説明

黒色腫特異的バイオマーカー

バイオマーカー。エングレイルド2(EN2)遺伝子の核酸配列またはコードされるEN2タンパク質のアミノ酸配列を含む黒色腫特異的バイオマーカーを述べる。また、黒色腫の治療、診断、観測および画像化におけるバイオマーカーの使用についても述べる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、バイオマーカー、特に黒色腫についてのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
黒色腫は、メラノサイトから始まる皮膚の癌の一種である。黒色腫は母斑で始まり得るが、眼または腸などの他の色素沈着組織から発症することもある。悪性黒色腫は比較的まれであり、すべての皮膚癌症例の10%を占める。しかし、悪性黒色腫はまた、極めて多くの死亡の原因でもある。イングランドおよびウェールズでは、毎年約1,500人が悪性黒色腫のために死亡する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
技術の進歩にもかかわらず、黒色腫は、特に早期に発見されなかった場合は、依然として治療が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の1つの態様によれば、
(i)配列番号:1を含む核酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体、または前記核酸配列を含む核酸分子;あるいは
(ii)配列番号:2を含むアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体、または前記アミノ酸配列を含むアミノ酸分子
を含む、黒色腫特異的バイオマーカーが提供される。
【0005】
これに関して、配列番号:1はエングレイルド2(EN2)遺伝子の核酸配列に対応し(GenBank参照番号NM_001427)、配列番号:2は、それによってコードされるEN2タンパク質に対応する(NCBIアクセッション番号PI 622,gi21903415)。
【0006】
驚くべきことに、EN2遺伝子は黒色腫において有意に上方調節されることが認められた。
【0007】
EN2遺伝子は、軸索誘導および境界形成を含む初期発生において多くの重要な機能を有するホメオドメイン含有転写因子をコードする(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Morgan R,(2006).Engrailed:Complexity and economy of a multifunctional transcription factor.FEBS letters 580,2531−2533に総説されている)。そのNCBI/GenBank参照番号はNM_001427である。EN2遺伝子は乳癌における癌遺伝子として働くことが以前に報告されているが、診断上の重要性は与えられていない(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Martin,N.L.,Saba−El−Leil,M.K.,Sadekova,S.,Meloche,S.and Sauvageau,G.(2005)EN−2 is a candidate oncogene in human breast cancer.Oncogene 24,6890−6901)。EN2遺伝子産物は33kDaタンパク質(EN2)である。
【0008】
好ましくは、そのフラグメントまたは変異体は、
(i)配列番号:1と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有する核酸配列、ストリンジェントな条件(stringent conditions)下でそれにハイブリダイズできる(hybridizable)核酸配列、および/またはそれに相補的な(complementary)核酸配列;
(ii)配列番号:2と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列;または
(iii)(i)の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列
を含む。
【0009】
言い換えると、上記(iii)部分にしたがって、そのフラグメントまたは変異体は、
(A)配列番号:1と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有する核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;
(B)ストリンジェントな条件下で、配列番号:1と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有する核酸配列にハイブリダイズできる核酸配列によってコードされるアミノ酸配列;または
(C)配列番号:1と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有する核酸配列に相補的な核酸配列によってコードされるアミノ酸配列
を含むことが好ましい。
【0010】
好ましくは、そのフラグメントは、(i)配列番号:2からの少なくとも4、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも6、好ましくは少なくとも7、好ましくは少なくとも8個の連続するアミノ酸、または(ii)配列番号:2からの少なくとも4、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも6、好ましくは少なくとも7、好ましくは少なくとも8個の連続するアミノ酸をコードする配列番号:1の核酸配列のフラグメントを含む。より長いフラグメント、例えば配列番号:2の少なくとも約10、15、20、25、30、50、75、100、150、200、225および少なくとも約250個までのアミノ酸または配列番号:1の対応するコードフラグメントも好ましい。フラグメントはまた、N末端および/またはC末端からx個のアミノ酸が欠失している切断型ペプチドも包含し得る。そのような切断型では、xは1またはそれ以上(すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上)であり得るが、好ましくは配列番号:2の150個未満のアミノ酸または配列番号:1の対応するコードフラグメントであり得る。
【0011】
好ましくは、そのフラグメントまたは変異体は、その機能的フラグメントまたは変異体である。
【0012】
本発明の別の態様によれば、患者において黒色腫を診断するためまたは黒色腫を発症する危険性がある患者を同定するための方法が提供され、前記方法は、
(a)患者から得た試料において黒色腫特異的バイオマーカーの量を測定すること;
(b)患者からの試料中で測定された黒色腫特異的バイオマーカーの量を健常対照における黒色腫特異的バイオマーカーの量と比較すること
を含み、健常対照における黒色腫特異的バイオマーカーの量と比較した患者からの試料中の黒色腫特異的バイオマーカーの量の差は、黒色腫の存在に関連するかまたは黒色腫を発症する危険性に関連する。
【0013】
本発明の別の態様によれば、患者における黒色腫の進行を観測するための方法が提供され、前記方法は、
(a)患者から得た試料において黒色腫特異的バイオマーカーの量を測定すること;
(b)患者からの試料中で測定された黒色腫特異的バイオマーカーの量を健常対照における黒色腫特異的バイオマーカーの量と比較すること;ならびに
(c)工程(a)および(b)を、間隔をおいて2回またはそれ以上反復すること
を含み、患者からの黒色腫特異的バイオマーカーの量の経時的な増加は黒色腫の進行の上昇に関連し、患者からの黒色腫特異的バイオマーカーの量の経時的な減少は黒色腫の進行の低下に関連する。
【0014】
したがって、本発明の方法は、黒色腫の発症、進行、安定化、改善および/または寛解を検出するために使用できる。
【0015】
好ましくは、対照は、発症または進行を観測するために、同じ患者からの以前の試料に由来し得る。しかし、対照が集団に対して、特に黒色腫が存在しない健常または正常集団に対して基準化され得ることも好ましい。言い換えると、対照は、正常被験者からの正常対照試料において認められるバイオマーカーのレベルから構成され得る。
【0016】
したがって、本発明の一例では、患者から得た生体液において黒色腫特異的バイオマーカーを検出するおよび/または定量することを含む、黒色腫を診断するまたは黒色腫の進行を観測する方法が提供される。
【0017】
上記で論じたように、少なくとも2つの検出および/または定量工程が、時間的に間隔をおいて、提供されることが好ましい。
【0018】
好ましくは、工程は、黒色腫特異的バイオマーカーのレベルが変化したかどうかを判定するために数日間、数週間、数年間または数か月間の間隔がおかれ、したがって癌の進行に変化があったかどうかを示し、2またはそれ以上の機会に採取された試料中のバイオマーカーのレベルの間で比較を行うことを可能にし、経時的なバイオマーカーのレベルの上昇は癌の発症または進行を指示し、バイオマーカーのレベルの低下は癌の改善および/または寛解を指示し得る。
【0019】
好ましくは、バイオマーカーのレベルの差は、好ましくは少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、好ましくは少なくとも約99%、好ましくは少なくとも約99.5%、好ましくは少なくとも約99.95%、好ましくは少なくとも約99.99%の信頼区間を提供する「t検定」を使用することによって統計的に有意に決定される。
【0020】
本発明のバイオマーカーおよび方法は、早期癌を検出するうえで特に有用であり、早期黒色腫を検出するための公知の方法よりも高感度である。したがって、本発明のバイオマーカーおよび方法は、患者が従来の方法を用いて癌に関して試験陰性であった場合に癌を確認するために特に有用である。
【0021】
予後および治療の選択は、癌の病期および患者の全般的健康状態に依存する。
【0022】
1期の黒色腫は薄く、表皮は通常剥離して見える。この病期の皮膚癌は2つの他のカテゴリーに再分類される。これらの付加的なカテゴリーは腫瘍の厚さを表す。1a期は、1.0mm未満で、潰瘍を有さない。1b期は、1.0mm未満であるが、潰瘍を有する。潰瘍を含まなくても1.01〜2.0mmである場合はやはり1b期であるとみなされる。この病期および2期では、黒色腫はまだリンパ節には拡がっていない。
【0023】
2期も、厚さおよび潰瘍形成の有無を示す3つのさらなるカテゴリーに細分される。2a期の腫瘍は、1.01〜2.0mmで潰瘍を有するかまたは2.01〜4.0mmで潰瘍を有さない。3b期は、潰瘍を伴って2.01mmの腫瘍の厚さを有するか、または潰瘍を伴わずに4.0mm以上の厚さを有する。
【0024】
この種の皮膚癌が3期に進行した場合、有意の変化が起こる。この病期では、黒色腫の腫瘍がリンパ節に拡がっている。健康である場合、リンパ節は疾患、癌および一部のタンパク質の感染に対抗するので、これは疾患のはるかに深刻な病期である。
【0025】
この癌の3期の患者は、原発腫瘍の近隣のリンパ節に拡大した黒色腫を有する。この病期はまた、初発腫瘍から2cm以上離れた皮膚または結合組織を有するイントランジット転移を含む。しかし、この時点では所属リンパ節を越えて拡大してはいない。
【0026】
4期では、黒色腫は初発腫瘍から遠位のリンパ節または内部器官にまで拡がっている。これらの器官は、ほとんどの場合肺、肝臓、脳、骨および次に胃腸管である。
【0027】
本明細書で使用される「早期」という用語は、上記で論じたように黒色腫の1期および/または2期を指すと考えられることが認識される。
【0028】
本明細書で使用される「後期」という用語は、黒色腫の3期および/または4期を指すと考えられることが認識される。
【0029】
癌の疾患状態の「早期」および「後期」の性質は医師によって決定され得る。また、それらはそれぞれ非転移および転移状態に関連し得ることも想定される。
【0030】
1つの態様では、早期癌を検出するための本発明による方法が提供され、前記方法では、対照と患者から得た試料の間の上昇が早期癌を指示する。好ましくは、上昇は、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約100%、好ましくは少なくとも約200%、好ましくは少なくとも約300%、好ましくは少なくとも約400%、好ましくは少なくとも約500%、好ましくは少なくとも約1000%である。
【0031】
また、後期癌を検出するための本発明による方法が提供され、前記方法では、対照と患者から得た試料の間の上昇が後期癌を指示する。好ましくは、上昇は、好ましくは少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、好ましくは少なくとも約100%、好ましくは少なくとも約110%、好ましくは少なくとも約125%、好ましくは少なくとも約150%、好ましくは少なくとも約200%、好ましくは少なくとも約300%、好ましくは少なくとも約400%、好ましくは少なくとも約500%、好ましくは少なくとも約1000%である。
【0032】
さらに、癌の病期の変化を観測するための本発明による方法が提供され、前記方法では、より早期の試料または対照と比較した上昇が、疾患のより早期から後期への、例えば1期から2期へ、2期から3期へ、3期から4期へ、または早期から後期への癌の進行を指示する。上昇はまた、各々の病期の小分類の間での癌の進行、例えば1a期から1b期へ、または2a期から2b期への進行を指示し得る。好ましくは、上昇は、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約100%である。
【0033】
黒色腫特異的バイオマーカーは、正常対照の少なくとも約1.5倍、好ましくは少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、好ましくは少なくとも約10倍、好ましくは少なくとも約20倍、好ましくは少なくとも約30倍、好ましくは少なくとも約40倍、好ましくは少なくとも約50倍、好ましくは少なくとも約100倍、好ましくは少なくとも約150倍、好ましくは少なくとも約200倍のレベルで存在する場合に黒色腫の存在または黒色腫を発症する危険性を指示することが好ましい。
【0034】
また、患者から得た生物学的試料中の黒色腫特異的バイオマーカーの存在を検出するおよび/または定量することを含む、黒色腫に対する治療の効果を観測するための方法も本発明によって提供される。
【0035】
好ましくは、本発明の方法では、黒色腫特異的バイオマーカーの検出および/または定量は、MALDI−TOF、SELDI、1または複数のリガンドとの相互作用を介して、1Dまたは2Dゲルベースの分析システム、液体クロマトグラフィ、液体クロマトグラフィとICAT(登録商標)またはiTRAQ(登録商標)を含む質量分析技術の組合せ、薄層クロマトグラフィ、NMR分光法、サンドイッチ免疫測定法、固相酵素免疫検定法(ELISA)、放射免疫測定法(RAI)、酵素免疫測定法(EIA)、側方流動/イムノクロマトグラフィストリップアッセイ、ウエスタンブロット法、免疫沈降、金、銀またはラテックス粒子、磁性粒子またはQドットを使用することを含む粒子ベースの免疫測定法、および組織切片に関する免疫組織化学の1またはそれ以上によって実施される。
【0036】
好ましくは、黒色腫特異的バイオマーカーの検出および/または定量は、マイクロタイタープレート、ストリップ形式、アレイまたはチップ上で実施される。
【0037】
好ましくは、黒色腫特異的バイオマーカーの検出および/または定量は、好ましくはレポーターに連結された、黒色腫特異的バイオマーカーに特異的な抗体を含むELISAによって実施される。
【0038】
好ましくは、黒色腫特異的バイオマーカーの検出および/または定量は、バイオセンサーによって実施される。
【0039】
好ましくは、試料は、患者から得られる生体液または組織を含む。好ましくは、生体液は、血液、血清、血漿またはリンパを含む。好ましくは、組織は、腫瘍自体から得られる細胞または周辺細胞を含む。例えば、組織は、病巣または母斑からの細胞を含み得る。好ましくは、組織は、病巣または母斑の表面から擦り取った細胞を含む。
【0040】
本明細書で述べる方法の一例では、黒色腫特異的マーカーの検出および/または定量は、病巣または母斑から細胞を擦り取り、検出可能なマーカーに連結された抗EN2抗体と共に前記細胞をインキュベートすることを含む。好ましくは、次に細胞を洗浄液で洗浄して、非結合抗体を除去する。病巣または母斑から細胞を擦り取った細胞に関して得られた結果を、次に、正常対照と比較し得る。
【0041】
生体液が全細胞/無傷細胞を実質的にまたは完全に含まないことも好ましい。好ましくは、生体液は血小板および細胞デブリ(細胞の溶解時に生じるものなど)を含まない。好ましくは、生体液は原核細胞および真核細胞の両方を含まない。
【0042】
そのような試料は、当業者に明らかであるような、当分野で公知の様々な手段によって入手できる。例えば、血液または血清試料は、針と注射器を使用して非経口的に入手できる。無細胞または実質的に無細胞の試料は、試料を、遠心分離およびろ過を含むがこれらに限定されない、当業者に公知の様々な技術に供することによって入手できる。
【0043】
試料を得るために侵襲的技術を使用しないことが一般に好ましいが、組織ホモジネート、組織切片および生検標本などの試料を得ることがより好ましい場合があり得る。
【0044】
本発明の別の態様は、黒色腫を有する患者を治療するための方法に関し、前記方法は、(i)本発明のバイオマーカー、または(ii)本発明のバイオマーカーに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントの治療有効量を患者に投与することを含む。
【0045】
本発明の別の態様は、本発明のバイオマーカーに特異的に結合する抗体またはそのフラグメントを患者に投与することを含む、患者において黒色腫を画像化するための方法に関する。
【0046】
好ましくは、抗体は検出可能なマーカー、例えば蛍光マーカーまたは標識と複合体を形成(conjugate)している。好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。好ましくは、抗体は増殖阻害物質と複合体を形成している。好ましくは、抗体は細胞傷害性物質、例えば毒素(例えばイムノトキシン)、抗生物質、溶菌酵素または放射性同位体と複合体を形成している。
【0047】
本発明の別の態様は、本発明のバイオマーカーまたは本発明のバイオマーカーに結合する抗体もしくはそのフラグメントを含有する組成物に関する。
【0048】
好ましくは、組成物は医薬組成物である。
【0049】
また、本発明のバイオマーカーまたは本発明のバイオマーカーに結合する抗体もしくはそのフラグメントを含有するワクチンも、本発明によって提供される。
【0050】
本発明の別の態様は、黒色腫についてのバイオマーカーとしての、体液または組織中で検出可能な、黒色腫特異的バイオマーカーの使用に関する。
【0051】
好ましくは、前記使用は、臨床スクリーニング、予後評価の方法、治療の結果の観測、特定の治療処置に応答する可能性が高い患者を同定する方法、および薬剤スクリーニングと開発から成る群より選択される方法においてである。
【0052】
本発明の別の態様は、黒色腫の治療のための薬剤の製造における、(i)本発明のバイオマーカー、または(ii)本発明のバイオマーカーに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントの使用に関する。
【0053】
また、黒色腫の治療における使用のための、(i)本発明のバイオマーカー、または(ii)本発明のバイオマーカーに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントを含有する組成物も提供される。
【0054】
本発明の別の態様は、患者において黒色腫を画像化する方法における使用のための、本発明のバイオマーカーに特異的に結合する抗体またはそのフラグメントに関する。
【0055】
好ましい実施形態では、本発明の方法および組成物は、早期、例えば疾患の症状が発現する前の、疾患の治療または診断のためである。
【0056】
一部の実施形態では、本発明の方法および組成物は、臨床病期の疾患の治療または診断のためである。
【0057】
本発明の別の態様によれば、上述した方法または用途における使用のためのキットが提供され、前記キットは、体液または組織中で検出可能な、黒色腫特異的バイオマーカーに結合することができるまたは黒色腫特異的バイオマーカーを特異的に認識することができるリガンド、およびレポーター手段を含む。
【0058】
好ましくは、キットはアレイまたはチップである。
【0059】
好ましくは、キットは、マイクロタイタープレート、テストストリップ、アレイまたはチップを含む。
【0060】
本発明の例示的な実施形態を、ここで、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、黒色腫、正常組織および黒色腫に隣接する正常組織(NAT)コアを通る切片を示す;抗EN2抗体を使用して腫瘍細胞を染色している。
【図2】図2は、原発性黒色腫細胞集団「ML」および「MK」の表面のEN2タンパク質のFACS分析を示す。プロットAは、PE標識二次抗体だけを含む陰性対照である。プロットBは、一次(抗EN2)および二次抗体の両方に関する;右方向への強いシフトは、細胞の表面への抗EN2抗体の結合を指示する。
【図3】図3は、EN2の核酸配列を示す(配列番号:1)。
【図4】図4は、EN2のアミノ酸配列を示す(配列番号:2)。
【図5】図5は、黒色腫におけるEN2発現を示す。正常皮膚と比較した黒色腫におけるEN2発現の代表的な例:A:リンパ節、右頸部の転移性悪性黒色腫;B:皮膚、右胸壁の悪性黒色腫;C:リンパ節、腋窩の転移性悪性黒色腫;D:正常皮膚−EN2の発現なし。
【図6】図6は、黒色腫患者からのEN2特異的CTLの生成を示す。2名の黒色腫患者(MEL02およびMEL04)からのT細胞を、プールしたEN2ペプチドで5回刺激した後、51Cr放出細胞毒性アッセイにおいてそれらの特異性を試験した。
【図7】図7は、EN2ワクチン接種が腫瘍増殖を遅延させることを示す。ミョウバン(アジュバント:「adj」)中のEN2、アジュバント単独またはPBSで免疫したC3HマウスにおけるK1735黒色腫腫瘍の増殖。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は黒色腫特異的バイオマーカーに関する。
【0063】
黒色腫の世界的発生率は過去数年間絶えず増加し続けてきた。原発腫瘍が薄い場合は外科的切除が有効であるが、疾患のより後期では、患者はしばしば転移抑制の失敗のために死に至る。いくつかの試験が、現在、進行した転移性黒色腫を有する患者における細胞媒介性免疫の存在を示している。したがって免疫療法のための臨床的に適切な抗原を同定し、標的することは、転移性黒色腫患者を治療する有望な代替策を提供する。本明細書で論じるように、我々は1つのそのような有望な標的抗原、ホメオボックス転写因子エングレイルド2(EN2)を同定した。EN2は、小脳を生じさせる領域をパターン化することに特異的に関与するが、最近になって乳癌および前立腺癌における候補癌遺伝子であることが示された。高密度悪性黒色腫組織アレイに関する免疫組織化学試験を実施して、我々は、悪性黒色腫および転移性黒色腫のそれぞれ60%および57%がEN2を発現することを認めた(図5)。これは、正常皮膚または他の正常組織ではEN2が発現しないことと対照的である。
【0064】
本明細書の中で、「含む」および「含むこと」という用語は、「中でも特に、包含する」ことを意味すると解釈される。これらの用語は、「だけから成る」と解釈されることを意図しない。
【0065】
本明細書の中で、「約」という用語は、プラスまたはマイナス20%、より好ましくはプラスまたはマイナス10%、さらに一層好ましくはプラスまたはマイナス5%、最も好ましくはプラスまたはマイナス2%を意味する。
【0066】
本明細書で使用される、「治療有効量」という用語は、当該疾患から生じる少なくとも1つの状態もしくは症状の重症度を軽減するおよび/または前記状態もしくは症状を改善するために必要な組成物の量を意味する。
【0067】
本明細書の中で、明瞭かつ簡潔な明細書を記述することを可能にする方法で実施形態を説明したが、実施形態は、本発明から逸脱することなく様々に組み合わされ得るまたは分離され得ることが意図され、認識される。
【0068】
臨床使用のために、本発明による化合物またはそのプロドラッグ形態は、その意図される投与経路、例えば経口、経直腸、非経口または他の投与方法のために適合性であるように調製される医薬製剤に製剤される。医薬製剤は通常、活性物質を従来の医薬的に許容される希釈剤または担体と混合することによって調製される。本明細書で使用される、「医薬的に許容される担体」という語は、医薬投与と適合性の、ありとあらゆる溶媒、分散媒、剤皮、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を包含することが意図されている。医薬的に許容される希釈剤または担体の例としては、水、ゼラチン、アラビアゴム、ラクトース、微結晶セルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、滑石、コロイド状二酸化ケイ素等がある。医薬的活性物質のためのそのような媒質および作用物質の使用は当分野で周知である。何らかの従来の媒質または作用物質が活性化合物と不適合性である場合を除き、組成物中でのその使用が企図される。
【0069】
そのような製剤はまた、他の薬理学的活性物質および、安定剤、湿潤剤、乳化剤、香味料、緩衝剤等のような従来の添加物を含有し得る。
【0070】
製剤は、造粒、圧縮、マイクロカプセル化、スプレー被覆等のような公知の方法によってさらに調製され得る。製剤は、従来の方法によって錠剤、カプセル、顆粒剤、散剤、シロップ、懸濁液、坐剤または注射剤の投与形態に調製され得る。液体製剤は、活性物質を水または他の適切なビヒクルに溶解または懸濁することによって調製され得る。錠剤および顆粒剤は、従来の方法で被覆され得る。
【0071】
非経口、皮内または皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は以下の成分を含み得る:注射用蒸留水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度の調整のための物質。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整できる。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチックでできたアンプル、使い捨て注射器または多回投与バイアルに封入され得る。
【0072】
注射用途に適する医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を含む。静脈投与に関して、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む。すべての場合に、組成物は無菌でなければならず、容易に注射可能である程度に流動性であるべきである。製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されねばならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆剤の使用によって、分散液の場合は必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持できる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0073】
滅菌注射用溶液は、上記に列挙した成分の1つまたは成分の組合せと共に適切な溶媒中に必要量の活性化合物(例えば本発明の実施形態による化合物)を組み込み、必要に応じて、その後ろ過滅菌することによって調製できる。一般に、分散液は、基本分散媒および上記に列挙したものの中から必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ滅菌ろ過したその溶液からの有効成分とさらに任意の付加的な所望成分の粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥である。
【0074】
経口組成物は、一般に不活性希釈剤または可食担体を含有する。それらはゼラチンカプセルに封入され得るかまた錠剤に圧縮され得る。経口治療投与のために、活性化合物を賦形剤と共に組み込み、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用することができる。経口組成物はまた、含そう薬としての使用のために流体担体を使用して調製することもでき、流体担体中の化合物は経口的に適用され、口内ですすがれ、吐き出されるかまたは飲み込まれる。医薬的に適合性の結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は、以下の成分または同様の性質の化合物のいずれかを含有し得る:微結晶セルロース、トラガカントゴムもしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogelもしくはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはSterotesなどの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;スクロースもしくはサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチルもしくはオレンジフレーバーなどの香味料。
【0075】
吸入による投与に関しては、化合物は、適切な噴射剤、例えば二酸化炭素などのガスを含む加圧容器もしくはディスペンサ、またはネブライザからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0076】
全身投与はまた、経粘膜または経皮手段によってであり得る。経粘膜または経皮投与に関しては、浸透すべき障壁に適した浸透剤を製剤中で使用する。そのような浸透剤は当分野において一般に公知であり、例えば、経皮投与については、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻内噴霧器または坐剤の使用を通して達成できる。経皮投与に関しては、活性化合物を当分野で一般的に公知のように軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ゲルまたはクリームに製剤する。
【0077】
化合物はまた、直腸送達のために坐剤(例えばココアバターおよび他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤と共に)または停留浣腸の形態でも調製され得る。
【0078】
1つの実施形態では、活性化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤などの、体内からの迅速な排出に対して化合物を保護する担体と共に調製される。生分解性の生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などが使用できる。そのような製剤の調製のための方法は当業者に明らかである。材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から市販されているものを入手できる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する感染細胞を標的するリポソームを含む)も、医薬的に許容される担体として使用できる。これらは当業者に公知の方法にしたがって調製できる。
【0079】
投与の容易さおよび用量の均一性のために経口または非経口組成物を投与単位形態で製剤することは特に好都合である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される被験者のために単一投与量として適する物理的に分離した単位を指す;各々の単位は、必要な医薬担体と協力して所望治療効果を生じさせるように計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の投与単位形態についての詳細は、活性化合物の独自の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体の治療のためにそのような活性化合物を配合することの当分野に固有の制限によって決定され、直接それらに依存する。
【0080】
そのような化合物の毒性と治療効果は、例えばLD50(集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するための、細胞培養物または実験動物における標準的な医薬手順によって決定され得る。毒性作用と治療効果の間の用量比が治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物も使用し得るが、非感染細胞への潜在的損傷を最小限に抑え、それにより副作用を低減するために、罹患組織の部位にそのような化合物を標的する送達システムを設計することに注意を払うべきである。
【0081】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量の範囲を策定する際に利用することができる。そのような化合物の投与量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環濃度の範囲内である。投与量は、使用される投与形態および利用される投与経路に依存してこの範囲内で変化し得る。本発明の方法において使用される任意の化合物に関して、治療有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定できる。用量を、細胞培養物において決定されるIC50(すなわち症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて策定され得る。そのような情報を使用して、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィによって測定し得る。
【0082】
医薬組成物は、投与のための指示書と共に容器、パックまたはディスペンサに含まれ得る。
【0083】
本明細書の中で、「同一性」は、当分野で公知のように、配列を比較することによって決定される、2もしくはそれ以上のポリペプチド配列または2もしくはそれ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係である。当分野において、「同一性」はまた、場合によってポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列の間の、そのような配列の一続きの間のマッチによって決定される、配列関連性の程度を意味する。パーセント同一性は、それらのすべてが全体として参照により本明細書に組み込まれる、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;and Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991;and Carillo,H.,and Lipman,D.,SIAM J.Applied Math.,48:1073(1988)に記載されているものを含むがこれらに限定されない、公知の方法によって容易に算定できる。同一性を決定する好ましい方法は、試験する配列間で最大のマッチを与えるように設計される。同一性を決定する方法は、公的に利用可能なコンピュータプログラムにおいて体系化されている。2つの配列間のパーセント同一性を決定する好ましいコンピュータプログラム法は、GCGプログラムパッケージ(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Devereux,J.,et al.,Nucleic Acids Research 12(1):387(1984))、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Atschul,S.F.et al.,J.Molec.Biol.215:403−410(1990))を含むが、これらに限定されない。BLAST Xプログラムは、NCBIおよび他のソースから公的に利用可能である(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、BLAST Manual,Altschul,S.,et al.,NCBI NLM NIH Bethesda,Md.20894;Altschul,S.,et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))。例示として、「配列番号:A」の参照ヌクレオチド配列に少なくとも、例えば95%の「同一性」を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドにより、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチド配列が「配列番号:A」の参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドにつき5までの点突然変異を含んでもよいことを除いて参照配列に同一であることが意図される。言い換えると、参照ヌクレオチド配列に少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るには、参照配列内の5%までのヌクレオチドが欠失されてもよいもしくは別のヌクレオチドで置換されてもよいか、または参照配列内の全ヌクレオチドの5%までのヌクレオチドの数が参照配列に挿入されてもよい。参照配列のこれらの突然変異は、参照ヌクレオチド配列の5’もしくは3’末端位置でまたはそれらの末端位置の間のどこかで、参照配列内のヌクレオチドの間に個別に散在してまたは参照配列内の1もしくはそれ以上の連続する群の中で起こり得る。同様に、「配列番号:B」の参照アミノ酸配列に少なくとも、例えば95%の「同一性」を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドにより、ポリペプチドのアミノ酸配列は、ポリペプチド配列が「配列番号:B」の参照アミノ酸配列の各100アミノ酸につき5までのアミノ酸変化を含んでもよいことを除いて参照配列に同一であることが意図される。言い換えると、参照アミノ酸配列に少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るには、参照配列内の5%までのアミノ酸残基が欠失されてもよいもしくは別のアミノ酸で置換されてもよいか、または参照配列内の全アミノ酸残基の5%までのアミノ酸の数が参照配列に挿入されてもよい。参照配列のこれらの変化は、参照アミノ酸配列のアミノもしくはカルボキシ末端位置でまたはそれらの末端位置の間のどこかで、参照配列内の残基の間に個別に散在してまたは参照配列内の1もしくはそれ以上の連続する群の中で起こり得る。
【0084】
本明細書で使用される、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、互いに少なくとも50%相同な受容体をコードするヌクレオチド配列が、典型的には互いにハイブリダイズしたままである、ハイブリダイゼーションおよび洗浄のための条件を表すことが意図されている。条件は、互いに少なくとも約65%、少なくとも約70%または少なくとも約75%またはそれ以上相同な配列が、典型的には互いにハイブリダイズしたままである条件であり得る。そのようなストリンジェントな条件は当業者に公知であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1−6.3.6に見出される。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の一例は、約45℃で6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でのハイブリダイゼーション、次いで50〜65℃で0.2×SSC、0.1%SDS中での1回またはそれ以上の洗浄である。1つの実施形態では、ストリンジェントな条件下で配列番号:1の配列にハイブリダイズする単離された受容体核酸分子は、天然に存在する核酸分子に対応する。本明細書で使用される、「天然に存在する」核酸分子は、自然界で生じるヌクレオチド配列(例えば天然のタンパク質をコードする)を有するRNAまたはDNA分子を指す。
【0085】
本明細書の中で、「抗体または抗体フラグメント」は、抗体を天然に産生する任意の種に由来するかまたは組換えDNAによって作製されたか;血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクトーマ、酵母または細菌から単離されたかに関わらず、抗体(例えばIgG、IgM、IgA、IgDもしくはIgE)またはフラグメント(例えばFab、F(ab’)、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、閉鎖立体配座多重特異性抗体、ジスルフィド結合scFv、ダイアボディなど)を指す。
【0086】
本明細書での中で、「治療」という用語は、既存の疾患の治療および/または疾患の発生を防ぐための予防的治療を意味する。それ自体、本発明の方法は、疾患の治療、予防、進行の阻止または発症の遅延のために使用できる。
【0087】
「バイオマーカー」という用語は、当分野全体にわたって使用され、プロセス、事象または状態の顕著な生物学的または生物学的由来の指標を意味する。言い換えると、バイオマーカーは、癌組織の存在などの、特定の生物学的状態を指示する。一部の場合には、種々の形態のバイオマーカーが特定の疾患状態を指示し得るが、理論に拘束されることなく、単に体液または組織中での本発明のバイオマーカーの高いレベルの存在は黒色腫を指示すると考えられる。例えば、EN2ペプチドの異なる糖型が分泌されることは現在のところ想定されていないが、それにもかかわらずこれらは本発明に包含される。例えば、変化した糖型構造または糖含量などの異なる糖型がEN2について決定されるかもしれないが、これらは包含され、さらには、やはり黒色腫の進行を指示し得る。EN2ペプチドまたはそのフラグメントの切断、突然変異またはその欠失またはそれへの連結も想定される。
【0088】
上記で論じたように、驚くべきことに、正常組織と比較して黒色腫ではEN2遺伝子の発現の有意の上昇が存在することが見出された。さらに、EN2は、黒色腫を有する患者の生体液、例えば血液または血清中で認められる。EN2は、損傷した細胞または死細胞からの漏出のために体液中に分泌され得るまたは体液中で検出され得ると考えられる。そのようなレベル上昇は早期および後期黒色腫の両方を指示する。対照または正常レベルと早期黒色腫の間には有意の上昇が存在するが、早期黒色腫と後期黒色腫の間にも非常に有意の上昇が存在する。概して、癌の物質およびまた癌の状態が検出できることが本発明の利点である。これは、予後診断および適切な治療法の提供に役立つ。
【0089】
不快で潜在的に有害な、同時に不正確でもあり得る、侵襲的手順に頼らずに正確な診断が提供できることが本発明のもう1つの利点である。さらに、本発明は特に高感度である。好ましくは、本発明の方法は、いかなる他の検出方法よりも前におよび癌の明らかな症状の発現よりも前に、癌の発症を検出し得る。したがって、癌の治療に対してより感受性があり、転移期に入っている可能性がより低い早期に癌を治療し得る。
【0090】
本発明のバイオマーカーは、診断方法、例えば臨床スクリーニングにおいて、ならびに予後評価、治療の結果を観測すること、特定の治療処置に応答する可能性が高い患者を同定すること、薬剤のスクリーニングおよび開発の方法において使用できる。さらに、本発明のバイオマーカーおよびその使用は、新しい薬剤治療の同定のためおよび薬剤治療の新たな標的の発見のために有用である。
【0091】
「診断」という用語は、黒色腫の同定、確認および/または存在もしくは不在の特性づけを、早期もしくは後期または良性もしくは転移性癌などの、その進行段階と共に包含する。
【実施例】
【0092】
黒色腫におけるEN2タンパク質の免疫組織化学(ICH)検出
【0093】
我々の試験は、EN2タンパク質が黒色腫中に存在するが周囲の正常組織には存在しないことを示した。これは、種々の黒色腫試料を、黒色腫に隣接する正常組織(NAT)および他の部位からの正常皮膚組織(「正常」)と共に含む高密度組織アレイ(Biomax Melanoma array、カタログ番号ME2082)を使用して達成された。結果を図1に要約する。
【0094】
【表1】

【0095】
EN2は原発性黒色腫細胞の表面に存在する
【0096】
黒色腫に由来する2つの一次細胞集団を、抗EN2抗体および蛍光標識PEを用いる蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して細胞の表面上のEN2タンパク質の存在を評価した。これは、両方の群の細胞が細胞表面に非常に高いレベルのEN2タンパク質を有することを明らかにした(図2)。
【0097】
方法
【0098】
EN2の酵素染色
1.各々5分間ずつ100%キシレンを3回交換してスライドガラスを脱パラフィン化する
2.100%エタノールで2回洗浄する
3.0.3%メタノール/H202(メタノール300ml+H 900μl)中に20分間おく
4.70%および50%のエタノールのシリーズで再水和する
5.蒸留水中で5分間スライドガラスを洗う
6.煮沸クエン酸緩衝液pH6.0中でスライドガラスを12分間インキュベートする
7.スライドガラスを2時間放置して冷却させる
8.蒸留水中で3分間洗浄する
9.PBS中で3分間ずつ2回洗浄する
10.湿室においてPBS/BSA1%中の2.4%ウマ血清と共に切片を15分間インキュベートする(ブロッキング血清を二次抗体として同じ種で惹起する必要がある)
11.湿室において室温で一次抗体(Abcamヤギ抗EN2)と共に一晩インキュベートする
12.PBS中で3分間ずつ3回洗浄する
13.希釈ビオチニル化「万能」二次抗体と共に切片を30分間インキュベートする
14.PBS中で3分間ずつ3回洗浄する
15.VECTASTAIN R.T.U.ABC試薬と共に切片を30分間インキュベートする
16.PBS中で3分間ずつ3回洗浄する
17.所望染色強度が発現するまでペルオキシダーゼ基質溶液中で切片をインキュベートする
18.(impact DAB溶液を使用して、各々のスライドガラスについて10分間おく)
19.蒸留水中で切片を洗う
20.対比染色し(ヘマトキシリンQS:最大45秒間、100μl/スライドガラス)、スライドガラスを水道水の流水中に戻す
21.一連のアルコール(50%、70%、100%)、キシレン1、2、3に各々を手早く浸してスライドガラスを脱水する。
22.VectaMount封入剤でスライドガラスを封入し、スライドガラスを室温で保存する
0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0を用いたマイクロ波抗原賦活化
1.保存溶液から0.01Mクエン酸緩衝液を調製する:蒸留水での1:10希釈
2.pHを測定し、0.1Mクエン酸を用いてpH6.0にする
3.クエン酸緩衝液1Lをプラスチック容器に注ぎ入れ、20分間マイクロ波にかける
4.ラック中の切片を煮沸クエン酸緩衝液に添加し、さらに12分間マイクロ波にかける 高出力(High)
0.3%H2O2の作製:
メタノール300ml
H2O2(30%)900μl水素ペルオキシダーゼ
imPACT DABからのペルオキシダーゼ基質血清の作製:
希釈剤1mlおよび色素原1滴
【0099】
黒色腫患者からのEN2特異的CTLの生成およびEN2ワクチン接種
【0100】
我々は、いくつかの免疫原性HLA−A2制限EN2エピトープを同定するために逆免疫学的方法を使用し、前記エピトープを用いてHLA−A2陽性健常対照ドナーおよび黒色腫患者の両方の血液からEN2特異的CTL応答を生成することができた。結果を図6に示す。
【0101】
最大の免疫治療能は、細胞媒介性および体液性応答の両方を誘発できる抗原によって達成されるので、黒色腫患者の大きなコホートからの血清をEN2に対するIgG自己抗体に関してスクリーニングし、これを、年齢が適合する癌の病歴のない健常ドナーからの対照血清と比較した。
【0102】
我々は、黒色腫のマウスモデルでEN2ワクチン接種の有益な作用を示す予備データを得、前記モデルにおいてワクチン接種した動物は対照よりもはるかに小さな腫瘍を発現した(図7)。
【0103】
これらの動物がまた、ワクチンに対して陽性リコール抗原応答を有していたという事実は、腫瘍結果が良好に免疫媒介性であり得ることを示す。我々はこれらのデータから、EN2が黒色腫免疫療法のための有望な標的であると結論する。
【0104】
本明細書で述べた現在の好ましい実施形態への様々な変更および修正が当業者に明らかであることは、了解されるべきである。そのような変更および修正は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施され得る。それゆえ、そのような変更および修正は付属の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号:1を含む核酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体、または前記核酸配列を含む核酸分子;あるいは
(ii)配列番号:2を含むアミノ酸配列またはそのフラグメントもしくは変異体、または前記アミノ酸配列を含むアミノ酸分子
を含む黒色腫特異的バイオマーカー。
【請求項2】
そのフラグメントまたは変異体が、
(i)配列番号:1と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%の核酸配列同一性を有する核酸配列、ストリンジェントな条件下でそれにハイブリダイズできる核酸配列、および/または、それに相補的な核酸配列;
(ii)配列番号:2と少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約75%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約85%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列;または
(iii)(i)の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列
を含む、請求項1に記載のバイオマーカー。
【請求項3】
そのフラグメントが、(i)配列番号:2からの少なくとも4、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも6、好ましくは少なくとも7、好ましくは少なくとも8個の連続するアミノ酸、または(ii)配列番号:2からの少なくとも4、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも6、好ましくは少なくとも7、好ましくは少なくとも8個の連続するアミノ酸をコードする配列番号:1の核酸配列のフラグメントを含む、請求項1または2に記載のバイオマーカー。
【請求項4】
そのフラグメントまたは変異体が、その機能的フラグメントまたは変異体である、先行する請求項のいずれかに記載のバイオマーカー。
【請求項5】
患者において黒色腫を診断するためまたは黒色腫を発症する危険性がある患者を同定するための方法であって、
(a)患者から得た試料において先行する請求項のいずれかに記載の黒色腫特異的バイオマーカーの量を測定すること;
(b)患者からの試料中で測定された黒色腫特異的バイオマーカーの量を健常対照における黒色腫特異的バイオマーカーの量と比較することを含み、
健常対照における黒色腫特異的バイオマーカーの量と比較した患者からの試料中の黒色腫特異的バイオマーカーの量の差が、黒色腫の存在に関連するまたは黒色腫を発症する危険性に関連する、方法。
【請求項6】
対照と患者から得た試料との間での上昇が早期黒色腫を示す、早期黒色腫を検出するための、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対照と患者から得た試料との間での上昇が後期黒色腫を示す、後期黒色腫を検出するための、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
患者における黒色腫の進行を観測するための方法であって、
(a)患者から得た試料において請求項1〜4のいずれかに記載の黒色腫特異的バイオマーカーの量を測定すること;
(b)患者からの試料中で測定された黒色腫特異的バイオマーカーの量を健常対照における黒色腫特異的バイオマーカーの量と比較すること;ならびに
(c)工程(a)および(b)を、間隔をおいて2回またはそれ以上反復すること
を含み、
患者からの黒色腫特異的バイオマーカーの量の経時的な増加が黒色腫の進行の上昇に関連し、患者からの黒色腫特異的バイオマーカーの量の経時的な減少が黒色腫の進行の低下に関連する、方法。
【請求項9】
早期試料または対照と比較した増加が疾患の早期から後期への黒色腫の進行を示す、黒色腫の病期の変化を観測するための、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
患者から得た試料において請求項1〜4のいずれかに記載の黒色腫特異的バイオマーカーの存在を検出および/または定量することを含む、黒色腫に対する治療の効果を観測するための方法。
【請求項11】
試料が、患者から得た生体液または組織を含む、請求項5〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
生体液または組織が、血液、血清、血漿および/またはリンパ液を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(i)請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカー、または(ii)請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントの治療有効量を患者に投与することを含む、黒色腫を有する患者を治療するための方法。
【請求項14】
抗体が細胞傷害性物質と複合体を形成している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーに特異的に結合する抗体またはそのフラグメントを患者に投与することを含む、患者において黒色腫を画像化するための方法。
【請求項16】
抗体が検出可能なマーカーと複合体を形成している、請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカー、または請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーに結合する抗体もしくはそのフラグメントを含有する組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の組成物を含有する医薬組成物。
【請求項19】
請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーを含有する黒色腫ワクチン。
【請求項20】
黒色腫についてのバイオマーカーとしての、体液または組織中で検出可能な、請求項1〜4のいずれかに記載の黒色腫特異的バイオマーカーの使用。
【請求項21】
黒色腫の治療のための薬剤の製造における、(i)請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカー、または(ii)請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントの使用。
【請求項22】
黒色腫の治療における使用のための、(i)請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカー、または(ii)請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントを含有する組成物。
【請求項23】
患者において黒色腫を画像化する方法における使用のための、請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマーカーに特異的に結合する抗体またはそのフラグメント。
【請求項24】
体液または組織中で検出可能な、請求項1〜4のいずれかに記載の黒色腫特異的バイオマーカーに結合することができるまたは前記バイオマーカーを特異的に認識することができるリガンド、およびレポーター手段を含む、請求項5〜16のいずれかに記載の方法における使用または請求項20に記載の使用のためのキット。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2013−512668(P2013−512668A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541569(P2012−541569)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001334
【国際公開番号】WO2011/067549
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(510044040)ザ ユニバーシティー オブ サリー (3)
【Fターム(参考)】