説明

高水圧下の止水グラウト工法及びシステム

【課題】高水圧の深地層において岩盤を破壊することなく施工できる止水グラウト工法及びシステムを提供する。
【解決手段】地下深部の坑道6の構築時に生じうる高水圧の湧水9を抑えるため、坑道6から周囲の湧水発生地質8にグラウト孔11及び水抜き孔21を穿ち、グラウト孔11に圧力計13及びグラウト材注入装置15を接続すると共に水抜き孔21に制御バルブ22及び排水装置25を接続し、水抜き孔21の制御バルブ22を徐々に拡げてグラウト孔11の圧力計13が所定圧力P以下となる初期開度に調節したうえで注入装置15を駆動してグラウト材Gを注入し、グラウト孔11の圧力計13の圧力上昇に応じて制御バルブ22の開度を拡げて圧力計13を所定圧力P以下に維持する。好ましくは、水抜き孔21の制御バルブ22が全開となり且つ排水流量計24の排水流量が所定流量W以下となるまでグラウト孔11へのグラウト材Gの注入を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高水圧下の止水グラウト工法及びシステムに関し、とくに地下深部に坑道を構築する際に発生しうる高水圧の湧水に対応するための止水グラウト工法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地下深部の地層は難透水性・低透気性といった遮蔽性能を有しており、そのような遮蔽性能を利用して地上の不要な物質等を地下深部の地層内に貯留・処分する技術の開発が進められている。例えば原子力発電所から生じる放射性廃棄物(放射性核種を含む)を人間の生活環境から隔離して処分するため、図4(A)に示すように、地下深度300〜1000m程度の地層(以下、深地層という)の安定した岩盤内に構築した処分坑道6bに放射性廃棄物を閉じ込める地層処分施設の建設が計画されている(非特許文献1参照)。
【0003】
図4(A)の地層処分施設は地表2上の地上設備3と地下施設とからなり、地下施設は、深地層1に構築した複数の処分坑道6b及びそれらを相互に連絡する主要坑道6aと、作業員等が地表2から処分坑道6bに出入りするためのアクセス立坑4と、放射性廃棄物を地表2から処分坑道6bへ搬入するためのアクセス斜坑5とで構成されている。放射性廃棄物を地下施設の処分坑道6b内に搬入・集積したのち、処分坑道6bの内側をベントナイト等の緩衝材で充填して埋め戻し、深地層1の遮蔽性能を損なわない状態に復帰させる。放射性廃棄物中の核種は長期にわたり減衰しつつも存在し続けるが、遮蔽性能を有する深地層1と緩衝材等とを組み合わせた多重バリアによって閉じ込めることにより、人間の生活環境への放射性核種の移行を長期にわたり確実に抑止することが期待できる。
【0004】
図4(A)のような地層処分施設を構築する場合は、同図(B)に示すように、先ず深地層1にアクセスするための立坑4や斜坑5を掘削し、その後に深地層1の主要坑道6aや処分坑道6b(以下、両者をまとめて坑道6ということがある)を水平方向に展開して掘削する。坑道6の掘削に際しては、放射性核種の卓越した移行通路となりうる水みち等を作らないことが重要である。また、深地層1には湧水の原因となる未固結層、水みちとなる亀裂、断層破砕部、透水性の高い割れ目等の地層(以下、湧水発生地層という)が存在すると想定されるが、掘削する坑道6(大気圧状態)と地上近傍の地下水位との間にはかなりの高差圧(例えば地下300mの坑道の場合は3MPa、1000mの場合10MPaの圧力差)を生じる可能性があり、同図(B)のように坑道6の掘削時に湧水発生地層8が存在すると突発的に大量・高圧の湧水9が発生して施工の安全性や工程に多大な影響を与えるので、坑道6の掘削に際しては湧水9に対する対策工が不可欠である。
【0005】
従来から湧水9に対する代表的な対策工として、湧水発生地層8に水抜きボーリング孔を設ける水抜き工法、湧水発生地層8にグラウト材(セメント系材料、粘土系材料等)を注入する止水グラウト工法等が知られている。通常の山岳トンネル等の掘削作業では、一般的に排水が容易であることから先ず水抜き工法が適用され、それでも不十分な場合に止水グラウト工法が適用されている。これに対して地層処分施設を構築する場合は、水抜き工法によって地下水を坑道6に集水すると周辺の地下水位が低下すると共に坑道6の地質的・化学的環境が乱されて深地層1の遮蔽性能を損なうおそれがあるため、周辺の地下水位をできるだけ低下させない止水グラウト工法を用いることが好ましいとされている(非特許文献2参照)。また、深地層1での水抜き工法は、地上までの揚水距離が長くなるので、通常の山岳トンネル等の水抜き工法に比してコスト高となる問題もある。
【0006】
地下に構造物(坑道等)を構築する際の止水グラウト工法として、特許文献1は、構造物から周囲の透水性岩盤に複数の孔を形成し、何れかの孔にセメントミルク(グラウト材)を3〜10MPaで圧力注入すると共に他の孔から余剰水を排水する工程を複数の孔に対して順次繰り返し、各工程において低濃度(セメント/水が1/30〜1/500の割合)のセメントミルクを用いると共にセメントミルクの注入の進行に応じて注入圧力を徐々に大きくすることにより、岩盤内の亀裂(湧水発生地層)の深部又は細部までセメントミルクが充填された止水領域を形成するグラウト工法を開示している。また特許文献2は、止水対象の岩盤内に浸透水流(地下水の流れ)が存在する場合に、水流の上流側に形成したグラウト流入孔(ボーリング孔)から粘土懸濁液(グラウト材)を供給し、水流の下流部に形成した空間(坑道等)に粘土懸濁液を水流により自然流下させることにより、岩盤内の亀裂(湧水発生地層)を均一で高い密度で充填するグラウト工法を開示している。
【0007】
【特許文献1】特開2006−299741号公報
【特許文献2】特許第2691252号公報
【非特許文献1】電気事業連合会・核燃料サイクル開発機構「TRU廃棄物処分技術検討書第3章、地層処分の工学技術」、2005年9月、インターネット<URL:http://www.fepc−atomic.jp/nuclear/waste/tru/001.html>
【非特許文献2】佐藤稔紀ほか「地下1,000mに向けて・瑞浪超深地層研究所の建設計画」サイクル機構技法、第20号、2003年9月、インターネット<URL:http://jolisfukyu.tokai−sc.jaea.go.jp/fukyu/gihou/pdf2/n20−04.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように湧水発生地層にグラウト材を圧力注入する止水グラウト工法は、深地層1のような高水圧下でグラウト材を注入できる適当な装置(ポンプ等)が存在しない問題点がある。一般に止水グラウト工法では湧水圧(外水圧)の2〜3倍の圧力でグラウト材を注入する必要があり、通常の山岳トンネル等では最大でも注入圧力を7〜8MPa程度とすればグラウト材の注入が可能であるが、例えば地下深度1000m程度の深地層1では湧水圧も10MPa程度の高圧となるため、既存の注入装置ではグラウト材を注入することができない。また、たとえ深地層1でグラウト材を注入する適当な注入装置が開発できたとしても、注入圧力を非常に大きくする必要があるため、周辺岩盤の種類や状態によっては高い注入圧により割裂破壊(亀裂)等が発生しうるという問題点もある。深地層1の岩盤に破壊(亀裂)が発生すると、放射性核種の移行通路となる水みちになりうると共に深地層1の遮蔽性能が損なわれる。高水圧の深地層において岩盤を破壊することなく施工できる止水グラウト工法の開発が望まれている。
【0009】
これに対し、特許文献2が開示するような地下水の流れが深地層1内に存在する場合は、その流れを利用してグラウト材を注入することが期待できる。しかし、実際の深地層1の地下水は停止しているか、流動していても極めて低流速であり、深地層1には特許文献2の工法を適用できないことが多い。また、特許文献2の工法では地下水の流動方向にグラウト材を自然流下させるので、グラウト材が湧水発生地層以外の場所にも浸透してしまう問題点もある。深地層1の地質的・化学的環境を保持するためには、グラウト材Gの注入範囲をできる限り湧水発生地層に限定し、想定外の場所への浸透は避けることが望ましい。更に、特許文献2の工法では、水流の上流側から供給されたグラウト材が亀裂(湧水発生地層)に充填されるに応じて流れが止まる可能性があり、そのような流れの停止に抗して上流側にグラウト材を供給するためには注入圧力を大きくする必要があるため、やはり深地層1の岩盤に破壊(亀裂)を発生させる可能性が残る。
【0010】
そこで本発明の目的は、高水圧の深地層において岩盤を破壊することなく施工できる止水グラウト工法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1の実施例を参照するに、本発明による高水圧下の止水グラウト工法は、地下深部の坑道6(図4(A)の坑道6a、6b参照)の構築時に生じうる高水圧の湧水9(図4(B)参照)を抑える止水グラウト工法において、坑道6から周囲の湧水発生地質8(図4(B)も参照)にグラウト孔11及び水抜き孔21を穿ち、グラウト孔11に圧力計13及びグラウト材注入装置15を接続すると共に水抜き孔21に制御バルブ22及び排水装置25を接続し、水抜き孔21の制御バルブ22を徐々に拡げてグラウト孔11の圧力計13が所定圧力P以下となる初期開度に調節したうえで注入装置15を駆動してグラウト材Gを注入し、グラウト孔11の圧力計13の圧力上昇に応じて制御バルブ22の開度を拡げて圧力計13を所定圧力P以下に維持してなるものである。
【0012】
また図1のブロック図を参照するに、本発明による高水圧下の止水グラウトシステムは、地下深部の坑道6(図4の坑道6a、6b参照)の構築時に生じうる高水圧の湧水9(図4(B)を抑える止水グラウトシステムにおいて、坑道6から周囲の湧水発生地質8(図4(B)も参照)に穿ったグラウト孔11に接続する圧力計13及びグラウト材注入装置15、その湧水発生地質8に坑道6から穿った水抜き孔21に接続する制御バルブ22及び排水装置25、並びに水抜き孔21の制御バルブ22を徐々に拡げてグラウト孔11の圧力計13が所定圧力P以下となる初期開度に調節したうえでグラウト材注入装置15を駆動し且つグラウト孔11の圧力計13の圧力上昇に応じて制御バルブ22の開度を拡げて圧力計13を所定圧力P以下に維持する制御装置26を備えてなるものである。
【0013】
好ましくは、水抜き孔21に排水流量計24を設け、圧力計13の圧力上昇に代えて又は加えて、排水流量計24の排水流量の減少に応じて制御バルブ22の開度を拡げる。更に好ましくは、水抜き孔21の制御バルブ22が全開となり且つ排水流量計24の排水流量が所定流量W以下となるまでグラウト孔11へのグラウト材Gの注入を継続する。望ましくは、図1に示すように、グラウト材注入装置15にグラウト材Gの粘度又は硬化速度を調整する調整装置16を含め、グラウト孔11へのグラウト材Gの注入時に排水流量計24の排水流量が低減しない場合にグラウト材Gの粘度又は硬化速度を高める。
【発明の効果】
【0014】
本発明による高水圧下の止水グラウト工法及びシステムは、地下深部の坑道6から周囲の湧水発生地質8に穿ったグラウト孔11に圧力計13及びグラウト材注入装置15を接続すると共に、その湧水発生地質8に坑道6から穿った水抜き孔21に制御バルブ22及び排水装置25を接続し、水抜き孔21の制御バルブ22を徐々に拡げてグラウト孔11の圧力計13が所定圧力P以下となる初期開度に調節したうえでグラウト材注入装置15を駆動してグラウト材Gの注入を開始し、グラウト孔11の圧力計13の圧力上昇に応じて制御バルブ22の開度を拡げて圧力計13を所定圧力P以下に維持しながらグラウト材Gの注入を継続するので、次の顕著な効果を奏する。
【0015】
(イ)水抜き孔21の制御バルブ22の開度の調節によりグラウト孔11と水抜き孔21との間に人工的な動水勾配Uを形成するので、地下深部の岩盤強度が弱い場合でも、グラウト孔11が岩盤に破壊(亀裂)を生じさせない所定圧力P以下となるように制御バルブ22の開度を調節してグラウト材Gを注入することができる。
(ロ)グラウト材Gの注入の進行に応じて人工的な動水勾配Uは徐々に小さくなりうるが、水抜き孔21の制御バルブ22の調節により動水勾配Uを回復させてグラウト孔11を所定圧力P以下に維持するので、岩盤破壊(亀裂)の原因となりうるグラウト材Gの注入圧力の増大を避けることができる。
(ハ)また、グラウト孔11を所定圧力P以下に維持するので、例えば10MPa程度の高水圧下の深地層においても、比較的低圧の既存のグラウト材注入装置15を利用してグラウト材Gを注入することができる。
【0016】
(ニ)グラウト孔11及び水抜き孔21の穿設位置は湧水発生地質8の形状に合わせて任意に選択し、その形状に応じた人工的な動水勾配Uを形成してグラウト材Gを浸透させることができる。すなわち、グラウト材Gの浸透向きの制御が可能であり、グラウト材Gの想定外の場所への浸透を防ぐことができる。
(ホ)また、人工的な動水勾配Uによるグラウト材Gの浸透過程における目詰まり又は硬化を利用して湧水発生地質8の湧水を低下させるので、通常の止水グラウト工法で使用されるセメント系のグラウト材Gだけでなく、硬化速度の遅い低アルカリセメント系や粘土系のグラウト材Gも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1(A)は、本発明の止水グラウトシステムを図4(A)に示すような放射性廃棄物の地層処分施設の坑道6を深地層1に掘削する際に適用した実施例を示し、図4(B)の線I−Iにおける深地層1の坑道6を含む水平断面図を表している。図示例では、地表2から深地層1に立坑4又は斜坑5を掘削したのち、その立坑4又は斜坑5の下端から異なる水平方向に、想定される湧水発生地層8を前方探査しながら2本の主要坑道6a及び処分坑道6bを同時に掘削している。例えば坑道6bの掘削時の前方探査(例えば物理探査や探りボーリング探査等)により湧水発生地層8の存在が検出された場合に、本発明の止水グラウト工法をプレグラウト工法として用いて湧水発生地層8にグラウト材Gを注入し、坑道6bの計画位置(掘削計画位置)に止水ゾーン19を形成することで高水圧の湧水9の発生を未然に防止する(図1(B)参照)。
【0018】
以下、図1の実施例を参照して本発明の止水グラウト工法及びシステムを説明するが、本発明の適用範囲は地層処分施設のような深地層1に限定されるものではなく、高水圧の湧水9が発生しうる通常の山岳トンネルや地下備蓄基地等の構築時にも広く適用可能である。また、本発明の止水グラウト工法は、プレグラウト工法として用いるだけでなく、坑道6の掘削時に湧水9が発生した後に周囲の湧水発生地質8に対してグラウト材Gを注入するポストグラウト工法として用いることもできる。
【0019】
先ず、深地層1の坑道6から周囲の湧水発生地質8まで少なくとも一対のボーリング孔11、21を削孔し、一方のボーリング孔21を排水装置25と接続して水抜き孔とし、他のボーリング孔11をグラウト材注入装置15と接続してグラウト孔とする。グラウト孔11及び水抜き孔21の削孔位置(削孔方向、削孔深さを含む。以下同じ)は、止水対象の湧水発生地質8の形状(例えば亀裂の走向や傾斜等)に合わせて任意に選択することができる。後述するように、本発明ではグラウト孔11と水抜き孔21との間に人工的な動水勾配Uを形成してグラウト材Gを浸透させるが、湧水発生地質8の形状に位置合わせてグラウト孔11及び水抜き孔21の削孔位置を定めることにより、例えば亀裂の走行や傾斜に沿ってグラウト材Gを浸透させて止水ゾーン19を形成することができ、グラウト材Gが湧水発生地質8外の場所へ浸透するのを防ぐことができる。
【0020】
グラウト孔11及び水抜き孔21は、図1に示すように、将来的に坑道6の掘削が計画されている坑道計画位置7と重なるように削孔することが望ましい。深地層1に地層処分施設を構築する場合は、ボーリング孔等が将来的に放射性核種の水みち等となる可能性があり、岩盤中にボーリング孔が残存することが望ましくない。グラウト孔11及び水抜き孔21を坑道計画位置7と重ねて削孔すれば、その後の坑道6の掘削によってグラウト孔11及び水抜き孔21が残存しなくなり、水みちとなるおそれがなくなる。図示例では、処分坑道6bから前方の坑道計画位置7に沿って水抜き孔21を削孔し、その処分坑道6bと平行な坑道計画位置7に沿って主要坑道6aからグラウト孔11を削孔している。グラウト孔11及び水抜き孔21を坑道計画位置7と重なるように削孔できない場合は、止水グラウト完了後にボーリング孔11、21の埋め戻しが必要となる。
【0021】
なお、図1の実施例では説明簡単化のためにグラウト孔11及び水抜き孔21をそれぞれ1本ずつ設けているが、坑道6から湧水発生地質8に向けて複数本のグラウト孔11及び/又は水抜き孔21を設けてもよい。例えば1本の水抜き孔21の両側にそれぞれグラウト孔11を削孔し、両側の2本のグラウト孔11と中央の水抜き孔21との間にそれぞれ人工的な動水勾配Uを形成しながらグラウト材Gを同時に浸透させることにより、湧水発生地質8の形状に合わせて水抜き孔21の両側に広がる止水ゾーン19を形成することができる。逆に、1本のグラウト孔11の両側に2本の水抜き孔21を削孔し、中央のグラウト孔11と両側の水抜き孔21との間にそれぞれ人工的な動水勾配Uを形成しながら、中央のグラウト孔11に注入したグラウト材Gを湧水発生地質8の形状に合わせて異なる方向へ同時に浸透させることも可能である。
【0022】
図示例の止水グラウトシステムは、グラウト孔11に接続するグラウト材注入装置15及び圧力計13と、水抜き孔21に接続する排水装置25及び制御バルブ22と、注入装置15、圧力計13、及び制御バルブ22に接続された制御装置26とを有している。図示例のシステムは、注入装置15にグラウト孔11の開閉バルブ(又は制御バルブ)12及び流量計14を含め、そのパルブ12及び流量計14を制御装置26と接続しているが、バルブ12及び流量計14を注入装置15から分離して制御装置2と接続してもよい。また、水抜き孔21の制御バルブ22は排水装置25に含めることができ、その場合は制御装置26を排水装置25と接続すればよい。なお、図示例では水抜き孔21にも深地層1の圧力を確認するための圧力計23を設けているが、水抜き孔21の圧力計23は本発明に必須のものではない。
【0023】
図3は、グラウト孔11のバルブ12を閉鎖しつつ水抜き孔21の制御バルブ22を徐々に拡げた場合に、グラウト孔11と水抜き孔21との間に生じる圧力水頭差(動水勾配U)の変化の一例を示す。この例では、グラウト孔11のバルブ12と水抜き孔21の制御バルブ22とが共に閉鎖された定常状態においてグラウト孔11と水抜き孔21との間に圧力水頭差が存在していない(初期水頭)。しかし、制御バルブ22の開度を徐々に拡げることにより、グラウト孔11の水頭が水頭2、水頭3、水頭4と徐々に低下すると共に、グラウト孔11と水抜き孔21との間に動水勾配Uを形成することができる。上述したように湧水圧が10MPa程度にもなる深地層1の高水圧下でグラウト材Gを注入することは困難であるが、図3のように水抜き孔21の制御バルブ22を拡げてグラウト孔11の水頭を低下させれば、比較的低圧の既存の注入装置15を利用してグラウト材Gを注入することができる。
【0024】
例えば、排水装置25により水抜き孔21から排水しながら、制御装置26によりグラウト孔11の圧力計13がグラウト材Gの注入可能な所定圧力(グラウト可能圧)Pより若干低い圧力(例えば図3の水頭3)となるように水抜き孔21の制御バルブ22を初期開度に調節したのち、注入装置15を駆動してグラウト孔11からグラウト材Gの注入を開始する。或いは、排水装置25の処理可能排水量に余裕がある場合は、グラウト孔11の圧力計13が所定圧力Pより十分低い圧力(例えば図3の水頭4)となるように水抜き孔21の制御バルブ22を初期開度に調節してグラウト材Gを開始してもよい。制御バルブ22の初期開度は、グラウト孔11の圧力計13がグラウト材Gの注入可能な所定圧力P以下となる範囲内において、排水装置25の処理可能排水量等を考慮して決めることができる。
【0025】
グラウト孔11における所定圧力Pは、グラウト材注入装置15の注入圧力に応じてグラウト材Gが注入できる圧力とすればよい。例えば、グラウト孔11の所定圧力Pが注入装置15の注入圧力の1/2〜1/3となるように水抜き孔21の制御バルブ22の初期開度を調節する。ただし、本発明ではグラウト孔11に注入されたグラウト材Gが人工的に形成された動水勾配Uにより流すことができるので、グラウト材Gを外水圧の2〜3倍の圧力で押し込む必要はなく、外水圧と同程度の圧力でグラウト孔11内に送り込めば、動水勾配Uによりグラウト材Gを湧水発生地質8に浸透させることが期待できる。この場合は、グラウト孔11の所定圧力Pが注入装置15の注入圧力と同程度となるように水抜き孔21の制御バルブ22の初期開度を調節すればよい。
【0026】
グラウト孔11から注入されたグラウト材Gは、動水勾配Uにより湧水発生地質8を浸透して水抜き孔21側へ送られる。その浸透の過程において、グラウト材Gの目詰まり効果又はグラウト材Gの硬化作用によって湧水発生地質8に止水ゾーン19が徐々に形成される。グラウト材Gの目詰まり又は硬化の進行に応じて地下水が流れにくくなり、動水勾配Uが徐々に小さくなってグラウト孔11の圧力が(例えば水頭3から水頭2へと)上昇しうるが、そのような圧力計13の圧力上昇は制御装置26により検出することができる。図示例の制御装置26は、圧力計13の圧力上昇に応じて水抜き孔21の制御バルブ22の開度を拡げて動水勾配Uを回復させることにより、グラウト孔11を所定圧力P以下に維持してグラウト材Gの注入を継続する。すなわち、従来のグラウト工法では湧水発生地層8の充填に応じてグラウト材Gの注入圧力を大きくしていたが、本発明のグラウト工法では、グラウト材Gの注入圧力を大きくするのではなく水抜き孔21からの排水量を増やすることによりグラウト材Gの注入を継続するので、岩盤破壊(亀裂)の原因となりうるグラウト材Gの注入圧力の増大を避けることができる。
【0027】
或いは、図示例のように水抜き孔21の制御バルブ22に排水流量計24を設け、制御装置26によりグラウト孔11の圧力計13の圧力上昇に代えて排水流量計24の排水流量の減少を検出し、その排水流量の減少に応じて水抜き孔21の制御バルブ22の開度を拡げて動水勾配Uを回復させることも可能である。例えば、制御バルブ22を初期開度の排水流量より減少したときは、制御バルブ22の開度を拡げて初期開度の排水流量に維持することにより、グラウト孔11の圧力を低下させる。制御装置26により圧力計13の圧力と排水流量計24の排水流量とを共に監視し、その圧力と排水流量との両者に基づいて制御バルブ22の開度を調節することも有効である。
【0028】
グラウト孔11からグラウト材Gを注入しているにも拘わらず、グラウト孔11の圧力計13の圧力上昇又は水抜き孔21の排水流量計24の流量減少が生じない場合は、グラウト材Gの動水勾配Uが大きすぎると考えられる。この場合は、グラウト孔11の圧力計13が所定圧力P以下となる範囲内において、制御バルブ22の初期開度を縮小して動水勾配Uを小さくすることができる。また、制御バルブ22の開度を縮小することが難しい場合は、図示例のようにグラウト材注入装置15にグラウト材Gの粘度又は硬化速度を調整する調整装置16を設け、グラウト材Gの粘度又は硬化速度を高める。例えば調整装置16によってグラウト材Gの粉体の割合を調整し、又はグラウト材Gに適当な粘度調整剤を添加する。或いはグラウト材Gに適当な硬化速度調整剤添加してもよい。
【0029】
グラウト孔11からのグラウト材Gの注入は、水抜き孔21の制御バルブ22が全開となり、且つ、水抜き孔21の排水流量計24の排水流量が所定流量W以下となるまで継続する。グラウト材Gの目詰まり又は硬化により止水ゾーン19の浸透特性が低下すると水抜き孔21の排水流量も低下するが、水抜き孔21の排水流量により止水ゾーン19の浸透特性をある程度推定することができる。例えば、止水ゾーン19が所望の浸透特性となったときの所定流量Wを予め求め、水抜き孔21の制御バルブ22を全開にしても排水流量がその所定流量W以下であることから、所望の浸透特性の止水ゾーン19が形成できたことを確認することができる。
【0030】
こうして本発明の目的である「高水圧の深地層において岩盤を破壊することなく施工できる止水グラウト工法及びシステム」の提供を達成できる。
【実施例1】
【0031】
図2は、坑道6aの所定部位から湧水発生地質8に向けて水抜き孔21を削孔すると共に、その水抜き孔21の周囲に湧水発生地質8に向けて複数本のグラウト孔11a、11bをファン形状に削孔し、周囲の複数本のグラウト孔11a、11bと中央の水抜き孔21との間にそれぞれ人工的な動水勾配Uを形成しながらグラウト材Gを同時に浸透させる本発明の止水グラウト工法及びシステムを示す。このようなグラウト工法によれば、例えば湧水発生地質8が面的に広がっている場合に、その形状に合わせて面的な止水ゾーン19を迅速且つ効率的に形成することができる。ただし、水抜き孔21は坑道計画位置7と重なるよう削孔しているが、坑道計画位置7と重ならないグラウト孔11a、11bは、将来的に水みちとなりうるので止水ゾーン19の完成後に埋め戻す必要がある。なお、図示例では水抜き孔21を1本としているが、水抜き孔21を複数本設けることも可能である。
【0032】
図示例のシステムにおいても、図1の場合と同様に、水抜き孔21を排水装置25及び制御バルブ22と接続し、複数のグラウト孔11a、11bをそれぞれグラウト材注入装置15及び圧力計13a、13bと接続している。排水装置25により水抜き孔21から排水しながら、制御装置26により各グラウト孔11a、11bの圧力計13a、13bがグラウト材Gの注入可能な所定圧力P以下となるように水抜き孔21の制御バルブ22を初期開度に調節したのち、注入装置15を駆動して各グラウト孔11a、11bからグラウト材Gを注入する。また、各グラウト孔11a、11bの圧力計13a、13bの圧力上昇を制御装置26により検出し、その圧力上昇に応じて水抜き孔21の制御バルブ22の開度を拡げることにより各グラウト孔11a、11bを所定圧力P以下に維持してグラウト材Gの注入を継続する。図1の場合と同様に、水抜き孔21の制御バルブ22が全開となり、排水流量計24の排水流量が所定流量W以下となるまでグラウト材Gの注入を継続することにより、周辺の湧水発生地質8に所望の浸透特性の止水ゾーン19を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による止水グラウト工法の一実施例の説明図である。
【図2】本発明による止水グラウト工法の他の実施例の説明図である。
【図3】水抜き孔のバルブ開度に応じたグラウト孔の水圧変化の一例を示すグラフである。
【図4】放射性廃棄物の地層処分施設の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1…深地層(岩盤) 2…地表
3…地上施設 4…アクセス立坑
5…アクセス斜道 6…坑道
7…坑道計画位置 8…湧水発生地質
9…湧水 11…グラウト孔
12…バルブ 13…圧力計
14…流量計 15…グラウト注入装置
16…グラウト調整装置 19…止水ゾーン(改良ゾーン)
21…水抜き孔 22…制御バルブ
23…圧力計 24…流量計
25…排水装置 30…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下深部の坑道構築時に生じうる高水圧の湧水を抑える止水グラウト工法において、前記坑道から周囲の湧水発生地質にグラウト孔及び水抜き孔を穿ち、前記グラウト孔に圧力計及びグラウト材注入装置を接続すると共に前記水抜き孔に制御バルブ及び排水装置を接続し、前記水抜き孔の制御バルブを徐々に拡げてグラウト孔の圧力計が所定圧力以下となる初期開度に調節したうえで注入装置を駆動してグラウト材を注入し、前記グラウト孔の圧力計の圧力上昇に応じて制御バルブの開度を拡げて圧力計を所定圧力以下に維持してなる高水圧下の止水グラウト工法。
【請求項2】
請求項1の止水グラウト工法において、前記水抜き孔に排水流量計を設け、前記圧力計の圧力上昇に代えて又は加えて、前記排水流量計の排水流量の減少に応じて制御バルブの開度を拡げてなる高水圧下の止水グラウト工法。
【請求項3】
請求項2の止水グラウト工法において、前記水抜き孔の制御バルブが全開となり且つ排水流量が所定流量以下となるまでグラウト孔へのグラウト材の注入を継続してなる高水圧下の止水グラウト工法。
【請求項4】
請求項2又は3の止水グラウト工法において、前記グラウト孔へのグラウト材の注入時に排水流量計の排水流量が低減しない場合に、前記グラウト材の粘度又は硬化速度を高めてなる高水圧下の止水グラウト工法。
【請求項5】
地下深部の坑道構築時に生じうる高水圧の湧水を抑える止水グラウトシステムにおいて、前記坑道から周囲の湧水発生地質に穿ったグラウト孔に接続する圧力計及びグラウト材注入装置、その湧水発生地質に前記坑道から穿った水抜き孔に接続する制御バルブ及び排水装置、並びに前記水抜き孔の制御バルブを徐々に拡げてグラウト孔の圧力計が所定圧力以下となる初期開度に調節したうえでグラウト材注入装置を駆動し且つ前記グラウト孔の圧力計の圧力上昇に応じて制御バルブの開度を拡げて圧力計を所定圧力以下に維持する制御装置を備えてなる高水圧下の止水グラウトシステム。
【請求項6】
請求項5の止水グラウトシステムにおいて、前記水抜き孔に排水流量計を設け、前記制御装置により、前記圧力計の圧力上昇に代えて又は加えて、前記排水流量計の排水流量の減少に応じて制御バルブの開度を拡げてなる高水圧下の止水グラウトシステム。
【請求項7】
請求項6の止水グラウトシステムにおいて、前記制御装置により、前記水抜き孔の制御バルブが全開となり且つ排水流量が所定流量以下となるまでグラウト孔へのグラウト材の注入を継続してなる高水圧下の止水グラウトシステム。
【請求項8】
請求項6又は7の何れかの止水グラウトシステムにおいて、前記グラウト材注入装置にグラウト材の粘度又は硬化速度を調整する調整装置を含めてなる高水圧下の止水グラウトシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−174171(P2009−174171A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13145(P2008−13145)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】