高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液
【課題】本発明は、発酵法で作られた高粘性のβグルカンの粘性を加圧加温する方法により低下させる、高粘性βグルカンの粘性低下方法とその糖液を提供する。
【解決手段】多糖を非酸素状態で加熱することにより、それに含まれる高粘性βグルカンの加熱時の酸化を抑える。加熱は、常温から140℃〜200℃の温度範囲で、飽和蒸気圧以上の圧力に加圧した加圧熱水により所定時間の間加水分解し、高粘度βグルカンを分解し、粘性を低下させる。また、加熱処理前に凝集剤を加えて撹拌混合して濾過することで、培養液中に含まれる菌体、発酵残渣を除去する。更に、加熱処理前に高粘性培養液に、凝集剤を加え、水不溶性の多糖複合体を形成し、該多糖複合体を脱水処理後、水に再分散して多糖複合体溶液にした後、加熱処理を行い、粘性を低下させる。
【解決手段】多糖を非酸素状態で加熱することにより、それに含まれる高粘性βグルカンの加熱時の酸化を抑える。加熱は、常温から140℃〜200℃の温度範囲で、飽和蒸気圧以上の圧力に加圧した加圧熱水により所定時間の間加水分解し、高粘度βグルカンを分解し、粘性を低下させる。また、加熱処理前に凝集剤を加えて撹拌混合して濾過することで、培養液中に含まれる菌体、発酵残渣を除去する。更に、加熱処理前に高粘性培養液に、凝集剤を加え、水不溶性の多糖複合体を形成し、該多糖複合体を脱水処理後、水に再分散して多糖複合体溶液にした後、加熱処理を行い、粘性を低下させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒酵母”Aureobasidium属”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液に関する。詳しくは、特に、”Aureobasidium pullulans”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液に関する。更に詳しくは、発酵法によって得られた高粘度の(1,3)(1,6)-βグルカン液を、蒸気圧より高い圧力条件下で高温度に加熱処理して、その粘性を低下させる高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
βグルカンのうち、(1,3)βグルカンは、グルコースがβ1-3型の結合で連なった多糖であり、アガリクス、霊芝植物、菌類、細菌等の自然界に広く分布することが知られている。特に、1→6分岐を有する(1,3)(1,6)-βグルカンは、アガリクス、霊芝等に含まれ、強い免疫賦活作用、抗腫瘍活性、制癌作用を持つものとして知られている。この中で、不完全菌黒色菌である”Aureobacidium属”が生産する多糖、特に微工研寄託No.4257種が産出する多糖に、凝集剤、食品改質剤、整腸剤等の用途として開発されたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
この多糖を含む培養液は、高粘度で、粘着性、接着性を示さず、見掛け上は生卵白状を示す。そして、この多糖は、水溶液中で1%濃度になるとゲル状になり、水に溶解することが困難である凝集性を有する多糖である。この多糖の0.1%水溶液に、エチルアルコールを添加しても粘性が増加してゼリー状となる。この多糖は、水、アルコールに溶解困難であること、高粘度(粘弾性体)であること等から、最適な粘度が得られず、このまま凝集剤、食品改質剤、整腸剤等に使用しても用途が限られていた。
【0004】
更に、仮にこの多糖をそのまま、健康食品として食したとしても、分子量が大きいこともあり消化吸収される確率は低い。これを増加させるには、人間の消化器官が吸収できる程度の分子量で、しかも免疫賦活作用、制癌作用を有する程度に、この糖類を加水分解できれば好ましい。このために酵素による分解、超音波による糖鎖切断を試みられたが、何れも失敗に終わっている。
【0005】
更に、酸、アルカリ等による化学的な加水分解も考えられるが、食品として使用されることを考慮すると、これらの化学的処理により新たな化合物を生成する可能性も捨てきれず、これらの方法は好ましい糖鎖切断方法とは言えず、かつ化学処理を行うために薬品等のコストも増大する。他方、鹿角霊芝からβグルカンを、145℃〜190℃の温度の加圧熱水、即ち飽和蒸気圧以上の圧力で加圧し、加熱した熱水で抽出するものも提案されている(特許文献2参照)。この加圧熱水による処理は、粉砕された固体の鹿角霊芝菌体に加圧熱水を接触させ、菌体の細胞膜の構成糖である(1,3)(1,6)-βグルカンを加水分解して水に溶ける程度の分子量にまで低分子化し、抽出する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−149301号公報
【特許文献2】特開2008−138195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、高温高圧条件で水熱処理を行う実験例等が増えてきた。当然、種々の反応はリアクタ内の液相の水の中で起きているが、多くの実験例で、反応器内の液の温度ではなく、反応器そのものを熱媒体へ浸漬したときの環境温度又は外部加熱したときのリアクタの温度をもって処理温度としている例が見受けられる。これは処理が高温高圧のもとに行われるため、高圧容器の構造が肉厚であることや、センサー取り付け部の耐圧シールが難しい等の構造的な制約から、内部温度を直接測定できていないものと考えられる。
【0008】
しかしながら、リアクタ(反応器)内部の実温を測定しない処理時間は、内部の液の昇温に要した時間が不明であり、かつ、容器が処理温度に保持された反応時間も不明であり、反応時間であると推定されている時間に疑問が残るケースが多い。特に、内部を撹拌していない場合は、反応器内部での自然対流伝熱による昇温の遅れも生じ、さらに熱容量が大きな耐圧性の反応容器(一般に肉厚である。)では、容器そのものに熱容量があるために設定温度までの昇温に時間がかかり、処理時間のうちどれだけの時間が昇温に費やされたのかを明確にしなければ正確な処理時間とは言えない。
【0009】
多くの実験で反応時間や反応温度に不正確な表記がなされており、本発明の発明者等はこれらの問題を反応器の構造と反応器容量、撹拌方法などを工夫し、正確な把握に努めて後述する実験を行い、本発明を完成するに至った。
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、発酵法で作られた(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、黒酵母”Aureobasidium属”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、不純物を除去するための精製が簡潔で、その濃縮操作又濾過操作が簡潔の高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明の高粘性培養液の粘性低下方法は、黒酵母”Aureobasidium属”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘度を低下させる方法において、高粘性培養液を加熱処理することにより、粘性を低下させることを特徴とする。
【0012】
黒酵母が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液は、黒酵母由来のβグルカンを含む培養液である。
この加熱処理は、140℃より高い温度で、200℃を越えない温度範囲において、処理温度に於ける飽和蒸気圧以上の圧力に加圧した状態で所定時間の間加熱処理し、βグルカンを分解して、高粘性培養液からなる処理液の粘度を低下させる。
【0013】
加熱の様式は任意の方法で良いが、この加熱処理の加熱時間は、170℃以下では5分以上60分以内であることが好ましい。
また、この加熱処理の加熱時間は、170℃以上の加熱処理時、高粘性培養液を室温から加熱処理の温度までに昇温のみ(0分)から、20分以下であることが好ましい。この昇温のみとは、加熱のための保持時間が0分を含む概念である。
【0014】
高粘性培養液のpHを6〜8の中性に調整した後、加熱処理をすることが好ましい。このように高粘性培養液を中性に調整した後、加熱処理をすると、処理後の試料にはほとんどグルコースが検出されない。即ち、1,6側鎖の切断が防止できる。
上述の高粘性培養液の粘性低下は、次の各工程によって実現できる。高粘性培養液の粘性低下は、140℃に至るまでの前加熱工程、140℃を越える温度帯に保たれる反応工程、及び、沸点以下室温付近まで冷却する冷却工程からなる。
【0015】
また、上述の高粘性培養液に、凝集剤を加え、水不溶性の(1,3)(1,6)-βグルカンの含有する多糖複合体を形成し、該多糖複合体を脱水処理後、水に再分散して多糖複合体溶液にした後、加熱処理を行い、粘性を低下させると良い。脱水処理は、圧搾濾過脱水であると良い。
この加熱処理の条件は、処理温度が160℃以上170℃以下、処理時間が、5分以上25分以下、pHが7.0〜8.0であると良い。また、この加熱処理の条件は、処理温度が165℃±2℃で、処理時間が、20分±1分で、pHが7.0〜8.0であると好ましい。
凝集剤としては、塩化カルシウムや塩化マグネシウム等のにがり成分、塩化第2鉄、硫酸アルミニウム等種々の凝集剤を用いる。
【0016】
[反応工程]
反応工程は、高粘性培養液を含む試料を、所定の温度で維持して、加水分解する、又は、水素結合を開裂させる工程である。
本発明の多糖含有培養液は、上述の高粘性培養液の粘性低下方法で製造されたものである。この多糖含有培養液は、加水分解による加水分解および/あるいは水素結合の開裂を受けた多糖である。
【0017】
[加熱処理]
加熱処理は、高粘性培養液を含む試料を反応容器に仕込み、熱媒体中に浸漬して、目的温度まで昇温させ、目的温度で所定時間加熱する。冷却は、加熱処理後、冷却媒体(例えば、水浴)中に入れて急冷する。
加熱処理は、蒸気圧以上の圧力条件下で加熱できるものであれば、任意の形態の反応器、任意の種類の熱媒体を用いることができる。熱媒体としては、スチーム、電気ヒータ、高温油、塩浴等が例示できる。黒酵母は、Aureobasidium pullulansでことが特に好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液によると、次の効果が得られた。発酵法で作られた高粘性培養液を、蒸気圧以上に加圧し、加温した密閉環境で、加熱処理し、その粘性を低下させることができた。
また、発酵法で作られた培養液に凝集剤を添加して、水不溶性の(1,3)(1,6)-βグルカンの含有する多糖複合体を形成させる工程及び、該多糖複合体を圧搾脱水する工程を追加後、これを加熱処理することで、培養液中の菌や発酵残渣を容易に除去できた。即ち、凝集剤を用いることで、培養液の濃縮操作又濾過操作が簡潔になった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実験装置の概要を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の反応装置1の実験ユニット3の概要を示す図である。
【図3】図3は、本発明の反応装置1の反応器4の構造例を示す図である。
【図4】図4は、反応器4内の反応液の温度変化の一例(160℃での加熱処理の例)を示すグラフである。
【図5】図5は、冷却した後、反応器4から取り出した試料の様子を示す写真である。
【図6】図6は、本実験で、140℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本実験で、150℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、本実験で、160℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、本実験で、140℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係(対数軸)を示すグラフである。
【図10】図10は、本実験で、150℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係(対数軸)を示すグラフである。
【図11】図11は、本実験で、160℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係(対数軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施例]
〔第1の実験例〕
以下、本発明の実施の形態、及び実施例を以下に示す実験例で説明する。最初に実験に用いた高粘性培養液等について説明する。
〔高粘性培養液等〕
この明細書で用いた高粘性培養液は、シュクロースを主たる糖質原として黒酵母”Aureobasidium属”、特に”Aureobasidium pullulans”による発酵にて得られた培養液そのもので、0.5%前後の(1,3)(1,6)-βグルカンと菌体及び発酵残渣等を含む、生卵の卵白様を呈した高粘弾性体である。黒酵母が培養液中に放出した僅か0.5%の多糖(βグルカン)により生卵の卵白様の物性が生じている。本実施の形態の黒酵母の発酵条件は、特許文献1(日本国特許第1681333号)に記された方法である。
【0021】
この高粘性培養液に含まれる多糖は、浸透圧法により求められた数平均分子量が5〜50万の(1,3)(1,6)-βグルカンで、(1,6)側鎖に付くグルコースは1分子であることが判明している。これは、(1,6)側鎖に複数のグルコースが連なる鹿角霊芝のβグルカンとは構造が異なる。高粘性培養液に含まれる多糖は、5%程度のリン酸がエステル結合している。この高粘性培養液に含まれる多糖は、リン酸が結合していない鹿角霊芝のβグルカンとは構造が異なる。
【0022】
今回の実験で用いた原料は、日本オリゴ(株)が製造した培養液で、発酵後の培養液を熱殺菌したものである。高粘性培養液は、上述のように発酵培養液であり、「グルカン液」又は「高粘性培養液」とも言える。次の実験例で示すように、高粘性培養液の加熱処理に種々の工夫をしている。まず、小型の反応器を用い、反応器そのものの熱容量を極力小さくした。即ち、昇温時間の短縮、外部の加熱媒体との温度差をできるだけ極小化した。
【0023】
また、温度センサーは、反応器の内部の液の中心部に配置し、反応器の内容物の温度を正確に測定できるようにした。反応器全体を、加熱オイルや塩浴等の加熱媒体の中で振盪できる機構とし、反応器内を強制対流撹拌させて、反応器内の溶液は均一かつ急速に昇温できるようにしている。これらの工夫の結果、次の実験例に示すように、反応器内の溶液は、室温から目的温度までの昇温所要時間は50秒と非常に短時間であり、かつ反応液温度を正確に測定することができた。
【0024】
〔実験装置、実験方法〕
以下、本発明の第1の実験例を実験装置、実験例で説明する。後述するように、加熱工程と反応工程は、同一の装置内で実現できる。冷却工程は、加熱処理された試料を冷却するための工程である。図1は、上述の各工程の概念を示すものであり、回分式の反応装置1の概要を図示している。反応装置1は加熱浴槽2aと実験ユニット3からなる。手動、又は搬送手段(図示せず。)によって、実験ユニット3を移動させて、加熱浴槽2a内に浸漬する。図2には、実験ユニット3の概要を図示したものである。
【0025】
この実験ユニット3は、小型の反応器4と、この反応器4を制御又は監視するための複数の機器からなる。本実験に用いた反応器4は、小型であるので反応器4内の液量が少ない。また、反応器4は、小型であるので熱容量が小さい。よって、反応器4がこの外部から加熱されると、反応器4内の液体は、目標温度まで急速に昇温することが出来る利点がある。これに対して、熱容量が大きな反応器を用いると、室温から所定温度までの昇温時間は長くなり、装置によっては数十分を要することがある。
【0026】
本第1の実験例の温度条件は、非常に正確な値が要求される。一般に、密閉された反応器4内の試料温度を直接測定しにくいので、反応器4を小型化することにより、その環境の温度に短時間で内部の液体を加熱できる利点がある。反応器4内の液体をより高速に目的温度まで昇温させるときは、次のように2段階で温度管理をすると効率的で正確に昇温できる。まず、加熱浴槽2aを2台用意する。1台目の加熱浴槽2aは、目的とする目標温度より高い温度で設定しておく。
【0027】
好ましくは、1台目の加熱浴槽2aは、目的とする目標温度より数十℃高く設定しておく。2台目の加熱浴槽2a内の液温は、実際の目標温度に設定されている。まず、反応器4を1台目の加熱浴槽2aに投入して浸漬し急速に加熱して、反応器4内の試料が目標温度近くまでに昇温したら、2台目の加熱浴槽2aに素早く移動させる。そして、反応器4内の試料を目標温度までに昇温させる。そして、目標温度で反応器4を維持して、反応器4内の被反応物を反応させる。例えば、目標温度が150℃の反応のとき、ステンレス製の反応器4の例を考える。
【0028】
1台目の加熱浴槽2a内の液温は、180℃に設定されており、これに投入された反応器4内の温度が25℃前後の室温から140℃付近までに昇温させるための所要時間は10秒前後である。そして、この反応器4を、目標温度150℃に設定された2台目の加熱浴槽2aで、加熱して、反応器4内の温度を目標温度150℃までに加熱する。このように2段階加熱した場合、目標温度150℃に設定された1台の加熱浴槽2aのみで、反応器4を25℃前後の室温から150℃までに昇温させる所要時間(50秒)を、15秒程度に短縮可能である。
【0029】
本実験例の実験の場合、170℃以下では、目標温度到達後の反応時間が数分のオーダーであり、加熱浴槽2aが1台でも昇温所要時間は反応時間に対して短く影響が小さいため1段階昇温を行った。特に、粘性低下反応は、140℃以上に達してから始まり、1段階昇温でも140℃から150℃に昇温するための昇温所要時間は20秒程度であり、大きな影響はない。ただし、到達目標温度が170℃を越える場合は、140℃以降の昇温時間に数分を要するようになり、この場合、目的温度に到達後直ちに冷却しても粘性低下が観察されるようになる。
【0030】
従って、小型で熱容量の少ない反応器4を用いることで、反応器4が目標温度に到達した後の反応時間の影響を正確に捉えることが出来る。目標温度が約200℃までの反応では、加熱浴槽2aは、沸騰することなく加熱できる熱媒体として油を用いた油浴であると良いが、これに限定されるものではない。
【0031】
〔実験ユニットの構造例〕
この実験では、図1に示すような、回分式の反応装置1を用いた。図2は、反応器4が装着された実験ユニット3を第2浴槽2aに浸漬した場合を示す概念図である。図3は、反応器4の構造例を示す概念図である。実験ユニット3は、反応器4、異径ユニオンクロス5、バルブ6、圧力センサー7、熱電対8、支持棒(図示せず。)等からなる。
【0032】
実験ユニット3は、そのまま、搬送手段、又は手動で搬送して、加熱浴槽2aの熱媒体に浸漬できるようになっている。反応器4の上部は、異径ユニオンクロス5に接続されている。異径ユニオンクロス5には、その他に、バルブ6、圧力センサー7、温度計8が装着された。バルブ6は、反応器4内の空気を窒素ガスで置換し、高温状態で試料が酸化するのを防ぐためのものである。支持棒は、1/4inchのステンレスパイプである。
【0033】
窒素ガスは、窒素ガスボンベ等の専用の容器6aに充填されており、バルブ6の制御によって、反応器4内に流入される。圧力センサー7は、ひずみゲージ式圧力センサー(株式会社共和電業(東京都調布市)の製造で、型番がPGM-500KDである。)であり、反応器3内の圧力をモニターするためのものである。温度計8は、熱電対の温度計である。図3に示すように、温度計8の感温部8aは、試料に浸る位置となるように装着されている。
【0034】
図3の例では、感温部8aは、反応器4の内底面より約10mm離間した位置になるように装着されている。更に、加熱浴槽2a内の温度を測定するために、熱電対の温度計9を設置した。温度計9の先端の感温部は、反応器4が浸漬する位置になるように装着されている。以上のようにして構成された実験ユニット3は、約50cmの支持棒(図示せず。)の先に吊り下げた状態で固定されている。
【0035】
このように、構成されたこの実験ユニット3は、加熱浴槽2a、冷却浴槽2bの中で手動により振動できる。各浴槽は、加熱手段10によって、所定の温度に加熱されている。加熱浴槽2aの加熱手段10は、電気式のマントルヒータである。図4は、加熱浴槽2a内の反応液(試料液)の温度変化の一例(目標温度が160℃の加熱例。)を示すグラフである。このグラフの縦軸は、温度を示し、横軸は、経過時間を示すものである。
【0036】
目標温度に設定された加熱浴槽2aに反応器4を浸漬してから、反応器4内の反応液(試料液)が1分以内という短時間で目標温度付近までに昇温している。また、反応が終わってから、室温に設定された冷却浴槽2bに反応器4を移してから、非常に短時間で降温が行われる。図4に示した経過時間と温度の関係によれば、短時間で昇温・降温が行われていることを表しており、本実験における温度条件や反応時間が正確であることを示している。
【0037】
〔反応器4〕
反応器4は、SUS316ステンレス製で、内容積が約6mLである。反応器4は、器壁の厚さが1.8mmの円筒形である。ただし、容器の肉厚・継手等の規格は、昇温時の蒸気圧に対する耐圧性を有していればよい。例えば、今回の試料のような水溶液は、150℃で0.48MPa、200℃で1.55MPaの蒸気圧を示すので、それぞれの温度で発生する圧力に耐える規格であればよい。材質については高温での腐食に耐えるよう耐腐食性の材料が好ましい。反応器4の寸法は、外径が12.7mm(1/2インチ)、長さが105mmである。反応器4の上部の配管は、外径1/4inch、長さ190mmのステンレス製である。
【0038】
〔実験の手順〕
まず、反応器4に5mLの原液(高粘性培養液)を充填した。原液は、発酵原液からなる。実験ユニット3に反応器4を装着し、その後、バルブ6を操作して、反応器4内の空気を窒素ガスで置換した。この空気と窒素ガスの置換によって、反応器4内の試料が、高温状態で酸化することを防ぐことができる。そして、加熱浴槽2aの油浴に浸漬し、細かく振動させ、反応器4内の液体の昇温状態を均一にしながら、加熱した。窒素ガスの圧力は、処理温度により、0.5MPa〜2.0MPaの範囲で調節できる。
【0039】
実験は、図5に示すように、温度が140℃、150℃、160℃、及び180℃で、10分〜60分の時間で行った。図5の写真は、試料を試験管に入れた外観を示す写真である。試料を所定の温度で所定時間の間に反応させて、冷却した後の外観を示す写真である。この冷却は、反応器4を加熱浴槽2aの中で浸漬し所定の加熱時間が経過した後、直ちに、水浴の冷却浴槽2bに反応器4を浸漬し、急冷したものである。急冷の所要時間は、基本的には1分以内とした。
【0040】
図5の写真の各試料が入っている試験管の上に、試料の番号を「A」、「B」、:…、「J」のように書いてある。また、図5の写真の各試料が入っている試験管の上に、その反応温度及び反応時間を表したものである。例えば、一番左側から3番目の試験管の試料Cは、反応温度が140℃、反応時間が15分の試料である。一番左側の試験管の試料は、元の試料で、未処理のものであり、ここで、原液とも言う。
【0041】
図5の写真によると、試料B〜Jは、試料Aの原液に比べ、処理温度が高い試料ほど、処理時間が長い試料ほど着色が進行したことが分かる。また、試料の着色は、処理温度が高いほど短時間で進行したことが分かる。試料の着色の原因は、原液中に含まれる培地成分によるアミノカルボニル反応によるものと考えられる。この生成物は、安全性に問題はなく、製品化時には精製・脱色操作が行われるので、製品品質に影響しない。
【0042】
肝心の粘性低下については、図5の写真のみでは分からない。しかし、140℃で処理した試料では、60分の加熱でも原液の生卵白様粘弾性に殆ど変化がない。これにより、140℃までの温度で試料を処理しても、この処理は、試料の粘度低下に寄与しないことが分かった。一方、150℃の温度では、試料に、明らかな物性変化、つまり、粘性低下が認められた。試料の粘性低下は、150℃の温度では、短時間、例えば、5分の加熱でも認められた。
【0043】
このことから、粘性低下に寄与する反応の活性化エネルギー、つまり温度、は140℃より高く、150℃以下の温度帯にあることが判明した。また、150℃では時間依存的に粘性の低下傾向が認められた。160℃の温度処理では、より粘性が低下した。この粘性低下は、後述するが、図6、図7、図8、図9、図10、及び図11のグラフから明らかである。粘弾性体から低粘性体への変化は、培養液中に含まれる菌体や培地成分の遠心分離や膜分離を可能にした。
【0044】
この方法は、これまで不可能であった1-3,1-6βグルカンの精製が可能になることを意味する。このとき、必要となる圧力は、処理温度に於ける蒸気圧以上の圧力で、150℃の場合、0.48MPaである。その場合の所要時間は、150℃の場合、5分から20分程度である。
【0045】
〔粘性低下の測定〕
液体の粘性の挙動を検討する手法には、落球法がある。この落球法は、粘性流体中に置かれた球体が落ちていく速度で、粘性を比較する方法である。この落球法では、流体の絶対的な粘度を正確に知ることは出来ないが、この方法により液体の粘性の変化等の物性変化の目安は得られる。今回の、試料の粘性低下の挙動を測定するとき、この手法も用いた。
【0046】
試験管に、原液又は処理試料を入れ被検液とした。そして、密度2.5g/cm3、直径4mmのガラスビーズが25℃の被検液中の距離120mmを落下するのに必要な所要時間を測定し、落下速度を求めた。その落下速度の平均速度は、原液で4.3×10-3m/sec、150℃で10分間の処理試料では137.0×10-3m/secであった。処理試料は、原液に比べ落下速度が32倍に上昇し、その粘度が大きく低下していることが示された。
【0047】
平均速度は、同一被検液について複数回(例えば、10回程度)測定し、得られた複数のデータ(120mm落下の所要時間)を平均したものである。前述のように、培養液は「粘弾性体」であり、物性を「粘度」として表すのは正確ではない。しかし、水熱処理による物性が変化していることを示す指標として十分使用可能であると判断し、測定した。また、試料の粘度は、東京計器株式会社(東京都大田区)製のE型粘度計でも測定した。
【0048】
試験管に、原液又は処理試料を入れ被検液とした。液体の粘性測定の具体的な手順は、次の通りである。E型粘度計のサンプルカップに試料1.2mLを入れ、25℃の温度条件で、9.8sec-1、19.2sec-1、38.4sec-1、及び76.8sec-1の剪断速度で粘度を測定した。25℃の温度は、恒温槽水をサンプルカップのジャケットに循環することで維持した。その結果を図6、図7、図8、図9、図10、及び、図11に示している。
【0049】
図6、図7、図8は、実験の試料の粘性測定の結果を示すグラフで、140℃、150℃、及び160℃で処理した処理試料の粘度対剪断速度を普通軸で示したグラフである。図9、図10、及び、図11は、図6、図7、図8の縦軸と横軸を対数軸で表したグラフである。これらの図の縦軸は、粘度を示し、単位はセンチポイズ(cP)である。また、横軸は、剪断速度を示し、単位はsec-1である。加熱処理前の試料である原液は、図中に”intact”と表わされている。
【0050】
原液は、対数軸の図において剪断速度上昇に従い粘度が直線的に低下し、典型的なべき乗則流体の性質を示し、非ニュートン性が高い高分子流体であることがわかる。処理試料では、140℃ではほとんど粘性低下が見られないのに対し、150℃、160℃で大きく粘度が低下していることがわかる。即ち、Aureobasidium属による発酵で得られた高粘性培養液は140℃までの温度では粘性低下が起こらず、140℃を越える温度ではじめて粘度低下反応が起こることを示している。
【0051】
即ち、粘性低下反応の活性化温度が140℃以上にあることを明らかにした。このことは、分子量が低下したことも示唆している。そして、流体としての性質は、グラフの傾きが緩やかになったことから、処理試料がニュートン流体に近づいたことが分かる。図7及び図8から分かるように、水熱処理により明らかに粘性が低下したことが分かる。原液は剪断速度の変化に対して粘性が大きく変化(低下)し、非ニュートン性が強い流体であることが分かる。
【0052】
一方、加熱処理された処理試料は、剪断速度の変化に対する粘度変化が小さくなり、ニュートン粘性に近い物性を示すように変化した。また、対数軸で表した図10及び図11の原液は、直線となり、線状高分子特有のべき乗則流体であることを表しており、加熱処理物でその傾きが低下したことから分子量が低下した可能性も考えられる。
【0053】
〔凍結乾燥物の再溶解試験〕
また、原液と、それを処理した試料を凍結させ乾燥させて、再溶解する試験を行った。その結果、原液は、再溶解性が悪く、凍結された原液の溶け残り部分が発生した。一方、150℃で加熱処理された試料は、凍結後、均一なコロイド液状に再溶解した。このように、直接高温高圧で処理した培養液は、乾燥・凍結させた後の再溶解する性質が、その原液より向上した。よって、培養液の原液の乾燥物に指摘されていた、再溶解性が悪いという問題が解決された。
【0054】
〔第2の実験例〕
以下、第2の実験例を示す。第2の実験例では、上述の第1の実験例と同一の培養液を用い、それに凝集剤を加えて凝集塊とすることで、水熱処理前に培養液中の不純物を洗浄除去し、水熱処理後に得られる(1,3)(1,6)-βグルカンの純度を向上させる。不純物は、培養液中の菌体、発酵残渣等であり、凝集剤によって凝集塊となり、培養液から容易に洗浄除去される。
【0055】
凝集剤としては、塩化カルシウムや塩化マグネシウム等のにがり成分、塩化第2鉄、硫酸アルミニウム等の種々の凝集剤を用いることができる。この中で、硫酸アルミニウムによる凝集物を用いて、実験を行った。実験での加熱処理条件は、pHが7.0〜8.0の条件で、熱処理温度が160℃以上170℃以下、好ましくは165±2℃、熱処理時間が5〜25分、好ましくは20±1分、の処理を行い、可溶化した。本第2の実験例は、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液への凝集剤添加とその加熱処理の組み合わせで、(1,3)(1,6)-βグルカンの精製がさらに容易になることが実証された。
【0056】
〔実験方法〕
ここで、具体的な実験例を示す。実験には、上述の第1の実験例で用いた、“Aureobasidium pullulans“の培養により得られる(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液を用いた。詳しくは、ATCC.20425菌を培養して得られた(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液を温度105℃、処理時間5分で殺菌処理し、これに硫酸アルミニウム溶液を加えて物理的に撹拌した。ただし、この殺菌処理は、必須ではない。後述するように、150℃以上の温度で水熱処理を行っており、この水熱処理は殺菌効果がある。
【0057】
また、この殺菌処理のための加熱は、工程中の発酵の進行を防止するための操作であるので、この加熱処理の工程は省略が可能である。本第2の実験例では、20%硫酸アルミニウム液を終濃度0.1%となるように加え、不溶性の多糖アルミニウム複合体を形成させた。この多糖アルミニウム複合体を安定な凝集塊とするには、室温で、30分〜60分ゆっくり攪拌することが好ましい。より、均一な凝集塊とするためには、均一かつ強力に混合できる「シャーポンプ」の使用が好ましい。20%硫酸アルミニウム液は、硫酸バンド(Al2(SO4)3)を用いた。
【0058】
以上の操作で得られた不溶性の多糖アルミニウム複合体を、フィルタープレスに導入し、水道水を通水して培養液中に含まれていた発酵残渣及び菌体を洗浄除去し、圧搾濾過して含水率65〜70%のパサパサの洗浄済み不溶物を得た。これらの操作により、凝集塊となった多糖アルミニウム複合体に取り込まれなかった発酵残渣及び菌体が効率よく除去された。洗浄済み不溶物は、純水に再度分散し(多糖濃度として最高4.5%、好ましくは3.5%)、pHを水酸化ナトリウム等で中性付近の6.5〜8.5(好ましくはpH=7.5〜8.0)に調整後、密閉容器に充填し150〜180℃で水熱処理した。
【0059】
上述の第1の実験例の実験のように、硫酸アルミを加えない場合においては、150℃10分の短時間でも顕著な粘性低下が認められた。しかし、本第2の実験例の場合、つまり、硫酸アルミニウムを添加して得られた凝集物(不溶物)の場合は、155℃で20分の処理でも粘性の低下は、不十分で、得られた水熱処理物も不均一であった。つまり、水溶化した部分と凝集状態のままの部分が混在して存在していた。180℃の場合は、硫酸アルミミウムを加えない場合に比べ、その程度は格段に小さいものの着色が認められた。
【0060】
高温処理でも着色の程度が抑えられた原因は、発酵残渣(本例では原料の米ぬか等)が圧搾洗浄により除去されたことにより、アミノカルボニル反応などの着色反応が抑制されたためと考えられる。従って、水熱処理操作における至適温度条件は、160℃〜170℃、好ましくは165℃±2℃と判断される。この温度での処理時間は、10分〜25分、好ましくは15分±2分であった。得られた水熱処理液の5A濾紙の透過性は、単位面積単位時間あたりの透過液量を示すフラックスが純水の60%に達した。
【0061】
即ち、不純物を含まない高純度の(1,3)(1,6)-βグルカンが高効率で得られた。本第2の実験例によると、硫酸アルミ複合体を凝集物として用いると、不純物の除去が容易になり、また、濾過等による濃縮精製操作が容易になった。加えて、培養液そのままの高温処理では、 (1,3)(1,6)-βグルカンの濃度が0.5%程度で行っていたのに対し、凝集剤の添加を伴う一連の工程を加えることで、多糖濃度として最高4.5%(好ましくは3.5%)という高濃度での水熱処理が可能となった。
〔グルカンの粉末化〕
濾紙上に残ったグルカンを凍結乾燥後再溶解したところ、不要部分を含まない均一な多糖溶液となった。
【0062】
つまり、“Aureobasidium pullulans”培養液中の(1,3)(1,6)-βグルカンを粉末にし、この粉末を再溶解すると、均一な多糖溶液になった。従来は、本発明者等が知る限りでは、”Aureobasidium pullulans“培養液中の(1,3)(1,6)-βグルカンを粉末に、再溶解で均一な多糖溶液を得る成功事例が無かった。よって、この実験を通して、本発明の発明者等は、これまでに不可能であった”Aureobasidium pullulans”培養液中の(1,3)(1,6)-βグルカンの粉末化に初めて成功した。
【0063】
〔人体への影響〕
本実験では、凝集剤としてアルミニウムを用いているが、可溶化物中のアルミニウム残留量は40μg/dry−gと少量であった。WHOやFAO等が定め発表された基準によると、人体に対するアルミニウムの最大許容摂取量が「1日許容摂取量約50mgなら安全」(正確には「体重1kgあたり7mg/週」)とされている。一般に、胃薬(制酸剤)はアルミミウムを大量に含むものが多く、一日分の服用量が約1000mg程度のアルミミニウムを摂取する勘定になるものもある。
【0064】
この許容摂取量は、水熱処理物1250g/日に相当する。これほどの量のβ1,3-1,6グルカンを1日摂取することは、通常の生活ではあり得ない。よって、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液に凝集物として硫酸アルミニウムを用いて得られ得たグルカンは、人体へ影響を及ぼすことがなく、安全性に問題がない。
【0065】
〔その他〕
本第2の実験例では、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液を加熱殺菌処理してから凝集剤を加え、更に、得られた溶液を攪拌し、濾過することで、培養液から発酵残渣及び菌体を洗浄除去した。その後、加熱処理をして溶液の粘性を低下させた。凝集剤は、高温加熱処理前に加えることが必要で、高温加熱後の添加では凝集が不十分であった。
【0066】
殺菌のための加熱処理は、工程中の発酵の進行を防止するための操作であり、省略が可能である。この場合は、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液に凝集剤を加えて攪拌し、その溶液を濾過することで、培養液から発酵残渣及び菌体を洗浄除去してから、加熱処理をして溶液の粘性を低下させる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液は、食品分野、栄養機能食品や特定保健用食品等の機能性食品、化粧品等の分野に利用するとより効果的である。
【符号の説明】
【0068】
1…反応装置
2a…加熱浴槽
2b…冷却浴槽
3…実験ユニット
4…反応器
5…異径ユニオンクロス
6…バルブ
7…圧力センサー
8…温度計
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒酵母”Aureobasidium属”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液に関する。詳しくは、特に、”Aureobasidium pullulans”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液に関する。更に詳しくは、発酵法によって得られた高粘度の(1,3)(1,6)-βグルカン液を、蒸気圧より高い圧力条件下で高温度に加熱処理して、その粘性を低下させる高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
βグルカンのうち、(1,3)βグルカンは、グルコースがβ1-3型の結合で連なった多糖であり、アガリクス、霊芝植物、菌類、細菌等の自然界に広く分布することが知られている。特に、1→6分岐を有する(1,3)(1,6)-βグルカンは、アガリクス、霊芝等に含まれ、強い免疫賦活作用、抗腫瘍活性、制癌作用を持つものとして知られている。この中で、不完全菌黒色菌である”Aureobacidium属”が生産する多糖、特に微工研寄託No.4257種が産出する多糖に、凝集剤、食品改質剤、整腸剤等の用途として開発されたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
この多糖を含む培養液は、高粘度で、粘着性、接着性を示さず、見掛け上は生卵白状を示す。そして、この多糖は、水溶液中で1%濃度になるとゲル状になり、水に溶解することが困難である凝集性を有する多糖である。この多糖の0.1%水溶液に、エチルアルコールを添加しても粘性が増加してゼリー状となる。この多糖は、水、アルコールに溶解困難であること、高粘度(粘弾性体)であること等から、最適な粘度が得られず、このまま凝集剤、食品改質剤、整腸剤等に使用しても用途が限られていた。
【0004】
更に、仮にこの多糖をそのまま、健康食品として食したとしても、分子量が大きいこともあり消化吸収される確率は低い。これを増加させるには、人間の消化器官が吸収できる程度の分子量で、しかも免疫賦活作用、制癌作用を有する程度に、この糖類を加水分解できれば好ましい。このために酵素による分解、超音波による糖鎖切断を試みられたが、何れも失敗に終わっている。
【0005】
更に、酸、アルカリ等による化学的な加水分解も考えられるが、食品として使用されることを考慮すると、これらの化学的処理により新たな化合物を生成する可能性も捨てきれず、これらの方法は好ましい糖鎖切断方法とは言えず、かつ化学処理を行うために薬品等のコストも増大する。他方、鹿角霊芝からβグルカンを、145℃〜190℃の温度の加圧熱水、即ち飽和蒸気圧以上の圧力で加圧し、加熱した熱水で抽出するものも提案されている(特許文献2参照)。この加圧熱水による処理は、粉砕された固体の鹿角霊芝菌体に加圧熱水を接触させ、菌体の細胞膜の構成糖である(1,3)(1,6)-βグルカンを加水分解して水に溶ける程度の分子量にまで低分子化し、抽出する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−149301号公報
【特許文献2】特開2008−138195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、高温高圧条件で水熱処理を行う実験例等が増えてきた。当然、種々の反応はリアクタ内の液相の水の中で起きているが、多くの実験例で、反応器内の液の温度ではなく、反応器そのものを熱媒体へ浸漬したときの環境温度又は外部加熱したときのリアクタの温度をもって処理温度としている例が見受けられる。これは処理が高温高圧のもとに行われるため、高圧容器の構造が肉厚であることや、センサー取り付け部の耐圧シールが難しい等の構造的な制約から、内部温度を直接測定できていないものと考えられる。
【0008】
しかしながら、リアクタ(反応器)内部の実温を測定しない処理時間は、内部の液の昇温に要した時間が不明であり、かつ、容器が処理温度に保持された反応時間も不明であり、反応時間であると推定されている時間に疑問が残るケースが多い。特に、内部を撹拌していない場合は、反応器内部での自然対流伝熱による昇温の遅れも生じ、さらに熱容量が大きな耐圧性の反応容器(一般に肉厚である。)では、容器そのものに熱容量があるために設定温度までの昇温に時間がかかり、処理時間のうちどれだけの時間が昇温に費やされたのかを明確にしなければ正確な処理時間とは言えない。
【0009】
多くの実験で反応時間や反応温度に不正確な表記がなされており、本発明の発明者等はこれらの問題を反応器の構造と反応器容量、撹拌方法などを工夫し、正確な把握に努めて後述する実験を行い、本発明を完成するに至った。
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、発酵法で作られた(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、黒酵母”Aureobasidium属”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、不純物を除去するための精製が簡潔で、その濃縮操作又濾過操作が簡潔の高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明の高粘性培養液の粘性低下方法は、黒酵母”Aureobasidium属”が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘度を低下させる方法において、高粘性培養液を加熱処理することにより、粘性を低下させることを特徴とする。
【0012】
黒酵母が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液は、黒酵母由来のβグルカンを含む培養液である。
この加熱処理は、140℃より高い温度で、200℃を越えない温度範囲において、処理温度に於ける飽和蒸気圧以上の圧力に加圧した状態で所定時間の間加熱処理し、βグルカンを分解して、高粘性培養液からなる処理液の粘度を低下させる。
【0013】
加熱の様式は任意の方法で良いが、この加熱処理の加熱時間は、170℃以下では5分以上60分以内であることが好ましい。
また、この加熱処理の加熱時間は、170℃以上の加熱処理時、高粘性培養液を室温から加熱処理の温度までに昇温のみ(0分)から、20分以下であることが好ましい。この昇温のみとは、加熱のための保持時間が0分を含む概念である。
【0014】
高粘性培養液のpHを6〜8の中性に調整した後、加熱処理をすることが好ましい。このように高粘性培養液を中性に調整した後、加熱処理をすると、処理後の試料にはほとんどグルコースが検出されない。即ち、1,6側鎖の切断が防止できる。
上述の高粘性培養液の粘性低下は、次の各工程によって実現できる。高粘性培養液の粘性低下は、140℃に至るまでの前加熱工程、140℃を越える温度帯に保たれる反応工程、及び、沸点以下室温付近まで冷却する冷却工程からなる。
【0015】
また、上述の高粘性培養液に、凝集剤を加え、水不溶性の(1,3)(1,6)-βグルカンの含有する多糖複合体を形成し、該多糖複合体を脱水処理後、水に再分散して多糖複合体溶液にした後、加熱処理を行い、粘性を低下させると良い。脱水処理は、圧搾濾過脱水であると良い。
この加熱処理の条件は、処理温度が160℃以上170℃以下、処理時間が、5分以上25分以下、pHが7.0〜8.0であると良い。また、この加熱処理の条件は、処理温度が165℃±2℃で、処理時間が、20分±1分で、pHが7.0〜8.0であると好ましい。
凝集剤としては、塩化カルシウムや塩化マグネシウム等のにがり成分、塩化第2鉄、硫酸アルミニウム等種々の凝集剤を用いる。
【0016】
[反応工程]
反応工程は、高粘性培養液を含む試料を、所定の温度で維持して、加水分解する、又は、水素結合を開裂させる工程である。
本発明の多糖含有培養液は、上述の高粘性培養液の粘性低下方法で製造されたものである。この多糖含有培養液は、加水分解による加水分解および/あるいは水素結合の開裂を受けた多糖である。
【0017】
[加熱処理]
加熱処理は、高粘性培養液を含む試料を反応容器に仕込み、熱媒体中に浸漬して、目的温度まで昇温させ、目的温度で所定時間加熱する。冷却は、加熱処理後、冷却媒体(例えば、水浴)中に入れて急冷する。
加熱処理は、蒸気圧以上の圧力条件下で加熱できるものであれば、任意の形態の反応器、任意の種類の熱媒体を用いることができる。熱媒体としては、スチーム、電気ヒータ、高温油、塩浴等が例示できる。黒酵母は、Aureobasidium pullulansでことが特に好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液によると、次の効果が得られた。発酵法で作られた高粘性培養液を、蒸気圧以上に加圧し、加温した密閉環境で、加熱処理し、その粘性を低下させることができた。
また、発酵法で作られた培養液に凝集剤を添加して、水不溶性の(1,3)(1,6)-βグルカンの含有する多糖複合体を形成させる工程及び、該多糖複合体を圧搾脱水する工程を追加後、これを加熱処理することで、培養液中の菌や発酵残渣を容易に除去できた。即ち、凝集剤を用いることで、培養液の濃縮操作又濾過操作が簡潔になった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実験装置の概要を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の反応装置1の実験ユニット3の概要を示す図である。
【図3】図3は、本発明の反応装置1の反応器4の構造例を示す図である。
【図4】図4は、反応器4内の反応液の温度変化の一例(160℃での加熱処理の例)を示すグラフである。
【図5】図5は、冷却した後、反応器4から取り出した試料の様子を示す写真である。
【図6】図6は、本実験で、140℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本実験で、150℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、本実験で、160℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、本実験で、140℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係(対数軸)を示すグラフである。
【図10】図10は、本実験で、150℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係(対数軸)を示すグラフである。
【図11】図11は、本実験で、160℃で処理した試料の剪断速度と粘度の関係(対数軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施例]
〔第1の実験例〕
以下、本発明の実施の形態、及び実施例を以下に示す実験例で説明する。最初に実験に用いた高粘性培養液等について説明する。
〔高粘性培養液等〕
この明細書で用いた高粘性培養液は、シュクロースを主たる糖質原として黒酵母”Aureobasidium属”、特に”Aureobasidium pullulans”による発酵にて得られた培養液そのもので、0.5%前後の(1,3)(1,6)-βグルカンと菌体及び発酵残渣等を含む、生卵の卵白様を呈した高粘弾性体である。黒酵母が培養液中に放出した僅か0.5%の多糖(βグルカン)により生卵の卵白様の物性が生じている。本実施の形態の黒酵母の発酵条件は、特許文献1(日本国特許第1681333号)に記された方法である。
【0021】
この高粘性培養液に含まれる多糖は、浸透圧法により求められた数平均分子量が5〜50万の(1,3)(1,6)-βグルカンで、(1,6)側鎖に付くグルコースは1分子であることが判明している。これは、(1,6)側鎖に複数のグルコースが連なる鹿角霊芝のβグルカンとは構造が異なる。高粘性培養液に含まれる多糖は、5%程度のリン酸がエステル結合している。この高粘性培養液に含まれる多糖は、リン酸が結合していない鹿角霊芝のβグルカンとは構造が異なる。
【0022】
今回の実験で用いた原料は、日本オリゴ(株)が製造した培養液で、発酵後の培養液を熱殺菌したものである。高粘性培養液は、上述のように発酵培養液であり、「グルカン液」又は「高粘性培養液」とも言える。次の実験例で示すように、高粘性培養液の加熱処理に種々の工夫をしている。まず、小型の反応器を用い、反応器そのものの熱容量を極力小さくした。即ち、昇温時間の短縮、外部の加熱媒体との温度差をできるだけ極小化した。
【0023】
また、温度センサーは、反応器の内部の液の中心部に配置し、反応器の内容物の温度を正確に測定できるようにした。反応器全体を、加熱オイルや塩浴等の加熱媒体の中で振盪できる機構とし、反応器内を強制対流撹拌させて、反応器内の溶液は均一かつ急速に昇温できるようにしている。これらの工夫の結果、次の実験例に示すように、反応器内の溶液は、室温から目的温度までの昇温所要時間は50秒と非常に短時間であり、かつ反応液温度を正確に測定することができた。
【0024】
〔実験装置、実験方法〕
以下、本発明の第1の実験例を実験装置、実験例で説明する。後述するように、加熱工程と反応工程は、同一の装置内で実現できる。冷却工程は、加熱処理された試料を冷却するための工程である。図1は、上述の各工程の概念を示すものであり、回分式の反応装置1の概要を図示している。反応装置1は加熱浴槽2aと実験ユニット3からなる。手動、又は搬送手段(図示せず。)によって、実験ユニット3を移動させて、加熱浴槽2a内に浸漬する。図2には、実験ユニット3の概要を図示したものである。
【0025】
この実験ユニット3は、小型の反応器4と、この反応器4を制御又は監視するための複数の機器からなる。本実験に用いた反応器4は、小型であるので反応器4内の液量が少ない。また、反応器4は、小型であるので熱容量が小さい。よって、反応器4がこの外部から加熱されると、反応器4内の液体は、目標温度まで急速に昇温することが出来る利点がある。これに対して、熱容量が大きな反応器を用いると、室温から所定温度までの昇温時間は長くなり、装置によっては数十分を要することがある。
【0026】
本第1の実験例の温度条件は、非常に正確な値が要求される。一般に、密閉された反応器4内の試料温度を直接測定しにくいので、反応器4を小型化することにより、その環境の温度に短時間で内部の液体を加熱できる利点がある。反応器4内の液体をより高速に目的温度まで昇温させるときは、次のように2段階で温度管理をすると効率的で正確に昇温できる。まず、加熱浴槽2aを2台用意する。1台目の加熱浴槽2aは、目的とする目標温度より高い温度で設定しておく。
【0027】
好ましくは、1台目の加熱浴槽2aは、目的とする目標温度より数十℃高く設定しておく。2台目の加熱浴槽2a内の液温は、実際の目標温度に設定されている。まず、反応器4を1台目の加熱浴槽2aに投入して浸漬し急速に加熱して、反応器4内の試料が目標温度近くまでに昇温したら、2台目の加熱浴槽2aに素早く移動させる。そして、反応器4内の試料を目標温度までに昇温させる。そして、目標温度で反応器4を維持して、反応器4内の被反応物を反応させる。例えば、目標温度が150℃の反応のとき、ステンレス製の反応器4の例を考える。
【0028】
1台目の加熱浴槽2a内の液温は、180℃に設定されており、これに投入された反応器4内の温度が25℃前後の室温から140℃付近までに昇温させるための所要時間は10秒前後である。そして、この反応器4を、目標温度150℃に設定された2台目の加熱浴槽2aで、加熱して、反応器4内の温度を目標温度150℃までに加熱する。このように2段階加熱した場合、目標温度150℃に設定された1台の加熱浴槽2aのみで、反応器4を25℃前後の室温から150℃までに昇温させる所要時間(50秒)を、15秒程度に短縮可能である。
【0029】
本実験例の実験の場合、170℃以下では、目標温度到達後の反応時間が数分のオーダーであり、加熱浴槽2aが1台でも昇温所要時間は反応時間に対して短く影響が小さいため1段階昇温を行った。特に、粘性低下反応は、140℃以上に達してから始まり、1段階昇温でも140℃から150℃に昇温するための昇温所要時間は20秒程度であり、大きな影響はない。ただし、到達目標温度が170℃を越える場合は、140℃以降の昇温時間に数分を要するようになり、この場合、目的温度に到達後直ちに冷却しても粘性低下が観察されるようになる。
【0030】
従って、小型で熱容量の少ない反応器4を用いることで、反応器4が目標温度に到達した後の反応時間の影響を正確に捉えることが出来る。目標温度が約200℃までの反応では、加熱浴槽2aは、沸騰することなく加熱できる熱媒体として油を用いた油浴であると良いが、これに限定されるものではない。
【0031】
〔実験ユニットの構造例〕
この実験では、図1に示すような、回分式の反応装置1を用いた。図2は、反応器4が装着された実験ユニット3を第2浴槽2aに浸漬した場合を示す概念図である。図3は、反応器4の構造例を示す概念図である。実験ユニット3は、反応器4、異径ユニオンクロス5、バルブ6、圧力センサー7、熱電対8、支持棒(図示せず。)等からなる。
【0032】
実験ユニット3は、そのまま、搬送手段、又は手動で搬送して、加熱浴槽2aの熱媒体に浸漬できるようになっている。反応器4の上部は、異径ユニオンクロス5に接続されている。異径ユニオンクロス5には、その他に、バルブ6、圧力センサー7、温度計8が装着された。バルブ6は、反応器4内の空気を窒素ガスで置換し、高温状態で試料が酸化するのを防ぐためのものである。支持棒は、1/4inchのステンレスパイプである。
【0033】
窒素ガスは、窒素ガスボンベ等の専用の容器6aに充填されており、バルブ6の制御によって、反応器4内に流入される。圧力センサー7は、ひずみゲージ式圧力センサー(株式会社共和電業(東京都調布市)の製造で、型番がPGM-500KDである。)であり、反応器3内の圧力をモニターするためのものである。温度計8は、熱電対の温度計である。図3に示すように、温度計8の感温部8aは、試料に浸る位置となるように装着されている。
【0034】
図3の例では、感温部8aは、反応器4の内底面より約10mm離間した位置になるように装着されている。更に、加熱浴槽2a内の温度を測定するために、熱電対の温度計9を設置した。温度計9の先端の感温部は、反応器4が浸漬する位置になるように装着されている。以上のようにして構成された実験ユニット3は、約50cmの支持棒(図示せず。)の先に吊り下げた状態で固定されている。
【0035】
このように、構成されたこの実験ユニット3は、加熱浴槽2a、冷却浴槽2bの中で手動により振動できる。各浴槽は、加熱手段10によって、所定の温度に加熱されている。加熱浴槽2aの加熱手段10は、電気式のマントルヒータである。図4は、加熱浴槽2a内の反応液(試料液)の温度変化の一例(目標温度が160℃の加熱例。)を示すグラフである。このグラフの縦軸は、温度を示し、横軸は、経過時間を示すものである。
【0036】
目標温度に設定された加熱浴槽2aに反応器4を浸漬してから、反応器4内の反応液(試料液)が1分以内という短時間で目標温度付近までに昇温している。また、反応が終わってから、室温に設定された冷却浴槽2bに反応器4を移してから、非常に短時間で降温が行われる。図4に示した経過時間と温度の関係によれば、短時間で昇温・降温が行われていることを表しており、本実験における温度条件や反応時間が正確であることを示している。
【0037】
〔反応器4〕
反応器4は、SUS316ステンレス製で、内容積が約6mLである。反応器4は、器壁の厚さが1.8mmの円筒形である。ただし、容器の肉厚・継手等の規格は、昇温時の蒸気圧に対する耐圧性を有していればよい。例えば、今回の試料のような水溶液は、150℃で0.48MPa、200℃で1.55MPaの蒸気圧を示すので、それぞれの温度で発生する圧力に耐える規格であればよい。材質については高温での腐食に耐えるよう耐腐食性の材料が好ましい。反応器4の寸法は、外径が12.7mm(1/2インチ)、長さが105mmである。反応器4の上部の配管は、外径1/4inch、長さ190mmのステンレス製である。
【0038】
〔実験の手順〕
まず、反応器4に5mLの原液(高粘性培養液)を充填した。原液は、発酵原液からなる。実験ユニット3に反応器4を装着し、その後、バルブ6を操作して、反応器4内の空気を窒素ガスで置換した。この空気と窒素ガスの置換によって、反応器4内の試料が、高温状態で酸化することを防ぐことができる。そして、加熱浴槽2aの油浴に浸漬し、細かく振動させ、反応器4内の液体の昇温状態を均一にしながら、加熱した。窒素ガスの圧力は、処理温度により、0.5MPa〜2.0MPaの範囲で調節できる。
【0039】
実験は、図5に示すように、温度が140℃、150℃、160℃、及び180℃で、10分〜60分の時間で行った。図5の写真は、試料を試験管に入れた外観を示す写真である。試料を所定の温度で所定時間の間に反応させて、冷却した後の外観を示す写真である。この冷却は、反応器4を加熱浴槽2aの中で浸漬し所定の加熱時間が経過した後、直ちに、水浴の冷却浴槽2bに反応器4を浸漬し、急冷したものである。急冷の所要時間は、基本的には1分以内とした。
【0040】
図5の写真の各試料が入っている試験管の上に、試料の番号を「A」、「B」、:…、「J」のように書いてある。また、図5の写真の各試料が入っている試験管の上に、その反応温度及び反応時間を表したものである。例えば、一番左側から3番目の試験管の試料Cは、反応温度が140℃、反応時間が15分の試料である。一番左側の試験管の試料は、元の試料で、未処理のものであり、ここで、原液とも言う。
【0041】
図5の写真によると、試料B〜Jは、試料Aの原液に比べ、処理温度が高い試料ほど、処理時間が長い試料ほど着色が進行したことが分かる。また、試料の着色は、処理温度が高いほど短時間で進行したことが分かる。試料の着色の原因は、原液中に含まれる培地成分によるアミノカルボニル反応によるものと考えられる。この生成物は、安全性に問題はなく、製品化時には精製・脱色操作が行われるので、製品品質に影響しない。
【0042】
肝心の粘性低下については、図5の写真のみでは分からない。しかし、140℃で処理した試料では、60分の加熱でも原液の生卵白様粘弾性に殆ど変化がない。これにより、140℃までの温度で試料を処理しても、この処理は、試料の粘度低下に寄与しないことが分かった。一方、150℃の温度では、試料に、明らかな物性変化、つまり、粘性低下が認められた。試料の粘性低下は、150℃の温度では、短時間、例えば、5分の加熱でも認められた。
【0043】
このことから、粘性低下に寄与する反応の活性化エネルギー、つまり温度、は140℃より高く、150℃以下の温度帯にあることが判明した。また、150℃では時間依存的に粘性の低下傾向が認められた。160℃の温度処理では、より粘性が低下した。この粘性低下は、後述するが、図6、図7、図8、図9、図10、及び図11のグラフから明らかである。粘弾性体から低粘性体への変化は、培養液中に含まれる菌体や培地成分の遠心分離や膜分離を可能にした。
【0044】
この方法は、これまで不可能であった1-3,1-6βグルカンの精製が可能になることを意味する。このとき、必要となる圧力は、処理温度に於ける蒸気圧以上の圧力で、150℃の場合、0.48MPaである。その場合の所要時間は、150℃の場合、5分から20分程度である。
【0045】
〔粘性低下の測定〕
液体の粘性の挙動を検討する手法には、落球法がある。この落球法は、粘性流体中に置かれた球体が落ちていく速度で、粘性を比較する方法である。この落球法では、流体の絶対的な粘度を正確に知ることは出来ないが、この方法により液体の粘性の変化等の物性変化の目安は得られる。今回の、試料の粘性低下の挙動を測定するとき、この手法も用いた。
【0046】
試験管に、原液又は処理試料を入れ被検液とした。そして、密度2.5g/cm3、直径4mmのガラスビーズが25℃の被検液中の距離120mmを落下するのに必要な所要時間を測定し、落下速度を求めた。その落下速度の平均速度は、原液で4.3×10-3m/sec、150℃で10分間の処理試料では137.0×10-3m/secであった。処理試料は、原液に比べ落下速度が32倍に上昇し、その粘度が大きく低下していることが示された。
【0047】
平均速度は、同一被検液について複数回(例えば、10回程度)測定し、得られた複数のデータ(120mm落下の所要時間)を平均したものである。前述のように、培養液は「粘弾性体」であり、物性を「粘度」として表すのは正確ではない。しかし、水熱処理による物性が変化していることを示す指標として十分使用可能であると判断し、測定した。また、試料の粘度は、東京計器株式会社(東京都大田区)製のE型粘度計でも測定した。
【0048】
試験管に、原液又は処理試料を入れ被検液とした。液体の粘性測定の具体的な手順は、次の通りである。E型粘度計のサンプルカップに試料1.2mLを入れ、25℃の温度条件で、9.8sec-1、19.2sec-1、38.4sec-1、及び76.8sec-1の剪断速度で粘度を測定した。25℃の温度は、恒温槽水をサンプルカップのジャケットに循環することで維持した。その結果を図6、図7、図8、図9、図10、及び、図11に示している。
【0049】
図6、図7、図8は、実験の試料の粘性測定の結果を示すグラフで、140℃、150℃、及び160℃で処理した処理試料の粘度対剪断速度を普通軸で示したグラフである。図9、図10、及び、図11は、図6、図7、図8の縦軸と横軸を対数軸で表したグラフである。これらの図の縦軸は、粘度を示し、単位はセンチポイズ(cP)である。また、横軸は、剪断速度を示し、単位はsec-1である。加熱処理前の試料である原液は、図中に”intact”と表わされている。
【0050】
原液は、対数軸の図において剪断速度上昇に従い粘度が直線的に低下し、典型的なべき乗則流体の性質を示し、非ニュートン性が高い高分子流体であることがわかる。処理試料では、140℃ではほとんど粘性低下が見られないのに対し、150℃、160℃で大きく粘度が低下していることがわかる。即ち、Aureobasidium属による発酵で得られた高粘性培養液は140℃までの温度では粘性低下が起こらず、140℃を越える温度ではじめて粘度低下反応が起こることを示している。
【0051】
即ち、粘性低下反応の活性化温度が140℃以上にあることを明らかにした。このことは、分子量が低下したことも示唆している。そして、流体としての性質は、グラフの傾きが緩やかになったことから、処理試料がニュートン流体に近づいたことが分かる。図7及び図8から分かるように、水熱処理により明らかに粘性が低下したことが分かる。原液は剪断速度の変化に対して粘性が大きく変化(低下)し、非ニュートン性が強い流体であることが分かる。
【0052】
一方、加熱処理された処理試料は、剪断速度の変化に対する粘度変化が小さくなり、ニュートン粘性に近い物性を示すように変化した。また、対数軸で表した図10及び図11の原液は、直線となり、線状高分子特有のべき乗則流体であることを表しており、加熱処理物でその傾きが低下したことから分子量が低下した可能性も考えられる。
【0053】
〔凍結乾燥物の再溶解試験〕
また、原液と、それを処理した試料を凍結させ乾燥させて、再溶解する試験を行った。その結果、原液は、再溶解性が悪く、凍結された原液の溶け残り部分が発生した。一方、150℃で加熱処理された試料は、凍結後、均一なコロイド液状に再溶解した。このように、直接高温高圧で処理した培養液は、乾燥・凍結させた後の再溶解する性質が、その原液より向上した。よって、培養液の原液の乾燥物に指摘されていた、再溶解性が悪いという問題が解決された。
【0054】
〔第2の実験例〕
以下、第2の実験例を示す。第2の実験例では、上述の第1の実験例と同一の培養液を用い、それに凝集剤を加えて凝集塊とすることで、水熱処理前に培養液中の不純物を洗浄除去し、水熱処理後に得られる(1,3)(1,6)-βグルカンの純度を向上させる。不純物は、培養液中の菌体、発酵残渣等であり、凝集剤によって凝集塊となり、培養液から容易に洗浄除去される。
【0055】
凝集剤としては、塩化カルシウムや塩化マグネシウム等のにがり成分、塩化第2鉄、硫酸アルミニウム等の種々の凝集剤を用いることができる。この中で、硫酸アルミニウムによる凝集物を用いて、実験を行った。実験での加熱処理条件は、pHが7.0〜8.0の条件で、熱処理温度が160℃以上170℃以下、好ましくは165±2℃、熱処理時間が5〜25分、好ましくは20±1分、の処理を行い、可溶化した。本第2の実験例は、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液への凝集剤添加とその加熱処理の組み合わせで、(1,3)(1,6)-βグルカンの精製がさらに容易になることが実証された。
【0056】
〔実験方法〕
ここで、具体的な実験例を示す。実験には、上述の第1の実験例で用いた、“Aureobasidium pullulans“の培養により得られる(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液を用いた。詳しくは、ATCC.20425菌を培養して得られた(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液を温度105℃、処理時間5分で殺菌処理し、これに硫酸アルミニウム溶液を加えて物理的に撹拌した。ただし、この殺菌処理は、必須ではない。後述するように、150℃以上の温度で水熱処理を行っており、この水熱処理は殺菌効果がある。
【0057】
また、この殺菌処理のための加熱は、工程中の発酵の進行を防止するための操作であるので、この加熱処理の工程は省略が可能である。本第2の実験例では、20%硫酸アルミニウム液を終濃度0.1%となるように加え、不溶性の多糖アルミニウム複合体を形成させた。この多糖アルミニウム複合体を安定な凝集塊とするには、室温で、30分〜60分ゆっくり攪拌することが好ましい。より、均一な凝集塊とするためには、均一かつ強力に混合できる「シャーポンプ」の使用が好ましい。20%硫酸アルミニウム液は、硫酸バンド(Al2(SO4)3)を用いた。
【0058】
以上の操作で得られた不溶性の多糖アルミニウム複合体を、フィルタープレスに導入し、水道水を通水して培養液中に含まれていた発酵残渣及び菌体を洗浄除去し、圧搾濾過して含水率65〜70%のパサパサの洗浄済み不溶物を得た。これらの操作により、凝集塊となった多糖アルミニウム複合体に取り込まれなかった発酵残渣及び菌体が効率よく除去された。洗浄済み不溶物は、純水に再度分散し(多糖濃度として最高4.5%、好ましくは3.5%)、pHを水酸化ナトリウム等で中性付近の6.5〜8.5(好ましくはpH=7.5〜8.0)に調整後、密閉容器に充填し150〜180℃で水熱処理した。
【0059】
上述の第1の実験例の実験のように、硫酸アルミを加えない場合においては、150℃10分の短時間でも顕著な粘性低下が認められた。しかし、本第2の実験例の場合、つまり、硫酸アルミニウムを添加して得られた凝集物(不溶物)の場合は、155℃で20分の処理でも粘性の低下は、不十分で、得られた水熱処理物も不均一であった。つまり、水溶化した部分と凝集状態のままの部分が混在して存在していた。180℃の場合は、硫酸アルミミウムを加えない場合に比べ、その程度は格段に小さいものの着色が認められた。
【0060】
高温処理でも着色の程度が抑えられた原因は、発酵残渣(本例では原料の米ぬか等)が圧搾洗浄により除去されたことにより、アミノカルボニル反応などの着色反応が抑制されたためと考えられる。従って、水熱処理操作における至適温度条件は、160℃〜170℃、好ましくは165℃±2℃と判断される。この温度での処理時間は、10分〜25分、好ましくは15分±2分であった。得られた水熱処理液の5A濾紙の透過性は、単位面積単位時間あたりの透過液量を示すフラックスが純水の60%に達した。
【0061】
即ち、不純物を含まない高純度の(1,3)(1,6)-βグルカンが高効率で得られた。本第2の実験例によると、硫酸アルミ複合体を凝集物として用いると、不純物の除去が容易になり、また、濾過等による濃縮精製操作が容易になった。加えて、培養液そのままの高温処理では、 (1,3)(1,6)-βグルカンの濃度が0.5%程度で行っていたのに対し、凝集剤の添加を伴う一連の工程を加えることで、多糖濃度として最高4.5%(好ましくは3.5%)という高濃度での水熱処理が可能となった。
〔グルカンの粉末化〕
濾紙上に残ったグルカンを凍結乾燥後再溶解したところ、不要部分を含まない均一な多糖溶液となった。
【0062】
つまり、“Aureobasidium pullulans”培養液中の(1,3)(1,6)-βグルカンを粉末にし、この粉末を再溶解すると、均一な多糖溶液になった。従来は、本発明者等が知る限りでは、”Aureobasidium pullulans“培養液中の(1,3)(1,6)-βグルカンを粉末に、再溶解で均一な多糖溶液を得る成功事例が無かった。よって、この実験を通して、本発明の発明者等は、これまでに不可能であった”Aureobasidium pullulans”培養液中の(1,3)(1,6)-βグルカンの粉末化に初めて成功した。
【0063】
〔人体への影響〕
本実験では、凝集剤としてアルミニウムを用いているが、可溶化物中のアルミニウム残留量は40μg/dry−gと少量であった。WHOやFAO等が定め発表された基準によると、人体に対するアルミニウムの最大許容摂取量が「1日許容摂取量約50mgなら安全」(正確には「体重1kgあたり7mg/週」)とされている。一般に、胃薬(制酸剤)はアルミミウムを大量に含むものが多く、一日分の服用量が約1000mg程度のアルミミニウムを摂取する勘定になるものもある。
【0064】
この許容摂取量は、水熱処理物1250g/日に相当する。これほどの量のβ1,3-1,6グルカンを1日摂取することは、通常の生活ではあり得ない。よって、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液に凝集物として硫酸アルミニウムを用いて得られ得たグルカンは、人体へ影響を及ぼすことがなく、安全性に問題がない。
【0065】
〔その他〕
本第2の実験例では、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液を加熱殺菌処理してから凝集剤を加え、更に、得られた溶液を攪拌し、濾過することで、培養液から発酵残渣及び菌体を洗浄除去した。その後、加熱処理をして溶液の粘性を低下させた。凝集剤は、高温加熱処理前に加えることが必要で、高温加熱後の添加では凝集が不十分であった。
【0066】
殺菌のための加熱処理は、工程中の発酵の進行を防止するための操作であり、省略が可能である。この場合は、(1,3)(1,6)-βグルカン含有培養液に凝集剤を加えて攪拌し、その溶液を濾過することで、培養液から発酵残渣及び菌体を洗浄除去してから、加熱処理をして溶液の粘性を低下させる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の高粘性培養液の粘性低下方法、及び、その方法で製造された多糖含有培養液は、食品分野、栄養機能食品や特定保健用食品等の機能性食品、化粧品等の分野に利用するとより効果的である。
【符号の説明】
【0068】
1…反応装置
2a…加熱浴槽
2b…冷却浴槽
3…実験ユニット
4…反応器
5…異径ユニオンクロス
6…バルブ
7…圧力センサー
8…温度計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒酵母Aureobasidium属が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘度を低下させる方法において、
前記高粘性培養液を加熱処理し、濾過することにより、粘性を低下させる
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理前に凝集剤を加えて撹拌混合して濾過することで、前記培養液中に含まれる菌体、発酵残渣を除去する
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記高粘性培養液のpHを6〜8の中性に調整した後、前記加熱処理をする
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理は、140℃より高温で、200℃を超えない温度範囲で、所定時間に加熱して行われる
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記所定時間は、140℃より高く170℃までは5分以上60分以内である
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項6】
請求項4に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記所定時間は、170℃を超える温度では昇温のみから20分以内である
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項7】
請求項2に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理前に前記高粘性培養液に、凝集剤を加え、水不溶性の(1,3)(1,6)-βグルカンの含有する多糖複合体を形成し、
該多糖複合体を脱水処理後、水に再分散して多糖複合体溶液にした後、前記加熱処理を行い、粘性を低下させる
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項8】
請求項7に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理の条件は、処理温度が160℃以上170℃以下、処理時間が、5分以上25分以下、pHが7.0〜8.0である
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項9】
請求項8に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理の条件は、処理温度が165℃±2℃で、処理時間が、20分±1分で、pHが7.0〜8.0である
ことを特徴とする多糖アルミニウム複合体の処理方法。
【請求項10】
請求項1〜9の中から選択される1項に記載の高粘性培養液の粘性低下方法で製造された多糖含有培養液。
【請求項1】
黒酵母Aureobasidium属が生産する(1,3)(1,6)-βグルカンを含有する高粘性培養液の粘度を低下させる方法において、
前記高粘性培養液を加熱処理し、濾過することにより、粘性を低下させる
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理前に凝集剤を加えて撹拌混合して濾過することで、前記培養液中に含まれる菌体、発酵残渣を除去する
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記高粘性培養液のpHを6〜8の中性に調整した後、前記加熱処理をする
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理は、140℃より高温で、200℃を超えない温度範囲で、所定時間に加熱して行われる
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記所定時間は、140℃より高く170℃までは5分以上60分以内である
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項6】
請求項4に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記所定時間は、170℃を超える温度では昇温のみから20分以内である
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項7】
請求項2に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理前に前記高粘性培養液に、凝集剤を加え、水不溶性の(1,3)(1,6)-βグルカンの含有する多糖複合体を形成し、
該多糖複合体を脱水処理後、水に再分散して多糖複合体溶液にした後、前記加熱処理を行い、粘性を低下させる
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項8】
請求項7に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理の条件は、処理温度が160℃以上170℃以下、処理時間が、5分以上25分以下、pHが7.0〜8.0である
ことを特徴とする高粘性培養液の粘性低下方法。
【請求項9】
請求項8に記載の高粘性培養液の粘性低下方法において、
前記加熱処理の条件は、処理温度が165℃±2℃で、処理時間が、20分±1分で、pHが7.0〜8.0である
ことを特徴とする多糖アルミニウム複合体の処理方法。
【請求項10】
請求項1〜9の中から選択される1項に記載の高粘性培養液の粘性低下方法で製造された多糖含有培養液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【公開番号】特開2011−103877(P2011−103877A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234270(P2010−234270)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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