説明

高度フッ素化カルボン酸及びその塩の調製方法

高度フッ素化カルボン酸及びその塩、並びにその前駆体を調製するための方法であって、一般式(I):
−(O)−(CF−CF=CF (I)
の高度フッ素化オレフィンを、一般式(II):
HCOR (II)
に基づくギ酸の誘導体と、ラジカル反応開始剤の存在下で接触させることによって一般式(III):
−O−(CF−CFH−CF−COR (III)
のO−エステル、S−エステル、又はアミド付加体の形のカルボン酸前駆体を形成することと、式(III)の付加体を加水分解することによって一般式(IV):
−O−(CF−CFH−CF−COO (IV)
のカルボン酸又はその塩を形成することと、を含み、式(II)及び(III)において、Rは、残基O、S、OR’、SR’又はNR’R’’を表し、ただしR’及びR’’は互いに独立して、少なくとも1個の炭素原子を含み、かつα水素原子を有さない直鎖若しくは分枝鎖若しくは環状の脂肪族又は芳香族残基であり、Rは、H、又は残基若しくは水素を含む過フッ素化若しくは部分的にフッ素化された直鎖、分枝鎖、脂肪族、又は芳香族の炭素原子を表し、nは1又は0であり、mは0〜6の整数を表し、MはHなどのカチオンを表す、方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高度フッ素化カルボン酸及びその塩を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度フッ素化カルボン酸は、フッ素化モノマーの水性エマルション重合において有用な乳化剤である。過去においては、一般式CF−(CF−COO(式中、Mはカチオンを表し、nは4〜8の整数を表す)の過フッ素化された低分子量のカルボン酸がこの目的で使用されてきた。しかしながら、より速やかに分解可能な、これに代わるフッ素化乳化剤が、様々な理由から関心を集めるようになってきた。
【0003】
代替的な乳化剤として、フッ素化ポリエーテルカルボン酸及び部分フッ素化カルボン酸が提案されている。特に、ヒンツァー(Hintzer)らに付与された米国特許出願公開第2007/0015937号に述べられる一般式[R−O−L−COO−]Xi(式中、Lはアルキレン基又は脂肪族炭化水素基を表し、Rは、1個以上の酸素原子が割り込んだ直鎖状の部分的又は完全にフッ素化された脂肪族基を表し、Xiは、価数iを有するカチオンであり、iは1、2又は3である)の高度フッ素化フルオロアルコキシカルボン酸は、一般的に使用されている過フッ素化アルカン酸の代替物として有用であることが見出されている。
【0004】
これらの高度フッ素化カルボン酸を調製するための様々な方法が述べられている。例えば、モリタ(Morita)らに付与された米国特許出願第2006/0281946号は、カルボン酸に変換される酸フッ化物を生成するための、テトラフルオロオキセタンの開環反応に基づいたプロセスについて述べている。しかしながら、このプロセスは煩雑であり、異なる反応工程を含むものである。ヒンツァー(Hintzer)らに付与された米国特許出願第2007/0025902号は、例えばRuO、OsO、過マンガン酸塩、又は酸化クロム(VI)などの強力な酸化剤を使用する、アルコールを開始物質としたフッ素化カルボン酸の調製法について述べている。この反応は高収率で工業的規模で行うことが可能であるが、その一方で酸化剤から生ずる重金属残留物を環境上の理由から保管しなければならないため、このプロセスはコストが嵩むものとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、高度フッ素化カルボン酸を製造するための代替的なプロセスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フッ素化オレフィンにギ酸の誘導体をラジカル付加し、続いて得られた付加物を加水分解することにより、フッ素化カルボン酸を容易に調製できることを見出した。この反応は、ワンポット反応として行うことが可能である。本明細書において提供される方法は、重金属の使用を必要としないために環境に優しいものとなっている。本明細書において提供される方法によれば、穏やかな温度でも高い収率で当該酸が得られることから、経済性にも優れている。
【0007】
したがって、以下において、高度フッ素化カルボン酸及びその塩、並びにその前駆体を調製するための方法を提供する。この方法は、
一般式(I):
−(O)−(CF−CF=CF (I)
の高度フッ素化オレフィンを、一般式(II):
HCOR (II)
に基づくギ酸の誘導体と、ラジカル反応開始剤の存在下で接触させることと、このラジカル反応開始剤を活性化することによって一般式(III):
−O−(CF−CFH−CF−COR (III)
のO−エステル、S−エステル、又はアミド付加体を形成することと、場合により、酸を得ようとする場合には、式(III)の付加体を加水分解することによって一般式(IV):
−O−(CF−CFH−CF−COO (IV)
のカルボン酸又はその塩を形成することと、を含み、式(II)及び(III)において、Rは、残基O、S、OR’、SR’又はNR’R’’を表し、ただしR’及びR’’は互いに独立して、少なくとも1個の炭素原子を含み、かつα水素原子を有さない直鎖若しくは分枝鎖若しくは環状の脂肪族又は芳香族残基であり、式(I)、(III)及び(IV)において、Rは、H、又は残基を含む過フッ素化若しくは部分的にフッ素化された直鎖、分枝鎖、脂肪族、又は芳香族の炭素原子を表し、nは1又は0であり、mは0〜6の整数を表し、MはHなどのカチオンを表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の任意の実施形態を詳細に説明するのに先立ち、本開示はその応用において以下の説明文に述べられる詳細に限定されない点は理解されるべきである。本発明には他の実施形態が可能であり、本発明は様々な方法で実施又は実行することが可能である。
【0009】
また、本明細書で使用する語法及び専門用語は、説明を目的としたものであり、発明を限定するものとして見なされるべきでない点は理解されるべきである。限定的であることを意味する「からなる(consisting)」の使用とは異なり、「などの(including)」、「含む(containing)」、「備える(comprising)」、又は「有する(having)」の使用は、限定的であることを意味するものではなく、これらの後に列記される要素(及びその均等物)のみならず更なる要素をも包含することを意味するものである。「からなる(consisting)」という語は、その後に列記される要素(及びその均等物)は包含するが、一切の更なる要素は包含しないことを意味する。「a」又は「an」の使用は、「1以上」を包含することを意味する。
【0010】
本明細書に記載されるあらゆる数値範囲は略記であり、その範囲の下限値から上限値までのすべての値を明確に含むものとする。例えば、1%〜50%の濃度範囲は略記であり、例えば、2%、40%、10%、30%、1.5%、3.9%などの1%〜50%の値を明確に開示するものとする。
【0011】
本明細書において提供される方法は、下記一般式(IV)のフッ素化カルボン酸の合成を可能にする。すなわち、
−(O)−(CF−CFH−CF−COO (IV)
式中、nは1又は0を表し、mは0〜6までの整数(1、2、3、4、5及び6など)を表し、Rは、残基を含む過フッ素化若しくは部分的にフッ素化された直鎖、分枝鎖、脂肪族、又は芳香族炭素原子を表すか、あるいはHを表す。「過フッ素化された」なる用語は、その残基のすべての水素原子がフッ素原子によって置換されていることを意味する。例えば、残基FC−、又はFC−O−は、過フッ素化メチル又は過フッ素化メトキシ残基である。一般的に、Rは、1個以上のカテナリー酸素原子を含みうる、直鎖又は分枝鎖のアルキル残基を表す。カテナリー酸素原子は、アルキル残基の炭素−炭素鎖に割り込んだ酸素原子である。
【0012】
の例としては、これらに限定されるものではないが、直鎖状、環状、又は分枝状であってよい過フッ素化アルキル、過フッ素化オキソアルキル、過フッ素化ポリオキシアルキル、部分フッ素化アルキル、部分フッ素化オキソアルキル、部分フッ素化ポリオキシアルキル残基が挙げられる。一般的に、Rは、1〜14個の炭素原子を含みうる。Rの特定の例としては、これらに限定されるものではないが、FC−、FCO−、FCFHC−、F−、FCOFC−、FCOFCO−、F−、F−、F11−、FHC−が挙げられる。更なる例としては、残基
f’−O−(CFn’−、
f’−(CFn’−、
f’−(O−CFn’−、
f’−(O−CF−CFn’−、
f’−(O−CFCF(CF))n’−、
f’−(O−CF(CF)−CFn’
が挙げられ、ただし、Rf’は、H、又は1〜12個の炭素原子及び0個又は1個以上のカテナリー酸素原子を有する、フッ素化若しくは過フッ素化された直鎖又は分枝鎖のアルキル残基であり、n’は、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10を表す。
【0013】
好ましくは、Rf’は、FC−、FCOFC−、F−、F−、F11−である。
【0014】
式(IV)のMは、H(遊離酸の場合)、又は、例えばこれらに限定されるものではないが、金属カチオン又は有機カチオンなどのカチオンを表す(塩の形の酸の場合)。金属カチオンとしては、これらに限定されるものではないが、Na及びKが挙げられる。有機カチオンとしては、これらに限定されるものではないが、アンモニウム(NH)、アルキルアンモニウム、アルキルホスホニウムなどが挙げられる。
【0015】
これらの酸又はその塩は、ギ酸の誘導体を下記一般式(I)のフッ素化オレフィン又はオレフィンエーテルにラジカル付加することによって得ることができる。
【0016】
−(O)−(CF−CF=CF (I)
式(I)において、n、m及びRは、式(IV)に関して上記に述べたものと同じ意味を有する。これらの単位は、反応の間変化しないため、開始物質(I)のR、n及びmの選択は、最終生成物(IV)におけるものと同様であると理解される。
【0017】
ギ酸誘導体は、ギ酸(HCOOH)のOH基がR基によって置換されたものである。したがって、このようなギ酸の誘導体は下記一般式によって表すことができる。
【0018】
HCOR (II)
式(II)中、COはエーテル基ではなくカルボニル基を表すものとして理解される。式(II)のR基は、O、S、OR’、SR’及びNR’R’’基を表し、ただしMは、式(IV)のMに関して上記に定義したカチオンを表す。R’及びR’’は同じであっても異なってもよく、互いに独立して、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖、環状、若しくは分枝鎖の芳香族又は脂肪族残基を表し、ただしその残基はα水素原子を有さない。α水素原子とは、それぞれOR’、SR’、及びNR’R’’基のO、N、又はS原子と結合した炭素原子に結合している水素原子である。
【0019】
残基R’及びR’’は、好ましくは、例えば、tert−ブチル(tBu)、イソプロピル(iPr)若しくはアダマンチル基などの分枝鎖アルキル基、又は、例えばこれらに限定されるものではないが、−CCl、−SO−R’’’(ただし、R’’’はアルキル(例えば、tert−ブチル若しくはハロゲンアルキル基(例えば、CF基など)など)である)ハロゲンアルキル、アルコキシアルキル、スルホニルアルキル若しくはこれらの組み合わせなどの置換アルキル基である。Rの好ましい例としては、−O−tBu、−O−iPr、−O−アダマンチル、−O−CCl、−O−SOCF、−O−SO−OtBu、−ONa及び−Oが挙げられる。
【0020】
ラジカル付加を行うためには、開始物質にラジカル反応開始剤を添加する。好適なラジカル反応開始剤は、分解してラジカルを生成する化合物である。分解は、例えば熱的に、又は赤外線若しくは紫外線照射により、又は当該技術分野において知られる光化学線照射によって開始することができる。
【0021】
有用なラジカル反応開始剤又は光反応開始剤の例としては、エチレン性不飽和モノマーを含む組成物を架橋するための光化学線照射又は電子線照射において有用であることが知られるものが挙げられる。このような反応開始剤としては、ベンゾフェノン及びその誘導体;ベンゾイン、α−メチルベンゾイン、α−フェニルベンゾイン、α−アリルベンゾイン、α−ベンジルベンゾイン;ベンジルジメチルケタール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Corporation)(ニューヨーク州、タリータウン)より商品名「IRGACURE(商標)651」として市販されるもの)、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテルなどのベンゾインエーテル;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から商品名「DAROCUR(商標)1173」として市販されるもの)及び1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社より商品名「IRGACURE(商標)184」として市販されるもの)などのアセトフェノン及びその誘導体;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−(4−モルホリニル)−1−プロパノン(やはりチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社より商品名「IRGACURE(商標)907」として市販されるもの);2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社より商品名「IRGACURE(商標)369」として市販されるもの);ベンゾフェノン及びその誘導体、並びにアントラキノン及びその誘導体などの芳香族ケトン;ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩;例えば、やはりチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社より商品名「CGI(商標)784 DC」として市販されるものなどのチタン錯体;ハロメチルニトロベンゼン;並びにチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社より商品名「IRGACURE(商標)1700」、「IRGACURE(商標)1800」、「IRGACURE(商標)1850」、「IRGACURE(商標)819」、「IRGACURE(商標)2005」、「IRGACURE(商標)2010」、「IRGACURE(商標)2020」及び「DAROCUR(商標)4265」として市販されるものなどのモノ−及びビス−アシルホスフィンが挙げられる。2種類以上の光反応開始剤の組み合わせを使用することもできる。例としては、「IRGACURE(商標)500」の商品名で市販されている、ベンゾフェノンとIrgacure(商標)184との混合物が挙げられる。
【0022】
有用な熱反応開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾ−2−シアノ吉草酸などのアゾ化合物、ヒドロ過酸化クメン、ヒドロ過酸化t−ブチル及びヒドロ過酸化t−アミルなどのヒドロ過酸化物、過酸化ジ−t−ブチル及び過酸化ジクミルなどの過酸化ジアルキル、t−ブチルペルベンゾエート及びジ−t−ブチルペルオキシフタレート、t−アミルペルオキシピバレートなどのペルオキシエステル、過酸化ベンゾイル及び過酸化ラウロイルなどの過酸化ジアシルが挙げられる。好ましい反応開始剤は熱反応開始剤であり、これらの反応開始剤のうち、穏やかな温度、好ましくは約40℃〜約100℃の温度で活性化されうる(すなわち、分解してラジカルを形成する)ものが好ましい。
【0023】
ラジカル反応は、例えば電気化学セル中で電気化学的に開始することも可能であり、その場合、ラジカルは高電圧によって発生する。反応開始剤は、例えばTEMPOのような窒素酸化物ラジカルなどの化学的ラジカル又は酸化還元システムであってもよい。
【0024】
使用されるラジカル反応開始剤の量は、特定の反応に応じて決まる。一般的に、好適な反応開示剤の濃度は、不飽和エーテルに対して典型的には約0.5〜約40モル%、好ましくは約5〜15モル%である。ラジカル反応開始剤は、一度に加えるか、連続的に加えるか、又は例えば所定の時間にわたって複数回、断続的に加えることができる。単一の反応開始剤の代わりに複数の反応開始剤の組み合わせを使用するか、異なる反応開始剤を異なる時間に使用することができる。
【0025】
ギ酸誘導体は、通常、不飽和エーテルに対してモル過剰量で使用される。一般的に誘導体は、3〜5倍のモル過剰量で使用される。誘導体が反応物質及び溶媒の両方として使用される場合、より大きなモル過剰量が使用される場合もある。
【0026】
付加反応は、溶媒を使用せずに行ってもよいが、溶媒を使用してもよい。一般的な溶媒としては、極性有機溶媒及び/又は水、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。好適な溶媒としては、例えば、アセトニトリル、DMSO、DMFなど、及びこれらと水との混合物を使用することができる。水混和性溶媒に対する水の比(例えば、HO:アセトニトリル)としては、体積を基準として1:1〜4:1、好ましくは1.5:1が適当であることが示されている。超臨界媒質(例えば、超臨界CO)又はイオン性の液体を使用して反応を行うことも考えられる。
【0027】
反応条件は、使用される反応開始剤の種類に応じて選択され、ラジカル反応開始剤が確実に活性化されるようなものでなければならない。一旦開始されれば、反応は、通常30℃〜100℃の穏やかな温度で行われる。エネルギーコストを低く抑えるためには、30℃〜100℃で熱的に活性化されるラジカル反応開始剤を使用することが好ましい。反応時間は、通常、6〜24時間の間で行われる。反応は、例えば反応物質としてガス状オレフィンを使用しようとする場合に、周囲圧又は加圧で行うことができる。
【0028】
不飽和フッ素化エーテルにギ酸誘導体をラジカル付加することにより、カルボン酸前駆体が生ずる。使用されるギ酸誘導体の種類に応じて、前駆体は(酸素の)エステル、チオエステル、又はアミドとなりうる。
【0029】
一般的に前駆体は、下記一般式に相当するものである。
【0030】
−O−(CF−CFH−CF−COR (III)
式中、n、m及びRは上記に述べたものとして定義される。開始化合物(不飽和エーテル)中のR、n及びmは、反応全体を通じて同じであるものとして理解される。
【0031】
前駆体は、例えば蒸留などの公知の調製化学の方法によって単離することができる。通常、前駆体は、これを単離又は反応混合物中で加水分解することなく直接、カルボン酸又はその対応する塩に変換される。これは通常は、塩基を加えることによって行うことができる。通常は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのような塩基の水溶液を使用することができる。
【0032】
得られた酸は、酸を(必要な場合、pHを充分に下げることにより)その遊離酸の形とし、水相から生成する酸を分離し、これを蒸留によって精製することにより単離することができる。水不混和性の有機溶媒によって酸を抽出することもできる。
【0033】
反応生成物として生成するエステルも、分留によって反応媒質から分離することができる。本発明において開示される反応の利点の1つは、ワンポット反応として行うことができる点である。本明細書において提供される方法は、重金属の使用を必要としないために環境に優しいものとなっている。本明細書において提供される方法によれば、(反応物質として使用されるオレフィンのモル量に対して)50%よりも高い、70%よりも高い、又は更には80%よりも高い収率のように、高い収率で酸が生成する。このような収率は、穏やかな温度(例えば、30℃〜100℃)であっても得られる。
【0034】
以下の実施例は、本発明を更に説明するために提供されるものであって、いかなる意味においても発明を限定するものではない。
【実施例】
【0035】
試薬及び化学物質
TAPPI−75−AL=t−アミルペルオキシピバレートの脂肪族化合物中の75%溶液(CAS番号029240−17−3;(デグサ・イニシエーターズ社(Degussa Initiators)、プラハ、ドイツ:Trigonox 125−C75、製品コード436321)。
【0036】
PERKADOX 16S=96%ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(CAS番号015520−11−3;アクゾ・ノーベル社(Akzo Nobel)、製品コード661041)。
【0037】
TRIGONOX 21S=99% tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(CAS番号003006−82−4;アクゾ・ノーベル社(Akzo Nobel);製品コード658151)。
【0038】
MV−31=1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−3−トリフルオロビニルオキシ−プロパン(ジネオン社(Dyneon GmbH)、ブルクキルヒェン)。
【0039】
MA−31=1,1,2,3,3−ペンタフルオロ−3−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]プロプ−1−エン(ジネオン社(Dynon GmbH)、ブルクキルヒェン)。
【0040】
DONA=2,2,3−トリフルオロ−3−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]プロパン酸(ジネオン社(Dneon GmbH)、ブルクキルヒェン)。
【0041】
ギ酸t−ブチル(CAS番号762−75−4;フルカ社(Fluka)、カタログ番号06513)。
【0042】
ギ酸ナトリウム(CAS番号141−53−7;シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)71541)。
【0043】
測定法
Bruker DPX 200MHzを、H NMR(TMS)については200.13MHzで、19F NMR(CFCl)については188.31MHzで動作させてH−NMR測定を行った。
【0044】
(実施例1):
tert−ブチル2,2,3−トリフルオロ−3−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]プロポネート
CFOCFCFCFOCFHCFC(O)OC(CH
24.90g(75mmol)のMV−31を、76.57g(0.75mol)のギ酸t−ブチル及び3mL(10.5mmol)のTAPPI−75−ALと混合した。混合物を60℃で18時間攪拌した。次いで、200mm Vigreauxカラムを使用して反応混合物からギ酸t−ブチルを蒸留し、真空下で粗生成物を蒸留して23.90g(55.05mmol)の無色透明の液体を得た。75mmHg(10.0kPa)におけるb.p=94〜96℃。収率73%。
【0045】
(実施例2):
tert−ブチル2,2,3−トリフルオロ−3−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]プロポネート
CFOCFCFCFOCFHCFC(O)OC(CH
108.37g(0.33mol)のMV−31を、200g(1.96mol)のギ酸t−ブチル及び13g(32.6mmol)のPerkadox 16Sと混合した。混合物を52〜55℃で24時間攪拌した。反応混合物からギ酸t−ブチルを蒸留し、真空下で粗生成物を蒸留して131.25g(0.3mol)の無色透明の液体を得た。収率93%。
【0046】
(実施例3):
tert−ブチル2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]ブタノアート
CFOCFCFCFOCFCFHCFC(O)OC(CH
18g(47mmol)のMA−31を25.1g(0.25mol)のギ酸t−ブチル及び2g(5mmol)のPerkadox 16Sと混合した。混合物を55〜58℃で17時間攪拌した。次いで、更に2g(5mmol)のPerkadox 16Sを加え、反応混合物を同じ温度で更に15時間攪拌した。反応混合物からギ酸t−ブチルを蒸留し、真空下で粗生成物を蒸留して18.94g(39.12mmol)の無色透明の液体を得た。75mmHg(10.0kPa)におけるb.p=102℃。得られた生成物中に、対応するイソ誘導体はごく微量が見出された(実施例6を参照)。収率83%。
【0047】
(実施例4):
2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸
CFOCFCFCFOCFHCFC(O)OH
37.1g(0.54mol)のギ酸ナトリウムを、200mLの脱イオン水と150mLのアセトニトリルとからなる混合物に加えた溶液に、60.2g(181.30mmol)のMV−31及び8mL(28mmol)のTAPPI−75−ALを加えた。混合物を還流下、54〜58℃で18時間攪拌したところ、反応混合物の温度は生成物が生成されるのに従って上昇した。更に8mLのTAPPI−75−ALと反応混合物を58〜65℃で16時間攪拌した。反応混合物をpH=1となるまで硫酸で酸性化し、形成された下相を分離して10%硫酸溶液で3回洗った(3×100mL)。粗生成物を真空下で蒸留して58.82g(155.30mol)の酸を得た。15mmHg(2.0kPa)におけるb.p=87.7℃。収率85%。
【0048】
(実施例5):
2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸
CFOCFCFCFOCFHCFC(O)OH
ラジカル反応開始剤としてTAPPI−75−ALの代わりにTrigonox 21S(2×8gr、74mmol)を使用して、実施例4において述べた反応を繰り返した。Trigonox 21Sは、16時間の間隔をおいて2つの部分に分けて加えた。反応温度は反応プロセスの間に大きく変化せず、一定の還流下で53〜55℃に維持された。生成物が形成された後で19F NMRを行った。
【0049】
(実施例6):
2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]ブタン酸
CFOCFCFCFOCFCFHCFC(O)OH{A}及び
イソ体=CFOCFCFCFOCFCF(CFH)−C(O)OH{B}
11g(162mmol)のギ酸ナトリウムを、67mLの脱イオン水と50mLのアセトニトリルとからなる混合物に溶解した。得られた混合物に20.4g(53.4mmol)のMA−31及び6mL(21mmol)のTAPPI−75−ALを加え、混合物を60℃で24時間攪拌した。反応生成物は単離しなかった。反応混合物の19F NMRスペクトル及びガスクロマトグラムにより、開始物質のアリルエーテルがほぼ定量的に変換され、異性体構造の2つの酸がA/B=1.8/1で形成されたことが判明した。
【0050】
(実施例7):
2,2,3−トリフルオロ−3−[1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)プロポキシ]プロパンアミド
CFOCFCFCFOCFHCFC(O)NH
57.32g(172.63mmol)のMV−31、150mLのホルムアミド、70mLのアセトニトリル、及び8.53mL(29.8mmol)のTAPPI−75−ALからなる混合物を55〜57℃で18時間攪拌した。19F NMR分光法及びガスクロマトグラフィーによってアミドの生成が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度フッ素化カルボン酸及びその塩、並びにその前駆体を調製するための方法であって、
一般式(I):
−(O)−(CF−CF=CF (I)
の高度フッ素化オレフィンを、一般式(II):
HCOR (II)
に基づくギ酸の誘導体と、ラジカル反応開始剤の存在下で接触させることと、前記反応開始剤を活性化することによって一般式(III):
−O−(CF−CFH−CF−COR (III)
のO−エステル、S−エステル又はアミド付加体の形のカルボン酸前駆体を形成することと、場合により、前記酸を得ようとする場合には、前記式(III)の付加体を加水分解することによって一般式(IV):
−O−(CF−CFH−CF−COO (IV)
の前記カルボン酸又はその塩を形成することと、を含み、式(II)及び(III)において、Rは、残基O、S、OR’、SR’又はNR’R’’を表し、ただしR’及びR’’は互いに独立して、少なくとも1個の炭素原子を含み、かつα水素原子を有さない直鎖若しくは分枝鎖若しくは環状の脂肪族又は芳香族残基であり、式(I)、(III)及び(IV)において、Rは、H、又は残基を含む過フッ素化若しくは部分的にフッ素化された直鎖、分枝鎖、脂肪族、又は芳香族の炭素原子を表し、nは1又は0であり、mは0〜6の整数を表し、MはHなどのカチオンを表す、方法。
【請求項2】
は、1個以上のカテナリー酸素原子を含みうる、フッ素化若しくは過フッ素化された直鎖又は分枝鎖のアルキル残基を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、以下のいずれか:
f’−O−(CFn’−、
f’−(CFn’−、
f’−(O−CFn’−、
f’−(O−CF−CFn’−、
f’−(O−CFCF(CF))n’−、
f’−(O−CF(CF)−CFn’
を表し、Rf’’が、1〜12個の炭素原子、及び0個又は1個以上のカテナリー酸素原子を有するフッ素化又は過フッ素化アルキル残基であり、n’が、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10を表す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
が、1〜12個の炭素原子を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
Rが−OR’であり、R’が分枝鎖アルキル又は分枝鎖ハロゲンアルキルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Rが−OR’であり、R’が、tert−ブチル(tBu)基、イソプロピル(iPr)基、アダマンチル基、−SOCF、−O−SO−OtBu、−ONa、及び−Oを表す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記加水分解が、塩基を加えることによって行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ラジカル開始剤が、熱的に活性化される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ラジカル開始剤が、約30℃〜約100℃の温度で活性化される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記高度フッ素化カルボン酸が、反応物質として使用される高度フッ素化オレフィンのモル比に対して50%よりも高い収率で得られる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記高度フッ素化カルボン酸が、反応物質として使用される高度フッ素化オレフィンのモル比に対して70%よりも高い収率で得られる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記高度フッ素化カルボン酸が、反応物質として使用される高度フッ素化オレフィンのモル比に対して80%よりも高い収率で得られる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−512240(P2013−512240A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541113(P2012−541113)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/057141
【国際公開番号】WO2011/066156
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】