説明

高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法

【課題】地金コストを上昇させず、製造工程数も増加させることなく、結晶粒微細化のための添加元素も必要とせずに、薄板連続鋳造プロセスにより製造される高速超塑性成形性に優れたアルミニウム合金板とその製造方法を提供する。
【解決手段】合金板は、化学組成が、質量%で、Mg:2.5〜5.0%、Fe:0.1〜0.3%、Si:0.06〜0.12%および残部:アルミニウムと不可避的不純物から成り、上記不可避的不純物のうちMn:0.1%以下, Cr:0.05%以下に制限し、ミクロ組織が、円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下であって、繊維状の未再結晶組織または平均結晶粒径20μm以下の再結晶組織である。その製造は、上記組成の合金溶湯を薄板連続鋳造機にて厚さ5〜15mmのスラブに鋳造して巻き取り、均質化処理することなく冷延率70〜96%で冷間圧延したままとするか、更に最終焼鈍する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速超塑性成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板成形品のデザインの多様化にともなう成形形状の複雑化に対応するため、成形性に優れたアルミニウム板が提案されているが、一般的な常温でのプレス成形ではアルミニウム板の伸びが数十%であるため、顧客の望む形状を得ることができない場合がある。これに対し、巨大伸びを得ることができる超塑性アルミニウム板は、顧客の所望する形状に容易に対応できるため、その使用が増えている。しかし、従来のAl−Mg系超塑性合金は、成形速度(ひずみ速度)が10-4〜10-3/secと遅い場合に最大伸びが得られるため、成形に多くの時間を有し生産性が劣る欠点があった。
【0003】
これを解決するため、比較的粗いAl−Fe−Si系化合物の数を減らし、結晶粒径の範囲を規定した高速超塑性変形が可能なAl−Mg系合金板が開発されている(特許文献1、2)。これら材料は不純物としてのSi量を0.06%以下、Fe量を0.06%以下と厳しく規制することで目的とする高速超塑性変形が得られる。しかし、不純物を厳しく規制しているため、地金コストが高くなるという問題点を抱えている。さらに、製造方法も高温で均質化処理した鋳塊を熱間圧延・冷間圧延する工程を含むため、工程数が多いという問題もある。
【0004】
上記の問題を解消するため、本出願人は特許文献3において、Al−Mg系合金溶湯を双ベルト鋳造機により鋳造時冷却速度20〜150℃/secで鋳造厚さ5〜15mmのスラブとし、引き続き冷延率70〜96%で冷間圧延し、得られた冷間圧延板を焼鈍することを特徴とするAl−Mg系合金板の製造方法を提案した。この製造方法によると、Si量0.06%〜0.2%、Fe量0.1%〜0.5%を含有していても、金属間化合物をマトリックス中に均一微細に分散させることができ、高温高速成形性に優れ、且つ成形後のキャビティの少ないAl−Mg系合金板を得ることができる。しかしながら、この材料では焼鈍材の結晶粒微細化のためにMn、Cr、Zrのいずれかを添加する必要があるだけでなく、高温高速成形性も更なる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-59736号公報
【特許文献2】特開平10−259441号公報
【特許文献3】特開2005−307300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、地金コストを上昇させず、製造工程数も増加させることなく、結晶粒微細化のための添加元素も必要とせずに、薄板連続鋳造プロセスにより製造される高速超塑性成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本願第1発明によれば、質量%で、下記組成:
Mg:2.5〜5.0%、
Fe:0.1〜0.3%、
Si:0.06〜0.12%、および
残部:アルミニウムと不可避的不純物
から成り、上記不可避的不純物のうちMn:0.1%以下, Cr:0.05%以下に制限し、
円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下、繊維状の未再結晶組織であることを特徴とする高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板が提供される。
【0008】
更に、第1発明のアルミニウム合金板の製造方法であって、
第1発明の組成の合金溶湯を準備し、
上記合金溶湯を薄板連続鋳造機にて厚さ5〜15mmのスラブに鋳造し、
上記スラブを巻き取り、
均質化処理することなく冷延率70〜96%で冷間圧延する
ことを特徴とする高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板の製造方法が提供される。
【0009】
上記の目的を達成するために、本願第2発明によれば、質量%で、下記組成:
Mg:2.5〜5.0%、
Fe:0.1〜0.3%、
Si:0.06〜0.12%、および
残部:アルミニウムと不可避的不純物
から成り、上記不可避的不純物のうちMn:0.1%以下, Cr:0.05%以下に制限し、
円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下、平均結晶粒径20μm以下の再結晶組織であることを特徴とする高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板が提供される。
【0010】
更に、第2発明のアルミニウム合金板の製造方法であって、
上記組成の合金溶湯を準備し、
上記合金溶湯を薄板連続鋳造機にて厚さ5〜15mmのスラブに鋳造し、
上記スラブを巻き取り、
均質化処理することなく冷延率70〜96%で冷間圧延し、
得られた冷間圧延板に最終焼鈍を施して再結晶化させる
ことを特徴とする高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミニウム合金板は、化学組成を規定し、特に従来は焼鈍材の結晶粒微細化のために添加していたMnおよびCrを、従来とは逆に不純物として含有量を厳密に規制する一方で、Si、Feはむしろ有効な必須元素として利用すると同時に、ミクロ組織を規定して金属間化合物を微細かつ均一に分散させ、繊維状の未再結晶組織とするか、または粒径を規制した再結晶組織とすることにより、高温高速成形時に微細なサブグレイン(亜結晶粒)組織の形成で高い伸びが得られる。
【0012】
したがって、本発明のアルミニウム合金板は、地金コストが上昇することなく、製造工程数も増加せず、細粒化の元素添加も必要としない。
【0013】
また、本発明の製造方法は、薄板連続鋳造プロセスにより高い鋳造時冷却速度を確保すると共に冷間圧延において冷延率を規制して金属間化合物の均一微細分散を達成し、冷間圧延により繊維状組織とするか、または冷間圧延後の最終焼鈍により微細な再結晶組織とすることにより、高温高速成形時に高い伸びが得られるアルミニウム合金板を製造することができる。
【0014】
本発明の製造方法は、薄板連続鋳造機にて鋳造したスラブを均質化処理することなく最終厚みまで冷間圧延するため、工程数が少なくエネルギー消費量も低い高速超塑性特性を有するアルミニウム合金板の製造方法である。
【0015】
本発明のアルミニウム合金板を使用することにより、高品位の成形製品が得られ、また成形時間が短縮され生産性が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において合金の化学組成を限定した理由を説明する。本明細書中で化学組成を表す「%」は特に断らない限り「質量%」の意味である。
【0017】
〔Mg:2.5〜5.0%〕
Mgは固溶強化によって強度を高める元素であり、2.5%未満であるとこの効果を発現することができず、また高温高速変形時に微細なサブグレイン組織が形成できず伸びが低い。Mg含有量が5.0%を超えると冷間圧延が困難となる。
【0018】
〔Fe:0.1〜0.3%〕
Feは鋳造時にAl-Fe-Si系などの金属間化合物の微細粒子として晶出し、冷間圧延後の焼鈍の際に再結晶の核生成サイトとして機能する。したがって、これら金属間化合物の粒子個数が多いほど生成する再結晶核が多くなり、その結果、多数の微細な再結晶粒が形成される。また、金属間化合物の微細粒子は、生成した再結晶粒の粒界をピン止めして結晶粒の合体による成長を抑制し、微細な再結晶粒を安定に維持する。この効果を発現するにはFe含有量を0.1%以上とする必要がある。ただし、Fe含有量が0.3%を超えると晶出する金属間化合物が粗大化する傾向が強くなり、高温成形時にこの金属間化合物を起点としてキャビティ(空洞)を形成し成形性が劣る。したがって、Fe含有量は0.1〜0.3%に限定する。好ましい範囲は0.1〜0.25%である。
【0019】
〔Si:0.06〜0.12%〕
Siは鋳造時にAl-Fe-Si系などの金属間化合物の微細粒子として晶出し、冷間圧延後の焼鈍の際に再結晶の核生成サイトとして機能する。したがって、これら金属間化合物の粒子個数が多いほど生成する再結晶核が多くなり、その結果、多数の微細な再結晶粒が形成される。また、金属間化合物の微細粒子は、生成した再結晶粒の粒界をピン止めして結晶粒の合体による成長を抑制し、微細な再結晶粒を安定に維持する。この効果を発現するにはSi含有量を0.06%以上とする必要がある。ただし、Si含有量が0.12%を超えると晶出する金属間化合物が粗大化する傾向が強くなり、高温成形時にこの金属間化合物を起点としてキャビティ(空洞)を形成し成形性が劣る。したがって、Si含有量は0.06〜0.12%に限定する。好ましい範囲は0.06〜0.1%である。
【0020】
〔Mn:0.1%以下〕
Mnは、従来は再結晶粒を微細化させかつ再結晶粒の成長を抑制するために添加されていた。これに対して本発明においては、Mnを不純物として含有量を0.1%以下に制限する。すなわち、Mn含有量が0.1%を超えると、鋳造時にAl−(Fe・Mn)-Si系の塊状晶出物を生じ、冷間圧延工程を経てもそれらが破断されることなく最終焼鈍後も残存するため、高温成形時にこの晶出物を起点としてキャビティ(空洞)を形成し成形性が劣る。特にキャビティ発生防止を重視する場合には、上限を更に制限して0.05%以下とすることが好ましい。
【0021】
〔Cr:0.05%以下〕
Crは、Mnと同様に、従来は再結晶粒を微細化させかつ再結晶粒の成長を抑制するために添加されていた。これに対して本発明においては、Crを不純物として含有量を0.05%以下に制限する。すなわち、Cr含有量が0.05%を超えると、鋳造時にAl−(Fe・Cr)−Si系の塊状晶出物を生じ、冷間圧延工程を経てもそれらが破断されることなく最終焼鈍後も残存するため、高温成形時にこの晶出物を起点としてキャビティ(空洞)を形成し成形性が劣る。特にキャビティ発生防止を重視する場合には、上限を更に制限して0.03%以下とすることが好ましい。
【0022】
〔任意成分のTi:0.001〜0.1%〕
本発明においては、鋳造塊の結晶粒を微細化するためにTiを0.001〜0.1%の範囲で添加することができる。この効果を発現するにはTi添加量を0.001%以上とする必要がある。ただし、Ti添加量が0.1%を超えるとTiAl等の粗大な金属間化合物が生成し、高温成形時にキャビティ(空洞)を形成し成形性が低下する。好ましい範囲は0.001〜0.05%である。
【0023】
次に、本発明において合金板のミクロ組織を限定した理由を説明する。
〔円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下〕
本発明における第二相粒子とは、金属間化合物のことを意味し、具体的には、鋳造時に晶出したAl−Fe−Si系、Al−(Fe・Mn)−Si系、Al−(Fe・Cr)−Si系、MgSi、AlMn等のことである。
本発明は、円相当径0.2μm以上の第二相粒子の個数を制限することにより、高温高速成形時のキャビティ発生を抑制し、高温高速変形時に高い延性を発現することにより、高温高速成形性が高まる。この効果を得るためには、円相当径0.2μm以上の第二相粒子の存在密度を20000個/mm以下に制限する必要がある。円相当径0.2μm以上の第ニ相粒子の個数はでき得る限り減らすことが望ましい。
【0024】
〔繊維状の未再結晶組織〕
冷間圧延後に最終焼鈍を施さず繊維状の未再結晶組織とした合金板は、高温成形の際の加熱中に微細な再結晶粒が生成する。更に、高温成形中に微細なサブグレイン(亜結晶粒)組織が生成する。それによって、伸びが向上する。
【0025】
〔平均結晶粒径20μm以下の再結晶組織〕
冷間圧延後の最終焼鈍により再結晶組織とした冷間圧延板は、平均結晶粒径を20μm以下とする。高温成形前の結晶粒径が微細であれば、高温変形時に粗粒を起因とした肌荒れが発生せず良好な外観が得られるとともに、高温変形時の伸びが増大する。平均結晶粒径が20μmを超えると粗粒を起因とした肌荒れが発生するとともに高温変形時の伸びが低下する。更に好ましい平均結晶粒径は13μm以下である。なお、ここで「再結晶組織」とは完全再結晶組織ばかりでなく、部分再結晶組織(20μm以下の再結晶粒+繊維状の未再結晶粒)も含む。
【0026】
本発明の製造方法の諸条件を限定した理由を説明する。
〔薄板連続鋳造機にて厚さ5〜15mmのスラブに鋳造し〕
本発明の高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板の製造に用いる薄スラブは薄板連続鋳造機により鋳造する。薄板連続鋳造機には、双ベルト式と双ロール式の2方式がある。
双ベルト式連続鋳造機では、上下に対面し水冷されている一対の回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る方式が採用される。
双ロール式連続鋳造機では、上下に対面し水冷されている一対の回転ロール間に溶湯を注湯してロール面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ロールの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る方式が採用される。
【0027】
本発明においては、鋳造するスラブの厚さは5〜15mmとする。この範囲の厚さであれば、板厚中央部でも大きな凝固速度を確保できるので、均一な鋳造組織を形成し易く、同時に、本発明の組成であれば粗大な金属間化合物の生成の抑制が容易にでき、最終的な製品板における円相当径0.2μm以上の第二相粒子の20000個/mm以下の低密度にすることができる。また、最終焼鈍後の再結晶粒の平均粒径を20μm以下に制御することが容易になる。上記のスラブ厚さ範囲は、薄板連続鋳造の実行面からも適当である。すなわち、スラブ厚さが5mm未満であると、単位時間当りに鋳造機を通過するアルミニウム合金量が少なくなり過ぎて、鋳造圧延自体が困難になる。スラブ厚さが15mmを超えると、コイルとして巻き取ることが困難になる。
【0028】
〔冷延率70〜96%で冷間圧延する〕
冷間圧延による塑性加工により発生した転位の晶出物周囲への堆積によって、最終焼鈍を施さない場合には最終板において繊維状の未再結晶組織を形成し、高温成形の際の加熱による結晶粒微細化を促進し、あるいは最終焼鈍を施す場合には最終板において微細な再結晶組織を形成する。冷延率が70%未満であると、転位の蓄積が不十分になって高温成形の際の加熱中または焼鈍後に微細な再結晶組織が得られない。冷延率が96%を超えると、冷間圧延中に耳割れが発生し、冷間圧延の実行が困難になる。
【0029】
本願第2発明においては冷間圧延後に最終焼鈍として上記焼鈍を行なう。これは一般に連続焼鈍炉またはバッチ炉で行なうが、特にこれに限定する必要はない。
〔連続焼鈍炉:保持温度400〜500℃で保持時間5分以内の焼鈍処理を施す〕
連続焼鈍炉による最終焼鈍の焼鈍温度は400〜500℃の範囲とする。400℃未満であると、再結晶が不十分になり、微細な再結晶組織を得ることができない。しかし、500℃を超えると、再結晶粒径が20μmを超えてしまい、微細な再結晶組織が得られない。
【0030】
連続焼鈍炉での焼鈍温度における保持時間は5分以内とする。5分を超える保持時間の場合、再結晶粒が粗大化してしまい、微細な再結晶組織が得られない。
【0031】
〔バッチ炉:保持温度300〜400℃、保持時間1〜8時間の焼鈍処理を施す〕
バッチ炉による最終焼鈍の焼鈍温度は300〜400℃の範囲とする。300℃未満であると、再結晶が不十分になり、微細な再結晶組織を得ることができない。しかし、400℃を超えると、再結晶粒径が20μmを超えてしまい、微細な再結晶組織が得られない。
【0032】
バッチ炉での焼鈍温度における保持時間は1〜10時間の範囲とする。保持時間1時間未満の場合、昇温速度にもよるが、コイル全体が均一に加熱されないため、均一で微細な再結晶組織が得られない。保持時間10時間を超える場合、生産コストが掛かりすぎるため好ましくない。
【0033】
本発明のアルミニウム合金板の成形加工は、400〜550℃の温度で行なうことが好ましい。成形加工温度が400℃未満では十分な伸びが得られない。成形加工温度が550℃を超えると、結晶粒の粗大化が起き、更に本発明の範囲内で高Mg組成の合金では局部的な融解が発生して伸びが低下する。成形加工時の歪速度は2×10-2/sec〜8×10-1/secの範囲が好ましい。歪速度が2×10-2/sec未満であると、成形加工中に微細なサブグレイン組織が形成できず伸びが低下する。歪み速度は、8×10-1/secを超えると、結晶粒が粗大化し伸びが低くなる。更に好ましい歪速度の範囲は5×10-2/sec〜5×10-1/secである。
【実施例】
【0034】
表1に示す化学組成のアルミニウム合金溶湯を双ベルト式連続鋳造機で10mmの厚みの薄スラブを鋳造した。鋳造した薄スラブはその後、均質化処理を行わず、最終板厚1mmまで冷間圧延した。得られた板の一部は、450℃×15秒間の最終焼鈍を行い調質Oとした。その後、全ての板材からミクロ組織観察用試料を採取して断面を研磨し、画像解析装置(LUZEX)で所定の面積に存在する円相当径0.2μm以上の第二相粒子の個数をカウントした。さらに、JISH7501に規定した試験片を作成して、440℃まで加熱して歪み速度 1×10−1/secにて高温引張試験を行ない、伸び(%)を測定した。
【表1】

【表2】

【0035】
試料番号1は本発明の組成範囲内であり、その金属組織において円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下、平均結晶粒径20μm以下であったため、伸びは250%以上であった。
【0036】
試料番号2は本発明の組成範囲内であり、その金属組織において円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下、繊維状の未再結晶組織であったため、高温引張試験の際の加熱中に微細な再結晶粒組織が得られ、伸びは250%以上であった。
【0037】
試料番号3はMn含有量が0.1%を超えており本発明の組成範囲外であり、その金属組織において円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以上であったため、高温引張試験中にキャビティが多数発生し、伸びは250%未満であった。
【0038】
試料番号4はCr含有量が0.05%を超えており本発明の組成範囲外であり、その金属組織において円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以上であったため、高温引張試験中にキャビティが多数発生し、伸びは250%未満であった。
【0039】
試料番号5はMg含有量が2.5%未満であり本発明の組成範囲外であり、その金属組織において円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下、平均結晶粒径20μm以下であったが、高温変形時に微細なサブグレイン組織が得られず、伸びは250%未満であった。
【0040】
試料番号6はMg含有量が5.0%を超えており本発明の組成範囲外であり、薄スラブの鋳造はできたものの、その後の冷間圧延中に耳割れが生じたため、1mm厚の板材を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、地金コストを上昇させず、製造工程数も増加させることなく、結晶粒微細化のための添加元素も必要とせずに、薄板連続鋳造プロセスにより、優れた高速超塑性成形性を有するアルミニウム合金板およびその製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、下記組成:
Mg:2.5〜5.0%、
Fe:0.1〜0.25%、
Si:0.06〜0.12%、および
残部:アルミニウムと不可避的不純物
から成り、上記不可避的不純物のうちMn:0.05%以下, Cr:0.05%以下に制限し、
円相当径0.2μm以上の第二相粒子が20000個/mm以下、平均結晶粒径20μm以下の再結晶組織であることを特徴とする高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1において、質量%で、
Ti:0.001〜0.1%、
を更に含有することを特徴とするアルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1または2において、400〜550℃の温度域において歪速度2×10−2〜8×10−1/secで成型加工したときの伸びが250%以上であることを特徴とするアルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載のアルミニウム合金板を製造する方法であって、
請求項1または2記載の組成の合金溶湯を準備し、
上記合金溶湯を薄板連続鋳造機にて厚さ5〜15mmのスラブに鋳造し、
上記スラブを巻き取り、
均質化処理することなく冷延率70〜96%で冷間圧延し、
得られた冷間圧延板に最終焼鈍を施して再結晶化させる
ことを特徴とする高温高速成形性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記最終焼鈍を連続焼鈍炉により保持温度400〜500℃、保持時間5分以内で行うことを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項6】
請求項4において、前記最終焼鈍をバッチ炉により保持温度300〜400℃、保持時間1〜10時間で行うことを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。

【公開番号】特開2012−122141(P2012−122141A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17867(P2012−17867)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【分割の表示】特願2006−4391(P2006−4391)の分割
【原出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】