説明

高炉原料用塊成化物の製造方法

【課題】軟化溶融性の低い、あるいは軟化溶融性をほとんど有しない石炭と、高結晶水含有鉄鉱石とを組み合わせて用いても、高強度の高炉原料用塊成化物を製造しうる高炉原料用塊成化物の製造方法を提供する。
【解決手段】logMFが0.3〜2.5で、揮発分VMを10質量%以上、硫黄Sを0.3質量%以上含有する粉状石炭Aと、結晶水LOIを3質量%以上含有する粉状鉄鉱石Bとを混合機1にて冷間で混合して混合原料Cとし、その全部または一部を造粒してペレットC1とし、これと混合原料Cの残部C2とを再混合して成形用原料C’とした後に、この成形用原料C’を加熱装置2で350〜550℃に加熱し、この加熱原料C’’を熱間成形機4で熱間成形して成形物Dを作製し、この成形物Dを熱処理装置5で不活性ガス雰囲気下にて560〜750℃で10min以上加熱処理して高炉原料用塊成化物Eを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の装入原料として用いることができる、熱間成形による高炉原料用塊成化物の製造方法に関し、特に、高結晶水含有鉄鉱石と微非粘結性石炭との組合せで高炉原料用塊成化物を製造する場合に適した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、高炉、キューポラなどの竪型炉用装入原料として用いることを目的として、粉鉱石と軟化溶融性を有する炭材の混合物を熱間成形することにより、従来の炭材内装コールドペレット等のようにセメントなどのバインダを添加せずとも高強度が得られる炭材内装塊成化物を開発した。
【0003】
このような炭材内装塊成化物は、例えば図14に示すような工程で製造できる。すなわち、粉状鉄鉱石Bをロータリキルン(原料加熱手段)12で400〜800℃に加熱するとともに、軟化溶融性(流動性)を有する粉状石炭Aを別途ロータリドライヤ(炭材加熱手段)11で軟化溶融が起らない250℃未満の温度で乾燥したのち、これらの加熱された粉状石炭A(以下、単に「石炭」ともいう。)と粉状鉄鉱石B(以下、単に「鉄鉱石」ともいう。)とからなる加熱原料を混合機13で混合して粉状石炭Aが軟化溶融する温度である250〜550℃の加熱混合物C’とする。そして、この加熱混合物C’を双ロール型成形機(成形手段)14で熱間成形してブリケット化し、必要により脱ガス槽(熱処理手段)15にて残留タール分を除去することにより炭材内装塊成化物Eが得られる(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、上記特許文献1においては、その実施例で、logMF(MF:最高流動度)が3を超える高軟化溶融性の石炭(表1の石炭A、B参照)と、LOI(結晶水含有量)が6質量%以上の高結晶水含有鉄鉱石(表2の鉱石A、D参照)とを組み合わせて用いることで高強度の竪型炉用塊成化物が得られることが開示されている。しかしながら、logMFが3を超えるような高軟化溶融性の石炭は、原料選択上制約があることから、もっと軟化溶融性の低い、あるいはほとんど軟化溶融性を有しない石炭と、高結晶水含有鉄鉱石とを組み合わせて用いても、高炉の装入原料として用いることができる、高強度の高炉原料用塊成化物を製造しうる技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−211296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、軟化溶融性の低い、あるいは軟化溶融性をほとんど有しない石炭と、高結晶水含有鉄鉱石とを組み合わせて用いても、高強度の高炉原料用塊成化物を製造しうる高炉原料用塊成化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題の解決策を見出すため、まず、炭種と鉄鉱石銘柄との組合せを種々変更するとともに、それらの混合および加熱の方式を種々変更して熱間成形し、得られた高炉原料用塊成化物(以下、単に「塊成化物」ともいう。)の強度に及ぼす影響を調査した。
【0008】
その結果、驚くべきことに、低流動性ないしはほとんど無流動性ではあるが揮発分と硫黄をそれぞれ所定量含有する石炭と、結晶水を所定量含有する鉄鉱石を冷間で混合した後に、この混合原料を熱間成形温度まで加熱して熱間成形し、さらに、熱間成形温度よりも高い温度で熱処理することで、高炉原料用塊成化物の強度が向上することがわかった(後記実施例参照)。
【0009】
上記のように、粘結性の低い又はほとんど無い石炭を用いても、高炉原料用塊成化物の強度が発現するメカニズムについては、発明者らは以下の仮説に基づくものと想定している。
【0010】
すなわち、低流動性ないしはほとんど無流動性ではあるが揮発分と硫黄とをそれぞれ所定量含有する石炭と、結晶水を所定量含有する鉄鉱石からなる混合原料を熱間成形温度である350〜550℃に加熱すると、揮発分と硫黄とを含有する石炭からは揮発分が気化(脱揮)するに際して炭化水素成分とともにHSを含有する熱分解ガスが発生する。
【0011】
一方、結晶水を含有する鉄鉱石(ゲーサイト;FeO(OH))からは、下記式(1)に示す化学反応式により、結晶水(HO)が解離して除去され、ごく微細なナノ気孔が形成されて比表面積が著しく増大した活性ヘマタイト(Fe)が生成する。
【0012】
2FeO(OH) → Fe + HO … 式(1)
【0013】
そして、この比表面積が著しく増大した活性ヘマタイト(Fe)の反応サイトに熱分解ガス中のHSが接触すると、下記式(2)に示す化学反応式により、ピロータイト(Fe1−xS)が生成する。
【0014】
Fe + HS → Fe1−xS + HO … 式(2)
【0015】
また、熱分解ガス中のメタン(CH)が、鉄鉱石から除去された結晶水由来の水蒸気(HO)でガス改質されて下記式(3)に示す化学反応により、Hが生成する。
【0016】
CH + HO → 3H + CO … 式(3)
【0017】
そして、上記熱間成形温度に加熱された混合原料をすぐに熱間で加圧成形すると、鉄鉱石粒子と石炭粒子とが緊密に接触する。そうすると、上記式(2)の化学反応により生成したピロータイト(Fe1−xS)は、石炭液化反応の触媒として作用することが知られている(例えば、特開平11−228972号公報参照)ことから、上記式(3)の化学反応で生成した水素(H)の存在により石炭の表層部が水添されてゲル化する。なお、石炭全体を液化させる場合には、温度:350〜500℃で水素分圧:7〜20MPaといった超高圧水素を必要とする(上記特開平11−228972号公報の[0037]参照)が、本発明では、石炭の表層部のみをゲル化すればよいので、温度を350〜550℃に確保しさえすれば、常圧より低い分圧の水素でも十分にゲル化反応を起こさせることができると考えられる。
【0018】
このようにして、表層部がゲル化した石炭と、結晶水の解離によりゲーサイトからヘマタイトへの相変態に伴って比表面積が著しく増大した鉄鉱石とを熱間で加圧成形することで、ゲル状の石炭表層部が、鉄鉱石粒子と石炭粒子本体とを結合するバインダとして働き、強固な成形物が得られる。そして、熱間成形後に熱間成形温度よりもさらに高い温度で成形物を熱処理することで、成形物中に残留する揮発分が気化して十分に除去されるとともに、熱間成形までの加熱の際に改質を受けた石炭組織がさらに縮重合・再配列して固化することで、成形物(高炉原料用塊成化物)の強度がより上昇することとなる。
【0019】
発明者らは上記知見に基づいてさらに検討を加え、以下の発明を完成するに至った。
【0020】
請求項1に記載の発明は、ギーセラー最高流動度MFがlogMFで0.3〜2.5であるとともに、揮発分VMを10質量%以上、硫黄Sを0.3質量%以上含有する粉状石炭と、結晶水LOIを3質量%以上含有する粉状鉄鉱石とを混合して混合原料となす混合工程と、この混合原料の全部または一部を造粒して造粒物となす造粒工程と、この造粒物と前記混合原料の残部とからなる成形用原料を350〜550℃に加熱して加熱原料となす加熱工程と、この加熱原料を熱間成形して成形物となす熱間成形工程と、この成形物を不活性ガス雰囲気下にて560〜750℃で10min以上加熱処理して高炉原料用塊成化物となす熱処理工程と、を備え、下記式(4)で定義される前記成形用原料の相対かさ密度LBMを1.3以上とすることを特徴とする高炉原料用塊成化物の製造方法である。
BM=ρBM/ρ・・・式(4)
ここに、ρBMは前記整形用原料のかさ密度、ρは前記混合原料のかさ密度である。
【0021】
なお、「かさ密度」は、金属粉に対して用いられるJIS−Z2504に基づいて測定した疎充填かさ密度である。
【0022】
請求項2に記載の発明は、前記造粒物がペレットであり、前記成形用原料中における当該ペレットの質量割合を50〜80%とする請求項1に記載の高炉原料用塊成化物の製造方法
【0023】
請求項3に記載の発明は、前記熱処理工程の後に、前記高炉原料用塊成化物を酸素濃度5容量%以下の雰囲気下にて300℃以下まで冷却する冷却工程を備えた請求項1または2に記載の高炉原料用塊成化物の製造方法である。
【0024】
請求項4に記載の発明は、前記粉状石炭が、2種類以上の石炭を配合してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炉原料用塊成化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記従来技術(特許文献1に記載の製造方法)と異なり、軟化溶融性は低い、あるいは軟化溶融性をほとんど有しないが所定量の揮発分と硫黄を含有する粉状石炭と、所定量の結晶水を含有する粉状鉄鉱石とを、冷間で混合した後、その全部または一部を造粒して造粒物とすることによってかさ密度を上昇させてから、350〜550℃に加熱して熱間成形し、さらにこの熱間成形温度よりも高い560〜750℃で熱処理することで、粉状石炭から発生した熱分解ガス中のHSによって結晶水解離後の粉状鉄鉱石がピロータイト化し、その触媒作用により粉状石炭の表層部が水添されてゲル化しバインダとして作用する結果、高強度の高炉原料用塊成化物を製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る、高炉原料用塊成化物の製造装置の概略構成を示すフロー図である。
【図2】実施例のラボ試験の手順を説明するためのフロー図である。
【図3】粉状鉄鉱石中の硫黄S含有量と高炉原料用塊成化物の引張強度との関係を示すグラフ図である。
【図4】高炉原料用塊成化物のミクロ組織を示す図である。
【図5】微小部X線回折により高炉原料用塊成化物中の化合物を同定した結果を示す図である。
【図6】ピロータイト添加量とタブレットの引張強度との関係を示すグラフ図である。
【図7】粉状鉄鉱石中の結晶水LOI含有量と高炉原料用塊成化物の引張強度との関係を示すグラフ図である。
【図8】成形用原料中のペレットの質量割合と成形用原料のかさ密度との関係を示すグラフ図である。
【図9】成形用原料中のペレットの質量割合と熱間成形時における最大成形反力との関係を示すグラフ図である。
【図10】成形用原料中のペレットの質量割合とブリケットの塊歩留との関係を示すグラフ図である。
【図11】成形用原料の相対かさ密度とブリケットの塊歩留との関係を示すグラフ図である。
【図12】熱処理時間と高炉原料用塊成化物の引張強度との関係を示すグラフ図である。
【図13】タブレットの示差熱分析結果を示すグラフ図である。
【図14】従来技術における、炭材内装塊成化物の製造装置の概略構成を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態)
図1に本発明の一実施形態に係る高炉原料用塊成化物の製造装置の概略構成を示す。なお、上記従来技術で説明した図14と共通する物質には同じ符号を用いた。
【0028】
石炭としては、ギーセラー最高流動度MFをlogMFで0.3〜2.5(好ましくは0.3〜1.0)とするとともに、揮発分VMを10質量%以上(好ましくは12質量%以上)、硫黄Sを0.3質量%以上(好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上)含有するもの、例えば高炉羽口吹込み用微粉炭に用いられる非粘結炭などを用いることができるが、揮発分の含有量が低い(10質量%未満の)無煙炭は適しない。
【0029】
ギーセラー最高流動度MFをlogMFで0.3〜2.5(好ましくは0.3〜1.0)としたのは、最高流動度が低すぎると石炭表層部のゲル化が十分に起らず、一方、最高流動度が十分に高いものであれば、上記従来技術を適用すればよく、本発明を適用するまでもないためである。また、揮発分VMを10質量%以上(好ましくは12質量%以上)含有するものとしたのは、上記仮説に基づくメカニズムにおいて、石炭への水添用の水素が相当量生成することが必須であるためである。また、硫黄Sを0.3質量%以上(好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上)含有するものとしたのは、上記仮説に基づくメカニズムにおいて、ピロータイトが相当量生成することが必須であるためである。なお、粉状石炭中の硫黄S含有量の上限値(許容値)は、ピロータイト生成量確保の観点からは特に設ける必要はないが、高炉への全S装入量制限の観点から自ずと決定される。この上限値(許容値)は、高炉への全S装入量の許容量、高炉原料中への高炉原料用塊成化物の配合割合等により変動するものであるが、例えば1.0質量%以下とすればよい。
【0030】
また、鉄鉱石としては、結晶水LOIを3質量%以上(好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上)含有するもの、例えば高結晶水鉱石、マラマンバ鉱石、リモナイト鉱石などを用いることができるが、結晶水含有量の低い(3質量%未満の)ヘマタイト鉱石やマグネタイト鉱石は適しない。
【0031】
結晶水LOIの含有量を3質量%以上(好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上)としたのは、上記仮説に基づくメカニズムにおいて、活性ヘマタイトが相当量生成することが必須であるためである。
【0032】
石炭と鉄鉱石は、必要な場合には粉砕して、例えば、石炭は−100μm程度、鉄鉱石は−200μm程度の粉状にするとよい。
【0033】
〔混合工程〕
このようにして粒度調整した粉状石炭Aと粉状鉄鉱石Bとを質量比で20:80〜50:50の配合割合で切り出して混合機1で混合して混合原料Cとする。
【0034】
粉状石炭Aと粉状鉄鉱石Bとの配合割合を20:80〜50:50の範囲としたのは、以下の理由による。すなわち、粉状石炭Aの配合が少なすぎると、バインダとして作用するゲル化した表層部の総量が不足して塊成化物の強度が低下する。一方、粉状石炭Aの配合が多すぎると、加熱冷却に伴う石炭の膨張収縮により成形後の塊成化物中の石炭組織に亀裂が発生しやすくなり、やはり塊成化物の強度が低下するとともに、塊成化物中の鉄分含有量が低くなりすぎて鉄原料としての意味がなくなる。
【0035】
この混合に際して、粉状鉄鉱石Bは、上記従来技術のように粉状石炭Aとの混合前に250℃以上に加熱することは避ける必要がある。つまり、結晶水を含有する粉状鉄鉱石Bを250℃以上に加熱すると、粉状石炭Aとの混合前に結晶水が解離して除去されごく微細なナノ気孔を有する活性ヘマタイトが生成してしまう。この状態で粉状石炭Aと混合した後に再度加熱しても、その間にナノ気孔が粗大化してマイクロ気孔となりヘマタイトは活性を失ってしまうためピロータイト生成量が減少するとともに、もはや結晶水由来の水蒸気(HO)が発生せず、上記ガス改質反応が起こらなくなるためHも発生しなくなり、石炭表層部への水添反応、すなわち石炭表層部のゲル化が進行しなくなるためである。ただし、付着水分を除去する目的で、250℃未満、好ましくは180℃以下で乾燥することは、結晶水が離脱することがないので問題ない。
【0036】
また、粉状石炭Aも、上記従来技術と同様に、当然、250℃以上に加熱することは避ける必要がある。つまり、揮発分を含有する粉状石炭Aを250℃以上に加熱すると、揮発分が気化してHSおよびCHが除去されてしまうので、粉状鉄鉱石Bと混合した後に再度加熱しても上記ピロータイト化反応およびガス改質反応が起こらなくなることから、石炭表層部のゲル化が進行しなくなるためである。ただし、付着水分を除去する目的で、250℃未満、好ましくは180℃以下で乾燥することは、揮発分が気化することがないので問題ない。
【0037】
なお、混合機1としては周知のドラムミキサなどを用いることができる。
【0038】
〔造粒工程〕
次いで、混合原料Cの全部または一部を造粒機として例えばディスク型ペレタイザ2にて適量の水分を添加して造粒し造粒物として例えばペレットC1を作製し、このペレットC1と混合原料Cの残部C2とを再混合して成形用原料C’とする。ここで、下記再掲式(4)で定義される成形用原料C’の相対かさ密度LBMは1.3以上とする。
BM=ρBM/ρ・・・再掲式(4)
ここに、ρBMは前記成形用原料のかさ密度、ρは前記混合原料のかさ密度である。
【0039】
このように、混合原料Cの全部または一部をペレット化してから加熱することで、造粒された個々のペレットは、その内部で粉状石炭Aと粉状鉄鉱石Bとが密接に接触した状態であるため、これを加熱することにより、粉状石炭Aの表層部が十分にゲル化し、熱間成形機4で加圧された際に個々のペレットが押し潰され、内部のゲル化部分が表面に押し出されて加熱原料C’’全体が一体化し、冷却後に高強度のブリケット(塊成化物)Eが得られることとなる。
【0040】
さらに、成形用原料C’のかさ密度を混合原料Cのかさ密度の1.3倍以上とすることで、成形用原料C’中におけるペレットC1同士の間の空隙に混合原料Cの残部C2が十分に充填された状態となることから、ペレット化されていない粉状のままの混合原料Cの残部C2についても粉状石炭Aと粉状鉄鉱石Bとがより密着した状態に保たれ、上述した石炭表層部のゲル化反応が促進されてバインダとしての作用が促進されるとともに、熱間成形機4への噛み込みが良くなり熱間成形後の成形物Dは空隙の少ない緻密な構造となるのでより確実に圧潰強度を高くできる。
【0041】
成形用原料C’の相対かさ密度(すなわち、成形用原料C’のかさ密度)は、例えば、ペレットC1と混合原料Cの残部C2との質量割合(すなわち、成形用原料C’中におけるペレットC1の質量割合)を変化させることにより調整でき、特に、この成形用原料C’中におけるペレットC1の質量割合を50〜80%とするのが推奨される(後述の図8参照)。ペレットC1の質量割合が50%未満では粉状のままの状態からより緻密化したペレットC1の量が少なすぎてかさ密度の上昇効果が十分に発揮されない。一方ペレットの質量割合が80%を超えるとペレットC1同士間の空隙の量が多くなりすぎて、質量割合が20%未満と少ない量の粉状のままの混合原料Cの残部C2では該空隙を十分に充填し切れなくなり、却ってかさ密度が低下してしまうためである。
なお、ペレットC1と混合原料Cの残部C2とを再混合する際に、ペレットC1の一部が粉化してしまうことが想定されるが、そのような場合には、粉化量を見込んで予めペレットC1の造粒量をその分だけ多めに設定すればよい。
【0042】
なお、上記ペレットC1の平均粒径は1〜15mm、さらには1.5〜10mm、特に2〜5mmとするのが好ましい。ここに、ペレットC1の平均粒径とは、粒径分布を有するペレットを粒径範囲ごとに篩い分け、各粒径範囲の代表径を各粒径範囲に存在するペレットの質量割合で加重平均して求めた値である。ペレットC1の粒径が小さすぎると、個々のペレットC1中における粉状炭材Aと粉状鉄鉱石Bの質量割合が不均一になりやすく、一方ペレットC1の粒径が大きすぎるとペレットC1の中心部まで加熱するのに時間を要することに加え、成形物Dのサイズにもよるが、成形の際に成形機のポケット内に入るペレットC1の総質量にばらつきが出やすくなり、また、加熱時にバースティング(爆裂)が起こりやすくなり、いずれの場合も塊成化物Eの強度低下の原因となる可能性が高くなるからである。熱間成形工程で用いる成形機が双ロール型成形機である場合には、前記ペレットC1の平均粒径は、上記規定を満たしたうえで、さらに、該双ロール型成形機のロールギャップ以上で、かつ、該双ロール型成形機のポケット深さ以下とするのが好ましい。前記ペレットC1の平均粒径をロールギャップ以上とすることにより、成形機への噛み込み性が向上し、成形圧力を高くすることができ、また、ポケット深さ以下にすることにより、成形物Dの見掛け密度を高くすることができ、塊成化物Eの強度向上に繋がる。上記造粒機としては、周知のディスク型ペレタイザやドラム型ペレタイザを用いることができる。
【0043】
〔加熱工程〕
上記のようにして調製された成形用原料C’は、加熱装置(例えば、外部加熱式ロータリキルン)3で350〜550℃、好ましくは400〜500℃に加熱して加熱原料C’’とする。
【0044】
このように、軟化溶融性の低い、あるいは軟化溶融性をほとんど有しないが揮発分を所定量含有する粉状石炭Aと、結晶水を所定量含有する粉状鉄鉱石Aを混合した後に所定温度で加熱することで、本来軟化溶融性をほとんど有しない粉状石炭Aが、上記仮説に基づくメカニズムによりその表層部がゲル化してバインダとしての機能を獲得するものと考えられる。
【0045】
加熱温度を350〜550℃(好ましくは400〜500℃)としたのは、加熱温度が低すぎると、粉状石炭Aからの揮発分VMの気化も、粉状鉄鉱石Bからの結晶水LOIの気化も遅く、粉状石炭Aの表層部のゲル化が遅延するためであり、一方加熱温度が高すぎると、粉状石炭Aは、その表層部のゲル化状態に留まらず、石炭組織がさらに縮重合・再配列にまで進行して固化してしまい、いずれの場合もバインダとしての機能が十分に発揮されないためである。
【0046】
加熱装置3として外部加熱式のものを採用するのは、内部加熱式の加熱装置で加熱すると混合原料Cが急速加熱されてバースティング(爆裂)が発生しやすくなるためである。
【0047】
加熱装置3から排出された排ガスは、粉状石炭Aから発生したタール分を含有する場合があり、排ガス系統において凝縮・固着し、配管等を閉塞させるおそれがある。これを防止するため、図示しないが、例えば、加熱装置2の排ガス排出ダクトに燃焼器を設置してタール分を燃焼分解してガス化させてしまう方法や、同排出ダクトにバーナを設置して排ガス中の揮発分(炭化水素ガス)を部分燃焼してタール分が凝縮しない温度に保持して排ガス処理装置まで搬送する方法などを採用すればよい。
【0048】
〔熱間成形工程〕
加熱された成形用原料(加熱原料)C’’は、熱間成形機(例えば熱間成形用の双ロール型成形機)4を用いてブリケット(成形物)Dに加圧成形する。
【0049】
〔熱処理工程〕
成形物Dを、上記加熱工程での加熱温度範囲よりも高い温度範囲である560〜750℃に調整した熱処理装置(例えば、シャフト炉)5内に装入し、10min以上加熱処理することで、成形物D中に残存する揮発分を気化させて十分に除去するとともに、石炭組織の縮重合・再配列を促進して固化させる。これにより、得られた塊成化物Eが、高強度を獲得するとともに、高炉に装入されて加熱された際に、もはや石炭が軟化することがなく塊成化物Eの強度が維持されるとともに、タール分が多量に発生することがなく高炉の排ガス系統にタールが固着する等のトラブルの発生を防止できる。
【0050】
〔冷却工程〕
シャフト炉5で熱処理された成形物Dは、熱いまま大気中に排出すると発火や燃焼のおそれがあるため、シャフト炉5の下部または図示しない冷却器中で酸素濃度5容量%以下(例えば、窒素ガスや冷却後の燃焼排ガス等)の雰囲気下にて300℃以下まで冷却してから排出するのが望ましい。
【0051】
脱ガス後の成形物Dは、スクリーン6で篩って、篩下粉Fは、可能であれば混合機1等へ戻して再利用しつつ、篩上塊状物Eは目的とする高強度の高炉原料用塊成化物として回収する。
【0052】
(変形例)
上記実施形態では、造粒機2としてディスク型ペレタイザを例示したが、もちろんドラム型ペレタイザを用いてもよい。また、造粒物C1としてペレットを例示したが、ブリケットとしてもよい。この場合、造粒機2としては、熱間成型機4と同様、周知の双ロール型成形機や押出し成形機を用いればよい。
【0053】
また、上記実施形態では、粉状石炭Aおよび粉状鉄鉱石Bとしては、ともに単一の銘柄を用いる例を示したが、2種類以上の銘柄を配合して用いてもよい。この場合、配合後の組成および性状が、上記請求項1で規定する条件を満足すべきことは当然である。なお、配合後の粉状石炭AのlogMFは、各銘柄(各炭種)のlogMFをそれらの質量割合で加重平均したものとする。また、上記篩下粉Fを再利用する場合は、篩下粉Fを鉄鉱石の複数銘柄の一つとみなして同様の取り扱いをすればよい。
【0054】
また、上記実施形態では、混合工程において、混合原料として粉状鉄鉱石と粉状石炭のみを用いる例を示したが、さらに粉状フラックス(石灰石、ドロマイトなど)を含有させてもよい。この場合も、フラックスを鉄鉱石の複数銘柄の一つとみなして上記と同様の取り扱いをすればよい。
【0055】
また、上記実施形態では、熱間成形機4として双ロール型成形機を用いる例を示したが、押出し成形機を用いてもよい。
【実施例】
【0056】
本発明の効果を確証するため、以下のラボ試験(試験1〜3、5〜7)およびパイロット試験(試験4)を実施した。なお、本ラボ試験では、下記に示すように、高炉原料用塊成化物として直径20mmの小さいタブレットを用いることから、原料中にペレットを混合して成形するのには不向きなため、混合原料の全部または一部のペレット化を省略し、混合原料を全量粉状のまま加熱し成形することとし、ペレット化以外の各因子の影響について調査することとした。そして、本パイロット試験にて実際に混合原料の全部または一部のペレット化を行い、その影響を調査することとした。
【0057】
〔試験方法〕
ラボ試験の方法としては、以下の(1)〜(6)の手順で行った(図2参照)。
【0058】
(1)粉状石炭と粉状鉄鉱石を質量比で40:60の配合割合にて合計質量で約8gになるように配合し、混合機(攪拌羽根付き縦型円筒容器)内で、攪拌羽根の回転速度:180rpm、混合時間1.0minの条件で冷間混合して混合原料を作製する。
(2)ついで、この混合原料を、その全部または一部を造粒することなくそのまま、外部ヒータ付きのドーナツ型モールドの中心部円筒空間(内径20mm)に充填して所定温度に加熱する。
(3)その後、モールドの外部ヒータの電源をOFFにし、直ちに加圧用ピンで加熱原料を2000kgf(1kgf≒9.8N)の成形荷重で加圧してタブレット(成形物)を作製する。
(4)モールドからタブレット(成形物)を取り出し、これをN流通下で所定温度に加熱された加熱炉内に速やかに装入して所定時間熱処理する。
(5)熱処理が終了したタブレット(成形物)を取り出し、Nで室温まで冷却する。
(6)コンクリートの引張強度試験方法(JIS−A1113)に準じて、タブレット(高炉原料用塊成化物)の圧潰強度を測定し、引張強度を算出する。
【0059】
〔試料〕
粉状石炭の粒度はd50(50%平均径、以下同じ。)で約40μm、粉状鉄鉱石の粒度はd50で約25μmとした。そして、混合原料は、粉状鉄鉱石:粉状石炭=60:40(質量比)の配合割合(一定)とした。
【0060】
〔試験結果〕
[試験1](粉状石炭中の硫黄S含有量の影響)
タブレット(高炉原料用塊成化物)の引張強度に及ぼす粉状石炭中の硫黄S含有量の影響を調査するため、以下の試験を実施した。
【0061】
粉状鉄鉱石としては、豪州産高結晶水鉱石(LOI:10.38質量%)のみを用い、粉状石炭としては、揮発分VMが10〜35質量%、logMFが0〜0.3、硫黄S含有量が0.1〜0.7質量%の範囲の5種類の石炭を用い、これらの石炭をそれぞれ単味で配合して上述の試験方法でタブレット(高炉原料用塊成化物)を作製し、その圧潰強度を測定し引張強度を算出した。なお、この試験においては、上記ラボ試験方法で説明したように、混合原料の全部または一部の造粒は行わずに混合原料を粉状のまま全量加熱し、加熱温度(成形温度)は430℃、熱処理温度は650℃、熱処理時間は20minでいずれも一定とした。
【0062】
試験結果を図3に示す。同図に示すように、石炭の種類に関わらず、logMFが同レベルの石炭の間では、石炭中の硫黄S含有量が増加するに伴ってタブレット(高炉原料用塊成化物)の引張強度が直線的に上昇することが明らかである。また、同図より、石炭のlogMFが0.3以上で、石炭中の硫黄S含有量が0.3質量%以上であれば、高炉用装入物として十分な強度である引張強度23kgf/cm以上(高炉原料に適した体積約6cmのブリケットの圧潰強度換算で200kgf以上に相当)が得られることがわかる。なお、後述の試験4の結果を併せて考慮すると、混合原料の全部または一部を造粒してペレット化することで、タブレットの引張強度はさらに上昇することが予想される。
【0063】
図4は、熱処理後のタブレット(高炉原料用塊成化物)のミクロ組織を観察した結果を示すものであり、(a)は従来技術に相当する軟化溶融性の高い石炭(logMF=2.59)を用いた参考例であり、(b)は軟化溶融性のほとんどない石炭(logMF=0.3)を用いた本発明例である。同図に示すように、(a)の参考例では石炭粒子はそのほとんどの粒子全体が一旦溶融したことが明らかであるのに対し、(b)の本発明例では石炭粒子はそのほとんどが角張った形状を残しており、粒子全体が溶融した形跡は見られない。それにも関わらず、本発明例の熱処理後のタブレットが所定の強度を発現していることから、石炭粒子の表層部のみが一旦ゲル化したものと推定した。
【0064】
そこで、熱処理後のタブレット(高炉原料用塊成化物)を微小部X線回折で分析して化合物の同定を行った。その結果を図5に示す。(a)は石炭中の硫黄S含有量が0.2質量%に満たない比較例であり、(b)は石炭中の硫黄S含有量が0.6質量%を超える本発明例である。同図に示すように、(a)の比較例では、ピロータイト(Fe1−xS)の回折ピークが視認されず、タブレット中にピロータイトの存在が認められなかった。これに対し、(b)の本発明例では、ピロータイト(Fe1−xS)の回折ピークが明瞭に視認されることから、タブレット中にピロータイトが存在することが確認できた。(なお、本発明例の熱処理前のタブレットについても同定を行ったが、ピロータイトが存在していなかったことを確認している。)このことから、本発明例では、石炭表層部がピロータイトの触媒作用によりゲル化したとの確信が高まった。
【0065】
[試験2](タブレットの引張強度に及ぼすピロータイト添加量の影響)
そこで、さらに、ピロータイトの石炭表層部のゲル化作用を別の観点から検証するため、上記試験1とは異なり粉状鉄鉱石を用いることなく、粉状石炭単味に試薬のピロータイトを添加し、その他の条件は上記試験1と同じ条件(造粒を省略)で加熱→熱間成形→熱処理を行ってタブレットを作製し、タブレットの引張強度に及ぼすピロータイト添加量の影響を調査した。
【0066】
試験結果を図6に示す。同図に示すように、ピロータイトを添加しないものに比べて、ピロータイトの添加量を増加させたものほどタブレットの引張強度が上昇することが明らかである。
【0067】
上記試験1およびこの試験2の結果を総合して判断することにより、ピロータイトの存在が石炭表層部のゲル化に対して触媒作用を有することがほぼ検証されたといえる。
【0068】
[試験3](粉状鉄鉱石中の結晶水LOI含有量の影響)
次に、タブレット(高炉原料用塊成化物)の引張強度に及ぼす粉状鉄鉱石中の結晶水LOI含有量の影響を調査するため、以下の試験を実施した。
【0069】
すなわち、粉状石炭としては、高炉羽口吹込み用石炭(揮発分VM:15.4質量%、logMF:0.4、硫黄S含有量:0.45質量%)のみを用い、粉状鉄鉱石としては、豪州産高結晶水鉱石(LOI:10.38質量%)と、リモナイト鉱石(LOI:14.0質量%)と、前記豪州産高結晶水鉱石を事前に空気中で650℃×2h加熱して結晶水を完全に除去したものを用い、これらの鉄鉱石をそれぞれ単味で配合して上記試験1と同じ条件(造粒を省略)で加熱→熱間成形→熱処理を行ってタブレットを作製し、タブレットの引張強度に及ぼす粉状鉄鉱石中の結晶水LOI含有量の影響を調査した。
【0070】
試験結果を図7に示す。同図に示すように、粉状鉄鉱石中の結晶水LOI含有量とタブレット(高炉原料用塊成化物)の引張強度とは、正の相関関係があり、所定のタブレット強度を得るためには、一定以上の結晶水LOI含有量が必要なことが確認された。
【0071】
ここで、結晶水を事前に除去した粉状鉄鉱石を用いた場合にタブレット強度が低下する理由は以下のように考えられる。すなわち、混合原料を加熱温度まで加熱する際に、結晶水の事前除去時に生成した活性ヘマタイトが長時間を経て再加熱されることにより、活性ヘマタイト中のナノ気孔が粗大化してマイクロ気孔となりヘマタイトが活性を失い、ピロータイトの生成量が減少するとともに、結晶水由来の水蒸気(HO)の発生がないためガス改質反応によるHの生成もないので、石炭表層部への水添反応が起らないためと考えられる。
【0072】
[試験4](成形用原料中におけるペレットの質量割合の影響)
次に、ブリケット(高炉原料用塊成化物)の塊歩留に及ぼす成形用原料中におけるペレットの質量割合の影響を調査するため、以下のパイロット試験を実施した。
【0073】
すなわち、粉状鉄鉱石としては豪州産高結晶水鉱石(LOI:10.38質量%)を、粉状石炭としては高炉羽口吹込み用石炭(揮発分VM:24.3質量%、logMF:0.65、硫黄S含有量:0.42質量%)をそれぞれ用いた。そして、上記試験1〜3のラボ試験とは異なり、混合原料のうちの所定割合を分取しディスク型ペレタイザで造粒して平均粒径:3mmのペレットを作製し、このペレットを混合原料の残部と再混合し、これを成形用原料とした。そして、成形用原料中におけるペレットの質量割合を種々変更し、上記試験1のラボ試験と同様の温度条件にて双ロール型成形機を用いてブリケット(サイズ:30mm×25mm×17mm)を作製し、ブリケットの塊歩留等に及ぼす成形用原料中におけるペレットの質量割合の影響を調査した。なお、本試験においては、ブリケットの塊歩留は、成形物を篩目15mmのスクリーンで篩った後における、成形物全量に対する篩上の質量割合で定義した。
【0074】
試験結果を図8〜11に示す。図8に示すように、成形用原料中におけるペレットの質量割合が0%から50%まで増加していくと、成形用原料のかさ密度は上昇していくが、ペレットの質量割合が50%を超えると成形用原料のかさ密度の上昇が頭打ちになり、ペレットの質量割合が80%を超えると成形用原料のかさ密度が却って低下する傾向が見られる。このことから、成形用原料中におけるペレットの質量割合は50〜80%とするのが推奨される。
【0075】
また、図9に、熱間成形時における最大成形反力に及ぼす成形用原料中におけるペレットの質量割合の影響を示す。同図に示すように、ペレットの質量割合が50%未満では最大成形反力がきわめて低く、このことは成形機への成形用原料の噛み込みが不足していることを意味する。これに対し、ペレットの質量割合が60%になると最大成形反力が十分に高くなり、成形機への成形用原料の噛み込みが良好になることがわかる。ただし、ペレットの質量割合が100%(すなわち、全量ペレット)になると最大成形反力が低下する傾向が見られる。
【0076】
また、図10に示すように、成形用原料中におけるペレットの質量割合が0%から60%まで増加していくと、ブリケットの塊歩留は上昇していくが、ペレットの質量割合が60%を超えるとブリケットの塊歩留はほぼ一定になることがわかる。
【0077】
図11は、成形用原料の相対かさ密度とブリケットの塊歩留との関係に整理し直した図であるが、成形用原料の相対かさ密度を1.3以上にするとブリケットの塊歩留として実用上問題のない70質量%以上を確保できるようになることがわかる。
【0078】
[試験5](加熱温度の影響)
次に、タブレット(高炉原料用塊成化物)の引張強度に及ぼす加熱温度の影響を調査するため、以下の試験を実施した。
【0079】
すなわち、粉状鉄鉱石としては、豪州産高結晶水鉱石(LOI:10.38質量%)のみを用い、粉状石炭としては、高炉羽口吹込み用石炭P(揮発分VM:23.1質量%、logMF:0.6、硫黄S含有量:0.51質量%)と、準強粘結炭Q(揮発分VM:28.8質量%、logMF:2.47、硫黄S含有量:0.54質量%)の2種類の石炭をそれぞれ単味で用い、加熱温度を種々変更し、その他の条件は上記試験1(造粒を省略)と同じ条件でタブレットを作製し、タブレットの引張強度に及ぼす加熱温度の影響を調査した。
【0080】
試験結果を下記表1に示す。同表に示すように、加熱温度が本発明で規定する350〜550℃の範囲を外れる場合(比較例)は、タブレットの引張強度は目標強度23kgf/cmに達しないのに対し、加熱温度が本発明で規定する350〜550℃の範囲内の場合(参考例)は、混合原料の全部または一部の造粒を省略しているものの、タブレットの引張強度は目標強度23kgf/cm以上を達成できることがわかる。上記試験4の結果を併せて考慮すると、参考例において、混合原料の全部または一部の造粒を行うことで、タブレットの引張強度はさらに上昇することが予想される。
【0081】
【表1】

【0082】
[試験6](熱処理時間の影響)
タブレット(高炉原料用塊成化物)の引張強度に及ぼす熱処理時間の影響を調査するため、以下の試験を実施した。
【0083】
すなわち、粉状鉄鉱石としては、豪州産高結晶水鉱石(LOI:10.38質量%)を用い、粉状石炭としては、高炉羽口吹込み用石炭(揮発分VM:24.2質量%、logMF:0.8、硫黄S含有量:0.5質量%)を用いて、熱処理時間のみを種々変更し、その他の条件は上記試験1と同じ条件(造粒を省略)でタブレットを作製し、タブレットの引張強度に及ぼす熱処理時間の影響を調査した。
【0084】
試験結果を図12に示す。同図には、熱処理中における加熱炉排ガス中のHS濃度の変化を併記した。同図に示すように、熱処理時間の延長に伴ってタブレットの引張強度が上昇し、熱処理時間10min以上でタブレットの引張強度が目標強度の23kgf/cm以上を達成できることがわかる。上記試験4の結果を併せて考慮すると、参考例において、混合原料の全部または一部の造粒を行うことで、タブレットの引張強度はさらに上昇することが予想される。なお、タブレットからのHSの発生は10min以内に終了していることから、熱処理工程におけるタブレットの強度の発現は、ピロータイトを触媒とする水添反応による石炭表層部のゲル化に基づくものではなく、前段の加熱工程および成形工程で改質を受けた石炭組織が縮重合・再配列して固化したことによるものと推定される。
【0085】
[試験7](冷却温度の影響)
最後に、タブレット(成形物)を熱処理後、どの程度まで冷却すれば大気中に安全に取り出せるかを確認するため、600℃および800℃でそれぞれ熱処理した後のタブレット(成形物)を、N雰囲気中および大気雰囲気中のそれぞれで示差熱分析を実施した。
【0086】
測定結果を図13に示す。同図に示すように、N雰囲気中では発熱は見られないのに対し、大気雰囲気中では、300℃を超える頃から試料質量はあまり変化はないものの発熱量が増加し始め、400℃を超えると試料質量が大幅に減少し始めるとともに発熱量も急激に増大して500℃付近で発熱量が最大になり、500℃を超えると発熱量が低下することがわかる。
【0087】
このことから、300℃を超える頃からタブレット中に残留する揮発分VMが気化してこれが大気で酸化されて発熱し始め、400℃を超えるあたりで、大きな発熱を伴う炭素の酸化が開始し、500℃を超えると炭素の酸化反応に加えて酸化鉄が炭素で直接還元される吸熱反応が開始して発熱量が減少するものと考えられる。
【0088】
以上の結果から、タブレット中に残留する揮発分VMの気化とそれに伴う大気による酸化発熱反応をより確実に回避するためには、熱処理後の冷却工程での不活性ガス雰囲気中における成形物の冷却温度は300℃以下とすることが推奨される。
【符号の説明】
【0089】
1:混合機
2:造粒機(ディスク型ペレタイザ)
3:加熱装置(外部加熱式ロータリキルン)
4:熱間成形機(双ロール型成形機)
5:熱処理装置(シャフト炉)
6:スクリーン
A:粉状石炭
B:粉状鉄鉱石
C:混合原料
C1:造粒物(ペレット)
C2:混合原料Cの残部
C’:成形用原料
C’’:加熱原料
D:成形物(ブリケット)
E:高炉原料用塊成化物(篩上塊状物)
F:篩下粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギーセラー最高流動度MFがlogMFで0.3〜2.5であるとともに、揮発分VMを10質量%以上、硫黄Sを0.3質量%以上含有する粉状石炭と、結晶水LOIを3質量%以上含有する粉状鉄鉱石とを混合して混合原料となす混合工程と、
この混合原料の全部または一部を造粒して造粒物となす造粒工程と、
この造粒物と前記混合原料の残部とからなる成形用原料を350〜550℃に加熱して加熱原料となす加熱工程と、
この加熱原料を熱間成形して成形物となす熱間成形工程と、
この成形物を不活性ガス雰囲気下にて560〜750℃で10min以上加熱処理して高炉原料用塊成化物となす熱処理工程と、を備え、
下記式で定義される前記成形用原料の相対かさ密度LBMを1.3以上とすることを特徴とする高炉原料用塊成化物の製造方法。
式:LBM=ρBM/ρ
ここに、ρBMは前記成形用原料のかさ密度、ρは前記混合原料のかさ密度である。
【請求項2】
前記造粒物がペレットであり、前記成形用原料中における当該ペレットの質量割合を50〜80%とする請求項1に記載の高炉原料用塊成化物の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程の後に、前記高炉原料用塊成化物を酸素濃度5容量%以下の雰囲気下にて300℃以下まで冷却する冷却工程を備えた請求項1または2に記載の高炉原料用塊成化物の製造方法。
【請求項4】
前記粉状石炭が、2種類以上の石炭を配合してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の高炉原料用塊成化物の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図4】
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