説明

高濃度抗体及びタンパク質製剤

本出願は、安定して粘度が減少しており、相対的に等張であり、低混濁度である高濃縮抗体及びタンパク質製剤に関するものである。特に製剤は皮下投与に適している。さらに、本出願は、そのような製剤を含む製造品、及び製剤化した抗体又はタンパク質により治療できる疾患の治療方法を述べる。製剤はアルギニン-HCl、ヒスチジン及びポリソルベートを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
(発明の分野)
本発明は、特に皮下投与に適する高度に濃縮されたタンパク質製剤に関する。本発明はさらに安定した高濃縮(例として、100mg/ml以上のタンパク質)の液体製剤を提供する。
【0002】
(関連技術の説明)
高度に濃縮された液体抗体製剤に対する需要は大きい。しかしながら、高度に濃縮されたタンパク質製剤は幾つかの問題を提示する。一つの問題は、粒子の形状による不安定性である。液体製剤を生成するために凍結乾燥した調製物を再構成するとき、界面活性剤(例として、ポリソルベート)の使用にこの問題がある。しかし、界面活性剤は更なる処理問題を生じるので液体製剤に適していない。その上、界面活性剤は更に、抗体の高分子性質からの多くの分子間相互作用の結果生じる高い粘度を減少させない。
界面活性剤はタンパク質の粒子の形成の度合いを著しく減少させることが示されているが、濃縮抗体製剤の操作や投与をむずかしくする高粘稠度の問題に対処するものではない。抗体は、その高分子性質及び分子間相互作用の可能性により高濃度で粘度の高い溶液を形成する傾向にある。さらに、しばしば薬剤的受容性のある糖が安定剤として多量に使用される。糖は分子間相互作用を増強し、製剤の粘度を増大させ得る。高い粘度の製剤は、操作、シリンジ内への吸引、及び皮下注射を行うのが困難である。粘度の高い製剤の操作において力を加えると、過剰な泡立ちを引き起こし、活性生物製剤の変性及び不活性化を引き起こす。この問題に対して満足のいく解決策がない。
先行文献には薬剤的製剤を創造するために用いるのに適する多くの賦形剤の例が示されているが、100mg/mlより多くを成功裏に生成し、記載のように行う技術があるタンパク質はほとんど無い。
【0003】
出願人は、アルギニン、特にアルギニン-HClが高度に濃縮した液体タンパク質又は抗体製剤に著しく適していることを発見した。
安定なアイソトニック凍結乾燥タンパク質製剤は、1997年2月13日に公開されたPCT公開WO97/04801中に開示され、その全開示がここにおいて出典明示により取り込まれる。開示された凍結乾燥製剤は、明らかな安定性の欠如を伴うことなく高濃度タンパク質液体製剤を生産すために再構成することができる。しかし、再構成された製剤の高い粘度に関連した潜在的問題は扱われていない。タンパク質凝集は糖添加により既に減少しているが、粘度及び浸透圧は劇的に増加し、それによって処理及び使用の実用性を無くしている。
2002年4月18日に公開されたPCT公開WO02/30463では高タンパク質濃度を開示しているが、1)低pH(およそ4.0〜5.3);2)高pH(およそ6.5〜12.0)、又は3)塩又はバッファーの付加による製剤の全イオン強度の増大により低粘度製剤が達成されていた。しかしながら、増大したイオン強度は製剤の粘性を提言する(NaClなどによる)一方で、しばしばタンパク質粒子の形成(例として、凝集)に関与する溶液の濁度を増加する結果にもなりうる。ゆえに、適度に高度に濃縮したタンパク質製剤には克服すべき安定性、粘度、浸透圧及び濁度の課題がある。
【0004】
本発明の概要
本発明は、安定した、低粘度及び低濁度である高度に濃縮したタンパク質又は抗体製剤に関する。
特に、本発明は、タンパク質又は抗体(100−260mg/ml)、ヒスチジン(10−100mM)、アルギニン−HCl(50−200mM)、及びポリソルベート(0.01%−0.1%)を、pH5.5−7.0、50cs又はそれ以下の粘度、及び200mOsm/kg−450mOsm/kgの浸透圧で含む、低濁度の高度に濃縮した抗体製剤に関する。場合によっては、製剤中のタンパク質又は抗体は120−260mg/ml、あるいは150−260mg/ml、あるいは180−260mg/ml、あるいは200−260mg/mlタンパク質又は抗体の範囲である。場合によっては、浸透圧は250mOsm/kg−350mOsm/kgの範囲である。場合によっては、アルギニン−HClの濃度は100−200mM、あるいは150−200mM、あるいは180−200mMの範囲である。
あるいは、本発明は、抗体(40−150mg/ml)、ヒスチジン(10−100mM)、糖(例として、トレハロース又はスクロース、20−350mM)及びポリソルベート(0.01%−0.1%)を含む低濁度の高度に濃縮した抗体製剤に関する。
【0005】
特別の実施態様において、本発明は抗体又はイムノグロブリンなどの高分子量タンパク質を高い濃度で含む製剤を提供する。抗体は、例えば、既に決定されている特定の抗原に対する抗体であってもよい。特定の態様において、抗原はIgE(例えば、rhuMAbE−25、及びrhuMAbE−26が米国特許第6329509及びWO99/01556中に記載されている)である。あるいは、抗IgE抗体は、Corne等, J. Clin. Invest. 99(5): 879-887 (1997)、WO92/17207、及びATTC登録番号BRL−10706及び11130、11131、11132、11133に記載されるCGP−5101(Hu−901)でありうる。あるいは、抗原には:CDタンパク質であるCD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34及びCD40;EGFレセプター、HER2、HER3又はHER4レセプターなどのHERレセプターファミリーのメンバー;LFA−1、Mac1、p150,95、VLA−4、ICAM−1、VCAM及びそのα−及びβ−サブユニットを含むαv/β3インテグリン(例えば、抗−CD11a、抗−CD18又は抗−CD11b抗体)等の細胞接着分子、2C4、4D5、PSCA、LDP−2;VEGFなどの成長因子;血液型抗原;flk2/flt3レセプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター、CTLA−4、及びタンパク質Cが含まれる。
本発明の製剤は、医薬製剤である。特定の態様では、皮下的に送達される製剤である。
【0006】
更に他の実施態様では、本発明は、製剤化したタンパク質又は抗体により治癒可能な疾患を予防的又は治療的に処置する方法であり、タンパク質又は抗体の治療的有効量を含むここで開示した製剤を投与することを含む方法を提供する。このような製剤は特に皮下投与に有用である。特定の態様では、疾患がIgE媒介疾患である。また更なる特定の態様では、IgE媒介疾患がアレルギー性鼻炎、喘息(例えば、アレルギー性喘息及び非アレルギー性喘息)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性胃腸病、過敏症(例えば、アナフィラキシー、蕁麻疹、食物アレルギーなど)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、寄生虫病、間質性膀胱炎、高IgE症候群、毛細血管拡張性運動失調、ウィスコット-アルドリッチ症候群、胸腺リンパ形成不全症、IgE骨髄腫及び対宿主性移植片反応である。
また他の実施態様では、本発明は、ここで開示した製剤を内包する容器を含む製造品に関する。一態様では、製造品があらかじめ充填したシリンジである。また他の特定の態様では、あらかじめ充填したシリンジが更に注入装置に収容されている。また他の特定の態様では、注入装置が自動注射器である。
【0007】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
I.定義
「タンパク質」とは、鎖長がより高レベルの三次及び/又は四次構造を生産するのに十分であるアミノ酸の配列を意味する。従って、タンパク質は、そのような構造を持たないアミノ酸ベースの分子である「ペプチド」とは区別される。典型的には、ここでの使用のためのタンパク質は少なくとも約15−20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有するであろう。
ここでの定義範囲に含まれるタンパク質の例には、例えば、ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α−1−アンチトリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;濾胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;因子VIIIC、因子IX、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺表面活性剤;ウロキナーゼ又は組織型プラスミノーゲン活性化剤(t−PA、例えば、Activase(登録商標)、TNKase(登録商標)、Retevase(登録商標))等のプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;腫瘍壊死因子−α及びβ;エンケファリナーゼ;RANTES(正常T細胞で発現及び分泌され、活性化により制御される);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−α);ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン;ミューラー阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;DNase;インヒビン;アクチビン;;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモン又は成長因子のレセプター;インテグリン;プロテインA又はD;リウマチ因子;骨誘導神経向性因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5又は−6(NT−3、NT−4、NT−5、又はNT−6)、又はNGF−β等の神経成長因子などの神経栄養因子;血小板誘導成長因子(PDGF);aFGF及びbFGF等の繊維芽成長因子;表皮成長因子(EGF);TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、又はTGF−β5を含むTGF−α及びTGF−β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF);インシュリン様成長因子−I及び−II(IGF−I及びIGF−II);des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インシュリン様成長因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD19及びCD20等のCDタンパク質;エリスロポエチン(EPO);トロンボポエチン(TPO);骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン−α、−β、及び−γ等のインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M−CSF、GM−CSF、及びG−CSF;インターロイキン(ILs)、例えば、IL−1からIL−10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子(DAF);ウイルス性抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部など;輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン;調節タンパク質;イムノアドヘシン;抗体;及び上に列挙した任意のポリペプチドの生物学的活性断片又は変異体、などの哺乳類タンパク質を含む。
【0008】
製剤化されるタンパク質は、好ましくは本質的に純粋及び望ましくは本質的に均質である(すなわち、夾雑タンパク質が取り除かれている)。「本質的に純粋な」タンパク質とは、組成物の全重量に対して少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。「本質的に均一な」タンパク質とは、組成物の全重量に対して少なくとも約99重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。
ある実施態様において、タンパク質は抗体である。抗体は、例えば、上述の分子の何れかに結合する。本発明により包含される抗体に対する例示的な分子標的には、CDタンパク質、例えばCD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34及びCD40;EGFレセプター、HER2、HER3又はHER4レセプターなどのHERレセプターファミリー;2c4、4D5、PSCA、LDP−2、細胞接着分子、例えばLFA−1、Mac1、p150,95、VLA−4、ICAM−1、VCAM及びそのα又はβサブユニットを何れか含むαv/β3インテグリン(例えば、抗−CD11a、抗−CD18又は抗−CD11b抗体);成長因子、例えばVEGF;IgE;血液型抗原;flk2/flt3レセプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター、CTLA−4、及びプロテインC等々が含まれる。
ここで用いられる「抗体」なる用語は、特にモノクローナル抗体(イムノグロブリンFc領域を持つ全長抗体を含む)、多エピトープ特異性を持つ抗体組成物、多価特異的抗体(例えば、二重特異的抗体、ダイアボディー、及び一本鎖分子)、並びに抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)、及びFv)を含む。用いられる「イムノグロブリン」(Ig)はここで「抗体」と交換可能に用いられる。
【0009】
塩基性4−鎖抗体ユニットは2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖から構成されるヘテロ4量体の糖タンパクである。IgM抗体はJ鎖と称される付加的なポリペプチドと共に5つの塩基性ヘテロ四量体ユニットからなり、10の抗原結合を部位を有すし、一方IgA抗体は、J鎖と組合わされて多価集合を形成するために重合することができる塩基性4−鎖ユニットの2−5を含む。IgGの場合、4−鎖ユニットは一般的に約150,000ダルトンである。各L鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合されるが、2つのH鎖はH鎖のアイソタイプに応じて1つ又は複数のジスルフィド結合により互いに結合している。また、各H及びL鎖は規則的な間隔を持った鎖内ジスルフィド結合も持つ。各H鎖は、可変ドメイン(V)をN末端に有し、α及びγ鎖の各々に対しては3つの定常ドメイン(C)が、μ及びεアイソタイプに対しては4つのCドメインがこれに続く。それぞれのL鎖は、その他端に定常ドメイン(C)が続く可変ドメイン(V)をN末端に有する。VはVと整列し、Cは重鎖の第一定常ドメイン(C1)と整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。VとV対は共同して単一の抗原結合部位を形成する。異なるクラスの抗体の構造及び特性は、例えばBasic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow(eds.), Appleton; Lange, Norwalk, CT, 1994, 71頁及び6章を参照のこと。
【0010】
任意の脊椎動物種からのL鎖には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ及びラムダと呼ばれる2つの明確に区別される型の一つを割り当てることができる。また、その重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、イムノグロブリンには異なったクラス又はアイソタイプを割り当てることができる。IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMというイムノグロブリンの5つの主要なクラスがあり、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる重鎖を有する。さらにγ及びμのクラスは、CH配列及び機能等の比較的小さな差異に基づいてサブクラスに分割され、例えば、ヒトにおいては次のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2が発現する。
【0011】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部分が抗体の間で配列が広範囲に異なることを意味する。Vドメインは抗原結合性を媒介し、その特定の抗原に対する特定の抗体の特異性を定める。しかしながら、可変性は可変ドメインの全スパンを通して均等には分布されているわけではない。代わりに、V領域は、それぞれ9−12アミノ酸長である「高頻度可変領域」又は、ときには「相補性決定領域」(CDRs)と称される極度の可変性を有するより短い領域によって分離された15−30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的不変の伸展からなる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメイン各々は、大きなβ−シート配置をとり、3つの高頻度可変領域により接続された4つのFR領域を含み、それはループ状の接続を形成し、β−シート構造の一部を形成することもある。各鎖の高頻度可変領域はFRにより他の鎖からの高頻度可変領域とともに極近傍に保持され、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ED. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)参照のこと。定常ドメインは抗体の抗原への結合に直接は関係ないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞障害(ADCC)における抗体の寄与を示す。
【0012】
ここで使用される場合、「高頻度可変領域」(「相補性決定領域」又はCDRsとしても知られている)なる用語は、抗原結合部位を形成し、抗原特異性の主たる決定因子であるイムノグロブリンのV領域ドメイン内の抗体のアミノ酸残基(通常、配列可変性の3又は4の短い領域)を意味する。CDR残基を同定するために少なくとも2つの方法がある:(1)種間配列可変性の基づいたアプローチ(即ち、Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health, Bethesda, MS 1991);及び(2)抗原−抗体複合体の結晶学的研究に基づいたアプローチ(Chothia, C等, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。しかし、2つの残基同定技術が同一領域ではないがオーバーラップする領域を限定する程度内で、それらの方法は、ハイブリッドCDRを限定するために組合わせることができる。
【0013】
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を称する、つまり、集団を含む個々の抗体は、少量存在するであろう自然発生し得る突然変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を別にすれば同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、一つの抗原部位に認識する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物に対し、各モノクローナル抗体は抗原の単一の決定基を認識する。それらの特性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培地で合成され、他のイムノグロブリン(免疫グロブリン)と混ざらないという点で有利である。「モノクローナル」との修飾語句は、実質的に均一な抗体集団から得られたという抗体の特徴を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないと解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等, Nature, 256:495 (1975)に記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作ることができる(例えば米国特許第4,816,567号参照)。「モノクローナル抗体」は、また、Clackson等, Nature, 352:624-628(1991)及びMarks等, J. Mol.Biol., 222:581-597(1991)に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することができる。
【0014】
ここで、モノクローナル抗体は特に、「キメラ」抗体(イムノグロブリン)を含み、それは、重鎖又は軽鎖の一部が特定の種から誘導された又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であるが、鎖の残りの部分は他の種から誘導された又は他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限りにおいてそれらの抗体の断片である(米国特許第4,816,567号;Morrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。ここで無傷のキメラ抗体は非ヒト霊長類由来の可変ドメイン抗原結合配列(例として、旧世界ザル、サルなど)及びヒト定常領域配列を含む「原始的な」抗体を含む。
「無傷」の抗体は、抗原−結合部位、並びにCL及び少なくとも重鎖定常ドメイン、C1、C2及びC3を含むものである。定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例としてヒト天然配列定常ドメイン)又はそれらのアミノ酸配列変異体でありうる。好ましくは、無傷の抗体は一以上のエフェクター機能を有する。
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部、好ましくは無傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;Zapata等, Protein Eng. 8(10): 1057-1062 [1995]);単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0015】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片と、容易に結晶化する能力を反映して命名された残りの「Fc」断片を産生する。Fab断片は全長L鎖とH鎖の可変領域ドメイン(V)、及び一つの重鎖の第一定常ドメイン(C1)からなる。各Fab断片は抗原結合性に関して一価、すなわち単一の抗原−結合部位を有する。抗体のペプシン処理により、単一の大きなF(ab’)断片が生じ、これは2価の抗原結合部位を持つ2つのジスルフィド結合されたFab断片にほぼ対応し、抗原を交差結合させることができるものである。また、Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ又は複数のシステインを含む重鎖C1ドメインのカルボキシ末端に幾つかの残基が付加されていることによりFab断片と相違する。Fab’−SHは、ここでは定常ドメインのシステイン残基が遊離のチオール基を持つFab’を表す。F(ab’)抗体断片は、通常はFab’断片の対として生成され、それらの間にヒンジシステインを有する。抗体断片の他の化学的結合も知られている。
【0016】
Fc断片はジスルフィドにより一緒に保持されている双方のH鎖のカルボキシル末端部位を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域の配列により決定され、該領域は、ある型の細胞に見出されるFcレセプター(FcR)によって認識される部位である。
「Fv」は、完全な抗原−認識及び−結合部位を含む最小の抗体断片である。この断片は、密接に非共有結合した1本の重鎖と1本の軽鎖の可変領域の二量体からなる。これら2つのドメインの折り畳みから、抗原結合のためのアミノ酸残基に寄与し、抗体に対する抗原結合特異性を付与する6つの高頻度可変ループ(H及びL鎖から、それぞれ3つのループ)が生じる。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含んでなるFvの半分)であっても、結合部位全体よりは低い親和性であるが、抗原を認識し結合する能力を持つ。
【0017】
「sFv」又は「scFv」とも略称される「一本鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖内に結合したVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、sFvポリペプチドはV及びVドメイン間にポリペプチドリンカーをさらに含み、それはsFVが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にする。sFvの総説については、PluckthunのThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照のこと。
「ダイアボディ」という用語は、Vドメインの鎖内ではなく鎖間で対形成が達成され、その結果、二価の断片、すなわち2つの抗原−結合部位を有する断片が得られるように、VとVドメインとの間に、短いリンカー(約5−10残基)を持つsF断片(前の段落を参照)を構築することにより調製される小型の抗体断片を意味する。二重特異性ダイアボディは2つの「交差」sF断片のヘテロダイマーであり、そこでは2つの抗体のV及びVドメインが異なるポリペプチド鎖上に存在する。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404,097号;米国特許第93/11161号;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)により十分に記載されている。
【0018】
特定のポリペプチド上の特定のポリペプチド又はエピトープに対して「特異的に結合する」又は「特異的な」抗体とは、他の如何なるポリペプチド又はポリペプチドエピトープとも実質的に結合することなく、特定のポリペプチド又はエピトープと結合するものである。
「固相」なる用語は、本発明の抗体が付着することのできる非水性マトリクスを意味する。ここに取り込まれる固相の例は、部分的又は全体的に、ガラス(例えば、孔制御ガラス)、多糖類(例えばアガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンから形成されたものを含む。或る種の実施態様では、内容に応じて、固相はアッセイプレートのウェルを構成することができ;その他では精製カラム(例えばアフィニティクロマトグラフィーカラム)とすることもできる。また、この用語は、米国特許第4,275,149号に記載されたような、別個の粒子の不連続な固相も包含する。
【0019】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、キメライムノグロブリン、つまり、非ヒトイムノグロブリンから得た最小配列を含む、大部分がヒト配列のイムノグロブリン鎖又はその断片(Fv,Fab,Fab’,F(ab’)又は抗体の他の抗原結合部分配列など)である。大部分において、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域(又はCDR)の残基が、マウス、ラット、又はウサギのような所望の抗体特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、また、ここで用いられる意味での「ヒト化抗体」は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性をさらに洗練するために行われる。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトの免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含んでなる。さらなる詳細は、Jones等, Nature 321, 522-525(1986);Reichmann等, Nature 332, 323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596(1992)を参照のこと。
【0020】
「種依存性抗体」、例えば哺乳動物抗-ヒトIgE抗体は、二番目の哺乳動物種からの抗原の相同体に対して有している結合親和性よりも、一番目の哺乳動物種からの抗原に対してより強力な結合親和性を有する抗体である。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8以下、最も好ましくは約1×10−9M以下の結合親和性(Kd)値を有する)と「特異的に結合」するが、その非ヒト抗原に対する結合親和性よりも、少なくとも約50倍、又は少なくとも約500倍、又は少なくとも約1000倍弱い、二番目の非ヒト哺乳動物種からの抗原の相同体に対する結合親和性を有する。種依存性抗体は、上にて定義した種々の型の抗体のいずれでもあることが可能だが、好ましくはヒト化又はヒト抗体である。
【0021】
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプにより変わる。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害;Fc領域結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(すなわち、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
【0022】
「抗体依存性細胞媒介性細胞障害」又はADCCとは、ある種の細胞障害細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)上に存在するFcレセプター(FcRs)と結合した分泌Igにより、これらの細胞障害エフェクター細胞が抗原−担持標的細胞に特異的に結合し、続いて細胞毒により標的細胞を死滅させることを可能にする細胞障害性の形態を意味する。抗体は細胞障害細胞を「備えて」おり、この機構はこのような死滅には絶対に必要なものである。ADCCを媒介する主要な細胞、NK細胞はFcγRIIIのみを発現するのに対し、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞でのFcの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991) の464頁の表3に要約されている。関心ある分子のADCC活性をアッセイするために、米国特許第5,500,362号又は同5,821,337号に記載されているようなインビトロADCCアッセイを実施することができる。このようなアッセイにおいて有用なエフェクター細胞には、末梢血液単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー細胞(NK細胞)が含まれる。場合によっては、もしくは付加的に、関心ある分子のADCC活性は、例えば、Clynes等, PNAS (USA) 95:652-656 (1998)において開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価することが可能である。
【0023】
「Fcレセプター」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合するレセプターを記載するものである。好適なFcRは天然配列ヒトFcRである。さらに好適なFcRは、IgG抗体(ガンマレセプター)と結合し、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスのレセプターを含み、これらのレセプターの対立遺伝子変異体、選択的にスプライシングされた形態のものも含まれる。FcγRIIレセプターには、FcγRIIA(「活性型レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害型レセプター」)が含まれ、主としてその細胞質ドメインは異なるが、類似のアミノ酸配列を有するものである。活性型レセプターFcγRIIAは、細胞質ドメインにチロシンベースの免疫レセプター活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif ;ITAM)を含んでいる。阻害型レセプターFcγRIIBは、細胞質ドメインにチロシンベースの免疫レセプター阻害性モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif ;ITIM)を含んでいる(Daeron, Annu. Rev. immunol. 15:203-234 (1997)を参照)。FcRsに関しては、Ravetch and Kinet, Annu.Rev. Immunol. 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);及びde Haasら, J.Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)に概説されている。他のFcRs、ここでは、将来的に同定されるものも含めて、「FcR」という言葉によって包含される。また、該用語には、母方由来のIgGsが胎児に受け継がれる要因となっている新生児性レセプターFcRn(Guyerら, J. Immunol. 117:587 (1976) Kimら, J. Immunol.24:249 (1994))も含まれる。
【0024】
「ヒトエフェクター細胞」とは、1つ又は複数のFcRsを発現し、エフェクター機能を実行する白血球のことである。好ましくは、その細胞が少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を実行する。ADCCを媒介するヒト白血球の例として、末梢血液単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞障害性T細胞及び好中球が含まれるが、PBMCsとMNK細胞が好適である。エフェクター細胞は天然源、例えば血液から単離してもよい。
「補体依存性細胞障害」もしくは「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解することを意味する。典型的な補体経路の活性化は補体系(Clq)の第1補体が、同族抗原と結合した(適切なサブクラスの)抗体に結合することにより開始される。補体の活性化を評価するために、CDCアッセイを、例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されているように実施することができる。
【0025】
「単離された」とは、ここで開示された種々のポリペプチド及び抗体を記述するために使用するときは、その生成環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたポリペプチド又は抗体を意味する。好ましくは、単離されたポリペプチドはその生成環境のすべての他の成分を含まない。その生成環境の汚染成分とは、そのポリペプチドの診断又は治療への使用を典型的には妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様において、ポリペプチドは、(1)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端或いは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、或いは、(2)クーマシーブルー或いは好ましくは銀染色を用いた非還元或いは還元条件下でのSDS-PAGEによる均一性まで精製される。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドは少なくとも一つの精製工程により調製される。
ここに示すポリペプチド及び抗体をコードする「単離された」核酸分子は、同定され、生成された環境に通常付随している少なくとも一つの汚染核酸分子から分離された核酸分子である。好ましくは、単離された核酸はその生成環境に関連するすべての他の成分を含まない。ここに示すポリペプチド及び抗体をコードする単離された核酸分子は、天然に見出される形態或いは設定以外のものである。ゆえに、単離された核酸分子は、天然の細胞中に存在するポリペプチド及び抗体をコードする核酸とは区別される。
【0026】
「コントロール配列」という用語は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列或いは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプター或いはリンカーが使用される。
【0027】
「エピトープタグ」なる用語は、ここで用いられるときは、「タグポリペプチド」に融合したここに示すポリペプチド又は抗体を含んでなるキメラポリペプチドを指す。タグポリペプチドは、その抗体が産生され得るエピトープを提供するに十分な数の残基を有しているが、その長さは融合するポリペプチドの活性を阻害しないよう充分に短い。また、タグポリペプチドは、好ましくは、抗体が他のエピトープと実質的に交差反応をしないようにかなり独特である。適切なタグポリペプチドは、一般に、少なくとも6のアミノ酸残基、通常は約8〜約50のアミノ酸残基(好ましくは約10〜約20の残基)を有する。
ここで用いられる「イムノアドヘシン」なる用語は、異種タンパク質(「アドヘシン」)の結合特異性と免疫グロブリン定常ドメインとを結合した抗体様分子を指す。構造的には、イムノアドヘシンは、所望の結合特異性を持ち、抗体の抗原認識及び結合部位以外である(即ち「異種の」)アミノ酸配列と、免疫グロブリン定常ドメイン配列との融合物を含む。イムノアドヘシン分子のアドへシン部分は、典型的には少なくともレセプター又はリガンドの結合部位を含む隣接アミノ酸配列である。イムノアドヘシンの免疫グロブリン定常ドメイン配列は、IgG-1、IgG-2、IgG-3又はIgG-4サブタイプ、IgA(IgA-1及びIgA-2を含む)、IgE、IgD又はIgMなどの任意の免疫グロブリンから得ることができる。Ig融合体は、好ましくはIg分子内の少なくとも一つの可変領域に換えてここに示すポリペプチド又は抗体ドメインの置換を含む。特に好ましい実施態様では、免疫グロブリン融合体は、IgG1分子のヒンジ、CH2及びCH3、又はヒンジ、CH1、CH2及びCH3領域を含む。免疫グロブリン融合体の製造については、1995年6月27日発行の米国特許第5,428,130号を参照のこと。
【0028】
「安定な」製剤とは、その中に含まれるタンパク質がその物理的、化学的安定性及び保存に対する完全性を本質的に保持するもののことである。タンパク質の安定性を測定するための種々の分析的技術は、当該技術分野において利用可能であり、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, New York, Pubs.(1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10:29-90(1993)中に概説されている。安定性は選択された温度及び選択された期間測定することができる。迅速なスクリーニングを行うために、製剤を2週間から1ヶ月間、40℃にて保存し、時間安定性を測定してもよい。製剤が2−8℃にて保存される場合、一般に、製剤は30℃又は40℃で少なくとも1ヶ月間安定、及び/又は2−8℃で少なくとも2年間安定である必要がある。製剤が30℃にて保存される場合、一般に、製剤は30℃で少なくとも2年間安定で、及び/又は40℃で少なくとも6ヶ月間安定である必要がある。例えば、凍結乾燥及び保存後の凝集の程度は、タンパク質安定の指標として用いることができる。従って、「安定な」製剤は、該タンパク質の約10%未満及び好ましくは約5%未満が製剤中に凝集体として存在してもよい。他の実施態様において、凍結乾燥製剤の凍結乾燥及び保存後の凝集体形成の如何なる増大も定量することができる。
【0029】
「再構成された」製剤は、凍結乾燥タンパク質又は抗体製剤を希釈液中に溶解させ、タンパク質が全体に分散されることによって調製されるものである。再構成された製剤は、目的のタンパク質で治療される患者に投与(例えば、非経口投与)するのに適するもの、本発明のある実施態様においては、皮下投与に適するものであってもよい。
「等張な」製剤は、ヒトの血液と本質的に同じ浸透圧を持つものである。等張な(アイソトニック)製剤は、一般に約250から350mOsmの浸透圧を持つ。「低張な」なる用語は、ヒトの血液の浸透圧より低い浸透圧を持つ製剤を表す。同様に、「高張な」なる用語は、ヒトの血液の浸透圧より高い浸透圧を持つ製剤を表す。等張性は、例えば、蒸気圧又は氷−凍結(ice-freezing)型浸透圧計を用いて測定することができる。本発明の製剤は、塩及び/又はバッファーの添加の結果、高張となる。
「再構成された」製剤は、凍結乾燥タンパク質製剤を希釈液中に溶解させ、タンパク質が再構成製剤中に分散されることによって調製されるものである。再構成された製剤は、目的のタンパク質で治療される患者に投与(例えば、非経口投与)するのに適するもの、本発明のある実施態様においては、皮下投与に適するものであってもよい。
【0030】
「薬学的に許容される酸」は、それらが製剤化される濃度及び方法において無毒性である無機及び有機酸を含む。例えば、適切な無機酸には、塩酸、過塩素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルファニル酸、リン酸、炭酸などが含まれる。適切な有機酸には、直鎖及び分岐鎖アルキル、芳香族、環状、環状脂肪族、アリール脂肪族、複素環式、飽和、不飽和、モノ−、ジ−、及びトリ−カルボン酸で、例えば、蟻酸、酢酸、2−ヒドロキシ酢酸、トリフルオロ酢酸、フェニル酢酸、トリメチル酢酸、t−ブチル酢酸、アントラニル酸、プロパン酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、プロパンジオイン酸(propandioic)、シクロペンタンプロピオン酸、シクロペンタン プロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、ブタン酸、ブタンジオイン酸(butandioic)、安息香酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、アスコルビン酸、ケイ皮酸、ラウリル硫酸、ステアリン酸、ムコン酸、マンデル酸、コハク酸、エンボン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、マロン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、グライコン酸、グルコン酸、ピルビン酸、グリオキサール酸、シュウ酸、メシリン酸(mesylic)、コハク酸、サリチル酸、フタル酸、パルモイン酸(palmoic)、パルメイン酸(palmeic)、チオシアン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルフホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−コロベンゼンスルホン酸(chorobenzenesulfonic)、ナフタレン−2−スルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4−メチルバイシクロ[2.2.2]−オクト−2−エン−1−カルボキシル酸、グルコヘプトン酸、4,4’−メチレンビス−3−(ヒドロキシ−2−エン−1−カルボキシル酸)、ヒドロキシナフトイン酸(hydroxynapthoic)を含む。
【0031】
「薬学的に許容な塩基」には、それらが製剤化される濃度及び方法において無毒性である無機及び有機塩基を含む。例えば、適切な塩基には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム、N−メチルグルカミン、モルホリン、ピペリジンなどの無機塩基形成金属、及び第一級、第二級、第三級アミン、置換アミン、環状アミンを含む有機無毒性塩基、及び塩基性イオン交換レジン、[例えば、N(R’)(ここでR’は別個にH又はC1−4アルキル基、例えばアンモニウム、トリス)]、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジエチルアミノエタノール、トリメタミン、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン(hydrabamine)、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、ポリアミンレジン及び類似物から形成されるものが含まれる。特に、好ましい有機無毒性塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメタミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン及びカフェインである。
本発明に使用可能な、さらなる薬学的に許容可能な酸及び塩基には、アミノ酸、例えば、ヒスチジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アスパラギンに由来するものが含まれる。
「薬学的に許容可能な」バッファー及び塩には、前記された酸及び塩基の塩を付加された酸及び塩基に由来するものが含まれる。具体的なバッファー及び又は塩には、ヒスチジン、コハク酸及び酢酸が含まれる。
【0032】
「リオプロテクタント(lyoprotectant)」は、目的のタンパク質と組合わせた場合に、凍結乾燥及びその後の保存に対して、タンパク質の化学的及び/又は物理的不安定性を顕著に阻止又は軽減する分子である。典型的なリオプロテクタント(lyoprotectant)には、糖及びそれらに対応する糖アルコール;グルタミン酸一ナトリウム又はヒスチジンなどのアミノ酸;ベタインなどのメチルアミン;硫酸マグネシウムなどの溶媒変性塩;三価又はそれより大きな分子量の糖アルコール、例えば、グリセリン、デキストラン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトール;プロピレングリコール;ポリエチレングリコール;ピューロニクス(登録商標);及びそれらの組合わせが含まれる。さらなる典型的なリオプロテクタント(lyoprotectant)には、グリセリン及びゼラチン、及び糖、メリビオース、メレチトース、ラフィノース、マンノトリオース及びスタキオースが含まれる。還元糖の例には、グルコース、マルトース、ラクトース、マルツロース、イソマルツロース及びラクツロースが含まれる。非還元糖の例には、糖アルコール及び他の直鎖ポリアルコールから選択されたポリヒドロキシ化合物の非還元グリコシドが含まれる。好ましい糖アルコールは、モノグリコシド、特にラクトース、マルトース、ラクツロース及びマルツロースなどのジサッカライドの還元によって得られる化合物である。グリコシド側鎖はグルコシド又はガラクトシドのいずれかであり得る。糖アルコールの更なる例は、グルシトール、マルチトール、ラクチトール及びイソ−マルツロースである。好ましいリオプロテクタント(lyoprotectant)は非還元糖トレハロース又はスクロースである。
リオプロテクタント(lyoprotectant)は、「リオプロテクティング(lyoprotecting)量」、つまり、リオプロテクタントのリオプロテクティング量の存在下におけるタンパク質の凍結乾燥後、該タンパク質が凍結乾燥及び保存に対して物理的及び化学的安定性を本質的に維持することを意味する量にて凍結乾燥前の製剤に添加される。
【0033】
本発明の粘性の低い製剤を調製する際には、他の添加剤だけでなく上記にあげた賦形剤の使用、特に高濃度で添加するとき製剤の粘性を上げないように注意が必要である。
「薬学的に許容される糖」は、目的のタンパク質と結合したときに保存に対してタンパク質の化学的及び/又は物理学的不安定性を著しく予防又は減少する分子である。製剤が凍結乾燥して再構成することを意図したものであるとき、「薬学的に許容される糖」もまた「リオプロテクタント」として周知のものである。例示的糖及びそれらに同一の糖アルコールには:グルタミン酸1ナトリウム又はヒスチジンなどのアミノ酸;ベタインなどのメチルアミン;硫酸マグネシウムなどの溶媒変性塩;三価アルコール又はそれより大きな分子量の糖アルコールなどの多価アルコール、例えば、グリセリン、デキストラン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトール;プロピレングリコール;ポリエチレングリコール;ピューロニクス(登録商標);及びそれらの組合わせが含まれる。更なる例示的リオプロテクタントには、グリセリン及びゼラチン、及び糖、メリビオース、メレチトース、ラフィノース、マンノトリオース及びスタキオースが含まれる。還元糖の例には、グルコース、マルトース、ラクトース、マルツロース、イソマルツロース及びラクツロースが含まれる。非還元糖の例には、糖アルコール及び他の直鎖ポリアルコールから選択されたポリヒドロキシ化合物の非還元グリコシドが含まれる。好ましい糖アルコールは、モノグリコシド、特にラクトース、マルトース、ラクツロース及びマルツロースなどのジサッカライドの還元によって得られる化合物である。グリコシド側鎖はグルコシド又はガラクトシドのいずれかであり得る。糖アルコールの更なる例は、グルシトール、マルチトール、ラクチトール及びイソ−マルツロースである。好ましい薬学的に受容される糖には非還元糖トレハロース又はスクロースである。
【0034】
薬学的に許容される糖は、タンパク質が保存の間(例えば、再構成及び保存の後)その物理学的及び化学的安定性と完全性を本質的に保つような「保護量」(例えば、凍結乾燥前)で製剤に添加する。
ここでの目的における「希釈液」は、薬学的に許容な(ヒトへの投与に関し安全で無毒性)もので、凍結乾燥後に再構成される製剤などの、液性製剤の調製に有用である。典型的な希釈液には、滅菌水、注射のための静菌水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸バッファー生理食塩水)、滅菌生理食塩水、リンガー溶液又はデキストロース溶液が含まれる。これに代わる実施態様において、希釈液は塩及び/又はバッファーの水溶液を含み得る。
「保存剤」は、バクテリアの作用を減少させるために、ここにおける製剤に添加され得る化合物である。保存剤の添加は、例えば、複数回使用(複数回投与)製剤の生産を促進する。潜在的保存剤の例には、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムの混合物)、及び塩化ベンゼトニウムが含まれる。保存剤の他のタイプには、フェノールなどの芳香族アルコール、ブチル及びベンジルアルコール、メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、及びm−クレゾールが含まれる。ここで最も好ましい保存剤は、ベンジルアルコールである。
【0035】
「治療」とは、治療上の処置及び予防又は防止的手段の両方を意味する。治療の必要があるものには、既に羅患しているもの、並びに疾患が予防されるべきものが含まれる。
治療の目的とされる「哺乳動物」とは、ヒト、家庭又は農場用動物、及び動物園、スポーツ又はペット用動物、例えばイヌ、ウマ、ウサギ、ウシ、ブタ、ハムスター、マウス、ネコ等を含む、哺乳動物に分類されるあらゆる動物を意味する。好ましくは哺乳動物はヒトである。
「疾患」は、タンパク質による治療によって利益を受ける任意の状態のことである。これには、問題の疾患に哺乳動物を罹患させる素因になる病理状態を含む、慢性及び急性の疾患又は病気が含まれる。ここで治療されるべき疾患の非限定的な例には、癌腫及びアレルギーが含まれる。
【0036】
「治療的有効量」は、少なくとも特定の疾患のかなりの改善又は予防をもたらすのに必要な最小濃度である。既知のタンパク質の治療的有効量は、当該技術分野において周知であり、後述部分に見出されるタンパク質の有効量は、平均的な医者などの当業者において周知の標準的技術によって決定される。
ここで用いられる「粘度」は、「運動学的粘度」又は「絶対的粘度」のことである。「運動学的粘度」は、重力の影響下における液体の抵抗性流動の尺度である。等量の2液体が同一のキャピラリー粘度計中に置かれ、重力による流れにまかせるとき、粘度のある液体はより粘度の少ない液体がキャピラリー中を流れるのより時間がかかる。ある液体が流れ終わるのに200秒かかり、他の液体が400秒かかる場合、運動学的粘度のスケール上、第二の液体は第一の液体の2倍粘度が高い。「絶対的粘度」は、時にダイナミック又は単に粘度と呼ばれるものであるが、運動学的粘度及び液体密度から計算される:
絶対的粘度=運動学的粘度 × 密度
運動学的粘度の次元は、L/Tであり、ここでLは長さで、Tは時間である。通常、運動学的粘度はセンチストーク(cSt)で表される。運動学的粘度のSI単位は、mm/sであり、1cStである。絶対的粘度は、センチポアズ(cP)の単位で表される。絶対的粘度のSI単位は、ミリパスカル−セコンド(mPa−s)であり、1cP=1mPa−sである。
【0037】
ここで用いられる「抗ヒスタミン剤」は、ヒスタミンの生理的効果に拮抗する薬剤である。そのレセプター、H及びHにヒスタミンが結合すると、特徴的なアレルギー症状及び、かゆみ、赤み、はれあがりなどが起こる。多くの抗ヒスタミン剤は、そのレセプター、H1及びH2にヒスタミンが結合するのを阻害することによって作用する;しかしながら、他は、ヒスタミンの放出を抑制することによって作用すると考えられている。抗ヒスタミン剤の例として、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、クロモリンナトリウム、アステミゾール、アザタジンマレイン酸塩、ブロフェニラミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、塩酸セチレジン(cetirizine hydrochloride)、クレマスチンフマル酸塩、シプロヘプタジン塩酸塩、d-マレイン酸ブロムフェニラミン、d-マレイン酸クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、塩酸ジフェンヒドラミン、ドキシラミン琥珀酸塩、塩酸ヘキソフェンダジン(fexofendadine hydrochloride)、塩酸テルフェナジン(terphenadine hydrochloride)、塩酸ヒドロキシジン、ロラチジン(loratidine)、塩酸メクリジン、クエン酸トリペレナミン、塩酸トリペレナミン、塩酸トリプロリジンがある。
ここで用いられる「気管支拡張剤」は、結果として肺気量の減少や呼吸の短縮になる一般的には初期の喘息反応を起こす気管支収縮、生理学的症状に拮抗する又は無効にする薬剤を指す。気管支拡張薬の例には、エピネフリン、広域作用性α及びβアドレナリン作動性、及びβアドレナリン作動性アルブテロール、ピルブテロール、メタプロテレノール、サルメテロール、及びイソエタリンを含む。また、気管支拡張は、アミノフィリン及びテオフィリンを含むキサンチンの投与によって達成することもできる。
【0038】
ここで用いられる「糖質コルチコイド」は抗炎症性活性を有するステロイドベースの薬剤を指す。糖質コルチコイドは、一般的に後期喘息反応を減弱させるために用いられる。糖質コルチコイドの例には、プレドニゾン、ベクロメタゾン二プロピオン酸塩、トリアムシノロンアセトニド、フルニソリド、ベタメタゾン、ブデソニド、デキサメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、フルニゾリド(flunisolide)、フルチカゾン(fluticasone)プロピオン酸塩、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン及びトリアムシノロンが含まれる。
ここで用いられる「非ステロイド性抗炎症剤」または「NSAID」は、ステロイドベースでない抗炎症性活性を有する薬剤を指す。NSAIDの例には、アセトアミノフェン、アスピリン、ブロムフェナク(bromfenac)ナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェンカルシウム、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナム酸ナトリウム、メフェナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン(phenylbutzone)、ピロキシカム、スリンダク、トルメチンナトリウムが含まれる。
【0039】
II.本発明の実施の形態
A.ポリペプチドと抗体の調製
以下の説明は、主として、タンパク質又は抗体をコードする核酸を含むベクターで形質転換又は形質移入された細胞を培養し、結果としてできたタンパク質又は抗体を精製することによりここに示すポリペプチド又は抗体を調製する方法に関する。もちろん、当該分野においてよく知られている他の方法を用いてそのようなポリペプチド又は抗体を調製することができると考えられる。例えば、その配列、又はその一部は、固相技術を用いた直接ペプチド合成によって生産してもよい[例えば、Stewart等, Solid-Phase Peptide Synthesis, W.H. Freeman Co., サン フランシスコ, カリフォルニア (1969);Merrifield, J. Am. Chem. Soc., 85:2149-2154 (1963)参照]。手動技術又は自動によるインビトロタンパク質合成を行ってもよい。自動合成は、例えば、アプライド・バイオシステムズ・ペプチド合成機(フォスターシティー, カリフォルニア)を用いて、製造者の指示により実施してもよい。ここに示すタンパク質又は抗体の種々の部分は、別々に化学的に合成され、化学的又は酵素的方法を用いて結合させてもよい。
【0040】
1.ここに示すタンパク質をコードするDNAの単離
ここに示すタンパク質をコードするDNAは、一致するmRNAを保有していてそれを検出可能なレベルで発現すると考えられる-組織から調製されたcDNAライブラリから得ることができる。従って、ヒトタンパク質-コード化DNAは、実施例に記載されるように、ヒトの組織から調製されたcDNAライブラリから簡便に得ることができる。またタンパク質-コード化遺伝子は、ゲノムライブラリから又は公知の合成方法(例えば、自動化核酸合成)により得ることもできる。
ライブラリは、対象となる遺伝子を同定するために設計されたプローブ(少なくとも約20−80塩基のオリゴヌクレオチド等)によってスクリーニングできる。選択されたプローブによるcDNA又はゲノムライブラリのスクリーニングは、例えばSambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載されている標準的な手順を使用して実施することができる。所望のタンパク質をコードする遺伝子を単離する他の方法はPCR法を使用するものである[Sambrook等,上掲;Dieffenbach等, PCR Primer: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995)]。
【0041】
下記の実施例には、cDNAライブラリのスクリーニング技術を記載している。プローブとして選択されたオリゴヌクレオチド配列は、充分な長さで、疑陽性が最小限になるよう充分に明瞭でなければならない。オリゴヌクレオチドは、スクリーニングされるライブラリ内のDNAとのハイブリダイゼーション時に検出可能であるように標識されていることが好ましい。標識化の方法は当該分野において良く知られており、32P標識されたATPのような放射線標識、ビオチン化或いは酵素標識の使用が含まれる。中程度の緊縮性及び高度の緊縮性を含むハイブリダイゼーション条件は、上掲のSambrook等,に示されている。
このようなライブラリスクリーニング法において同定された配列は、Genbank等,の公共データベース又は個人の配列データベースに寄託され公衆に利用可能とされている周知の配列と比較及びアラインメントすることができる。分子の決定された領域内又は完全長配列に渡っての(アミノ酸又は核酸レベルのいずれかでの)配列同一性は、当該分野で知られた、及びここに記載した方法を用いて決定することができる。
タンパク質コード化配列を有する核酸は、初めてここで開示された推定アミノ酸配列を使用し、また必要ならば、cDNAに逆転写されていないmRNAの生成中間体及び先駆物質を検出する上掲のSambrook等,に記述されているような従来のプライマー伸展法を使用して選択されたcDNA又はゲノムライブラリをスクリーニングすることによって得られる。
【0042】
2.宿主細胞の選択及び形質転換
宿主細胞を、ここに記載した生産のためのタンパク質又は抗体を含む発現又はクローニングベクターで形質移入又は形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適するように修飾した常套的栄養培地で培養する。培養条件、例えば培地、温度、pH等々は、過度の実験をすることなく当業者が選ぶことができる。一般に、細胞培養の生産性を最大にするための原理、プロトコール、及び実用技術は、Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach, M.Butler編(IRL Press, 1991)及びSambrook等, 上掲に見出すことができる。
原核生物細胞形質移入及び真核生物細胞形質移入の方法、例えば、CaCl、CaPO、リポソーム媒介及びエレクトロポレーションは当業者に知られている。用いられる宿主細胞に応じて、その細胞に対して適した標準的な方法を用いて形質転換はなされる。前掲のSambrook等,に記載された塩化カルシウムを用いるカルシウム処理又はエレクトロポレーションが、一般的に原核生物に対して用いられる。アグロバクテリウム・トゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)による感染が、Shaw等, Gene, 23:315 (1983)及び1989年6月29日公開のWO89/05859に記載されているように、或る種の植物細胞の形質転換に用いられる。このような細胞壁のない哺乳動物の細胞に対しては、Graham及びvan der Eb, Virology, 52:456-457 (1978)のリン酸カルシウム沈降法が好ましい。哺乳動物細胞の宿主系形質転換の一般的な態様は米国特許第4,399,216号に記載されている。酵母菌中への形質転換は、典型的には、Van Solingen等, J. Bact., 130:946 (1977)及びHsiao等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:3829 (1979)の方法に従って実施される。しかしながら、DNAを細胞中に導入する他の方法、例えば、核マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、未処理の細胞、又はポリブレン、ポリオルニチン等のポリカチオンを用いる細菌プロトプラスト融合もまた用いることもできる。哺乳動物細胞を形質転換するための種々の技術については、Keown等, Methods in Enzymology, 185:527-537 (1990)及び Mansour等, Nature, 336:348-352 (1988)を参照のこと。
【0043】
ここに記載のベクターにDNAをクローニング或いは発現するために適切な宿主細胞は、原核生物、酵母菌、又は高等真核生物細胞である。適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えば大腸菌のような腸内細菌科を含む。種々の大腸菌株が公衆に利用可能であり、例えば、大腸菌K12株MM294(ATCC31,446);大腸菌X1776(ATCC31,537);大腸菌株W3110(ATCC27,325)及びK5772(ATCC53,635)である。他の好ましい原核動物宿主細胞は、大腸菌、例えば、E. coli、エンテロバクター、エルビニア(Erwinia)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ、例えば、ネズミチフス菌、セラチア、例えば、セラチアマルセサンス(Serratia marcescans) 、及び赤痢菌、並びに桿菌、例えばバチルス・スブチルス(B. subtilis)及びバチルス・リチェニフォルミス(B. licheniformis)(例えば、1989年4月12日発行のDD266,710に記載されたバチルス・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス、例えば緑膿菌及びストレプトマイセスなどの腸内細菌科を含む。これらの例は限定ではなく例示である。株W3110は、組換えDNA生産発行のための共通の宿主株であるので一つの特に好ましい宿主又は親宿主である。好ましくは、宿主細胞は最小量のタンパク質分解酵素を分泌する。例えば、株W3110は、細胞に外来のタンパク質をコードする遺伝子における遺伝子変異をするように修飾してもよく、そのような宿主の例としては、完全な遺伝子型tonAを有する大腸菌W3110株1A2;完全な遺伝子型tonA ptr3を有する大腸菌W3110株9E4;完全な遺伝子型tonA prt3 phoA E15 (argF-lac) 169 degP ompT kanrを有する大腸菌W3110株27C7(ATCC 55,244);完全な遺伝子型tonA ptr3 phoA E15 (algF-lac) 169 degP ompT rbs7 ilvG kanrを有する大腸菌W3110株37D6;非カナマイシン耐性degP欠失変異を持つ37D6株である大腸菌W3110株40B4;及び1990年8月7日発行の米国特許第4,946,783号に開示された変異周辺質プロテアーゼを有する大腸菌株を含む。或いは、クローニングのインビトロ法、例えばPCR又は他の核酸ポリメラーゼ反応が好ましい。
【0044】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、PROコード化ベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシアは、通常用いられる下等真核生物宿主微生物である。他に、シゾサッカロミセス・プロンブ(Schizosaccharomyces prombe)(Beach及びNurse, Nature, 290:140 [1981];1985年5月2日発行のEP139,383);クルベロミセス宿主(Kluveromyces hosts)(米国特許第4,943,529号;Fleer等, Bio/Technology, 9:968-975 (1991))、例えばクルベロミセスラクチス(K. lactis)(MW98-8C, CBS683, CBS4574;Louvencourt等, J. Bacteriol.154(2):737-742 [1983])、クルベロミセス・フラギリス(K. fragilis)(ATCC 12,424)、クルベロミセス・ブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC 16,045)、クルベロミセス・ウィケラミイ(K. wickeramii)(ATCC 24,178)、クルベロミセスワルチイ(K. waltii)(ATCC 56,500)、クルベロミセス・ドロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC 36,906;Van den Berg等, Bio/Technology, 8:135 (1990))、クルベロミセス・テモトレランス(K. thermotolerans)及びクルベロミセス・マルキシアナス(K. marxianus);ヤロウィア(yarrowia)(EP402,226);ピチア・パストリス(Pichia pastoris)(EP183,070;Sreekrishna等, J. Basic Microbiol, 28:265-278 [1988]);カンジダ;トリコデル・マレーシア(Trichoderma reesia)(EP244,234);アカパンカビ(Case等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:5259-5263 [1979]);シュワニオマイセス(Schwanniomyces)、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)(1990年10月31日発行のEP394,538);及び糸状真菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム(Tolypocladium)(1991年1月10日発行のWO91/00357);及びアスペルギルス宿主、例えばアスペルギルス・ニダランス(Balance等, Biochem. Biophys. Res. Commun., 112:284-289 [1983];Tilburn等, Gene, 26:205-221 [1983];Yelton等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:1470-1474 [1984])、及びアスペルギルス・ニガー(Kelly及びHynes, EMBO J., 4:475-479 [1985])が含まれる。ここで好ましいメチロトロピック(C1化合物資化性、Methylotropic)酵母は、これらに限られないが、ハンセヌラ(Hansenula)、カンジダ、クロエケラ(Kloeckera)、ピチア(Pichia)、サッカロミセス、トルロプシス(Torulopsis)、及びロドトルラ(Rhodotorula)からなる属から選択されたメタノールで成長可能な酵母を含む。この酵母の分類の例示である特定の種のリストは、C. Anthony, The Biochemistry of Methylotrophs, 269 (1982)に記載されている。
ここに示すポリペプチド及び抗体のグリコシル化型の発現に適切な宿主細胞は、多細胞生物由来である。無脊椎動物細胞の例としては、ショウジョウバエS2及びスポドスペラSf9等の昆虫細胞並びに植物細胞が含まれる。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)及びCOS細胞を含む。より詳細な例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7,ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol., 36:59 (1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub及びChasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスのセルトリ細胞(TM4,Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980))ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞 (Hep G2,HB 8065);及びマウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562,ATCC CCL51)を含む。適切な宿主細胞の選択は、この分野の技術常識内にある。
【0045】
3.複製可能なベクターの選択及び使用
ここに示すタンパク質及び抗体をコードする核酸(例えば、cDNA又はゲノムDNA)は、クローニング(DNAの増幅)又は発現のために複製可能なベクター内に挿入される。様々なベクターが公的に入手可能である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウィルス粒子、又はファージの形態とすることができる。適切な核酸配列が、種々の手法によってベクターに挿入される。一般に、DNAはこの分野で周知の技術を用いて適当な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入される。ベクター成分としては、一般に、これらに制限されるものではないが、一つ又は複数のシグナル配列、複製開始点、一つ又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列を含む。これらの成分の一つ又は複数を含む適当なベクターの作製には、当業者に知られた標準的なライゲーション技術を用いる。
ポリペプチド又は抗体の組み換え産物は直接的にだけでなく異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても生産される。異種部分は、シグナル配列或いは成熟タンパク質或いはポリペプチドのN-末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである。一般に、シグナル配列はベクターの成分であるか、ベクターに挿入されるポリペプチド又は抗体-コード化DNAの一部である。シグナル配列は、例えばアルカリフォスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp或いは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択された原核生物シグナル配列であってよい。酵母の分泌に関しては、シグナル配列は、酵母インベルターゼリーダー、アルファ因子リーダー(サッカロミセス(Saccharomyces)及びクルイベロマイシス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含み、後者は米国特許第5,010,182号に記載されている)、又は酸ホスファターゼリーダー、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー(1990年4月4日発行のEP362179)、又は1990年11月15日に公開されたWO90/13646に記載されているシグナルであり得る。哺乳動物細胞の発現においては、哺乳動物シグナル配列は、同一或いは関連ある種の分泌ポリペプチド由来のシグナル配列並びにウィルス分泌リーダーのようなタンパク質の直接分泌に使用してもよい。
【0046】
発現及びクローニングベクターは、共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。そのような配列は多くの細菌、酵母及びウィルスに対してよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウィルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウィルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選べるマーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート或いはテトラサイクリンのような抗生物質或いは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)複合培地から得られない重要な栄養素、例えば桿菌のD-アラニンラセマーゼをコードしている遺伝子を供給するタンパク質をコードする。
【0047】
哺乳動物細胞に適切な選択可能なマーカーの例は、DHFR或いはチミジンキナーゼのようにここに示すポリペプチド又は抗体-コード化核酸を取り込むことのできる細胞成分の同定を可能にするものである。野生型DHFRを用いた場合の好適な宿主細胞は、Urlaub等により Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980)に記載されているように調製され増殖された、DHFR活性に欠陥のあるCHO株化細胞である。酵母菌中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である[Stinchcomb等, Nature, 282:39 (1979);Kingsman等, Gene, 7:141 (1979);Tschemper等, Gene, 10:157 (1980)]。trp1遺伝子は、例えば、ATCC番号44076或いはPEP4-1のようなトリプトファン内で成長する能力を欠く酵母菌の突然変異株に対する選択マーカーを提供する[Jones, Genetics, 85:12 (1977)]。
発現及びクローニングベクターは、通常、そのようなDNA配列に作用可能に結合し、mRNA合成を制御するプロモーターを含む。種々の可能な宿主細胞により認識されるプロモーターが知られている。原核生物宿主での使用に好適なプロモーターはβ-ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系[Chang等, Nature, 275:615 (1978); Goeddel等, Nature, 281:544 (1979)]、アルカリフォスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系[Goeddel, Nucleic Acids Res., 8:4057 (1980); EP 36,776]、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーター[deBoer 等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:21-25 (1983)]を含む。細菌系で使用するプロモーターもまたそのようなDNA配列と作用可能に結合したシャイン-ダルガーノ(S.D.)配列を有する。
【0048】
酵母宿主と共に用いて好適なプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ[Hitzeman 等, J. Biol. Chem., 255:2073 (1980)]又は他の糖分解酵素[Hess 等, J. Adv. Enzyme Reg., 7:149 (1968);Holland, Biochemistry, 17:4900(1978)]、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
他の酵母プロモーターとしては、成長条件によって転写が制御される付加的効果を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸フォスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域がある。酵母菌での発現に好適に用いられるベクターとプロモーターはEP73,657に更に記載されている。
【0049】
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからの転写は、例えば、ポリオーマウィルス、伝染性上皮腫ウィルス(1989年7月5日公開のUK2,211,504)、アデノウィルス(例えばアデノウィルス2)、ウシ乳頭腫ウィルス、トリ肉腫ウィルス、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、B型肝炎ウィルス及びサルウィルス40(SV40)のようなウィルスのゲノムから得られるプロモーター、異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、及び熱衝撃プロモーターから得られるプロモーターによって、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り制御される。
より高等の真核生物によるここでのポリペプチド又は抗体をコードするDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増強され得る。エンハンサーは、通常は約10から300塩基対で、プロモーターに作用してその転写を増強するDNAのシス作動要素である。哺乳動物遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウィルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウィルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウィルスエンハンサーが含まれる。エンハンサーは、コード化配列の5’又は3’位でベクター中にスプライシングされ得るが、好ましくはプロモーターから5’位に位置している。
【0050】
また、真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列も含む。このような配列は、真核生物又はウィルスのDNA又はcDNAの通常は5’、時には3’の非翻訳領域から取得できる。これらの領域は、ここに示すポリペプチド又又は抗体をコードするmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。
組換え脊椎動物細胞培養でのここに示すポリペプチド又は抗体の合成に適応化するのに適切な他の方法、ベクター及び宿主細胞は、Gething等, Nature, 293:620-625 (1981);Mantei等, Nature, 281:40-46 (1979);EP117,060;及びEP117,058に記載されている。
【0051】
4.遺伝子増幅/発現の検出
遺伝子の増幅及び/又は発現は、ここで提供された配列に基づき、適切に標識されたプローブを用いて、例えば、従来よりのサザンブロット法、mRNAの転写を定量化するノーザンブロット法[Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:5201-5205 (1980)]、ドットブロット法(DNA分析)、又はインサイツハイブリダイゼーション法によって、直接的に試料中で測定することができる。或いは、DNA二本鎖、RNA二本鎖及びDNA-RNAハイブリッド二本鎖又はDNA-タンパク二本鎖を含む、特異的二本鎖を認識することができる抗体を用いることもできる。次いで、抗体を標識し、アッセイを実施することができ、ここで二本鎖は表面に結合しており、その結果二本鎖の表面での形成の時点でその二本鎖に結合した抗体の存在を検出することができる。
或いは、遺伝子の発現は、遺伝子産物の発現を直接的に定量する免疫学的な方法、例えば細胞又は組織切片の免疫組織化学的染色及び細胞培養又は体液のアッセイによって、測定することもできる。試料液の免疫組織化学的染色及び/又はアッセイに有用な抗体は、モノクローナルでもポリクローナルでもよく、任意の哺乳動物で調製することができる。簡便には、抗体は、ここに示すポリペプチドに対して、又はここで提供されるDNA配列をベースとした合成ペプチドに対して、又はこのようなポリペプチド及び抗体をコードするDNA及び特異的抗体エピトープをコードするDNAに融合した外因性配列に対して調製され得る。
【0052】
5.ポリペプチドの精製
形態は、培地又は宿主細胞の溶菌液から回収することができる。膜結合性であるならば、適切な洗浄液(例えばトリトン-X100)又は酵素的切断を用いて膜から引き離すことができる。ここに示すポリペプチド又は抗体の発現に用いられる細胞は、凍結融解サイクル、超音波処理、機械的破壊、又は細胞溶解剤などの種々の化学的又は物理的手段によって破壊することができる。
ここに示すポリペプチド又は抗体を、組換え細胞タンパク又はポリペプチドから精製することが望ましい。適切な精製手順の例である次の手順により精製される:すなわち、イオン交換カラムでの分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ又はカチオン交換樹脂、例えばDEAEによるクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えばセファデックスG-75を用いるゲル濾過;IgGのような汚染物を除くプロテインAセファロースカラム;及びポリペプチド又は抗体のエピトープタグ形態を結合させる金属キレート化カラムである。この分野で知られ、例えば、Deutscher, Methodes in Enzymology, 182 (1990);Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag, New York (1982)に記載された多くのタンパク質精製方法を用いることができる。選ばれる精製工程は、例えば、用いられる生産方法及び生産される特定のポリペプチド又は抗体の性質に依存する。
【0053】
B.抗体の調製
本発明の一実施態様では、選択されるタンパク質は抗体である。ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、二重特異的及びヘテロコンジュゲート抗体を含む抗体の調製技術を以下に示す。
【0054】
1)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による抱合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl、又はRとRが異なったアルキル基であるRN=C=NRにより抱合させることが有用である。用いられるアジュバントの例には、完全フロイントアジュバント及びMPL−TDMアジュバント(モノホスホリルLipid A、合成トレハロースジコリノミコレート)が含まれる。免疫の方法は、過度の実験をすることなく当業者によって選択することができる。
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0055】
2)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体集団から得られるが、つまり、該集団を含む個々の抗体は、少量存在する起こりうる自然発生的突然変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である。従って、「モノクローナル」という形容詞は、別個の抗体の混合物ではないとの抗体の特徴を示すものである。
例えば、モノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法、又は組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作成することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はハムスターなどのその他の適当な宿主動物を上記のように免疫し、免疫化に用いられたタンパク質と特異的に結合する抗体を産生する、又は産生することのできるリンパ球を誘導する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。
【0056】
免疫化剤は、典型的には抗原タンパク質又はそれらの融合変異型を含む。一般には、ヒト起源の細胞が望まれる場合において末梢血リンパ球(「PBL」)が用いられるか、又は非ヒト哺乳動物ソースが望まれる場合において脾臓細胞又はリンパ節細胞が用いられるかのいずれかである。次に、リンパ球を、ハイブリドーマ細胞を調製するためにポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて不死化細胞株と融合する。Goding, Monoclonal Antibodies:Principles and Practice, Academic Press (1986), pp.59-103。
通常、不死化細胞はトランスフォームされた哺乳動物細胞であり、実用的にはげっ歯類、ウシ及びヒト起源のミエローマ細胞である。通常、ラット又はマウスミエローマ細胞株が用いられる。このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは、融合していない親のミエローマ細胞の増殖または生存を阻害する一又は複数の物質を含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親のミエローマ細胞が酵素であるヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失する場合、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT−欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含有することになろう(HAT培地)。
【0057】
好ましい不死化ミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの発現をサポートし、HAT培地のような培地に対して感受性の細胞である。これらの中でも、好ましいミエローマ株化細胞は、マウスミエローマ株、例えば、Salk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAより入手し得るMOPC-21及びMPC−11マウス腫瘍、及び、American Type Culture Collection, Rockville, Maryland USAより入手し得るSP-2細胞由来のものである。ヒトミエローマ及びマウス−ヒトヘテロミエローマ株化細胞もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁、(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
【0058】
ハイブリドーマ細胞を培養している培地を、所望の抗原に対するモノクローナル抗体の存在について検定する。好ましくは、モノクローナル抗体の結合親和性及び特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定できる。このような技術及びアッセイは当業者に周知である。結合親和性は、例えば、Munsonら., Anal. Biochem., 107:220(1980)のスキャッチャード分析によって測定することができる。
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定されると、そのクローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, 上掲)。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が含まれる。また、このハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍として、インビボで増殖させることができる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ハイドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等のような従来の免疫グロブリン精製法によって、培地、腹水、又は血清から上手く分離することができる。
【0059】
また、モノクローナル抗体は、米国特許第4,816,567号などに記載される及び前述に記載のような組み換えDNA法により作製されてもよい。モノクローナル抗体をコードするDNAは、定法を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に分離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。一度単離されれば、該DNAを発現ベクター中に挿入し、次に、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は他にイムノグロブリンタンパク質を産生しないミエローマ細胞のような宿主細胞中に形質移入し、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を獲得することができる。抗体をコードするDNAの細菌での組み換え発現に関する概説論文には、Skerraら., Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262(1993)及びPluckthun, Immunol. Revs. 130: 151-188(1992)が含まれる。
さらなる実施態様では、抗体は、McCaffertyら, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリーから分離することができる。Clacksonら, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marksら, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体の分離について記述している。次の刊行物は、鎖シャフリングによる高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marksら, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouseら, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266[1993])を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の単離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
【0060】
また、該DNAは、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することによって(米国特許第4,816,567号;Morrisonら, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又はイムノグロブリンコード配列に非イムノグロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることによって修飾することができる。典型的には、かかる非イムノグロブリンポリペプチドは抗体の定常領域の代わりに置換され、又は抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインが置換されて、抗原に対する特異性を有するある抗原結合部位、及び異なる抗原に対する特異性を有する他の抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作り出す。
ここに示すモノクローナル抗体は一価性であり、その調整方法は当業者に周知である。例えば、免疫グロブリンの軽鎖及び修飾重鎖の組み換え発現を伴う方法がある。一般的に重鎖はFc領域の任意の場所で切断して重鎖の交差組み換え(クロスリンク)を予防する。あるいは、関連するシステイン残基を他のアミノ酸残基に置き換えたり、交差組み換えを防ぐために欠損させてもよい。また、一価抗体の調製に好適なインビトロの方法がある。当業者によくある技術を用いて抗体のフラグメント、特にFabフラグメントを産生することができる。
また、キメラ又はハイブリッド抗体はクロスリンク剤を伴う方法を含む合成タンパク質化学における既知の方法を用いてインビトロにおいても調製される。例えば、免疫毒素はジスルフィド置換反応を用いて、又はチオエーテル結合を形成させることにより構築される。当該目的にとって適切な試薬の例には、イミノチオレート及びメチル−4−メルカプトブチルイミデートが含まれる。
【0061】
3)ヒト化抗体
本発明の抗体には、さらにヒト化又はヒト抗体が含まれる。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形とは、キメライムノグロブリン、イムノグロブリン鎖あるいはその断片(例えばFv、Fab、Fab’、F(ab’)又は抗体の他の抗原結合サブ配列)であって、非ヒトイムノグロブリン由来の最小配列を含むものである。ヒト化抗体はレシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット又はウサギのような非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基によって置換されたヒトイムノグロブリン(レシピエント抗体)を含む。ある場合には、ヒトイムノグロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。また、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入されたCDRもしくはフレームワーク配列にも見出されない残基を含んでいてもよい。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、また典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含み、この場合、CDR領域の全て若しくは実質的に全てが、非ヒトイムノグロブリンのものに相当し、FR領域の全て若しくは実質的に全てが、ヒトイムノグロブリンコンセンサス配列である。ヒト化抗体は、最適には免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒトのイムノグロブリンの定常領域の少なくとも一部も含む。Jones等, Nature, 321:522-525 (1986); Riechmann等, Nature, 332:323-329 (1988); 及びPresta, Curr. Op Struct. Biol., 2:593-596 (1992)。
【0062】
非ヒト抗体をヒト化する方法は当該技術分野において周知である。一般的に、ヒト化抗体には非ヒト由来の1つ又は複数のアミノ酸残基が導入される。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、「移入」残基と称され、典型的には「移入」可変ドメインから得られる。ヒト化は基本的には、Winter及び共同研究者、Jones等, Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988);Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536 (1988)の方法に従うか、又は齧歯動物のCDR又はCDR配列でヒト抗体の該当する配列を置換することにより実施される。従って、このような「ヒト化」抗体は、キメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されている。実際には、ヒト化抗体は典型的には幾つかのCDR残基及び場合によっては幾つかのFR残基が齧歯類抗体の類似する部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列が、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受容される。Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothiaら, J. Mol. Biol., 196:901(1987)。他の方法では、軽又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用できる。Carterほか, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Prestaほか, J. Immunol., 151:2623(1993)。
【0063】
さらに、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持したまま、抗体をヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法に従って、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析過程によりヒト化抗体を調製する。三次元イムノグロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補イムノグロブリン配列の予想される三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムは購入可能である。これら表示を観察することで、候補イムノグロブリン配列の機能における残基の想定され得る役割の分析、すなわち候補イムノグロブリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
ヒト化抗体の様々な形態が考えられる。例えば、ヒト化抗体は、抗体断片、例えばFab、場合によっては免疫コンジュゲートを作成するために1又は複数の細胞障害剤でコンジュゲートされたものであってもよい。あるいは、ヒト化抗体又は、親和性成熟抗体は、完全な抗体、例えば完全なIgG1抗体であってもよい。
【0064】
4)ヒト抗体
ヒト化の代わりにヒト抗体を産生することができる。例えば、内在性のイムノグロブリン産生がない状態で、ヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが現在では可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(J)遺伝子の同型接合欠損が内因性抗体産生を完全に阻害することが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列イムノグロブリン遺伝子列の移入は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。例としてJakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993);Bruggermann等, Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5,591,669号及びWO97/17852を参照。
あるいは、ファージディスプレイ技術を、非免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロでヒト抗体及び抗体断片を産出させるために使用することができる。McCaffertyら, Nature 348:552-553(1990);Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227:381(1991)。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、繊維状バクテリオファージ、例えばM13またはfdの大きい又は小さいコートタンパク質遺伝子のいずれかにおいてイン-フレームをクローンし、ファージ粒子の表面上に機能的抗体フラグメントとして表出する。繊維状粒子がファージゲノムの一本鎖のDNAコピーを含むので、抗体の機能特性に基づいた選択により、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択がなされる。よって、ファージはB細胞の特性のいくつかを模倣している。ファージディスプレイは多様な形式で行うことができる;例えばJohnson, Kevin S. 及びChiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)を参照のこと。V-遺伝子セグメントのいくつかの供給源がファージディスプレイのために使用可能である。Clacksonら, Nature, 352:624-628(1991)は、免疫化されたマウス脾臓から得られたV遺伝子の小ランダム組合せライブラリーからの抗オキサゾロン抗体の異なった配列を単離した。非免疫化ヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構成可能で、抗原(自己抗原を含む)とは異なる配列の抗体を、Marksら, J. Mol. Biol. 222:581-597(1991)、又はGriffithら, EMBO J. 12:725-734(1993)に記載の技術に本質的に従って単離することができる。また、米国特許第5,565,332号及び同5,573,905号を参照のこと。
【0065】
また、Cole等及びBoerner等の技術もヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Cole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p.77 (1985)及びBoerner等, J. Immunol. 147(1):86-95 (1991))。同様に、トランスジェニック動物、例えば、内在性のイムノグロブリン遺伝子が部分的に又は完全に不活性化されているマウスなどに、ヒトイムノグロブリン遺伝子座を導入することによりヒト抗体を作製することができる。免疫すると、遺伝子再構成、構築及び抗体レパートリーを含め、あらゆる観点においてヒトで観察されるものと近似したヒト抗体の産生が観察される。本アプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号;5,545,806号、5,569,825号,、5,625,126号、5,633,425号、5,661,016号及び以下の特定の刊行物中に記載されている:Marks等, Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368:856-859 (1994);Morrison, Nature 368:812-13 (1994)、Fishwild等, Nature Biotechnology 14:845-51 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996)及びLonberg及びHuszar, Intern, Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)。
最後に、また、ヒト抗体は活性化B細胞によりインビトロで産生してもよい(米国特許第5,567,610号及び同第5,229,275号を参照)。
【0066】
5)抗体フラグメント(抗体断片)
ある状況では、全抗体を用いるよりもむしろ抗体フラグメントを用いる方が有利なことがある。より小さいサイズのフラグメントは急速にクリアランスを受け、固形腫瘍にアクセスしやすい。
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、完全な抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimotoら, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennanら, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。Fab、Fv及びscFv抗体フラグメントはすべて大腸菌内で発現され分泌されるため、これらフラグメントを大量に産生することが容易である。抗体フラグメントは上記した抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab'-SHフラグメントは大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab')フラグメントを形成することができる(Carterら, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')フラグメントを組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。インビボ半減期が延長したFab及びF(ab’)は米国特許第5,869,046号に記載されている。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fvフラグメント(scFV)である。国際公開第93/16185号;米国特許第5,571,894号;及び米国特許第5,587,458号を参照のこと。また、抗体フラグメントは、例えば米国特許第5,641,870号に記載されているような「直鎖状抗体」であってもよい。このような直鎖状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であってよい。
【0067】
6)抗体依存性酵素媒介性プロドラッグ治療法(ADEPT)
また、本発明の抗体は、プロドラッグ(例えばペプチジル化学療法剤、WO81/01145を参照)を活性な抗癌剤へ変換するプロドラッグ活性化酵素へ抗体をコンジュゲートすることによって、ADEPTにおいて使用することができる。例えばWO88/07378及び米国特許第4,975,278号を参照されたい。
ADEPTに有用な免疫コンジュゲートの酵素成分には、より活性な細胞毒形態に変換するようにプロドラッグへ作用し得る任意の酵素が含まれる。
限定するものではないが、本発明の方法に有用な酵素には、グリコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヒトリゾチーム、ヒトグルクロニダーゼ、ホスフェート含有プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なアルカリ性ホスファターゼ;サルフェート含有プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なアリルサルファターゼ;非毒性5-フルオロシトシンを抗癌剤5-フルオロウラシルに変換するのに有用なシトシンデアミナーゼ;プロテアーゼ、例えばセラチアプロテアーゼ、サーモリシン、サブチリシン、カルボキシペプチダーゼ(例えば、カルボキシペプチダーゼG2及びカルボキシペプチダーゼA)及びカテプシン(例えば、カテプシンB及びL)で、ペプチド含有プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なもの;D-アミノ酸置換基を含有するプロドラッグの変換に有用なD-アラニルカルボキシペプチダーゼ;炭水化物切断酵素、例えばグリコシル化プロドラッグを遊離の薬剤に変換するのに有用なβガラクトシダーゼ及びノイラミニダーゼ;βラクタムで誘導体化された薬剤を遊離の薬剤に変換させるのに有用なβラクタマーゼ;及びペニシリンアミダーゼ、例えばそれぞれフェノキシアセチル又はフェニルアセチル基で、それらのアミン性窒素において誘導体化された薬剤を遊離の薬剤に変換するのに有用なペニシリンVアミダーゼ又はペニシリンGアミダーゼが含まれる。あるいは、「アブザイム」としてもまた公知の酵素活性を有する抗体は、本発明のプロドラッグを、遊離の活性薬剤に変換させるために使用することもできる(例えば、Massey, Nature 328:457-458(1987)を参照)。抗体-アブザイムコンジュゲートは、ここで記載されているようにして、腫瘍細胞個体群にアブザイムを送達するために調製することができる。
【0068】
この発明の酵素は、当該分野においてよく知られている技術、例えば前述部分で検討したヘテロ二官能性クロスリンク剤を使用することにより、ここに示すポリペプチド又は抗体に共有的に結合させることができる。あるいは、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域を本発明の酵素の少なくとも機能的に活性な部位に結合せしめてなる融合タンパク質を、当該技術においてよく知られている組換えDNA技術を使用して作成することができる(例えば、Neuberger等, Nature 312:604-608 (1984)を参照のこと)。
【0069】
7)二重特異性及び多重特異性抗体
二重特異性抗体(BsAbs)は、同じまたは異なるタンパク質上のエピトープを含む少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。あるいは、一つのアームは標的抗原に結合するものであり、他方のアームは、白血球上のトリガー分子、例えば、T細胞レセプター分子(例えばCD3)又はFcγR1(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)等のIgG(FcγR)のFcレセプターに結合して、標的抗原を発現する細胞に対する細胞性防御機能を集中及び局在化させることができる。このような抗体は、全長抗体又は抗体又は抗体フラグメント(例えばF(ab')二重特異性抗体)から誘導することができる。
また、標的抗原を発現する細胞に細胞障害性剤を局在化させるために二重特異性抗体を用いてもよい。そのような抗体は、所望の抗原に結合するアームと細胞障害性剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-a、ビンカアルコロイド(vinca alkoloid)、リシンA鎖、メトトレキサート又は放射性活性同位体ハプテン)に結合するアームを持つ。周知の二重特異性抗体の例には、抗-ErbB2/抗-FcgRIII (WO96/16673)、抗-ErbB2/抗-FcgRI (U.S.P. 5,837,234)、抗-ErbB2/抗-CD3 (U.S.P. 5,821,337)がある。
二重特異性抗体を作製する方法は当該技術分野において知られている。全長二重特異性抗体の従来の生産は、二つのイムノグロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づいているが、この場合二つの鎖は異なる特異性を持っている。Millstein等, Nature, 305:537-539(1983)。イムノグロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の潜在的混合物を産生し、そのうち一つだけが正しい二重特異性構造を有する。アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる目的の分子の精製はかなり煩雑で、収率は低い。同様の方法がWO93/08829及びTraunecker等、EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0070】
異なるアプローチにより、望ましい結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原-抗体結合部位)をイムノグロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は、好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含むイムノグロブリン重鎖定常ドメインと行われる。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが望ましい。イムノグロブリン重鎖の融合、望まれるならばイムノグロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時トランスフェクトする。これにより、構築に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が所望の二重特異性抗体の最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率である場合、又はその比率が所望の鎖の結合にあまり影響がない場合は、2または3全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、WO94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSureshら, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0071】
WO96/27011又は米国特許第5,731,168号に記載された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennanら, Science, 229:81 (1985) は完全な抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルヒド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでFab'-TNB誘導体に再転換して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0072】
Fab'フラグメントを直接大腸菌から回収して、これは化学的に結合させて二重特異性抗体を形成してもよい。Shalaby等,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役を受けて二重特異性抗体を形成する。このようにして形成された二重特異性抗体は、正常なヒトT細胞、及びErbB2レセプターを過剰発現する細胞に結合可能で、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞障害性リンパ球の細胞溶解活性の誘因となる。
また、組換え細胞培養から直接的に二価抗体断片を作成し単離する様々な技術も記述されている。例えば、二価ヘテロ二量体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelny等, J. Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させた。抗体ホモダイマーをヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、ついで再酸化して抗体ヘテロダイマーを形成する。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性/二価抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、短かすぎて同一鎖上の2つのドメイン間の対形成ができないリンカーにより軽鎖可変ドメイン(V)に結合された重鎖可変ドメイン(V)を含む。従って、一つの断片のV及びVドメインは他の断片の相補的V及びVドメインと強制的に対形成させられ、よって2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用により二重特異性抗体断片を製造する他の方策もまた報告されている。Gruberら, J.Immunol. 152:5368 (1994)を参照されたい。
【0073】
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuttら J.Immunol. 147:60(1991)。
典型的な二重特異性抗体は対象の分子上の2つの異なるエピトープ上に結合する。あるいは、抗タンパク質アームは、細胞の防御機構を特定のタンパク質を発現する細胞に集中させるために、T細胞レセプター分子(例えば、CD2,CD3,CD28又はB7)、又はFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)などIgGに対するFcレセプター(FcγR)等の白血球上の誘因分子に結合するアームと組合わせてもよい。また、二重特異性抗体を特定のタンパク質を発現する細胞に細胞障害性薬剤を局在化させるために用いてもよい。そのような抗体は、タンパク質−結合アーム、及び細胞障害性薬剤又はEOTUBE,DPTA,DOTA,TETAなどの放射性核種キレート剤に結合するアームを保持する。その他の目的たる二重特異的抗体は、対象のタンパク質に結合し、さらに組織因子(TF)に結合する。
【0074】
6)ヘテロコンジュゲート抗体
また、ヘテロコンジュゲート抗体も本発明の範囲に入る。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合した抗体からなる。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体はアビジンに結合し、他方はビオチンに結合可能である。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせることが、米国特許第4,676,980号、及びHIV感染の治療のために提案されている。WO91/00360;WO92/200373;欧州特許第03089号。該抗体は、クロスリンク剤に関連したものを含む合成タンパク化学における既知の方法を使用して、インビトロで調製することができると考えられる。例えば、ジスルフィド交換反応を使用するか又はチオエーテル結合を形成することによって、免疫毒素を作成することができる。この目的に対して好適な試薬の例には、イミノチオレート及びメチル-4-メルカプトブチリミデート、及び例えば米国特許第4,676,980号に開示されたものが含まれる。ヘテロコンジュゲート抗体は簡便なクロスリンク法を用いて作製してもよい。好適なクロスリンク剤は当業者に周知であり、クロスリンク技術の番号と共に米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0075】
7)エフェクター機能の加工
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、癌治療の際の抗体の効果を亢進させることは望ましい。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成するようにしてもよい。そのようにして生成された同種二量体抗体は、向上したインターナリゼーション能力及び/又は増加した補体媒介細胞殺傷及び抗体−依存細胞性細胞障害性(ADCC)を有する可能性がある。Caron等, J. Exp. Med. 176: 1191-1195 (1992)及びShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)参照。また、向上した抗腫瘍活性を持つ同種二量体抗体は、Wolff等, Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されている異種二官能性架橋を用いて調製することができる。あるいは、抗体は、2つのFc領域を有するように加工して、それにより補体溶解及びADCC能力を向上させることもできる。Stevenson等, Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)参照。
【0076】
8)免疫複合体
また、本発明は、化学治療薬、成長阻害剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素活性毒素、又はその断片)などの細胞障害性剤、あるいは放射性同位体(即ち、放射性コンジュゲート)と抱合している抗体を含む免疫複合体に関する。
そのような免疫複合体の生成の際に化学治療剤にはBCNU、ストレプトゾイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、アドリアマイシン及び5-フルオロウラシルが含まれる。
使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。
【0077】
抗体と細胞障害性剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta等, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは細胞中の細胞障害性剤の放出を容易にするための「切断可能リンカー」であってよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ過敏性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカーが使用され得る(Chari等, Cancer Research, 52:127-131(1992))。
【0078】
更に、小分子毒素、例えばカリケアマイシン、メイタンシノイド(U.S.P5,208,020)、トリコセン(trichothene)及びCC1065も、本発明の製剤に使用する包合可能な毒素と考えられる。一実施態様では、完全長抗体又はその抗原結合断片は一又は複数のメイタンシノイド分子(例えば、抗体分子当たり約1〜約10メイタンシノイド分子)と結合できる。メイタンシノイドは、チューブリン重合を阻害するように作用する分裂阻害剤である。天然源からの単離又は化学的に調製したメイタンシノイドには、メイタンシン、メイタンシナール及び誘導体と、例として米国特許第5,208,020号及びここに挙げた文献(col.2、53行目からcol.3、10行目を参照)及び米国特許第3,896,111号及び同第4,151,042号に記載の類似体が含まれる。また、抗体−メイタンシノイドコンジュゲートの調整方法は米国特許第5,208,020号にも記載されている。好ましい実施態様では、メイタンシノイドはジスルフィド又は他の硫黄含有リンカー基を介して抗体に結合する。例えば、メイタンシンをMay-SS-Meに変換し、それをMay-SH3に還元して、修飾抗体に再作用させてメイタンシノイド−抗体免疫コンジュゲートを生成してもよい。Chari等, Cancer Res. 52: 127-131 (1992)。抗体は周知の方法にて修飾し、ついで遊離型又は保護したチオール基を含む抗体をメイタンシノイドを含むジスルフィドに再作用させてコンジュゲートを生成する。抗体−メイタンシノイドコンジュゲートの細胞障害活性は周知の方法及びIC50決定法によりインビボ又はインビトロで測定できる。
【0079】
カリケアマイシンは対象のとなるもう一つの免疫コンジュゲートである。抗生物質のカリケアマイシンファミリーはサブ-ピコモルの濃度で二重鎖DNA破壊を生じることができる。使用可能なカリケアマイシンの構造類似体には、限定するものではないが、γ、α、α、N-アセチル-γ、PSAG及びθ(Hinman等, Cancer Research, 53:3336-3342(1993)、Lode等 Cancer Research, 58:2925-2928(1998))が含まれる。抗体が結合可能な他の抗腫瘍剤は、葉酸代謝拮抗薬であるQFAである。カリケアマイシン及びQFAは双方共、細胞内に作用部位を有し、原形質膜を容易に通過しない。よって抗体媒介性インターナリゼーションによるこれらの薬剤の細胞への取込により、細胞障害効果が大きく向上する。
抗体と核溶解活性(例えば、リボヌクレアーゼ又は、デオキシリボヌクレアーゼやDNアーゼ等のDNAエンドヌクレアーゼ)を有する化合物の間で形成された免疫コンジュゲートも考えられる。
また、抗体は高い放射活性を有する原子を含有してよい。放射性コンジュゲートした抗体を生成するために、種々の放射性同位体が利用される。例として、At211、Bi212、I131、In131、Y90、Re186、Re188、Sm153、P32、Pb212及びLuの放射性同位体が含まれる。コンジュゲートが診断用に使用される場合、それはシンチグラフィー研究用の放射性原子、例えばTc99又はI123、又は核磁気共鳴(nmr)映像(磁気共鳴映像、mriとしても公知)用のスピン標識、例えばヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含有し得る。
【0080】
放射-又は他の標識が、公知の方法でコンジュゲートに導入される。例えば、ペプチドは生物合成されるか、又は水素の代わりにフッ素-19を含むなど適切なアミノ酸前駆体を使用する化学的なアミノ酸合成により合成される。標識、例えばTc99又はI123、Re186、Re188及びIn111は、ペプチドのシステイン残基を介して結合可能である。イットリウム-90はリジン残基を介して結合可能である。IODOGEN(登録商標)法は、ヨウ素-123の導入に使用することができる(Fraker等(1978) Biochem. Biophys. Res. Commun. 80:49-57)。放射性核種の他の方法は、「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」(Chatal, CRC Press 1989)に記載されている。
別法として、抗体及び細胞障害性剤を含有する融合タンパク質は、例えば組換え技術又はペプチド合成により作製される。DNAの長さは、コンジュゲートの所望する特性を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域により離間しているか、又は互いに隣接しているコンジュゲートの2つの部分をコードする領域をそれぞれ含有する。
他の実施態様において、腫瘍の事前ターゲティングに利用するために、「レセプター」(例えばストレプトアビジン)に抗体をコンジュゲートし、ここで抗体-レセプターコンジュゲートを患者に投与し、続いて清澄剤を使用し、循環から未結合コンジュゲートを除去し、細胞障害性剤(例えば放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートする「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0081】
9)免疫リポソーム
また、ここで開示されている抗体は、免疫リポソームとして処方することもできる。「リポソーム」は、哺乳動物への薬物輸送に有用な、種々のタイプの脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤を含む小胞体である。リポソームの成分は、通常は生物膜の脂質配向に類似した2層構造に配列される。
抗体を含有するリポソームは、例えばEpstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688(1985);Hwang等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030(1980);及び米国特許第4485045号及び同4544545号に記載されているように、当該分野において既知の方法により調製される。循環時間が増したリポソームは米国特許第5013556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG-誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは孔径が定められたフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab'断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martin等, J. Biol. Chem. 257:286-288(1982)に記載されているようにしてリポソームにコンジュゲートすることができる。場合によっては、化学療法剤(ドキソルビシンなど)はリポソーム内に包含される。Gabizon等, J. National Cancer Inst. 81(19)1484(1989)を参照されたい。
【0082】
10)他の抗体修飾
抗体の他の修飾がここに組み込まれる。例えば、抗体を種々の非タンパク質様ポリマーの1つ、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共ポリマーに結合させてもよい。また、抗体は、例えばコアセルベーション法によって又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)に、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションで捕捉することができる。このような技術及び他の好適な製剤はRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., Alfonso Gennaro, Ed., Philadelphia College of Pharmacy and Science (2000)に開示されている。
【0083】
C.凍結乾燥製剤
また、ここに示す製剤は再構成された凍結乾燥製剤として調製してもよい。ここで示すタンパク質又は抗体を凍結乾燥した後、再構成して、本発明の粘性の低い安定した液体製剤を生成する。特定の実施態様において、上述したような対象のタンパク質の調製後、「前凍結乾燥(pre-lyophilized)製剤」が生産される。前凍結乾燥製剤中に存在するタンパク質の量は、所望の投与体積、投与様式などを考慮に入れて決定される。例えば、無傷の抗体の出発濃度は、約2mg/mlから約50mg/mlで、好ましくは約5mg/mlから約40mg/ml、最も好ましくは約20−30mg/mlであってもよい。
1)凍結乾燥製剤の調製
一般に、製剤化されるタンパク質は溶液中に存在する。例えば、本発明の製剤の粘度を減少させる上昇したイオン強度中において、タンパク質は、約4−8及び好ましくは約5−7のpHのpH緩衝化溶液中に存在してもよい。バッファー濃度は、約1mMから約20mMであり得、あるいは、例えばバッファー及び所望される製剤(例えば、再構成される製剤)の張性に依存して、約3mMから約15mMであってもよい。典型的なバッファー及び/又は塩は、薬学的に受容可能なものであり、「薬学的に受容可能」な酸、塩基又はバッファーの元で決定されるような、適切な酸、塩基及びその塩から作製されてもよい。
【0084】
ある実施態様において、リオプロテクタントは前凍結乾燥製剤に添加される。前凍結乾燥製剤中のリオプロテクタントの量は、一般に、再構成後、生じた製剤が等張になるようなものである。しかし、高張な再構成製剤も適切である。さらに、リオプロテクタントの量は、タンパク質の受容し難い量の分解/凝集が凍結乾燥によって生じてしまう程低すぎてはならない。しかし、前凍結乾燥製剤中の典型的なリオプロテクタント濃度は、約10mMから約400mMであり、あるいは約30mMから約300mM、あるいは約50mMから約100mMである。典型的なリオプロテクタントには、スクロース、マンノース、トレハロース、グルコース、ソルビトール、マンニトールなどの糖及び糖アルコールが含まれる。しかし、特定の環境下では、あるリオプロテクタントは、製剤の粘度の増大に寄与することもある。従って、係る影響を最小化又は中和する特定のリオプロテクタントを選択するように注意が必要である。さらなるリオプロテクタントは「リオプロテクタント」の定義により上述され、「薬学的受容性のある糖」としてここに参照される。
【0085】
リオプロテクタントに対するタンパク質の割合は、特定のタンパク質又は抗体とリオプロテクタントとの組合わせごとに異なる。高いタンパク質濃度を持つ等張な再構成製剤を生産するために、選択されるタンパク質として抗体、リオプロテクタントとして糖(例えば、スクロース又はトレハロース)である場合、抗体に対するリオプロテクタントのモル比は、1モル抗体に対して約100から約1500モルのリオプロテクタント、及び好ましくは1モル抗体に対して約200から約1000モルのリオプロテクタントであり、例えば1モル抗体に対して約200から約600モルのリオプロテクタントでもよい。
【0086】
好ましい実施態様において、界面活性剤を前凍結乾燥製剤に添加することは望ましいことである。これの代わりに、又はさらに、界面活性剤を凍結乾燥製剤及び/又は再構成された製剤に添加してもよい。典型的な界面活性剤には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20又は80);ポリオキサマー(例えば、ポリオキサマー188);トリトン;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−、又はステアリル−スルホベタイン;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−又はステアリル−サルコシン;リノレイル−、ミリスチル−、又はセチル−ベタイン;ラウロアミドプロピル−、コカミドプロピル−、リノールアミドプロピル−、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、又はイソステアラミドプロピル−ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、又はイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン;ソディウムメチルココイル−、又はジソディウムメチルオレイル−タウレート;及びMONAQUATMシリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, New Jersey)、ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレンとプロピレングリコールとのコポリマー(例えば、Pluronics, PF68など)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。添加される界面活性剤の量は、再構成されるタンパク質の微粒子形態を減少させ、再構成後の微粒子形成を最小限にするような量である。例えば、界面活性剤は前凍結乾燥製剤中に約0.001−0.5%、あるいは、約0.005−0.05%の量で存在する。
【0087】
リオプロテクタント(スクロース又はトレハロースなど)と充填剤(例えば、マンニトール又はグリシン)との混合物は、前凍結乾燥製剤の調製に用いてもよい。充填剤は、中に余計なポケットを含まない均質な凍結乾燥ケイクの生産を可能ならしめる。製剤の望ましい特徴に悪影響を与えないという条件にて、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)中に記載されるような他の薬学的に受容可能な坦体、賦形剤又は安定化剤が、前凍結乾燥製剤(及び/又は凍結乾燥製剤及び/又は再構成製剤)中に含まれてもよい。受容可能な坦体、賦形剤又は安定化剤は、使用される投与量及び濃度において受容者に対し無毒性であり、さらなる緩衝化剤;保存剤;共溶解剤(co-solvents);アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);ポリエステルなどの生物分解性ポリマー;及び/又はナトリウムなどの塩形成対イオンを包含する。
【0088】
また、ここでの製剤は、処置される特定の効能に対して必要な一以上のタンパク質、好ましくは他のタンパク質に悪影響を及ぼさない相補的活性を持つものを含んでもよい。例えば、単一の製剤中に、所望の標的(例えば、レセプター又は抗体)に結合する2又はそれより多くの抗体を提供することが望ましい。そのようなタンパク質は、意図される目的にとって効果的な量で組合わされて好適に存在する。
インビボでの投与に用いられる製剤は滅菌的でなくてはならない。これは、凍結乾燥及び再構成に先立って、もしくはその後に滅菌ろ過膜でろ過することにより容易に達成される。あるいは、全混合物の滅菌は、例えば、約120℃で約30分間タンパク質を除いた成分をオートクレーブすることにより達成される。
【0089】
タンパク質、任意のリオプロテクタント及び他の任意の構成成分を混合した後、製剤は凍結乾燥される。多くの様々な凍結乾燥機、Hull50TM(Hull, USA)又はGT20TM(Leybold-Heraeus, Germany)凍結乾燥機が本目的に対し利用可能である。凍結乾燥は、製剤を凍結し、引き続き、凍結された内容物から初期乾燥に適する温度にて氷を昇華させることにより達成される。本条件下において、生産物の温度は、融点又は製剤の崩壊温度より低い。典型的には、初期乾燥のための棚温度は、適切な圧力下、約−30から25℃(初期乾燥の間、生産物を凍結状態にする)の範囲であり、典型的に、約50から250mTorrの範囲である。製剤、試料を保持する容器(例えば、ガラスバイアル)のサイズ及び型及び液体の体積は、主として乾燥に要する時間を決定し、数時間から数日(例えば、40−60時間)に及ぶ。場合によっては、第二の乾燥工程も生産物中の所望の残存水分量レベルに依存して実施されてもよい。第二の乾燥が実施される温度は、約0−40℃の範囲に及び、主として容器の型及びサイズ、及び用いられるタンパク質のタイプに依存する。例えば、凍結乾燥の水分除去の全相にわたる棚温度は、約15−30℃(例えば、約20℃)であってもよい。第二の乾燥に要する時間及び圧力は、適切な凍結乾燥ケイクを生産するものであり、例えば、温度及び他のパラメーターに依存する。第二の乾燥時間は、生産物中の所望の残存水分量レベルによって決定され、典型的には少なくとも約5時間(例えば、10−15時間)かかる。圧力は、初期乾燥ステップの間に使用されたものと同一でよい。凍結乾燥状態は、製剤及びバイアルサイズに依存して異なりうる。
【0090】
2)凍結乾燥製剤の再構成
患者への投与に先立ち、凍結乾燥製剤は、再構成される製剤中のタンパク質濃度が少なくとも約50mg/ml、例えば、約50mg/mlから約400mg/ml、あるいは、約80mg/mlから約300mg/ml、あるいは、約90mg/mlから約150mg/mlであるような、薬学的に受容可能な希釈液で再構成される。そのような製剤中におけるタンパク質の高い濃度は、再構成される製剤の皮下投与が意図される場合、特に有用であると考えられる。しかし、静脈内などの他の投与経路に関しては、再構成製剤中におけるより低いタンパク質濃度が望まれる(例えば、再構成される製剤中、約5−50mg/ml、又は約10−40mg/mlタンパク質)。ある実施態様において、再構成される製剤中のタンパク質濃度は、前乾燥製剤中の濃度より著しく高い。例えば、再構成される製剤中のタンパク質濃度は、前凍結乾燥製剤の約2−40倍、あるいは、3−10倍、あるいは3−6倍(例えば、少なくとも3倍又は少なくとも4倍)である。
【0091】
一般に、再構成は完全な水和を保証する約25℃の温度で起こるが、他の温度が望まれる場合には使用され得る。再構成に要する時間は、例えば、希釈液のタイプ、賦形剤及びタンパク質の量に依存するであろう。典型的な希釈液には、滅菌水、注射のための静菌水(BWFI)、pH緩衝化溶液(例えば、リン酸緩衝化食塩水)、滅菌生理食塩水、リンガー溶液又はデキストロース溶液が含まれる。希釈液は、場合によっては、保存剤を含む。典型的な保存剤は上述したように、好ましい保存剤であるベンジル又はフェノールアルコールなどの芳香族アルコールを有する。使用される保存剤の量は、タンパク質との適合性及び保存剤の有効性試験に関し異なる保存剤濃度を評価することによって決定される。例えば、保存剤が芳香族アルコール(ベンジルアルコールなど)である場合、約0.1−2.0%、好ましくは約0.5−1.5%、最も好ましくは約1.0−1.2%の量で存在する。
好ましくは、再構成される製剤は、大きさが10μm以上のものがバイアルあたり6000粒子未満である。
【0092】
D.液体製剤
治療用製剤は任意の製薬上許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と、所望の精製度を有する活性成分とを混合することにより、調製され保管される(Remington's Pharmaceutical Sciences 18th edition, Mack Publishing Co., Easton, Pa. 18042 [1990])。許容される担体、賦形剤又は安定剤は、用いる投与量及び濃度ではレシピエントに対して無毒性であり、緩衝液、アスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE、異性重亜硫酸ナトリウムを含む抗酸化剤;防腐剤、等張剤(isotonicifier)、安定剤、金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);EDTA等のキレート剤及び/又は非イオン性界面活性剤を含む。
治療剤として抗体断片が用いられる場合、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最小阻害断片が好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を保持した抗体断片又はペプチド分子が設計できる。このようなペプチドは、化学的に合成でき、又は組換えDNA技術によって生成できる。例えば、Marascoら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7889-7893 (1993)参照。
緩衝液(バッファ)は、特にpHに依存して安定する場合に、治療的有効性が最適になる範囲にpHを調節するために用いる。緩衝液は約50mMから250mMの濃度範囲であるのが好ましい。本発明の使用のために好適な緩衝剤には、有機及び無機酸の両方とそれらの塩が含まれる。例えば、クエン酸塩、リン酸塩、琥珀酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酢酸塩。更に、緩衝液はトリスのようなヒスチジン及びトリメチルアミンからなり得る。
【0093】
防腐剤(保存剤)は細菌の成長を遅らせるために一般的に0.2%−1.0%(w/v)の範囲で添加される。本発明の使用に好適な保存剤には、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;ベンザルコニウムハロゲン化合物(例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、塩化ベンゼトニウム;チメロサール、フェノール、ブチル及びベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール、3−ペンタノール、及びm−クレゾールが含まれる。
時に「安定剤」としても知られる緊張剤は、液体成分の緊張性を調節又は維持するためにある。タンパク質や抗体のような大きな、荷電した生体分子と共に用いる場合、アミノ酸側鎖の荷電基と相互作用して分子内及び分子間相互作用を潜在的に減少させるのでたびたび「安定剤」と呼称される。緊張剤は重量にして0.1%〜25%、好ましくは1〜5%の間で、他の成分との相対的な量を考慮して任意の量で加える。緊張剤には、多価糖質アルコール類、好ましくは三水素又はより高い糖質アルコール類、例えばグリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトールが含まれる。
【0094】
更なる賦形剤には、以下のうちの一以上の役割をする薬剤が含まれる:(1)充填剤、(2)溶解亢進剤、(3)安定剤及び(4)変性や容器壁への付着を防止する作用剤。安定剤は活性なタンパク質又は抗体の重量当たり0.1〜10000分の1の範囲で加えることができる。一般的な安定剤には:多価糖質アルコール類(上記を列挙した);アミノ酸、例えばアラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチン、ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、トレオニン、その他;有機糖質または糖質アルコール類、例えば蔗糖、ラクトース、ラクチトール(lactitol)、トレハロース、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイノシトース(myoinisitose)、ミオイノシトール、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えばイノシトール)、ポリエチレングリコール);硫黄を含んでいる還元剤、例えば尿素、グルタチオン、チオクト酸、ナトリウムチオグリコール酸塩、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びナトリウムチオ硫酸塩;低分子量のタンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは他の免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;単糖類(例えば、キシロース、マンノース、フルクトース、ブドウ糖);二糖類(例えばラクトース、マルトース、蔗糖);三糖類(例えばラフィノース);及び多糖類(例えばデキストリンまたはデキストラン)が含まれる。
【0095】
非イオン性界面活性剤又は洗浄剤(「湿潤剤」としても知られている)は、攪拌誘導性凝集から治療的タンパク質を保護するだけでなく治療的薬剤を溶解するのを促進し、それによって製剤が曝され、活性な治療的タンパク質又は抗体の変性の原因となることなく表面ストレスを剥奪する。非イオン性界面活性剤は約0.05mg/ml〜約1.0mg/ml、好ましくは約0.07mg/ml〜約0.2mg/mlの範囲内で加える。
好適な非イオン性界面活性剤には、ポリソルベート(20,40,60,65,80,等)、ポリオキサマー(184,188,等)、ピューロニック(Pluronic)(登録商標)、ポリオルズ(polyols)、トリトン(登録商標)、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(トゥイーン(登録商標)−20、トゥイーン(登録商標)−80、等)、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン水素化されたヒマシ油10、50及び60、グリセロールモノステアレート、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースが含まれる。使用可能な陰イオン洗剤には、ドデシル硫酸ナトリウム、ジオクチルナトリウムスルホサクシネート及びジオクチルナトリウムスルホン酸塩が含まれる。陽イオン洗剤には、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムが含まれる。
【0096】
製剤をインビボ投与に用いるために、滅菌しなければいけない。滅菌濾過膜に濾過することによって製剤を無菌的に精製してもよい。ここでいう医薬組成物は一般的に、滅菌したアクセスポートを有する容器、例えば、静脈溶液バッグ又は皮下注射針によって穴を開けることができる栓を有するバイアルに納めてある。
投与方法は公知で適応できる方法に従う、例として、単回又は複数回のボーラス投与、又は好適な方法での長時間をかけての輸液、例えば、皮下、静脈内、腹膜内、筋肉内、動脈内、病巣内、関節内による注入又は輸液、局所投与、吸入、又は持続的除放あるいは伸展的除放方法による。
また、ここでいう製剤は、治療する特定の症状に必要な一以上の活性な化合物、好ましくはお互い悪影響を示さない相補的活性を有する化合物を含んでよい。あるいは又は加えて、化合物は細胞障害性剤、サイトカイン又は成長阻害性剤を含んでよい。そのような分子は意図する目的に有効な量で適切に組み合わせる。
また、活性成分は、例としてコアセルベーション技術または界面重合法により調製したマイクロカプセル、例として、それぞれ、コロイド薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミン微小球体、ミクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)における又はマクロエマルジョンにおける、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリラート)マイクロカプセルに包含してよい。これらの技術は、上掲のRemington's Pharmaceutical Sciences 18th editionに開示されている。
【0097】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、このマトリクスは成形された物品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形状である。除放性マトリクスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸及びγ-エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商品名)(乳酸-グリコール酸コポリマーと酢酸リュープロリドの注射可能な小球)などの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、ポリ-(D)-3-ヒドロキシブチル酸を含む。持続放出のための組み換えタンパク質のマイクロカプセル封入は、ヒト成長ホルモン(rhGH)、インターフェロン-(rhIFN-)、インターロイキン-2、及びMNrpg120を用いて成功裏に行った。Johnson等, Nat. Med. 2: 795-799 (1996);Yasuda等, Biomed. Ther. 27: 1221-1223 (1993);Hora等, Bio/Technology 8: 755-758 (1990);Cleland, 「Design and Production of Single Immunization Vaccines Using Polylactide Polyglycolide Microsphere Systems」, in Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach, Powell及びNewman,編, (Plenum Press: New York, 1995), pp. 439-462;WO 97/03692;WO 96/40072;WO 96/07399;及び米国特許第5,654,010号。
【0098】
これらのタンパク質の持続放出製剤は、ポリ-乳酸-コグリコール酸(PLGA)ポリマーを用い、その生体適合性及び広範囲の生分解特性に基づいて開発された。PLGAの分解生成物である乳酸及びグリコール酸は、ヒト身体内で即座にクリアされる。さらに、このポリマーの分解性は、分子量及び組成に依存して数ヶ月から数年まで調節できる。Lewis, 「Controlled release of bioactive agents from lactide/glycolide polymer」: M. Chasin及び R. Langer (編), Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems (Marcel Dekker: New York, 1990), pp. 1-41。
エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸などのポリマーは分子を100日に渡って放出することができるが、ある種のヒドロゲルはより短時間でタンパク質を放出してしまう。カプセル化された抗体が身体内に長時間残ると、それらは37℃の水分に露出されることにより変性又は凝集し、その結果、生物学的活性の低下及び起こりうる免疫原性の変化をもたらす。合理的な方法は、含まれる機構に依存する安定化について工夫することができる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換を通した分子間S−S結合形成であると発見された場合、安定化はスルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含有量の制御、適切な添加剤の付加、及び特異的ポリマーマトリクス組成物の開発によって達成されうる。
【0099】
また、リポソーム又はプロテイノイド組成物もここで開示したタンパク質又は抗体を製剤化するのに用いてもよい。米国特許第4,925,673号及び同第5,013,556号を参照。
ここで開示したタンパク質及び抗体の安定性は、非毒性の「水溶性多価金属塩」の使用により亢進されるであろう。例として、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Sn2+、Sn4+、Al2+、及びAl3+が含まれる。上記多価金属陽イオンと共に水溶性塩を形成する陰イオンの例には、無機酸及び/又は有機酸によって形成されるものが含まれる。このような水溶性塩は水(20℃)に少なくとも20mg/ml、或いは100mg/ml、或いは200mg/mlの溶解度を持つ。
【0100】
「水溶性多価金属塩」を形成するのに使用可能な好適な無機酸には、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸、チオシアン酸及びリン酸が含まれる。使用可能な好適な有機酸には、脂肪族カルボン酸及び芳香族の酸が含まれる。この定義の範囲内の脂肪族の酸は、飽和又は不飽和C2−9カルボン酸(例えば、脂肪族モノ-、ジ-及びトリ-カルボン酸)と定義してよい。例として、この定義の範囲内の例示的モノカルボン酸には、飽和C2−9モノカルボン酢酸(monocarboxylic acids acetic)、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリルペラルゴン酸及びカプリオニック(capryonic)酸、及び不飽和C2−9モノカルボン酸アクリル(monocarboxylic acids acrylic)、プロピオン酸、メタクリル酸、クロトン酸及びイソクロトン酸が含まれる。例示的ジカルボン酸には、飽和C2−9ジカルボン酸マロン(dicarboxylic acids malonic)、コハク酸、グルタル酸、脂肪酸及びピメリン酸が含まれ、一方、不飽和C2−9ジカルボン酸にはマレイン酸、フマル酸、シトラコニック(citraconic)酸及びメサコン酸が含まれる。例示的トリカルボン酸には、不飽和C2−9トリカルボン酸トリカルバリル酸及び1,2,3-ブタネトリカルボキシル酸が含まれる。更にまた、この定義のカルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸を形成するように一又は二の水酸基を持つ。例示的ヒドロキシカルボン酸には、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸が含まれる。この定義の範囲内の芳香族の酸は、安息香酸性及びサリチル酸酸を含む。
【0101】
本発明のカプセル化ポリペプチドを安定化を亢進するために使用可能な一般的に用いられる水溶性多価金属塩には、例として:(1)ハロゲン化物(例えば塩化亜鉛、塩化カルシウム)、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩及びチオシアン酸塩の無機酸性金属塩類;(2)脂肪族カルボン酸金属塩(例えば酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、カルシウムプロピオン酸、亜鉛グリコール酸塩、カルシウム乳酸塩、亜鉛乳酸塩及び亜鉛酒石酸塩);及び(3)ベンゾアートの芳香族のカルボン酸金属塩(例えば亜鉛ベンゾアート)及びサリチル酸塩が含まれる。
【0102】
E.治療方法
疾患の予防又は治療のために、活性剤の適量は、上記のように治療する疾患のタイプ、疾患の重症度及び過程、予防を目的としてか治療を目的として薬剤を投与するのか、現在の治療法、患者の病歴、及び薬剤への反応、注意深い医師の判断により決定されるであろう。一時又は一連の治療を通じて患者に薬剤を好適に投与する。
好ましい治療方法は、IgE媒介疾患の治療である。IgE媒介疾患にはアトピー性疾患が含まれ、アトピー性疾患は多くの共通の天然に生じる吸入性及び経口摂取性の抗原と連続的に産生されるIgE抗体に対して免疫学的応答を遺伝的に起こすことに特徴がある。特定のアトピー性疾患には、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎及びアレルギー性胃腸疾患が含まれる。アトピー患者はたびたび複数のアレルギーをもつ、これは、花粉、真菌(例えば、カビ)、動物及び虫の死骸、とある種の食物に対するIgE抗体とそれによる症状を有することを意味する。
しかしながら、亢進したIgEレベルに関する疾患は遺伝的(アトピー性)の原因のものに限らない。IgE媒介性のようであり、本発明の製剤によって治療可能である亢進したIgEレベルに関する他の疾患には、過敏症(例えば、アナフィラキシー性過敏症)、湿疹、蕁麻疹、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、寄生虫病、高IgE症候群、毛細血管拡張性運動失調、ウィスコット-アルドリッヒ症候群、胸腺リンパ形成不全症、IgE骨髄腫及び対宿主性移植片反応が含まれる。
【0103】
アレルギー性鼻炎;アレルギー性鼻結膜炎又は枯草熱としても知られる、は、吸入性のアレルゲンに対する最も一般的なアトピー反応の症状であり、その重症度や持続期間はたびたびアレルゲンへの曝露の強度および長さに相関する。何歳でも発症しうるが、通常は小児期又は青年期に発症する慢性疾患である。典型的な発作は、おびただしい水性鼻漏、発作的なくしゃみ、鼻閉塞及び鼻と口蓋の痒みからなる。また、後鼻腔の粘液排出により咽頭炎、咽頭痰及び咳が起こる。また、結膜及び眼瞼の強い痒み、赤み、流涙及び羞明を伴うアレルギー性眼瞼結膜炎の症状もある。重症発作ではたびたび、全身性不快感、脱力感、疲労、時には激しいくしゃみの連続後の筋肉苦痛を伴う。
【0104】
喘息;可逆的閉塞性気道疾患としても知られる、は、可逆的に自然発症するまたは治療が必要な呼吸器刺激及び気管支収縮剤化学物質に対する気道の過剰反応、喘鳴発作の発起、呼吸困難、胸部圧迫、及び咳に特徴付けられる。気道全体を含む慢性疾患であるが、時々の軽い一過性の発症から重い慢性の生命を脅かす気道閉塞まで重症度は様々である。喘息とアトピーは共存し、喘息患者の半分ほどはアトピーを持ち、さらに少ない割合のアトピー患者もまた喘息を持つ。アトピーと喘息は完全に非依存性のものであるが、特に小児期の間に、非アトピー性患者よりもアトピー患者により頻繁に喘息が起こる。さらに喘息は歴史的に2つのサブグループ、外因性喘息と内因性喘息に分けられている。
アレルギー性、アトピー性または免疫性喘息としても知られる外因性喘息は、通常、乳児期又は小児期の人生の初期に普遍的に喘息になった患者を指す。湿疹又はアレルギー性鼻炎を含むアトピーの他の症状は、たびたび共存する。喘息発作は、花粉の季節、動物の存在、ハウスダスト、羽毛枕又は他のアレルゲンへの曝露によって起こる。皮膚検査は原因となるアレルゲンに対して陽性の膨疹・発赤反応を示す。興味深いことに、全血清中のIgE濃度はしばしば上昇するが時に正常である。
【0105】
非アレルギー性又は特発性喘息として知られる内因性喘息は、一般的には成人期の呼吸器感染症後又は顕性時期に最初に発症する。症状は、花粉の季節又は他のアレルゲンへの曝露に関係のない慢性又は再発性気管支閉塞を含む。皮膚検査では通常のアトピー性アレルゲンに陰性であり、血清中のIgE濃度は正常である。更なる症状には、痰血及び好酸球増加が含まれる。アスピリン感受性か、運動誘発性か、感染症か及び心理学的なものかなどの、喘息をサブグループに分類する他のスキームは、他の患者よりもある特定の患者に影響する外因性のトリガー因子を単に規定する。
最後に、重要なことには、歴史的に関連したIgE依存性のアレルギー性喘息のみを分類したものがあるが、現在では、IgEと喘息(アレルギー性及び非アレルギー性の両方)に相関関係を示す統計学的に有意なデータがあることを注記する。Chapter 27, 「The Atopic Diseases」, A.I. Terr in Medical Immunology, 9th Ed., Simon and Schuster, Stites等, 編集. (1997)。結果として、この明細書の目的としての「IgE媒介疾患」の用語はアレルギー性及び非アレルギー性喘息の両方を含む。
【0106】
喘息発作の身体的特徴には、呼吸促迫、聞こえる程度の喘鳴、及び呼吸の付属筋の使用が含まれる。また、速い脈拍と上昇した血圧が一般的にあり、末梢血及び鼻腔内分泌物中の好酸球レベルの上昇がある。肺機能では、流量及び1秒強制呼気量(FEV)の減少がみられる。全肺気量及び余剰肺気量は一般的に正常またはわずかに増加しているが、極度の気管支痙攣により減少しうる。
喘息の病理は即時型反応と遅発型反応に分けられる。即時型反応は、平滑筋収縮、浮腫及び分泌過多に特徴があり、一方後期反応は細胞性炎症に特徴がある。喘息は、感染症(例として、ウイルス性呼吸器感染症)、物理学的要因(例として、運動、過換気、深呼吸、心理的要因)、大気要因(例えば二酸化硫黄、アンモニア、冷気、オゾン、蒸留された水蒸気)、経口抗原(例えばプロプラノロール、アスピリン、非ステロイド性の抗炎症剤)、経験的吸入抗原(例えば高緊張の溶液、クエン酸、ヒスタミン、メタコリン、プロスタグランジンF2α)及び職業吸入抗原(例えばイソシアン酸塩)により引き起こされる。アレルギー性喘息の原因となる様々な更なる職業的または環境的アレルゲンには、動物産生物、昆虫粉塵、海生物、植物性製品、果物、種、葉及び花粉、有機染料及びインク、微生物薬品、酵素、治療薬、滅菌剤、無機及び有機化学製品が含まれる。
【0107】
湿疹、神経皮膚炎、アトピー性湿疹または Besnier’s 痒疹としても知られているアトピー性皮膚炎は、アトピーの家族性及び免疫性特徴をもつ患者のサブセットに特異的な一般的な慢性皮膚疾患である。基本的な特徴は掻痒性真皮炎症性反応であり、それは特定の部位に対する偏向を有する左右対称的に分布した特徴的な皮膚の発疹を誘発する。また、高頻度にBリンパ球からのIgE過剰産生がある。アトピー性皮膚炎はアレルギー性鼻炎及び喘息及び高IgEレベルが関与するのでアトピーの皮膚型として分類されるが、皮膚炎の重症度は必ずしも皮膚試験時のアレルゲンへの曝露に相関はしておらず、減感作(他のアレルギー疾患と異なって)は効果的な治療方法ではない。高血清IgEにより確実にアレルギー性喘息が診断され、正常値ではそれが除外される。疾患の発症はいつの年代でも起こり、病変は急性の紅斑性浮腫性丘疹又は鱗屑を有するプラークから始まる。かゆみにより滲出及び痂皮を生じて、慢性苔蘚化に至る。細胞レベルでは、急性病変は浮腫性であり、真皮に単核細胞であるCD4リンパ球が浸潤している。好中球、好酸球、血漿細胞及び好塩基球はまれであるが、脱顆粒性肥満細胞は存在する。慢性病変は表皮過形成、角質増殖及び不全角化症を特徴とし、真皮には単核細胞、Langerhans’細胞及びマスト細胞が浸潤する。また、小型神経の神経周膜の関係を含む線維症の病巣領域がありうる。
【0108】
好酸性胃腸疾患としても知られるアレルギー性胃腸疾患は、多数のIgE食物感受性が局所の消化管粘膜反応と関係している異常なアトピー性症状である。成人ではまれであり、乳児ではより一般的で一時的である。症状は摂取された食物アレルゲンが空腸粘膜の局所性IgE抗体に反応して、マスト細胞伝達物質を解放するときに起こり、結果として食事の直後に胃腸症状となる。継続して曝露すると慢性的な炎症となり、結果として胃腸タンパク質損失及び低タンパク質性の(hypoproteinemic)浮腫になった。炎症性腸粘膜からの失血により、十分鉄欠乏症貧血症を引き起こしうる。アレルギー反応は、アレルゲン曝露後に上部消化管粘膜に局所的に起こり、アレルゲン回避により回復する。
アナフィラキシー及び蕁麻疹は明らかにIgE媒介性であるが、一般的な決定因子に欠け、アトピー性個体に偏向性はない。アナフィラキシーは急性で、さまざまな器官系、通常は心血管、呼吸器、皮膚及び胃腸が同時に関与する一般的なアレルギー反応である。反応は免疫学的な媒介であり、既に感作を受けている個体がアレルゲンに曝露すると起こる。蕁麻疹及び血管浮腫は、ヒスタミンが表在性皮膚血管上のレセプターを刺激した結果生じる物理的なはれあがり、紅斑及び掻痒感を指し、全身性アナフィラキシーの皮膚特徴である。全身性アナフィラキシーは、薬、昆虫毒物または食物から生じる、多数の器官に同時に起こるIgE-媒介反応である。それは急に、誘導されたアレルゲン、IgEを持つ肥満細胞によって生じ、さまざまな重要な器官の機能が深く致命的に変更される。必ずしも同じ程度とは限らないが、血管虚脱、急性気道閉塞、皮膚血管拡張及び浮腫、及び胃腸と尿生殖器の筋けいれんがほぼ同時に起こる。
【0109】
アナフィラキシーの病理は、気道及び局所性の肺拡張不全の粘液性のつまりを伴う、血管浮腫及び高度に膨張した肺を含む。細胞レベルでは、気管支の粘膜下腺の分泌過多、粘膜及び粘膜下浮腫、気管支周囲の脈管うっ血、及び、気管支の壁の好酸球増加が、急性喘息発作中などに、同様に肺に現れる。肺水腫及び出血はありうる。気管支筋けいれん、高度膨張及びさらに肺胞の断裂もまた、起こりうる。ヒトアナフィラキシーの重要な特徴には、喉頭、気管、喉頭蓋及び下咽頭の基底膜の浮腫、脈管うっ血及び好酸球増加が含まれる。
アレルゲンへの曝露は、摂取、注射、吸入、又は皮膚または粘膜への接触を介するものでもよい。反応は、アレルゲンへの曝露の後、数秒または数分以内で始まる。初めにショック又は差し迫った死の感覚があり、その後に急速に一つ以上の標的器官系の症状が続く:心血管、呼吸器、皮膚及び胃腸。
アナフィラキシーに寄与するアレルゲンは、一般的にアトピーに関与するものとは異なる。食物、薬物、昆虫毒物又はゴム製品が一般的原因である。食物アレルゲンには、甲殻類、軟体動物(例えばロブスタ、エビ、カニ)、魚、マメ科植物(例えばピーナッツ、エンドウ、豆、甘草)、種(例えばゴマ、綿実、キャラウェー、マスター、フラックスシード、ヒマワリ)、ナッツ、ベリー、卵白、ソバ及び牛乳の中にあるものが含まれる。薬物アレルゲンは、異種タンパク質及びポリペプチド、つまり多糖類及びハプテン薬の中にあるものを含む。昆虫アレルゲンは、ミツバチ、スズメバチ(yellow jacket, hornet, wasp)及びフシアリを含む膜翅目昆虫を含む。
エピネフリンがアナフィラキシーのための代表的な処置である一方、抗ヒスタミン剤または他のヒスタミン遮断剤は一般的により重症でない蕁麻疹又は血管性浮腫反応に処方される。
【0110】
F.併用療法
本発明の方法は、IgE媒介疾患の公知の処置方法、すなわち併用又は追加的処置工程としてか、治療用製剤の追加的成分としての何れかで併用できる。
例えば、抗ヒスタミン、特に非鎮痛性抗ヒスタミンを、本発明の抗IgE抗体と同時、先立って又は投与前に投与してもよい。好適な抗ヒスタミン剤には、アルキルアミン(例えば、クロルフェニラミン)、エタノールアミン(例えば、ジフェンヒドラミン)及びフェノチアジン(例えば、プロメタジン)が含まれる。多くの抗ヒスタミンはエフェクター細胞上にあるレセプター部位を遮断することによってヒスタミンの薬理学的効果に拮抗するが、他の一般的な抗ヒスタミン剤は、感作を受けてアレルゲン特異的IgE(例えば、クロモグリク酸ナトリウム)を備えている肥満細胞からのヒスタミン放出を遮断することによって作用する。抗ヒスタミン剤の例には、アステミゾール、アザタジンマレイン酸塩、ブロフェニラミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、塩酸セチリジン、クレマスチンフマル酸塩、シプロヘプタジン塩酸塩、d-マレイン酸ブロムフェニラミン、d-マレイン酸クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、塩酸ジフェンヒドラミン、ドキシラミン琥珀酸塩、塩酸フェクソフェナジン、塩酸テルフェナジン、塩酸ヒドロキシジン、ロラチジン(loratidine)、塩酸メクリジン、クエン酸トリペレナミン、塩酸トリペレナミン、塩酸トリプロリジンが含まれる。
【0111】
IgE媒介疾患の特徴的な症状(例えば、即時型反応)は、交感神経模倣薬又は気管支拡張効果を持つ薬剤により寛解することができる。エピネフリンは広範作用性α及びβアドレナリン性であり、しばしば1:100の水溶液0.2−0.5mlの用量で皮下的に投与する。また、長時間の持続効果が望まれるときは、1:200で混合している長時間作働性エピネフリン(すなわち、テルブタリン)を用いる。適切な付加的なβ-アドレナリン作動性物質には、経鼻投与(例えば、携帯ネビュライザ、断続的な陽圧呼吸装置または単位用量加圧吸入器)又は経口投与のためのアルブテロール、ピルブテロール、メタプロテレノール、サルメテロール、イソエタリン及びフォルモテロールが含まれる。
また、特にそれらが上記の交感神経作動性薬物と組み合わせて投与されるときに、キサンチンの投与によって気管支拡張症が起こりうる。キサンチンの例には、アミノフィリン(静注、250−500mg)及びテオフィリン(経口、10−20μg/mlの血清濃度)が含まれる。
多様なIgE媒介疾患(例えば遅発型反応)による他の症状は、糖質コルチコイド又は抗炎症性効果を有する他の薬物による処置によって軽減することができる。ベクロメタゾン二プロピオン酸塩、トリアムシノロンアセトニド及びフルニソリドは長期の維持療法としてエアロゾル化した形で投与するが、プレドニゾン(30−60mg毎日)は重症発作のために全身的に投与する。更に、抗炎症性効果を有する副腎皮質ステロイドは、以下から成る:ベタメタゾン、ブデソニド、デキサメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、フルニソリド、フルチカゾン(fluticasone)プロピオン酸塩、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン。
【0112】
また、本発明の治療法と組み合わせて用いることができる非ステロイド性の抗炎症剤には、アセトアミノフェン、アスピリン、ブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェンカルシウム、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナム酸ナトリウム、メフェナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン(phenylbutzone)、ピロキシカム、スリンダク、トルメチンナトリウムが含まれる。
さらにまた、最大の治療的効果は、鬱血除去薬(例えばフェニレフリン、フェニルプロパノラミン、シュードエファドリン(pseudoephadrin))、咳抑制剤(例えばデキストロメトルファン、コデインまたはヒドロコドン)または鎮痛薬(例えばアセトアミノフェン、アスピリン)の投与によって達成されることができる。
アレルゲン脱感作は、アレルギー反応を減弱又は排除することを目的として患者にアレルゲンを注入する治療方法である。それは、また、アレルゲン免疫治療、減感作又はアレルギー注入治療として知られている。頻繁ではないが、一次処置として、他のアレルギー処置と組み合わせてしばしば用いられる。アレルゲン回避が不可能なときに、成功裏に行われている。代表的なアレルゲン脱感作処置は、注射部位に一過性の小さくて局所性の炎症領域ができるまで、服用回数を週に一回又は2回に増やして無菌のアレルゲンを皮下注射することを含む。そうして2−4週に一度のスケジュールで服用する。アレルギー性脱感作は、アナフィラキシーの治療にも成功するが、多くの場合アレルギー性喘息及びアレルギー性鼻炎の処置において用いられる。また、脱感作は、アジュバント、例えば、鉱油の水性抗原のエマルジョンである不完全なフロイントアジュバント、の使用によって効果的に用いられる。生理的効果により、アレルゲンの液滴が段階的に放出される不溶性の液貯蔵所が作られる。アレルゲン脱感作の他の形は、免疫原性の効果的程度を保持する一方で比較的低いアレルギー性(すなわち、アレルギー性反応を引き起こす)を有する分子をつくるためにグルタルアルデヒドを有する単量体アレルゲンを重合させることである。
【0113】
G.薬剤用量:
本発明の医薬品組成物の用量及び所望の薬物濃度は、想定する特定の使用によって変化する。適当な用量の測定または投与のルートは、当分野の技術の範囲内でよい。動物実験は、ヒト治療のための有効量の決定のための確実な手引きとなる。有効量の異種間スケーリングは、Mordenti, J. 及び Chappell, W. 「The Use of Interspecies Scaling in Toxicokinetics」, In Toxicokinetics and New Drug Development, Yacobi 等, 編集, Pergamon Press, New York 1989, pp.42-46.に記載の原理に従って行うことができる。
本願明細書において記載されているポリペプチドまたは抗体のインビボ投与が用いられるとき、正常な用量は投与のルートによって、哺乳動物体重量にして1日当たり約10ng/kg〜約100mg/kg以下又はそれより多く、好ましくは約1mg/kg/日〜10mg/kg/日と異なる。特定の用量及び運搬の方法に関する手引きは、文献に示される;例として、米国特許第4,657,760号;5,206,344;又は5,225,212を参照。異なる製剤が異なる処置及び異なる疾患のために効果的であること、及び特定の器官または組織を治療することを目的とする投与は他の器官または組織への投与と異なる方法で運搬する必要があることは本発明の範囲内である。さらに、用量は、一つ以上の別々の投与によって、又は持続性点滴によって投与することができる。数日以上にわたる繰り返し投与の処置は、症状に応じて、疾患症状が希望通りに抑制されるまで継続する。しかしながら、他の投与計画は有効でありうる。この治療の進行は、従来技術及びアッセイにより容易にモニターされる。
【0114】
H.製剤の投与
限定はしないが、再構成される製剤を含む本発明の製剤は、タンパク質による治療を必要としている哺乳動物、好ましくはヒト、に対して、ボーラス又はある期間にわたる連続的注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、腱鞘内、口内、局部的又は吸入経路による既知の方法に従い投与される。
好ましい実施態様において、製剤は皮下(すなわち、皮膚の下)投与によって哺乳動物に投与される。かかる目的のため、製剤はシリンジを用いて注射される。しかし、製剤の投与のための他の装置、例えば、注射装置(例えば、Inject-easeTM及びGenjectTM装置);インジェクターペン(GenPenTMなど);自動インジェクター装置、針なし装置(例えば、MediJectorTM及びBioJectorTM);及び皮下パッチ送達システムなどが利用可能である。
特定の実施態様では、本発明は、単回用量投与単位のキットに関する。そのようなキットには、単一又は複数のチャンバーを有するあらかじめ充填したシリンジを包含する、治療用タンパク質又は抗体の液体製剤の容器を含む。あらかじめ充填したシリンジの例には、Vetter GmbH, Ravensburg, Germanyから入手したものがある。
【0115】
タンパク質の適当な投与量(「治療上有効量」)は、例えば、治療される状態、該タンパク質が予防的又は治療的目的で投与される状態の重篤性及び経過、治療歴、患者の病歴及び該タンパク質に対する反応性、使用されるタンパク質のタイプ、主治医の判断に依存するであろう。タンパク質は、一時期に又は一連の治療にわたり適切に投与され、その後の診断による任意の時期に患者に投与される。タンパク質は、単一の治療として又は他の薬物又は問題の状態を治療するのに有用な療法と併せて投与してもよい。
選択されるタンパク質が抗体の場合、例えば、一回又は複数回に分けての投与のいずれであっても、患者への投与に関する初回の推奨される投与量は、約0.1−20mg/kgである。しかし、他の投与計画が有効な場合もある。本治療の進捗は、従来の技術によって容易にモニターすることができる。
抗IgE製剤(例えば、rhuMAbE−25、rhMAbE−26、Hu−901)の使用には、例えば、IgEを介したアレルギー性疾患、寄生虫感染、間質性膀胱炎及び喘息の治療又は予防法が含まれる。治療されるべき疾病又は疾患に依存して、抗IgE抗体の治療上有効量(例えば、約1−15mg/kg)が患者へ投与される。
【0116】
I.製造品
本発明の他の実施態様では、製剤を含有する製造品が提供され、好ましくはその使用のための説明書を提供する。製造品は容器を含む。適切な容器には、例えばボトル、バイアル(例えば、二重チャンバーバイアル)、シリンジ(二重チャンバーシリンジなど)、及び試験管が含まれる。容器はガラス又はプラスチックのような様々な材料で形成することができる。容器は製剤及び該容器の上又は該容器に付随したラベルを保持し、再構成及び/又は使用のための指示を表示する。さらに、該ラベルは製剤が皮下投与にとって有用であること、又は意図されることを表示する。製剤を収容する容器は、多目的使用バイアルであってもよく、再構成された製剤の繰り返し(例えば、2−6投与)投与を可能ならしめる。さらに、製造品は適切な希釈液(例えば、BWFI)を含む第二の容器を包含してもよい。希釈液と凍結乾燥製剤を混合すると、再構成された製剤中の最終タンパク質濃度は、通常、少なくとも50mg/mlになるであろう。さらに、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用説明に関する添付文書を含む、市販及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでいてもよい。
本発明は以下の実施例を参照することにより、さらに十分に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきものではない。本開示を通して全ての引例は、ここに出典により明確に取り込まれる。
他の実施態様では、本発明は、自動インジェクター装置での投与のためにここに記載の製剤を含む製造品を提供する。自動インジェクター装置は、作動すると患者又は投与する者の付加的必須の動作をすることなく内容物が運ばれる注射装置である。特に、投与量が一定で、投与回数が数回より多いときの、治療用製剤の自己投薬に適している。
【0117】
実施例1
抗IgErhuMAbE25(「E25」)製剤の調製
E25大量残渣Lot K9094A(40mg/ml rhuMAb E25、85mMトレハロース、5mMヒスチジン、pH6、0.01%トゥイーン20)又はrhuMAbE25 Q−Pool(5mg/ml rhuMAb E25、25mMトリス、200mM NaCl)から、モノクローナル抗−IgE抗体rhuMAb E25の製剤を調製した。
rhuMAbE25の水性溶液をSlide−A−Lyzer透析カセット(Pierce)を用いて2〜8℃の異なる緩衝液(20mM His−HCl及び200mM Arg−HCl,pH6.0)内へ透析することによって調製した。ついで試料をCentricon−30遠心小分子濃縮器(Amicon)の試料貯蔵所に移した。所望のタンパク質濃度に達するまで、4000−5000gのCentricon−3濃縮機にて回転することによってタンパク質を濃縮した。
そして、限外濾過法によりrhuMAb E25を150mg/mlまで試料を濃縮した。トゥイーン20を最終濃度0.02%になるように各調整物に添加した。すべての製剤を濾過し、無菌的に3ccのFormaVitrumバイアルに注入して、Class100room内の13−mM Diakyoストッパーで栓をした。
【0118】
実施例2
方法及び材料:
安定性研究:すべての製剤1mlを3ccのFormaVitrumガラスバイアルに注ぎ、Class 100滅菌充填組み(sterile filling suite)内の13−mm Diakyoストッパーで栓をした。バイアルを−70、2−8、15、30及び40℃の光不透過性の容器に置いた。
攪拌研究:各製剤の溶液をガラスバイアルに入れた。バイアルをGlas-Col Bench Top 攪拌器上で室温で水平方向に攪拌した。攪拌器は指端長さ30cmで70(最大値)に設定した。攪拌後、以下のプロトコールに従って試料を検査及び分析した。
凍結−解凍研究:E25の試料の凍結−解凍を3サイクル行った。各サイクルは、−70℃で一昼夜の凍結とその後の室温でおよそ1時間の解凍からなる。各サイクルの後に、ライトボックスにより試料を視覚的に検査し、溶液の色と透明性を評価した。濁度及び溶液凝集を以下に記載のプロトコールによって測定した。
分析方法:表1に概要を述べた方法によって安定性試料を分析した。
【0119】
表1:分析方法

【0120】
色、外観及び透明性のパス:
試料の色、外観及び透明性は、検査の白と黒の背景に対して等量のネガティブ対照と比較して視覚的に評価した。試料を気泡を生じないように優しく慎重に旋回して均一に混合した。
サイズ排斥クロマトグラフィー:
HP1100クロマトグラフィーシステムにおいてTSK SUPER SW3000(4.6×300mm)カラムを用いた。カラムにタンパク質20μgを流し、0.1Mリン酸カリウム、pH6.8で溶出した。UV検出器にて280nmのときの試料を測定した。
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC):
HP1100液体クロマトグラフィーシステムにおいてTSK Phenyl−5PW(7.5×75mm)カラム(TosoHaas)を用いてHIC実験を行った。カラムにパパイン消化したFabフラグメント28μgを流し、2Mから0Mまで段階的に濃度を変えた硫酸アンモニウムを含む20mMトリス緩衝液で溶出した。UV検出器にて210nmのときのピークをモニターした。
【0121】
濁度:
HP分光計において1cm光路長キュベットで試料の濁度を測定した。濁度は340−360nmでの平均吸光度として算出される。
レセプター結合阻害アッセイにより抗IgEモノクローナル抗体の活性を測定した。試料を、100からのスタンダードカーブに範囲内に収まるように、リン酸緩衝液、0.5%BSA、0.05%ポリソルベート20、0.01%チメロゾールを含むアッセイ用希釈液中に1.56μg/mlに希釈した。マイクロタイタープレートをIgEレセプターでコーティングし、ついでIgE-ビオチン及び希釈した抗IgE試料と共にインキュベートした。抗IgEモノクローナル抗体の活性に相関するIgE-ビオチンのレセプター結合量はストレプトアビジンHRPを用いて測定した。データは4-パラメータロジスティックカーブフィッティングプログラムを用いて解析した。
Hewlett Packard 8453ダイオードアレイ分光光度計において四角い1−cmキュベットを用いて抗体の濃度を測定した。濃度は吸光係数1.5cm−1(mg/ml).−1を用いて算出した。
【0122】
液体製剤の概要

150mg/mlのE25を含むヒスチジン及びArgHCl製剤の安定性データ

【0123】
80mg/mlのE25を含むヒスチジン及びトレハロース製剤の安定性データ

a.可溶性凝集塊及びフラグメントを測定するためのサイズ排斥クロマトグラフィー
b.パパイン消化したE25の疎水性相互作用クロマトグラフィー
c.IgEレセプター結合阻害アッセイ
d.平均値OD(340−360nm)
【0124】
攪拌研究

製剤1:156mg/ml E25、200mM ArgCl、23mM His、0.02% T20
製剤2:150mg/ml E25、182mM ArgCl、20mM His、0.02% T20
【0125】
凍結解凍研究

製剤1:156mg/ml E25、200mM ArgCl、23mM His、0.02% T20
製剤2:150mg/ml E25、182mM ArgCl、20mM His、0.02% T20
【0126】
実施例3
抗IgEモノクローナル抗体抗体(E26)液体製剤の試料を20mM緩衝液にて調整して、ついで30℃及び40℃で保存した。クロマトグラフィ及び活性測定法によりE26の安定性を判定した。可溶性擬集塊の定量にはサイズ除去クロマトグラフィを、異性化の測定にはペプシン消化した試料の疎水性相互作用クロマトグラフィを用いた。IgEレセプター結合阻害アッセイを用いて試料の活性をモニターした。図1、2及び3に示すように、E26の分解は緩衝液のpHに大きく依存している。E26はおよそpH6.0で最も安定するようである。
【0127】
実施例4
通常、ストレスを与えた条件下でタンパク質濃度上昇に伴って粒子形成が増加するので、粒子形成は高濃度の液体製剤を生成するための主な仮題である。図4に濃縮したE26液体製剤の凝集研究の結果を示す。製剤は異なる濃度のポリソルベート20とともに20mMコハク酸塩、192mMトレハロース、pH6.0で調整した。濁度測定によって粒子製剤をモニターした。E26溶液の濁度は攪拌時間に伴って増加するという結果を示す。ストレスを与えた条件下で粒子形成を減少させるには少なくとも0.01%のポリソルベートの添加が必要である。また、濃縮したE25液体製剤についても同様な結果が観察された。
【0128】
実施例5
図5に、凍結乾燥したE25の再構成により調整した150mg/mlのE25液体製剤を示す。塩濃度を挙げると可逆的な粒子の形成が阻害され、濁度リーディングが減少する。試験した全ての塩の中で、Arg−HClを含む製剤が最少濁度である。また、濁度リーディングを低くする塩濃度の効果はTFF工程により調整したE25で観察された。
【0129】
実施例6
また、ArgHCl存在下でのE25液体製剤は他の液体製剤より安定性がよいようである。図6及び7に、ArgHCl、CaCl及びMgClを含む液体製剤中150mg/mlで含むE25の安定性研究を示す。ショ糖ありまたは無しでArgHClを含む液体製剤について、濁度、異性化及び断片化の項目の安定性にはほとんど違いが無い。ArgHClを含む液体製剤はMgCl及びCaClを含む製剤より安定している。
【0130】
実施例7
図8に、酢酸塩及びヒスチジン製剤を用いたE25液体製剤の安定性研究の結果を示す。ヒスチジンを用いた製剤は酢酸塩製剤よりもよりpHが高い。明らかにヒスチジン、ArgHCl中のE25液体製剤は他の条件下のものよりもより安定していることが示された。
【0131】
実施例8
高濃度のE25を特定のイオン、クエン酸塩、コハク酸塩、及び硫酸塩(表1)などの存在下、特に2〜8℃の保存温度で固形ゲルに形成する。賦形剤としてアルギニン−HClを用いると、ゲル又は沈殿物の形成なしで200mg/ml以上に至るまでにE25を生成することができる。
【0132】
表1:125 mg/ml、pH6.0以下でのE25のゲル化に対する様々な賦形剤の効果

【0133】
実施例9:大腸菌中でのタンパク質又は抗体の発現
この実施例は、大腸菌中での組換え発現による所望のタンパク質又は抗体の非グリコシル化形態の調製を例証する。
所望のタンパク質又は抗体をコードするDNA配列は、選択されたPCRプライマーを用いて最初に増幅した。プライマーは、選択された発現ベクターの制限酵素部位に対応する制限酵素部位を持たなければならない。種々の発現ベクターが用いられる。好適なベクターの例は、pBR322(大腸菌由来のもの;Bolivar等, Gene, 2:95 (1977)参照)であり、アンピシリン及びテトラサイクリン耐性についての遺伝子を含む。ベクターは、制限酵素で消化され、脱リン酸化される。PCR増幅した配列は、次いで、ベクターに結合させる。ベクターは、好ましくは抗生物質耐性遺伝子、trpプロモーター、ポリ-Hisリーダー(最初の6つのSTIIコドン、ポリ-His配列、及びエンテロキナーゼ切断部位を含む)、所望のタンパク質又は抗体をコードする領域、ラムダ転写ターミネーター、及びargU遺伝子を含む。更に、ベクターは所望のタンパク質又は抗体をコードする天然配列の核酸の5’及び3’非翻訳領域の少なくとも重要な部分を含む。
ライゲーション混合物は、ついで、上掲のSambrook等に記載された方法を用いて選択した大腸菌の形質転換に使用される。形質転換体は、それらのLBプレートで成長する能力により同定され、次いで抗生物質耐性クローンが選択される。プラスミドDNAが単離され、制限分析及びDNA配列で確認される。
【0134】
選択されたクローンは、抗生物質を添加したLBブロスなどの液体培地で終夜成長させることができる。終夜培地は、続いて大規模培地の播種に用いられる。次に細胞を所望の光学密度まで成長させ、その間に発現プロモーターが作動する。
さらに数時間の細胞培養の後、遠心分離による集菌が可能である。遠心分離で得られた細胞ペレットは、この分野で知られた種々の試薬を用いて可溶化され、次いで可溶化された所望のタンパク質又は抗体を、タンパク質が堅く結合する条件下で金属キレート化カラムを用いて精製した。
以下の手法を用いて、ポリ-His(ポリ-ヒス)タグ形態で所望のタンパク質又は抗体を大腸菌で発現させてもよい。所望のタンパク質又は抗体をコードするDNAを選択したPCRプライマーを用いて最初に増幅した。プライマーは、選択された発現ベクターの制限酵素部位に対応する制限酵素部位、及び効率的で信頼性のある翻訳開始、金属キレートカラムでの迅速な精製、及びエンテロキナーゼでのタンパク質分解的除去を与える他の有用な配列を含む。次いでPCR増幅された、ポリ-Hisタグ配列を発現ベクターに結合させ、それを株52(W3110 fuhA(tonA) lon galE rpoHts(htpRts) clpP(lacIq))に基づく大腸菌宿主の形質転換に使用した。形質転換体は、最初に50mg/mlのカルベニシリンを含有するLB中、30℃で振盪しながら3−5のO.D.600に達するまで成長させた。ついで培地をCRAP培地(3.57gの(NH)SO、0.71gのクエン酸ナトリウム・2H2O、1.07gのKCl、5.36gのDifco酵母抽出物、500mL水中の5.36gのShefield hycase SF、並びに110mMのMPOS、pH7.3、0.55%(w/v)のグルコース及び7mMのMgSOの混合で調製)中に50−100倍希釈し、30℃で振盪させながら約20−30時間成長させた。試料を取り出してSDS-PAGE分析により発現を確認し、バルク培地を遠心分離して細胞のペレットとした。細胞ペレットを精製及びリフォールディングまで凍結させた。
【0135】
0.5から1Lの発酵(6−10gペレット)からの大腸菌ペーストを、7Mのグアニジン、20mMのトリス、pH8バッファー中で10容量(w/v)で再懸濁させた。固体硫酸ナトリウム及びテトラチオン酸ナトリウムを添加して最終濃度を各々0.1M及び0.02Mとし、溶液を4℃で終夜撹拌した。この工程により、すべてのシステイン残基が亜硫酸化によりブロックされた変性タンパク質がもたらされた。溶液をBeckman Ultracentrifuge中で40,000rpmで30分間濃縮した。上清を金属キレートカラムバッファー(6Mのグアニジン、20mMのトリス、pH7.4)の3−5容量で希釈し、0.22ミクロンフィルターを通して濾過して透明化した。透明化抽出物を、金属キレートカラムバッファーで平衡化させた5mlのQiagen Ni-NTA金属キレートカラムに充填した。カラムを50mMのイミダゾール(Calbiochem, Utrol grade)を含む添加バッファー、pH7.4で洗浄した。タンパク質を250mMのイミダゾールを含有するバッファーで溶離した。所望のタンパク質を含有する画分をプールし、4℃で保存した。タンパク質濃度は、そのアミノ酸配列に基づいて計算した吸光係数を用いて280nmにおけるその吸収により見積もった。
【0136】
試料を、20mMのトリス、pH8.6、0.3MのNaCl、2.5Mの尿素、5mMのシステイン、20mMのグリシン及び1mMのEDTAからなる新たに調製した再生バッファー中に徐々に希釈することによりタンパク質を再生(リフォールド)させた。リフォールディング容量は、最終的なタンパク質濃度が50〜100マイクログラム/mlとなるように選択した。リフォールディング溶液を4℃で12−36時間ゆっくり撹拌した。リフォールディング反応はTFAを最終濃度0.4%(約3のpH)で添加することにより停止させた。タンパク質をさらに精製する前に、溶液を0.22ミクロンフィルターを通して濾過し、アセトニトリルを最終濃度2−10%で添加した。再生したタンパク質を、Poros R1/H逆相カラムで、0.1%TFAの移動バッファーと10〜80%のアセトニトリル勾配での溶離を用いてクロマトグラフにかけた。A280吸収を持つ画分の一定分量をSDSポリアクリルアミドゲルで分析し、相同な再生タンパク質を含有する画分をプールした。一般的に、殆どの正しく再生したタンパク質種は、これらの種が最も緻密であり、その疎水性内面が逆相樹脂との相互作用から遮蔽されているので、アセトニトリルの最低濃度で溶離される。凝集した種は通常、より高いアセトニトリル濃度で溶離される。誤って再生したタンパク質を所望の形態から除くのに加えて、逆相工程は試料からエンドトキシンも除去する。
所望の折り畳みタンパク質又は抗体を含有する画分をプールし、弱い窒素流を溶液に向けながらアセトニトリルを除去した。透析又は調製バッファーで平衡化したG25Superfine(Pharmacia)樹脂でのゲル濾過及び滅菌濾過により、0.14Mの塩化ナトリウム及び4%のマンニトールを含む20mMのHepes、pH6.8にタンパク質を調製した。
【0137】
実施例10:哺乳動物細胞中でのタンパク質又は抗体の発現
この実施例は、哺乳動物細胞における組み換え発現による所望のタンパク質又は抗体の潜在的なグリコシル化形態の調製を例示する。
発現ベクターとしてpRK5(1989年3月15日発行のEP307247を参照のこと)を用いた。場合によっては、所望のタンパク質又は抗体をコードするDNAを選択した制限酵素を持つpRK5に結合させ、上掲のSambrook等に記載されたようなライゲーション方法を用いてかかるDNAを挿入させる。
一実施態様では、選択された宿主細胞は293細胞とすることができる。ヒト293細胞(ATCC CCL 1573)は、ウシ胎児血清及び場合によっては栄養成分及び/又は抗生物質を添加したDMEMなどの媒質中で組織培養プレートにおいて成長させて集密化した。約10μgのpRK5内に結合させた所望のタンパク質又は抗体をコードするDNAを、VA RNA遺伝子をコードする約1μgのDNAと混合し[Thimmappaya等, Cell, 31:543(1982)]、500μlの1mMトリス−HCl、0.1mMEDTA、0.227MCaClに溶解させた。この混合物に、500μlの50mM HEPES(pH7.35)、280mMのNaCl、1.5mMのNaPO4を滴下添加し、25℃で10分間沈殿物を形成させた。沈殿物を懸濁し、293細胞に加えて37℃で約4時間定着させた。培養培地を吸引し、2mlのPBS中20%グリセロールを30秒間添加した。293細胞は、次いで無血清培地で洗浄し、新鮮な培地を添加し、細胞を約5日間インキュベートした。
【0138】
形質移入の約24時間後、培養培地を除去し、培養培地(単独)又は200μCi/ml35S−システイン及び200μCi/ml35S−メチオニンを含む培養培地で置換した。12時間のインキュベーションの後、条件培地を回収し、スピンフィルターで濃縮し、15%SDSゲルに添加した。処理したゲルを乾燥させ、所望のタンパク質又は抗体の存在を現すとして選択された時間にわたってフィルムにさらした。形質転換した細胞を含む培地は、更なるインキュベーションを施し(無血清培地で)、培地を選択されたバイオアッセイで試験した。
これに換わる技術において、所望のタンパク質又は抗体は、Somparyrac等, Proc. Natl. Acad. Sci., 12:7575 (1981)に記載された硫酸デキストラン法を用いて293細胞に一過的に導入される。293細胞は、スピナーフラスコ内で最大密度まで成長させ、700μgのpRK5内に結合させた所望のタンパク質又は抗体をコードするDNAを添加する。細胞は、まずスピナーフラスコから遠心分離によって濃縮し、PBSで洗浄した。DNA−デキストラン沈殿物を細胞ペレット上で4時間インキュベートした。細胞を20%グリセロールで90秒間処理し、組織培養培地で洗浄し、組織培養培地、5μg/mlウシインシュリン及び0.1μg/mlウシトランスフェリンを含むスピナーフラスコに再度導入した。約4日後に、条件培地を遠心分離して濾過し、細胞及び細胞片を除去した。次いで発現されたTATを含む試料を濃縮し、透析及び/又はカラムクロマトグラフィー等の選択した方法によって精製した。
【0139】
他の実施態様では、所望のタンパク質又は抗体をCHO細胞で発現させることができる。pRK5内に結合させた所望のタンパク質又は抗体をコードするDNAは、CaPO又はDEAE−デキストランなどの公知の試薬を用いてCHO細胞に形質移入することができる。上記したように、細胞培地をインキュベートし、培地を培養培地(単独)又は35S-メチオニン等の放射性標識を含む培地に置換することができる。所望のタンパク質又は抗体の存在を判定した後、培養培地を無血清培地に置換してもよい。好ましくは、培地を約6日間インキュベートし、ついで条件培地を収集する。ついで、発現された所望のタンパク質又は抗体を含む培地を濃縮して、任意の選択した方法によって精製することができる。
また、所望のタンパク質又は抗体のエピトープタグ変異型は、宿主CHO細胞において発現させてもよい。pRK5内に結合させた所望のタンパク質又は抗体をコードするは、pRK5ベクターからサブクローニングした。サブクローン挿入物は、ついで、PCRを施してバキュロウイルス発現ベクター中のポリ-Hisタグ等の選択されたエピトープタグを持つ枠に融合できる。ポリ-Hisタグ所望のタンパク質又は抗体をコードしたDNA挿入物は、ついで、安定なクローンの選択のためのDHFR等の選択マーカーを含むSV40誘導ベクターにサブクローニングできる。最後に、CHO細胞をSV40誘導ベクターで(上記のように)形質移入した。発現を確認するために、上記のように標識化を行ってもよい。発現されたポリ-Hisタグ所望のタンパク質又は抗体を含む培養培地は、次いで濃縮し、Ni2+−キレートアフィニティクロマトグラフィー等の選択された方法により精製できる。
【0140】
また、所望のタンパク質又は抗体は、一過性発現法によって、CHO及び/又はCOS細胞中で、あるいは他の安定な発現法によってCHO細胞中で発現させることもできる。
CHO細胞における安定な発現は,以下の方法を用いて実施することが可能である。タンパク質を、各タンパク質の可溶形態のコード化配列(例えば、細胞外ドメイン)がヒンジ、CH2及びCH2ドメインを含むIgG1定常領域配列に融合したIgGコンストラクト(イムノアドヘシン)及び/又はポリ-Hisタグ形態として発現する。
PCR増幅に続いて、それぞれのDNAを、Ausubel等, Current Protocols of Molecular Biology, Unit 3.16, John Wiley and Sons (1997)に記載されたような標準的技術を用いてCHO発現ベクターにサブクローニングした。CHO発現ベクターは、対象とするDNAの5’及び3’に適合する制限部位を有し、cDNAの便利なシャトル化(Shuttling)ができるように作製される。ベクターは、Lucas等, Nucl. Acids Res. 24: 9, 1774-1779 (1996)に記載されたようにCHO細胞での発現を用い、対象とするcDNA及びジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)の発現の制御にSV40初期プロモーター/エンハンサーを用いる。DHFR発現は、形質移入に続くプラスミドの安定な維持のための選択を可能にする。
【0141】
所望のプラスミドDNAの12マイクログラムを、市販の形質移入試薬Superfect(登録商標)(Quiagen), Dosper(登録商標)及びFugene(登録商標)(Boehringer Mannheim)を用いいて約一千万のCHO細胞に導入した。細胞は、上掲のLucas等に記載されているように成長させた。約3×10−7細胞を、下記のような更なる成長及び生産のためにアンプル中で凍結させた。
プラスミドDNAを含むアンプルを水槽に配して解凍し、ボルテックスにより混合した。内容物を10mLの媒質を含む遠心管にピペットして、1000rpmで5分間遠心分離した。上清を吸引して細胞を10mLの選択培地(0.2μm濾過PS20、5%の0.2μm透析濾過ウシ胎児血清を添加)中に懸濁させた。次いで細胞を90mLの選択培地を含む100mlスピナーに分けた。1−2日後、細胞を150mLの選択成長培地を満たした250mLスピナーに移し、37℃でインキュベートした。さらに2−3日後、250mL、500mL及び2000mLのスピナーを3×10細胞/mLで播種した。細胞培地を遠心分離により新鮮培地に交換し、生産培地に再懸濁させた。任意の適切なCHO培地を用いてもよいが、実際には1992年6月16日に発行された米国特許第5122469号に記載された生産培地を使用した。3Lの生産スピナーを1.2×10細胞/mLで播種した。0日目に、細胞数とpHを測定した。1日目に、スピナーをサンプリングし、濾過空気での散布を実施した。2日目に、スピナーをサンプリングし、温度を33℃に変え、500g/Lのグルコース及び0.6mLの10%消泡剤(例えば35%ポリジメチルシロキサンエマルション、Dow Corning 365 Medical Grade Emulsion)の30mLとした。生産を通して、pHは7.2近傍に調節し維持した。10日後、又は生存率が70%を下回るまで、細胞培地を遠心分離で回収して0.22μmフィルターを通して濾過した。濾過物は、4℃で貯蔵するか、即座に精製用カラムに充填した。
【0142】
ポリ-Hisタグ作成物について、タンパク質はNi−NTAカラム(Qiagen)を用いて精製した。精製の前に、イミダゾールを条件培地に5mMの濃度まで添加した。条件培地を、0.3MのNaCl及び5mMイミダゾールを含む20mMのHepes、pH7.4バッファーで平衡化した6mlのNi−NTAカラムに4−5ml/分の流速で4℃においてポンプ供給した。充填後、カラムをさらに平衡バッファーで洗浄し、タンパク質を0.25Mイミダゾールを含む平衡バッファーで溶離した。高度に精製されたタンパク質は、続いて10mMのHepes、0.14MのNaCl及び4%のマンニトール、pH6.8を含む貯蔵バッファー中で25mlのG25Superfine(Pharmacia)カラムを用いて脱塩し、−80℃で貯蔵した。
イムノアドヘシン(Fc含有)作成物を以下のようにして条件培地から精製した。条件培地を、20mMのリン酸ナトリウムバッファー、pH6.8で平衡化した5mlのプロテインAカラム(Pharmacia)にポンプ供給した。充填後、カラムを平衡バッファーで強く洗浄した後、100mMのクエン酸、pH3.5で溶離した。溶離したタンパク質は、1mlの画分を275μLの1Mトリスバッファー、pH9を含む管に回収することにより即座に中性化した。高度に精製されたタンパク質は、続いてポリ-Hisタグタンパク質について上記した貯蔵バッファー中で脱塩した。均一性はSDSポリアクリルアミドゲルで試験し、エドマン(Edman)分解によりN末端アミノ酸配列決定した。
【0143】
実施例11:酵母中でのタンパク質又は抗体の発現
以下の方法は、酵母中での所望のタンパク質又は抗体の組換え発現を記述する。
第1に、ADH2/GAPDHプロモーターからの所望するタンパク質又は抗体の細胞内生産又は分泌のための酵母菌発現ベクターを作成する。所望のタンパク質又は抗体をコードするDNA及びプロモーターを選択したプラスミドの適当な制限酵素部位に挿入して細胞内発現を誘導する。分泌のために、所望のタンパク質又は抗体をコードするDNAを選択したプラスミドに、ADH2/GAPDHプロモーターをコードするDNA、天然シグナルペプチド又は他の哺乳動物シグナルペプチド、又は、例えば酵母菌アルファ因子又は転化酵素分泌シグナル/リーダー配列、及び(必要ならば)所望のタンパク質又は抗体の発現のためのリンカー配列と共にクローニングすることができる。
酵母菌株AB110等の酵母菌は、ついで上記の発現プラスミドで形質転換し、選択された発酵培地中で培養できる。形質転換した酵母菌上清は、10%トリクロロ酢酸での沈降及びSDS−PAGEによる分離で分析し、次いでクマシーブルー染色でゲルの染色をすることができる。
続いて組換えタンパク質又は抗体は、発酵培地から遠心分離により酵母菌細胞を除去し、次いで選択されたカートリッジフィルターを用いて培地を濃縮することによって単離及び精製できる。組み換えタンパク質又は抗体を含む濃縮物は、選択されたカラムクロマトグラフィー樹脂を用いてさらに精製してもよい。
【0144】
実施例12:バキュロウイルス感染昆虫細胞中でのタンパク質又は抗体の発現
以下の方法は、バキュロウイルス感染昆虫細胞中における所望のタンパク質又は抗体の組換え発現を示す。
所望のタンパク質又は抗体をコードする配列を、バキュロウイルス発現ベクターに含まれるエピトープタグの上流に融合させた。このようなエピトープタグは、ポリ-Hisタグ及び免疫グロブリンタグ(IgGのFc領域など)を含む。pVL1393(Navagen)などの市販されているプラスミドから誘導されるプラスミドを含む種々のプラスミドを用いることができる。簡単に述べると、所望のタンパク質又は抗体コード化配列、例えば膜貫通タンパク質の細胞外ドメインをコードする配列又はタンパク質が細胞外である場合の成熟タンパク質をコードする配列が、5’及び3’領域に相補的なプライマーでのPCRにより増幅される。5’プライマーは、隣接する(選択された)制限酵素部位を包含していてもよい。生産物は、ついで、選択された制限酵素で消化され、発現ベクターにサブクローニングされる。
組換えバキュロウイルスは、上記のプラスミド及びBaculoGoldTMウイルスDNA(Pharmingen)を、Spodoptera frugiperda(「Sf9」)細胞(ATCC CRL 1711)中にリポフェクチン(GIBCO-BRLから市販)を用いて同時形質移入することにより作成される。28℃で4−5日インキュベートした後、放出されたウイルスを回収し、更なる増幅に用いた。ウイルス感染及びタンパク質発現は、O'Reilley等, Baculovirus expression vectors: A Laboratory Manual, Oxford: Oxford University Press (1994)に記載されているように実施した。
【0145】
次に、発現されたポリ-Hisタグタンパク質又は抗体は、例えばNi2+−キレートアフィニティクロマトグラフィーにより次のように精製される。抽出は、Rupert等, Nature, 362:175-179 (1993)に記載されているように、ウイルス感染した組み換えSf9細胞から調製した。簡単には、Sf9細胞を洗浄し、超音波処理用バッファー(25mMのHepes、pH7.9;12.5mMのMgCl2;0.1mMのEDTA;10%グリセロール;0.1%のNP-40;0.4MのKCl)中に再懸濁し、氷上で2回20秒間超音波処理した。超音波処理物を遠心分離で透明化し、上清をローディングバッファー(50mMリン酸塩、300mMのNaCl、10%グリセロール、pH7.8)で50倍希釈し、0.45μmフィルターで濾過した。Ni2+−NTAアガロースカラム(Qiagenから市販)を5mLの総容積で調製し、25mLの水で洗浄し、25mLのローディングバッファーで平衡させた。濾過した細胞抽出物は、毎分0.5mLでカラムに充填した。カラムを、分画回収が始まる点であるA280のベースラインまでローディングバッファーで洗浄した。次に、カラムを、結合タンパク質を非特異的に溶離する二次洗浄バッファー(50mMリン酸塩;300mMのNaCl、10%グリセロール、pH6.0)で洗浄した。A280のベースラインに再度到達した後、カラムを二次洗浄バッファー中で0から500mMイミダゾール勾配で展開した。1mLの分画を回収し、SDS−PAGE及び銀染色又はアルカリホスファターゼ(Qiagen)に複合したNi2+−NTAでのウェスタンブロットで分析した。溶離したHis10−タグTATを含む画分をプールしてローディングバッファーで透析した。
あるいは、IgGタグ(又はFcタグ)TATの精製は、例えば、プロテインA又はプロテインGカラムクロマトグラフィーを含む公知のクロマトグラフィー技術を用いて実施できる。
【0146】
実施例13:抗体の調製
この実施例は、対象のタンパク質又は所望の抗原に特異的に結合できるモノクローナル抗体の調製を例示する。
モノクローナル抗体の生産のための技術は、この分野で知られており、例えば、上掲のGodingに記載されている。使用することができる免疫原には、精製所望のタンパク質又は標的とする抗体、所望のタンパク質又は標的とする抗原を含む融合タンパク質、及び細胞表面上に組換えタンパク質又は抗原を発現する細胞が含まれる。免疫原の選択は、当業者が過度の実験をすることなくなすことができる。
Balb/c等のマウスを、完全フロイントアジュバントに乳化して皮下又は腹腔内に1−100マイクログラムで注入した所望のタンパク質又は標的とする抗原免疫原で免疫化する。あるいは、免疫原をMPL−TDMアジュバント(Ribi Immunochemical Researh, Hamilton, MT)に乳化し、動物の後足蹠に注入してもよい。免疫化したマウスは、次いで10から12日後に、選択したアジュバント中に乳化した付加的免疫源で追加免疫する。その後、数週間、マウスをさらなる免疫化注射で追加免疫する。所望のタンパク質又は抗原に対する抗体の検出のためのELISAアッセイで試験するために、レトロオービタル出血からの血清試料をマウスから周期的に採取してもよい。
適当な抗体力価が検出された後、抗体に「ポジティブ(陽性)」な動物に、所望のタンパク質又は標的とする抗原の静脈内注射の最後の注入をすることができる。3から4日後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を取り出した。次いで脾臓細胞を(35%ポリエチレングリコールを用いて)、ATCCから番号CRL1597で入手可能なP3X63AgU.1等の選択されたマウス骨髄腫株化細胞に融合させた。融合によりハイブリドーマ細胞が生成され、次いで、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン)培地を含む96ウェル組織培養プレートに蒔き、非融合細胞、骨髄腫ハイブリッド、及び脾臓細胞ハイブリッドの増殖を阻害した。
【0147】
ハイブリドーマ細胞は、所望のタンパク質又は標的とする抗原に対する反応性についてのELISAでスクリーニングされる。そのようなモノクローナル抗体を分泌する「ポジティブ(陽性)」ハイブリドーマ細胞の決定は、技術常識の範囲内である。
陽性ハイブリドーマ細胞を同系のBalb/cマウスに腹腔内注入し、そのようなモノクローナル抗体を含む腹水を生成させる。あるいは、ハイブリドーマ細胞を、組織培養フラスコ又はローラーボトルで成長させることもできる。腹水中に生成されたモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム沈降、それに続くゲル排除クロマトグラフィ−を用いて行うことができる。あるいは、抗体のプロテインA又はプロテインGへの親和性に基づくアフィニティクロマトグラフィーを用いることもできる。
【0148】
実施例14:特異的抗体を用いた所望のタンパク質の精製
天然又は組換え型の所望のタンパク質は、この分野の種々の標準的なタンパク質精製方法によって精製できる。例えば、プロ-TATポリペプチド、成熟ポリペプチド、又は所望のタンパク質のプレ-ポリペプチド型は、所望のタンパク質に特異的な抗体を用いた免疫親和性クロマトグラフィーによって精製される。一般に、免疫親和性カラムは所望のタンパク質に特異的に結合する抗体を活性化クロマトグラフィー樹脂に共有結合させて作成される。
ポリクローナル免疫グロブリンは、硫酸アンモニウムでの沈殿又は固定化プロテインA(Pharmacia LKB Biotechnology, Piscataway, N.J.)での精製のいずれかにより免疫血清から調製される。同様に、モノクローナル抗体は、硫酸アンモニウム沈殿又は固定化プロテインAでのクロマトグラフィーによりマウス腹水液から調製される。部分的に精製された免疫グロブリンは、CnBr-活性化セファロースTM(Pharmacia LKB Biotechnology)等のクロマトグラフィー樹脂に共有結合される。抗体が樹脂に結合され、樹脂がブロックされ、誘導体樹脂は製造者の指示に従って洗浄される。
このような免疫親和性カラムは、可溶化型の所望のタンパク質を発現する細胞からの画分を調製することによる所望のタンパク質の精製において利用される。この調製物は、洗浄剤の添加又はこの分野で公知の方法により微分遠心分離を介して得られる全細胞又は細胞成分画分の可溶化により誘導される。あるいは、シグナル配列を含む可溶化タンパク質は、細胞が成長する培地中に有用な量で分泌される。
所望のタンパク質含有の可溶化した調製物を、免疫親和性カラムに通し、カラムを所望のタンパク質の好ましい吸着をさせる条件下(例えば、洗浄剤存在下の高イオン強度バッファー)で洗浄する。ついで、カラムは、抗体をタンパク質結合に分解する条件下(例えば、約2−3といった低pH、高濃度の尿素又はチオシアン酸イオン等のカオトロープ)で溶離し、所望のタンパク質を回収する。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】抗IgEモノクローナル抗体を消化したペプシンの疎水性相互作用クロマトグラフィ。試料は異なるpH及びバッファーで製剤化した:(●)20mM酢酸塩、(△)20mMコハク酸塩、(▲)20mM NaHPO、(▽)20mM KPO、及び(*)20mMトリスバッファー。試料は30度で6か月間貯蔵した。
【図2】40度で6か月間貯蔵した抗IgEモノクローナル抗体のサイズ排除クロマトグラフィ。試料は異なるpH及びバッファーで製剤化した:(■)20mMグルタミン酸塩、(●)20mM酢酸塩、(△)20mMコハク酸塩、(□)20mMヒスチジン、(▲)20mM NaHPO、(▼)20mM KPO、及び(*)20mMトリスバッファー。
【図3】30度で6か月間貯蔵した抗IgEモノクローナル抗体の活性。試料は異なるpH及びバッファーで製剤化した:(●)20mM酢酸塩、(△)20mMコハク酸塩、(□)20mMヒスチジン、(▲)20mM NaHPO、(▼)20mM KPO、及び(*)20mMトリスバッファー。
【図4】ストレスを加えた抗IgEモノクローナル抗体の濁度へのポリソルベート20の影響。試料は、100mg/ml抗体、20mMコハク酸塩、192mMトレハロース、及び様々な量のポリソルベート20をpH6.0で含む。ポリソルベートの濃度は、(■)0、(▲)0.01%、(●)0.02%、及び(△)0.05%。
【図5】異なる賦形剤、(▲)CaCl、(▽)MgCl、及び(△)アルギニン−HClを含む150mg/ml以下の抗IgEモノクローナル抗体の濁度。
【図6】様々な賦形剤を含む150mg/ml以下の抗IgEモノクローナル抗体の濁度。試料は(▲)−70度、(■)2−8度、(△)15度、(□)30度、及び(▽)40度。
【図7】抗IgEモノクローナル抗体を消化したペプシンの疎水性相互作用クロマトグラフィ分析。試料は様々な賦形剤を用いて150mg/ml以下に製剤化し、(▼)−70度、(■)2−8度、(▲)15度、(△)30度、及び(□)40度で貯蔵した。
【図8】(■)200mMアルギニン−HCl、23mMヒスチジン、pH 6.0 (▲)182mMアルギニン−HCl、20mMヒスチジン、pH6.0 (●)182mMアルギニン−HCl、20mMヒスチジン、91mMコハク酸塩、pH 6.0 (□)50mM MgCl、27mg/mlトレハロース、0.01%酢酸塩、(△)50mM MgCl、30mM MgAc、0.01%酢酸塩、及び(○)50mM MgCl、45mM MgAc、0.01%酢酸塩、の中に150mg/ml以下の抗IgEモノクローナル抗体のサイズ排除クロマトグラフィ。試料は30度で6か月間貯蔵した。
【図9】抗IgEモノクローナル抗体を消化したパパインの疎水性相互作用クロマトグラフィ分析。試料は、(■)200mMアルギニン−HCl、23mMヒスチジン、(▲)182mMアルギニン−HCl、20mMヒスチジン、(●)182mMアルギニン−HCl、20mMヒスチジン、91mMコハク酸塩、(□)50mM MgCl、27mg/mlトレハロース、0.01%酢酸塩、(△)50mM MgCl、30mM MgAc、0.01%酢酸塩、及び(○)50mM MgCl、45mM MgAc、0.01%酢酸塩で製剤化した。試料は30度で6か月間貯蔵した。
【図10A】抗IgE抗体E25、E26、及びHu−901の可変及び定常鎖の完全長配列の比較を示す。Hu−901のCDR領域を下線で示す。E25及びE26のChothiaにより定義されたCDR領域を太字で示し、Kabatにより定義されたCDR領域を枠で囲んでいる。E25、E26及びHu−901の軽鎖配列(配列番号:1−3)を示す。
【図10B】抗IgE抗体E25、E26、及びHu−901の可変及び定常鎖の完全長配列の比較を示す。Hu−901のCDR領域を下線で示す。E25及びE26のChothiaにより定義されたCDR領域を太字で示し、Kabatにより定義されたCDR領域を枠で囲んでいる。E25、E26及びHu−901の重鎖配列(配列番号:4−6)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)100〜260mg/ml量のタンパク質又は抗体、(b)50〜200mM量のアルギニン-HCl、(c)10〜100mM量のヒスチジン、(d)0.01〜0.1%量のポリソルベートを含んでなり、pH5.5〜7.0の範囲内で、約50cs又はそれ未満の運動学的粘度を持ち、200mOsm/kg〜450mOsm/kg範囲の浸透圧である安定した低濁度の液体製剤。
【請求項2】
タンパク質又は抗体の濃度が120mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
タンパク質又は抗体の濃度が150mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
タンパク質又は抗体の濃度が180mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
タンパク質又は抗体の濃度が200mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
タンパク質又は抗体の濃度がおよそ150mg/mlである、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
浸透圧が250mOsm/kg〜350mOsm/kgの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
アルギニン-HClの濃度が100mg/ml〜200mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
(a)100〜260mg/ml量の抗IgEモノクローナル抗体、(b)50〜200mM量のアルギニン-HCl、(c)10〜100mM量のヒスチジン、(d)0.01〜0.1%量のポリソルベートを含んでなり、pH5.5〜7.0の範囲内で、約50cs又はそれ未満の運動学的粘度を持ち、200mOsm/kg〜450mOsm/kgの範囲の浸透圧である安定した低濁度の液体製剤。
【請求項10】
タンパク質又は抗体の濃度が120mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
タンパク質又は抗体の濃度が150mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
タンパク質又は抗体の濃度が180mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
タンパク質又は抗体の濃度が200mg/ml〜260mg/mlの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
タンパク質又は抗体の濃度がおよそ150mg/mlである、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
浸透圧が250mOsm/kg〜350mOsm/kgの範囲である、請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
抗IgE抗体がrhuMAbE25、rhuMAbE26及びHu−901からなる群から選択したものである、請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
抗IgE抗体がrhuMAbE25である、請求項1に記載の製剤。
【請求項18】
抗IgE抗体がrhuMAbE26である、請求項1に記載の製剤。
【請求項19】
抗IgE抗体がHu−901である、請求項1に記載の製剤。
【請求項20】
(a)およそ150mg/ml量の抗IgE抗体、(b)200mM量のアルギニン-HCl、(c)20mM量のヒスチジン、(d)0.02%量のポリソルベートを含んでなり、更にpH6.0である安定した低濁度の液体製剤。
【請求項21】
抗IgE抗体がE25である、請求項20に記載の製剤。
【請求項22】
請求項1に記載の製剤を内包する容器を含む製造品。
【請求項23】
容器がシリンジである、請求項22に記載の製造品。
【請求項24】
更にシリンジが注入装置内に収容されている、請求項23に記載の製造品。
【請求項25】
注入装置が自動注射器である、請求項24に記載の製造品。
【請求項26】
前記製剤が再構成されたものである、請求項1に記載の製剤。
【請求項27】
前記再構成された製剤中のタンパク質又は抗体濃度が凍結乾燥前の濃度のおよそ2〜40倍である、請求項26に記載の製剤。
【請求項28】
必要とする患者に請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項29】
IgE媒介疾患が、アレルギー性鼻炎、喘息、アレルギー性喘息、非アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎及び胃腸疾患からなる群から選択したものである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
IgE媒介疾患がアレルギー性鼻炎である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
IgE媒介疾患がアレルギー性喘息である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
IgE媒介疾患が喘息である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
IgE媒介疾患がアトピー性鼻炎である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
IgE媒介疾患が、過敏症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、寄生虫病、間質性膀胱炎、高IgE症候群、毛細血管拡張性運動失調、ウィスコット-アルドリッヒ症候群、胸腺リンパ形成不全症、IgE骨髄腫及び対宿主性移植片反応からなる群から選択したものである、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
IgE媒介疾患が過敏症である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
過敏症疾患がアナフィラキシー、蕁麻疹及び食物アレルギーからなる群から選択したものである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
過敏症疾患が食物アレルギーである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
食物アレルギーがマメ化植物への曝露によるものである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
マメ化植物がピーナツである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
必要とする患者に、抗ヒスタミンと組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項41】
必要とする患者に、抗ヒスタミン投与と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項42】
必要とする患者に、気管支拡張剤と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項43】
必要とする患者に、気管支拡張剤の投与と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項44】
必要とする患者に、糖質コルチコイドと組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項45】
必要とする患者に、糖質コルチコイドの投与と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項46】
必要とする患者に、糖質コルチコイドと組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項47】
必要とする患者に、糖質コルチコイドの投与と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項48】
必要とする患者に、アレルギー減感作の投与と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項49】
必要とする患者に、NSAIDと組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。
【請求項50】
必要とする患者に、NSAIDの投与と組み合わせて請求項20に記載の製剤の治療的有効量を投与することを含んでなる、IgE媒介疾患の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−524602(P2007−524602A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509445(P2006−509445)
【出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/009613
【国際公開番号】WO2004/091658
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】