説明

高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法

【課題】高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有するカキ肉エキス抽出物の部分を選択すると共に、高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有できる抽出法を採用し、もって極めて高い抗酸化力を持った抗酸化物質を含有する有益なカキ肉抽出物を効率よくしかも多量に抽出でき、高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを製造できる高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法を提供する。
【解決手段】水溶液1が貯留された抽出容器2内にカキ肉3を収納し、カキ肉3からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、生成後の液7を遠心分離機に注入すると共に、高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させて分離し、分離後に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば、生ガキ等のカキ肉から高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含んだカキ肉のエキスを効率よく抽出し、かつカキ肉エキス内に存する前記高い抗酸化力を有する抗酸化物質を逃すことなく多量に含有して抽出できる高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有カキ肉エキスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カキ肉のエキスは健康補助食品として有益物質を多く含んだ極めて優れた製品であるとその認識度は日増しに高まっている。
【0003】
そして、現在では例えば多種多様な抽出法によって抽出されたカキ肉エキスに関する健康補助食品が販売されている(特開平10−136946号公報)。
【0004】
特に、摂取不足が問題となっているミネラル成分中でもタウリン、亜鉛、セレンは人間にとって必要不可欠な微量元素であるが、失われやすく、そのため日常習慣的な適量摂取が望まれている。
【0005】
また、糖尿病とは、血糖を低下させるホルモン「インスリン」の働きが弱まったり、インスリンが不足して血液中の糖分が異常に高くなる病気であるが、このインスリンが行う「血糖低下の働き」を助けているのが、亜鉛・セレンなどのミネラルである。これらのミネラルは「インスリン作用を持つ」といわれるように、実際に糖尿病患者にこれらのミネラルを補給すると、血糖値が低下することが認められている。そしてこれら有効成分はカキ肉に多く含有されているのである。
【0006】
従って、前記有効成分を多量に含有するカキ肉のエキスの抽出に際しては、現代人の体に必要な亜鉛・セレンなどの体に優しいミネラルやビタミン、タウリン、グリコーゲン、蛋白質といった有益な物質を豊富にバランス良く含有したカキ肉エキスを効率よく抽出し、良好なカキ肉エキスを製造することが望まれ、それらの要望に沿ったカキ肉エキスの製造法を本発明者は次々と発明し、特許取得してきた。
【0007】
さらに、近年ではカキ肉にはいわゆる高い抗酸化性能を有する抗酸化物質をも多く含有しているとにわかに注目を浴びることとなった。そして、本件発明者の各種研究や実験を通してその事実が益々明確となり、とくに高い抗酸化力を有する抗酸化物質をより多く含有したカキ肉エキスの製造方法の開発が強く要望されるに至った。
【0008】
そこで、本件発明者は近年、前記高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含むカキ肉部位の研究や高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含有する抽出法の研究を行い、高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含有するカキ肉抽出物を効率よく採取できる、すなわち高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを最適な方法で抽出でき、製造できる製造方法の発明創作活動を続けてきた。
【0009】
ところで、いわゆる活性酸素の生成は、好気性の生活に起因し、脂質、タンパク質、核酸の酸化を生じ、細胞に障害を与える。通常、生体の酸化レベルは活性酸素産生系と抗酸化物質による消去系のバランスでほぼ一定に保たれているが、薬物、放射線、虚血などの様々な要因によりこのバランスが崩れ、活性酸素産生系へ傾くのが酸化ストレスといわれている。
【0010】
この酸化ストレスの蓄積が、がん、動脈硬化性疾患、虚血/再灌流障害、慢性関節リウマチ、糖尿病、アルツハイマー病やパーキンソン病の神経障害などの様々な疾患や老化の一因であると考えられている。
【0011】
カキ、たとえばマガキ(Crassostreagigas)はウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝で、その生息地は日本を初めとして東アジア全域に及んでいる。近年では、フランスやオーストラリアでもマガキが養殖されており、世界で最も食用に供されるカキとして名高い。カキは、栄養価が高いことから古代より食用にされてきたが、前述したとおりカキ肉から抽出したカキ肉エキスには、グリコーゲンやタンパク質のほか、カルシウム、亜鉛、セレニウム、銅、マンガンなどのミネラルを多量に含むほかさらには前記高い抗酸化力を持つ抗酸化物質をも多量に含有しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−136946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
かくして本発明は前記従来からの要望に鑑みて創案されたものであり、いわゆる高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有するカキ肉の部位、換言すれば高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有するカキ肉エキス抽出物の部分を選択すると共に、前記選択した抽出物につき、高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有できる抽出法を採用し、もって極めて高い抗酸化力を持った抗酸化物質を含有する有益なカキ肉抽出物を効率よくしかも多量に抽出でき、高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを製造できる高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法は、
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、
前記生成後の液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記液から高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させ、前記液より前記高抗酸化力の抗酸化物質を分離し、
分離後に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを取得する、
ことを特徴とし、
または、
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記上澄み液中における高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記高抗酸化力の抗酸化物質を分離し、
分離後に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを取得する、
ことを特徴とし、
または、
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記上澄み液中における高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記高抗酸化力の抗酸化物質を遠心分離上澄み液として分離し、
前記遠心分離上澄み液に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを集めた、
ことを特徴とし、
または、
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質を遠心分離沈殿物側に分離させて、遠心分離上澄み液と遠心分離沈殿物とに分離し、
分離後の前記遠心分離上澄み液中に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を連続的に連続遠心分離機に注入すると共に、該連続遠心分離機を、前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質を遠心分離沈殿物側に分離させて、遠心分離上澄み液と遠心分離沈殿物とに分離し、
分離後の前記遠心分離上澄み液中に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノール濃度が30%乃至90%、好ましくは70%になるまでエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を連続的に連続遠心分離機に注入すると共に、該連続遠心分離機を、前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質を遠心分離沈殿物側に分離させて、遠心分離上澄み液と遠心分離沈殿物とに分離し、
分離後の前記遠心分離上澄み液中に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る連続遠心分離機の遠心加速度は、略8000×Gである、
ことを特徴とし、
または、
前記カキ肉は剥き身である、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明による高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法であれば、
高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有するカキ肉の部位、換言すれば高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有するカキ肉エキス抽出物の部分を選択すると共に、前記選択した抽出物につき、高い抗酸化力を有する抗酸化物質を多く含有できる抽出法によって、高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含有したカキ肉抽出物を効率よくしかも多量に抽出でき、もって高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを製造できるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法を示す概略構成説明図(その1)である。
【図2】本発明による連続遠心分離機の概略構成を説明する説明図である。
【図3】他の実施例による連続遠心分離機の概略構成を説明する説明図である。
【図4】ORAC法の測定原理を説明する説明図である。
【図5】ORAC値の計算方法及びORAC法で使用する機器、試薬、単位を説明する説明図である。
【図6】各種の食品のORAC値を説明する説明図である。
【図7】最大遠心加速度の計算例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施例を説明する。
【0018】
まず、水溶液1が貯留された抽出容器2内にカキ肉エキスを抽出すべくカキ肉3を入れる。
【0019】
ここで、抽出に使用する前記水溶液1の種類については何ら限定されないが、一般に水を使用して構わない。また、この水の温度についても何ら限定されず、一般的な常温の水でもかまわないし、30℃ないし50℃の温水でもかまわないし、50℃以上の熱水でもかまわない。また、前記水にエタノールを混入してエタノール溶液とすることもある。エタノールを混入することでカキ肉エキスのエタノール溶液内抽出が促進できる。
【0020】
抽出に際しては、前記抽出容器2内を常圧にして行う場合もあるし、抽出容器2内を密閉し、1気圧以下に減圧したり、1気圧以上に加圧したりする場合もある。
【0021】
高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多量に含有できるよう良好な抽出法を選択するためである。
【0022】
次に、所定時間、たとえば数時間の抽出時間経過後、前記抽出容器2内からカキ肉3を取り出し、抽出容器2内の抽出された抽出液を濃縮し、濃縮液4を生成する。
【0023】
この濃縮方法についても、各種の濃縮方法が存するが、本発明では限定されず、いかなる濃縮方法でもかまわない。いわゆる低温加熱濃縮方法でも、高温加熱濃縮方法でもかまわない。
【0024】
また、濃縮液4について、濃縮の割合についても何ら限定されず、3分の1に濃縮する場合でも2分の1に濃縮する場合でもかまわない。
【0025】
次に、前記濃縮液4にエタノール濃度が30%乃至80%程度になるよう、好ましくはエタノール濃度が70%になるようエタノール5を加え、該エタノール5が加えられ、薄められた濃縮液4を撹拌して沈殿物6と上澄み液7とに分離する。この分離方法については何ら限定されないが、自然沈殿による自然分離法では撹拌した後、所定時間そのままの状態で待機し、自然に沈殿物6が沈殿するのを待つ。
【0026】
沈殿物6が沈殿し、もって沈殿物6と上澄み液7とが明確に分離した後、この上澄み液7のみを取り出す。
【0027】
そして、この上澄み液7を図2に示す連続遠心分離機8の注入パイプ9から連続遠心分離機内8に連続的に注入できるように構成する。
なお、図3の様に、左側の注入パイプ10から前記上澄み液7を注入し、右側の注入パイプ11からはエタノール5を注入し、該エタノール5の働きにより連続遠心分離機8の遠心分離作用を促進し、より分離できるよう構成してもかまわない。
【0028】
ここで、連続遠心分離機8内に所定の量の上澄み液7の注入が確認され、連続遠心分離機8が稼働して、いわゆる遠心分離沈殿物15と遠心分離上澄み液16とに連続的に分離されるものとなる。
【0029】
図から理解されるように、収納タンク12の外周側壁13側に遠心力によって集められるのがいわゆる遠心分離沈殿物15であり、それ以外収納タンク12の上方から送出パイプ14を介して外部へ送出されるのが、いわゆる遠心分離上澄み液16である。
【0030】
本実施例では、図1から理解されるように、たとえば70%濃度になるようエタノール5が加えられた濃縮液4が撹拌され、その後に自然沈殿するのを待つ。この自然沈殿後に採取された上澄み液7を例えば30リットル、前記連続遠心分離機8に連続的に注入している。
【0031】
そして、連続遠心分離機8を稼働し、連続的に前記上澄み液7が遠心分離される。
【0032】
その結果、いわゆる遠心分離沈殿物15が0.3リットル、また連続遠心分離上澄み液16が29.7リットル採取されたことが確認された。
【0033】
そして、本発明では、この連続遠心分離上澄み液16内に高い抗酸化力を持つ抗酸化物質が多く含有されていることが確認できたのである。
【0034】
ここで、前記遠心分離上澄み液16について、どの程度の数値の抗酸化力を有する物質が入っているのか、いわゆるORAC法(Oxygen Radical Absorbance Capacity 法)によって前記抗酸化力を示す数値、すなわちORAC値の検出を行った。そして、その結果、前述したように極めて高い抗酸化力を有する抗酸化物質の含有が確認されたのである。
【0035】
ORAC法の測定原理について若干説明する。まず、一定の活性酸素種を発生させ、それによって分解される蛍光強度を測定し、経時的に減少する蛍光強度の曲線を描いた場合、この反応系に抗酸化物質が共存すると蛍光物質の蛍光強度の減少速度が遅延する。よって、この原理により抗酸化物質の存在が確認できるものとなるのである。
【0036】
上記の原理に基づき、図4を参照して説明すると、検体もしくは標準物質存在下での蛍光強度の曲線下面積(AUC:
Area Under the Curve)と、非存在下(ブランク)でのAUCとの差(net AUC)を算出し、前記検体のnet AUCについて、濃度既知の標準物質(Trolox)のnet
AUCに対する相対値を求める。その相対値を基にTrolox濃度に換算して検体の抗酸化力とするのである(単位 μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラム)。
【0037】
ORAC値の計算方法などは、図5に示す。
【0038】
すなわち、ORAC法では、まず、試料溶液、又は標準溶液(Trolox)に蛍光プローブ(Fluorescein)を添加し、ラジカル開始剤としてAAPH(2,2’-Azobis(2-amidinopropane)
dihydrochloride)を用いて活性酸素を発生させると、活性酸素によりFluoresceinが酸化される。
【0039】
Fluoresceinの酸化物は蛍光を有しないため、蛍光強度が経時的に減少する。試料が抗酸化力を有する場合、抗酸化物質により活性酸素が消去されFluoresceinの酸化が抑制されるため、抗酸化物質が存在しない場合(ブランク)に対してFluoresceinの蛍光強度が持続し、減少速度が遅延する。
【0040】
試料、又はTroloxとブランクの蛍光強度を縦軸、測定時間を横軸にプロットし、試料溶液、又はTroloxの蛍光強度の曲線下面積(Area
Under the Curve;AUCsample、又はAUCTrolox)とブランクの曲線下面積(AUCblank)の差、即ち斜線部分の面積を算出し(それぞれをnetAUCsample、netAUCTroloxという)、標準物質のnetAUCTroloxから試料のnetAUCsampleに相当するTrolox濃度を求め、たとえば、試料1g当りのTroloxのマイクロモル数としてORAC値を算出するのである。
【0041】
従って、ORAC値の単位としては、μmole TE/g(TE:Trolox
Equivalent)などが使用されることになる。
【0042】
なお、ここで、ORAC値は抗酸化力を標準物質(Trolox)の量に換算して表現するものであり、特定の抗酸化物質量を示す値ではないことに注意しなければならない。しかしながら、ORAC値が高い数値の場合には、たとえば、そのカキ肉エキスには抗酸化力が高い抗酸化物質が含有されていることが理解できる。
【0043】
しかして、本実施例において、前記連続遠心分離上澄み液16についてのORAC値を検出してみると、その値は160μmole
TE/gとの数値を検出し、これは通常の食品群の中では極めて高い数値であった。
【0044】
米国ORAC社では、各種の食品のORAC値をデータベース化している。そのグラフを図6に示す。この図6から理解されるように、米国ORAC社が数値の高いと認めるブルーベリーでさえ、そのORAC値は66.2μmole
TE/gである。
【0045】
これに対し、本実施例のカキ肉エキス、すなわち、連続遠心分離上澄み液16ではこれより約2倍程度の高い抗酸化力を有するとされる数値、160μmole
TE/gのORAC値を持つ抗酸化物質が含有されていることが理解できるのである。
【0046】
なお、本件発明者は、本発明での連続遠心分離機8で分離する前のカキ肉エキス、すなわち、図1に示す様に、抽出液の濃縮液4にエタノール5を加えて、たとえば70%濃度のエタノール溶液となった前記溶液についてそのORAC値をも検出している。その結果、当該70%濃度のエタノール溶液とされた前記溶液は、132μmole
TE/gのORAC値が検出された。
【0047】
さらに、前記したように、そのエタノール溶液とされた液30リットルを前述したように連続遠心分離機8にかけ、29.7リットルの遠心分離上澄み液16と0.3リットルの遠心分離沈殿物15に分離され、そして、連続遠心分離上澄み液16のORAC値は、前記したように160μmole
TE/gとの高い数値を示しているのであるが、その反面、連続遠心分離沈殿物15のORAC値は、30.7μmole TE/gだったのである。
【0048】
この理由について考察すると、連続遠心分離機8は強力な回転力で回転し、注入された上澄み液7には通常の重力以上の遠心加速度が加えられる。
【0049】
その結果、この遠心加速度により強制的な分離が行われるものとなる。そして、自然沈殿では決して分離して沈殿しない物質、すなわち抗酸化物質の抗酸化力を有しない物質や抗酸化力の低い物質が強制的に分離されるものとなると考えられる。そしてそれらの物質は、強力な遠心加速度により連続遠心分離沈殿物15内に含まれてしまうと理解されるからである。
【0050】
すなわち、自然沈殿などによる通常の重力だけでは沈殿しなかったいわゆる微細な粒子、たとえば抗酸化物質の抗酸化力を有しない物質あるいは抗酸化力の低い物質が拡散しようとする拡散力を前記連続遠心分離機8の回転による遠心加速度が上回り、これによりたとえば抗酸化物質の抗酸化力を有しない物質あるいは抗酸化力の低い物質が強制的に遠心分離沈殿物15側に分離されるのである。
【0051】
連続遠心分離機8を稼働し、回転させると、収納タンク12内に注入された上澄み液7に遠心加速度が働き、この遠心加速度がたとえば抗酸化物質の抗酸化力を有しない物質あるいは抗酸化力の低い物質が拡散しようとする拡散力より大きくなったときに、前記自然沈殿では沈殿しなかったたとえば抗酸化物質の抗酸化力を有しない物質あるいは抗酸化力の低い物質をも分離して遠心分離沈殿物15となるからである。
【0052】
従って、連続遠心分離機で分離する前のいわゆるエタノールを加えた濃縮液の溶液のORAC値は、132μmole
TE/gであったのに対し、連続遠心分離機で強制的に分離し、生成された上澄み液のORAC値は、160μmole TE/gと極めて高くなり、これにより、極めて抗酸化力の高い抗酸化物質を多く取り込んだカキ肉エキスを抽出、取得、製造できるものとなったのである。
【0053】
なお、連続遠心分離機8につき、前記上澄み液7中に存在するたとえば抗酸化物質の抗酸化力を有しない物質あるいは抗酸化力の低い物質が有する拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数につき考察すると、図7から理解されるように、該連続遠心分離機8の最大回転半径が11.4cm、最高回転数が8000rpmとすると、この最大遠心加速度としては、略8157×gという数値となる。
【0054】
従って、本発明では連続遠心分離機8の最大遠心加速度が、略8157×gという数値であり、この数値程度の遠心加速度が前記上澄み液7中に存在する抗酸化物質の抗酸化力を阻害する阻害物(粒子)が有する拡散力を上回る遠心加速度といえるものとまず証明できることになった。
【符号の説明】
【0055】
1 水溶液
2 抽出容器
3 カキ肉
4 濃縮液
5 エタノール
6 沈殿物
7 上澄み液
8 連続遠心分離機
9 注入パイプ
10 左側送出パイプ
11 右側送出パイプ
12 収納タンク
13 外周側壁
14 送出パイプ
15 遠心分離沈殿物
16 遠心分離上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、
前記生成後の液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記液から高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させ、前記液より前記高抗酸化力の抗酸化物質を分離し、
分離後に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを取得する、
ことを特徴とする高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項2】
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記上澄み液中における高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記高抗酸化力の抗酸化物質を分離し、
分離後に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを取得する、
ことを特徴とする高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項3】
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記上澄み液中における高抗酸化力の抗酸化物質が分離して取りさせる遠心加速度で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記高抗酸化力の抗酸化物質を遠心分離上澄み液として分離し、
前記遠心分離上澄み液に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスを集めた、
ことを特徴とする高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項4】
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を遠心分離機に注入すると共に、該遠心分離機を、前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質を遠心分離沈殿物側に分離させて、遠心分離上澄み液と遠心分離沈殿物とに分離し、
分離後の前記遠心分離上澄み液中に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とする高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項5】
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を連続的に連続遠心分離機に注入すると共に、該連続遠心分離機を、前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質を遠心分離沈殿物側に分離させて、遠心分離上澄み液と遠心分離沈殿物とに分離し、
分離後の前記遠心分離上澄み液中に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とする高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項6】
水溶液が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、抽出後に前記カキ肉を取り出し、当該カキ肉を取り出した後の前記抽出液を濃縮して濃縮液を生成し、前記濃縮液にエタノール濃度が30%乃至90%、好ましくは70%になるまでエタノールを加え、撹拌して沈殿物と上澄み液とに分離し、分離後に前記上澄み液を取り出し、
前記取り出した上澄み液を連続的に連続遠心分離機に注入すると共に、該連続遠心分離機を、前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る遠心加速度が得られる回転数で回転させ、前記注入した上澄み液中から前記抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質を遠心分離沈殿物側に分離させて、遠心分離上澄み液と遠心分離沈殿物とに分離し、
分離後の前記遠心分離上澄み液中に高抗酸化力を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とする高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項7】
前記上澄み液中における抗酸化力を有しない物質あるいは低抗酸化力の物質の拡散力を上回る連続遠心分離機の遠心加速度は、略8000×Gである、
ことを特徴とする請求項4、請求項5または請求項6記載の高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法。
【請求項8】
前記カキ肉は剥き身である、
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7記載の高抗酸化力を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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