黒鉛製弾性体及びその製造方法
【課題】炭素材料の欠点を補い、繰り返し使用しても破損することのない黒鉛製弾性体を得、安定した利用、長寿命化を図る。
【解決手段】多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料にて黒鉛製弾性体11を形成する。黒鉛材料は、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下としたものを用いる。黒鉛製弾性体11は、この黒鉛材料からなる例えば筒状バネ母材13の外周部13aを、軸線L中心の螺旋の突切溝15で切り、コイルバネ状に形成できる。
【解決手段】多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有する黒鉛材料にて黒鉛製弾性体11を形成する。黒鉛材料は、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下としたものを用いる。黒鉛製弾性体11は、この黒鉛材料からなる例えば筒状バネ母材13の外周部13aを、軸線L中心の螺旋の突切溝15で切り、コイルバネ状に形成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の化学合成装置、航空宇宙環境利用装置、原子炉、核融合炉、熱処理等の高温炉、センサー、示差熱天秤、ケミカルポンプ、エンジン用部材等に用いて好適な黒鉛製弾性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製のバネは、バネ定数の温度依存性が大きく、一般的に常用されるのは200℃以下であり耐熱性も600℃が限度で急激に強度が低下する。また、錆や化学薬品などに対する耐腐食性に乏しい。一方、セラミックス製のバネでも耐熱性は1000℃が限度で、耐熱衝撃性に乏しい。金属、セラミックス共に比重が高いので組込んだ装置等の重量が大きくなるなどの不都合な点があった。このような従来からあるバネの欠点を補うため有機質線状体をスプリング形状に形成した後、炭素化させてなる炭素系コイルスプリングが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この炭素系コイルスプリングは、炭素化し得る有機物材料、あるいは、これに炭素繊維、黒鉛ウィスカー、黒鉛粉体、非晶質炭素粉体等を均一に分散し、高度に複合配向強化させた有機質線状体をコイル状に形成した後、必要に応じ炭素前駆体処理を施し、さらに不活性雰囲気中で加熱処理して炭素化し、この炭素系のスプリングの全表面を所望する機能に応じた金属で被覆して形成される。この炭素系コイルスプリングによれば、酸素存在下の高温でも優れた耐熱性及び耐腐食性を有し、高い強度と信頼性が期待された。
【0004】
【特許文献1】特開平6−144811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の炭素系コイルスプリングは、有機質線状体を炭素化する過程で寸法収縮を伴うため、精度の高いバネを得ることができないという欠点がある上、このような方法で製作される炭素材は、硬度の高いガラス状炭素であるため、後加工で形状を整えることは困難であった。また、広く用いられている等方性黒鉛材をコイル状等所定の形状に加工し、バネを製作することも可能であるものの、一般に等方性黒鉛材中の気孔は扁平で大きいため、繰り返し使用するうちに、扁平な気孔の端部から亀裂が進展し、バネの破壊に繋がりやすく、黒鉛製のバネの材料としては適していなかった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、炭素材料の欠点を補い、繰り返し使用しても破損することのない黒鉛製弾性体及びその製造方法を提供し、もって、金属製バネの使用不可環境下での安定した利用、長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したことを特徴とする黒鉛製弾性体。
【0007】
この黒鉛製弾性体によれば、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布し、強度、弾性率が高まり、耐熱性、耐腐食性、切削加工性も確保され、寸法精度も高まる。
【0008】
(2) 前記黒鉛材料からなる筒状バネ母材の外周部が軸線を中心に螺旋の突切溝で切られてコイルバネ状に形成されたことを特徴とする(1)の黒鉛製弾性体。
【0009】
この黒鉛製弾性体によれば、断面四角形の棒材を螺旋状に巻いたのと同様のコイルバネを形成することができる。また、棒材を巻き付けて形成する通常のコイルバネの場合、平に仕上げなければならない端部(座)が、筒状バネ母材の平坦な筒端部をそのまま利用できるので、仕上げを容易にすることができる。なお、筒状バネ母材を、円錐形とすれば、円錐形コイルバネを同様にして得ることができる。
【0010】
(3) 多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて筒状バネ母材を形成する工程と、
該筒状バネ母材の内周に円柱体を接着剤にて嵌着してワークを得る工程と、
該ワークを軸線回りで回転させながら刃物を軸線と平行に相対移動させて前記筒状バネ母材を前記円柱体に至る螺旋溝で突っ切る工程と、
該突切溝付きワークを熱処理して前記接着剤を分解し、前記円柱体を抜脱する工程と、
を含むことを特徴とする黒鉛製弾性体の製造方法。
【0011】
この黒鉛製弾性体の製造方法によれば、円柱体が筒状バネ母材の補強部材として働き、筒状バネ母材の半径方向内側への潰れ強度が高まり、螺旋状の突切溝加工が筒状バネ母材の外周部に形成可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る黒鉛製弾性体によれば、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したので、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布し、高強度で高弾性率でありながら、耐熱性、耐腐食性、切削加工性を備え、しかも、寸法精度を高めることができる。この結果、炭素材料の欠点を補い、種々の化学合成装置、航空宇宙環境利用装置、原子炉、核融合炉等で繰り返し使用しても破損することがなく、安定して利用できる長寿命の黒鉛製弾性体を提供できる。
【0013】
本発明に係る黒鉛製弾性体の製造方法によれば、上記黒鉛材料を用いて筒状バネ母材を形成し、筒状バネ母材の内周に炭素材からなる円柱体を接着剤にて嵌着してワークを得、このワークを軸線回りで回転させながら筒状バネ母材を軸線を中心とした螺旋溝で突っ切り、この突切溝付きワークを接着剤の分解温度以上、且つ黒鉛材料の酸化温度以下で熱処理して円柱体を抜脱するので、円柱体を筒状バネ母材の補強部材とし、筒状バネ母材を半径方向内側に潰すことなく、螺旋状の突切溝加工を外周部に施して、コイルバネ状の黒鉛製弾性体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る黒鉛製弾性体及びその製造方法の好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明に係る黒鉛製弾性体は、板状の黒鉛製弾性体の場合、厚さ方向に荷重をかける黒鉛製弾性体であり、例えば、圧カセンサー、ロードセル等で使用されるダイヤフラム、板バネ、さらバネ等が挙げられる。線状の黒鉛製弾性体の場合、太さ方向、あるいは捻れ方向に荷重をかける弾性体が相当し、直線状のものに限らず、螺旋形状の弾性体も含まれる。例えば、コイルスプリング、渦巻きバネ等が挙げられる。
【0015】
図1は本発明に係る黒鉛製弾性体の斜視図である。
以下、黒鉛製弾性体をコイルスプリング11とした形態を説明する。コイルスプリング11は、黒鉛材料からなる筒状バネ母材13の外周部13aが軸線Lを中心に螺旋の突切溝15で切られ(切削され)てコイルバネ状に形成されている。つまり、コイルスプリング11は、断面四角形の棒材を螺旋状に巻いたコイルバネ状に形成される。棒材を巻き付けて形成する通常のコイルバネの場合、平に仕上げなければならない端部(座)13bが、コイルスプリング11では、筒状バネ母材13の平坦な端部13bをそのまま利用できるので、仕上げを容易にすることができる。なお、筒状バネ母材13を、円錐形とすれば、円錐形コイルバネを同様にして得ることができる。
【0016】
コイルスプリング11に用いられる黒鉛材は、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有している。この黒鉛材料の断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔は、6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下である。つまり、黒鉛材料の中に分布する気孔が十分に小さく、かつ、黒鉛材料の単位体積あたりに存在する気孔数が充分に多い。このため、切削時に大きな粒子単位で脱落することなく、平滑な加工面が得られる。また、大きな気孔が存在せず、応力集中が発生しにくいため、繰り返し使用しても亀裂進展の少ない黒鉛材を提供できる。
【0017】
また、黒鉛弾性体に用いられる黒鉛材は、断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下である。加工時における刃物による圧縮強度に対して黒鉛材料の弾性率が大きくなり、加工時に生じる切削屑を小さくすることができる。すなわち、刃物の切削抵抗が小さく、加工がしやすい。また、断面に現れる気孔の平均扁平率を0.55以下とすることにより、気孔端部のノッチ(切り込み)を小さくすることができ、亀裂進展の少ない黒鉛材を提供することができる。
【0018】
上記のような黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係は以下のメカニズムによるものと推察される。
黒鉛材料は、切削される際に、刃物の進行方向に圧縮力が働く。この時、刃物の進行に伴って蓄えられた歪みエネルギーが、破壊に必要なエネルギーを超えたときに切削される。平滑な加工面を得るためには、細かな切削粉を出しながら加工することが必要であり、大きな歪みエネルギーを蓄える前に破壊が起こることが重要である。
大きな歪みエネルギーを蓄えないためには、圧縮強度が小さく、弾性率が大きいことが重要であり、つまり、切削される粒子の直径は、圧縮強度/弾性率と正の相関があると言える。以上より、切削される粒子の直径が小さい(きめの細かい)加工面を得るためには、所定の圧縮強度のもとでは、より弾性率が大きい黒鉛材料が有利であることがわかる。
【0019】
次に、黒鉛材料の弾性率と気孔の形状との関係について説明すると、一般に黒鉛材料の弾性率は以下のKnudsenの経験式で示される。
E(P)=E(0)exp(−bP)
(E(P):弾性率、P:気孔率、b:経験定数)
経験定数bは気孔の形状に強く依存しており、気孔の形状が球形の場合には、その値が小さく、扁平回転楕円体から亀裂状の気孔形状になるに従って急激にその値が大きくなることが知られている(「新・炭素材料入門」、炭素材料学会編)。従って、弾性率を大きくするためには、その形状が丸い(扁平率が小さい)黒鉛材料が有利であることがわかる。
以上より、黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係が導かれると考えられる。すなわち、気孔の形状が丸い(すなわち、観察断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下となる)ことにより、黒鉛材料の弾性率を大きくすることができるので、きめ細かな加工面を得ることができ、加工性に優れた黒鉛材料が得られる。
【0020】
次に、圧縮強度に関しては、気孔が扁平回転楕円体や、亀裂状の気孔であっても、圧縮荷重がかかることによって気孔は潰れるように作用するため、気孔の形状は大きな影響を与えない。圧縮強度に対しては気孔率の影響の方が大きいことがわかる。
気孔率が小さいと、圧縮強度が高くなりすぎ切削されにくくなり、加工面の凹凸が大きくなる。気孔率が大きいと、圧縮強度を小さくできるものの、軟らかい黒鉛材料となるため、微細な加工を施しても、折れたり割れやすくなる。また放電加工においても消耗しやすくなる。
【0021】
黒鉛材料の気孔率と、かさ密度とは相関が高く、同一の原材料を使用し、同一の黒鉛化処理を施した場合、同一の気孔率であれば、ほぼ同一のかさ密度となる。
本発明では、主にピッチを出発原料として、ピッチコークスを経る成分や、直接炭素化、黒鉛化される成分があるものの、出発原料と黒鉛化処理温度は限られた範囲内で行われているため、黒鉛材料のかさ密度は好ましい範囲が存在し、その値は1.78〜1.86g/cm3であり、より好ましくは1.82〜1.85g/cm3である。なお、かさ密度は、体積、質量を測定することにより得られる。
【0022】
本発明において、断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率は、黒鉛材料を電子顕微鏡等で観察することにより算出することができる。具体的には、まず黒鉛材料の切断面をCP(クロスセクションポリッシャ)法により加工する。作製した断面にフラットミリング処理(45°、3分)を施した後、FE−SEMにて観察することにより得られる。
また、撮影した画像の解析は、画像解析ソフト(Image J 1.37)を用いて2値化した後、個々の空隙(断面に現れる気孔)の面積を算出する。個々の空隙について楕円フィットを行い、その長軸、短軸の値から扁平率を算出する。
なお、扁平率とは、空隙(断面に現れる気孔)にフィットされた楕円の(長軸−短軸)/長軸のことである。
【0023】
断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定には、上記のようにSEMを使用することが望ましい。ミクロンオーダーの気孔の形状を判別するのに充分な解像度が得られる上、粒子部分は単一の濃度の灰色、気孔部分は気孔の深さに応じて深い気孔の場合は黒色、浅い気孔の場合は白色に表示され、明確に気孔と粒子を区別することができるからである。
【0024】
断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定は、樹脂埋めされていない黒鉛材料を用いることが好ましい。黒鉛材料を樹脂埋めすると、黒鉛材料内部に存在する開気孔に樹脂が封止されて、正しい気孔の個数及び形状を判別することができないからである。
【0025】
最大気孔直径(長軸)は、20μm以下であることが好ましい。最大気孔直径が20μm以下であることにより、切削時に気孔に沿ってクラックが進展するため、細ピンでは折れ、薄いリブの切削加工においては割れ、穴あきの原因となる。
最大気孔直径も前記と同様にSEMで観察した断面から測定することができる。なお、SEMの断面観察から得られた気孔の直径は、水銀圧入式ポロシメータ等で得られる気孔及び黒鉛粒子の直径とは異なる。前者は、実際の大きさが計測されるのに対し、後者は連続気孔の入口部分の直径が計測される。
【0026】
次に、コイルスプリング11の製造方法について説明する。
図2は図1に示した黒鉛製弾性体の製作に用いられる旋盤の一例を示す構成図、図3は図1に示した黒鉛製弾性体の製造の手順を(a)〜(e)で表した模式図である。
コイルスプリング11の製造には、先ず、黒鉛材料からなる図3(a)に示す筒状バネ母材13を形成する。黒鉛材料は、ピッチに炭素質微粉を添加し混練した後、熱処理を加えて400〜500℃で熱処理をしながら揮発分調整を行い、二次原料を得る。次に得られた二次原料を、粒径の細かい微粉を除去する機能を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粒度調整をしながら粉砕し、二次原料粉を得る。次に、冷間等方圧成形(CIP成形)により筒状に成形し、焼結炉にて約1000℃で焼成し、さらに黒鉛化炉にて約2500℃で黒鉛化処理を行い、黒鉛材料からなる筒状バネ母材13が得られる。
【0027】
なお、使用するピッチとは、石炭系や石油系のピッチのことであり、これらの混合物であってもよい。これらの原材料のうち、石炭系のピッチを使用するのが望ましい。石炭系のピッチの場合は、光学的異方性が発達しにくく(結晶が針状に発達しにくく)高強度で、高弾性の黒鉛材料を得ることができる。
【0028】
また、ピッチの軟化点は、50℃以下であることが望ましい。50℃以上であると、混練時の粘度が上昇し製造が非常に困難となる。
本発明に使用する炭素質微粉は、メソフェースの発達する際の核となるものであり、カーボンブラック、黒鉛微粉、生ピッチコークス微粉、仮焼ピッチコークス微粉等の炭素質のものを使用することができる。微粉のサイズとしては、5μm以下のものが望ましい。5μm以上の微粉を使用すると混練して得られた二次原料を粉砕する際の粒度分布の制御が困難となり、粒度分布の粗い側が増えるからである。ピッチへの添加量としては、3〜10%重量であることが望ましい。10重量%を超えて添加するとピッチの粘度が上昇し、製造が非常に困難となる。3重量%以下の場合にはコークスのモザイク組織が十分に発達できない。
【0029】
上記原材料の熱処理は、JIS8812で測定される揮発分が6〜12%(より好ましくは8〜11%)になるよう温度、時間を調整され二次原料が得られる。揮発分が6%未満の場合には、粒子間の接着が十分に得られないため、密度の低い黒鉛材料しか得ることができない。12%以上の場合には、焼成時に内部から発生する炭化水素ガスの量が多く、割れやすい上、蓄積したガスが大きな気孔を形成する。
【0030】
上記原材料を熱処理し得られた二次原料は、粒度を制御しながら粉砕され、得られた二次原料粉からは、微粉末は取り除かれている。粉砕の方法は、内部分級機を備えた粉砕機を用いる方法や、粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントを用いる方法、粉砕機で粉砕された原材料を精密気流分級機で別個に粒度調整する方法等がある。
微粉末が含まれる二次原料粉を用いた黒鉛材料は、焼成時に発生するガスが放出されにくくなり、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
【0031】
二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定されるメジアン径(DP−50:50%積算直径)が5〜10μmであるが好ましい。通常粒子間に存在する気孔はシャープなエッジを持った扁平率の大きな気孔である場合が多く、粒子の大きさが大きい場合、気孔のサイズと形状とが相乗効果を示し、弾性率の低下が大きくなる。このため、メジアン径が10μm以上である場合、弾性率が大きく低下してしまう。また、メジアン径が5μm以下である場合、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
また二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定される粒度分布の範囲が1μm〜80μmであることが好ましい。1μm以下の原材料が含まれると、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。80μm以上の粒子が含まれると、大きな粒子の外周部や大きな粒子どうしの界面近傍に扁平な気孔ができやすくなる上、気孔の数も少なくなり、平均断面積も低下する。
【0032】
次に、図3(b)に示すように、筒状バネ母材13の内周に円柱体17を接着剤にて嵌着して筒状バネ母材13と円柱体17を一体化させたワークW1を得る。
接着剤としては、熱分解し、揮散するものであれば特に種類は限定されず、例えばα-シアノアクリレート(瞬間接着剤)等を好適に使用することが出来る。α-シアノアクリレートであれば、2・300℃に加熱することにより解重合し、モノマーに分解する。また、黒鉛材料の酸化開始温度は400℃前後であるため、黒鉛材料を酸化させることなく、接着剤のみ熱分解させることが出来る。
【0033】
次に、図2に示す旋盤19を用い、ワークW1を軸線回りで回転させながら、刃物(バイト)21を軸線Lと平行に相対移動させて、図3(c)に示すように、筒状バネ母材13を、軸線Lを中心とした円柱体17に至る螺旋溝23で突っ切る。すなわち、ワークW1に対してネジ切り加工を行う場合と同様に、主軸25を回転中心としてワークW1を回転させ、刃物台27から、ワークW1の周部に対して刃物21を接触させながら、ワークW1の回転に同期させて主軸25の軸心に平行なガイド軸31に沿って刃物21を移動させて螺旋溝23を形成する。この際、円柱体17が筒状バネ母材13の補強部材として働き、筒状バネ母材13の半径方向内側への潰れ強度が高まり、螺旋状の突切溝加工が筒状バネ母材13の外周部13aに形成可能となる。
【0034】
螺旋溝23の形成された図3(d)に示すワークW2が得られたなら、次に、この突切溝付きワークW2を、上記接着剤の分解温度以上、且つ黒鉛材料の酸化温度以下で熱処理して円柱体17を抜脱し、図3(e)に示すコイルスプリング11の製造を完了する。
【0035】
したがって、上記のコイルスプリング11によれば、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したので、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布し、高強度で高弾性率でありながら、耐熱性、耐腐食性、切削加工性を備え、しかも、寸法精度を高めることができる。この結果、炭素材料の欠点を補い、種々の化学合成装置、航空宇宙環境利用装置、原子炉、核融合炉等で繰り返し使用しても破損することがなく、金属製バネの使用不可状況下においても安定して利用できる長寿命のコイルスプリング11を提供できる。
【0036】
また、コイルスプリング11の製造方法によれば、黒鉛材料を用いて筒状バネ母材13を形成し、筒状バネ母材13の内周に炭素材からなる円柱体17を接着剤にて嵌着してワークW1を得、このワークW1を軸線回りで回転させながら筒状バネ母材13を軸線Lを中心とした螺旋溝23で突っ切り、この突切溝付きワークW2を接着剤の分解温度以上、且つ黒鉛材料の酸化温度以下で熱処理して円柱体17を抜脱するので、円柱体17を筒状バネ母材13の補強部材とし、筒状バネ母材13を半径方向内側に潰すことなく、螺旋状の突切溝加工を外周部13aに施して、コイルバネ状の黒鉛製弾性体を得ることができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
1.黒鉛材料の製造
(実施例1〜2)
軟化点40℃の石炭系ピッチ95重量部にたいし、平均2μmに粉砕した仮焼コークス5重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて415℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に内部分級機を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下及び80μm以上の粉は含まれていなかった。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0039】
(比較例1)
内部分級機を持たない粉砕機で粉砕したこと以外は実施例1〜2と同様の方法で黒鉛材料を製造した。尚、製造の途中で得られた二次原料粉は、精密気流分級等の操作を行っておらず、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に80μm以上の粉は含まれていなかったが、1μm以下の粉が9.3%含まれていた。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0040】
(比較例2)
軟化点80℃の石炭系ピッチ35重量部にたいし、平均14μmに粉砕した仮焼コークス65重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて250℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントで過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下の粉は含まれていなかったが、80μm以上の粉が約3%含まれていた。
【0041】
表1に原材料の特性値を示す。
【表1】
【0042】
2. 黒鉛材料の特性評価
以下の項目を測定し、上記で得られた黒鉛材料の特性評価を行った。
(断面に現れる気孔の個数・平均面積・平均扁平率)
以下の手順で、断面に現れる気孔の個数、平均面積・平均扁平率を算出した。
(a)試料荒研磨
上記で作製したテストピースを約5mm厚の円柱状に切断し、両面をGATAN社製治具MODEL623及びSiC性耐水研磨紙#2400を用いて試料両面の整面処理を実施した。次に真鍮性の試料台に固定した。
(b)CP加工
JEOL製SM09010を使用し、加速電圧6kVでCP加工を行った。
(c)ミリング
日立ハイテク社製フラットミリング装置E−3200を使用し、加速電圧5kV、0.5mA、試料傾斜角45°、ミリング時間3分で、Arミリング処理を行った。
(d)FE−SEM観察
上記により作製した試料を日立ハイテク社製超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡 S−4800を使用し加速電圧2kVで観察した。実施例1の黒鉛材料を図4a〜c、実施例2の黒鉛材料を図5a〜c、比較例1の黒鉛材料を図6a〜c、比較例2の黒鉛材料を図7a〜cに示す。
(e)画像解析
アメリカ国立衛生研究所製解析ソフトImageJ1.37を使用し、上記で得られたSEM画像を解析した。このときの観察倍率は2000倍で、ノイズ低減処理を施した後、平面部/空隙(気孔)部の2値化処理を実施した。尚、空隙(気孔)の解析対象は、空隙(気孔)か否かの判断が可能な0.2μmを超えるものとした。
画像解析ソフト(ImageJ)で2値化することにより得られた空隙(気孔)部に対して、面積計測、最適楕円フィッティングを実施すると共に個数をカウントし、上記処理より得られた値から断面に現れる気孔の個数、平均面積、平均扁平率を算出した。
(圧縮強度)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
(弾性率)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
【0043】
表2に黒鉛材料の特性値を示す。
【表2】
【0044】
3.コイルスプリングの製造
実施例、比較例の黒鉛材料を厚さ2.5mmの中空円筒状に加工して筒状バネ母材13とし(図3(a))、筒状バネ母材13の内周に円柱体17をα-シアノアクリレートにて接着することで筒状バネ母材13と円柱体17を一体化させたワークW1を作成し(図3(b))、図2に示す旋盤19を用い、ワークW1に1mm幅でピッチ2mmの螺旋溝23を形成し(図3(c))、得られたワークW2を330℃で熱処理して円柱体17を抜き取り(図3(d))、コイルスプリング11が完成する(図3(e))。
【0045】
4.コイルスプリングの評価
実施例のコイルスプリング(実施例1,2の黒鉛材料で製造したコイルスプリング)についても、比較例のコイルスプリング(比較例1,2の黒鉛材料で製造したコイルスプリング)についても、外見上の差異を肉眼で確認することはできなかった。しかしながら、図4a〜c,図5a〜c,図6a〜c及び図7a〜cに示す黒鉛材料の断面写真からもわかる様に、実施例の黒鉛材料は比較的サイズが小さい丸い形状の気孔が均一に多数分布しているのに対し、比較例の黒鉛材料は、気孔が丸いものが少なく、比較的大きなものが多く存在しているため、実施例の黒鉛材料で製造したコイルスプリングと比較例の黒鉛材料で製造したコイルスプリングとでは、応力に対する耐性が大きく異なる。具体的には、比較例のコイルスプリングは、自然長状態から圧縮して最も縮んだ状態まで圧縮する間に欠けが発生し、伸縮を数回繰り返すだけで破損してしまう。これに対し、実施例のコイルスプリングは、自然長状態から最も縮んだ状態までの間の伸縮を繰り返しても欠けが発生せず、伸縮を1000回繰り返しても破損しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る黒鉛製弾性体の斜視図である。
【図2】図1に示した黒鉛製弾性体の製作に用いられる旋盤の一例を示す構成図である。
【図3】図1に示した黒鉛製弾性体の製造の手順を(a)〜(e)で表した模式図である。
【図4a】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図4b】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図4c】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図5a】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図5b】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図5c】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図6a】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図6b】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図6c】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図7a】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図7b】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図7c】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【符号の説明】
【0047】
11 コイルスプリング(黒鉛製弾性体)
13 筒状バネ母材
13a 外周部
15 螺旋の突切溝
17 円柱体
21 刃物
23 螺旋溝
L 軸線
W1,W2 ワーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の化学合成装置、航空宇宙環境利用装置、原子炉、核融合炉、熱処理等の高温炉、センサー、示差熱天秤、ケミカルポンプ、エンジン用部材等に用いて好適な黒鉛製弾性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製のバネは、バネ定数の温度依存性が大きく、一般的に常用されるのは200℃以下であり耐熱性も600℃が限度で急激に強度が低下する。また、錆や化学薬品などに対する耐腐食性に乏しい。一方、セラミックス製のバネでも耐熱性は1000℃が限度で、耐熱衝撃性に乏しい。金属、セラミックス共に比重が高いので組込んだ装置等の重量が大きくなるなどの不都合な点があった。このような従来からあるバネの欠点を補うため有機質線状体をスプリング形状に形成した後、炭素化させてなる炭素系コイルスプリングが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この炭素系コイルスプリングは、炭素化し得る有機物材料、あるいは、これに炭素繊維、黒鉛ウィスカー、黒鉛粉体、非晶質炭素粉体等を均一に分散し、高度に複合配向強化させた有機質線状体をコイル状に形成した後、必要に応じ炭素前駆体処理を施し、さらに不活性雰囲気中で加熱処理して炭素化し、この炭素系のスプリングの全表面を所望する機能に応じた金属で被覆して形成される。この炭素系コイルスプリングによれば、酸素存在下の高温でも優れた耐熱性及び耐腐食性を有し、高い強度と信頼性が期待された。
【0004】
【特許文献1】特開平6−144811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の炭素系コイルスプリングは、有機質線状体を炭素化する過程で寸法収縮を伴うため、精度の高いバネを得ることができないという欠点がある上、このような方法で製作される炭素材は、硬度の高いガラス状炭素であるため、後加工で形状を整えることは困難であった。また、広く用いられている等方性黒鉛材をコイル状等所定の形状に加工し、バネを製作することも可能であるものの、一般に等方性黒鉛材中の気孔は扁平で大きいため、繰り返し使用するうちに、扁平な気孔の端部から亀裂が進展し、バネの破壊に繋がりやすく、黒鉛製のバネの材料としては適していなかった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、炭素材料の欠点を補い、繰り返し使用しても破損することのない黒鉛製弾性体及びその製造方法を提供し、もって、金属製バネの使用不可環境下での安定した利用、長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したことを特徴とする黒鉛製弾性体。
【0007】
この黒鉛製弾性体によれば、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布し、強度、弾性率が高まり、耐熱性、耐腐食性、切削加工性も確保され、寸法精度も高まる。
【0008】
(2) 前記黒鉛材料からなる筒状バネ母材の外周部が軸線を中心に螺旋の突切溝で切られてコイルバネ状に形成されたことを特徴とする(1)の黒鉛製弾性体。
【0009】
この黒鉛製弾性体によれば、断面四角形の棒材を螺旋状に巻いたのと同様のコイルバネを形成することができる。また、棒材を巻き付けて形成する通常のコイルバネの場合、平に仕上げなければならない端部(座)が、筒状バネ母材の平坦な筒端部をそのまま利用できるので、仕上げを容易にすることができる。なお、筒状バネ母材を、円錐形とすれば、円錐形コイルバネを同様にして得ることができる。
【0010】
(3) 多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて筒状バネ母材を形成する工程と、
該筒状バネ母材の内周に円柱体を接着剤にて嵌着してワークを得る工程と、
該ワークを軸線回りで回転させながら刃物を軸線と平行に相対移動させて前記筒状バネ母材を前記円柱体に至る螺旋溝で突っ切る工程と、
該突切溝付きワークを熱処理して前記接着剤を分解し、前記円柱体を抜脱する工程と、
を含むことを特徴とする黒鉛製弾性体の製造方法。
【0011】
この黒鉛製弾性体の製造方法によれば、円柱体が筒状バネ母材の補強部材として働き、筒状バネ母材の半径方向内側への潰れ強度が高まり、螺旋状の突切溝加工が筒状バネ母材の外周部に形成可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る黒鉛製弾性体によれば、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したので、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布し、高強度で高弾性率でありながら、耐熱性、耐腐食性、切削加工性を備え、しかも、寸法精度を高めることができる。この結果、炭素材料の欠点を補い、種々の化学合成装置、航空宇宙環境利用装置、原子炉、核融合炉等で繰り返し使用しても破損することがなく、安定して利用できる長寿命の黒鉛製弾性体を提供できる。
【0013】
本発明に係る黒鉛製弾性体の製造方法によれば、上記黒鉛材料を用いて筒状バネ母材を形成し、筒状バネ母材の内周に炭素材からなる円柱体を接着剤にて嵌着してワークを得、このワークを軸線回りで回転させながら筒状バネ母材を軸線を中心とした螺旋溝で突っ切り、この突切溝付きワークを接着剤の分解温度以上、且つ黒鉛材料の酸化温度以下で熱処理して円柱体を抜脱するので、円柱体を筒状バネ母材の補強部材とし、筒状バネ母材を半径方向内側に潰すことなく、螺旋状の突切溝加工を外周部に施して、コイルバネ状の黒鉛製弾性体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る黒鉛製弾性体及びその製造方法の好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明に係る黒鉛製弾性体は、板状の黒鉛製弾性体の場合、厚さ方向に荷重をかける黒鉛製弾性体であり、例えば、圧カセンサー、ロードセル等で使用されるダイヤフラム、板バネ、さらバネ等が挙げられる。線状の黒鉛製弾性体の場合、太さ方向、あるいは捻れ方向に荷重をかける弾性体が相当し、直線状のものに限らず、螺旋形状の弾性体も含まれる。例えば、コイルスプリング、渦巻きバネ等が挙げられる。
【0015】
図1は本発明に係る黒鉛製弾性体の斜視図である。
以下、黒鉛製弾性体をコイルスプリング11とした形態を説明する。コイルスプリング11は、黒鉛材料からなる筒状バネ母材13の外周部13aが軸線Lを中心に螺旋の突切溝15で切られ(切削され)てコイルバネ状に形成されている。つまり、コイルスプリング11は、断面四角形の棒材を螺旋状に巻いたコイルバネ状に形成される。棒材を巻き付けて形成する通常のコイルバネの場合、平に仕上げなければならない端部(座)13bが、コイルスプリング11では、筒状バネ母材13の平坦な端部13bをそのまま利用できるので、仕上げを容易にすることができる。なお、筒状バネ母材13を、円錐形とすれば、円錐形コイルバネを同様にして得ることができる。
【0016】
コイルスプリング11に用いられる黒鉛材は、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有している。この黒鉛材料の断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔は、6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均面積が5μm2以下である。つまり、黒鉛材料の中に分布する気孔が十分に小さく、かつ、黒鉛材料の単位体積あたりに存在する気孔数が充分に多い。このため、切削時に大きな粒子単位で脱落することなく、平滑な加工面が得られる。また、大きな気孔が存在せず、応力集中が発生しにくいため、繰り返し使用しても亀裂進展の少ない黒鉛材を提供できる。
【0017】
また、黒鉛弾性体に用いられる黒鉛材は、断面を走査型顕微鏡で観察したとき、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下である。加工時における刃物による圧縮強度に対して黒鉛材料の弾性率が大きくなり、加工時に生じる切削屑を小さくすることができる。すなわち、刃物の切削抵抗が小さく、加工がしやすい。また、断面に現れる気孔の平均扁平率を0.55以下とすることにより、気孔端部のノッチ(切り込み)を小さくすることができ、亀裂進展の少ない黒鉛材を提供することができる。
【0018】
上記のような黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係は以下のメカニズムによるものと推察される。
黒鉛材料は、切削される際に、刃物の進行方向に圧縮力が働く。この時、刃物の進行に伴って蓄えられた歪みエネルギーが、破壊に必要なエネルギーを超えたときに切削される。平滑な加工面を得るためには、細かな切削粉を出しながら加工することが必要であり、大きな歪みエネルギーを蓄える前に破壊が起こることが重要である。
大きな歪みエネルギーを蓄えないためには、圧縮強度が小さく、弾性率が大きいことが重要であり、つまり、切削される粒子の直径は、圧縮強度/弾性率と正の相関があると言える。以上より、切削される粒子の直径が小さい(きめの細かい)加工面を得るためには、所定の圧縮強度のもとでは、より弾性率が大きい黒鉛材料が有利であることがわかる。
【0019】
次に、黒鉛材料の弾性率と気孔の形状との関係について説明すると、一般に黒鉛材料の弾性率は以下のKnudsenの経験式で示される。
E(P)=E(0)exp(−bP)
(E(P):弾性率、P:気孔率、b:経験定数)
経験定数bは気孔の形状に強く依存しており、気孔の形状が球形の場合には、その値が小さく、扁平回転楕円体から亀裂状の気孔形状になるに従って急激にその値が大きくなることが知られている(「新・炭素材料入門」、炭素材料学会編)。従って、弾性率を大きくするためには、その形状が丸い(扁平率が小さい)黒鉛材料が有利であることがわかる。
以上より、黒鉛材料の気孔の形状とその加工性との関係が導かれると考えられる。すなわち、気孔の形状が丸い(すなわち、観察断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下となる)ことにより、黒鉛材料の弾性率を大きくすることができるので、きめ細かな加工面を得ることができ、加工性に優れた黒鉛材料が得られる。
【0020】
次に、圧縮強度に関しては、気孔が扁平回転楕円体や、亀裂状の気孔であっても、圧縮荷重がかかることによって気孔は潰れるように作用するため、気孔の形状は大きな影響を与えない。圧縮強度に対しては気孔率の影響の方が大きいことがわかる。
気孔率が小さいと、圧縮強度が高くなりすぎ切削されにくくなり、加工面の凹凸が大きくなる。気孔率が大きいと、圧縮強度を小さくできるものの、軟らかい黒鉛材料となるため、微細な加工を施しても、折れたり割れやすくなる。また放電加工においても消耗しやすくなる。
【0021】
黒鉛材料の気孔率と、かさ密度とは相関が高く、同一の原材料を使用し、同一の黒鉛化処理を施した場合、同一の気孔率であれば、ほぼ同一のかさ密度となる。
本発明では、主にピッチを出発原料として、ピッチコークスを経る成分や、直接炭素化、黒鉛化される成分があるものの、出発原料と黒鉛化処理温度は限られた範囲内で行われているため、黒鉛材料のかさ密度は好ましい範囲が存在し、その値は1.78〜1.86g/cm3であり、より好ましくは1.82〜1.85g/cm3である。なお、かさ密度は、体積、質量を測定することにより得られる。
【0022】
本発明において、断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率は、黒鉛材料を電子顕微鏡等で観察することにより算出することができる。具体的には、まず黒鉛材料の切断面をCP(クロスセクションポリッシャ)法により加工する。作製した断面にフラットミリング処理(45°、3分)を施した後、FE−SEMにて観察することにより得られる。
また、撮影した画像の解析は、画像解析ソフト(Image J 1.37)を用いて2値化した後、個々の空隙(断面に現れる気孔)の面積を算出する。個々の空隙について楕円フィットを行い、その長軸、短軸の値から扁平率を算出する。
なお、扁平率とは、空隙(断面に現れる気孔)にフィットされた楕円の(長軸−短軸)/長軸のことである。
【0023】
断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定には、上記のようにSEMを使用することが望ましい。ミクロンオーダーの気孔の形状を判別するのに充分な解像度が得られる上、粒子部分は単一の濃度の灰色、気孔部分は気孔の深さに応じて深い気孔の場合は黒色、浅い気孔の場合は白色に表示され、明確に気孔と粒子を区別することができるからである。
【0024】
断面に現れる気孔の個数、平均面積及び平均扁平率の測定は、樹脂埋めされていない黒鉛材料を用いることが好ましい。黒鉛材料を樹脂埋めすると、黒鉛材料内部に存在する開気孔に樹脂が封止されて、正しい気孔の個数及び形状を判別することができないからである。
【0025】
最大気孔直径(長軸)は、20μm以下であることが好ましい。最大気孔直径が20μm以下であることにより、切削時に気孔に沿ってクラックが進展するため、細ピンでは折れ、薄いリブの切削加工においては割れ、穴あきの原因となる。
最大気孔直径も前記と同様にSEMで観察した断面から測定することができる。なお、SEMの断面観察から得られた気孔の直径は、水銀圧入式ポロシメータ等で得られる気孔及び黒鉛粒子の直径とは異なる。前者は、実際の大きさが計測されるのに対し、後者は連続気孔の入口部分の直径が計測される。
【0026】
次に、コイルスプリング11の製造方法について説明する。
図2は図1に示した黒鉛製弾性体の製作に用いられる旋盤の一例を示す構成図、図3は図1に示した黒鉛製弾性体の製造の手順を(a)〜(e)で表した模式図である。
コイルスプリング11の製造には、先ず、黒鉛材料からなる図3(a)に示す筒状バネ母材13を形成する。黒鉛材料は、ピッチに炭素質微粉を添加し混練した後、熱処理を加えて400〜500℃で熱処理をしながら揮発分調整を行い、二次原料を得る。次に得られた二次原料を、粒径の細かい微粉を除去する機能を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粒度調整をしながら粉砕し、二次原料粉を得る。次に、冷間等方圧成形(CIP成形)により筒状に成形し、焼結炉にて約1000℃で焼成し、さらに黒鉛化炉にて約2500℃で黒鉛化処理を行い、黒鉛材料からなる筒状バネ母材13が得られる。
【0027】
なお、使用するピッチとは、石炭系や石油系のピッチのことであり、これらの混合物であってもよい。これらの原材料のうち、石炭系のピッチを使用するのが望ましい。石炭系のピッチの場合は、光学的異方性が発達しにくく(結晶が針状に発達しにくく)高強度で、高弾性の黒鉛材料を得ることができる。
【0028】
また、ピッチの軟化点は、50℃以下であることが望ましい。50℃以上であると、混練時の粘度が上昇し製造が非常に困難となる。
本発明に使用する炭素質微粉は、メソフェースの発達する際の核となるものであり、カーボンブラック、黒鉛微粉、生ピッチコークス微粉、仮焼ピッチコークス微粉等の炭素質のものを使用することができる。微粉のサイズとしては、5μm以下のものが望ましい。5μm以上の微粉を使用すると混練して得られた二次原料を粉砕する際の粒度分布の制御が困難となり、粒度分布の粗い側が増えるからである。ピッチへの添加量としては、3〜10%重量であることが望ましい。10重量%を超えて添加するとピッチの粘度が上昇し、製造が非常に困難となる。3重量%以下の場合にはコークスのモザイク組織が十分に発達できない。
【0029】
上記原材料の熱処理は、JIS8812で測定される揮発分が6〜12%(より好ましくは8〜11%)になるよう温度、時間を調整され二次原料が得られる。揮発分が6%未満の場合には、粒子間の接着が十分に得られないため、密度の低い黒鉛材料しか得ることができない。12%以上の場合には、焼成時に内部から発生する炭化水素ガスの量が多く、割れやすい上、蓄積したガスが大きな気孔を形成する。
【0030】
上記原材料を熱処理し得られた二次原料は、粒度を制御しながら粉砕され、得られた二次原料粉からは、微粉末は取り除かれている。粉砕の方法は、内部分級機を備えた粉砕機を用いる方法や、粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントを用いる方法、粉砕機で粉砕された原材料を精密気流分級機で別個に粒度調整する方法等がある。
微粉末が含まれる二次原料粉を用いた黒鉛材料は、焼成時に発生するガスが放出されにくくなり、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
【0031】
二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定されるメジアン径(DP−50:50%積算直径)が5〜10μmであるが好ましい。通常粒子間に存在する気孔はシャープなエッジを持った扁平率の大きな気孔である場合が多く、粒子の大きさが大きい場合、気孔のサイズと形状とが相乗効果を示し、弾性率の低下が大きくなる。このため、メジアン径が10μm以上である場合、弾性率が大きく低下してしまう。また、メジアン径が5μm以下である場合、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。
また二次原料粉は、レーザー回折式粒度測定器で測定される粒度分布の範囲が1μm〜80μmであることが好ましい。1μm以下の原材料が含まれると、焼成時に二次原料粉の成形体から発生する揮発分を速やかに素材の外部に排出することができず、割れやすくなる。さらには、素材内にガスが蓄積し、大きな気孔を形成する。80μm以上の粒子が含まれると、大きな粒子の外周部や大きな粒子どうしの界面近傍に扁平な気孔ができやすくなる上、気孔の数も少なくなり、平均断面積も低下する。
【0032】
次に、図3(b)に示すように、筒状バネ母材13の内周に円柱体17を接着剤にて嵌着して筒状バネ母材13と円柱体17を一体化させたワークW1を得る。
接着剤としては、熱分解し、揮散するものであれば特に種類は限定されず、例えばα-シアノアクリレート(瞬間接着剤)等を好適に使用することが出来る。α-シアノアクリレートであれば、2・300℃に加熱することにより解重合し、モノマーに分解する。また、黒鉛材料の酸化開始温度は400℃前後であるため、黒鉛材料を酸化させることなく、接着剤のみ熱分解させることが出来る。
【0033】
次に、図2に示す旋盤19を用い、ワークW1を軸線回りで回転させながら、刃物(バイト)21を軸線Lと平行に相対移動させて、図3(c)に示すように、筒状バネ母材13を、軸線Lを中心とした円柱体17に至る螺旋溝23で突っ切る。すなわち、ワークW1に対してネジ切り加工を行う場合と同様に、主軸25を回転中心としてワークW1を回転させ、刃物台27から、ワークW1の周部に対して刃物21を接触させながら、ワークW1の回転に同期させて主軸25の軸心に平行なガイド軸31に沿って刃物21を移動させて螺旋溝23を形成する。この際、円柱体17が筒状バネ母材13の補強部材として働き、筒状バネ母材13の半径方向内側への潰れ強度が高まり、螺旋状の突切溝加工が筒状バネ母材13の外周部13aに形成可能となる。
【0034】
螺旋溝23の形成された図3(d)に示すワークW2が得られたなら、次に、この突切溝付きワークW2を、上記接着剤の分解温度以上、且つ黒鉛材料の酸化温度以下で熱処理して円柱体17を抜脱し、図3(e)に示すコイルスプリング11の製造を完了する。
【0035】
したがって、上記のコイルスプリング11によれば、多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したので、微細な黒鉛粒子及び気孔が均一に分布し、高強度で高弾性率でありながら、耐熱性、耐腐食性、切削加工性を備え、しかも、寸法精度を高めることができる。この結果、炭素材料の欠点を補い、種々の化学合成装置、航空宇宙環境利用装置、原子炉、核融合炉等で繰り返し使用しても破損することがなく、金属製バネの使用不可状況下においても安定して利用できる長寿命のコイルスプリング11を提供できる。
【0036】
また、コイルスプリング11の製造方法によれば、黒鉛材料を用いて筒状バネ母材13を形成し、筒状バネ母材13の内周に炭素材からなる円柱体17を接着剤にて嵌着してワークW1を得、このワークW1を軸線回りで回転させながら筒状バネ母材13を軸線Lを中心とした螺旋溝23で突っ切り、この突切溝付きワークW2を接着剤の分解温度以上、且つ黒鉛材料の酸化温度以下で熱処理して円柱体17を抜脱するので、円柱体17を筒状バネ母材13の補強部材とし、筒状バネ母材13を半径方向内側に潰すことなく、螺旋状の突切溝加工を外周部13aに施して、コイルバネ状の黒鉛製弾性体を得ることができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
1.黒鉛材料の製造
(実施例1〜2)
軟化点40℃の石炭系ピッチ95重量部にたいし、平均2μmに粉砕した仮焼コークス5重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて415℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に内部分級機を備えた粉砕機で過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下及び80μm以上の粉は含まれていなかった。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0039】
(比較例1)
内部分級機を持たない粉砕機で粉砕したこと以外は実施例1〜2と同様の方法で黒鉛材料を製造した。尚、製造の途中で得られた二次原料粉は、精密気流分級等の操作を行っておらず、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に80μm以上の粉は含まれていなかったが、1μm以下の粉が9.3%含まれていた。
表1に使用した原材料の特性値を示し、表2、3に得られた黒鉛材料の特性値を示す。
【0040】
(比較例2)
軟化点80℃の石炭系ピッチ35重量部にたいし、平均14μmに粉砕した仮焼コークス65重量部を添加し混練した後、熱処理を加えて250℃で熱処理しながら揮発分調整を行い、二次原料を得た。次に粉砕機と精密気流分級機とを備えた粉砕プラントで過粉砕しないよう粉砕し、二次原料粉を得た。次に等方性静水圧プレスにて100MPaの圧力にて加圧した後、1000℃まで約5℃/時間の昇温速度にて焼成し、2500℃で黒鉛化処理を実施した。
尚、製造の途中で得られた二次原料粉には、レーザー回折式粒度分布計で計測される粒度分布に1μm以下の粉は含まれていなかったが、80μm以上の粉が約3%含まれていた。
【0041】
表1に原材料の特性値を示す。
【表1】
【0042】
2. 黒鉛材料の特性評価
以下の項目を測定し、上記で得られた黒鉛材料の特性評価を行った。
(断面に現れる気孔の個数・平均面積・平均扁平率)
以下の手順で、断面に現れる気孔の個数、平均面積・平均扁平率を算出した。
(a)試料荒研磨
上記で作製したテストピースを約5mm厚の円柱状に切断し、両面をGATAN社製治具MODEL623及びSiC性耐水研磨紙#2400を用いて試料両面の整面処理を実施した。次に真鍮性の試料台に固定した。
(b)CP加工
JEOL製SM09010を使用し、加速電圧6kVでCP加工を行った。
(c)ミリング
日立ハイテク社製フラットミリング装置E−3200を使用し、加速電圧5kV、0.5mA、試料傾斜角45°、ミリング時間3分で、Arミリング処理を行った。
(d)FE−SEM観察
上記により作製した試料を日立ハイテク社製超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡 S−4800を使用し加速電圧2kVで観察した。実施例1の黒鉛材料を図4a〜c、実施例2の黒鉛材料を図5a〜c、比較例1の黒鉛材料を図6a〜c、比較例2の黒鉛材料を図7a〜cに示す。
(e)画像解析
アメリカ国立衛生研究所製解析ソフトImageJ1.37を使用し、上記で得られたSEM画像を解析した。このときの観察倍率は2000倍で、ノイズ低減処理を施した後、平面部/空隙(気孔)部の2値化処理を実施した。尚、空隙(気孔)の解析対象は、空隙(気孔)か否かの判断が可能な0.2μmを超えるものとした。
画像解析ソフト(ImageJ)で2値化することにより得られた空隙(気孔)部に対して、面積計測、最適楕円フィッティングを実施すると共に個数をカウントし、上記処理より得られた値から断面に現れる気孔の個数、平均面積、平均扁平率を算出した。
(圧縮強度)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
(弾性率)
JIS R7222に準じて測定を実施した。
【0043】
表2に黒鉛材料の特性値を示す。
【表2】
【0044】
3.コイルスプリングの製造
実施例、比較例の黒鉛材料を厚さ2.5mmの中空円筒状に加工して筒状バネ母材13とし(図3(a))、筒状バネ母材13の内周に円柱体17をα-シアノアクリレートにて接着することで筒状バネ母材13と円柱体17を一体化させたワークW1を作成し(図3(b))、図2に示す旋盤19を用い、ワークW1に1mm幅でピッチ2mmの螺旋溝23を形成し(図3(c))、得られたワークW2を330℃で熱処理して円柱体17を抜き取り(図3(d))、コイルスプリング11が完成する(図3(e))。
【0045】
4.コイルスプリングの評価
実施例のコイルスプリング(実施例1,2の黒鉛材料で製造したコイルスプリング)についても、比較例のコイルスプリング(比較例1,2の黒鉛材料で製造したコイルスプリング)についても、外見上の差異を肉眼で確認することはできなかった。しかしながら、図4a〜c,図5a〜c,図6a〜c及び図7a〜cに示す黒鉛材料の断面写真からもわかる様に、実施例の黒鉛材料は比較的サイズが小さい丸い形状の気孔が均一に多数分布しているのに対し、比較例の黒鉛材料は、気孔が丸いものが少なく、比較的大きなものが多く存在しているため、実施例の黒鉛材料で製造したコイルスプリングと比較例の黒鉛材料で製造したコイルスプリングとでは、応力に対する耐性が大きく異なる。具体的には、比較例のコイルスプリングは、自然長状態から圧縮して最も縮んだ状態まで圧縮する間に欠けが発生し、伸縮を数回繰り返すだけで破損してしまう。これに対し、実施例のコイルスプリングは、自然長状態から最も縮んだ状態までの間の伸縮を繰り返しても欠けが発生せず、伸縮を1000回繰り返しても破損しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る黒鉛製弾性体の斜視図である。
【図2】図1に示した黒鉛製弾性体の製作に用いられる旋盤の一例を示す構成図である。
【図3】図1に示した黒鉛製弾性体の製造の手順を(a)〜(e)で表した模式図である。
【図4a】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図4b】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図4c】実施例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図5a】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図5b】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図5c】実施例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図6a】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図6b】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図6c】比較例1で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【図7a】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真である。
【図7b】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像である。
【図7c】比較例2で作製した黒鉛材料の断面SEM写真を画像処理した2値化像の楕円フィット図である。
【符号の説明】
【0047】
11 コイルスプリング(黒鉛製弾性体)
13 筒状バネ母材
13a 外周部
15 螺旋の突切溝
17 円柱体
21 刃物
23 螺旋溝
L 軸線
W1,W2 ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したことを特徴とする黒鉛製弾性体。
【請求項2】
前記黒鉛材料からなる筒状バネ母材の外周部が軸線を中心に螺旋の突切溝で切られてコイルバネ状に形成されたことを特徴とする請求項1記載の黒鉛製弾性体。
【請求項3】
多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて筒状バネ母材を形成する工程と、
該筒状バネ母材の内周に円柱体を接着剤にて嵌着してワークを得る工程と、
該ワークを軸線回りで回転させながら刃物を軸線と平行に相対移動させて前記筒状バネ母材を前記円柱体に至る螺旋溝で突っ切る工程と、
該突切溝付きワークを熱処理して前記接着剤を分解し、前記円柱体を抜脱する工程と、
を含むことを特徴とする黒鉛製弾性体の製造方法。
【請求項1】
多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて形成したことを特徴とする黒鉛製弾性体。
【請求項2】
前記黒鉛材料からなる筒状バネ母材の外周部が軸線を中心に螺旋の突切溝で切られてコイルバネ状に形成されたことを特徴とする請求項1記載の黒鉛製弾性体。
【請求項3】
多数の黒鉛粒子と気孔とからなる微細構造を有し、断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、断面に現れる気孔の密度が6000μm2あたり250個以上、断面に現れる気孔の平均断面積が5μm2以下、断面に現れる気孔の平均扁平率が0.55以下とした黒鉛材料を用いて筒状バネ母材を形成する工程と、
該筒状バネ母材の内周に円柱体を接着剤にて嵌着してワークを得る工程と、
該ワークを軸線回りで回転させながら刃物を軸線と平行に相対移動させて前記筒状バネ母材を前記円柱体に至る螺旋溝で突っ切る工程と、
該突切溝付きワークを熱処理して前記接着剤を分解し、前記円柱体を抜脱する工程と、
を含むことを特徴とする黒鉛製弾性体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【公開番号】特開2009−242196(P2009−242196A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92704(P2008−92704)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
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