説明

黒色材料、黒色材料分散液、黒色樹脂組成物、黒色膜及び黒色膜付き基材

【課題】可視光線の反射率が低い上に黒色度が高く、光遮蔽性に優れ、さらに可視光域の吸光度の波長依存性が小さく、自然な色調の黒色膜が得られる黒色材料及びこの黒色材料を用いた黒色材料分散液、並びに黒色塗料、黒色遮光膜及びこの黒色遮光膜を有する黒色膜付き基材を提供すること。
【解決手段】少なくとも銀元素及び錫元素を含有する微粒子を含む金属微粒子からなり、該銀元素の含有量が30質量%以上99質量%以下であり、前記金属微粒子の円直径相当の平均一次粒子径が3nm以上100nm以下である黒色材料であって、分散媒中に固形分量が0.0005体積%になるようにして前記黒色材料を分散させた分散液における、光路長10mmでの380nmから800nmの平均吸光度が0.8以上であり、420nmにおける吸光度d420と680nmにおける吸光度d680との比d420/d680が0.6以上2.5以下である黒色材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色材料及びそれを用いた黒色材料分散液、並びに黒色樹脂組成物、黒色膜及び黒色膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、黒色材料は、黒色遮光性フィルム、黒色遮光性ガラス、黒色紙、黒色布、黒色インキに加え、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)及び有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの表示素子のブラックマトリックス材料、ブラックシール材、ブラックマスク材等に黒色や遮光性を付与する材料として利用されている。
【0003】
このような黒色材料としては、カーボンブラック、チタンブラック(低次酸化チタン又は酸窒化チタン)、酸化鉄、クロム等の金属材料や無機材料以外に、銀微粒子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記銀微粒子からなる黒色材料を用いて黒色遮光膜を作製した場合、この黒色材料は遮光性には優れるものの、メタリック色およびプラズモン吸収による色を帯びるために、遮光膜における可視光線の反射率が高く、優れた黒色度を発現することができないという問題点があった。
【0004】
この問題点を改善するために、分散物中で金属微粒子が球状粒子としてランダムに連結した連結形等とすることにより、可視分光波長400〜700nmの範囲において、分光吸収スペクトルの極小値におけるモル吸光係数が1800L/mol・cm以上となる黒色分散物の提案がなされている(例えば、特許文献2参照)
【0005】
一方、本発明者等は、既に、銀錫合金微粒子からなる黒色材料を提案している(例えば、特許文献3、4参照)。この銀錫合金微粒子からなる黒色材料は、可視光線の反射率が低くて黒色度に優れ、光遮蔽性にも優れた黒色遮光膜を形成し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−240039号公報
【特許文献2】特開2008−003150号公報
【特許文献3】特開2006−089771号公報
【特許文献4】特開2006−227268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの公知技術で得られた黒色遮光膜は、可視光域の吸光度の波長依存性が大きいために、黒色遮光膜を透過光で見た場合に、膜が茶色、赤茶色等の色味を帯び自然な色調の黒色が得られ難かったり、透過濃度計で膜の遮光性を測定する場合に、波長依存性が異なる分光フィルタを用いている透過濃度計では、透過濃度計の違いによって異なる測定値が得られてしまったりするといった問題があった。
【0008】
本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、可視光線の反射率が低い上に黒色度が高く、光遮蔽性に優れ、さらに可視光域の吸光度の波長依存性が小さく、自然な色調の黒色膜が得られる黒色材料及びこの黒色材料を用いた黒色材料分散液、並びに黒色樹脂組成物、黒色膜及びこの黒色膜を有する黒色膜付き基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、下記本発明により解決される。すなわち、本発明は、
〔1〕 少なくとも銀元素及び錫元素を含有する微粒子を含む金属微粒子からなり、該銀元素の含有量が30質量%以上99質量%以下であり、前記金属微粒子の円直径相当の平均一次粒子径が3nm以上100nm以下である黒色材料であって、
分散媒中に固形分量が0.0005体積%になるようにして前記黒色材料を分散させた分散液における、光路長10mmでの380nmから800nmの平均吸光度が0.8以上であり、420nmにおける吸光度d420と680nmにおける吸光度d680との比d420/d680が0.6以上2.5以下である黒色材料、
〔2〕 前記金属微粒子が、銀錫合金部を有する微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子との混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と錫微粒子との混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、及び銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、のいずれかである〔1〕に記載の黒色材料、
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載の黒色材料を、分散媒中に分散した黒色材料分散液、
〔4〕 前記黒色材料の平均分散粒子径が5nm以上100nm以下であり、かつ90%累積体積粒子径が1μm以下である〔3〕に記載の黒色材料分散液、
〔5〕 〔1〕または〔2〕に記載の黒色材料と、樹脂形成成分または樹脂成分と、を少なくとも含む黒色樹脂組成物、
〔6〕 〔1〕または〔2〕に記載の黒色材料と、樹脂成分と、を少なくとも含む黒色膜、
〔7〕 体積抵抗率が1011Ω・cm以上である〔6〕に記載の黒色膜、及び
〔8〕 〔6〕または〔7〕に記載の黒色膜を基材表面に有する黒色膜付き基材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可視光線の反射率が低い上に黒色度が高く、光遮蔽性に優れ、さらに可視光域の吸光度の波長依存性が小さく、自然な色調の黒色膜が得られる黒色材料及びこの黒色材料を用いた黒色材料分散液、並びに黒色樹脂組成物、黒色膜及びこの黒色膜を有する黒色膜付き基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた黒色材料を分散させた分散液の分光吸収スペクトルである。
【図2】比較例1で得られた黒色材料を分散させた分散液の分光吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態により説明する。なおこの実施形態は、発明の趣旨をより良く説明するために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を制限するものでない。
<黒色材料>
本実施形態の黒色材料は、少なくとも銀元素及び錫元素を含有する微粒子を含む金属微粒子からなり、銀元素の含有量が30質量%以上かつ99質量%以下であり、円直径相当の平均一次粒子径が3nm以上かつ100nm以下である。
【0013】
金属微粒子においては、粒子径や粒子形状を制御することで金属微粒子が光を吸収する波長が変わることが知られており、吸収波長が異なる微粒子を組み合わせることで可視光域の吸光度の波長依存性を小さくできる可能性がある。ただし、一般に知られている金、銀、銅など可視光領域でプラズモン吸収を有する金属では、粒子径や粒子形状の制御だけでは、遮光性や黒色度が高いままで吸光度の波長依存性を小さくすることはできなかった。例えば、球状で粒子径が小さい銀微粒子は420nm付近にプラズモン吸収を有しており、波長により吸光度が大きく異なる。銀微粒子の粒子径を大きくしていくと可視光域での吸光度スペクトルはフラットになり波長依存性は小さくなっていくが、粒子径が大きいために粒子を十分に分散できず遮光性が低下したり、粒子の散乱によって外観が白っぽくなり黒色度が低下したりするといった問題点があった。
【0014】
本実施形態では、可視光領域での吸光度の波長依存性が小さい錫を活用することで、遮光性及び黒色度が高く、可視光領域での吸光度の波長依存性が小さいという特性を同時に実現することができた。この観点から定められる前記の金属微粒子中の銀元素の含有量範囲が、1つ目の要件となる。
【0015】
黒色材料中の銀元素の含有量が30質量%を下回ると、黒色材料中に占める錫の割合が多くなってしまい、黒色膜の製造プロセス中に熱がかかる部分があると十分な光遮蔽性を得ることができない。錫は融点が230℃でありそれに近い温度以上では錫が酸化して黒色度が低い酸化錫となり黒色度が低下してしまうためである。
一方、黒色材料中の銀元素の含有量が99質量%を上回ると、銀元素のために反射率が高くなってしまい十分な黒色度が得られなかったり、可視光域の吸光度の波長依存性が大きくなり自然な黒色が得られなかったりしてしまう。
また、黒色材料が銀のみで形成されていると、大気中200℃以上で黒色膜を焼成すると、焼成前にくらべ可視光中央域である550nm付近の透過率が高くなり遮光性が低下する場合があるため、黒色膜の製造プロセス中に熱がかかる部分があると黒色材料が銀のみで形成されているのは好ましくない。この観点からも、黒色材料中の銀元素の含有量が99質量%以下であることが必要である。
前記黒色材料中の銀元素の含有量は、45質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
前記黒色材料中の銀元素の含有量は、当該黒色材料を酸等で溶解させた溶液をICP発光分析等の湿式定量分析を行うことで求めればよいが、主成分が金属元素である銀と錫のみで軽元素を含まないことから、圧粉体を用いたEPMA(電子線マイクロアナライザー)分析で測定することができる。本実施形態の黒色材料の主成分である金属元素は銀と錫だけであるから、金属微粒子中の銀元素の含有量(%)は、EPMAの測定値から下記式(1)により求めることができる。
銀元素の含有量(%)=〔銀元素の質量/(銀元素の質量+錫元素の質量)〕×100 ・・・ (1)
なお、式(1)中の分母には、例えば金属微粒子の周囲に付着している分散剤等に起因する炭素や金属微粒子の表面の酸化などに起因する酸素など、金属以外の元素は含まない。
【0017】
また2つ目の要件として、黒色材料分散液中の金属微粒子の円直径相当の平均一次粒子径は、3nm以上かつ100nm以下であることが必要である。平均一次粒子径をこの範囲内とすることで所望の黒色遮蔽膜を容易に形成できる。すなわち、平均一次粒子径が3nm未満では、可視光の波長と比較して小さすぎるために透過光量が増加して所望の黒色度が得られないおそれがある。一方、平均一次粒子怪が100nmを超えると、散乱が生じて所望の黒色度が得られ難くなったり、黒色遮光膜の表面の凹凸が大きくなったりするおそれある。
【0018】
上記平均一次粒子径は、3nm以上60nm以下が好ましく、5nm以上60nm以下がより好ましく、5nm以上40nm以下がさらに好ましい。
なお、本実施形態における円直径相当の平均一次粒子径とは、後述するように種々の形状を持つ金属微粒子をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、確認された微粒子と面積が同じになるような円に相当する直径である。
【0019】
すなわち、本実施形態における金属微粒子の構成は、銀錫合金部を有する微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子との混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と錫微粒子の混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、及び銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、のいずれかであり、これらの金属微粒子の円直径相当の平均一次粒子径が3nm以上100nm以下であることが好ましい。なお、銀錫合金部については後述する。
【0020】
また、本実施形態における黒色材料は、銀錫合金部を有する微粒子を含むことが好ましい。ここで、上記「銀錫合金部」とは、銀と錫との金属間化合物、すなわち銀と錫を含み、かつ銀あるいは錫の結晶構造とは異なる結晶構造を有する部分を含むが、それだけではなく、銀中に銀の結晶構造を保った状態で錫が固溶した部分(以下、「錫固溶銀」とも言う)、あるいは錫中に錫の結晶構造を保った状態で銀が固溶した部分(以下、「銀固溶錫」とも言う)も含まれる。また、上記「銀錫合金部を有する微粒子」とは、後述するように前記銀錫合金部のみで構成される微粒子のみでなく、銀錫合金部を一部に有し他の金属部と複合した微粒子等を含むものを意味する。
このように金属微粒子が銀錫合金部を含むことで、合金化により発生した散乱(電子の移動を阻害する作用)の効果で電子の移動が単体金属の場合よりも阻害されるため、黒色遮光膜の反射率を低下させることができる。
【0021】
この観点から、本実施形態における金属微粒子の構成は、銀錫合金部を有する微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子との混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と錫微粒子の混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、のいずれかであることが好ましい。なおここで、銀微粒子とは、実質的に錫を含まない銀のみからなる微粒子であり、また錫微粒子とは、実質的に銀を含まない錫のみからなる微粒子である。
そして、銀錫合金部を有する微粒子としては、1つの粒子が銀錫合金部のみで構成された微粒子、銀錫合金部と銀部とが複合した微粒子、銀錫合金部と錫部とが複合した微粒子、銀錫合金部と銀部と錫部とが複合した微粒子、を挙げることができる。ここで、銀部とは、実質的に錫を含まない銀のみからなる部分であり、また錫部とは、実質的に銀を含まない錫のみからなる部分である。
このように、金属微粒子に銀錫合金部を有する微粒子を含ませることで、遮光性、黒色度、可視光領域での吸光度の低波長依存性の三者をバランス良く得ることができる。
【0022】
本実施形態において、銀錫合金部とは、例えば次のものであって、銀錫金属間化合物の結晶構造を有するもの(以下、「銀錫金属間化合物相」とも言う)だけではなく、銀の結晶構造を有するもの、すなわち銀中に銀の結晶構造を保った状態で錫が固溶したもの(以下、「錫固溶銀相」とも言う)を含んでもよい。
まず、銀錫金属間化合物相を有するものとしては、銀錫合金を化学式Ag1-XSnXで表した場合のXの範囲としては、0.118≦X≦0.2285のζ相(空間群P63/mmc)及び0.237≦X≦0.25のε相(空間群Pmmn)が知られている(Binary Alloy Phase Diagram,p.94−97による)。これらの相の組成と空間群を、X線回折のICDDカード(JCPDSカード)と比較すると、ε相のX線回折データがAg3Sn(IDCC 71−0530)、ζ相のX線回折データがAg4Sn(IDCC 29−1151)に相当すると考えられる。従って、斜方晶系であるε相(Ag3Sn)又は六方晶系であるζ相(Ag4Sn)の構造を有する銀錫合金部を有する微粒子であれば、化学的安定性と黒色度とを満足することができる。
【0023】
次に、銀の結晶構造を有するものとしては、銀中に銀の結晶構造を保った状態で錫が固溶したもの(錫固溶銀相)、すなわち銀結晶中の銀原子の一部を錫原子が置換したものとなるが、この場合の銀錫合金を化学式Ag1-YSnYで表した場合、0<Y≦0.115であり、前記文献では(Ag)相(以下の表記で示される空間群:立方晶系)で示される。
【0024】
【数1】

【0025】
この範囲を、AgZSn(Zは実数)で表記すれば、7.70≦Z<∞(無限大)となる。
なお、Y=0(Ag1Sn0)あるいはZ=∞(Ag∞Sn)はAg単成分相に相当するため、ここで示す銀錫合金部としての規定範囲からは外してある。ただし、本実施形態において本黒色材料として用いられる銀元素及び錫元素を含有する微粒子を含む金属微粒子としては、前記のように銀錫合金部を有する微粒子だけでなく、銀錫合金部を有する微粒子及び銀微粒子の混合微粒子等も好適であることから、黒色材料中にはY=0のものを含んでもかまわない。
【0026】
なお前記文献によれば、銀錫合金部として、錫の結晶構造を有するもの、すなわち錫中にの結晶構造を保った状態で銀が固溶したもの(以下、「銀固溶錫相」とも言う)は存在しないこととなっているため、銀固溶錫相に関する詳細な記載は省略する。ただし、銀固溶錫相が存在した場合には、本実施形態の銀錫合金部に含むものとする。
【0027】
また金属微粒子においては、粒子径だけでなく粒子形状を制御することで金属微粒子が光を吸収する波長が変わることが知られており、本実施形態においても、種々の粒子径や粒子形状の粒子を組み合わせることができる。粒子径の範囲は前述の通りである。粒子形状は、球状、楕円球状、角柱状、棒状、板状(三角板、六角板)等の中から1種または2種以上のものを適宜選択することができる。本実施形態における粒子形状は、次の(A)及び(B)を組み合わせて用いることが好ましい。
(A)球状、楕円球状のうち少なくとも1種以上の微粒子。
(B)角柱状、棒状、板状のうち少なくとも1種以上の微粒子。
このうち、(A)は可視光域の低波長側、(B)は可視広域の長波長側の光を多く吸収する。(A)と(B)とを組み合わせることにより、本実施形態の本黒色材料は広い波長領域で光を吸収することができ、可視光域の吸光度の波長依存性が小さく、自然な色調の黒色を得ることができる。
【0028】
ここで、(B)の粒子は、一次粒子で角柱状、棒状、板状を形成していてもよく、球状、楕円球状等の一次粒子が凝集して角柱状、棒状、板状を形成していてもよい。微粒子は、その形状が変わると誘電関数が変化して微粒子が吸収する光の波長が変わるが、一次粒子ではなく、凝集粒子の形状変化でも誘電関数に影響を与え、吸収する光の波長を変えられる場合があるためである。
さらに(B)の粒子は、角柱状、棒状、板状の粒子あるいは凝集粒子が凝集(再凝集)して、デンドライト(樹枝状)や連通状の複雑な形状をしていても構わない。
【0029】
本実施形態の黒色材料の製造方法としては、上記のように、組成や粒子径を調整することにより黒色を呈する金属微粒子が得られる方法であれば、特に制限はなく、気相反応法、噴霧熱分解法、液相反応法、凍結乾燥法、水熱合成法など、通常の金属微粒子合成法を適用することができる。
これらの中でも銀錫合金部を有する微粒子を形成しやすいこと、合成条件により粒子の形状を制御しやすいことといった点から、液相反応法を用いることが好ましい。従来、金属微粒子の粒子径や粒子形状を制御しながら、酸化還元電位が大きく異なる錫と銀との合金を製造する方法は見出されていなかったが、本実施形態では、反応温度、pH、攪拌効率といった反応条件を厳密に制御することで、粒子径や粒子形状を制御しながら銀錫合金を生成させることが可能となった。
【0030】
上記液相反応法の一例としては、例えば、錫コロイド分散液中に銀化合物溶液を滴下し、錫で銀イオンを還元して錫と銀とを合金化させ、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子とを生成する方法を例示することができる。
この製造方法にあっては、反応条件(例えば、錫と銀イオンとの比率、反応液のpH、反応温度、反応時間など)を適宜調整することにより、金属微粒子中の銀元素の含有量を任意に制御することができる。
【0031】
前記の液相反応では、液相中での反応により合成が完結するため、黒色材料を回収する必要はなく、そのままあるいは簡単な工程を経ることで、容易に後述する黒色材料分散液とすることも可能である。
また、この黒色材料を用いて黒色膜を作製する場合、樹脂成分との分散性を考慮して、水分散系から有機溶媒分散系に変更してもよい。有機溶媒分散系に変更する場合、液相から回収したケーキ状の凝集物を、ボールミル、ビーズミル等の湿式混合機を用いて有機溶媒中にて分散処理する方法が採られる。
【0032】
こうして得られた本実施形態の黒色材料は、以下の特性を満たすことが必要とされる。
すなわち、分散媒中に固形分量が0.0005体積%になるようにして黒色材料を分散させた分散液(以下、「評価用分散液」と称する場合がある)における吸光度を光路長10mmで測定した場合に、まず、380nmから800nmの平均吸光度が0.8以上であることが必要である。平均吸光度が0.8を下回ると、黒色材料を用いた黒色膜において遮光性が十分でなくなってしまう。
上記平均吸光度は、1.0以上であることが好ましく、1.1以上であることがよりに好ましく、1.2以上であることがさらに好ましい。
【0033】
また、420nmにおける吸光度d420と680nmにおける吸光度d680との比d420/d680が0.6以上2.5以下であることが必要である。吸光度の比がこの範囲内にあれば、黒色膜における可視光領域における吸光度の波長依存性が小さく自然な色調の黒色を得ることができる。
前記420nm及び680nmにおける吸光度の比d420/d680は0.7以上1.6以下が好ましく、0.8以上1.5以下がより好ましく、0.8以上1.25以下がさらに好ましい。
【0034】
前記評価用分散液に用いる分散媒としては、吸光度が最も高くなるような溶媒を適宜選択することができる。なお本実施形態において、上記評価用分散液を後述する本実施形態の黒色材料分散液を希釈することにより得る場合においては、前記分散媒は、実際上は後述の黒色材料分散液に用いられる分散媒と同一か、黒色材料分散液に用いられる分散媒との相溶性が高い必要がある。
具体的に、前記吸光度測定のための希釈溶媒(分散媒)としては、黒色材料分散液の溶媒が水である場合には、水、エタノール、メタノール、1−プロパノール、アセトン等を、黒色材料分散液の溶媒が非水系である場合には、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、ヘキサン等を例示できる。
【0035】
例えば、分散媒として水を用いた場合、水の比重を1.00、黒色材料の比重を10.00として概算すると、吸光度測定用に黒色材料分散液を固形分量が0.0005体積%となるように希釈した液は、黒色材料の質量比に換算すると0.005質量%となる。
吸光度測定用の希釈液中の固形分は、周囲に付いている分散剤等は含まない黒色材料の質量ないし体積から算出する。
【0036】
この評価用分散液を、後述する本実施形態の黒色材料分散液を希釈することにより得る場合、前記黒色材料を分散させる分散条件としては、後述の本実施形態の黒色材料分散液の作製条件により定まるものであるが、基本的には前記銀元素及び錫元素を含有する微粒子を含む金属微粒子の平均分散粒子径が5nm以上100nm以下、かつ90%累積個数粒子径が1μm以下となる程度まで分散を行えばよい。このような粒子径、粒度分布となるのであれば、分散装置、分散時間等は特に制限されない。
すなわち、分散装置としては、ビーズミル、ボールミル、超音波分散機等の公知の分散処理装置を用い、各装置の特性に合わせた分散時間を選定すればよく、また分散性の向上や分散安定性の向上のための、分散剤や分散助剤、表面処理剤等を用いることもできる。
また、黒色材料分散液からこの評価用分散液を得る方法としては、例えば、後述の方法により黒色材料分散液中の金属微粒子の含有率が25質量%の黒色材料分散液を作製した場合、黒色材料分散液に用いられる分散媒で黒色材料分散液を0.05体積%になるように希釈して手振りで混合し、さらに同じ分散媒で100倍に希釈して手振りで混合して、固形分量が0.0005体積%の吸光度測定用の希釈液を得ることができる。
【0037】
<黒色材料分散液>
本実施形態の黒色材料分散液は、本実施形態の黒色材料を分散媒中に分散させた分散液である。
この分散液中における黒色材料の含有率は、1質量%以上80質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上50重量%以下、さらに好ましくは10質量%以上40質量%以下である。ここで、黒色材料の含有率を1質量%以上80質量%以下が好ましいとした理由は、この範囲が黒色材料が良好な分散状態を取りうる範囲であり、含有率が1質量%未満であると、黒色材料としての効果が低下する場合があり、また、80質量%を超えると、黒色材料の濃度が高くなり過ぎてペースト状態となり、分散液としての特徴が消失する場合があるからである。
【0038】
(分散媒)
前記分散媒は、基本的には、水及び有機溶媒の少なくともいずれかを含有したものである。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類;
2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、乳酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;
2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、蟻酸n−ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸エチル、酪酸n−プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸n−ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n−プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸エチル、γ−ブチロラクトン等の他のエステル類;
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;及びN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0039】
上記のうち、非水溶性有機溶媒を用いた場合の分散液における含水率は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
分散液の含水率が5質量%を超えると、黒色材料を分散した黒色材料分散液を塗料等の黒色樹脂組成物とする目的で非水系の樹脂成分ないしは樹脂形成成分と混合した場合に、分散液と樹脂成分ないしは樹脂形成成分とが分離し易くなり、安定した混合物(塗料等)が得難くなる場合がある。すなわち、分散液の含水率を5質量%以下とすることで、種類が多い非水系の樹脂成分ないしは樹脂形成成分の中から所望の特性に合ったものを適宜選択することができ、分散液、樹脂組成物(塗料)や塗膜における制約もなく、これらの設計の自由度を広げることができる。
【0040】
(その他の成分)
本実施形態の分散液では、黒色材料の分散性の向上、分散安定性の向上のために、分散剤及び/又は分散助剤や表面処理剤を併用することが好ましい。中でも、特に分散剤として高分子分散剤を用いると経時の分散安定性に優れるので好ましい。なお、ここで、分散剤は黒色材料の分散安定性を確保するための、黒色材料とは全く構造の異なるポリマー等であり、分散助剤とは黒色材料の分散性を高めるための顔料誘導体をいう。
【0041】
一般的に高分子分散剤の分類としては、例えば、ウレタン系分散剤、ポリエチレンイミン系分散剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系分散剤、ポリオキシエチレングリコールジエステル系分散剤、ソルビタン脂肪族エステル系分散剤、脂肪族変性ポリエステル系分散剤、ポリカルボン酸塩、ポリアルキル硫酸塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド等が挙げられる。これらの中では、樹脂として使用する電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂との相溶性、有機溶剤に対する相溶性を考慮すると、ウレタン系分散剤が好ましい。
【0042】
また、高分子分散剤を製法に依存した構造で分類した場合、ランダムコポリマー、櫛型コポリマー、ABA型ブロックコポリマー、BAB型ブロックコポリマー、両末端親水基含有ポリマー、片末端親水基含有ポリマーなどがある。これらの中では、樹脂として使用する電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂との相溶性、有機溶剤に対する相溶性を考慮すると、ランダムコポリマー、櫛形ポリマーが好ましい。
これらの条件を満たす分散剤の具体例としては、商品名で、EFKA(エフカーケミカルズビーブイ(EFKA)社製)、Disperbyk(ビックケミー社製)、SOLSPERSE(ゼネカ社製)等を挙げることができる。また、これらの分散剤は、1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
また、上記分散剤の黒色材料に対する添加量は、黒色材料を100部とした場合5質量部以上50質量部以下であることが好ましい。分散剤添加量が5質量部未満であると、黒色微粒子の分散に必要な分散剤量が足りずに分散液の分散性が保持できず、請求項に示す分散液の平均分散粒子径、膜中の平均粒子径を満たすことができない場合がある。また、添加分散剤量が50質量部を超えると、黒色材料に対して分散剤量が過剰となり、分散剤同士の相互作用などにより分散液の分散性が保持できず、後述する分散液における平均分散粒子径、90%累積体積粒子径を満たすことができない場合がある。
【0044】
前記黒色材料分散液においては、溶媒中に分散した金属微粒子(黒色材料)の平均分散粒子径が5nm以上100nm以下であることが好ましい。本実施形態における金属微粒子の平均一次粒子径が3nm以上であるため、平均分散粒子径が5nm未満の分散液を得ることは困難である。平均分散粒子径が100nmを上回ると、黒色材料分散液中での微粒子の分散が十分でなく、遮光性が低下したり微粒子の散乱により外観が白っぽくなり、黒色度が低下したりする場合がある。
平均分散粒子径は5nm以上80nm以下がより好ましく、5nm以上50nm以下がさらに好ましい。
【0045】
また、前記黒色材料分散液の溶媒中に分散した金属微粒子(黒色材料)の90%累積体積粒子径は1μm以下であることが好ましい。90%累積体積粒子径が1μmを上回ると、黒色材料分散液中での微粒子の分散が十分でなく粗大な粒子が存在するようになるため、遮光性が低下したり、微粒子の散乱により外観が白っぽくなり黒色度が低下したりする場合がある。
上記90%累積個数粒子径は0.6μm以下であることがより好ましい。
【0046】
上記分散液中の平均分散粒子径及び90%累積体積粒子径の測定方法については、動的光散乱法による粒度分布測定装置を用いてこの分散液の粒度分布を測定し、分散液中の微粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、累積カーブが50%となる点の粒径を平均分散粒子径、90%となる点の粒径を90%累積体積粒子径とした。
また、後述の黒色塗料における平均分散粒子径及び90%累積体積粒子径についても、同様の測定方法により求めた。
【0047】
本実施形態の黒色材料分散液は、黒色材料と、必要に応じて分散剤や分散助剤等の成分とを、分散媒に加えて混合分散することにより調製することができる。混合分散方法は、黒色材料等を混合した混合液を、超音波分散機、ペイントシェーカー、ボールミル、ビーズミル、アイガーミルなどの公知の分散処理方法より選択すればよいが、分散性の点からビーズミルが好ましい。また、複数の分散方法を組み合わせて使用してもよい。
例えば上記ビーズミルを用いた場合、バッチ式のビーズミルにおいて分散室内での(ビーズの質量)/(分散液の質量)の比を0.5以上15以下、回転数を1000rpm以上4000rpm以下で、0.1時間以上10時間以内程度分散させることが好ましい。
好ましい分散条件としては、例えば(ビーズの質量)/(分散液の質量)の比を3.5とし、2500rpmで2時間程度分散する条件が挙げられる。
【0048】
<黒色樹脂組成物>
本実施形態の黒色樹脂組成物は、少なくとも本実施形態の黒色材料と樹脂形成成分又は樹脂成分とを含むものであり、塗料等が含まれる。なお樹脂成分とは、後述の黒色膜における樹脂成分と同一であり、樹脂形成成分とは、後述の黒色膜における樹脂成分を形成するための成分である。
ここで、黒色樹脂組成物を構成するための主たる成分は次に示す[A]から[E]の5種類である。なお、[B]と[E]とは異なるものとする。
[A]黒色材料
[B]黒色材料分散媒
[C]樹脂形成成分
[D]樹脂成分
[E]樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒
【0049】
前記黒色樹脂組成物は、主にこの5成分の組み合わせにより構成されており、その組み合わせは次の(1)から(7)の通りとなる。なお、黒色材料を構成する金属微粒子を黒色樹脂組成物中に分散させるために、黒色材料は分散剤で処理されていることが好ましいが、分散剤は付加的成分であるため、ここでの記述は省略する。また、必要に応じて添加することが可能な[A]から[E]以外の成分、すなわち、分散助剤や表面処理剤についても、ここでは記述を省略する。
(1):[A]+[C]
最小限の組み合わせである2成分系であり、液状の樹脂形成成分中に黒色材料を分散したものと捉えることができる。この場合、[C]は液状である必要がある。
(2):[A]+[B]+[C]
3成分系であり、前記「黒色材料分散液」と、樹脂形成成分とを混合したものと捉えることができる。一般的には[C]は液状である必要があるが、[C]が[B]に可溶の場合には、[C]は固体状であってもかまわない。
(3):[A]+[C]+[E]
3成分系であり、溶媒中に溶解させた樹脂形成成分中に黒色材料を分散させたものと捉えることができる。[C]は[E]に溶解させているため、液状でも固体状でもかまわない。
(4):[A]+[D]+[E]
3成分系であり、溶媒中に溶解させた樹脂成分中に黒色材料を分散させたものと捉えることができる。なお[D]は固体であるから、[D]が存在する限り[E]は不可欠である。
(5):[A]+[B]+[D]
[D]が[B]に可溶な場合にのみ可能な組み合わせであって、前記「黒色材料分散液」中に、樹脂成分を溶解したものと捉えることができる。この場合のみ、例外的に[E]は不要である。
(6):[A]+[B]+[C]+[E]
(7):[A]+[B]+[D]+[E]
4成分系であり、前記「黒色材料分散液」に、樹脂形成成分又は樹脂成分を溶解させた溶液を混合したものと捉えることができる。この場合、[B]と[E]とは相溶性が高い必要がある。両者の相溶性が低い場合、「黒色材料分散液」と「樹脂形成成分又は樹脂成分を溶解させた溶液」とがそれぞれ安定に存在しても、両者を混合した際に、相分離や粒子成分の凝集等が起こるため好ましくない。なお、[B]と[E]とが同一の場合には、(6)は(2)又は(3)に、(7)は(4)又は(5)に、それぞれ含めるものとする。
【0050】
上記黒色材料[A]、黒色材料の分散媒[B]、樹脂形成成分[C]、樹脂成分[D]、樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒[E]の内、黒色材料、黒色材料の分散媒については上述していることから、ここでは樹脂成分、樹脂形成成分、樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒、について説明する。
【0051】
(樹脂形成成分、樹脂成分)
樹脂形成成分とは、後述の黒色膜における樹脂成分を形成するための成分であり、通常は樹脂成分のモノマー、オリゴマーやプレポリマーが含まれる。すなわち、樹脂成分として、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が各種使用可能であることから、これら樹脂のモノマー、オリゴマー、プレポリマーの少なくともいずれかもこれらに含まれる。
【0052】
樹脂成分として電離放射線硬化性樹脂を選択する場合、樹脂形成成分である電離放射線重合性モノマー(単量体)としては、分子中にラジカル重合性官能基を有する重合性モノマーである多官能性(メタ)アクリレートが好ましく、具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。カチオン重合性官能基を有するモノマーとして、例えば、3,4−エポキシシクロへキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロへキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等グリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等ビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等オキセタン類等が挙げられる。これらの電離放射線重合性モノマーは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、後述の電離放射線重合性プレポリマーと併用してもよい。
【0053】
また、電離放射線重合性プレポリマー(オリゴマーも包含する)としては、例えばポリエステル(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリオール(メタ)アクリレート系、シリコーン(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル系等の分子中にラジカル重合性官能基を有する重合性オリゴマー、あるいはノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等のエポキシ系樹脂等の分子中にカチオン重合性官能基を有する重合性オリゴマー等が挙げられる。これらの電離放射線重合性プレポリマーは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なおここで、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレートまたはメタクリレート」を意味する。
【0054】
また、前記樹脂成分として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリシロキサン樹脂、ポリウレタン樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)等を選択する場合、樹脂形成成分としては、これら熱硬化性樹脂を形成するための原料化合物や、重合性樹脂のモノマー、オリゴマー、プレポリマーを挙げることができる。
さらに、前記樹脂成分として熱可塑性樹脂であるポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、 ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等を選択する場合にも、樹脂形成成分としては、これらの熱可塑性樹脂を形成するための原料化合物や、重合性樹脂のモノマー、オリゴマー、プレポリマーを挙げることができる。
【0055】
さらに、これらの原料化合物や重合性樹脂モノマー、オリゴマー、プレポリマーから樹脂を反応形成させるために添加する、反応剤、反応開始剤や、重合剤、重合開始剤等を、樹脂形成成分に含めてもよい。
【0056】
ここで、黒色樹脂組成物における全固形分中の樹脂形成成分の含有量は、5質量%以上70質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上50質量%以下とすることがより好ましい。
この範囲よりも樹脂形成成分が多すぎると、黒色膜を形成したときに、樹脂成分単位体積中の黒色材料存在量が不足するために十分な遮光性が確保されない場合があり、一方樹脂形成成分が少なすぎると、均一な膜体が形成されない、必要な膜厚が得られない等、黒色膜としての好ましい形状が形成されない場合がある。
【0057】
(樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒)
樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒(以下、「樹脂溶媒」という場合がある)としては、樹脂形成成分又は樹脂成分の溶解度が高い液体であって、基本的には、水及び有機溶媒のうちの1種あるいは2種以上から選択されるものである。
前記樹脂溶媒としては、樹脂形成成分又は樹脂成分の溶解度が高いほかに、黒色材料の分散性が高いこと、黒色材料分散液との相溶性が高いこと、また、黒色材料分散液と混合した際に、黒色材料の分散性や樹脂成分や樹脂形成成分の溶解度が低下しないこと、という条件が必要である。これらの条件が満たされない場合には、「黒色材料分散液」と「樹脂形成成分又は樹脂成分を溶解させた溶液」とがそれぞれ安定に存在しても、両者を混合して黒色塗料を形成した際に、相分離、黒色材料の凝集や沈降、樹脂形成成分又は樹脂成分の析出等が起こり、良好な黒色塗料が得られなくなるため好ましくない。ここで、樹脂溶媒と黒色材料分散液として、同一あるいは同類の溶媒を選択することができれば、このような問題点を回避できるので好ましい。
なお、前記有機溶媒としては、前述の黒色材料分散液に用いられる有機溶媒を同様に用いることができる。
【0058】
また、本実施形態の黒色樹脂組成物においても、黒色材料分散液と同様、黒色材料の分散性の向上、分散安定性の向上のために、分散剤及び/又は分散助剤や表面処理剤を併用することが好ましい。中でも、特に分散剤として高分子分散剤を用いると経時の分散安定性に優れるので好ましい。なお、分散剤や分散助剤については、黒色材料分散液において記載したものと同一であるから、詳細は省略する。
また、本実施形態の黒色材料分散液として分散剤及び/又は分散助剤や表面処理剤を含む分散液を選択し、この黒色材料分散液を黒色塗料の原料として使用する場合においては、当該分散液中に既に含まれている分散剤、分散助剤や表面処理剤をそのまま使用してもよい。その理由として、分散剤、分散助剤や表面処理剤は、黒色材料の表面を修飾することで黒色材料表面が分散媒や溶媒に対して親和性を有するようにする物質であることから、分散媒や溶媒と特性が変わらないのであれば、あえて別種の分散剤や分散助剤で処理する必要は無いからである。
【0059】
以上説明した黒色樹脂組成物は、少なくとも前記黒色材料並びに樹脂形成成分及び/又は樹脂成分を選択し、必要に応じて黒色材料分散媒や樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒を加え、さらには光重合開始剤、分散剤その他の成分を加えて混合分散することにより調製することができる。これらの内、黒色材料、黒色材料分散媒、樹脂形成成分、樹脂成分、樹脂形成成分又は樹脂成分の溶媒の組み合わせについては、前述の通りである。
この場合、予め黒色材料分散液を調製し、これに樹脂形成成分等や光重合開始剤等を加えて溶解させることにより黒色樹脂組成物を調製してもよい。また、予め調製した黒色材料分散液と、樹脂形成成分等や光重合開始剤等の成分とを溶解させた溶液とを、混合することにより調製することもできる。
混合分散方法は、黒色材料や樹脂形成成分等を混合した混合液を、超音波分散機、ペイントシェーカー、ボールミル、ビーズミル、アイガーミルなどの公知の分散処理方法より選択すればよいが、分散性の点からビーズミルが好ましい。また、複数の分散方法を組み合わせて使用してもよい。なお、予め調製した黒色材料分散液を用いる場合、黒色樹脂組成物の製造時には上記分散処理方法を行うことなく、黒色材料分散液と樹脂形成成分等を溶解させた溶液とを十分に混合・攪拌すればよい場合もある。
【0060】
<黒色膜>
本実施形態の黒色膜は、前記本実施形態の黒色材料と樹脂成分とを少なくとも含んでなるものである。
本実施形態における樹脂成分としては、黒色材料である黒色を呈する金属微粒子が均一に分散された状態で硬化するものであって、形成された黒色膜に要求される特性に適したものを選択すればよい。この樹脂成分としては、前述の黒色樹脂組成物において説明した電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が各種使用可能である。
【0061】
本実施形態の黒色膜は、前述の黒色樹脂組成物の1つである黒色塗料を用いて、公知の各種塗工法により膜体を形成することにより得られる。例えば、黒色膜は、前記の黒色塗料を、基材の一主面上に、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、スリットコート法、スリット&スピンコート法等の各種塗布法により塗布して塗膜を形成し、この塗膜から溶剤を揮発等により除去し、必要により硬化処理することにより、容易に得ることができる。
【0062】
この硬化処理は、通常は塗膜中の樹脂形成成分を重合等により反応させて樹脂成分とする工程であって、樹脂形成成分として電離放射線硬化型樹脂を用いる場合、紫外線、電子線、X線などの放射線の照射(放射線の照射後、必要に応じて熱処理を施してもよい。)が挙げられ、樹脂形成成分として熱重合触媒を添加した熱可塑性樹脂原料等の熱反応性樹脂を用いる場合には、加熱処理が挙げられる。
また、黒色塗料中の成分が溶媒中に溶解した樹脂成分の場合においては、硬化処理は、塗膜中の樹脂成分中から溶媒を除去する工程となり、大気圧下あるいは減圧下での加熱処理が挙げられる。この場合、溶媒除去により硬化した樹脂成分は、同様の溶媒に曝されることで再度膨潤・溶解する可能性があるため、加熱処理条件を厳しくすることにより、溶媒を完全に除去することが好ましい。ここで、樹脂成分として電離放射線硬化型樹脂を用いる場合には、溶媒除去後に紫外線、電子線、X線などの放射線の照射や、さらには熱処理を施して完全に硬化させればよく、樹脂成分として熱反応性樹脂を用いる場合には、溶媒除去後の熱処理により、硬化反応を完結させればよい。
【0063】
前記黒色塗料を用いた黒色膜として、特定の形状にパターニングされた膜体、例えばブラックマトリックスとする場合には、アルカリ可溶性樹脂、光重合開始剤、エチレン性不飽和化合物を含む黒色塗料を用い、該黒色塗料を塗布して形成された塗膜に光(紫外線)感光性を持たせることが望ましい。塗膜が光感光性を有していれば、塗膜をフォトマスク等を用いて特定のパターン状に露光した後現像して硬化処理することにより、ブラックマトリックス等の特定の形状の黒色膜を容易に得ることができる。
【0064】
前記アルカリ可溶性樹脂としては、カルボキシル基又は水酸基を含む樹脂であれば特に限定はなく、例えばエポキシアクリレート系樹脂、ノボラック系樹脂、ポリビニルフェノール系樹脂、アクリル系樹脂、カルボキシル基含有エポキシ樹脂、カルボキシル基含有ウレタン樹脂等が挙げられるが、これらのうち、エポキシアクリレート系樹脂、ノボラック系樹脂、アクリル系樹脂が好ましく、中でも芳香環構造を有する樹脂が高い体積抵抗率及び低い比誘電率を与える点において特に好ましい。
この場合、前記黒色塗料中の全固形分に対するアルカリ可溶性樹脂の割合は、5質量%以上70質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以上50質量%以下である。この範囲よりもアルカリ可溶性樹脂の割合が多過ぎると、ブラックマトリックスパターン形成時に充分な感度が確保されず、また必要な遮光性も確保できない場合があり、一方少な過ぎると樹脂ブラックマトリックスの好ましい形状が形成されない場合がある。
【0065】
前記光重合開始剤とは、紫外線や熱によりエチレン性不飽和基を重合させるラジカルを発生させることのできる化合物である。
光重合開始剤としては、特に、感度の点でオキシム誘導体類(オキシム系化合物) が有効であり、遮光性を高くしたり、フェノール性水酸基を含むアルカリ可溶性樹脂を用いる場合などは、感度の点で不利になるため、特にこのような感度に優れたオキシム誘導体類(オキシム系化合物)が有用である。本実施形態では、上記光重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂ブラックマトリクスを形成する場合、分散液中の光重合開始剤の割合は、全固形分に対して0.4質量%以上15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。この範囲よりも光重合開始剤の割合が多すぎると現像速度が遅くなり過ぎる場合があり、一方少なすぎると十分な感度が得られず、好ましい樹脂ブラックマトリクス形状も形成されない場合がある。
【0066】
前記エチレン性不飽和化合物としては、エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物を意味するが、重合性、架橋性、及びそれに伴う露光部と非露光部の現像液溶解性の差異を拡大できる等の点から、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましく、また、その不飽和結合が(メタ)アクリロイルオキシ基に由来する(メタ)アクリレート化合物が更に好ましい。さらに、エチレン性不飽和結合を分子内に3個以上有する化合物を用いると、形成膜の体積抵抗率や比誘電率などの電気特性にとって好ましい。
【0067】
前記エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、及びそのアルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
また、前記エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類、及び、(メタ)アクリル酸又はヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0068】
本実施形態の黒色膜は、厚さ1μm当たりの光学濃度(OD値)が1以上であることが好ましい。1μm当たりの光学濃度が1に満たないと、黒色膜の厚さが数μm程度では十分な遮光性が得られず、また十分な遮光性を得るためには膜厚を厚くせざるを得ないために、特にブラックマトリックス等として用いた場合、膜厚が厚くなることにより、配線の断線や表示ムラ等が生じ易くなる。そこで、膜厚を必要以上に厚くしなくても十分な遮光性が得られる範囲として、1μm当たりの光学濃度を1以上とすることが好ましい。
また、1μm当たりの光学濃度は1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。
ここで、本実施形態の黒色材料は黒色度が高く、また樹脂中での分散性にも優れていることから、本実施形態の黒色膜は、黒色材料の量を増加させることにより、黒色材料の増加による悪影響、例えば膜強度の低下や黒色材料の凝集による黒色度の低下等を避けつつ、1μm当たりの光学濃度を2以上とすることも容易であり、3以上とすることもできる。従って、黒色膜の厚さを増すことなく、高い遮光性を得ることができる。なお、1μm当たりの光学濃度は高いほど望ましいが、測定上の限界から上限は10程度である。
さらに、黒色膜の反射率は低い方が黒色膜の黒色度が高まり好ましい。反射率が高いと黒色膜の外観が白っぽくなり膜の品位が低下してしまう。380nmから800nmまでの反射率を平均した可視光の平均反射率は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
ここで、上記厚さ1μm当たりの光学濃度は、以下のようにして求めることができる。
試料は透過測定用として透明基板上に膜状に形成する。この膜状試料の光学濃度を透過濃度計で測定するとともに、触針式表面形状測定器等を用いて膜厚を測定し、得られた試料の光学濃度値を膜厚で除すことにより、厚さ1μm当たりの光学濃度を求めることができる。なお、膜状試料の光学濃度は4.0程度かそれ以下にしておくことが、測定精度の低下を防ぐことができるので好ましい。
【0070】
また、前記黒色膜の体積抵抗率は1011Ω・cm以上であることが好ましい。これは、COA方式やBOA方式の液晶表示素子や、自発光型表示装置において、ブラックマトリックス等や遮光壁に素子駆動用の配線が接触したり、ブラックマトリックスや遮光壁上に直接素子駆動用配線を設ける構造が主流となってきているために、前記黒色膜を用いて形成されたブラックマトリックス等や遮光壁の体積抵抗率が1011Ω・cmに満たないと、配線間が短絡を起こしやすくなり、TFT素子の動作不良等を起こすためである。またIPS駆動型液晶においても、前記黒色膜を用いて形成されたブラックマトリックスが導電性を有すると本来液晶を駆動するための電界とは異なる方向に不要電界が生じ、画像の乱れを誘発するためである。
この黒色膜の体積抵抗率は1012Ω・cm以上であることがより好ましく、1013Ω・cm以上であることがさらに好ましい。黒色膜の体積抵抗率は高いほど好ましく、その上限は特に制限はないが、通常1018Ω・cm以下である。
なお、体積抵抗率の測定は、市販の体積抵抗率計を用い、例えば4探針法等により測定することができる。
本実施形態の黒色材料は黒色度が高いことから、従来の黒色材料に比べて黒色膜中の含有量を減じることができ、また樹脂中での分散性にも優れていることから、黒色材料粒子同士が連なるように凝集して形成される導電パスが発生しない。そこで、上記のように1μm当たりの光学濃度を高めても、体積抵抗率を高い値に維持することができる。
【0071】
<黒色膜付き基材>
本実施形態の黒色膜付き基材は、基材上に既述の本実施形態の黒色膜を設けて構成されたものである。具体的には、例えば光透過性基材の上に、前述の黒色樹脂組成物の1つである黒色塗料を用いて既述したように形成した層を、必要に応じてパターニングすることで作製される。
【0072】
前記基材としては、特に限定されるものではないが、ガラス基材、プラスチック基材(有機高分子基材)等を挙げることができる。また、その形状としては、平板、フィルム状、シート状等が挙げられる。また、上記のプラスチック基材としては、プラスチックシート、プラスチックフィルム等が好適である。
【0073】
前記ガラス基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ソーダガラス、アルカリガラス、無アルカリガラス等から適宜選択することができる。
前記プラスチック基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロースアセテート、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテル、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリレート等から、用途や使用条件に基づいて適宜選択することができる。
【0074】
また、前記黒色塗料を用いて形成した層を、パターニングする方法は、特に限定はされず、前述のように黒色塗料中にアルカリ可溶性樹脂、光重合開始剤、エチレン性不飽和化合物を含ませ、この黒色塗料を塗布して光(紫外線)感光性を持たせた塗膜を形成し、該塗膜をパターン状に露光した後現像して黒色膜を形成する工程を有してなり、必要に応じてポスト露光やポストベークなどの他の工程を設けて構成することができる。
上記露光、現像などのパターニング工程については公知の方法を使用できるが、例えば画像表示装置用のブラックマトリックスとして適用する場合には、特開2006−251095号公報の段落番号0096から0106に記載の方法や、特開2006−251237号公報の段落番号0116から0126に記載の遮光画像の形成方法が、本実施形態においても好適に用いることができる。
【0075】
また、前記黒色塗料を使用し、インクジェット法を用いて、基材上に直接パターンが形成された層を作製する方法もある。この場合、黒色塗料の塗膜には光感光性を与える必要は無いが、黒色塗料においては、微小なインクジェットノズルからの吐出性(吐出量や吐出方向の安定性)に優れるとともに、吐出され基材に付着した塗料は、流出や変形しないように高粘度状態となるようにする必要がある。このため、黒色塗料の粘度を調整したり、チクソトロピーを与えるための助剤を添加したりする等の方法が用いられる。
この工程についても公知の方法を使用できるが、例えば画像表示装置用のブラックマトリックスとして適用する場合には、特開2008−116895号公報の段落番号0029から0031に記載の方法を用いることができる。
【0076】
本実施形態の黒色膜は、可視光領域の広い範囲において、高い遮光性(光を透過しない)および黒色度(光の低反射性)を示す。従って、本実施形態の黒色膜付き基材は、遮光性と黒色度を利用した画像表示装置用部材として、好適に用いることができる。これらの部材としては、液晶表示素子や自発光型表示装置におけるブラックマトリックスとそれを用いたカラーフィルターやブラックストライプ、液晶表示装置や自発光型表示装置において各色の画素間を分離する遮光壁、液晶表示装置において液晶を充填する基板間のスペーサー等を挙げることができる。
すなわち、本実施形態の黒色膜付き基材は、プラズマディスプレイ表示装置、EL表示装置等の自発光型表示装置、CRT表示装置、液晶表示装置等に好適に用いることができ、中でも液晶表示装置やEL表示装置に用いた場合に本実施形態の黒色膜の効果が顕著に発揮される。ここで、液晶表示装置の種類としては、STN、TN、VA、IPS、OCS、及びR−OCB等が挙げられる。
【0077】
本実施形態の黒色膜は遮光性および黒色度が高く、既存のカーボンブラック等の黒色材料を用いた黒色膜に比べて黒色材料の体積分率が少なくても高い遮光性を得ることができる。この結果、例えばブラックマトリックスとそれを用いたカラーフィルターへの適用においては、黒色度が高いことからブラックマトリックスの厚さを減じることができ、結果として得られるカラーフィルターの平坦性を高めることができることから、このカラーフィルターを備えた液晶表示装置は、カラーフィルターと基板との間にセルギャップムラが発生せず、色ムラ等の表示不良の発生が改善される。
すなわち、本実施形態の黒色膜付き基材をブラックマトリクス基板としたときの、黒色膜の膜厚は0.2μm以上5.0μm以下が好ましく、特に0.2μm以上4.0μm以下が好ましい。このように、ブラックマトリクス基板における黒色膜として本実施形態の黒色膜を使用しているので、薄膜でも高度の光学濃度を有する。
【0078】
また、本実施形態の黒色膜は黒色材料の体積分率が少なくても高い遮光性を得ることができ、黒色材料の分散性にも優れているため、膜中で黒色材料間の導電パスが生じにくくなり、膜の体積抵抗率を高くすることができ、高い遮光性と高い膜の体積抵抗率とを両立できる。
これにより、COA方式やBOA方式の液晶表示素子や自発光型表示装置のように、ブラックマトリックスと画素駆動用の配線とが接触する場合においても、配線の短絡等による素子の駆動不良をおこす虞がない。
【0079】
また、遮光壁やスペーサーへの適用においても、体積抵抗率が高いことから、各画素間の配線が短絡する虞がなく、従って素子の駆動不良をおこすことがない。さらに黒色度が高いことから、遮光壁の厚さを減じることができ、各画素における発光領域の拡大によるコントラストの向上、あるいは画素間隔の減少に伴う発光素子の高密度化等をはかることができる。
さらには、高い光吸収性を利用して、コントラスト増強フィルム等へ応用することも可能である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
<各測定・評価方法>
以下に、実施例または比較例において採用した、材料及びシートの特性等の各測定または評価方法を示す。
・黒色材料
後述する黒色微粒子の水分散液から粒子を分離、乾燥して粉末試料とし、以下の評価を行った。
(含まれる微粒子種の同定)
粉末試料について、X線回折装置(XRD)により結晶相を同定するとともに、圧粉体を電子線マイクロアナライザー(EPMA)で定性及び定量分析することにより、結晶相と組成比(含有比率)から含まれる金属粒子種を確認した。
[XRD測定による結晶相同定]
粉末試料をガラス製試料ホルダーに詰め、X線回折装置(PANalytical製、X'Pert PRO)により、CuKα線を用いて測定した。得られたXRDプロファイルの回折角2θ=38°付近および44°付近のピークを銀、2θ=34.7°付近および39.7°付近のピークを銀錫金属間化合物(Ag3Sn及び/又はAg4Sn)、2θ=30.7°付近および32°付近のピークを錫の結晶相ピークとして同定することにより、含まれる金属粒子種の結晶相を確認した。
[EPMA測定による定性・定量分析]
黒色材料粉末の圧粉体を電子線マイクロアナライザー(EPMA、日本電子社製、JXA8800)にて分析し、波長分散型X線分光器を用いた定性ならびに定量分析によって粉末中の錫及び銀の存在及び含有比率(質量比)を測定した。
[XRD測定とEPMA測定からの微粒子種の同定]
XRD測定で同定された結晶相に対して、その結晶相を構成する元素が十分な量存在することをEPMA測定で確認することにより、微粒子種を同定した。
すなわち、XRD測定で銀錫金属間化合物の結晶相が確認された試料については、EPMA測定で銀及び錫の存在を確認することで、微粒子種が銀錫金属間化合物を含むと同定し、XRD測定で錫の結晶相が確認された試料については、EPMA測定で錫の存在を確認することで、微粒子種が錫を含むと同定した。また、XRD測定で銀の結晶相が確認された試料については、EPMA測定で銀の存在を確認することで、微粒子種が銀を含むと同定したが、XRD測定では銀の結晶相のみが確認されているにもかかわらず、EPMA測定で銀及び錫の存在が確認された試料については、錫量も考慮し、銀のほかに、銀中に銀の結晶構造を保った状態で錫が固溶した錫固溶銀、すなわち銀錫合金部も含まれると同定した。
(金属微粒子の平均一次粒子径、粒子形状)
黒色材料粉末より作製した黒色材料分散液を希釈したものを試料とし、透過型電子顕微鏡(TEM:日立ハイテクフィールディング製、H−800)により観察した。観察視野から任意の粒子50個乃至100個を選び、それぞれの粒子像を円で近似し、当該円の直径を該粒子の粒子径(円直径相当の粒子径)とした。得られた結果より粒子径の累積個数分布を求め、累積値50%に対応する粒子径(メジアン径)を膜中の黒色材料の平均一次粒子径とした。
また、同時に観察粒子の粒子形状を球状、楕円球状、角柱状、棒状、板状等に分類し、個数が多い順に合計数が全体中の80個数%以上となるまでの形状を記載した。
【0081】
・黒色材料分散液
(平均分散粒子径、90%累積体積粒子径)
調製した黒色材料分散液について、動的光散乱法を適用した粒度分布測定装置(日機装社製、Microtrac 9340−UPA)を用いて、この分散液の粒度分布を測定し、得られた分布結果より体積平均粒子径(MV値)を算術平均により求め、その値を平均分散粒子径とした。また、前記測定された粒度分布から粒度の累積分布を算出し、体積累積値90%に対応する90%累積体積粒子径を求めた。
(分散液の吸光度)
黒色材料分散液を、その分散媒で黒色材料の固形分量が0.0005体積%になるように希釈し、希釈した液の吸光度を自記分光光度計(島津製作所社製、UV−3150)で測定した。
1nmごとに計測された380nmから800nmまでの吸光度を平均し、可視光域での平均吸光度とした。また、380nm、420nm、680nm、800nmにおける吸光度を示すとともに、420nmにおける吸光度d420と680nmにおける吸光度d680の比(d420/d680)を算出した。
【0082】
・黒色膜
(光学濃度(膜の遮光性))
黒色膜を形成したガラス基板について、透過率濃度計(TECHKON社製、RT−120)を用いて可視光領域における光学濃度(OD値:Optical Densty)を測定し、同様に測定したガラス基板単体(膜なし)の測定値を参照値とすることにより、黒色膜自体のOD値を得た。
(反射率)
黒色膜付きガラス基板の反射率を分光光度計(ジャスコエンジニアリング製、V−570)で測定し、380nmから800nmまでの反射率を平均したものを可視光の平均反射率とした。
(色味)
黒色材料、または黒色材料分散液では黒色度が高く色味の評価が困難であるため、吸光度測定用に黒色材料分散液を固形分量が0.0005体積%に希釈した液を目視観察し、色味を評価した。
(黒色膜の体積抵抗率)
成膜基板としてITO膜をスパッタ法により表面に成膜したガラス基板を選択し、この基板上に成膜した黒色膜について、絶縁抵抗計(エーディーシー社製、超高抵抗/微小電流計R8340A)を用いて体積抵抗率を測定した。なお、体積抵抗率測定はDC5Vにて実施した。
【0083】
<実施例1>
(黒色材料分散液の調製)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物157g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン180gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B液)を調製した。次いで、B液中にA液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム0.2gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合し、さらにアスコルビン酸18gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合してC液を得た。
次いで、錫コロイドA(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)150g及び純水を混合した4000gの錫微粒子分散液中に、上記C液を滴下、混合した。さらに酒石酸180gを純水2000gに溶解した水溶液を錫微粒子分散液とC液との混合液中に滴下、攪拌し、過剰の錫コロイドを溶解させた。その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D液、固形分:25質量%)を調製した。
【0084】
次いで、上記D液100g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E粉)を得た。
次いで、上記E粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F液、固形分:25質量%)を得た。
【0085】
(黒色膜の作製)
黒色材料分散液(F液)、多官能性アクリレートを樹脂形成成分とするレジスト(分散媒:PGMEA)及び溶媒としてのPGMEAを、固形分体積比(黒色微粒子:レジスト)が10:90となるように混合し、超音波処理により分散して黒色塗料とした。なお、上記固形分体積比は仕込比である。
次いで、厚さ0.7mmのガラス基板上に、前記調製した黒色塗料をスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレート上で120℃にて2分間プリベークし、さらに230℃で30分間ポストベークし、黒色膜付きガラス基板を得た。黒色膜の膜厚は1μmであった。
【0086】
(評価)
上記で得られた黒色材料、黒色材料分散液、黒色膜について、前記の条件にしたがって微粒子の平均一次粒子径、黒色材料分散液の吸光度等の測定を行った。なお図1に、黒色材料を分散させた分散液の分光吸収スペクトルを示す。この図に示すように、吸収特性は400nmから800nmにわたりほぼ同一の吸光度を示し、色味も自然な黒色であった。さらに、黒色膜の体積抵抗率は1015Ω・cmであった。
結果をまとめて第1表に示す。
【0087】
<実施例2>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、錫コロイドAの量を75gとした以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0088】
<実施例3>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、錫コロイドAの量を300gとした以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0089】
<実施例4>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、錫コロイドA 150gの代わりに、錫コロイドB(平均粒子径:30nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)450gを用いた以外は、実施例1と同様にして黒色微粒子の水分散液(固形分:25質量%)を調製し、次いで、これを用いて黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0090】
<実施例5>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、水素化ホウ素ナトリウムの量を0.3gとした以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液の調製、黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0091】
<実施例6>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、水素化ホウ素ナトリウムの量を2gとした以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液の調製、黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0092】
<実施例7>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、1質量%に希釈したポリビニルピロリドンの量を60gとした以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液の調製、黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0093】
<比較例1>
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物314g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン360gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(G液)を調製した。次いで、G液中にA液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム10gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合してH液を得た。
次いで、錫コロイドA(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)150g及び純水を混合した4000gの錫微粒子分散液中に、上記H液を滴下、混合した。さらに酒石酸180gを純水2000gに溶解した水溶液を錫微粒子分散液とH液との混合液中に滴下、攪拌し、過剰の錫コロイドを溶解させた。その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(I液、固形分:25質量%)を調製した。
【0094】
その後、上記黒色微粒子の水分散液(I液)を用いて、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、並びに黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。なお図2に、黒色材料を分散させた分散液の分光吸収スペクトルを示す。この図に示すように、吸収特性は可視光領域の短波長側である420nm付近に吸収ピークがあり、短波長側での吸収特性はよいものの、長波長側での吸収は十分ではなかった。色味も自然な黒色ではなく赤茶色であった。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0095】
<比較例2>
実施例1の黒色材料分散液の調製において、クエン酸3ナトリウム2水和物の量を78gとし、1質量%に希釈したポリビニルピロリドンの量を60gとした以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、並びに黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0096】
<比較例3>
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物157g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン180gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B液)を調製した。次いで、B液中にA液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム20gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合した後静値し、錫コロイドが存在しない状態で銀微粒子を析出させることにより、銀微粒子の水分散液(固形分:25質量%)を調製した。
【0097】
その後、実施例1における黒色微粒子の水分散液の代わりに上記銀微粒子の水分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、並びに黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0098】
<比較例4>
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物157g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン180gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B液)を調製した。次いで、B液中にA液を滴下、混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム0.2gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合し、さらにアスコルビン酸54gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合した後静置し、錫コロイドが存在しない状態で銀微粒子を析出させることにより、銀微粒子の水分散液(固形分:25質量%)を作製した。
【0099】
その後、実施例1における黒色微粒子の水分散液の代わりに上記銀微粒子の水分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、並びに黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0100】
<比較例5>
実施例1における黒色微粒子の水分散液の代わりに、錫コロイドA(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、黒色材料分散液及び黒色塗料の調製、並びに黒色膜の作製を行い、同様の評価を行った。
これらの結果をまとめて第1表に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
第1表において、*1の結晶相欄における「銀錫」とは、「銀錫金属間化合物(Ag3Sn、Ag4Sn)」を示し、*2の金属粒子種欄における「銀錫」とは、「銀錫合金(銀錫金属間化合物+錫固溶銀+銀固溶錫)」を示す。また、*3の「主な」とは、観察した粒子のうち、全体中の80個数%以上の形状を示したものである。
【0103】
第1表に示すように、実施例の黒色材料分散液は吸光度の波長依存性が小さく、自然な黒色が得られた。黒色遮光膜は膜のOD値が高く、遮光性に優れ、また反射率が低く黒色度が優れており、高い遮光性、黒色度、自然な色調の黒色という性能をすべて満たすことができた。
【0104】
一方、比較例1は遮光性が高いものの、短波長側の吸光度が高いために色が赤味を帯び、自然な黒色が得られなかった。
比較例2は、短波長側に比して高波長側の吸光度が高いために色が青味を帯び、自然な黒色が得られなかった。
比較例3は液の平均吸光度は高いものの短波長側の吸光度が高いために色が赤味を帯び、また焼成する際に遮光性が低下したため、満足できる膜の遮光性は得られなかった。
比較例4は吸光度の波長依存性は小さいものの吸光度が低く、また粒子が大きいために散乱が大きくなり外観が灰色になってしまった。
比較例5は平均吸光度は高く、吸光度の波長依存性は小さいものの、焼成する際に錫が酸化して遮光性が低下したため、満足できる膜の遮光性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の黒色膜及びこれを用いた黒色膜付き基材は、液晶表示素子や有機EL素子等の代表される表示素子やこれを用いた画像表示装置において、好適に使用することができる。また、本発明の黒色材料及びこれを用いた黒色材料分散液、黒色塗料は、前記黒色膜を有効に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも銀元素及び錫元素を含有する微粒子を含む金属微粒子からなり、該銀元素の含有量が30質量%以上99質量%以下であり、前記金属微粒子の円直径相当の平均一次粒子径が3nm以上100nm以下である黒色材料であって、
分散媒中に固形分量が0.0005体積%になるようにして前記黒色材料を分散させた分散液における、光路長10mmでの380nmから800nmの平均吸光度が0.8以上であり、420nmにおける吸光度d420と680nmにおける吸光度d680との比d420/d680が0.6以上2.5以下である黒色材料。
【請求項2】
前記金属微粒子が、銀錫合金部を有する微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子との混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と錫微粒子との混合微粒子、銀錫合金部を有する微粒子と銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、及び銀微粒子と錫微粒子との混合微粒子、のいずれかである請求項1に記載の黒色材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の黒色材料を、分散媒中に分散した黒色材料分散液。
【請求項4】
前記黒色材料の平均分散粒子径が5nm以上100nm以下であり、かつ90%累積体積粒子径が1μm以下である請求項3に記載の黒色材料分散液。
【請求項5】
請求項1または2に記載の黒色材料と、樹脂形成成分または樹脂成分と、を少なくとも含む黒色樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の黒色材料と、樹脂成分と、を少なくとも含む黒色膜。
【請求項7】
体積抵抗率が1011Ω・cm以上である請求項6に記載の黒色膜。
【請求項8】
請求項6または7に記載の黒色膜を基材表面に有する黒色膜付き基材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−167194(P2012−167194A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29458(P2011−29458)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】