説明

高温摩耗用途向けポリイミド樹脂

末端封止された剛性芳香族ポリイミド、黒鉛およびカーボンフィラメントを含有するポリイミド樹脂組成物は、高温で低い摩耗を示すことが見出されている。かかる組成物は、航空機エンジン部品などの高温で摩耗条件に暴露される成形品でとりわけ有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のために本明細書の一部として全体が本参照により援用される、2010年10月27日出願の米国仮特許出願第61/255,147号明細書からの米国特許法第119条(e)項の下での優先権を主張し、かつ、その利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、航空機エンジン部品などの高温摩耗用途向けに有用である充填剤入りポリイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
応力下および高温でのポリイミド組成物の独特の性能は、特に高圧および高速条件で高い耐摩耗性を必要とする用途でそれらを有用なものにしてきた。かかる用途の幾つかの例は、航空機エンジン部品、航空機摩耗パッド、自動車変速機ブッシングおよびシールリング、幅出し機フレームパッドおよびブッシング、材料加工設備部品、ならびにポンプブッシングおよびシールである。
【0004】
典型的には、上記のような用途でのポリイミド構成部品は、犠牲構成部品、または消耗構成部品として機能し、それによって、それが幾つかの他の構成部品とかみ合う場合に、より高価なかみ合いまたは隣接構成部品が受けるであろう摩耗または損傷を防ぐまたは低減することを意図される。しかしながら、ポリイミド構成部品が摩耗するにつれて、生じた増加した隙間は、(空気圧または流体の)増加した漏洩または増加した騒音などの、他の悪影響をもたらし、それによってポリイミド構成部品が含有される全体システムの操作有効性を低下させ得る。システムをその元の操作有効性に回復させることは、損耗したポリイミド構成部品を、新しい未使用のポリイミド構成部品で交換する必要がある。交換は、システムの解体、再組立、試験実施および再較正(「点検」)を必要とし、中断時間および労働の観点からかなりのコストをもたらす可能性がある。従って、より低い摩耗速度を実証するポリイミド構成部品が、交換および点検の頻度を減らし、それによってコストを低減するために望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
末端封止の結果としての熱酸化安定性(「TOS」)の向上は、柔軟な結合を含有するポリイミドで見出されている[例えば、Meador et al.、Macromolecules,37(2004),1289−1296を参照されたい]。しかしながら、末端封止は、ある種の剛性芳香族ポリイミド組成物ではTOSを低下させることが実際に見出されている。これまでに利用可能であった、様々なポリイミド組成物、およびそれら用の充填剤にもかかわらず、ならびに当該技術分野での先行研究にもかかわらず、ポリイミド材料の他の有利な特質を維持しながら、航空機エンジン部品などの用途向けに現在必要とされるより高温および増加した圧力速度負荷での望ましくも高度の耐摩耗性を成形部品として示すポリイミド組成物がまだ依然として必要とされている。
【0006】
一実施形態では、本発明は、(a)約40重量部以上なおかつ約92重量部以下の、次式(IV):
【化1】

(式中、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、H、Br、Cl、F、アルキル、アルコキシ、またはフルオロアルキルである)
の構造で表されるような、無水フタル酸、または無水フタル酸の誘導体で末端封止されている剛性ポリイミド;(b)約8重量部以上なおかつ約60重量部以下の黒鉛;および(c)約0.5重量部以上なおかつ約10.0重量部以下のカーボンフィラメントを混合剤で含む組成物を提供する。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、一緒に組み合わせられた重量部(a)、(b)、および(c)が合計で100重量部になる、(a)約40重量部以上なおかつ約92重量部以下の、無水フタル酸または無水フタル酸の誘導体で末端封止されている、芳香族ポリイミド、(b)約8重量部以上なおかつ約60重量部以下の黒鉛、および(c)約0.5重量部以上なおかつ約10.0重量部以下のカーボンフィラメントを含む組成物を提供する。
【0008】
ある種の他の実施形態では、カーボンフィラメントは、次の特性:約70〜約400nmの平均直径、約5〜約100μmの平均長さ、および少なくとも約50のアスペクト比の1つ以上を持ってもよい。
【0009】
上記の組成物から二次加工される物品もまた提供される。
【0010】
本発明の様々な特徴および/または実施形態は、下に表されるような図面に例示される。これらの特徴および/または実施形態は代表的なものであるにすぎず、図面に包含するためのこれらの特徴および/または実施形態の選択は、図面に含まれない主題が本発明を実施するために好適ではないこと、または図面に含まれない主題が添付のクレームおよびそれらの等価物の範囲から排除されることの表れと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】六角形グラフェン層を、当該技術分野で公知のような、テイパーチュ−ブとして最上部に、およびかかるチューブの約16のスタックを下方に示すコンピューターグラフィックである。
【図2】当該技術分野で公知のような、8つのテイパーチュ−ブのスタックの部分切り取りの略図である。
【図3】図2におけるようなスタックの外面上のカーボンのフィルムの3エリアの略図である。
【図4】当該技術分野で公知のような、同心多壁カーボンナノチューブの部分の略図を示す。
【図5】当該技術分野で公知のような、螺旋状に巻きつけられた多壁カーボンナノチューブの部分の略図を示す。
【図6】カーボンフィラメント型を生成する、当該技術分野で公知のような、触媒のステージの略図である。
【図7】カーボンフィラメントおよび鉄粒子を示す混合物CF−CNの透過型電子顕微鏡画像である。
【図8】積み重ねられたランプ笠形状の、時に多壁アキシャルカーボン層の外層を持ったカーボンフィラメント、および欠陥サイトを有する異なった屈曲を持ったカーボンフィラメントを示す混合物CF−CNの透過型電子顕微鏡画像である。
【図9】狭い穴を持った破壊カーボンフィラメントを示す混合物CF−Aの透過型電子顕微鏡画像である。
【図10】AおよびBは欠陥サイトの方を指して、ランプ笠スタッキングなしの多壁アキシャルカーボンフィラメントの2つの拡大図を示す混合物CF−Aの透過型電子顕微鏡画像である。
【図11】AおよびBは図10におけるように別のカーボンフィラメント図を示す。
【図12】AおよびBは矢印が欠陥サイトの方を指して、フィラメント外径に対して比較的大きい直径の異なった穴を有するカーボンフィラメントの2つの拡大図を示す混合物CF−CNの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【図13】AおよびBは矢印が欠陥サイトの方を指して、フィラメント外径に対して比較的小さい直径の異なった穴を有する曲がったカーボンフィラメントの2つの拡大図を示す混合物CF−CNの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【図14】AおよびBは矢印が、傾斜したグラフェン内層を囲む、外側多壁アキシャルグラフェン層またはスクロール上の少ない欠陥サイトの方を指して、カーボンフィラメントの2つの拡大図を示す混合物CF−CPの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【図15】AおよびBは矢印が、傾斜したグラフェン内層を囲む、外側多壁アキシャルグラフェン層またはスクロール上の欠陥サイトの方を指して、カーボンフィラメントの2つの拡大図を示す混合物CF−CPの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【図16】AおよびBは垂直矢印が、「竹様」カーボンフィラメントの外側多壁グラフェン層上の傾斜した欠陥サイトの方を指して、カーボンフィラメントの2つの拡大図を示す混合物CF−CPの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【図17−1】混合物CF−Aの走査電子顕微鏡画像である。
【図17−2】混合物CF−Aの走査電子顕微鏡画像である。
【図17−3】混合物CF−Aの走査電子顕微鏡画像である。
【図18−1】混合物CF−Aの透過型電子顕微鏡画像である。
【図18−2】混合物CF−Aの透過型電子顕微鏡画像である。
【図19−1】混合物CF−CPの走査電子顕微鏡画像である。
【図19−2】混合物CF−CPの走査電子顕微鏡画像である。
【図19−3】混合物CF−CPの走査電子顕微鏡画像である。
【図20−1】混合物CF−CPの透過型電子顕微鏡画像である。
【図20−2】混合物CF−CPの透過型電子顕微鏡画像である。
【図21−1】混合物CF−CNの走査電子顕微鏡画像である。
【図21−2】混合物CF−CNの走査電子顕微鏡画像である。
【図22−1】混合物CF−CNの透過型電子顕微鏡画像である。
【図22−2】混合物CF−CNの透過型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(a)約40重量部〜約92重量部の、次式(IV):
【化2】

(式中、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、H、Br、Cl、F、アルキル、アルコキシ、またはフルオロアルキルである)
の構造で表されるような、無水フタル酸、または無水フタル酸の誘導体で末端封止されている剛性ポリイミド;(b)約8重量部〜約60重量部の黒鉛、および(c)約0.5重量部〜約10.0重量部のカーボンフィラメントを混合剤で含む組成物が本明細書に開示される。
【0013】
(a)無水フタル酸または無水フタル酸の誘導体で末端封止されている剛性芳香族ポリイミド、(b)黒鉛、および(c)約70〜400nmの平均直径、約5〜100μmの平均長さ、および/または少なくとも約50のアスペクト比(すなわち、長さ/直径)を有するカーボンフィラメントを含有する組成物がまた本明細書に開示される。
【0014】
本明細書の組成物で成分「(a)」として使用されるようなポリイミドは、繰り返し単位間の連結基の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは本質的にすべて(例えば、少なくとも約98%)がイミド基であるポリマーである。本明細書で使用されるような芳香族ポリイミドには、そのポリマー鎖の繰り返し単位の約60〜約100モル%、好ましくは約70モル%以上、より好ましくは約80モル%以上が次式(I):
【化3】

(式中、下に記載されるように、Rは四価の芳香族ラジカルであり、Rは二価の芳香族ラジカルである)
で表されるような構造を有する有機ポリマーが含まれる。
【0015】
本明細書で使用されるようなポリイミドは剛性の、好ましくは芳香族のポリイミドである。ポリイミドポリマーは、ポリイミド繰り返し単位中に柔軟な結合が全くないか、またはわずかな量(例えば、10モル%未満、5モル%未満、1モル%未満もしくは0.5モル%未満)の柔軟な結合があるときに剛性と考えられる。柔軟な結合は、少ない数の原子から主としてなり、かつ、(分枝状もしくは環状よりもむしろ直鎖状などの)複雑でない構造を有し、こうしてポリマー鎖が結合の場所で比較的容易に曲がるまたは撚れることを可能にする部分である。柔軟な結合の例には、限定なしに−O−、−N(H)−C(O)−、−S−、−SO−、−C(O)−、−C(O)−O−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH)−、および−NH(CH)−が挙げられる。
【0016】
本明細書での使用に好適なポリイミドポリマーは、例えば、モノマーの芳香族ジアミン化合物(その誘導体を含む)をモノマーの芳香族テトラカルボン酸化合物(その誘導体を含む)と反応させることによって合成することができ、テトラカルボン酸化合物は従って、テトラカルボン酸それ自体、相当する二酸無水物、またはジエステル二酸もしくはジエステル二酸塩化物などのテトラカルボン酸の誘導体であることができる。芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸化合物との反応は、出発原料の選択に応じて相当するポリアミド酸(「PAA」)、アミドエステル、アミド酸エステル、または他の反応生成物を生成する。芳香族ジアミンは、テトラカルボン酸よりもむしろ二酸無水物と典型的には重合させられ、かかる反応では触媒が溶媒に加えて頻繁に使用される。窒素含有塩基、フェノールまたは両性物質をかかる触媒として使用することができる。
【0017】
ポリイミドの前駆体としてのポリアミド酸は、ピリジン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドまたはそれらの混合物などの一般に高沸点溶媒である有機極性溶媒中、好ましくは実質的に等モル量で、芳香族ジアミン化合物と芳香族テトラカルボン酸化合物とを重合させることによって得ることができる。溶媒中の全モノマーの量は、モノマーと溶媒との総合重量を基準として、約5〜約40重量%の範囲に、約6〜約35重量%の範囲に、または約8〜約30重量%の範囲にあることができる。反応のための温度は一般に約100℃以下であり、約10℃〜80℃の範囲にあってもよい。重合反応のための時間は一般に約0.2〜60時間の範囲にある。
【0018】
ポリイミドを生成するためのイミド化、すなわち、ポリアミド酸における閉環は次に、熱処理(例えば、米国特許第5,886,129号明細書に記載されているような)、化学的脱水または両方、引き続く縮合物(典型的には、水またはアルコール)の脱離によって達成することができる。例えば、閉環は、ピリジンおよび無水酢酸、ピコリンおよび無水酢酸、2,6−ルチジンおよび無水酢酸などの環化剤によって達成することができる。
【0019】
こうして得られるポリイミドの様々な実施形態では、そのポリマー鎖の繰り返し単位の、約60〜100モルパーセント、好ましくは約70モルパーセント以上、より好ましくは約80モルパーセント以上が、次式(I):
【化4】

(式中、Rは、テトラカルボン酸化合物に由来する四価の芳香族ラジカルであり;Rは、HN−R−NHと典型的に表されてもよい、ジアミン化合物に由来する二価の芳香族ラジカルである)
の構造で表されるようなポリイミド構造を有する。
【0020】
本明細書の組成物のためのポリイミドを製造するために使用されるようなジアミン化合物は、構造HN−R−NH(式中、Rは、16個以下の炭素原子を含有する、任意選択的に、例えば、−N−、−O−、または−S−から選択される、1つ以上の(しかし典型的には1つのみの)ヘテロ原子を芳香環中に含有する二価の芳香族ラジカルである)で表すことができる芳香族ジアミンの1つ以上であってもよい。Rがビフェニレン基であるR基もまた本明細書に含まれる。本明細書の組成物のためのポリイミドを製造するための使用に好適な芳香族ジアミンの例には、限定なしに2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン(m−フェニレンジアミンもしくは「MPD」としても知られる)、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミンもしくは「PPD」としても知られる)、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、ナフタレンジアミン、ならびにベンジジンおよび3,3’−ジメチルベンジジンなどのベンジジン類が挙げられる。芳香族ジアミンは、単独でまたは組み合わせて用いることができる。一実施形態では、芳香族ジアミン化合物は、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミンもしくは「PPD」としても知られる)、1,3−ジアミノベンゼン(m−フェニレンジアミンもしくは「MPD」としても知られる)、またはそれらの混合物である。
【0021】
本明細書の組成物のためのポリイミドを製造するための使用に好適な芳香族テトラカルボン酸化合物には、限定なしに芳香族テトラカルボン酸、それの酸無水物、それの塩およびそれのエステルが含まれてもよい。芳香族テトラカルボン酸化合物は、次式(II):
【化7】

(式中、Rは四価の芳香族基であり、各Rは独立して、水素または低級アルキル(例えば、ノルマルもしくは分枝状のC〜C10、C〜C、C〜CもしくはC〜C)基である)
構造で表されるようなものであってもよい。様々な実施形態で、アルキル基はC〜Cアルキル基である。様々な実施形態で、四価の有機基Rは、次式:
【化8】

の1つで表されるような構造を有してもよい。
【0022】
好適な芳香族テトラカルボン酸の例には、限定なしに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、および3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。一実施形態では、芳香族テトラカルボン酸化合物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物である。例には、限定なしに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(「BPDA」)、ピロメリット酸二無水物(「PMDA」)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0023】
本明細書の組成物の一実施形態では、好適なポリイミドポリマーは、芳香族テトラカルボン酸化合物としての3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(「BPDA」)と、芳香族ジアミン化合物としてのp−フェニレンジアミン(「PPD」)およびm−フェニレンジアミン(「MPD」)の混合物とから製造されてもよい。一実施形態では、芳香族ジアミン化合物は60モル%超〜約85モル%のp−フェニレンジアミンおよび15〜40モル%未満のm−フェニレンジアミンである。かかるポリイミドは、(あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される)米国特許第5,886,129号明細書に記載されており、かかるポリイミドの繰り返し単位はまた、次式(III):
【化7】

(式中、R基の60モル%超〜約85モル%はp−フェニレンラジカル:
【化8】

であり、15〜40モル%未満はm−フェニレンラジカル:
【化9】

である)
の構造で表されてもよい。
【0024】
代わりの実施形態では、好適なポリイミドポリマーは、テトラカルボン酸化合物の二酸無水物誘導体としての3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(「BPDA」)と、ジアミン化合物としての70モル%のp−フェニレンジアミンおよび30モル%のm−フェニレンジアミンとから製造されてもよい。
【0025】
本明細書で使用されるようなポリイミドは好ましくは、それが分解する温度より下で溶融(すなわち、液化または流動)しないポリマーである、不溶融性ポリマーである。典型的には、不溶融性ポリイミドの組成物から製造される部品は、(例えば、あらゆる目的のために本明細書の一部として本参照により援用される、米国特許第4,360,626号明細書に記載されているように)粉末金属が部品へ成形されるのと非常に似て、熱および圧力下に成形される。
【0026】
本明細書で使用されるようなポリイミドは好ましくは、熱酸化に対する高度の安定性を有する。高められた温度で、このポリマーはこうして典型的には、空気などの酸化剤との反応による燃焼を受けないが、代わりに熱分解反応で気化するであろう。
【0027】
本明細書で使用されるような剛性芳香族ポリイミドは、次式(IV):
【化12】

(式中、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、H、Br、Cl、F、アルキル、アルコキシ、またはフルオロアルキルである)
の構造で表されるような、無水フタル酸または無水フタル酸の誘導体で末端封止される。一実施形態では、R、R、R、およびRはそれぞれHである(無水フタル酸)。別の実施形態では、R、R、R、およびRはそれぞれBrである(テトラブロモ無水フタル酸)。
【0028】
末端封止反応は、末端封止剤[すなわち、式(IV)の構造で表されるような、無水フタル酸または無水フタル酸の誘導体]を、約0.005以上、約0.0065以上、約0.008以上、なおかつ約0.03以下、約0.025以下、または0.02以下の末端封止剤対芳香族テトラカルボン酸化合物のモル比で添加することによってなど、任意の従来法によって実施される。
【0029】
末端封止剤(すなわち、無水フタル酸または無水フタル酸の誘導体)は、ポリイミドの製造の様々な段階のいずれで添加されてもよい。例えば、Srinivasら[Macromolecules,30(1997),1012−1022]は、BPDAと1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとからポリイミドを製造する際に、末端封止剤をジアミンの溶液へ加える工程と、次に二酸無水物を加える工程と、反応を25℃で24時間進行させ、それによって、その後イミド化される末端封止されたポリアミック酸を生成する工程とを報告した。あるいはまた、および下の実施例1に概して記載されるように、末端封止剤および芳香族テトラカルボン酸化合物(例えば、二酸無水物)は一緒に、加熱されたジアミン溶液(例えば、約70℃)に加えられ、約2時間反応するにさせられてもよく、それによって、その後イミド化される、末端封止されたポリアミック酸を生成する。
【0030】
ポリイミドそれ自体の末端封止はまた、例えば特開2004−123857号公報に報告されており、その特許ではイミド化が完了した後に4−クロロ無水フタル酸がポリイミドに添加された。本明細書のポリイミドを封止するための、またはポリイミドのポリマー成長を停止するための末端封止剤の使用は、末端封止されたポリイミドを生成する。それに対して、末端封止剤が組み込まれていないポリイミドは非封止ポリイミドである。
【0031】
本発明の末端封止されたポリイミドは望ましくは、約60以上、または幾つかの実施形態では約80以上、または幾つかの実施形態では約60〜約150の範囲、または幾つかの実施形態では約80〜約120の範囲の重合度(「DP」)を有するであろう。DPは、それが処理できないレベルまでポリアミック酸の粘度を上げるほど高いものであるべきではない。重合度は、Carothers,Wallace(1936)「Polymers and Polyfunctionality)」,Transaction of the Faraday Society 32:39−49;Cowie,J.M.G.「Polymers:Chemistry & Physics of Modern Materials」(2nd edition,Blackie 1991)29ページ;ならびにAllcock,Lampe and Mark,「Contemporary Polymer Chemistry」(3rd ed.,Pearson 2003)324ページなどの出典で議論されている、カロザース(Carothers)方程式に従って計算される。
【0032】
耐摩耗性ポリイミドの一製造方法は、(a)芳香族テトラカルボン酸化合物、芳香族ジアミン化合物、および次式(IV):
【化13】

(式中、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、H、Br、Cl、F、アルキル、アルコキシ、またはフルオロアルキルから選択される)
の構造で表されるような、無水フタル酸、またはその誘導体を溶媒中で接触させてポリアミック酸を生み出す工程と;(b)ポリアミック酸をイミド化する工程とを含む。この方法では、黒鉛はまた、工程(b)のイミド化の前にポリアミック酸と混合されてもよい。
【0033】
耐摩耗性ポリイミドの別の製造方法は、(a)次式(IV)
【化14】

(式中、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、H、Br、Cl、F、アルキル、アルコキシ、またはフルオロアルキルである)
の構造で表されるような、無水フタル酸、または無水フタル酸の誘導体で、約50未満の重合度(「DP」)を有する剛性芳香族ポリイミドを末端封止して末端封止されたポリイミドを形成する工程と;(b)末端封止されたポリイミドを、約60超のDPを有する非封止剛性芳香族ポリイミドと、重量で約1部の末端封止されたポリイミド対約3〜約10部の非封止ポリイミドの比で混合する工程とを含む。この方法で、末端封止されたポリイミド対非封止ポリイミドの比はさらに、少なくとも約1/10、または少なくとも約1/6、または少なくとも約1/5、なおかつ約1/3未満、または約1/5未満、または約1/6未満であってもよい。
【0034】
耐摩耗性ポリイミドは次に、例えば、前掲書の米国特許第4,360,626号明細書に記載されているように、熱および圧力を加えることによって部品へ二次加工されてもよい。
【0035】
黒鉛が、本明細書の組成物の成分「(b)」として使用される。黒鉛は典型的には、摩耗および摩擦特性を向上させるために、および熱膨張係数(CTE)をコントロールするためにポリイミド組成物に加えられる。かかる目的のためにポリイミド組成物に使用される黒鉛の量はこうして時々、かみ合う構成部品のCTEにマッチするように有利には選択される。
【0036】
黒鉛は、微粉として様々な形態で商業的に入手可能であり、広く変わる平均粒度、しかしながら、頻繁に約5〜約75ミクロンの範囲にある平均粒度を有してもよい。一実施形態では、平均粒度は、約5〜約25ミクロンの範囲にある。別の実施形態では、本明細書で使用されるような黒鉛は、硫化第二鉄、硫化バリウム、硫化カルシウム、硫化銅、酸化バリウム、酸化カルシウム、および酸化銅からなる群から選択されるものなどの、約0.15重量%未満の反応性不純物を含有する。
【0037】
本明細書での使用に好適であるような黒鉛は、天然起源の黒鉛または合成黒鉛のどちらかであることができる。天然黒鉛は一般に広範囲の不純物濃度を有するが、低濃度の反応性不純物を有する合成製造黒鉛が商業的に入手可能である。受け入れられないほどに高い濃度の不純物を含有する黒鉛は、例えば、鉱酸での化学処理を含む様々な公知の処理のいずれかによって精製することができる。例えば、高められた温度または還流温度での、硫酸、硝酸または塩酸での不純な黒鉛の処理を、不純物を所望のレベルまで低減するために用いることができる。
【0038】
本明細書の組成物で成分「(c)」として使用されるようなカーボンフィラメントは、その直径に対して比較的長い、細長いカーボン構造であり、フィラメントは従って、約10超である、または約10超である、または約10超である、または約10超であり、なおかつ約10未満である、または約10未満である、または約10未満であるまたは約10未満であるアスペクト比(直径で割った長さ)を持ってもよい。
【0039】
アスペクト比で言及される直径は、フィラメントが、ある種の実施形態では、管状形状であり、従ってまた、フィラメントの内部に、輪状の開口部などの、穴のサイズを記述する内径を有する可能性があるので、フィラメントの外径である。穴はカーボンを欠いている可能性があるおよび/または空であるもしくは排気できる可能性がある、あるいは穴はその中にカーボン架橋を含有する可能性がある。中空穴は、フィラメントの長さの少なくとも一部に沿って走る可能性があるか、またはフィラメントの全体長さに本質的に沿って走る可能性がある。しかしながら、他の実施形態では、フィラメントはいかなる有意な程度にも穴または内部輪状開口部を持たない。
【0040】
ほとんどのカーボンフィラメントは、形状が比較的規則的であり、直径がほぼ一定であるが、フィラメントについて述べられる直径値は、内径であろうと外径であろうと、それでもやはりフィラメントの選択された長さについて測定された平均直径値である。本明細書で使用されるようなカーボンフィラメントの外径は、約1nm超、または約5nm超、または約10nm超、または約100nm超、なおかつ約500nm未満、または約250nm未満、または約100nm未満、または約10nm未満であってもよい。穴を有するそれらのカーボンフィラメントについては、本明細書で使用されるようなフィラメントの内径は、約1nm超、または約5nm超、または約10nm超、または約50nm超、なおかつ約300nm未満、または約100nm未満、または約50nm未満、または約25nm未満であってもよい。
【0041】
カーボンフィラメントの横断面は、円筒形、もしくは本質的に円筒形である形状、または多面体である形状を形成してもよい。約1nm〜約20nm、または約1nm〜約10nm、または約1nm〜約5nmなどの、より小さいサイズ範囲の外径を有するフィラメントは、ほぼ真に円筒形である形状を有し、従ってほぼ真に円形である横断面を有する。カーボンフィラメントは、連続的または非連続的であることができる。
【0042】
本明細書での使用に好適なカーボンフィラメントは、カーボン標的の蒸着またはレーザー切断などの様々な公知の方法によって製造されてもよい。気相成長フィラメントは、遷移金属触媒の存在下に、有機化合物、特に、ベンゼン、トルエン、またはキシレンなどの、炭化水素ガスの熱分解によって製造されてもよい。フィラメントは、互いに様々な異なる幾何学的配置および配向を持ってもよい1つ以上のグラフェン層の触媒要素周りの形成によって得られる。好適な触媒には、ニッケルおよび鉄が含まれる。2つ以上のグラフェン層が存在するとき、それらは多くの場合規則的に繰り返すパターンで配置されている。
【0043】
本明細書で使用されるようなカーボンフィラメントでは、黒鉛炭素原子は、凝集塊、結晶、層、同心層、異なる配向の層、樹状構造物、または中空構造物の1つまたは組み合わせを含む様々な配置を持ってもよい。アキシャル配置として知られるものでの、グラフェンシートは、フィラメントの軸に平行であってもまたは本質的に平行であってもよく、そして横断面で見られるとき、円形または本質的に円形であるように見えるであろう。このタイプの配置は、図4および5に示される。しかしながら、他の実施形態では、グラフェンシートは、軸に対してある角度で位置し、従って、傾斜したと言われる配向でフィラメントの軸からラッパ状に広がってもよい。この配置のグラフェンシートは、積み重ねられたカップまたは逆さのランプ笠を形成するように見え、これは図1〜3に示される。
【0044】
本明細書での使用に好適なカーボンフィラメントには、カーボンフィブリル、微細カーボンファイバーまたはカーボンナノファイバーと時々言われるそれらの構造物が含まれ、それらのうちの任意の1つは、実際に個々のフィラメントの束であってもよい。それらのものなどのカーボン構造物は典型的には、約50nm〜約300nmの範囲の、または約100nm〜約250nmの範囲の外径を有する。本明細書での使用に好適なカーボンフィラメントにはまた、単壁ナノチューブまたは多壁ナノチューブであってもよい、カーボンナノチューブと時々言われるそれらの構造物が含まれる。単壁カーボンナノチューブは典型的には、約1nm〜約5nmの範囲の外径を有し;多壁カーボンナノチューブは典型的には、壁の数に依存して、約2nm〜約100nm、または約5nm〜約10nmの範囲の外径を有する。
【0045】
一実施形態では、本明細書で使用されるカーボンフィラメントは、約70〜約400nmの平均直径、約5〜約100μmの平均長さ、および/または少なくとも約50のアスペクト比(すなわち、長さ/直径)を有することができる。
【0046】
混合物の様々な成分が直径、アスペクト比、形状、グラフェンシートの層化の程度、グラフェンシートの配置、「巻き取られた(rolled−up)」グラフェンシートから形成されるチュ−ブ上のクローズドエンドの存在または不在、ならびに欠陥および汚染物質の存在または不在に関して異なってもよい異なる種類のカーボンフィラメントの混合物もまた、本明細書での使用に好適である。典型的な欠陥は、リングが端に沿って隣接リングに結合していないので、シートから形成された構造から突き出るグラフェンシートでの六角形リングの端である、グラフェン端;ならびに好ましい六角形リングよりもむしろ五角形または七角形カーボンリングのグラフェンシートでの存在である。欠陥サイトは、フィラメントが当該場所で熱酸化をより受けやすので望ましくない。典型的な汚染物質は、製造操作からの触媒残渣(例えば、鉄粒子)、製造操作から得られる異質の望まれない生成物(例えば、非晶質カーボン)、または汚染物質(例えば、「溶解」鉄)である。
【0047】
好ましい実施形態では、本明細書で使用されるようなカーボンフィラメントは、極微量(百部当たり約10部未満、約5部未満、約1部未満、約0.5部未満、または約0.1部未満)の、ホウ素、ケイ素、鉄または水素などの他の元素を有するにすぎないであろう。好ましくは、本明細書で使用されるフィラメント、およびそれらを含有する組成物は、硫化鉄、硫化バリウム、硫化カルシウム、硫化銅、酸化バリウム、酸化カルシウム、もしくは酸化銅、または元素バリウム、銅、カルシウムの化合物、または元素鉄、バリウム、銅もしくはカルシウムなどの0.5重量パーセント未満の反応性不純物を有するであろう。
【0048】
鉄の場合には、カーボンファイバー中に約0.02重量%未満の元素が存在することが好ましい。しかしながら、鉄が任意のレベルで存在するとき、鉄はカーボンによって封入されるか、または鉄粒子周りのカーボン層によって保護されることが望ましい。かかる場合には、フィラメント中に存在する鉄は、酸化のために利用可能ではない。例えば、本明細書に記載されるような、カーボンフィラメント混合物CF−AまたはCF−Bは、その中の鉄不純物がカーボンフィラメント混合物CF−CNまたはCF−CPでの場合より多くなく、その場合より反応性が少ないという点で好ましい。不純物含有率は、カーボンフィラメントの試料の透過型電子顕微鏡写真(「TEM」)の目視検査によって測定されても、および評価される試料のサイズとの関連で観察される不純物の計数の観点からの不純物含有率の計算によって求められてもよい。
【0049】
欠陥密度(すなわち、欠陥含有率)はまた、カーボンフィラメントの試料のTEMの目視検査によって測定されても、および評価される試料のサイズとの関連で観察される欠陥サイトの計数の観点からの欠陥密度の計算によって求められてもよい。必要ならば、異なる種類の欠陥に、全体欠陥密度の計算で異なる重み付けを与えることができる。例えば、端サイトは、五角形サイトには2倍望ましくないとして重み付けされても、七角形サイトには3倍望ましくないとして重み付けされてもよい。異なる重み付けは、内部サイトと比べてフィラメントの表面上にある欠陥サイトに、または傾斜した(カップ−イン−カップまたはランプ笠)グラフェンシートと比べてアキシャルグラフェンシート上にある欠陥サイトに与えることができる。欠陥密度は、約50〜約100ナノメートルのフィラメント長さに1欠陥、好ましくは約100〜約200ナノメートルのフィラメント長さに1欠陥、より好ましくは約250〜1000ナノメートルのフィラメント長さに1欠陥の範囲にあってもよい。
【0050】
本明細書の組成物での使用に好適である様々なカーボンフィラメントには、次のものが含まれる:
(i)あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許第6,730,398号明細書にさらに記載されている、その内部にファーバーに沿って中空空間を含み、そして多層構造、2〜500nmの外径、および10〜15,000のアスペクト比を有する気相成長微細カーボンファイバー;
(ii)あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許第6,740,403号明細書にさらに記載されている、長い軸および直径を有する、そして長い軸の長さを実質的に走る7つ以上の外部ファセットを有する細長い構造を形成するために複数の層で配置された黒鉛シートを含む孤立した黒鉛多面体結晶であって、直径が5nm〜1000nmであり、外部ファセットが実質的に等しいサイズのものであり、かつ、リング、円錐、二重先端のピラミッド、ナノロッドおよびウィスカーの形態にあってもよい黒鉛多面体結晶;
(iii)それらの両方があらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許第6,844,061号明細書にさらに記載されている;ファイバーの各ファイバーフィラメントの本体が約1〜約500nmの外径および約10〜約15,000のアスペクト比を有し、かつ、その中心軸に沿って伸びる中空空間および複数のカーボン層からなる多層シース構造を含み、これらの層が同心リングを形成する、微細カーボンファイバーであって、ファイバーフィラメントが外側に突き出るカーボン層から形成されるかまたは局所的に増加する数のカーボン層から形成される結節性部分を有する微細カーボンファイバー;ならびにファイバーフィラメントが繰り返し拡大した突出部分を有し、フィラメント直径がフィラメントの長さとともに変わり、外側に拡大した部分で測定されるようなファイバーのファイバーフィラメントの直径(d”)対外側に拡大した部分がまったく存在しない部分で測定されるようなファイバーのファイバーフィラメントの直径(d)の比;すなわち、d”/dが約1.05〜約3である類似の微細カーボンファイバー;
(iv)あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許第6,974,627号明細書にさらに記載されている、微細カーボンファイバーを含む、気相成長法によって製造された微細カーボンファイバー混合物であって、ファイバーの各ファイバーフィラメントが1〜500nmの外径および10〜15,000のアスペクト比を有し、その中心軸に沿って伸びる中空空間および複数のカーボン層からなる多層シース構造を含む微細カーボンファイバー混合物;
(v)あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許第7,569,161号明細書にさらに記載されている、VGCF(登録商標)カーボンフィラメント(昭和電工株式会社の製品)、平均繊維径:150nm、平均繊維長:9μm、アスペクト比:60、BET比表面積:13m/g、d002=0.339nm、およびId/Ig=0.2;ならびにVGCF−S(平均繊維径:100nm、平均繊維長:13μm、アスペクト比:130、BET比表面積:20m/g、d002=0.340nm、およびId/Ig=0.14);
(vi)あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許出願公開第2009/0124705号明細書にさらに記載されている、多壁アキシャルカーボンフィラメントは、2つ以上の同心隣接グラフェンチューブを有するかまたはスクロールされた、もしくは巻き取られたタイプの構造を有することができ、ここで、カーボンナノチューブは、他方のトップ上に1つを配置された2つ以上のグラフェン層からなる1つ以上の黒鉛層を含み、黒鉛層は巻き取られた構造を形成し、カーボンナノチューブは、横断面で、黒鉛層の螺旋状配置を示し、かつ、カーボンナノチューブは3〜100nmの平均径を示す;ならびに
(vii)S.Iijima,Nature,354(1991)56−58;およびCarbon 40(2002)1123−1130におけるJ.Gerard Lavina,Shekhar Subramoney,Rodney S.Ruoff,Savas Berber,and David Tomanekによる「Scrolls and nested tubes in multiwall carbon nanotubes)」にさらに記載されている、シングル多壁カーボンナノチューブ内にともに抜け出るスクロールおよびネスト化チューブであって、スクロール化構造物で、層が長さ軸Aに本質的に平行に配向し、典型的には0度、または20度、10度、もしくは5度未満の少なくとも1つ未満である軸との角度を形成するか;またはA軸に平行のチューブもしくはスクロールの長さ寸法がA軸に垂直の外径より5、10、20、40、80、160、もしくは300倍の少なくとも1つである長いスクロールおよびネスト化チューブ。
【0051】
本明細書の組成物での使用に好適である他のカーボンフィラメントには、本明細書の様々な図に示されるものが含まれ、それらは次の通りさらに説明されてもよい:
図1:ランプ笠グラフェン構造10、および長さAにわたって多くのかかる層のスタック。ランプ笠グラフェン構造10はまた、底なしカップとも言うことができる。図1Aで、長さAに垂直のランプ笠グラフェン構造10の表面の角度は、カーボンフィラメントでのグラフェン層の配向の態様を例示する。
【0052】
図2:部分的に切り取った8つのランプ笠グラフェン構造のスタック14。ランプ笠グラフェン構造の切り取り部分20は、スタックの長さベクトルAに対して約45度の角度を例示する。
【0053】
図3:積み重ねられたランプ笠グラフェン構造の内部部分30および非晶質カーボンなどの、炭素質材料の外側部分12を有するフィラメントの部分1。
【0054】
図4:3つの同心グラフェンチューブを持った多壁アキシャルカーボンフィラメントの部分。多壁アキシャルカーボンフィラメントは、軸Aの長さに本質的に平行に配向した2つ以上の同心隣接グラフェンチューブ(またはスクロール)を有し、ここで、本質的に平行は、軸と形成される角度で典型的には0度、または20度未満、10度未満、もしくは5度未満の少なくとも1つ未満である。平行配向はまた、A軸に平行のチューブまたはスクロールの長さ寸法が、A軸に垂直の外径より5、10、20、40、80、160または300倍の少なくとも1つ長い場合に存在してもよい。
【0055】
図5:3つ以上および5つ未満の層を有するとして記載される、シングル螺旋グラフェンシートから形成された多壁アキシャルカーボンフィラメントの縦方向の切り取り。
【0056】
図6:鉄(Fe)触媒(a)または(b)は、短い多壁アキシャルカーボンフィラメント(c)、または一端をグラフェンによって、一端を触媒(d)によって封止された、単壁封止カーボンフィラメント(e)、または「竹様」多壁カーボンフィラメントと一般に呼ばれる、アキシャル多壁および垂直(90度)単壁グラフェンを有する多壁カーボンフィラメント(f)、(g)を生成する。
【0057】
図7:Nanostructured & Amorphous Materials Inc.(NanoAmor)(Houston,TX)から入手された、混合物CF−CN。試料の鉄含有率は、製造業者によって測定されたように約73ppmであった。試料CF−CNにおけるフィラメントは、直径が80〜200nm、長さが10〜40ミクロンの黒鉛化カーボンナノファイバーであった。穴はファイバーのほとんどにわたって存在し、ファイバーの多層グラフェン部分にフィラメント外径の約50%の内径を与える。フィラメントの多くは竹様構造を有するが、ほとんどは多層ランプ笠積み重ね部分を持たない。
【0058】
図10Aおよび10B:昭和電工株式会社(東京)から入手された、混合物CF−A、多壁アキシャルカーボンフィラメント。試料密度は約2.1g/cm3である。この試料は約13(m/g)の表面積を有すると報告された。鉄含有率は、誘導結合プラズマ分析によって約13ppmであることが分かった。下の等温エージング試験はこの試料について0.882%の減量を示した。CF−Aのフィラメントは主として(50%超)、約10%未満が170nmより大きい、そしてほぼすべてが350nm未満の直径を有する状態で、典型的には直径が約150nmの多壁カーボンナノチューブであった。平均フィラメント長さは約10〜20ミクロンであった。各ファイバーは、約10nmの狭い観察可能な中空穴を有するか、または観察可能な穴をまったく持たず、この穴は存在する場合ファイバーの1つの狭い端を通って、しかしその両方を通ってではなく一見したところ広がっていた(一端は封止され、他端は封止されていないように見えた)。ファイバーは分岐していなかった。試料は、約1のアスペクト比および約100〜300nmの長さの多面体カーボン粒子を含有した。フィラメントの約10%未満は、ランプ笠グラフェンまたは竹様グラフェンであった。
【0059】
図14Aおよび14B:Pyrograf Products Inc(Cedarville OH)から入手された、混合物CF−CP。試料の鉄含有率は、製造業者によって測定されたように約168ppmであった。下の等温エージング試験は、この試料について2.082%の減量を示した。フィラメントは主として(50%超)、100〜200(約150)nmの直径、30〜100ミクロンの長さの、15〜25(m/g)の表面積の黒鉛化カーボンナノファイバーであった。ほとんどのフィラメントは、多くの場合多層アキシャル外側シース内に、明らかな積み重ねられたランプ笠モルホロジーを有した。
【0060】
これらのカーボンフィラメントの幾つかは、昭和電工株式会社(日本国、東京)製のVGCF(登録商標)、VGCF(登録商標)−H、VGCF(登録商標)−S、およびVGCF(登録商標)−X気相成長カーボンフィラメント;ならびにPyrograf Products,Inc.(Cedarville,Ohio)製のPyrograf(登録商標)IIIカーボンナノファイバーなど、商業的に入手可能である。
【0061】
本明細書の組成物および物品に使用されるような、黒鉛、成分(b)、およびカーボンフィラメント、成分(c)は、上に記載されたようなPAAポリマー溶液(または他のタイプのモノマーのための他の溶液)の移動の前に加熱された溶媒中へ頻繁に組み入れられ、その結果、生じたポリイミドは成分(b)および(c)の存在下に沈澱し、それによってそれらの成分は組成物へ組み入れられることになる。
【0062】
本発明の組成物で、様々な成分の含有率は、以下の量から形成されてもよい可能な範囲の全てを含む:
成分(a)、無水フタル酸または無水フタル酸の誘導体で末端封止された、剛性芳香族ポリイミドは、約40重量部以上、約42重量部以上、約44重量部以上、または約46重量部以上の量で、なおかつ約92重量部以下、または約85重量部以下、または約70重量部以下、または約55重量部以下、または約50重量部以下の量で存在してもよく;
成分(b)、黒鉛は、約8重量部以上、または約15重量部以上、または約30重量部以上、または約45重量部以上、または約50重量部以上、または約52重量部以上の量で、なおかつ約60重量部以下、または約58重量部以下、または約56重量部以下、または約54重量部以下の量で存在してもよく;そして
成分(c)、カーボンフィラメントは、約0.5重量部以上、または約1.0重量部以上、または約2.0重量部以上、または約3.0重量部以上、または約4.0重量部以上、または約5.0重量部以上の量で、なおかつ約10.0重量部以下、または約9.0重量部以下、または約8.0重量部以下、または約7.0重量部以下、または約6.0重量部以下の量で存在してもよい。
【0063】
本明細書の組成物で、上述のような範囲から取られる、任意の特定の処方で混ぜ合わせられるような3成分のそれぞれの重量部の量は、合計で100重量部になってもよいが、なる必要はない。
【0064】
本発明の組成物は、組成内容が、他の2成分のどちらかまたは両方についての最大値および最小値の任意のかかる組み合わせと一緒に、組成物の任意の1成分についての、上述のような、様々な最大値および最小値の任意の組み合わせで表されてもよい調合物の全てを含む。
【0065】
1つ以上の添加剤が、本明細書の組成物の随意の成分「(d)」として使用されてもよい。使用されるとき、添加剤は、3成分[(a)+(b)+(c)]組成物中の3成分一緒の総重量が4成分[(a)+(b)+(c)+(d)]組成物中の全4成分一緒の総重量を基準として約30〜約95重量%の範囲にある状態で、4成分[(a)+(b)+(c)+(d)]組成物中の全4成分一緒の総重量を基準として約5〜約70重量%の範囲の量で使用されてもよい。
【0066】
本明細書の組成物での随意の使用に好適な添加剤には、限定なしに、次のものの1つ以上が含まれてもよい:顔料;酸化防止剤;低下した熱膨張係数を付与する材料、例えば、炭素繊維;高い強度特性を付与する材料、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、ホウ素繊維、ガラスビーズ、ウィスカー、黒鉛ウィスカーまたはダイヤモンド粉末;熱放散または耐熱特性を付与する材料、例えば、アラミド繊維、金属繊維、セラミック繊維、ウィスカー、シリカ、炭化ケイ素、酸化ケイ素、アルミナ、マグネシウム粉末またはチタン粉末;耐コロナ性を付与する材料、例えば、天然雲母、合成雲母またはアルミナ;電気伝導性を付与する材料、例えば、カーボンブラック、銀粉末、銅粉末、アルミニウム粉末またはニッケル粉末;摩耗または摩擦係数を低下させる材料、例えば、窒化ホウ素またはポリ(テトラフルオロエチレン)ホモポリマーおよびコポリマー。充填剤は、部品二次加工前に最終樹脂に乾燥粉末として加えられてもよい。
【0067】
本明細書の組成物での使用にまたはそれを製造するために好適な原材料は、それら自体当該技術分野で公知の方法によって製造されてもよいし、またはAlfa Aesar(Ward Hill,Massachusetts)、City Chemical(West Haven,Connecticut)、Fisher Scientific(Fairlawn,New Jersey)、Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri)またはStanford Materials(Aliso Viejo,California)などの供給業者から商業的に入手可能である。
【0068】
他の不溶融性ポリマー材料から製造される製品と同様に、本明細書の組成物から二次加工される部品は、熱および圧力の適用を含む技法によって製造されてもよい(例えば、米国特許第4,360,626号明細書を参照されたい)。好適な条件には、例えば、周囲温度で約50,000〜100,000psi(345〜690MPa)の範囲の圧力が含まれてもよい。本明細書の組成物から成形される物品の物理的特性は、約300℃〜約450℃の範囲の温度で典型的に行われてよい、焼結によってさらに改善することができる。
【0069】
本明細書の組成物から製造される部品および他の物品は、末端封止されていないポリイミドを含む匹敵する組成物よりも向上した摩耗特性を示し、例えば、航空宇宙、輸送、ならびに材料取扱いおよび加工装置用途に有用である。これらの部品には、ブッシング、シールリング、スプリング、弁座、羽根、ワッシャー、ボタン、ローラー、クランプ、ワッシャー、ガスケット、スプライン、摩耗ストリップ、バンパー、スライドブロック、スプール、ポペット、弁板、ラビリンスシールまたはスラストプラグが含まれる。
【0070】
本明細書の組成物から製造される部品および他の物品は、ブッシング(例えば、可変固定子羽根ブッシング)、ベアリング、ワッシャー(例えば、スラストワッシャー)、シールリング、ガスケット、摩耗パッド、スプライン、摩耗ストリップ、バンパー、およびスライドブロックなどの航空機エンジン部品などの、航空宇宙用途に有用である。これらの航空宇宙用途部品は、往復ピストンエンジンおよび、特に、ジェットエンジンなどの全タイプの航空機エンジンに使用されてもよい。航空宇宙用途の他の例には、限定なしにターボチャージャー;シュラウド;逆噴射装置、エンジン室、フラップシステムおよびバルブなどの航空機サブシステム、および航空機ファスナー;発電機、油圧ポンプ、および他の機器を駆動するために使用される飛行機スプライン継ぎ手;液圧ライン、ホットエアライン、および/またはエンジンハウジング上の送電線を取り付けるための航空機エンジン用のチューブクランプ;制御連結構成部品、ドア機構、ならびにロケットおよび人工衛星構成部品が挙げられる。
【0071】
本明細書の組成物から製造される部品および他の物品はまた、輸送用途に、例えば、自動車、リクリエーショナル・ビークル、オフロード車、軍用車両、商用車、農機具および建設機器ならびにトラックなどの、しかしそれらに限定されない車両の構成部品として有用である。車両構成部品の例には、限定なしに自動車および他のタイプの内燃エンジン;排ガスリサイクルシステムおよびクラッチシステムなどの他の車両サブシステム;燃料システム(例えば、ブッシング、シールリング、バンドスプリング、弁座);ポンプ(例えば、真空ポンプ羽根);変速機構成部品(例えば、スラストワッシャー、弁座、および連続可変変速機でのシールリングなどのシールリング)、トランスアクスル構成部品、動力伝達装置構成部品、非航空機ジェットエンジン;エンジンベルト・テンショナー;点火分配器での摩擦ブロック;パワートレイン用途(例えば、排出構成部品、可変バルブシステム、ターボチャージャー(例えば、ボールベアリング固定器具、ウェイストゲートブッシング)、空気導入モジュール);駆動系用途(例えば、マニュアルおよび二重クラッチ変速機、トランスファーケースでのシールリング、スラストワッシャーおよびフォークパッド);頑丈なオフロード用変速機および油圧モーター用のシールリングおよびスラストワッシャー;オール−テラインビークル(「ATV」)およびスノーモービルでの連続可変変速機用のブッシング、ボタン、およびローラー;ならびにスノーモービル・ギアケース用の鎖テンショナー;ブレーキシステム(例えば、アンチロックブレーキシステム用の摩耗パッド、バルブ構成部品);蝶番ブッシング;ギア転換装置ローラー;車輪ディスクナット、ステアリングシステム、エアコンシステム;サスペンジョンシステム;吸気および排気システム;ピストンリング;ならびに衝撃吸収材が挙げられる。
【0072】
本明細書の組成物から製造される部品および他の物品はまた、射出成形機および押出装置(例えば、プラスチック射出成形および押出装置用の絶縁体、シール、ブッシングおよびベアリング)、コンベヤ、ベルトプレスおよび幅出し機フレームなどの、材料取扱設備および材料加工設備;ならびにフィルム、シール、ワッシャー、ベアリング、ブッシング、ガスケット、摩耗パッド、シールリング、スライドブロックおよび押しピン、クランプおよびパッドなどのガラス取扱部品、アルミニウム鋳造機でのシール、バルブ(例えば、弁座、スプール)、ガス圧縮機(例えば、ピストンリング、ポペット、弁板、ラビリンスシール)、水力タービン、計量供給装置、電動機(例えば、ブッシング、ワッシャー、スラストプラグ)、ハンドヘルドツール電化製品モーターおよびファン用の小モーターブッシングおよびベアリング、トーチ断熱材、ならびに低い摩耗が望ましい他の用途にも有用である。
【0073】
本明細書の組成物から製造される部品および他の物品はまた、飲料缶、例えば、缶形状を形成する本体メーカーにおけるブッシング、真空マニホールド部品、ならびにシェルプレスバンドおよびプラグの製造で;ブッシングおよびマンドレルライナーとしてスチールおよびアルミニウム圧延機工業で;ガスおよび石油探査および精製装置で;ならびに繊維機械(例えば、織機用のブッシング、編織機用のボールカップ、織物仕上機用の摩耗ストリップ)で有用である。
【0074】
幾つかの用途では、本明細書の組成物から製造された部品または他の物品は、それが存在する装置が組み立てられ、通常の使用中である時間の少なくとも一時期に金属と接触する。
【実施例】
【0075】
本明細書の組成物の有利な特質および効果は、下に記載されるように、実施例(実施例1)に見ることができる。実施例がベースとする組成物の実施形態は代表的なものであるにすぎず、本発明を例示するための実施形態の選択は、この実施例に記載されていない原材料、成分、反応剤、原料、調合物または仕様が本明細書で本発明を実施するために好適ではないこと、またはこの実施例に記載されていない主題が添付のクレームおよびそれの均等物の範囲から排除されることを示さない。実施例の重要性は、それから得られる結果を、対照実験(比較例A〜C)として役立つようにデザインされ、そしてこれらの組成物がその中に末端封止されたポリイミドと気相成長カーボンフィラメントとの組み合わせを含有しないのでかかる比較の根拠を提供する、ある種の試行から得られる結果と比較することによってより良く理解される。
【0076】
本実施例では、次の省略形が用いられる:「BPDA」は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物と定義され、「cm」はセンチメートルと定義され、「g」はグラムと定義され、「in」はインチと定義され、「mmol」はミリモルと定義され、「MPa」はメガパスカルと定義され、「MPD」はm−フェニレンジアミンと定義され、「nm」はナノメートルと定義され、「μm」はマイクロメートルと定義され、「PPD」はp−フェニレンジアミンと定義され、「psi」は1平方インチ当たりのポンドと定義され、「PA」は無水フタル酸と定義され、「TOS」は熱酸化安定性と定義され、そして「wt%」は重量パーセント(百分率)と定義される。
【0077】
原材料
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物は、三菱ガス化学株式会社(日本国、東京)から入手した。m−フェニレンジアミンおよびp−フェニレンジアミンは、DuPont(Wilmington,Delaware,USA)から入手した。使用される黒鉛は、約8マイクロメートルの中間粒度の、合成黒鉛、最大0.05%灰分であった。無水フタル酸(少なくとも99%純度)は、Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri,USA)から入手した。
【0078】
カーボンフィラメントの試料(試料CF−A)は、昭和電工株式会社(東京)製に含有された。試料密度は約2.1g/cmと報告されている。この試料は約13(m/g)の表面積を有すると報告された。鉄含有率は、誘導結合プラズマ分析によって約13ppmであることが分かった。下の等温エージング試験は、この試料について0.882%の減量を示した。
【0079】
CF−Aのフィラメントは主として(50%超)、一見したところ10%未満が170nmより大きく、ほぼすべてが350nm未満である状態で、典型的には直径が約150nmの多壁カーボンナノチューブであった。平均フィラメント長さは約10〜20ミクロンであった。各ファイバーは、約10nmの狭い観察可能な中空穴を有するか、または観察可能な穴をまったく持たず;この穴は、存在する場合、ファイバーの1つの狭い端を通って、しかしその両方を通ってではなく一見したところ広がっていた(一端は閉じ、他端は開いているように見えた)。ファイバーは分岐していなかった。試料は、約1のアスペクト比および約100〜300nmの長さの多面体カーボン粒子を含有した。フィラメントの約10%未満は、顕微鏡法によって観察されるようにランプ笠グラフェンまたは竹様グラフェンであった。
【0080】
方法
乾燥ポリイミド樹脂を、室温および100,000psi(690MPa)成形圧力で、ASTM E8(2006),「Standard Tension Test Specimen for Powdered Metal Products−Flat Unmachined Tensile Test Bar」に従って直接成形することによってTOS測定用の引張試験片へ二次加工した。引張試験片を窒素パージしながら405℃で3時間焼結させた。
【0081】
乾燥ポリイミド樹脂を、米国特許第4,360.626号明細書(とりわけ列2,行54〜60)に記載されている手順に実質的に従った手順を用いて、直接成形することによって、摩耗試験検体、直径が2.5cmおよび厚さが約0.5cmのディスクへ二次加工した。
【0082】
試験方法Aでは、ディスクに関する高温摩耗は、コンピューターで摩擦力データを収集して、温度制御オーブンを使用することによって修正された、ASTM G 133−05(2005),「Standard Test Method for Linearly Reciprocating Ball−on−Flat Sliding Wear」に記載される試験手順を用いて測定した。これらの試験では、スチールボールベアリングを、試験検体の表面に300サイクル/分で振動する2ポンド負荷下に3時間指定温度で擦りつけた。実験の終わりに、試験検体上の生じた摩耗傷の体積を光学形状測定によって測定し、それから摩耗傷の体積を求めた。摩耗傷の体積を、示された試験条件下での摩耗率として報告する。
【0083】
実施例1.47重量%黒鉛および3重量%CF−Aを含有する1%フタレート末端封止のポリイミド樹脂の調製
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二酸無水物(BPDA)、m−フェニレンジアミン(MPD)およびp−フェニレンジアミン(PPD)をベースとするポリイミド樹脂を、あらゆる目的のために本明細書の一部として全体を本参照により援用される、米国特許第5,886,129号明細書に記載されている方法に従って調製した。原料は、8.77g(81.1ミリモル)MPD、20.47g(189ミリモル)PPD、79.55g(270ミリモル)BPDA、および末端封止剤としての0.40g(2.70ミリモル)無水フタル酸(PA)であった。PA対BPDAのモル比は1:100であった。BPDAおよびPAを、MPDおよびPPDのピリジン溶液に加えた。生成したポリアミック酸溶液を、41.92gの黒鉛、および2.68gのCF−Aの存在下にイミド化して46.9重量%黒鉛および3.0重量%CF−Aを含有する樹脂を生成した。生じたポリイミド樹脂を単離し、洗浄し、乾燥させた。乾燥後に、樹脂を、Wileyミルを用いて20メッシュスクリーンを通してすり潰して粉末を形成した。
【0084】
乾燥ポリイミド樹脂を、試験検体、上記のような、直径が2.5cmおよび厚さが約0.5cmのディスクへ二次加工した。上記のような、ASTM G133によって測定されるような試験検体の摩耗率を、10−8インチ(10−7cm)の単位での摩耗傷体積として報告される、表1に示す。熱酸化安定性(TOS)は、5気圧の空気(0.5MPa)下で測定し、800°F(427℃)で25時間後の減量を表1に示す。この測定値は、4つの樹脂バッチの平均である(すなわち、そのそれぞれが異なる樹脂バッチからのものである、4つのディスクを試験した)。
【0085】
比較例A.50重量%黒鉛を含有する非変性ポリイミドの調製
この樹脂は、無水フタル酸もCF−Aもこの調製に使用しなかったことを除いて、実施例1の方法によって調製した。上記のように、ASTM G133によって測定されるような生じた樹脂の摩耗率を表に示す。この測定値は、5つの樹脂バッチの平均である。標準偏差は、研究結果の統計的有意性の指標を提供する、表1に示されるように、約15%である。生じた樹脂のTOSは、表1に示され、14の樹脂バッチの平均である。
【0086】
比較例B.50重量%黒鉛を含有する1%フタレート末端封止のポリイミド樹脂の調製
この樹脂は、CF−Aをこの調製に使用しなかったことを除いて、実施例1の方法によって調製した。上記のように、ASTM G133によって測定されるような生じた樹脂の摩耗率を表に示す。生じた樹脂のTOSは、表1に示され、同じバッチの樹脂に関する5つの測定値の平均である。
【0087】
比較例C.47重量%黒鉛および3重量%CF−Aを含有する非変性ポリイミドの調製
この樹脂は、無水フタル酸をこの調製に使用しなかったことを除いて、実施例1の方法によって調製した。上記のように、ASTM G133によって測定されるような生じた樹脂の摩耗率を表に示す。この測定値は、5つの樹脂バッチの平均である。生じた樹脂のTOSは、表1に示され、10の樹脂バッチの平均である。
【0088】
表1に示される結果は、1%末端封止単独が(上記のように)ASTM G133によって測定されるように摩耗率を低下させる(向上させる)が、TOSを増加させ(損ない)、末端封止なしの3重量%CF−Aの添加が摩耗率およびTOSを本質的に変えず、一方、3重量%CF−Aと末端封止との組み合わせが摩耗率およびTOSの両方を低下させた(向上させた)ことを実証する。
【0089】
【表1】

【0090】
ある範囲の数値が本明細書に列挙される場合、この範囲は、それの終点ならびにこの範囲内の個々の整数および分数全てを含み、かつまた、それらの終点と内部整数および分数との様々な可能な組み合わせ全てによって形成されるその中のより狭い範囲のそれぞれを含んで、あたかもそれらのより狭い範囲のそれぞれが明確に列挙されるかのように同じ程度に述べられる範囲内の値のより大きいグループのサブグループを形成する。ある範囲の数値が述べられる値より大きいと本明細書に述べられる場合、この範囲は、それにもかかわらず有限であり、本明細書に記載されるような本発明の脈絡内で使用できる値とその上限で接している。ある範囲の数値が述べられる値未満であると本明細書で述べられる場合、この範囲は、それにもかかわらず非ゼロ値とその下限で接している。
【0091】
本明細書では、そうではないと明確に述べられないかまたは用法の脈絡によってそれとは反対を示されない限り、本明細書の主題の実施形態が、ある種の特徴または要素を含む(comprising)、含む(including)、含有する(containing)、有する(having)、それらからなるまたはそれらでもしくはそれらから構成されると述べられるかまたは記載される場合、明確に述べられるかまたは記載されるものに加えて1つ以上の特徴または要素がこの実施形態中に存在してもよい。しかしながら、本明細書の主題の代わりの実施形態は、ある種の特徴または要素から本質的になると述べられるかまたは記載されてもよく、その実施形態において、実施形態の運用の原則または特徴的な特性を実質的に変更するであろう特徴または要素はその中に存在しない。本明細書の主題のさらなる代わりの実施形態は、ある種の特徴または要素からなると述べられるかまたは記載されてもよく、その実施形態において、またはそれのごくわずかな変形において、具体的に述べられるかまたは記載される特徴または要素だけが存在する。
【0092】
本明細書では、そうではないと明確に述べられないかまたは用法の脈絡によってそれとは反対を示されない限り、
(a)本明細書に列挙される量、サイズ、範囲、調合物、パラメーター、ならびに他の量および特性は、特に用語「約」によって修正されるときに、正確であってもよいが、正確である必要はなく、そしてまたおおよそであってもよくおよび/または、本発明の脈略内で、述べられた値への機能的なおよび/または使用できる等価性を有するその外側のそれらの値の述べられた値内への包含だけでなく、許容範囲、換算係数、丸め、測定誤差などを反映して、述べられるものより大きくてももしくは小さくてもよく;
(b)部、百分率または比の全数量は、重量による部、百分率または比として与えられ;
(c)本発明の要素または特徴の存在の言明または記載に関して不定冠詞「a」または「an」の使用は、要素または特徴の存在を数の上で1つに限定せず;そして
(d)単語「含む(include)」、「含む(includes)」および「含む(including)」は、実際にそれが当てはまらない場合、あたかもそれらの後に語句「限定なしに」が続くかのように読まれ、解釈されるべきである。
【0093】
本開示に含まれる米国特許および商標庁(United States Patent and Trademark Office)の公文書および刊行物へのすべての言及は、全体公文書または刊行物が本明細書に出てくるかのように参照により本明細書によって援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)約40重量部以上なおかつ約92重量部以下の、次式(IV):
【化1】

(式中、R、R、R、およびRはそれぞれ独立して、H、Br、Cl、F、アルキル、アルコキシ、またはフルオロアルキルである)
の構造で表されるような、無水フタル酸、または無水フタル酸の誘導体で末端キャップされている硬質ポリイミド;(b)約8重量部以上なおかつ約60重量部以下の黒鉛;および(c)約0.5重量部以上なおかつ約10.0重量部以下のカーボンフィラメントを混合剤で含む組成物。
【請求項2】
前記カーボンフィラメントが、多層構造を有する気相成長カーボンファイバーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記カーボンフィラメントが前記フィラメントの長さの少なくとも一部に沿って走る中空穴を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記カーボンフィラメントが約150重量ppm未満の鉄を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記カーボンフィラメントが1モルのカーボン当たり少なくとも約0.0005モルのホウ素を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記カーボンフィラメントが次の特性:約70〜約400nmの平均直径、約5〜約100μmの平均長さ、および少なくとも約50のアスペクト比の1つ以上を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸化合物またはその誘導体から製造され、前記芳香族テトラカルボン酸化合物が式(II):
【化2】

(式中、Rは四価の芳香族基であり、各Rは独立して、水素もしくはC〜C10アルキル基、またはそれらの混合物である)
で表される請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリイミドが、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物およびそれらの混合物からなる群から選択される芳香族テトラカルボン酸化合物から製造される請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリイミドが、構造HN−R−NH(式中、Rは、16個以下の炭素原子を含有し、場合により、−N−、−O−、および−S−からなる群から選択される1つ以上のヘテロ原子を芳香環中に含有する二価の芳香族ラジカルである)で表されるジアミン化合物から製造される請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリイミドが、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、ナフタレンジアミン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるジアミン化合物から製造される請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリイミドが、反復単位
【化3】

(式中、Rは、
p−フェニレンラジカル、
【化4】

m−フェニレンラジカル、
【化5】

およびそれらの混合物からなる群から選択される)
を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記R基の60超〜約85モル%がp−フェニレンラジカルを含み、約15〜40モル%未満がm−フェニレンラジカルを含む請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記R基の約70モル%がp−フェニレンラジカルを含み、前記Rの約30モル%がm−フェニレンラジカルを含む請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリイミドが、−O−、−N(H)−C(O)−、−S−、−SO−、−C(O)−、−C(O)−O−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH)−、および−NH(CH)−からなる群から選択される10モル%未満の結合をその中に含む請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
[合計(a)+(b)+(c)+(d)組成物の重量を基準として]約5重量%〜約70重量%の、顔料;酸化防止剤;低下した熱膨張係数を付与する材料;高い強度特性を付与する材料;放熱または耐熱特性を付与する材料;耐コロナ性を付与する材料;電気伝導性を付与する材料;および摩耗または摩擦係数を低下させる材料からなる群のメンバーから選択される1つ以上の添加剤を含む成分(d)をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の組成物を含む物品。
【請求項17】
ブシュ、シールリング、スプリング、弁座、羽根、ワッシャー、ボタン、ローラー、クランプ、ワッシャー、ガスケット、スプライン、摩耗ストリップ、バンパー、スライドブロック、スプール、ポペット、弁板、ラビリンスシールまたはスラストプラグとして二次加工される請求項16に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図17−3】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【図19−3】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図21−1】
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【図21−2】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【公表番号】特表2013−508536(P2013−508536A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537002(P2012−537002)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/054288
【国際公開番号】WO2011/056651
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】