説明

高強度カテーテル補強用ブレード線およびその製造方法

【課題】 座屈強度の高いカテーテル補強用ブレード線およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼を材料とし、95%以上の伸線加工を施した後、450〜500℃の温度で0.5〜8時間保持し時効硬化させることにより、引張強さが3200〜3800MPaで、直径が20〜50μmの丸線、あるいは厚みが20〜50μmで幅が50〜150μmの平線のカテーテル補強用ブレード線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療や検査を必要とする血管、消化管、気管、その他体腔内に挿入するカテーテルを補強するためのブレード線、特に、高強度カテーテル補強用ブレード線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、血管、消化管、気管、その他体腔内に挿入するものであるため、細径である必要があり、耐食性に優れることが望まれる他、柔軟性(可撓性)に優れると同時に、使用時の曲げによる座屈やキンクを防止するのに必要な曲げ剛性を備えたものであることが要求される。そこで、柔軟性とともに必要な曲げ剛性を確保できるよう、金属線をブレード状に編んだものを補強材として使用し、例えばこれを樹脂で被覆してカテーテルを構成することが従来から行われている。そして、その補強材である金属線の材料としては、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼が使用されている(例えば、特許文献1、2等参照。)。この補強材であるステンレス鋼線は、オーステナイト系ステンレス鋼の伸線加工による加工硬化を利用して強度(引張強さ)を上げ、引張強さが2400〜2800MPa程度で、直径が20〜50μmの丸線、あるいは厚みが20〜50μmで幅が50〜150μmの平線としたものである。
【特許文献1】特開平10−57495号公報
【特許文献2】特開平7−194707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
カテーテルは、例えば、金属線をブレード状に編んだものを補強材として、これに樹脂を被覆することにより構成するが、こうした構成のカテーテルにしても、現状では曲げ剛性の確保は十分でなく、使用時の曲げに対して、より一層座屈しにくいカテーテルが望まれている。そして、そのためには、カテーテルの補強材を構成する補強用ブレード線の座屈強度を高めることが必要で、座屈強度は引張強さ並びに弾性限界に依存することから、特に、引張強さが3000MPa以上で、弾性限界が高く、耐食性のある線材が求められる。しかし、従来からカテーテル補強用ブレード線に使用されているSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼では、3000MPa以上の引張強さを得るのは困難である。
【0004】
本発明は、こうした問題を解決するもので、座屈強度の高いカテーテル補強用ブレード線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼と比較してCrおよびNiの含有量が少なく、Si含有量が多く、MoおよびCuが添加されていて、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼を、カテーテル補強用ブレード線の材料として使用すれば、伸線加工(圧延加工も含む)と時効硬化処理を組み合わせることにより、オーステナイト系ステンレス鋼では難しい引張強さが3000MPa以上の高強度が得られることを見出した。
【0006】
そして、鋭意研究の結果、重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼で形成され、引張強さが3200〜3800MPaであることを特徴とする高強度カテーテル補強用ブレード線とすることにより、特に、その直径が20〜50μmの丸線、あるいは厚みが20〜50μmで幅が50〜150μmの平線であることにより、所要の座屈強度が得られ、また、重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼を材料として、95%以上の伸線加工を施した後、450〜500℃の温度で0.5〜8時間保持し時効硬化させることにより、引張強さが3000MPa以上の高強度で、所要の座屈強度を備えた、弾性限界の高い高強度カテーテル補強用ブレード線を製造できることを確認した。
【0007】
溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼は、Si含有量が多く、Siがフェライト相に固溶することによりフェライト相を強化し、強度(引張強さ)を上げる。また、この二相ステンレス鋼は、加工硬化の少ないフェライト相が加工性を向上させるため、95%以上の伸線加工が可能で、オーステナイト相の加工硬化により強度(引張強さ)を上げることができる。
【0008】
ただし、この二相ステンレス鋼も、伸線加工による加工硬化のみでは3000MPa以上の強度(引張強さ)を得ることは難しい。しかし、この二相ステンレス鋼は、伸線加工後さらに時効硬化を加えることで、成分であるCおよびMoが炭化物を形成し、組織中に固溶しているCおよびMoが見かけ上減少した状態となって、一部でオーステナイトからマルテンサイト組織への変態が起こることにより引張強さが高まり、また、SiおよびCuが時効硬化を促進し、それらの相乗効果で強度(引張強さ)がさらに高まる。また、この二相ステンレス鋼は、伸線加工および時効硬化処理によって弾性限界が下がるものではない。
【0009】
そして、特に、重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなる二相ステンレス鋼の場合に、450〜500℃の温度で0.5〜8時間保持するという時効処理条件下において、引張強さが30%以上向上し、95%以上の伸線加工後の時効硬化により、3200〜3800MPaの引張強さが得られる。
【0010】
これにより、高強度で、高弾性限界の線材が得られ、カテーテル補強用ブレード線の座屈強度を高めることが可能となる。
【0011】
次に、本発明においてカテーテル補強用ブレード線の材料とした二相ステンレス鋼の成分組成の限定理由について説明する。
C:Cは、強度(引張強さ)を高めるには不要な元素であるばかりでなく、含有量が高くなって0.02%を越えると強度が低下する。よって、Cの含有量は0.02%以下とする。
Si:Siは強度を高めるのに最も重要な元素であり、素材の引張強さを増加させ、ブレード線の座屈強度を向上させるものである。そして、充分な引張強さを得るには、3.6%以上の含有量が必要である。しかし、4.2%を越えると冷間加工性が低下する。よって、Siの含有量は、3.6〜4.2%とする。
Mn:Mnは脱酸脱硫剤として添加される元素で、そのためには2%以上の含有量が必要である。しかし、2.5%を越えると冷間加工性を低下させる。そのため、Mn含有量は2.0〜2.5%とする。
Ni:Niは耐食性を向上させる目的で添加するもので、そのためには6%以上の含有量が必要である。しかし、7%を超えると伸線加工性が低下する。よって、Ni含有量は、6〜7%とする。
Cr:Crは基地に固溶して耐食性を向上させる元素であり、そのためには15%以上添加する必要がある。しかし、17%を越えると冷間加工性が低下する。よって、Cr含有量は15〜17.0%とする。
Mo:Moは基地を強化し、靭性を向上させるとともに耐食性を向上させる元素であり、そのためには0.5%以上必要である。しかし、0.7%を越えると、逆に靭性が低下し、また、Moは高価であるためコスト高となる。よって、Mo含有量は0.5〜0.7%とする。
Cu:Cuは耐食性を向上させるとともに時効硬化を促進する元素であり、そのためには、0.8%以上添加する必要がある。しかし、1.2%を越えると引張強さが低下する。よって、Cu含有量は0.8〜1.2%とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、所定化学組成の二相ステンレス鋼を使用することにより、従来のオーステナイト系ステンレス鋼を使用したブレード線では難しい高強度で、座屈強度が高く、弾性限界が高い高強度カテーテル補強用ブレード線を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態の一例に係るカテーテルの斜視図である。図1において、10は、治療や検査を必要とする血管、消化管、気管、その他体腔内に挿入するためのカテーテル(カテーテルの一部を構成するものも含む)で、ブレード状に編んだチューブ状の補強用ブレード線11をポリアミド樹脂で被覆したことにより、内側樹脂層12と、外側樹脂層13と、その間に埋め込まれた形の補強用ブレード線11との3層構造になっている。
【0014】
補強用ブレード線11は、重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼を材料とし、95%以上の伸線加工を施した後、450〜500℃の温度で0.5〜8時間保持し時効硬化させることにより、引張強さが3200〜3800MPaで、直径が20〜50μmの丸線、あるいは厚みが20〜50μmで幅が50〜150μmの平線としたものである。
【0015】
この補強用ブレード線11は、Si含有量が多く、Siがフェライト相に固溶することによりフェライト相を強化し、強度(引張強さ)を上げるとともに、加工硬化の少ないフェライト相が加工性を向上させるため、95%以上の伸線加工が可能で、オーステナイト相の加工硬化により強度(引張強さ)を上げる。そして、伸線加工後さらに時効硬化を加えることで、成分であるCおよびMoが炭化物を形成し、組織中に固溶しているCおよびMoが見かけ上減少した状態となって、一部でオーステナイトからマルテンサイト組織への変態が起こることにより引張強さが高まり、また、SiおよびCuが時効硬化を促進し、それらの相乗効果でさらに強度(引張強さ)が高まり、450〜500℃の温度で0.5〜8時間保持するという時効処理条件下において、引張強さが30%以上向上し、95%以上の伸線加工後の時効硬化により、3200〜3800MPaの引張強さとなり、その結果、カテーテル使用時の座屈強度が向上する。
【0016】
この補強用ブレード線11の素材である二相ステンレス鋼は、Cの含有量が0.02%を越えると強度が低下する。また、Siは、引張強さを増加させ座屈強度を向上させるために3.6%以上の含有量が必要であるが、4.2%を越えると冷間加工性が低下する。Mnは、脱酸脱硫剤として2%以上の含有量が必要であるが、2.5%を越えると冷間加工性が低下する。Niは耐食性を向上させるために6%以上の含有量が必要であるが、7%を超えると伸線加工性が低下する。Crは耐食性を向上させるために15%以上添加する必要があるが、17%を越えると冷間加工性が低下する。Moは靭性および耐食性を向上させるために0.5%以上必要であるが、0.7%を越えると、逆に靭性が低下し、コスト高にもなる。Cuは、耐食性を向上させるとともに時効硬化を促進するために0.8%以上添加する必要があるが、1.2%を越えると引張強さが低下する。
【0017】
なお、上記実施の形態は、カテーテル10が、内側樹脂層12と、外側樹脂層13と、その間に埋め込まれ、被覆された形の補強用ブレード線11との3層構造になった例であるが、本発明のカテーテル補強用ブレード線は、補強用ブレード線の外側のみを樹脂層で被覆する2層構造のカテーテルにも適用できる。
【0018】
また、本発明のカテーテル補強用ブレード線は、補強用ブレード線を樹脂で被覆して3層あるいは2層構造とした部分をカテーテルの一部とする場合にも適用できることはいうまでもない。
【実施例】
【0019】
図2は、実施例として、重量%で、C:0.01%、Si:3.65%、Mn:2.00%、Ni:6.87%、Cr:16.47%、Mo:0.61%、Cu:0.97%、不可避的不純物として、P:0.003%、S:0.002%、残部が鉄からなる、二相ステンレス鋼を、95%以上の伸線加工により、引張強さが約2600MPaで、厚みが20〜50μmで幅が50〜150μmの平線としたものを、450℃の温度で時効硬化処理したときの、時効時間(min)と引張強さ(MPa)との関係を示す実験データのグラフである。
【0020】
このデータは、伸線加工による加工硬化で引張強さが約2600MPaとなった実施例の線材を、450℃の温度で時効硬化処理したとき、時効時間が0.5時間(30min)以上で引張強さが3200MPaを超え、時効時間が3時間(180min)を越えると引張強さが3500MPa程度で飽和することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の一例に係るカテーテルの斜視図である。
【図2】実施例に係る時効時間と引張強さとの関係を示す実験データのグラフである。
【符号の説明】
【0022】
10 カテーテル
11 補強用ブレード線(カテーテル補強用ブレード線)
12 内側樹脂層
13 外側樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼で形成され、引張強さが3200〜3800MPaであることを特徴とする高強度カテーテル補強用ブレード線。
【請求項2】
直径が20〜50μmの丸線、あるいは厚みが20〜50μmで幅が50〜150μmの平線であることを特徴とする請求項1記載の高強度カテーテル補強用ブレード線。
【請求項3】
重量%で、C:0.02%以下、Si:3.6〜4.2%、Mn:2〜2.5%、Ni:6〜7%、Cr:15〜17%、Mo:0.5〜0.7%、Cu:0.8〜1.2%、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、溶体化温度でオーステナイト相とフェライト相とが混在した二相組織状態となる二相ステンレス鋼を材料とするカテーテル補強用ブレード線の製造方法であって、
95%以上の伸線加工を施した後、450〜500℃の温度で0.5〜8時間保持し時効硬化させることを特徴とする高強度カテーテル補強用ブレード線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−34693(P2006−34693A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220127(P2004−220127)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】