説明

高炉用自溶性ペレットおよびその製造方法

【課題】高炉の通気性を改善して生産性を向上させるとともに、ペレット製造時にはグレート上のペレット層の通気性を改善してペレットを増産しうる、自溶性ペレットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】CaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上であって、平均粒径が10〜13mmで、粒径4mm以上8mm未満のものが6質量%以下、粒径15mm以上20mm未満のものが7質量%以下の粒径分布を有することを特徴とする高炉用自溶性ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用鉄原料として用いられる自溶性ペレット(以下、単に「ペレット」ということあり。)およびその製造方法に関し、特に、微粉炭を多量に吹き込む高炉操業に適した自溶性ペレットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、1970年台から1980年台にかけて、高炉用鉄原料として用いられる自溶性ペレットの改質技術の開発に取り組み、鉄鉱石にCaOおよびMgO源として石灰石およびドロマイトを配合してCaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上とした配合原料を造粒した生ペレットを焼成することで、高温の被還元性に優れた自溶性ペレット(自溶性ドロマイトペレット)が製造できる技術を完成した(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、本出願人は、上記自溶性ペレットの改質技術の開発と並行して、高炉の装入物分布制御技術の開発を推進し、高炉内の通気性・通液性を画期的に改善するコークス中心装入技術を完成させた(非特許文献1参照)。
【0004】
上記自溶性ドロマイトペレットの使用とコークス中心装入技術の適用により、ペレット多配合高炉において微粉炭を多量に吹き込んでも安定した操業を行えるようになり、本出願人の神戸製鉄所第3高炉においてオールペレット操業技術を達成した(非特許文献2参照)。
【0005】
ところで、近年の鉄鋼需要の急速な増大に対応すべく、銑鉄のさらなる増産が求められており、高炉の生産性向上および高炉用原料であるペレットの増産が喫緊の課題となっている。
【0006】
しかしながら、高炉の生産性を向上させるためには、高炉内の通気性をさらに改善する必要がある。一方、ペレットは、グレートキルン方式またはストレートグレート方式で製造されるが、ペレットを増産するためには、いずれの方式の場合もグレート上のペレット層の通気性をさらに改善する必要がある。
【0007】
高炉内の通気性とグレート上のペレット層の通気性をともに改善するための手段としては、ペレットの平均粒径を大きくすることが考えられる。しかしながら、ペレット平均粒径の増大はペレットの被還元性を低下させる(非特許文献3参照)ため、高炉内での直接還元の割合を増加させ、還元材比を上昇させてしまう問題がある。
【0008】
また、上記通気性改善の手段として、ペレット粒径を増大させることなく、ペレットの粒径分布をできるだけ狭くして、ペレット粒径を均一化することも考えられる(非特許文献3参照)。しかしながら、ペレット粒径分布の狭小化はペレットの製造歩留を低下させ、ペレットの製造コストが増大するため、従来ほとんど検討がなされておらず、近年の微粉炭多量吹き込み、かつ高生産性の条件下における高炉操業により適した、自溶性ドロマイトペレットの粒径分布は明らかになっていなかった。
【非特許文献1】松井ら,「当社における高炉操業技術の進歩とコークス中心装入法としての中心流操業思想」,R&D 神戸製鋼技報,第55巻,第2号,2005年9月,p.9−17
【非特許文献2】大山ら,「神戸3高炉におけるオールペレット操業への移行:(神戸3高炉オールペレット操業−その1)」,材料とプロセス,第15巻,第1号,2002年3月1日,p.129−130
【非特許文献3】日本鉄鋼協会編,「鉄鋼便覧(第II巻)製銑・製鋼」,第3版,丸善株式会社,昭和54年10月15日,p.158
【特許文献1】特公平3−77853号公報
【特許文献2】特公平3−77854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、高炉の通気性を改善して生産性を向上させるとともに、ペレット製造時にはグレート上のペレット層の通気性を改善してペレットを増産しうる、自溶性ペレットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、CaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上であって、平均粒径が10〜13mmで、粒径4mm以上8mm未満のものが6質量%以下、粒径15mm以上20mm未満のものが7質量%以下の粒径分布を有することを特徴とする高炉用自溶性ペレットである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、鉄鉱石に、CaOおよびMgOを含有する副原料を配合してCaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上になるように調整する原料配合工程と、この配合された原料を造粒して所定の粒径分布を有する生ペレットに成形する造粒工程と、この生ペレットを1220〜1300℃で加熱焼成して、平均粒径が10〜13mmで、粒径4mm以上8mm未満のものが6質量%以下、粒径15mm以上20mm未満のものが7質量%以下、平均粒径が10〜13mmの粒径分布を有する自溶性ペレットとする焼成工程とを備えたことを特徴とする高炉用自溶性ペレットの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自溶性ペレットの小粒径部分および大粒径部分の割合を所定割合以下に制限してペレット粒径を均一化することで、微粉炭多量吹き込み操業下においても高炉内の通気性が改善されて、高炉の生産性が向上するとともに、ペレット製造時にはグレート上のペレット層の通気性が改善され、自溶性ペレットが増産できるようになった。この結果、高炉への微粉炭多量吹込みによるコスト低減効果を維持しつつ、銑鉄のさらなる増産が実現できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔本発明に係る高炉用自溶性ペレットの構成〕
本発明に係る高炉用自溶性ペレットは、CaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上であって、平均粒径が10〜13mmで、粒径4mm以上8mm未満のものが6質量%以下、粒径15mm以上20mm未満のものが7質量%以下の粒径分布を有することを特徴とする。
【0014】
以下、上記本発明を構成する各要件についてさらに詳細に説明する。
【0015】
(スラグ組成)
自溶性ペレットのスラグ組成を規定するCaO/SiO質量比およびMgO/SiO質量比をともに所定値(0.8および0.4)以上に高くすることで、高温還元時におけるペレットの軟化・溶け落ち温度を高く維持でき、高温の被還元性を上昇させることができるためである。CaO/SiO質量比は、1.0以上、さらには、1.2以上、特に1.4以上とするのが好ましい。また、MgO/SiO質量比は、0.5以上、さらには0.6以上、特に0.7以上とするのが好ましい。ただし、CaO/SiO質量比およびMgO/SiO質量比を高くしすぎると、ペレット焼成時にCaOおよびMgO成分がスラグ化しにくくなり、焼成ペレットの強度が低下するとともに、CaOおよびMgO源としての石灰石およびドロマイトの使用量が増加してコスト増となるので、CaO/SiO質量比は2.0以下、さらには1.8以下、特に1.6以下とするのが好ましく、MgO/SiO質量比は1.1以下、さらには1.0、特に0.9以下とするのが好ましい。
【0016】
(粒径分布)
自溶性ペレットの平均粒径は、小さすぎると、被還元性は良好となるものの、高炉内の鉱石層、グレート上のペレット層とも通気性が低下し、他方、大きすぎると、高炉内の鉱石層、グレート上のペレット層とも通気性は改善されるものの、被還元性が低下する。よって、自溶性ペレットの平均粒径は10〜13mmの範囲、好ましくは11〜12mmの範囲とする。
【0017】
次に、平均粒径が上記規定範囲(10〜13mm、好ましくは11〜12mm)を満足していても、粒径4mm以上8mm未満の小粒径のペレットの割合および粒径15mm以上20mm未満の大粒径のペレットの割合が高くなると、ペレットの粒径分布が広がり、ペレットの充填が密となり、層空隙率が低下するので、高炉内の鉱石層、グレート上のペレット層とも通気性が低下する。また、粒径4mm以上8mm未満の小粒径のペレットの割合が高くなると、ペレットを含む鉱石を高炉内に装入したとき、その小粒径ペレットが鉱石層の底部に浸透し、コークス層にまで潜り込んで(松井ら,「高炉操業限界に至る非定常現象とその制御」,材料とプロセス,社団法人日本鉄鋼協会,2003年9月1日,第16巻,第16号,p.764−767参照)、コークス層の通気性を低下させたり、炉下部でその小粒ペレットが溶け落ちる際にコークスを劣化させたりする。
【0018】
よって、粒径4mm以上8mm未満の小粒径のペレットの割合は6質量%以下、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下とし、粒径15mm以上20mm未満の大粒径のペレットの割合は7質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下とする。
【0019】
上記スラグ組成および粒径分布をともに満足する自溶性ペレットは、高温での被還元性に優れるとともに、高炉内の鉱石層およびグレート上のペレット層の通気性を改善するため、このペレットの使用により、高炉の還元材比を維持ないし低減しつつ、生産性を向上できるとともに、ペレットの増産が可能となる。
【0020】
〔本発明に係る高炉用自溶性ペレットの製造方法〕
上記本発明に係る高炉用自溶性ペレットは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0021】
(原料配合工程)
鉄原料である鉄鉱石(ペレットフィード)に、CaOおよびMgOを含有する副原料として石灰石とドロマイトを配合し、CaO/SiO質量比が0.8以上(好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.4以上)、MgO/SiO質量比が0.4以上(好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上)になるように調整する。鉄鉱石および副原料は、必要により、事前にまたは配合後にボールミル等で粉砕して、配合原料の粒度が44μm以下、80質量%以上になるようにする。
【0022】
(造粒工程)
この配合原料に適量の水分を添加して、造粒機としてパンペレタイザまたはドラムペレタイザを用いて造粒し、生ペレットを形成する。生ペレットの粒径分布は、後段の焼成による収縮を考慮して、焼成後の自溶性ペレットの粒径分布(本発明が規定する粒度分布を満足する目標粒度分布)より、平均粒径をやや大きい側にシフトさせた粒径分布になるように設定する。生ペレットの粒径分布の設定は、下限の粒径を規定するシードスクリーンの篩目と、上限の粒径を規定するオーバーサイズスクリーンの篩目を調整することにより容易に行うことができる。シードスクリーンの篩下はそのまま造粒機に戻すとともに、オーバーサイズスクリーンの篩上は解砕して造粒機に戻すことにより、原料歩留(製造歩留)を低下させることなく、所望の粒径分布を得ることができる。なお、本発明が規定する焼成後のペレットの粒径分布を得るためには、従来よりシードスクリーンの篩目を大きくし、かつ、オーバーサイズスクリーンの篩目を小さくする必要があり、必然的に造粒機への戻し量が多くなるため、造粒機1台あたりの生ペレット生産能力が低下するので、造粒機の増強ないし増設が必要となる場合がある。
【0023】
(焼成工程)
上記のようにして成形された、所定の粒径分布を有する生ペレットは、焼成装置としてのグレート・キルンまたはストレートグレートの移動グレート上に充填され、そのペレット層に高温ガスを流通させることにより、乾燥、離水(必要な場合のみ)、予熱の各段階を経た後、前者ではロータリキルンで、後者ではそのまま移動グレート上で、1220〜1300℃の高温ガスで加熱され焼成されて自溶性ペレットが得られる。加熱焼成の温度は、使用する鉄鉱石の種類や、CaO/SiO質量比、MgO/SiO質量比等に応じて、上記温度範囲で適宜調整すればよい。
【0024】
得られた自溶性ペレットは、スラグ組成が本発明の規定するCaO/SiO質量比およびMgO/SiO質量比を満足するとともに、高温での加熱焼成により、生ペレットから収縮し、生ペレットの粒径分布から平均粒径がやや小さい側にシフトして、略上記目標粒度分布となり、本発明が規定する粒径分布を満足する。
【0025】
上記のようにして、既存のペレット工場の設備を用い、必要な場合にのみ造粒機の増強ないし増設を行うことにより、過度の設備コストの上昇を伴うことなく、本発明に係る自溶性ペレットを容易に製造することができる。
【実施例】
【0026】
本発明に係る自溶性ペレットを高炉に使用した際の効果を確証するため、下記に示すように、本発明の規定する成分組成を満足する、実機の自溶性ペレットを各粒径範囲ごとに篩い分け、この各粒径範囲ごとのペレットについて高温荷重還元試験を実施して、高温の被還元性を評価するための高温還元率(後述の間接還元率および直接還元率の総称)を測定し、この各粒径範囲ごとの高温還元率の実測値を用いて、種々の粒径分布を有するペレットの高温還元率の予測計算を行った。
【0027】
〔高温荷重還元試験〕
実機の自溶性ペレットとしては、出願人の加古川製鉄所内のペレット工場で製造された自溶性ドロマイトペレットを用いた。その成分組成を表1に示す。
【表1】

【0028】
(各粒径範囲のペレットの高温還元率の測定)
このペレットを、篩目が20mm、15mm、12mm、10mm、8mm、4mmの各篩で篩分けを行った。このペレットには、もともと20mmを超えるペレットは存在せず、また、4mm未満のペレットは、高炉への装入直前にスクリーンで除去されてから高炉に装入される。そこで、まず、上記篩い分けにより得られた、4〜8mm、8〜10mm、10〜12mm、12〜15mm、15〜20mmの各粒度範囲のペレットごとに、高温荷重還元試験を実施した。なお、例えば「4〜8mm」の表記は、「4mm以上8mm未満」を意味するものとする。
【0029】
ここに、高温荷重還元試験は、下記の試験条件に示すように、黒鉛るつぼ内に所定量の試料を充填し、一定の荷重を掛けつつ、昇温条件下にて還元ガスを流通させ、排ガス分析により、1000℃、1100℃および1200℃の各温度到達時点の還元率(間接還元率)と、試料充填層の圧損急上昇時点から試験終了時点(試料充填層の収縮完了時点)までの間の還元率(直接還元率)を算出し、これらの還元率の値により高温の被還元性を評価するものである。
【0030】
〔高温荷重還元試験の試験条件〕
・黒鉛るつぼ内径:43mm
・試料量:約87g(充填高さ:約33.5mm)
・荷重:1.0kgf/cm(=9.80665×10Pa)
・温度:[室温→1000℃]×10℃/min、[1000℃→溶け落ち終了]×5℃/min
・還元ガス:[30容量%CO+70容量%N]×7.2NL/min
【0031】
試験結果を表2ならびに図1および2に示す。
【表2】

【0032】
表2ならびに図1および2に示すように、ペレット粒径が大きくなるほど、間接還元率が低下し、直接還元率が上昇することがわかる。
【0033】
(粒径分布を有するペレットの高温還元率の予測計算)
次に、種々の粒径分布を想定し、それぞれの粒径分布を有するペレットの高温還元率(間接還元率および直接還元率)を、実際に高温荷重還元試験を行うことなく、上記各粒径範囲ごとの実測値に基づいて予測計算により求めた。具体的には、上記想定された粒径分布を有するペレットの高温還元率(間接還元率および直接還元率)は、上記各粒径範囲ごとの高温還元率(間接還元率および直接還元率)の実測値を、上記想定した粒径分布の各粒径範囲に存在するペレットの質量割合で加重平均することにより求めた。
【0034】
上記予測計算の結果を表3に示す。なお、同表においては、上述したように、4mm未満(−4mm)のものは、高炉前スクリーンで除去され、高炉には装入されないため、4mm未満(−4mm)のものを除外して、残りの粒径範囲のものを加重平均して高温還元率(間接還元率および直接還元率)を算出した。また、ペレット平均粒径は、各粒径範囲の平均径(代表径)を、各粒径範囲に存在するペレットの質量割合で加重平均して求めた値である。
【0035】
表3より、平均粒径は本発明の規定範囲内にあるものの、4mm以上8mm未満(4−8mm)および15mm以上20mm未満(15−20mm)の割合が本発明の規定範囲を超える、No.1および2の比較例に比べ、平均粒径はもちろんのこと、4mm以上8mm未満(4−8mm)および15mm以上20mm未満(15−20mm)の割合も本発明の規定範囲内にある発明例は、1000〜1200℃のいずれの温度にても間接還元率が1〜2%程度高く、かつ、直接還元率が約3%も低くなることがわかった。
【0036】
この結果から、単に、従来技術(特許文献1,2)の規定する成分組成を満足させるだけでなく、粒径分布をも本発明の規定範囲とすることで、自溶性ペレットの高温の被還元性が明確に改善されうることが確認できた。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】高温荷重還元試験における、ペレット平均粒径と間接還元率との関係を示すグラフ図である。
【図2】高温荷重還元試験における、ペレット平均粒径と直接還元率との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上であって、平均粒径が10〜13mmで、粒径4mm以上8mm未満のものが6質量%以下、粒径15mm以上20mm未満のものが7質量%以下の粒径分布を有することを特徴とする高炉用自溶性ペレット。
【請求項2】
鉄鉱石に、CaOおよびMgOを含有する副原料を配合してCaO/SiO質量比が0.8以上、MgO/SiO質量比が0.4以上になるように調整する原料配合工程と、この配合された原料を造粒して所定の粒径分布を有する生ペレットに成形する造粒工程と、この生ペレットを1220〜1300℃で加熱焼成して、平均粒径が10〜13mmで、4mm以上8mm未満が6質量%以下、15mm以上20mm未満が7質量%以下の粒径分布を有する自溶性ペレットとする焼成工程とを備えたことを特徴とする高炉用自溶性ペレットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate