説明

高浸水を防止する設備

【課題】平常時には視界を妨げることなく、高浸水時にのみ、動力を使用せずに高浸水を阻止できる設備を提供する。
【解決手段】海岸線付近などに設置した高さが成人の目線以下のコンクリート壁と、このコンクリート壁に接して立てた、コンクリート壁よりも高い枠体と、この枠体の内部に鉛直方向に移動自在に取り付けた壁パネルと、壁パネルに取り付けた浮体とによって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高浸水を防止する設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化の影響により、豪雨、高潮などによる浸水の被害が多発している。
また東南海地震などによる津波の被害も想定されている。
このような高浸水に対処するために従来は高さが2〜3メートルのコンクリート製の防水壁を建設する手段が採用されている。
また高浸水が発生した場合に、機械的に擁壁を立ち上がらせるような構造の装置も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−225996号公報。
【特許文献2】特開2003−239243号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の高浸水を防止する設備にあっては、次のような問題点がある。
<1> 特許文献1記載の発明のように、まれにしか発生しない浸水被害のために、海岸線に沿って長い延長にわたって高いコンクリート製の防水壁を建設することは不経済である。
<2> また高いコンクリート製の壁は視界を遮るから、海岸周辺の景観を損ねる、という問題も指摘されている。
<3> 特許文献2記載の発明のように、高浸水が発生した場合に、機械的に擁壁を立ち上がらせるような構造の装置では、豪雨、高潮、津波などの緊急時に必ずしも駆動源を確保できるか疑問である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の高浸水を防止する設備は、海岸線付近などに設置した高さが1.5メートル以下のコンクリート壁と、このコンクリート壁に接して立てた、コンクリート壁よりも高い枠体と、この枠体の内部に鉛直方向に移動自在に取り付けた壁パネルと、壁パネルの海側に取り付けた浮体とによって構成したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高浸水を防止する設備は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 高浸水時以外には、地上に露出しているのは1.5メートル以下のコンクリート壁と枠体だけである。したがって人の視界を遮ることがなく海岸周辺の景観を損なうことがない。
<2> コンクリート壁が低いので、地震時の転倒に対する基礎の構造も簡単なもので対応でき経済的である。
<3> 高さの低いコンクリート製の壁は、平常時には防犯用の壁としての用途を兼ねることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の高浸水を防止する設備の実施例の平常時の説明図。
【図2】高浸水が発生した状態の説明図。
【図3】浮体を壁パネルの海側面に取り付けた実施例の平常時の断面図。
【図4】浮体を壁パネルの下に取り付けた実施例の平常時の断面図。
【図5】高浸水が発生した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の高浸水を防止する設備の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>設置場所。
本発明の高浸水を防止する設備は、豪雨、高潮の被害が予想される海岸線の付近、河川の近く、低地域帯などに設置する。
低地域帯とは、例えば下水が溢れて浸水するような内水氾濫するような地域をいう。
なお本願発明の明細書、請求項では上記のような地域を含めて、説明の便宜上「海岸線付近など」と称することとする。
【0010】
<2>コンクリート壁。
海岸線付近などに、コンクリート壁1を設置する。
このコンクリート壁1は、その高さが成人の目線より低い程度、たとえば1.5メートル程度以下の高さに設定する。
コンクリート壁1がこの程度の高さであるから、海岸線などに沿って長い延長で設置しても、人々の視線を遮ることがなく、景観を損なうことがない。
同時に、低い壁であるから地震に対する構造や基礎の構成も、高いコンクリート壁に比較して簡易なものですみ、経済的である。
【0011】
<3>枠体。
このコンクリート壁1に接して、その海側に枠体2を立てて設置する。
この枠体2は縦溝を備えたチャンネル材で構成した2本の鉛直の支柱21と、その上端を水平方向の梁22で連結した構造である。
ただし支柱21の強度が十分に得られれば、梁22による連結を省略することもできる。
このように枠体2は門型の簡易な構造であるから、やはり海岸線に沿って長い延長で設置しても人々の視線を遮ることがなく、景観を損なうことがない。
この枠体2の支柱21の高さは、コンクリート壁1よりも高く、たとえば3メートル程度に構成する。
【0012】
<4>壁パネル。
この枠体2の支柱21は、チャンネル材を向かい合わせて設置してある。
このチャンネル材の内部に、鉛直方向に移動自在な状態で壁パネル3を取り付ける。
この壁パネル3の高さは、ほぼコンクリート壁1の高さと同一に構成する。
したがって支柱21の間に設置した壁パネル3は、通常はコンクリート壁1の陰に隠れて視界に入ることがない。
この壁パネル3は、できるだけ軽量であって、かつ水圧に抵抗できる材料や構造を選択する。
【0013】
<5>止水性。
壁パネル3の陸側の平面と、コンクリート壁1の海側の平面とは、接触しない範囲でできるだけ接近した位置に設置する。
そうすれば、後述するように高浸水時に壁パネル3が上昇した場合に、壁パネル3は水圧でコンクリート壁1に押しつけられて、両者によって高い止水構造体を形成することができる。
【0014】
<6>浮体。
この壁パネル3には、その海側の表面に浮体4を取り付ける。
浮体4は独立気泡のウレタンブロックのような公知の材料を選択して使用する。
この浮体4は、壁パネル3の下端付近に水平方向に配置して、水位が上昇した場合にすぐに浮力が発生するように構成する。
浮体4は、壁パネル3の海側の表面に取り付けるだけでなく、図4に示すように壁パネル3の下端に、コンクリート壁1に密着しない状態で取り付けることもできる。
【0015】
<7>平常時。
次に本発明の高浸水を防止する設備の作動を説明する。
平常時には、支柱21間の壁パネル3は重力で下端まで下がっていて、コンクリート壁1の陰に隠れている。
したがって壁パネル3の存在は、コンクリート壁1の陸側を通行する人々の視界にはほとんど触れることがない。
【0016】
<8>高浸水時。
何らかの原因で水位が上昇すると、壁パネル3の海側には浮体4が取り付けてあるので、その浮体4に浮力が作用する。
すると、その浮力によって壁パネル3は支柱21に沿って上昇してゆく。
この壁パネル3の上昇は浮体4に作用する浮力によるだけであり、電気やガソリンエンジンのような駆動源を必要としないから、どのような緊急の環境下でも確実に作動する。
海側の壁パネル3と、陸側のコンクリート壁1との止水性を確保しておけば、壁パネル3の上端面が、枠体2の水平梁22に接する状態まで上昇して高い止水壁を形成することができる。
【符号の説明】
【0017】
1:コンクリート壁
2:枠体
21:支柱
22:梁
3:壁パネル
4:浮体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海岸線付近などに設置した壁であって、高さが成人の目線より低い程度のコンクリート壁と、
このコンクリート壁に接して立てた、コンクリート壁よりも高い枠体と、
この枠体に沿って鉛直方向に移動自在に取り付けた壁パネルと、
壁パネルに取り付けた浮体とによって構成した、
高浸水を防止する設備。
【請求項2】
浮体は、
壁パネルの海側の表面に取り付けた、
請求項1記載の高浸水を防止する設備。
【請求項3】
浮体は、
壁パネルの下端に取り付けた、
請求項1記載の高浸水を防止する設備。
【請求項4】
枠体を平行に立てた支柱と、
支柱の上端を水平に連結した梁で構成し、
支柱は溝を形成したチャンネル材で構成し、
この支柱の溝の内部に、壁パネルを昇降自在に設置した、
請求項1記載の高浸水を防止する設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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