説明

高純度な重水素化誘導体及びその製造法

【課題】
本発明はLC/MS/MS法において(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸と完全に分離でき、正確かつ効率的な測定が可能な測定用標準物質の提供、及びその製造法の提供。
【解決手段】
本発明は、質量分析における標準物質として有用な重水素化された(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−(3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル)アミノメチル]フェノキシ]酪酸、及びその製造法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物動態等の試験に用いる高純度な重水素化誘導体及びその製造法に関する。より詳細には、本発明は、式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法、及び新規な中間体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
重水素化された化合物は種々の目的に有用であり、反応機構や生体内での物質代謝の解明に標識化合物として利用されてきた。特に医薬品の開発研究において有用な薬物を生体内に投与し、その薬物及び代謝物等の体内動態を調べる薬物動態研究では高速液体クロマトグラフィー(HPLC)がこれまで利用されてきた。これは対象とする特定化合物の定量に類似化合物を測定用標準物質として用い定量する手法である。しかし、本手法によると、UVによる検出限界が10−100ng/mLであり、それ以下の正確な定量が困難な場合が多い。
近年、より検出感度の高いLC/MS/MS法が重用されるようになり、上記の測定に関わる問題を回避することが可能となった(非特許文献1)。しかしながら、HPLCの溶出物がベーパーライザー中で加熱され、部分気化の状態でイオン源ブロックに噴霧され、さらに加熱されイオンが生成されるとイオン化は常に一定ではなくなり、MSの測定においてバラツキに繋がることになる。このようなバラツキを補正するために内部標準物質を用いる。その際の内部標準物質としては、次の三つの要件を満たすことが望まれる。1)目的物はHPLCでほぼ同じ保持時間を持つこと。2)ピーク形状が目的物とほぼ同一であること。3)イオン化効率が目的物と同一であること。
このような要件を満たす内部標準物質として安定同位体の活用が挙げられる。安定同位体には炭素、窒素、水素、酸素等が挙げられるが、標識体の合成としては重水素化物の活用が実用的である。天然に存在する重水素の含量比を考慮すると、対象となる化合物の分子量よりも3以上大きい分子量を示す標識体を用いなければ、測定に支障を来す可能性があり、測定用標準物質としての重水素標識体は高度に重水素化されている方が望ましい。また、低用量で作用を発現する薬物やバイオアベイラビリティーの悪い薬物での未変化体及び代謝物濃度を測定する際には、血漿中、尿中、あるいは、組織中の濃度が著しく低いため、測定用標準物質の重水素標識率が不十分であると測定誤差の原因となる。なぜなら、重水素標識されていない化合物は測定対象の薬物そのものとなるからである。拠って、高い精度の測定のためには測定用標準物質の重水素標識率が限りなく100%に近い、重水素標識されていない不純物が殆ど混在しないことが望ましい。
【0003】
有機化合物の重水素化方法について多くの方法が報告されている。例えば、DClやCHCOD等の重水素を含む酸を用いる方法(非特許文献2、非特許文献3)、塩基性条件における活性水素と重水素との交換反応(非特許文献4)、均一系遷移金属触媒を用いる方法(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)、マイクロウェーブ装置を用いたハロゲン原子と重水素との交換反応(非特許文献9)、超臨界重水素交換法(非特許文献10)、不均一系触媒を用いる方法(非特許文献11、非特許文献12)等の方法が知られている。しかしながら、これらの方法は重水素交換部位や対象とする化合物に制限があること、高温又は高圧力下での反応であること、高価な触媒を必要とすること、さらに満足いく重水素交換率が得られないことなどの何れかの問題を含み、実用的であるとは言い難い。一方、不均一系触媒を用いる方法の中でも、水素雰囲気下にて重水中でパラジウム炭素又は白金炭素を触媒に用いた重水素化反応が知られている。芳香環上の水素を重水素交換するには白金炭素を触媒に用いた場合、パラジウム炭素よりも高い重水素化が起こることが報告されているが、より高く重水素化された化合物を得るには芳香環上の置換基の種類によっては180℃と過酷な温度条件を必要とし、オートクレーブ等の特殊な装置を必要とする(非特許文献13)。
【0004】
このように、内部標準品の要件を満たす高純度かつ高度に重水素化された化合物の合成は極めて困難であり、その理由は重水素化された出発物質の市場利用性が極度に限定されることから一般製造法としては確立されていない。そこで、合理的かつ効率的な方法論の開拓が求められていた。
【0005】
また、式(1)で表される重水素化化合物の重水素化されていない(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1A)は、特許文献1に記載されており、当該化合物は、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、糖尿病合併症、炎症、心疾患等に有用と考えられるPPARαを選択的に活性化する化合物として有用であるとされている。
【0006】
【特許文献1】WO2005/23777号パンフレット
【非特許文献1】原田健一他,LC/MSの実際,p149,講談社サイエンティフィック
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society,1967,89,4546-4547.
【非特許文献3】Tetrahedron Letters,2002,43、3789-3792.
【非特許文献4】Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,1994,34,93-100.
【非特許文献5】Journal of the Chemical Society, Chemical Communication,1992,680-681.
【非特許文献6】Journal of the American Chemical Society,2002,124,2092-2093.
【非特許文献7】Journal of the American Chemical Society,1999,121,4385-4396.
【非特許文献8】Journal of Organic Chemistry,1974,39,48-50.
【非特許文献9】Tetrahedron Letter,2001,42,331-332.
【非特許文献10】Tetrahedron Letter,1996,37,3445-3448
【非特許文献11】Journal of the Chemical Society,Chemical Communication,2004,1714-1715.
【非特許文献12】Chemistry Letters,2004,33,294-295.
【非特許文献13】Tetrahedron Letter,2005,46,6995-6998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はLC/MS/MS法において(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸と完全に分離でき、正確かつ効率的な測定が可能な測定用標準物質を提供することを目的とし、その合理的かつ効率的な製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以前に本発明者らは、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、糖尿病合併症、炎症、心疾患等に有用と考えられるPPARαを選択的に活性化する化合物の探索を行った結果、下記一般式(A):
【0009】
【化16】

【0010】
[式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、メチル基又はエチル基を示し;Ra、Rb、Ra及びRbは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、C1−4アルキル基、トリフルオロメチル基、C1−4アルコキシ基、C1−4アルキルカルボニルオキシ基、ジ−C1−4アルキルアミノ基、C1−4アルキルスルフォニルオキシ基、C1−4アルキルスルフォニル基、C1−4アルキルスルフィニル基又はC1−4アルキルチオ基を示すか、RaとRbあるいはRaとRbが結合してアルキレンジオキシ基を示し;Xは酸素原子、硫黄原子又はN−R(Rは水素原子、C1−4アルキル基、C1−4アルキルスルフォニル基、C1−4アルキルオキシカルボニル基を示す)を示し;Yは酸素原子、S(O)基(lは0〜2の数を示す)、カルボニル基、カルボニルアミノ基、アミノカルボニル基、スルホニルアミノ基、アミノスルホニル基又はNH基を示し;ZはCH又はNを示し;nは1〜6の数を示し;mは2〜6の数を示す。]
【0011】
で表される化合物を創製し、特許出願を行った(特許文献1参照)。この特許文献中に記載されている(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1A)(特許文献1の実施例14及び85参照)において、血漿中未変化体濃度や代謝物測定などの薬物動態研究を進めるためには、それらと標準物質とを完全分離し正確かつ効率的な測定を可能とする測定用の重水素標識化合物が求められていた。本発明者らは、(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1A)の測定用標準物質を得るため、(1A)の重水素標識体の製造法について鋭意研究を行ってきた。従来の重水素化法により、ある程度重水素化された化合物を製造することはできるが、重水素化の程度が低いだけでなく、重水素化物の混合物となり、質量分析(MS)における内部標準物質として使用できる高純度の重水素化物を製造することは困難であった。特に、重水素化率を95%以上、好ましくは98%以上とした高度に重水素化された重水素化物を、高純度で、かつ簡便な方法で安定して製造できる方法を確立させることは非常に困難であった。なかでも中間体のひとつであるベンズオキサゾール誘導体のベンゼン環上の4個の水素原子の平均重水素化率が98%以上の高度に重水素化された化合物を確実に製造する方法を見出さなければ目的とする高純度にかつ高度に重水素置換した(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1)を製造することはできない。本発明者らは、このための方法を鋭意検討してきた結果、ついに高純度にかつ高度に重水素置換した目的物の製造方法を確立することができた。そして、この化合物を内部標準物質として用いた結果、LC/MS/MS法において非標識体との完全な分離を可能とし、正確かつ効率的な測定を実施できることも確認され、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、次式(g):
【0013】
【化17】

【0014】
で表される化合物を金属触媒の存在下、重水素化溶媒中で溶媒の沸点以下の温度で反応させて重水素化する工程、さらに当該重水素化工程を2回以上繰り返し行うことより、次式(h):
【0015】
【化18】

【0016】
(式中、Dは重水素を示す。当該重水素の置換率は、95%以上、好ましくは98%以上である。)
で表される重水素化化合物を製造する工程を含む、次式(1)
【0017】
【化19】

【0018】
(式中、Dは重水素を示す。当該重水素の置換率は、95%以上、好ましくは98%以上である。)
で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法に関する。特に、本発明は、前記式(g)で表される2−アミノフェノールを、金属触媒の存在下、重水素化溶媒中で溶媒の沸点以下の温度で反応させて重水素化し、得られた重水素化物を、さらに当該重水素化工程により2回以上繰り返し行うことより、重水素化率が95%、好ましくは98%以上の前記式(h)で表される重水素化2−アミノフェノールを製造方法に関する。
また、本発明は、前記式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、次式(a):
【0019】
【化20】

【0020】
で表される化合物と次式(b):
【0021】
【化21】

【0022】
で表される化合物とを、重メタノール中で反応させて、次式(c):
【0023】
【化22】

【0024】
(式中、Dは重水素を示す。)
で表される化合物を製造する工程、次いで、得られた式(c)で表される化合物を、アクリロニトリルなどのシアノ化合物と反応させて、次式(d):
【0025】
【化23】

【0026】
(式中、Dは重水素を示す。)
で表されるシアノ化合物(d)を製造する工程、得られた式(d)で表されるシアノ化合物を還元して次式(e):
【0027】
【化24】

【0028】
(式中、Dは重水素を示す。)
で表されるアミノ化合物(e)を製造する工程、式(e)で表されるアミノ化合物と3−ヒドロキシベンズアルデヒドと反応さ、次いで得られたイミノ化合物を還元して次式(f):
【0029】
【化25】

【0030】
(式中、Dは重水素を示す。)
で表されるアミン化合物(f)を製造する工程を含む、製造方法に関する。特に、本発明は、前記式(a)で表される化合物と前記式(b)で表される化合物とを、重メタノール中で反応させて、前記式(c)で表されるメトキシフェノール化合物(c)を製造する工程、次いで、得られた式(c)で表されるメトキシフェノール化合物をシアノ化合物と反応させて前記式(d)で表されるシアノ化合物(d)を製造する工程、得られた前記式(d)で表される化合物を還元して前記式(e)で表されるアミノ化合物(e)を製造する工程、前記式(e)で表されるアミノ化合物をアルデヒドなどと反応させて対応するイミノ化合物とし、次いでこれを還元して前記式(f)で表されるアミン化合物(f)を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、前記式(h)で表される重水素化化合物を環化させて次式(i):
【0031】
【化26】

【0032】
(式中、Dは重水素を示す。当該重水素の置換率は、95%以上、好ましくは98%以上である。)
で表される2−メルカプトベンズオキサゾール−d(i)を製造し、次いで得られた式(i)で表されるオキサゾール化合物を塩素化して次式(j):
【0033】
【化27】

【0034】
(式中、Dは重水素を示す。当該重水素の置換率は、95%以上、好ましくは98%以上である。)
で表される2−クロロベンズオキサゾール−d(j)を製造する工程を含む、製造方法に関する。特に、本発明は、前記式(h)で表される重水素化化合物を環化させて前記式(i)で表される化合物(i)を製造し、次いで得られた式(i)で表される化合物(i)を塩素化して前記式(j)で表される化合物を製造する方法に関する。
また、本発明は、前記式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、前記式(j)で表される化合物(j)と、前記式(f)で表されるアミン化合物(f)とを反応させて、次式(k):
【0035】
【化28】

【0036】
(式中、Dは重水素を示す。当該重水素の置換率は、95%以上、好ましくは98%以上である。)
で表されるフェノール化合物(k)を製造する工程、次いで、式(k)で表されるフェノール化合物(k)を脱離基を有する酪酸誘導体と反応させて次式(l):
【0037】
【化29】

[式中、Rはカルボキシル基の置換基を示す。]
【0038】
(式中、Dは重水素を示す。当該重水素の置換率は、95%以上、好ましくは98%以上である。)
で表されるエステル化合物(l)を製造する工程、得られた式(l)で表されるエステル化合物から式(1)で表される重水素化化合物を製造する工程を含む、製造方法に関する。特に、本発明は、前記式(j)で表される化合物と、前記式(f)で表されるアミン化合物とを反応させて、前記式(k)で表されるフェノール化合物を製造する工程、次いで、式(k)で表されるフェノール化合物を酪酸誘導体と反応させて前記式(l)で表されるエステル化合物を製造する工程、及び得られた式(l)で表されるエステル化合物から式(1)で表される重水素化化合物を製造する方法に関する。
【0039】
さらに、本発明は、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上であり、実質的に純粋な(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸に関する。本発明は、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上であり、実質的に純粋な3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピオニトリルに関する。本発明は、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上であり、実質的に純粋な3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピルアミンに関する。本発明は、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上であり、実質的に純粋なN−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミンに関する。本発明は、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上であり、実質的に純粋な2−メルカプトベンズオキサゾール−dに関する。本発明は、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上であり、実質的に純粋な2−クロロベンズオキサゾール−dに関する。
【0040】
本発明をさらに詳細に説明すれば以下のとおりである。
(1)前記式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、前記式(g)で表される化合物を金属触媒の存在下、重水素化溶媒中で溶媒の沸点以下の温度で反応させて重水素化する工程、さらに当該重水素化工程を2回以上繰り返し行うことより、前記式(h)で表される重水素化化合物を製造する工程を含む製造方法。
(2)重水素化溶媒が、重水である前記(1)に記載の製造方法。
(3)金属触媒が、パラジウム炭素又は白金炭素である前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記式(h)で表される重水素化化合物の重水素化率が98%以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記式(h)で表される重水素化化合物を環化させて前記式(i)で表される化合物を製造し、次いで得られた式(i)で表される化合物から前記式(j)で表される化合物を製造する工程を含む、前記(1)に記載の製造方法。
(6)前記式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、前記式(a)で表される化合物と前記式(b)で表される化合物とを、重メタノール中で反応させて、前記式(c)で表される化合物を製造する工程、次いで得られた式(c)で表される化合物から前記式(d)で表される化合物を製造する工程、得られた式(d)で表される化合物から前記式(e)で表される化合物を製造する工程、得られた式(e)で表される化合物から前記式(f)で表される化合物を製造する工程を含む、製造方法。
(7)前記式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、前記式(j)で表される化合物と、前記式(f)で表される化合物とを反応させて、前記式(k)で表される化合物を製造する工程、次いで、式(k)で表される化合物から前記式(l)で表されるエステル化合物を製造する工程、得られた式(l)で表されるエステル化合物から式(1)で表される重水素化化合物を製造する工程を含む、製造方法。
(8)内部標準物質である、(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸。
(9)製造中間体である3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピオニトリル、3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピルアミン、N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン、2−メルカプトベンズオキサゾール−d、2−クロロベンズオキサゾール−d、N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン、及び(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸n−ブチル。
【0041】
(10)前記式(g)で表される化合物を金属触媒の存在下、重水素化溶媒中で溶媒の沸点以下の温度で反応させて重水素化する工程、さらに当該重水素化工程を2回以上繰り返し行うことより、前記式(h)で表される重水素化化合物を製造する方法。
(11)前記式(h)で表される重水素化化合物を環化させて前記式(i)で表される化合物を製造し、次いで得られた式(i)で表される化合物から前記式(j)で表される化合物を製造する方法。
(12)前記式(a)で表される化合物と前記式(b)で表される化合物とを、重メタノール中で反応させて、前記式(c)で表される化合物を製造する工程、次いで、得られた式(c)で表される化合物から前記式(d)で表される化合物を製造する工程、得られた式(d)で表される化合物から前記式(e)で表される化合物を製造する工程、及び前記式(e)で表される化合物から前記式(f)で表される化合物を製造する方法。
(13)前記式(j)で表される化合物と、前記式(f)で表される化合物とを反応させて、前記式(k)で表される化合物を製造する工程、次いで、前記式(k)で表される化合物から前記式(l)で表されるエステル化合物を製造する工程、得られた式(l)で表されるエステル化合物から式(1)で表される重水素化化合物を製造する方法。
【発明の効果】
【0042】
本発明の製造方法は、水素雰囲気下にて重水中で白金炭素を触媒に用いた重水素化反応を溶媒の沸点以下で繰り返し行うことにより、緩和な条件かつ高い重水素化率で芳香環部分が重水素化された2−アミノフェノールの標識体を製造するものであり、さらに別の重水素化された部分構造を一つの構造に組み込むことにより、非標識体の混在をさらに低減させた(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1)の製造を可能にした。本発明の(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1)は、非標識体である[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1A)の水素原子を重水素に置換した共通の骨格を持つため、類似の性質を持ち、非標識体と分子量が離れていること、更に非標識体の混在が少ないことにより、LC/MS/MS法において非標識体と完全に分離でき、これを内部標準物質とすることにより正確かつ効率的な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸は下式(1)に示す構造式を持つ化合物である。
【0044】
式(l)で表されるエステル化合物におけるRは、カルボン酸の保護基を示す。保護基としては、例えばメチル基、エチル基、n−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基やベンジル基等のアラルキル基等の他、Protective Groups in Organic Synthesis Fourth Editon, John Wiley&Sons, Inc.等に記載されているカルボン酸の保護基を挙げることができる。
【0045】
【化30】

【0046】
以下、(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法を各反応工程について説明する。
【0047】
製造中間体であるN−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(f)は次に示す反応経路の工程−1〜4の4工程を経て製造することができる。
【0048】
【化31】

【0049】
[工程−1]
化合物(a)と化合物(b)を重メタノールと硫酸、塩酸、燐酸、硝酸等の鉱酸、又はメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸等の有機酸の存在下に、0〜50℃、好ましくは20〜30℃で、0.5〜48時間、好ましくは5〜20時間反応させ4−メトキシフェノール−d(c)を得る。好ましくは硫酸を酸に用い、10℃〜50℃で、1〜36時間反応させればよく、より好ましくは硫酸を酸に用い、20〜30℃で、5〜20時間反応させればよい。
なお、化合物(a)及び化合物(b)、並びに重メタノールは、市販品の重水素化物を使用することもできる。重水素化率が98%以上の重水素化化合物が市販されており、市販品の重水素化化合物を使用する場合には、重水素化率が95%以上、好ましくは98%以上のものが好ましい。
【0050】
[工程−2]
化合物(c)とアクリロニトリルとを、トリトンB、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基、又は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基の存在下に、0〜150℃、好ましくは50〜100℃で、1〜96時間、好ましくは10〜60時間反応させ、3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピオニトリル(d)を得る。好ましくは、トリトンB、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基の存在下、20〜120℃で5〜72時間反応させればよく、より好ましくはトリトンBの存在下に、50〜100℃で、10〜60時間反応させればよい。
【0051】
[工程−3]
化合物(d)をテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン等の溶媒中、0〜120℃、好ましくは10〜110℃にてボラン・テトラヒドロフラン錯体、ボラン・ジメチルスルフィド錯体、ボラン・ピリジン錯体、水素化リチウムアルミニウム等を用いて0.5〜36時間還元するか、水素雰囲気下又はアンモニア存在下、0〜100℃にてラネーニッケル、酸化白金等の触媒を用いて0.5〜36時間、還元し、3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピルアミン(e)を得る。好ましくは、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル中、10〜110℃で、ボラン・テトラヒドロフラン錯体、ボラン・ジメチルスルフィド錯体、ボラン・ピリジン錯体を用いて0.5〜24時間反応させればよく、より好ましくは、25〜100℃にてボラン・テトラヒドロフラン錯体を用いて、1〜12時間反応させればよい。
【0052】
[工程−4]
化合物(e)をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン等の溶媒中で3−ヒドロキシベンズアルデヒドと0〜120℃、好ましくは10〜100℃にて0.5〜60時間、好ましくは0.5〜48時間反応させて、好ましくは得られた中間体を単離すること無く、次いで、水素化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム等の還元剤を用いて0〜100℃、好ましくは10〜50℃にて0.5〜48時間、好ましくは1〜24時間還元反応するか、あるいは水素雰囲気下又はアンモニア存在下、0〜100℃にてパラジウム炭素、白金炭素、ラネーニッケル、酸化白金等の触媒を用いて0.5〜36時間還元して、N−(3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル)−3−ヒドロキシベンジルアミン(f)を製造することができる。好ましくは、化合物(e)をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトノトリル等の溶媒中で3−ヒドロキシベンズアルデヒドと0〜100℃にて0.5〜48時間反応させ、次いで水素化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムを用いて0〜100℃にて0.5〜48時間反応させればよく、より好ましくは、メタノール中で3−ヒドロキシベンズアルデヒドと10〜80℃にて1〜24時間反応させて、次いで、水素化ホウ素ナトリウムを用いて10〜50℃にて0.5〜24時間反応させればよい。
【0053】
製造中間体である2−クロロベンズオキサゾール−d(j)は、次に示す反応経路の工程−5〜7の3工程を経て製造することができる。
【0054】
【化32】

【0055】
[工程−5]
2−アミノフェノール(g)を重水、重メタノール、重エタノール、重塩化水素水、などの重水素化溶媒に加え、パラジウム炭素、白金炭素、ロジウム炭素、酸化白金などの金属触媒存在下、水素雰囲気下又はギ酸存在下にて10℃〜溶媒の沸点で、0.5〜72時間反応させる。この操作を2回以上、好ましくは2回〜10回繰り返し行うことより、高度に重水素化された2−アミノフェノール−d(h)を得ることができる。好ましくは、重水、重メタノール、重エタノール中、パラジウム炭素又は白金炭素存在下、水素雰囲気下にて50℃〜溶媒の沸点で、1〜36時間反応させ、この操作を2回以上、好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上繰り返し行えばよく、さらに好ましくは、重水中、白金炭素存在下、水素雰囲気下にて80〜102℃(重水の沸点)で、1〜30時間反応させ、この操作を3回から6回繰り返し行うことで高度に重水素化された2−アミノフェノール−d(h)を得ることができる。
【0056】
[工程−6]
化合物(h)と、キサントゲン酸カリウム、チオカルボニルジイミダゾール又は二硫化炭素をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中で0〜150℃、好ましくは20〜120℃にて0.5〜48時間、好ましくは1〜36時間反応させ2−メルカプトベンズオキサゾール−d(i)を得る。好ましくは、キサントゲン酸カリウム又はチオカルボニルジイミダゾールをメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール中で20〜120℃にて1〜36時間反応させればよく、さらに好ましくは、キサントゲン酸カリウムをエタノール中で50〜100℃にて1〜24時間反応させればよい。
【0057】
[工程−7]
化合物(i)とオキシ塩化リン、五塩化リン、三塩化リン、塩化チオニルなどの塩素化剤とを−30〜100℃、好ましくは−20〜80℃で反応させ、必要であればトルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム、塩化メチレンなどの溶媒を用い、0.5〜36時間、好ましくは0.5〜24時間反応することにより、2−クロロベンズオキサゾール−d(j)を製造することができる。好ましくは、塩化チオニルと、N,N−ジメチルホルムアミドを用い、−10〜60℃で0.5〜12時間反応すればよい。
【0058】
次に示す反応経路により、本発明化合物(1)は、化合物(f)と化合物(j)から、工程−8〜10の3工程を経て製造することができる。
【0059】
【化33】

[式中、Rはカルボン酸の保護基を示す。]
【0060】
[工程−8]
N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(f)と2−クロロベンズオキサゾール−d(j)をN,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル等の溶媒中で、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の無機塩基やトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基の存在下、0〜150℃で0.5〜48時間反応させることにより、N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−(3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル)−3−ヒドロキシベンジルアミン(k)を得る。好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド又はアセトニトリル中で、トリエチルアミン又はN,N−ジイソプロピルエチルアミンの存在下、10〜120℃で1〜36時間反応させればよく、さらに好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド中で、N,N−ジイソプロピルエチルアミンの存在下、20〜100℃で1〜24時間反応させればよい。
【0061】
[工程−9]
化合物(k)とメタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などの脱離基をα位に有する酪酸誘導体とを、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の無機塩基やトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ルチジン等の有機塩基の存在下、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル等の溶媒中で−10〜100℃で0.5〜48時間反応させるか、光延反応の条件下で化合物(k)と2−ヒドロキシ酪酸誘導体とを反応させることにより、化合物(l)を得ることができる。好ましくは化合物(k)とメタンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などの脱離基をα位に有する酪酸誘導体とを炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムやトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンの存在下、アセトニトリル、クロロホルム又はテトラヒドロフラン中で、0〜80℃で0.5〜36時間反応させればよく、さらに好ましくは、トリフルオロメタンスルホニル基などの脱離基をα位に有する酪酸誘導体を炭酸カリウム存在下、アセトニトリル中で、10〜60℃で0.5〜24時間反応させればよい。
【0062】
[工程−10]
化合物(l)のエステル部位の加水分解により、本発明化合物である(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸を製造することができる。反応条件としてはエステルの加水分解反応に用いられる反応条件のいずれもが適用でき、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基;塩酸、硫酸、臭化水素酸等の鉱酸;あるいはp−トルエンスルホン酸等の有機酸等の存在下、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸等の溶媒又はこれらの混合溶媒中で行われる。好ましくは、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン中で水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はその水溶液と0〜100℃で0.5〜24時間反応させればよく。さらに好ましくは、メタノール、エタノール中で水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はその水溶液と10〜80℃で0.5〜12時間反応させればよい。
【0063】
なお、本発明の各反応における目的物の単離は、必要に応じて、有機合成化学で常用される精製法、例えば濾過、洗浄、乾燥、再結晶、各種クロマトグラフィー等により行えばよい。
【0064】
以下に実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0065】
(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物1)の製造
[1]2−アミノフェノール−d(化合物h)の製造
【0066】
【化34】

【0067】
2−アミノフェノール(10g)に重水(70mL)を加え、アルゴン雰囲気下、室温にて5%白金炭素(2.0g)を加えた。次に水素置換し、100℃にて一晩中撹拌した。24時間撹拌後、反応液を室温に戻し、分液ロートに移した。酢酸エチルを加え激しく振とう後、セライトろ過した。有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥した。これを濾過し、減圧濃縮して赤褐色の粗体を得た(8.77g)。上記の操作をさらに4回繰り返し行った(5.57g)。
13C−NMR (68MHz,DMSO−d)δ 136.41, 143.90.
(非標識部位由来のピーク; 113.71-114.29, 118.63-119.48)
IR(ATR,solid sample) 3376, 3351, 3328, 3305, 1578, 1438, 1300cm−1
MS(EI); M=113
【0068】
重水素化率は2−アセトアミノ−1−アセトキシベンゼン−dに誘導後、非標識部位のアセチル基の積分値と比較して算出した。以下に、上記反応操作を繰り返し行った際に得られた2−アミノフェノール−dの重水素化率を示す。本反応は単回では満足できる重水素化率ではないが、3回繰り返した時点で重水素化率97%に到達し、5回繰り返した時点で98%に到達した。
1回目の重水素化率、86%
2回目の重水素化率、91%
3回目の重水素化率、97%
4回目の重水素化率、97%
5回目の重水素化率、98%
[2]2−アセトアミノ−1−アセトキシベンゼン−dの製造
【0069】
【化35】

【0070】
得られた2−アミノフェノール−dの重水素化率を確認する為、アセチル化を行った。2−アミノフェノール−d(295mg)を酢酸エチル(10mL)に溶解し、氷冷下にてトリエチルアミン(527mg)を加えた。次に、同温にて塩化アセチル(409mg)を加え、室温にて撹拌した。1時間後、酢酸エチルを加え、水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣を分取薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/酢酸エチル=1/2)で精製し、黄色結晶を得た(131mg,26%)。
重水素化反応を5回繰り返して得られた2−アミノフェノール−dの2−アセトアミノ−1−アセトキシベンゼン−dを得た。
H−NMR(400MHz,CDOD)δ 2.13 (s, 3H),2.30 (s, 3H).
非標識部位由来のピーク : 7.12, 7.18, 7.21 (0.07H), 7.74 (0.02H).
重水素化率、98%
mp 123−124℃
[3]4−メトキシフェノール−d(化合物c)の製造
【0071】
【化36】

【0072】
室温にてハイドロキノン−d(98atom%D、4.48g)とベンゾキノン−d(98atom%D、325mg)をメタノール−d(99.8atom%D、25.0mL)に溶解し、同温にて硫酸(4.80g)を5分間で加えて攪拌した。14時間後、反応液を氷中に注ぎ、氷冷下、4M水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加え、約pH9とし、次に硫酸で約pH5にした。反応液に食塩を加え、ジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、淡黄色結晶を得た(4.83g,89%)。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ 4.87 (s,1H).
(非標識部位由来のピーク; 3.72, 3.74, 3.76 (0.06H), 6.76, 6.79 (0.20H))
重水素化率、96.3%
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ 149.98, 153.61.
(非標識部位由来のピーク; 114.50-115.85)
IR(ATR,solid sample) 3381, 2521, 2262, 2069, 1419, 1141, 1112cm−1
MS(EI); M=131
mp 56−57℃
[4]3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピオニトリル(化合物d)の製造
【0073】
【化37】

【0074】
4−メトキシフェノール−d(4.28g)を室温にてアクリロニトリル(3.50g)に溶解し、アルゴン雰囲気下、同温にてトリトンB(0.30mL)を加えた後、80℃にて攪拌した。22時間攪拌後、反応液を室温に戻し、減圧濃縮した。酢酸エチルを加え、1M水酸化ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水の順に洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。減圧乾燥後、淡赤褐色の粗結晶を得た(4.51g)。淡赤褐色粗結晶を全量用いて酢酸エチル(15.0mL)に80℃で溶解し、ヘキサン(30.0mL)を加えた後、室温にて撹拌した。結晶が生じた後、更にヘキサン(50.0mL)を加え、同温にて一晩中撹拌した。結晶をろ取し、ヘキサンで洗浄した。得られた結晶を減圧乾燥して無色針状晶を得た(3.87g,64%)。
H−NMR (400MHz,CDCl) δ
2.79 (t, J= 6.4Hz, 2H),4.13 (t, J= 6.4Hz, 2H).
(非標識部位由来のピーク ; 3.74 (0.01H), 6.84, 6.86 (0.06H))
重水素化率、99%
13C−NMR(100 MHz,CDCl) δ
18.61, 63.45, 117.25, 151.57, 154.48.
(標識部位由来のピーク; 114.14-115.90)
IR (ATR, solid sample) 2930, 2886, 2255, 2219, 2069, 1446, 1420cm−1
MS(EI) M=184
mp 65−66℃
[5]3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピルアミン(化合物e)の製造
【0075】
【化38】

【0076】
アルゴン雰囲気下、3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピオニトリル(3.82g)をテトラヒドロフラン(20.0mL)に溶解し、室温にて1.17Mボラン・テトラヒドロフラン錯体(21.3mL)を10分間かけて滴下した。次に80℃にて3時間撹拌した。反応液を室温に戻し、氷冷下にてメタノール(50.0mL)を少量ずつ加えた。再び、80℃に加熱し30分間撹拌後、反応液を減圧濃縮した。メタノール(50.0mL)と4M塩酸を加え、80℃にて一晩中撹拌した。14時間後、反応液を室温に戻し、減圧濃縮した。水に溶解し、ジエチルエーテルで洗浄し、水層を4M水酸化ナトリウムでアルカリ性にした。酢酸エチルで2回抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、減圧乾燥して無色固体を得た(2.87g,73%)。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ
1.33 (brs, 2H), 1.90 (quintet, J= 6.6 Hz, 2H), 2.90 (t, J= 6.1 Hz, 2H),
4.00 (t, J= 6.1 Hz, 2H).
(非標識部位由来のピーク; 6.82, 6.83, 0.07H)
13C−NMR (100 MHz,CDCl) δ
33.21, 39.33, 66.49, 153.02, 153.69.
(標識部位由来のピーク; 114.22-115.23).
IR (ATR,solid sample) 2937, 2872, 2216, 2070, 1600, 1426, 1378cm−1
MS(EI) M=188
mp 39−40℃
[6]N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(化合物f)の製造
【0077】
【化39】

【0078】
3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピルアミン(1.88g)と3−ヒドロキシベンズアルデヒド(1.22g)をメタノール(25.0mL)に溶解し、60℃にて3時間撹拌した。反応液を室温に戻し、氷冷下にて水素化ホウ素ナトリウム(567mg)−水(10.0mL)懸濁液を5分間で加えた。反応液を室温に戻し、一晩中撹拌した。水を加え、生じた結晶をろ取した。結晶を水で洗浄し、得られた無色粉末を減圧乾燥した(2.66g,90%)。
H−NMR(400MHz,DMSO−d) δ
1.82 (quintet, J= 6.8 Hz, 2H), 2.60 (t, J= 6.8 Hz, 2H), 3.60 (s, 2H),
3.94 (t, J= 6.4 Hz, 2H), 6.59 (dd, J= 8.0, 2.2 Hz, 1H),
6.72 (d, J= 7.6 Hz, 1H), 6.74 (s, 1H), 7.07 (t, J= 7.6 Hz, 1H), 9.24 (s, 1H). (非標識部位由来のピーク; 6.83)
13C−NMR(100MHz,CDCl) δ
29.33, 45.50, 53.08, 66.37, 113.38, 114.72, 118.44, 128.92, 142.51,
152.57, 153.10, 157.26.
(標識部位由来のピーク; 54.08, 54.23, 54.43, 54.67, 54.89, 113.91,114.15,
114.40, 114.66, 114.89, 115.14, 115.20).
IR(ATR,solid sample) 3275, 1580, 1480, 1431, 1390, 1156, 1109cm−1
MS(EI) M=294
mp 142−143℃
[7]2−メルカプトベンズオキサゾール−d(化合物i)の製造
【0079】
【化40】

【0080】
2−アミノフェノール−d(5.15g、重水素化率98%)とキサントゲン酸カリウム(8.03g)をエタノール(100mL)に懸濁し、100℃にて撹拌した。5時間、反応液を室温に戻し、減圧濃縮した。水を加え、4M塩酸でpH1とした後、酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水の順に洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去し、赤褐色の粗体を得た。赤褐色の粗体を酢酸エチル−ヘキサンより再結晶し、減圧乾燥して赤褐色粉末状結晶を得た(2.94g,41.7%)。ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)で精製し、赤褐色粉末状結晶を得た(933mg,13%,合計3.87g)。
H−NMR(400MHz,CDOD) δ 4.91 (brs, 1H).
(非標識部位由来のピーク; 7.19, 7.24, 7.27, 7.35)
13C−NMR(100MHz,CDOD) δ 132.59, 150.09, 182.86
(標識部位由来のピーク; 110.83-111.21, 124.47-126.06)
IR(ATR,solid sample) 3341, 1599, 1476, 1368, 1327, 1112, 932cm−1
MS(EI) M=155
mp 186−189℃
[8]2−クロロベンズオキサゾール−d(化合物j)の製造
【0081】
【化41】

【0082】
氷冷下、塩化チオニル(4.00mL)に2−メルカプトベンズオキサゾール−d(2.00g)を懸濁し、アルゴン雰囲気下にてN,N−ジメチルホルムアミド(940mg)を5分間で滴下した。同温にて2時間撹拌した後、反応液を減圧濃縮した。酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水の順に洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、黄色油状物を得た(999mg,49%)。
13C−NMR(68MHz,CDCl) δ 143.73, 150.78, 151.39.
(標識部位由来のピーク; 109.50-110.25, 118.77-119.51, 123.60-125.21)
IR(ATR,neat) 1783, 1584, 1523, 1436, 1370, 1208, 1113cm−1
MS(EI); M=157, M+2=159
【0083】
[9]N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(化合物k)の製造
【0084】
【化42】

【0085】
N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(1.87g)をN,N−ジメチルホルムアミド(10.0mL)に溶解し、室温にてN,N−ジイソプロピルエチルアミン(983mg)を加え撹拌した。次に同温にて2−クロロベンズオキサゾール−d(999mg)を加え、N,N−ジメチルホルムアミド(5.00mL)で洗い込み、アルゴン雰囲気下80℃にて一晩中撹拌した。15時間撹拌後、室温に戻し放置した。反応液に酢酸エチルを加え、飽和食塩水で2回洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン/酢酸エチル=5/1→2/1)で精製し、赤褐色アモルファスを得た(2.19g,83%)。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ
2.03 (quintet, J= 6.8 Hz, 2H), 3.45 (t, J= 6.8 Hz, 2H),
3.89 (t, J= 5.6 Hz, 2H), 4.65 (s, 2H), 6.70-6.73 (m, 2H), 6.75 (s, 1H),
7.14 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 8.75 (s, 1H).
13C−NMR(68 MHz,CDCl) δ
27.62, 45.01, 52.07, 65.32, 113.12, 115.33, 118.77, 129.79, 137.60,
141.40, 148.07, 152.61, 153.77, 157.82, 162.28.
IR(ATR,solid sample) 2941, 1633, 1567, 1424, 1393, 1153, 1111cm−1
MS(EI); M=415
mp 95−96℃
【0086】
[10](R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸n−ブチル(化合物lのRがn−ブチルの化合物)の製造
【0087】
【化43】

【0088】
N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(2.16g)をアセトニトリル(30.0mL)に溶解し、室温にて炭酸カリウム(1.08g)を加えた。次に室温にてn−ブチル(S)−トリフルオロメタンスルホニルオキシ酪酸(1.32g)を加えてアセトニトリル(10.0mL)で洗い込み、同温にて一晩中撹拌した。19時間撹拌後、反応液を減圧濃縮し、酢酸エチルを加え、水、飽和食塩水の順に洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、赤褐色油状物を得えた(2.82g,97%)。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ
0.85 (t, J= 7.3 Hz, 3H), 1.05 (t, J= 7.3 Hz, 3H), 1.22-1.28 (m, 2H),
1.49-1.55 (m, 2H), 1.96 (quintet, J= 6.4 Hz, 2H),
2.14 (quintet, J= 6.8 Hz, 2H), 3.70 (t, J= 7.1 Hz, 2H),
3.96 (t, J= 5.9 Hz, 2H), 4.00-4.14 (m, 2H), 4.53 (t, J= 6.3 Hz, 1H),
4.72 (d, J= 15.9 Hz, 1H), 4.77 (d, J= 15.6 Hz, 1H),
6.76 (dd, J= 8.0, 2.2 Hz,1H), 6.86 (s, 1H), 6.89 (d, J= 7.6Hz, 1H),
7.21 (t, J= 8.0 Hz, 1H).
13C−NMR (68MHz,CDCl) δ
9.67, 13.59, 18.92, 26.17, 27.51, 30.48, 45.11, 52.06, 64.96, 65.50,
77.60, 113.73, 114.66, 120.68, 129.82, 138.67, 143.41, 148.56, 152.69,
153.76, 158.31, 162.15, 171.67.
(非標識部位由来のピーク; 55.19, 108.64, 113.86, 114.24, 115.37,
115.78, 116.02, 119.88, 120.15, 120.68, 123.44, 123.72)
IR (ATR, neat) 2960, 2067, 1751, 1633, 1563, 1425, 1154cm−1
MS(EI) M=557
旋光度 [α]20 +19.1 (c0.89,CHCl
【0089】
[11](R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−(3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル)アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物1)の製造
【0090】
【化44】

【0091】
(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−(3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル)アミノメチル]フェノキシ]酪酸n−ブチル(2.70g)をエタノール(20.0mL)に溶解し、氷冷下にて4M水酸化ナトリウム水溶液(2.40mL)を加え、室温にて1時間撹拌した。氷冷下、反応液に水を加え、撹拌しながら4M塩酸を加えてpH1とした。酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水の順に洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=1/0→50/1→10/1)で精製し、淡黄色アモルファスを得た(2.10g,87%)。これを酢酸エチルとヘキサンに80℃にて溶解撹拌し、室温に戻した。結晶析出後、さらにヘキサンを加え、5時間撹拌し、結晶を濾取して無色粉末状結晶を得た(1.74g,72%)。
H−NMR(400MHz,DMSO−d) δ
0.96 (t, J= 7.6 Hz, 3H), 1.79-1.89 (m, 2H),2.06 (quintet, J= 6.8 Hz, 2H),
3.65 (t, J= 6.8 Hz, 2H), 3.94 (t, J= 6.1 Hz, 2H), 4.60 (t, J= 6.6 Hz, 1H),
4.72 (s, 2H),6.78 (dd, J= 8.3, 2.4 Hz,1H), 6.86 (s, 1H),
6.89 (d, J= 7.8 Hz, 1H), 7.25 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 13.1 (brs, 1H).
13C−NMR(100MHz,DMSO−d) δ
9.53, 25.42, 27.12, 45.29, 51.27, 65.47, 76.43, 113.30, 114.13, 119.77,
129.76, 139.02, 143.19, 148.43, 152.31, 153.25, 158.04, 162.24, 172.46 . (非標識部位由来のピーク; 113.91, 114.82, 115.04, 115.21, 115.45)
IR (ATR,solid sample) 2959, 2939, 2887, 1716, 1628, 1426, 1377cm−1
mp 95−96℃
MS(FAB) M+1=502
旋光度 [α]24 +17.1 (c0.67,MeOH)
【実施例2】
【0092】
(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−(3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル)アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物1B)の製造
【0093】
[1]N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミンの合成
【0094】
【化45】

【0095】
N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(6.22g)をN,N−ジメチルホルムアミドに加え、次にN,N−ジイソプロピルエチルアミン(2.73g)を加えてアルゴン雰囲気下、80℃にて溶解した。さらに、同温にて2−クロロベンズオキサゾール(3.24g)を加え、14時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、酢酸エチルを加えて有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製し、黄色油状物を得た。これをtert−ブチルメチルエーテルに溶解し、室温にて放置した。析出結晶を濾取し、無色結晶を得た(7.56g、87%)
H−NMR(400MHz,DMSO−d) δ
2.06 (quintet, J= 6.5 Hz,2H), 3.65 (t, J= 7.0Hz, 2H),
3.94 (t, J= 6.0 Hz, 2H), 4.70 (s, 2H), 6.70 (dd, J= 9.0, 1.7 Hz, 1H),
6.69-6.76 (m, 2H), , 7.00 (td, J= 7.7, 1.0 Hz,1H), 7.15 (t, J= 7.8 Hz, 2H),
7.30 (d, J= 7.4Hz, 1H), 7.36 (d, J= 8.0 Hz, 1H), 9.43 (s, 1H).
(非標識部位由来のピーク; 6.83, 6.85)
13C−NMR(100MHz,DMSO−d) δ
27.13, 45.22, 51.31, 65.50, 108.81, 113.92, 114.42, 115.59, 117.90,
120.13, 123.88, 129.64, 138.73, 143.31, 148.46, 152.30, 153.27, 157.63,
162.26
(非標識部位由来のピーク; 114.07, 114.16, 114.29, 114.80, 114.82, 115.04,
115.28, 115.34 )
IR(ATR,solid sample) 2937, 1638, 1600, 1582, 1459, 1424, 1394 cm−1
mp 100−101℃
MS(EI) M=411
【0096】
[2](R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸ベンジル(化合物lのRがベンジルの化合物)の製造
【0097】
【化46】

【0098】
N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン(4.59g)をアセトニトリルに懸濁後、70℃で加温溶解した。次に室温に戻し、炭酸カリウム(2.31g)を加え、さらにベンジル(S)−トリフルオロメタンスルホニルオキシ酪酸(4.00g)を加えて、室温にて撹拌した。11時間撹拌後、反応液を減圧濃縮した。反応液に酢酸エチルを加え、水、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、無色油状物を得た(6.97g、100%)。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ
1.02 (t, J= 7.3 Hz, 3H), 1.96 (quintet, J= 7.1 Hz, 2H),
2.13 (quintet, J= 6.5 Hz, 2H), 3.68 (t, J= 7.1 Hz, 2H),
3.95 (t, J= 5.9 Hz, 2H), 4.57 (t, J= 6.2 Hz, 1H),
4.69 (d, J= 15.9 Hz, 1H), 4.74 (d, J= 15.9 Hz, 1H),
5.06 (d, J= 12.2 Hz, 1H), 5.15 (d, J= 12.2 Hz, 1H),
6.74 (dd, J= 8.1, 2.4 Hz, 1H), 6.84 (s, 1H), 6.89 (d, J= 7.6 Hz, 1H),
7.00 (d, J= 7.8 Hz, 1H), 7.14-7.30 (m, 8H), 7.37 (d, J= 7.8 Hz, 1H).
13C−NMR (100MHz,CDCl)δ
9.52, 26.03, 27.27, 45.12, 52.00, 65.47, 66.64, 77.48, 108.69, 113.83,
114.61, 116.10, 120.32, 120.66, 123.88, 128.15, 128.27, 128.45, 129.78,
135.30, 138.65, 143.43, 148.85, 152.63, 153.72, 158.17, 162.56, 171.30.
(非標識部位由来のピーク;113.94, 114.19, 114.23, 114.75, 114.98, 115.23,
115.28 )
IR(ATR,neat) 2938, 1752, 1638, 1459, 1578, 1425, 1153cm−1
MS(EI) M=587
旋光度 [α]20 +16.4(c1.00,CHCl
【0099】
[3](R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物1B)の製造
【0100】
【化47】

【0101】
(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸ベンジル(6.30g)をエタノールに溶解した。氷水中にて4N水酸化ナトリウム水溶液を加えて室温にて撹拌した。2時間後、反応液をジエチルエーテルで洗浄した。水層を氷水で冷却し、濃塩酸を用いて約pH1とした後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=1/0→10/1)で精製した。減圧濃縮後、室温にて1時間減圧乾燥し、白色アモルファスを得た(5.11g、95.8%)。これを酢酸エチルに溶解し、70℃で加温下、ヘキサンを加え室温に戻し5時間撹拌した。析出結晶を濾取し、無色針状晶を得た(4.55g、85%)
H−NMR(400MHz,DMSO−d) δ
0.98 (t, J= 7.3 Hz, 3H), 1.83-1.92 (m, 2H), 2.07 (quintet, J= 6.5 Hz, 2H),
3.67 (t, J= 7.1 Hz, 2H), 3.95 (t, J= 6.0 Hz, 2H), 4.64 (t, J=6.0 Hz, 1H),
4.74 (s, 2H), 6.80 (dd, 8.0,2.0 Hz, 1H), 6.90 (s, 1H),
6.91 (d, J= 8.2 Hz, 1H), 7.00 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 7.15 (t, J= 7.7 Hz, 1H),
7.26 (t, J= 7.8 Hz, 1H), 7.31 (d, J= 7.8 Hz, 1H), 7.36 (d, J= 7.8 Hz, 1H),
13.1 (brs, 1H).
13C−NMR(100MHz,DMSO−d)δ
9.46, 25.41, 27.14, 31.26, 45.29, 51.30, 65.49, 76.41, 108.85, 113.36,
114.17, 115.67, 119.85, 120.18, 123.89, 129.74, 139.01, 143.29, 148.51,
152.34, 153.29, 158.04, 162.25, 172.39.
(非標識部位由来のピーク; 53.99, 54.22, 54.45, 54.66, 54.90, 113.93,
113.96, 114.43, 114.46, 114.79, 114.81, 115.05, 115.28, 115.35)
IR(ATR,solid sample) 2967, 2935, 1725, 1635, 1584, 1426, 1382cm−1
融点; 91−93℃
MS(FAB); M+1=498
旋光度 [α]24 +16.5 (c0.62,MeOH)
【実施例3】
【0102】
LC/MS/MS法によるd11標準物質とd標準物質の比較
1)測定
内部標準物質(d11体(1)又はd体(1B))の50%メタノール水溶液(250ng/mL,25μL)を、HPLCにより分離し、MS/MSにて測定を行った。
2)測定機器
上述のサンプルをLC/MS/MSを用いて分析した。使用した機器は以下の通りである。
LC(液体クロマトグラフィー):「Agilent 1100シリーズ」
MS/MS:「Applied Biosystems API4000」
カラムは40℃に保温したSymmetry C18(5μm, 2.1mm I.D.×150mm)逆相カラムを用いた。LCの移動相は0.1%ギ酸及びメタノールを20:80の割合とした。流速は0.2mL/minとした。
非標識体(1A)、d体(1B)及びd11体(1)をイオン化するには、大気圧イオン化法で、一般的なESI(Electron Spray ionization)で表1に示す条件にて測定を行った。
【0103】
【表1】

【0104】
3)結果
図1a、図1bにd11体(1)及びd体(1B)とこれら標識体に含まれる非標識体のMS/MSクロマトグラムを重ね合わせたものを示した。図1より、製造した重水素体中に非標識体の混在が少ないことがわかる。さらに拡大図を見ると、d11体(1)はd体(1B)と比較して明らかに非標識体の著しい減少が認められた。MS/MSクロマトグラムにおけるピーク面積の測定結果と残存する非標識体の比率を算出すると、d体(1B)に検出された非標識体とのピーク面積比は0.19であるのに対し、d11体(1)の場合ではピーク面積比は0.02であり、測定誤差の原因となる非標識体の混在が少ないことが示された。
なお、図1はMS/MSクロマトグラムであり、図1a)はd11体(1)、図1b)はd体(1B)、それぞれの下段はそれを100倍に拡大したものである。
【実施例4】
【0105】
LC/MS/MS法による標準物質の測定
1)測定
ラット血漿中の(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(1A)を定量するために、検量線を作成し、その直線性を確認した。プロピレングリコールのエタノール溶液(2%溶液、250μL)及び非標識体(1A)メタノール溶液(0.02,0.04,0.1,0.2,0.4,1,2,4ng/tube)をガラスチューブに添加し、溶媒を留去した。残留物にラット血漿100μLを添加した。100μLのd11体(1)水溶液(2.5ng/mL)及び0.1%酢酸900μLを添加してボルテックスでよく攪拌した。tert−ブチルメチルエーテルを5mL添加し、10分間振とうした。3,000rpmで10分間遠心分離後、有機層3mLを別のガラスチューブに移した。プロピレングリコールのエタノール溶液(2%溶液、250μL)を添加した後、溶媒を留去した。残渣に50%メタノール水溶液を150μL加えて溶解し、測定用サンプルとした。
2)測定機器
LC/MS/MSによる分析は実施例3と同一機器、同一条件で行った。
3)結果
異なった濃度の非標識体(1A)を含むサンプルを上述のLC/MS/MSの条件下で分析した。結果を図2に示す。その結果、d11体(1)に対する非標識体(1A)のピーク面積比をy軸に、添加濃度比をx軸に取り、図3に示す検量線を作成した。検量線の相関係数は0.9999と良好であり、各々のポイントの真度(測定濃度/理論濃度×100)も97.4〜102%と良好であった。結果を次の表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
以上より、この検量線を用いて非標識体(1A)のラット血漿中濃度を信頼性高く測定できることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、糖尿病合併症、炎症、心疾患等に有用と考えられるPPARαを選択的に活性化する化合物の生体内での動態を測定するための標準物質として有用な化合物及びその製造を提供するものであり、本発明の方法で製造された化合物を用いることにより、薬物の生体内での活性や代謝を正確に把握することが可能となる。したがって、本発明は、医薬品の開発や副作用の低減などに有用となり産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、d11体(1)及びd体(1B)とこれら標識体に含まれる非標識体のMS/MSクロマトグラムを重ね合わせたものである。図1aはd11体(1)のMS/MSクロマトグラムであり、図1bはd体(1B)のMS/MSクロマトグラムである。図1の下段は、非標識体の存在が確認できるための拡大図を示す。
【図2】図2は、血中濃度(0.2ng/ml)の非標識体(1A)を含むラット血漿サンプルを分析したときのMS/MSクロマトグラムである。
【図3】図3は、異なった濃度の非標識体(1A)を含むサンプルをLC/MS/MSの条件下で測定した結果得られた検量線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1):
【化1】

で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、次式(g):
【化2】

で表される化合物を金属触媒の存在下、重水素化溶媒中で溶媒の沸点以下の温度で反応させて重水素化する工程、さらに当該重水素化工程を2回以上繰り返し行うことより、次式(h):
【化3】

で表される重水素化化合物を製造する工程を含む製造方法。
【請求項2】
重水素化溶媒が、重水である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属触媒が、パラジウム炭素又は白金炭素である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(h)で表される重水素化化合物の重水素化率が98%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
式(h)で表される重水素化化合物を環化させて次式(i):
【化4】

で表される化合物を製造し、次いで得られた式(i)で表される化合物から次式(j):
【化5】

で表される化合物を製造する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、次式(a):
【化6】

で表される化合物と次式(b):
【化7】

で表される化合物とを、重メタノール中で反応させて、式(c):
【化8】

で表される化合物を製造する工程、次いで、得られた式(c)で表される化合物から次式(d):
【化9】

で表される化合物を製造する工程、得られた式(d)で表される化合物から次式(e):
【化10】

で表される化合物を製造する工程、式(e)で表される化合物から次式(f):
【化11】

で表される化合物を製造する工程を含む、製造方法。
【請求項7】
式(1)で表される(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸の製造方法であって、次式(j)
【化12】

で表される化合物と、次式(f)
【化13】

で表される化合物とを反応させて、次式(k):
【化14】

で表される化合物を製造する工程、次いで、式(k)で表される化合物から次式(l):
【化15】

[式中、Rはカルボキシル基の保護基を示す。]
で表されるエステル化合物を製造する工程、得られた式(l)で表されるエステル化合物から式(1)で表される重水素化化合物を製造する工程を含む、製造方法。
【請求項8】
(R)−2−[3−[N−(ベンズオキサゾール−d−2−イル)−N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸。
【請求項9】
3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピオニトリル。
【請求項10】
3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピルアミン。
【請求項11】
N−[3−(4−メトキシフェノキシ−d)プロピル]−3−ヒドロキシベンジルアミン。
【請求項12】
2−メルカプトベンズオキサゾール−d
【請求項13】
2−クロロベンズオキサゾール−d

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−6767(P2010−6767A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169532(P2008−169532)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】