説明

高比重骨材を配合した無機質板材組成物及びその製造方法

【課題】磁石吸着性、熱伝導性、導電性、電波吸収性、電磁波吸収性、遮音性などの機能性と強度に優れ、しかも、従来より薄い無機質板材組成物を提供する。
【解決手段】水硬性材料及び骨材を主成分とし、有機質繊維を配合してなる無機質板材組成物において、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合したことを特徴とする無機質板材組成物。高比重骨材として粒径を150μm以下に調整した骨材及び有機質繊維としてセルロース繊維の叩解度を100〜300CSFに調整した繊維を配合し、丸網式抄造機で製造する無機質板材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比重の原料を用いた無機質板及びその製造方法に関するものであり、特に機能性を有する高比重の原材料を用いた無機質板及び前記原材料を抄造して無機質板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高比重の無機質板を製造することにより、高強度の製品を得ることが行なわれている。高比重の無機質板を得る方法としては、抄造などにより得た成形体をプレスして高比重化する方法、高比重の原材料(骨材など)を配合して押出成形や流し込み成形により製造する方法などが挙げられる。
従来の無機質板の高比重化は、前述したとおり高強度の成形体を得ることが主目的であった。無機質板の高比重化として、特許文献1が従来例として挙げられる。
【0003】
特許文献1には、Cu−kα線を用い、Generator tension:40kV、Generator current :30mA、Divergence slit :1°、Receiving slit :0.2°、Stepsize :0.050°2θ、Time per step :1.00S、の条件下、連続法により粉末X線回折を測定した場合、2θ=20〜40°の間に観察されるブロードなピークの面積が150〜400[counts・°]であることを特徴とする比重が1.2〜1.7の水硬性無機質成形体が記載されている。この発明では、比重が大きく、強度に優れ、かつ切削性の良好な水硬性無機質成型体を得るものである。このように従来、無機質板の比重を高比重とする目的は、主に高強度の無機質板を得るものが主体であった。
特許文献2には、抄造法におけるセメント板の製造方法において、セメント、シリカ、添加材及び補強繊維からなる配合のうち、前記シリカとして超微粉珪砂を、また前記補強繊維として高叩解パルプ並びに0.2質量%以下の有機合成繊維の混合物を使用し、該セメント配合物に水を加え、固形物濃度5〜10%のスラリを抄造して高強度のセメント板を製造する方法が記載されている。この製造方法では、抄造後メーキングロールに巻き取られた生板を展開後、プレスし充填密度を向上しオートクレーブ養生によりセメントマトリックスの結合強度を高めることにより、高強度のセメント板を得るものである。
【0004】
一方、無機質板材としては、従来のように、調湿性、加工性など以外にも様々な機能を付与することが求められるようになっている。例えば、熱伝導性、導電性、遮音性、マグネットの付着等の機能である。
このような機能を得るためには、無機質板材製造時に機能を付与するための原料を配合する必要がある。例えば、無機質板自体にマグネット付着機能を付与するためには、鉄・ニッケル等、合金を含む磁性体を配合する必要がある。
【0005】
このような無機質板材を製造する方法としては、押出成形法、長網式抄造法、丸網式抄造法、流し込み成形法などが挙げられる。特に、丸網式抄造法では、3.0〜10.0mmの薄い成形体を連続して成形できることから、薄くて大判の成形体として、建築用ボードの製造方法として多用されている。しかしながら、丸網式抄造法の場合には、このような重量物を配合した場合、高比重の原料が沈降してしまい、抄き上げることができなかった。このようなことから、従来、丸網式抄造法では、比重1.0〜3.0程度までしか抄き上げることができなかった。このため、例えば、磁性体を配合したボードを製造するために原料として鉄・ニッケル等又はそれらを含む合金等高比重の原料を配合することができなかった。従って、無機質板材の表面にマグネットを付着できるようにするためには、無機質板材表面に磁性を帯びたシートなどを貼着する必要があった。
【0006】
特許文献2には、石膏ボードなどの無機質板材表面に磁性シートを貼着し、防火壁装材に必要な、防火性能、ガス有害性を具備した、磁石の吸着力によって容易に表示材、壁装材等を貼着ないし剥離できる防火磁性材料及びそれを用いた防火磁性壁が記載されている。しかしながら、このような磁性シートには、樹脂が含まれているため、ガス有害性を考慮していたとしても、磁性シートが貼着された無機質板材が炎にさらされた場合には、何らかの発煙、ガスの発生は避けられない。
【特許文献1】特開2000−63166号公報
【特許文献2】特開平4−160046号公報
【特許文献3】特開2005−290707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、原料として比重が約2.3の珪石を用いている関係で、また特許文献2では、抄造法を用いている関係で、比重が3〜8のような高比重の骨材を原料とする場合には適用できないものであって、このような高比重の骨材を原料とする場合に無機質板材を製造することができる組成物を見出し、それによって高機能性の無機質板材を製造する方法を開発することが望まれていた。
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、高比重化による機能性アップとして、従来の高強度化だけではなく、磁石吸着性、熱伝導性、導電性、電波吸収性、電磁波吸収性、遮音性などに優れた性能を発揮する無機質板材及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
特に、丸網式抄造法では製造が困難な高比重骨材を使用した場合においても、より厚みの薄い無機質板材を前記製造方法により提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の手段により前記の課題を解決した。
(1)水硬性材料及び骨材を主成分とし、有機質繊維を配合してなる無機質板材組成物において、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合したことを特徴とする無機質板材組成物。
(2)前記高比重骨材として、粒径を150μm以下に調整した骨材を配合することを特徴とする前記(1)に記載の無機質板材組成物。
(3)前記有機質繊維としてセルロース繊維の叩解度を100〜300CSFに調整した繊維を配合することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の無機質板材組成物。
【0009】
(4)水硬性材料、低比重骨材及び高比重骨材とを主成分とし、有機質繊維を配合して製造した無機質板材組成物であって、高比重骨材として粒径を150μm以下に調整した骨材を配合し、有機質繊維としてセルロース繊維の叩解度を100〜300CSFに調整した繊維を配合することを特徴とする無機質板材組成物。
(5)該無機質板材組成物が丸網式抄造機で製造されたものであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の無機質板材組成物。
(6)水硬性材料及び骨材を主成分とし、有機質繊維を配合したスラリーを抄造して無機質板材を成形する無機質板材組成物の製造方法において、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合して得たスラリーを丸網式抄造機で抄造して製造することを特徴とする無機質板材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無機質板材組成物は、丸網式抄造機で抄造できることから、従来にない幅広い、高比重の原料の選択が可能となる。これにより、磁石吸着性、熱伝導性、導電性、電波吸収性、電磁波吸収性、遮音性などの機能性に優れ、しかも、従来より薄い無機質板材を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合したことを特徴とする無機質板材組成物であり、好ましくは高比重骨材として、粒径を150μm以下に調整した骨材を配合し、有機質繊維としてセルロース繊雑の叩解度を100〜300CSF(カナダ標準ろ水度)に調整した繊維を配合した無機質板材組成物とすることにより、高比重で従来にない幅広い原料の選択が可能となり、例えば、各種機能を持った原料を配合することができ、マグネット付着、熱伝導性、導電性、遮音性などに優れた無機質板材を得ることができる。
さらに、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合し丸網式抄造機で製造することにより、丸網式抄造機の特徴を生かした、薄くて大判のシート状の機能性に優れた無機質板材を得ることが可能となる。
【0012】
本発明の無機質板材組成物は、水硬性材料、比重1.0〜3.0未満の低比重骨材、比重3.0〜8.0の高比重骨材、有機質繊維である。
水硬性材料としては、セメント、セッコウ、鉄鋼スラグなどの水硬性を有する材料の一種または二種以上の混合物を用いることができる。比重1.0〜3.0未満の低比重骨材としては、珪砂、珪灰石、炭酸カルシウム、アルミニウムなどのうちの一種または二種以上の混合物を用いることができる。比重3.0〜8.0の高比重骨材としては、熱伝導性・導電性を得るためには銅や鉄、電波吸収性・電磁波吸収性にはフェライトやカーボン、遮音性・磁石吸着には磁鉄鉱や鉄などのうちの一種を用いることができる。有機繊維としては、針葉樹パルプを用いる。
水硬性材料の配合量は、20〜80質量部であるが、水硬性材料は、少なすぎると無機質板の強度低下を招き、多すぎると、高比重骨材の配合量が減少し、所望の機能を得ることができなくなるので、30〜50質量部配合することが望ましい。
【0013】
低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材の配合量は、5〜50質量部であるが、セメントとの反応性や高比重骨材の配合量から10〜40質量部配合することが好ましい。
高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材の配合量は、10〜76質量部であるが、少なすぎると所望の機能を得ることができなくなり、多すぎると無機質板の強度が低下するため30〜50質量部配合することが好ましい。また、高比重骨材は粒度を150μm以下に調整したものを用いる。粒度は細かい方が混合性、分散性がよくなるが、細かいほど粉砕に要するエネルギーコストが増大するので、粒度の下限値は実用的な面から約30μmである。
【0014】
有機質繊維の配合量は、4〜10質量部であるが、6〜8質量部配合することが好ましい。これは、配合量が少ないと得られる無機板材の強度が低くなり、配合量が多くなると不燃性が低下する。また、有機質繊維としては、針葉樹パルプの使用が望ましい。また、叩解度を100〜250CSF(カナダ標準ろ水度)にすることで、粒度が150μm以下に調整された高比重骨材が、繊維と絡み合うことで沈降を防ぎ、他の原材料とともに抄造することが可能となる。なお、広葉樹では繊維が短く抄造に適さない為、パルプは針葉樹の使用が望ましい。
前記配合の他に、必要に応じて、有機繊維として、ポリプロピレン、アクリル繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、レーヨン、アラミド繊維、ポリエステル繊維などを、無機繊維として、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウールなどを配合しても良い。これらの配合量は組成物全体の0〜10%(質量)、好ましくは3.5〜5.0%の範囲であり、目的とする無機質板材の性能に合わせて随時変更すればよい。
【0015】
さらに、必要に応じて高分子凝集剤を配合しても良い。凝集剤の配合により、より抄造が行ないやすくなるが、配合量としては、原料の重量に対して100〜200ppmとなるように配合することが好ましい。その他、成形助剤として、保水剤、減水剤等、通常使用される助剤を添加してもよい。
【0016】
これらの配合物を丸網式抄造機で抄造を行なう。配合物のスラリー濃度は、3〜6%になるよう調整される。これは濃度が薄い場合は有機繊維に原料が絡み難くなり、濃度が濃い場合は抄き取りが困難になり、製品の平滑性が得られなくなるためである。
丸網式抄造機は、バットの中のスラリーを丸網でフェルト上にシート状に脱水抄造される。抄造されたシートの厚みは、0.5〜1.0mm程度であり、このシートをメーキングロールで所望の厚みになるまで積層する。積層された抄造シートは、切断機で展開され、受取コンベアに受け取られる。その後、プレス工程、オートクレーブなどの養生工程、切断、表面研削などの加工工程を経て無機質板材が製造される。
プレスを行う場合は、300(kg/cm)以下、好ましくは50〜250(kg/cm)でプレスする。プレス圧が250(kg/cm)以上になると、配合する原料によっては積層した生板の層間はくりが発生する。
オートクレーブ処理を行う場合は、200℃以下、好ましくは150〜200℃で行う。これはオートクレーブ温度が200℃以上になると、有機繊維の劣化が発生し、150℃以下になると、場合によっては無機質板材の強度が低下する。
尚、丸網式抄造機でのメーキングロールでの積層は、メーキングロールの径に応じて3〜20mm程度にすることが望ましい。メーキングロールでの積層を厚くすると、切断して板状にした時にメーキングロールの曲率により層間にずれが生じ、層間はく離が起こりやす<なる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
[実施例1〜3]
セメント、珪砂、磁鉄鉱粉末、針葉樹パルプを配合して、スラリーを調製し、丸網式抄造機での抄造性を確認した。セメントはポルトランドセメントを用い、珪砂としては平均粒度が100μm以下の珪砂を用い、磁鉄鉱粉末は平均粒度が第1表に示すものを用いた。各成分の配合割合は第1表に示す。抄造性の結果については第1表に示す。
抄造できた原料配合のものについて、厚さが0.6mmのシートを抄造し、メーキングロールで5.4mmに積層後、展開し、プレスを行い、4.8mmに厚みを調整した後、オートクレーブ養生を行い、切断加工を行いサイズ1,000mm×2,000mm、t=4.8mmのシート状の磁石吸着材を得た。
【0019】
実施例で得られたシート状磁石吸着材と市販の磁石面積5cm、自重35.8gのフェライト磁石を用いて垂直面にどれだけの物を保持できるかを検証した。検証は、得られたシート状磁石吸着材1の長手方向を半分に切断し、500mm×1,000mmとしたものを壁面に固定し、図1に示すようにA4コピー用紙(大きさ210mm×297mm、坪量:約64g/m)2をボタン状磁石3で保持した。配合1のもの(実施例1)は8枚、配合2のもの(実施例2)は5枚保持できることを確認した。また、プラスチック製の磁石付き小物入れ(巾80mm×高さ50mm×奥行き60mm)約80gを保持できる事を確認した。実施例1〜3及び比較例4〜8の結果を第1表に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
尚、本実施例では、磁石吸着材としたが、本発明はこれに限定されるものではない。高比重骨材の種類を変更することにより、熟伝導性、導電性、電波吸収性、電磁波吸収性、遮音性などの機能を持たせることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の無機質板材組成物は、高比重の原料を丸網式抄造機で抄造できるため、高比重の原料を含むレジンシートを板材表面にラミネートしなくても、磁石吸着性、熱伝導性、導電性、電波吸収性、電磁波吸収性、遮音性などの機能性に優れた無機質板材を得ることが可能となる。
しかも、上記製法によれば、他の製法に比べより薄い無機質板材組成物の製造が可能となるため、防火壁装材、電磁波シール材、遮音材あるいは表示材として、壁、床面、天井等に建築用資材に幅広く利用されると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明により得られたシート状磁石吸着材に紙が磁石により保持される状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 シート状磁石吸着材
2 A4コピー用紙
3 ボタン状磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料及び骨材を主成分とし、有機質繊維を配合してなる無機質板材組成物において、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合したことを特徴とする無機質板材組成物。
【請求項2】
前記高比重骨材として、粒径を150μm以下に調整した骨材を配合することを特徴とする請求項1に記載の無機質板材組成物。
【請求項3】
前記有機質繊維としてセルロース繊維の叩解度を100〜300CSFに調整した繊維を配合することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無機質板材組成物。
【請求項4】
水硬性材料、低比重骨材及び高比重骨材とを主成分とし、有機質繊維を配合して製造した無機質板材組成物であって、高比重骨材として粒径を150μm以下に調整した骨材を配合し、有機質繊維としてセルロース繊維の叩解度を100〜300CSFに調整した繊維を配合することを特徴とする無機質板材組成物。
【請求項5】
該無機質板材組成物が丸網式抄造機で製造されたものであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の無機質板材組成物。
【請求項6】
水硬性材料及び骨材を主成分とし、有機質繊維を配合したスラリーを抄造して無機質板材を成形する無機質板材組成物の製造方法において、水硬性材料15〜80質量部、低比重骨材として比重1.0〜3.0未満の骨材5〜50質量部、高比重骨材として比重3.0〜8.0の骨材10〜76質量部と、有機質繊維4〜10質量部を配合して得たスラリーを丸網式抄造機で抄造して製造することを特徴とする無機質板材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−302488(P2007−302488A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130387(P2006−130387)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【Fターム(参考)】