快臭を可能な限り除去することが非常に重要である。しかし、脱臭工程の間に不快臭成分と一緒に良好な香味成分も除去されるので、最終製品は非常に少量の良好な香味成分のみを含んでおり、これは最終製品における食欲をそそる風味の有意な劣化を生じる。
【0005】
さらに、上記のように固体形態の水素硬化油を調製する過程で水素を植物油に添加すると、10〜45%のトランス脂肪酸が生成される。トランス脂肪酸の多量摂取は肥満を含む種々の疾患の主な原因であることが知られている。近年、トランス脂肪酸と癌(例えば、肝臓癌、胃癌、大腸癌、乳癌等)との間の関連性が論議されている。トランス脂肪酸は、動脈プラークから過剰のコレステロールを除去しそしてその発達を遅延させると考えられている高密度リポタンパク質(HDL)、すなわち善玉コレステロールを低下させるので、トランス脂肪酸は飽和脂肪酸よりも健康に有害であることが報告されている。糖尿病の危険性の増加のようなトランス脂肪酸の有害な効果についての他の報告も存在する。
【0006】
上記のようにトランス脂肪酸は有害であることが見出されつつあるので、大韓民国ならびに米国、カナダ、デンマークなどを含む先進国は、例えば、食物製品中のトランス脂肪酸含量についての厳格な規制を制定し、そしてトランス脂肪酸および水素硬化油の含量をラベルに表示することを要求することによって、トランス脂肪酸に関して食物製品に対する管理を強化し始めている。
【0007】
従って、いくつかの国内および国外の食品製造業者は、食物製品中のトランス脂肪酸含量を低下させるための新たな技術、特に分別、硬化、およびエステル交換のような油の調製、天然油の使用、および乳化剤の使用に関する技術の開発に努力を注いでいる。例えば、カノーラ油およびヒマワリ種子油を改質することによって、トランス脂肪酸含量の低い油が開発されており、そして現在広く使用されている。さらに、低リノレン酸含量を有するダイズ油の使用が拡大している。大韓民国では、低トランス脂肪酸含有油(給仕サイズ当り0.5g以下のトランス脂肪酸含量を有する、すなわち、米国基準に基づいて「ゼロ」のトランス脂肪酸を含むとして表示され得る製品)が化学的エステル化方法を使用することによって生産されており、そして現在市販されている。さらに、大韓民国においては脂質分解酵素を利用することによってトランス脂肪酸含量を1%レベルまで減少するための加工技術も商業化されており、注目を集めている。
【0008】
しかし、代替油における近年の技術開発は水素硬化植物油が食物製品に与えるカリカリとした食感を再現することには成功したが、食物製品に食欲をそそる富化された風味を与えるバター香味の再現はなお達成されていない。それゆえ、多くの食品製造業者はこのような香味を再現するためにその努力を集中している。
【0009】
米国特許第5,783,247号は、天然トリグリセリド脂肪、脂肪酸、または脂肪酸誘導体を酸化処理に供することによって香味組成物を調製するための方法を開示しており、この方法は、(a)トリグリセリド脂肪、脂肪酸、または脂肪酸誘導体に、少なくとも、脂肪の誘導期間を1.5倍増加するのに十分な濃度に抗酸化剤を混合すること;および(b)混合物を大気酸素の接近下で水の存在下で0.5時間〜1週間、50〜150℃の範囲の温度で加熱することを含む。しかし、この方法は、それがバター香味の完全な再現を達成せず、そしてトランス脂肪酸および不快臭の生成を防止するための試の言及が存在しない点で、本発明とは全く区別される。
【0010】
本発明は、トランス脂肪酸含量の増加および不快臭の生成を引き起こすことなしに富化されたバター香味を生成するための方法の達成に関し、そして水素硬化植物油の生産における従来の水素硬化工程の前に脱臭工程を行うこと、および従来の水素硬化工程の代わりに食用油の硬化および不快臭の形成を防止するために有効な温和な条件下で水素添加反応を行うことを含む、富化されたバター香味を非常に低いトランス脂肪酸含量および不快臭とともに有する加工食用油を生産するための方法を提供する。
【0011】
発明の開示
技術的課題
従って、本発明の目的は、まず粗油に由来する不快臭を除去し、次いで水素硬化反応の間にトランス脂肪酸および不快臭の生成を可能な限り防止することによって、改善された風味を有する、すなわち富化されたバター香味を有する加工食用油を調製するための方法を提供することである。
【0012】
技術的解決
本発明の1つの態様は、脱ゴム→中和→漂白→水素硬化→脱臭の工程を含む水素硬化植物油を調製するための従来の方法において、水素硬化工程の前に脱臭工程を行うこと、および従来の水素硬化工程の代わりに食用油の硬化およびトランス脂肪酸の形成を防止するために有効な温和な条件下で水素添加反応を行うことを含む、高度に富化されたバター香味を非常に低いトランス脂肪酸含量および不快臭とともに有する加工食用油を生産するための方法に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、富化されたバター香味を与えるが、非常に低いトランス脂肪酸含量を含む、水素硬化植物油の代替油としての、本発明の上記の方法によって調製される加工食用油に関する。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、本発明の上記加工食用油を添加して、富化されたバター香味を与えることによって、トランス脂肪酸含量を増加することなしに、食物製品または飼料製品の風味を改善するための方法に関する。
【0015】
有利な効果
本発明の方法は、水素硬化工程の前に脱臭工程を行い、そして従来の水素硬化工程の代わりに、反応の間に食用油の硬化および不快臭の形成を防止するために有効な温和な条件下で、水素添加反応を行うことによって、高度に富化されたバター香味を非常に低いトランス脂肪酸含量および不快臭とともに有する加工食用油を提供する。本発明の方法によって調製された加工食用油は、少量のみでさえ、トランス脂肪酸含量をゼロ(0)のレベルに低下させながら、種々の種類の食用油、抗酸化剤含有食用油、低トランス脂肪含有油、食物製品、および飼料製品などに富化されたバター香味を与えることができ、従って水素硬化植物油の代替油として有用であるだけでなく、食品産業の発展および人類の健康の改善に寄与する。
【0016】
本発明の上記および他の目的および特徴は、添付の図面と共同して、下記の好ましい実施態様の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、脱ゴム→中和→漂白→水素硬化→脱臭の工程を含む、水素硬化植物油を調製するための従来の方法を示す模式図である。
【図2】図2は、脱ゴム→中和→漂白→脱臭→水素添加の工程を含む、本発明による加工食用油を調製するための方法を示す模式図である。
【図3】図3および4はガスクロマトグラフィー分析の結果を示し、ここで本発明の方法によって調製された加工ダイズ油および従来の方法によって調製された水素硬化ダイズ油における揮発性化合物の含量を分析した。
【図4】図3および4はガスクロマトグラフィー分析の結果を示し、ここで本発明の方法によって調製された加工ダイズ油および従来の方法によって調製された水素硬化ダイズ油における揮発性化合物の含量を分析した。
【図5】図5および6はガスクロマトグラフィー分析の結果を示し、ここで本発明の方法によって調製された加工ダイズ油および従来の方法によって調製された水素硬化ダイズ油におけるトランス脂肪酸含量を分析した。
【図6】図5および6はガスクロマトグラフィー分析の結果を示し、ここで本発明の方法によって調製された加工ダイズ油および従来の方法によって調製された水素硬化ダイズ油におけるトランス脂肪酸含量を分析した。
【0018】
発明を実施するための最良の形態
本発明は、食用油を精製する過程で、減圧下で蒸気を用いて食用油を脱臭する工程、次いで触媒の存在下で水素添加反応を行う工程を含む、富化されたバター香味を低いトランス脂肪酸含量とともに有する加工食用油を調製するための方法を提供する。
【0019】
典型的には脱ゴム→中和→漂白→水素硬化→脱臭から構成される、脱臭工程が水素硬化工程の後に行われる水素硬化植物油を製造するための従来の方法とは対照的に、本発明の方法はずっと富化された香味を有する加工食用油を提供するための方法として特徴付けられ、この方法は、不快な水素硬化臭の生成の刺激および増加を担う多量の揮発性微量成分を除去するために、水素硬化工程の前に脱臭工程を行うこと、およびその後、従来の水素硬化条件の代わりに、食用油の硬化を防止するために有効な温和な条件下で水素添加反応を行うことを含み、それによって不快臭成分およびトランス脂肪酸の生成を最小にしながら高度に富化されたバター香味を与える。
【0020】
本発明の方法によって調製される加工食用油は非常に強いバター香味を有しているので、少量(例えば、0.1%)のみを添加することによって富化されたバター香味を食物製品に与えることができる。さらに、本発明の加工食用油を10%まで添加した場合でさえ、トランス脂肪酸の最終含量は「ゼロ(0)」に近く、このことは本発明の加工食用油が従来の水素硬化植物油の代替油として有用であり得ることを示唆する。
【0021】
本発明の好ましい実施態様において、本発明による富化されたバター香味および低いトランス脂肪酸含量を有する加工食用油を調製するための方法は、以下の工程を含み得る:
1)粗食用油を脱ゴムする工程;
2)脱ゴムされた食用油を中和し、続いて洗浄しそして乾燥させる工程;
3)中和された食用油を漂白する工程;
4)漂白された食用油を減圧下で蒸気を用いてストリップすることによって脱臭する工程;および
5)反応容器中で上昇した温度で触媒の存在下で脱臭された食用油に水素ガスを導入し、続いて混合物を冷却し、そして触媒を除去する工程。
【0022】
以下で、本発明の上記の方法を図2を参照することによってより詳細に説明する。
【0023】
工程1)は、未加工食用油からリン脂質、ゴム、炭水化物、タンパク質などの不純物を除去するための脱ゴム工程である。この工程において、圧搾抽出された未加工食用油を、油の重量に基づいて0.5〜2%の水、シュウ酸またはリン酸の水溶液、またはこれらの混合物と混合し、そして75〜95℃の範囲の温度で20分間〜1時間攪拌し、それによって上記の不純物を除去する。本発明の好ましい実施態様において、脱ゴム工程を、油の重量に基づいて0.5〜2%の水および0.1〜0.3%のリン酸を食用油に添加することによって行う。
【0024】
本発明の方法に適切な粗食用油の例には、限定するものではないが、ダイズ油、コーン油、綿実油、ゴマ油、エゴマ油、カノーラ油、ヒマワリ種子油、米糠油、オリーブ油、菜種油、抗酸化剤含有食用油、低リノレン酸含有ダイズ油、およびこれらの混合物が含まれる。好ましくは、ダイズ油が使用される。
【0025】
脱ゴム工程を経た食用油は遊離脂肪酸を含んでおり、これを中和工程、すなわち、工程2)によって除去することができる。この工程の間の遊離脂肪酸の除去は、水酸化ナトリウムを、脱ゴムされた油に、油の重量に基づいて2〜20%過剰の量で添加し、得られた混合物を洗浄しそして乾燥させることによって達成される。
【0026】
漂白工程(工程3)は、中和された食用油中に存在する微量元素および色素、例えばクロロフィルおよびカロチンを、物理的吸収によって除去するためのものである。本発明の1つの実施態様において、上記の微量元素および色素を、真空下で(好ましくは1〜5mmHgの範囲)酸性白土またはシリカを使用して物理的吸収によって除去する。
【0027】
所望により、工程1)〜3)、すなわち脱ゴム、中和、および漂白工程のうちの1つ以上を省略し得る。工程1〜3)の1つまたは全てを経ていない粗食用油をなお工程4)および5)に供して、富化されたバター香味および非常に低いトランス脂肪酸含量を有する所望の加工食用油を調製することができる。
【0028】
脱臭工程(工程4)は、漂白工程によって除去されなかった粗油由来の不快臭成分および揮発性不純物を予め除去するためのものであり、そして1〜4mmHgの範囲の真空度の減圧下で20〜60分間漂白された食用油に200〜280℃の範囲の温度で乾燥蒸気を噴霧することによって行われる。従って、脱臭工程が水素硬化工程の前に行われ、そして水素添加反応が最終工程として温和な条件下で行われると、不快臭およびトランス脂肪酸の生成を最小にしながら高度に富化されたバター香味を多量に生成することができる。
【0029】
水素添加反応(工程5)は、触媒の存在下で脱臭された食用油に水素ガスを添加することによって富化されたバター香味を生成させるためのものである。この工程において、脱臭された食用油に触媒を添加した後、混合物を50〜700rpmの範囲の速度で攪拌し、そして1〜6mmHgの範囲の減圧下で100〜290℃の範囲の温度に加熱し、次いで水素ガスを0〜2.5kg/cm2の範囲の圧力で7〜90分間注入する。水素添加反応が完了した後、反応混合物を冷却し、そして触媒を除去するために濾過し、それによって加工食用油を生産する。
【0030】
上記の水素添加反応は、反応温度が最適温度に到達する前に水素ガスを注入し、続いて水素添加反応の間に反応温度を最適温度まで増加することを特徴とする。あるいは、水素添加反応は、反応温度が最適温度に到達する前に相対的に低い攪拌速度で水素ガスを注入し、反応温度が最適温度に到達するまで反応温度を増加し、次いで最適温度で水素添加反応の間に攪拌速度を増加することを特徴とする。
【0031】
本発明の水素添加反応における使用に適切な触媒の例には、限定するものではないが、選択的または非選択的ニッケル触媒、銅触媒、プラチナ触媒、パラジウム触媒、およびルテニウム触媒が含まれる。好ましくは、非選択的ニッケル触媒が使用される。水素添加反応に添加される触媒の量は、脱臭された食用油の重量に基づいて0.0025〜0.5%、好ましくは0.01〜0.1%の範囲にある。
【0032】
さらに、工程5)における触媒を、反応混合物の濾過の数回の反復によってか、または濾過助剤の存在下でそれを混合および濾過することによって除去し得る。濾過助剤は、反応混合物の重量に基づいて0.1〜0.5%の量で添加することができる。濾過助剤の例には、限定するものではないが、活性白土、活性炭、シリカ、ケイ酸マグネシウム、およびサリチル酸が含まれる。
【0033】
本発明の好ましい実施態様において、水素添加反応を以下の工程によって行う:反応温度が150〜190℃に到達するまで0.01〜0.1%の量の触媒の存在下で300〜700rpmの速度で攪拌しながら減圧下で反応混合物を加熱する工程、同じ攪拌速度を維持しながら反応混合物中に0.25〜2.5kg/cm2の範囲の圧力で水素ガスを注入する工程、水素注入の開始後5〜10分以内に190〜260℃の範囲(より好ましくは230℃)の最適温度まで反応温度を迅速に増加する工程、およびこの最適温度で7〜90分間反応を行う工程。
【0034】
さらに、本発明の別の実施態様において、水素添加反応を以下の工程によって行う:反応温度が室温〜190℃に到達するまで0.0025〜0.5%の量の触媒の存在下で50〜150rpmの速度で攪拌しながら減圧下で反応混合物を加熱する工程、反応混合物中に0.25〜2.5kg/cm2の範囲の圧力で水素ガスを注入する工程、反応温度が190〜260℃の範囲(より好ましくは230℃)の最適温度に到達するまで、50〜150rpmの攪拌速度を維持しながら反応混合物を連続的に加熱して、水素添加反応の進行を最大限抑制する工程、攪拌速度を200〜700rpm(より好ましくは300rpm)まで増加する工程、および反応を7〜90分間行う工程。
【0035】
水素硬化植物油を調製するための従来の方法と比較して(図1参照)、本発明による方法の最も重要な技術的特徴は、1)水素硬化工程の前に脱臭工程を行うこと;および2)トランス脂肪酸の生成を最小にしながら、食欲をそそる富化された風味を有する高度に富化されたバター香味を生成するために有効な条件下で(食用油の硬化の代わりに)外気温度でその流動性が確保される液体状態の加工食用油を調製するように水素添加反応を行うことである。さらに、本発明の方法は、反応温度、反応時間、反応圧力、触媒の型および量、攪拌速度、および食用油の型に応じてバター香味の強度を調節することができるという利点を有する。
【0036】
加工食用油が富化されたバター香味および低いトランス脂肪酸含量を同時に有する、食用油を、水素硬化プロセスを利用して調製することが可能ではなかったことは当業者には周知である。さらに、原料から抽出された粗油が強い不快臭成分を含んでいること、および水素硬化工程の間にさらなる不快臭成分がバター香味と共に生成されることが知られていた。従って、当業者は、脱ゴム→中和→漂白工程を経た食用油から不快臭成分を除去した後に水素硬化工程を行えば、水素硬化工程の間に生成される不快臭成分を除去するために、さらなる脱臭工程が高温で行われる必要があることを知る。しかし、高温でのこのようなさらなる脱臭工程は、食用油の質を劣化させるだけでなく、経済的な損失も引き起こすという問題を有している。その結果、脱ゴム→中和→漂白→水素硬化→脱臭を含む水素硬化植物油を調製するための従来の方法に関して、水素硬化工程および脱臭工程の順序を変化させ、そして水素硬化工程の前に脱臭工程を行う試みは存在しなかった。上記の方法における脱ゴムまたは中和工程を省略する少しの例は存在したが、脱臭工程が水素硬化工程の後に続くべきであると常に考えられており、水素硬化植物油を調製するための従来の方法を変化させる試みは存在しなかった。
【0037】
しかし、富化されたバター香味が不快臭成分の生成前に水素硬化プロセスの間に生成され、そして水素硬化プロセスの間に生成されるトランス脂肪酸含量が反応時間および反応条件に応じて有意に変化し得るという事実に基づいて、本発明は、水素硬化工程の前に食用油を脱臭することによって粗油に由来する不快臭成分をまず除去し、次いで食用油の硬化、不快臭化合物およびトランス脂肪酸の生成を防止するが、高度に富化されたバター香味を生成するために有効な温和な条件下で水素添加反応を行う方法を提供する。本発明による水素添加反応を、プロセスの間に不快臭成分が生成される前に反応を完了するか、または低い水素圧力および低い攪拌速度の条件下で水素添加反応を行うことによって、トランス脂肪酸および不快臭の生成を最小にしながら富化されたバター香味を有する、液体形態の加工食用油を生産するように最適化することができる。
【0038】
さらに、従来の水素硬化プロセスにおいては、水素ガスは最適反応温度に到達した後に注入され、そして一旦水素硬化プロセスが開始されると、水素ガスの注入時に固定された反応温度および攪拌速度を、水素硬化が完了するまで一定に維持しなければならなかったので、水素ガス注入後に反応温度を増加するかまたは攪拌速度を変化させる場合は存在しなかった。しかし、本発明による水素添加反応は、反応温度が最適温度に到達する前に水素ガスを注入し、そして反応過程の間に反応温度を最適温度まで増加することを特徴とする。あるいは、本発明による水素添加反応は、攪拌速度を最低に維持しながら反応温度が最適温度に到達する前に水素ガスを注入し、そして反応温度が最適温度に到達した後にのみ攪拌速度を増加することを特徴とする。すなわち、本発明は、低い反応温度および低い攪拌速度で水素ガスを注入した後、水素添加反応過程の間に反応温度および攪拌速度を最適条件に変化させることによって、トランス脂肪酸および不快臭の生成を最少にしながら富化されたバター香味の生成を最大にするための方法を提供する。
【0039】
トランス脂肪酸および不快臭の生成を最小にしながら富化されたバター香味を有する加工食用油を生産できる水素添加反応のための最適条件を確立するために、本発明者らは脱臭工程後の水素添加反応の間の反応温度および反応時間に応じてのバター香味の生成の変化を検討した。その結果、100〜230℃の範囲の反応温度で選択的ニッケル触媒を使用した場合、本発明の方法によって調製された加工ダイズ油におけるトランス脂肪酸の量は、1.5〜20.4%の範囲にあり、これは10〜45%のトランス脂肪酸を含む従来の水素硬化植物油より有意に低い(表1参照)。さらに、揮発性化合物の総ピーク面積は反応温度が増加するにつれて増加し、ここで総ピーク面積は反応の初期に迅速に増加し、30〜45分の反応時間内に頂点に到達し、次いでその後徐々に増加する。バター香味の強度は150℃の反応温度で反応時間に比例して増加し、そして190および230℃の反応温度で30〜45分の反応時間でその最大に達する。しかし、45分の反応時間の後に不快臭が現れ始める。260℃の反応温度で、強いバター香味が生成されるが、わずかな不快臭が反応の初期で生成される。それゆえ、不快臭の生成を最小にしながら富化されたバター香味を生成するための水素添加反応のための最適温度は、好ましくは190〜260℃の範囲にあり、より好ましくは230℃である。これらの結果は、舌の上で長時間残ることができる最も強いバター香味を生成するためには、190〜230℃の範囲の反応温度で15〜45分間選択的触媒を使用して水素添加反応を行うことが好ましいことを示唆する。
【0040】
水素添加反応に添加される触媒の量によるバター香味の生成の検討は、食用油の重量に基づいて0.01〜0.2%(ニッケル含量)、より好ましくは0.05〜0.1%(ニッケル含量)の量で選択的ニッケル触媒を添加することが好ましいことを示し、これは富化されたバター香味の生成のための最も最適の条件である(表2参照)。
【0041】
さらに、使用する食用油の型に応じて、弱いバター香味を有する、不快臭と共に強いバター香味を生成する、または短時間のみバター香味を維持する加工食用油が存在するが、大部分の粗食用油はあるレベルのバター香味を生成する。特に、ダイズ油を使用すると、バター香味が反応の初期に生成され、ここで食欲をそそる風味が口中で長時間維持され得、このことはダイズ油が富化されたバター香味の生成のために最も好ましいことを示す(表3参照)。
【0042】
上記の知見に基づいて、非選択的ニッケル触媒を使用することによって加工食用油を生産する場合のバター香味およびトランス脂肪酸の生成に関して実験を行った結果、選択的ニッケル触媒よりは非選択的ニッケル触媒の使用が、トランス脂肪酸含量を有意に低下させながらバター香味の生成を増加させることが見出された。非選択的ニッケル触媒を使用する水素添加反応においてトランス脂肪酸の生成を抑制しながら富化されたバター香味を生成するための最適反応条件は以下のとおりである:脱臭された食用油に油の重量に基づいて0.1%の量で非選択的ニッケル触媒を添加する;反応温度が150〜190℃に到達したときに300rpmで攪拌しながら0.5kg/cm2の圧力下で混合物に水素ガスを注入する;水素注入の開始後5〜10分以内に反応温度を230℃の最適温度まで迅速に増加する;そしてこの温度で90分間水素添加反応を行い、それにより加工ダイズ油を生産する。その結果、上記の条件下で調製された加工ダイズ油は反応時間を通して不快臭を生成することなしに富化されたバター香味のみを与える。加工ダイズ油中のトランス脂肪酸含量は4.8%であり(図5、表4参照)、そして揮発性化合物の総ピーク面積は761.20mV×秒であることが見出された(図3、表4参照)。非選択的ニッケル触媒を使用することによって得られたこれらの結果は、選択的ニッケル触媒を使用することによって得られた結果と比較して低下したトランス脂肪酸含量および増加した揮発性化合物の総ピーク面積を示し、このことは富化されたバター香味の大量生産のための触媒として非選択的触媒が選択的触媒より優れていることを示唆する(表2および4参照)。
【0043】
しかし、上記の条件による水素添加反応において、反応温度を、水素ガスが注入される初期温度である150〜190℃から、190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度まで増加するために長時間がかかれば、バター香味の生成は最適温度に到達する前に生じ得、これによって水素添加反応の間にバター香味の生成が有意に減少し得る。すなわち、低容量の反応器中で短時間内に反応温度を最適温度まで増加することは可能であるが、反応器の容量が大きければ大きいほど反応温度を増加するのにかかる時間は長くなり、水素添加反応が最適温度より低くで行われ、これによってバター香味の生成が低下する。
【0044】
これらの問題を解決するために、本発明者らは以下のような水素添加反応のための反応条件を確立した:減圧下で加熱しながら50〜150rpm以下の攪拌速度を維持することによってバター香味の生成を極度に制限しながら、室温〜190℃の範囲の温度で水素ガスを注入する;次いでバター香味を生成するための条件を確立するために反応温度が230℃の最適温度に到達するまで攪拌速度を増加する。上記で確立された条件下では、反応温度を増加するための時間の遅延に起因する大規模反応器において低下する富化されたバター香味の生成の問題は存在しないこと、および不快臭なしに有意に低下したトランス脂肪酸含量を有する液体形態の加工食用油を調製可能であることが見出された。水素添加反応に添加する触媒の量に応じてのバター香味の生成を分析すると、非選択的触媒を0.0025〜0.5%、より好ましくは0.01〜0.1%の範囲の量で使用することが好ましいことが示された(表5参照)。
【0045】
上記の結果から、水素添加反応を緩慢な攪拌速度および低い反応圧力下で少量の非選択的触媒を使用して行えば、トランス脂肪酸および不快臭の生成なしに高度に富化されたバター香味を多量に含む、液体形態の加工食用油を生産可能であることが見出された(表6参照)。ここで、水素添加反応のための最適条件は、300〜700rpmで攪拌しながら190℃以下の温度で水素ガスの注入を開始すること、その後5〜10分以内に反応温度を190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度まで増加すること、次いで水素添加反応を長時間行うことを含むことが見出される。あるいは、水素添加反応のための最適条件は、室温〜190℃の範囲の反応温度で水素ガスの注入を開始すること、反応温度が190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度に到達するまで50〜150rpmで混合物を攪拌すること、反応温度が最適温度に到達したときに攪拌速度を200〜700rpmの範囲(好ましくは300rpm)の最適速度まで増加すること、次いで水素添加反応を長時間行うことを含む(表6参照)。
【0046】
たとえ本発明の方法から脱ゴムまたは中和工程を省略し、そして脱臭工程のみを経た食用油を水素添加反応に供したとしても、本発明の方法は、脱ゴム、中和、漂白、脱臭および水素添加反応の全ての工程を含む方法によって調製された加工食用油と同じ低下したトランス脂肪酸含量を有して同じ富化されたバター香味を有する加工食用油を調製できることが見出された(表7参照)。
【0047】
上記で確立された水素添加反応のための最適条件下で調製された加工ダイズ油は、少量(例えば、0.1%)の添加でさえ従来の食用油に富化されたバター香味および食欲をそそる風味を与える。たとえ本発明の加工ダイズ油が最大量の10%で添加されたとしても、トランス脂肪酸含量は1.9%以下であることも見出され、これはトランス脂肪酸不含を認定するための基準を満たす。さらに、本発明の方法によって調製された加工食用油は従来の水素硬化植物油のものより100倍強い富化されたバター香味および食欲をそそる風味を有する(表8参照)。
【0048】
さらに、本発明の方法によって調製された加工ダイズ油が添加されたパーム油を使用することによって、ポテトチップ、コーンチップ、フライドチキン、衣付きフライドチキン(coated fried chicken)などを調製すると、トランス脂肪酸含量は低下するが、食物製品の富化されたバター香味および食欲をそそる風味が増加し、そして口中で長時間維持されることが見出された(表9参照)。
【0049】
本発明の方法によって調製された加工食用油は従来の水素硬化植物油のものより約100倍高い含量の富化されたバター香味を含んでいるので、たとえそれを1%以下の少量で添加したとしても、従来の食用油に富化されたバター香味を与え、そしてそのトランス脂肪酸含量をゼロのレベルに低下することができる。従って、本発明による加工食用油は従来の水素硬化植物油の代替油として有用である。
【0050】
本発明の方法によって調製された加工食用油は、富化されたバター香味および有意に低いトランス脂肪酸レベルを良好な食欲をそそる風味とともに有するので、フライ用油として直接使用することができる。さらに、これをカノーラ油またはヒマワリ種子油を改質することによって調製された代替油、低リノレン酸含有ダイズ油、オリーブ油、ダイズ油、パーム油、綿実油、種々の方法によって調製されたトランス脂肪酸低下油、およびこれらを使用することによって調製された食物製品に少量添加して、これらに富化されたバター香味および食欲をそそる風味を与え、それによって食物製品および水素硬化植物油の代替油の性質を顕著に改善することができる。添加される本発明の加工食用油のための適切な量は、食用油、食物製品および飼料製品の重量に基づいて好ましくは0.1〜100%、より好ましくは0.5〜10%の範囲にある。従って、本発明による方法およびそれによって調製された富化されたバター香味および有意に低いトランス脂肪酸レベルを有する加工食用油は、食品産業の発展および人類の健康に大いに寄与する重要な発明である。
【0051】
発明の形態
実施例
以下の実施例は本発明の実施態様を説明するために与えられ、いかにしてもその範囲を限定することを意図しない。
【0052】
<試験例1>水素硬化植物油および加工食用油中のトランス脂肪酸および揮発性化合物の分析
本発明の方法によって調製された、富化されたバター香味を有する加工食用油(実施例)、および従来の方法によって調製された水素硬化ダイズ油(比較例)中のトランス脂肪酸および揮発性化合物の含量を分析するために、以下のようにガスクロマトグラフィーを行った。各成分の相対的含量を、加工食用油および水素硬化ダイズ油においてガスクロマトグラフィーによって測定した各成分を比較することによって決定した。
【0053】
(1)トランス脂肪酸含量を測定するためのガスクロマトグラフィー
水素添加反応によって生成されたトランス脂肪酸の含量を、AOCS標準方法(The American Oil Chemists Society, AOCS Ce1-62,1990)に従って、ガスクロマトグラフィーによって定量した。具体的には、2〜6μlのFAME(脂肪酸メチルエステル)試料を、FID(フレームイオン化検出器)を備えたガスクロマトグラフィー機の注入器中に注入した。100%Cyanoカラム(SP2380、100m×0.25mm、0.25μm厚、Supelco Inc.)をガスクロマトグラフィーカラムに使用し、そして試料を100:1スプリット注入器を通じて注入した。300kPaの頭部圧力を有するヘリウムガスをキャリアガスとして使用した。注入器および検出器の温度はそれぞれ250℃および250℃であり、そしてオーブン温度を170℃で2分間維持し、続いて温度勾配方法によって0.8℃/分の速度で200℃まで増加した。トランス脂肪酸のピークを、試料の保持時間をトランス脂肪酸標準品(SIGMA Co.)のものと比較することによって同定し、そしてトランス脂肪酸含量をピーク面積の比によって算出した。
【0054】
(2)揮発性化合物の含量を測定するためのガスクロマトグラフィー分析
固相マイクロ抽出(SPME)方法を使用することによって、加工食用油および水素硬化食用油から揮発性化合物を濃縮し、次いでガスクロマトグラフィーによって分離した。上記の方法において使用したファイバーは75mm Carboxen−PDMSであった。まず、試料2gを30ml血清ボトルに入れ、そして揮発性化合物の吸収のために、シリコンで裏打ちしたゴム隔壁およびアルミニウムキャップを用いて密封した。上記の血清ボトルを加熱プレート上で10分間加熱し、そして75mm Carboxen−PDMSファイバーを血清ボトルに注ぎ、ここで10分間揮発性化合物をファイバーに吸収させた。揮発性化合物を吸収させたCarboxen−PDMSファイバーをガスクロマトグラフィーの注入器(250℃)に2分間付着させ、それから脱離させ、そしてガスクロマトグラム(Shimadzu GC 14−B、Shimadzu, Tokyo, Japan)中に注入した。ここで、ガスクロマトグラフのオーブン温度を、160℃まで4℃/分の速度で増加するまで、45℃の一定温度で1分間一定に維持した。ガスクロマトグラフィー分析に使用したカラムはキャピラリーカラム(Supelcowax 0.25mm 60m、Supelco)であり、そしてキャリアガスとしてヘリウムを使用した。FID検出器を使用して、分析したピーク面積を算出し、ここで検出温度は260℃であり、そしてピーク面積をmV×秒で表した。
【0055】
<比較例1>水素硬化植物油の分析
従来の方法によって調製され、そして市販されている水素硬化ダイズ油を対照として用いた。水素硬化ダイズ油中のトランス脂肪酸および揮発性化合物の含量を、試験例1に記載されるようなガスクロマトグラフィーによって分析し、ここで分析から得た各ガスクロマトグラムをそれぞれ図4および6に示し、そしてトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積、バター香味の強度、および官能試験結果を表1に示す。
【0056】
その結果、対照として使用した水素硬化植物油中のトランス脂肪酸含量は30.2%であり、揮発性化合物の総ピーク面積は28.80mV×秒であり、そして水素硬化植物油のバター香味は非常に弱かった。
【0057】
<実施例1>脱臭後に行う水素添加反応における種々の反応温度および反応時間によるバター香味の生成
ダイズ油の脱ゴム、中和、および漂白工程を、水素硬化植物油を調製するための同じ方法によって実施し、これを以下のように簡潔に説明する。抽出した粗ダイズ油をダイズ油の重量に基づいて0.3%のリン酸溶液と混合し、そして85℃で30分間攪拌することによって脱ゴムに供して、リン脂質、ゴム、炭水化物、タンパク質などを含む不純物を除去した。脱ゴムされたダイズ油を、ダイズ油の重量に基づいて0.3%過剰の水酸化ナトリウム(20ボーメ)を添加することによって中和し、それによって遊離脂肪酸を除去し、続いて水で洗浄し、そして105℃で乾燥させた。中和されたダイズ油を、ダイズ油の重量に基づいて8%の酸性白土と混合し、そして30分間真空(10mmHg)下で物理的吸収に供して、色素および他の微量元素を除去した。漂白されたダイズ油を250℃で減圧下で脱臭し、脱臭されたダイズ油をダイズ油の重量に基づいて0.1%の選択的ニッケル触媒(9908、Synetix)と混合し、そして300rpmの速度で攪拌しながら加熱した。反応温度がそれぞれ100、150、190、230、260、および290℃に到達したときに、水素ガスを0.5kg/cm2の圧力で混合物に注入し、そして300rpmの速度で攪拌しながら各温度でそれぞれ0、7、15、30、45、および60分間反応させた。反応が完了した後、反応混合物を50〜150℃に冷却し、続いて濾過して触媒を除去し、それによってバター香味を含む加工ダイズ油を得た。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積、およびバター香味の強度を分析し、そして官能試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
【0060】
表1に示すように、本発明の方法によって150〜230℃の範囲の反応温度で調製された加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量は1.5〜20.4%の範囲にあった。この結果は、たとえ本発明の加工ダイズ油を食用油、食物製品、および飼料製品に少量(例えば、2%)で添加したとしても、最終製品のトランス脂肪酸含量は非常に低い、すなわち、0.03〜0.41%であることを示唆する。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量は比較例1の水素硬化ダイズ油のものと比較して1/74以下であり、これは食品産業において規定されるゼロのトランス脂肪の要件を満たす極めて少量である。さらに、揮発性化合物の総ピーク面積は反応温度が増加するにつれて増加した。特に、揮発性化合物の総ピーク面積は、反応の初期に迅速に増加し、次いで30〜45分の反応時間内に最大に到達し、その後、徐々に増加した。バター香味の強度は150℃の反応温度で時間が進行するにつれて増加したが、これは190℃および230℃の反応温度で30〜45分の反応時間で最も強く、そして45分以降に不快臭が現れ始めた。さらに、260℃および290℃の反応温度で、反応の初期から不快臭が生成され、バター香味の相殺が生じた。従って、バター香味の生成は反応温度が150℃より低く減少すると減少するが、不快臭を担う揮発性化合物の生成は反応温度が260℃より高く増加すると増加することが見出された。これらの結果は、最も強く、そして口中で食欲をそそる風味を長時間残すバター香味の生成のためには190〜260℃の範囲の反応温度を維持することが好ましいことを示唆する。より好ましくは、水素添加反応は190〜230℃の範囲の反応温度で15〜30分間行われる。
【0061】
<実施例2>脱臭後に行う水素添加反応において添加する触媒の種々の量によるバター香味の生成
実施例1に記載するのと同じ方法によって脱ゴム、中和、漂白、および脱臭工程を行うことによって得られた脱臭されたダイズ油を、種々の量、すなわちダイズ油の重量に基づいて0.025、0.1、0.2、および0.5%(ニッケル含量)の選択的ニッケル触媒(9908)と混合し、そして減圧下で加熱した。反応温度が230℃に到達したときに、水素ガスを混合物中に0.5kg/cm2の圧力で注入し、そしてそれぞれ0、7、15、30、45、および60分間反応させ、そして300rpmの速度で攪拌した。反応が完了した後、反応混合物を濾過して、バター香味を含む加工ダイズ油を得た。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積およびバター香味の強度を分析し、そして官能試験を行った。結果を下記の表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
【0064】
表2に示すように、水素添加反応を0.1%(ニッケル含量)の量の選択的ニッケル触媒(9908)を使用することによって30分間行った場合、富化されたバター香味の生成が最大であった。しかし、選択的ニッケル触媒を0.2%および0.5%の量で添加した場合、不快臭が反応の初期から生成され、不満足なバター香味が生じた。これらの結果は、選択的ニッケル触媒(9908)の量はダイズ油の重量に基づいて好ましくは0.025〜0.1%(ニッケル含量)の範囲、より好ましくは0.1%であることを示唆する。
【0065】
<実施例3>脱臭後の水素添加反応において使用される粗食用油の種々の型によるバター香味の生成
実施例1に記載されるのと同じ方法によって脱ゴム、中和、漂白、および脱臭工程を行うことによって得られた脱臭されたダイズ油、綿実油、コーン油、およびカノーラ油の各々を、油の重量に基づいて0.2%の量の非選択的ニッケル触媒(N545、Engelhard)と混合し、そして減圧下で700rpmの速度で攪拌しながら加熱した。反応温度が190℃に到達したときに、700rpmの攪拌速度を維持しながら1.5kg/cm2の圧力下で水素ガスを注入し、そして混合物をそれぞれ0、10、20、30、および40分間反応させた。反応が完了した後、反応混合物を濾過して、バター香味を含む加工ダイズ油を得た。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積、およびバター香味の強度を分析し、そして官能試験を行った。結果を下記の表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
【0068】
表3に示すように、カノーラ油を使用した場合、バター香味は弱く、そして不快臭が反応の初期から生成した。コーン油の使用は20分の反応時間で強いバター香味を与えたが、30分の反応時間の後に不快臭を生成し、バター香味の相殺および口中での食欲をそそる風味の迅速な消失を生じた。綿実油のバター香味は弱く、そしてコーン油と同様に口中で迅速に消失した。他方、ダイズ油の場合には、10分の反応時間からバター香味が生成され始め、口中で長時間食欲をそそる風味を残した。ダイズ油についてのバター香味の生成は20〜30分の反応時間の間で最大になり、そして30分の反応時間の後に若干の不快臭が生成された。これらの結果は、本発明の方法によってバター香味を生成するために最も好ましい食用油はダイズ油であることを示唆する。
【0069】
<実施例4>水素添加反応において反応温度を調節することによるバター香味の生成のための最適反応条件の確立
トランス脂肪酸の生成を防止しながら高濃度のバター香味を生成するための最適反応条件を確立するために、実施例1〜3の結果に基づいて以下の実験を行った。
【0070】
実施例1に記載するのと同じ方法によって脱ゴム、中和、漂白,および脱臭工程を行うことによって得た脱臭されたダイズ油を、油の重量に基づいて0.1%の量の非選択的ニッケル触媒(N545、Engelhard)と混合し、そして減圧下で300rpmの速度で攪拌しながら加熱した。反応温度が150〜190℃に到達したときに、水素ガスを0.5kg/cm2の圧力で注入し、その後、反応温度を5〜10分以内に230℃の最適温度まで増加した。反応温度が230℃に到達したときに、水素添加反応を90分間行い、そして反応混合物を濾過して、非常に低いトランス脂肪酸含量を有しそして不快臭をほとんど有さない、豊かなバター香味を有する加工ダイズ油を得た。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積、バター香味の強度、およびヨウ素価(IV)を分析し、そして官能試験を行った。結果を下記の表4に示す。ヨウ素価をAOAC方法(Cd 1c-85)に従って測定した。
【0071】
【表4】

【0072】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
2)−:総ピーク面積を測定していない
【0073】
表4に示すように、上記のような条件下で生産された加工ダイズ油は、45分の反応時間の後でさえ不快臭を有さず、そして豊かなバター香味および食欲をそそる風味のみを放った。60分の反応時間の後、トランス脂肪酸含量は4.8%であり(図5)、そして揮発性化合物の総ピーク面積は761.20mV×秒であった(図3)。これらの結果を実施例1において最も豊かなバター香味の生成に適切な条件下で、すなわち、以下の条件下:0.1%の非選択的ニッケル触媒9908、0.5kg/cm2の圧力、300rpmの攪拌速度、230℃の反応温度、および30分の反応時間、で反応させた実験群(トランス脂肪酸含量:12.2%、および揮発性化合物の総ピーク面積:413.36mV×秒)と比較すると、トランス脂肪酸含量は2.5倍低下し、そして不快臭は存在しなかったが、揮発性化合物の総ピーク面積は1.84倍増加した。これらの結果は、豊かなバター香味のみを多量に生成させるための触媒として、選択的触媒より非選択的触媒が優れていることを示唆する。さらに、この実施例に記載するように調製された加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量および揮発性化合物の総ピーク面積を、実施例3において最も最適の条件下、すなわち、0.2%の非選択的ニッケル触媒N545、1.5kg/cm2の圧力、190℃の反応温度、700rpmの攪拌速度、および30分の反応時間で調製された実験群(トランス脂肪酸含量:20.5%、および揮発性化合物の総ピーク面積:582.63mV×秒)のものと比較すると、トランス脂肪酸含量は4.3倍低下し、そして不快臭は存在しなかったが、揮発性化合物の総ピーク面積は1.31倍増加した。富化されたバター香味を多量に生成するための最も最適な条件は以下のとおりであることが上記の結果から確認された:緩慢な攪拌速度および低い反応圧力下で少量の非選択的触媒の存在下で190℃以下の反応温度で水素ガスを注入する;注入後5〜10分以内に反応温度を190〜260℃(より好ましくは230℃)まで迅速に増加する;次いでその温度で反応を長時間緩慢に行う。さらに、実施例4に記載される方法によって水素添加反応を90分間行ったが、反応前(131.6)と反応後(124.5)との間にダイズ油のヨウ素価の変化はほとんど存在せず、このことは加工ダイズ油が硬化していない純粋な液体の特性を有することを確認する(表4)。
【0074】
<比較例2>
実施例1に記載するのと同じ方法によって脱ゴム、中和、漂白、および脱臭工程をダイズ油に対して行った。300rpmで攪拌しながら、230℃でそれぞれ30分間および60分間、非選択的ニッケル触媒(N545、0.2%ニッケル含量)の存在下で、得られた脱臭されたダイズ油に、水素ガスの代わりに窒素ガスまたは空気を、あるいは減圧(0kg/cm2の水素圧力)を適用して、バター香味を有する加工ダイズ油を得た。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積、およびバター香味の強度を分析し、そして官能試験を行った。結果を上記の表4に示す。
【0075】
表4に示すように、この実施例、すなわち比較例2に記載するように調製された加工ダイズ油の揮発性化合物の総ピーク面積は、実施例4(60分の反応時間)において調製された加工ダイズ油のものより0.35〜0.52倍小さく、そしてトランス脂肪酸含量は1.4%であり、これは実施例4において調製された加工ダイズ油のものと同一であるかまたはそれよりいくらか低かった。しかし、この実施例に記載するように調製された加工ダイズ油のバター香味は非常に弱く、そして強い不快臭が存在した。これらの結果は、触媒、反応圧力、攪拌速度、および反応温度に関して最適の条件下で反応を行ったとしても、水素ガスの添加なしでは、豊かなバター香味が加工食用油においてほとんど生成されないことを確認する。これらの結果はまた、たとえ反応が触媒の存在下で最適の条件下で行われたとしても、水素ガスの添加なしでは、反応の初期でさえ、強い不快臭化合物が加工食用油において生成されることを示す。これらの結果は、不快臭化合物の形成を防止するために、温度が最適温度に到達する前に、可能な最も低い温度で水素ガスを油に適用すべきであることを示唆する。
【0076】
<実施例5>水素添加反応における最適反応条件下での非選択的触媒の種々の量によるバター香味の生成
実施例4において確立されたバター香味の生成のための最適反応条件下で非選択的触媒の種々の量によるバター香味の生成の変化を検討するために、以下の実験を行った。まず、実施例1に記載するのと同じ方法によって脱ゴム、中和、漂白、および脱臭工程を行うことによって得た脱臭されたダイズ油を、油の重量に基づいて0.0025〜0.1%(ニッケル含量)の範囲の量で非選択的ニッケル触媒(N545、Engelhard)と混合し、そして150rpmの速度で攪拌しながら加熱した。反応温度が150〜190℃に到達したときに、水素ガスを0.5kg/cm2の圧力で注入し、そして50〜150rpmの範囲の速度で緩慢に攪拌しながら反応温度を230℃の最適温度まで増加した。その後、230℃で攪拌速度を300rpmまで増加し、そして反応をさらに45分間行った。次いで反応混合物を冷却し、そして濾過して、非常に低レベルのトランス脂肪酸を有し、不快臭を有さない、豊かなバター香味を有する加工ダイズ油を得た。加工ダイズ油のトランス脂肪酸含量、揮発性化合物の総ピーク面積、バター香味の強度、およびヨウ素価(IV)を分析し、そして官能試験を行った。結果を下記の表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
2)−:総ピーク面積を測定していない
【0079】
表5に見られるように、水素ガスを190℃以下の温度で注入し、そして反応温度が230℃に到達するまで50〜150rpmの攪拌速度を維持しながら反応混合物を加熱すると、非選択的ニッケル触媒(N545)を非常に少量(すなわち、0.0025%)で添加しても、富化されたバター香味が生成された。0.03%の非選択的ニッケル触媒を上記の条件下で添加すると、不快な草のような臭いを有さない、最大強度のバター香味を有する加工食用油が液体形態で得られ、ここで、実施例4の加工ダイズ油と比較してトランス脂肪酸含量およびヨウ素価に大きな差異は存在しなかった。これらの結果および実施例3からの結果に基づいて、非選択的ニッケル触媒(N545)を0.0025〜0.5%、より好ましくは0.01〜0.1%の範囲の量で添加することが好ましいことが見出された。
【0080】
<実施例6>水素添加反応において攪拌速度を調節することによるバター香味の生成のための最適反応条件の確立
本発明の水素添加反応において、反応温度を水素ガスが注入される150〜190℃の範囲の初期温度から190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度まで増加するための加熱時間が長くなるにつれて、反応温度が最適温度に到達する前にバター香味の生成が起こり、水素添加反応の間のバター香味の生成の有意な減少が生じることが見出された。低容量の反応器において短時間内に反応温度を最適温度まで増加することは可能であるが、反応器の容量が大きければ大きいほど、反応温度を最適温度まで増加するための加熱時間は長くなる。このような場合に、バター香味は最適温度より低くで生成され始め、これは水素添加反応の間のバター香味の生成の減少を引き起こす。
【0081】
水素ガスが注入される初期温度から最適反応温度まで反応温度を増加するための長い加熱時間にもかかわらず、バター香味の生成の減少を防止するために、本発明は以下のように水素添加反応を行った:反応温度が190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度に到達するまで、攪拌速度を150rpm以下に維持することによって、反応混合物を極めて緩慢な攪拌に供し、それによって食用油および触媒の水素ガスとの接触を最小にし、バター香味の生成の防止をもたらす。反応温度が190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度に到達した後、攪拌速度を300rpmの最適条件まで増加し、そして水素添加反応を行って、最適温度に到達するための非常に長い加熱時間にもかかわらず、多量のバター香味を得た(表6)。従って、攪拌速度を150rpm以下に維持しながら水素ガスを室温で注入し始め、反応温度を190〜260℃の範囲(好ましくは230℃)の最適温度まで増加し、続いて攪拌速度を200〜700rpmの範囲(好ましくは300rpm)の最適条件まで増加し、その後水素添加反応を行なったが、150〜190℃の範囲の温度で水素ガスを注入することによって調製された加工食用油のものと同様または同等の強いバター香味および非常に低いトランス脂肪酸含量を有する加工食用油を調製可能であることが見出された。これらの結果は、水素添加反応において攪拌速度を適切に調節することによって、室温〜190℃の範囲の水素ガスの初期注入温度で同じ効果を達成可能であることを示唆する。
【0082】
【表6】

【0083】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
【0084】
<実施例7>濾過助剤の添加による濾過条件の改善
水素添加反応が完了した後に加工食用油から触媒を完全に除去するために、実施例4に記載されるような水素添加反応によって加工ダイズ油を調製し、ここで0.1%の非選択的触媒(N545、Engelhard)の存在下で0.5kg/cm2の圧力下で水素ガスを45分間注入し、そして一次濾過に供した。得られた加工ダイズ油を加工ダイズ油の重量に基づいて0.5%の量の濾過助剤、例えば活性白土、シリカ、サリチル酸、活性炭、およびケイ酸マグネシウムと混合し、30分間攪拌し、そしてフィルターを用いて濾過した。
【0085】
従って、加工食用油を濾過助剤なしで濾過すると、触媒を完全に除去するために濾過工程を数回繰り返さなければならないことが見出された。しかし、加工食用油を濾過助剤の存在下で濾過すると、加工食用油中に含まれるバター香味の強度に影響を及ぼすことなしに1回のみのさらなる濾過で触媒が効率的に除去された。
【0086】
<実施例8>脱ゴムおよび/または中和工程の省略のバター香味の生成に対する効果
本発明による加工食用油を調製するための方法から脱ゴムおよび/または中和工程を省略することのバター香味の生成に対する効果を検討するために、脱ゴムまたは中和工程を省略した以外は実施例1に記載するのと同じ方法によって、食用油を脱ゴムまたは中和、および漂白、および脱臭工程に供した。次いで、食用油を実施例4に記載するのと同じ方法によって水素添加反応に供し、ここで、0.1%の非選択的触媒(N545、Engelhard)の存在下で0.5kg/cm2の圧力下で水素ガスを45分間注入して、加工食用油を得た。加工食用油のトランス脂肪酸含量、バター香味の強度、およびヨウ素価(IV)を分析し、結果を下記の表7に示す。
【0087】
【表7】

【0088】
1)バター香味の強度:−なし、+非常に弱い、++弱い、+++中程度、++++若干強い、+++++強い、++++++非常に強い
【0089】
表7に示すように、たとえ本発明の方法から脱ゴムまたは中和工程を省略したとしても、4つ全ての工程を含む方法によって調製された加工食用油のものと同一または同様のトランス脂肪酸含量、バター香味強度およびヨウ素価を有する加工食用油を調製可能であることが見出された。
【0090】
<試験例2>高度に富化されたバター香味を含む加工ダイズ油の添加による食用油の嗜好の増加
実施例4に記載される水素添加反応によって調製された加工ダイズ油(トランス脂肪酸含量:4.8%、表4)を、市販のダイズ油およびパーム油に、油の重量に基づいてそれぞれ0.1、1、5、および10%の量で添加し、そして油が富化されたバター香味を有するかどうかについての官能試験を5人の成人男女について行った。結果を下記の表8に示す。
【0091】
【表8】

【0092】
1)官能試験−1:食欲をそそる風味は存在しない、2:弱い食欲をそそる風味が存在する、3:食欲をそそる風味が存在する、4:強い食欲をそそる風味が存在する、5:非常に強い食欲をそそる風味が存在する
【0093】
表8に示すように、本発明の加工ダイズ油をダイズ油およびパーム油の両方に0.1%の量で添加すると、被験者はバター香味および食欲をそそる風味を感じ始めた。本発明の加工ダイズ油1%を添加すると、被験者は明確にバター香味を感じ、そして5%以上の添加は被験者を強いバター香味の知覚に導いた。本発明の加工ダイズ油10%を添加しても、トランス脂肪酸含量は最大で1.9%以下であり、これは、USDA Nutrient DatabaseからのNutrition Factによって規定される単位食事に換算すると(13gの食用油)、0.25gのみになり、これは「ゼロ」(トランス脂肪不含)とみなされる給仕当り0.5gのトランス脂肪酸レベルを有意に下回った。それゆえ、本発明の加工ダイズ油が10%以下の量で添加された食用油は、トランス脂肪不含と表示されるのに十分な非常に低いトランス脂肪酸含量を含みながら強いバター香味を有することが見出された。
【0094】
<調製例1>ポテトチップの調製
本発明の加工食用油が添加された試験例2のパーム油を使用して調製されたポテトチップについての嗜好の改善が存在するかどうかを検討した。ジャガイモを1mmの厚さにスライスし、次いでジャガイモのスライスを60℃で1分間湯通しし、冷水で3回洗浄し、そして乾燥させた。実施例4において60分間の水素添加反応によって調製された加工食用油をパーム油にパーム油の重量に基づいて2%の量で添加し、そして190℃まで加熱した。その後、スライスしたジャガイモをパーム油中で105秒間揚げて、ポテトチップを調製した。対照のために、本発明の加工ダイズ油を含まないパーム油を使用してポテトチップを調製した。調製したポテトチップについての官能試験を5人の成人男女について行い、結果を下記の表9に示す。
【0095】
【表9】

【0096】
1)官能試験−1:食欲をそそる風味は存在しない、2:弱い食欲をそそる風味が存在する、3:食欲をそそる風味が存在する、4:強い食欲をそそる風味が存在する、5:非常に強い食欲をそそる風味が存在する
【0097】
表9に見られるように、あっさりとした風味を示す対照群のポテトチップ(1.7)と比較して、本発明の加工ダイズ油を含むパーム油を使用して調製されたポテトチップ(4.0)は、増加したバター香味および食欲をそそる風味を示し、これは口中で長時間維持された。
【0098】
<調製例2>フライドコーンチップの調製
本発明の加工食用油が添加された試験例2のパーム油を使用して調製されたコーンチップについての嗜好の改善が存在するかどうかを検討した。500gのコーングリッツ(トウモロコシを1mm以下の大きさの粒子に粗く微粉砕することによって調製)を500mlの水と混合し、そしてて121℃で30分間蒸気に供した。蒸気に供したコーングリッツを冷却し、そして圧延機を数回通過させて、1mmの厚さを有するコーングリッツ生地の薄いシートを得、続いてこのコーングリッツ生地の薄いシートを2×2cmの大きさに切断し、そして室温で乾燥させて、コーンチップベースを作製した。実施例4に記載のように60分間の水素添加反応によって調製された加工食用油をパーム油にパーム油の重量に基づいて2%の量で添加し、そして190℃まで加熱した。その後、乾燥コーンチップベースをパーム油中で30秒間揚げて、コーンチップを調製した。対照のために、本発明の加工ダイズ油を含まないパーム油を使用することによってコーンチップを調製した。
【0099】
官能試験からの結果は、表9に示すように、対照群のフライドコーンチップの食欲をそそる風味(1.6)は迅速に消失したが、本発明の加工ダイズ油を含むパーム油を使用することによって調製されたフライドコーンチップ(3.9)は増加したバター香味および食欲をそそる風味を示し、これは口中で長時間維持されたことを示す。
【0100】
<調製例3>フライドチキンの調製
本発明の加工食用油が添加された試験例2のパーム油を使用することによって調製されたフライドチキンについての嗜好の改善が存在するかどうかを検討した。適当な大きさにスライスされた市販の鶏手羽を使用した。実施例4に記載のように60分間の水素添加反応によって調製された加工食用油をパーム油にパーム油の重量に基づいてそれぞれ2%および4%の量で添加し、そして190℃まで加熱した。その後、鶏手羽を加工ダイズ油を含むパーム油(2または4%)中で6分間揚げ、そして冷却し、続いて3分間揚げて、フライドチキンを調製した。対照のために、本発明の加工ダイズ油を含まないパーム油を使用することによってフライドチキンを調製した。
【0101】
官能試験からの結果は、表9に示すように、対照群のフライドチキンの食欲をそそる風味(2.5)は迅速に消失したが、本発明の加工ダイズ油を含むパーム油を使用することによって調製されたフライドチキン(4.4)は増加したバター香味および食欲をそそる風味を示し、これは口中で長時間維持されたことを示す。4%の加工ダイズ油が添加されたパーム油を使用することによって調製されたフライドチキン(5.0)は2%の加工ダイズ油が添加されたパーム油を使用することによって調製されたもの(4.4)よりさらに強いバター香味および食欲をそそる風味を示したが、2%の加工食用油の添加がフライドチキンの嗜好を改善するために十分であることが見出された。
【0102】
<調製例4>衣付きフライドチキンの調製
本発明の加工食用油が添加された試験例2のパーム油を使用することによって調製された衣付きフライドチキンに対する嗜好の改善が存在するかどうかを検討した。市販の丸ごとの鶏肉を購入し、適当な大きさに切断し、適量の食塩で味付けした。製造業者の説明書に従ってフライ用粉末混合物に適量の水、胡椒、食塩、卵などを添加することによってこね粉(batter)を調製し、そして鶏肉をこね粉で衣付けした。実施例4に記載のように60分間の水素添加反応によって調製された加工食用油をパーム油にパーム油の重量に基づいて4%の量で添加し、そして190℃まで加熱した。その後、衣付けした鶏肉を加工ダイズ油を含むパーム油(4%)中で10分間揚げて、衣付きフライドチキンを調製した。対照のために、本発明の加工ダイズ油を含まないパーム油を使用することによって衣付きフライドチキンを調製した。
【0103】
官能試験からの結果は、表9に示すように、対照群の衣付きフライドチキンの食欲をそそる風味(2.2)は迅速に消失したが、本発明の加工ダイズ油を含むパーム油を使用することによって調製された衣付きフライドチキン(4.8)は増加したバター香味および食欲をそそる風味を示し、これは口中で長時間維持されたことを示す。
【0104】
本発明を説明の目的で詳細に記載したが、このような詳細はその目的のためのみのものであり、そして下記の特許請求の範囲によって定義される発明の精神および範囲から逸脱することなしに当業者によって変形がそこでなされ得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油を精製する過程で減圧下で食用油を脱臭し、続いて上昇した温度下で触媒および水素ガスの存在下で水素添加反応を行う工程を含む、富化されたバター香味を低いトランス脂肪酸含量とともに有する加工食用油を調製するための方法。
【請求項2】
脱臭工程の前に、脱ゴム、中和および漂白からなる群より選択される1つ以上の工程で食用油が処理される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水素添加反応が、触媒の存在下で50〜700rpmの速度で攪拌しながら反応容器を加熱し;反応温度が100〜290℃に到達したときに水素ガスを反応容器に注入し;そして同じ攪拌速度を維持しながら7〜90分間前記反応温度で水素添加反応を行うことによって行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
水素添加反応が、反応温度が最適温度に到達する前に水素ガスを注入し、そして水素添加反応の間に反応温度を最適温度まで増加することによって行われる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
水素添加反応が、300〜700rpmの速度で攪拌しながら触媒の存在下で減圧下で脱臭された食用油を加熱し;同じ攪拌速度を維持しながら反応温度が150〜190℃に到達したときに水素ガスを注入し;水素ガスの注入後5〜10分以内に反応温度を190〜260℃まで迅速に増加し;そして同じ温度で7〜90分間水素添加反応を行うことによって行われる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
水素添加反応が、反応温度が最適温度に到達する前に相対的に低い速度で攪拌しながら水素ガスを注入し;反応温度を最適温度まで増加し;そして水素添加反応の間に攪拌速度を最適速度まで増加することによって行われる、請求項3記載の方法。
【請求項7】
水素添加反応が、50〜150rpmの速度で攪拌しながら触媒の存在下で減圧下で脱臭された食用油を加熱し;同じ攪拌速度を維持しながら反応温度が室温〜190℃に到達したときに水素ガスを注入し;反応温度が190〜260℃に到達したときに攪拌速度を200〜700rpmまで増加し;そして7〜90分間同じ温度および攪拌速度で水素添加反応を行うことによって行われる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
触媒が、選択的および非選択的ニッケル触媒、銅触媒、プラチナ触媒、パラジウム触媒、およびルテニウム触媒からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
触媒が、脱臭された食用油の重量に基づいて0.0025〜0.5%の量で添加される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
活性白土、活性炭、シリカ、サリチル酸、およびケイ酸マグネシウムからなる群より選択される1つ以上の濾過助剤と加工食用油を混合し、そして混合物をフィルターを用いて濾過することによって、触媒が水素添加反応が完了した後に除去される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
水素ガスが、0.25〜2.5kg/cm2の範囲の圧力で注入される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
未加工食用油が、ダイズ油、コーン油、綿実油、ゴマ油、エゴマ油、カノーラ油、ヒマワリ種子油、米糠油、オリーブ油、菜種油、抗酸化剤含有食用油、低リノレン酸含有ダイズ油、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
富化されたバター香味を非常に低いトランス脂肪酸含量とともに有する加工食用油。
【請求項14】
トランス脂肪酸含量が1.5〜20.4%の範囲にある、請求項12記載の加工食用油。
【請求項15】
請求項13記載の加工食用油を添加することを含む、トランス脂肪酸含量の増加を引き起こすことなしに富化されたバター香味を食物製品または飼料製品に与え、それによって食物製品または飼料製品の風味を増強する方法。
【請求項16】
加工食用油が、食物製品または飼料製品の重量に基づいて0.1〜10%の量で添加される、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−504753(P2010−504753A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530292(P2009−530292)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006688
【国際公開番号】WO2008/082106
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509086419)インダストリー・アカデミック・コーオペレーション・ファウンデーション・オブ・ウソク・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION OF WOOSUK UNIVERSITY
【Fターム(参考)】