説明

高粘度材料の循環ろ過分離方法、並びに、これを用いた循環ろ過分離装置

【課題】高粘度材料に加熱や加圧や低粘度材料の添加なしに、高粘性材料を直接円滑にろ過分離する。
【解決手段】少なくとも2個の往復動する棒状またはワイヤー状のピストンと少なくとも1箇所にろ過分離機能を内部に有する環状に接続された管または容器を用いることで、従来法では処理できなかった配管内または容器内の高粘度材料の非流動層を直接ピストンで処理でき、さらに、管または容器内の流路断面積を大きくした場合でも、確実に高粘度材料を圧送することができることから、高粘性材料が発生する圧力損失を大きく減少させることができ、直接高粘度材料を循環ろ過分離処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高粘度材料の循環ろ過分離方法、並びにその方法を実施するための回路・部品・装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グリース、コンパウンドなどの高粘性潤滑剤、樹脂材料、塗料、固形粒子(粉体)を含むスラリー、ペースト材などの材料中の異物や粗大粒子をろ過する、または材料中の物質を分離加工(処理)する際、高粘度材料特有の配管内壁や材料タンク内壁に粘性底層および分子吸着層などの材料が一旦吸着すると流れることのない高粘性由来の材料膜の非流動層(以下、非流動層という)が形成される。この非流動層により、配管内径よりも実際の流路は狭くなり、高粘性流体ほど圧力損失が上昇する要因となっている。
【0003】
一般に、配管や材料タンク(またはリザーバー)などから離れた場所に設置されたポンプなどの加圧装置のピストンなどの動作部分は、高粘性材料が移動する配管内壁に直接接触できないため、すなわち、ポンプ・シリンダ内を往復動するピストンのような摺動をともなう固体材料が、管内壁面へ直接せん断力を与えることができないため、前記非流動層による問題やその回路内管壁に残存する未処理材料が与えるろ過分離効率の低下、さらには、材料を移動させるための加熱または加圧にともなう材料劣化(酸化など)などの課題がある。
【0004】
前記加熱処理や加圧処理以外で、高粘度材料を効率的に処理するための方法として、高粘度材料に粘度の低い有機溶剤等の製品に不要な材料を混合し粘度を低下させる方法があるが、ろ過分離処理後、蒸留精製するなどの脱溶剤処理の追加プロセスが必要となり、コスト的並びに環境対策的にも課題がある。
【0005】
加熱・加圧・低粘度有機溶剤の添加等のプロセスなしに、直接高粘度材料を循環ろ過分離加工(処理)できることが望まれている。
【0006】
これらの課題を解決するため、高粘性材料を円滑に、かつ循環ろ過分離するためのアイデアを提供する必要がある。
【0007】
さらに、環境問題や省エネルギー対策として、グリースなどの石油系高粘性材料の長寿命化技術や使用済産業廃棄物の削減技術のための再生技術などにおいても、高粘度材料を効率よく循環ろ過分離できる新技術が必要である。
【0008】
例えば、先行技術にある高粘度材料をろ過分離するためには、特許文献1に開示されるように、グリース、コンパウンドなどの高粘度材料温度を270〜400℃の範囲で上昇させ、粘度を低下させることで、ろ過分離(ろ過精度0.8〜20μm)を円滑に行う方法、粘度の低い有機溶剤(シンナー、ベンゼン、エーテル、トルエン等)で高粘度材料を1〜20倍希釈し粘度を低下させ、ろ過分離を円滑に行う方法、特許文献2に開示されるように、樹脂や紙よりも強度の高い金属フィルタ(ろ過精度0.05〜1.2μm)を使用し、1〜70Pa・sの比較的高い粘度の材料(ポリマーまたはオリゴマー溶液)を加圧ろ過分離(精製)する方法、特許文献3に開示されるように、水性反応媒体の高粘度化または固化を回避し、ろ過分離をスムーズに行う方法、特許文献4に開示されるように、高い粘度のインキ、スラリー、塗料、その他各種液体を、逆洗方式によりフィルタの目詰まりを取り除くことで、ろ過分離を円滑に実施する方法、などが知られている。
【特許文献1】特開2007−263786号公報
【特許文献2】特開2005−281437号公報
【特許文献3】特開2002−345497号公報
【特許文献4】特開平07−292106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の方法では、回路内壁面または配管内壁面に粘性底層や吸着分子層などからなる材料が一旦吸着すると流れることのない非流動層が形成し、従来のポンプ等の加圧流体だけでは直接取り除くことができず、結果として、配管内断面積よりも実際に流れる断面積は減少し、特に高い粘性の材料になればなるほど非流動層は厚くなり、圧力損失をより増大させるなどの課題がある。
【0010】
前記回路内管壁または配管内壁残存する非流動層の中に、ろ過分離処理されない固形異物または材料が、ろ過分離回路へのポンプの脈動や、振動や衝撃などにより脱落し、ろ過分離処理の妨げとなる課題もある。
【0011】
また、従来の方法では、回路または配管内において、高粘度材料の圧力損失を下げるため、補助的に材料を加熱することで粘度を下げる方法が用いられるが、その加熱による高粘度材料や回路部品や部材(樹脂材料、シール材等)の破損・劣化(酸化など)等の課題がある。
【0012】
さらに、従来の方法では、回路または配管内において、配管内の高粘度材料の処理流量を上げるため、より高い圧力で材料を加圧する方法が用いられているが、ろ過分離に用いられるフィルタに過剰な負荷を与え、その高い圧力でろ材が補足していた固形異物または吸着物が脱落し正常にろ過分離できない、あるいは、その負荷によりフィルタが破損し脱落する、あるいは、加圧にともなう高粘度材料の内部摩擦が増加し材料温度が上昇し、材料が劣化(酸化など)するなどの課題もある。
【0013】
前記加圧処理や加熱処理以外の高粘度材料の処理流量を上げる方法として、高粘度材料に粘度の低い有機溶剤等の本来製品に不要な材料を一旦混合し粘度を低下させる方法があるが、ろ過分離処理後、脱溶剤のため蒸留精製など、精製のための追加プロセスが必要となる課題もある。
そこで、本発明は、高粘度材料に加熱や加圧や低粘度材料の添加なしに、高粘性材料を直接円滑に循環ろ過分離することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するために、本発明は、環状に接続された管または容器の内部に、少なくとも2個の往復動する棒状またはワイヤー状のピストンと少なくとも1箇所にろ過分離機能を有し、有機物および/または無機物から構成される物質の粘度が1,000Pa・s以下の材料を、循環ろ過分離することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、循環ろ過分離の際、その回路の配管壁面またはそれに相当する流路内壁面に吸着または固着する高粘度材料の非流動層を、循環作業と同時に、直接取り除くことができる。
【0016】
前記効果(従来流れなかった高粘度材料の非流動層を取り除くこと)で、実際の流路断面積に近づけることができ、高い粘度の材料を円滑に循環させることができる。
【0017】
また、従来の配管と異なり、内径の大きな配管を使用しても、管内の材料を確実に、圧送することができる。
【0018】
前記効果から、高粘度材料を加熱する、または温度上昇させることなしに、円滑に循環ろ過分離処理することができる。
【0019】
また、高粘度材料を高い圧力で加圧することなしに、低い圧力で、円滑に循環ろ過分離処理することができる。
【0020】
前記効果から、ろ過分離の材料(フィルタまたはろ材)に圧力負荷をかけることなく、高粘度材料を正常に循環ろ過分離処理することができる
【0021】
さらに、高粘度材料の循環ろ過分離処理中に、有機溶剤等によるフィルタの逆洗処理を簡便に実施することができる
【0022】
前記処理により、高粘度材料のろ過分離処理による早期目詰まりを回避することができ、フィルタの交換頻度を少なくすることができる。
【0023】
前記効果から、高粘度材料のろ過分離処理を円滑に、かつ効率的に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明においては、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明については省略する。また、図面においては、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致していない。
【0025】
まず、簡単のため単純な循環ろ過分離回路の部品構成とろ過分離処理方法、ろ過分離に使用されるろ材および高粘度材料について説明する。
【0026】
(循環ろ過分離回路)
図1に基づき、本発明の最も基本的な高粘度循環ろ過分離回路について説明する。
図1に示すように、この循環ろ過分離回路は、シリコン、石英、ガラス、金属、ポリマー、炭素材料等からなる貫通する容器または管(以下、ハウジング1という)からなる、環状一体または環状に接続された、ハウジング1を有する。
【0027】
図1に示すように、そのハウジング1内には、ハウジング1の内径よりも小さく、またはハウジング1の断面積よりも小さく、円滑に往復動可能な2つのピストン(A、B)4を配置する。
【0028】
ピストン4は、無機および/または有機材料(炭素材料、ガラス、シリコン、金属、ポリマー、炭素材料等)からなり、その外観形状は、一般的な圧縮機のピストン形状と同様または棒状またはワイヤー状(ひも状)である。
【0029】
試料2と接触するピストン4の先端部端面(ハウジング内面と接触する部分)には、Oリングまたはリップシールまたはピストンリング等の有機材料(NBR、EPDR、シリコン系、フッ素系など)または金属等のシール材が用いられ、試料2の漏れを防止する。ただし、試料2の粘性自体がシール機能を有する場合は、必ずしも必要でない。
【0030】
前記ピストン4にシール材が用いられない場合、ハウジング1とピストン4との隙間と表面粗さは、試料2の漏れのないように微調整または最適化する必要がある。
【0031】
ピストン4は、一般的な手動または油圧または空気圧または電磁式(ソレノイドや電気モーター)等のハウジング1外部からの力を用いて、ハウジング1内を往復動する。ピストン4を、精度よく移動させるためには、市販のリニアガイド等を用いてもよい。
【0032】
図1に示すような曲率を持った環式のハウジング内形状の場合、ピストン4はグラスファイバー製やワイヤー製や樹脂性あるいは炭素繊維などの柔軟な材料を用いるのが望ましい。
【0033】
ハウジング1内2箇所(1箇所でもよい)に、フィルタ6が設置される。
【0034】
フィルタ6は、樹脂性または金属製のまたはガラス等の無機材料からなる市販のカートリッジタイプ(筒状)または市販のメンブレンタイプ(ディスクタイプ)のいずれのタイプでもよいが、圧力損失やろ過分離面積や集塵容量を優先させるならばカートリッジタイプを選択し、デッドスペースを考慮する場合は、メンブレンタイプを選択するのが好ましい。
【0035】
(ろ過分離処理方法)
ピストン(A)4近傍のバルブ5を閉じ、ピストン(B)4近傍のバルブ5を開き、試料導入口3より、ハウジング1内へ、ポンプ等の加圧装置を用いて、試料2を導入し、封入する。このときの試料2の導入量(体積)は、ハウジング内に設置された2箇所のフィルタ6に挟まれる2つのハウジング内の空間容積の最小容積以内とする。ただし、フィルタ6が1箇所のみの場合は、循環回路内容積の1/2以下とし、ピストン4が往復動する移動余裕空間を考慮し、1/3程度が望ましい。
【0036】
ハウジング1内に試料2を導入した後、ピストン(A)4によって、ピストン(B)4近傍のバルブ5の直前まで、試料2を移動する。
【0037】
そして、ピストン(B)4近傍のバルブ5を閉じると同時に、ピストン(A)4近傍のバルブ5を開け、ピストン(A)4の先端がピストン(B)4近傍のフィルタに接触しないようにできるだけ近づけ、試料2をろ過分離処理する。
【0038】
このとき、ピストン(A)4の加圧の大きさを、差圧計やピストン(A)4に設置された圧力ゲージ(ひずみセンサ)等を用いて、フィルタ6が交換差圧に達しない範囲で、手動または自動制御で加圧調整しながら、試料2の1回目のろ過分離を完了させる。
【0039】
次に、ピストン(B)4近傍のバルブ5を開け(コンプレッサー等で気体を導入してもよい)、ピストン(A)4を元の位置(試料導入3口付近またはフィルタ6付近)に戻し、ピストン(B)4で、試料2を加圧する。
【0040】
ピストン(A)4圧送方法同様に、ピストン(B)4の先端が、ピストン(A)4近傍のフィルタ6に触れないようできるだけ近づけ、試料2をピストン(B)4で加圧し、2回目のろ過分離処理を行う。このとき、ピストン(A)同様に、ピストン(B)4も、フィルタ6が交換差圧に到達しない範囲で、手動または自動制御で加圧調整する。
【0041】
35〜40項の操作を繰り返し実施し、図1では時計回りに試料2は循環し、ろ過分離処理を行う。なお、図1回路を裏面から見た場合は、反時計回りに試料2は循環する。
【0042】
試料2の清浄度や材料品質を管理するため、例えば、フィルタ6の差圧によるモニター管理する方法、あるいは、ハウジング1内の試料2の移動空間の間または追加のバイパス回路に、粒子計数器や赤外分光分析装置などの分析装置や測定器を設置してもよい。
【0043】
試料2を仕様の清浄度または分離品質まで循環ろ過分離した後、試料取出口7(または、サンプリングポート)より、試料2を採取する。試料取出口7は、このときはじめて接続したバルブ等で開ける。
【0044】
図2に、ハウジング1内に3個のピストン4を使用した場合を示す。図1と異なるところは、ピストンの数と同様にフィルタ6の設置箇所を1個多く増やせるところなどである。
【0045】
また、図2に示すように、ピストン4の数が3個になると、円形ハウジング(あ:円形3ピストン3型)のみならず、直線的に循環ろ過分離させることができる環状の角型ハウジングも可能となる。
【0046】
このような角型ハウジングは、円形ハウジングと異なり、ピストン4を直線的に往復動することができ、ピストンに無理な力がかからない等の利点がある。
【0047】
図2の試料2導入から取出までの操作は、図1同様に、試料2を、図2では時計回りに回転させるように、3つのピストン4とバルブ5を、動作させる。なお、図2の回路を裏側から見た場合は、試料2は反時計まわりに循環することとなる。
【0048】
次に、環式の循環ろ過分離装置の連結可能なブロックタイプのハウジングの断面図(例)を、図3に示す。図3に示すように(ここでは角型4ピストン型を例にする)、ハウジング1は、4つのブロックハウジング(ユニット)から構成され、1つのブロックハウジングの中に、1つのピストン4を有する。
【0049】
図3の連結例は、4つのブロックハウジング(ユニット)の構成例であるが、図4に示すように、多数ブロックハウジングを連結させ、高粘度材料を処理することも可能である。
【0050】
また、さらに、ブロックハウジング内の流路パターンは、図5に示すように、立体的な流路(図8a〜e)を設計することができ、その断面は、図6に示されるような、例えば、ストレート型、エルボー型、ティー型、クロス型)などがある。
【0051】
ブロックハウジングの外観は、球形や円筒形や箱型などでもよいが、連結したときに、隣接するブロックハウジングと干渉しない形状が望ましい。
【0052】
このブロックハウジング内のピストン4の往復動の向きが直行するように、4つのブロックハウジングを接続すると、図3のように環式の循環ろ過分離回路を組み立てることができる。基本的な部品構成は、図1または図2と同じである。
【0053】
図7に、ブロックハウジングの詳細断面図(例)を示す。ハウジング1内には往復動する1個のピストン4を有し、試料導入口3からハウジング1内へと試料2が導入され、ピストン4によって試料2がフィルタ6へと加圧移動する基本的な仕組は、図1または図2と同じである。
【0054】
ブロックハウジングとブロックハウジングの間の接続部分から、試料2がピストン4加圧時に漏れぬよう接続用シール部9を設け、そこには金属シールやOリング(NBR、EPDR、シリコン系、フッ素系の有機材料)またはパッキン(NBR、EPDR、シリコン系、フッ素系の有機材料)等のシール機能を設けることが望ましい。
【0055】
その接続部は、例えば、図8の接続部断面図に示すように、スライドまたは回転固定型(ルアーロック式)、直接ビスまたはボルト等で固定する型、または、くさび継手固定型などが好例である。
【0056】
図7の8部分は、ピストン加圧試料入口または後述する逆洗用洗浄液出入口となり、循環ろ過分離された試料2が、8部分の多数孔加工された開口部より、導入される。
【0057】
(逆洗方法)
図7のブロックハウジングが4つ連結した詳細断面図を、図9に示す。使用済みフィルタの逆洗を実施するには、試料2流れ方向(図9中の矢印)に対し反対の流れになるように、例えば、図9の4つのバルブ孔5の少なくとも1個のバルブ孔を介して有機溶剤および/または気体等の逆洗用洗浄剤を導入し、導入に使用されているバルブ孔以外のバルブ孔5より排出することによって、逆洗処理を行う。
【0058】
(ろ過分離材料)
図10に、本発明の好適な実施例を示す循環ろ過分離回路中のろ過分離のためのフィルタ6の基本構成を示す。試料2の流れる方向から、ろ材保護層6a、ろ材層6b、ろ材支持層及びドレン層6cの4つの機能層からフィルタ6が構成される。ただし、ろ材保護層6aおよび/またはろ材支持層及びドレン層6cはなくてもよい。
【0059】
ろ材保護層6aは、脈動や突発的なバックフローや流体や異物との衝撃を防止するための保護層で、例えば、金属製(金、銅、銀、鉄、アルミ、合金、ステンレス等)の網状または貫通する孔が多数空いた膜または焼結体、または、高分子材料製(ナイロン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、PTFEやPVDFなどのフッ素系樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアセタール樹脂、セルロース、セルロースエステル等)の織布または不織布または膜、または、セラミックス材料(ガラス、シリコン等)からなる繊維または焼結体、または炭素繊維など、あるいは、それらいずれかを組み合わせたものである。
【0060】
ろ材層6bは、例えば、金属製(金、銅、銀、鉄、アルミ、合金、ステンレス等)の網または貫通する孔が多数空いた膜または焼結体、または、高分子樹脂製(ナイロン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、PTFEやPVDFなどのフッ素系樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアセタール樹脂、セルロース、セルロースエステル等)の織布または不織布の膜、または、セラミックス材料(ガラス、シリコン等)からなる繊維または焼結体、または炭素繊維など、あるいは、それらいずれかを組み合わせた積層膜(または深層膜)、などである。ろ材6b自体の差圧を小さくするため、膜厚は1mmまたはそれ以下が好ましい。また、対象となる異物(コンタミナント)や材料のサイズ(粒径)と流量特性の妨げにならないようなろ材6bを、考慮し選定すべきであるが、循環式であることから、異物の捕捉とともに、じょじょにろ過分離精度が上昇する特徴を有するため、ろ材6bのろ過分離精度は、ろ過分離対象となる異物や材料のサイズよりも大きくてもよい。
【0061】
ろ材支持層及びドレン層6cは、ろ材層6bの材料脱落防止およびろ液の排出を円滑にするもので、それ自体差圧を上昇させることのないように、ろ材6bとの接触面積がろ材層6bの投影膜面積の30%以下のものが望ましく、なおかつ流路確保のための十分な空隙を有する、例えば、無機材料(金属、ガラス、セラミックス等)の繊維または焼結体または網の膜または貫通した孔またはハニカム状の貫通溝を備えた板および/または有機材料(ナイロン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、PTFEやPVDFなどのフッ素系樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアセタール樹脂、セルロース、セルロースエステル等)の成型品または織布または不織布または貫通した孔またはハニカム状の貫通溝あるいは孔を備えた板、またはそれらいずれかの材料を組み合わせた積層膜、などである。
【0062】
(高粘度材料)
本発明を実施するにあたり好適な循環ろ過分離される試料2は、例えば、高粘度材料として代表的なグリース材料(カルシウム石鹸基グリース、カルシウム複合石鹸基グリース、ナトリウム石鹸基グリース、アルミニウム石鹸基グリース、リチウム石鹸基グリース、非石鹸基グリース、シリコングリース、フルオロエーテルグリースなど)、ペースト材料(油脂系の材料中に金属材料を含有する導電性ペーストやアルミペースト、はんだペースト、食品の乳脂肪製品やはちみつ、ジャムなど)、高分子樹脂、などで、粘度は1,000Pa・s以下の材料が好ましく、高い差圧に耐えうるフィルタ6が使用でき、その使用限界差圧が1,000Pa・s以上の試料2をろ過分離処理できる場合は、この限りではない。)
【0063】
前記試料2の循環ろ過分離処理における処理流量は、レイノルズ数3,000以下(層流)の範囲内で実施し、フィルタ6の使用限界差圧を超えない範囲で処理流量を設定するのが望ましい。
【0064】
(ハウジングのサイズ)
ハウジング1の内径または流路断面積は、ピストン4の加圧または限界荷重以内で設定することが望ましい。また、ハウジング1の長さに関しては、ピストン4加圧1回のろ過分離処理流量を考慮し、設定することが望ましい。
【0065】
(フィルタ差圧管理)
フィルタ6の差圧管理は、フィルタ6の使用限界差圧以内で使用されるようモニター管理する必要があり、例えば、フィルタ6の1次側(処理前室)と二次側(処理後室)の差圧を、差圧計または圧力計などでチェックしながら、手動または自動制御でピストン4の加圧速度を管理(コントロール)することが望ましく、わずかな加圧で、フィルタ6の使用限界差圧に到達する場合は、速やかに逆洗処理するか、フィルタ6を交換する。
【実施例】
【実施例1】
【0066】
まず、容器または配管内(ここでは使い捨てのプラスチック製のシリンジを実施例とする)に高粘性試料(ここではグリースで実施例とする)を1ml導入し、ピストンで圧送し、容器または配管内のグリースの残渣を確認した。
【0067】
(比較例1)
実施例1に対し、空気圧で高粘度試料を圧送した場合と比較した。
【実施例2】
【0068】
実施例1のピストン加圧効果による、ハウジング(ここでは水平管で外径1/2インチ肉厚1mmの配管を例とする)内壁面に試料(グリースを例)の非流動層がなく、試料流量100ml/minの場合の圧力損失を計算した。
【0069】
(比較例2)
実施例2との比較のため、実施例2と同一ハウジング内をピストン加圧せず、従来の液送ポンプ加圧による実施例2の同一粘性試料の非流動層が配管内径の20%を占める場合の圧力損失を計算した。
【実施例3】
【0070】
実施例1同一条件下で、ハウジング内径1mの場合の圧力損失を計算した。
【0071】
(比較例3)
実施例1と同一条件下で、ハウジング内径をごく一般的な配管内径10.7mm(外径1/2インチ、肉厚1mmに相当)に適合させた場合の圧力損失を計算した。
【実施例4】
【0072】
実施例3と同一条件下で、試料の粘度のみを変化させた場合の圧力損失を計算した。
【0073】
(比較例4)
比較例3と同一条件下で、試料の粘度のみを変化させた場合の圧力損失を計算した。
【実施例5】
【0074】
フィルタ(ろ材6b)のろ過精度0.1μmのときの、循環ろ過対象となる試料の限界粘度の理論値を計算した。
【実施例6】
【0075】
フィルタ(ろ材6b)のろ過精度1μmのときの、循環ろ過対象となる試料の限界粘度の理論値を計算した。
【実施例7】
【0076】
フィルタ(ろ材6b)のろ過精度10μmのときの、循環ろ過対象となる試料の限界粘度の理論値を計算した。
【実施例8】
【0077】
フィルタ(ろ材6b)のろ過精度100μmのときの、循環ろ過対象となる試料の限界粘度の理論値を計算した。
【0078】
(評価)
まず、実施例1と比較例1の結果を示す。
【0079】
図11(あ)と(い)に示すように、容器(プラスチック管)内にある1mlのグリースを、図11(う)に示すように、ピストンで加圧した場合と空気圧で加圧した場合を比較した。
【0080】
図11(え)は、ピストン加圧中の状態(左写真)と空気加圧中の状態(右写真)である。そのどちらも、加圧される空気により、圧送される際に気体(ここでは空気)のリーク(漏れ)箇所が発生し、容器内に試料(ここではグリース)が残存する。
【0081】
しかし、図11(お)に示すように、ピストン加圧の場合(左写真)は、ピストン先端と試料およびプラスチック管内壁との直接接触により、間接的に加圧する空気圧式(右写真)のように容器内に試料が残存することはなく、確実に圧送できる。
【0082】
このことは、空気圧でなく、試料が満液状態で配管または容器内をながれている場合においても、図12(あ)の粘度の低い材料に比べ、図12(い)に示すように、高い粘度の材料は、配管または容器内壁に、不純物や固形異物を含んだ非流動層(粘性底層と分子吸着層など)を形成し、ろ過分離処理を阻害する。
【0083】
これに対し、直接ハウジング(容器または配管)内を、図12(う)に示すように、ピストン加圧することにより、高粘度試料の流動層のみならず非流動層も強制的に、そして確実に、圧送できることが理解できる。
【0084】
数1〜7の式を用い、内径D(m)の管長さL(m)で管壁の粗さがe’(m)の円筒(ハウジング)内を、密度ρ(kg/m)、粘度μ(Pa・s)の流体が、V(m)で流れるときの圧力損失(ΔP)求めた。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【0085】
表1に、実施例2〜5と比較例2〜4の実施諸条件と圧力損失の計算結果を示す。
【表1】


【0086】
表1に示すように、ハウジング(容器または配管)内壁に、吸着して流れない高粘度試料の特徴である非流動層(粘性底層および分子吸着層など)が存在する(比較例2)と、存在しないもの(実施例2)に比べ、圧力損失が大きくなることが理解できる。
【0087】
また、本発明の最も特徴的であるハウジング内にピストン機構を有することから、流路内に圧力損失を高めるオリフィスとなる配管やバルブ等の接続なしで高粘度試料を直接圧送することができる。
【0088】
一般に、市販のポンプやフィルタ・ハウジング等を接続する場合は、必ず配管(比較例3)が必要であり、それに比べ、実施例3のように、ハウジング内径が1mのように流路断面積を大きくすることができることから、表1の実施例3と比較例3の圧力損失を比較してわかるように、実施例3は、比較例3の外径1/2インチ配管のものに比べ、圧倒的に低い圧力損失高い粘度の材料を流すことができることがわかる。
【0089】
また、さらに、例えば、1,000Pa・sという高い粘度の材料であっても、表1の実施例4と比較例4に示すように、配管を例にした比較例4に比べ、これも圧倒的に低い圧力損失で、高粘度試料を圧送できることがわかる。
【0090】
実施例1〜4の結果から、本発明の方法を用いれば、高粘度材料を、従来法の、配管内での高い圧力損失の発生と配管内に残渣する非流動層の課題を、解決できることが理解できる。
【0091】
(試料粘度の実用限界)
実施例5〜8は、数7及び数8の式を用い、フィルタの限界使用差圧が10MPaを越える特殊なフィルタも市販で存在するが、汎用性を考慮し限界使用差圧を1.5MPaとした場合、表2のろ過分離のための諸条件から、ろ過分離処理可能な高粘度材料の理論限界粘度を算出した結果を表2に示す。なお、ここでいうろ材開口率(k)は、ろ材の有効ろ過面積中の試料透過面積の割合(%)をいう。
【数7】

【数8】

【表2】


【0092】
表2の理論限界使用差圧1.5MPaに基づき、循環ろ過分離のための高粘度試料の使用限界粘度を1,000Pa・s以下とした。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明の好適な実施形態を示す2ピストン式の環式循環ろ過分離回路の模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の好適な実施形態を示す3ピストン式の環式循環ろ過分離回路の模式断面図である。(左:(あ)円形3ピストン型、右:(い)角形3ピストン型)
【図3】図3は、本発明の好適な実施形態を示す環式循環ろ過分離回路のブロック式ハウジング(部品)の4連結タイプの模式断面図である。
【図4】図4は、図3のブロック式ハウジングの多数連結例を示す模式斜視図である。
【図5】図5は、ブロック式ハウジング単体(部品)の立体的な流路パターンを示す模式斜視図である。
【図6】図6は、本発明の好適な実施形態を示す図4ブロック式ハウジング単体(部品)内の各種流路パターンを示す模式断面図である。
【図7】図7は、図3のブロック式ハウジング単体(部品)の詳細模式断面図である。
【図8】図8は、本発明の好適な実施形態を示す図7のブロック式ハウジング単体(部品)の接続方法の模式断面図である。(左:スライド/回転固定型、中央:ビス固定型、右:くさび継手固定型)
【図9】図9は、図7のブロック式ハウジング単体(部品)を4連結した場合の詳細模式断面図である。
【図10】図10は、本発明の好適な実施形態を示すフィルタ構成の模式斜視図である。
【図11】図11は、ピストンによる直接加圧(実施例1)と空気加圧(比較例1)によるグリースの移動実験結果である。(あ:加圧前グリース断面写真、い:加圧前グリース側面写真、う:加圧実験断面図、え:加圧中グリース写真、お:加圧後グリース写真)
【図12】図12は、従来方法によりハウジング(または配管)内を試料(流体)がフィルタに移動する場合、並びに、ピストン加圧される場合、の断面模式図である。(あ:粘度の低い場合の従来法、い:粘度が高い場合の従来法、う:粘度が高い場合のピストン加圧)
【符号の説明】
【0094】
1・・・ハウジング、2・・・試料、3・・・試料導入口、4・・・ピストン、5・・・バルブ孔、6・・・フィルタ(6a:ろ材保護層、6b:ろ材層、6c:ろ材支持層+ドレン層)、7・・・試料取出口、8・・・ピストン加圧試料入口または逆洗用洗浄液出入口、9・・・ブロックハウジング接続用シール部、10・・・ビスまたはボルトまたはネジ、11・・・流動層、12・・・非流動層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に接続された管または容器の内部に、少なくとも2個の往復動する棒状またはワイヤー状のピストンと少なくとも1箇所にろ過分離機能を有し、有機物および/または無機物から構成される物質の粘度が1,000Pa・s以下の材料を循環ろ過分離する方法。
【請求項2】
前記方法を実現するための、装置、または内部に請求項1記載のピストンを少なくとも1個有し、かつ、少なくとも1箇所ろ過分離機能を装備可能で、かつ、環状に接続できる部品。
【請求項3】
請求項1方法または前記装置または部品を用いて、加工された材料、または加工された材料を含む部品または製品または再生品。
【請求項4】
請求項1方法または請求項2記載の部品または装置のいずれかを用いた測定方法または分析方法または測定装置または分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−66232(P2012−66232A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229051(P2010−229051)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(310018102)NSSL株式会社 (2)
【Fターム(参考)】