説明

高精度化された振動型ジャイロ

【課題】クワドラチャーエラーを補正してバイアス出力を低減できる構造を備えた振動型ジャイロの提供。
【解決手段】駆動振動にY方向成分が含まれる場合、駆動質量体6と固定電極24との間の静電容量が変化するので、Y方向成分をクワドラチャーエラーとして電気的に検出することができる。駆動質量体6と固定電極24との間の初期容量は、角速度検出用の電極の初期容量とは異なる大きさであり、クワドラチャーエラーの大きさも異なるので、それぞれの容量変化をC−V変換回路で電圧に変換し、電圧の振幅が一致するように可変アンプで調整し、位相を一致させて差分を出力すれば、クワドラチャーエラーが差し引かれた出力信号を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS技術等によって製造された振動型ジャイロに関し、特には、漏れ出力を補償することにより高精度化が図られた振動型ジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代から急速に発展したいわゆるマイクロマシニング技術によって、例えば、絶縁膜を有するシリコン基板やガラス基板上に接合されたバルクシリコンウェハを、湿式エッチングやドライエッチング等の化学的なエッチングにより処理し、メカニカルなセンサ構造体を形成して、一度のプロセスで大量のセンサ構造を製造する手法が確立されている。このような微小電気機械システム(MEMS)技術によるセンサとしては、加速度センサ及び振動型ジャイロ等があり、例えば自動車、慣性ナビゲーション、デジタルカメラ、ゲーム機他、多くの分野において利用されている。
【0003】
容量検出型のMEMSジャイロでは、固定部から梁を介して支持された可動部に駆動力を与え、基板面に平行な一方向に振動させている。ここで角速度が入力されると、可動部に含まれる角速度検出用の可動電極がコリオリ力によって駆動方向と垂直な方向に変位し、可動電極と基板に設けた固定電極との間隔が入力加速度の大きさに応じて変化する。このときの電極間の静電容量変化を検出し、センサ出力とする。
【0004】
容量検出型のMEMSジャイロの構造として、可動部をいわゆるダブルジンバル型としたものがある。これは、固定部から駆動用の駆動質量体を弾性の梁を介して支持し、該駆動質量体から検出質量体及び角速度検出用の可動電極を、異なる梁を介して支持するものである。この構造の特徴として、検出質量体が駆動質量体と同じ動きで振動することが挙げられる。
【0005】
例えば特許文献1には、方形のフレーム3を有する回転角速度センサが開示されており、ここでは、フレーム3内に振動質量体1が配置され、この振動質量体1は4つのウエブ4を介してフレーム3に一定の方向に変位可能に結合される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−101553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
駆動質量体の駆動振動は、理想的には検出方向と垂直であり、角速度入力がない限り可動電極は検出方向には変位しない。しかしながら、製造プロセスにおいて生じる構造の非対称性や、駆動力にはいくらかの検出方向成分が含まれることにより、可動電極が検出方向に変位し、角速度入力がないにも関わらず容量変化が出力されてしまうことがある。これをクワドラチャーエラー(漏れ出力)といい、角速度が入力されないときの出力であるバイアス出力を発生させ、ジャイロの不安定性を招く。
【0008】
そこで本発明は、上記クワドラチャーエラーを補正してバイアス出力を低減できる構造を備えた振動型ジャイロを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、支持基板に設けられた固定部と、第1の支持梁を介して前記固定部に支持され、平面内のX方向に駆動振動するように構成された駆動質量体と、第2の支持梁を介して前記駆動質量体に支持され、前記平面内でありかつX方向に直交するY方向に振動可能に構成された検出質量体と、前記検出質量体に設けられた角速度検出用の可動電極と、前記可動電極に対向配置するように前記支持基板に設けられた検出用固定電極と、を有し、X方向及びY方向の双方に直交するZ方向の軸線回りの角速度により発生するコリオリ力によって前記検出質量体がY方向に変位する振動型ジャイロにおいて、前記駆動質量体に対して一定の間隔を空けて配置され、前記駆動質量体との間の静電容量が前記駆動質量体のY方向の変位によってのみ変化するように構成されたモニタ用固定電極を有し、前記駆動質量体の駆動振動にY方向成分が含まれている場合、前記駆動質量体と前記モニタ用固定電極との間に発生する静電容量の変化をモニタ信号として出力する、振動型ジャイロを提供する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記駆動質量体と前記モニタ用固定電極との間の静電容量と、前記検出質量体の前記可動電極と前記検出用固定電極との間の静電容量とが同一となり、Y方向の変化についての容量変化の符号が逆となるように前記モニタ用固定電極が配置され、前記モニタ用固定電極と前記検出用固定電極とが電気的に接続される、振動型ジャイロを提供する。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、前記駆動質量体に対して一定の間隔を空けて配置され、前記駆動質量体との間に静電容量を有し、電圧を印加されることで静電気力を発生し、該静電気力によって前記駆動質量体をY方向に変位させるように構成された検出方向駆動用電極をさらに有する、振動型ジャイロを提供する。
【0012】
第4の発明は、第1の発明において、前記振動型ジャイロを並べた状態で2組有し、前記2組の駆動質量体が、互いに逆相で振動する振動モードを有するように、X方向に弾性を有する連結梁によって互いに連結される、振動型ジャイロを提供する。
【0013】
第5の発明は、第1又は第4の発明において、前記駆動質量体と前記モニタ用固定電極との間の静電容量の変化と、前記検出質量体の前記可動電極と前記検出用固定電極との間の静電容量の変化とを、C−V変換回路を用いてそれぞれ電圧に変換し、可変アンプを用いて、変換された2つの電圧の振幅が一致するように、該2つの電圧の一方又は双方を調整し、振幅が調整された2つの電圧の差分を、位相を一致させて出力するように構成された、振動型ジャイロを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振動型ジャイロにおいて発生する駆動振動による検出変位(クワドラチャーエラー)を、駆動質量体においても検出することができる。本願発明では駆動質量体と検出質量体は駆動振動によって同じ動きをするので、駆動質量体において検出されたエラー信号を用いて、センサ出力からクワドラチャーエラーを分離させることができ、不要なバイアス出力を低減して安定性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る振動型ジャイロを示す平面図である。
【図2】図1のジャイロのII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のジャイロのIII−III線に沿う断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る振動型ジャイロを示す平面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る振動型ジャイロを示す平面図である。
【図6】本発明の第4及び第5の実施形態に係る振動型ジャイロを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る振動型MEMSジャイロ1の基本構造を示す平面図であり、図2及び図3はそれぞれ、図1のII−II線及びIII−III線に沿った切断面を示す断面図である。基本的にこのMEMSジャイロは、基板に支持された可動部を基板に水平な面内で振動させ、基板面と垂直な軸回りの角速度が入力されたときに、基板の水平面内に作用するコリオリ力による変位を検出するようにしたものである。
【0017】
図2及び図3からわかるように、本実施形態は、単結晶シリコン基板100と絶縁材料であるガラス等の支持基板102とを陽極接合した接合基板に、マイクロマシニング技術によって微細加工を施して形成される。支持基板102の一部にはキャビティが予め加工されており、その加工箇所においてはシリコン基板100は支持基板102と接合されず、支持基板102に対して自由度を持つ構造体となっている。
【0018】
図1に示すように、支持基板102とシリコン基板100とが接合している部分に相当する(図示例では4つの)固定部2に、(図示例では4つの)第1の支持梁4を介して、略矩形の駆動質量体6が支持される。第1の支持梁4は、駆動質量体6が基板面内のX方向(図1では左右方向)に振動できるように、X方向の剛性が他方向の剛性に比べ低くなるように構成されている。駆動質量体6の内部には、(図示例では4つの)第2の支持梁8を介して略矩形の検出質量体10が支持される。第2の支持梁8は、検出質量体10が基板面内のY方向(図1では上下方向)に振動できるように、Y方向の剛性が他方向の剛性に比べ低くなるように構成されている。
【0019】
駆動質量体6には櫛歯状の突起部12が設けられており、これに対向するように駆動用櫛歯電極14と、駆動モニタ用櫛歯電極16とが支持基板102に配置されている。櫛歯同士の間隔は等間隔となっており、また突起部12と、櫛歯電極14及び16とは、空間及び支持基板102を介して絶縁されている。
【0020】
検出質量体10にも櫛歯状の突起部18が設けられており、これに対向するように検出用櫛歯電極20が支持基板102に配置されている。図1に示すように、櫛歯同士の間隔は等間隔ではなく、狭い部分と広い部分とが交番的となるように突起部18及び検出用櫛歯電極20が配置されている。また突起部18と検出用櫛歯電極20とは、空間及び支持基板を介して絶縁されている。
【0021】
また支持基板102には、駆動質量体6の、Y方向に対向する端部の一方(図示例では上端部22)から離隔したモニタ用固定電極24が設けられている。この固定電極24と駆動質量体6とは、空間及び支持基板102を介して絶縁されている。
【0022】
上述のように構成された振動型ジャイロは、以下のようなマイクロマシニングプロセスを適用して作製することができる。
【0023】
先ず、ガラス等の支持基板とジャイロの可動部材との間に所定の間隙が形成されるように、ウエットエッチングを行う。このとき、エッチングされてはいけない領域として、間隙を形成する部分以外については、半導体フォトリソグラフィ技術等を適用して、例えばレジストマスクを予め形成することで保護する。
【0024】
次に、支持基板とシリコン基板とを陽極接合手法等により接合する。接合した基板に対して、シリコン基板側から研磨を行い、該シリコン基板を所定の厚さにするとともに、ボンディング用パッドとして必要とされる領域に、Cr&Au等の導電性メタルの選択的スパッタリングを行い、電極パッド(図示せず)を形成する。さらに、接合されたシリコン基板の表面側(研磨側)に、フォトレジスト等のマスク材料を利用して、図1の平面図で示されるような構造体のレジストパターンを、フォトリソグラフィ技術を利用して作製する。この場合も、エッチングされてはいけない領域がレジストマスクにより保護される。
【0025】
次に、RIE装置等を利用したドライエッチングにより、シリコン基板の厚さ方向に貫通エッチングを行う。以上のようなマイクロマシニング技術を適用した製造プロセスにより、振動型ジャイロの基本構造を作製することができる。
【0026】
次に、振動型ジャイロの動作について説明する。例えば、X軸方向に速度Vxで振動する質量Mの検出質量体に、X軸及びY軸の双方に直交するZ軸回りの回転(回転角速度Ωz)が加わった場合に生じるY軸方向のコリオリ力cの絶対量は、
Fc=2MVxΩz
で表される。このため、コリオリ力Fcによる該検出質量体の変位を検出することで角速度を検出する振動型ジャイロでは、駆動質量体を速度Vxで励振させる必要がある。このための方式として、例えば静電力によるコームドライブ方式が利用される。
【0027】
駆動用櫛歯電極14と、櫛歯状の突起部12を含む駆動質量体6との間に、DC電圧VDCとAC電圧VACとの和を印加すると、VACの電圧周期と等しい駆動力が発生する。駆動質量体6は、X方向に低い剛性を持つ第1の支持梁4により支持されたいわゆるバネマス構造であるため、X方向に振動する振動モードを有する。従って、VACの周波数をこの振動モードの周波数と一致させることで、駆動質量体6は共振によって振動する。一方検出質量体10は、駆動質量体6に支持されており、かつ駆動質量体6に対してX方向には動き難い構造となっているため、基本的には駆動質量体6と一体となって駆動振動する。この振動の速度Vxは、モニタ用櫛歯電極16により、静電容量変化として電気回路を通じて検出され、駆動振動の制御に利用される。
【0028】
上述の駆動方式は静電駆動方式と呼ばれるものであるが、電磁駆動方式も適用可能であり、その場合の構造及び動作原理を以下に簡単に説明する。固定部2の1つから第1の支持梁4の1つを通り、駆動質量体6のY軸に平行な一辺を通り、別の第1の支持梁4を通って別の固定部2まで、シリコン基板の表面にシリコン基板と絶縁膜を介して絶縁された金属配線膜を配置する。シリコン基板及び金属配線膜に平行に、一定距離離して永久磁石を配置し、金属配線膜に垂直な磁界が作用するようにする。このとき、金属配線膜に電流を流すことで、金属配線膜にローレンツ力が発生する。このローレンツ力はX方向に発生するので、金属配線膜に流す電流を駆動振動モードと等しい周波数のAC電流とすることにより、駆動質量体6を共振によって振動させることができる。
【0029】
駆動質量体6及び検出質量体10が上記のようにX方向に振動しているときに、角速度Ωzが図1の紙面に垂直な方向(Z方向)に作用すると、駆動質量体6及び検出質量体10にはコリオリ力Fcが生じる。駆動質量体6はY方向には動き難い構造で支持されているためY方向には殆ど変位しないが、検出質量体10はY方向に動きやすく支持されているので、コリオリ力によって変位振動する。この結果、検出質量体10に設けた櫛歯状の突起部18と、検出用固定櫛歯電極20との間の静電容量が変化し、これを電気的に読み出すことで、角速度Ωzを検出することができる。
【0030】
理想的には、検出される静電容量の変化は、角速度が入力されたときのみ発生するが、他の要因で検出質量体10にY方向の変位が生じた場合にも静電容量は変化する。例えば、駆動質量体6を支持する4つの第1の支持梁4に製造ばらつきがあれば、駆動振動にY方向成分が含まれることになる。また検出質量体10は駆動質量体6に対して駆動方向(X方向)には高い剛性で支持されているので、駆動質量体6と一体に振動する。従って駆動振動にY方向成分が含まれると、検出質量体10はY方向に変位することになり、エラー成分となる容量変化が発生する。
【0031】
ここで、駆動振動にY方向成分が含まれる場合、駆動質量体6と上述のモニタ用固定電極24との間の静電容量が変化するので、当該Y方向成分をクワドラチャーエラーとして電気的に検出することができる。駆動質量体6と固定電極24との間の初期容量は、角速度検出用の電極の初期容量とは異なる大きさであり、クワドラチャーエラーの大きさも異なる。そこで、それぞれの容量変化をC−V変換回路で電圧に変換し、電圧の振幅が一致するように可変アンプで一方又は双方の電圧を調整し、位相を一致させて差分を出力すれば、クワドラチャーエラーが差し引かれた出力信号を得ることができる。このようにして、バイアス出力を低減でき、ジャイロの安定性を高めることができる。
【0032】
次に、本発明の第2の実施形態を図4を参照しつつ説明する。第2の実施形態は、概して、第1の実施形態に係るジャイロ構造を2つX方向に並べ、両ジャイロ構造を中央の連結ばね26によって互いに連結した構造を有する。左右の駆動質量体6a及び6bは、連結ばね26で連結されることにより、互いにX方向に接離する、いわゆる逆相振動の振動モードを有する。左右の駆動質量体6a及び6bをそれぞれ駆動させるための駆動用櫛歯電極14a及び14bに、上記振動モードと同じ周波数の駆動信号を印加することにより、駆動質量体6a及び6bを逆相振動させることができる。なお図1の実施形態のものと同等の機能を有する部材については、左側の構造においては「a」、右側の構造においては「b」を参照符号に付記し、詳細な説明は省略する。
【0033】
左右の駆動質量体6a及び6bが上述のように逆相振動する場合に、角速度Ωzが図4の紙面に垂直な方向(Z方向)に作用すると、左右の駆動質量体6a及び6bにおいてそれぞれ第2の支持梁8a及び8bに支持されている検出質量体10a及び10bには、逆相のコリオリ力Fcが生じ、検出質量体10a及び10bはY方向に変位する。
【0034】
しかし、ここで任意の方向の加速度が入力されると、角速度検出用の電極に容量変化が生じ、誤検出となる。そこで、第1の実施形態で説明したのと同様に、左右それぞれおいてクワドラチャーエラーを求めてこれを差し引き、さらに左右の出力信号を差動で検出することにより、加速度による出力を差し引くことができる。なお第1の実施形態でのC−V変換回路や可変アンプによる処理は、本実施形態にも適用可能である。
【0035】
次に、本発明の第3の実施形態を図5を参照しつつ説明する。なお図1の実施形態のものと同等の機能を有する部材については、同じ参照符号を付し、詳細な説明は省略する。第1の実施形態では、角速度検出用電極(櫛歯電極18及び20)における容量変化と、駆動質量体6の検出方向のモニタ用固定電極24における容量変化とが、同相で現れる構造となっているが、第3の実施形態ではこれが逆相となるような構造を有する。
【0036】
具体的には第3の実施形態は、基本的には第1の実施形態と同等のバネマス構造を有するが、第1の実施形態におけるモニタ用固定電極24に相当するモニタ用固定電極28を、図5に示すように、X軸を基準として線対称となる位置に移動させた構造となっている。角速度検出用の櫛歯電極18及び20の初期容量と、固定電極28と駆動質量体6との初期容量とは同じ大きさとなっている。また固定電極28と検出用櫛歯電極20とは、ワイヤボンディング等の手段によって電気的に接続されている。
【0037】
第3の実施形態において、図5の+Y方向に駆動質量体6が変位した場合、検出質量体10も同様に+Y方向に変位し、櫛歯電極18と20の間隔は小さくなり、両電極間の静電容量は増加する。一方、モニタ用固定電極28と駆動質量体6との間隔は広がるので、固定電極28と駆動質量体6との間の静電容量は減少する。ここで櫛歯電極18及び20間の初期容量と、固定電極28と駆動質量体6との間の初期容量は同じであり、かつそれらの容量変化は逆相となっている。さらに、固定電極28と検出用櫛歯電極20とは電気的に接続されているので、駆動質量体6がY方向に変位したときの容量変化の合計は相殺又は大きく低減され、結果としてクワドラチャーエラーを抑制することができる。
【0038】
次に、本発明の第4の実施形態を図6を参照しつつ説明する。第4の実施形態は概して、駆動質量体に静電気力を付与する手段を第1の実施形態に付加した構造を有する。なお図1の実施形態のものと同等の機能を有する部材については、同じ参照符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0039】
図6に示すように、駆動質量体6の下方、具体的にはモニタ用固定電極24とX軸について概ね線対称となる位置に、検出方向駆動用固定電極30を配置する。駆動質量体6と固定電極30とは一定の間隔を有して互いに絶縁されており、駆動質量体6と固定電極30との間は静電容量をもつ。
【0040】
ここで、検出方向駆動用電極30にDC電圧及びAC電圧を印加すると、駆動質量体6に対して静電気力が発生し、AC電圧の周波数で振動させることができる。つまり、第1の実施形態で説明したように固定電極24によってクワドラチャーエラーを監視しながら、AC電圧の大きさ及び位相を調整することにより、クワドラチャーエラーが極小となる条件を求めることができる。
【0041】
次に説明する第5の実施形態は、構造的には第4の実施形態と同等であるが、動作方式が異なる。先ず検出方向駆動用固定電極30にDC電圧及びAC電圧を印加し、駆動質量体6をY方向に振動させる。この振動は正弦波振動であり、その振幅は、通常の駆動振動時に発生するクワドラチャーエラーを大きく上回る大きさとし、また固定電極24によってモニタすることで振幅の制御が可能である。
【0042】
一方、角速度検出用電極20にも同様の正弦波振動が与えられ、ここでの静電容量変化を検出する。この静電容量変化と角速度による変位とは、正弦波振動に重畳して現れるので、第1の実施形態で説明したような信号処理によって正弦波振動をセンサ出力から差し引くことにより、エラー成分が大幅に低減された角速度信号を検出できるようになる。
【0043】
本願発明は、検出質量体の可動電極が駆動質量体と同じ駆動振動をし、そのとき検出される出力がクワドラチャーエラーに相当することを利用する。すなわち、駆動質量体の検出方向変位を容量変化として出力すれば、該出力もクワドラチャーエラーとみなすことができる。従って駆動質量体と対向するようにモニタ用固定電極を設けることにより、駆動質量体の容量変化、すなわちクワドラチャーエラーを検出できるようになる。
【0044】
上述のように、検出質量体の可動電極と検出用櫛歯電極との間の初期容量と、駆動質量体とモニタ用固定電極との間の初期容量とを同一とする場合と、異なるようにする場合とが考えられる。前者の場合は、それらの容量変化の符号が逆となるようにモニタ用固定電極を配置し、該固定電極と検出用櫛歯固定電極とを電気的に接続しておくことにより、出力されるクワドラチャーエラーを常時ゼロとすることができ、角速度による容量変化による出力のみを検出できるようになる。
【0045】
一方、後者の場合は、出力されたクワドラチャーエラーをアンプ回路等によって同じ値となるように調整して差し引くことで、角速度による容量変化による出力のみを検出できるようになる。但しこの方法は前者の場合にも適用できる。
【0046】
また駆動質量体に対し、外部から検出方向の力を加えて振動させることで、クワドラチャーエラーを角速度による出力と同等又はそれ以上の信号を得ることができ、回路による切り分けや増幅、差し引き等の処理も容易になる。
【符号の説明】
【0047】
2 基板
6 駆動質量体
10 検出質量体
14 駆動用櫛歯電極
16 駆動モニタ用櫛歯電極
20 検出モニタ用櫛歯電極
24、28 モニタ用固定電極
30 検出方向駆動用固定電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板に設けられた固定部と、
第1の支持梁を介して前記固定部に支持され、平面内のX方向に駆動振動するように構成された駆動質量体と、
第2の支持梁を介して前記駆動質量体に支持され、前記平面内でありかつX方向に直交するY方向に振動可能に構成された検出質量体と、
前記検出質量体に設けられた角速度検出用の可動電極と、
前記可動電極に対向配置するように前記支持基板に設けられた検出用固定電極と、を有し、
X方向及びY方向の双方に直交するZ方向の軸線回りの角速度により発生するコリオリ力によって前記検出質量体がY方向に変位する振動型ジャイロにおいて、
前記駆動質量体に対して一定の間隔を空けて配置され、前記駆動質量体との間の静電容量が前記駆動質量体のY方向の変位によってのみ変化するように構成されたモニタ用固定電極を有し、
前記駆動質量体の駆動振動にY方向成分が含まれている場合、前記駆動質量体と前記モニタ用固定電極との間に発生する静電容量の変化をモニタ信号として出力する、振動型ジャイロ。
【請求項2】
前記駆動質量体と前記モニタ用固定電極との間の静電容量と、前記検出質量体の前記可動電極と前記検出用固定電極との間の静電容量とが同一となり、Y方向の変化についての容量変化の符号が逆となるように前記モニタ用固定電極が配置され、前記モニタ用固定電極と前記検出用固定電極とが電気的に接続される、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
【請求項3】
前記駆動質量体に対して一定の間隔を空けて配置され、前記駆動質量体との間に静電容量を有し、電圧を印加されることで静電気力を発生し、該静電気力によって前記駆動質量体をY方向に変位させるように構成された検出方向駆動用電極をさらに有する、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
【請求項4】
前記振動型ジャイロを並べた状態で2組有し、前記2組の駆動質量体が、互いに逆相で振動する振動モードを有するように、X方向に弾性を有する連結梁によって互いに連結される、請求項1に記載の振動型ジャイロ。
【請求項5】
前記駆動質量体と前記モニタ用固定電極との間の静電容量の変化と、前記検出質量体の前記可動電極と前記検出用固定電極との間の静電容量の変化とを、C−V変換回路を用いてそれぞれ電圧に変換し、
可変アンプを用いて、変換された2つの電圧の振幅が一致するように、該2つの電圧の一方又は双方を調整し、
振幅が調整された2つの電圧の差分を、位相を一致させて出力するように構成された、請求項1又は4に記載の振動型ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108929(P2013−108929A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256028(P2011−256028)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000176730)三菱プレシジョン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】