説明

高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法

【課題】経済的に、純度が高く品位の良好な高度不飽和脂肪酸誘導体を得る。
【解決手段】脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸誘導体を取得する方法において、上記銀塩水溶液を繰り返し使用して上記方法を行うにあたり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を、銀1g当り0.2meq以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸誘導体を医薬品、化粧品、食品等に使用するにあたり、特に良好な品質のものを安価に取得するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸およびその誘導体は、血中脂肪の低減等の多くの生理活性をもち、古くから医薬品、化粧品、食品等の原料として使用されてきた。そこで、高純度かつ良好な品位の高度不飽和脂肪酸およびその誘導体の精製方法が検討されている。
【0003】
その精製方法のひとつとして、高度不飽和脂肪酸およびその誘導体が銀イオンと錯体を形成して水溶性となるという特性を利用した、銀錯体法が知られている(特許文献1−4)。ここで、特許文献1−4には、高度不飽和脂肪酸およびその誘導体の精製に使用した銀塩を再利用することが可能であると記載されてはいるが、銀塩は非常に劣化しやすい性質をもっている。劣化した銀塩を使用して高度不飽和脂肪酸およびその誘導体を精製すると、不純物の混入や風味の劣化などが生じ、良好な精製品を得ることができない。したがって、銀塩を再利用することは現実的には非常に困難であり、工業的に高度不飽和脂肪酸およびその誘導体を精製する場合、都度新たな銀塩水溶液を調製する必要があり、精製コストが非常に高価になるという問題があった。そのため、良好な品位の高度不飽和脂肪酸およびその誘導体を安価に提供するために、銀塩水溶液を長期間繰り返して再利用することを可能にする技術が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特許第2786748号
【特許文献2】特許第2895258号
【特許文献3】特許第2935555号
【特許文献4】特許第3001954号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、銀錯体法による高度不飽和脂肪酸誘導体の精製方法において、銀塩水溶液の再利用の効率を上げることにより、高度不飽和脂肪酸誘導体の安価な提供を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、銀塩水溶液を使用した高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法について鋭意研究を重ねた結果、再利用する銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を一定値以下とすることにより、意外にも、銀塩水溶液を繰り返し使用しても良好な品位の高度不飽和脂肪酸誘導体が取得できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、上記銀塩水溶液と接触せしめる前の脂肪酸の誘導体の混合物の酸価を一定値以下とすることにより、さらに、良好な品位の高度不飽和脂肪酸誘導体が取得できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)高度不飽和脂肪酸誘導体を含有する脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸誘導体を取得する方法において、上記銀塩水溶液を繰り返し使用するにあたり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を、銀1g当り0.2meq以下とすることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法、
(2)銀塩水溶液を、吸着剤に接触せしめることにより遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とする、(1)の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法、
(3)上記銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物の酸価が5以下である、(1)又は(2)の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法、
(4)銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物を、吸着剤に接触せしめることにより酸価を5以下とする、(1)乃至(3)のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法によれば、工業的に銀錯体法における銀塩水溶液の再利用を行うことが可能となり、安価に、かつ良好な品位の高度不飽和脂肪酸誘導体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
本発明の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法は、脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸誘導体を取得する方法において、上記銀塩水溶液を繰り返し使用するにあたり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を、銀1g当り0.2meq以下とすることを特徴とする。それにより、上記取得方法(銀錯体法)で使用する銀塩水溶液の再利用が可能となり、銀塩水溶液を再利用しても品位の良好な高度不飽和脂肪酸誘導体を取得することができる。
より詳細には、炭素数及び/又は不飽和度の異なる脂肪酸誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸誘導体の水溶性錯体を形成させ、錯体を形成していない高度不飽和脂肪酸誘導体以外の脂肪酸誘導体を除去した後、錯体解離の手段を施し、高度不飽和脂肪酸誘導体を取得する方法において、銀塩水溶液を繰り返し使用するにあたり、遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とすることを特徴とする。
【0011】
本発明において、高度不飽和脂肪酸とは、炭素数が16以上、かつ分子内に二重結合を2個以上有した不飽和脂肪酸を意味し、例えば、ドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)、エイコサペンタエン酸(C20:5、EPA)、アラキドン酸(C20:4、AA)、ドコサペンタエン酸(C22:5、DPA)、ステアリドン酸(C18:4)、リノレン酸(C18:3)、リノール酸(C18:2)等が挙げられる。本発明の取得方法で得られる高度不飽和脂肪酸の誘導体とは、脂肪酸が遊離型でないものをいい、例えば、高度不飽和脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル等のエステル型誘導体、アミド、メチルアミド等のアミド型誘導体、脂肪アルコール型誘導体、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド等が挙げられる。
【0012】
本発明の取得方法で使用する銀塩は、不飽和脂肪酸中の不飽和結合と錯体を形成しうる銀塩であればいずれも使用することができ、例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、トリクロロ酢酸銀、トリフルオロ酢酸銀等が挙げられる。これらの銀塩を、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上の濃度となるように水に溶解して銀塩水溶液とし、高度不飽和脂肪酸誘導体の取得に使用する。また、銀塩水溶液中の銀塩濃度は、飽和濃度を上限とすればよい。
【0013】
上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量は、Duncombe法変法(Duncombe W. G. :Clin. Chem. Acta., 9, 122-125, 1964)の原理により算出できる。具体的には、試料に銅試液を加えて試料中の遊離脂肪酸と銅との塩を作成し、この塩を抽出剤により分離する。そこへバソクプロインを含む発色試液を加えることにより、銅とバソクプロインとのキレート化合物を生成し、黄橙色に発色する。この黄橙色の吸光度を測定することにより、試料中の遊離脂肪酸濃度を求めることができる。
【0014】
本発明の取得方法において、銀塩水溶液を回収し、再利用する前に、吸着剤と接触せしめて、遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とすることができる。上記吸着剤としては、例えば、活性炭、活性アルミナ、活性白土、酸性白土、シリカゲル、ケイソウ土、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらのうちの一種または二種以上を使用することができる。
【0015】
上記の銀塩水溶液と、上記吸着剤との接触方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記銀塩水溶液中に上記吸着剤を投入し、撹拌する方法や、上記吸着剤を充填したカラムに上記銀塩水溶液を通液する方法等が挙げられる。
また、銀塩水溶液を回収し、再利用する前に、希釈・濃度調整することによって、あるいは、有機溶媒で抽出することによって遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とすることもできる。回収した銀塩水溶液の濃度調整は、減圧・加熱による水の蒸発により、あるいは比重を測定しながら適宜銀塩や水を加えることにより行なうことができる。
再利用する銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量は、銀1g当り0.2meq以下であれば良いが、好ましくは、銀1g当り0.18meq以下、さらに銀1g当り0.12meq以下であれば、得られる高度不飽和脂肪酸誘導体の風味、酸価がより好ましくなる。
【0016】
本発明の取得方法において、銀塩水溶液に接触せしめる前の脂肪酸の誘導体の混合物の酸価を5以下にすることが好ましい。それによって、上記処理後の銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量が上昇しにくくなり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量が銀1g当り0.2meq以下となるよう管理しやすくなる。したがって、上記銀塩水溶液を効率よくリサイクルすることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明の取得方法において、脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩水溶液に接触せしめる前に酸価を5以下にする手段として、上記混合物と吸着剤とを接触せしめることができる。上記吸着剤としては、例えば、活性炭、活性アルミナ、活性白土、酸性白土、シリカゲル、ケイソウ土、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらのうちの一種または二種以上を使用することができる。
【0018】
上記の脂肪酸の誘導体の混合物と、上記吸着剤との接触方法は、特に限定されるものではないが、例えば、該混合物中に上記吸着剤を投入し、撹拌する方法や、上記吸着剤を充填したカラムに上記混合物を通液する方法等が挙げられる。
銀塩水溶液に接触せしめる前の脂肪酸の誘導体の混合物の酸価を5以下にする手段としては、蒸留法でもよい。
【0019】
本発明の取得方法において、脂肪酸の誘導体の混合物から、高度不飽和脂肪酸誘導体を選択的に分離する方法は、高度不飽和脂肪酸誘導体を含有する上記脂肪酸の誘導体の混合物に、不飽和結合と錯体を形成しうる銀塩の水溶液を加え、好ましくは5分〜4時間、より好ましくは10分〜2時間撹拌し、水溶性の銀塩−高度不飽和脂肪酸誘導体の錯体を形成させ、高度不飽和脂肪酸誘導体のみを選択的に銀塩水溶液に溶かすことにより行われる。
【0020】
また、上記高度不飽和脂肪酸誘導体と、銀塩水溶液との反応温度は、下限は銀塩水溶液が液体でありさえすればよく、上限は100℃までで行われるが、高度不飽和脂肪酸誘導体の酸化安定性、銀塩の水への溶解性、錯体の生成速度などへの配慮から、10〜30℃が好ましい。
【0021】
上記高度不飽和脂肪酸誘導体と、銀塩水溶液との接触時には、高度不飽和脂肪酸誘導体の酸化安定性、銀塩の安定性を考慮し、不活性ガス、例えば窒素雰囲気下で、遮光して行うのが好ましい。
【0022】
上記高度不飽和脂肪酸誘導体と、銀塩との錯体から、高度不飽和脂肪酸誘導体を解離する方法は特に限定されないが、例えば、有機溶媒による抽出や、水を加えることにより高度不飽和脂肪酸誘導体を不溶化し、分離する方法等が挙げられる。
【0023】
以下、本発明の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
〔遊離脂肪酸の測定方法〕
1.標準溶液の調製
(1)ミリスチン酸0.114gを100mLメスフラスコに精密に量り取り、ジメチルスルホキシドでメスアップする。
(2)別に100mLメスフラスコにトリエタノールアミン1.5gを取り、純水でメスアップする。
(3)別に100mLメスフラスコにエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物0.10gを取り、純水でメスアップする。
(4)(1)の溶液20mL、(2)の溶液10mL、(3)の溶液10mLを100mLメスフラスコに正確に取り、純水でメスアップし標準溶液とする。
【0025】
2.銅試液の調製
(1)硫酸銅(II)五水和物6.49g及び塩化ナトリウム20.0gをビーカーに取り、純水で溶かし、100mLメスフラスコに移し、ビーカーの洗液をあわせた後、純水でメスアップする。
(2)別に100mLメスフラスコにトリエタノールアミン14.9gを取り、純水でメスアップする。
(3)(1)の溶液と(2)の溶液を同量(容量比)で混合し、銅試液とする。
【0026】
3.発色試液の調製
バソクプロイン0.189gを250mLメスフラスコに取り、2−ブタノールでメスアップする。
【0027】
4.操作手順
(1)銀塩水溶液5μL、標準溶液500μLをそれぞれキャップ付き試験管に取り、銅試液1mLを加える。
(2)クロロホルム/ヘプタン混液(1/1、容量比)3mLをそれぞれに加え、キャップを締めて3分間激しく手で振とうする。
(3)振とう後キャップを外して遠心分離(3,000rpm)を行う。
(4)上澄み液2mLを採取し、別の試験管にいれ、発色試液2mLを加えて軽く振り混ぜる。
(5)2〜3分後、純水を対照として475nmの吸光度を測定する。
【0028】
5.計算式
下記の式(1)により、銀水溶液中の遊離脂肪酸濃度が算出できる。
【0029】
(式1)
遊離脂肪酸濃度(meq/L)=B/A×D/C ・・・・・(1)

A:標準溶液を用いたときの吸光度
B:試料溶液を用いたときの吸光度
C:試料採取量(μL)
D:標準溶液採取量(μL)

【0030】
また、下記の式(2)および(3)により、銀1gあたりの遊離脂肪酸量が算出できる。
【0031】
(式2)



(式3)
遊離脂肪酸濃度(meq/L)
銀1g当たりの遊離脂肪酸量(meq/g)=――――――――――――――――――
使用した銀塩中の銀の濃度(g/L)

【0032】
〔実施例1〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
まず、硝酸銀350kgに蒸留水350kgを加え、攪拌・溶解した。この硝酸銀水溶液700kgに、脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価0.08、POV3.3、EPAエチルエステルの濃度45.6%、DHAエチルエステルの濃度3.8%)154kgを加え、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水を1000kg添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、遊離脂肪酸含量を測定した。この硝酸銀を含有する下層は、濃縮後、濃度調整を行い、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの精製に使用した。この操作を繰り返し、上記混合物14バッチを処理した。この結果を表1に示す。リサイクル中の硝酸銀水溶液の遊離脂肪酸含量は常に銀1g当り0.2meq以下であった。また、得られた取得物(EPAエチルエステルの濃度81〜84%)は、POV、酸価、風味等の品位が良好だった。
【0033】
【表1】

【0034】
〔実施例2〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
まず、硝酸銀350kgに蒸留水350kgを加え、攪拌・溶解した。この硝酸銀水溶液700kgに、脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価5.98、POV2.1、EPAエチルエステルの濃度44.3%、DPAエチルエステルの濃度5.1%)150kgを混合し、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水1000Lを添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、下層に対して10%量の酸化アルミニウムを添加し、60℃にて20分間攪拌後、ろ過により酸化アルミニウムを除去した。この酸化アルミニウム処理後の下層の遊離脂肪酸含量を測定した。この酸化アルミニウム処理後の下層は、その後濃縮・濃度調整を行い、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの取得に使用した。この操作を繰り返し、10バッチを処理した結果を表2に示す。得られた取得物(EPAエチルエステルの濃度80〜84%)は、いずれも、POV、酸価、風味等の品位が良好だった。
【0035】
【表2】

【0036】
〔実施例3〕
以下の方法により、脂肪酸メチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸メチルエステルを取得した。
まず、硝酸銀350kgに蒸留水350kgを加え、攪拌・溶解した。この硝酸銀水溶液700kgに、脂肪酸メチルエステルの混合物(酸価6.74、POV2.3、EPAメチルエステルの濃度46.2%、DPAメチルエステルの濃度3.6%)150kgを混合し、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、シクロヘキサン900Lを添加して、50℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸メチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、下層に対して10%量の酸化アルミニウムを添加し、60℃にて20分間攪拌後、ろ過により酸化アルミニウムを除去した。この酸化アルミニウム処理後の下層の遊離脂肪酸含量を測定した。この酸化アルミニウム処理後の下層は、その後濃度調整を行い、再度高度不飽和脂肪酸メチルエステルの取得に使用した。この操作を繰り返し、10バッチを処理した結果を表3に示す。得られた取得物(EPAメチルエステルの濃度84〜89%)は、いずれも、POV、酸価、風味等の品位が良好だった。
【0037】
【表3】

【0038】
〔実施例4〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物を40バッチ処理し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
まず、硝酸銀350kgに蒸留水350kgを加え、攪拌・溶解した。この硝酸銀水溶液700kgに、脂肪酸エチルエステルの混合物(40バッチ:酸価0.05〜4.11、POV2.2〜3.5、EPAエチルエステルの濃度41.1〜58.1%、DHAエチルエステルの濃度3.9〜8.7%)150kgを混合し、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水を1000kg添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、遊離脂肪酸含量を測定した。この硝酸銀を含有する下層は、濃縮・濃度調整を行い、硝酸銀水溶液の遊離脂肪酸含量が、銀1g当り0.2meqに近づいた場合には適宜活性炭処理を行い、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの取得に使用した。活性炭処理は、硝酸銀水溶液の量に対して10%の活性炭を添加し、60℃に加温下で20分間攪拌して、ろ過を行うことにより実施した。この活性炭処理後の硝酸銀水溶液は、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの取得に使用した。この操作を繰り返した結果を表4に示す。適宜活性炭処理を行い、遊離脂肪酸含量を低減した硝酸銀水溶液を使用して得られた取得物(EPAエチルエステルの濃度75〜84%)は、いずれも、POV、酸価、風味等の品位が良好だった。
なお、1〜14バッチ(脂肪酸エチルエステルの混合物の酸価:0.05〜1.22)の処理に対して、15、16バッチ(脂肪酸エチルエステルの混合物の酸価:4.11)の処理において、銀1g中の遊離脂肪酸含量が高くなっていることがわかる。これより、銀塩水溶液に接触せしめる脂肪酸誘導体の酸価を低くすることによって、高度不飽和脂肪酸エチルエステル取得後の銀塩中の遊離脂肪酸含量を小さく保つことができ、その結果、銀塩水溶液の再利用がしやすくなるといえる。
【0039】
【表4】

【0040】
〔実施例5〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
まず、脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価7.32、POV2.3、EPAエチルエステルの濃度42.3%、DHAエチルエステルの濃度1.6%)2000kgに、酸化アルミニウムを300kg加え、1時間攪拌した。その後、酸化アルミニウムをろ過にて除去し、酸価を測定したところ、0.06であった。この脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価0.06)198kgを取り、硝酸銀360kgと蒸留水540kgとを攪拌・溶解した硝酸銀水溶液(濃度40%)900kgとを混合し、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水を1000kg添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、遊離脂肪酸含量を測定した。この硝酸銀を含有する下層は、濃縮・濃度調整を行い、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの取得に使用した。この操作を繰り返し、上記高度不飽和脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価0.06)10バッチを処理した結果、硝酸銀水溶液の遊離脂肪酸含量は常に銀1g当り0.2meq以下であった(表5)。また、得られた取得物(EPAエチルエステルの濃度81〜85%)は、POV、酸価、風味等の品位が良好だった。
【0041】
【表5】

【0042】
〔実施例6〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
まず、過塩素酸銀400kgに蒸留水350kgを加え、攪拌・溶解した。この過塩素酸銀水溶液750kgに、脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価0.06、POV2.7、EPAエチルエステルの濃度47.9%、DHAエチルエステルの濃度3.2%)160kgを加え、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水を1000kg添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途過塩素酸銀を含有する下層を取り、遊離脂肪酸含量を測定した。この過塩素酸銀を含有する下層は、濃縮後、濃度調整を行い、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの取得に使用した。この操作を繰り返し、上記混合物10バッチを処理した。この結果を表6に示す。過塩素酸銀水溶液の遊離脂肪酸含量は常に銀1g当り0.2meq以下であった。また、得られた取得物(EPAエチルエステルの濃度82〜85%)は、POV、酸価、風味等の品位が良好だった。
【0043】
【表6】

【0044】
〔参考例1〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
硝酸銀350kgに蒸留水350kgを加え、攪拌・溶解した。この硝酸銀水溶液700kgに、脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価10.20、POV3.7、EPAエチルエステルの濃度49.0%、DHAエチルエステルの濃度8.6%)150kgを加え、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水を1000kg添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、遊離脂肪酸含量を測定した。この硝酸銀を含有する下層は、濃縮・濃度調整を行い、再度高度不飽和脂肪酸エチルエステルの取得に使用した。この操作を繰り返し、上記混合物3バッチを精製した。この結果を表7に示す。表7より、硝酸銀水溶液接触前の、脂肪酸エチルエステルの混合物の酸価が5を超えると、取得に使用する硝酸銀水溶液を繰り返し使用した場合に、硝酸銀水溶液に含まれる遊離脂肪酸が増加し、その結果、取得物である高度不飽和脂肪酸誘導体のPOVおよび酸価が高くなり、風味も良好でないことがわかる。
【0045】
【表7】

【0046】
〔比較例1〕
以下の方法により、脂肪酸エチルエステルの混合物から、高度不飽和脂肪酸エチルエステルを取得した。
参考例1で、3バッチの原料を処理した硝酸銀水溶液(遊離脂肪酸含量:銀1g当り0.319meq)に、脂肪酸エチルエステルの混合物(酸価0.08、POV3.3、EPAエチルエステルの濃度45.6%、DHAエチルエステルの濃度3.8%)154kgを加え、10℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を捨て、下層のみを分取し、水を1000kg添加して、60℃で20分間攪拌した。その後二層分離するまで1時間放置した。この上層を分取し、高度不飽和脂肪酸エチルエステルの濃縮物を得た。また、別途硝酸銀を含有する下層を取り、遊離脂肪酸含量を測定した。その結果を表8にまとめた。表8から、高度不飽和脂肪酸誘導体の銀錯体法による取得方法において、銀塩水溶液に接触せしめる前の、脂肪酸の誘導体の混合物の酸価が低く、良好な品位のものであったとしても、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸量が、銀1g当り0.2meqを超えていると、得られる高度不飽和脂肪酸誘導体の品位が良好でないことがわかる。
【0047】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度不飽和脂肪酸誘導体を含有する脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸の誘導体を取得する方法において、上記銀塩水溶液を繰り返し使用するにあたり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を、銀1g当り0.2meq以下とすることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。
【請求項2】
銀塩水溶液を、吸着剤に接触せしめることにより遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とする、請求項1に記載の高度不飽和脂肪酸の取得方法。
【請求項3】
上記銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物の酸価が5以下である、請求項1又は2記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。
【請求項4】
銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物を、吸着剤に接触せしめることにより酸価を5以下とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。


【公開番号】特開2010−64974(P2010−64974A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231773(P2008−231773)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【出願人】(391007356)備前化成株式会社 (16)
【Fターム(参考)】