説明

高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法

【課題】高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物膜被覆鉄粉末の表面に低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布することにより溶液膜形成鉄粉末、溶液膜形成リン酸塩被覆鉄粉末または溶液膜形成酸化物膜被覆鉄粉末を作製し、この溶液膜形成鉄粉末、溶液膜形成リン酸塩被覆鉄粉末または溶液膜形成酸化物膜被覆鉄粉末における溶液膜の有機成分を加熱分解することにより低融点ガラスを被覆した鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物膜被覆鉄粉末を作製したのちこれら粉末を圧縮成形したのち熱処理するか、または前記溶液膜形成鉄粉末、溶液膜形成リン酸塩被覆鉄粉末または溶液膜形成酸化物膜被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの製造に使用される高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心には複合軟磁性焼結材が用いられることは知られており、この複合軟磁性焼結材は、鉄粉末、鉄粉末の表面にリン酸塩皮膜を形成したリン酸塩被覆鉄粉末または鉄粉末の表面に鉄酸化膜、酸化亜鉛膜、Znを含むスピネルフェライト膜などの酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末などを圧縮成形し熱処理して製造することは知られている。
【0003】
このようにして得られた複合軟磁性焼結材は、磁束密度が高いが比抵抗が低いために高周波特性が悪く、機械的強度も低い。そこで比抵抗を高めて高周波特性を向上させ機械的強度を向上させるべく前記鉄粉末、鉄粉末の表面にリン酸塩を形成したリン酸塩被覆粉末または鉄粉末の表面に酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末などを低融点ガラス粉末と共に混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を圧縮成形し熱処理して圧粉磁性材料などを製造する方法が提案されている(特許文献1または2参照)。
【特許文献1】特開2004−253787号公報
【特許文献2】特開2004−297036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末に低融点ガラス粉末を混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を圧縮成形し熱処理して得られた複合軟磁性焼結材は、前記低融点ガラス粉末の粒径が鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末の粒径に比べて格段に微細であり、鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末と低融点ガラス粉末との混合粉末を圧縮成形しようとすると、微細な低融点ガラス粉末が圧縮成形時の圧縮性を低下させて高密度の圧縮成形体が得られず、さらにリン酸塩被覆鉄粉末および酸化物被覆鉄粉末などの絶縁皮膜を有する鉄粉末を低融点ガラス粉末と共に圧縮成形すると、圧縮成形時にリン酸塩皮膜または酸化物皮膜などの絶縁皮膜が破れ、高温での熱処理時に比抵抗が低下し、鉄損が増大するなどの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決すべく研究を行った結果、
(イ)前記鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を作製し、次いでこの低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより低融点ガラスを被覆した低融点ガラス被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理すると、得られた複合軟磁性焼結材は、従来の鉄粉末に低融点ガラス粉末を混合して作製した複合軟磁性焼結材に比べて、鉄粉末の周囲が低融点ガラスによりまんべんなく被覆されており、高温での熱処理時に比抵抗の低下が少なく、鉄損を少なくすることができる、
(ロ)前記リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末のそれぞれの粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することによりそれぞれ低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末または低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を作製し、次いでこれら粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより低融点ガラスを被覆した低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末または低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末を作製し、これら粉末を圧縮成形したのち熱処理すると、得られた複合軟磁性焼結材は、従来の低融点ガラス粉末を混合して作製した複合軟磁性焼結材に比べて、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末の周囲が低融点ガラスによりまんべんなく被覆されており、また圧縮成形時にリン酸塩膜または酸化物皮膜が破れることが少ないことから、高温での熱処理時に比抵抗の低下が少なく、鉄損を少なくすることができると共に、高強度および高磁束密度を有する、
(ハ)前記(イ)記載の低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末または前記(ロ)記載の低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末もしくは低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させてもよい、などの研究結果が得られたのである。
【0006】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより低融点ガラスを被覆した低融点ガラス被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理する高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、
(2)鉄粉末の表面にリン酸塩皮膜を形成したリン酸塩被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより低融点ガラスを被覆した低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理する高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、
(3)鉄粉末の表面に酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより低融点ガラスを被覆した低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理する高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、
(4)鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させる高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、
(5)鉄粉末の表面にリン酸塩皮膜を形成したリン酸塩被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させる高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、
(6)鉄粉末の表面に酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させる高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、に特徴を有するものである。
【0007】
前記熱処理の温度は300〜1000℃の範囲内であることが好ましい。したがって、この発明は、
(7)前記熱処理の温度は300〜1000℃の範囲内である前記(1)〜(6)の内のいずれかに記載の高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法において使用する原料粉末の鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末、および鉄酸化物、酸化亜鉛またはZnを含むスピネルフェライト被覆鉄粉末などの酸化物被覆鉄粉末は、平均粒径:5〜400μmの範囲内にあることが好ましい。その理由は、平均粒径が小さすぎると、粉末の圧縮性が低下し、鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末の体積割合が低くなるために飽和磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が400μmより大きすぎると、前記鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末および酸化物被覆鉄粉末の内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下したり、鉄損が増大したりするので好ましくないことによるものである。
【0009】
この発明の高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法において原料粉末である鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末の表面に形成する低融点ガラスは、SiO2−B23−Al23系ガラス、SiO2−BaO−Al23系ガラス、SiO2−BaO−B23系ガラス、SiO2−BaO−Li23系ガラス、SiO2−B23−CaO系ガラス、SiO2−MgO−Al23系ガラス、B23−Li23系ガラス、PbO−B23系ガラス、PbO−B23−ZnO系ガラス、Bi23−B23系ガラス、Li2O−ZnO系ガラス、SiO2−B23−PbO系ガラス、Al23−B23−PbO系ガラス、SnO−P25系ガラス、ZnO−P25系ガラス、CuO−P25系ガラスなどのリン酸系ガラスなどがあり、これら低融点ガラスはいずれも軟化温度が300〜800℃の低軟化温度を有する低融点ガラスである。
【0010】
これら低融点ガラスを形成するための低融点ガラス前駆体である低融点ガラスを構成する元素の錯体としては、ヒドリド錯体、カルボニル錯体、メタロセン錯体、アルキル錯体、シリル錯体、ポルフィリン錯体、アリル錯体、芳香環錯体、オレフィン錯体、ジエン錯体、カルベン錯体、カルビン錯体、アレーン錯体、ホスフィン錯体、アルキン錯体、ジケトン錯体(ジケトナート化合物)を使用することができ、また、低融点ガラスを構成する元素のアルコキシドとしては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、アミロキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのうちの1種または2種以上を官能基として有するアルコキシドを使用することができる。
その他の有機金属、例えばカルボン酸などの有機酸の金属塩なども使用することができるが、有機成分が分解する際に、分解生成物である炭素が粉末表面に残留し易く、圧粉磁心の機械的強度を低下させるので好ましくない。
【0011】
この発明の高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法において、鉄粉末、リン酸塩被覆鉄粉末または酸化物被覆鉄粉末の表面に低融点ガラス前駆体または低融点ガラスを被覆した粉末を焼結する温度は、300〜1000℃(一層好ましくは400〜800℃)の範囲内であることが好ましい。その理由は、焼結温度が300℃未満ではガラス前駆体またはガラスが溶融せず、したがって、ガラスとの接合が十分行われないので得られた複合軟磁性焼結材の強度が不足するので好ましくなく、一方、1000℃を越えた温度で焼結すると比抵抗の低下が起こるので好ましくないからである。この時の焼結雰囲気は、大気、水素、不活性ガス、窒素ガス、炭酸ガスまたは真空の内のいずれでも良いが、不活性ガスまたは窒素ガス雰囲気が最も好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、少量の低融点ガラスの添加により高強度および高抵抗を有し、さらに高磁束密度の複合軟磁性焼結材を提供することができ、電気および電子産業において優れた効果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
原料粉末として、平均粒径:100μmを有する水アトマイズ純鉄粉末(以下、原料粉末Aという)を用意し、さらにこの水アトマイズ純鉄粉末にリン酸塩処理を施すことにより表面に平均厚さ:50nmのリン酸塩皮膜を形成したリン酸塩被覆鉄粉末(以下、原料粉末Bという)を用意した。さらにこの水アトマイズ純鉄粉末に大気中での酸化処理を施すことにより表面に平均厚さ:70nmの酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末(以下、原料粉末Cという)を用意した。
【0014】
さらに、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドとしてSiO2原料となるシリコンテトラエトキシド(テトラエトキシシラン)、P25原料となるリン酸トリフェニル、SnO原料ととなるスズアセチルアセトナート、Bi23原料となるトリ−i−プロポキシビスマス、ZnO原料となるジ−n−ブトキシ亜鉛、BaO原料となるバリウムジピバロイルメタナートなどの金属アルコキシドおよび金属錯体を用意した。さらにこれら金属アルコキシドおよび金属錯体を溶かす有機溶媒としてヘキサンを用意した。
実施例1
これら金属アルコキシドおよび金属錯体を酸化物換算で表1に示される低融点ガラス組成となるように有機溶媒に溶かして溶液を作製し、得られた溶液を前記原料粉末Aに表1に示される割合となるように添加して浸漬し、撹拌しながら乾燥することにより低融点ガラス前駆体を形成した低融点ガラス前駆体被覆純鉄粉末A1〜A4を作製した。
これら表1に示される低融点ガラス前駆体被覆純鉄粉末A1〜A4をそれぞれ内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、本発明法1〜4を実施した。
従来例1
比較のために、前記原料粉末Aに平均粒径:1.4μmでSiO2:80質量%、B23:20質量%の組成を有するガラス粉末を表1に示される割合で添加し、混合して従来混合粉末Dを作製し、この従来混合粉末Dを内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、従来法1を実施した。
本発明法1〜4および従来法1により得られたリング状試験片の水中密度を測定したのち、巻線を施し、B−Hアナライザにより励磁磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損W15/50をそれぞれ測定し、表2に示した。
また、バー状試験片において四端子法により比抵抗を、スパン45mmの三点曲げにより抗折強度をそれぞれ測定し、それらの結果を表2に示した。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
表1〜2に示される結果から、本発明法1〜4で作製した試験片は、従来法1で作製した試験片に比べて直流磁気特性、交流磁気特性、機械的強度のいずれも優れた値を示しことから、本発明法1〜4で作製した複合軟磁性焼結材は、従来法1で作製した複合軟磁性焼結材に比べて優れた特性を示すことが分かる。
実施例2
実施例1で作製した表1に示される低融点ガラス前駆体被覆純鉄粉末A1〜A4を大気雰囲気中、温度:550℃に1時間保持することにより純鉄粉末の表面に低融点ガラス皮膜を被覆した低融点ガラス被覆鉄粉末a1〜a4を作製した。
【0018】
これら低融点ガラス被覆純鉄粉末a1〜a4をそれぞれ内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、本発明法5〜8を実施した。
本発明法5〜8により得られたリング状試験片の水中密度を測定したのち、巻線を施し、B−Hアナライザにより励磁磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損W15/50をそれぞれ測定し、表3に示した。
また、バー状試験片において四端子法により比抵抗を、スパン45mmの三点曲げにより抗折強度をそれぞれ測定し、それらの結果を表3に示した。
【0019】
【表3】

【0020】
表3に示される結果から、本発明法5〜8で作製した試験片は、表2に示される従来法1で作製した試験片に比べて直流磁気特性、交流磁気特性、機械的強度のいずれも優れた値を示しことから、本発明法5〜8で作製した複合軟磁性焼結材は、従来法1で作製した複合軟磁性焼結材に比べて優れた特性を示すことが分かる。
実施例3
金属アルコキシドおよび金属錯体を酸化物換算で表4に示される低融点ガラス組成となるように有機溶媒に溶かして溶液を作製し、得られた溶液を前記原料粉末Bに表4に示される割合となるように添加して浸漬し、撹拌しながら乾燥することにより低融点ガラス前駆体を形成した低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末B1〜B4を作製した。
これら表4に示される低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末B1〜B4をそれぞれ内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、本発明法9〜12を実施した。
従来例2
比較のために、前記原料粉末Bに平均粒径:1.4μmでSiO2:80質量%、B23:20質量%の組成を有するガラス粉末を表4に示される割合で添加し、混合して従来混合粉末Eを作製し、この従来混合粉末Eを内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、従来法2を実施した。
本発明法9〜12および従来法2により得られたリング状試験片の水中密度を測定したのち、巻線を施し、B−Hアナライザにより励磁磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損W15/50をそれぞれ測定し、表5に示した。
また、バー状試験片において四端子法により比抵抗を、スパン45mmの三点曲げにより抗折強度をそれぞれ測定し、それらの結果を表5に示した。
【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
表4〜5に示される結果から、本発明法9〜12で作製した試験片は、従来法2で作製した試験片に比べて直流磁気特性、交流磁気特性、機械的強度のいずれも優れた値を示しことから、本発明法9〜12で作製した複合軟磁性焼結材は、従来法2で作製した複合軟磁性焼結材に比べて優れた特性を示すことが分かる。
実施例4
実施例3で作製した表4に示される低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末B1〜B4を大気雰囲気中、温度:550℃に1時間保持することによりリン酸塩被覆鉄粉末の表面に低融点ガラス皮膜を被覆した低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末b1〜b4を作製した。
【0024】
これら低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末b1〜b4をそれぞれ内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、本発明法13〜16を実施した。
本発明法13〜16により得られたリング状試験片の水中密度を測定したのち、巻線を施し、B−Hアナライザにより励磁磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損W15/50をそれぞれ測定し、表6に示した。
また、バー状試験片において四端子法により比抵抗を、スパン45mmの三点曲げにより抗折強度をそれぞれ測定し、それらの結果を表6に示した。
【0025】
【表6】

【0026】
表6に示される結果から、本発明法13〜16で作製した試験片は、表5の従来法2で作製した試験片に比べて直流磁気特性、交流磁気特性、機械的強度のいずれも優れた値を示しことから、本発明法13〜16で作製した複合軟磁性焼結材は、従来法2で作製した複合軟磁性焼結材に比べて優れた特性を示すことが分かる。
実施例5
金属アルコキシドおよび金属錯体を酸化物換算で表7に示される低融点ガラス組成となるように有機溶媒に溶かして溶液を作製し、得られた溶液を前記原料粉末Cに表7に示される割合となるように添加して浸漬し、撹拌しながら乾燥することにより低融点ガラス前駆体を形成した低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末C1〜C4を作製した。
これら表7に示される低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末C1〜C4をそれぞれ内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、本発明法17〜20を実施した。
従来例3
比較のために、前記原料粉末Cに平均粒径:1.4μmでSiO2:80質量%、B23:20質量%の組成を有するガラス粉末を表7に示される割合で添加し、混合して従来混合粉末Fを作製し、この従来混合粉末Fを内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、従来法3を実施した。
本発明法17〜20および従来法3により得られたリング状試験片の水中密度を測定したのち、巻線を施し、B−Hアナライザにより励磁磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損W15/50をそれぞれ測定し、表8に示した。
また、バー状試験片において四端子法により比抵抗を、スパン45mmの三点曲げにより抗折強度をそれぞれ測定し、それらの結果を表8に示した。
【0027】
【表7】

【0028】
【表8】

【0029】
表7〜8に示される結果から、本発明法17〜20で作製した試験片は、従来法3で作製した試験片に比べて直流磁気特性、交流磁気特性、機械的強度のいずれも優れた値を示しことから、本発明法17〜20で作製した複合軟磁性焼結材は、従来法3で作製した複合軟磁性焼結材に比べて優れた特性を示すことが分かる。
実施例6
実施例5で作製した表7に示される低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末C1〜C4を大気雰囲気中、温度:550℃に1時間保持することによりリン酸塩被覆鉄粉末の表面に低融点ガラス皮膜を被覆した低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末c1〜c4を作製した。
【0030】
これら低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末c1〜c4をそれぞれ内壁に潤滑剤を塗布した金型に充填し、980MPaの成形圧力で成形することにより外径:35mm、内径:25mm、厚さ:5mmの寸法を有するリング状成形体と長さ:60mm、幅:10mm、厚さ:5mmの寸法を有するバー状成形体を作製し、これらリング状成形体およびバー状成形体を窒素雰囲気中、温度:600℃、1時間保持の熱処理を施すことによりリング試験片およびバー状試験片を作製し、本発明法21〜24を実施した。
本発明法21〜24により得られたリング状試験片の水中密度を測定したのち、巻線を施し、B−Hアナライザにより励磁磁束密度1.5T、周波数50Hzにおける鉄損W15/50をそれぞれ測定し、表9に示した。
また、バー状試験片において四端子法により比抵抗を、スパン45mmの三点曲げにより抗折強度をそれぞれ測定し、それらの結果を表9に示した。
【0031】
【表9】

【0032】
表9に示される結果から、本発明法21〜24で作製した試験片は、表8の従来法3で作製した試験片に比べて直流磁気特性、交流磁気特性、機械的強度のいずれも優れた値を示しことから、本発明法21〜24で作製した複合軟磁性焼結材は、従来法3で作製した複合軟磁性焼結材に比べて優れた特性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより鉄粉末の表面に低融点ガラスを被覆した低融点ガラス被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理することを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。
【請求項2】
鉄粉末の表面にリン酸塩皮膜を形成したリン酸塩被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することによりリン酸塩被覆鉄粉末の表面に低融点ガラスを被覆した低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラスおよびリン酸塩被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理することを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。
【請求項3】
鉄粉末の表面に酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末における低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解することにより酸化物被覆鉄粉末の表面に低融点ガラスを被覆した低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラスおよび酸化物被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理することを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。
【請求項4】
鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させることを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。
【請求項5】
鉄粉末の表面にリン酸塩皮膜を形成したリン酸塩被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体およびリン酸塩被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させることを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。
【請求項6】
鉄粉末の表面に酸化物皮膜を形成した酸化物被覆鉄粉末の表面に、低融点ガラスを構成する元素の錯体またはアルコキシドを有機溶媒に溶かした溶液を塗布し乾燥することにより低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を作製し、この低融点ガラス前駆体および酸化物被覆鉄粉末を圧縮成形したのち熱処理し、前記熱処理する際に低融点ガラス前駆体の有機成分を加熱分解させることを特徴とする高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理の温度は300〜1000℃の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6の内のいずれかに記載の高強度、高磁束密度および高抵抗を有する複合軟磁性焼結材の製造方法。

【公開番号】特開2006−278833(P2006−278833A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97286(P2005−97286)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】