説明

高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】易酸化性元素を含む高張力鋼板を、不めっきなく外観美麗に、かつ、安定的に製造する手法を提供する。
【解決手段】連続式溶融亜鉛めっき設備にて溶融亜鉛めっきを施す工程において、鋼板が溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温Tが、式(A)で表されることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
T(Zn) + 100℃ ≦ T ≦ T(Zn)+180℃ (A)
但し、440℃ ≦ T(Zn) ≦ 470℃ (B)
T;溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温T(℃)
T(Zn);溶融亜鉛めっき浴の浴温度(℃)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、特に、高張力鋼板を基材とする、不めっきのない溶融亜鉛めっき鋼板の連続的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車、家電、建材などの分野において、耐食性の観点から広く用いられている。この中で、自動車分野においては、衝突安全性や燃費向上を目的に高張力鋼板の使用量が増えつつあり、当然のことながらこれらを基材とした溶融亜鉛めっき鋼板の需要も高まっている。
【0003】
しかしながら、SiやMn、Crなどの易酸化性元素を鋼中に含む高張力鋼板を溶融亜鉛めっきした場合、不めっきが発生しやすくなるという問題がある。これは、溶融亜鉛めっき前に、鋼板を非酸化性雰囲気または還元性雰囲気で、再結晶還元焼鈍する際に、SiやMn、Crなどの易酸化性元素が選択酸化されて鋼板表面に濃化し、溶融亜鉛と鋼材の接触を妨げるためである。そのため、これら易酸化性元素を含む鋼板であっても、不めっきの発生を抑制する方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2では、酸化還元法が提案されている。しかし、酸化還元法では、酸化帯での酸化量の制御、還元帯での還元量のバランスが難しく、不めっきのない溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造することは困難である。特許文献3では表面研削法が提案されているが、研削後の再加熱によって易酸化性元素が再び鋼表面に濃化するため、その効果は不十分である。また、研削による鉄歩留まりの低下も問題となる。また、特許文献4では、プレめっき法が提案されているが、表面研削法と同じく、めっき前の再加熱によってプレめっき元素が鋼中に拡散するため、その効果が不十分である。また、プレめっき設備の導入・操業に伴うコストアップは避けられない。さらに、特許文献5では、浴温440℃以上、Al含有量が0.05〜0.5%である溶融亜鉛めっき浴に、進入板温を、
350+30/t ≦ T(℃)≦420+30/t ℃ (式中、t;板厚)
T(℃)≦460
とすることで良好な溶融亜鉛濡れ性が得られるとされている。しかしながら、本条件にてめっきすることで不めっきの発生は抑制されるものの、めっき厚みが不均一で外観が美麗でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許平6−81096号公報
【特許文献2】特許平6−172953号公報
【特許文献3】特許平5−132749号公報
【特許文献4】特許平4−333552号公報
【特許文献5】特開2000−303158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、種々提案されているものの、易酸化性元素を含む高張力鋼板を、不めっきなく外観美麗に、かつ、安定的に製造するには不十分であり、これらを解決できる手法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、溶融亜鉛浴への鋼板の浸漬工程に着目した検討を鋭意進めたところ、
溶融亜鉛浴温度と、溶融亜鉛浴に浸漬するときの板温(以下、浸漬板温と記載)を制御することで、不めっきのない、外観美麗な高張力鋼板を基材とした溶融亜鉛めっき鋼板を実現できることを見出した、本発明に至った。
【0008】
つまり、本発明の要旨とするところは次の通りである。
(1)質量%で、
C;0.001%以上0.3%以下、
Si;0.5%以上2.0%以下、
Mn;1.0%以上3.0%以下、
P;0.002以上0.2%以下、
S;0.001%以上0.03%以下、
Al;0.005%以上〜1%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板を、連続式溶融亜鉛めっき設備にて溶融亜鉛めっきを施す工程において、鋼板が溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温Tが、式(A)で表されることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
T(Zn) + 100℃ ≦ T ≦ T(Zn)+180℃ (A)
但し、440℃ ≦ T(Zn) ≦ 470℃ (B)
T ; 溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温T(℃)
T(Zn) ; 溶融亜鉛めっき浴の浴温度(℃)
【0009】
(2)質量%で、Ti、Nb、B、Cr、Moの1種または2種以上を、合計で0.05〜1.0%含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造法を経た高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、製造性に優れ、また、外観品位、摺動性、密着性といった性能にも優れる。このため、自動車や家電製品、建材等に用いることができ、産業上の価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】浸漬板温と溶融亜鉛めっき浴温度の関係で濡れ性の状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の鋼成分の限定理由について説明する。
C;0.001%以上0.3%以下
Cは鋼の強化に必要な元素である。C量が0.001%未満では強度が不足し、0.3%を超えると自動車外板に必要な加工性が損なわれる。このため、C量は0.001%以上0.3%以下とする。好ましい範囲は、0.05以上0.2%以下である。
【0013】
Si;0.5%以上2.0%以下
Siは鋼の強化に必要な元素である。Siが0.5%未満ではその効果が不十分であるため0.5%を下限とし、過剰に添加すると脆化しやすくなるため2.0%を上限とする。好ましい範囲は0.7%以上1.5%以下である。
【0014】
Mn;1.0%以上3.0%以下
Mnは鋼の強化に必要な元素である。Mnが1.0%未満であればその効果が不十分であるため1.0%を下限とし、過剰に添加すると脆化しやすくなるため3.0%を上限とする。好ましい範囲は1.5%以上2.0%以下である。
【0015】
P;0.002以上0.2%以下
Pは鋼の強化に必要な元素である。しかし、過剰に添加すると脆化しやすくなり、溶融亜鉛めっき後の合金化処理性を劣化させるため0.2%を上限とする。また0.002%未満では鋼の強化作用が得られず、脱りんのための時間とコストもかかるため、0.002%を下限とする。尚、鋼板の強度とバランスを考慮すると、Pは、0.005〜0.05%とすることが好ましい。
【0016】
S;0.001%以上0.03%以下
Sは不純物であり、加工性や熱間脆性を劣化させるため少ないほうが望まく、上限を0.03%とする。また極度に減少させることは操業コストが掛かる上、生産性にも影響を与えるので下限を0.001%とする。
【0017】
Al;0.005%以上〜1%以下
Alは鋼中のNとの親和力が強く、固溶しているNを析出物として固定し加工性を向上させる効果があるが、多すぎると逆に加工性を劣化させるため1%を上限とする。また、脱酸の効果を維持するためには0.005%以上の添加が必要である。
【0018】
本発明の鋼においては、上記これらの成分以外にも、Ti、Nb、B、Cr、Moの1種または2種以上を、強度確保や加工性向上などを目的として必要に応じて合計で0.05%以上1.0%以下添加しても構わない。
【0019】
次に、本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、低炭素鋼スラブを熱間圧延した後、酸洗し、さらに冷間圧延、焼鈍、溶融亜鉛めっきをして、製造する。めっき後に加熱合金化処理をして、合金化溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。スラブ加熱や熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍の条件は、特に規定するものでなく、一般的な鋼を製造する条件であればなんら問題ない。溶融亜鉛めっき条件も一般的な溶融亜鉛めっき鋼板を製造する条件でなんら問題ないが、溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬する際の鋼板表面の温度Tは、溶融亜鉛浴の浴温度をT(Zn)とすると、
T(Zn) + 100℃ ≦ T ≦ T(Zn)+180℃ (A)
但し、440℃ ≦ T(Zn) ≦ 470℃ (B)
である。
【0020】
本発明者は、溶融亜鉛浴への鋼板の浸漬工程に着目し、溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬するときの温度(浸漬板温)と、溶融亜鉛めっき浴の温度を種々変えて溶融亜鉛めっき装置を用いて実験した結果、特定の浸漬板温とすることで、不めっきのない外観美麗な高張力溶融亜鉛めっき鋼板が得られることが分かった。図1は横軸を溶融亜鉛めっき浴温度、縦軸を浸漬板温とし、その濡れ性を示した図である。図中の点線で囲った領域、すなわち、浴温が430℃〜470℃の範囲において、板温を浴温+100℃以上、浴温+180℃以下とし、その後2秒以内に溶融亜鉛めっき浴に浸漬することで、不めっきのない外観が美麗なめっきが得られる。
【0021】
不めっきの判定は次のように行った。まず、鋼板の任意の30mm×30mmの領域を目視あるいは光学顕微鏡にて観察し、不めっき部がめっき部と明確に区別できるように、不めっき部を黒色に塗りつぶす。次にスキャナーあるいはカメラにて、先に決めた30mm×30mmの領域をデジタル画像として収める。次いで、画像処理ソフトを用いて、不めっき部が30mm×30mmに占める割合を面積率として求める。このようにして求めた不めっきの面積率が、0.01%未満である場合を●、0.01%以上0.1%未満である場合を○、0.1以上0.5%未満である場合を△、0.5%以上である場合を×として判定した。合格は●および○である。なお、不めっき部がめっき部と明確に区別できれば、前記の黒色に塗りつぶす工程は省略してもよい。
【0022】
板温をこの領域にすることで不めっきを抑制できる原因は明らかではないが、浴温よりも100℃以上高温に保たれた鋼板を亜鉛めっき浴に浸漬することで鋼材表面が急冷されて鋼板上の酸化膜にクラックが生じ、溶融亜鉛と鋼材の接触が可能となること、および、鋼材内部は比較的高温に保たれているため、Feと溶融亜鉛の反応が活発となること、が原因と考えられる。なお、従来は、溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬する際の鋼板表面の温度は、溶融亜鉛めっき浴温度と同じか、あるいは、高くても、溶融亜鉛めっき浴温+20℃以内の温度範囲であり、本発明のように溶融亜鉛めっき浴温度よりも100℃以上高温にすることは全く未検討であった。
【0023】
以上のような条件で製造することで、本発明の外観品位に優れた溶融亜鉛合金めっき鋼板を実現できる。尚、図1より、●の例、即ち溶融亜鉛浴の温度T(Zn)が450℃以上460℃以下であれば、なお好ましく、式(A)が
T(Zn) + 125℃ ≦ T ≦ T(Zn)+160℃ (A)’
であることが好ましい。
【実施例1】
【0024】
表1に示す組成の高張力鋼板を、800℃で加熱した後、窒素または窒素-水素混合ガスで表2に示す温度まで冷却した後、2秒以内に表2に示す浴温度の亜鉛めっき浴に3秒間浸漬した。その後、亜鉛めっき浴から鋼板を引上げ、ワイピングで付着量が45g/mとなるように調整し、高張力溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。
【0025】
作製した高張力溶融亜鉛めっき鋼板の濡れ性は前記と同じ方法で行った。すなわち、鋼板の任意の30mm×30mmの領域を目視で観察し、不めっき部がめっき部と明確に区別できるように、不めっき部を黒色に塗りつぶした。次にスキャナーにて、先に決めた30mm×30mmの領域をデジタル画像として収め、更に画像処理ソフトを用いて、不めっき部が30mm×30mmに占める割合を面積率として求めた。不めっきの面積率が、0.01%未満である場合を●、0.01%以上0.1%未満である場合を○、0.1以上0.5%未満である場合を△、0.5%以上である場合を×として判定した。合格は●および○である。
【0026】
結果を表2に示す。本発明の範囲である、
T(Zn) + 100℃ ≦ T ≦ T(Zn)+180℃ (A)
但し、440℃ ≦ T(Zn) ≦ 470℃ (B)
T ;溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温T(℃)
T(Zn);溶融亜鉛めっき浴の浴温度(℃)
の条件を満たす場合に●または、○となることが明らかである。
特に、T(Zn) + 125℃ ≦ T ≦ T(Zn)+160℃ (A)’
であり、溶融亜鉛めっき浴の温度が、
450℃以上460℃以下であれば、なお好ましい。
を満たす場合は●であり、極めて溶融亜鉛濡れ性に優れることが分かる。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【実施例2】
【0029】
表3に示す組成の高張力鋼板を、800℃で加熱した後、窒素または窒素-水素混合ガスで表4に示す温度まで冷却した後、2秒以内に表4に示す浴温度の亜鉛めっき浴に3秒間浸漬した。その後、亜鉛めっき浴から鋼板を引上げ、ワイピングで付着量が45g/mとなるように調整し、高張力溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。
作製した高張力溶融亜鉛めっき鋼板の濡れ性は、実施例1と同じ方法で行った。
【0030】
結果を表4に示す。本発明の範囲である、
T(Zn) + 100℃ ≦ T ≦ T(Zn)+180℃ (A)
但し、440℃ ≦ T(Zn) ≦ 470℃ (B)
T ;溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温T(℃)
T(Zn);溶融亜鉛めっき浴の浴温度(℃)
の条件を満たす場合に●または、○となることが明らかである。
特に、「T(Zn) + 125℃ ≦ T ≦ T(Zn)+160℃ (A)’
であり、溶融亜鉛めっき浴の温度が、450℃以上460℃以下であれば、なお好ましい。」との条件を満たす場合は●であり、極めて溶融亜鉛濡れ性に優れることが分かる。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C;0.001%以上0.3%以下、
Si;0.5%以上2.0%以下、
Mn;1.0%以上3.0%以下、
P;0.002以上0.2%以下、
S;0.001%以上0.03%以下、
Al;0.005%以上〜1%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板を、連続式溶融亜鉛めっき設備にて溶融亜鉛めっきを施す工程において、鋼板が溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温Tが、式(A)で表されることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
T(Zn) + 100℃ ≦ T ≦ T(Zn)+180℃ (A)
但し、440℃ ≦ T(Zn) ≦ 470℃ (B)
T ; 溶融亜鉛めっき浴に入るときの板温T(℃)
T(Zn) ; 溶融亜鉛めっき浴の浴温度(℃)
【請求項2】
質量%で、Ti、Nb、B、CrMoの1種または2種以上を、合計で0.05〜1.0%含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−156029(P2010−156029A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199(P2009−199)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】