説明

高純度銀インゴットの製造方法

【課題】鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を加熱溶融して銀インゴットを製造する際に、銀粉の1回の溶融処理で銀インゴット中の鉛、テルル及びセレンの含有量のそれぞれを10ppm以下、望ましくは1ppm以下にまで安定的に低減した高純度銀インゴットを製造する方法を提供する。
【解決手段】鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を、酸化性雰囲気下、下記(イ)又は(ロ)のやり方で、リン酸カルシウムの共存下に加熱熔融し、不純物元素を除去した後、得られた熔融銀を鋳型に鋳造することを特徴とする。
(イ)前記銀粉にリン酸カルシウムを添加し、その後坩堝中で加熱熔融する。
(ロ)前記銀粉を坩堝中で加熱熔融した後、リン酸カルシウムを添加し、さらに加熱熔融する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度銀インゴット(鋳塊)の製造方法に関し、さらに詳しくは、鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を加熱溶融して銀インゴットを製造する際に、銀粉の1回の溶融処理で銀インゴット中の鉛、テルル及びセレンの含有量のそれぞれを10ppm以下、望ましくは1ppm以下にまで安定的に低減し、また、必要に応じて、同時にさらに表面状態及び加工性が優れた高純度銀インゴットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高純度銀インゴットとしては、純度99.999%以上(不純物元素含有量<10ppm)のものが製造されている。銀インゴットの鋳造工程では、例えば、原料である銀粉を黒鉛製坩堝に入れて加熱熔融し、熔融面をバーナー加熱で清浄化した後、熔融銀中の溶存酸素を除去するために木炭を投入し、その後木炭を除いて、得られた熔融銀を鋳型に鋳造する方法が行なわれている。
【0003】
しかしながら、原料によってはときとして、銀インゴット中の不純物元素含有量が10ppmを超える場合があり、このとき鉛、テルル等の含有量の上昇がみられていた。従来、銀インゴット中に残留する鉛及びテルルを除去し高純度化する方法としては、銀インゴットを再溶融する方法が行なわれていた。しかしながら、銀インゴットを再溶融する方法では、その正確な機構が不明であるばかりでなく、時間と手間がかかりコストアップになるという問題があった。
【0004】
また、高度精製法として、鉛、イオウ、銅等を微量に含む銀原料を熔融し、高真空下真空蒸留して不純物元素を除去する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されているが、
高価な設備投資とコストを必要とする問題があった。
【0005】
以上の状況から、銀粉を加熱熔融して鋳型に鋳造する間に、すなわち銀インゴットの再溶融を行なわずに1回の溶融処理の間に、鉛及びテルルの含有量を安定的に低減した高純度銀インゴットを製造する方法が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−256083号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を加熱溶融して銀インゴットを製造する際に、銀粉の1回の溶融処理で銀インゴット中の鉛、テルル及びセレンの含有量のそれぞれを10ppm以下、望ましくは1ppm以下にまで安定的に低減した高純度銀インゴットを製造する方法を提供することにある。また、必要に応じて、同時にさらに表面状態及び加工性が優れた高純度銀インゴットを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鉛、テルル等の不純物元素を含む銀粉を用いて高純度銀インゴットを製造する方法について、鋭意研究を重ねた結果、酸化性雰囲気下、リン酸カルシウムの共存下で加熱熔融し、得られた熔融銀を鋳型に鋳造したところ、鉛、テルル及びセレンが除去された高純度銀インゴットが得られ、また、鋳造に先だって、熔融銀の脱酸素処理を行なったところ、さらに表面状態及び加工性が優れた高純度銀インゴットが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を、酸化性雰囲気下、下記(イ)又は(ロ)のやり方で、リン酸カルシウムの共存下に加熱熔融し、不純物元素を除去した後、得られた熔融銀を鋳型に鋳造することを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法が提供される。
(イ)前記銀粉にリン酸カルシウムを添加し、その後坩堝中で加熱熔融する。
(ロ)前記銀粉を坩堝中で加熱熔融した後、リン酸カルシウムを添加し、さらに加熱熔融する。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記リン酸カルシウムの添加量は、銀粉に対して0.5〜15重量%であることを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記酸化性雰囲気は、熔融銀の酸素分圧を次式に示す範囲に制御しながら形成されることを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法が提供される。
−0.7>logPo>−7
(但し、式中、Poはatm単位による熔融銀中の酸素分圧を表し、かつ1200℃の温度基準に換算したものである。)
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記坩堝は、非還元性材質のものであることを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記加熱熔融の温度は、970〜1300℃であることを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、さらに、鋳造に先だって、熔融銀の脱酸素処理を行なうことを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高純度銀インゴットの製造方法は、第1〜5の発明において、鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を加熱溶融して銀インゴットを製造する際に、銀粉の1回の溶融処理で銀インゴット中に含まれる前記不純物元素の含有量のそれぞれを10ppm以下、望ましくは1ppm以下にまで安定的に低減した高純度銀インゴットを製造することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
また、第6の発明では、さらに、鋳造に先だって、熔融銀の脱酸素処理を行なうことによって、鉛及びテルルが除去され、かつさらに表面状態及び加工性が優れた高純度銀インゴットが製造されるので、より有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の高純度銀インゴットの製造方法を詳細に説明する。
本発明の高純度銀インゴットの製造方法は、鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を、酸化性雰囲気下、下記(イ)又は(ロ)のやり方で、リン酸カルシウムの共存下に加熱熔融し、不純物元素を除去した後、得られた熔融銀を鋳型に鋳造することを特徴とする。
(イ)前記銀粉末にリン酸カルシウムを添加し、坩堝中で加熱熔融する。
(ロ)前記銀粉末を坩堝中で加熱熔融した後、リン酸カルシウムを添加し、さらに加熱熔融する。
【0017】
本発明において、上記(イ)又は(ロ)のやり方で、酸化性雰囲気下、リン酸カルシウム(Ca(PO)の共存下で加熱熔融した後に鋳造することに重要な意義を有する。これによって、銀粉の1回の溶融処理で銀インゴット中の上記不純物元素の含有量のそれぞれを10ppm以下、望ましくは1ppm以下にまで安定的に低減した高純度銀インゴットを製造することができる。すなわち、酸化性雰囲気下で溶融させることで、熔融銀中の鉛、テルル及びセレンを酸化させ、これら酸化物をリン酸カルシウム中に吸収させることによって、これらの不純物元素を目標とする含有量以下にまで低減させることが実現されるものと見られる。
【0018】
より詳しくは、銀粉中の鉛、テルル及びセレンは金属状態で存在するため、還元性雰囲気下では金属状態のまま銀中に溶融した状態で存在する。一方、酸化性雰囲気下では、鉛、テルル及びセレンは銀に比べて酸素に対する親和力が強いという性質を有するが、溶融温度である1200℃における平衡定数(それぞれ、5.6×10、2.9×10と見積もられる。)からは、銀中に含まれる鉛、テルル及びセレンの含有量がppmオーダー程度の微量であるときには、酸化されにくい状態にあるといえる。
ところで、一般に灰吹法と呼ばれる銀から鉛を分離する方法があるが、この方法は、酸化により生成した酸化鉛の表面張力が銀よりも小さいことを利用して、リン酸カルシウム中に酸化鉛のみを浸透させることによって分離する物理的分離法である。したがって、前述のように、鉛の含有量が少ない場合には、酸化させること自体が困難となることから、灰吹法での分離は困難と考えられていた。
【0019】
しかしながら、実際上は、熔融銀中の鉛、テルル等に対してリン酸カルシウムの添加量が十分に多いときには、これらの酸化物(酸化鉛、酸化テルル等)は、その一部の酸化カルシウム(CaO)と1000℃以下の融点のCaO−PbO系、CaO−TeO系等の融体を形成し、これらの活量は著しく低下するので、Poが10−7以上の酸素濃度で酸化されることが認められた。ここでCaO−PbO系、及びCaO−TeO系融体は、リン酸カルシウム量が十分に多いので、その中に吸収されて容易に分離される。
【0020】
本発明において、加熱熔融としては、銀粉にリン酸カルシウムを添加し、その後坩堝中で加熱熔融するか、或いは銀粉を坩堝中で加熱熔融した後、リン酸カルシウムを添加し、さらに加熱熔融するやり方で行なわれる。いずれのやり方においても、銀中の鉛、テルル及びセレンの除去について同様の効果が得られる。ここで、坩堝は、灯油又はガスの燃焼加熱炉、電気炉等の加熱炉内に設置し、炉内を酸化性雰囲気にする。
【0021】
本発明の方法に用いる銀粉としては、特に限定されるものではなく、銀の精錬プロセスから得られる鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉が用いられるが、この中で、特に高純度銀インゴットの原料である電着銀又は還元銀が用いられ、特に鉛、テルルを、それぞれ数十、数ppm含む銀粉が好ましく用いられる。ここで、電着銀は、例えば銀品位が80〜90重量%の粗銀地金をアノードとして、硝酸浴中で電解精製することにより得られる。また、還元銀は、例えば塩化銀を湿式精製して不純物元素を除去し、その後アルカリ水溶液中で還元剤を添加して塩化銀を還元することにより得られる。
【0022】
上記方法に用いるリン酸カルシウムとしては、特に限定されるものではなく、市販の粉末が用いられる。その添加量としては、特に限定されるものではなく、銀粉に対して0.5〜15重量%が好ましく、0.5〜2重量%がより好ましい。すなわち、リン酸カルシウムの添加量が0.5重量%未満では、前述したように添加量が少ないので鉛、テルル及びセレンの酸化が不十分であり、かつ吸収が不十分となる。一方、リン酸カルシウムの添加量が15重量%を超えると、薬剤コストが高くなり、かつ分離されたリン酸カルシウムの廃棄物量が増える。
【0023】
上記方法に用いる酸化性雰囲気としては、特に限定されるものではないが、熔融銀中に微量に含有される鉛、テルル及びセレンを酸化するため、坩堝内の熔融銀が酸化性雰囲気であることが不可欠である。上記加熱炉内の雰囲気としては、銀は常圧下では大気中でも酸化しないので、特別な調整を必要としない大気雰囲気下で行なうことができる。しかしながら、坩堝内の熔融銀の酸化性雰囲気を確保し、また厳密な制御、及び終点の確認のためには、熔融銀の酸素分圧を適宜測定し、次式に示す範囲に制御しながら行なうことが望ましい。
−0.7>logPo>−7
(但し、式中、Poはatm単位による熔融銀中の酸素分圧を表し、かつ1200℃の温度基準に換算したものである。)
【0024】
上記方法に用いる坩堝としては、特に限定されるものではないが、アルミナ、マグネシア等のセラミックスなど非還元性材質を用いたものが好ましい。通常、銀の溶融に際しては黒鉛製坩堝が用いられることが多いが、酸化性雰囲気が得られ易い坩堝が好ましい。
【0025】
上記方法に用いる加熱熔融の温度としては、特に限定されるものではなく、鉛とテルルの除去が十分に行なえ、かつ銀インゴットの鋳造操作を行うことができる温度、この中で、特に、970〜1300℃が好ましい。
【0026】
本発明の方法において、必要に応じて、さらに、鋳造に先だって、熔融銀の脱酸素処理を行なうことができる。これによって、鉛及びテルルが除去され、かつさらに表面状態及び加工性が優れた高純度銀インゴットが製造される。
【0027】
従来、銀のインゴットを工業的に製造する鋳造工程では、銀原料の加熱熔融において酸素溶存を抑制することが必須であった。酸素溶存の抑制が不十分であると、鋳造において、得られる銀インゴットに気泡によるふくれ等が発生して表面状態が悪化し、またその内部にも気泡の残留があり加工性も不良となるので、商品化できなくなる。すなわち、銀には熔融状態で多量の酸素を吸収し、凝固に伴ない吸収した酸素を放出する性質があることが知られている。
【0028】
上記方法に用いる脱酸素処理としては、特に限定されるものではなく、溶融銀内を還元性雰囲気下に保持することによって行なわれるが、例えば、簡便な方法としては、木炭、コークス、活性炭等の反応性の良い炭素、あるいは、砂糖、殿粉等の上記加熱熔融温度で炭素を生成する炭素含有化合物等の還元剤を添加する方法が用いられる。
【0029】
上記鋳造温度としては、特に限定されるものではなく、銀インゴットの鋳造操作を行うことができる温度が選ばれるが、この中で、特に、酸素の含有量が少ない銀の融点(962℃)直上近くが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析方法は、ICP発光分析法で行った。
また、実施例及び比較例において、銀粉の熔融に用いた坩堝炉の概略構造を図1に示す。図1において、坩堝炉1は、電気加熱式の炉本体2と半密閉型の蓋3からなり、内部に坩堝4が設置されている。
【0031】
(実施例1)
鉛15ppm及びテルル2ppmを含有する還元銀粉500gとリン酸カルシウム5gをアルミナ製坩堝に入れ、この坩堝を上記坩堝炉内に設置した。坩堝炉内を大気雰囲気としたままで加熱し、1200℃で2時間保持した。このとき消耗式の酸素プローブを用いて酸素分圧測定を行ったところ、酸素分圧(logPo)は、−5であった。その後、直ちに熔融銀を耐熱鋳鉄製鋳型に鋳造した。なお鋳造後には、プロパンガスバーナーを使って鋳造物の湯面をあぶりながら徐冷した。その後、得られた銀インゴットの鉛及びテルルの分析を行った。その結果、鉛及びテルルの含有量は、それぞれ1ppm、<1ppmであった。
【0032】
(実施例2)
鉛19ppm、テルル2ppm及びセレン9ppmを含有する還元銀粉を用いたこと以外は実施例1と同様に行ない、得られた銀インゴットの表面の観察と鉛、テルル及びセレンの分析を行った。その結果、鉛、テルル及びセレンの含有量は、それぞれ2ppm、<1ppm、及び<1ppmであった。
【0033】
(実施例3)
鉛15ppm及びテルル2ppmを含有する還元銀粉500gとリン酸カルシウム10gをアルミナ製坩堝に入れ、この坩堝を坩堝炉内に設置した。坩堝炉内は大気雰囲気として、加熱し、1100℃で1時間保持した。このとき消耗式の酸素プローブを用いて酸素分圧測定を行ったところ、酸素分圧(logPo)は、−5であった。次いで、坩堝内に木炭粉を熔融銀の表面が覆われる程度に添加し、15分間保持した。その後、残留した木炭粉を分離した後、熔融銀を耐熱鋳鉄製鋳型に鋳造した。なお鋳造後には、プロパンガスバーナーを使って鋳造物の湯面をあぶりながら徐冷した。なお、熔融銀の鋳造に際しての酸素放出による気泡の発生は極めて少なく、そのため得られたインゴットの表面は、気泡によるふくれ及び穴開きが無く平滑な形状であり、極めて良好な状態であった。その後、得られた銀インゴットの鉛及びテルルの分析を行なった。その結果、鉛及びテルルの含有量は、いずれも、1ppm以下であった。
【0034】
(実施例4)
鉛15ppm及びテルル2ppmを含有する還元銀粉500gをアルミナ製坩堝に入れ、この坩堝を坩堝炉内に設置した。坩堝炉内は大気雰囲気として、加熱し、1100℃に到達後、坩堝内にリン酸カルシウム5gを投入し、1時間保持した。このとき消耗式の酸素プローブを用いて酸素分圧測定を行ったところ、酸素分圧(logPo)は、−5であった。次いで、坩堝内に木炭粉を熔融銀の表面が覆われる程度に添加し、15分間保持した。その後、残留した木炭粉を分離した後、熔融銀を耐熱鋳鉄製鋳型に鋳造した。なお鋳造後には、プロパンガスバーナーを使って鋳造物の湯面をあぶりながら徐冷した。なお、熔融銀の鋳造に際しての酸素放出による気泡の発生は極めて少なく、そのため得られたインゴットの表面は、気泡によるふくれ及び穴開きが無く平滑な形状であり、極めて良好な状態であった。その後、得られた銀インゴットの鉛及びテルルの分析を行なった。その結果、鉛及びテルルの含有量は、いずれも、1ppm以下であった。
【0035】
(比較例1)
リン酸カルシウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様に行ない、酸素分圧の測定と鉛及びテルルの分析を行った。その結果、酸素分圧(logPo)は、−5であった。また、鉛及びテルルの含有量は、それぞれ15ppm、及び2ppmであった。
【0036】
(比較例2)
黒鉛製坩堝を用いたこと以外は実施例1と同様に行ない、酸素分圧の測定と鉛及びテルルの分析を行った。その結果、酸素分圧(logPo)は、−9であった。また、鉛及びテルルの含有量は、それぞれ12ppm、及び2ppmであった。
【0037】
以上より、実施例1〜4では、銀粉は酸化性雰囲気下燐酸カルシウムの共存下で加熱熔融され、本発明の方法に従って行われたので、1回の溶融処理で銀インゴット中の鉛、テルル、及びセレンの含有量のそれぞれを10ppm以下、さらには1ppm以下にまで安定的に低減し、さらに、脱酸素処理により表面状態が良好な高純度銀インゴットが得られることが分かる。これに対して、比較例1又は2では、リン酸カルシウムの添加又は雰囲気のいずれかがこれらの条件に合わないので、不純物元素の含有量において満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上より明らかなように、本発明の高純度銀インゴットの製造方法は、電着銀又は還元銀のような銀粉を加熱熔融して鋳造によって高純度銀インゴットを得る際に、鉛、テルル及びセレンを除去することができ、さらにその表面形状が平滑なインゴットを得ることができる方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例及び比較例で使用した坩堝炉の概略構造を表す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 坩堝炉
2 炉本体
3 蓋
4 坩堝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛、テルル又はセレンから選ばれる少なくとも1種の不純物元素を含む銀粉を、酸化性雰囲気下、下記(イ)又は(ロ)のやり方で、リン酸カルシウムの共存下に加熱熔融し、不純物元素を除去した後、得られた熔融銀を鋳型に鋳造することを特徴とする高純度銀インゴットの製造方法。
(イ)前記銀粉にリン酸カルシウムを添加し、その後坩堝中で加熱熔融する。
(ロ)前記銀粉を坩堝中で加熱熔融した後、リン酸カルシウムを添加し、さらに加熱熔融する。
【請求項2】
前記リン酸カルシウムの添加量は、銀粉に対して0.5〜15重量%であることを特徴とする請求項1に記載の高純度銀インゴットの製造方法。
【請求項3】
前記酸化性雰囲気は、熔融銀の酸素分圧を次式に示す範囲に制御しながら形成されることを特徴とする請求項1に記載の高純度銀インゴットの製造方法。
−0.7>logPo>−7
(但し、式中、Poはatm単位による熔融銀中の酸素分圧を表し、かつ1200℃の温度基準に換算したものである。)
【請求項4】
前記坩堝は、非還元性材質のものであることを特徴とする請求項1に記載の高純度銀インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記加熱熔融の温度は、970〜1300℃であることを特徴とする請求項1に記載の高純度銀インゴットの製造方法。
【請求項6】
さらに、鋳造に先だって、熔融銀の脱酸素処理を行なうことを特徴とする請求項1に記載の高純度銀インゴットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−224340(P2007−224340A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44831(P2006−44831)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】