説明

高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物

【課題】成形時の組成物粘度が低く抑えられ、熱硬化性エポキシ樹脂の耐熱性、機械的特性などの優れた諸特性をほとんど低下させず、かつ靭性や耐クラック性といったエポキシ樹脂の欠点を補いつつ熱伝導性に優れた熱伝導性熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、該熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)と、高熱伝導性無機充填剤(C)とを含み、少なくとも熱硬化性エポキシ樹脂(A)が連続相を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高熱伝導性と良好な加工性および成形性を併せ持ち、かつ機械強度などの実用的な物性をも兼ね備えた、高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性エポキシ樹脂は、電気絶縁特性、機械的特性、耐薬品性、接着特性などに優れており、各種分野における成形、接着材料として汎用されている。特に、その優れた電気絶縁特性から、熱硬化性エポキシ樹脂材料は、エレクトロニクス機器や電力および電気機器における電気絶縁用材料として欠くことのできない存在となっている。しかし、熱硬化性エポキシ樹脂材料は剛性が非常に高い反面、靭性や耐クラック性が低いという欠点がある。これらの欠点を補うために、スチレン系樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等とのポリマーアロイ化技術が種々提案されている。
【0003】
近年、それらエレクトロニクス機器、電力および電機機器は小型化、高性能化が著しく進展し、内部から発生する熱は増大の一途をたどっており、機器内部で発生した熱をいかにして効率よく放出するかが重要な課題となっている。しかしながら、樹脂材料は金属材料やセラミクス材料などの無機物に比べて熱伝導性が低く、機器で発生する熱を逃がしにくいという問題があった。このような問題を解決するために、樹脂材料の放熱性を高める手段として、高熱伝導性を有する無機粉末を多量に樹脂中に配合することで、樹脂の高熱伝導化を図る試みが広くなされている(例えば、特許文献1など)。
【0004】
しかし、樹脂中に多量の無機粉末を配合すると、樹脂組成物の粘度が著しく増大するため、成形性、加工性が大きく低下してしまい、注型成形、トランスファー成型等の成形が困難となる場合がある。また、多量の無機粉末を分散させた樹脂の硬化物は硬く機械的強度が劣るという問題点が存在する。
【0005】
このような問題点を解決するために、例えば特許文献2では、ポリアミド樹脂を海相とし、ポリフェニレンエーテル樹脂を島相とした複合樹脂組成物において、海相であるポリアミド樹脂中により多く熱伝導性充填材粒子が分散させることで、熱伝導性充填材粒子の分散密度が高くなり、より熱伝導性に優れた樹脂組成物が得られることが示されている。また、特許文献3では、熱可塑性ポリアミド樹脂と、スチレン系樹脂、メタクリル系樹脂もしくはアクリル系樹脂との複合樹脂組成物において、連続相とした熱可塑性ポリアミド樹脂に選択的に熱伝導性充填材粒子を分散させた高熱伝導性材料が報告されている。
【特許文献1】特開11−92627号公報
【特許文献2】特開平9−59511号公報
【特許文献3】特開2007−327010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような特定の相に熱伝導性充填剤粒子を分散し高熱伝導性樹脂組成物を得る従来の方法は、熱伝導性充填剤粒子を分散する相を形成する樹脂として熱可塑性樹脂を用いているために、樹脂成形の際に当該熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱しなくてはならないという欠点があった。また、従来の方法のように充填剤粒子を分散する相に熱可塑性樹脂を用いた場合、樹脂溶融粘度が高いので、成形性の観点から熱伝導性充填材粒子の配合量を多く出来ず、熱伝導性の改善が十分ではないという問題点が存在した。
【0007】
本発明はこのような現状に鑑み、成形時の組成物粘度を低く抑えることができ、熱硬化性エポキシ樹脂の耐熱性、機械的特性などの優れた諸特性をほとんど低下させず、かつ靭性や耐クラック性といったエポキシ樹脂の欠点を補いつつ熱伝導性に優れた高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明者は、熱硬化性エポキシ樹脂(A)とこの熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)とを含み、少なくとも上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)が連続相を形成している樹脂組成物(以下においてポリマーアロイということがある)に対して高熱伝導性無機充填剤(C)を分散させた場合、上記熱伝導率の向上とエポキシ樹脂の特性の維持に優れることを見出した。特に、上記樹脂組成物において、高熱伝導性無機充填剤(C)を熱硬化性エポキシ樹脂(A)が形成する相内に優先的に配置(分散)することにより、高熱伝導性無機充填剤(C)を少量使用した場合であっても、得られる樹脂組成物の熱伝導率を大幅に向上させること、および得られた樹脂組成物の機械的物性をほとんど犠牲にすることが無いことを見出した。また、熱硬化性エポキシ樹脂(A)を用いた結果、該樹脂は樹脂成形時に単量体として存在するので、成形時の温度や樹脂組成物粘度が低く抑えられ、優れた加工性特性を有することを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、該熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)と、高熱伝導性無機充填剤(C)とを含み、少なくとも熱硬化性エポキシ樹脂(A)が連続相を形成することを特徴とする。
【0010】
上記高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、該熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)との体積比が95/5〜20/80であることが好ましい。上記高熱伝導性無機充填剤(C)の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物の全量に対する体積充填率が5vol%〜80vol%であることが好ましい。また、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)が形成する相中に存在する上記高熱伝導性無機充填剤(C)の体積充填率が、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)が形成する相中に存在する上記高熱伝導性無機充填剤(C)の体積充填率よりも高いことが好ましい。
【0011】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物において、その組成物中で上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)は連続相を形成し、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)は連続相を形成するものでも、分散相を形成するものでもよい。
【0012】
また、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物において、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)が、分散相を形成する場合は、該樹脂は、熱可塑性樹脂により構成される外皮を有するアクリルゴム粒子を含み、該アクリルゴム粒子はその外皮表面にエポキシ基を有することが好ましい。
【0013】
本発明において、上記高熱伝導性無機充填剤(C)が、電気絶縁性を示すことが好ましい。また、上記高熱伝導性無機充填剤(C)が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高熱伝導性無機充填剤の使用量を低減させても、良好な熱伝導性を有する高熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。また、高熱伝導性無機充填剤の樹脂組成物における濃度を低濃度にできるので、樹脂組成物の成形加工性も維持でき、複雑な形状の成形が可能な電気絶縁性を有する高熱伝導性材料を得ることができる。しかも、従来技術である熱可塑性樹脂を用いる場合に比べて低粘度で上記効果が発現するので、より高い熱伝導性が求められる樹脂材料分野において非常に有用である。
【0015】
また、熱硬化性樹脂は一度硬化すると三次元の網目状に反応が進んで強固な硬化物となるので、上記特許文献1や上記特許文献2に記載されたポリアミド樹脂に代表される熱可塑性樹脂とは異なり、加熱により軟化および溶融して大きく変形するということはない。
【0016】
したがって、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、樹脂成形品、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂コーティングなどさまざまな形態で、電子材料、構造体材料、光学材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。
【0017】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、同分野で現在広く用いられている注型成形やトランスファー成形、圧縮成形等の一般的な樹脂成形方法が適用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。特に成形加工性、耐衝撃性、耐薬品性、熱伝導性などの重要な諸特性のバランスに優れていることから、発熱源を内部に有する電子、電気機器の絶縁材料や筐体材料用樹脂として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性エポキシ樹脂(A)(以下において成分(A)ということがある)と、該熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)(これらを以下において成分(B)ということがある)、高熱伝導性無機充填剤(C)(以下において成分(C)ということがある)の3成分を必須とするものである。この構成により、樹脂成形時に単量体である熱硬化性エポキシ樹脂(A)を用いるので、成形時の樹脂粘度が低く、硬化時に3次元網目構造を形成する熱硬化性エポキシ樹脂(A)が連続相を形成するため、加熱しても軟化および溶融して大きく変形することのない高熱伝導の樹脂材料を提供することができる。
【0019】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物おける成分(A)の熱硬化性エポキシ樹脂は、1分子当たり2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物である。
【0020】
このような熱硬化性エポキシ樹脂自体は従来公知であって、本発明ではそのような従来公知のエポキシ樹脂の中から合目的的な任意のものを用いることができる。本発明では、例えばグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型あるいは脂環型のものを用いることができる。グリシジルエーテル型のうち、二官能タイプのグリシジルエーテル型のものとしては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型などがあり、多官能タイプのグリシジルエーテル型のものとしては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型などがある。
【0021】
成分(A)の上記エポキシ樹脂は、常温において液状のものであっても固体状のものであってもよいが、本発明においては室温で液状または加熱することで溶融して液状となるものが好ましい。例えば、分子量が200MW〜5000MWのエポキシ樹脂を用いることが好ましく、分子量が300MW〜2000MWであることがより好ましい。
【0022】
本発明において、上記熱硬化性エポキシ樹脂としては、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせて使用する場合には、その組み合わせは特に限定されない。例えば、モノマー単位が異なるもの、共重合モル比が異なるもの、分子量が異なるもの等を任意に組み合わせることができる。
【0023】
本発明においては上記熱硬化性エポキシ樹脂を硬化するために、エポキシ樹脂用硬化剤を含むものとする。このようなエポキシ樹脂用硬化剤も公知であって、本発明ではそのような公知のものの中から合目的的な任意のものを用いることができる。
【0024】
本発明では、成分(A)のエポキシ樹脂用硬化剤として、例えばジシアンジアミド、芳香族または脂環式ポリカルボン酸などのポリカルボン酸無水物、ポリアミン、ポリアミドなどを使用することができる。より好ましくは、ポリカルボン酸無水物、特に芳香族または脂環式ポリカルボン酸無水物を用いることが望ましい。このうち特に好ましいカルボン酸無水物の具体例としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリメリット酸無水物などを挙げることができる。これらのエポキシ樹脂用硬化剤は1種用いればよいが、2種以上を混合して用いてもよい。上記のようなカルボン酸無水物を用いることで、樹脂組成物粘度が低く抑えられ、加工性および成形性の優れた樹脂組成物を得ることが出来る。
【0025】
本発明では、上記エポキシ樹脂用硬化剤とあわせて硬化促進剤を使用することも好ましい。例えば、エポキシ樹脂用硬化剤としてジシアンジアミド、ポリカルボン酸無水物が使用される場合には、硬化促進剤は第三級アミンまたはその塩、第四級アンモニウム化合物、イミダゾール、アルカリ金属アルコキシドなどが適している。
【0026】
上記硬化促進剤は、成分(A)の熱硬化性エポキシ樹脂組成物中の有機成分に対して、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.05〜20重量%配合することが好ましい。0.01重量%未満では、熱硬化性樹脂の硬化促進作用が小さい傾向があり、30重量%をこえると、極端に硬化が速くなり、成形性や保存安定性を損なう傾向にある。
【0027】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物には、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)以外の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)を含む。このような成分(B)は、従来公知であって、本発明ではそのような従来公知の樹脂群の中から合目的的な任意のものを用いることが出来る。上記合目的的とは、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物の使用部位に求められる各種特性を有することを示すことであり、熱硬化性エポキシ樹脂(A)のみでは得られにくい樹脂組成物の特性を、成分(B)を用いることで満足することである。例えば、機械強度、接着性、強靭性、耐クラック性、耐熱性、難燃性、耐溶剤性などの特性を、成分(B)を用いることで向上させることが出来る。本発明では、これらの特性の中から樹脂組成物の使用部位に求められる特性を満たし得る成分(B)を任意に用いることが出来る。
【0028】
上記成分(B)における熱可塑性樹脂としては、汎用プラスチックのみならずエンジニアリングプラスチックも使用することができる。熱可塑性樹脂としては、とくに限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、アイオノマー、ポリスチレン、AS樹脂(アクリロニトリルスチレン共重合体樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、EVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)、ポリカーボネート、芳香族または脂肪族ポリエステル、熱可塑性ポリウレタン、セルロース系プラスチック、熱可塑性エラストマー、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルエーテル、ポリベンズイミダゾール、アラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールなどをあげることができる。
【0029】
上記成分(B)における熱硬化性樹脂としては、加熱すると三次元の網目状を形成する熱硬化性樹脂を使用することができる樹脂であって、このような熱硬化性樹脂は、とくに限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性樹脂ポリウレタン、ゴムなどをあげることができる。なお、本発明において、成分(B)における熱硬化性樹脂には、上記成分(A)における熱硬化性エポキシ樹脂は含まない。
成分(B)にエポキシ樹脂を用いる場合は、成分(A)と相溶性の低い樹脂を用いることが必要である。例えば、両成分の分子量が大きく異なることや、樹脂の溶解度パラメータが大きく異なることなどが必要である。
【0030】
本発明における成分(B)は、常温において液状のものであっても固体状のものであってもよい。例えば、常温で固体状のゴム微粒子などでもよい。ゴム微粒子としては、例えばシリコーンゴム、シリコーンゲル、MBSゴム、アクリルゴムなどからなる微粒子を好ましいものとして例示することができる。ゴム微粒子の平均粒径は、0.1〜5μmであることが好ましく、特に0.3〜1μmが好ましい。ゴム微粒子が上記平均粒径を満たす場合は、成分(A)への分散性が高く、樹脂組成物の粘度上昇が少なくなるので好ましい。なお、本発明において、上記平均粒径とは、一次粒子の体積基準の平均直径であって、レーザー散乱法もしくは光散乱法によって算出された体積基準の平均粒径値のことをいう。
【0031】
また、上記ゴム微粒子として、コア/シェル構造をとるもの、即ち、粒子の中心部に位置するコア(核)をシェル(外皮)が被覆している構造を有するものも使用できる。例えば、コアとしてはアクリルゴム、MBSゴムまたはシリコーンゴム、シェルとしてはアクリルゴムまたは架橋化処理済みゴムを用いた構造が例示される。中でも、熱可塑性樹脂の外皮を有し、かつその粒子表面(外皮表面)にエポキシ基を有するアクリルゴム粒子(以下において、含エポキシ基複合アクリルゴム粒子という)が好ましい。この構成により、成分(A)が形成する相と成分(B)が形成する相との界面において化学結合が形成されるため、少量の成分(B)添加により耐クラック性の大幅な向上を図ることができる。
【0032】
上記含エポキシ基複合アクリルゴム粒子は、好ましくは、平均粒径0.05〜1.0μm程度の核となるアクリルゴム粒子、例えばアクリル酸アルキルエステルを主成分とするアクリルゴムからなる粒子を、熱可塑性樹脂で覆った平均粒径0.1〜2.1μm程度の粒子であり、その表面にエポキシ基を有する。核を形成するアクリルゴム粒子を覆う熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂またはこれらの共重合体等を使用することができるが、これらのなかでもアクリル樹脂を用いた場合は、注型材料の機械的強度、電気的特性を向上させることができるので好ましい。シェルを形成するこれらの熱可塑性樹脂は、核となるアクリルゴム粒子に対して1〜50重量%程度であって、例えば、0.01〜0.5μmの厚さでアクリルゴム粒子を覆っていることが好ましい。このような構造の含エポキシ基複合アクリルゴム粒子は、一般には、次のようにして製造することができる。即ち、まず、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、またはアクリロニトリル等のモノマーからなる共重合体を、2−クロロエチルビニルエーテル等の含ハロゲン化合物、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチリデンノルボルネンなどの化合物で架橋してラテックス状のアクリルゴムを得る。次いで、このアクリルゴムにメチルメタクリレートおよびメタクリル酸グリシジル等を成分とするモノマーをグラフト重合することによって製造することができる。また、メタクリル酸グリシジルに代えて、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等を用いて表面に水酸基を有する複合アクリルゴム粒子を製造し、さらに、常法によって、例えばエピクロルヒドリン等の化合物を結合させることにより得ることもできる。上記平均粒径とは、一次粒子の体積基準の平均直径であって、レーザー散乱法もしくは光散乱法によって算出された体積基準の平均粒径値のことをいう。
【0033】
上記含エポキシ基複合アクリルゴム粒子は、既にその表面にエポキシ基を有しているが、エポキシ基に換えて、熱硬化性エポキシ樹脂または酸無水物などの硬化促進剤と反応する他の官能基、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などを有していてもよい。このような官能基は、複合アクリルゴム粒子のコアとなるアクリルゴムに、メチルメタクリレート、およびカルボキシル基、アミノ基、水酸基などを含有したメタクリル酸誘導体を成分とするモノマーをグラフト重合することによって、上記複合アクリルゴム粒子の表面に存在させることができる。
【0034】
本発明において、上記成分(B)は1種類のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせて使用する場合には、その組み合わせは特に限定されず、任意に組み合わせることができる。
【0035】
本発明において、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、該熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)との混合比[(A)/(B)]は、体積比で、95/5〜20/80であることが好ましい。(A)の混合割合が上記混合比95/5を超える場合は、得られる成形品の耐衝撃性等が低下する傾向があり、20/80未満の場合は、得られる成形品の熱安定性や耐溶剤性等が低下する傾向がある。本発明の高熱伝導性硬化性樹脂組成物は相分離構造を有しており、少なくとも熱硬化性エポキシ樹脂(A)が連続相構造を形成していることが必要である。そして他の樹脂成分である成分(B)が島構造又は実質的に連続相構造を形成する様にそれぞれの比率を決めればよい。これらの相分離構造は、上記成分(A)と成分(B)との混合比により調整することができる。
【0036】
熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、該熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂(B)との混合によって得られる樹脂組成物は、その硬化物中で、一般には、成分(A)と成分(B)とがともに連続相を形成する組成物、成分(A)が連続相を形成し、成分(B)が分散相を形成する組成物、成分(A)が分散相を形成し、成分(B)が連続相を形成する組成物、成分(A)と成分(B)とが均一相を形成する組成物をあげることができる。本発明における高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物としては、図1に示すように、その硬化物中で成分(A)と成分(B)がともに連続相を形成する組成物、または、図2に示すように、成分(A)が連続相を形成し、成分(B)が分散相を形成する組成物を用いることが好ましい。このような相構造とすることによって、得られる樹脂組成物の靭性、耐クラック性をより向上させることができる。ここで、図1は、上記のように成分(A)1と成分(B)2とが連続相を形成する場合の模式図であって、高熱伝導性無機充填剤3が分散した様子を示すものである。また、図2は、成分(A)1が連続相を形成し、成分(B)2が分散相を形成する場合の模式図であって、高熱伝導性無機充填剤3が分散した様子を示すものである。図1および図2における外枠は、便宜上記載したものである。本発明において連続相構造とは、例えば2相の相分離を持つ場合、他の相に完全に覆われずに、当該の相が三次元的に連続して形成されている相のことを示す。本発明に関して言えば、例えば成分(A)よりなる相のうち、成分(B)よりなる相に完全に覆われていない相が、成分(A)よりなる連続相である。島構造(分散相構造)とは他の相に完全に覆われており、当該の相の連続性が途切れている相のことを示す。本発明に関して言えば、例えば成分(B)よりなる相であって、成分(A)よりなる相に完全に覆われて連続性が途切れた孤立した相が成分(B)よりなる分散相である。なお、上記説明において、成分(A)と成分(B)とが入れ替えられた態様についても、同様に説明することができる。これらの相構造は電子顕微鏡などを用いた観測により確認することができる。
【0037】
たとえば、成分(A)と成分(B)とが完全非相溶である場合には、成分(A)と成分(B)とを加熱溶融して機械的に混合することによって所望の相構造にする方法、成分(A)と成分(B)をともに溶解する溶剤に溶解させて所望の相構造にする方法、加熱溶融させた成分(A)中に粉末状の成分(B)を機械的に混合させる方法、成分(A)のみが溶解する溶剤に成分(A)を溶解させ、粉末状の成分(B)を機械的に混合する方法、などによって、硬化物中で成分(A)が連続相を形成する熱硬化性樹脂組成物を製造することができる。これらの方法のなかで工業的に最も多く用いられているのは、機械的に混合する方法であり、押出し機による混練混合による製法である。この方法は融解状態でせん断力により練り合わせるもので、このために練り合わせの効果の大きな2軸以上の多軸押出し機などが用いられている。このようにして製造されたポリマーアロイでは、一般的には互いに分子レベルまで高分子同士が混じり合うことは少なく、混合する高分子の種類と混合割合、溶融体同士の界面張力、また溶融時の相互の粘度の関係などで、もっとも多くの割合を占める高分子を連続相として、少量割合で混合された高分子が分散相となって連続相中に分散する構造となる場合が多い。
【0038】
また、たとえば、成分(A)と成分(B)とが一旦均一に相溶し、そののち相分離する場合には、成分(A)と成分(B)とが下限臨界共溶温度(LCST)型相図を示すときは、より高温で成形することによって成分(A)を連続相にする方法などによって、また、成分(A)と成分(B)が上限臨界共溶温度(UCST)型相図を示すときは、より低温で成形することによって成分(A)を連続相にする方法などによって、硬化物中で成分(A)が連続相を形成する高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物を製造することができる。
【0039】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物がLCST型およびUCST型相図を示すときの具体的な成形温度は、用いる熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の組み合わせによって大きく変動し、また、同じ組成であってもその配合量、硬化速度(触媒量)などによっても変動するが、これら条件を考慮して適宜選定することができる。
【0040】
このような相構造を有する場合、後述のように高熱伝導性無機充填剤(C)を熱硬化性エポキシ樹脂(A)に多く分散すると、後述の成分(C)が相互に接触しあって熱を伝えることにより、樹脂組成物全体の熱伝導性をより向上させることとなる。
【0041】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物には、高熱伝導性無機充填剤(C)が含まれる。このような成分(C)を含むことによって、樹脂組成物の熱伝導性を改善することができる。
【0042】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物に配合する高熱伝導性無機充填剤(C)は、単体での熱伝導率が2.0W/m・K以上のものを用いることが好ましい。成分(C)の単体での熱伝導率が2.0W/m・K未満の場合は、得られる樹脂組成物の熱伝導率を向上させる効果が十分でない場合がある。単体での熱伝導率は、より好ましくは5W/m・K以上、さらに好ましくは8W/m・K以上、最も好ましくは20W/m・K以上、特に好ましくは30W/m・K以上のものが用いられる。高熱伝導性無機充填剤(C)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましい。
【0043】
高熱伝導性無機充填剤(C)としてはよく知られた種々の無機化合物を用いることが可能である。例えば、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ニッケルなどの金属およびこれら金属の合金、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属窒化物、炭化ケイ素などの金属炭化物、カーボン、グラファイト、ダイヤモンドなどの炭素材料、等を例示することができる。
【0044】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物を電子デバイス用途に使用する際には、電気絶縁性を要求されることが多い。このような用途に本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物を用いる場合は、高熱伝導性無機充填剤(C)としては電気絶縁性を示す化合物を用いることにより、電気絶縁性を有する樹脂組成物を提供することが可能となる。電気絶縁性とは具体的には、10Ω・cm以上、好ましくは105Ω・cm以上、より好ましくは1010Ω・cm以上、最も好ましくは1013Ω・cm以上のものを用いるのが好ましい。電気抵抗率の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。このような特性の無機充填剤を用いることによって、本発明の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体(硬化物)の電気絶縁性を上記範囲とすることが可能となる。
【0045】
このような電気絶縁性を示す上記成分(C)とは、具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属窒化物、炭化ケイ素などの金属炭化物、を用いることができる。中でも電気絶縁性に優れることから、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属窒化物、をより好ましく用いることができる。これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。なおこれら金属酸化物や金属窒化物の中でも金属の種類によっては半導体としての特性を示す場合があるが、その場合でもできるだけ電気伝導度の低いものを選択するのが好ましい。
【0046】
高熱伝導性無機充填剤(C)の形状については、種々の形状のものを適応可能である。例えば粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、液体、など種々の形状を例示することができる。
【0047】
これら高熱伝導性無機充填剤(C)を効率よく樹脂成分と混合するためには、球状に近い形状を有する微粒子、あるいは液体状化合物用いるのが好ましい。高熱伝導性無機充填剤(C)の平均体積粒径は特に制限されるものではないが、中でも体積平均粒子径が1nm以上100μm以下の金属酸化物微粒子または金属窒化物微粒子を用いたときに、高熱伝導性無機充填剤(C)が熱硬化性エポキシ樹脂(A)の相構造のサイズに比べて小さくなるため、高熱伝導性無機充填剤(C)を熱硬化性エポキシ樹脂(A)の相内に優先的に存在させることができるので好ましい。また、このようなサイズとすることで樹脂組成物と高熱伝導性無機化合物との溶融混練作業が容易に実施できることとなる。
【0048】
上記体積平均粒子径が100μmを超えると、微細な構造の成形性が低下したり、樹脂組成物の衝撃強度が低下したりする傾向が見られるほか、粒子サイズが熱硬化性エポキシ樹脂(A)の相構造のサイズと比べて大きくなるため、粒子を熱硬化性エポキシ樹脂(A)中に選択的に存在させることが困難となる傾向がある。また体積平均粒子径が1nm未満では、無機充填剤の表面積が莫大となるため、樹脂組成物粘度が著しく上昇したり、無機充填剤の表面における熱抵抗が増大し、熱伝導性が低下したりする傾向が見られる。
【0049】
上記体積平均粒子径はより好ましくは10nm〜50μmであり、さらに好ましくは50nm〜40μmである。なお、本発明における体積平均粒子径とは、粉体の外観を電子顕微鏡や光学顕微鏡などで観察し、円の直径を計測し体積平均を算出する方法により決定した値で定義されるものである。なお、観察される粉体の外観が円形で無い場合には同面積の円形に換算した後、円の直径を求め体積平均を算出して決定する値を体積平均粒子径とする。
【0050】
これら高熱伝導性無機充填剤(C)を添加する際には、樹脂と無機充填剤との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤など、従来公知のものを使用することができ、表面処理法は通常の処理方法を利用できる。
【0051】
上記高熱伝導性無機充填剤(C)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0052】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物の全量に対する上記高熱伝導性無機充填剤(C)の配合量は体積充填率が5vol%から85vol%となるよう含有することが好ましい。体積充填率が5vol%より少ないと、熱伝導性改善効果が劣るため好ましくない。体積充填率の下限は好ましくは15vol%以上、より好ましくは30vol%以上、最も好ましくは40vol%以上である。また体積充填率が85vol%より多いと、得られる成形品の耐衝撃性、表面性、成形加工性が低下するうえ、溶融混練時の樹脂との混練が困難となる傾向がある。体積充填率の上限は好ましくは80vol%以下、より好ましくは75vol%以下、最も好ましくは70vol%以下である。このような高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物の全量に対する全体の体積充填率は、組成物中の各成分(成分(A)、成分(B)および成分(C))の重量と比重より各成分の体積を求め、それらを用いて、「成分(C)の体積/(成分(A)の体積+成分(B)の体積+成分(C)の体積)」より算出できる。
【0053】
本発明において、成分(A)が形成する相における成分(C)の体積充填率は、成分(B)が形成する相における成分(C)の体積充填率よりも高いことが好ましい。具体的には成分(A)が形成する相における成分(C)の体積充填率が50〜80vol%とすると、成分(B)が形成する相における成分(C)の体積充填率が10〜40vol%であることが好ましい。このような各相における体積充填率は、得られた樹脂組成物の任意の複数の断面を電子顕微鏡で観測し、観測領域における成分(A)および成分(B)の相中に存在する無機粒子の面積を計測し、面積比から体積比に換算することによって、成分(A)相およびの成分(B)相内に存在する成分(C)の体積充填率を算出できる。この場合、上記成分(C)は、上記成分(A)に対してより多く分散し、かつ、成分(B)に対して分散しにくいものでなければならないが、この特性は成分(C)そのものが本来先天的に有する特性であっても、熱伝導性充填材粒子を表面改質処理して後天的に上記特性が付与されたものであってもよい。熱硬化性エポキシ樹脂である成分(A)中への分散性をより高めるために、上記成分(A)との親和性の高い表面修飾剤を用いて成分(C)を表面修飾することが望ましい。用いる表面修飾剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤など、従来公知のものを使用することができる。シランカップリング剤としては具体的には、エポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシランなどが、上記成分(A)との化学結合を良好に形成できるためにより好ましい。高熱伝導性無機充填剤(C)の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0054】
なお、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物において、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)が形成する相中に存在する上記高熱伝導性無機充填剤(C)の体積充填率が、上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)が形成する相中に存在する上記高熱伝導性無機充填剤(C)の体積充填率よりも高いとは、質量的かつ容積的に、分散した成分(C)の大半、例えば90%以上が(A)相中に存在し、極僅かに成分(C)が成分(A)が形成する相以外の成分(B)が形成する相中にも存在している状態をいう。
【0055】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、成分(A)や成分(B)成分以外の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を更に添加してもよい。このような任意成分の樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリサルホン系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素化ポリオレフィン系樹脂、等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
また、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などの酸化防止剤や、リン系安定剤などの熱安定剤などの添加剤を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加することが好ましい。更に必要に応じて、一般に良く知られている、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等のその他添加剤を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0057】
上記分散剤としては、樹脂型分散剤やアニオン性の極性基等を有する分散剤を用いることが出来る。樹脂型顔料分散剤としては、例えば、Solsperse 24000(ゼネカ株式会社製)、アジスパーPB821(味の素社製)、Disperbyk-160、Disperbyk-161、Disperbyk-162、Disperbyk-163、Disperbyk-170(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。アニオン性の極性基を有する分散剤としては、具体的には、ビックケミー・ジャパン社の商品名Disperbykシリーズ、すなわち、Disperbyk−111、Disperbyk−110、Disperbyk−116、Disperbyk−140、Disperbyk−161、Disperbyk−162、Disperbyk−163、Disperbyk−164、Disperbyk−168、Disperbyk−170、Disperbyk−171、Disperbyk−174、Disperbyk−180、Disperbyk−182等を例示することができ、その他、分散剤として従来公知の一般に市販されているものを使用することもでき、上記例示に限定されるものではない。
【0058】
本発明においては、上記成分(A)、成分(B)を硬化物中の所望の相構造になるように、上記成分(A)の連続相を形成する方法にしたがって混合する。このような混合の際に、成分(A)および成分(B)にあわせて、上記成分(C)や必要に応じて上記添加剤等を混合して、高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物を得る。この樹脂組成物に対して、上記エポキシ樹脂用硬化剤と、適宜、上記硬化促進剤などを混合したものを成型して、その後加熱により硬化させることによって、所望の硬化物を得ることができる。硬化条件は、用いる樹脂や硬化剤および硬化促進剤などの添加剤により調整されるが、いずれも、成分(A)と成分(B)の混合物の相図において、相分離領域の両成分の混合比や温度によって硬化することで相分離状態を形成できる。その際、最も多くの割合を占める高分子を連続相として、少量割合で混合された高分子が分散相となって連続相中に分散する構造となる場合が多いが、硬化温度や硬化反応の速度の調整によって、両成分が連続相を形成することも出来る。本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物よりよ得られる硬化物は、その熱伝導性が従来の樹脂組成物を用いた硬化物に比べて改善されたものであり、発熱源を内部に有する電子、電気機器の絶縁材料や筐体材料用樹脂として非常に有用である。
【0059】
なお、本発明における上記成分(C)としては無機充填剤を用いるが、有機化合物であっても上記成分(C)と同様に樹脂相に分散される熱伝導性を有する粒子等を添加することにより、本発明の効果を奏することもある。
【実施例】
【0060】
以下、具体的に実施例をあげて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
以下の実施例および比較例において、熱硬化性エポキシ樹脂(A)には、油化シェルエポキシ(株)製のエピコート828(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)を用いた。また、エポキシ樹脂用硬化剤としては、日本ゼオン(株)製のクインハード200(メチルテトラヒドロフタル酸無水物)または日立化成(株)製の無水メチルハイミック酸(無水メチルハイミック酸)を、硬化促進剤としては、油化シェルエポキシ(株)製のエピキュアIBMI−12(1−イソブチル−2−メチルイミダゾール)を用いた。また、分散剤としてビックケミー・ジャパン製のBYK−111(リン酸エステル系界面活性剤)を用いた。
【0062】
上記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)としては、ロームアンドハーツ・ジャパン(株)製のコア−シェル型のアクリルゴム粒子(EXL2314)、またはテイジンアモコエンジニアリングプラスチック(株)製のガラス転移温度が約220℃のポリエーテルスルホン(PES:レーデルA)を用いた。該アクリルゴム粒子は、コアがアクリルゴムからなり、シェルがアクリル樹脂からなり、その表層(最表面から0.02μmの深さ)および表面にエポキシ基を有する含エポキシ基複合アクリルゴム粒子から構成された2層構造のゴム粒子であり、その一次粒子は粒径が0.1〜0.6μm程度の微小粒子である。
【0063】
高熱伝導性無機充填剤(C)としては、電気化学工業(株)製の平均粒径が約5μmのアルミナ粉末(DAW−05)、約45μmのアルミナ粉末(DAW−45)、約10μmのアルミナ粉末(DAW−10)を用いた。これらのアルミナ粉末の単体での熱伝導率は、36W/m・Kであり、電気絶縁性は、1×1016Ω・cmである。
【0064】
(実施例1〜4)
表1に示す配合割合にしたがい、予め120℃に加熱した乳鉢に予めEXL2314を指定質量部数分散させたエピコート828、クインハード200、分散剤BYK−111をそれぞれ加え、そこに120℃で加熱したアルミナを表1に示す所定部数添加し、自動乳鉢にて30分攪拌した。その後硬化促進剤を加え、5分自動乳鉢にて攪拌、脱泡後アルミシャーレ等に流し込み所定の試験片形状に注型した。硬化条件は120℃で2時間、その後150℃で4時間の計6時間として、本発明の高熱伝導性硬化性樹脂組成物の硬化物(試料硬化物)を得た。得られた硬化物においては、成分(A)が連続相を形成しており、成分(B)が分散相を形成していることを電子顕微鏡により確認した。
【0065】
(実施例5)
表1に示す配合割合にしたがい、エピコート828、無水メチルハイミック酸およびPES(レーデルA)をフラスコ中140℃で5時間混合したのち、得られた混合物にアルミナ粒子を加え150℃に予熱した自動乳鉢で30攪拌した。その後、硬化促進剤を添加して5分間自動乳鉢にて攪拌、脱泡後アルミシャーレ等に流し込み所定の試験片形状に注型した。硬化条件は120℃で8時間として、本発明の高熱伝導性硬化性樹脂組成物の硬化物(試料硬化物)を得た。得られた硬化物においては、成分(A)および成分(B)がともに連続相を形成していることを電子顕微鏡により確認した。
【0066】
【表1】

【0067】
<粘度評価>
得られた樹脂組成物の粘度は、東機産業(株)製ビスコブロックVTB−10を用いて行った。測定温度は80度とした。測定結果は表3中、「組成物粘度」として記す。
【0068】
<ガラス転移温度評価>
3mm×5mm×5mmの形状をした試験片を用い、試料硬化物のガラス転移温度はMAC Science社製の熱機械分析装置を用いて求めた。測定により得られた熱膨張率曲線より、硬化物のガラス領域とゴム領域との熱膨張率曲線の接線の交点よりガラス転移温度を求めた。
【0069】
<曲げ強度評価>
3mm×10mm×85mmの形状をした試験片を用い、JIS規格−K6911に準じて、オートグラフ試験機により、クロスヘッドスピード1.5mm/分、スパン間距離48mmとして、三点曲げ試験により求めた。
【0070】
<曲げ弾性率評価>
3mm×10mm×85mmの形状をした試験片を用い、JIS規格−K6911に準じて、オートグラフ試験機により、クロスヘッドスピード1.5mm/分、スパン間距離48mmとして、三点曲げ試験により求めた。
【0071】
<熱伝導率の評価>
試料硬化物の熱伝導率は京都電子工業(株)製の迅速熱伝導率計を用い、細線加熱法(ホットワイヤ法)にて測定した。直径60mm、厚さ12mmの円盤状試料を装置に取り付け1分間静置後測定を開始し、熱伝導率を測定した。
【0072】
<耐クラック指数評価>
樹脂組成物の耐クラック指数の測定は、鉄製(SS400)のオリファントワッシャーを埋め込んだ試験片を使用して行った。硬化させた試験片を高温(気相30分)と低温(液相10分)に交互に晒し、熱衝撃を与えた際にオリファントワッシャーと樹脂硬化物の熱膨張率の差によって生じるクラックを観測した。試験片に与える熱衝撃は表2に示すよう徐々に大きな熱衝撃を与えた。試験片にクラックが観測された時点をその試験片のクラック指数とし、3個以上の試験片のクラック指数の平均値を求めた。試験片の高温側加熱には送風定温乾燥機を用い、低温側の冷却にはドライアイス−アルコール溶液を用いた。
【0073】
【表2】

【0074】
(比較例1)
使用する樹脂やアルミナの量を表1に示すように変更した以外は実施例1〜5と同様にして所定の評価用試験片を得た。試験片の評価方法も実施例1〜5と同様である。
【0075】
表3に実施例および比較例でのそれぞれの評価結果を示す。
【0076】
【表3】

【0077】
上記表3の結果から、全ての実施例で得られた試料硬化物は、組成物粘度が低く、熱伝導率に優れ、耐熱性、機械的強度、耐クラック性においても高い測定評価が得られた。一方、比較例1では、成分(B)が含まれないため熱伝導率、耐クラック性が低い。このことから、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は良好な成形性を備え、熱伝導性および機械的強度に優れ、しかも耐クラック指数が大幅に向上していることがわかる。
【0078】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0079】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、樹脂成形品、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂コーティングなどさまざまな形態で、電子材料、構造体材料、光学材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。
【0081】
また、本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物は、このような樹脂組成物が現在広く用いられている注型成形やトランスファー成形、圧縮成形等の一般的な樹脂成形方法が適用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。特に成形加工性、耐衝撃性、耐薬品性、熱伝導性などの重要な諸特性のバランスに優れていることから、発熱源を内部に有する電子、電気機器の絶縁材料や筐体材料用樹脂として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物において、成分(A)と成分(B)とが連続相を形成する場合の模式図であって、高熱伝導性無機充填剤が分散した様子を示すものである。
【図2】本発明の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物において、成分(A)が連続相を形成し、成分(B)が分散相を形成する場合の模式図であって、高熱伝導性無機充填剤が分散した様子を示すものである。
【符号の説明】
【0083】
1 熱硬化性エポキシ樹脂(A)、2 熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)、3 高熱伝導性無機充填剤(C)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)と、高熱伝導性無機充填剤(C)とを含み、
少なくとも前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)が連続相を形成する、高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)との体積比は、95/5〜20/80である、請求項1に記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記高熱伝導性無機充填剤(C)の前記高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物の全量に対する体積充填率が5vol%〜80vol%である、請求項1または2に記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)が形成する相における前記高熱伝導性無機充填剤(C)の体積充填率は、前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)が形成する相における前記高熱伝導性無機充填剤(C)の体積充填率よりも高い、請求項1〜3のいずれかに記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)と、前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)とは、ともに連続相を形成する、請求項1〜4のいずれかに記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)は連続相を形成し、前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)は分散相を形成する、請求項1〜4のいずれかに記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱硬化性エポキシ樹脂(A)を除く熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性樹脂からなる外皮を有するアクリルゴム粒子を含み、該アクリルゴム粒子の外皮表面にエポキシ基を有する、請求項6に記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記高熱伝導性無機充填剤(C)は電気絶縁性を示す、請求項1〜7のいずれかに記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記高熱伝導性無機充填剤(C)は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の高熱伝導性熱硬化性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132838(P2010−132838A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312483(P2008−312483)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】