高窒素鋼の製造方法
【課題】高窒素鋼を加圧雰囲気で製造する際に、過大な製造装置を必要とすることなく、ガス欠陥を生じることなく造塊を行うことができる製造方法を得る。
【解決手段】窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させるので、物性値の情報によって確認試験を実施する必要も無く操業条件が決定できる。前記窒素分圧と前記全圧の調節は、過剰窒素指数INDEX(1)またはINDEX(2)が0よりも小さい値を持つようにして行うことができる。
【解決手段】窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させるので、物性値の情報によって確認試験を実施する必要も無く操業条件が決定できる。前記窒素分圧と前記全圧の調節は、過剰窒素指数INDEX(1)またはINDEX(2)が0よりも小さい値を持つようにして行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高窒素鋼の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、窒素を多量に含有する合金鋼において、ガス欠陥のない健全な鋼塊を得るための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼や耐熱鋼などの合金鋼において、窒素含有量を高めて耐食性や耐酸化性を向上させ、且つ室温強度や高温強度も向上させる試みがなされており、特許文献1や特許文献2のように高窒素鋼とその製造方法が提案されている。
一方で、窒素を多量に含有する合金鋼を製造する場合、常圧で鋳造した鋼塊はブローホールやポロシティと呼ばれる多くのガス欠陥を含むことがあり、圧延や鍛造時に割れの原因になったり、製品に残存して機械的特性の劣化を招いたりする。
そのため、このようなガス欠陥の生成を防止するため、従来から特許文献3や特許文献4、5のような、加圧雰囲気下で溶解し鋳造する方法が提案されている。
【0003】
一般に、窒素ガスを含む雰囲気においては、合金鋼の溶湯の平衡窒素溶解度は、各合金化学成分の質量パーセントと日本学術振興会が推奨する相互作用助係数を用いて下記の式3により求めることができる(非特許文献1参照)。
Log[%N]e=−518/T−1.063−0.007*[%Ni]−(−148/T+0.033+(1.56/T−0.00053)*[%Cr])*[%Cr]−(−33.2/T+0.0064)*[%Mo]−(−1420/T+0.635)*[%V]−(280/T+0.0816)*[%Nb]+0.002*[%W]−0.012*[%Co]−0.01*[%Al]−0.13*[%C]−0.048*[%Si]+0.02*[%Mn]−0.007*[%S]−0.059*[%P] ・・・(式3)
ここで、[%N]e:1気圧における平衡窒素溶解度(質量パーセント)、T:溶鋼の温度である。
【0004】
また、常圧以下の雰囲気においては、溶鋼の平衡窒素溶解度はSievertzの法則に従うことが知られており、上記式によって求められた1気圧における平衡窒素溶解度と窒素分圧の1/2乗を用いて、下記の式4のように求めることができる。
[%N]N2=[%N]e*PN21/2 ・・・(式4)
ここで、[%N]N2:窒素分圧PN2気圧における平衡窒素溶解度(質量パーセント)、PN2:窒素分圧(atm)である。
【0005】
窒素分圧が常圧以上10気圧以下の加圧雰囲気下においては、これらの式に窒素自身の相互作用助係数を加えた下記式5が成り立つことを発明者らは見出しており、合金鋼に添加する窒素量から必要となる窒素分圧を決定することができることから、溶解時に窒素分圧を調節することによって所定の窒素量を歩留り良く溶鋼に添加することが可能である。
Log[%N]N2=−518/T−1.063+1/2*Log(PN2)−0.007*[%Ni]−(−148/T+0.033+(1.56/T−0.00053)*[%Cr])*[%Cr]−(−33.2/T+0.0064)*[%Mo]−(−1420/T+0.635)*[%V]−(280/T+0.0816)*[%Nb]+0.002*[%W]−0.012*[%Co]−0.01*[%Al]−0.13*[%C]−0.048*[%Si]+0.02*[%Mn]−0.007*[%S]−0.059*[%P]−(0.051−0.0034*[%N])*[%N] ・・・(式5)
ここで、[%N]N2:窒素分圧PN2気圧における平衡窒素溶解度(質量パーセント)、PN2:窒素分圧(atm)である。
【0006】
しかし、溶解時に平衡窒素溶解度まで窒素を添加した場合、凝固時には液相と晶出した固相との間で窒素を含めた合金化学成分の固液分配が生じ、晶出した固相は液相よりも窒素を含有することができないことから余分な窒素を液相へ排出する。その結果、加圧雰囲気下であっても合金組成によっては液相側の窒素濃度が平衡窒素溶解度を上回る現象が生じる。そのため、過剰となった分の窒素が凝固前面でガス気泡化して固相に捕捉され、凝固後の鋼塊中にガス欠陥が生成することがある。
【0007】
ガス気泡が生成する機構は、図13に示す概念図により理解することができる。凝固前面には固相から固液分配により排出された窒素の濃化した濃化溶鋼が形成される。凝固時の偏析によって形成される濃化溶鋼中の合金元素および窒素の濃度は、既存の偏析の解析解を用いることによって推定することができる(例えば、非特許文献2)。特に炭素や窒素の偏析濃度は、固相内拡散を考慮した非特許文献3に示されている下記の式6を用いて推定することが望ましい。
CL/C0=[1−{1−βk/(1+β)}fs](k−1)/{1−(βk/1+β)}・・・(式6)
ただし、
β=4Dstf/L2
CL:液相濃度(質量パーセント)
C0:初期濃度(質量パーセント)
k:分配係数
fs:固相率
Ds:拡散係数(m2/s)
tf:部分凝固時間(s)
L:デンドライトアーム間隔の1/2値(m)である。
なお、発明者らの調査では、tfとLは連動して変化するが、300<tf<4000、5×10−4<L<5×10−3の範囲では、液相濃度はtfとLが変化してもほとんど影響を受けないことが確認されている。
【0008】
さらに、濃化溶鋼からガス気泡が核生成し成長するためには、非特許文献4に記載されているように、ガス気泡の内圧は下記の式7を満たさなければならない。
Pbubble≧P+ρh/1013.25+1.974*10−6σ/r ・・・(式7)
ここで、Pbubble:ガス気泡の内圧(atm)、P:雰囲気圧力(atm)、ρ:溶鋼密度(g/cm3)、ガス気泡の浴高さ(cm)、σ:溶鋼表面張力(dyn/cm)、r:ガス気泡の半径(cm)である。
上記式右辺の第二項は溶鋼静圧の項であり第三項は表面張力の項であるが、一般的に第三項の寄与は小さいためガス気泡の内圧は雰囲気圧力と溶鋼静圧によって決定されるとみなすことができる。
【0009】
加えて、発明者らは母溶鋼と凝固前面(固相率fs=0.3)に形成された濃化溶鋼の密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合、固液共存領域における対流が発生してガス欠陥が生成することを発見した。母溶鋼および濃化溶鋼の密度は、各成分の密度と濃度から加成性が成り立つとして、下記の式8で計算することができ、下記の式9で溶鋼密度差を計算することができる。
ρ=Σρi×Ci ・・・(式8)
ここで、ρ:溶鋼密度(g/cm3)、ρi:各成分の密度(g/cm3)、Ci:各成分の濃度(wt%)である。
Δρ=ρ0−ρL ・・・(式9)
ここで、Δρ:溶鋼密度差(g/cm3)、ρ0:母溶鋼の密度(g/cm3)、ρL:濃化溶鋼の密度(g/cm3)である。
この場合のガス欠陥が生成する機構は、図14に示す概略図により理解することができる。密度差に起因する対流がデンドライト樹枝の間で発生すると母溶鋼と濃化溶鋼は不連続に接触することになり、窒素を多く含有する濃化溶鋼から窒素溶解度の小さい母溶鋼に多量の窒素が供給されるため、ガス気泡が生成することになる。
【特許文献1】特許2639849号特許明細書
【特許文献2】特開平06−322487号公報
【特許文献3】特開平04−238663号公報
【特許文献4】特開2000−212631号公報
【特許文献5】特開2003−221615号公報
【非特許文献1】”日本学術振興会製鋼第19委員会編 製鋼反応の推奨平衡値”、p.17−21,258,259
【非特許文献2】”Philosophical Magazine A81”、2001、No.1、p.153−159
【非特許文献3】”Transactions ISIJ26”、1986、No.12、p.1045−1051
【非特許文献4】”鉄と鋼65”、1979、No.10、P.1561−1570
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガス欠陥の生成を防止して健全な鋼塊を製造するために、従来の技術では前記のように高圧雰囲気を保って鋳造する方法が提案されている。特許文献2では鋳造時あるいは凝固時に全圧を窒素分圧の3倍よりも大きくするとしており、特許文献1では固相における窒素の平均溶解度に相当する窒素分圧の1.5倍以上の全圧を加えて鋳造するとしている。また、特許文献4では凝固時の鋼中に溶存し得る濃度を超えない窒素量を溶鋼に添加して窒素分圧を高く保ったまま鋳造するとしている。
【0011】
しかし、いずれの先行技術も凝固偏析に基づくガス欠陥の生成現象を正確に反映しておらず、理論的に窒素分圧と全圧の関係を比例関係で整理することは困難であることから、ガス分圧の調節については根拠に乏しい。また、窒素固溶度の大きいオーステナイト系鋼では、窒素ガスのみの加圧雰囲気でも健全な鋼塊を鋳造することは可能であるが、オーステナイト系鋼以外の鋼種では、溶鋼の窒素含有量が平衡窒素溶解度に到達する前に鋳造しなければ健全な鋼塊を得られないので、窒素含有量が変わるたびに操業条件を変える必要が生じる。
【0012】
加えて、いずれの先行技術においても大型鋼塊を製造する場合には上述の溶鋼静圧が無視できなくなるにもかかわらず考慮されていない。さらに、限定された製造設備で試行錯誤した上での開発技術であることから、必要となる圧力を過大に見積もる傾向があり、製造設備に依存し適用できる鋼種に制限があるなど汎用性に欠けている。
このように、従来の方法では不必要に高圧雰囲気に保つことから、製造設備に相応の耐圧構造が必要となるため製造コストの増大を招くといった問題が生じる。さらに、この問題を回避するために比較的低圧で鋳造することができる雰囲気圧力を探そうとすると、合金組成や鋼塊サイズ及び窒素添加量が変わるたびに試行錯誤しなければならなくなるという問題を有している。
【0013】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ガス欠陥の生成現象を正確に反映してガス欠陥の生成を効果的に防止する窒素分圧と全圧との調整を容易に行うことを可能にする高窒素鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明の高窒素鋼の製造方法のうち請求項1記載の発明は、窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明では、溶鋼に加えられる雰囲気圧力と溶鋼静圧を加算した圧力を全圧と表記することとする。また、本発明では、包晶反応固相率は、凝固時にフェライト凝固からオーステナイト凝固に切り替わる固相率であり、固相率全率においてオーステナイト凝固する場合は0とする。
【0016】
請求項2記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項1記載の発明において、前記窒素濃度は、合金鋼の化学成分と固相率および窒素分圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項2記載の発明において、前記窒素濃度は、固相内拡散を考慮して算出されることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記許容窒素溶解度は、合金鋼の化学成分と固相率および全圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合は、下記式1に示す過剰窒素指数INDEX(1)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(1)=CLN(PN2,fs.p)−CeN(PTOTAL,fs.p)・・・(式1)
ここで、
INDEX(1):過剰窒素指数(wtppm)
fs.p:包晶反応固相率
CLN(PN2,fs.p):窒素分圧PN2(atm)条件での包晶反応固相率における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs.p):全圧PTOTAL(atm)条件での包晶反応固相率における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0020】
請求項6記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合は、下記式2に示す過剰窒素指数INDEX(2)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(2)=CLN(PN2,fs=0.75)−CeN(PTOTAL,fs=0)・・・(式2)
ここで、
INDEX(2):過剰窒素指数(wtppm)
CLN(PN2,fs=0.75):窒素分圧PN2(atm)条件での固相率0.75における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs=0):全圧PTOTAL(atm)条件での固相率0における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0021】
請求項7記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記合金鋼は、前記造塊時に液相線温度において晶出する初晶が窒化物以外となる窒素含有量および合金組成を有することを特徴とする。
【0022】
前記したように濃化溶鋼に濃化する合金成分から、所定の窒素分圧における平衡窒素溶解度が既存の偏析の解析解と前記した相互作用助係数などを用いた算出方法(式5)などによって求められ、さらに、固相内拡散を考慮した濃化溶鋼中の窒素濃度が式6などを用いて算出することができる。
前記した相互作用助係数などを用いた算出方法(式5)の窒素分圧の項に、雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。
そして、凝固前面に形成される濃化溶鋼中の窒素濃度がこの許容窒素溶解度を下回ればガス気泡は核生成せず、凝固後の鋼塊にはガス欠陥は生成しないものと考えられる。
【0023】
なお、加圧雰囲気下における溶解では、所定の窒素含有量を達成するのに必要十分な窒素分圧に調節する必要がある。その際、過分に窒素分圧を高めると余分な窒素が溶鋼に溶存してしまい、鋼塊を造塊する際にガス欠陥が生成してしまうため、窒素以外のガスも含んだ混合ガス雰囲気にして全圧を調節することが望ましい。窒素以外のガスには溶鋼と反応する空気や酸素が主成分となることは好ましくなく、溶鋼と反応しない希ガス(He、Ne、Ar等)のような不活性ガスが主成分となることが望ましい。
また、加圧雰囲気下における造塊では、溶鋼に添加した窒素が雰囲気に放出されて所定の窒素含有量を下回らないように、凝固中も平衡窒素溶解度に合わせて窒素分圧を調節することが望ましい。
【0024】
本発明で定義した過剰窒素指数INDEX(1)は、凝固時の偏析過程で濃化していく濃化溶鋼中の窒素濃度と濃化溶鋼の許容窒素溶解度の差で表される過剰窒素濃度の最大値であり、図1に示すように、過剰窒素濃度は固相率を横軸にとった図面上ではピークを持った曲線となる。過剰窒素濃度が0以上となる領域は、凝固中に過剰となる窒素の総量を示すことになり、この過剰窒素がガス気泡化することによって鋼塊中にガス欠陥が生成する。
【0025】
発明者らは、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合、凝固中に晶出する固相がフェライト相からオーステナイト相に切り替わる包晶反応凝固が開始される固相率において過剰窒素濃度が最大値を示すことを発見し、これを過剰窒素指数INDEX(1)と定義している。過剰窒素指数INDEX(1)が0となる全圧はガス欠陥が生成する臨界の圧力を意味する。
【0026】
また、本発明で定義した過剰窒素指数INDEX(2)は、固相率0.75における濃化溶鋼の窒素濃度と固相率0に相当する母溶鋼の許容窒素溶解度の差で表される過剰窒素濃度であり、母溶鋼と濃化溶鋼の密度差が大きいと、固液共存領域において対流が発生し、流動限界固相率近傍における高窒素濃度の濃化溶鋼が固相率0である母溶鋼と不連続に接触する。この時の過剰窒素濃度が0以上となると、過剰窒素がガス気泡化し鋼塊中にガス欠陥が生成する。
【0027】
発明者らは、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合に、固液共存領域における対流が発生してガス欠陥が生成することを発見し、固相率0.75における濃化溶鋼の窒素濃度と固相率0に相当する母溶鋼の許容窒素溶解度の差で表される過剰窒素濃度を過剰窒素指数INDEX(2)と定義している。過剰窒素指数INDEX(2)が0となる全圧はガス欠陥が生成する臨界の圧力を意味する。
本発明では、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼の密度差の絶対値によって、いずれかの過剰窒素指数を選択し、その過剰窒素指数が0よりも小さい値になるように全圧を調節することによって凝固中の過剰窒素を解消することから、先行技術より低圧条件であっても安定的に健全な鋼塊を製造することが可能となる。
【0028】
本発明の式は、液相線温度において晶出する初晶がフェライト相であってもオーステナイト相であっても適用することが可能であり、包晶反応凝固が生じる合金鋼であっても適用できる。
本発明では、窒素を添加する合金鋼に特に制限を設けず、窒素含有量も特に限定されるものではない。しかし、液相線温度において晶出する初晶が窒化物となる合金鋼では、窒化物が粗大に晶出し、ガス欠陥の無い鋼塊であっても熱間加工性などの機械的特性を劣化させることから、本発明を適用することは好ましくない。
また、本発明は、溶鋼に窒素を添加する方法は気相−液相間における窒素吸収反応に限定するものではなく、加圧雰囲気の窒素分圧を必要十分な窒素分圧に調節するかぎりにおいては、窒化合金を溶鋼に添加するような固相−液相間反応やスラグに添加した窒化物から溶鋼に窒素を吸収させるようなスラグ−液相間反応による窒素添加方法であっても構わない。
【0029】
さらに、本発明では、加圧雰囲気を維持できる設備であれば精錬・溶解方法に関する制限は特に無い。ただし、凝固収縮に起因するサクションなどによって凝固中に減圧環境が生じるとガス欠陥は生成しやすくなることから、指向性凝固が得やすく凝固方向を調節でき、ザクや引け巣などが生成する最終凝固部を押湯部に制御できるような造塊方法が望ましく、加圧雰囲気を維持できるエレクトロスラグ再溶解法やアーク再溶解法などを用いると確実に健全な鋼塊を製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
すなわち、本発明の高窒素鋼の製造方法は、窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させるので、物性値の情報によって確認試験を実施する必要も無く操業条件が決定できる。
前記窒素分圧と前記全圧の調節は、下式に示す過剰窒素指数INDEX(1)あるいはINDEX(2)が0よりも小さい値を持つようにして行うことができる。
【0031】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合
INDEX(1)=CLN(PN2,fs.p)−CeN(PTOTAL,fs.p)・・・(式1)
ここで、
INDEX(1):過剰窒素指数(wtppm)
fs.p:包晶反応固相率
CLN(PN2,fs.p):窒素分圧PN2(atm)条件での包晶反応固相率における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs.p):全圧PTOTAL(atm)条件での包晶反応固相率における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0032】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合
INDEX(2)=CLN(PN2,fs=0.75)−CeN(PTOTAL,fs=0)・・・(式2)
ここで、
INDEX(2):過剰窒素指数(wtppm)
CLN(PN2,fs=0.75):窒素分圧PN2(atm)条件での固相率0.75における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs=0):全圧PTOTAL(atm)条件での固相率0における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0033】
本発明の製造方法により、常圧雰囲気ではガス欠陥が生成して製品化が困難であった高窒素鋼を、過分な耐圧設備の建設や製造コストの増大を招くことなく、且つ鋼種が変わるたびに試行錯誤を繰り返すことなく、必要最小限の耐圧設備で確実に健全な鋼塊を製造することができる。また、先行技術よりも低圧条件で製造ができることから原材料費の低減や工期短縮の点で有利であり製造コストが低く抑えられる。
この結果、本発明の高窒素鋼の製造方法を採用して製造された高窒素鋼は、健全な内部品質を有しつつ安価且つ鋼塊質量の増大を図ることが可能となり、特に高窒素鋼の大型構造材への供給に対する貢献は多分に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の一実施形態について図表を交えて説明する。
例えば、表1の組成になるように窒素以外の原料を配合し、真空誘導溶解炉で溶解し合金鋼を作製する。次いで、得られた合金鋼から溶解母材を分割し、耐圧容器内に雰囲気加熱炉を設置した加圧溶解炉にて再溶解する。その際、加圧溶解炉内の雰囲気は窒素−Ar混合ガス雰囲気とする。なお、本発明としては、窒素以外のガス種が限定されるものではなく、前記したように他の希ガスなどを用いることができる。溶解時の窒素分圧は、合金鋼で目標とする窒素含有量が得られるように設定する。設定方法は、常法により行うことができ、例えば前記式5を用いて目的の窒素含有量となる窒素分圧を求める方法により定めることができる。
なお、使用した加圧溶解炉は11気圧まで加圧が可能であり、母材を溶解するるつぼが下降することにより上方に向かって一方向凝固ができる昇降機構を有していることから、最終凝固部を鋼塊上部に制御して鋼塊を製造することが可能である。
【0035】
【表1】
【0036】
上記組成の合金鋼では、前記式5を用いることによって成分に基づく加圧雰囲気下での液相における平衡窒素溶解度を算出することができる。この算出結果を用いて所定の窒素分圧下での液相における窒素濃度が算出される。
さらに、所定の窒素分圧下における窒素濃度を基にして前記式6により固相内拡散を考慮した窒素濃度CLN(PN2,fs.p)を算出する。なお、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差は、前記式8、9を用いると合金鋼の組成に従って0.002〜0.007(g/cm3)となり、該算出における包晶反応固相率fs.pは、合金鋼の組成に従って0.6となる。
【0037】
式6におけるC0は、上記式5で算出された窒素濃度である。また、分配係数kは初晶の窒素含有量とC0の比により得ることができ、拡散係数Ds(m2/s)は既存のフェライト相あるいはオーステナイト相中の窒素の拡散係数により得ることができる。
さらに、部分凝固時間tf(s)は、凝固時の液相線温度から固相線温度まで温度降下するのに要する時間を計測することにより得ることができ、デンドライトアーム間隔の1/2値L(m)は、実際に製造した鋼塊の断面を観察することにより得ることができる。
加えて、発明者らは式6におけるtf/L2の値を2.21〜4.27×109(s/m2)のいずれかに固定しても算出結果に変動が少ないことを見いだしており、計測や観察を行わずにこれらの数値を式6に導入する方法もある。
【0038】
一方、液相の許容窒素溶解度CeN(PTOTAL,fs.p)は、既存の偏析の解析解と前記式5の窒素分圧の項に雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。溶鋼静圧は、式7の右辺第二項を用いて算出することができる。この際にhは、湯面と凝固前面との間の距離により求めることができる。
上記溶解において平衡状態に至った後は、溶鋼から鋼塊を造塊する際に、上記で求められたCLN(PN2,fs.p)とCeN(PTOTAL,fs.p)の差(式1)で表される過剰窒素指数INDEX(1)が0未満となるようにして窒素分圧と全圧とを調整する。その結果、得られた高窒素鋼はガス欠陥が無く優れた品質を有している。
また、例えば、表2の組成(質量%、残部Feおよび不可避不純物)になるように窒素以外の原料を配合し、真空誘導溶解炉で溶解し合金鋼を作製する。次いで、得られた合金鋼から溶解母材を分割し、前記加圧溶解炉にて再溶解する。
【0039】
【表2】
【0040】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差は、前記式8、9を用いると合金鋼の組成に従って0.015〜0.016(g/cm3)となる。そのため、所定の窒素分圧下における窒素濃度を基にして前記式6により固相内拡散を考慮した窒素濃度CLN(PN2,fs=0.75)を算出する。
さらに、液相の許容窒素溶解度CeN(PTOTAL,fs=0)は、母溶鋼の化学成分と前記式5の窒素分圧の項に雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。
上記溶解において平衡状態に至った後は、溶鋼から鋼塊を造塊する際に、上記で求められたCLN(PN2,fs=0.75)とCeN(PTOTAL,fs=0)の差(式2)で表される過剰窒素指数INDEX(2)が0未満となるようにして窒素分圧と全圧とを調整する。その結果、得られた高窒素鋼はガス欠陥が無く優れた品質を有している。
また、例えば、表3の組成(質量%、残部Feおよび不可避不純物)になるように窒素以外の原料を配合し、真空誘導溶解炉で溶解し合金鋼を作製する。次いで、得られた合金鋼から溶解母材を分割し、前記加圧溶解炉にて再溶解する。
【0041】
【表3】
【0042】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差は、前記式8、9を用いると合金鋼の組成に従って−0.016〜−0.020(g/cm3)となる。そのため、所定の窒素分圧下における窒素濃度を基にして前記式6により固相内拡散を考慮した窒素濃度CLN(PN2,fs=0.75)を算出する。
さらに、液相の許容窒素溶解度CeN(PTOTAL,fs=0)は、母溶鋼の化学成分と前記式5の窒素分圧の項に雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。
上記溶解において平衡状態に至った後は、溶鋼から鋼塊を造塊する際に、上記で求められたCLN(PN2,fs=0.75)とCeN(PTOTAL,fs=0)の差(式2)で表される過剰窒素指数INDEX(2)が0未満となるようにして窒素分圧と全圧とを調整する。その結果、得られた高窒素鋼はガス欠陥が無く優れた品質を有している。
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明をしたが、本発明は上記実施形態の説明内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜の変更が可能である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の実施例を説明する。
上記実施形態で示される表1の組成の合金鋼および真空誘導溶解炉および加圧溶解炉を用いて造塊を行った。
その際に、実施例1として窒素分圧を3atm、Ar分圧を4atmとした全圧7atmの加圧雰囲気下で、加圧溶解炉を用いて凝固試験を行った。続いて、比較例1として窒素分圧を3atm、Ar分圧を2.5atmとした全圧5.5atmの加圧雰囲気下で実施例と同様に凝固試験を行った。
【0044】
図2に実施例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を、図3に比較例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を示す。図2に示すように、実施例1では全固相率にわたって液相の窒素濃度は許容窒素溶解度を下回ることが想定された。一方、図3に示したように、比較例1では固相率0.52〜0.77にかけて、許容窒素溶解度を超える窒素濃化が想定された。
【0045】
図4に実施例1および比較例1の固相率−過剰窒素濃度図を示す。両者の過剰窒素濃度の最大値は包晶反応固相率である固相率0.60で現れ、本発明の式より、実施例1では過剰窒素指数が0を下回るためガス欠陥が生成せず、比較例1では過剰窒素指数が0を上回るためガス欠陥が生成すると判断された。
図5に実施例1の鋼塊の縦断面を、図6に比較例1の鋼塊の縦断面を図面代用写真(倍率0.5倍)によって示す。図5および図6に示したように、本発明の式が判断したように、比較例1にはガス欠陥が生成し実施例1の鋼塊にはガス欠陥は存在しなかった。次に、窒素分圧、全圧の条件を変えて同様の凝固試験を行った。窒素分圧の変更によって目標窒素含有量、包晶反応固相率も変動する。
表4に本発明の実施例として行った表1の合金鋼の試験結果をまとめて示す。表4に示したように、本発明を用いることによって簡便にガス欠陥生成臨界圧力が推定され、種々の窒素含有量を有する合金鋼をガス欠陥の無い健全な鋼塊として製造できることが証明された。
【0046】
【表4】
【0047】
次いで、上記実施形態で示される表2の組成の合金鋼および真空誘導溶解炉および加圧溶解炉を用いて造塊を行った。
その際に、実施例4として窒素分圧を6atm、Ar分圧を5atmとした全圧11atmの加圧雰囲気下で、加圧溶解炉を用いて凝固試験を行った。続いて、比較例4として窒素分圧を6atm、Ar分圧を4atmとした全圧10atmの加圧雰囲気下で実施例と同様に凝固試験を行った。
【0048】
図7に実施例4と比較例4の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を示す。図7に示すように、実施例4では固相率0.75の濃化溶鋼の窒素濃度は母溶鋼の許容窒素溶解度を下回ることが想定された。一方、比較例4では母溶鋼の許容窒素溶解度を上回ることが想定された。
図8に実施例4の鋼塊の縦断面を、図9に比較例4の鋼塊の縦断面を図面代用写真(倍率0.5倍)によって示す。図8および図9に示したように、本発明の式が判断したように、比較例4にはガス欠陥が生成し実施例4の鋼塊にはガス欠陥は存在しなかった。次に、窒素分圧、全圧の条件を変えて同様の凝固試験を行った。
表5に本発明の実施例として行った表2の合金鋼の試験結果をまとめて示す。表5に示したように、本発明を用いることによって簡便にガス欠陥生成臨界圧力が推定され、種々の窒素含有量を有する合金鋼をガス欠陥の無い健全な鋼塊として製造できることが証明された。
【0049】
【表5】
【0050】
次いで、上記実施形態で示される表3の組成の合金鋼および真空誘導溶解炉および加圧溶解炉を用いて造塊を行った。
その際に、実施例6として窒素分圧を1.5atm、Ar分圧を7.5atmとした全圧9atmの加圧雰囲気下で、加圧溶解炉を用いて凝固試験を行った。続いて、比較例6として窒素分圧を1.5atm、Ar分圧を5.5atmとした全圧7atmの加圧雰囲気下で実施例と同様に凝固試験を行った。
【0051】
図10に実施例6と比較例6の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を示す。図10に示すように、実施例6では固相率0.75の濃化溶鋼の窒素濃度は母溶鋼の許容窒素溶解度を下回ることが想定された。一方、比較例6では母溶鋼の許容窒素溶解度を上回ることが想定された。
図11に実施例6の鋼塊の縦断面を、図12に比較例6の鋼塊の縦断面を図面代用写真(倍率0.5倍)によって示す。図11および図12に示したように、本発明の式が判断したように、比較例6にはガス欠陥が生成し実施例6の鋼塊にはガス欠陥は存在しなかった。次に、窒素分圧、全圧の条件を変えて同様の凝固試験を行った。
表6に本発明の実施例として行った表3の合金鋼の試験結果をまとめて示す。表6に示したように、本発明を用いることによって簡便にガス欠陥生成臨界圧力が推定され、種々の窒素含有量を有する合金鋼をガス欠陥の無い健全な鋼塊として製造できることが証明された。
【0052】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明で定義した過剰窒素濃度を説明するための模式的な固相率−過剰窒素濃度の関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図3】本発明の比較例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図4】本発明の実施例1と比較例1の固相率−過剰窒素濃度の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例1の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図6】本発明の比較例1の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図7】本発明の実施例4と比較例4の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図8】本発明の実施例4の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図9】本発明の比較例4の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図10】本発明の実施例6と比較例6の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図11】本発明の実施例6の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図12】本発明の比較例6の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図13】凝固前面においてガス気泡が生成する機構を説明するための概念的な図である。
【図14】固液共存領域において対流が発生する機構を説明するための概念的な図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高窒素鋼の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、窒素を多量に含有する合金鋼において、ガス欠陥のない健全な鋼塊を得るための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼や耐熱鋼などの合金鋼において、窒素含有量を高めて耐食性や耐酸化性を向上させ、且つ室温強度や高温強度も向上させる試みがなされており、特許文献1や特許文献2のように高窒素鋼とその製造方法が提案されている。
一方で、窒素を多量に含有する合金鋼を製造する場合、常圧で鋳造した鋼塊はブローホールやポロシティと呼ばれる多くのガス欠陥を含むことがあり、圧延や鍛造時に割れの原因になったり、製品に残存して機械的特性の劣化を招いたりする。
そのため、このようなガス欠陥の生成を防止するため、従来から特許文献3や特許文献4、5のような、加圧雰囲気下で溶解し鋳造する方法が提案されている。
【0003】
一般に、窒素ガスを含む雰囲気においては、合金鋼の溶湯の平衡窒素溶解度は、各合金化学成分の質量パーセントと日本学術振興会が推奨する相互作用助係数を用いて下記の式3により求めることができる(非特許文献1参照)。
Log[%N]e=−518/T−1.063−0.007*[%Ni]−(−148/T+0.033+(1.56/T−0.00053)*[%Cr])*[%Cr]−(−33.2/T+0.0064)*[%Mo]−(−1420/T+0.635)*[%V]−(280/T+0.0816)*[%Nb]+0.002*[%W]−0.012*[%Co]−0.01*[%Al]−0.13*[%C]−0.048*[%Si]+0.02*[%Mn]−0.007*[%S]−0.059*[%P] ・・・(式3)
ここで、[%N]e:1気圧における平衡窒素溶解度(質量パーセント)、T:溶鋼の温度である。
【0004】
また、常圧以下の雰囲気においては、溶鋼の平衡窒素溶解度はSievertzの法則に従うことが知られており、上記式によって求められた1気圧における平衡窒素溶解度と窒素分圧の1/2乗を用いて、下記の式4のように求めることができる。
[%N]N2=[%N]e*PN21/2 ・・・(式4)
ここで、[%N]N2:窒素分圧PN2気圧における平衡窒素溶解度(質量パーセント)、PN2:窒素分圧(atm)である。
【0005】
窒素分圧が常圧以上10気圧以下の加圧雰囲気下においては、これらの式に窒素自身の相互作用助係数を加えた下記式5が成り立つことを発明者らは見出しており、合金鋼に添加する窒素量から必要となる窒素分圧を決定することができることから、溶解時に窒素分圧を調節することによって所定の窒素量を歩留り良く溶鋼に添加することが可能である。
Log[%N]N2=−518/T−1.063+1/2*Log(PN2)−0.007*[%Ni]−(−148/T+0.033+(1.56/T−0.00053)*[%Cr])*[%Cr]−(−33.2/T+0.0064)*[%Mo]−(−1420/T+0.635)*[%V]−(280/T+0.0816)*[%Nb]+0.002*[%W]−0.012*[%Co]−0.01*[%Al]−0.13*[%C]−0.048*[%Si]+0.02*[%Mn]−0.007*[%S]−0.059*[%P]−(0.051−0.0034*[%N])*[%N] ・・・(式5)
ここで、[%N]N2:窒素分圧PN2気圧における平衡窒素溶解度(質量パーセント)、PN2:窒素分圧(atm)である。
【0006】
しかし、溶解時に平衡窒素溶解度まで窒素を添加した場合、凝固時には液相と晶出した固相との間で窒素を含めた合金化学成分の固液分配が生じ、晶出した固相は液相よりも窒素を含有することができないことから余分な窒素を液相へ排出する。その結果、加圧雰囲気下であっても合金組成によっては液相側の窒素濃度が平衡窒素溶解度を上回る現象が生じる。そのため、過剰となった分の窒素が凝固前面でガス気泡化して固相に捕捉され、凝固後の鋼塊中にガス欠陥が生成することがある。
【0007】
ガス気泡が生成する機構は、図13に示す概念図により理解することができる。凝固前面には固相から固液分配により排出された窒素の濃化した濃化溶鋼が形成される。凝固時の偏析によって形成される濃化溶鋼中の合金元素および窒素の濃度は、既存の偏析の解析解を用いることによって推定することができる(例えば、非特許文献2)。特に炭素や窒素の偏析濃度は、固相内拡散を考慮した非特許文献3に示されている下記の式6を用いて推定することが望ましい。
CL/C0=[1−{1−βk/(1+β)}fs](k−1)/{1−(βk/1+β)}・・・(式6)
ただし、
β=4Dstf/L2
CL:液相濃度(質量パーセント)
C0:初期濃度(質量パーセント)
k:分配係数
fs:固相率
Ds:拡散係数(m2/s)
tf:部分凝固時間(s)
L:デンドライトアーム間隔の1/2値(m)である。
なお、発明者らの調査では、tfとLは連動して変化するが、300<tf<4000、5×10−4<L<5×10−3の範囲では、液相濃度はtfとLが変化してもほとんど影響を受けないことが確認されている。
【0008】
さらに、濃化溶鋼からガス気泡が核生成し成長するためには、非特許文献4に記載されているように、ガス気泡の内圧は下記の式7を満たさなければならない。
Pbubble≧P+ρh/1013.25+1.974*10−6σ/r ・・・(式7)
ここで、Pbubble:ガス気泡の内圧(atm)、P:雰囲気圧力(atm)、ρ:溶鋼密度(g/cm3)、ガス気泡の浴高さ(cm)、σ:溶鋼表面張力(dyn/cm)、r:ガス気泡の半径(cm)である。
上記式右辺の第二項は溶鋼静圧の項であり第三項は表面張力の項であるが、一般的に第三項の寄与は小さいためガス気泡の内圧は雰囲気圧力と溶鋼静圧によって決定されるとみなすことができる。
【0009】
加えて、発明者らは母溶鋼と凝固前面(固相率fs=0.3)に形成された濃化溶鋼の密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合、固液共存領域における対流が発生してガス欠陥が生成することを発見した。母溶鋼および濃化溶鋼の密度は、各成分の密度と濃度から加成性が成り立つとして、下記の式8で計算することができ、下記の式9で溶鋼密度差を計算することができる。
ρ=Σρi×Ci ・・・(式8)
ここで、ρ:溶鋼密度(g/cm3)、ρi:各成分の密度(g/cm3)、Ci:各成分の濃度(wt%)である。
Δρ=ρ0−ρL ・・・(式9)
ここで、Δρ:溶鋼密度差(g/cm3)、ρ0:母溶鋼の密度(g/cm3)、ρL:濃化溶鋼の密度(g/cm3)である。
この場合のガス欠陥が生成する機構は、図14に示す概略図により理解することができる。密度差に起因する対流がデンドライト樹枝の間で発生すると母溶鋼と濃化溶鋼は不連続に接触することになり、窒素を多く含有する濃化溶鋼から窒素溶解度の小さい母溶鋼に多量の窒素が供給されるため、ガス気泡が生成することになる。
【特許文献1】特許2639849号特許明細書
【特許文献2】特開平06−322487号公報
【特許文献3】特開平04−238663号公報
【特許文献4】特開2000−212631号公報
【特許文献5】特開2003−221615号公報
【非特許文献1】”日本学術振興会製鋼第19委員会編 製鋼反応の推奨平衡値”、p.17−21,258,259
【非特許文献2】”Philosophical Magazine A81”、2001、No.1、p.153−159
【非特許文献3】”Transactions ISIJ26”、1986、No.12、p.1045−1051
【非特許文献4】”鉄と鋼65”、1979、No.10、P.1561−1570
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガス欠陥の生成を防止して健全な鋼塊を製造するために、従来の技術では前記のように高圧雰囲気を保って鋳造する方法が提案されている。特許文献2では鋳造時あるいは凝固時に全圧を窒素分圧の3倍よりも大きくするとしており、特許文献1では固相における窒素の平均溶解度に相当する窒素分圧の1.5倍以上の全圧を加えて鋳造するとしている。また、特許文献4では凝固時の鋼中に溶存し得る濃度を超えない窒素量を溶鋼に添加して窒素分圧を高く保ったまま鋳造するとしている。
【0011】
しかし、いずれの先行技術も凝固偏析に基づくガス欠陥の生成現象を正確に反映しておらず、理論的に窒素分圧と全圧の関係を比例関係で整理することは困難であることから、ガス分圧の調節については根拠に乏しい。また、窒素固溶度の大きいオーステナイト系鋼では、窒素ガスのみの加圧雰囲気でも健全な鋼塊を鋳造することは可能であるが、オーステナイト系鋼以外の鋼種では、溶鋼の窒素含有量が平衡窒素溶解度に到達する前に鋳造しなければ健全な鋼塊を得られないので、窒素含有量が変わるたびに操業条件を変える必要が生じる。
【0012】
加えて、いずれの先行技術においても大型鋼塊を製造する場合には上述の溶鋼静圧が無視できなくなるにもかかわらず考慮されていない。さらに、限定された製造設備で試行錯誤した上での開発技術であることから、必要となる圧力を過大に見積もる傾向があり、製造設備に依存し適用できる鋼種に制限があるなど汎用性に欠けている。
このように、従来の方法では不必要に高圧雰囲気に保つことから、製造設備に相応の耐圧構造が必要となるため製造コストの増大を招くといった問題が生じる。さらに、この問題を回避するために比較的低圧で鋳造することができる雰囲気圧力を探そうとすると、合金組成や鋼塊サイズ及び窒素添加量が変わるたびに試行錯誤しなければならなくなるという問題を有している。
【0013】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ガス欠陥の生成現象を正確に反映してガス欠陥の生成を効果的に防止する窒素分圧と全圧との調整を容易に行うことを可能にする高窒素鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明の高窒素鋼の製造方法のうち請求項1記載の発明は、窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明では、溶鋼に加えられる雰囲気圧力と溶鋼静圧を加算した圧力を全圧と表記することとする。また、本発明では、包晶反応固相率は、凝固時にフェライト凝固からオーステナイト凝固に切り替わる固相率であり、固相率全率においてオーステナイト凝固する場合は0とする。
【0016】
請求項2記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項1記載の発明において、前記窒素濃度は、合金鋼の化学成分と固相率および窒素分圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項2記載の発明において、前記窒素濃度は、固相内拡散を考慮して算出されることを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記許容窒素溶解度は、合金鋼の化学成分と固相率および全圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合は、下記式1に示す過剰窒素指数INDEX(1)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(1)=CLN(PN2,fs.p)−CeN(PTOTAL,fs.p)・・・(式1)
ここで、
INDEX(1):過剰窒素指数(wtppm)
fs.p:包晶反応固相率
CLN(PN2,fs.p):窒素分圧PN2(atm)条件での包晶反応固相率における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs.p):全圧PTOTAL(atm)条件での包晶反応固相率における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0020】
請求項6記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合は、下記式2に示す過剰窒素指数INDEX(2)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(2)=CLN(PN2,fs=0.75)−CeN(PTOTAL,fs=0)・・・(式2)
ここで、
INDEX(2):過剰窒素指数(wtppm)
CLN(PN2,fs=0.75):窒素分圧PN2(atm)条件での固相率0.75における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs=0):全圧PTOTAL(atm)条件での固相率0における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0021】
請求項7記載の高窒素鋼の製造方法の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記合金鋼は、前記造塊時に液相線温度において晶出する初晶が窒化物以外となる窒素含有量および合金組成を有することを特徴とする。
【0022】
前記したように濃化溶鋼に濃化する合金成分から、所定の窒素分圧における平衡窒素溶解度が既存の偏析の解析解と前記した相互作用助係数などを用いた算出方法(式5)などによって求められ、さらに、固相内拡散を考慮した濃化溶鋼中の窒素濃度が式6などを用いて算出することができる。
前記した相互作用助係数などを用いた算出方法(式5)の窒素分圧の項に、雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。
そして、凝固前面に形成される濃化溶鋼中の窒素濃度がこの許容窒素溶解度を下回ればガス気泡は核生成せず、凝固後の鋼塊にはガス欠陥は生成しないものと考えられる。
【0023】
なお、加圧雰囲気下における溶解では、所定の窒素含有量を達成するのに必要十分な窒素分圧に調節する必要がある。その際、過分に窒素分圧を高めると余分な窒素が溶鋼に溶存してしまい、鋼塊を造塊する際にガス欠陥が生成してしまうため、窒素以外のガスも含んだ混合ガス雰囲気にして全圧を調節することが望ましい。窒素以外のガスには溶鋼と反応する空気や酸素が主成分となることは好ましくなく、溶鋼と反応しない希ガス(He、Ne、Ar等)のような不活性ガスが主成分となることが望ましい。
また、加圧雰囲気下における造塊では、溶鋼に添加した窒素が雰囲気に放出されて所定の窒素含有量を下回らないように、凝固中も平衡窒素溶解度に合わせて窒素分圧を調節することが望ましい。
【0024】
本発明で定義した過剰窒素指数INDEX(1)は、凝固時の偏析過程で濃化していく濃化溶鋼中の窒素濃度と濃化溶鋼の許容窒素溶解度の差で表される過剰窒素濃度の最大値であり、図1に示すように、過剰窒素濃度は固相率を横軸にとった図面上ではピークを持った曲線となる。過剰窒素濃度が0以上となる領域は、凝固中に過剰となる窒素の総量を示すことになり、この過剰窒素がガス気泡化することによって鋼塊中にガス欠陥が生成する。
【0025】
発明者らは、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合、凝固中に晶出する固相がフェライト相からオーステナイト相に切り替わる包晶反応凝固が開始される固相率において過剰窒素濃度が最大値を示すことを発見し、これを過剰窒素指数INDEX(1)と定義している。過剰窒素指数INDEX(1)が0となる全圧はガス欠陥が生成する臨界の圧力を意味する。
【0026】
また、本発明で定義した過剰窒素指数INDEX(2)は、固相率0.75における濃化溶鋼の窒素濃度と固相率0に相当する母溶鋼の許容窒素溶解度の差で表される過剰窒素濃度であり、母溶鋼と濃化溶鋼の密度差が大きいと、固液共存領域において対流が発生し、流動限界固相率近傍における高窒素濃度の濃化溶鋼が固相率0である母溶鋼と不連続に接触する。この時の過剰窒素濃度が0以上となると、過剰窒素がガス気泡化し鋼塊中にガス欠陥が生成する。
【0027】
発明者らは、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合に、固液共存領域における対流が発生してガス欠陥が生成することを発見し、固相率0.75における濃化溶鋼の窒素濃度と固相率0に相当する母溶鋼の許容窒素溶解度の差で表される過剰窒素濃度を過剰窒素指数INDEX(2)と定義している。過剰窒素指数INDEX(2)が0となる全圧はガス欠陥が生成する臨界の圧力を意味する。
本発明では、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼の密度差の絶対値によって、いずれかの過剰窒素指数を選択し、その過剰窒素指数が0よりも小さい値になるように全圧を調節することによって凝固中の過剰窒素を解消することから、先行技術より低圧条件であっても安定的に健全な鋼塊を製造することが可能となる。
【0028】
本発明の式は、液相線温度において晶出する初晶がフェライト相であってもオーステナイト相であっても適用することが可能であり、包晶反応凝固が生じる合金鋼であっても適用できる。
本発明では、窒素を添加する合金鋼に特に制限を設けず、窒素含有量も特に限定されるものではない。しかし、液相線温度において晶出する初晶が窒化物となる合金鋼では、窒化物が粗大に晶出し、ガス欠陥の無い鋼塊であっても熱間加工性などの機械的特性を劣化させることから、本発明を適用することは好ましくない。
また、本発明は、溶鋼に窒素を添加する方法は気相−液相間における窒素吸収反応に限定するものではなく、加圧雰囲気の窒素分圧を必要十分な窒素分圧に調節するかぎりにおいては、窒化合金を溶鋼に添加するような固相−液相間反応やスラグに添加した窒化物から溶鋼に窒素を吸収させるようなスラグ−液相間反応による窒素添加方法であっても構わない。
【0029】
さらに、本発明では、加圧雰囲気を維持できる設備であれば精錬・溶解方法に関する制限は特に無い。ただし、凝固収縮に起因するサクションなどによって凝固中に減圧環境が生じるとガス欠陥は生成しやすくなることから、指向性凝固が得やすく凝固方向を調節でき、ザクや引け巣などが生成する最終凝固部を押湯部に制御できるような造塊方法が望ましく、加圧雰囲気を維持できるエレクトロスラグ再溶解法やアーク再溶解法などを用いると確実に健全な鋼塊を製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
すなわち、本発明の高窒素鋼の製造方法は、窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させるので、物性値の情報によって確認試験を実施する必要も無く操業条件が決定できる。
前記窒素分圧と前記全圧の調節は、下式に示す過剰窒素指数INDEX(1)あるいはINDEX(2)が0よりも小さい値を持つようにして行うことができる。
【0031】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合
INDEX(1)=CLN(PN2,fs.p)−CeN(PTOTAL,fs.p)・・・(式1)
ここで、
INDEX(1):過剰窒素指数(wtppm)
fs.p:包晶反応固相率
CLN(PN2,fs.p):窒素分圧PN2(atm)条件での包晶反応固相率における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs.p):全圧PTOTAL(atm)条件での包晶反応固相率における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0032】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合
INDEX(2)=CLN(PN2,fs=0.75)−CeN(PTOTAL,fs=0)・・・(式2)
ここで、
INDEX(2):過剰窒素指数(wtppm)
CLN(PN2,fs=0.75):窒素分圧PN2(atm)条件での固相率0.75における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs=0):全圧PTOTAL(atm)条件での固相率0における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【0033】
本発明の製造方法により、常圧雰囲気ではガス欠陥が生成して製品化が困難であった高窒素鋼を、過分な耐圧設備の建設や製造コストの増大を招くことなく、且つ鋼種が変わるたびに試行錯誤を繰り返すことなく、必要最小限の耐圧設備で確実に健全な鋼塊を製造することができる。また、先行技術よりも低圧条件で製造ができることから原材料費の低減や工期短縮の点で有利であり製造コストが低く抑えられる。
この結果、本発明の高窒素鋼の製造方法を採用して製造された高窒素鋼は、健全な内部品質を有しつつ安価且つ鋼塊質量の増大を図ることが可能となり、特に高窒素鋼の大型構造材への供給に対する貢献は多分に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の一実施形態について図表を交えて説明する。
例えば、表1の組成になるように窒素以外の原料を配合し、真空誘導溶解炉で溶解し合金鋼を作製する。次いで、得られた合金鋼から溶解母材を分割し、耐圧容器内に雰囲気加熱炉を設置した加圧溶解炉にて再溶解する。その際、加圧溶解炉内の雰囲気は窒素−Ar混合ガス雰囲気とする。なお、本発明としては、窒素以外のガス種が限定されるものではなく、前記したように他の希ガスなどを用いることができる。溶解時の窒素分圧は、合金鋼で目標とする窒素含有量が得られるように設定する。設定方法は、常法により行うことができ、例えば前記式5を用いて目的の窒素含有量となる窒素分圧を求める方法により定めることができる。
なお、使用した加圧溶解炉は11気圧まで加圧が可能であり、母材を溶解するるつぼが下降することにより上方に向かって一方向凝固ができる昇降機構を有していることから、最終凝固部を鋼塊上部に制御して鋼塊を製造することが可能である。
【0035】
【表1】
【0036】
上記組成の合金鋼では、前記式5を用いることによって成分に基づく加圧雰囲気下での液相における平衡窒素溶解度を算出することができる。この算出結果を用いて所定の窒素分圧下での液相における窒素濃度が算出される。
さらに、所定の窒素分圧下における窒素濃度を基にして前記式6により固相内拡散を考慮した窒素濃度CLN(PN2,fs.p)を算出する。なお、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差は、前記式8、9を用いると合金鋼の組成に従って0.002〜0.007(g/cm3)となり、該算出における包晶反応固相率fs.pは、合金鋼の組成に従って0.6となる。
【0037】
式6におけるC0は、上記式5で算出された窒素濃度である。また、分配係数kは初晶の窒素含有量とC0の比により得ることができ、拡散係数Ds(m2/s)は既存のフェライト相あるいはオーステナイト相中の窒素の拡散係数により得ることができる。
さらに、部分凝固時間tf(s)は、凝固時の液相線温度から固相線温度まで温度降下するのに要する時間を計測することにより得ることができ、デンドライトアーム間隔の1/2値L(m)は、実際に製造した鋼塊の断面を観察することにより得ることができる。
加えて、発明者らは式6におけるtf/L2の値を2.21〜4.27×109(s/m2)のいずれかに固定しても算出結果に変動が少ないことを見いだしており、計測や観察を行わずにこれらの数値を式6に導入する方法もある。
【0038】
一方、液相の許容窒素溶解度CeN(PTOTAL,fs.p)は、既存の偏析の解析解と前記式5の窒素分圧の項に雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。溶鋼静圧は、式7の右辺第二項を用いて算出することができる。この際にhは、湯面と凝固前面との間の距離により求めることができる。
上記溶解において平衡状態に至った後は、溶鋼から鋼塊を造塊する際に、上記で求められたCLN(PN2,fs.p)とCeN(PTOTAL,fs.p)の差(式1)で表される過剰窒素指数INDEX(1)が0未満となるようにして窒素分圧と全圧とを調整する。その結果、得られた高窒素鋼はガス欠陥が無く優れた品質を有している。
また、例えば、表2の組成(質量%、残部Feおよび不可避不純物)になるように窒素以外の原料を配合し、真空誘導溶解炉で溶解し合金鋼を作製する。次いで、得られた合金鋼から溶解母材を分割し、前記加圧溶解炉にて再溶解する。
【0039】
【表2】
【0040】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差は、前記式8、9を用いると合金鋼の組成に従って0.015〜0.016(g/cm3)となる。そのため、所定の窒素分圧下における窒素濃度を基にして前記式6により固相内拡散を考慮した窒素濃度CLN(PN2,fs=0.75)を算出する。
さらに、液相の許容窒素溶解度CeN(PTOTAL,fs=0)は、母溶鋼の化学成分と前記式5の窒素分圧の項に雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。
上記溶解において平衡状態に至った後は、溶鋼から鋼塊を造塊する際に、上記で求められたCLN(PN2,fs=0.75)とCeN(PTOTAL,fs=0)の差(式2)で表される過剰窒素指数INDEX(2)が0未満となるようにして窒素分圧と全圧とを調整する。その結果、得られた高窒素鋼はガス欠陥が無く優れた品質を有している。
また、例えば、表3の組成(質量%、残部Feおよび不可避不純物)になるように窒素以外の原料を配合し、真空誘導溶解炉で溶解し合金鋼を作製する。次いで、得られた合金鋼から溶解母材を分割し、前記加圧溶解炉にて再溶解する。
【0041】
【表3】
【0042】
凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差は、前記式8、9を用いると合金鋼の組成に従って−0.016〜−0.020(g/cm3)となる。そのため、所定の窒素分圧下における窒素濃度を基にして前記式6により固相内拡散を考慮した窒素濃度CLN(PN2,fs=0.75)を算出する。
さらに、液相の許容窒素溶解度CeN(PTOTAL,fs=0)は、母溶鋼の化学成分と前記式5の窒素分圧の項に雰囲気圧力と溶鋼静圧の和を導入することによって液相の許容できる窒素溶解度を求めることができる。
上記溶解において平衡状態に至った後は、溶鋼から鋼塊を造塊する際に、上記で求められたCLN(PN2,fs=0.75)とCeN(PTOTAL,fs=0)の差(式2)で表される過剰窒素指数INDEX(2)が0未満となるようにして窒素分圧と全圧とを調整する。その結果、得られた高窒素鋼はガス欠陥が無く優れた品質を有している。
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明をしたが、本発明は上記実施形態の説明内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜の変更が可能である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の実施例を説明する。
上記実施形態で示される表1の組成の合金鋼および真空誘導溶解炉および加圧溶解炉を用いて造塊を行った。
その際に、実施例1として窒素分圧を3atm、Ar分圧を4atmとした全圧7atmの加圧雰囲気下で、加圧溶解炉を用いて凝固試験を行った。続いて、比較例1として窒素分圧を3atm、Ar分圧を2.5atmとした全圧5.5atmの加圧雰囲気下で実施例と同様に凝固試験を行った。
【0044】
図2に実施例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を、図3に比較例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を示す。図2に示すように、実施例1では全固相率にわたって液相の窒素濃度は許容窒素溶解度を下回ることが想定された。一方、図3に示したように、比較例1では固相率0.52〜0.77にかけて、許容窒素溶解度を超える窒素濃化が想定された。
【0045】
図4に実施例1および比較例1の固相率−過剰窒素濃度図を示す。両者の過剰窒素濃度の最大値は包晶反応固相率である固相率0.60で現れ、本発明の式より、実施例1では過剰窒素指数が0を下回るためガス欠陥が生成せず、比較例1では過剰窒素指数が0を上回るためガス欠陥が生成すると判断された。
図5に実施例1の鋼塊の縦断面を、図6に比較例1の鋼塊の縦断面を図面代用写真(倍率0.5倍)によって示す。図5および図6に示したように、本発明の式が判断したように、比較例1にはガス欠陥が生成し実施例1の鋼塊にはガス欠陥は存在しなかった。次に、窒素分圧、全圧の条件を変えて同様の凝固試験を行った。窒素分圧の変更によって目標窒素含有量、包晶反応固相率も変動する。
表4に本発明の実施例として行った表1の合金鋼の試験結果をまとめて示す。表4に示したように、本発明を用いることによって簡便にガス欠陥生成臨界圧力が推定され、種々の窒素含有量を有する合金鋼をガス欠陥の無い健全な鋼塊として製造できることが証明された。
【0046】
【表4】
【0047】
次いで、上記実施形態で示される表2の組成の合金鋼および真空誘導溶解炉および加圧溶解炉を用いて造塊を行った。
その際に、実施例4として窒素分圧を6atm、Ar分圧を5atmとした全圧11atmの加圧雰囲気下で、加圧溶解炉を用いて凝固試験を行った。続いて、比較例4として窒素分圧を6atm、Ar分圧を4atmとした全圧10atmの加圧雰囲気下で実施例と同様に凝固試験を行った。
【0048】
図7に実施例4と比較例4の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を示す。図7に示すように、実施例4では固相率0.75の濃化溶鋼の窒素濃度は母溶鋼の許容窒素溶解度を下回ることが想定された。一方、比較例4では母溶鋼の許容窒素溶解度を上回ることが想定された。
図8に実施例4の鋼塊の縦断面を、図9に比較例4の鋼塊の縦断面を図面代用写真(倍率0.5倍)によって示す。図8および図9に示したように、本発明の式が判断したように、比較例4にはガス欠陥が生成し実施例4の鋼塊にはガス欠陥は存在しなかった。次に、窒素分圧、全圧の条件を変えて同様の凝固試験を行った。
表5に本発明の実施例として行った表2の合金鋼の試験結果をまとめて示す。表5に示したように、本発明を用いることによって簡便にガス欠陥生成臨界圧力が推定され、種々の窒素含有量を有する合金鋼をガス欠陥の無い健全な鋼塊として製造できることが証明された。
【0049】
【表5】
【0050】
次いで、上記実施形態で示される表3の組成の合金鋼および真空誘導溶解炉および加圧溶解炉を用いて造塊を行った。
その際に、実施例6として窒素分圧を1.5atm、Ar分圧を7.5atmとした全圧9atmの加圧雰囲気下で、加圧溶解炉を用いて凝固試験を行った。続いて、比較例6として窒素分圧を1.5atm、Ar分圧を5.5atmとした全圧7atmの加圧雰囲気下で実施例と同様に凝固試験を行った。
【0051】
図10に実施例6と比較例6の液相窒素濃度と許容窒素溶解度を示す。図10に示すように、実施例6では固相率0.75の濃化溶鋼の窒素濃度は母溶鋼の許容窒素溶解度を下回ることが想定された。一方、比較例6では母溶鋼の許容窒素溶解度を上回ることが想定された。
図11に実施例6の鋼塊の縦断面を、図12に比較例6の鋼塊の縦断面を図面代用写真(倍率0.5倍)によって示す。図11および図12に示したように、本発明の式が判断したように、比較例6にはガス欠陥が生成し実施例6の鋼塊にはガス欠陥は存在しなかった。次に、窒素分圧、全圧の条件を変えて同様の凝固試験を行った。
表6に本発明の実施例として行った表3の合金鋼の試験結果をまとめて示す。表6に示したように、本発明を用いることによって簡便にガス欠陥生成臨界圧力が推定され、種々の窒素含有量を有する合金鋼をガス欠陥の無い健全な鋼塊として製造できることが証明された。
【0052】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明で定義した過剰窒素濃度を説明するための模式的な固相率−過剰窒素濃度の関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図3】本発明の比較例1の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図4】本発明の実施例1と比較例1の固相率−過剰窒素濃度の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例1の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図6】本発明の比較例1の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図7】本発明の実施例4と比較例4の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図8】本発明の実施例4の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図9】本発明の比較例4の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図10】本発明の実施例6と比較例6の液相窒素濃度と許容窒素溶解度の変化を示す図である。
【図11】本発明の実施例6の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図12】本発明の比較例6の鋼塊縦断面を示す図面代用写真(倍率0.5倍)である。
【図13】凝固前面においてガス気泡が生成する機構を説明するための概念的な図である。
【図14】固液共存領域において対流が発生する機構を説明するための概念的な図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
【請求項2】
前記窒素濃度は、合金鋼の化学成分と固相率および窒素分圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする請求項1記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項3】
前記窒素濃度は、固相内拡散を考慮して算出されることを特徴とする請求項2記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項4】
前記許容窒素溶解度は、合金鋼の化学成分と固相率および全圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項5】
窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合は、下記式1に示す過剰窒素指数INDEX(1)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(1)=CLN(PN2,fs.p)−CeN(PTOTAL,fs.p)・・・(式1)
ここで、
INDEX(1):過剰窒素指数(wtppm)
fs.p:包晶反応固相率
CLN(PN2,fs.p):窒素分圧PN2(atm)条件での包晶反応固相率における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs.p):全圧PTOTAL(atm)条件での包晶反応固相率における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
ただし、包晶反応固相率は、凝固時にフェライト凝固からオーステナイト凝固に切り替わる固相率であり、固相率全率においてオーステナイト凝固する場合は0とする。
【請求項6】
窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合は、下記式2に示す過剰窒素指数INDEX(2)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(2)=CLN(PN2,fs=0.75)−CeN(PTOTAL,fs=0)・・・(式2)
ここで、
INDEX(2):過剰窒素指数(wtppm)
CLN(PN2,fs=0.75):窒素分圧PN2(atm)条件での固相率0.75における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs=0):全圧PTOTAL(atm)条件での固相率0における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【請求項7】
前記合金鋼は、前記造塊時に液相線温度において晶出する初晶が窒化物以外となる窒素含有量および合金組成を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項1】
窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で前記合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、前記窒素分圧と前記全圧を調節して前記溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
【請求項2】
前記窒素濃度は、合金鋼の化学成分と固相率および窒素分圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする請求項1記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項3】
前記窒素濃度は、固相内拡散を考慮して算出されることを特徴とする請求項2記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項4】
前記許容窒素溶解度は、合金鋼の化学成分と固相率および全圧に基づいて算出されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高窒素鋼の製造方法。
【請求項5】
窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)未満の場合は、下記式1に示す過剰窒素指数INDEX(1)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(1)=CLN(PN2,fs.p)−CeN(PTOTAL,fs.p)・・・(式1)
ここで、
INDEX(1):過剰窒素指数(wtppm)
fs.p:包晶反応固相率
CLN(PN2,fs.p):窒素分圧PN2(atm)条件での包晶反応固相率における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs.p):全圧PTOTAL(atm)条件での包晶反応固相率における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
ただし、包晶反応固相率は、凝固時にフェライト凝固からオーステナイト凝固に切り替わる固相率であり、固相率全率においてオーステナイト凝固する場合は0とする。
【請求項6】
窒素を多量に含有させると常圧雰囲気下では鋼塊中にガス欠陥が生成する合金鋼の溶鋼を、加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する時、凝固前面における濃化溶鋼と母溶鋼との密度差の絶対値が0.01(g/cm3)以上の場合は、下記式2に示す過剰窒素指数INDEX(2)が0よりも小さい値を持つように前記窒素分圧と前記全圧を調節して溶鋼を凝固させることを特徴とする高窒素鋼の製造方法。
INDEX(2)=CLN(PN2,fs=0.75)−CeN(PTOTAL,fs=0)・・・(式2)
ここで、
INDEX(2):過剰窒素指数(wtppm)
CLN(PN2,fs=0.75):窒素分圧PN2(atm)条件での固相率0.75における液相中の窒素濃度(wtppm)
CeN(PTOTAL,fs=0):全圧PTOTAL(atm)条件での固相率0における液相の許容窒素溶解度(wtppm)
【請求項7】
前記合金鋼は、前記造塊時に液相線温度において晶出する初晶が窒化物以外となる窒素含有量および合金組成を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高窒素鋼の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図10】
【図13】
【図14】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図10】
【図13】
【図14】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−326150(P2007−326150A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123319(P2007−123319)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]