説明

高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金およびその製造方法

【課題】 優れた耐摩耗性を示すとともに引張り強さおよび伸びが改善された高強度耐摩耗性アルミニウム系焼結合金およびそれを製造する方法を提供する。
【解決手段】全体組成が、質量比で、Zn:3.0〜10%、Mg:0.5〜5.0%、Cu:0.5〜5.0%、炭化珪素、硼化クロム、炭化硼素等の硬質粒子:0.1〜10質量%、および残部がアルミニウムからなるとともに、MgZn(η相)、AlMgZn(Τ相)、CuAl(θ相)等の金属間化合物が析出分散するアルミニウム合金基地中に、前記硬質粒子が分散する金属組織となるアルミニウム焼結合金とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクティングロッドやピストン等の各種摺動部材として好適な高強度と耐摩耗性を有するアルミニウム焼結合金およびその製造方法に関し、特に、耐摩耗性とともに、引張り強さと伸びが改善された高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金およびその製造方法に関する。なお、本明細書において、Al、Zn、Mgなどは元素記号である。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法によるアルミニウム焼結部品は、軽量であることに加えて、溶製材料では得られない強度、耐摩耗性等の特性が得られることから近年需要が増しつつある。例えば、Siを多量に含む鋳造合金では初晶Siが粗大化した金属組織の合金しか得られないが、焼結アルミニウム合金では微細な初晶Siが分散するAl−Si系合金相と初晶Siを含まないAl固溶体相とを斑状に分散させた金属組織を呈し、強度と耐摩耗性に優れたアルミニウム焼結合金(特許文献1〜4)等が実用化されている。
【0003】
【特許文献1】特開平4−365832号公報
【特許文献2】特開平7−197168号公報
【特許文献3】特開平7−197167号公報
【特許文献4】特開平7−224341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のアルミニウム焼結合金は、耐摩耗性に優れてはいるものの、その強度は、鍛造や熱処理を施してもその強度が360MPa程度であるため、その適用が制限され、より一層高強度の耐摩耗性アルミニウム焼結合金が望まれている。そこで、本発明は、耐摩耗性を有するとともに、より高い引張り強さと高い伸びを有する高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、超々ジュラルミンとして知られる7000系のアルミニウム合金を粉末冶金法で製造する方法を開発し出願(特願2003−345001号)するとともに、さらにこの合金をベースに硬質粒子を添加することで、高強度と耐摩耗性を兼ね備えたアルミニウム焼結合金を開発した。
【0006】
すなわち、本発明の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金は、全体組成が、質量比で、Zn:3.0〜10%、Mg:0.5〜5.0%、Cu:0.5〜5.0%、硬質粒子:0.1〜10%、および残部がアルミニウムからなるとともに、金属間化合物が析出分散するアルミニウム合金基地中に、前記硬質粒子が分散する金属組織を呈することを特徴としている(請求項1)。
【0007】
以上のアルミニウム焼結合金において、上記の硬質粒子としては、平均粒径が1〜100μmのものが好ましく(請求項2)、また、硬さが600Hv以上で、アルミニウムと反応しない粒子であることが好ましく(請求項3)、具体的な硬質粒子として、炭化珪素、硼化クロム、炭化硼素の少なくとも1種であることがより好ましい(請求項4)。
【0008】
また、以上のアルミニウム焼結合金は、全体組成が、Sn、Bi、In、および、これら(Sn、Bi、In)のいずれかを主成分とする共晶化合物または偏晶化合物をさらに0.01〜0.5質量%含有していることが好ましい(請求項5)。
【0009】
これに対し、本発明の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法は、原料粉末全体の成分組成が、質量比で、Zn:3.0〜10%、Mg:0.5〜5.0%、Cu:0.5〜5.0%、硬質粒子:0.1〜10%、および残部がアルミニウムとなるように、100メッシュ以下のアルミニウム粉末に、125メッシュ以下の硬質粒子粉末、いずれも200メッシュ以下の亜鉛、マグネシウム、銅の各単味粉末、もしくは亜鉛、マグネシウムおよび銅の少なくとも2種の合金粉末、もしくはそれらの混合粉末を添加し、混合する原料粉末配合工程と、前記原料粉末配合工程により得られた原料粉末を用いて、所望の形状の金型に充填した後、200MPa以上の成形圧力で圧粉成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を、非酸化性雰囲気中で、室温より焼結保持温度までの昇温過程において、少なくとも400℃以上焼結保持温度までの温度領域を10℃/分以上の昇温速度で加熱し、焼結保持温度:590〜610℃、焼結保持時間:10分以上で焼結した後、常温まで冷却する焼結工程と、前記焼結工程で得られた焼結体を、460〜490℃に加熱して水焼き入れして溶体化した後、110〜200℃で3〜28時間保持して時効析出させる熱処理工程、を順に行うことを特徴としている(請求項6)。
【0010】
以上の製造方法において、前記焼結工程と前記熱処理工程との間に、前記焼結工程で得られた焼結体を、室温で、据え込み率:3〜40%の据え込み率で冷間鍛造を行う冷間鍛造工程、もしくは100〜450℃で、据え込み率:3〜70%の据え込み率で熱間鍛造を行う熱間鍛造工程のいずれかを行うことがより好ましく(請求項7)、また、前記焼結工程おける非酸化性雰囲気が、露点が−40℃以下の窒素ガス雰囲気であることがより好ましい(請求項11)。
【0011】
また、上記の硬質粒子粉末として、硬さが600Hv以上で、アルミニウムと反応しないものを用いることが好ましく(請求項8)、また、このような硬質粒子として炭化珪素、硼化クロム、炭化硼素の少なくとも1種を用いることがより好ましく(請求項9)、さらに、上記の原料粉末中に、原料粉末の全体組成に対して0.01〜0.5質量%のSn単味粉末、Bi単味粉末、In単味粉末、および、Sn、Bi、Inのいずれかを主成分とし前記主成分の共晶液相を生じる共晶化合物粉末または偏晶化合物粉末、の少なくとも1種の粉末をさらに添加、混合して与えることが好ましい(請求項10)。
【0012】
なお、以上の発明において、100メッシュ以下の粉末は100メッシュ(140μm)の篩櫛を通過した大きさの粉末を意味し、125メッシュ以下の粉末は125メッシュ(113μm)の篩櫛を通過した大きさの粉末を意味し、200メッシュ以下の粉末は200メッシュ(74μm)の篩櫛を通過した大きさの粉末を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金は、超々ジュラルミンとして知られる7000系のアルミニウム焼結合金をベースに硬質粒子を分散させたものであるから、高い引張り強さと伸びを有するとともに、高い耐摩耗性を有する優れたものであり、また、本発明の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法は、このような高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金を製造するに当たり、特に引張り強さと伸びを高める製造方法を開示するものであるから、自動車等に使用される各種摺動部材の適用の拡大が図られ、各種摺動部材等の軽量化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金を要部構成毎に詳しく説明する。
【0015】
(1)基地組織
(1)-1 Zn:
Znは、MgとともにAl基地中にMgZn(η相)やAlMgZn(Τ相)として析出して強度を高める作用を有する。また、Znは、焼結の昇温時に溶融し、液相となってアルミニウム粉末の表面に濡れて表面の酸化被膜を除去し、アルミニウム基地中に拡散するとともに、アルミニウム粉末どうしの拡散による結合を促進する作用も有する。Znの含有量は、3質量%に満たないと上記の作用が十分に得られず強度向上の効果が乏しくなる。一方、10質量%を超えると焼結中のZnまたはZn系共晶液相の量が過多となり、形状の維持が不可能ととなるとともに、Al基地中へのZnの拡散が不十分な部位がZnリッチ相として残留する。また、Znが合金系内より揮発して炉内を汚染・堆積することとなる。よって、Zn含有量を3〜10質量%とする。
【0016】
(1)-2 Mg:
Mgは上記のZnとともに上記の析出化合物を形成して強度の向上に寄与する。また、Mgも融点が低く、焼結時の昇温過程で液相を発生して、酸化被膜を除去し、焼結の進行を促進する作用を有する。Mgの含有量は、0.5質量%に満たないと上記の効果が乏しく、5.0質量%を超えると液相量として過剰となり、形状が維持できなくなる。よって、Mg含有量を0.5〜5.0質量%とする。
【0017】
(1)-3 Cu:
Cuは、Al基地中に固溶されCuAl(θ相)を析出させて強度の向上に寄与する他、焼結時に液相を発生して焼結の進行を促進する作用を有する。Cuの含有量は、0.5質量%に満たないと上記の作用が十分に得られず、5.0質量%を超えるとZnと不要なCu−Zn合金相を形成し、粒界に沿って大きく析出して強度および伸びを低下させるので、Cu含有量は0.5〜5.0質量%とする。
【0018】
(1)-4 Sn、Bi、In:
Sn、Bi、Inは、融点(Snが232℃、Biが271℃、Inが155.4℃)が低く焼結中で液相を発生し、アルミニウム粉末の表面に濡れて、アルミニウム粉末表面の酸化被膜を除去して、アルミニウム粉末どうしの焼結の進行を促進するとともに、液相の表面張力により液相収縮して緻密化に寄与する作用を有するので、上記のZn、Mg、Cuとともに用いることが好ましい。このSn、Bi、Inの低融点液相は、主成分のAlとほとんど溶け合わないので、焼結過程の早期より発生した液相は、焼結過程のほとんどを液相のままで存在するので、液相収縮して緻密化作用が焼結過程の全般にわたってもたらされ、緻密化の進行に寄与する。また、これらの元素の低融点金属の液相はZnの単味粉末または合金粉末の表面を覆うことで、焼結時のZnの揮発を防止し、焼結体に残留するZn量のバラツキを抑制する作用も有する。
【0019】
さらに上記の作用を有するSn、Bi、Inは、単味粉末として用いてもよいが、これらの元素を主成分としこの主成分の共晶液相を生じるような共晶化合物もしくは偏晶化合物とすると、融点が単体の場合より一層低くなるためさらに好ましい。このような共晶化合物としては、近年開発が進んでいる鉛フリーはんだがある。鉛フリーはんだには、Sn−Zn系、Sn−Bi系、Sn−Zn−Bi系、Sn−Ag−Bi系等があり、これらに少量のIn、Cu、Ni、Sb、Ga、Ge等の金属元素を添加したものが提案されており、その一部は実際に実用化されている。このような市販の鉛フリーはんだは、入手が容易であることからも好適である。
【0020】
このような作用を有する低融点金属もしくは低融点金属共晶化合物等は、0.01質量%以上の添加でその効果が顕著となる。一方、Sn、Bi、InはAlと溶け合わないため、多量に用いるとこれらのSn、Bi、Inがアルミニウム合金基地の粒界に析出し、強度低下の原因となるため、多くとも0.5質量%以下に止めるべきである。
【0021】
(2)硬質粒子
上記により得られるアルミニウム合金基地組織は、硬質粒子がない場合、成形、焼結、鍛造、熱処理の各条件を適正化することにより、引張り強さが500MPa以上で、かつ、伸びが4%以上の、一般鋼材に匹敵する優れた機械的特性を有するものである。一般に合金基地への硬質粒子の添加は合金の強度および伸びの低下をもたらすが、ベースとなる基地組織にこのような高強度のアルミニウム焼結合金を適用することから、硬質粒子の添加により強度および伸びが若干低下しても、従来のアルミニウム−珪素系耐摩耗性アルミニウム焼結合金等に比して、極めて高い強度および伸びを示す。
【0022】
また、本発明のアルミニウム焼結合金においては摺動条件(特に相手側部材)により、分散させる硬質粒子の種類および量を変更できるという利点を有する。例えば、従来のアルミニウム−珪素系耐摩耗性アルミニウム焼結合金は硬質粒子として初晶Siを分散するものであるが、相手側部材が鉄系材料の場合、FeとSiの間の親和性により摩擦係数が高くなる傾向を有する。しかし、本発明のアルミニウム焼結合金においては、例えば、硼化クロム等のFeとの親和性が低い硬質粒子を選択することで、摩擦係数の低減および耐摩耗性の向上を果たすことが可能である。すなわち、硬質粒子は0.1質量%以上の添加で、耐摩耗性改善の効果が顕著となり、一方、硬質粒子の添加量が10質量%を超えると、強度および伸びの低下が著しくなることから、硬質粒子の添加量は1〜10質量%とする必要がある。
【0023】
また、粒径としては、平均粒径が1〜100μmであることが好ましい。硬質粒子が1μmより細かいと、基地が塑性流動した際に基地とともに塑性流動しやすくなって基地の塑性流動をくい止めることが難しくなる。一方、硬質粒子の平均粒径が100μmを超えると、摺動条件にもよるが、摺動時における相手側部材の摩耗を引き起こしやすくなるとともに、強度の低下傾向が大きくなるため好ましくない。さらに、硬質粒子は、硬さが低いと硬質粒子自体が塑性流動を起こすこととなり耐摩耗性が低下することとなるため、硬さが600Hv以上のものが好ましい。
【0024】
上記のような硬質粒子をアルミニウム合金基地中に分散させる手法として、硬質粒子粉末を添加して与える手法が簡便であるが、硬質粒子が基地の主成分であるAlと反応するものであると、焼結後にアルミニウム合金基地中に分散する硬質粒子の量および粒径範囲を管理することが難しくなるため、アルミニウムと反応しない硬質粒子を粉末として添加して与えることが好ましい。
【0025】
このような硬質粒子として、炭化珪素、硼化クロム、炭化硼素等は、極めて硬い物質であり、かつアルミニウムと反応しない物質であるため好ましいものである。このような極めて硬い硬質粒子は、基地となるアルミニウム合金基地がある程度軟質であるため、摺動時にアルミニウム合金基地に埋め込まれて、相手摺動部材の摩耗を抑制するとともに、アルミニウム合金基地の塑性流動をくい止めて、耐摩耗性の向上に寄与する。また、摺動中にアルミニウム合金基地より脱落しても、軟質なアルミニウム合金基地に直ちに埋め込まれて、上記の基地塑性流動を防止する効果が果たされる。
【0026】
以下、本発明の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法をその工程毎に詳しく説明する。
【0027】
(3)原料粉末配合工程:
上記のZn、Mg、Cuは単味粉末、もしくはこれらのうち2種以上の元素と合金化した合金粉末、あるいはそれらの混合粉末の形態で、硬質粒子粉末とともにアルミニウム粉末に添加される。また、Sn、Bi、Inを用いる場合には、上記のように単味粉末もしくはこれらの成分の共晶液相が発生する共晶合金粉末または偏晶合金粉末の形態で添加される。
【0028】
ところで、上記した各成分元素の作用を基地中で均一に作用させるためには、各成分元素を基地中に均一に拡散させる必要がある。このため、これらの成分元素粉末は200メッシュ以下の微細な粉末の形態で付与する必要がある。単味粉末もしくは合金粉末は、焼結の昇温時に溶融し、液相となってアルミニウム粉末の表面に濡れて表面の酸化被膜を除去し、アルミニウム基地中に拡散するとともに、アルミニウム粉末どうしの拡散による結合を促進するが、単味粉末もしくは合金粉末の大きさが200メッシュを超えると、局部的な偏析が生じて均一な成分元素の拡散が阻害されることとなる。
【0029】
一方、アルミニウム粉末まで微粉とすると、原料粉末の流動性が低下するため、アルミニウム粉末については上記の各成分元素粉末より大きい粉末を用いた方が好ましい。ただし、100メッシュを超えると、各成分元素が粉末の中心まで拡散しにくくなって成分の偏析が生じるようになるため、100メッシュ以下の粉末を用いる必要がある。
【0030】
また、硬質粒子粉末は基地とほとんど反応しないので、添加した粉末がそのままアルミニウム合金基地中に分散することとなる。その場合は、硬質粒子を基地中に均一に分散させるためにはアルミニウムと反応しないもので、125メッシュ以下の粉末を用いることが好ましい。
【0031】
(4)成形工程:
この工程では、上記の原料粉末配合工程で得られた原料粉末を、所望の形状の金型に充填後、200MPa以上の成形圧力で圧粉成形する。これにより、密度比が90%以上の成形体が得られる。成形圧力が200MPaを下回ると成形体の密度が低くなって、後の焼結工程および鍛造工程を経ても気孔が2容量%以上残留して高い強度と伸びが得られなくなる。また、焼結中の寸法変化が大きくなることからも好ましくない。成形圧力は高い方が成形体の密度が高くなるため好ましく、400MPa以上であると密度比が95%以上の成形体が得られるため一層好ましい。ただし、500MPaを超えると金型へのアルミニウム粉末の凝着が発生しやすくなるため好ましくない。
【0032】
(5)焼結工程:
この工程において、成分として含まれるZnは、融点が低く、揮発しやすい元素であるが、焼結中で多量の液相が発生すると、焼結体の収縮量が大きくなって寸法精度が低下し、揮発すると、基地中に固溶するZn量が低下して所望の強度や伸びが得られなくなるとともに、焼結雰囲気を汚染して焼結炉内に堆積したりするため作業環境にも問題が生じることとなる。このような弊害を避けるため、焼結保持温度までの昇温を急速に行う必要がある。
【0033】
すなわち、上記成形工程で得られた成形体を焼結するにあっては、室温より焼結保持温度までの昇温過程において、少なくとも亜鉛の融点近辺の400℃以上から焼結保持温度までの温度領域を10℃/分以上の昇温速度で急速加熱することで、成分元素の揮発を抑制するとともに、焼結保持温度:590〜610℃、焼結保持時間:10分以上で焼結することにより、液相発生による過度の寸法精度の低下を抑制しつつ、成分元素の均一な拡散を達成することができる。この焼結要件は、焼結温度までの昇温速度が10℃/分を下回ると上述したZnの揮発の問題が顕著になることと、焼結温度が610℃を超えてもZnの揮発や液相による過収縮の問題が顕著となり、さらにこの場合は結晶粒が成長して粗大化し強度を低下させるからである。一方、各成分元素をAl基地に均一に固溶させるために、焼結温度を590℃以上とし、焼結保持時間を10分以上とする必要がある。この条件を下回ると、各成分のAl基地中への拡散が不十分となり、強度が低下することとなる。
【0034】
上記焼結により各成分は基地に固溶した状態であるので、冷却速度は、特に限定はしないが、遅い場合、特に高温領域(450℃以上)においては結晶粒の粗大化が進行するとともに、冷却過程で過飽和成分が粒界に沿って析出し、強度や伸びを低下させたり、後の熱処理(溶体化処理)により、析出した過飽和成分の部位が基地に吸収されることにより気孔が発生して強度や伸びを低下させたりするので、高温領域はなるべく早く冷却した方が好ましく、特に450℃以上の温度領域での冷却速度は10℃/分以上の速度で冷却することが好ましい。
【0035】
また、焼結雰囲気は、非酸化性のものが適しているが、露点を−40℃以下とした窒素ガス雰囲気が最も適している。露点は雰囲気ガス中の水分量を示す指標であり、水分すなわち酸素量が多いと、Alは酸素と結合し易いため焼結の進行を阻害し緻密化を阻害することとなる。また、窒素ガスは他の非酸化性ガスと比較し安価かつ安全であるため好ましい。
【0036】
このようにして、液相焼結することで成分元素がAl基地中に均一に固溶するとともに密度比が90%以上で残留する気孔が閉鎖気孔となった焼結体を得ることができる。
【0037】
(6)熱処理(T6処理)工程:
本発明の製造方法における、熱処理(T6処理)工程は、Al基地中の析出相を460〜490℃に加熱して基地中に均一に固溶させた後、水焼き入れにより急冷して過飽和固溶体とする溶体化処理と、その後110〜200℃で3〜28時間保持して過飽和固溶体より析出相(金属間化合物)を析出分散させる時効析出処理からなる工程である。溶体化処理温度が460℃に満たないと析出成分が全てAl基地中に均一固溶されず、一方、490℃を超えてもその効果は変わらず、かつ500℃を超えると液相発生により気孔が発生する。また、時効処理は、温度が110℃に満たない場合、および時間が3時間に満たない場合は、十分な析出化合物が得られず、温度が200℃を超える場合、および時間が28時間を超える場合は、析出した化合物が成長して粗大化するため強度の低下を生じることとなる。なお、温度と時間は上記の範囲内で要求特性に対して適宜組み合わされる。
【0038】
このように熱処理することで、アルミニウム合金基地中にMgZn(η相)、AlMgZn(Τ相)、CuAl(θ相)等の金属間化合物が析出分散する金属組織が得られ、機械的特性の向上が果たされる。
【0039】
以上により得られる高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金は、以下の実施例より明らかなように、密度比が90以上%であり、引張り強さが450MPa以上と高い値を示すとともに、従来材と同等の伸びと耐摩耗性を示すが、より一層の引張り強さや伸びの向上を望む場合、焼結工程と、熱処理工程の間に下記の鍛造工程を追加することができる。
【0040】
(6)鍛造工程:
この工程では、上記の焼結工程までで得られた密度比90%以上の焼結体を、室温で、据え込み率:3〜40%の据え込み率で冷間鍛造を行う冷間鍛造工程、もしくは100〜450℃で、据え込み率:3〜70%の据え込み率で熱間鍛造を施し、密度比98%以上とすることで高い引張り強さと伸びを有するアルミニウム焼結鍛造部品を得ることができる。
【0041】
一般に、鍛造工程により密度を高めることは知られているが、単に密度を上げるだけでは気孔が閉塞するのみで、金属的に結合していないため、鍛造時に素材表面に割れが生じたり、製品内部に欠陥として残留したりして強度や伸びの向上が得られない。従って高い強度や伸びを得るためには、気孔を閉塞させるだけではなく、そこに金属的な結合を形成しなくてはならない。このような金属結合を得るために、一般的には、緻密化を目的とする鍛造工程、緻密化した素材を変形させることで金属結合を得る変形工程の2工程に分けて鍛造を行うことが行われている。本願発明においては、金属結合を得るため、上記により得られた焼結体を上下方向より加圧してその高さを圧縮して気孔を閉塞させるとともに、加圧方向に対し横方向に設けられた空間部に素材を流動させることで、元の気孔部分(閉塞しているが金属結合していない部分)を強制的に結合させつつ変形させる、据え込み鍛造とすることで、従来2工程で行われる鍛造工程を1工程に統合したものである。この加圧方向の素材の変形率が据え込み率である。なお、鍛造過程において、このような据え込み変形が主であれば、局部的に押し出し状態となってもかまわず、本願鍛造は後方押し出し法も含むものである。また、押し込み鍛造や前方押し出し法の場合、素材は金型により減面されるが、このときの加圧方向は周方向で、素材の変形方向は押し出し方向すなわち加圧方向と直交する方向であるので本願発明の範囲に含まれるものである。また、このような鍛造とすることで、上記作用に加えて、焼結時に成長した結晶粒を微細化させるとともに、析出物を分断する作用も得られて強度および伸びをより一層向上させる。
【0042】
冷間鍛造の場合、据え込み率が3〜40%となるよう鍛造する必要がある。同径もしくは径を広げる鍛造では、据え込み率が3%に満たないと、局部的な変形しか起こらず、気孔の残留量が多くなり強度や伸びを高めることができない。また、押し込み鍛造のように径の小さい金型に押し込む場合も上記の理由で3%以上の据え込みを必要とする。なお、据え込み率が10%以上であると容易に鍛造体の密度比を98%以上とできるためより好ましい。一方、据え込み率が40%を超えると結晶の滑りに伴う鍛造割れが発生しやすくなる。また、冷間鍛造の場合、鍛造過程で横方向に展伸した素材端部が鍛造終了時点で金型内壁と完全接触しているように据え込み鍛造すると、製品寸法、形状の精度が安定するとともに、最表面に欠陥が残存しにくいので好ましい。
【0043】
また、熱間鍛造の場合、100〜450℃、好ましくは200〜400℃の温度範囲で素材(焼結体)を加熱すれば据え込み率を3〜70%の範囲で行うことができるようになる。素材(焼結体)の加熱温度が100℃に満たないと、冷間鍛造の場合とあまり変わらず、素材の変形能が乏しく、据え込み率を大きくすることができない。また、素材(焼結体)の加熱温度が200℃以上では、素材が軟化し、変形能が増して所望の据え込み率で熱間鍛造を行うに当たり、鍛造圧力を低くできるため好ましい。一方、450℃を超えると金型と素材(焼結体)との凝着が著しく発生するので上限は450℃に止める必要があり、好ましくは400℃である。ただし、上記温度範囲であっても据え込み率が70%を超えると、鍛造割れが発生しやすくなる。熱間鍛造の場合、鍛造過程で横方向に展伸した素材端部が鍛造終了時点で金型内壁と接触しているように据え込み鍛造すると、最表面での欠陥が生じにくくなるため好ましい。
【0044】
以上により得られる高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金は、以下の実施例より明らかなように、密度比が98%以上であり、引張り強さが500MPa以上で、かつ、伸びが改善される場合に2〜4%程度に改善され、優れた耐摩耗性とともに、従来にない、高い機械的特性を具備できる。
【第1実施例】
【0045】
第1実施例では、原料粉末配合工程として、100メッシュ以下のアルミニウム粉末と、それぞれ250メッシュ以下の亜鉛粉末、マグネシウム粉末、銅粉末、錫粉末、ビスマス粉末、インジウム粉末、およびZn:8質量%とBi:3質量%を含み残部がSnの鉛フリーはんだ粉末と、125メッシュ以下の炭化珪素粉末、硼化クロム粉末、炭化硼素粉末を用意し、表1に示す配合割合で混合して原料粉末を作製し、成形工程、焼結工程、鍛造工程および熱処理工程を経て、表2に示す全体組成の試料を作製した。
【0046】
なお、成形工程では、成形圧力を300MPaとして、機械的特性調査のためのφ40×28の柱体形状、および耐摩耗性調査のためのφ7.98×20の柱体形状に圧粉成形した。焼結工程では、窒素ガス雰囲気中、400℃から焼結保持温度までの温度範囲を10℃/分の昇温速度で加熱し、焼結保持温度:600℃で20分保持して焼結を行った後、焼結保持温度から450℃までの温度範囲を20℃/分の冷却速度で冷却した。鍛造工程では、焼結体試料を400℃に加熱して、同じ温度に加熱した金型内に投入し、据え込み率:40%の熱間鍛造を行った。熱処理工程では、鍛造体試料を470℃に加熱して溶体化処理を行った後、130℃で24時間保持して時効析出処理を行った。
【0047】
また、従来例として、それぞれ100メッシュ以下のアルミニウム粉、およびSi:20質量%を含み残部がAlのアルミニウム−珪素合金粉末、それぞれ250メッシュ以下のNi:4質量%を含み残部がCuの銅−ニッケル合金粉末、およびMg:50質量%を含み残部がAlのアルミニウム−マグネシウム合金粉末を用意し、表1に示す配合割合で混合し、成形工程では成形圧力を200MPa、焼結工程では、窒素ガス雰囲気中、400℃から焼結保持温度までの昇温速度:10℃/分、焼結保持温度:550℃、焼結保持時間:60分、焼結保持温度から450℃までの冷却速度:20℃/分、鍛造工程では焼結体試料および鍛造金型の加熱温度:450℃、据え込み率:40%、熱処理工程では、溶体化処理温度:470℃、時効析出処理:130℃×24時間として、特許文献4(特開平7−224341号公報)で開示の合金を作製した。
【0048】
上記試料作製において、成形工程後の成形体、焼結工程後の焼結体、鍛造工程後の鍛造体について、それぞれ密度比を測定した。その結果を表3に示す。そして、評価では、得られた試料01〜34について、φ40×28の柱体形状試験片については、引っ張り試験片に加工し、引っ張り試験を行い引張り強さおよび伸びを測定した。また、φ7.98×20の柱体形状試験片については、2個を用い、リングオンディスク摩擦摩耗試験機で、相手側部材(以下、相手材と略称)としてS45C熱処理材を用い、ある一定荷重をかけた状態でエンジンオイルを供給しながら摺動速度5m/sで30分間摺動試験を行い、この試験中動摩擦係数の急激な上昇が見られない場合、試験片を替えて、荷重を5MPa刻みで増加させて、動摩擦係数の急激な上昇が認められる荷重を耐面圧荷重(限界面圧)として、併せて表3に示した。なお、表1〜3においては、調査項目毎に罫線を太く表示し、かつ調査項目欄を灰色で表示するとともに、各調査項目に共通の試料番号06の試料について、各項目毎に再録して標記してある。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
まず、表1〜3の試料番号01〜08の試料を比較することで、硬質粒子の添加量の効果を調べることができる。これらより、硬質粒子が無添加の試料番号01の試料は、高い引張り強さと伸びを示すものの、耐面圧荷重が低く耐摩耗性が低い材料であることがわかる。このような材料であっても硬質粒子の量を0.1質量%以上とすることにより、引張り強さの低下が僅かでありながら、耐面圧荷重が30MPa以上と耐摩耗性が改善され、特に1.0質量%以上の添加で高い耐摩耗性が得られることがわかる。一方、伸びは硬質粒子の量が増加するにしたがい若干低下する傾向を示すが、硬質粒子の量が10質量%までは未だ十分な伸びを示すことがわかる。ただし、硬質粒子の量が10質量%を超えると、伸びの低下傾向が著しくなるとともに、相手材の摩耗量が増大している。以上より、硬質粒子の量は0.1〜10質量%の範囲で、高い引張り強さと伸びを示すとともに、耐摩耗性が改善されて、従来のアルミニウム−珪素系耐摩耗性アルミニウム焼結合金(試料番号33)のものよりも、高い引張り強さを示す耐摩耗性アルミニウム焼結合金が得られることが確認された。特に、硬質粒子の量が1.0〜10質量%の範囲で耐摩耗性改善の効果が大きいこともわかった。
【0053】
表1〜3の試料番号06、09〜12の試料を比較することでZn量の効果を調べることができる。これらより、Zn量が2.0質量%の試料番号09はZnによる金属間化合物のアルミニウム合金基地中の析出量が乏しく、伸びは高いものの、引張り強さが低く、また硬質粒子を5.0質量%添加しているにもかかわらず、耐面圧荷重が低い値となっている。しかしZn量が3.0質量%以上では、アルミニウム合金基地中に析出するZn系の金属間化合物の量が増加することにより伸びは低下するものの、この金属間化合物の増加の効果、およびZn液相および/またはZnと他の元素との共晶液相の量が増加することによる焼結体密度向上の効果により、引張り強さおよび耐面圧荷重が向上している。しかし、Zn系の金属間化合物の析出量が多くなりすぎると却って強度を損なうため、引張り強さおよび耐面圧荷重はZn量が5.5質量%の試料番号06をピークとしてZn量が10質量%の試料番号11では却って低下する傾向を示している。また、Zn量が10質量%を超える試料番号12では、焼結時のZn系液相発生量が過多となって、焼結体が溶融してしまうことが確認された。このため、試料番号06のものは後の鍛造および熱処理工程を中止し、試験を中止した。以上より、Zn量は、3.0〜10の範囲で、引張り強さおよび耐面圧荷重の改善に効果があることが確認された。
【0054】
表1〜3の試料番号06、13〜17の試料を比較することでMg量の効果を調べることができる。これらより、Mg量が0.1質量%の試料番号13は、アルミニウム合金基地中へのMgによる金属間化合物の析出量が乏しく、伸びは高いものの、引張り強さが低く、硬質粒子を5.0質量%添加しているにもかかわらず、耐面圧荷重が低い値となっている。しかしMg量が0.5質量%以上では、アルミニウム合金基地中に析出する金属間化合物の量が増加することにより伸びは低下するものの、この金属間化合物の増加の効果、およびMg液相および/またはMgと他の元素との共晶液相の量が増加することによる焼結体密度向上の効果により、引張り強さおよび耐面圧荷重が向上している。しかし、金属間化合物の析出量が多くなりすぎると却って強度を損なうため、引張り強さおよび耐面圧荷重はMg量が2.5質量%の試料番号06をピークとしてMg量が5.0質量%の試料番号16では却って低下する傾向を示している。また、Mg量が5.0質量%を超える試料番号17では、焼結時の液相発生量が過多となって、焼結体の変形が生じていることが確認され、後の鍛造および熱処理工程を中止し、試験を中止した。以上より、Mg量は、0.5〜5.0の範囲で、引張り強さおよび耐面圧荷重の改善に効果があることが確認された。
【0055】
表1〜3の試料番号06、18〜22の試料を比較することでCu量の効果を調べることができる。これらより、Cu量が0.1質量%の試料番号18は、アルミニウム合金基地中へのCuによる金属間化合物の析出量が乏しく、伸びは高いものの、引張り強さが低く、硬質粒子を5.0質量%添加しているにもかかわらず、耐面圧荷重が低い値となっている。しかしCu量が0.5質量%以上では、アルミニウム合金基地中に析出する金属間化合物の量が増加することにより伸びは低下するものの、この金属間化合物の増加の効果、およびCu液相および/またはCuと他の元素との共晶液相の量が増加することによる焼結体密度向上の効果により、引張り強さおよび耐面圧荷重が向上している。しかし、金属間化合物の析出量が多くなりすぎると却って強度を損なうため、引張り強さおよび耐面圧荷重はCu量が1.5質量%の試料番号06をピークとしてCu量が5.0質量%の試料番号21では却って低下する傾向を示している。また、Cu量が5.0質量%を超える試料番号22では、焼結時の液相発生量が過多となって、焼結体の変形が生じていることが確認され、後の鍛造および熱処理工程を中止し、試験を中止した。以上より、Cu量は、0.5〜5.0の範囲で、引張り強さおよび耐面圧荷重の改善に効果があることが確認された。
【0056】
表1〜3の試料番号06、23、24の試料を比較することで硬質粒子の種類の影響を調べることができる。これらより、硬質粒子の種類を炭化硼素より、炭化珪素あるいは硼化クロムに替えても十分な耐摩耗性(耐面圧荷重)が得られることが確認された。特に、硼化クロムを用いた場合、従来のアルミニウム−珪素系耐摩耗性アルミニウム焼結合金(試料番号33)のものよりも、高い引張り強さを示すだけでなく、耐面圧荷重も同等の優れた耐摩耗性アルミニウム焼結合金が得られることがわかった。
【0057】
表1〜3の試料番号06、25〜29の試料を比較することで低融点金属粉末の添加量の効果を調べることができる。これらより、低融点金属粉末が未添加の場合(試料番号25)であっても十分な引張り強さ、伸び、耐面圧荷重を示し、特に引張り強さと伸びは、従来のアルミニウム−珪素系耐摩耗性アルミニウム焼結合金(試料番号33)すことがわかる。また、このような本発明の耐摩耗性アルミニウム焼結合金に、低融点金属粉末を0.01〜0.5質量%添加することで、これらの特性が改善されることがわかる。ただし、その添加量が0.5質量%を超えると、低融点金属がアルミニウム合金基地の粒界に析出してこれらの特性が却って低下している。以上より、低融点金属粉末は未添加であってもかまわないが、0.01〜0.5質量%の添加で引張り強さ、伸び、耐面圧荷重を改善する効果があることが確認された。
【0058】
表1〜3の試料番号06、30〜32の試料を比較することで低融点金属粉末の種類の影響を調べることができる。これらより、低融点金属粉末の種類を錫よりビスマス、インジウムあるいはこれらの共晶化合物(鉛フリーはんだ)に替えても、錫と同様の引張り強さ、伸び、耐面圧荷重の向上効果があることが確認された。
【第2実施例】
【0059】
第2実施例では、第1実施例で用意した原料粉末を用い、第1実施例の試料番号03と同じ原料粉末配合割合、すなわち、アルミニウム粉末に、5.5質量%の亜鉛粉末、2.5質量%のマグネシウム粉末、1.5質量%の銅粉末、5質量%の炭化硼素粉末、および0.1質量%の錫粉末を配合して混合した原料粉末を用い、成形圧力の成形条件、400℃から焼結保持温度までの昇温速度、焼結保持温度および焼結保持時間の焼結条件、焼結体試料および鍛造金型の加熱温度、据え込み率の鍛造条件をそれぞれ表4に示す条件に変更して、試料を作製し、第1実施例と同様の評価を行った結果を表5に示す。なお、他の製造条件は第1実施例と同様である。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
表4および5の試料番号06、34〜37により、成形圧力の影響を調べることができる。これらより、成形圧力が200〜400MPaの範囲内であると、成形体の密度比が高い成形体試料が得られ、これによって焼結−鍛造−熱処理の工程を経ることで、引張り強さが高く、かつ伸びが高いアルミニウム焼結合金が得られることがわかる。一方、成形圧力が200MPaに満たない試料番号34の試料では、成形体密度が低いため、液相発生による収縮量が大きく、焼結体の変形が発生したことにより、後の鍛造および熱処理工程を中止して試験を中止した。また、成形圧力が400MPaを超える試料番号37の試料では、成形体の抜き出し時に型カジリが発生し、これも後の処理工程を中止して試験を中止した。以上より、成形圧力は200〜400MPaで成形する必要あることが確認された。
【0063】
表4および5の試料番号06、38〜40により、400℃から焼結保持温度までの昇温速度の影響を調べることができる。これらより、昇温速度が10℃/分に満たない試料番号38の試料では、焼結体よりZn成分が揮発して析出相の量が減少した結果、引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重の低下が認められる。一方、昇温速度が10℃/分以上の試料では、高い引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重が示すことがわかる。以上より、400℃から焼結保持温度までの昇温速度は10℃/分以上とする必要があることが確認された。
【0064】
表4および5の試料番号06、41〜44により、焼結保持温度の影響を調べることができる。これらより、焼結保持温度が590〜610℃の範囲の試料は、高い引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重を示すことがわかる。一方、焼結保持温度が590℃に満たない試料番号41の試料では引張り強さおよび伸びがいずれも低くなる。これは、単味粉末として与えた成分元素がAl基地中に完全に固溶できず、局部的に偏析して残留した結果、機械的特性が低い値になるものと推察される。また、逆に焼結保持温度が610℃を超える試料番号44の試料では、液相量が過多に発生した結果、焼結体の溶融が生じ、以降の試験を中止した。以上より、焼結保持温度は590〜610℃とする必要があることが確認された。
【0065】
表4および5の試料番号06、45〜48により、焼結保持時間の影響を調べることができる。これらより、焼結時間が10分に満たない試料番号45の試料では、引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重がいずれも低くなることがわかる。これは、成分が焼結時間が短いとAl基地中に十分に固溶できず、局部的に偏析して残留した結果、機械的特性が低い値になるものと推察される。一方、焼結時間が10分以上の試料は、成分がAl基地中に均一に固溶され、高い引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重を示している。ただし、焼結保持時間が30分を超えても、これらの特性は変わらないため、30分以下の焼結保持時間で十分である。
【0066】
表4および5の試料番号49〜66により、鍛造の有無の影響および鍛造温度および据え込み量の影響を調べることができる。
【0067】
まず、鍛造を行わない本発明の耐摩耗性アルミニウム焼結合金である試料番号49の試料と、同じく鍛造を行わない従来のアルミニウム−珪素系耐摩耗性アルミニウム焼結合金である試料番号66の試料を比較すると、両者は伸びおよび耐面圧荷重は同等であるが、引張り強さは本発明例である試料番号49の試料の方が高い値を示し、従来のものより優れていることが確認された。
【0068】
また、鍛造を行わない試料番号49の試料に対し、鍛造を行った試料番号50〜65の試料(不具合が生じて試験を中止したものは除く)では引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重のいずれも向上しており、鍛造工程を追加することの効果が確認された。
【0069】
次いで鍛造条件について検証すると、試料番号49〜54の試料より、冷間鍛造の場合、据え込み率が3〜40%の範囲で、上記の引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重の改善効果が得られることがわかる。一方、据え込み率が40%を超える試料番号54の試料では鍛造により試料に割れが発生し、試験を中止した。
【0070】
また、試料番号53(冷間鍛造)および06と55〜60の試料により、焼結体および鍛造金型の加熱温度を変えて熱間鍛造した場合、熱間鍛造とすることで引張り強さが改善されるとともに、伸びが大きく改善されることがわかる。これは、冷間鍛造の場合、試料の内部にごく僅かヘアクラックが残留して伸びが低下するが、素材加熱温度が100℃以上の熱間鍛造とすることでヘアクラックが皆無となることに起因している。一方、鍛造温度が450℃を超えると、金型への焼結体の凝着(型カジリ)が発生したため、試験を中止した。
【0071】
さらに試料番号06、61〜65の試料により、熱間鍛造を行った場合、据え込み率を3〜70%の範囲まで拡張しても、引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重の改善効果が得られることがわかる。一方、据え込み率が70%を超える試料番号65の試料では鍛造により試料に割れが発生し、試験を中止した。
【0072】
以上より、前記焼結工程の後に、得られた焼結体を、室温で、据え込み率:3〜40%の据え込み率で冷間鍛造を行う冷間鍛造工程、もしくは100〜450℃で、据え込み率:3〜70%の据え込み率で熱間鍛造を行う熱間鍛造工程のいずれかを追加することで、引張り強さ、伸びおよび耐面圧荷重の改善効果が得られることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体組成が、質量比で、Zn:3.0〜10%、Mg:0.5〜5.0%、Cu:0.5〜5.0%、硬質粒子:0.1〜10%、および残部がアルミニウムからなるとともに、金属間化合物が析出分散するアルミニウム合金基地中に、前記硬質粒子が分散する金属組織を呈することを特徴とする高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金。
【請求項2】
前記硬質粒子の平均粒径が1〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金。
【請求項3】
前記硬質粒子として、硬さが600Hv以上で、アルミニウムと反応しない粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金。
【請求項4】
前記硬質粒子が、炭化珪素、硼化クロム、炭化硼素の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金。
【請求項5】
前記全体組成が、さらに、Sn、Bi、In、および、これらのいずれかを主成分とする共晶化合物または偏晶化合物を0.01〜0.5質量%含有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金。
【請求項6】
原料粉末全体の成分組成が、質量比で、Zn:3.0〜10%、Mg:0.5〜5.0%、Cu:0.5〜5.0%、硬質粒子:0.1〜10%、および残部がアルミニウムとなるように、
100メッシュ以下のアルミニウム粉末に、125メッシュ以下の硬質粒子粉末、いずれも200メッシュ以下の亜鉛、マグネシウム、銅の各単味粉末、もしくは亜鉛、マグネシウムおよび銅の少なくとも2種の合金粉末、もしくはそれらの混合粉末を添加し、混合する原料粉末配合工程と、
前記原料粉末配合工程により得られた原料粉末を用いて、所望の形状の金型に充填した後、200MPa以上の成形圧力で圧粉成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を、非酸化性雰囲気中で、室温より焼結保持温度までの昇温過程において、少なくとも400℃以上焼結保持温度までの温度領域を10℃/分以上の昇温速度で加熱し、焼結保持温度:590〜610℃、焼結保持時間:10分以上で焼結した後、常温まで冷却する焼結工程と、
前記焼結工程で得られた焼結体を、460〜490℃に加熱して水焼き入れして溶体化した後、110〜200℃で3〜28時間保持して時効析出させる熱処理工程、
を順に行うことを特徴とする高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法。
【請求項7】
前記焼結工程と前記熱処理工程との間に、前記焼結工程で得られた焼結体を、室温で、据え込み率:3〜40%の据え込み率で冷間鍛造を行う冷間鍛造工程、もしくは100〜450℃で、据え込み率:3〜70%の据え込み率で熱間鍛造を行う熱間鍛造工程のいずれかを行うことを特徴とする請求項6に記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法。
【請求項8】
前記硬質粒子粉末として、硬さが600Hv以上で、アルミニウムと反応しないものを用いることを特徴とする請求項6または7に記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法。
【請求項9】
前記硬質粒子粉末が、炭化珪素粉末、硼化クロム粉末、炭化硼素粉末の少なくとも1種であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末中に、原料粉末の全体組成に対して0.01〜0.5質量%のSn単味粉末、Bi単味粉末、In単味粉末、および、Sn、Bi、Inのいずれかを主成分とし前記主成分の共晶液相を生じる共晶化合物粉末または偏晶化合物粉末、の少なくとも1種の粉末をさらに添加、混合したことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法。
【請求項11】
前記焼結工程おける非酸化性雰囲気が、露点が−40℃以下の窒素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の高強度耐摩耗性アルミニウム焼結合金の製造方法。

【公開番号】特開2006−28569(P2006−28569A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207586(P2004−207586)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】