説明

黒鉛質材料とその製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池

【課題】リチウムイオン二次電池用負極材料として、高い放電容量および初期充放電効率が得られ、さらに優れた急速充放電特性およびサイクル特性が得られる黒鉛質材料の提供、該黒鉛質材料の製造方法、該黒鉛質材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材料、該負極材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極、および該負極を用いてなるリチウムイオン二次電池の提供。
【解決手段】表面に高さ1μm以上の隆起を有する黒鉛質材料、黒鉛質前駆体と金属化合物を液相中で混合した後、混合物を1500℃以上の温度で加熱し、黒鉛化する黒鉛質材料の製造方法、該黒鉛質材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材料、該負極材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極、および該負極を用いたリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛質材料とその製造方法、該黒鉛質材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極材料、該負極材料を含む負極、さらには該負極を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化あるいは高性能化に伴い、電池の高エネルギー密度化に対する要望はますます高まっている。特に、リチウムイオン二次電池は、他の二次電池に比べて高電圧化が可能であり、エネルギー密度を高められるため注目されている。リチウムイオン二次電池は、負極、正極および非水電解質を主たる構成要素とする。非水電解質から生じるリチウムイオンは、放電過程および充電過程で負極と正極との間を移動し、二次電池となる。通常、上記のリチウムイオン二次電池の負極材料には炭素材料が使用される。このような炭素材料として、特に、充放電特性に優れ、高い放電容量と電位平坦性とを示す黒鉛(特許文献1)が有望視されている。
【0003】
負極材料として使用される黒鉛(黒鉛質粒子)としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛粒子、さらにはタール、ピッチを原料としたメソフェーズピッチやメソフェーズ小球体を熱処理して得られるバルクメソフェーズ黒鉛質粒子やメソフェーズ小球体黒鉛質粒子、粒子状や繊維状のメソフェーズピッチを酸化不融化した後に熱処理して得られるメソフェーズ黒鉛質粒子やメソフェーズ黒鉛質繊維、天然黒鉛や人造黒鉛をタール、ピッチなどで被覆した後に熱処理して得られる複合黒鉛質粒子などが挙げられる。
【0004】
さらに、急速充放電特性やサイクル特性の向上を目的として、上記黒鉛質粒子に導電助材を配合、複合することが検討されている。例えば、球状粒子よりなる黒鉛材料と炭素繊維とからなる複合炭素材(特許文献2)、メソフェーズ小球体黒鉛質粒子に気相成長炭素繊維を3〜30質量%混合したもの(特許文献3、4)、球状黒鉛または鱗片状黒鉛に繊維状黒鉛を含有させたもの(特許文献5)、炭素材料の表面に分散させた金属触媒により、気相成長炭素繊維または炭素ナノチューブを生成させ、その炭素材料をそのまま負極活物質として使用するもの(特許文献6)、メソフェーズ小球体などの母粒子にアモルファスカーボンからなる子粒子を機械力を加えて一体化したもの(特許文献7)が挙げられる。
【0005】
前記従来のリチウムイオン二次電池用負極材料は、リチウムイオン二次電池の放電容量や初期充放電効率を大きく劣化させることなく、急速充放電特性やサイクル特性をそれなりに向上させることができるが、下記のような課題も有している。
【0006】
特許文献2〜5に記載された、黒鉛質粒子に気相成長炭素繊維を混合、または球状黒鉛もしくは鱗片状黒鉛に繊維状黒鉛を混合しただけの負極材料の場合、黒鉛化した気相成長炭素繊維自体の放電容量や初期充放電効率が、母体のメソフェーズ黒鉛よりも低いため、負極材料としての放電容量や初期充放電効率が低下する問題がある。また気相成長炭素繊維が母体のメソフェーズ黒鉛と接触する機会が少なく、導電性の向上に寄与しないものが多い。その結果、急速充放電特性やサイクル特性の改良効果が充分なレベルにあるとは言えない。さらに、気相成長炭素繊維は比較的高価であり、3〜20質量%という多量の混合を必要とすることから、コストアップの問題もある。加えて、負極を製造する場合、一般に、負極材料、溶媒、結合剤を混合して負極合剤ペーストを調製し、これを集電体に塗布する方法が採られるが、気相成長炭素繊維の混合量が多いため、負極合剤ペーストの粘度が不安定になるなどの問題もある。
【0007】
特許文献6に記載された、炭素材料の表面に気相成長炭素繊維またはカーボンナノチューブを生成させた負極材料の場合、黒鉛質材料に直接または非晶質炭素前駆体とともに、金属触媒をドーピングし、該触媒を起点にしてカーボンナノチューブを形成することにより、黒鉛質材料間の導電性を改善している。しかし、形成されたカーボンナノチューブは、黒鉛質材料の基材または表面の非晶質炭素膜の表面に存在する触媒金属から成長しているため、黒鉛質材料から脱離または破損しやすく、充放電効率やサイクル特性の向上効果が小さくなることがある。また得られる負極材料中に触媒金属が残存するため、電池特性に悪影響を及ぼすことがある。さらに、製造工程が煩雑で、かつ収率が低く、工業的にはコストアップの問題がある。
【0008】
特許文献7に記載された、メソフェーズ小球体などの母粒子にアモルファスカーボンなどからなる子粒子をメカノケミカル処理によって付着させ、一体化した負極材料の場合、平均粒子径が100nm以下と小さいアモルファスカーボンなどを表面に付着させることによって、負極材料の比表面積を増加させ、電解液に接する比表面積を大きくすることで反応性を高めることを意図している。しかし、メカノケミカル処理によって母粒子に付着可能な子粒子の平均粒子径が100nm以下であっても、形成された複合粒子の子粒子は、負極合剤ペーストを調製する際の攪拌力によって、脱離しやすいものであり、また、この方法では、平均粒子径が100nm(=0.1μm)超の子粒子を付着させることは困難であり、付着した場合も容易に脱離してしまうことから、急速放電特性への効果が小さくかつ不安定である。
【0009】
特許文献8には、炭素原料を、金属化合物の溶液で含浸したのち、炭化と黒鉛化を引続いて行って負極用黒鉛を製造する方法が記載されている。この製造方法は、該金属化合物の金属が有する黒鉛化の促進作用を利用したものであり、結晶性の低い部分の黒鉛化が促進され、容量を向上させる点に特徴がある。しかし、負極用黒鉛の黒鉛化度を高めるだけで、導電性や反応性を高める作用は、前述の従来技術と同程度に不十分であり、近年の高水準の急速充放電特性やサイクル特性の要求を満足できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭62−23433号公報
【特許文献2】特開平4−237971号公報
【特許文献3】特開平6−111818号公報
【特許文献4】特開平11−176442号公報
【特許文献5】特開平9−213372号公報
【特許文献6】特開2001−196064号公報
【特許文献7】特開平11−265716号公報
【特許文献8】特開平10−255770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池用負極材料として、高い放電容量および高い初期充放電効率が得られ、さらに優れた急速充放電特性および優れたサイクル特性が得られ、加えて、工業的観点からも簡便かつ安価に製造することが可能な黒鉛質材料を提供することを目的とする。また、その黒鉛質材料の製造方法と、その黒鉛質材料を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極材料、その負極材料を含有する負極、およびその負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表面に高さ1μm以上の隆起を有することを特徴とする黒鉛質材料である。
【0013】
このような本発明の黒鉛質材料において、前記隆起の高さhと基底長gとの比(h/g)の平均値が0.1〜15であることが好ましい。
【0014】
また、前記黒鉛質材料の平均粒子径が1〜100μmであることが好ましい。
【0015】
また、前記隆起の数が2〜20個/100μmであることが好ましい。
【0016】
また、前記黒鉛質材料がメソフェーズ小球体の黒鉛化物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、炭素と反応する性質および炭素を溶解する性質のうちの少なくとも一方の性質を有する金属材料を、非溶液状態で黒鉛質材料の前駆体に接触させて前記金属材料を前記前駆体に点在させ、1500℃以上の温度で加熱する、黒鉛質材料の製造方法である。
ここで、「炭素と反応する性質」は、炭素と炭化物を形成する性質であることが好ましい。
また、「前記金属材料を前記前駆体に点在させ」るとは、「前記金属材料を分散して前記前駆体に付着させ」ることを意味する。
【0018】
このような本発明の黒鉛質材料の製造方法において、前記金属材料が粉末状であることが好ましい。
【0019】
また、前記金属材料と前記前駆体とを分散媒中で混合した後、前記分散媒を除去して、前記金属材料を前記前駆体に点在させることが好ましい。
【0020】
また、前記金属材料を、PVD(Physical Vapor Deposition)法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法により前記前駆体に点在させることが好ましい。
【0021】
また、前記前駆体が、その表面の少なくとも一部に光学的等方性の結晶構造を有することが好ましい。
【0022】
また、本発明は、炭素と反応する性質および炭素を溶解する性質のうちの少なくとも一方の性質を有する金属材料と、黒鉛化後に少なくとも一部に光学的等方性の結晶構造を形成する炭素源物質とを混合し、得られた混合物を、黒鉛質材料の前駆体に付着させ、1500℃以上の温度で加熱する、黒鉛質材料の製造方法である。
【0023】
このような本発明の黒鉛質材料の製造方法において、前記加熱温度が、1500〜3300℃であることが好ましい。
【0024】
また、前記前駆体がメソフェーズ小球体であることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の黒鉛質材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材料である。
【0026】
また、本発明は、前記リチウムイオン二次電池用負極材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極である。
【0027】
さらに、本発明は、前記リチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の黒鉛質材料を負極材料として用いてなるリチウムイオン二次電池は、高い急速充電率、急速放電率を有し、初期充放電効率およびサイクル特性にも優れ、かつ放電容量にも優れるばかりでなく、黒鉛質材料自体の製造コストも低い。
そのため、本発明の負極材料を用いてなるリチウムイオン二次電池は、近年の電池の高エネルギー密度化に対する要望を満たし、搭載する機器の小型化および高性能化に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の黒鉛質材料の一例の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】充放電試験に用いるためのボタン型評価電池の構造を示す模式断面図である。
【図3】比較例において使用したメカノケミカル処理装置の模式図である。
【図4】隆起を有する黒鉛質材料の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をより具体的に説明する。
リチウムイオン二次電池は、通常、非水電解質、負極および正極を主たる電池構成要素とし、これら要素が、例えば、電池缶内に封入されている。負極および正極はそれぞれリチウムイオンの担持体として作用する。充電時にはリチウムイオンが負極中に吸蔵され、放電時には負極からリチウムイオンが離脱する電池機構によっている。
【0031】
(黒鉛質材料)
本発明の黒鉛質材料は、[図1]に示すように、母材1の表面2に隆起3を有している。隆起3は、黒鉛質材料の母材1の表面2から盛上がった状態にあり、隆起3は母材1と同質で一体的に形成され、隆起3と母材1の間に界面、境界線は存在しないことが好ましい。隆起3は半球状ないし球状、頭部が球形の円柱状などの稜線が実質的に存在しない球面体や曲面体であることが多いが、これに限定されない。ただし、隆起3の形状は、半球状ないし球状の比率が高いほど、特に球状の比率が高いほど好ましい。このような形状にすることにより、リチウムイオン二次電池の負極材料に用いたときに、黒鉛質材料同士の接点が増大し、かつ形成される空間の大きさが適度であって、電解質(以下、電解質溶液も電解質と呼ぶ)が浸透しやすい。隆起3は、黒鉛質材料の母材1の表面に、黒鉛化の際に通常生じる、波状の連続したしわ4とは異なり、個別に点在していることが好ましい。隆起3は、しわ4の上に存在しても差し支えない。
なお、本発明でいう母材とは、図1からもわかるように、黒鉛質材料の1個を個別に見た場合、隆起、しわおよび/または付着物(メソフェーズ小球体を製造する際に表面に付着した異種物質(煤など)や黒鉛化の際に融着した微粉(同一の黒鉛前駆体に由来))などとみなせる部分を仮定的に除去した部分である。
【0032】
隆起の高さは、個々の隆起の基底からの最高点までの高さhとして1μm以上である。このような高さの隆起を有することにより、リチウムイオン二次電池の負極材料に用いたときに、黒鉛質材料同士の接点が増大し、かつ形成される空間の大きさが適度であって、後述するように電池特性の向上効果が大きくなるものと推定される。隆起の高さは、好ましくは2〜15μm、より好ましくは3〜10μmである。また、隆起の基底長gに対する、該基底からの最高点までの高さhの比(h/g)の平均値として0.1〜15、好ましくは0.10〜15、より好ましくは0.2〜5、さらにより好ましくは0.5〜3であると、さらに前述した効果が大となり、電池特性がさらに向上する。隆起の基底長gとは、該隆起の断面を観察したときの、該隆起の最下部の母材と接する長さである。該基底長gは1〜10μmであることが好ましい。なお、隆起の高さh、基底長gおよびh/gは、走査型電子顕微鏡による断面観察により100個の隆起を測定した値の平均値である。特にh/gは、各隆起について求めたh/gの100個分の平均値である。
図4に、隆起を有する黒鉛質材料の断面模式図を示す。図中にはh、gを示した。
【0033】
この隆起は、黒鉛質材料の表面に点在することが好ましい。
【0034】
黒鉛質材料の隆起の数は、特に制限されないが、表面の100μm2 あたり2個〜20個の密度範囲であることが好ましい。隆起は、黒鉛質材料の表面に偏在することなく、このような密度範囲で点在することが好ましい。
【0035】
母材の大きさは、平均粒子径で1〜100μmであり、2〜45μmがより好ましい。母体の大きさがこのような範囲であれば、黒鉛質材料の平均粒子径と隆起の高さの比率が好ましい範囲となり、リチウムイオン二次電池の負極材料に用いたときに電池特性、特に、急速充放電特性やサイクル特性の向上効果が大きくなる。
なお、ここでいう平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による断面観察により、粒子の最大長軸長およびそれに直交する軸の長さとを測定し、この平均値を当該粒子の粒子径とし、さらにこの粒子径を100個の粒子について測定した平均値である。
【0036】
本発明の黒鉛質材料の平均粒子径は、体積換算の平均粒子径で1〜100μm、特に3〜50μmであることが好ましい。1μm未満では、これを用いてなるリチウムイオン二次電池の初期充放電効率が低下するおそれがあり、100μm超では、急速充放電特性およびサイクル特性が低下するおそれがある。体積換算の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布計により粒度分布の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。
以下、特に断りがなく、単に「平均粒子径」と記したものは、全てこのような方法で測定した場合における粒子径を意味するものとする。
黒鉛質材料の平均粒子径dと隆起の高さhとの比率の好ましい範囲は、h/d=0.05〜0.3である。このような範囲であれば、黒鉛質材料同士の接触と、形成される空間の確保が両立でき、電池特性の向上に有効である。
【0037】
本発明の黒鉛質材料の形状は特に制限されないが、粒状、塊状、球状、楕円体状、板状、繊維状、フィルム状、鱗片状などのいずれであってもよいが、アスペクト比が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。球状に近いこと、すなわち、アスペクト比が1に近い球状、粒状であることが特に好ましい。アスペクト比が3以下であると、これを用いてなるリチウムイオン二次電池の急速充放電特性およびサイクル特性が向上する。それは、負極を形成したとき、黒鉛質材料が一方向に配列することなく、かつ電解質が内部に浸透しやすくなるためである。ここで、アスペクト比とは、黒鉛質材料の最大長軸長とそれに直交する軸の長さとの比を表し、走査型電子顕微鏡による断面観察により、複数(50個以上)の黒鉛質材料について各々計測した比の平均値である。
【0038】
本発明の黒鉛質材料は、具体的には、メソフェーズ小球体やメソフェーズ焼成体(バルクメソフェーズ)、メソフェーズ繊維などのメソフェーズ系炭素質材料、石油コークス、ニードルコークス、生コークス、グリーンコークス、ピッチコークスなどのコークス系炭素質材料などを黒鉛化した物(黒鉛化物)が例示される。本発明の黒鉛質材料は、メソフェーズ小球体、メソフェーズ焼成体、メソフェーズ繊維などのメソフェーズ系炭素質材料の黒鉛化物が好ましく、上記範囲のアスペクト比が得られるメソフェーズ小球体の黒鉛化物が特に好ましい。また、本発明の黒鉛質材料は、上記黒鉛化物以外の炭素質材料や金属、有機物、無機質との複合体、積層体、混合体、被覆体であっても差し支えない。
【0039】
本発明の黒鉛質材料は、X線広角回折における(002)面の平均格子面間隔d002 が0.34nm以下、特に0.337nm以下、さらには0.3365nm以下であることが好ましい。これは、結晶性が高いことを意味し、リチウムイオン二次電池の負極材料として用いたときに、高い放電容量が得られ、かつ、高い導電性が得られるからである。本発明において、隆起は母材と一体化したものであり、母材と分離して結晶性を評価することは困難であるが、隆起のみを母材から削り落として測定したときに、その格子面間隔d002 は0.34nm以下であることが好ましい。
ここで、X線広角回折における(002)面の平均格子面間隔d002 とは、X線としてCuKα線を用い、高純度シリコンを標準物質に使用して黒鉛質材料粒子の(002)面の回折ピークを測定し、そのピークの位置から算出する。算出方法は、学振法(日本学術振興会第17委員会が定めた測定法)に従うものであり、具体的には、「炭素繊維」[ 大谷杉郎、733−742頁(1986年3月)、近代編集社]に記載された方法によって測定された値である。
【0040】
本発明の黒鉛質材料は、隆起を有しない黒鉛質材料に比べ、比表面積が大きく、その値は0.5〜20m2 /gであることが好ましく、特に1〜10m2 /gであることが好ましい。20m2 /gを超えると、負極合剤ペーストの粘度調整が不安定になったり、バインダーによる結着力が低下することがある。0.5m2 /g未満であると、隆起の数が少ないか、または隆起の大きさが足りないものとなり、本発明が期待する効果が得られないことがある。比表面積は、窒素ガスの吸着によるBET法により求めた。
【0041】
本発明の黒鉛質材料の隆起は母材と一体化しているため、従来技術のような微粒子を機械力で付与・埋設した複合粒子や、微粒子を接着成分を介して付着した複合粒子に比べ、外部から機械力が加わっても、隆起が脱落しにくい。また、本発明の隆起は従来技術の複合粒子のものに比べ大きく、黒鉛質材料間の接点を多くでき、かつ電解質が浸透する空隙を確保できる。これらの特徴があいまって、後述するように、リチウムイオン二次電池用負極としての電池特性の向上に寄与するものと思われる。
【0042】
本発明の黒鉛質材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、異種の黒鉛質材料、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機物、金属、金属化合物などを混合しても、内包しても、被覆しても、または積層してもよい。また、本発明の黒鉛質材料は、液相、気相、固相における各種化学的処理、熱処理、物理的処理、酸化処理などを施されてもよい。
【0043】
本発明の黒鉛質材料を負極材料として用いた場合に、急速充放電特性、サイクル特性などが改良されるメカニズムについては明らかではないが、次のように推定される。すなわち、隆起が該黒鉛質材料(母材)と一体化されており、負極を形成したときに、隆起が脱落することがなく、該黒鉛質材料同士の接点が増加するため、抵抗が減り、導電性が向上する。導電性の向上によって、黒鉛質材料の利用率が高くなり、放電容量が増大する。該隆起は、黒鉛化度の高い母材と同質であるため、軟らかく、したがって、充填したときに、嵩密度が大きくなり、体積あたりの放電容量が増大し、高いエネルギー密度が得られる。また、脱落しない該隆起によって形成された隙間が大きいため、電解質が十分に浸透し、電解質の保持量が多くなって、リチウムイオンの拡散性が向上し、急速放電率が向上する。また、隆起があるため、比表面積が大きくなり、リチウムイオンが出入りするサイトが増えることも急速放電率、急速充電率の向上に寄与する。さらに、バインダーとの結着力が大きくなるので、繰返し充放電によっても、黒鉛質材料同士の接触が保持され、サイクル特性にも優れる。
【0044】
(黒鉛質材料の製造)
本発明の黒鉛質材料は、表面に隆起を有する黒鉛質材料を製造し得る方法であれば、いかなる方法によって製造されても差し支えない。ただし、隆起に相当する微粒子部分を、黒鉛質材料(母材)に機械的エネルギーを付与して埋設したり、接着成分を介して付着させる方法によって得た黒鉛質材料は、本発明の効果を十分に発現することができないので、除外される。本発明の代表的な製造方法を以下に示す。
【0045】
工程(1):黒鉛質前駆体を、粉砕、分級などにより所望の形状、大きさにあらかじめ調整する。
工程(2):調整後の黒鉛質前駆体の外表面に、炭素と炭化物を形成、および/または、炭素を溶解することができる金属材料(金属および/または金属化合物)を分散して付着させる。
工程(3):工程(2)で得られた、金属材料が外表面に付着した黒鉛質前駆体を、1500℃以上の温度で加熱し黒鉛化して、黒鉛質材料を得る。
【0046】
次に、前記各工程について詳述する。
工程(1):本発明の黒鉛質材料の原料は、その種類は特定されるものではないが、1500℃以上の温度で熱処理したときに容易に黒鉛化する黒鉛質前駆体が好ましい。黒鉛質前駆体としては、フリーカーボンを含有する石油系または石炭系のタールまたはピッチ類を不活性ガス雰囲気下350〜450℃の温度で熱処理してメソフェーズ小球体を生成させた熱処理生成物から、マトリックスを除去して得られるメソフェーズ小球体、メソフェーズ焼成体、メソフェーズ繊維などのメソフェーズ系炭素質材料、石油コークス、ニードルコークス、生コークス、グリーンコークス、ピッチコークスなどのコークス系炭素質材料などが例示される。メソフェーズ小球体、メソフェーズ焼成体、メソフェーズ繊維などのメソフェーズ系炭素質材料が好ましく、好ましいアスペクト比の黒鉛質材料を得るためには、メソフェーズ小球体が特に好ましい。
また、本発明の黒鉛質材料の原料は、1500℃以上の温度での熱処理で溶融しないように、予め予備熱処理したものを用いることが好ましい。該予備熱処理の最終温度は1500℃未満であり、800℃未満であることが好ましい。予備熱処理後に、予め、黒鉛化後の黒鉛質材料の形状、大きさに調整しておくことが好ましく、例えば、平均粒子径が1〜100μmのメソフェーズ小球体を800℃以下の温度で予備熱処理して、そのまま、または粉砕して、より平均粒子径が小さい塊状の粒子に調製することが好ましい。粉砕、分級の方法は特に限定されない。また、予備熱処理は、複数回行うことができる。
なお、本発明の黒鉛質材料は、黒鉛質前駆体でなくても、上述のように、メソフェーズ系炭素質材料やコークス系炭素材料などを黒鉛化した物(黒鉛化物)を用いて製造することもできる。
【0047】
黒鉛質材料の原料として好ましい形態である黒鉛質前駆体について説明する。
黒鉛質前駆体は、その表面の少なくとも一部に、光学的等方性の結晶構造(光学的等方性相)を有するものが好ましい。光学的等方性相の有無は、黒鉛質前駆体の断面を偏光顕微鏡で観察することによって判別できる。
【0048】
なお、光学的等方性相を有する黒鉛質前駆体を1500℃以上の温度で加熱すると、光学的等方性相の部分が多結晶性結晶構造を形成する。
ここで、多結晶性結晶構造は、結晶子の大きさが10〜100nmである結晶組織と定義する。また、結晶子の大きさとは、透過電子顕微鏡で結晶子の断面を観察した場合に、表面に露出している部分の長さと定義する。結晶子のより好ましい大きさは30〜80nm、さらに好ましい大きさは30〜60nmである。
【0049】
結晶子の大きさの測定方法の具体例を示す。まず、前記黒鉛質前駆体を黒鉛ルツボに入れ、非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質前駆体を黒鉛化したもの(黒鉛化物)を得る。次に、この黒鉛化物を樹脂で支持し、集束イオンビーム加工などにより薄膜化する。そして、5以上の結晶子を無作為に選定して透過顕微鏡で観察し、上記に定義した結晶子の大きさを計測する。
なお、同様な方法で得た黒鉛質材料の表面を、走査型電子顕微鏡によって観察することによっても、結晶子の大きさを測定することができる。
【0050】
本発明の黒鉛質材料を得るうえで、黒鉛質前駆体の粒子は、その全てが光学的等方性相であってもよいが、リチウムイオン二次電池用負極材料として高い放電容量を得るうえでは、黒鉛質前駆体の粒子の内部は光学的異方性の結晶構造(光学的異方性相)からなり、外部(該粒子の表面)は光学的等方性相であることが好ましい。
【0051】
この場合の光学的等方性相は、黒鉛質前駆体の粒子表面の一部あるいは全部に、薄膜状に配置していることが好ましく、特に該粒子表面の全面積の30%以上を覆っていることが好ましい。さらに、薄膜状の光学的等方性相が光学的異方性相と一体化しているものが特に好ましい。ここで、「一体化」とは、等方性相と異方性相の境界に隙間がなく徐々に相が変化した、いわゆる傾斜組成的な状態であることを意味する。
【0052】
さらに、この薄膜状の光学的等方性相の厚みは3μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。光学的等方性相の厚みが厚すぎると放電容量の低下を招くことがある。また、下限は0.01μmであることが好ましい。0.01μm未満の場合は、本発明の黒鉛質材料の特徴である隆起の生成が不十分となる傾向がある。
【0053】
このような黒鉛質前駆体は、光学的等方性相を有する炭素材料を黒鉛質前駆体の表面に被覆して得ることもできるが、光学的等方性相と光学的異方性相とが一体化したメソフェーズ小球体が、黒鉛質前駆体として最適である。
【0054】
また、光学的等方性相を示す炭素源物質を黒鉛質前駆体の表面に付着させてもよい。該炭素源物質は、1500℃以上の温度(例えば黒鉛化後)で光学的等方性相を示すものであればよく、例えば、フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂などの樹脂類、酸素架橋石油ピッチなどの光学的等方性ピッチなどが例示される。炭素源物質を付着させる黒鉛質前駆体は、必ずしも光学的等方性の結晶構造を必要としない。
【0055】
工程(2):工程(1)で得られた黒鉛質前駆体の外表面に、該黒鉛質前駆体に含有されている炭素と炭化物を形成、および/または、該炭素を溶解することができる金属材料(金属および/または金属化合物)を分散して付着させる。
【0056】
この黒鉛質前駆体に含有されている炭素と炭化物を形成、および/または該炭素を溶解することができる金属としては、Na、Kなどのアルカリ金属、Mg、Caなどのアルカリ土類金属、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptなどの遷移金属、Al、Geなどの金属、B、Siなどの半金属が例示される。
【0057】
また、この黒鉛質前駆体に含有されている炭素と炭化物を形成、および/または該炭素を溶解することができる金属化合物としては、これら金属の化合物、つまり、水酸化物、酸化物、窒化物、塩化物、硫化物などが例示される。
このような金属、金属化合物は、単独で用いてもよいし、2以上を混合して用いてもよい。金属と金属化合物とを、混合して用いてもよい。
【0058】
これらの中でも、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、およびこれらの金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。これらの金属および/または金属化合物は、黒鉛質前駆体と炭化反応するまで安定で、かつ、後述する工程(3)の黒鉛化処理において、その全部が蒸発し、さらに炭素が溶解しやすい金属であるからである。
【0059】
工程(2)においては、該黒鉛質材料の前駆体の外表面に、このような金属材料を点在させる。その場合、該金属材料を非溶液状態で該前駆体に接触させる。該金属材料を溶液状態で該前駆体に接触させた場合、該金属材料が該前駆体に膜状に広がり、点在せず、隆起が生じないか、生じても過小な隆起にしかならないからである。該非溶液状態の代表例として、該金属化合物の固相状態および/または気相状態が挙げられる。また、該金属化合物を溶融して液相状態で該前駆体に点在させることもできる。
要するに、該非溶液状態と規定するのは、該金属材料の溶液のみを用いて該前駆体に接触させることを排除するためである。例えば、該金属化合物の一部が溶媒に溶けても不溶部分を利用する限り本発明の非溶液状態に相当する。金属化合物の飽和溶液を調整したのちに、化学的な操作で金属化合物の不溶体を析出させた懸濁液を用いた場合も本発明の非溶液状態に相当する。さらに、金属化合物の飽和溶液にさらに金属化合物を加えた懸濁液を用いた場合も、その懸濁部分は非溶液状態に相当し、本発明の技術範囲に入る。
【0060】
また、ここでいう「外表面」とは、黒鉛質前駆体が多孔質である場合に粒子内部の空隙の表面を含まず、粒子の外側の表面、すなわち複数の黒鉛質前駆体同士が接触することができる表面を意味する。
【0061】
この付着させた金属材料の大きさは、5μm以下であることが好ましく、0.01〜5μmであることがより好ましく、0.01〜1μmであることがさらに好ましい。5μm超の場合には、本発明の黒鉛質材料の特徴である隆起が過大となる場合があり、好適な基底長の範囲を超えたり、隆起が脱落したり、隆起が生成しない場合がある。また、0.01μm未満の場合には、隆起が生成しない、あるいは過小となり、本発明の効果が得られない場合がある。
ここで、付着させた金属材料の大きさとは、黒鉛質前駆体と接している金属材料について、走査型電子顕微鏡を用いて50個以上の金属材料のそれぞれの長軸長を測定し、その測定値を平均したものである。
【0062】
また、この金属の付着量、または金属化合物の付着量における金属の量は金属量換算で、黒鉛質前駆体に対して0.1〜30質量%であり、0.5〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。0.1質量%未満では、本発明の効果が十分に得られない場合がある。一方、30質量%を超えると、本発明の効果が飽和する傾向があり、さらに、後述する工程(3)において加熱に用いる加熱炉等の内部で、大量の金属材料が蒸発し、炉内の温度の低い部分に金属材料が堆積するなどの作業上の問題を引き起こすことがある。
なお、この金属材料(金属および/または金属材料)の付着量は、ICP発光分光分析などの方法で測定することができる。
【0063】
黒鉛質前駆体の外表面に、このような金属材料を分散して付着させる方法の具体例を挙げると、
(a)前記黒鉛質前駆体と、前記金属材料とを分散媒体中で混合した後、該分散媒体を除去する方法、
(b)前記黒鉛質前駆体と、前記金属材料であって粉末状のものとを混合する方法、
(c)前記黒鉛質前駆体と、前記炭素源物質(黒鉛化後に少なくとも一部に光学的等方性の結晶構造を有する)と前記金属材料とを分散媒体中で混合した後、該分散媒体を除去する方法、
(d)該金属材料が分散した該炭素源物質(黒鉛化後に少なくとも一部に光学的等方性の結晶構造を有する)の溶融物を該黒鉛質前駆体の外表面に付着させる方法、
(e)前記金属材料を、PVD(Physical Vapor Deposition)法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、前記黒鉛質前駆体の外表面に付着させる方法、
が好適である。
【0064】
(a)の方法において分散媒体は、少なくとも該金属材料を溶解しないか、あるいは溶解しても溶解度が低いものが好ましい。本発明の方法では金属材料が分散されていることが好ましい。また、該金属材料のみならず該前駆体も溶解しない分散媒がより好ましい。このような分散媒を例示すれば、水、アルコール、ケトンなどの水性の分散媒体が好ましく、特に水が好ましい。理由は、有機溶剤系の分散媒体よりも乾燥除去時の環境への影響が小さく、安全上、コスト上も有利なためである。
【0065】
このような分散媒体に投入する金属材料(金属および/または金属化合物)の平均粒子径は5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が5μm超であると、得られる黒鉛質材料の隆起の生成数が少なくなったり、半球状ないし球状に制御することが困難になる傾向がある。
【0066】
(a)の方法においては、まず、前記黒鉛質前駆体と、前記金属材料とを分散媒体中で混合する。前記黒鉛質前駆体と、前記金属材料とを分散媒体に投入する順番は限定されない。まず、このような金属材料の粉末を分散媒体に分散させ、次に、ここに黒鉛質前駆体を投入してもよい。
また、金属材料を分散させた分散媒体がコロイド状となっていることが好ましい。ここで、コロイド状ではなく、金属材料が分散媒体に溶解し(例えば、特開平10−255770号公報)、後述する混合、分離操作の後に、黒鉛前駆体の外表面に金属材料が膜状に形成された場合には、隆起が生成しない、または過小となり、本発明の黒鉛質粒子が得られないことがある。
【0067】
このような分散媒体中で、前記黒鉛質前駆体と、前記金属材料とを混合する。
混合は、攪拌装置を用いて、前記黒鉛質前駆体と前記金属材料とが均一に分散するまで行うことが好ましい。混合の際に、減圧操作や超音波処理を施して気泡を除き、金属材料と黒鉛質前駆体との接触を促進することが好ましい。
【0068】
混合の後は、前記分散媒体を除去する。
この方法に制限はなく、加熱、減圧などの方法を適宜採用できる。例えば、前記金属材料および前記黒鉛質前駆体を含む分散媒体を1500℃未満の温度に加熱する方法が挙げられる。また、工程(3)において1500℃以上の温度で加熱する場合における昇温過程において、この分離操作を行ってもよい。
【0069】
(b)の方法では、前記黒鉛質前駆体と、前記金属材料であって粉末状のものとを混合する。ここで、金属材料は平均粒子径が0.01〜5μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることがさらに好ましい。5μm超の場合には、本発明の黒鉛質材料の特徴である隆起が過大となる場合があり、好適な基底長の範囲を超えたり、隆起が脱落したり、隆起が生成しない場合がある。また、0.01μm未満の場合には、隆起が生成しない、あるいは過小となり、本発明の効果が得られない場合がある。
【0070】
混合は、機械式(攪拌式)、回転式、風力式などの公知の各種混合機を使用することが好ましい。このような方法によれば、粉末状の金属材料の凝集物を生じないように均一に分散させながら、粉末状の金属材料が黒鉛質前駆体の外表面に点在するように分散して付着させることができる。
【0071】
また、前記黒鉛質前駆体と前記金属材料とを合わせて粉砕し、混合を兼ねてもよい。
【0072】
(c)の方法は、前記(a)の方法において、前記金属材料の分散媒体を調整する際に、光学的等方性相の結晶構造を形成する炭素源物質を分散または溶解しておくものである。
光学的等方性相を示す炭素源物質としては、前記のようにフェノール樹脂などの樹脂類が例示されるが、樹脂類は重合反応や架橋反応が進行する前の前駆体の状態であってもよい。
【0073】
(d)の方法は、平均粒子径0.01μm以上、5μm以下の金属材料の粉末を、光学的等方性相の結晶構造を形成する炭素源物質の溶融体に混合し、この溶融混合物を黒鉛前駆体に付着させるものである。金属材料の粉末と炭素源物質の混合および該混合物と黒鉛前駆体との混合操作では、加圧ニーダー、二本ロールなどの各種混練機が使用できる。溶融体への金属粉末の混合と黒鉛前駆体への付着は順次行っても、同時に行ってもよい。
【0074】
(e)の方法は、前記金属材料を、前記黒鉛質前駆体の外表面に、PVD法あるいはCVD法により付着させる。このような方法の好ましい例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法などのPVD法や、常圧CVD法、減圧CVD法、プラズマCVD法、MO(Magneto-Optic)CVD法、光CVD法などのCVD法が挙げられる。
【0075】
これらのなかでもスパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、直流スパックリング法、マグネトロレスパッタリング法、高周波スパッタリング法、反応性スパックリング法、バイアススパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などが例示される。
【0076】
このスパッタリング法は、カソード側に金属のターゲットを設置し、一般に1〜10−2Pa程度の不活性ガス雰囲気中で電極間にグロー放電を起こし、不活性ガスをイオン化させ、ターゲットの金属を叩き出して、アノード側に設置した黒鉛質前駆体に該金属を被覆する方法が、代表例として挙げられる。
金属の代わりに金属化合物を用いてもよいし、複数の種類の金属を同時用いて黒鉛質前駆体の外表面に合金を形成してもよいし、金属と金属化合物とを混合してターゲットとして用いてもよい。さらに、2種類以上のターゲットを用いて、スパッタリングを2回以上行い、複数の金属および/または金属化合物を順に付着させてもよい。
また、不活性ガスの代わりに反応性ガスを用いてもよい。
【0077】
この場合、黒鉛質前駆体を機械的に攪拌する、超音波などの振動を与える、またはガスを流通させることによって、黒鉛質前駆体に動きを与え、黒鉛質前駆体の外表面に金属を分散して付着させることが好ましい。
【0078】
本発明において、黒鉛質前駆体の外表面に、前記金属材料を分散して付着させる方法は、上記の(a)〜(e)に限定されず、例えば、金属材料を黒鉛質前駆体の外表面に融着させる方法などであってもよい。
【0079】
なお、前記金属材料を前記黒鉛質前駆体の外表面に付着させた後に、炭素材料の被覆、ガス処理、酸化処理などの各種化学的処理や、機械的エネルギーの付与などの物理的処理を施してもよい。
【0080】
工程(3):黒鉛化方法としては、アチュソン炉などの公知の高温炉を用いて、1500℃以上、3300℃以下の温度で加熱する方法が採用できる。これにより、金属材料は蒸発または昇華して、得られる黒鉛質材料に残存することがない。加熱温度は好ましくは2500℃以上、3300℃以下、さらに好ましくは2800℃〜3300℃である。1500℃未満では、黒鉛化できないほか、金属材料が残存して、負極に用いた場合に、放電容量が不足する。3300℃超の場合は、黒鉛質材料が一部昇華することがあり、収率が低下するので好ましくない。黒鉛化は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。黒鉛化に要する時間は一概に言えないが、1〜20時間程度である。
得られた黒鉛質材料は、必要に応じて解砕、粉砕し、分級により粒度調整して、負極材料として使用される。
【0081】
上記のような方法で、黒鉛質材料の前駆体に、該金属材料を点在させ、加熱することによって本発明の黒鉛質材料が得られる。このメカニズムは明確ではないが、粒状あるいは球状の該金属材料が外表面に点在している該前駆体を黒鉛化処理(すなわち1500℃以上に加熱)する過程で、母材と一体化した隆起が生成するものと考えられる。金属材料はこの加熱過程で蒸発して逸散するようであり、最終生成物である本発明の黒鉛質材料中には実質的に残存しない。以下にさらにメカニズムを推測する。温度が比較的に低い黒鉛化処理の前段階で、該金属化合物が該前駆体の炭素と反応し金属炭化物を生成する。その際に、該金属化合物は該前駆体から炭素の供給を受けて、一旦、該金属炭化物の隆起が生成する。しかし、黒鉛化処理温度が、該金属炭化物を形成している金属の沸点近傍に上昇すると、該金属炭化物と化学平衡状態にある炭素と金属から金属の蒸散が起きはじめる。その後、昇温に伴い、化学平衡は逆反応に有利に進行し、最終的には該金属の全てが蒸散し、母材と同じ黒鉛化隆起が残存する。黒鉛化処理では約3000℃まで昇温されるが、例えば、該金属化合物を形成する金属が鉄の場合は、2800℃近傍で鉄の蒸散が始まると推測する。したがって、本発明の母材は、通常、工程(1)で用いられた黒鉛質材料の前駆体の黒鉛化処理後の残存部がその大部分を占めることになる。
【0082】
従って、金属あるいは金属化合物は、黒鉛質前駆体の外表面に分散して付着させることが好ましいと考えられる。また、金属または金属化合物は炭化物を形成することができるものを用いることが好ましいと考えられる。
【0083】
(リチウムイオン二次電池)
リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解質を主たる電池構成要素とし、正極および負極はそれぞれリチウムイオンの担持体からなり、充電時には、リチウムイオンが負極中に吸蔵され、放電時には負極から離脱する電池機構によっている。
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極材料として本発明の黒鉛質材料を含有すること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準じる。
以下、負極、正極、電解質などについて説明する。
【0084】
(負極)
リチウムイオン二次電池用の負極の作製は、本発明の黒鉛質材料の電池特性を充分に引き出し、かつ賦型性が高く、化学的、電気化学的に安定な負極を得ることができる成型方法であればいずれによってもよいが、本発明の黒鉛質材料と結合剤を溶剤および/または分散媒(以後、単に溶剤とも称す)中で混合して、ペースト化し、得られた負極合剤ペーストを集電材に塗布した後、溶剤を除去し、プレスなどにより固化および/または賦形する方法によるのが一般的である。すなわち、まず、本発明の黒鉛質材料を分級などにより所望の粒度に調整し、結合剤と混合して得た組成物を溶剤に分散させ、ペースト状にして負極合剤を調製する。
【0085】
より具体的には、本発明の黒鉛質材料と、例えば、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴムなどの結合剤を、水、アルコールなどの溶剤中で混合して得たスラリー、またはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂粉末を、イソピロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの溶剤と混合して得たスラリーを、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合して、負極合剤ペーストを調製する。該ペーストを、集電材の片面または両面に塗布し、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に接着した負極が得られる。負極合剤層の膜厚は10〜200μm、好ましくは30〜100μmである。
【0086】
また、負極合剤層は、本発明の黒鉛質材料と、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末を乾式混合し、金型内でホットプレス成型して作製することもできる。ただし、乾式混合では、十分な負極の強度を得るために多くの結合剤を必要とし、結合剤が過多の場合は、リチウムイオン二次電池の放電容量や急速充放電効率が低下することがある。
【0087】
負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電材との接着強度をさらに高めることができる。
負極に用いる集電材の形状は、特に限定されないが、箔状、メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状物などが好ましい。集電材の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。集電材の厚みは、箔状の場合は好ましくは5〜20μmである。
【0088】
(正極)
正極は、例えば正極材料と結合剤および導電剤よりなる正極合剤を集電材の表面に塗布することにより形成される。正極の材料(正極活物質)は、充分量のリチウムを吸蔵/離脱し得るものを選択するのが好ましく、リチウムと遷移金属の複合カルコゲン化物、なかでもリチウムと遷移金属の複合酸化物(リチウム含有遷移金属酸化物とも称す)が好ましい。該複合酸化物は、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。
リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM11-X2 X2 (式中Xは0≦X≦1の範囲の数値であり、M1 、M2 は少なくとも一種の遷移金属元素である)またはLiM12-Y2 Y4 (式中Yは0≦Y≦2の範囲の数値であり、M1 、M2 は少なくとも一種の遷移金属元素である)で示される。Mで示される遷移金属元素は、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどである。好ましい具体例は、LiCoO2 、LiNiO2 、LiMnO2 、LiNi0.9 Co0.12 、LiNi0.5 Co0.52 などである。
【0089】
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
正極活物質は、前記化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウム等の炭素塩を添加することができる。また、正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤などの各種添加剤を適宜に使用することができる。
【0090】
正極は、正極材料、結合剤、および正極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を、集電材の両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。結合剤としては、負極の作製に使用されるものと同じものが使用可能である。導電剤としては、黒鉛化物など公知のものが使用される。
集電材の形状は特に限定されないが、箔状またはメッシュ、エキスパンドメタル等の網状等のものが用いられる。集電材の材質は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等である。その厚さは10〜40μmのものが好適である。
【0091】
正極も負極と同様に、正極合剤を溶剤中に分散させペースト状にし、このペースト状の正極合剤を集電材に塗布、乾燥して正極合剤層を形成してもよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行ってもよい。これにより正極合剤層が均一且つ強固に集電材に接着される。
【0092】
(電解質)
本発明に用いられる電解質としては、溶媒と電解質塩からなる有機系電解質や、高分子化合物と電解質塩とからなるポリマー電解質などが用いられる。電解質塩としては、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiAsF6 、LiClO4 、LiB(C654 、LiCl、LiBr、LiCF3 SO3 、LiCH3 SO3 、LiN(CF3 SO22 、LiC(CF3 SO23 、LiN(CF3 CH2 OSO22 、LiN(CF3CF2 OSO22 、LiN(HCF2 CF2 CH2 OSO22 、LiN[(CF32 CHOSO22 、LiB[C63 (CF324 、LiAlCl4 、LiSiF6 などのリチウム塩を用いることができる。特にLiPF6 、LiBF4 が酸化安定性の点から好ましい。
有機系電解質中の電解質塩濃度は0.1〜5mol /lが好ましく、0.5〜3.0mol/l がより好ましい。
【0093】
有機系電解質の溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,1 −または1,2 −ジメトキシエタン、1,2 −ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、1 ,3−ジオキソラン、4 −メチル−1 ,3 −ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0094】
非水電解質をポリマー電解質とする場合には、可塑剤(非水溶媒)でゲル化されたマトリクス高分子化合物を含むが、このマトリクス高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系樹脂などを単独、もしくは混合して用いることができる。
これらの中で、酸化還元安定性の観点などから、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系樹脂を用いることが好ましい。
ポリマー電解質中の溶媒の割合は10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。該範囲であると、導電率が高く、機械的強度が強く、フィルム化しやすい。
【0095】
ポリマー電解質の作製は特に限定されないが、例えば、マトリックスを構成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して溶融・溶解する方法が挙げられる。また、混合用有機溶媒に、高分子化合物、リチウム塩、および非水溶媒を溶解させた後、混合用有機溶媒を蒸発させる方法、重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒を混合し、紫外線、電子線または分子線などを照射して、重合性モノマーを重合させ、ポリマーを得る方法などを挙げることができる。
【0096】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータを使用することもできる。
セパレータは特に限定されるものではないが、例えば織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが挙げられる。合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、なかでもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜等である。
本発明のリチウムイオン二次電池においては、ゲル電解質を用いることも可能である。
【0097】
ポリマー電解質を用いたリチウムイオン二次電池は、一般にポリマー電池と呼ばれ、本発明の黒鉛質材料を用いてなる負極と、正極およびポリマー電解質から構成される。例えば、負極、ポリマー電解質、正極の順に積層し、電池外装材内に収容することで作製される。なお、これに加えて、さらに、負極と正極の外側にポリマー電解質を配するようにしてもよい。
【0098】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は任意であり、その形状、形態について特に限定されるものではなく、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解質電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものであることが好ましい。ポリマー電解質を用いたポリマー電池の場合には、ラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
【実施例】
【0099】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また以下の実施例および比較例では、図2に示すような構成の評価用のボタン型二次電池を作製して評価した。該電池は、本発明の目的に基づき、公知の方法に準じて作製することができる。
【0100】
なお以下の実施例および比較例において、黒鉛質前駆体および黒鉛質材料の物性は以下の方法により測定した。
黒鉛質前駆体および黒鉛質材料のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡観察にて、その形状を確認できる倍率により100個について計測した平均値である。
黒鉛質前駆体および黒鉛質材料の体積換算の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計により測定した粒度分布の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。
黒鉛質材料の格子面間隔d002 は、前述したX線回折法により求めた。
黒鉛質材料の比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
黒鉛質材料の隆起の高さhおよび基底長gを、走査型電子顕微鏡による断面観察にて、その形状を確認できる倍率により100個の隆起を計測し、高さh、基底長gおよび高さhと基底長gの比h/gの平均値を求めた。h/gの平均値は、各隆起について求めたh/gの100個分の平均値とした。
ここでいう「確認できる倍率」は、通常、3000倍程度である。なお、本願でいう該基底とは、該当する隆起が母材と接する仮想平断面であり、該基底長(g)とは該仮想平断面の外周上の2点を結んだ最長の仮想直線である。また、該隆起の高さ(h)とは、該基底(該仮想平断面)からの最高の垂直高さである。
【0101】
また、黒鉛質材料の隆起の個数は、走査型電子顕微鏡による観察にて、10μm角の視野に存在する隆起の個数を10視野において計測し平均値を求めた。
【0102】
〔実施例1〕
(黒鉛質前駆体の調製)
コールタールピッチを熱処理してなるメソフェーズ小球体(JFEケミカル(株)製、平均粒子径25μm)を窒素雰囲気下600℃で3時間焼成して、球状の黒鉛質前駆体を調製した。アスペクト比は1.2であった。
このような方法で調整した黒鉛質前駆体を黒鉛質前駆体(1)とする。
【0103】
なお、この黒鉛質前駆体(1)を偏光顕微鏡で観察した結果、表面に薄膜状の光学的等方性相を有しており、内部は光学的異方性相を有していた。また、この黒鉛質前駆体をこのまま非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱して、該黒鉛質前駆体を黒鉛化したもの(黒鉛化物)について、表面の結晶構造を分析した。
【0104】
分析にあたっては、これを樹脂で支持し、集束イオンビーム加工装置(FB2000、株式会社日立製作所製)で厚さが約0.1μmの薄膜を作成した。次に、この黒鉛化物の表面近傍の領域(1μm×1μm)のうちの10箇所に、透過電子顕微鏡(HF2000、株式会社日立製作所製およびJEM2010F、日本電子株式会社製)を用いて電子ビームを照射し(加圧電圧は150〜200kV、電子ビーム径は数十nm)、電子回折を行い、結晶性と結晶子の大きさを測定した。その結果、10箇所のうち8箇所で多結晶の性質が認められ、多結晶の結晶組織を有することが判明した。また、結晶子の大きさは60nm(平均値を10nm単位に四捨五入した値)であった。
【0105】
なお、結晶子の大きさは、透過電子顕微鏡で結晶子の断面を観察し、表面に露出している部分の長さを測定したものである。
【0106】
(黒鉛質材料の調製)
鉄に換算して5質量%の濃度に相当する塩化第二鉄水溶液(酸性)100質量部に、黒鉛質前駆体(1)の100質量部を加え、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7まで中和した。得られた中性分散液は水酸化鉄:[FeO(OH)]の懸濁液に前駆体(1)が分散されていた。引続き、100℃に加熱して水を除去し、その後、150℃で5時間真空乾燥して水を完全に除去した。
【0107】
このようにして得られた、水酸化鉄が表面に点在した黒鉛質前駆体を、以下では「水酸化鉄点在黒鉛質前駆体」ともいう。
【0108】
乾燥したあと、該水酸化鉄点在黒鉛質前駆体の外観を走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒状および針状の水酸化鉄が点在して付着していた。また、この水酸化鉄点在黒鉛質前駆体の表面に付着している鉄化合物50個について、最大長を計測したところ、平均値で0.5μmであった。
【0109】
また、水酸化鉄点在黒鉛質前駆体を非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質材料を得た(黒鉛質材料(1)とする)。この黒鉛質材料の平均粒子径は24μmであり、粒状の黒鉛質材料の表面に半球状ないし球状の隆起を6個/100μm2 有する構造であった([図1])。隆起の高さhは3.5μm、基底長gは3.0μmであり、h/gは1.2であった。黒鉛質材料のアスペクト比は1.2、比表面積は3.1m2 /g、格子面間隔d002 は0.3356nmであった。表1に、黒鉛質前駆体、黒鉛質材料、隆起の特性などを示した。
【0110】
なお、得られた黒鉛質材料(1)について、ICP発光分光分析装置を用いて含有元素を分析したが、鉄は検出されなかった。また、前記水酸化鉄点在黒鉛質前駆体を非酸化雰囲気下1490℃で4時間加熱したものについて、X線回折分析により含有化合物を同定したところ、FeCが検出された。これより、鉄化合物を付着させた黒鉛前駆体(1)を加熱して黒鉛化する過程において、鉄の炭化物が生成していることが確認された。
【0111】
(負極合剤ペーストの調製)
黒鉛質材料(1)の98質量部、結合剤としてのカルボキシメチルセルロース1質量部、およびスチレン−ブタジエンゴム1質量部を水に入れ、攪拌して負極合剤ペーストを調製した。
【0112】
(作用電極の作製)
前記負極合剤ペーストを、銅箔上に均一な厚さで塗布し、さらに真空中で90℃で分散媒の水を蒸発させて乾燥した。次に、この銅箔上に塗布された負極合剤をローラープレスによって加圧し、さらに直径15.5mmの円形状に打抜くことで、銅箔からなる集電材(厚み16μm)に密着した負極合剤層(厚み60μm)からなる作用電極12を作製した。
【0113】
(対極の作製)
リチウム金属箔を、ニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打抜いて、ニッケルネットからなる集電材と、該集電材に密着したリチウム金属箔(厚み0.5μm)からなる対極を作製した。
【0114】
(電解質・セパレータ)
エチレンカーボネート33vol%−メチルエチルカーボネート67vol%の混合溶媒に、LiPF6 を1mol/dm3 となる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。得られた非水電解質をポリプロピレン多孔質体(厚み20μm)に含浸させ、電解質が含浸されたセパレータを作製した。
【0115】
(評価電池の作製)
評価電池として図2に示すボタン型二次電池を作製した。
集電材17bに密着した作用電極12と集電材17aに密着した対極14との間に、電解質を含浸させたセパレータ15を挟んで、積層した。その後、作用電極集電材17b側が外装カップ11内に、対極集電材17a側が外装缶13内に収容されるように、外装カップ11と外装缶13とを合わせた。その際、外装カップ11と外装缶13との周縁部に絶縁ガスケット16を介在させ、両周縁部をかしめて密閉した。
【0116】
前記のように作製された評価電池について、25℃の温度下で以下に示すような充放電試験を行い、放電容量、初期充放電効率、急速充電率、急速放電率およびサイクル特性を評価した。評価結果を表2に示した。
(放電容量、初期充放電効率)
回路電圧が0mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行った後、定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から充電容量を求めた。その後、120分間休止した。次に0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量を求めた。これを第1サイクルとした。次式(I)から初期充放電効率を計算した。
初期充放電効率(%)=(第1サイクルの放電容量/第1サイクルの充電容量)
×100 (I)
なおこの試験では、リチウムイオンを黒鉛質材料に吸蔵する過程を充電、負極材料から離脱する過程を放電とした。
【0117】
(急速充電率)
引き続き、第2サイクルにて高速充電を行なった。
電流値を第1サイクルの4倍の3.6mAとして、回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行い、充電容量を求め、次式(II)から急速充電率を計算した。
急速充電率=(第2サイクルにおける定電流充電容量/第1サイクルにおける
放電容量)×100 (II)
【0118】
(急速放電率)
前記第2サイクルの定電流充電に引き続き、第2サイクルにて、高速放電を行った。第1サイクルと同様にして定電圧充電に切替え、満充電した後、電流値を第1サイクルの16倍の14.4mAとして、回路電圧が1.5Vに達するまで、定電流放電を行った。得られた放電容量から、次式(III)により急速放電率を計算した。
急速放電率=(第2サイクルにおける放電容量/第1サイクルにおける放電容量
)×100 (III)
尚、急速充電率と急速放電率の性能をまとめて、急速充放電特性と称することもある。
【0119】
(サイクル特性)
放電容量、初期充放電効率、急速充電率、急速放電率を評価した評価電池とは別の評価電池を作製し、以下のような評価を行なった。
回路電圧が0mVに達するまで4.0mAの定電流充電を行った後、定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた後、120分間休止した。次に4.0mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。20回充放電を繰返し、得られた放電容量から、次式(IV)を用いてサイクル特性を計算した。
サイクル特性=(第20サイクルにおける放電容量/第1サイクルにおける放電
容量)×100 (IV)
【0120】
表2に示すように、作用電極に実施例1の黒鉛質材料(1)を負極材料として用いて得られた評価電池は、高い放電容量を示し、かつ高い初期充放電効率を有する。さらに優れた急速充放電特性および優れたサイクル特性を示す。
【0121】
(比較例1)
実施例1において、金属材料を用いずに、黒鉛質前駆体(1)のみを直接3000℃の温度に加熱して黒鉛化し黒鉛質材料(10)を調製した。得られた黒鉛質材料(10)の平均粒子径は24μmであり、隆起がない球状の粒子であった。該粒子のアスペクト比は1.2、比表面積は0.5m2 /g、格子面間隔d002 は0.3358nmであった。表1に、黒鉛質前駆体、黒鉛質材料の特性などを示した。
黒鉛質材料(10)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、表面に隆起が存在しない黒鉛質材料(10)の場合は、初期充放電効率こそ高いものの、高い急速充放電特性やサイクル特性が得られない。また、黒鉛化物同士の接点が少ないため、黒鉛化物が元来有する放電容量が完全には発現されず、放電容量が低下している。
【0122】
(実施例2)
実施例1において、黒鉛質前駆体の調製方法を変更した。メソフェーズ小球体を予め粉砕して、平均粒子径15μmの塊状粒子を得た。これを窒素雰囲気下600℃で3時間焼成して塊状の黒鉛質前駆体を得た。これのアスペクト比は1.5であった。
このような方法で得られた黒鉛質前駆体を黒鉛質前駆体(2)とする。
黒鉛質前駆体(2)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で黒鉛質材料(2)を調製した。得られた黒鉛質材料(2)の平均粒子径は14μmであり、塊状の黒鉛質材料(2)の表面に半球状ないし球状の隆起を7個/100μm2 有する構造であった。隆起の高さhは2.8μm、基底長gは2.3μmであり、h/gは1.2であった。黒鉛質材料のアスペクト比は1.5、比表面積は4.5m2 /g、格子面間隔d002 は0.3356nmであった。表1に、黒鉛質前駆体、黒鉛質材料、隆起の特性などを示した。
黒鉛質材料(2)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、作用電極に実施例2の黒鉛質材料(2)を負極材料として用いて得られた評価電池は、高い放電容量を有し、かつ高い初期充放電効率を有する。さらに優れた急速充放電効率およびサイクル特性を示す。
【0123】
(比較例2)
実施例2において、金属材料を用いずに、黒鉛質前駆体(2)のみを直接3000℃の温度に加熱して黒鉛化し黒鉛質材料(20)を調製した。得られた黒鉛質材料(20)の平均粒子径は14μmであり、隆起がない塊状の粒子であった。該粒子のアスペクト比は1.5、比表面積は0.9m2 /g、格子面間隔d002 は0.3358nmであった。表1に、黒鉛質前駆体、黒鉛質材料の特性などを示した。
黒鉛質材料(20)を用いて、実施例2と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、表面に隆起が存在しない黒鉛質材料(20)の場合は、高い急速充放電特性やサイクル特性が得られない。また放電容量も低下している。
【0124】
(実施例3)
実施例1において、黒鉛質前駆体の調製方法を変更した。コールタールピッチを直接、窒素雰囲気下600℃で3時間焼成してバルクメソフェーズを得た。これを粉砕して平均粒子径25μmの塊状ないし鱗片状の黒鉛質前駆体を調製した。
【0125】
次いで、この黒鉛質前駆体100gと、フェノール樹脂(黒鉛化後の残存率40質量%)5gとを、エチレングリコール100gとヘキサメチレンテトラミン0.5gとの混合物に浸漬し、攪拌しながら減圧下(1.3Pa)、150℃で媒体であるエチレングリコールを除去し、樹脂で被覆した黒鉛質前駆体を得た。この樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)を空気中で270℃、5時間熱処理して樹脂を硬化させた。こうして得られた樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)のアスペクト比は2.8であった。
【0126】
なお、この樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)を偏光顆微鏡で観察した結果、表面に薄膜状の光学的等方性相を有しており、内部は光学的異方性相を有していた。また、この樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)をこのまま非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱して樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)を黒鉛化したものについて、表面の結晶構造を分析した。実施例1と同様にして、黒鉛化物の表面近傍の10箇所について電子回折を行い、結晶性と結晶子の大きさを測定した。その結果、7ケ所で多結晶の性質が認められ、多結晶性の結晶組織を有することが判明した。結晶子の大きさは、平均値を10nm単位に四捨五入すると30nmであった。
【0127】
この樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)を用いて、実施例1と同様な方法で黒鉛質材料(3)を調製し、さらに、同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、作用電極に実施例3の黒鉛質材料(3)を負極材料として用いて得られた評価電池は、高い放電容量を有し、かつ高い初期充放電効率を有する。さらに優れた急速充放電特性およびサイクル特性を示す。
【0128】
(比較例3)
実施例3において、金属材料を用いずに、樹脂被覆した黒鉛質前駆体(3)のみを直接3000℃の温度に加熱して黒鉛化し黒鉛質材料(30)を調製した。得られた黒鉛質材料(30)の平均粒子径は24μmであり、隆起がない塊状ないし鱗片状の粒子であった。該粒子のアスペクト比は2.4、比表面積は0.7m2 /g、格子面間隔d002 は0.3357nmであった。表1に、黒鉛質前駆体、黒鉛質材料の特性などを示した。
黒鉛質材料(30)を用いて、実施例3と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、表面に隆起が存在しない黒鉛質材料(30)の場合は、高い初期充放電効率および急速充放電特性やサイクル特性が得られない。また放電容量も低下している。
【0129】
(実施例4)
(黒鉛質前駆体の調整)
実施例1と同じ方法で調整した黒鉛質前駆体(1)を用いた。
【0130】
(黒鉛質材料の調製)
この黒鉛質前駆体(1)の100質量部と、ニッケル微粉(平均粒子径0.2μm、球状)3質量部とをヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)を用いて混合し、このニッケル微粉が表面に分散して付着した黒鉛質前駆体(1)を得た。ここで、ヘンシェルミキサーの攪拌回転数は700rpmとし、混合は30分間行った。
このようにして得たニッケルが付着した黒鉛質前駆体(1)を、非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質材料(4)を得た。得られた黒鉛質材料(4)の平均粒子径は24μmであり、球状の黒鉛質材料(4)の表面に半球状ないし球状の隆起を4個/100μm有する構造であった。隆起の高さhは3.2μm、基底長gは3.3μmであり、h/gは0.97であった。黒鉛質材料(4)のアスペクト比は1.2、比表面積は1.8m/g、格子面間隔d002は0.3356nmであった。
表1に黒鉛質前駆体、黒鉛質材料、隆起の特性などを示した。
【0131】
なお、得られた黒鉛質材料(4)について、ICP発光分光分析装置を用いて含有元素を分析したが、ニッケルは検出されなかった。また、前記のニッケルが付着した黒鉛質前駆体(1)を非酸化性雰囲気下1000℃で2時間かけて加熱したものについて、X線回折分析により含有化合物を同定したところNiCが検出された。これにより、ニッケルが付着した黒鉛前駆体(1)を1500℃以上の温度で加熱して黒鉛化する過程において、ニッケルの炭化物が生成していることが確認された。
【0132】
このようにして得た黒鉛質材料(4)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、作用電極に実施例4の黒鉛質材料(4)を負極材料として用いて得られた評価電池は、高い放電容量を有し、かつ高い充放電効率を有する。さらに優れた急速充放電特性およびサイクル特性を示す。
【0133】
(実施例5)
(黒鉛質前駆体の調整)
実施例1と同じ方法で調整した黒鉛質前駆体(1)を用いた。
【0134】
(黒鉛質材料の調製)
この黒鉛質前駆体(1)をDC二極スパッタリング装置のアノード側ステージに配置し、カソード側に99.999%純度の単結晶コバルトターゲットを配置して、圧力0.5Pa、電圧600V、電流0.5Aの条件でスパッタリングを3時間行った。
なお、アノード側のステージには超音波振動子を取り付け、黒鉛質前駆体(1)に振動を付与しながらスパッタリングを行った。得られたコバルトが付着した黒鉛質前駆体(1)について、ICP発光分光分析装置でコバルトを定量分析したところ、7質量%含有していることが確認された。
【0135】
コバルトの付着状態を走査型電子顕微鏡で観察したところ、コバルトが粒状に分散して付着している様子が観察された。コバルトが付着した黒鉛質前駆体(1)の表面に付着している粒状のコバルト50個について、最大長を計測したところ、平均値で0.3μmであった。
得られたコバルトが付着した黒鉛質前駆体(1)を非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質材料(5)を得た。得られた黒鉛質材料(5)の平均粒子径は24μmであり、球状の黒鉛質材料(5)の表面に半球状ないし球状の隆起を5個/100μm有する構造であった。隆起の高さhは1.8μm、基底長gは2.8μmであり、h/gは0.64であった。黒鉛質材料(5)のアスペクト比は1.2、比表面積は2.5m/g、格子面間隔d002は0.3356nmであった。
表1に黒鉛質前駆体、黒鉛質材料、隆起の特性などを示した。
【0136】
なお、得られた黒鉛質材料(5)について、ICP発光分光分析装置を用いて含有元素を分析したが、コバルトは検出されなかった。また、コバルト付着黒鉛質前駆体を非酸化性雰囲気下1000℃で2時間かけて加熱したものについて、X線回折分析により含有化合物を同定したところCoCが検出された。これより、コバルトを付着させて1500℃以上の温度で加熱して黒鉛化する過程において、コバルトの炭化物が生成していることが確認された。
【0137】
このようにして得た黒鉛質材料(5)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、作用電極に実施例5の黒鉛質材料(5)を負極材料として用いて得られた評価電池は、高い放電容量を有し、かつ高い充放電効率を有する。さらに優れた急速充放電特性およびサイクル特性を示す。
【0138】
(比較例4)
比較例1において得られた球状の黒鉛質材料(10)の97質量部に、ケッチェンブラック[ライオン(株)製、EC600JD、平均粒子径0.03μm]3質量部を混合し、得られた原料23を図3に模式的に示すメカノケミカル処理装置[(株)奈良機械製作所製、「ハイブリダイゼーションシステム」]に投入した。該装置は、固定ドラム21、回転ローター22、原料の循環機構24と排出機構25、ブレード26、ステーター27およびジャケット28などから構成されており、原料23を固定ドラム21とローター22との間に供給し、固定ドラム21とローター22との速度差に起因する圧縮力、剪断力、摩擦力などの機械力を原料23に付加することができる。回転ローター22の周速40m/sec で、処理時間6min の条件下で処理することにより、黒鉛質材料(10)とケッチェンブラックとに機械的作用を繰返し付与した。このような方法により、ケッチェンブラックが表面に付着した黒鉛質材料(10)を、黒鉛質材料(40)とする。
得られた黒鉛質材料(40)の平均粒子径は24μmであり、ケッチェンブラックに由来する微小炭素質粒子が黒鉛質材料(40)の表面に埋設された付着物を有する構造であった。付着物の数は100個/100μm2 以上であり、付着物の高さおよび基底長は、付着物の高さが0.1μm以下のため、計測が不可能であった。黒鉛質材料(40)のアスペクト比は1.2、比表面積は21.5m2 /g、格子面間隔d002 は0.3360nmであった。表1に、黒鉛質材料(10)、黒鉛質材料(40)、付着物の特性などを示した。
【0139】
黒鉛質材料(40)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、黒鉛質材料(40)の表面に一体化された隆起が存在せず、微小炭素質粒子を埋設し、付着物を形成した場合は、高い急速充放電効率やサイクル特性が得られない。また、比表面積が過度に大きいことから、初期充放電効率が低下している。なお、作用電極の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、微小炭素質粒子の一部が脱落し、黒鉛質材料(40)の表面に局所的に凝集している様子が観察された。電極作製過程で、脱落したものと推定される。
【0140】
(比較例5)
(黒鉛質前駆体の調整)
実施例1と同じ方法で調整した黒鉛質前駆体(1)を用いた。
【0141】
(黒鉛質材料の調製)
鉄に換算して5質量%の濃度に相当する硝酸鉄のエタノール溶液100質量部に、黒鉛質前駆体(1)の100質量部を加え、液相中で混合し攪拌した。常圧から50Torr(=1.3Pa)まで減圧して脱泡し、該溶液を黒鉛質前駆体(1)に浸透させた。ついで、80℃で24時間乾燥してエタノールを完全に除去した。このようにして、硝酸鉄が付着した黒鉛質前駆体(1)を得た。
【0142】
この硝酸鉄が付着した黒鉛質前駆体(1)の外観を走査型電子顕微鏡で観察したところ、黒鉛質前駆体(1)の表面に鉄化合物が膜状に付着していた。
【0143】
次に、硝酸鉄が付着した黒鉛質前駆体(1)を非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質材料(50)を得た。得られた黒鉛質材料(50)の平均粒子径は24μmであり、粒状の黒鉛質材料(50)の表面には非常に微細な隆起が観察された。隆起は2個/100μm観察され、高さhは0.4μm、基底長gは0.6μmであり、h/gは0.67であった。黒鉛質材料(50)のアスぺクト比は1.2、比表面積は1.0m/g、格子面間隔d002は0.3357nmであった。表1に黒鉛質前駆体、黒鉛質材料、隆起の特性などを示した。
【0144】
この黒鉛質材料(50)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、金属化合物を溶液として黒鉛質前駆体と混合し、得られた黒鉛質材料が、その表面に規定サイズに達しない隆起を有する比較例5の黒鉛質材料を負極材料として作用電極に用いた評価電池は、高い急速充放電特性やサイクル特性が得られない。
なお、比較例5は特許文献8に記載された方法に相当する。
【0145】
(比較例6)
(黒鉛質前駆体の調整)
ナフタレンをHF/BF触媒の存在下で重縮合して得られた下記に示すメソフェーズ含有ピッチを平均粒子径30μmに粉砕した。
〔メソフェーズ含有ピッチ〕
TI(トルエン不溶分量):73質量%
QI(キノリン不溶分量):44質量%
軟化点(メトラー法):255℃
得られたメソフェーズピッチの断面を偏光顕微鏡で観察したところ、全域が光学的異方性相であった。このメソフェーズピッチを黒鉛質前駆体(60)とする。
【0146】
この黒鉛質前駆体(60)をこのまま非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱して得た黒鉛質材料(60)について、表面の結晶構造を電子回折分析した。実施例1と同様にして、黒鉛質材料(60)の表面近傍の10箇所について、電子回折を行い、結晶性と結晶子の大きさを測定した。
その結果、いずれにおいても多結晶は観察されず、結晶が配向した状態であった。結晶子の大きさは、平均値を10nm単位に四捨五入すると150nmであった。
【0147】
(黒鉛質材料の調製)
この黒鉛質前駆体(60)の100質量部と、酸化鉄(平均粒子径0.3μm、粒状)10質量部とをヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)を用いて混合し、この酸化鉄が表面に分散して付着した黒鉛質前駆体を得た。ここで、ヘンシェルミキサーの攪拌回転数は700rpmとし、混合は30分間行った。
このようにして得た酸化鉄付着黒鉛質前駆体を、窒素雰囲気下、450℃で6時間加熱処理した。加熱処理によって酸化鉄付着黒鉛質前駆体がわずかに融着したので、再度粉砕し、平均粒子径30μmになるように粒度調整した。粒度調整後の酸化鉄付着黒鉛質前駆体のアスペクト比は3.5であった。次いで、非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質材料(60)を得た。得られた黒鉛質材料(60)の平均粒子径は29μmであり、塊状の黒鉛質材料(60)の表面に隆起は生成していなかった。黒鉛質材料(60)のアスペクト比3.5、比表面積は0.9m/g、格子面間隔d002は0.3358nmであった。
表1に黒鉛質前駆体、黒鉛質材料の特性などを示した。
【0148】
このようにして得た黒鉛質材料(60)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、黒鉛質材料の表面に隆起が存在しない場合は、高い急速充放電特性やサイクル特性が得られない。
なお、比較例6は、特開2001−107057号に記載された技術に相当する。
【0149】
(比較例7)
(黒鉛質材料の調製)
フェノール樹脂(黒鉛化後の残存率50質量%)8質量部をエタノール100質量部に溶解し、次いで、鱗片状天然黒鉛(平均粒子径10μm、アスペクト比4.7)96質量部を加え、液相中で混合し攪拌した(この鱗片状天然黒鉛を天然黒鉛(70)とする)。常圧から1.3Paまで減圧して脱泡し、該分散液を天然黒鉛に浸透させた。次いで、150℃でエタノールを除去したのち、窒素雰囲気下で500℃、7時間熱処理して樹脂を硬化、炭化させた。加熱処理によってわずかに融着したので、再度粉砕し、平均粒子径を12μmに粒度調整した。粒度調整後のアスペクト比は4.3であった。
尚、この樹脂被覆した天然黒鉛(70)を偏光顕微鏡で観察した結果、表面に薄膜状の光学的等方性相を有しており、内部は光学的異方性相を有していた。
この樹脂被覆した天然黒鉛(70)を非酸化性雰囲気下3000℃で6時間加熱し、黒鉛質材料(70)を得た。実施例1と同様にして、得られた黒鉛質材料(70)の表面近傍の10箇所について、電子回折を行い、結晶性を結晶子の大きさを測定した。
その結果、8箇所で多結晶の性質が認められ、多結晶性の結晶組織を有することが判明した。結晶子の大きさは平均値を10nm単位に四捨五入すると40nmであった。
表1に黒鉛質材料(70)の特性などを示した。さらに、このようにして得た黒鉛質材料(70)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、黒鉛に樹脂を被覆し黒鉛化しただけの隆起を有さない黒鉛質材料を負極材料として作用電極に用いた評価電池は、高い急速充放電特性やサイクル特性が得られない。
【0150】
(実施例6)
(黒鉛質材料の調製)
比較例7において、フェノール樹脂(黒鉛化後の残存率50質量%)8質量部をエタノール100質量部に溶解し、次いで、天然黒鉛(70)96質量部を加えたのちに、さらに、酸化鉄微粉(Fe、平均粒子径0.3μm、粒状)を6質量部混合して、液相中で混合し攪拌した以外は、比較例7と同様にして黒鉛質材料(6)を得た。
表1に黒鉛質材料(6)の特性などを示した。さらに、このようにして得た黒鉛質材料(6)を用いて、実施例1と同様な方法と条件で、作用電極および評価電池を作製して、充放電試験を行った。電池特性の評価結果を表2に示した。
表2に示されるように、作用電極に実施例6の黒鉛質材料(6)を負極材料として用いて得られた評価電池は、高い放電容量を有し、かつ高い充放電効率を有する。さらに優れた急速充放電特性およびサイクル特性を示す。
【0151】
【表1】

【0152】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の黒鉛質材料は、搭載する機器の小型化および高性能化に有効に寄与するリチウムイオン二次電池の負極材料として用いることができる。また、その特徴を活かして、導電性や耐熱性を必要とする各種用途、例えば、樹脂添加用導電材、燃料電池セパレータ用導電材、耐火物用黒鉛などに使用することもできる。
【符号の説明】
【0154】
1 黒鉛質材料の母材
2 黒鉛質材料の表面
3 黒鉛質材料の隆起
4 黒鉛質材料のしわ
11 外装カップ
12 作用電極
13 外装缶
14 対極
15 電解質溶液含浸セパレータ
16 絶縁ガスケット
17a,17b 集電体
21 固定ドラム
22 回転ローター
23 原料
24 原料の循環機構
25 原料の排出機構
26 ブレード
27 ステーター
28 ジャケット
h 隆起の高さ
g 基底長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に高さ1μm以上の隆起を有する、メソフェーズ小球体の黒鉛化物であることを特徴とする黒鉛質材料。
【請求項2】
前記隆起の高さhと基底長gとの比(h/g)の平均値が0.1〜15であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛質材料。
【請求項3】
前記黒鉛質材料の平均粒子径が1〜100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の黒鉛質材料。
【請求項4】
前記隆起の数が2〜20個/100μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒鉛質材料。
【請求項5】
炭素と反応する性質および炭素を溶解する性質のうちの少なくとも一方の性質を有する金属材料を、非溶液状態で黒鉛質材料の前駆体に接触させて前記金属材料を前記前駆体に点在させ、1500℃以上の温度で加熱する、表面に高さ1μm以上の隆起を有する、メソフェーズ小球体の黒鉛化物である黒鉛質材料の製造方法であって、
前記前駆体が、その表面の少なくとも一部に光学的等方性の結晶構造を有するメソフェーズ小球体であることを特徴とする黒鉛質材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属材料が粉末状である請求項5に記載の黒鉛質材料の製造方法。
【請求項7】
前記金属材料と前記前駆体とを分散媒中で混合した後、前記分散媒を除去して、前記金属材料を前記前駆体に点在させる請求項5または6に記載の黒鉛質材料の製造方法。
【請求項8】
前記金属材料を、PVD法またはCVD法により前記前駆体に点在させる請求項5に記載の黒鉛質材料の製造方法。
【請求項9】
前記加熱温度が、1500〜3300℃である請求項5〜8のいずれかに記載の黒鉛質材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の黒鉛質材料を含むリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−79737(P2011−79737A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5634(P2011−5634)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【分割の表示】特願2005−246034(P2005−246034)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】