説明

高度不飽和脂肪酸の生産蓄積性を有する形質転換微生物

【課題】高度不飽和脂肪酸生成代謝系を有しない微生物に高度不飽和脂肪酸生産能を付与し、該微生物を用いて、高度不飽和脂肪酸を製造する。
【解決手段】脂質合成を抑制する遺伝子を破壊した微生物に、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子.あるいはさらにトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子を導入して形質転換微生物を取得し、該形質転換微生物を培地に培養することにより、高度不飽和脂肪酸あるいはこれを含む脂質を有利に生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い脂質蓄積性を有する微生物に対して、高度不飽和脂肪酸生産性を付与した形質転換微生物及び該微生物を用いた脂質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸は、生体内で各種生理活性を示すことで注目されており、今後各種分野での需要拡大が見込まれる。高度不飽和脂肪酸の一般的生合成経路は図1に示した通りである。飽和脂肪酸が別の生合成経路から合成され、ステアリン酸はΔ9不飽和化酵素によりオレイン酸となる。ここまでは多くの生物が持っている。オレイン酸がΔ12不飽和化酵素によりリノール酸となり、n-6系高度不飽和脂肪酸の始発物質となる。また、リノール酸がΔ15不飽和化酵素によりα−リノレン酸となり、n-3系高度不飽和脂肪酸の始発物質となる。n-3系合成系では、α−リノレン酸から、Δ6不飽和化酵素によりステアリドン酸になり、鎖長延長酵素によりn-3エイコサテトラエン酸になり、Δ5不飽和化酵素によりエイコサペンタエン酸になり、ついで鎖長延長酵素によりn-3ドコサペンタエン酸となり、更に数段階の過程を経て、ドコサヘキサエン酸(DHA)となる。並行した同様の合成経路で、n-6系合成系では、リノール酸から、Δ6不飽和化酵素によりγ−リノレン酸になり、鎖長延長酵素によりジホモ−γ−リノレン酸になり、Δ5不飽和化酵素によりアラキドン酸になり、ついで鎖長延長酵素によりアドレン酸となる。また、リノール酸又はα−リノレン酸から鎖長延長酵素によりn-6エイコサジエン酸又はn-3エイコサトリエン酸が作られる場合もある。n-3系合成系及びn-6系合成系共に、構成する酵素系は同じ酵素がどちらの脂肪酸にも活性を示す場合がほとんどで、どちらの合成系が優先するかは、基質となる脂肪酸の組成やそれぞれの生物種毎の酵素の特性による。また、これらの合成酵素系のすべてをすべての生物種が持っているわけではなく、例えば、人間を含む脊椎動物ではΔ12不飽和化酵素とΔ15不飽和化酵素がなく、植物や動物の捕食に頼っている。n-3系高度不飽和脂肪酸及びn-6系高度不飽和脂肪酸共に高等動物では必須の生理作用を持ち、また、生理活性物質の生合成始発物質となっているため、人間ではリノール酸とα−リノレン酸が必須脂肪酸となっている。特にEPAやDHA等の生理作用は有名で、近年、人間の持つ酵素活性によりリノール酸とα−リノレン酸から体内合成されるDHAやEPA量ではその摂取量の不足が指摘される場合もある。
【0003】
自然界において、高度不飽和脂肪酸はトリアシルグリセロール等の中性脂質及びリン脂質中にエステル結合した形で存在している。高度不飽和脂肪酸が多く含まれる天然油脂資源は多くの種類はなく、大部分は海産天然資源(イワシ、サンマ、マグロ等魚類やアザラシ等海産動物の内臓等)となっている。また、それらの天然供給源に含まれる高度不飽和脂肪酸の内で工業生産規模の供給が行われているものは、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)等に限定され、EPAやDHAの供給源は殆どを魚油等海洋資源に依存しており、需要に対する安定供給源の確保が重要となっている。ところが、現在の世界的な海産資源需要の増大に対して、海産資源量の枯渇が危惧され始めており、更に、高度不飽和脂肪酸を多く含有する海産魚類については、日本食ブームや健康志向ブームとの相乗効果も加わり、需要の高騰に供給不足気味となり、それが天然資源の枯渇に拍車をかける状態となりつつある。これらの海産魚類が含有する高度不飽和脂肪酸はこれらの魚類自らが体内生産蓄積しているものではなく、餌から供給されたものが大半であるといわれている。つまり、これらの海産魚類を養殖で増産を計るにしても、高度不飽和脂肪酸を多く含む成魚とするためには、高度不飽和脂肪酸又はその原料となる脂肪酸類を含む餌を供給する必要が指摘されており、高度不飽和脂肪酸の供給源の確保は現在進行形の課題となっている。
【0004】
人為的再生産による供給が可能な植物油脂では、現在の世界的に供給されている一般的な油脂には高度不飽和脂肪酸は殆ど見られない。特に、n-3系高度不飽和脂肪酸の始発物質となるα−リノレン酸については、一部の植物油に比較的高い濃度で含まれているが、その生産供給量は世界的な需要を満たすレベルには遠く及ばない。また、仮に供給量を増大できたとすれば、動物体内での代謝でEPAやDHAへ高度不飽和化していくことは可能であるが、その効率が悪く、摂取効果が低いといわれている。これは、α−リノレン酸が生体内でΔ6不飽和化酵素によってステアドリン酸となる過程が、動物体内のn−3系高度不飽和脂肪酸代謝系の律速段階となっているためで、ステアドリン酸の摂取によるEPA蓄積効果はα−リノレン酸のそれを大きく上回ることが示されている(非特許文献1参照)。しかしながら、ステアドリン酸は、一般的には栽培生産をされていない特殊な植物油脂の一部に数%のレベルで見られるのみである。また、それ以外の高度不飽和脂肪酸を含めて、一部で微生物による生産が行われ始めているが、一般的な供給源とはなっていない。高度不飽和脂肪酸の再生産可能な新たな安定供給源の開発は切望されている課題である。
【0005】
近年、遺伝子工学技術及び脂肪酸の合成酵素遺伝子の同定の進展とともに、油糧植物などを遺伝子改変して、有用脂肪酸を生産させることが検討されている。特に、生理活性をもつ高度不飽和脂肪酸を生産する微生物、藻類などの不飽和化酵素、鎖長延長酵素の遺伝子を利用して、高度不飽和脂肪酸を生産させる試みが活発になされている。高度不飽和脂肪酸の合成酵素遺伝子を発現させる宿主としては、植物そのものも試みられているが、多細胞生物ゆえに目的脂肪酸を効率良く生産させることはそれほど容易ではない。これに対して、単細胞の真核生物であり、遺伝子レベルでの情報も豊富な酵母サッカロミセス・セレビシェは、容易に遺伝子を導入することができることから、合成酵素遺伝子の活性等を検出するための宿主として、頻繁に用いられている。また、酵母サッカロミセス・セレビシェは、遺伝子工学技術が確立され、全ゲノム配列も決定されているなどの利点から、遺伝子組み換え技術を利用した物質生産の宿主として盛んに用いられている。また、古来より醸造に用いられるなど産業上重要な微生物であり、菌体そのものも栄養価のあるものとして食用できるものである。
【0006】
高度不飽和脂肪酸の合成酵素遺伝子を発現させる宿主としては、油脂生産用植物も試みられているが、多細胞生物ゆえに高度不飽和脂肪酸を効率よく生産させることは現時点ではむずかしい。これに対して、単細胞の真核生物である酵母サッカロミセス・セレビシェは、遺伝子の導入が容易で、培養技術や遺伝子情報等の知見も幅広く蓄積している。そのため、同酵母は、真核生物の代表的宿主として、酵素遺伝子発現を検出するための定性的試験にごく一般的に用いられており、脂質代謝に関する遺伝子発現試験においても同様である。しかしながら、この酵母は、その菌体成分のうち、脂質の占める割合は5%程度であり、他の脂質蓄積微生物や植物種子油に比べて脂質の生産性が低い性質を持っている。また、同酵母は図1に示した高度不飽和脂肪酸合成経路のうちΔ12不飽和化酵素以降の代謝酵素系を持っていない。そのため、その含有する脂肪酸はパルミトオレイン酸、オレイン酸、パルミチン酸が主成分であり、野生株ではリノール酸以降の多価不飽和脂肪酸を持たない。そのため、この酵母に有用脂肪酸を生産させることは、工業的には実用的ではない状況であった。これまで、培養条件等の改良によってトリアシルグリセロールの含量を増加させる報告があるが(非特許文献2参照)、大きな増加は見られていない。また、培養中に脂肪酸を加えてこれらを取り込ませることによって、酵母の脂質含量を増加させることも報告されているが(非特許文献3参照)、他の脂質蓄積微生物に比べ充分高い数字とはいえない。ゆえに、遺伝子組み換え技術を用いて、酵母サッカロミセス・セレビシェに有用脂肪酸を生成させ、生産レベルの蓄積量を示した報告はない。
【0007】
そこで、発明者らは脂質含量に影響を与える遺伝子を、トランスポゾン挿入変異を用いて同定し、同定された遺伝子の破壊株で脂質含量が向上する事を報告し、10%程度の脂質含量を持つ酵母の育種に成功した(特開2006−042738)。さらに、トリアシルグリセロール合成経路中の酵素遺伝子を前記の酵母に導入して、過剰発現させることにより大幅な脂質含量の向上に成功した(特開2007−209240)。これらの形質転換株では、培地中の添加脂肪酸を菌体内に取り込み、トリアシルグリセロールに変換し、50%以上の脂質含量を示すものもあった。
上記の形質転換株の育種によって、これまでの野生酵母菌株には見られなかった高い脂質含量を持つサッカロミセス・セレビシェ菌株が得られた。しかし、それらの脂質を構成する脂肪酸は、パルミトオレイン酸、オレイン酸、パルミチン酸を主成分としたもので野生酵母菌株の持つ脂肪酸組成であった。培地中に脂肪酸を添加し、菌体内に取り込ませることによって菌体脂質含量を増大させた場合には、増大させた脂質の殆どは培地に添加した脂肪酸に依存した組成となっていた。
【0008】
これまでに、カロチノイド(非特許文献4,特許文献1参照)、スクアレン(特許文献2,3参照)、エルゴステロール(特許文献4参照)などの脂質を遺伝子レベルの改変によって酵母に生産させた報告があるが、遺伝子レベルの改変によってアシルグリセロール蓄積性を高めた上に、更に遺伝子レベルの改変を用いて高度不飽和脂肪酸を増加させ、酵母菌体内に生産レベル量の有用脂肪酸を蓄積生産させた報告例はない。
【0009】
【非特許文献1】James,M.J. et al, Am. J. Clin. Nutr. 77, 1140 (2003)
【非特許文献2】Ratledge, C. in MicrobiaL Lipids VoL 2, 567 (1989)
【非特許文献3】Dyer, J.M. et al, Appl. MicrobioL.Biotechnol. 59, 224 (2002)
【非特許文献4】Yamano, S. et al, Biosci. Biotech. Biochem.58, 1112 (1994)
【特許文献1】WO91/13078
【特許文献2】US5460949
【特許文献3】特開平06-90743
【特許文献4】EP1015597A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、微生物の脂質生産過程に関わる遺伝子発現の改変を行ってトリアシルグリセロール(トリグリセライド)などの脂質を高含量に蓄積させ、それと同時に、該微生物には元来存在しない高度不飽和脂肪酸生成酵素の遺伝子を形質転換した微生物を取得し、これを用いて高度不飽和脂肪酸含有の脂質を製造する点にある。更に、本発明の課題は、導入する酵素遺伝子群と原料脂肪酸の組合せを変えることにより、目的とする高度不飽和脂肪酸(ステアリドン酸、n-3エイコサトリエン酸、n-3エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、n-3ドコサペンタエン酸、γ−リノレン酸、n-6エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、アドレン酸等のうち1種又は数種)を生産する形質転換微生物を取得し、これを用いて高度不飽和脂肪酸含有の脂質を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、脂質生産微生物において、脂質含量に影響を与える遺伝子として既に同定された遺伝子を破壊することによって、脂質生産性が格段に向上させた上に、更に、高度不飽和脂肪酸生成酵素の遺伝子を導入した株を取得した。さらに、この株による高度不飽和脂肪酸のために、始発物質として不飽和脂肪酸を添加した培養条件の検討を行い、ステアリドン酸、n-3エイコサトリエン酸、n-3エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、n-3ドコサペンタエン酸、γ−リノレン酸、n-6エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、アドレン酸等のうち1種又は数種を生産する株が得られていることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)に示すとおりである。
(1)IRA2遺伝子、PRE9遺伝子、SNF2遺伝子、SPT21遺伝子又はPHO90遺伝子、若しくはこれら遺伝子と相同性を有する遺伝子の一種以上が破壊または機能低下している微生物に、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子の少なくとも1種以上の遺伝子が導入されていることを特徴とする、形質転換微生物。

(2)導入される高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子が、Δ6不飽和化酵素遺伝子、Δ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、及びこれら遺伝子と相同性を有する遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子であることを特徴とする、請求項1に記載の形質転換微生物。

(3)さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、アシルCoAシンターゼ遺伝子、リン脂質:ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ遺伝子、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、及びステロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、並びにこれら遺伝子と相同性を有する遺伝子から選ばれた少なくとも1種以上の遺伝子が導入されていることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の形質転換微生物。

(4)導入遺伝子がベクターに挿入されていることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の形質転換微生物。

(5)微生物がサッカロミセス・セレビシェに属する微生物であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の形質転換微生物。

(6)マーカー遺伝子を少なくとも含むことを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の形質転換微生物。

(7)マーカー遺伝子がLEU2遺伝子であることを特徴とする、上記(6)に記載の形質転換微生物。

(8)LEU2遺伝子と上記(1)〜(3)に記載の導入遺伝子が同一のプロモータにより発現制御されていることを特徴とする、上記(7)に記載の形質転換体。

(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の形質転換微生物を培地に培養し、培養菌体から脂質を採取することを特徴とする、脂質の製造方法。

(10)培地が脂肪酸又は脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、上記(9)に記載の製造方法。

(11)脂肪酸又は脂肪酸エステルが、高級不飽和脂肪酸生産代謝系に介在する脂肪酸であることを特徴とする、上記(10)に記載の製造方法。

(12)採取される脂質が、形質転換前の野生株には存在しない高度不飽和脂肪酸であることを特徴とする、上記(9)〜(11)に記載の脂質の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、生物の脂質生産過程に関わる遺伝子発現の改変を行ってトリアシルグリセロール(トリグリセライド)などの脂質を高含量に蓄積させると同時に、その野生生物体では元来存在しない高度不飽和脂肪酸生産酵素の遺伝子を形質転換した株を創出し、それを利用するものである。特に、サッカロミセス・セレビシェのような、遺伝子レベルでの知見が蓄積しているが、脂質の生産性が低く、かつ高度不飽和脂肪酸の生産活性のない生物では、本発明による遺伝子改変による新規機能の付与は効果的である。
当該株を使用することにより、野生株では生産し得ない高度不飽和脂肪酸を高度に含有する脂質を生産させることができる。また、元来2つ以上の不飽和結合を持つ脂肪酸を生産できないサッカロミセス・セレビシェのような生物に対し、高度不飽和脂肪酸生成酵素の形質転換を行い、かつ、原料脂肪酸の供給を伴う培養を行うことにより、代謝系の中の希望する任意の脂肪酸を生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、脂質合成を抑制する遺伝子を破壊した微生物に、高度不飽和脂肪酸生成酵素の遺伝子あるいはさらにトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子を導入させることによって、微生物には元来存在しない高度不飽和脂肪酸生産蓄積能力を保持させ、その利用により高度不飽和脂肪酸含有する脂質を製造するものであって、これにより、高度不飽和脂肪酸の生産能力がないか小さい微生物においても、高度不飽和脂肪酸の高い生産性を保持させることを可能とし、その利用により高度不飽和脂肪酸含有する脂質を製造するものである。
【0015】
本発明者等は、先に、脂質合成を抑制する遺伝子として、サッカロミセス・セレビシェのSNF2遺伝子(YOR290c)、IRA2遺伝子(YOL081w)、PRE9遺伝子(YGR135w)、SPT21遺伝子(YMR179w)、PHO90遺伝子(YJL198w)をトランスポゾン挿入変異により同定し、これら遺伝子を破壊することにより、脂質生産性が向上したサッカロミセス・セレビジェの変異株を得ており(特開2006−042738)、上記高度不飽和脂肪酸生成酵素の遺伝子を導入する宿主微生物としては、このような脂質合成を抑制する遺伝子が破壊されたサッカロミセス・セレビシェ等の酵母が挙げられるが、上記SNF2遺伝子、IRA2遺伝子、PRE9遺伝子、SPT21遺伝子、あるいはPHO90遺伝子とそれぞれ相同性を有する遺伝子も脂質合成を抑制する機能を有している可能性が高く、これら遺伝子と相同性が高い遺伝子が破壊された他の微生物の変異株も、上記高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子の導入対象となりうる。
【0016】
本発明において、上記脂質合成抑制遺伝子が破壊された変異株を取得する方法は、例えば、相同組み換え法等を用いる既に記載された方法(Nucleic Acids Res. 26, 860 (1998)、特開2006−042738)等によって行うことができる。この方法は、HIS3, URA3などのマーカー遺伝子の両端に、上記破壊対象遺伝子の上流、下流それぞれ200〜300bp領域をもつようなDNA断片を、PCR、ライゲーションなどを組み合わせて作成し、このDNA断片を用いて出芽酵母を形質転換することにより、このDNA断片が該遺伝子上流部分と下流部分で相同組み換えを起こし、該遺伝子の中心部分がマーカー遺伝子で置き換えられて、該遺伝子を破壊する方法である。
【0017】
本発明は、上記の脂質合成を抑制する遺伝子の破壊と同時にトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子を導入し脂質生産蓄積性を高めた微生物に、高度不飽和脂肪酸生成酵素の遺伝子を導入させることによって、高度不飽和脂肪酸の生産能力と蓄積能力の同時付与を可能としたものであって、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子としては、Δ6不飽和化酵素遺伝子、Δ5不飽和化酵素遺伝子及び鎖長延長酵素遺伝子等の高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子などの遺伝子が利用可能であり、これらのうちの1つあるいは2つ以上の遺伝子を組み合わせて発現させることによって、高度不飽和脂肪酸生産性を付与する。上記高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子としては、例えば、Oblongichytrium spp.SEK347のΔ5不飽和化酵素遺伝子であるtD5d、ラットのΔ6不飽和化酵素遺伝子であるrD6d(AB021980)、ラットの鎖長延長酵素遺伝子であるrElo1(AB071985)、ラットのΔ5不飽和化酵素遺伝子であるrD5d(AB052085)等を挙げることができる。上記高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子のうち、tD5dは新規遺伝子であり、その塩基配列及び対応する酵素のアミノ酸配列は、配列番号1及び2にそれぞれ示される。
【0018】
本発明においては、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子は、脂質合成を抑制する遺伝子が破壊された微生物に導入することが重要である。脂質合成を抑制する遺伝子が破壊されていない微生物に該遺伝子を導入しても、高度不飽和脂肪酸の生成はわずかである。これは後述の実施例2及び実施例3に示されたとおりである。すなわち、脂質合成を抑制する遺伝子が破壊されていない微生物に高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子を導入しても、同遺伝子を破壊した微生物に導入した場合に比較して高度不飽和脂肪酸の生成はわずかである。このことは、脂質合成を抑制する遺伝子が、当該微生物が本来有していた脂質合成を抑制する遺伝子として同定されたにもかかわらず、その作用にとどまらず、当該微生物に本来備わっていない高度不飽和脂肪酸生産代謝系に予想外の大きな影響を与えていることを示す。また、このことは、当該微生物の脂質合成が高まった結果、この合成された脂質を経由して導入された高度不飽和脂肪酸の生産代謝系により、高度不飽和脂肪酸が合成されたことのみを意味するものではない。すなわち、後記実施例3に示すように、高度不飽和脂肪酸生産代謝系に介在する脂肪酸であるα-リノレン酸のエステル体(脂質体)を培地に添加し、形質転換微生物を培養した場合においても、脂質合成を抑制する遺伝子が破壊されていない微生物においては、他の高度不飽和脂肪酸への変換は微弱である。しかしながら、脂質合成を抑制する遺伝子が破壊された微生物の形質転換体では、菌体内に取り込み蓄積されたα-リノレン酸が導入された高度不飽和脂肪酸生産酵素により多く代謝変換されており、脂質合成を抑制する遺伝子の破壊された微生物における高度不飽和脂肪酸代謝系の活性の亢進作用を示している。このように、脂質合成を抑制する遺伝子の破壊された微生物に対してトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子あるいはさらに高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子と同時に導入することによって、予想外の高度不飽和脂肪酸代謝活性の亢進作用が見出された。
【0019】
本発明において、上記遺伝子のうち少なくとも一種以上の遺伝子を導入しており、これらと相同性を有する遺伝子の過剰発現によってもより高度不飽和脂肪酸を生産させる可能性も高く、これらと相同性を有する遺伝子を形質転換等で導入することにより、酵母等の真核生物のみならず、他の微生物においても高度不飽和脂肪酸生産性を付与させることができる。
本発明者は、上記脂質合成を抑制する遺伝子を破壊した変異株に、トリアシルグリセロール合成経路中の酵素遺伝子を前記の酵母に導入し、過剰発現させることにより脂質含量の向上に成功しており(特開2007−209240)、脂質合成を抑制する遺伝子を破壊した微生物に、上記高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子に加え、このトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子を同時に導入することも好ましい結果を与える。
トリアシグリセロール合成系酵素遺伝子としては、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、アシルCoA合成酵素遺伝子、リン脂質:ジアシルグリセロールトランスアシラーゼ遺伝子、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、ステロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子などの遺伝子が利用可能であり、これらのうちの1つあるいは2つ以上の遺伝子を組み合わせて発現させることによって、脂質生産性を向上させることができる。
【0020】
これら遺伝子の具体例を挙げると、例えば、サッカロミセス・セレビシェ由来のトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子としては、DGA1遺伝子、FAA1,遺伝子、FAA2,遺伝子、FAA3,遺伝子、FAA4遺伝子、LRO1遺伝子、SCT1遺伝子、GPT2遺伝子、SLC1遺伝子、ARE1遺伝子、及びARE2遺伝子等があげられる。また、本発明においては、これらと相同性を有する遺伝子の過剰発現によってもより脂質含量を増大させる可能性も高く、これらと相同性を有する遺伝子を形質転換等で導入することにより、酵母等の真核生物のみならず、他の微生物においても脂質生産性を向上させることができる。
本発明において導入する、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子及びトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子の由来となる生物は、宿主となる微生物と同一でもよいし、他の生物でもよく、特に制限はない。発現のしやすさや、酵素活性の強さなどを検討して、最適の酵素遺伝子を選択して使用すればよい。
【0021】
また、本発明における高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子及びトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子の発現手法は、染色体外で複製するプラスミド等のベクター中に組み込んで行っても、染色体内に組み込まれるベクター中に組み込んで行ってもよく、これら酵素遺伝子を含有する組み換えベクターを用いて宿主微生物を形質転換する。
また、上記高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子及びトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子を複数導入した形質転換体を作成する際、これら酵素遺伝子が導入された株を選別するため、マーカーとなる遺伝子がそれぞれ異なった何種類かのベクターを用意し、ベクター毎にこれら酵素遺伝子をそれぞれ導入した組み換えベクターを調製して、これらベクターにより形質転換を行うこともできる。一方、1種類のベクター中に2つ以上の酵素遺伝子を組み込んで発現させてもよい。
【0022】
トリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子及び高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子が導入された形質転換体を選別するためのマーカー遺伝子としては、アミノ酸などの栄養要求性変異を相補する遺伝子や抗生物質薬剤耐性遺伝子などがあげられ、栄養要求性変異を相補する遺伝子としては、例えば、サッカロミセス・セレビジェのHIS3、URA3、LEU2等あるいはこれらと相同性を有する遺伝子が挙げられる。
これらのうち、LEU2遺伝子あるいはそれと相同性を有する他の生物の遺伝子をマーカーとするプラスミド等のベクターを少なくとも含むことが望ましい。LEU2遺伝子の導入は脂質生産を増大させる。したがって、LEU2遺伝子あるいはこれと相同性を有する遺伝子は、強力なプロモーターにより発現制御させることが好ましく、このためには、例えば、1種類の強力なプロモーター、ADH1プロモーター等により、LEU2遺伝子あるいはこれと相同性を有する遺伝子と高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子あるいはさらにトリアシルグリセロール合成酵素系遺伝子を共発現させることが便利である。また、単にマーカー遺伝子としてのみ機能させる場合には、このような強力なプロモーターを用いずともよく、また、これら酵素遺伝子のプロモーターと別異のプロモーターを用いてもよいことは当然である。
【0023】
一方、上記したように、何種類かのプラスミド等のベクターを共存させる場合は、LEU2以外のマーカー遺伝子は、発現させる微生物の形質転換株が選別できるのであれば、どのようなものを用いてもよい。LEU2をマーカー遺伝子として使用しない場合は、LEU2あるいはロイシン合成経路の他の酵素遺伝子及び他の生物でのこれらと相同性を有する遺伝子を、他のマーカー遺伝子をもつプラスミドで発現させることが、脂質生産性の向上に寄与する。
本発明において高度不飽和脂肪酸を生産する場合、高度不飽和脂肪酸生産代謝系に介在する脂肪酸を酸又はエステルの形態で培地に添加して培養することも可能である。サッカロミセス・セレビシェのように元来2つ以上の不飽和結合を持つ脂肪酸を生産できない生物に対して高度不飽和脂肪酸生産能を付与するには、高度不飽和脂肪酸生産代謝系の多くの酵素を導入する必要があり、そのような生物に単純に高度不飽和脂肪酸生成酵素を導入することは現実的ではない。
【0024】
一方、本発明によれば、脂質合成を抑制する遺伝子を破壊した変異株に、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子とトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子を同時に導入し、得られた形質転換微生物について、上記高度不飽和脂肪酸生産代謝系に介在する脂肪酸の供給を伴う培地で培養することにより、当該起源微生物では本来産生できない不飽和脂肪酸についても、効率的に細胞内に取り込まれ、導入した遺伝子の発現に基づく酵素活性により高度不飽和化させることが可能となる。これによれば、原料脂肪酸と導入酵素の組合せの選択によって、代謝系の中の希望する種々の高度不飽和脂肪酸を生産する方法を提供できる。
【0025】
これまで、多くの高度不飽和脂肪酸生成酵素がクローニングされているが、そのいずれもn-3系(C3位に不飽和結合を有する脂肪酸)及びn-6系(C6位に不飽和結合を有する脂肪酸)の高度不飽和脂肪酸のどちらにも活性を示している。また、特別な変異をしていない生物細胞においては、多価不飽和脂肪酸は、殆ど存在しないか、n-6系のみ、またはn−3系との混合となっており、そこに高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子を導入して、該酵素を発現させても、一方の高度不飽和脂肪酸のみに酵素活性を働かせることは難しい。これに対して、本発明によれば、サッカロミセス・セレビシェのように元来2つ以上の不飽和結合を持つ脂肪酸を生産できない生物に対しても、原料脂肪酸を外部から選択的に添加することにより、原料脂肪酸に応じた高度不飽和脂肪酸の生産が可能となる。このような本発明のこの特徴は、特にn-3系高度不飽和脂肪酸生産を目的とする場合に実用的価値が高い。つまり、原料脂肪酸の種類を人為的に選択することにより、同時に生産される可能性の高いn-6系高度不飽和脂肪酸の混入生成量をより小さく制限することが可能となる。勿論、n-6系高度不飽和脂肪酸生産を目的とする場合にも、同様にn-6系高度不飽和脂肪酸に対応する原料脂肪酸を外部添加すればよく、この点で、実用的価値は高い。
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1
高度不飽和脂肪酸生産性及び脂質蓄積性の高い出芽酵母サッカロミセス・セレビシェ形質転換株の取得
(1)酵母サッカロミセス・セレビシェのSNF2遺伝子の変異株(BY4741Δsnf2株)(Mat a Leu2D0 his3D1 ura3D0 met15D0 SNF2::kanMX)(インビトロジェン社製)あるいは野生株(BY4741株)(Mat a Leu2D0 his3D1 ura3D0 met15D0) (インビトロジェン社製)を宿主として用い、これらの株にトリアシグリセロール合成系酵素遺伝子を組み込んだプラスミドで形質転換した。ベクターとして、pVT100-U(2μmを複製開始部位とするマルチコピーベクターで、インサート遺伝子の発現にグルコース培地で高発現のADH1プロモーターをもち、酵母での選択マーカーとしてURA3遺伝子を持ち、大腸菌での選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子をもつベクター)、pL1091-5 (pVT100-Uのマルチクローニングサイトを他の配列に置き換えたベクター)及びpL1177-2(pL1091-5と同様だが、選択マーカーとしてLEU2遺伝子を持つベクター)を用いた。それらの方法については、既に記載された方法(特開2007−209240)によった。
すなわち、酵母サッカロミセス・セレビシェのSNF2遺伝子の変異株(BY4741Δsnf2株)あるいは野生株(BY4741株)を、宿主として用い、これらの株をTG合成系の酵素の遺伝子を組み込んだプラスミドで形質転換した。トリアシグリセロールを合成する酵素は何種類か知られているが、最も主要な経路として知られているのは、ジアシルグリセロールとアシルCoAよりトリアシルグリセロールを合成する経路である(Sandager L., et al, J. Biol. Chem. 277, 6478-6482 (2002))。
【0027】
そこで、この経路を担う酵素であるジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)とその基質であるアシルCoAを合成する酵素であるアシルCoA合成酵素の遺伝子の組み合わせで形質転換を行った。遺伝子としては、サッカロミセス・セレビシェのDGATであるDGA1(YOR245c)を用いた。これらの遺伝子は、サッカロミセス・セレビシェのゲノムDNAを鋳型とし、表1のDGA1用のプライマーを用いたPCRによって増幅して取得した。これらのプライマーは、既に決定されているゲノムDNA配列にもとづいて、それぞれの遺伝子全長を増幅できるように設計した。また、DGA1-1はその末端に制限酵素SacI認識部位を含み、DGA1-2はその末端に制限酵素XbaI認識部位を含んでいる。
【0028】
【表1】

【0029】
この時のPCRの増幅条件は、0.4 units KOD plus polymerase (Toyobo社製)、0.2 mMdNTP mixture、0.5μM プライマー、10 ng サッカロミセス・セレビシェのゲノムDNAを、1 mM MgCl2を含む添付の緩衝液中で反応させた(全反応液20μl)。増幅条件は、DGA1の場合は、94℃で2分間反応させた後、94℃(30秒間)/55℃(30秒間)/68℃(2分間)を1サイクルとして25回くり返すことで行った。反応液は、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射して、予期したサイズの単一バンドが得れたことを確認した。増幅したDGA1, FAA3は、PCR purification kit (キアゲン社製)により、プライマーなどを除いて、精製した。
得られたDGA1遺伝子は、SacI、XbaI(ニッポンジーン社製)により制限酵素処理を行って、両端がSacI切断による粘着性末端及びXbaI切断による粘着性末端を作成する。ベクターとして、pL1177-2を用い、これらも同様にSacI、XbaIで切断した。
【0030】
インサート、ベクターともにPCR purification kitにより、制限酵素で切断された低分子のオリゴヌクレオチドを除いた後、ライゲーションによりインサート遺伝子をベクターに組み込んだ。ライゲーションは、ベクター:インサート比が1/1−1/10程度になるように混合し、Ligation high(Toyobo社製)を用いて16℃で1時間−3時間反応させて行った。
ライゲーションしたベクターの大腸菌への形質転換は、大腸菌JM109株コンピテントセル(ニッポンジーン社製)を用いて行った。ライゲーション反応液をコンピテントセルに加え、氷中で20分間インキュベートした後、42℃45秒の熱ショックを加え、再び氷中で2分間静置した後、添付の培地に加えて、37℃、1時間培養した。培養後、アンピシリンを含むLB寒天培地にまいて、37℃で1晩培養後のアンピシリン耐性のコロニーの有無を確認した。アンピシリンを含む培地で生育したコロニーは、アンピシリン耐性遺伝子のあるベクターで形質転換した大腸菌と考えられる。
【0031】
得られたコロニーのうち、インサート遺伝子のはいったベクターを検出するために、コロニーPCRを行った。このPCRのプライマー(pVT100L-5’及びpVT100L-3’)は、ADH1プロモーターとターミネーターの配列から設計し(表1)、ADH1プロモーターとターミネーターの間のマルチクローニングサイトへのインサート遺伝子の挿入を、そのサイズに相当するバンドの増幅によって確認できる。この時のPCR溶液は、1 unit Ex Taq (Takara社製)、0.2 mM dNTP mixture、0.5μM プライマーを添付の緩衝液に懸濁したものに、コロニーを突き刺した竹串の先端をすすいで調製した(全反応液20μl)。増幅は、95℃で1分間反応させた後、95℃(30秒間)/48℃(30秒間)/72℃(2分間)を1サイクルとして25回くり返すことで行った。
インサート遺伝子のはいったベクターで形質転換されていた大腸菌は、シングルコロニーにした後、アンピシリンを添加したLB培地中で37℃で一晩培養した。得られた大腸菌に含まれるベクターを、プラスミド抽出キット(QIAprep Spin Miniprep Kit, キアゲン社製)を用いて精製した。精製したベクターは、各種の制限酵素によって処理を行い、目的のインサート遺伝子が正しい方向に挿入されていることを確認した。
【0032】
得られたインサート遺伝子の挿入されたベクター(pL1177-2/DGA1)を用いて、サッカロミセス・セレビシェBY4741野生株及びΔsnf2株を形質転換した。形質転換は、酵母形質転換キット(S.c. EasyComp Transformation Kit, インビトロジェン社製)を用いて行った。LEU2のマーカー遺伝子をもつベクターで形質転換した場合には、マーカー遺伝子により合成が可能になる栄養素(60 mg/lロイシン)を含まないSD寒天培地(20 g/l グルコース、6.7 g/l yeast nitrogen base w/o amino acids、20 g/l 寒天)に20 mg/lヒスチジン、20 mg/lメチオニン、20 mg/lウラシルを加えた培地で増殖してくるコロニーを取得し、シングルコロニーを形質転換株として用いた。
これにより、BY4741Δsnf2株及びBY4741野生株各々に、サッカロミセス・セレビシェのDGATであるyDGA1遺伝子を挿入された上記ベクター(pL1177-2/yDGA1)を形質転換した形質転換株を得た。
【0033】
(2)上記で得られた形質転換株に対して、更に、Δ6不飽和化酵素遺伝子, Δ5不法和化酵素遺伝子及び鎖長延長酵素遺伝子を有するベクター(pL1091-5/tD5d、pL1091-5/rD6d及びpVT100-U/rElo1)のうちの1つを同時に形質転換した。
遺伝子としては、Oblongichytrium spp.SEK347のΔ5不飽和化酵素遺伝子であるtD5d(配列番号1)、ラットのΔ6不飽和化酵素遺伝子であるrD6d(AB021980)及びラットの鎖長延長酵素遺伝子であるrElo1(AB071985)を用いた。これらの遺伝子は、ラットのゲノムDNAを鋳型とし、表1のtD5d用、rD6d用又はrElo1用のプライマーを用いたPCRによって増幅して取得した。これらのプライマーは、既に決定されているゲノムDNA配列に基づいて、それぞれの遺伝子全長を増幅できるように設計した。また、rD6d-1及びrElo1-1はその末端に制限酵素HindIII認識部位を含み、tD5d-2, rElo1-2はその末端に制限酵素XbaI認識部位を含み、tD5d-1はその末端に制限酵素XhoI認識部位を、rD6d-2はSalI認識部位を含んでいる。
この時のPCRの増幅条件は、KOD plus polymerase (Toyobo社製)等の標準条件に準じて行った。反応液は、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイド染色後、紫外線照射して、予期したサイズの単一バンドが得れたことを確認した。増幅したrD6d及びrElo1は、PCR purification kit(キアゲン社製)により、プライマーなどを除いて、精製した。
【0034】
得られたtD5d、rD6d、rElo1及びyDGA1遺伝子は、HindIII、XbaI、XhoI、SacI、SalI(ニッポンジーン社製)により制限酵素処理を行って、両端が各々XhoI及びXbaI切断による粘着性末端を持つtD5d遺伝子含有断片、HindIII及びSalI切断による粘着性末端を持つrD6d遺伝子含有断片とHindIII及びXbaI切断による粘着性末端を持つrElo1遺伝子含有断片とした。ベクターとして、pVT100-U及びpL1091-5を用い、これらも同様にHindIII、XbaI、XhoI、SacI、SalIで切断した。
インサート、ベクターともにPCR purification kitにより、制限酵素で切断された低分子のオリゴヌクレオチドを除いた後、ライゲーションによりインサート遺伝子をベクターに組み込んだ。ライゲーションは、ベクター:インサート比が1/1−1/10程度になるように混合し、Ligation Pack(ニッポンジーン社製)を用いて16℃で3時間−4.5時間反応させた。
ライゲーションしたベクターの大腸菌への形質転換は、大腸菌JM109株コンピテントセル(ニッポンジーン社製)を用いて行った。ライゲーション反応液をコンピテントセルに加え、氷中で20分間インキュベートした後、42℃45秒の熱ショックを加え、再び氷中で2分間静置した後、添付の培地に加えて、37℃、1時間培養した。培養後、アンピシリンを含むLB寒天培地にまいて、37℃で1晩培養後のアンピシリン耐性のコロニーの有無を確認した。アンピシリンを含む培地で生育したコロニーは、アンピシリン耐性遺伝子のあるベクターで形質転換した大腸菌と考えた。
【0035】
得られたコロニーのうち、インサート遺伝子のはいったベクターを検出するために、コロニーPCRを行った。このPCRのプライマー(pVT100L-5’及びpVT100L-3’)は、ADH1プロモーターとターミネーターの配列から設計し(表2)、ADH1プロモーターとターミネーターの間のマルチクローニングサイトへのインサート遺伝子の挿入を、そのサイズに相当するバンドの増幅によって確認した。この時のPCR溶液は、1 unit Ex Taq (Takara社製)、0.2 mM dNTP mixture、0.5μM プライマーを添付の緩衝液に懸濁したものに、コロニーを突き刺した竹串の先端をすすいで調製した(全反応液15μL)。この時のPCRの増幅条件は、Ex Taq (Takara社製)の標準条件に準じて行った。
インサート遺伝子のはいったベクターで形質転換されていた大腸菌は、シングルコロニーにした後、アンピシリンを添加したLB培地中で37℃で一晩培養した。得られた大腸菌に含まれるベクターを、プラスミド抽出キット(QIAprep Spin Miniprep Kit, キアゲン社製)を用いて精製した。精製したベクターは、各種の制限酵素によって処理を行い、目的のインサート遺伝子が正しい方向に挿入されていることを確認した。
【0036】
得られたインサート遺伝子の挿入されたベクター(pL1177-2/yDGA1、pL1091-5/tD5d、pL1091-5/rD6d及びpVT100-U/rElo1)及び空ベクターを用いて、サッカロミセス・セレビシェBY4741野生株及びΔsnf2株を形質転換した。形質転換は、酵母形質転換キット(S.c. EasyComp Transformation Kit, インビトロジェン社製)を用いて行った。マーカー遺伝子により合成が可能になる各々の栄養素(20 mg/Lウラシル及び60 mg/Lロイシン)を含まないSD寒天培地(20 g/L グルコース、6.7 g/L yeast nitrogen base w/o amino acids、20 mg/Lヒスチジン、20 mg/Lメチオニン、20 g/L 寒天)で増殖してくるコロニーを取得し、シングルコロニーを形質転換株として用いた。
その結果、得られた形質転換株を表2に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例2
デルタ6位不飽和化活性付与の脂質蓄積性の高い出芽酵母サッカロミセス・セレビシェ形質転換株による細胞外α−リノレン酸の取り込み蓄積及びステアリドン酸生産

形質転換株は、液体培地中で30℃、140rpmのロータリーシェーカーで培養した。培地は、通常のSD培地(20 g/L グルコース、6.7 g/L yeast nitrogen base w/o amino acids)に20 mg/Lヒスチジンと20 mg/Lメチオニンを加えたもの、または、更に20 mg/Lウラシルと60 mg/Lロイシンを加えたものを用い、2.5 g/L テルジトールNP-40及び1 g/L α−リノレン酸を添加した。α−リノレン酸は、エタノール溶液としてろ過滅菌したものを、培養開始直前に培地に添加した。培養は7日間行った。
培養後、菌体を遠心分離(3000rpm, 5分)によって沈降させ、105℃で3時間加熱して、その乾燥重量を測定した。さらに、乾燥させた菌体に、1 mL 10%塩酸メタノール、0.5 mLジクロロメタンを加えて、60℃で3時間反応させて脂肪酸メチルエステルを生成させた後、2 mL 飽和食塩水と1 mL ヘプタンを加えて振とう後、遠心して二層分配した。この時のヘプタン層にきた脂肪酸メチルエステルを、ガスクロマトグラフ(島津製 GC-2010, TC-70カラム)で、FIDを用いてガスクロマトグラフの滞留時間により各脂肪酸を同定し、FID面積値から内部標準を基に各脂肪酸量を算出した。内部標準としてheptadecanoic acidを用い、上記メチルエステル化の際に加えるジクロロメタンに約0.2 g/L程度の濃度となるよう精密秤量したものを溶存させ、すべての試料に内部標準脂肪酸として添加し、そのFID面積値を基準として用いた。
【0039】
実施例1に示した形質転換株の内、トリアシグリセロール合成系酵素遺伝子とΔ6不飽和化酵素遺伝子の同時発現株及びその該当対照株のα−リノレン酸添加下の培養の結果を表3に示した。
【0040】
【表3】

BY4741野生株(表3のA)やBY4741Δsnf2株(C)でも一定量のα−リノレン酸を菌体内に取り込んだが、培地中に多くのα−リノレン酸が残存した。yDga1 とrD6dを同時に導入した場合(B,F)、α−リノレン酸を菌体内に取り込むと共にステアドリン酸を生産し蓄積した。その量はBY4741Δsnf2株に導入した方が野生株の場合の14倍以上であった。対照として、BY4741Δsnf2株にrD6dとLEU2(pL1177-2の空ベクターによる)を導入した株(E)でも相当量のステアドリン酸が蓄積したが、これはsnf2欠損株にロイシン生産の効果と酵母が持つDGA1活性が働き、Δ6不飽和化酵素の発現と合わせて作用したことによると思われる。この様なロイシンの効果は、発明者らがすでに示した通り(特開2007−209240)である。しかしながら、それらの効果は同時にDga1を過剰発現させた場合(F)には及ばず、ステアドリン酸の生産量も変換効率共にFの株(BY4741Δsnf2 + yDga1 + rD6d+ LEU2)で最大であった。
【0041】
表3に示されたように、脂質合成抑制遺伝子の変異株にトリアシルグリセロール合成経路中の酵素遺伝子と高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子を同時に導入した形質転換株(この例ではBY4741Δsnf2 + yDga1 + rD6d)では、脂質合成を抑制する遺伝子の変異がない野生株(この例ではBY4741)やトリアシルグリセロール合成経路中の酵素遺伝子(この例ではyDga1)を導入しない場合に比べ、顕著に高度不飽和脂肪酸生産蓄積能が向上したことが示された。また、α−リノレン酸はより酸化代謝を受けやすく、菌体内に取り込まれてもエネルギー源として利用され、残存しにくいとも予想されたが、取り込まれた上、ステアドリン酸に変換されて、蓄積することも示された。
この実施例に示されたように、脂質合成を抑制する遺伝子の変異株にトリアシルグリセロール合成経路中の酵素遺伝子と同時に高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子を導入した形質転換体を用いることにより、培地に添加した原料α−リノレン酸を細胞内に蓄積し、細胞内にステアドリン酸を生産蓄積することに成功した。
【0042】
実施例3
高度不飽和脂肪酸生産性及び脂質蓄積性の高い出芽酵母サッカロミセス・セレビシェ形質転換株による細胞外α−リノレン酸エステルの取り込み蓄積及びステアリドン酸生産

実施例1に示した形質転換株の内、トリアシグリセロール合成系酵素遺伝子とΔ6不飽和化酵素遺伝子の同時発現株をα−リノレン酸のエチルエステル及びメチルエステル添加下で培養を行った。培養条件等は、実施例2と同様であった。その結果を表4に示した。
【0043】
【表4】

【0044】
表4に示したように、メチルエステルやエチルエステルの形態で脂肪酸を添加しても、表3の場合と同様な結果を示した。つまり、yDga1 とrD6dを同時に導入した場合(B,F)、α−リノレン酸を菌体内に取り込むと共にステアドリン酸を生産し蓄積した。その量はBY4741Δsnf2株に導入した方が野生株の場合よりもはるかに大きいものであった。又、BY4741Δsnf2株にrD6dとLEU2(pL1177-2の空ベクターによる)を導入した株(E)でも相当量のステアドリン酸が蓄積したが、更にDga1を過剰発現させた場合(F)には及ばず、ステアドリン酸の生産量も変換効率共にBY4741Δsnf2 + yDga1 + rD6dの株で最大であった。このように、原料脂肪酸がメチルエステルやエチルエステルのようなエステル体であっても、脂肪酸体での添加の場合と同様に、菌体内に蓄積し、高度不飽和脂肪酸生産を行うことが示された。α-リノレン酸をエステル体で培地に添加し、形質転換微生物を培養した場合においても、脂質合成を抑制する遺伝子が破壊されていない微生物においては、ステアドリン酸への変換は微弱であったが、脂質合成を抑制する遺伝子が破壊された微生物の形質転換体ではα-リノレン酸がより多くステアドリン酸に代謝変換されており、脂質合成を抑制する遺伝子の破壊された微生物における高度不飽和脂肪酸代謝系の活性の亢進作用を示している。このように、脂質合成を抑制する遺伝子の破壊された微生物に対してトリアシルグリセロール合成系酵素遺伝子と高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子を同時に導入することによって、予想外の高度不飽和脂肪酸代謝活性の亢進作用が見出され、顕著な生産蓄積性の向上が可能であることが示された。
【0045】
実施例4
高度不飽和脂肪酸生産性及び脂質蓄積性の高い出芽酵母サッカロミセス・セレビシェ形質転換株による細胞外ジホモ−γ−リノレン酸の取り込み蓄積及びアラキドン酸生産

実施例1に示した形質転換株の内、トリアシグリセロール合成系酵素遺伝子とΔ5不飽和化酵素遺伝子の同時発現株をジホモ−γ−リノレン酸添加下で培養を行った。培養条件等は、実施例2と同様であった。その結果を表5に示した。
【0046】
【表5】

表5に示したようにyDga1とtD5dをBY4741Δsnf2株に導入した形質転換体にジホモ−γ−リノレン酸を加えると、ジホモ−γ−リノレン酸を菌体内に取り込み、アラキドン酸に変換蓄積した。このように、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子として、Δ5不飽和化酵素遺伝子を用いた場合も、実施例2と同様に、原料脂肪酸を菌体内に蓄積し、高度不飽和脂肪酸生産を行うことが示された。
【0047】
実施例5
鎖長延長化活性付与の脂質蓄積性の高い出芽酵母サッカロミセス・セレビシェ形質転換株による細胞外α−リノレン酸の取り込み蓄積及びイコサトリエン酸生産

実施例1に示した形質転換株の内、トリアシグリセロール合成系酵素遺伝子と鎖長延長酵素遺伝子の同時発現株をα−リノレン酸添加下で培養を行った。培養条件等は、実施例2と同様であった。その結果を表6に示した。
【0048】
【表6】

【0049】
表6に示したようにyDga1 とrElo1をBY4741Δsnf2株に導入した形質転換体にα−リノレン酸を加えると、α−リノレン酸を菌体内に取り込み、イコサトリエン酸に変換蓄積した。このように、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子として、鎖長延長酵素遺伝子を用いた場合も、実施例2や実施例4と同様に、原料脂肪酸を菌体内に蓄積し、高度不飽和脂肪酸生産を行うことが示された。

【0050】
実施例6
鎖長延長化活性付与の脂質蓄積性の高い出芽酵母サッカロミセス・セレビシェ形質転換株による細胞外イコサペンタエン酸の取り込み蓄積及びドコサペンタエン酸生産

実施例1に示した形質転換株の内、トリアシグリセロール合成系酵素遺伝子と鎖長延長酵素遺伝子の同時発現株をイコサペンタエン酸添加下で培養を行った。培養条件等は、実施例2と同様であった。その結果を表7に示した。
【0051】
【表7】

【0052】
表7に示したようにyDga1 とrElo1をBY4741Δsnf2株に導入した形質転換体にイコサペンタエン酸を加えると、イコサペンタエン酸を菌体内に取り込み、ドコサペンタエン酸に変換蓄積した。このように、原料脂肪酸を実施例5よりもより長鎖長の炭素数20の脂肪酸であるイコサペンタエン酸を用いた場合も、実施例25と同様に、原料脂肪酸を菌体内に蓄積し、高度不飽和脂肪酸生産を行うことが示された。
これら実施例2−6の結果を組み合わせることにより、例えば、脂質合成抑制遺伝子の変異株にトリアシルグリセロール合成経路酵素遺伝子とΔ6不飽和化酵素遺伝子と鎖長延長酵素遺伝子とΔ5不飽和化酵素遺伝子を同時に導入した形質転換体を用いることにより、培地に添加したα−リノレン酸を菌体内に蓄積させ、ステアリドン酸・イコサテトラエン酸を経て、イコサペンタエン酸の生産を行うことも可能であることが示唆され、更にはドコサペンタエン酸の生産が可能であることも示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】高度不飽和脂肪酸の一般的生合性経路を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IRA2遺伝子、PRE9 遺伝子、SNF2遺伝子、SPT21遺伝子又はPHO90 遺伝子、若しくはこれら遺伝子と相同性を有する遺伝子の一種以上が破壊または機能低下している微生物に、高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子の少なくとも1種以上の遺伝子が導入されていることを特徴とする、形質転換微生物。
【請求項2】
導入される高度不飽和脂肪酸生成酵素遺伝子が、Δ6不飽和化酵素遺伝子、Δ5不飽和化酵素遺伝子、鎖長延長酵素遺伝子、及びこれら遺伝子と相同性を有する遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子であることを特徴とする、形質転換微生物。
【請求項3】
さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、アシルCoAシンターゼ遺伝子、リン脂質:ジアシルグリセロールトランスフェラーゼ遺伝子、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、及びステロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子、並びにこれら遺伝子と相同性を有する遺伝子から選ばれた少なくとも1種以上の遺伝子が導入されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の形質転換微生物。
【請求項4】
導入遺伝子がベクターに挿入されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の形質転換微生物。
【請求項5】
微生物がサッカロミセス・セレビシェに属する微生物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の形質転換微生物。
【請求項6】
マーカー遺伝子を少なくとも含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の形質転換微生物。
【請求項7】
マーカー遺伝子がLEU2遺伝子であることを特徴とする、請求項6に記載の形質転換微生物。
【請求項8】
LEU2遺伝子と請求項1〜3に記載の導入遺伝子が同一のプロモータにより発現制御されていることを特徴とする、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の形質転換微生物を培地に培養し、培養菌体から脂質を採取することを特徴とする、脂質の製造方法。
【請求項10】
培地が脂肪酸又は脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
脂肪酸又は脂肪酸エステルが、高級不飽和脂肪酸生産代謝系に介在する脂肪酸であることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
採取される脂質が、形質転換前の野生株には存在しない高度不飽和脂肪酸であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載の脂質の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−195139(P2009−195139A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38940(P2008−38940)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】