説明

高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法

【課題】高濃度塩酸環境下に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法を提供するものである。
【解決手段】高濃度塩酸環境下に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器を陰極とし、樹脂含浸炭素を陽極として陽陰極間に外部電源により電流を供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、弗化水素を水に溶解した弗化水素酸は弗化カルシウムに硫酸を加えることにより製造することは知られており、この弗化水素酸は半導体メーカーにおいて大量に使用されている。近年、半導体産業の急速な発達に伴って一層多量に使用されるようになり、原料である弗化カルシウムが世界的に不足して来ているところから弗化カルシウムの価格が上昇している。
そのために、一度使用した弗化水素酸を含む廃液に塩化カルシウムを添加して、廃液に含まれる弗化水素と塩化カルシウムを反応せしめてCaFを生成せしめ、CaFを沈殿させて回収し、この回収したCaFを再び原料として利用する試みが成されている。このCaFを生成させる反応(反応式:2HF+CaCl→CaF+2HCl)を効率良く行うためには反応槽内の廃液の温度を30〜90℃に保持する必要がある。
また、前述の反応式から明らかなように、CaF回収反応においては副産物として塩酸が生成するために廃液に含まれる塩酸濃度が次第に高くなり、反応を続けると廃液は1〜20%まで塩酸が濃縮して高濃度塩酸を含有するようになる。
かかる30〜90℃に保持された高濃度塩酸を有する廃液は腐食性が極めて高く、通常の耐食性金属でできた反応槽では短期間で腐食するところから、反応槽は耐酸樹脂製(たとえば、PTFEなど)の反応槽が使用されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−206405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のように、CaFの生成反応を効率良く行うためには反応槽内の廃液の温度を30〜90℃に保持する必要があり、この温度に廃液を保持するには、パイプを有する熱交換器を廃液に浸漬し、このパイプに湯またはスチームを通して廃液の温度を30〜90℃に保持しているが、PTFEなどの耐酸樹脂製パイプは高濃度塩酸を有する廃液に対する耐腐食性に極めて優れているものの、スラリーによる耐摩耗性が劣り、かつ熱伝導率が極めて低いところからPTFEなどの耐酸樹脂製パイプを熱交換器として使用することは適当ではない。熱交換器として使用するパイプとしてはどうしても熱伝導性に優れた金属または合金製のパイプを使用しなければならず、現在、塩酸を含む溶液に対して耐食性が最も優れているといわれているNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で作製したパイプを熱交換器として使用することが考えられる。
しかし、かかるNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で作製したパイプでもH、F、ClなどのイオンのほかにさらにFe3+、Cr6+、Cu2+などの酸化性因子が含まれている高温かつ高濃度塩酸を有する廃液に対する耐食性は十分でない。特に、熱交換器としてのパイプには湯またはスチームを流すので、廃液の温度範囲の内でも最も高温で高濃度塩酸を有する廃液に接触しており、さらに熱交換効率を高めるためにその肉厚を可及的に薄くしなければならず、さらに熱交換器としてのパイプは複雑形状に加工されているために腐食によりパイプに穴が明きやすい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、かかる問題点を解決すべく研究を行った。その結果、
(a)熱交換器としてのパイプを高濃度塩酸に対する耐食性が優れていることで知られているNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で作製し、このパイプを高濃度塩酸を含有する廃液に浸漬して陰極とし、さらに、陽極を前記廃液に浸漬して、陽陰極間に外部電源により電流を供給するする外部電源防食を行うと、Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成されたパイプは、前記高濃度塩酸を含有する廃液中にあっても耐食性が格段に向上し、特に高温に保持された高濃度塩酸を含有する廃液中においてその効果が著しい、
(b)この外部電源防食において、陽極として、高温で高濃度塩酸を有する廃液中にあっても腐食しない炭素棒を使用することが一般に考えられるが、通常の炭素棒は廃液中に長期間浸漬して陽極として使用するとボロボロになり、不純物となって廃液中に混入するので好ましくなく、これを改善すべく研究を行った結果、フェノール系樹脂、ジビニルベンゼン系樹脂などの樹脂を含浸させた炭素棒(以下、樹脂含浸炭素棒という)を陽極として使用すると廃液中に長期間浸漬して使用してもボロボロになることはない、
(c)実験ではパイプについて行ったが、パイプだけではなく、パイプと組み合わせて使用するNi:50質量%以上含むNi基耐食合金製フィンなど熱交換器全体についても同じ結果が得られる、などの知見が得られたのである。
【0005】
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
(1)高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器を陰極とし、樹脂含浸炭素を陽極として陽陰極間に外部電源により電流を供給する高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明で使用するNi:50質量%以上含むNi基耐食合金は、現在、高濃度塩酸含有水溶液中において最も耐食性に優れたNi基合金として知られている合金であり、これら合金の成分組成は以下に示されるものである。
Mo:12〜30%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金、
Mo:12〜30%、Cr:14〜25%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金、
Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、W:2〜5%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金、
Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金、
Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Ta:1.1〜3%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金、

Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、W:2〜5%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金、
Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Ta:1.1〜3%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金。
【0007】
したがって、この発明は、
(2)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、
(3)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、
(4)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、W:2〜5%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、
(5)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、
(6)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Ta:1.1〜3%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、
(7)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、W:2〜5%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、
(8)前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Ta:1.1〜3%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金である前記(1)記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法は、特に30〜90℃に保持された高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食に著しい効果がある。したがって、この発明は、
(9)前記高濃度塩酸含有水溶液は、高温に保持された高濃度塩酸含有水溶液である前記(1)〜(8)の内のいずれかに記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、に特徴を有するものである。
また、この発明の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法において使用する陽極は、フェノール系樹脂またはジビニルベンゼン系樹脂を炭素に含浸させた樹脂含浸炭素を使用することを特徴とするものである。したがって、この発明は、
(10)前記高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法において使用する陽極は、フェノール系樹脂またはジビニルベンゼン系樹脂を炭素に含浸させた樹脂含浸炭素からなる前記(1)〜(9)に記載のの内のいずれかに記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法、に特徴を有するものである。
【0009】
この発明の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法を、廃液から弗化カルシウムを回収する工程を図1に基づいて具体的に説明する。図1において1は弗化水素酸を含む廃液、2は反応槽、3は反応して生成した弗化カルシウム、4はNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器として使用するパイプ、5は陽極となる樹脂含浸炭素棒、6は脱水機、7はスチーム、8は参照電極(飽和カロメル電極SCE)である。
図1に示されるように、弗化水素酸を含む廃液1に塩化カルシウムを添加して廃液に含まれる弗化水素と塩化カルシウムを反応せしめて弗化カルシウム3を生成せしめ、弗化カルシウム3を沈殿させて回収し、この回収した弗化カルシウム3を脱水機6にかけて水分を除去し、弗化カルシウム3を再び原料として利用する。この弗化カルシウムを生成させる反応(反応式:2HF+CaCl→CaF+2HCl)を効率良く行うためには反応槽内の廃液1の温度を30〜90℃に保持する必要がある。反応槽2内の廃液1の温度を30〜90℃に保持するには反応槽2内に熱交換器として作用するパイプ4を廃液1内に浸漬するように設置し、パイプ4内に湯またはスチーム7を通して廃液1の温度を30〜90℃に保持する。この場合、弗化カルシウム生成反応においては副産物として塩酸が生成するために廃液に含まれる塩酸濃度が次第に高くなり、反応を続けると廃液は1〜20%まで塩酸が濃縮して高濃度塩酸環境を形成する。
かかる30〜90℃に保持された高濃度塩酸を有する廃液は腐食性が極めて高く、通常の耐食性金属でできた反応槽では短期間で腐食するところから、反応層2は耐酸樹脂製の反応槽が使用されている。
この発明では、前記熱交換器として作用するパイプ4の耐食性を維持するためにパイプ4を外部電源Eの陰極に接続し、一方、樹脂含浸炭素棒5を外部電源Eの陽極に接続し、陽陰極間に外部電源Eにより電流を供給することによりパイプ4の耐食性を一層高めている。この時外部電源Eにより流す防食電流密度は水素発生電位よりも10mV以上貴になるように設定し、具体的には−200〜−230mVvsSCEとなるように設定して流すことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の寿命を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
表1に示される成分組成を有する市販のNi:50質量%以上含むNi基耐食合金からなる旗状の陰極材A〜Gを用意した。さらに、陰極材の1/10の面積を有するフェノール系樹脂を含浸した市販の樹脂含浸炭素棒からなる陽極材を用意した。さらに、参照電極として飽和カロメル電極(SCE)を用意した。
さらに、廃液を模したいずれも温度:50℃に保持された20%HCl+500ppmHFを含む水溶液(以下、溶液イという)および20%HCl+500ppmFeCl+500ppmHFを含む水溶液(以下、溶液ロという)、並びに廃液を模したいずれも温度:90℃に保持された2%HCl+500ppmFeCl+500ppmHFを含む水溶液(以下、溶液ハという)および5%HCl+500ppmHFを含む水溶液(以下、溶液ニという)を用意した。さらに外部電源として直流電源を用意した。
【0012】
【表1】

【0013】
実施例1
先に用意した溶液ロの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Aおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Aと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Aと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0014】
従来例1
実施例1において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Aを溶液ロに浸漬する試験を行い、陰極材について試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0015】
実施例2
先に用意した溶液イの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Bおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Bと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Bと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0016】
従来例2
実施例2において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Bを溶液イに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0017】
実施例3
先に用意した溶液イの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Cおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Cと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Cと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0018】
従来例3
実施例3において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Cを溶液イに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0019】
実施例4
先に用意した溶液イの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Dおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Dと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Dと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0020】
従来例4
実施例4において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Dを溶液イに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0021】
実施例5
先に用意した溶液イの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Eおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Eと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Eと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0022】
従来例5
実施例5において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Eを溶液イに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0023】
実施例6
先に用意した溶液イの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Fおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Fと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Fと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0024】
従来例6
実施例6において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Fを溶液イに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0025】
実施例7
先に用意した溶液ハの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Aおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Aと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Aと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0026】
従来例7
実施例7において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Aを溶液ハに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0027】
実施例8
先に用意した溶液ニの中に先に用意した飽和カロメル電極をセットすると共に先に用意した表1の陰極材Gおよび樹脂含有炭素棒からなる陽極材を浸漬し、陰極材Gと陽極材を直流電源に電気的に接続し、陰極材Gと樹脂含有炭素棒からなる陽極材に表2に示される密度の防食電流を100時間流した。この防食電流は水素発生電位よりも10mV以上貴になる表2に示される防食電流密度となるように設定して流した。かかる条件で防食試験を実施し、陰極材について100時間後の電位を測定し、試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。さらに腐食試験後の陽極材の状態を観察したところ、脱落などの損傷は見られなかった。
【0028】
従来例8
実施例8において防食電流を流すことなく100時間表1の陰極材Gを溶液ニに浸漬する試験を行い、陰極材についてそれぞれ試験前後の重量減を測定して腐食速度を求め、さらに水素発生の有無を測定して、これら測定結果を表2に示した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示される結果から、外部電源による通電を行った本発明を実施した実施例1〜8は、外部電源による通電を行わない従来例1〜8に比べて、腐食速度が格段に小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】熱交換器の電気防食方法および廃液から弗化カルシウムを回収する方法を説明するための断面説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1:廃液、2:反応槽、3:弗化カルシウム、4:パイプ、5:陽極材、6:脱水機、7:スチーム、8:参照電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器を陰極とし、樹脂含浸炭素を陽極として陽陰極間に外部電源により電流を供給することを特徴とする高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項2】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項3】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項4】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、W:2〜5%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項5】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項6】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Ta:1.1〜3%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項7】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、W:2〜5%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項8】
前記Ni:50質量%以上含むNi基耐食合金は、質量%で、Mo:12〜30%、Cr:14〜25%、Ta:1.1〜3%、Fe:0.1〜6%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる組成を有するNi基合金であることを特徴とする請求項1記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項9】
前記高濃度塩酸含有水溶液は高温に保持された高濃度塩酸含有水溶液であることを特徴とする請求項1〜8の内のいずれかに記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。
【請求項10】
前記高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法において使用する陽極は、フェノール系樹脂またはジビニルベンゼン系樹脂を炭素に含浸させた樹脂含浸炭素からなることを特徴とする請求項1〜9の内のいずれかに記載の高濃度塩酸含有水溶液中に置かれたNi:50質量%以上含むNi基耐食合金で構成された熱交換器の電気防食方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284746(P2007−284746A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113332(P2006−113332)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(390024419)森田化学工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】