説明

魚卵外皮エキスの製造方法

【課題】鮭、鱈、ニシンなどにおいて有用な腹子(卵)を分離したのち廃棄されている魚卵外皮の有効利用を図ることのできるエキス製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】原料となる魚卵外皮をイオン化ミネラル液とともに蒸煮してその蒸煮液を分離し、この蒸煮原料を麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌などを単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、得られた発酵原料にカルボキシル基を有する有機酸を加えて醗酵熟成させ、さらにこの醗酵熟成液を殺菌濾過して得られた熟成ろ過液と予め分離しておいた蒸煮液とを混合してエキスを調製する。この魚卵外皮エキスは、動物由来プラセンタの代替品として好適に利用できるだけでなく、ミネラルリッチであることから生活習慣病の予防効果が期待される健康食品やアンチエージング効果が期待される化粧品原料などに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚卵外皮エキスの製造方法に関するものであり、一層詳細には、鮭、鱈、ニシンなどにおいて有用な腹子(卵)を分離した後にそのまま廃棄されている魚卵外皮(卵膜)の有効利用を図ることのできる魚卵外皮エキスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水産加工工程によって生じる廃棄魚肉、魚皮、魚骨等は、魚粉、魚油、畜産用飼料、農業用肥料等に加工され再利用されていることは周知である。
【0003】
また、魚皮、魚骨をプロテアーゼ処理することにより得られるゼラチンは食品素材として利用されており、(特許文献1)、一方、魚鱗や魚皮から抽出したコラーゲンは医療用生体材料あるいは化粧品材料などとして利用されている(特許文献2および特許文献3)。
【0004】
これとは別に、明太子の漬け汁を酵素分解処理することによって得られた明太子風味の調味料は、漬け汁中に残存しているタラコ(卵)およびタラコの外皮中の蛋白質が分解した低分子のペプチド、アミノ酸成分などとともに味付けのために添加した各種の主に天然調味料も含まれていることから、新風味の調味料として新たな用途の開発がされはじめている。
【0005】
【特許文献1】 特開平10−276680号公報
【0006】
【特許文献2】 特開平05−93000号公報
【0007】
【特許文献3】 特開2000−50811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、鱈、鮭、ニシンなど腹子(卵)を分離した後の魚卵外皮自体は、生理活性物質あるいは食品の栄養強化剤等として有用なアミノ酸成分を多量に有しているにもかかわらずそのほとんどが産業廃棄物として投棄されているため、海洋汚染の原因となっているだけでなく生態系への影響なども大きな問題となってきており、魚卵外皮の有効利用についての提案が待たれているのが現状である。
【0009】
一方、このような魚卵外皮と同様のアミノ酸成分を含んでいるプラセンタ(ヒト、牛、豚など哺乳動物の胎盤)は、アンチエージングおよび生活習慣病の予防効果が期待され、健康食品や化粧品原料として需要が大幅に拡大してきている。
しかしながら、動物由来のプラセンタは、BSEへの懸念や宗教上の理由などから敬遠する消費者が増加しているのも実情である。
このような事情から、胎生の海洋生物(例えば、鯨、イルカ、一部の鮫など)の胎盤を牛や豚などの動物由来プラセンタに代替する提案もなされているが、需要量に対する材料の安定的確保、供給あるいは製造方法などの面で種々の解決すべき課題があり商業レベルには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこでこの発明では、プラセンタと同様に有用なアミノ酸成分を多量に含んでいるにもかかわらず廃棄されていた魚卵外皮の有効利用を図るために案出されたものであり、具体的には、原料となる魚卵外皮を所定量のイオン化ミネラル液とともに蒸煮してその蒸煮液を分離し、次いで前記蒸煮原料を麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌などを単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて所定温度に保持して醗酵させ、得られた発酵原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて所定温度に保持して醗酵熟成させ、さらにこの醗酵熟成液を殺菌濾過して得られた熟成ろ過液と予め分離しておいた蒸煮液とを混合調製することにより魚卵外皮に含まれている有効成分を丸ごと水溶化して利用し得るようにしたものである。
【0011】
この場合、蒸煮液としては原料となる魚卵外皮を所定量の水で予め蒸煮して分離した第一蒸煮液と、前記蒸煮した魚卵外皮をイオン化ミネラル液で再び蒸煮して得られた第二蒸煮液を使用するのが好ましい。
【0012】
また、原料となる魚卵外皮としては、鱈の魚卵外皮、鮭の魚卵外皮、鰊の魚卵外皮などを好適に使用することができ、これらの魚卵外皮を単独でまたは2種以上を混合した魚卵外皮を使用することこともできる。
【0013】
さらに、イオン化ミネラル液としては、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを2.5:3.0:0.5の重量比で含む粉砕混合物を醗酵タンクに投入し、この混合原料1に対し水3を加え、攪拌しながら50〜100℃に加熱して澱粉をα化したのち30〜40℃に保温して粘稠混合液とし、この混合液を30〜40℃に保温して所定の麹菌を加えて複合醗酵させ、さらにこの複合醗酵させた混合液を1〜2ケ月熟成させて抽出調製した醗酵熟成液を使用するのが好ましい。
【0014】
さらにまた、蒸煮原料を醗酵する際、蛋白質分解酵素を添加すれば、蒸煮原料の分解・醗酵を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る魚卵外皮エキスの製造方法によれば;
(1)有用な腹子(卵)を分離した後の魚卵外皮を廃棄することなくそのまま再利用するので、投棄による海洋汚染や生態系への影響などを回避することができる。
(2)また、魚卵外皮含まれる低分子のペプチド及び各種のアミノ酸成分を含有する品質の優れた魚卵外皮エキスを製造することができる。
(3)さらに原料となる魚卵外皮には水溶性ミネラルを加えて加工するため、ミネラルリッチでバランスのとれた魚卵外皮エキスを製造することができる。
(4)さらにまた、得られた魚卵外皮エキスは、BSEへの懸念や宗教上の理由などから敬遠され始めている動物由来のプラセンタの代替品として好適に利用することができ、従って、生活習慣病の予防効果が期待される健康食品やアンチエージング効果が期待される化粧品原料としての需要に広く対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明に係る魚卵外皮エキスの製造方法の好適な実施の形態として鮭卵外皮エキスの製造方法を例示して以下詳細に説明する。
【0017】
図1において、本発明に係る鮭卵外皮エキスの製造方法方法では、まず、イクラ(卵)を分離した後の鮭卵外皮(魚卵外皮)を用意し、これをミルなどで細断することにより調製した原料としての鮭卵外皮500gと、水道水(Tapwater)から予め塩素などを除去した浄化水1000ccとを加熱用容器10に投入し、公知の加熱手段で加熱し所定時間沸騰させて半量まで蒸煮し、その温度が40℃〜50℃程度まで低下したらこの容器10内の蒸煮液を第一蒸煮液12として分離する。
このように鮭卵外皮を蒸煮することにより、殺菌と併せて鮭卵外皮が含有する水溶性の成分、例えば、カリウム、マンガン、さらには一部のカルシウムなどを第一蒸煮液12中に溶出させることができる。
なお、この場合、浄化水1000ccには、後述する水溶性イオン化ミネラル液を0.5%程度添加するのが好ましい。
【0018】
次に、容器10内に残った蒸煮鮭卵外皮に水溶性イオン化ミネラル液1000ccを加えて再び加熱蒸煮する。
【0019】
この場合、水溶性イオン化ミネラル液は、例えば、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを2.5:3.0:0.5の重量比で含む粉砕混合物を醗酵タンクに投入し、この混合原料1に対し水3を加え、攪拌しながら50〜100℃に加熱して澱粉をα化したのち30〜40℃に保温して粘稠な混合液とし、この混合液を30〜40℃に保温して所定の麹菌を加えて複合醗酵させ、さらにこの複合醗酵させた混合液を1〜2ケ月熟成させることにより調製したものを使用するが、前記水溶性イオン化ミネラル液の添加量が1重量%未満であると所望のミネラルバランスに調整することが難しく、また添加量が30重量%を超過すると水溶性イオン化ミネラル液に含まれる有機酸成分が多くなって若干の酸臭が生じるだけでなく、製造コストの面などから費用対効果の点で問題が生じることになる。
【0020】
なお、前述のようにして調製された水溶性イオン化ミネラル液は、5〜10重量%のミネラル成分(灰分)を含み、多量のカルシュウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄などのミネラルイオンの他に燐、銅、亜鉛、マンガン、硫黄、珪素などの微量ミネラル元素を含有している。
【0021】
そして、水溶性イオン化ミネラル液を加えた蒸煮鮭卵外皮を再び半量まで蒸煮することによりこの鮭卵外皮に含まれている有効成分(各種アミノ酸、ペプチドなど)を水溶性イオン化ミネラル液中のミネラルと結合させて溶出させ、さらに蒸煮した魚卵外皮を公知の手段でろ過することによりこの蒸煮鮭卵外皮16からミネラル結合型アミノ酸液である第二蒸煮液14を分離する。
【0022】
次いで、加熱容器10内に残した蒸煮鮭卵外皮16に対して、酒麹菌、醤油麹菌、味噌麹菌を単独でまたはこれらの2種以上の麹菌混合物18と蛋白質分解酵素20を加え、摂氏35度〜40度に保持することによりこの蒸煮鮭卵外皮16を醗酵させる。
この場合、麹菌あるい麹菌混合物18の分量は蒸煮鮭卵外皮(原料)16の1重量%〜30重量%の範囲に設定するのが好ましい。なお、麹菌あるい麹菌混合物18の分量が1重量%未満になると充分に醗酵しなかったり、醗酵に長時間を要し、また30重量%を超えると量が多すぎて経済性が低下することになる。
また、蛋白質分解酵素20としては、例えば、果物のパパイヤに含まれているパパイン、パイナップルに含まれているブロメリン、キウイに含まれているアクチニジン等のプロテアーゼなどを好適に使用することができ、その分量としては蒸煮鮭卵外皮(原料)16の0.5重量%〜5.0重量%程度を目安とするのが好ましい。
【0023】
このようにして得られた醗酵原料22を10日程度静置したのち、この醗酵原料22に、カルボキシル基を有する、例えば、酢酸あるいは乳酸などの有機酸溶液24を所定量加え、加熱ヒータによって35℃〜40℃に保持した状態で静電磁場および遠赤外線照射雰囲気においてゆっくり攪拌しながら流動させ、必要に応じて、電解磁化処理および太陽光照射を行って熟成し、原材料としての鮭卵外皮に含まれている有効成分(各種アミノ酸、ペプチドなど)を醗酵溶出させるとともに解離(イオン化)する。
なお、この場合、醗酵原料22に加える有機酸溶液24の量としては醗酵原料の2倍量〜10倍量に設定するのが好ましく、有機酸溶液24が醗酵原料の2倍量以下だと醗酵熟成に長時間を要し、また10倍量を超えると量が多すぎて熟成がうまくできず経済性も低下する。
また、本実施の形態では有機酸溶液24として酢酸あるいは乳酸を使用したが、そのほかにもカルボキシル基を有する有機酸であれば、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸なども好適に使用することができ、これらの有機酸を単独でまたは2種以上の混合物としたものも使用することができる。
【0024】
そして、このようにして得られた粘稠な醗酵熟成液26は、加熱あるいは紫外線照射などの手段で再び殺菌して3週間程度静置したのち精密濾過を行い、さらに沈殿物や澱を予め除去したのち、この熟成ろ過液と予め分離しておいた第一蒸煮液12および第二蒸煮液14とを混合して鮭卵外皮エキス28として抽出、調製する。
【0025】
このようにして得られた鮭卵外皮エキス28には、各種アミノ酸およびカルシウム,マグネシウム,カリウム,ナトリウムなどの主要ミネラルとともに鉄,亜鉛をはじめとする微量ミネラルなどが豊富に含まれており、その成分含量は次の通りであった。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】

【0028】
そして本発明で得られた鮭卵外皮エキス28と、動物(豚)由来のプラセンタエキスとの成分組成(表1及び表2)を比較すると、鮭卵外皮エキス28は動物由来プラセンタエキスと同様に有用なアミノ酸成分を多量に含んでいることから、動物由来プラセンタの代替として好適に使用することができる。
また、本発明で得られた鮭卵外皮エキス28はアミノ酸にNa、K、Ca、Mg、Fe、Znといった人体必須のミネラル結合型の抽出液であるため、動物由来も含めた従来のプラセンタにはみられない吸収性や電解性、解離性、水溶性などに優れるという特徴を有している。
さらに、ミネラル成分もリッチであることから生活習慣病の予防効果が期待される健康食品やアンチエージング効果が期待される化粧品原料はもとより新たな用途も含め、広範囲の需要に対応することができる可能性に富んでいることは明らかである。
なお、前述の好適な実施の形態においては、魚卵外皮として鮭の卵外皮を例示して説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、鮭の卵外皮のほかにも、例えば、鱈の魚卵外皮、鰊の魚卵外皮あるいは、これら二種以上を混合した混合魚卵外皮なども原料として好適に使用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る魚卵外皮エキスの製造方法の好適な実施の形態を示す概略工程説明図図である。
【符号の説明】
【0030】
10・・加熱容器、
12・・第一蒸煮液、
14・・第二蒸煮液、
16・・魚卵外皮(原料)、
18・・麹菌あるいは麹菌混合物、
20・・蛋白質分解酵素
22・・醗酵原料、
24・・有機酸液、
26・・醗酵熟成液、
28・・魚卵外皮エキス(鮭卵外皮エキス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料となる魚卵外皮を所定量のイオン化ミネラル液とともに蒸煮してその蒸煮液を分離し、次いで前記蒸煮原料を麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌などを単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて所定温度に保持して醗酵させ、得られた発酵原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて所定温度に保持して醗酵熟成させ、さらにこの醗酵熟成液を殺菌濾過して得られた熟成ろ過液と予め分離しておいた蒸煮液とを混合して調製すること特徴とする魚卵外皮エキスの製造方法。
【請求項2】
蒸煮液は、原料となる魚卵外皮を所定量の水で予め蒸煮して分離した第一蒸煮液と、前記蒸煮した魚卵外皮をイオン化ミネラル液で再び蒸煮して得られた第二蒸煮液である請求項1に記載の魚卵外皮エキスの製造方法。
【請求項3】
原料となる魚卵外皮として、鱈の魚卵外皮、鮭の魚卵外皮、鰊の魚卵外皮を単独でまたはこれらの2種以上の混合魚卵外皮を使用することからなる請求項1または2に記載の魚卵外皮エキスの製造方法。
【請求項4】
イオン化ミネラル液は、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを2.5:3.0:0.5の重量比で含む粉砕混合物を醗酵タンクに投入し、この混合原料1に対し水3を加え、攪拌しながら50〜100℃に加熱して澱粉をα化したのち30〜40℃に保温して粘稠混合液とし、この混合液を30〜40℃に保温して所定の麹菌を加えて複合醗酵させ、さらにこの複合醗酵させた混合液を1〜2ケ月熟成させて抽出調製した醗酵熟成液である請求項1〜3のいずれかに記載の魚卵外皮エキスの製造方法。
【請求項5】
蒸煮原料を醗酵する際、蛋白質分解酵素を添加することからなる請求項1〜4のいずれかに記載の魚卵外皮エキスの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造された魚卵外皮エキス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−207473(P2009−207473A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93006(P2008−93006)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(591135200)
【出願人】(501110134)株式会社関門海 (14)
【出願人】(502218455)
【Fターム(参考)】