説明

高強度修復材

【課題】 コンクリートやモルタル構築物等の修復に適したコンシステンシーを有すると共に、塗り施工性が良好で、蒸気養生等の特殊な処理を修復施工物に施さなくても高い強度を安定して発現することができる耐久性に優れたセメント系の修復材を提供する。
【解決手段】 アルミナセメント、メタカオリン及びポリマーを含有してなる高強度修復材。また、特に使用するメタカオリンが、化学成分でAl23含有率20質量%以上且つSiO2含有率50質量%以上であって、ブレーン比表面積8000〜110000cm2/gである前記の高強度修復材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い強度を発現できるモルタルやコンクリート系の修復材に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートの高強度化には、セメント等の水硬性物質使用量に対する水の配合量を低くする方法が一般的であるが、流動性低下など施工性状に支障が出易いので、この方法だけでの高強度化には限界がある。このため、ポルトランドセメントと共にシリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン反応性物質を用い、ポルトランドセメントの水和で生成した水酸化カルシウムとポゾラン反応性物質を反応させることで組織を緻密化し、長期強度を向上させる方法が知られている。一方で、ポゾラン反応性物質はセメントと置換するため初期強度が低下し易く、特に低温時にこの傾向が顕著になることから、強度低下抑制のため、蒸気養生が必要とされている。(例えば、特許文献1参照。)しかし、蒸気養生処理は、比較的小規模な製品等に適するが、それ以外のものには適さず、汎用性に欠ける。また、II型無水石膏を混和し、セメント中のアルミン酸カルシウムと反応させてエトリンガイトを生成させ、強度発現性を高めることも行われている。(例えば、特許文献2参照。)エトリンガイト生成量が多くなる程、初期強度も高くなるが、エトリンガイト生成は膨張を伴うため硬化体が弛緩して水密性が低下し易くなり、特にポルトランドセメントでは初期水和物である水酸化カルシウムもエトリンガイト生成に消費されるので長期的には強度低下が起こる。ポルトランドセメントに代えてアルミナセメントを使用すると、水和時に水酸化カルシウムを生成しないため、初期強度を高めることができる。このため、アルミナセメント系修復材では施工工期を大幅に短縮できる可能性があるものの、硬化後に大規模な収縮を伴う初期水和物からのコンバージョンが起こるため、長期強度の著しい低下を起こす。アルミナセメントにシリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン反応性物質と、付着強度等の施工性を高めるためにポリマーを併用したアルミナセメント系ポリマーモルタルを作製し、床用補修材に使用することが知られている。(例えば、特許文献3参照。)しかし、アルミナセメントはアルカリ度が低いことからポゾラン反応性物質を加えてもポルトランドセメントのような強度向上はできず、ポゾラン反応性物質を加えてポリマーを併用しても、コンバージョンによる長期強度の激しい低下を補填するまでには至らない。
【特許文献1】特開2001−181004号公報
【特許文献2】特開2006−248828号公報
【特許文献3】特開平4−132648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、修復材として適した施工性、とりわけ良好な塗り施工性を呈すると共に、蒸気養生等の特殊な処理を行わなくても高い強度を安定して発現することができるセメント系の修復材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、アルミナセメントを結合成分とし、これに特定の反応特性を呈する珪酸アルミニウムを加えることで、高い初期強度に加えて長期強度の低下を防ぐことができ、併せてポリマーを加えることで付着強度を始めとするモルタルやコンクリート構築物等の補修に適した良好な施工性を有する修復材が得られたことから本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)で表す高強度修復材である。(1)アルミナセメント、メタカオリン及びポリマーを含有してなる高強度修復材。(2)メタカオリンが、化学成分でAl23含有率20質量%以上且つSiO2含有率50質量%以上であって、ブレーン比表面積8000〜110000cm2/gである前記(1)の高強度修復材。(3)さらに、シリカフューム及び/又はフライアッシュを含有してなる前記(1)又は(2)の高強度修復材。(4)さらに、ポルトランドセメントを含有してなる前記(1)〜(3)何れかの高強度修復材。(5)さらに、繊維、減水剤及び増粘剤の何れか1種又は2種以上を含有してなる前記(1)〜(4)何れかの高強度修復材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、例えばコンクリート構造物の断面修復に対する塗り施工性に優れ、初期〜長期に渡って高い強度発現性を有する修復材を得ることができるため、修復施工等の工期短縮化を容易に図ることができると共に、長期間に渡り安定した耐久性を呈する修復物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の高強度修復材は、アルミナセメントを結合相形成成分として含有する。アルミナセメントはCaO・Al23を主要成分とするものであれば特に限定されず、例えば市販のアルミナセメントであれば何れのものでも使用できる。本発明の高強度修復材中のアルミナセメント含有量は、35〜50質量%が好ましい。より好ましくは35〜46質量%とする。35質量%未満では高い短時間強度発現性が得難くなることがあり、50質量%を超えると硬化後にひび割れ発生の虞がある他、左官施工性が低下することがあるので適当ではない。
【0008】
本発明の高強度修復材は、メタカオリンを含有する。本発明で称するメタカオリンは、カオリナイトから例えば加熱処理等によってその脱水鉱物相であるムライトが形成されるまでに経過或いは出現する中間体の総称である。メタカオリンを含有することによって、前記アルミナセメントと反応してCaO−SiO2−Al23−H2O系ゲルが生成し、これによって転移に伴う長期強度の低下が十分抑制される。フライアッシュやシリカフューム等の一般的なポゾラン反応物質の場合、アルミナセメントはアルカリ性が低いため粉末度の低いフライアッシュとは反応性が低く、またシリカフュームはAl23を含まないため、CaO−SiO2−Al23−H2O系ゲルが生成し難いので長期強度低下補填作用は弱い。使用するメタカオリンは、化学成分でAl23含有率20質量%以上且つSiO2含有率50質量%以上であって、ブレーン比表面積が8000〜110000cm2/gのものが好ましい。Al23含有率20質量%未満又はSiO2含有率50質量%未満のメタカオリンでは、CaO−SiO2−Al23−H2O系ゲルの生成量が高強度を得るには不足するので適当ではない。ブレーン比表面積が8000cm2/g未満のメタカオリンではアルミナセメントとの反応性が低く、CaO−SiO2−Al23−H2O系ゲルが十分生成しないので適当ではない。またブレーン比表面積が110000cm2/gを超えると反応性向上のため配合水量を増やす必要があり、その結果高強度が得難くなるので適当ではない。高強度修復材中のメタカオリンの含有量は、1〜6質量%が好ましい。より好ましくは1〜4質量%とする。メタカオリン含有量が1質量%未満ではCaO−SiO2−Al23−H2O系ゲルが殆ど生成されないので適当ではなく、6質量%を超えるとCaO−SiO2−Al23−H2O系ゲル生成量過多となり、強度発現性が低下することがあるので適当ではない。
【0009】
また、本発明の高強度修復材はポリマーを含有する。ポリマーは、モルタルやコンクリートに使用できるポリマーディスパージョンや再乳化粉末樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えばJIS A 6203に規定されているようなポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン又はエチレン酢酸ビニルを有効成分とするポリマーディスパージョンやポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルを有効成分とする再乳化粉末樹脂を挙げることができる。ポリマーの含有により付着力、曲げ強度、吸水性、ひび割れ抵抗等の特性を向上・改善することができる。このような特性を得る上での高強度修復材中のポリマー含有量は、固形分換算で0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%未満ではこのような特性が殆ど付与されず、また10質量%を超えると高い強度発現性が得られず、粘性が高くなり過ぎて施工性が悪化することがあるので適当ではない。
【0010】
また、本発明の高強度修復材はシリカフューム及び/又はフライアッシュを施工性をより向上させるために含有することができる。含有使用可能なシリカフュームやフライアッシュは特に限定されない。本高強度修復材中のシリカフュームとフライアッシュの合計含有量(何れか単独しか含有しない場合はその含有量)は、1〜10質量%が好ましい。1質量%未満では含有効果が実質得られず、また10質量%を超えると水量を増加させない限り施工性に支障をきたすほどの流動性低下を起こし、水量増加すると強度低下を起こすので適当ではない。尚、シリカフュームとフライアッシュを併用する場合の両者間の配合比率は何等制限されず、適宜選定すれば良い。
【0011】
また、本発明の高強度修復材は、ポルトランドセメントを含有するのが好ましい。使用するポルトランドセメントの種類は特に限定されず、例えば普通、早強、超早強、中庸熱、低熱等のポルトランドセメントを挙げることができる。ポルトランドセメントの含有によりアルミナセメントとメタカオリンの反応が促進され、水密性が向上する。ポルトランドセメントを含有する場合の高強度修復材中の含有量は、0.5〜5質量%が好ましい。0.5質量%未満では含有効果が実質得られない。また、5質量%を超えるとコンシステンシーが低下し、適切な施工性が得難くなることがあるので適当ではない。
【0012】
また、本発明の高強度修復材は、細骨材を含有するのが好ましい。細骨材はモルタルやコンクリートに使用できるものなら何れのものでも良く、例えば、川砂、山砂、海砂や砕砂等の天然普通細骨材の他、スチレン発泡骨材などの有機材質系の軽量骨材、多孔質の火山礫を粉砕・整粒した天然軽量骨材、頁岩や流紋岩等の天然鉱石に必要により発泡助剤を加えて焼成した無機質人工軽量骨材等の各種軽量骨材を挙げることができる。より好ましくは、JIS3号〜JIS8号に相当する砂を単独で使用するか、最も好ましくは質量的に概ね均等混合して使用するのが良い。本発明で高強度修復材中の細骨材含有量は30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。30質量%未満では施工後の高致密性が得難く、乾燥収縮が大きくなり、硬化時にひび割れが発生し易くなるので適当ではない。また、70質量%を超えると高い強度発現性が得られ難いので適当ではない。
【0013】
また、本発明の高強度修復材は、前記以外の成分を含有することもできる。このような成分として、例えば、何れもモルタルやコンクリートに使用可能な減水剤類(単に減水剤と称されるものの他、例えば高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、分散剤と称されるものを含む。)、保水剤、増粘剤、収縮低減剤、膨張材、繊維、消泡剤、撥水剤、顔料等を挙げることができる。特に、より高い強度発現性を得るために低い配合水量とする場合は、減水剤類を固型分換算で概ね0.1〜10質量%配合使用することが推奨され、また、ひび割れ防止の上では例えば非水溶性高分子やステンレス等の材質からなる繊維を0.03〜0.20質量%含有使用することが推奨され、また、塗り付け時の付着性を強化する上では例えば水溶性セルロース誘導体やポリビニルアルコール系の増粘剤を固形分換算で0.01〜0.1質量%含有使用することが推奨される。また、本発明の高強度修復材は、モルタル配合態様だけでは無く、例えば粗骨材を含有させることによってコンクリート配合態様としたものであっても良い。
【0014】
また、本発明の高強度修復材の製造方法は特に限定されず、例えば一般的なセメント系モルタルと概ね同様の方法で製造できる。具体的な一例を示すと、市販のモルタルミキサーに前記のような含有率になるよう各使用材料を一括投入し、水を加えて混合する。添加する水の量は特に制限されないが、良好な施工性と高い強度発現性を安定して得るためには、含有するセメント100質量部(アルミナセメント単独使用の時はその含有量、更にポルトランドセメンドセメントも併用する場合はアルミナセメントとの合計含有量)に対し、概ね28〜48質量部加えることが推奨される。28質量部未満では例えば左官施工に適するような良好な施工性が得難いので適当ではない。また48質量部を超える量では強度発現性の低下に加え、施工時の付着力も低下するので適当ではない。
【0015】
また、本発明の高強度修復材を使用する際の施工方法は特に限定されるものではないが、コンクリート構造物等の修復が必要とされる箇所へ、鏝やパテ等を使用した塗り付けによる施工方法が好適である。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここで表す実施例に限定されるものではない。
【0017】
[モルタルの作製] 次に表すA〜H2から選定される材料と水を、表1に表した配合量となるようホバートミキサに投入し、温度約20℃湿度80%の環境下で3分間混練し、モルタル(本発明品1〜8、参考品11〜15)を作製した。
【0018】
A;アルミナセメント(太平洋マテリアル株式会社製)
B1;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
B2;II型無水石膏(ブレーン比表面積7000cm2/g)
C1;メタカオリンI(BASFコンストラクションシステムズ株式会社製、BET比表面積10m2/g)
C2;メタカオリンII(大村セラテック株式会社製、ブレーン比表面積10000cm2/g)
D1;フライアッシュ(JIS A 6201規定のフライアッシュII種相当品)
D2;シリカフューム(巴工業株式会社製、BET比表面積21.2m2/g)
E1;普通細骨材I(山形珪砂3号)
E2;普通細骨材II(山形珪砂4号)
E3;普通細骨材III(山形珪砂5号)
E4;普通細骨材IV(山形珪砂7号)
E5;普通細骨材V(山形珪砂8号)
F;ビニロン繊維(市販品、繊維長約6mm)
G1;セルロース系増粘剤(商品名「マーポローズ90MP−4T」、松本油脂製薬株式会社製)
G2;ナフタレンスルホン酸系減水剤(花王株式会社製)
H1;再乳化粉末樹脂(商品名「TITAN8100」、日本エヌエスシー株式会社製)
H2;ポリマーディスパージョン(商品名「モビニール7700」、ニチゴーモビニール株式会社製)
H3;ポリマーディスパージョン(商品名「太平洋エフェクト」、太平洋マテリアル株式会社製)
【0019】
【表1】

【0020】
[コンシステンシーの評価] 作製したモルタルについて、JIS R 5201に準拠した方法で、20℃の屋内で練り上がった直後のモルタルフロー値を測定し、コンシステンシーの評価指標とした。その結果を表2に記す。
【0021】
【表2】

【0022】
[鏝塗り施工性の評価] 作製したモルタルに対し、次の方法により鏝塗り施工性を評価した。即ち、100×100×15cmのコンクリート平板を、100×15cmの一面を底面として地面に垂直に設置した。設置したコンクリート平板の100×100cmの片面に、市販の金鏝を用い、作製したフレッシュ状態のモルタルを塗付けた。塗付けたモルタルの鏝伸びが良好であって、塗付け後に使用した金鏝に付着残存するモルタルが殆ど見られず、且つ該垂直面に約3cm以上の厚さに塗り付けても、塗付け24時間経過後に塗付けられたモルタルの垂れが見られなかったモルタルを、鏝塗り施工性「良好」と判断し、それ以外の状況になったモルタルは全て鏝塗り施工性「不良」と判断した。評価結果は表2に纏めて表す。
【0023】
[ひび割れ抵抗性の評価] 前記試験で、コンクリート平板に塗り付けたモルタルの垂れや剥がれ落ちが見られなかったものに対し、300×60mmの一面を底面としてモルタルを塗り付けた状態で温度約20℃湿度60%の環境下に7日間静置させた。静置後、平板上の施工物の表面を目視で観察し、ひび割れ発生の有無を確認した。ひび割れ発生が全く見られなかったものをひび割れ抵抗性「良好」と判断し、ひび割れ発生が少しでも見られたものをひび割れ抵抗性「不良」と判断した。この評価結果も表2に表す。
【0024】
[強度の評価] 作製したモルタルから、JIS R 5201に準拠した方法で4×4×16cmの強度試験用供試体を作製した。供試体は、24時間湿空養生(温度20℃、湿度80%)を行った後、材齢3日又は28日まで20℃で水中養生を行った。水中養生終了後は、速やかに圧縮強度の測定を行った。圧縮強度測定結果も表2に表す。
【0025】
表2の結果より、本発明品は何れも非常に高い強度発現性を有することができ、これに加えて塗り施工に適したコンシステンシーを有すると共に鏝塗り施工性も全般に良好であり、また硬化後のもひび割れも見られず、耐久性が中長期的にも高い修復材が得られていることがわかる。これに対し、本発明外の参考品では塗り施工性が不良か長期的な強度発現性が低いものとなり、耐久性に優れた修復材にはなり得ていないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の高強度修復材は、壁面や天井面等の塗り施工用の材料やモルタル・コンクリート構造体の補修用材料として使用できる他、モルタルやコンクリート製或いはモルタル・コンクリート以外の材質からなる構造物の充填材などにも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、メタカオリン及びポリマーを含有してなる高強度修復材。
【請求項2】
メタカオリンが、化学成分でAl23含有率20質量%以上且つSiO2含有率50質量%以上であって、ブレーン比表面積8000〜110000cm2/gである請求項1記載の高強度修復材。
【請求項3】
さらに、シリカフューム及び/又はフライアッシュを含有してなる請求項1又は2記載の高強度修復材。
【請求項4】
さらに、ポルトランドセメントを含有してなる請求項1〜3何れか記載の高強度修復材。
【請求項5】
さらに、繊維、減水剤及び増粘剤の何れか1種又は2種以上を含有してなる請求項1〜4何れか記載の高強度修復材。

【公開番号】特開2008−297170(P2008−297170A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146386(P2007−146386)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】