説明

鮮度保持フィルム、その製造方法および使用方法

【課題】 数日から一ヶ月の短期間の鮮度保持に使用する多層フィルムの提供。
【解決手段】 光触媒を添加したマスターバッチを用い、表面層に光触媒を含有する層となるようにした多層構造のプラスチック、好ましくはポリオレフィンのフィルムからなる鮮度保持フィルム。未延伸フィルムを延伸して光触媒含有層を薄膜化し、光触媒を覆っているポリマー層を傷つけ、光触媒を露出させた態様を包含する。光触媒は、炭素あるいは炭素源とチタンアルコキシド等を乾燥雰囲気下で混合して加水分解させた後、この混合物を400℃以上好ましくは500℃から700℃で焼成してなる炭素含量0.01%から数%の酸素欠損型酸化チタンである。高温溶融したプラスチック中に光触媒を添加混練して調製したマスターバッチを表面層になるように配置してインフレーション法あるいはTダイ法で多層膜を製造する。必要に応じ多層膜を延伸する。光触媒を表面に露出させた薄膜層が野菜または果物が入った内側に来るように包装する鮮度保持に使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜や果物などの熟成を促進するエチレンを分解する光触媒を表面層に含有する包装用多層フィルム、その製造方法および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒の用途が拡大され、有機物質の分解性、抗菌性、超親水性等の機能を利用した建材、防汚塗料、空気清浄機、浄水、排水処理、排ガス処理等幅広く利用されるようになってきている。
【0003】
農産物の鮮度保持に光触媒が利用されるようになってきている。農産物は収穫された後、エチレンガスを出して熟成する。エチレンガスの濃度が高くなると更に熟成が進み、鮮度が落ちてくる。農産物の運搬のみならず、店頭に並べる場合でも密閉されることが多く、購入直後でも容器の底の商品は鮮度が著しく落ちているものが多く見受けられる。
【0004】
農産物から発生するエチレンガス除去対策として、吸着剤を使用して吸着除去する方法や触媒を利用する方法がある。吸着法では吸着速度が遅く、除去率が低いことが欠点である。触媒を利用する方法、特に光触媒を用いる方法は、光を照射することにより高速にエチレンガスを分解することから様々な光触媒鮮度保持剤や鮮度保持システムが提案され、実用化されている。
【0005】
例えば、農産物の保存庫内のガス流路中に光触媒を設置し、紫外線を照射して発生するエチレンガスを分解するシステム並びに光触媒を担持した包装材料や卵形など様々の形態の鮮度保持材料等が提案または実用化されている。
【0006】
光触媒を利用した鮮度保持剤として種々の提案がなされている。例えば、公開特許公報には無機系酸化物と酸化チタンを混合して焼成したもの(特許文献1)、多孔体表面に酸化チタンを担持したもの(特許文献2)、透明バインダーで酸化チタンを金属表面に担持させたもの(特許文献3)、硫酸根やニッケル種を含む低次酸化チタン複合体(特許文献4)などが提案されている。溶射法(特許文献5)や超臨界法(特許文献6)で担持させる方法などが提案されている。
【0007】
光触媒は紫外線あるいは可視光線を照射すると酸素ラジカルあるいはOHラジカルを発生し、有機物を分解する。光触媒の機能を発揮するには表面に露出し、分解させたいものと接触しなければならない。
【0008】
各種の素材に光触媒を担持させる方法として、光触媒前駆体のゾルを混練あるいは塗布して焼成する方法、光触媒をバインダーと混ぜて塗布する方法、光触媒をポリマーなどと混練して成型あるいはフィルム化する方法等が考えられるが、焼成する方法は450℃以上の高温で加熱するため、有機材料には利用できない。また、光触媒を塗布したり、混練してフィルム化あるいは成型する方法ではバインダーが光触媒を被覆して機能が著しく低下したり、プラスチック本体が劣化するため、塗布する場合も混練する場合も種々工夫されている。
【0009】
プラスチック表面にシリカ等のプライマー保護層を形成させた後(特許文献7−9)、光触媒表面を不活性なリン酸カルシウム(特許文献10、11)やシリカで被覆した材料(特許文献12、13)を塗布あるいは混練する方法がとられている。また、チタン−酸素−ケイ素結合を有する混晶を含む超微粒子混晶酸化物と熱可塑性樹脂を混練して、マスターバッチを作成し、光触媒機能性成型体が作られている(特許文献14)。いずれの方法も製造工程が煩雑で製造コストが高く、また、長期に使用することを主眼に製造されている。なお、光触媒活性のないルチル型の酸化チタンは顔料として多用されており、ポリマーと混練してマスターバッチを作り、これを利用して成型体が作られている(特許文献15)。
【0010】
【特許文献1】特開平10−084927号公報
【特許文献2】特開平10−033112号公報
【特許文献3】特開2003−000143号公報
【特許文献4】特開2004−201640号公報
【特許文献5】特開2000−303222号公報
【特許文献6】特開平10−194740号公報
【特許文献7】特開2005−035198号公報
【特許文献8】特開2004−058673号公報
【特許文献9】特開2000−189804号公報
【特許文献10】特開2003−093895号公報
【特許文献11】特開2003−039872号公報
【特許文献12】特開2003−104712号公報
【特許文献12】特開2003−062922号公報
【特許文献14】特開2004−067800号公報
【特許文献15】特開2004−018657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまでの光触媒を担持させたプラスチックフィルムは、プラスチックが光触媒により分解劣化するのを保護するために、プラスチック表面に光触媒で分解されないケイ素系の化合物などからなるプライマー層を形成した上に塗布する方法、または、光触媒の表面を多孔質のシリカあるいはアパタイトなどで被覆した光触媒を塗布する方法あるいは混練する方法などが用いられている。また、塗布するためのバインダーや混練したポリマーにより被覆されないような工夫が必要で、表面に凹凸をつけたり、ひっかき傷をつけるなどの工夫がなされている。包装紙などのフィルムに光触媒を多量に混練すると、光触媒が光を吸収するために、フィルムの内側の表面層で光触媒反応を誘起するだけの光量が不足するため、添加する光触媒量を少なくするか、薄膜化する必要がある。
【0012】
本発明は、数日から一ヶ月の短期間の鮮度保持使用を目的としており、光触媒によるポリマーの劣化を考慮せず、光触媒を表面に露出させた薄膜層を表面に形成させた安価で大量生産が容易な多層フィルムとその製造方法および使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の(1)〜(5)の鮮度保持フィルムを要旨とする。
(1)光触媒を添加したマスターバッチを用い、表面層に光触媒を含有する層となるようにした多層構造のプラスチックフィルムからなることを特徴とする鮮度保持フィルム。
(2)多層構造のプラスチックフィルムがポリオレフィンフィルムである上記(1)の鮮度保持フィルム。
(3)光触媒が、炭素あるいは炭素源とチタンアルコキシド等を乾燥雰囲気下で混合して加水分解させた後、この混合物を400℃以上で焼成してなる炭素含量0.01%から数%の酸素欠損型酸化チタンであることを特徴とする上記(1)または(2)の鮮度保持フィルム。
(4)上記の焼成温度が500℃から700℃である上記(3)の鮮度保持フィルム。
(5)上記の多層構造のプラスチックフィルムが、未延伸フィルムを延伸して光触媒含有層を薄膜化するとともに、光触媒を覆っているポリマー層を傷つけ、光触媒を露出させたフィルムである上記(1)ないし(4)のいずれかの鮮度保持フィルム。
【0014】
本発明は以下の(6)および(7)の鮮度保持フィルムの製造方法を要旨とする。
(6)上記(1)から(5)のいずれかの鮮度保持フィルムを製造する方法であって、高温溶融したプラスチック中に光触媒を添加混練して調製したマスターバッチを表面層になるように配置してインフレーション法あるいはTダイ法で多層膜を製造することを特徴とする鮮度保持フィルムの製造方法。
(7)多層膜を延伸し、光触媒含有層を薄膜化するとともに、光触媒を覆っているポリマー層を傷つけ、光触媒を露出させることを特徴とする上記(6)の鮮度保持フィルムの製造方法。
【0015】
本発明は以下の(8)の鮮度保持フィルムを数日から一ヶ月の短期間鮮度保持に使用する方法を要旨とする。
(8)上記(1)から(5)のいずれかの鮮度保持フィルムを、その光触媒を表面に露出させた薄膜層が野菜または果物が入った内側に来るように包装し、該野菜または果物の熟成を促進するエチレンを光触媒により分解することを特徴とする、数日から一ヶ月の短期間鮮度保持に使用する方法。
【発明の効果】
【0016】
果樹や野菜など鮮度を保持するためには熟成を促進する農産物から放出されたエチレンを除去する必要がある。
上記(1)の発明によれば、光触媒を含んだマスターバッチを用い、表面層に光触媒を含むフィルム層となるように配して製造した多層膜の鮮度保持フィルムを提供するものである。表面の光触媒を含む層が厚さ1〜50μm、好ましくは1〜10μmの多層膜(5〜100μm)である。光触媒フィルム層を薄膜化することにより、光のフィルム中での吸収を抑え、効果的に表面層で光触媒反応を誘起することができる。また、薄膜の光触媒層が光反応により劣化してもフィルム強度に影響しない特徴を有している。
上記(2)の発明によれば、用いるフィルムが安価で汎用的に用いられているポリオレフィンフィルムであり、マスターバッチも同質のポリマーに光触媒を混練して調製するため、フィルムの接着性が優れ、強度の高い、光触媒を含む層を薄膜化できる。
上記(3)、(4)の発明によれば、用いる光触媒が、炭素あるいは炭素源とチタンアルコキシド等を乾燥雰囲気下で混合して加水分解させた後、この混合物を300℃以上、好ましくは500℃から700℃で焼成してなる炭素含量0.01%から数%の酸素欠損型酸化チタンであることを特徴としている。すなわち、炭素上にチタン化合物を付着させて加水分解させ、炭素を加熱燃焼させるもので、燃焼するときに、炭素の還元性により酸化チタンの酸素が奪われるために、酸素欠損型酸化チタンが生成する。酸素欠損型の酸化チタンは可視光応答型の光触媒機能を示すことが期待される(特開2004−322045)。当該光触媒は、アナターゼ型酸化チタンあるいはルチル型酸化チタンおよびそれらの混合物である。
可視光応答型光触媒は店頭の照明によって光触媒反応が誘起され、陳列下での鮮度保持が期待できる。生成される酸化チタンの粒径は使用する炭素材料に影響されるが、十数nmから数十nmの粒子がつながったものが得られ、サブミクロンオーダーの微粒子が得られる。
【0017】
上記(5)の発明によれば、加熱溶融したポリマー中に上記(3)、(4)の発明の酸化チタンを添加・混練してマスターバッチを調製し、このマスターバッチを用いたフィルム層が表面層になるように配置してインフレーション法あるいはTダイ法で多層フィルムを製造する鮮度保持機能を有するフィルムの製造方法である。すなわち、溶融したポリマーを複数の押出機により金型のダイから押出し、先端を挟み、空気を送り込んで所定の大きさまでふくらませ、連続的に多層フィルムを製造する方法であり、Tダイ法は、上から下に向かって直線状スリットから押し出して連続フィルムを製造するものである。酸化チタンを含むフィルム層は1〜50μmでよいが、フィルム層の厚さはこの範囲に特定されるものではない。なお、光触媒を含む層はできるだけ薄膜化することが望ましい。なお、また、マスターバッチ中の酸化チタンの添加量は数%から60数%でよいが、酸化チタンの添加量の多いマスターバッチを用い、できるだけ薄膜化(1〜10μm)することにより、表面層に露出する酸化チタン量が多くなるものと期待される。
【0018】
(6)の発明によれば、上記(5)において調製した多層膜を2〜6倍延伸して、酸化チタン光触媒を含有する層を薄膜化するとともに、酸化チタンを覆っているポリマー層が硬い酸化チタン上で引き裂かれ、酸化チタンが表面に露出する。より薄膜化することにより、光の透過量を確保するとともに、表面に露出する酸化チタン量が増すことが期待される。
【0019】
上記(7)の発明によれば、上記(1)から(4)のいずれかの鮮度保持フィルムを、その光触媒を表面に露出させた薄膜層が野菜または果物が入った内側に来るように包装し、該野菜または果物の熟成を促進するエチレン及び浮遊細菌等を光触媒により分解することを特徴とする、数日から一ヶ月の短期間鮮度保持に使用する方法を提供することができる。
なお、発明の光触媒層を含む多層フィルムは鮮度保持剤として利用できるだけでなく、窓ガラスに貼ることにより、室内の浄化及び紫外線防御にも利用できる。さらに壁紙や家具の保護フィルムとしても利用可能と考えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の多層構造のプラスチックフィルムについて説明する。
まず、本発明の多層構造のプラスチックフィルムは、例えば二軸延伸フィルムであり、好ましくはポリオレフィン系樹脂と光触媒を添加したマスターバッチを必須成分とするものであり、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とした多層のフィルムを意味している。
【0021】
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン系単量体の単独重合体または共重合体もしくはこれらの混合物であり、オレフィン系単量体とはエチレン及びα−オレフィンであり、α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。
【0022】
本発明において用いられる光触媒を添加したマスターバッチは、光触媒をポリオレフィン系樹脂であるマスターバッチ用樹脂に高濃度で含有させたものである。
ここで、本発明で用いられる光触媒としては、チタンアルコキシド等のチタン化合物とアセチルカーボンや活性炭などの炭素源とを乾燥雰囲気下で撹拌して混合し、所定時間加水分解させ、生成した粉末状の混合物を加熱炉に入れ、大気中、好ましくは酸素量を制御した空気気流中で300℃以上、好ましくは500〜700℃で加熱し、炭素を燃焼させるとともに、チタンをアナターゼ型の酸化チタンあるいはアナターゼ型とルチル型酸化チタンの混合物とする。炭素の残存量を0.01%から数%とすることにより、酸素欠損型の酸化チタンとするものである。加熱法としては電気炉、ガス炉、マイクロ波加熱炉が使用できる。炭素を原料とすることから、炭素はマイクロ波吸収性が優れているため、短時間に加熱でき、かつ、反応条件の制御が容易であることからマイクロ波加熱炉を用いることは非常に有効である。
【0023】
次いで、本発明にて用いられるマスターバッチについて説明する。
ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンポリマーを高温で溶融状態とし、上記の加熱焼成法で調製した酸化チタンを数%から60数重量%の割合で添加して(実施例では30重量%)混練した後、押出成型して数mm大のマスターバッチを製造する。
【0024】
このマスターバッチを用いて、表面層に酸化チタンを含む層が調製できるように配置して多層膜を調製する。多層膜を調整する方法としてはインフレーション法あるいはTダイ法を用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。図1にインフレーション法のフロー図を示す。(1)が押出機で、(6)のダイから押出す。多層膜を作る場合は押出機が層の数だけ必要で、ダイに複数の樹脂入り口を設ける。押し出された樹脂は(8)のピンチロールで挟み、(5)、(7)のエアーリングから空気を吹き込みふくらませ、生成したフィルムを(9)で巻き取る。ダイの構造の一例を図2に示す。3層フィルムを作るダイであり、(1)(3)は樹脂の入り口であり、内側の(2)から酸化チタンを含有する樹脂を押し込むものである。
【0025】
図3はTダイ法のフロー図である。(1)が押出機、(6)のダイから上から下に押出し、チルロールで引き空気をブロアーしながらピンチロールでフィルム化しながら巻き取るものである。Tダイ法の場合も、層の数だけ押出機が入り、だいにはその数だけ樹脂入り口が存在する。これらの装置を用いて、表面に光触媒を含有する厚さ数μmから50μmの薄膜層を形成させた多層膜フィルムを製造する。本法によって調製した多層フィルムの内表面には酸化チタンが露出しており、メチレンブルー法で光触媒機能を有することを確認した。
【0026】
さらに、本法で調製した多層フィルムを延伸することにより、光触媒を含有する層を薄膜化する。この際酸化チタンを覆っているフィルムが傷つけられ、表面に露出する酸化チタンが多くなり、光触媒機能を効果的に発揮することが期待される。光触媒層の比率の小さい厚膜を作り、それを延伸するものである。一般に、無機充填剤を多量に含有するポリエチレン系樹脂組成物からなる未延伸フィルムを延伸すると、ポリエチレンと無機充填剤との界面において剥離が起こり空隙(ボイド)ができる。本発明においては、光触媒層の比率の小さい厚膜を作り、それを延伸することにより、光触媒含有層を薄膜化するとともに、光触媒を覆っているポリマー層を傷つけ、光触媒を露出させるにとどめる。
また、一般に、無機充填剤を多量に含有するポリエチレン系樹脂組成物からなる未延伸フィルムを延伸すると空隙(ボイド)ができるのみならず、さらにフィルム中の空隙を連結する<貫通孔
>と呼ばれる細孔 が形成され透湿性が発現すると考えられている。本発明においても、延伸しすぎると酸化チタンを覆っていたポリマー層の破壊が進み、脱落する酸化チタンが多くなり、光触媒機能の低下が認められた。延伸は好ましくは6倍程度までと考えられる。
【0027】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
アセチレンブラック1gとチタニウムイソプロポキシド4.3gを窒素雰囲気下で撹拌混合した後、大気中で4時間撹拌した。得られた粉末状の前駆体を雰囲気炉中に入れ、所定温度で8時間加熱した。得られた生成物のX線回折図を図4に示す。加熱焼成温度が300℃から光触媒活性のあるアナターゼ型の酸化チタンの回折線が見られ、温度が高くなるほどそのピークが高くなり、結晶化が進んでいることがわかる。600℃以上になると光触媒活性の小さい高温安定型のルチルの回折線が現れている。これらの試料についてSEM写真像を図5に示す。焼成温度が300℃の場合、粒子が明確ではなく全体につながっているが、温度が高くなるにつれ、明確な結晶粒子がつながった形になっていることがわかる。
これらの酸化チタンについて市販されている標準的な酸化チタンであるP−25と比較して光触媒活性を測定した。150mlのビーカーに10ppmのメチレンブルー水溶液50mlを入れ、次いで、0.1gの酸化チタンを添加し、撹拌しながら上方から300 Wの白熱球で照射した。メチレンブルーの吸光度の変化を一定時間ごとに測定した。その結果を図6に示す。本発明の酸化チタンは標準の酸化チタンP−25に比べ、可視光線ランプである白熱球の照射下において吸光度が急速に低下し、メチレンブルーの分解活性が高いことが分かる。特に、500℃で調整した酸化チタンの触媒活性が高いことが分かる。
【実施例2】
【0029】
大量入手が可能な市販の酸化チタンを用いて、酸化チタン含有フィルムを調整した。市販の酸化チタン中最も優れた光触媒の一つと言われているI社製の粉末酸化チタン(ST−01)を試料として用いた。この酸化チタンをポリエチレン中に30重量%加え、溶融混練してマスターバッチを調製した。このマスターバッチを用いて、酸化チタン含量が所定割合(9%および4.5%)になるように混練して、インフレーション装置で単層の厚さ10μm、20μm、30μmのフィルムを調製した。調整したフィルムについて光触媒機能をメチレンブルー水溶液で測定した。ビーカーにフィルムを貼り付けて10ppmメチレンブルー水溶液を50ml添加し、150mWのブラックライトで照射した。所定時間ごとにメチレンブルー濃度を分光法で測定した。酸化チタン含量とメチレンブルー脱色能を調べた結果を図7に示す。酸化チタン含量が多いほど光触媒活性が強く、脱色率が高くなった。
酸化チタン含量9%でフィルムの厚みが30μm及び20μmのもの及び酸化チタン含量4.5%でフィルムの厚みが30μmと10μmのものについてメチレンブルー脱色能を調べた。その結果を図8に示す。フィルムの厚さは光触媒機能に大きな影響がなく、フィルム表面に存在する酸化チタン濃度が大きく影響するものと考えられる。フィルム厚が薄くなると若干、光触媒機能が増すが、フィルムの厚みは光の透過に影響するため、薄い方が望ましい。
【実施例3】
【0030】
アセチレンブラック832gとエタノール8210gを加えて混合したものに、チタンテトライソプロポキシド15kgを添加し、窒素雰囲気中で1時間程度、混合する。その後、水蒸気を通じながら4時間撹拌して加水分解させた。送入した水蒸気の量は水に換算して、4Lである。これを250Lの大型反応容器中で外部からガス加熱、導入量を制御しながら空気を導入し、4時間加熱焼成した。
得られた酸化チタンのX線回折図を図9に示す。アナターゼの回折ピークより、ルチルの回折ピークの方が大きく、ルチルが多く生成していることが分かる。この粉末試料についてI社製の酸化チタン(ST−01)と比較してメチレンブルー脱色能を測定した結果を図10に示す。本発明の方法で焼成した酸化チタンはルチルを多く含んでいるにもかかわらず、光触媒機能は同等であることが分かる。
この酸化チタンを高温溶融したポリエチレン中に添加してマスターバッチを調製し、次いで、インフレーション法で酸化チタン含量4.5%、10μmの単層フィルムを製造した。本フィルムとI社製の酸化チタンを用いて調整した酸化チタン含量4.5%のフィルムについて、メチレンブルー脱色能を150mWブラックライト照射して測定した。測定した結果を図11に示す。I社の酸化チタン(ST−01)を用いて調整したフィルムより、脱色能が高いことが認められた。
【実施例4】
【0031】
アセチレンブラック832gとエタノール8210gを加えて混合したものに、チタンテトライソプロポキシド15kgを添加し、窒素雰囲気中で1時間程度、混合する。その後、水蒸気を通じながら4時間撹拌して加水分解させた。送入した水蒸気の量は水に換算して、4Lである。これを250Lの大型反応容器中で外部からガス加熱下、空気を導入しながら4時間加熱焼成した。
この酸化チタンを高温溶融したポリエチレン中に添加して酸化チタン30重量%のマスターバッチ(ペレット)を調製した。次いで、これを用いて酸化チタン4.5重量%になるようにポリエチレンで希釈し、インフレーション法で三層構造のフイルムを製造した。最内層に二酸化チタン(4.5重量%)含有層、中間層、最外層からなる三層フィルムでフィルムの層厚みを30μmとし、最内層及び中間層の厚みを変えて3種類の多層フィルムを調製した。
(1) 最内層/中間層/最外層=10/10/10μm
(2) 5/15/10
(3) 3/17/10
(4) PEのみ30μm
これらの4枚のフィルムについて紫外・可視光の透過率を測定した結果を図12に示す。紫外線領域及び可視光領域ともに、二酸化チタン含有層が薄くなるほど光の透過率が高くなることは明らかである。また、参考品として、上記のマスターバッチ(ペレット)を用いて酸化チタン9重量%になるようにポリエチレンで希釈し、二酸化チタン9重量%の単層フィルムを製造した。
【実施例5】
【0032】
これらのフィルムをメチレンブルー水溶液の上層部に設置し、ブラックライトを照射し、フィルムを透過した光によるメチレンブルーの分解能を測定した。比較として実施例4で調製した二酸化チタン9重量%の単層フィルム分解能を調べた。単層フィルムの場合、光が透過せず、分解できなかったため、フィルムを底に貼り付けて光を上部から照射して脱色能を調べたものである。この結果、図13に示すように二酸化チタン含有層が薄いほど、メチレンブルー脱色能が大きいことが分かる。さらに、二酸化チタンを高性能化し、薄膜化することにより、分解能の優れたフィルムを調整が可能であることが分かる。
【実施例6】
【0033】
実施例4と同様な条件で調製した酸化チタンを高温溶融したポリエチレン中に添加して酸化チタン30重量%のマスターバッチ(ペレット)を調製した。次いで、これを用いて酸化チタン4.5重量%になるようにポリエチレンで希釈し、インフレーション法で三層構造のフイルムを製造した。酸化チタンの含有層の厚さ10μm、全体のフィルムの厚さを180μmの三層フィルムを調製し、6倍延伸、8倍延伸した。6倍延伸では全体の層厚が30μm、酸化チタン含有層の厚さが1.7μm、8倍延伸では全体の層厚が22.5μm、酸化チタン含有層が1.2μmであった。これと比較するために実施例4で調製した酸化チタン含有量4.5%、酸化チタン含有層3μm、17μm、10μmで全体の層厚30μmのフィルムと可視光域での透過率及びメチレンブルー脱色能を調べた。その結果を図14及び図15に示す。延伸度を上げるつれ透過率は向上するものの、6倍延伸のフィルム(1.7μm)と3μmの三層フィルムとの差がないことが分かった。脱色性能は8倍延伸したものは性能が低下しており、6倍延伸したものは3μmのフィルムと同等の脱色能を示した。大きな延伸をかけると薄膜化するものの、酸化チタンを被覆しているプラスチック層が破壊され、酸化チタンの脱落の可能性が示唆された。6倍以内の延伸が効果的と考えられる。
【実施例7】
【0034】
二酸化チタンの含有層が3μmの多層フィルムの鮮度保持機能を調べた。植物の熟成は植物から発生するエチレンにより促進され、劣化が進むことが知られている。カットネギを本発明のフィルムに添加して密封した。比較としてPEフィルムについても調べた。フィルムの層厚みは30μmである。カットネギの変化を調べた結果をまとめて表1(カットネギの鮮度保持機能評価試験結果)に示す。
また、経過の写真を写真1〜4(図15)に示す。写真1が充填直後、写真2が1日後、写真3が2日後、写真4が4日後での写真である。光触媒含有しないフィルムでは1日目から変化が認められ、2日目には腐敗臭が始まり、4日目には完全に腐敗した。酸化チタン含有フィルムでは4日目においても腐敗臭は認められなかった。本発明のフィルムは鮮度保持機能を有することは明らかである。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
農産物はエチレンを生成して熟成し、鮮度が低下するが、生成したエチレンは更に熟成を促進するため、エチレンの速やかな除去が求められている。エチレンの除去に光触媒を用いるシステムが提案されているが、店頭で陳列されている間の鮮度低下には対処できない。スーパー等で販売される農産物は非常に大量であり、光触媒をコーティングしたセラミックスの卵や容器では対処できない。陳列棚の照明などの可視光でも触媒活性の高く、安価な包装用フィルムが有効であると考えられる。食品包装用のポリオレフィンフィルムに酸化チタンを含有する薄膜層をつけた多層膜の開発を目指した。添加物のない酸化チタンは焼成しても無害であり、使用済みのフィルムは熱回収が可能である。光触媒をポリマー中に添加すると光触媒によるポリマーの劣化が問題となり、添加するために様々な工夫がされており、このため高価となっている。本発明では農産物の貯蔵、陳列間の短期間の鮮度保持を目的とし、光触媒層を薄膜化して、光触媒による劣化の強度への影響を最小限にするものである。安価な可視光で応答する光触媒を利用することにより、陳列用の照明によっても光触媒機能を発揮するものである。イチゴ、桃、バナナ、ブドウなどの鮮度保持用包装材料として有用であり、殺菌効果も期待でき幅広く生鮮食品流通関係に応用されるものと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】インフレーション法のフロー図
【図2】インフレーション用多層スパイラルダイ
【図3】Tダイ法のフロー図
【図4】アセチレンブラック焼成法で調整した酸化チタンのX線回折図
【図5】アセチレンブラック焼成法で調整した酸化チタンのSEM写真
【図6】アセチレンブラック焼成法で調整した酸化チタンのメチレンブルー脱色能
【図7】酸化チタン含量の異なるフィルムのメチレンブル脱色能
【図8】酸化チタン含有フィルムの厚みとメチレンブルー脱色能
【図9】大型装置で焼成した本発明の酸化チタンのX線回折図
【図10】本発明粉末酸化チタンのメチレンブル脱色能
【図11】本発明酸化チタン含有フィルムのメチレンブルー脱色能
【図12】多層フィルムの紫外・可視光の透過率
【図13】多層フィルムの透過光による脱色試験
【図14】延伸フィルムの紫外・可視光の透過率
【図15】延伸フィルムの透過光による脱色試験
【図16】カットネギの鮮度保持機能評価試験の経過を示す写真である。
【符号の説明】
【0038】
1 押出機
2 ホッパー
3 シリンダー
4 ブロアー
5、7 エアーリング
6 ダイ
8 ピンチロール
9 巻き取り器
10.11,12 樹脂の入り口
13 空気の入り口
14 チャンバー
15 チルロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を添加したマスターバッチを用い、表面層に光触媒を含有する層となるようにした多層構造のプラスチックフィルムからなることを特徴とする鮮度保持フィルム。
【請求項2】
多層構造のプラスチックフィルムがポリオレフィンフィルムである請求項1の鮮度保持フィルム。
【請求項3】
光触媒が、炭素あるいは炭素源とチタンアルコキシド等を乾燥雰囲気下で混合して加水分解させた後、この混合物を400℃以上で焼成してなる炭素含量0.01%から数%の酸素欠損型酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2の鮮度保持フィルム。
【請求項4】
上記の焼成温度が500℃から700℃である請求項3の鮮度保持フィルム。
【請求項5】
上記の多層構造のプラスチックフィルムが、未延伸フィルムを延伸して光触媒含有層を薄膜化するとともに、光触媒を覆っているポリマー層を傷つけ、光触媒を露出させたフィルムである請求項1ないし4のいずれかの鮮度保持フィルム。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかの鮮度保持フィルムを製造する方法であって、高温溶融したプラスチック中に光触媒を添加混練して調製したマスターバッチを表面層になるように配置してインフレーション法あるいはTダイ法で多層膜を製造することを特徴とする鮮度保持フィルムの製造方法。
【請求項7】
多層膜を延伸し、光触媒含有層を薄膜化するとともに、光触媒を覆っているポリマー層を傷つけ、光触媒を露出させることを特徴とする請求項6の鮮度保持フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかの鮮度保持フィルムを、その光触媒を表面に露出させた薄膜層が野菜または果物が入った内側に来るように包装し、該野菜または果物の熟成を促進するエチレンを光触媒により分解することを特徴とする、数日から一ヶ月の短期間鮮度保持に使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−307884(P2007−307884A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187881(P2006−187881)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【出願人】(305010137)吉田樹脂化学株式会社 (1)
【Fターム(参考)】