説明

鰻の連続酵素分解方法

【課題】鰻の加工残さいを構成する中骨とそれに付着する肉、頭や内臓などに対して酵素反応を利用して、骨、油と油溶解成分、水溶性のペプチドやアミノ酸を作製し、それぞれを分離回収することにより、加工残さいを有効利用するための酵素分解プロセスを提供する。
【解決手段】以下の4工程で構成される連続酵素分解方法。
第1工程:蛋白質分解酵素による反応液を固液分離機で10μm以上の固形物を除去する。
第2工程:反応液を遠心分離機で油溶性と水溶性成分とに分離する。
第3工程:水溶性成分を分子量50、000以上の分子および直径20nm以上の粒子とペプチドやアミノ酸などの反応生成物とを孔拡散式膜分離装置で分離し、拡散液を濃縮する。
第4工程:第3工程で生じた該高分子成分と該粒子成分とを第1工程へ循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鰻の加工残さいを構成する中骨とそれに付着する肉、頭、内臓などに対して酵素反応を利用して骨、油脂成分、蛋白分解成分を作製し、それぞれを分離回収することにより、加工残さいを有効利用するための分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鰻を蒲焼加工した際に中骨や頭や内臓などが加工残さいとして鰻重量の約2割発生する。その多くが廃棄物として処理されているため資源としての有効利用されていない。ただし、加工残さい中の中骨については、骨粗鬆症の予防に効果のあるカルシウム粉末の原料として微粉末化する試みがなされている(特許文献1〜7)。これらの試みは一般的に動物あるいは魚類を対象にするもので鰻に特定化した技術は少ない。
【0003】
骨を加熱水あるいは高圧水処理により骨髄成分などを水中に溶解除去する方法(特許文献1、2)、1規定以上の高濃度のアルカリ水溶液による加熱処理により蛋白質や脂肪を分解除去する方法(特許文献4)、その他骨を焼くことによってガス化する物質を除去する方法は一般的によく知られている。
【0004】
微生物あるいは酵素を用いて骨に付着する蛋白質や脂肪分を分解除去する方法(特許文献5)を含めて、上記の方法の複数個を組み合せる方法(特許文献6,7)が知られている。これらの方法も骨の細粉を得る技術を提供するものであり、本発明の鰻の加工残さいのすべてを有効利用しようとするものではない。
【0005】
一方、骨以外の組織から有効成分を回収する試みがある。たとえば、魚を原料として魚油や魚蛋白質を回収する方法(特許文献8)あるいは酵素たとえばプロテアーゼで蛋白質を処理する事により調味エキスを作製したり、脂肪分をリパーゼで分解して油分と抽出エキスを有効利用する試み(特許文献9)がある。これらの試みは骨以外の成分を利用するためには酵素反応あるいは微生物を利用することが必要であることがわかる。しかし、この方法を産業的に利用することは後述する多くの解決すべき問題点がある。骨以外の魚肉などを蛋白分解酵素で分解して生成される特定のペプチド成分が血圧降下剤として有効であること(特許文献10)から鰻の加工残さいを酵素分解して作製されるペプチドやアミノ酸などにも同様な生理作用が期待できる。
【0006】
酵素(あるいは微生物も同様であり、以下両者を酵素で代表させる)を利用した後始末の処理方法には下記の問題点があり、このため鰻の加工残さいを有効利用することが出来なかった。問題点として、(a)高価な酵素を使用し、反応後は失活させる。そのため酵素は一度限りの反応に利用されるのみで生成物の製造コストに占める酵素のコストの比率が高くなり、経済的に問題がある。また不活化された酵素が製品に混入する可能性が高い(b)酵素反応はバッチ的に行う。そのため生産量に対応した規模のバイオリアクター、分離精製装置等が必要で、そのため設備費用がかかる。(c)酵素反応に1昼夜近い時間をかける(d)反応温度が通常40〜60℃であるため雑菌の増殖防止対策に特別な操作・条件が必要とされる。(e)反応を制御するのがむずかしく、また反応時間ごとに生成物が一般に異なる。
【0007】
【特許文献1】特開平2−231059「魚骨粉の製造方法」 中骨を圧力5〜20kg1平方メートルの高圧水で洗浄し、存在する蛋白質を蛋白質分解酵素で分解し、分解物を洗浄除去し、次いで中骨を真空加熱蒸発法で乾燥した後、粉砕する方法
【特許文献2】特開2001−48793「鰻又は穴子の骨を原料とする粉末栄養補給剤の製造方法」 鰻又は穴子の骨をミンチングし、1.5〜4.0Kg/平方センチ、70〜180℃の高圧高温工程により、骨髄液を除去した骨粉の製造方法
【特許文献3】特開平4−121166「食用骨粉の製造方法」 苛性ソーダを用いて蛋白、脂肪を加水分解することにより、脱蛋白、脱脂肪を容易する。
【特許文献4】特開2001−346547「鰻又は穴子の骨を原料とする微粉末栄養補給剤の製造方法」骨粒を食塩濃度10%以上の水溶液に6時間以上浸漬し、塩分を洗い流して骨髄液を除去して脱脂状骨粒を得た後、乾燥する。
【特許文献5】特公昭55−30831「微細骨粉の製造法」 微生物等を用いて蛋白質や脂肪を除去する方法
【特許文献6】特開昭52−136968「微細骨粉の製造法」 蒸煮処理した動物骨を微生物培養液もしくは培養物で付着蛋白質及び脂肪分を分解発酵した後、洗浄滅菌乾燥し、更に粉砕後有機溶剤で抽出除去し、低温度アルカリ水溶液で加熱処理し、洗浄乾燥し、微粉砕機で微粉砕骨粉とする。
【特許文献7】特開平11−318389「無臭・フィッシュカルシウム剤の製造方法」 中骨を蒸湯処理・水洗い、粉砕し有機物分解酵素、酵母で分解し、両性界面活性剤で処理し、更に酸化剤処理し、低温乾燥して無臭カルシウム剤を製造
【特許文献8】特公平4−24027「動物、魚介類よりカルシウム製造方法」 魚体又は加工残さい中の蛋白質を酵素又は微生物で分解しスラリー状として、ろ過して固形物を分離し、魚油や魚蛋白質を得る方法
【特許文献9】特開2002−234「うなぎ骨の有効処理方法」 骨を煮出し骨と煮出し液とに分別し、骨に付着する蛋白質をエンドペプチターゼ型酵素で分解し、更に脂肪分もリパーゼで分解した後に骨を乾燥して粉砕する。一方、煮出し液の上層の油分と下層の抽出エキス分も回収し利用する。
【特許文献10】特開2002−88098「アコヤ貝由来のACE阻害ペプチド」 真珠を除去した後のアコヤ貝残渣をアルカリプロテアーゼ処理で加水分解したペプチドにすぐれたACE阻害活性があり、血圧降下剤等に使用できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では鰻の加工残さいを酵素反応で分解し、有効成分を分解回収する技術で、従来の酵素反応を利用した技術が抱えた前述の(a)〜(e)の問題点のすべてを解消することを目的とする。
【0009】
従来の酵素反応の問題点の内(b)、(c)、(d)、(e)の問題点はバッチプロセスを連続プロセスにすることにより解消され、また問題点(a)は酵素をリサイクル使用することにより解消される。すなわち、本発明方法の特徴は連続プロセスによる酵素反応と酵素を失活処理することなく多数回再利用するプロセスで構成されている点にある。
【0010】
本発明では、魚類とりわけ鰻の加工残さいの中骨、頭及び内臓などを蛋白質分解酵素で連続的に分解する工程から固形分として得られる骨から骨粗鬆症の予防に良い吸収性の良好なカルシウムが得られる。油脂分には脳の働きを良くするDHA(ドコサヘキサエン酸)、血液の流れを良くし血栓症を防ぐ作用があるとされるEPA(エイコサペンタエン酸)や視力の改善、新陳代謝の促進、生殖機能の強化をもたらすビタミンA、カルシウムやリンの吸収を促進し、骨や歯に沈着させる働きをするビタミンD、または酸化作用による細胞の活性化に伴う老化防止、美肌効果のあるビタミンEなどを含んでおり、水溶成分には蛋白質の分解生成物として高血圧予防に効果のあるペプチドをはじめダイエット、疲労回復によく旨味調味料として使用される各種アミノ酸を含んでいる。これらの有効成分を効率よく、かつ経済的に優れた回収システムの研究において反応系を連続酵素反応で行い、有効成分の回収時に孔拡散式膜分離機を取り入れることによって前述の解決すべき課題のすべてが達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の最大の特徴は連続する4つの工程(それぞれ第1工程、第2工程、第3工程、第4工程)で構成されている点である。しかも酵素分解された反応液から第1〜第3工程で順次、固形分、油脂成分、水溶成分が分離回収され、蛋白質分解酵素とわずかに未反応の蛋白質のみが第4工程を経て第1工程に循環される。図1に本発明の連続酵素分解方法での4工程と物質流れのモデル図を示す。
【0012】
第1工程:鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などを原料として、蛋白質分解酵素と混合、酵素分解反応を行い、この分解反応液から固液分離機で固形分を除去する工程において、鰻の加工残さいを原料1として一定速度で分解塔3に送入し、同時に第4工程から循環送入される蛋白質分解酵素2と共に所定の温度・滞留時間で分解反応を行い排出された分解反応液4を振動フルイまたは、及び遠心濃縮機、プレスフィルターなどの固液分離機5で固形分6を分離回収する。ここで固形分6とは一定の形状を維持した固体状物でその形状の一辺の長さが10μm以上のものを意味する。この工程で投入される加工残さいの中骨や頭や内臓などの原料1は予め粗粉砕されてスラリー状で投入することが分解塔3内での反応を均一にかつ速い速度で分解するためには重要である。スラリー状の原料1と蛋白質分解酵素2をラインミキサーによって均一に混合させた後に分解塔3に投入するのがさらに望ましい。また該分解塔3内の内部には邪魔板を設け、塔内温度を均一にし、流れにショートパスが生じないようにする。また、該分解塔3の出口にはドラムフィーダーを使用し、反応液7を定量的に排出される。
【0013】
分解塔3の温度を60℃〜70℃に設定する事で細菌等の繁殖を防止でき、またウィルスの不活化も可能である。但し、この場合蛋白質分解酵素2の至適温度がこの範囲でかつ失活しない耐熱性蛋白質分解酵素を選択する必要があり、天野エンザイム株式会社製「サモアーゼPC−10」,プロテアーゼS「アマノ」3G,ヤクルト薬品工業株式会社製「アロアーゼXA−10」、エイチビィアイ株式会社「オリエンターゼ22BF」などが使用可能である。
【0014】
第2工程:固形分を除去した後の反応液を更に遠心分離機で油脂分を含む軽液と水溶性の蛋白質成分を含む重液とに分離する工程において、第1工程で得られた反応液7を遠心分離機8で油脂分9と水溶性成分とに分離、油脂分9を系外に回収する工程である。両成分を完全に分離することは油脂分9の有用物質と水溶性成分の有用成分との回収率及び精製率を高めるのに必要であり、また、第3工程での膜分離において油脂成分が膜に吸着することによる目詰まりを防止するためにも両成分の分離が不可欠である。この遠心分離機8としては遠心力3,000g以上で好ましくは10,000g以上の円筒型遠心分離機を用いる。油脂成分としてビタミンA、D、E及びDHA,EPAあるいはコエンザイムQ10などの有効成分が連続的に回収される。
【0015】
第3工程:分離された水溶性の蛋白質成分を含む重液を被拡散液として孔拡散式膜分離機で処理し、蛋白質の分解反応成分であるペプチドやアミノ酸などの低分子量成分を拡散水に拡散させ、一方、拡散されない該蛋白質分解酵素、未反応蛋白質などの分子量50,000以上の高分子量成分、および直径20nm以上の粒子とを残液として分離し、さらに拡散液(以下 拡散後の拡散水を拡散液という)に含まれるペプチドやアミノ酸などの低分子量成分を濃縮する工程において、第2工程を経て分離された水溶性成分を被拡散液10として孔拡散式膜分離機12で処理し、拡散水13に低分子量成分のペプチドやアミノ酸などの水溶性成分が拡散分離される。拡散液14中の反応生成物の濃度は0.1〜0.5重量%になっているため10倍〜30倍濃縮するために中空糸膜を用いた拡散液濃縮機15を利用してろ過し、ペプチドやアミノ酸などの濃縮液16を得る。拡散液14中には微粒子は存在しないため、膜ろ過による濃縮が容易である。例えば、平均孔径2nmの再生セルロース中空糸膜では1平方メートルのろ過面積当り、1時間当たり1Kgの水を限外ろ過圧力0.3気圧で除去できる。濃縮用中空糸膜の素材として、食品としての安全性とペプチドの回収率を高めるために再生セルロースが望ましい。一方、被拡散液10中の蛋白質分解酵素や未反応蛋白質などの分子量50、000以上の分子、および直径20nm以上の粒子は被拡散液の残液11として回収され第4工程から第1工程に循環使用される。
【0016】
第3工程で使用される孔拡散式膜分離機12内の膜の特性は酵素の回収率、分解生成物の回収率のみでなく、最終製品中のペプチドやアミノ酸組成を決定する。そのため孔特性は目標とする最終製品に最適なように選定されなくてはならないが、一般的には平均孔径10〜50nm、空孔率40〜75%、膜の厚みが100〜1000ミクロメートルの平面状膜で、素材としては再生セルロース膜が良い。平均孔径がより大きくなると拡散液中に酵素が混入する。平均孔径が小さくなると目的物質の拡散速度が小さくなりすぎ、またペプチドなどの回収率が低下する。空孔率は50〜70%が取扱い性及び拡散速度の大きさから最適である。膜の厚みは一般的には厚い方が使用後の膜の再生処理時の損傷が少ない。膜の素材として親水性高分子が吸着性の点で好ましい。
【0017】
第4工程:第3工程の被拡散液の残液に含まれる蛋白質分解酵素および未反応蛋白質などを必要に応じて適正濃度に濃縮し、第1工程に循環させる工程において、第3工程の孔拡散式膜分離機12で拡散水13側に拡散されない被拡散液の残液11はそのまま第1工程に戻してもよいが、マスバランスをとるために2倍程度酵素濃度を高める場合もある。この場合には第4工程で、膜による酵素濃縮機18で行なう。
【発明の効果】
【0018】
本発明により鰻の加工残さいのすべての成分を有効にしかも安価に利用できる。すなわち、加工残さいの中骨や頭や内臓などを蛋白質分解酵素で連続的に分解でき、分解後の固形物はカルシウム成分として回収し、油脂成分は種々の薬事的作用を活かして健康食品などに、水溶性成分は調味料や化粧品の原料として回収される。本発明方法では固形分、油脂成分、拡散液の中空糸膜濃縮液、並びにろ液の4成分が別々に回収され、それぞれが有効に利用できる効率的なプロセスを提供できる。
【0019】
本発明では精製分離工程に孔拡散式膜分離装置を導入することにより、不活化処理によることなく水溶性成分中の微生物をほぼ完全に除去された衛生的な製品が可能であり、かつ従来のろ過法と比較して膜が長期に使用できるよい点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
鰻の加工残さいを予備的に水洗浄し、残さいに付着した蛋白質の分解を容易にするため、骨や頭の固形物を数ミリ程度に粗粉砕する。この粉砕物を適量の水でスラリー状にして、これに第4工程からの耐熱性蛋白質分解酵素と共に新しく該蛋白質分解酵素を一定速度でラインミキサーを用いて酵素分解塔の上部から65℃〜70℃で耐熱性蛋白質分解酵素「アロアーゼXA−10」を原料に対して0.5重量%添加し、酵素分解反応を行われる。骨や頭の固形物を分解塔の下部に設置した200メッシュの振動フルイで100ミクロン以上の粒子を分離し、さらに遠心力2,000g程度のデカンタ型遠心濃縮機で反応液と分離回収する。
【0021】
反応液を更に遠心力10,000g以上の円筒型遠心分離機に送入し、連続的に油脂層と水層とに分離回収する。水層の反応液を被拡散液とし、これに孔拡散式平膜分離機を適用して、該蛋白質分解酵素、未反応蛋白質および直径20nm以上の粒子を含む水溶液は拡散速度が遅いので、被拡散液の残液として第4工程を経て、第1工程に還流させる。一方、反応生成物であるペプチドやアミノ酸などの低分子量物は拡散水には拡散し易く、拡散液として分離される。
【0022】
孔拡散式平膜分離機内には平均孔径30nm、空孔率60%、膜厚300ミクロンメートルの再生セルロース膜が使用されている。目的とする反応生成物の分子量と酵素の分子量及び分散状態によって用いる平膜での平均孔径を変化させる。平均孔径を15nmに設定すれば拡散速度が遅くなるため、必要とする膜面積を大きくしなければならない。1平方メートル当たり、1時間当たり、3キログラムの反応生成物水溶液の処理量を基準とした操作条件を採用する。
【0023】
拡散液中の反応生成物の濃度は0.1〜0.5重量%である。そのため、濃縮処理が必要である。中空糸膜を利用した膜濃縮処理により、該濃度を10〜30倍にする。中空糸膜としては平均孔径2nm、空孔率30%で膜厚15マイクロメートルの再生セルロース中空糸膜を用いる。膜間差圧は0〜0.5気圧とし、拡散液を中空糸の中空部に流しながらろ過する。1平方メートル当たり、1時間当たり、1kgのろ過速度を基準とする。
【0024】
本発明中で利用される膜の孔特性の評価方法を以下にまとめて示す。
平均孔径(nmの単位)=2(J・d・v/P/A・Pr)1/2
ここでJは純水のろ過速度(ml/分)
dは膜厚(マイクロメートル)
vは水の粘度(センチポイズ)
Pは膜間差圧(mmHg)
Aは有効ろ過面積(平方メートル)
Prは空孔率(無次元) 空孔率=1−膜の見掛け密度/膜素材高分子の密度
孔拡散式平膜分離装置とは、幾何学的な孔の存在が明らかな平面状な膜(通常、平均孔径5nm以上の膜)を用いて拡散により物質分離を行う装置で、特に、孔内での物質の拡散が分離性能を支配するように連動した送液ポンプを用いた装置。
【実施例1】
【0025】
鰻の蒲焼加工の時、残さいの中骨を水洗いし、そのまま、孔径3mmのプレートをつけてミンサーで粗粉砕した。このスラリー状のものを原料ホッパーに入れ、分解塔(内容量4L)の上部から約0.4Kg/Hrの速度で送入した。一方、ヤクルト薬品工業株式会社製蛋白質分解酵素「アロアーゼXA−10」を水0.8Kgに2gの割合で溶かした溶液を分解塔に0.8Kg/Hrの速度で送入した。分解塔の内部温度を一定になるようにジャケット加熱し、65℃〜68℃の範囲で酵素分解した。塔内のレベルが一定になるように反応液を分解塔の下部から排出した。排出液を200メッシュの振動フルイにかけ骨粒と分解液を分離した。骨粒は系外に回収し、水洗、乾燥した。一方、分解液を円筒型遠心分離機で油脂層と水層に分離し、油脂層を系外に回収し、水層のみを被拡散液として、孔拡散式平膜分離機で処理した。平膜の平均孔径は17nm、空孔率60%、膜厚300ミクロンで膜面積1平方メートルであった。拡散水として、蒸留水を3.5Kg/Hrで送入し、被拡散液から反応生成物を蒸留水に拡散させた拡散液を、平均孔径2nm、空孔率30%で膜厚15ミクロンメートルの再生セルロース中空糸膜を用いて、濃縮した。濃縮液ならびにろ液は系外に回収した。被拡散液から拡散水に拡散されない蛋白質分解酵素並びに未反応の蛋白質などの高分子物質は残液中に水層中の酵素がほぼそのまま含まれていた。この酵素を含む分解液を中空糸膜濃縮機で濃縮し循環酵素液として再び分解塔に送入した。循環酵素液を酵素分解塔に循環を始めてからは、新しい酵素液の送入を中止した。濃縮は銅安法再生セルロース中空糸膜を採用し、有効ろ過面積10平方メートル、膜間差圧は0〜0.3気圧であった。
原料6.5Kgを連続して処理した。この間の運転状況並びに各工程での回収量を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
16時間後に含水した固形分1.2Kgと油脂分640g、濃縮液3259gならびにろ液43Kgが得られた。
固形分を110℃で6時間熱風乾燥し411gの骨粒が得られた。
分析の結果、水分6.6g、蛋白質30.5g、脂質0.5g、灰分60.4g、炭水化物2.0g、カルシウム22.1g/100gであった。
油脂分を分析した結果、DHAは6.9g/100g、EPAは2.3g/100g、CoQ10は2.5mg/100g含まれていた。
濃縮液の一部をウオーターズ製高速液体クロマトグラフ(HPLCと略称)で測定した結果、ペプチドのピークが得られた
(図2参照)。これを減圧乾固した結果、196gの固形分が得られた。
【実施例2】
【0028】
原料として鰻の頭のみを水洗いし、そのまま、孔径3mmのプレートをつけてミンサーで粗粉砕した。このスラリー状のものを原料とし、耐熱性蛋白質酵素として天野エンザイム株式会社製「サモアーゼPC−10」を水0.8Kgに対して0.8gの割合に減らし、拡散水を7.5Kg/Hrに増やした他は、実施例1と同様に行なった。
原料6.5Kgを連続して処理した。この間の運転状況並びに各工程での回収量を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
16時間後に含水した固形分426gと油脂分72g、濃縮液5490gならびにろ液96Kgが得られた。
固形分を110℃で6時間熱風乾燥し140gの骨粒が得られた。
分析の結果、水分6.6g、蛋白質36.5g、脂質0.7g、灰分56.1g、炭水化物1.8g、カルシウム21.2g/100gであった。
油脂分を分析した結果、DHAは6.3g/100g、EPAは2.4g/100g、CoQ10は2.3mg/100g含まれていた。
濃縮液の一部をウオーターズ製HPLCで測定した結果、ペプチドのピークが得られた
(図3参照)。これを減圧乾固した結果、484gの固形分が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明方法は酵素反応を利用した蛋白質の分解による生理活性物質や機能食品の製造に利用される。本方法では骨中心の固形物,脂肪中心の機能性物質,拡散液中のペプチドやアミノ酸,ろ液成分の分子量3000以下の低分子量のペプチドやアミノ酸の4成分を分取できる。そのため食品,医薬品,化粧品産業で利用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】連続酵素分解方法での4工程と物質流れのモデル図
【図2】実施例1の濃縮液のHPLC。(実施例1)
【図3】実施例2の濃縮液のHPLC。(実施例2)
【符号の説明】
【0033】
1 原料
2 蛋白質分解酵素
3 分解塔
4 分解反応液
5 固液分離機
6 固形分
7 反応液
8 遠心分離機
9 油脂分
10 被拡散液
11 残液
12 孔拡散式平膜分離機
13 拡散水
14 拡散液
15 拡散液濃縮機
16 濃縮液
17 ろ液
18 酵素濃縮機




【特許請求の範囲】
【請求項1】
鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などを原料として以下の4つの工程で構成されることを特徴とする連続酵素分解方法。
第1工程:鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などを原料として、蛋白質分解酵素と混合、酵素分解反応を行い、この分解反応液から固液分離機で固形分を除去する工程
第2工程:固形分を除去した後の反応液を更に遠心分離機で油脂分を含む軽液と水溶性の蛋白質成分を含む重液とに分離する工程
第3工程:、分離された水溶性の蛋白質成分を含む重液を被拡散液として孔拡散式膜分離機で処理し、蛋白質の分解反応成分であるペプチドやアミノ酸などの低分子量成分を拡散水に拡散させ、一方、拡散されない該蛋白質分解酵素、未反応蛋白質などの分子量50,000以上の高分子量成分、および直径20nm以上の粒子とを残液として分離し、さらに拡散液(以下 拡散後の拡散水を拡散液という)に含まれるペプチドやアミノ酸などの低分子量成分を濃縮する工程
第4工程:第3工程の被拡散液の残液に含まれる蛋白質分解酵素および未反応蛋白質などを必要に応じて適正濃度に濃縮し、第1工程に循環させる工程
【請求項2】
請求項1において第1工程の原料である鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などを水洗後、予め粗粉砕したスラリー状として、該原料と蛋白質分解酵素とを第1工程の分解塔に一定速度で供給し酵素分解した後に、固液分離機で固形分を除去した反応液を第2工程へ一定速度で供給し、かつ第4工程に一定速度で循環させることによって、酵素反応が連続的にかつ定常的に実施されること及び第1〜4工程が微生物学的に密閉されていることを特徴とする連続酵素分解方法。
【請求項3】
請求項1,2において第1工程の分解酵素の至適温度が60℃〜70℃の耐熱性蛋白質分解酵素を使用し、その濃度は原料に対して0.05〜5重量%であることを特徴とする連続酵素分解方法。
【請求項4】
請求項1〜3において第2工程における遠心分離機が、連続して反応液を送入し軽液と重液に分離して排出できる円筒型遠心分離機であることを特徴とする連続酵素分解方法。
【請求項5】
請求項1〜4において第3工程において使用される孔拡散式膜分離機で使用される膜が平均孔径10〜50nm、空孔率40〜75%、膜の厚みが100〜1000ミクロンメートルの平面状膜で素材として再生セルロースであることを特徴とする連続酵素分解方法。
【請求項6】
請求項1〜5において第3工程での濃縮を平均孔径3nm以下の中空糸膜を用いたろ過、並びに第4工程の濃縮の場合には平均孔径10nm以下の中空糸膜または平膜を用いたろ過を利用することを特徴とする連続酵素分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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