説明

黒色系インク組成物およびインクセット

【課題】耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成可能なインクジェット記録用の黒色インク組成物および該インク組成物を含むインクセットを提供する。
【解決手段】インクジェット記録用の黒色系インク組成物を、カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色系インク組成物およびインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野においてカラー画像を記録する画像記録方法として適用されてきた。インクジェットに用いられるインク成分の着色剤として顔料が広く用いられており、中でも黒色インクにはカーボンブラックが用いられることが多い。
【0003】
カーボンブラックを用いたインク組成物において、カーボンブラックに加えて着色顔料を併用することで黒インクの色相改良が可能とされている(例えば、特許文献1参照)。また溶剤系UV硬化型インクとして、保存安定性及び硬化性改良のために黒インクにフタロシアニン誘導体を含有させる検討がなされている(例えば、特許文献2参照)。
一方、環境負荷軽減のためには水性インクが好ましいが、水性顔料インクは耐擦過性などの問題があるため、最近では、紫外線硬化型の水性顔料インクの検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−318293号公報
【特許文献2】特開2005−264098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜2に記載のインク組成物では、密着性、耐擦性に優れた画像を形成することは困難な場合があった。また特許文献2に記載の顔料誘導体は、カーボンブラック顔料の分散性向上に寄与するものであって、着色を目的としたいわゆる顔料とは本質的に異なるものである。
【0006】
本発明は、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成可能なインクジェット記録用の黒色インク組成物および該インク組成物を含むインクセットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含むインクジェット記録用の黒色系インク組成物。
【0008】
<2> 前記カーボンブラック顔料および着色顔料からなる群から選ばれる顔料の少なくとも1種は、酸性基を有する水不溶性樹脂でその表面の少なくとも一部が被覆されている、前記<1>に記載の黒色系インク組成物。
【0009】
<3> 前記着色顔料として、マゼンタ顔料およびシアン顔料を含む、前記<1>または<2>に記載の黒色系インク組成物。
【0010】
<4> 前記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、mおよびnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す)
【0013】
<5> コロイダルシリカをさらに含む、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0014】
<6> 前記カーボンブラック顔料および着色顔料からなる群から選ばれる顔料の少なくとも1種は、体積平均二次粒子径が40nm〜150nmである、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0015】
<7> アセチレングリコール系界面活性剤をさらに含む、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0016】
<8> 前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物と、前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液と、を含むインクジェット記録用のインクセット。
【0017】
<9> 前記凝集剤は酸性化合物である、前記<8>に記載のインクセット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像を形成可能なインクジェット記録用の黒色インク組成物および該インク組成物を含むインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<黒色系インク組成物>
本発明のインクジェット記録用の黒色系インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう)は、カーボンブラック顔料の少なくとも1種と、マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物の少なくとも1種と、重合開始剤の少なくとも1種と、水とを含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。
【0020】
カーボンブラック顔料に加えて、マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料を含むことで、インク組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させた場合に、耐擦性と記録媒体への密着性に優れる画像の形成が可能となる。これは例えば、顔料としてカーボンブラック顔料のみを用いる場合に比べて、硬化感度が向上することに起因すると考えることができる。
【0021】
[カーボンブラック顔料]
本発明の黒色系インク組成物は、カーボンブラック顔料の少なくとも1種を含む。カーボンブラック顔料としては特に制限はないが、画像の密着性、耐擦性、画像濃度等の観点から、pHが酸性から中性の領域であるカーボンブラック顔料であることが好ましい。さらにカーボンブラック顔料の平均一次粒子径は10〜50nmであることが好ましく、10〜30nmがさらに好ましい。
尚、平均一次粒子径は、日本電子(株)社製の透過型電子顕微鏡TEM2010(加圧電圧200kV)を用いて撮影された画像から、任意に選択した一次粒子1000個の粒子径(円相当径)を測定してその算術平均として算出される。
【0022】
前記カーボンブラック顔料のpHは、分散性の観点から、酸性から中性付近の領域であることが好ましく、pH2.0〜pH8.5であることがより好ましく、pH2.5〜pH8.0であることが特に好ましい。
尚、カーボンブラック顔料のpHは、カーボンブラック顔料の水分散物のpH(25℃)として測定される。
【0023】
前記カーボンブラック顔料のDBP吸収量は特に制限されないが、色調と印画濃度の観点から、30ml/100g以上200ml/100g以下であることが好ましく、50ml/100g以上150ml/100g以下であることがより好ましい。
尚、DBP吸収量は、JIS K6221 A法によって測定される。
【0024】
また前記カーボンブラック顔料のBET比表面積は特に制限されないが、印画濃度と保存安定性の観点から、30m/g以上450m/g以下であることが好ましく、200m/g以上400m/g以下であることがより好ましい。
【0025】
カーボンブラック顔料としては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
具体例としては例えば、Raven7000、Raven5750、Raven5250、Raven5000ULTRAII、Raven 3500、Raven2000、Raven1500、Raven1250、Raven1200、Raven1190 ULTRAII、Raven1170、Raven1255、Raven1080、Raven1060、Raven700(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Black Pearls L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400(以上、キャボット社製)、Color Black FW1、 Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black 18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex35、Printex U、Printex V、Printex140U、Printex140V、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black4、NIPEX180−IQ、NIPEX170−IQ(以上、デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、No.900、No.2200B、No.2300、No.990、No.980、No.970、No.960、No.950、No.850、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0026】
上記のカーボンブラック顔料は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明のインク組成物におけるカーボンブラック顔料の含有比率は、特に制限されないが、密着性、耐擦性、印画濃度の観点から、0.5〜4質量%であることが好ましく、0.8〜2質量%であることがより好ましい。
【0027】
[着色顔料]
本発明のインク組成物は、前記カーボンブラック顔料に加えて、マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料を含む。前記マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料は、目的に応じて公知の有機顔料から適宜選択することができる。本発明に用いられる有機顔料の具体的な例を以下に示す。
【0028】
マゼンタ顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
これらの中でも、密着性と耐擦性の観点から、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド202、C.I.ピグメント・レッド209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
シアン顔料としては、例えばC.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、及び米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
これらの中でも、密着性と耐擦性の観点から、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0030】
イエロー顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。
これらの中でも、密着性と耐擦性の観点から、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー185から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
本発明においては、密着性と耐擦性の観点から、着色顔料としてマゼンタ顔料の少なくとも1種とシアン顔料の少なくとも1種とを含むことが好ましい。
【0032】
本発明において、前記カーボンブラック顔料および着色顔料の総量に対する前記着色顔料の含有比率(着色顔料/(カーボンブラック顔料+着色顔料))は特に制限されないが、密着性、耐擦性、吐出性の観点から、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
また前記着色顔料におけるシアン顔料に対するマゼンタ顔料の含有比率(マゼンタ顔料/シアン顔料)は特に制限されないが、密着性、耐擦性、色調の観点から、100質量%以上180質量%以下であることが好ましく、120質量%以上150質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
[分散剤]
前記カーボンブラック顔料および着色顔料(以下、両者を合せて「顔料」ということがある)は分散剤によって水系媒体中に分散されていることが好ましい。前記分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
低分子の界面活性剤型分散剤としては、通常用いられる低分子界面活性剤を特に制限なく用いることができる。
【0035】
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0036】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
【0037】
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸等のホモポリマーや、他の親水基を有するモノマーとの共重合体などのように、カルボキシル基が導入された水溶性分散剤が親水性高分子化合物として好ましい。
【0039】
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性構成単位と親水性構成単位とを有する水不溶性樹脂を用いることができる。前記親水性構成単位としては、酸性基を有する構成単位であることが好ましく、カルボキシル基を有する構成単位であることがより好ましい。
水不溶性樹脂としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
より具体的には例えば、特開2005−41994号公報、特開2006−273891号公報、特開2009−084494号公報、特開2009−191134等に記載の水不溶性樹脂を本発明においても好適に用いることができる。
【0040】
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、更に好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0041】
ポリマー分散剤は、自己分散性、及び後述する処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有する水不溶性樹脂を含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が100mgKOH/g以下の水不溶性樹脂であることが好ましく、25〜100mgKOH/gの水不溶性樹脂を含むことがより好ましい。特に本発明のインク組成物をインク組成物中の成分を凝集させる処理液(詳細は後述)と組み合わせて用いる場合には、カルボキシル基を有し、かつ酸価が25〜100mgKOH/gのポリマー分散剤が有効である。
【0042】
顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:1の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:0.7である。
【0043】
本発明においては、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤とが色材粒子を構成していることが好ましく、前記色材粒子が、顔料と酸性基を有する水不溶性樹脂とを含むことがより好ましく、顔料とカルボキシル基を有する水不溶性樹脂とを含むことが特に好ましい。
【0044】
また、凝集性の観点から、カーボンブラック顔料及び着色顔料の少なくとも1種は、酸性基を有する水不溶性樹脂(ポリマー分散剤)に被覆されたものであることが好ましい。水不溶性樹脂とは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下である樹脂をいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性樹脂の塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0045】
分散状態での色材粒子の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、40〜150nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、色材粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材粒子を2種以上混合して使用してもよい。
ここで、分散状態での色材粒子の平均粒子径は、インク化した状態での平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
【0046】
なお、分散状態での色材粒子の平均粒子径の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒子径を測定することにより求められるものである。
【0047】
酸性基(好ましくはカルボキシル基)を有する水不溶性樹脂で被覆された顔料は、例えば、顔料、水不溶性樹脂(分散剤)、および必要に応じて溶媒(好ましくは、有機溶剤)等を含む混合物を、分散機により分散処理することで得ることができる。
【0048】
具体的には例えば、顔料と、水不溶性樹脂(分散剤)と該水不溶性樹脂を溶解または分散可能な有機溶剤との混合物に、塩基性物質を含む水溶液を加えて分散処理する工程(混合・水和工程)と、前記有機溶剤の少なくとも一部を除く工程(溶剤除去工程)とを含む製造方法で、顔料の表面の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料分散物を製造することができる。これにより、顔料が微細に分散され、保存安定性に優れた顔料分散物を作製することができる。
より具体的には例えば、特開平10−140065号公報等に記載の顔料分散物の製造方法によって顔料表面の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料分散物を製造することができる。
【0049】
あるいは「顔料表面の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料分散物」を得る方法として、顔料を水溶性もしくは水不溶性の分散剤を用いて分散した後に、架橋剤を用いて分散剤を架橋することにより水溶性の分散剤を水不溶化して顔料分散物を作製する方法もまた好ましい。
前記分散剤としてはポリビニル類、ポリウレタン類、ポリエステル類等が挙げられるが、その中でもポリビニル類が好ましい。
前記分散剤は、分子内に、架橋剤により架橋可能な官能基を有することが必要である。該架橋可能な官能基としては、特に限定されず、カルボキシル基またはその塩、イソシアナート基、エポキシ基等が挙げられるが、分散性向上の観点からカルボキシル基またはその塩を有していることが好ましい。
【0050】
前記分散剤としては、共重合成分としてカルボキシル基含有モノマーを用いて得られる共重合体であることが好ましい。カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチルアクリレート、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、中でも、架橋性および分散安定性の観点から、(メタ)アクリル酸やβ−カルボキシエチルアクリレートが好ましい。尚、(メタ)アクリル酸はアクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
前記共重合成分は疎水性モノマーの少なくとも1種を含むことが好ましい。疎水性モノマーとしては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートやフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環基を有する(メタ)アクリレート、ならびに、スチレンおよびその誘導体等を挙げることができる。
【0051】
前記分散剤は、共重合成分として、カルボキシル基含有モノマーと、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレートおよび芳香環基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一方とを用いて得られる共重合体であることが好ましい。
分散剤としての共重合体の合成方法は特に限定されないが、ビニルモノマーのランダム重合が分散安定性の点で好ましい。
【0052】
架橋前の分散剤の酸価は、顔料の分散性の観点から60〜250mgKOH/gが好ましく、65〜150mgKOH/gがさらに好ましい。
また架橋後の分散剤の酸価は25〜100mgKOH/gが、安定性、インク凝集性の観点で好ましい。
また架橋前の分散剤の重量平均分子量は特に制限されないが、顔料の分散性の観点から3,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜50,000であることがより好ましく、10,000〜40,000がさらに好ましい。
【0053】
前記架橋剤は分散剤と反応する部位を2つ以上有している化合物であれば、特に限定されないが、中でもカルボキシル基との反応性に優れている点から、好ましくは2つ以上のエポキシ基を有している化合物(2官能以上のエポキシ化合物)である。
具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられ、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが好ましい。
【0054】
架橋剤の架橋部位と分散剤の被架橋部位のモル比は、架橋反応速度、架橋後の分散液安定性の観点から、1:1.1〜1:10が好ましく、1:1.1〜1:5がより好ましく、1:1.1〜1:3が最も好ましい。
【0055】
具体的には例えば、特開2009−190379号公報に記載の方法によって顔料表面の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された顔料分散物を製造することができる。
【0056】
本発明において顔料としてはカーボンブラック顔料と、着色顔料の少なくとも1種が用いられる。これらの顔料は混合状態で上記のような分散処理されてもよく、また、それぞれ別々に分散処理されてもよい。本発明においては、密着性の観点から、カーボンブラック顔料および着色顔料が混合状態で分散処理されることが好ましい。
【0057】
[重合性化合物]
本発明の黒系インク組成物は、水溶性の重合性化合物の少なくとも1種を含み、活性エネルギー線(例えば、放射線もしくは光、又は電子線など)が照射されることにより重合、硬化する。
水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいう。具体的には25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また水溶性の重合性化合物は、水性のインク組成物中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであることが好ましい。また後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上昇してインク組成物中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。
【0058】
本発明における水溶性の重合性化合物としては、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物及び分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物を少なくとも1種含むことがより好ましい。ここで、(メタ)アクリルエステル構造とは、メタクリルエステル構造及びアクリルエステル構造の少なくとも一方を意味し、(メタ)アクリルアミド構造とは、メタクリルアミド構造及びアクリルアミド構造の少なくとも一方を意味する。
【0059】
−分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物−
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、水溶性であって、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物であれば限定されない。
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、下記一般式(M−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0060】
【化2】

【0061】
一般式(M−1)中、Qはi価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、iは1以上の整数を表す。
【0062】
一般式(M−1)で表される化合物は、不飽和単量体がエステル結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数iに制限はないが、2以上であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0063】
また、連結基Qは(メタ)アクリルエステル構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(M−1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすことを可能にするような連結基から選択されることが好ましい。具体的には以下の化合物群Xから1以上の水素原子またはヒドロキシル基が除去された残基を挙げることができる。
【0064】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール,2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、または糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0065】
さらに連結基Qとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0066】
連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
【0067】
前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示すノニオン性化合物を挙げることができるが、本願はこれに限定されない。
【0068】
【化3】

【0069】
また、ノニオン性の重合性化合物としては、ポリオール化合物から誘導される1分子中に2以上のアクリロイル基を有する(メタ)アクリル酸エステルも用いることができる。前記ポリオール化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等や、単糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオール化合物が挙げられる。
【0070】
またトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステル等も好適である。
【0071】
さらに、前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物(M−1)の具体例としては、例えば以下に示すカチオン性化合物を挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0072】
【化4】

【0073】
前記構造において、Rは、ポリオール化合物の残基を表す。また、Xは、H又はCHを表し、AはCl、HSO又はCHCOOを表す。前記ポリオール化合物としては、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、脂環型ビスフェノールA及びこれらの縮合物等を挙げることができる。さらに、カチオン基を有する重合性化合物として以下の構造(カチオン性化合物1〜11)も挙げることができる。
【0074】
【化5】

【0075】
【化6】

【0076】
【化7】

【0077】
【化8】

【0078】
−分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物−
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物であれば限定されない。
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、下記一般式(M−2)で表される化合物であることが好ましい。式(M−2)の構造を有することで、後述する一般式(1)で表される化合物と重合性化合物との相溶性が向上し、硬化感度等を高めることが可能となるため好ましい。
【0079】
【化9】

【0080】
一般式(M−2)中、Qはj価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、jは1以上の整数を表す。
【0081】
一般式(M−2)で表される化合物は不飽和単量体が、アミド結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数jに制限はないが、2以上であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0082】
また、連結基Qは(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はない。連結基Qの詳細は前記連結基Qと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0083】
前記分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示す水溶性の重合性化合物を挙げることができる。
【0084】
【化10】

【0085】
【化11】

【0086】
【化12】

【0087】
【化13】

【0088】
【化14】

【0089】
【化15】

【0090】
上記重合性化合物以外にも、例えば、下記に代表されるマレイミド構造を有する化合物、スルファミド構造を有する化合物又はN−ビニルアセトアミド構造を有する化合物等も使用することができる。
【0091】
【化16】

【0092】
水溶性の重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
重合性化合物のインク組成物中における含有量としては、インク組成物全質量に対して、3〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。
【0093】
[重合開始剤]
本発明の黒色系インク組成物は、重合開始剤の少なくとも1種を含むが、前記重合開始剤は水溶性の重合開始剤の少なくとも1種であることが好ましい。ここで重合開始剤における水溶性とは、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の重合開始剤は、25℃において蒸留水に1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することがより好ましい。
【0094】
前記水溶性の重合開始剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物や、特開2005―307198号公報に記載の化合物等を挙げることができる。中でも、密着性と耐擦性の観点から、下記一般式(1)で表される水溶性の重合開始剤であることが好ましい。
【0095】
【化17】

【0096】
一般式(1)中、mおよびnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表すが、mが0〜3であってnが0または1であることが好ましく、mが0または1であってnが0であることがより好ましい。
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0097】
【化18】

【0098】
一般式(1)で表される化合物は、特開2005−307198号公報等の記載に準じて合成した化合物であっても、市販の化合物であってもよい。一般式(1)で表される市販の化合物としては例えば、イルガキュア2959(m=0、n=0)を挙げることができる。
【0099】
本発明のインク組成物における重合開始剤の含有量は、固形分換算で0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜20質量%の範囲であることがより好ましく、1.0〜15質量%の範囲であることがさらに好ましく、1.0〜5.0質量%の範囲であることが最も好ましい。
【0100】
[コロイダルシリカ]
本発明の黒色系インク組成物は、コロイダルシリカの少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。コロイダルシリカを含むことで吐出安定性が向上すると共にインクジェットヘッド部材における撥液性の低下を抑制できる。特にインクジェットヘッド部材の少なくとも一部にシリコンが使用されている場合に、特にその効果が大きい。
これは例えば、コロイダルシリカを含むことでインク成分の加水分解が効果的に抑制され、インク組成物の安定性が向上することにより、インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合でも吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られ、かつ画像の耐擦性も両立できるものと考えられる。さらに、コロイダルシリカがインクジェットヘッド部材の表面に適度に吸着して、インク成分による表面の侵食を緩和することにより、撥液性の低下を防止できるものと推察される。
【0101】
コロイダルシリカは、平均粒子径が数100nm以下のケイ素を含む無機酸化物の微粒子からなるコロイドである。主成分として二酸化ケイ素(その水和物を含む)を含み、少量成分としてアルミン酸塩を含んでいてもよい。少量成分として含まれることがあるアルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが挙げられる。
またコロイダルシリカには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の無機塩類やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩類が含まれていてもよい。これらの無機塩類および有機塩類は、例えば、コロイドの安定化剤として作用する。
【0102】
コロイダルシリカの分散媒としては特に制限はなく、水、有機溶剤、およびこれらの混合物のいずれであってもよい。前記有機溶剤は水溶性有機溶剤であっても非水溶性有機溶剤であってもよいが、水溶性有機溶剤であることが好ましい。具体的には例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール等を挙げることができる。
【0103】
コロイダルシリカの製造方法には特に制限はなく、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、四塩化ケイ素の熱分解によるアエロジル合成や水ガラスから製造することができる。あるいは、アルコキシドの加水分解といった液相合成法(例えば、「繊維と工業」、Vol.60、No.7(2004)P376参照)などによっても製造することができる。
【0104】
本発明におけるコロイダルシリカに含まれる粒子の平均粒子径としては特に制限はないが、好ましくは1nm〜25nm、より好ましくは3nm〜20nmであり、さらに好ましくは3nm〜15nmであり、特に好ましくは5nm〜10nmである。
平均粒子径が25nm以下であることで、インクジェットヘッドを構成する部材、例えば、基材、保護膜、撥液膜等に対するインクによるダメージ(例えば、撥液性の低下等)をより効果的に抑制することができる。これは例えば、平均粒子径が小さいことで、粒子の総表面積が大きくなり、インクジェットヘッドを構成する部材に対するダメージを、より効果的に抑制するためと考えることができる。またさらに、インク組成物の吐出性、粒子による研磨剤効果の観点からも、粒子の平均粒子径は25nm以下であることが好ましい。また、1nm以上の平均粒子径であることで、生産性が向上し、また性能のバラツキの少ないコロイダルシリカを得ることができる。
【0105】
本発明においてコロイダルシリカの平均粒子径は、分散粒子の一般的な測定である光散乱法、レーザー回折法などの手法により測定できるが、本発明では、より直接的な手法として、TEM(透過型電子顕微鏡)撮影法により300個のコロイダルシリカ粒子の粒径を実測し、その平均値を平均粒子径とした。
またコロイダルシリカの形状は、インクの吐出性能を妨げない限り、特に限定されない。例えば、球状、長尺の形状、針状、数珠状のいずれであってもよい。中でも、インクの吐出性の観点から、球状であることが好ましい。
【0106】
本発明に用いることができるコロイダルシリカは、上記製造方法で製造されたものであっても、市販品であってもよい。市販品の具体例としては例えば、 Ludox AM、Ludox AS、Ludox LS、Ludox TM、Ludox HSなど(以上、E.I.Du Pont de Nemouvs & Co製);スノーテックスS、スノーテックスXS、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスN、スノーテックスC、スノーテックスOなど(以上、日産化学社製);Syton C−30、Syton ZOOなど(以上、Monsanto Co製);Nalcoag−1060 、Nalcoag−ID21〜64(以上、Nalco Chem Co製);メタノールゾル、IPAゾル、MEKゾル、およびトルエンゾル(以上、扶桑化学工業製);Cataloid−S、Cataloid−F120、Cataloid SI−350、Cataloid SI−500、Cataloid SI−30、Cataloid S−20L、Cataloid S−20H、CataloidS−30L、Cataloid S−30H、Cataloid SI−40、OSCAL−1432(イソプロピルアルコールゾル)など(以上、日揮触媒化成製);アデライト(旭電化社製);数珠状のコロイダルシリカとして、例えば、スノーテックスST−UP、同PS−S、同PS−M、同ST−OUP、同PS−SO、同PS−MO(以上、日産化学社製)などの商品名で市販されているものを挙げることができ、これらは容易に入手することが出来る。
【0107】
上記市販のコロイダルシリカ分散液のpHは、酸性またはアルカリ性に調整されているものが多い。これは、コロイダルシリカの安定分散領域が酸性側またはアルカリ性側に存在するためであり、市販のコロイダルシリカ分散液をインク組成物中に添加する場合は、コロイダルシリカの安定分散領域のpHとインク組成物のpHとを考慮して添加する必要がある。
【0108】
本発明のインク組成物におけるコロイダルシリカの含有量には特に制限はないが、好ましくはインク組成物総量の0.005質量%〜0.5質量%であり、より好ましくはインク組成物総量の0.005質量%〜0.1質量%であり、特に好ましくはインク組成物総量の0.01質量%〜0.1質量%である。インク組成物中の含有量が前記上限値以下であることで、インク組成物の吐出性がより向上し、またシリカ粒子の研磨剤効果によるインクジェットヘッドへの影響をより効果的に抑制できる。また前記下限値以上であることで、インクジェットヘッド部材の撥液性の低下をより効果的に抑制できる。
【0109】
さらに本発明のインク組成物は、インクジェットヘッド部材の撥液性低下抑制とインク吐出性の観点から、平均粒子径(TEM撮影法)が3nm〜25nmのコロイダルシリカをインク組成物総量の0.005質量%〜0.5質量%含有することが好ましく、3nm〜15nmのコロイダルシリカをインク組成物総量の0.005質量%〜0.1質量%含有することがより好ましい。
【0110】
また、本発明のインク組成物における重合性化合物に対するコロイダルシリカの含有比(コロイダルシリカ/重合性化合物)は、質量基準で0.0001〜0.1であることが好ましく、0.001〜0.05であることがより好ましい。
重合性化合物に対するコロイダルシリカの含有比が0.0001以上であることで、インクジェットヘッド部材の撥液性の低下がより効果的に抑制される。また0.1以下であることで吐出性がより向上する。
【0111】
[界面活性剤]
本発明の黒色系インク組成物は、界面活性剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。
表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等を有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
本発明においては、インク組成物の打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0112】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物等を挙げることができ、これから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の市販品としては例えば、日信化学工業社のオルフィンE1010などのEシリーズを挙げることができる。
【0113】
界面活性剤(表面張力調整剤)を黒色系インク組成物に含有する場合、界面活性剤はインクジェット方式によりインク組成物の吐出を良好に行う観点から、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有するのが好ましく、表面張力の点からはより好ましくは20〜45mN/mであり、更に好ましくは25〜40mN/mである。
界面活性剤の黒色系インク組成物中における界面活性剤の具体的な量としては、前記表面張力となる範囲が好ましいこと以外は特に制限はなく、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.2〜3質量%である。
【0114】
[水溶性有機溶剤]
本発明の黒色系インク組成物は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことができる。水溶性有機溶剤は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0115】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
[樹脂粒子]
本発明における黒色系インク組成物は、必要に応じて樹脂粒子を含有することができる。
また樹脂粒子は、後述の処理液又はこれを乾燥させた記録媒体上の領域と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。このような樹脂粒子は、水および有機溶剤の少なくとも1種に分散されているものが好ましい。
【0117】
樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等あるいはそのラテックスを用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
また樹脂粒子はラテックスの形態で用いることもできる。
【0118】
樹脂粒子の重量平均分子量は1万以上、20万以下が好ましく、より好ましくは2万以上、20万以下である。
また樹脂粒子の平均粒径は、1nm〜1μmの範囲が好ましく、1nm〜200nmの範囲がより好ましく、1nm〜100nmの範囲が更に好ましく、1nm〜50nmの範囲が特に好ましい。
樹脂粒子のガラス転移温度Tgは30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
【0119】
樹脂粒子の添加量は黒色系インク組成物に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.1〜5質量%がさらに好ましい。
また、樹脂微子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ樹脂粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0120】
[その他の成分]
前記黒色系インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて更にその他成分として各種の添加剤を含むことができる。
前記各種の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、又はキレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量はその用途に応じて適宜決定すればよいが、例えば、黒色系インク組成物中に各々0.02〜1.00質量%程度とすればよい。
【0121】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0122】
褪色防止剤としては、各種の有機系および金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としては、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0123】
防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。
【0124】
pH調整剤としては、調合されるインク組成物に悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物など)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0125】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0126】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0127】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0128】
(黒色系インク組成物の物性)
本発明におけるインク組成物の表面張力(25℃)としては、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN/m以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0129】
また、本発明におけるインク組成物の25℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0130】
[製造方法]
前記黒色系インク組成物は、定法により製造することができる。例えば、着色顔料の少なくとも1種およびカーボンブラック顔料を含む顔料分散物と、水溶性重合性化合物の少なくとも1種と、重合開始剤の少なくとも1種と、水と、必要に応じて水溶性有機溶剤および界面活性剤と、を混合することで製造することができる。混合方法は特に制限されず、通常用いられる混合方法を適宜選択して適用できる。
【0131】
<インクセット>
本発明のインクジェット記録用のインクセットは、前記黒色系インク組成物の少なくとも1種と、前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液の少なくとも1種を含んで構成される。
前記黒色系インク組成物に加えて処理液を用い、後述する画像形成方法によって画像を形成することにより、さらに密着性、耐擦性、膜強度に優れた画像を
形成することができる。またインクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0132】
[処理液]
処理液は、既述の黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤の少なくとも1種を含み、必要に応じて、さらに他の成分を含んで構成される。
【0133】
本発明における凝集剤は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物中の成分を凝集(固定化)可能なものであり、例えば、固定化剤として機能する。例えば、処理液を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与することにより記録媒体上に凝集剤が存在している状態で、インク組成物がさらに着滴して凝集剤と接触することにより、インク組成物中の成分を凝集させて、インク組成物成分を記録媒体上に固定化することができる。
凝集剤としては、酸性化合物、多価金属塩、およびカチオン性ポリマー等を挙げることができる。中でもインク組成物成分の凝集性の観点から、酸性化合物であることが好ましい。凝集剤は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0134】
−酸性化合物−
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体等が好適に挙げられる。
【0135】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物成分と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価または3価の酸性化合物が特に好ましい。
酸性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0136】
前記処理液が酸性化合物を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1〜6.8であることが好ましく、0.5〜6.0であることがより好ましく、0.8〜5.0であることがさらに好ましい。
【0137】
前記酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、40質量%以下であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましく、15質量%〜35質量%であることがさらに好ましい。酸性化合物の含有量を40質量%以下とすることでインク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
【0138】
−多価金属塩−
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
前記多価金属塩は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0139】
前記多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%以上であることが好ましい。多価金属塩の含有量を15質量%以上とすることでより効果的にインク組成物中の成分を固定化することができる。
多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%〜35質量%であることが好ましい。
【0140】
−カチオン性ポリマー−
カチオン性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドから選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーである。
カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記カチオン性ポリマーの中でも、凝集速度の観点で有利な、ポリグアニド(好ましくは、ポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート、ポリモノグアニド、ポリメリックビグアニド)、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルピリジン)が好ましい。
【0141】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、500〜500,000の範囲が好ましく、700〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは1,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、500以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0142】
前記処理液はカチオン性ポリマーを含むが、処理液のpH(25℃)は、1.0〜10.0であることが好ましく、2.0〜9.0であることがより好ましく、3.0〜7.0であることがさらに好ましい。
【0143】
カチオン性ポリマーの含有量は、前記処理液の全質量に対して、1質量%〜35質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
【0144】
処理液は前記凝集剤に加えて、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性有機溶剤の詳細は、インク組成物におけるそれと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0145】
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0146】
[画像形成方法]
前記インクセットを用いる画像形成方法としては、例えば、記録媒体上に前記インク組成物をインクジェット法で付与するインク付与工程と、前記インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液を記録媒体上に付与する処理液付与工程と、記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する硬化工程と、を含み必要に応じてその他の工程を含む画像形成方法を挙げることができる。
【0147】
処理液に含まれる凝集剤によってインク組成物の成分を凝集状態にし、これに活性エネルギー線を照射して重合性化合物を重合、硬化させることで、記録媒体への密着性、耐擦過性により優れた画像を形成することができる。また硬化して得られる画像は膜強度がより向上する。
【0148】
(インク付与工程)
インク付与工程は、既述の本発明の黒色系インク組成物を、記録媒体上にインクジェット法で付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の画像を形成できる。
【0149】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0150】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0151】
インクジェット法としては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行うシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行わないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0152】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
【0153】
(処理液付与工程)
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中の樹脂粒子や顔料などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液における各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0154】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0155】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後に、インク付与工程を設ける態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インク組成物をインクジェット法で付与(吐出)する前に、予めインク組成物中の顔料を凝集可能な処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を吐出して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0156】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる付与量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0157】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0158】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行うことができる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0159】
(加熱乾燥工程)
本発明の画像形成方法は、前記インク吐出工程の後、インク組成物の付与により形成されたインク画像を加熱して、インク組成物中の溶媒の少なくとも一部を除去する加熱乾燥工程を有することが好ましい。加熱乾燥処理を施すことにより、後の硬化工程によって密着性と耐擦性により優れた画像を形成することができる。
【0160】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。
【0161】
(硬化工程)
前記画像形成方法においては、記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する硬化工程を設けることが好ましい。ここで使用される活性エネルギー線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光、赤外光などが挙げられる。
活性エネルギー線を照射する硬化工程は、インク組成物の付与により形成されたインク画像に、例えば、紫外線照射ランプから紫外線を照射する工程である。これにより、画像中のモノマー成分(水溶性の重合性化合物)を確実に重合硬化させることができる。このとき、紫外線照射ランプを記録媒体の記録面に対向配置し、記録面の全体を照射すれば、画像全体の硬化を行うことができる。なお、活性エネルギー線を照射する光源は、紫外線照射ランプに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
活性エネルギー線を照射する硬化工程は、インク付与工程および処理液付与工程の後であれば、前記加熱乾燥工程の前後のいずれに設置されていてもよく、加熱乾燥工程の前後両方に設置してもよい。
【0162】
活性エネルギー線の照射条件としては、重合性化合物が重合硬化可能であれば特に制限されない。例えば活性エネルギー線の波長としては、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、350〜420nmであることがさらに好ましい。
活性エネルギー線の出力としては、5000mJ/cm以下であることが好ましく、10〜4000mJ/cmであることがより好ましく、20〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0163】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクセットを用いた画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0164】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しらおい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0165】
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
【0166】
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0167】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましい。より具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【実施例】
【0168】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0169】
(水不溶性樹脂(ポリマー分散剤)P−1の合成)
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコに、メチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、これにメチルエチルケトン50gにジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、フェノキシエチルメタクリレート50g、メタクリル酸13g、及びメチルメタクリレート37gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は過剰量のヘキサンに2回再沈殿させ、析出した樹脂を乾燥させて、フェノキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸(共重合比[質量%比]=50/37/13)共重合体(水不溶性樹脂P−1)96.5gを得た。
得られた水不溶性樹脂P−1の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は49400であった。さらに、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により、この水不溶性樹脂の酸価を求めたところ、84.8mgKOH/gであった。
【0170】
(水溶性樹脂(ポリマー分散剤)P−2の合成)
イソプロパノール(187.5部)を窒素雰囲気下、80℃に加温した中に、メタクリル酸(216部)/メタクリル酸ベンジル(784部)/2,2’―アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05部)の混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に4時間、80℃に保った後に、25℃まで冷却した。溶媒を減圧除去することにより、平均重量分子量約30000、酸価 140mgKOH/gの水溶性樹脂分散剤P−2(水溶性分散剤)を得た。
【0171】
(水溶性樹脂(ポリマー分散剤)P−3の合成)
フェノキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸の共重合比[質量%比]が50/11/39)となるように変えた以外は水不溶性樹脂P−1と同様の方法で共重合体(水溶性樹脂P−3)96.5gを得た。
得られた水溶性樹脂P−3の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は48900であった。このポリマーの酸価は、248.8mgKOH/gであった。
【0172】
(顔料分散物1の調製)
カーボンブラック顔料(NIPEX170−IQ、Degussa社製)10.0部と、ピグメント・ブルー15:3を1.3部と、前記ポリマー分散剤P−1を5.1部と、メチルエチルケトン18部と、1mol/L NaOH水溶液6.2部と、イオン交換水59.4部とを混合し、0.1mmφジルコニアビーズを用いてビーズミルにより、3時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心菅を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行い、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、カーボンブラック濃度が12.0質量%の樹脂被覆顔料粒子(カプセル化顔料)の分散物として、顔料分散物1を得た。
ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒子径を測定したところ、92nmであった。
【0173】
(顔料分散物2の調製)
水溶性樹脂P−2を用いて以下のようにして顔料分散物2を得た。
カーボンブラック顔料を12部と、ピグメント・ブルー15:3を1.6部と、前記分散剤P−2を6.2部と、1mol/L NaOH水溶液9.3部と、イオン交換水70.9部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて4時間分散した。
その後、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル 0.87部とホウ酸0.38部を添加し60℃で6時間反応させた後冷却し、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心菅を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行い、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、カーボンブラック濃度が11.8質量%の樹脂被覆顔料粒子の分散物として、顔料分散物2を得た。
同様にして体積平均粒子径を測定したところ、94nmであった。
【0174】
(顔料分散物3の調製)
水溶性樹脂P−3を用いて以下のようにして顔料分散物3を得た。
カーボンブラック顔料を10部と、ピグメント・ブルー15:3を1.3部と、前記水溶性分散剤P−3を5.1部と、1mol/L NaOH水溶液21部と、イオン交換水62.6部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて3時間分散した。
得られた分散物を、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心菅を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行い、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、カーボンブラック濃度が10.0質量%の顔料分散物3を得た。
同様にして体積平均粒子径を測定したところ、100nmであった。
【0175】
(顔料分散物4の調製)
顔料分散物1の調製において、ピグメント・ブルー15:3の代わりにピグメント・レッド122を用いたこと以外は、上記と同様にして顔料分散物4を得た。
同様にして体積平均粒子径を測定したところ、95nmであった。
【0176】
(顔料分散物5の調製)
顔料分散物1の調製において、ピグメント・ブルー15:3の代わりにピグメント・イエロー74を用いたこと以外は、上記と同様にして顔料分散物5を得た。
同様にして体積平均粒子径を測定したところ、102nmであった。
【0177】
(顔料分散物6の調製)
顔料分散物1の調製において、カーボンブラック顔料の添加量を6.3部、ピグメント・ブルー15:3の添加量を2.1部に変更し、さらにピグメント・レッド122を2.9部用いたこと以外は、上記と同様にして顔料分散物6を得た。
同様にして体積平均粒子径を測定したところ、94nmであった。
【0178】
(顔料分散物7の調製)
顔料分散物3の調製において、カーボンブラック顔料を11.3部用い、ピグメント・ブルー15:3を用いなかったこと以外は、上記と同様にして顔料分散物7を得た。
同様にして体積平均粒子径を測定したところ、98nmであった。
【0179】
(重合性化合物2の合成)
攪拌機を備えた1Lの三口フラスコに4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン40.0g(182mmol)、炭酸水素ナトリウム37.8g(450mmol)、水100g、テトラヒドロフラン300gを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド35.2g(389mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、室温で5時間攪拌した後、得られた反応混合物から減圧下でテトラヒドロフランを留去した。次に水層を酢酸エチル200mlで4回抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより目的の重合性化合物2の固体を35.0g(107mmol、収率59%)得た。
【0180】
【化19】

【0181】
<実施例1>
(黒色系インク組成物Bk−1の調製)
上記で得られた顔料分散物1と、上記重合性化合物2と、コロイダルシリカ(スノーテックスXS、平均粒子径5nm、日産化学工業(株)製)とを用い、下記のインク組成になるように各成分を混合した。これをプラスチック製のディスポーザブルシリンジに詰め、PVDF5μmフィルター(Millex−SV、直径25mm、ミリポア社製)で濾過し、黒色系インク組成物Bk−1を調製した。
【0182】
〜インク組成〜
・顔料分散物1 ・・・26.5%
・重合性化合物2(上記構造) ・・・18%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・1%
(DEGmEE、和光純薬工業(株)製)
・コロイダルシリカ(固形分) ・・・0.05%
(スノーテックスXS、固形分濃度20%、日産化学工業(株)製)
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) ・・・1%
・イルガキュア2959(BASF・ジャパン社製) ・・・2.7%
・イオン交換水 ・・・残量(全量で100質量%となるよう加えた)
【0183】
<実施例2〜6>
実施例1において、顔料分散物1の代わりに顔料分散物2〜6をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして黒色系インク組成物Bk−2〜6をそれぞれ調製した。
【0184】
<比較例1>
実施例1において、顔料分散物1の代わりに顔料分散物7を用いたこと以外は実施例1と同様にして黒色系インク組成物Bk−7を調製した。
【0185】
<処理液1の調製>
下記組成の成分を混合して、処理液1を調製した。処理液1の粘度、表面張力、及びpH(25℃)は、粘度2.5mPa・s、表面張力40mN/m、pH1.0であった。表面張力は協和界面科学(株)製 全自動表面張力計CBVP−Zを用いて測定し、粘度はブルックフィールドエンジニアリング社製、DV-III Ultra CPを用いて測定した。pHは、東亜ディーケーケー(株)製PHメーター HM−30Rを用いて測定した。
〜処理液1の組成〜
・マロン酸(和光純薬(株)製) ・・・25.0%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル ・・・20.0%
(和光純薬(株)製)
・エマルゲンP109 ・・・1.0%
(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤)
・イオン交換水 ・・・54.0%
【0186】
<画像形成および評価>
シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを用意し、これに繋がる貯留タンクに上記で得た黒色系インク組成物を詰め替えた。尚、シリコンノズルプレートには、フッ化アルキルシラン化合物を用いて撥液膜が予め設けられている。記録媒体として王子製紙(株)製の「OKトップコート+」(坪量104.7g/m)をA5サイズにカットし、500mm/秒で所定の直線方向に移動可能なステージ上に固定し、ステージ温度を30℃に保持した。これに上記で得た処理液1をバーコーターで約1.2μmの厚みとなるように塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。
その後、インクジェットヘッドを、前記ステージの移動方向(副走査方向)と直交する方向に対して、ノズルが並ぶラインヘッドの方向(主走査方向)が75.7度傾斜するように固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながらインク液滴量2.8pL、吐出周波数25.5kHz、解像度1200dpi×1200dpiの吐出条件にてライン方式で、記録媒体の全面にインクを吐出してベタ画像とした。画像を記録した後、インク着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで加熱しながら、送風器により120℃、5m/secの温風を記録面に15秒間あてて乾燥させた。画像乾燥後、UV光(アイグラフィックス(株)製 メタルハライドランプ 最大照射波長 365nm)を積算照射量3J/cmになるように照射して画像を硬化して印画サンプルを得た。
【0187】
[密着性評価]
上記で得られた印画サンプルを25℃、50%RHの環境下に24時間放置した。放置後の印画サンプルのベタ画像表面に、長さ3cmのセロテープ(登録商標)(LP−12、ニチバン株式会社製)を貼り、5秒後にセロテープ(登録商標)を剥離させた。その後、サンプルと剥離させたセロテープ(登録商標)を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を表1に示す。
【0188】
〜評価基準〜
A:テープへの色の付着がなく、サンプルのベタ画像の劣化も認められなかった。
B:テープには色が付着したが、サンプルのベタ画像の劣化は認められなかった。
C:テープには色が付着し、サンプルのベタ画像の劣化も認められた。
D:テープの半分以上の面積に色が付着し、サンプルのベタ画像が脱落した。
※Dは実用上問題となるレベルである。
【0189】
[耐擦性評価]
上記で得られた印画サンプルを25℃、50%RHの環境下に72時間放置した。放置後のサンプルのベタ画像表面上に、画像形成していないOKトップコート+(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦った。その後、未使用サンプルとベタ画像を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を表1に示す。
【0190】
〜評価基準〜
A:未使用サンプルへの色の付着がなく、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
B:未使用サンプルには色が付着したが、擦られたベタ画像の劣化は認められなかった。
C:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像の一部が劣化した。
D:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像面積の半分以上が劣化した。
※Dは実用上問題となるレベルである。
【0191】
【表1】

【0192】
表1から、本発明の黒色系インク組成物を用いて画像形成することにより、密着性と耐擦性に優れた画像を形成可能であることが分かる。
また、コロイダルシリカを含んでいることで、シリコンノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを用いた場合でも、シリコンノズルプレートにおける撥液性の低下が抑制されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料、シアン顔料およびイエロー顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水とを含むインクジェット記録用の黒色系インク組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラック顔料および着色顔料からなる群から選ばれる顔料の少なくとも1種は、酸性基を有する水不溶性樹脂でその表面の少なくとも一部が被覆されている、請求項1に記載の黒色系インク組成物。
【請求項3】
前記着色顔料として、マゼンタ顔料およびシアン顔料を含む、請求項1または請求項2に記載の黒色系インク組成物。
【請求項4】
前記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【化1】


(式中、mおよびnは、それぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す)
【請求項5】
コロイダルシリカをさらに含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラック顔料および着色顔料からなる群から選ばれる顔料の少なくとも1種は、体積平均二次粒子径が40nm〜150nmである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項7】
アセチレングリコール系界面活性剤をさらに含む、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物と、
前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液と、
を含むインクジェット記録用のインクセット。
【請求項9】
前記凝集剤は酸性化合物である、請求項8に記載のインクセット。

【公開番号】特開2012−97142(P2012−97142A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243481(P2010−243481)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】