説明

高精度ブリッジ回路型検出器

【課題】微小抵抗変化の測定に対して、構造が簡単で誤差の小さい高精度のブリッジ回路型検出器の提供を目的とする。
【解決手段】四辺形の少なくとも一辺に測定センサー部に対応して変位する抵抗変位部Rを有するブリッジ回路を用いた検出器であって、ブリッジ回路の対向するA点及びB点間に有する電源部と、他の対向するC点及びD点間に出力される電圧を検出する出力電圧測定部を有し、さらに前記A点及びB点間の電圧を測定する正味ブリッジ電圧測定部を有し、前記出力電圧測定部にて測定した出力電圧値と前記正味ブリッジ電圧測定部にて測定した正味ブリッジ電圧値にて抵抗変位部Rの微小抵抗変化を算出するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小の抵抗変化を精密に測定できるブリッジ回路型の検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
歪みゲージと接続してその抵抗変化を測定したり、温度や圧力等の物理量の変化を抵抗変化として測定する温度センサー、圧力センサー等の各種センサーにホイーストンブリッジ回路が採用されている。
【0003】
従来のブリッジ回路型の検出器の構成例を図2に示す。
歪みゲージ等の抵抗変位を検出する抵抗変位部Rと既知の抵抗器R,R,Rを四辺形に接続し、ブリッジ回路の対向するA点及びB点の間に電源電圧Eによる電流iを流し、他の対向するC点及びD点の間の出力電圧を測定する。
ここで、RとRを既知の固定抵抗器とし、Rを可変抵抗器とすることで出力電圧がゼロとなるRの抵抗値を求めることでRの抵抗値を算出する(零位法)と、R,R,Rを固定抵抗器にし、ブリッジ回路の不平衡によって生じる出力電圧を検出する方法とがある。
抵抗変位部Rが歪みゲージの場合に、その抵抗変化が極めて小さいのでブリッジ回路の不平衡によって生じる出力電圧を増幅して測定する。
【0004】
しかし、従来のブリッジ回路型検出器では、電源電圧Eと測定された出力電圧VCDとの値を用いてひずみを測定していたので結線コードの長さや何らかの内部抵抗rの変化により測定誤差が生じる問題があった。
また、電流値を安定化させるための高価な電流コントロール装置が必要であった。
特許文献1にブリッジ型検出回路を設けた技術を開示するが、同公報に開示するブリッジ電圧検出回路はガスクロマトグラフ等に用いるものであって、自己発熱によるブリッジ回路内の抵抗値変化をゼロ点補正するものであって専用の複雑なコンピュータプログラムが必要であった。
また、ブリッジ回路内の抵抗値は自己発熱だけでなく、周辺温度・圧力・磁場等測定環境の変化に伴って刻々と変化するから前記のような自己発熱だけの補正では不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−93321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は微小抵抗変化の測定に対して、構造が簡単で誤差の小さい高精度のブリッジ回路型検出器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るブリッジ回路型検出器は、四辺形の少なくとも一辺に測定センサー部に対応して変位する抵抗変位部Rを有するブリッジ回路を用いた検出器であって、ブリッジ回路の対向するA点及びB点間に有する電源部と、他の対向するC点及びD点間に出力される電圧を検出する出力電圧測定部を有し、さらに前記A点及びB点間の電圧を測定する正味ブリッジ電圧測定部を有し、前記出力電圧測定部にて測定した出力電圧値と前記正味ブリッジ電圧測定部にて測定した正味ブリッジ電圧値にて抵抗変位部Rの微小抵抗変化を算出するものであることを特徴とする。
【0008】
ここで、出力電圧測定部は必要に応じて増幅器を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る検出器は、A点及びB点間に直接印加される正味ブリッジ電圧をその都度測定し、このときのC点及びD点間の出力電圧を測定できるので、これらの値を用いることで微小の抵抗変化を高精度に測定できる。
例えば電源部と検出器との間の結線コードの長さが変化したり、測定系内の温度、圧力、磁場等の測定環境が変化しても測定の都度、ブリッジ回路に真に印加される正味ブリッジ電圧とそのときの出力電圧を測定するので測定環境変化の排除ができ、非常に測定誤差が小さくなり、ひずみ測定の場合に測定誤差は標準偏差で10−6以下の高精度が得られる。
本発明に係る検出器は、A点及びB点間の電圧VABを直接測定し、それを用いて微小の抵抗変化を検出するものであることから、電源装置を有すればよく、従来のような定電流コントロール装置は必ずしも必要ではなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るブリッジ回路型検出器の構成例を示す。
【図2】従来の検出器の構成例を示す。
【図3】従来の検出器と本発明に係る検出器を用いて測定したひずみの比較データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る検出器の構成例を図1に示す。
図1に示した例は、既知の固定抵抗器R,R,Rと、抵抗変位部Rを四辺形に接続したブリッジ回路になっていて、Rは歪みゲージ,温度センサー,圧力センサー等の物理量の測定センサー部における測定対象となる物理量の変化に応じて変化する抵抗体である。
ブリッジ回路のA点及びB点間には電源部Eを有する。
C点及びD点の間には出力電圧測定部VCDを有する。
出力電圧VCDの測定に対して、A点及びB点の間の正味ブリッジ電圧VABを測定する。
【0012】
次に抵抗変位部Rに歪みゲージを用いてひずみ(引張ひずみ、圧縮ひずみ等)を測定する例を説明する。
<例1>
初期平衡状態でR=R=R=Rとし、歪みゲージにひずみεが生じた時に抵抗Rが変化すれば、正味ブリッジ電圧VABに対して出力電圧VCD(ひずみεが生じたことにより変化した電圧)の関係は、歪みゲージのゲージ率をKとすると、Rの抵抗変化が微小であることからε=4/K×VCD/VABの近似式が成立する。
<例2>
に歪みと温度・圧力・磁場などの外場の影響をうけるアクティブゲージ、Rに温度・圧力・磁場などの外場のみの影響をうけるダミーゲージを用いてひずみ(引張ひずみ、圧縮ひずみ等)を測定する場合は、初期平衡状態でR=R,R=Rとし、アクティブゲージにひずみεが生じた時に抵抗Rが変化すれば、正味ブリッジ電圧VABに対して出力電圧VCD(ひずみεが生じたことにより変化した電圧)の関係は、歪みゲージのゲージ率をKとすると、R,Rの抵抗変化が微小であることからε=4/K×VCD/VABの近似式が成立する。
<例3>
,Rに歪みゲージを用いてひずみ(引張ひずみ、圧縮ひずみ等)を測定する場合は、初期平衡状態でR=R=R=Rとし、歪みゲージにひずみεが生じた時に抵抗R,Rが変化すれば、正味ブリッジ電圧VABに対して出力電圧VCD(ひずみεが生じたことにより変化した電圧)の関係は、歪みゲージのゲージ率をKとすると、R,Rの抵抗変化が微小であることからε=4/(1+ν)K×VCD/VABの近似式が成立する。
ここでνはR,Rの歪みの方向によってきまるパラメータである。
<例4>
,Rに歪みゲージを用いてひずみ(引張ひずみ、圧縮ひずみ等)を測定する場合は、初期平衡状態でR=R,R=Rとし、歪みゲージにひずみεが生じた時に抵抗R,Rが変化すれば、正味ブリッジ電圧VABに対して出力電圧VCD(ひずみεが生じたことにより変化した電圧)の関係は、歪みゲージのゲージ率をKとすると、R,Rの抵抗変化が微小であることからε=4/(1+ν)K×VCD/VABの近似式が成立する。
ここでνはR,Rの歪みの方向によってきまるパラメータである。
<例5>
,R,R,Rに歪みゲージを用いてひずみ(引張ひずみ、圧縮ひずみ等)を測定する場合は、初期平衡状態でR=R=R=Rとし、歪みゲージにひずみεが生じた時の抵抗変化をそれぞれΔR,ΔR,ΔR,ΔRとし、ΔR=ΔR=−ΔR =−ΔRとすれば、正味ブリッジ電圧VABに対して出力電圧VCD(ひずみεが生じたことにより変化した電圧)の関係は、歪みゲージのゲージ率をKとすると、R,Rの抵抗変化が微小であることからε=K×VCD/VABの近似式が成立する。
図3のグラフは横軸に測定系の温度(K)をとり、縦軸に本発明に係る検出器を用い、上記例2に従ってVAB,VCDの値から算出したひずみεに対して、従来の検出器でVCDの値から算出したひずみεとした場合の差分をδεとし、δε/εの値を%で表示したものである。
この結果、温度20〜30K付近で約0.3%の差があった。
即ち、正味ブリッジ電圧VABを用いてひずみを算出した方がそれだけ測定誤差が小さくなることになる。
【0013】
歪みゲージには箔歪みゲージ、線歪みゲージ及び半導体歪みゲージのいずれも使用できる。
ゲージ率Kは歪みゲージの感度を表す係数で、一般用の歪みゲージで使われている銅・ニッケル系やニッケル・クロム系合金はほぼ2の値である。
そこで、ε=4/K×VCD/VABにてK=2とし、VAB=2[V]×変化率の逆数αを置くと、ε=αVCDとなることから、正味ブリッジで電圧の変化率の逆数αと出力電圧変化ΔV=VCDの積として算出することもできる。
本発明に係る検出器はKの値を入力するだけで、VABとVCDの値から自動計算する自動演算部を有していてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四辺形の少なくとも一辺に測定センサー部に対応して変位する抵抗変位部Rを有するブリッジ回路を用いた検出器であって、
ブリッジ回路の対向するA点及びB点間に有する電源部と、他の対向するC点及びD点間に出力される電圧を検出する出力電圧測定部を有し、さらに前記A点及びB点間の電圧を測定する正味ブリッジ電圧測定部を有し、
前記出力電圧測定部にて測定した出力電圧値と前記正味ブリッジ電圧測定部にて測定した正味ブリッジ電圧値にて抵抗変位部Rの微小抵抗変化を算出するものであることを特徴とするブリッジ回路型検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−112849(P2012−112849A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263057(P2010−263057)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】