説明

高速発酵材料製造方法

【課題】木チップ等植物チップに含まれる硬い繊維質をあらかじめ分解し高速に堆肥発酵を促進する堆肥製造。
【解決手段】キャビテーションを発生する湿式擂潰機を用い点在する超臨界亜臨界の水熱反応領域を作り木チップ等植物チップに含まれる硬い繊維質を単糖化する手段を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
当該発明は、木チップ等植物チップを発酵させ堆肥にする農業林業技術分野、有機資源を活用する資源循環技術分野、キャビテーションを発生させる湿式擂潰機・木材加工機・パルプ加工機等の機械分野、キャビテーションの働きや超臨界流体や亜臨界流体の働きを把握する自然科学分野に属するものである(特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
木チップ等植物のチップを発酵させ堆肥を製造する技術はすでに存在するが熟成するのに木チップの場合おおよそ3ヶ月から6ヶ月を要し、特に木本植物の樹皮や樹幹を原料とした場合は完熟に1年超を要している場合もある。
木本植物は硬い維管束をもち、その頑強さは維管束細胞壁として数段に重ねられたセルロースとそれらを接合しているヘミセルロースやリグニンにその硬さは起因していると考えられており、リグニンが分解ないしは流亡するまでの期間とセルロースヘミセルロースが分解するまでの期間の合計が長いのが堆肥を製造する場合の問題点と指摘されてきた。
熟成していないと、堆肥を混ぜた土壌で炭化水素成分が未酸化物質として影響するだけでなく、未酸化物質を微生物が資化し始めると含窒素成分を活発に利用し始めるため、結果的に土壌中で窒素飢餓が生じ良い作物や丈夫な植物が出来ないことはよく知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−8755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該発明が解決しようとしている課題は、木チップ等植物チップのように頑強な繊維質を含む成分を発酵分解し易くし、完全な熟成を得るのに数ヶ月から1年超を要していた堆肥の熟成に必要な堆積期間を大幅に短縮し約1.5ヶ月以内にすることがこの発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
キャビテーションを発生させることが出来る湿式擂潰機(しっしきらいかいき)を用い、木チップ等植物チップをコロイド状に加工したものが微生物による腐敗が早いことを発見した。脱水機により更に水分調整し乾燥した塊どうしの間隙が作る通気路が確保されると腐敗が早いだけでなく大型の後生動物の出現も早くなることが分った。
【0006】
湿式擂潰機はその構造上現時点では95w%以上の水分を含む材料での投入が必要で、実施例に記す通り種々取り組みを行ったが90w%程の水分にまでさげるのが湿式擂潰機を運転できる濃度限界のようである。擂り潰しだけなら85w%の水分を含む程度の濃度のものを高圧のスラリーポンプで投入し行うことも出来るが、課題を解決するのにキャビテーションの効果を利用しようとの観点からその有効性はまだ確認できていない。
湿式擂潰機にてキャビテーションが発生するように運転するための操作要領はまだ未確定のことが多いが、木チップ等植物チップはキャビテーションによってコロイド化させることができるし、そうすると堆肥発酵が早くなる。
【0007】
当発明の考案の過程でキャビテーションがリグニンを溶解あるいは分解し更にセルロースも分解し、一部物理的に単糖にまで分解していることが糖濃度の上昇の確認により確かめられている。それだけでなく、コロイド化させたものを約一ヶ月間試験堆積したものの浸漬水をとり化学的酸素要求量を計測したところ、0ミリグラム/リットルにまで到達しており、小松菜の発芽試験も良好であった。これらから木チップ等植物チップを、キャビテーションを発生している湿式擂潰機にてコロイド化させたものは、微生物の資化に大きく寄与していることは明らかで、堆肥発酵の高速化の手段として問題解決の手段とした。
【0008】
[作用及び原理]
擂潰機とは、微生物研究や乳製品工場で用いるホモジナイザーやパルプ製造業で用いるリファイナー、食品工業などで用いるミルのことで、超音波発生器なども広い意味ではこれに入る。いずれも実験用工業用とも市販され一般的に普及している装置である。
特にパルプ製造業で用いられる湿式リファイナーは機械的な擂り潰し性能だけでなく、図1の1に示す外歯(ステーター)と図1の2に示す内歯(ローター)をすりあわせ、粒状のものを更に細かく出来るよう工夫されている。通常これらの機械では超音波発生は機械装置の耐久性上望ましいものではなくまたキャビテーションに至っては歯の損耗に直接影響を与え危害を加えるため全く望ましいものではかった。その領域に入らないよう操作することが常識になっていた。
【0009】
キャビテーションがどのように生じるかの原理は完全には把握できていなかったが、当該発明の考案過程でキャビテーション効果のメカニズムを説明できるようになった。水中で硬い物体を運動させると、物体を避け遠回りする流れは流速が早くなり圧力は下がるが物体を通り過ぎてしまうと急に流れは遅くなり圧力は元に戻り高くなる。物体の運動が早くなり、水中ではおおよそ20メートル/秒から25メートル/秒ほどになると減圧部分では水温が同じでも当然飽和蒸気温度も下がるため水が蒸発温度に達してしまい沸騰が生じると考えられている。このとき生じる泡のことをキャビティーと呼んでいたことになる。低温蒸留と同じ原理である。
【0010】
物体が通り過ぎてしまったところでは流速が遅くなるので、圧力は急に上昇し回復するので気化した蒸気は水に戻り真空を作ってしまう。真空の泡を小さな球体に砕く。このとき球体を作る面に接する水は球体の中心の一点に向かって加速され瞬間に衝突し高圧と高温を生じる。その中心点で発生した圧力と熱が起因となり中心点から一定の距離にある部分は極めて短時間ではあるが超臨界水熱反応域又は亜臨界水熱反応域の性質を持つことになり、その範囲に位置していた木チップが単糖にまで分解したものと考察した。この後に記述した実施試験においても、湿式擂潰機を長時間運転し液温が高温になったものよりもキャビテーションを発生させながら湿式擂潰機を短時間運転した液温が低温のものの方が糖濃度が高かったことの説明に、この原理は矛盾しない。
【0011】
一つのキャビティーが高温を発生している時間は5μ秒で温度は1000度Cを超えていると推測している。このキャビテーションによる繊維質のほぐし効果は今日まで泡がはじけるときに発生する超音波や衝撃波の働きで説明されていた。
しかしキャビティーが消滅するときに発生する高温高圧の水熱効果でも充分説明できるし空気の微細な気泡を混合しそれがはじけるときに生じる超音波の機能を用いるとした理論よりも確実により合理的に説明できる。
【0012】
セルロースは350度C250気圧の超臨界流体内で単糖に分解され、へミセルロースは230度C150気圧の亜臨界流体内で単糖に分解されることが一般にも知られている。それらと同じ条件になる領域がキャビティーとともに存在しているとしたら、その領域が最大になるための操作条件を湿式擂潰機の運転方法に求めるのは当然であるし、それが当発明の製造法の原理となっている。
【0013】
[言葉の説明]
植物を分類するときに木本植物・草本植物との用語が使われる。木本植物は、発達した維管束形成層の分裂活動により肥大成長を行い生活様式により高木類、低木類、つる類に区分される。高木類の木本植物を樹木と呼ぶ。一方、植物はほとんどが維管束形成層を持たないため肥大成長は行わない。ヤシ類、竹類など一部の高木性植物を除けば草花と呼ばれる植物で野菜などはほとんどが草本植物である。当該技術は植物全般を対象とできるが、キャベツやナスビの実のように植物であるには違いないが堆肥にするために要する時間はもともと1程度なので当該技術を用い熟成を早めても相対的に堆肥にするために要する時間の差は大きくない。しかし、本植物の場合や草本植物であってもヤシ類、竹類のように高木の場合には大きな差が生じる。そこで「木等植物」と対象を広く表現した。ただし、硬い繊維質の実をつける草本植物や、もともと柔らかだったものだが乾燥したため硬い性質に変わってしまったものもあるので「木等植物」を対象とした。
【0014】
チップとは、湿式擂潰機に投入できるような大きさに整えてあるという意味で用いている。湿式擂潰機にも大きさにより種類が分かれているが、小型の30キロワット/時の湿式擂潰機の場合でチップ粒径はおおよそ10ミリメートル以下、大型の150キロワット/時の湿式擂潰機の場合でチップ粒径はおおよそ30ミリメートル以下にするのがよく、円滑に投入するにはその二分の一以下の直径に整えるのがよい。材料の大きさは無制限とはならないので「木チップ等植物チップ」との言葉を選択した。主に実施例の実証試験に用いたのは針葉樹の和杉のチップでチップ粒径はおおよそ10ミリメートル以下のものを用意した。ただし、ピーナッツ等ナッツ類・どんぐり・コーヒー豆・大豆・小豆・りんご・なし・かんきつ類など硬軟いろいろな果実もあり、これはこれで堆肥発酵において熟成に長期間を要するものもあるため、これらは植物チップに含めることとしたことは先に述べた通りである。
【0015】
湿式擂潰機については市販されているパルプ用コニック(図1の1、2と図2の1、2に示す外歯内面と内歯外面が円錐台形のもの)リファイナーを用いた。回転速度は内歯の周速が35m/秒を超えることが出来且つ外歯と内歯間の間隙を調整できるものを選択した。おおよそこれらの装置はインバーター(周波数変換による出力調整装置)で制御するモーターを用いているが、湿式リファイナーでキャビテーションを発生させるには周速を調整できるほうが便利なのでこの方式を選択した。パルプ用のリファイナーは本来キャビテーションを生じることを目的としたものではない。そのため歯の材質は鋳物製が多いが、鋳物材質の歯は避け超強力鋼の材質の歯を準備した。
【0016】
堆肥材料についてはまだ明確な区分分類が出来ていないのが業界学会の現状である。落ち葉やワラを積み重ね水をかけ発酵させることも堆肥発酵である。この場合使用する材料全てを発酵材料と呼んでいる。バーク堆肥など刻んだ樹皮にその他栄養素として家畜糞を混ぜ合わせ又は錬り込むようになると樹皮を堆肥発酵基材その他栄養素なる家畜糞を堆肥発酵資材と呼ぶ例も出てきた。木のチップは最も発酵が遅いため堆肥発酵基材とは呼んでも堆肥発酵資材と呼ぶ例は少ない。そこで堆肥に用いる材料全般を堆肥発酵材料又は堆肥材料と呼ぶことと定義し、最後まで形を残し栄養源になるだけでなく通気路や通水路を形成する役目のものを堆肥発酵基材又は発酵基材と、栄養源になるだけで通気路や通水路を形成しないものを堆肥発酵資材又は堆肥資材と定義した。
【0017】
木のチップはキャビテーション発生が出来る湿式擂潰機にて擂潰する前は硬さもあり、形状もしっかりしているので、堆肥発酵基材又は堆肥基材に分類するのが適当だが、キャビテーション発生が出来る湿式擂潰機にて擂潰した後はコロイド状になり、この時点では堆肥発酵基材ではなく堆肥発酵資材に分類するのが適当と考える。
【0018】
その後脱水を行うが当発明の実施例では掻きだしスクリュー刃付き縦型遠心脱水機といわれる縦型のスクリューデカンター30キロワット/時2000Gの能力のものを使用し約1200Gで用いた。このスクリューデカンターは市販のものである。制振性能の高いものを選択するのがよい。
【0019】
木のチップは数十ナノメートルサイズのミクロフィブリルにまで分解されその一部が糖化していると考えられる。少なくともミクロフィブリルは極性があるので凝集しやすいが制振性能が低いとG(重力)がいくら大きくても散乱が生じ上手く遠心分離ができないことがある。市販の縦型のスクリューデカンターの場合おおよそ100ナノメートルほどで分級している。又フィルタープレスやローラープレスでも分離は可能と予測するが、分級の程度は確認していない。
【0020】
乾燥は粉体乾燥機を用いればよい。ろ紙の上に厚み数ミリでコロイドを敷き市販の温風乾燥機で風を当てるだけでも厚紙状に乾燥する。遠心機で脱水を行ったものを更に乾燥すると粒状に乾燥することが出来る。この場合は粒子としての性質が復活しており通気路や通水路が存在するので堆肥発酵基材又は堆肥基材と呼んでもよいように思う。しかし一方極めて堆肥発酵が早いので堆肥発酵資材又は堆肥資材の性質も兼ね備えているともいえる。塊状のものも板状のものも粒子状のものも型にいれ圧縮したり押し出ししたりして整形することが可能で、一定の粒子径に形を整えることにより粒子間空隙を確保し通気路通水路としての働きを持たせることは可能である。これはコロイド化したことにより失った塊としての性質を回復させただけでなく、圧縮により整形した場合他の液状の栄養分を混ぜ合わせるとき吸水性が顕著に増すため液こぼれが少なくなったり混合の能率が上がったり運搬する容積が小さくなったり扱い上のメリットは大きい。以上を踏まえ「塊状に圧縮整形」という言葉を用いた。
【発明の効果】
【0021】
当該発明は、キャビテーションが作るのは空気の泡ではなく、蒸気の動態の変化による水蒸気の泡でなければ合理的説明がつかないことがこの発明の基となった。この泡がつぶれる瞬間、その中心は高温高圧の小さな圧力容器になり、小さな超臨界水熱反応領域、又は小さな亜臨界水熱反応領域になるのではないかという仮説が想定された。常温でキャビテーションを起こした場合でも予測通り単糖の生成が確認できた。最終的には液温を150度Cぐらいまで上げるとその濃度は更に上昇したが、平均液温平均液圧は超臨界領域には達していなかった。少なくとも超臨界近傍でなければ起こらないセルロースの単糖化分解を説明するために、「瞬間的な高温高圧域の存在」が生じていたとの説明が必要になった。まさに「点在する超臨界領域」の概念とキャビテーションのメカニズムの解析が一致し、しかも液の温度や圧力は産業技術である蒸気配管技術程度のレベルでまかなえることも確認できた。
【0022】
これらのことから実際には「平均液温が低い超臨界亜臨界水熱反応の利用方法」の発見に繋がるとの確信を持っている。この出願は今まで取り組んできた堆肥技術を更に高度にしようとの考えから考案したものであるが、当然堆肥ではなくセルロースの糖化分解法としても完成させたく試験実施を重ねている。
【0023】
実験に使った湿式擂潰機は、歯をこすり合わせることが可能なほど調整機能が整っており、かつ大型のためキャビテーションを起こす周速を確保できたが、パルプ製造技術分野にはフィブリル化という言葉があり、ミクロフィブリルにまですりつぶすと水切れが悪くなるので避けなければならないとの意味で使われてきた。最近では紙の表面を円滑にするためフィブリル化したものの利用が進み始めたようではあるが、機械装置の耐久性を守るためにもキャビテーションの発生を避けるようにしており、キャビテーションの利用経験の積み重ねはない。このキャビテーションの高温高圧領域の利用方法の発見によってキャビテーションの利用は大きく進むと思われるし、木材の「液体燃料化」には「平均液温が低い超臨界亜臨界水熱反応の利用方法」が欠かせない技術になると確信する。「点在する超臨界領域」の概念は、今まで小さな高温高圧の反応容器の中でしか実現しなかった超臨界流体の利用をより低圧より低温で可能にするので広く普及するに違いない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
《原料準備》材料は樹皮を取り除いた和杉材をチップにしたもので見かけ比重約0.2含水率は50%のものを使用した。粒子径を10ミリ以下に篩ったもので100リットル準備した。上蓋開閉式のドラム缶に100リットルの水をいれ更に和杉のチップを投入し蓋を密閉し蓋に取り付けたスリーブに吸引ポンプを接続しマイナス0.6気圧に減圧し6時間その状態を保った。蓋を開けて和杉チップを確認すると全量沈殿していた。和杉チップを浸した液は120リットルに容積が増えていた。このほかにもうひとつのドラム缶に80リットルの水を用意し図1の4に示す原料タンクに和杉チップを浸した120リットルと別に用意した80リットルの水を図1の4原料タンクに投入した。以上により200リットルでおおよそ200kgの原料液が準備できた。主成分である木の正味重量は100リットル×比重0.2×蒸発残分率0.5(1−含水率50%)=10kg、 主成分濃度は主成分重量10kg÷総重量200kg=5.0%になった。
【0026】
《起動》図1の7の入口弁並びに図1の8の出口弁を開き図1の1ステーター(固定歯)に密閉収納されている図1の2ローター(回転歯)を始動させるため図1の11インバーター(周波数変換による出力)変換装置を起動させ5Hzの低速回転をはじめた。その後、図1の5供給ポンプを運転するための図1の6の供給ポンプモーターを起動させ送液を開始した。ローターがポンプの代わりをするので図1の5供給ポンプ図1の6の供給ポンプモーターは必ずしも必要はない。ローターの力が不足する場合は取り付けるべきであるが図1の5供給ポンプのハウジングと中に収められたプロペラの間隙は大きいのがよく、運転途中で木チップによる詰りが生じないよう対策する必要がある。プロペラの先端を軸からの距離にして20ミリメートル以上の間隙があくよう切り落とすとうまくいく。
【0027】
《周速調整》ゆっくりインバーターの周波数を上げ、前もって計算しておいた周速になるまで上昇させる。基本的にはキャビテーションが生じる周速理論値は20メートル/秒といわれているが、キャビテーションが生じる条件は一定ではないので余裕を持たせ40メートル/秒の周速が出るような能力がよい。コニカル(コニック:台形 歯が円錐台の側面に並んでいるためこのような商品名が付けられている)リファイナーの場合ローターの最も外側の周速では40メートル/秒に調整できるのがよいようだ。
【0028】
《キャビテーションの確認》実際にはインバーターに流れる電流が、周速では20メートル/秒から30メートル/秒の間で急にジャンプアップし循環させていた。水が突然白濁し、金属音がし始めるので見逃すことはまずないが、これらがキャビテーションを発生し始めたシグナルである。
【0029】
《基本構造の説明》図2にステーター(固定歯)ローター(回転歯)を繋いでいたフランジを取り外しローターをステーターから抜き出した図を示した。又図3には抜き出したときのA−A` 断面図を掲載した。ステーター(固定歯)はハウジング内面が円錐台側面の形状をしており軸を通る平面と円錐台側面の交線に沿って内向きに正方形断面のレールが突出するよう特殊鋼のバーが埋め込まれており円錐台底面方向に側面がひろがるにつれレール数を増やしており、ローター(回転歯)はボス外面が円錐台側面の形状をしており軸を通る平面と円錐台側面の交線に沿って外向きに正方形断面のレールが突出するよう特殊鋼のバーが埋め込まれており円錐台底面方向に側面がひろがるにつれレール数を増やしている。このレールを増やしていく点が傘歯歯車の歯の形状と異なっている。いずれにしても市販品でありメーカーの工夫によるものであろう。図4に突出する歯の高さa並びに歯幅b歯の間隙cを図示した。装置規模にもよるがa,b,cとも各規模においてはおおよそ等しくなるように作ってあり30キロワット/時のものでおおよそ3ミリメートル、100キロワット/時の規模のものでおおよそ9ミリメートルのようである。
【0030】
《実施に使用した機械》この実施例の場合、100キロワット/時の規模の湿式擂潰機(商品名:コニックリファイナー)を使用した。ローターの最外直径は400ミリメートルΦで60Hzのときのモーターの回転数は1800回転/分である。60Hzの場合の周速を求めると0.4メートル×3.14×1800回転÷60秒=37.7メートル/秒になる。おおよそ48Hzで周速は30メートル/秒を超えることになる。この当りを目安にインバーターの操作をおこなう。おおよそ35Hzで白濁が始まっている。
【0031】
《実施試験の内容》計算通り48Hzに合わせるまで約5分を要した。その後30分間運転し停止させた。開始前の液温は約10度C終了時点では75度Cになっていた。運転開始前の液の糖度と24Hz240分運転した場合の液の糖度と48Hzで30分運転した場合の液の糖度を比較した。これらの運転時間は30分/(指定したHz/48Hz)3の計算で算出したものである。運転時間を回転速度の3乗に反比例し延長させるとおおよそ使用電力量を同じにすることができた。図5に示したとおり運転開始前の液は温度約10度C、24Hzで240分運転させた場合ほぼ原料水は沸騰し測定時点で90度Cであったが糖度はどちらも200ミリグラム/リットル以下(検査機械性能上未検出)であった。48Hzで30分運転した場合の液の温度は75度Cであったが糖度は1800ミリグラム/リットルとなった。これは最初の固形成分濃度5.0%のうちの0.18%が変化したものと読み取れるので固形成分のうち3.6%が単糖になったと読み取れる。光学式糖度計では48Hzのものは1%を超えた値を示したが、正しい計測法を選択しなかった可能性もあり結果としては考察の対象とはしなかった。
【0032】
《堆肥試験》運転開始前のものと48Hzで運転したものを10リットルずつプラスチックペール缶に取り出し容器を横むきに倒し水切りを1昼夜行い、横向きのまま市販の堆肥用微生物剤を噴霧し放置した。48Hzで運転したもののサンプルは含水率が60%以上あったが翌日からは糖蜜などの炭素源を混合しなくても発熱が始まり、窒素と燐の栄養成分を調整すると発酵温度は65度Cにまで上昇し更に2日目には乾燥が生じたため打ち水をおこなった。運転開始前のもののサンプルは含水率が50%ほどになっていたが窒素と燐の栄養成分を行い市販の堆肥用微生物剤を噴霧したが35度Cに到達しただけで、その後打ち水をしてもそれ以上の温度になるような発熱は生じなかった。結果30日で48Hzのものは完熟したことが堆肥試験の浸漬水COD試験で確認された。複数個のサンプルとも30日後には堆肥試験の浸漬水COD試験で完熟が確認された。現在土壌に50%混合し小松菜の発芽試験を行っているが全てのサンプルとも支障が出なかった。
【0033】
《余剰水の対策》この試験ではペール缶を横向きに流れ出た水の処理の問題があると思われたが、流出した水は打ち水(堆肥が熟成中に乾燥するのを防ぐために与える水)に用いたので問題は生じなかった。制振性の高い縦型遠心脱水機にて脱水を行うと蒸発残留成分が25%を超える固形物が得られるが、このときに分離された液分内に保持されている固形分の大きさは数10ナノメートル以下の粒子径に整えられていることも分った。液分を繰返し用いることにより最大粒子径が数10ナノメートル以下に整えられた単糖濃度の高い液が出来ると予測している。連続運転中に周期的にある濃度に達した液を取り出しアルコール発酵の原料にすることが出来るものと考えている。固形成分は同じ固体でありながらも元の木チップに比べてはるかに堆肥発酵に適していることは試験結果からも明らかであり、適当な水分を与えると機械脱水していないコロイド液と同等の発酵熟成が行える。脱水後の固形物はおおむね75%の水分を含むが、乾燥により40%以下にするとおおよそ腐敗は行われなくなり長期的な保管も可能になる。ただし粉体の性質が強くなるため空気中に舞い上がる欠点が生じた。この解決方法として請求項3の工夫が行われた。
【0034】
《まとめ》いずれにしても、コロイド状の液、コロイド状液を循環して用いたときに得られる高濃度のコロイド状液、脱水後の固形物。乾燥後の粉体物。脱水乾燥後の固形粉体混合物、圧縮整形後の固形物いずれもハンドリング上特色に差はあるが、堆肥発酵資材として発酵しやすさの点では木チップ等植物チップを原料とする従来のものに比べて画期的に優れている。 湿式擂潰機でキャビテーションを発生させ、硬い植物の繊維質の平均水温を上げずに超臨界亜臨界レベルで高温変質させたことにより微生物に資化させやすくした堆肥材料を製造する技術は他にない。
【実施例2】
【0035】
《原料準備》《起動》については実施例1と同様である。基本的に接液部が10気圧の耐圧構造で150度Cの耐熱構造仕様が必要になるが安全を見て180度Cの耐熱構造使用で整えておくとよい。図6の4原料タンクも基本的には密閉構造で同様の耐圧耐熱構造になる。バッチ式であれば図6の4原料タンクの蓋は耐圧10気圧のフランジ仕様になる。原料を投入した後蓋フランジをボルトナットにて締めこむことになる。市販の湿式擂潰機の場合その配管も含め耐圧使用10気圧耐熱仕様180度Cは難しくはなく通常のステンレス材を用いれば既製品でも容易に耐えることが分っている。その他構造的には図6の12圧力検知自動開閉バルブ、13安全弁、14原料タンク自動重量計、原料の自動供給を行う場合に使用する15原料自動供給圧送ポンプ、そのポンプを停止させたときに逆流を防ぐ16逆流防止自動弁、17加熱用蒸気の供給口、18蒸気逆流防止弁、19脱水機として市販の掻きだしスクリュー刃付き縦型遠心脱水機(バーチカル・シャープレス・デカンター)を付け加えた。
【0036】
《周速調整》周速調整は実施例1とは大きく異なる。圧力が加わるとキャビテーションは発生しにくくなるが、粘度が増すとキャビテーションは発生しやすくなるという2つの相反する条件が加わってくるためと考えている。密閉したため白濁化を見つけることが困難なことからキャビテーションの発生の有無はインバーターの周波数の増加具合に対し電流値が急激に上昇する時点を観察し推測することで確認した。液温が150度Cに上昇すると、ステーターの入口圧力が3.2気圧、出口圧力が4.2気圧を圧力計が示した。実施に用いた湿式擂潰機(コニックリファイナー)の入口出口の差は約1気圧であった。原料タンク内はおおよそ3.3気圧を圧力ゲージが示していた。大気圧表示が0気圧なので、大気圧分を加算して平均圧力は約4.3気圧、最大圧力は5.2気圧と計測した。
【0037】
《キャビテーションの確認》この場合キャビテーションを起こす周速は電流計のジャンプアップ地点から推定すると35メートル/秒ほどになったが原料を自動供給し自動排出も行う連続運転の場合は液粘度の上昇が考えられるので小さくなるものと予測する。今後の実施試験結果により正確に予測できるものになる。
【0038】
《基本構造の説明》ステーターやローターの基本構造は、実施例1と同様である。長時間の耐久性を確保するには区同軸のシールの工夫が必要と危惧したが、現在の市販の製品(メカニカルシール)で蒸気漏れはほとんどないので実用性は確保できたものと思う。
【0039】
《実施に使用した機械》実施に使用する機械も実施例1と同様である。ただし当実施例は運転終了後密閉容器が冷却したのを確認した後サンプル採取を行ったが、原料の自動供給方式自動排出方式を採用する場合は開放空間に湿り蒸気を排出するため19掻きだしスクリュー刃付き縦型遠心脱水機(バーチカル・シャープレス・デカンター)の原料投入口に配置するよう設計している。スクラバー(蒸気回収装置)に直結する方法や常温水中に排出し蒸気の冷却回収することも可能なことは容易に予測できる。
【0040】
《実施試験の内容》原料タンクに図6の20に示す10気圧のボイラー蒸気配管を接続し原料タンク内を130℃にすると圧力計は2.0気圧を表示した。これは実質3.0気圧の圧力に相当する。図6の7並びに8のバルブを開くと圧力計は1.0気圧実質2.0気圧に降下したが蒸気による過熱を継続し湿式リファイナーをインバーター5Hz運転すると約5分後には130度C圧力計表示2.0気圧、実質3.0気圧に到達する。インバーターを60Hzに上げると更に15分後には150度C3.0気圧実質4.0気圧に到達した。蒸気の供給を止め約45分間図6の4原料タンクの蓋を閉めたまま水道水を散水し冷却し水温が80度Cに降下した時点で蓋を開け更に自然冷却を行った。常温に戻し糖度計にて測定した結果5300mg/リットルの値を示した。
【0041】
《堆肥試験》掻きだしスクリュー刃付き縦型遠心脱水機(バーチカル・シャープレス・デカンター)に手動ポンプを用い原料タンク内の液を投入し実施例1と全く同じ条件で分離した固形分を堆肥試験した。実施例1と同様複数個のサンプルを採取し試験したが同様に熟成が早く全て30日以内に発酵が終了した。
【0042】
《余剰水の対策》掻きだしスクリュー刃付き縦型遠心脱水機(バーチカル・シャープレス・デカンター)で分離された液分は次の原料水として用いることもできる。
【0043】
《まとめ》加圧加温した場合、しなかった場合に比べ短時間にコロイド化が進む。同時に和杉チップを物理的に分解して得られる糖濃度も高くなっていることが分った。これらは加圧加温が単独で直接コロイド化を促進して糖濃度を高めたわけではなく、キャビティーがつぶれたときに生じる極めて小さい領域に集中する高温高圧状態が回りに広がり温度と圧力は低下していくが、超臨界または亜臨界の状態が確保される領域は周囲の温度圧力が高い分だけ冷却減圧が遅れ広がるためである。冷却減圧がさらに進むと超臨界または亜臨界の領域は順次消える。それゆえこのセルロースの分解能力に当る糖化能力は湿式擂潰機の中で単位時間当たりに生じるキャビティーの数とその運転時間とひとつのキャビティーが作る超臨界または亜臨界の水熱反応領域とその存在時間に正の相関を持つものと理論つけた。液温度と液圧力が高くなればなるほど冷却水温度も高くなるわけであるので冷却しにくく減圧も起こりにくいので、超臨界または亜臨界の水熱反応領域は大きくなりしかもその存在は時間的にも長くなったものと理論付けた。
【実施例3】
【0044】
用いた機械は市販のブリッケットマシン(練炭製造機)である。この機械は含水率が40%以下の粉体の圧縮凝固に用いるものである。前にも記述したとおり堆肥発酵基材としての機能には通気路通水路の確保がありまた他の特に液体の堆肥発酵資材との混合が手際よく出来る性状が望まれるため、圧縮整形を試みた。比重は1.0以上になり圧縮整形体は液に触れるだけで吸水を始め5倍以上に見かけ容積を増やす為堆肥材料としては最良質の通気路通水路を備えたものといえる。木を原材料としたこのような堆肥発酵基材はほかになくその特色故に請求項とした。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の製造方法を説明するための湿式擂潰機を中心とした機械装置の配置図を示す。
【図2】図1の湿式擂潰機を拡大した図と符合1固定歯(ステーター)から符号2回転歯(ローター)を引き出した分解図を示す。
【図3】図2のA−A` 断面図を示す。
【図4】図3の固定歯(ステーター)B−B` 断面図、図3の回転歯(ローター)C−C` 断面図、歯の固定の仕方を示す。
【図5】実施例1の試験結果比較表を示す。
【図6】請求項2の発明の製造方法を説明するための湿式擂潰機を中心とした機械装置の配置図を示す。
【図7】実施例2の試験結果比較表を示す。
【符号の説明】
【0046】
1・・湿式擂潰機固定歯(ステーター)、1−01・・湿式擂潰機固定歯(ステーター)ハウジング、1−02・・湿式擂潰機固定歯(ステーター)の歯取り付け面、1−03・・湿式擂潰機固定歯(ステーター)側フランジ、1−04・・湿式擂潰機原料液入口、1−05・・湿式擂潰機原料液出口、1−06・・湿式擂潰機固定歯(ステーター)側フランジボルト孔、1−11・・湿式擂潰機固定歯(ステーター)ハウジングうめ込み歯、2・・湿式擂潰機回転歯(ローター)、2−01・・湿式擂潰機回転歯(ローター)の歯取り付け面、2−02・・湿式擂潰機回転歯(ローター)側フランジ、2−03・・湿式擂潰機回転歯(ローター)側フランジボルト孔、2−04・・メカニカルシール、2−05・・駆動軸受ベアリング、2−06・・キー、2−07・・駆動軸、2−11・・湿式擂潰機回転歯(ローター)ボスうめ込み歯、a・・歯高、b・・歯幅、c・・歯の間隙、3・・湿式擂潰機回転歯(ローター)駆動インバーターモーター、4・・原料タンク、5・・原料送液ポンプ、6・・原料送液ポンプ用モーター、7・・湿式擂潰機入口開閉弁、8・・湿式擂潰機出口開閉弁、9・・湿式擂潰機入口圧力計、10・・湿式擂潰機出口圧力計、11・・インバーター、12・・圧力検知自動開閉バルブ、13・・安全弁、14・・原料タンク自動重量計、15・・原料自動供給圧送ポンプ、16・・逆流防止自動弁、17・・加熱用蒸気の供給口、18・・蒸気逆流防止弁、19・・掻きだしスクリュー刃付き縦型遠心脱水機(バーチカル・シャープレス・デカンター)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木チップ等の植物チップを、キャビテーションを発生する湿式擂潰機にて擂潰することにより、液状の、又は固形状の発酵材料を製造することを特徴とする高速発酵材料製造方法。
【請求項2】
木チップ等の植物チップを加圧加温した状態のまま、キャビテーションを発生する湿式擂潰機にて擂潰することにより、液状の、又は固形状の発酵材料を製造することを特徴とする高速発酵材料製造方法。
【請求項3】
上記請求項1又は請求項2の方法で製造した固形の発酵材料を、塊状に圧縮成形し吸水性を向上させることを特徴とする高速発酵材料製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−253925(P2008−253925A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99793(P2007−99793)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(393028210)株式会社元喜 (2)
【Fターム(参考)】