説明

高速撮影装置

【課題】高速撮影装置におけるデジタルノイズをなくす。
【解決手段】高速撮像素子31は、フォトダイオード33から斜めに延びる記録用CCD36と、記録用CCD36の他端が合流する垂直読み出し用CCD37を備える。連続上書き撮影時には、デジタル駆動電圧供給部30aが記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37に正弦波の駆動電圧を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD型であってもCOMS型であっても、通常の撮像素子は矩形パルス波形電圧でデジタル制御される。一方、CCDは正弦波形電圧のみで駆動することもできる。ただし、通常の撮像素子は電荷信号を取り込みながら、電荷信号を素子外に読み出す。読み出し操作はデジタル制御せざるを得ないので、これまでの撮像素子は全てデジタル制御されてきた。
【0003】
本発明者は、斜行線形CCD型メモリーを持つ画素周辺記録撮像素子(In-situ Storage Image Sensor with slanted linear CCD storage、以下「ISIS」と呼ぶ)及びそれを備える高速撮影装置を開発した(例えば特許文献1参照)。ISISでは、各画素が100個以上のCCD型のメモリーを備えており、撮影中は全ての画素の並列処理で一斉に電荷信号を記録するので究極の超高速度連続撮影(例えば100万枚/秒で連続100枚以上)が可能であり、撮影中は電荷信号の読み出しは実行しない。
【0004】
デジタル制御ではいわゆるデジタルノイズが発生する。主要な原因の一つは正確に時間を刻むためのクロックノイズである。またデジタル制御においては多くの矩形パルス電圧を使ってシステムを制御する。パルス電圧の立ち上がり、立下り時には基本周波数よりもはるかに高い周波数の揺れ(以下「リンギング」と呼ぶ)が生じる。パルス状の立ち上がり、立下りやリンギングに伴う急激な電流変化は、電磁波を発生する。この電磁波がシステムの中を飛び回り、デジタルノイズの発生源となる。
【0005】
デジタル制御は電圧や電流値のある値を閾値にし、それ以上か、以下かの2値判断を行うので、制御電圧や電流に多少のノイズが乗っても、閾値のオーダーより十分小さければ、間違った制御を起こすことはない。この安定性がデジタル制御が良く使われる理由である。
【0006】
ところが通常の撮像素子で扱う電荷信号は、撮像素子内にある間はアナログ信号である。電荷信号を撮像素子外に読み出すときにアナログ・デジタル変換器(ADコンバータ)でデジタル信号に変換される。すなわち撮像素子はアナログ・デジタル混載電子機器であり、しかも扱う信号が、光子等から変換された数個〜数万個の電子であるという、極めて精密な信号の取り扱いを必要とするデバイスである。
【0007】
撮影速度を上げていくと、信号処理速度が上がり、電流の変化速度が上がるので、それに比例してデジタルノイズが大きくなる。これは読み出し回路で必要な安定電圧を揺らし、読み出しノイズの増大を招く。超高速度撮影が使われるような科学技術計測では、超高速度と同時に、非常に高精密な測定が要求されることも多い。この場合、撮影速度の増大と、測定精度の向上が競合する。
【0008】
科学技術計測では、ビデオカメラに加えて、いくつかの精密計測機器を使って計測するのが普通である。この場合、超高速ビデオカメラで発生するデジタルノイズが計測精度を下げる大きな原因となることもある。例えば、100KeV以下の比較的低いエネルギーを持つ電子流を使う電子顕微鏡に、電子直入型の超高速度ビデオカメラ用撮像素子を取り付けると、撮像素子で発生するノイズが電子流を揺らし、解像度を著しく下げる。
【0009】
【特許文献1】特許第3704052号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高速撮影装置において撮影時のデジタルノイズをなくすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述のように、本発明者が開発したISISは全ての画素の各々にCCD型の多数の電荷信号メモリーを持っている。本発明は、撮像素子としてISISを採用した高速撮影装置が有する、撮影中に電荷信号を読み出す必要がないとこと等の特徴を活用し、撮影中は正弦波の電圧のみでCCDを駆動することでデジタルノイズレス超高速度撮影を実現したものである。
【0012】
具体的には、本発明は、受光面上に配置されて入射線の強度に応じた電荷信号を発生する複数の変換部と、個々の前記変換部に一端が接続されて他端に向けて線状に延びる複数の記録用CCDと、前記記録用CCDの他端側に設けられたドレーンゲートと、前記ドレーンゲートに接続されたドレーンとを有する撮像素子と、撮影時に、前記撮像素子の前記記録用CCDに正弦波の駆動電圧を供給し、前記変換部で発生した電荷信号を前記記録用CCDの前記一端から前記他端に向けて移送させ、前記ドレーンゲートを介して前記電荷信号を前記ドレーンへ排出して連続上書きを実行させる、アナログ駆動電圧供給部と、前記連続上書きにより前記記録用CCDの蓄積された前記電荷信号を前記撮像素子外に読み出すための電荷信号読み出し部と、撮影終了後に矩形波の駆動電圧を供給して前記電荷信号読み出し部を介して電荷信号を前記撮像素子外に読み出すためのデジタル駆動電圧供給部とを備える、高速撮影装置を提供する。
【0013】
撮影中は、アナログ駆動電圧供給部からの正弦波形の駆動電圧のみを使い、デジタル信号を一切使わないで記録用CCD上で電荷信号を転送するので、デジタルノイズレスの高精度で超高速撮影が可能である。また、記録用CCD上を移送された電荷信号はドレーンゲートを介してドレーンへ排出されるので、連続上書き撮影が可能である。連続上書き停止後には、デジタル駆動電圧供給部が矩形波の駆動電圧を供給し、デジタル制御により電荷信号を撮像素子外に読み出すことができる。
【0014】
例えば、前記電荷信号読み出し部は、前記記録用CCDの他端が合流する複数の垂直読み出し用CCDと、前記複数の垂直読み出し用CCDが接続された単一の水平読み出し用CCDとを備える。
【0015】
代案としては、前記ドレーン及びドレーンゲートが前記電荷信号読み出し部として機能する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高速撮影装置では、撮影時にはデジタル駆動電圧供給部が正弦波の駆動電圧を記録用CCDに供給することで連続上書きを実行する。すなわち、連続上書き撮影中は、正弦波形の駆動電圧のみを使い、デジタル信号を一切使わないでCCD上で電荷信号を転送するので、デジタルノイズレスの高精度で超高速撮影が可能である。一方、連続上書き停止後には、デジタル駆動電圧供給部が矩形波の駆動電圧を供給し、デジタル制御により電荷信号を撮像素子外に読み出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は高速撮影装置全体の構成を示している。レンズ21に入射した光は外部シャッター22を通過してISIS型の高速撮像素子31(以下単に撮像素子という。)の受光面32上に結像する。撮影中は入射した光の強度に応じて電荷が生じるが、過剰な入射光により生じた過剰電荷は、ドレーン線23を介して排出される。撮影後は読み出し線24を通じ撮像素子内に蓄積された電荷信号(画像信号)が、ADコンバータ25によりデジタル情報に変換され、バッファメモリー26に蓄積される。バッファメモリー26に蓄積された画像情報は画像情報処理装置27により連続する1枚1枚の画像情報に変換された後、高速撮影装置外に出力される。この画像情報はモニタ28により画像として目で見ることができる。また、高速撮影装置は、装置全体を制御するためのタイミングコントローラ29を備えている。さらに、高速撮影装置は、撮像素子31を駆動する駆動電圧を発生するアナログ駆動電圧供給部30aとデジタル駆動電圧供給部30bを備えている。これらの駆動電圧供給部30a,30bについては後に詳述する。タイミングコントローラ29には、トリガー信号発生部100が接続されている。トリガー信号発生部100は、例えば撮影対象の輝度変化を監視し、一定の条件が充足されると連続上書きの停止を命令するトリガー信号をタイミングコントローラ29に出力する。
【0019】
次に、撮像素子31について説明する。図2に示すように、受光面32には複数のフォトダイオード(変換部)33が配置されている。これらのフォトダイオード33は、行方向(X軸方向)の間隔S1及び列方向(Y軸方向)の間隔S2がそれぞれ一定となるように配置されている。また、これらのフォトダイオード33は、行方向と列方向が互いに直交するように配置されている。すなわち、フォトダイオード33は直方配列(正方配列を含む。)で受光面32に配置されている。また、それぞれ1個のフォトダイオード33を含む画素34も直方配列で配置されている。図2では、合計12個(4行3列)のフォトダイオード33が図示されている。
【0020】
各フォトダイオード33に対して1本ずつ線状の記録用CCD36が設けられている。また、各フォトダイオード33の列に対して1本ずつ、線状の垂直読み出し用CCD37が設けられている。
【0021】
記録用CCD36の一端は、インプットゲート38を介して対応するフォトダイオード33に接続されている。また、記録用CCD36は、列方向に隣接するフォトダイオード33を結ぶ線L2に対して傾斜する方向に延びている。さらに、記録用CCD36の他端は垂直読み出し用CCD37に合流している。同一の列を構成するフォトダイオード33に接続されたすべての記録用CCD36が同一の垂直読み出し用CCD37に合流している。
【0022】
垂直読み出し用CCD37は、フォトダイオード33の列方向(垂直方向)に延びている。また、垂直読み出し用CCD37の図において下端は受光面32外まで延びて水平読み出し用CCD39に接続されている。水平読み出し用CCD39は増幅器41及び信号読み出し線24を介してADコンバータ25に接続されている(図1参照)。
【0023】
図3において、番号5〜16で示すように、記録用CCD36は17個のエレメント36aを有し、インプットゲート38から数えて18個のエレメント36aだけ進むと、垂直読み出し用CCD37に合流する。図3では、インプットゲート38が合流する部分の垂直読み出し用CCD37のエレメント37aに番号「4」が付されている。図3において矢印F1,F2で示すように、垂直読み出し用CCD37に対する記録用CCD36の合流点、すなわち番号「4」が付されたエレメント37aの近傍において、記録用CCD36の電荷信号の移送方向と、垂直読み出し用CCD37の電荷信号の移送方法は略同一方向である。
【0024】
垂直読み出し用CCD37の図2において左側には、垂直読み出し用CCD37と平行に延びるドレーン43が設けられている。垂直読み出し用CCD37と同様に、ドレーン43もフォトダイオード33の列毎に設けられている。ドレーン43は受光面32外まで延び、水平方向に延びるドレーン線44に接続されている。このドレーン線44は上記アースに接続されたドレーン線23(図1参照)に接続されている。図3に示すように、ドレーン43は、記録用CCD36の合流点である番号「4」が付された垂直読み出し用CCD37のエレメント37aに対して、矢印F2で示す電荷信号の移送方向に対して1個上流側のエレメント37a、すなわち番号「1」が付されたエレメント37aに接続されている。ドレーン43と垂直読み出し用CCD37のエレメント37aの間にはドレーンゲート45が設けられている。
【0025】
次に、図4から図7を参照して撮像素子31の構造を説明する。これらの図のうち、図4は基板(最下層)を示している。図5は最下層の上に形成されたポリシリコン電極層を示している。図6はポリシリコン電極層の上に形成された金属層を示している。図7は最上層である遮光層46を示している。基板とポリシリコン電極層との間、ポリシリコン電極層と金属層との間、及び金属層と遮光層46との間には、SiO2/Si3N4等の絶縁層101(図8参照)が設けられている。
【0026】
図4に示すように、基板にはフォトダイオード33、記録用CCD36、インプットゲート38、ドレーンゲート44、及び垂直読み出し用CCD37が設けられている。記録用CCD36はN領域47aとN領域47bとを交互に設けることにより構成されている。連続する4個のN領域47a及びN領域47bが1個のエレメント36aを構成している。垂直読み出し用CCD37もN領域47aとN領域47bとを交互に設けることにより構成され、連続する4個のN領域47a及びN領域47bが1個のエレメント37aを構成している。また、一対のN領域47a及びN領域47bが1個のインプットゲート38を構成している。フォトダイオード33、記録用CCD36、インプットゲート38、ドレーンゲート45、及び垂直読み出し用CCD37を除いた基板の残りの部分はP領域からなるチャネルストップ48を構成している。
【0027】
図5に示すように、ポリシリコン層には3種類のポリシリコン電極51,52,53が設けられている。これらのうち第1ポリシリコン電極51は、記録用CCD36を駆動するためのものであり、A1相の駆動電圧が印加される。次に、第2ポリシリコン電極52は、記録用CCD36と垂直読み出し用CCD37の両方の駆動に使用され、A2相の駆動電圧が印加される。さらに、第3ポリシリコン電極53は、垂直読み出し用CCD37を駆動するための電極であり、A1相の駆動電圧が印加される。
【0028】
これらのポリシリコン電極51〜53は受光面32内においてフォトダイオード33の行方向(水平方向)に延びており、各ポリシリコン電極51〜53の下側には一対のN領域47aとN領域47bが位置している。第1ポリシリコン電極51と第2ポリシリコン電極52は行方向(水平方向)に一列に並んで設けられ、その間に両者を電気的に絶縁する隙間54が設けられている。第1及び第3ポリシリコン電極51,53と、第2ポリシリコン電極52が列方向に交互に設けられている。記録用CCD36の1個のエレメント36aには第1ポリシリコン電極51と第2ポリシリコン電極52の対が対応し、垂直読み出し用CCD37の1個のエレメント37aには第1ポリシリコン電極51と第3ポリシリコン電極53の対が対応している。
【0029】
図6に示すように、金属層は第1金属線57、第2金属線58、第3金属線59、及びドレーン43を含む。金属線57〜59は、電圧供給部30a,30bが出力する駆動電圧をポリシリコン電極51〜53に供給する。金属線57〜59のうち、第1金属線57は第1ポリシリコン電極51にA1相の駆動電圧を供給する。また、第2金属線58は第2ポリシリコン電極52にA2相の駆動電圧を供給する。さらに、第3金属線59は第3ポリシリコン電極53にA1相の駆動電圧を供給する。個々の金属線57〜59はコンタクトポイン61a〜61cを介して対応するポリシリコン電極51〜53に電気的に接続されている。
【0030】
ドレーンゲート45はコンタクトポイント61dを介して遮光層46に接続されている。従って、ドレ−ンゲート45を開閉するための制御電圧は、遮光層46及びコンタクトポイント61dを介してドレーンゲート45に供給される。
【0031】
図7に示すように、アルミニウム等の導電性金属からなる遮光層46には、それぞれフォトダイオード33と対応する複数の窓部46aが設けられている。この窓部46aはフォトダイオード33に光を入射させる。遮光層46の窓部46a以外の部分は、受光面32を覆い入射光を遮断する。
【0032】
ポリシリコン電極51〜53は、コンタクトポイン61a〜61d及び金属製57〜59を含む導電経路を介して図8に示すように駆動電圧供給部30a,30bに電気的に接続されている。アナログ駆動電圧供給部30aは連続上書き撮影時に記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37に正弦波の駆動電圧(アナログ)を供給し、デジタル駆動電圧供給部30bは連続上書き撮影停止後に記録用CCD36、垂直読み出し用CCD37、及び水平読み出し用CCD39に矩形波の駆動電圧(デジタル)を供給する。アナログ駆動電圧供給部30aは、アナログ回路のみで構成してもよいし、デジタル回路とその出力をアナログ信号に変換するDAコンバータにより構成してもよい。後者の場合には、デジタル回路の発生するノイズを十分に遮蔽する必要がある。
【0033】
次に、高速撮影装置の動作を説明する。
【0034】
まず、連続上書き撮影について説明する。連続上書き撮影時には、ドレーンゲート45はドレーン線43と同電位に維持され、ドレーンゲート45に接続された垂直読み出し用CCD37のエレメント37a、すなわち図3におい番号「1」を付したエレメント37aからドレーンゲート45、ドレーン線44,23を経て電荷信号が素子外に排出される。
【0035】
連続上書き撮影時には、アナログ駆動電圧供給部30aから記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37に、図9に示すように2相の正弦波の駆動電圧が供給される。詳細には、記録用CCD36のエレメント36aには、アナログ駆動電圧供給部30aから第1金属線57、コンタクトポイント61a、及び第1ポリシリコン電極51を介してA1相の正弦波の駆動電圧が供給される。また、記録用CCD36のエレメント36aには、アナログ駆動電圧供給部30aから第2金属線58、コンタクトポイント61b、及び第2ポリシリコン電極52を介してA2相の正弦波の駆動電圧が印加される。一方、垂直読み出し用CCD37のエレメント37aには、アナログ駆動電圧供給部30aから第3金属線59、コンタクトポイント61c、及び第3ポリシリコン電極53を介してA1相の駆動電圧が印加される。また、垂直読み出し用CCD37のエレメント37aには、アナログ駆動電圧供給部30aから第2金属線58、コンタクトポイント61bを介してA2相の駆動電圧が供給される。
【0036】
A1相とA2相の正弦波の駆動電圧は、振幅及び周期が同一であり、A2相はA1相に対して1/2πだけ位相がずれている。これらA1,A2相の正弦波の駆動電圧により、図10A,10Bに模式的に示すように、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37において電荷信号102が移送される。詳細には、図3においてエレメント36aに付した番号「5」〜「21」及び矢印F1で示すように、フォトダイオード33で発生した電荷信号は、記録用CCD36により垂直読み出し用CCD37との合流点に向けて移送される。また、図3においてエレメント37aに付した番号「1」〜「4」及び矢印F2で示すように、垂直読み出し用CCD37に移送された電荷信号は列方向(垂直方向)に移送される。垂直読み出し用CCD37により移送される電荷信号は、下流側の合流点、すなわち図3におい番号「4」が付されたエレメント37aに到達する前に、番号「1」が付されたエレメント37aからドレーンゲート45を経てドレーン43に排出される。
【0037】
以上の動作により、図3において番号「1」〜「21」示すように、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37のエレメント36a,37aに多数の最新の電荷信号が更新されつつ記録される。
【0038】
このように連続上書き撮影中は、正弦波の駆動電圧のみを使い、デジタル信号を一切使わないでCCD上で電荷信号を転送することにより、デジタル制御の場合には不可避のノイズ(パルス状の立ち上がり、立下りやリンギングに伴う急激な電流変化により発生するノイズ)が発生しない、すなわちデジタルノイズレスの高精度な超高速度撮影が実現できる。
【0039】
トリガー信号発生部100からタイミングコントローラ29にトリガー信号が入力されると、上記駆動電圧の印加停止によって連続上書き撮影が終了し、外部シャッター22が閉じられる。
【0040】
次に、連続上書き撮影停止後の電荷信号の読み出しを説明する。遮光層46を介してドレーンゲート45を閉鎖するための制御電圧(例えば0V)が印加される。また、電荷信号の読み出しは、垂直読み出し用CCD37から水平読み出し用CCD39へ電荷信号を移送する第1処理と、記録用CCD36から垂直読み出し用CCD37へ電荷信号を移送する第2処理とを繰り返すことにより実行される。
【0041】
第1処理では、記録用CCD36では電荷信号の移送は行われず、垂直読み出し用CCD37のみで電荷信号の移送を行う。具体的には、記録用CCD36にA1相の駆動電圧を供給するための第1金属線57に供給する電圧を一定とする一方、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37にA2相の駆動電圧を供給するためのポリシリコン電極52と、垂直読み出し用CCD37にA1相の駆動電圧を供給するためのポリシリコン電極53にはデジタル駆動電圧供給部30bが2レベルの矩形波形の駆動電圧を印加する。その結果、記録用CCD36では電荷信号は移送されることなく、蓄積されているエレメント36aに留まる。一方、垂直読み出し用CCD37では、図3において矢印F2で示すように、電荷信号は列方向(鉛直方向)に移送される。水平読み出し用CCD39に移送された電荷信号は、増幅器41、読み出し線24及びA/Dコンバータ25を介してバッファメモリー26に送られる。水平読み出し用CCD39もデジタル駆動電圧供給部30bからの矩形波形の駆動電圧により駆動される。垂直読み出し用CCD37のエレメント37aに蓄積されたすべての電荷信号が水平読み出し用CCD39に移送されると、1回の第1処理が終了して第2処理が実行される。増幅器41、A/Dコンバータ25を含む撮像素子31の周辺回路は、デジタル駆動電圧供給部30bからの矩形波形の駆動電圧によりデジタル制御される。
【0042】
第2処理では、記録用CCD36と垂直読み出し用CCD37の両方で電荷信号の移送が実行される。具体的には、記録用CCD36にA1相の駆動電圧を供給するためのポリシリコン電極51、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37にA2相の駆動電圧を供給するためのポリシリコン電極52、及び垂直読み出し用CCD37にA1相の駆動電圧を供給するためのポリシリコン電極53のすべてにデジタル駆動電圧供給部30bが2レベルの矩形波の駆動電圧を印加する。その結果、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37の両方において、図3において矢印F1,F2で示すように電荷信号が移送される。その結果、垂直読み出し用CCD37のエレメント37aのうち、図3において番号「1」〜「4」を付したエレメント37aに対して記録用CCD36から電荷信号が供給される。垂直読み出し用CCD37のすべのエレメント37aに電荷信号が蓄積されたとき、すなわち図3において番号「1」〜「4」を付したエレメント37aに電荷信号が蓄積されると、1回の第2処理が終了し、再び第1処理が実行される。第1処理と第2処理の繰り返しにより、記録用CCD36、垂直読み出し用CCD37、及び水平読み出し用CCD39からすべての電荷信号が素子外に移送されると、読み出しが終了する。
【0043】
前述のように連続上書き撮影中は、正弦波形の駆動電圧のみを使い、デジタル信号を一切使わないでCCD上で電荷信号を転送することにより、デジタル制御の場合には不可避のノイズ(パルス状の立ち上がり、立下りやリンギングに伴う急激な電流変化により発生するノイズ)の発生を防止したが、撮影対象現象の生起による連続上書き撮影停止には、デジタル制御により、ゆっくり電荷信号を撮像素子外部のバッファメモリー26に読み出し、連続画像として構成し、再生する。電荷信号の読み出し時には連続上書き撮影時と比較すると大幅に遅い速度でCCD及び周辺回路を駆動することができるので、デジタル制御であってもパルス状の立ち上がり、立下りやリンギングに起因するノイズを実用上殆ど無視できる程度に抑制できる。また、電荷信号の読み出し時には、CCD及び周辺回路の駆動速度を大幅に低減することに加え、撮像素子31を冷却すること容易であり、それによってもノイズを低減できる。
【0044】
本実施形態の高速撮影装置では前述のように撮影時に正弦波(アナログ)で撮像素子31を駆動することでデジタルレスを実現しているが、これは撮像素子31がISIS型であって、以下の2つの条件を満たしていることからこそ可能である。第1の条件としては、撮像素子31が受光面32内に電荷信号の蓄積要素、すなわち記録用CCD36と垂直読み出し用CCD37を備えるので、撮影中に電荷信号の読み出しの必要がない。第2の条件としては、連続上書き撮影時に駆動される記録用CCD36と垂直読み出し用CCD37とがいずれも「線状」であって、記録用CCD36が垂直読み出し用CCD37に合流する位置(図3の番号「4」が付されたエレメント37a)を含め、電荷信号の移送方法が略同一方向である。たとえ画素周辺に電荷信号の記録要素を備えて撮影中に電荷信号の読み出しが不要であるとしても、電荷信号の移送方向の変換(電荷信号の搬送方向の屈曲)が必要な場合、アナログの駆動電圧では電荷信号の移送方向の変換は実現できない。従って、例えば米国特許第5355165号に開示されているような、画素内に電荷信号の蓄積手段としてのCCDを有するが受光面内で電荷信号の移送方向が水平方向から垂直方向に屈曲している撮像素子では、アナログ制御による連続上書き撮影は実現できない。
【0045】
(第2実施形態)
撮像素子31の記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37は4相駆動であってもよい。この場合、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37の電荷転送方向に不純物ドーピングプロファイルの変化(図3,図8参照)を設ける必要はない。
【0046】
連続上書き撮影時には、アナログ駆動電圧供給部30aは記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37に、図12及び図13に示すように、4相(A1相、A2相、A3相、A4相)の正弦波の駆動が供給される。A1〜A2相の駆動電圧は振幅及び周期が同一であり、1/2πずつ位相がずれている。これらA1〜A3相の正弦波の駆動電圧により、図14に模式的に示すように、記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37において電荷信号102が移送される。このように連続上書き撮影中は、正弦波形の駆動電圧のみを使い、デジタル信号を一切使わないでCCD上で電荷信号を転送することにより、デジタルノイズレスの高精度で、超高速度撮影ができる。
【0047】
連続上書き撮影停止後の電荷信号読み出し時には、デジタル駆動電供給部30bから図12及び図13の正弦波)を矩形波に変更した波形の駆動電圧が記録用CCD36及び垂直読み出し用CCD37に供給され、それによって前述の第1処理及び第2処理の繰り返しで電荷信号が撮像素子31から読み出されてバッファメモリー26に蓄積される。
【0048】
第2実施形態のその他の構成及び作用は第1実施形態と同様である。
【0049】
(第3実施形態)
図15に示す本発明の第3実施形態は、高速撮影装置としての全体的な構造は第1実施形態と同様であるが(図1参照)、撮像素子31の構造が第1実施形態と異なる。フォトダイオード33の図において左下側には電気収集井戸201及びインプットゲート202を介して記録用CCD203の一端(上端)が接続されている。記録用CCD203は受光面上を斜め下向きに延びており、他端は列方向に6個下側で行方向に1個左側のフォトダイオード33の下側に達している。つまり、記録用CCD203は6画素分の距離を斜め下向きに延びている。なお、記録用CCD203の個々のエレメントの図示は省略している。フォトダイオード33の他端(下端)にはMOS型のドレーンゲート204を介してドレーン205に接続されている。このドレーン205は図示しないドレーン線(読み出し線と兼用されている。)に接続されている。ドレーン線は増幅器及びA/Dコンバータを経てバッファメモリー(図1及び図2の符号41,25,26参照)に接続されている。ドレーン205と前述のインプットゲート202の間にはMOS型のオーバーフローゲート206が介在している。
【0050】
連続上書き撮影時には、ドレーンゲート204が開放され、オーバーフローゲート206は閉鎖されている。アナログ駆動電圧供給部30a(図8,図11参照)から供給される正弦波の駆動電圧により記録用CCD203が駆動される。フォトダイオード33で発生した電荷信号は図15中に矢印で示すように記録用CCD203上を一端から他端に向けて順に移送され、ドレーンゲート204及びドレーン205を介して撮像素子31外に排出される。
【0051】
記録用CCDへの駆動電圧の印加停止による連続上書き撮影終了後、いずれかのフォトダイオード33に接続された記録用CCD203のドレーンゲート204を選択して開放し、デジタル駆動電圧供給部30b(図8,図11参照)から供給される矩形波の駆動電圧により選択した記録用CCD203を駆動し、ドレーンゲート204、ドレーン205、及びドレーン線等を介してバッファメモリー(図1の符号41参照)へ記録用CCD203に蓄積された電荷信号を順に移送する。このように本実施形態では、連続上書き撮影終了後にフォトダイオード33(画素)をランダムに選択して電荷信号の読み出しを実行することができる。
【0052】
なお、撮影条件設定等のために連続上書き撮影時よりも大幅に低い撮影速度での撮影を実行する場合には、オーバーフローゲート206を開放した状態とする。これによりフォトダイオード33で発生した電荷信号を、記録用CCD203を介することなく直接電荷信号を撮像素子31外に読み出すことができる。具体的には、フォトダイオード33で発生した電荷信号は電気収集井戸201から開放状態のオーバーフローゲート206、開放状態のドレーンゲート204、ドレーン205、及びドレーン線等を経てバッファメモリ(図1の符号41参照)へ送られる。
【0053】
本実施形態においても連続上書き撮影時には正弦波の駆動電圧(アナログ)で記録用CCD203を駆動することでデジタルノイズレスの高精度で超高速撮影が可能である一方、連続上書き撮影停止後には矩形波の駆動電圧(デジタル)で電荷信号を撮像素子31外にゆっくりと読み出すことができる。
【0054】
可視光線を電荷信号に変換する撮像素子を備える高速撮影装置を例に本発明を説明したが、撮像素子は、紫外線、赤外線、X線及びガンマ線を含む電磁波、中性子流及びイオン流を含む粒子流等の可視光線以外の入射線を電荷信号に変換するものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態の高速撮影装置を示す模式図。
【図2】高速撮像素子の受光面を示す部分正面図。
【図3】フォトダイオード、記録用CCD、及び垂直読み出し用CCDを示す部分拡大図。
【図4】基板(最下層)を示す部分拡大正面図。
【図5】ポリシリコン層を示す部分拡大正面図。
【図6】金属層を示す部分拡大正面図。
【図7】遮光層(最上層)を示す部分拡大正面図。
【図8】第1実施形態における記録用CCD及び垂直読み出し用CCDの電荷信号搬送方向での模式断面図。
【図9】第1実施形態における連続上書き撮影時に記録用CCD及び垂直読み出し用CCDに供給される正弦波の駆動電圧(2相)を示す波形図。
【図10A】連続上書き撮影時の記録用CCD及び垂直読み出し用CCDにおける信号電荷の搬送状態を示す模式図。
【図10B】連続上書き撮影時の記録用CCD及び垂直読み出し用CCDにおける信号電荷の搬送状態を示す模式図。
【図11】第2実施形態における記録用CCD及び垂直読み出し用CCDの電荷信号搬送方向での模式断面図。
【図12】第2実施形態における連続上書き撮影時に記録用CCD及び垂直読み出し用CCDに供給される正弦波の駆動電圧(4相)を示す波形図。
【図13】第2実施形態における連続上書き撮影時に記録用CCD及び垂直読み出し用CCDに供給される正弦波の駆動電圧(4相)を重畳して示す波形図。
【図14】連続上書き撮影時の記録用CCD及び垂直読み出し用CCDにおける信号電荷の搬送状態を示す模式図。
【図15】本発明の第3実施形態の高速撮影装置が備える撮像素子を示す部分正面図。
【符号の説明】
【0056】
21 レンズ
22 外部シャッター
23 ドレーン線
24 読み出し線
25 A/Dコンバータ
26 バッファメモリー
27 画像情報処理装置
28 モニタ
29 タイミングコントローラ
30a アナログ駆動電圧供給部
30b デジタル駆動電圧供給部
31 高速撮像素子
32 受光面
33 フォトダイオード
36 記録用CCD
37 垂直読み出し用CCD
38 インプットゲート
39 水平読み出し用CCD
43 ドレーン
44 ドレーン線
45 ドレーンゲート
46 遮光層
47a N領域
47b N領域
51,52,53 ポリシリコン電極
57,58,59 金属線
61a,61b,61c コンタクトポイント
100 トリガー信号発生部
101 絶縁層
102 電荷信号
201 電荷収集井戸
202 インプットゲート
203 記録用CCD
204 ドレーンゲート
205 ドレーン
206 オーバーフローゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面上に配置されて入射線の強度に応じた電荷信号を発生する複数の変換部と、
個々の前記変換部に一端が接続されて他端に向けて線状に延びる複数の記録用CCDと、
前記記録用CCDの他端側に設けられたドレーンゲートと、
前記ドレーンゲートに接続されたドレーンと
を有する撮像素子と、
撮影時に、前記撮像素子の前記記録用CCDに正弦波の駆動電圧を供給し、前記変換部で発生した電荷信号を前記記録用CCDの前記一端から前記他端に向けて移送させ、前記ドレーンゲートを介して前記電荷信号を前記ドレーンへ排出して連続上書きを実行させる、アナログ駆動電圧供給部と、
前記連続上書きにより前記記録用CCDの蓄積された前記電荷信号を前記撮像素子外に読み出すための電荷信号読み出し部と、
撮影終了後に矩形波の駆動電圧を供給して前記電荷信号読み出し部を介して電荷信号を前記撮像素子外に読み出すためのデジタル駆動電圧供給部と
を備える、
高速撮影装置。
【請求項2】
前記電荷信号読み出し部は、前記記録用CCDの他端が合流する複数の垂直読み出し用CCDと、
前記複数の垂直読み出し用CCDが接続された単一の水平読み出し用CCDと
を備える、請求項1に記載の高速撮影装置。
【請求項3】
前記ドレーン及びドレーンゲートが前記電荷信号読み出し部として機能する、請求項1に記載の高速撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図15】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−41404(P2010−41404A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202055(P2008−202055)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】