説明

(メタ)アクリル系重合体の製造方法

【課題】 有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物の錯体を重合触媒とするリビングラジカル重合法を利用し、(メタ)アクリル系重合体を製造するに当たり、従来と比較して低濃度な銅触媒であっても分子量、分子量分布などの重合体構造を制御しつつ、従来の重合速度で生産性を落とすことなく重合可能な条件を提供するものである。
【解決手段】 反応系中に有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物、ポリアミン化合物及びアセトニトリルが存在する(メタ)アクリル系単量体のリビングラジカル重合法において、アセトニトリルと重合触媒のモル比(アセトニトリル/重合触媒)を20以上100以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リビングラジカル重合法による(メタ)アクリル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系重合体の製造方法として、例えば有機ハロゲン化物、重合触媒として銅化合物、重合溶媒として高極性溶媒を用いるリビングラジカル重合方法が開発されている(例えば特許文献1参照)。また少量のニトリル系化合物存在下で原子移動ラジカル重合を行う技術が開発されている(例えば特許文献2参照)。ニトリル系化合物は重合触媒として使用する金属類と錯体を形成し、ポリアミン等の配位子と交換されることで重合触媒活性を有する金属錯体となる。ニトリル化合物の量としては特に限定されていないが、特に好ましい量としては重合系全体の体積比として5%以下、金属原子に対してモル比で10倍以下と記されている重合系におけるニトリル化合物の作用としては、スムーズなアミン錯体の形成、重合触媒の溶解性向上、重合触媒の分散性改良などである。これらの特許文献の発明を利用することにより重合速度制御や分子量・分子量分布などの構造制御が可能であるが、重合触媒を低減する具体的手段が開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−72503号公報
【特許文献2】特開2000−72809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物の錯体を重合触媒とするリビングラジカル重合法を利用し、(メタ)アクリル系重合体を製造するに当たり、従来と比較して低濃度な銅触媒であっても分子量、分子量分布などの重合体構造を制御しつつ、従来の重合速度で生産性を落とすことなく重合可能な条件を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決することを目的に検討を重ねた結果、有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物の錯体を重合触媒とする(メタ)アクリル系単量体のリビングラジカル重合法において、アセトニトリルと重合触媒のモル比(アセトニトリル/重合触媒)を20以上100以下とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は反応系中に有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物、ポリアミン化合物及びアセトニトリルが存在する(メタ)アクリル系単量体のリビングラジカル重合法において、アセトニトリルと重合触媒のモル比(アセトニトリル/重合触媒)を20以上100以下とする(メタ)アクリル系重合体の製造方法に関する。
【0007】
重合系に存在する金属銅又は銅化合物の量は、重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して、銅原子として0.1%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
従来と比較して低濃度な銅触媒で重合可能となるため、製造プロセスにおいて多大な負荷となっている精製工程を簡略化若しくは省略することができる。また銅触媒量が低減されるため、製造コストも削減し経済的に優位であり、且つ廃棄物削減に繋がるので環境面での効果も現れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、反応系中に有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物、ポリアミン化合物及びアセトニトリルが存在する(メタ)アクリル系単量体のリビングラジカル重合法に関するものであって、アセトニトリルと重合触媒のモル比(アセトニトリル/重合触媒)が20以上100以下であることを特徴とする、(メタ)アクリル系重合体の製造方法である。
【0010】
有機ハロゲン化物は重合開始剤であって、反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物である。例えば、α位にハロゲンを有するカルボニル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物、あるいはハロゲン化スルホニル化合物等が例示され、具体的には、
65−CH2X、C65−C(H)(X)CH3、C65−C(X)(CH32
(ただし、上の化学式中、C65はフェニル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
3−C(H)(X)−CO24、R3−C(CH3)(X)−CO24、R3−C(H)(X)−C(O)R4、R3−C(CH3)(X)−C(O)R4
(式中、R3、R4は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
3−C64−SO2
(式中、R3は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
等が挙げられる。
【0011】
また、2つ以上の開始点を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として使用してもよい。
【0012】
単量体と開始剤量の比を調整することにより、所望の重合体分子量に設定することができることがリビングラジカル重合の特徴である。
【0013】
重合触媒としては、金属銅又は銅化合物の錯体が使用され、配位子としてポリアミン化合物が用いられる。金属銅は粉末銅、銅箔等の銅単体である。銅化合物は塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。配位子として使用されるポリアミン化合物は、例えばテトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン化合物であり、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミン等のアルキル置換されたものであっても良い。
【0014】
本発明では、反応系中に有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物、ポリアミン化合物が存在する。この系は原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)(J.Am.Chem.Soc.1995,117,5614)又は近年Percec,Vらによって提唱されたシングルエレクトロントランスファリビングラジカル重合(Sigle Electron Transfer Polymerization:SET−LRP)(J.Am.Chem.Soc.2006,128,14156,JPSChem 2007,45,1607)のいずれかのリビングラジカル重合系として解釈されうるが、本発明では特に区別せず、有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物、ポリアミン化合物を用いたリビングラジカル重合系を本発明の範疇として取り扱う。
【0015】
本発明では、使用する銅(金属銅又は銅化合物)の量に合わせてアセトニトリル量を調整することが重要であり、アセトニトリルと重合触媒のモル比(アセトニトリル/重合触媒)は、20以上、好ましくは30以上であり、100以下、好ましくは90以下、より好ましくは80以下、特に好ましくは60以下である。銅に対してアセトニトリルが多くなり過ぎると重合速度は著しく低下し、逆に少なくなり過ぎると重合速度は大きくなるものの得られる重合体の分子量分布は広くなってしまう。従って重合に使用する銅量を従来よりも少なくするためには、上記範囲内となるようにアセトニトリルの量も少なくしなければならない。例えば重合系に存在する金属銅又は銅化合物の量を、重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して、銅原子として0.1%とするためには、重合反応系中に存在するアセトニトリルの総重量は(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して約1.5%から約7%の範囲としなければならない。同様に銅原子が(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して0.02%と非常に低濃度である場合にはアセトニトリル量は(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して約1%で十分である。
【0016】
重合触媒として使用する金属銅又は銅化合物の量は、重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して、銅原子として0.1%以下にすることが、精製工程を簡略化若しくは省略して製造コストを削減するためには好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル系単量体を重合する際の単量体を反応槽に仕込む方式として従来公知な方式であるバッチ方式、連続添加方式、分割添加方式等、いずれの方式でも実施でき、これらの組合せにより重合を行っても良い。連続添加方式、分割添加方式により重合を行う場合には、(メタ)アクリル系単量体の総重量とは、反応槽に仕込んだ総重量のことを意味する。
【0018】
(メタ)アクリル系単量体は、リビングラジカル重合で使用される従来公知な単量体であり、例示するならば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。必要に応じて(メタ)アクリル系単量体以外のその他の単量体を共重合することもできる。
【実施例】
【0019】
以下に、この発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、この発明は、下記実施例に限定されない。
【0020】
下記実施例中、「数平均分子量」および「分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、GPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの(shodex GPC K−804、shodex GPC K−802.5;昭和電工(株)製)、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。重合体1分子当たりに導入された官能基は、1H−NMR(400MHz)による官能基濃度分析(溶媒:重クロロホルム、測定温度:23℃)を行い、GPCにより求まる数平均分子量により算出した。
【0021】
<実施例1>
攪拌機付ステンレス製反応容器の内部を脱酸素し、臭化第一銅(4.2g)、α−ブロモ酪酸エチル(19g)、脱酸素したアセトニトリル(44g)、脱酸素したアクリル酸n−ブチル(400g)、を仕込み、攪拌しながら内温70〜80℃に加熱した。ペンタメチルジエチレントリアミン(TMDETAと略す)を添加し、重合反応を開始した。重合が進行すると重合熱により内温が上昇するので内温を約80℃〜約90℃に調整した。重合開始30分後より、アクリル酸n−ブチルの追加を開始した。90分かけて連続的に脱酸素したアクリル酸n−ブチル(600g)を追加した。単量体追加終了後も引き続き反応を継続した。重合途中、適宜TMDETAを追加し、重合速度を調整し、また内温を約80℃〜約90℃の範囲に調整した。重合時に使用したTMDETAの総量は1.18gであった。重合開始より160分の時点で単量体転化率(重合反応率)が97%となった。重合を終了し、得られたポリアクリル酸n−ブチルの分析を行った。結果を表2に示す。
【0022】
<実施例2〜3>
表1に示す各原料の量を使用した以外は、実施例1と同様に重合を行った。結果を表2に示す。
【0023】
<比較例1>
攪拌機付ステンレス製反応容器の内部を脱酸素し、臭化第一銅(1.4g)、α−ブロモ酪酸エチル(19g)、脱酸素したアクリル酸n−ブチル(400g)を仕込み、攪拌しながら内温70〜80℃に加熱した。ペンタメチルジエチレントリアミン(TMDETAと略す)を添加し、重合反応を開始した。重合が進行すると重合熱により内温が上昇するので内温を約80℃〜約90℃に調整した。重合開始30分後より、アクリル酸n−ブチルの追加を開始した。90分かけて連続的に脱酸素したアクリル酸n−ブチル(600g)を追加した。単量体追加終了後も引き続き反応を継続した。重合途中、適宜TMDETAを追加し、重合速度を調整し、また内温を約80℃〜約90℃の範囲に調整した。重合時に使用したTMDETAの総量は0.51gであった。重合開始より260分の時点で単量体転化率(重合反応率)が96%となった。重合を終了し、得られたポリアクリル酸n−ブチルの分析を行った。結果を表2に示す。
【0024】
<比較例2>
攪拌機付ステンレス製反応容器の内部を脱酸素し、臭化第一銅(1.4g)、α−ブロモ酪酸エチル(19g)、脱酸素したアセトニトリル(44g)脱酸素したアクリル酸n−ブチル(400g)、を仕込み、攪拌しながら内温70〜80℃に加熱した。ペンタメチルジエチレントリアミン(TMDETAと略す)を添加し、重合反応を開始した。重合が進行すると重合熱により内温が上昇するので内温を約80℃〜約90℃に調整した。重合開始30分後より、アクリル酸n−ブチルの追加を開始した。90分かけて連続的に脱酸素したアクリル酸n−ブチル(600g)を追加した。単量体追加終了後も引き続き反応を継続した。重合途中、適宜TMDETAを追加し、重合速度を調整し、また内温を約80℃〜約90℃の範囲に調整した。重合時に使用したTMDETAの総量は1.18gであった。重合開始より450分の時点で単量体転化率(重合反応率)が95%となった。重合を終了し、得られたポリアクリル酸n−ブチルの分析を行った。結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示す使用量より、(1)アセトニトリル重量%(アセトニトリル/単量体総量)、(2)CuBr量より算出されるCu原子の重量%(Cu原子量/単量体総量)、(3)アセトニトリルとCuBrのモル比(アセトニトリル/CuBr)、をそれぞれ算出した値を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
アセトニトリルを全く使用しない重合(比較例1)では、重合は進行するものの、数平均分子量(Mn)が16900と高くなり、分子量分布も1.7と広くなった。
【0029】
アセトニトリル量は実施例1及び2と同じとしてCuBr量を減らし、アセトニトリル/CuBrのモル比を100を超える値に設定した場合(比較例2)、重合速度が著しく低下した。
【0030】
アセトニトリル/CuBrのモル比を37としてアセトニトリルとCuBrの量比を全く同じにした場合(実施例1、2)、重合速度はPMDETA量で調整することができ、PMDETA量が多いほど重合速度は大きくなった。また分子量分布の狭い、構造が良く制御された重合体が得られた。
【0031】
アセトニトリルとCuBrの両者を減らしてアセトニトリル/CuBrのモル比を22とした場合(実施例3)、分子量分布は1.5と若干広くなるがMnは13600となり、また重合速度も低下することは無かった。このようにアセトニトリル/CuBrのモル比を調整すればCu原子の重量%が0.1%以下の低濃度であっても従来と遜色なく重合可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応系中に有機ハロゲン化物、金属銅又は銅化合物、ポリアミン化合物及びアセトニトリルが存在する(メタ)アクリル系単量体のリビングラジカル重合法において、アセトニトリルと重合触媒のモル比(アセトニトリル/重合触媒)が20以上100以下であることを特徴とする、(メタ)アクリル系重合体の製造方法。
【請求項2】
重合系に存在する金属銅又は銅化合物の量は、重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体の総重量に対して、銅原子として0.1%以下であることを特徴とする請求項1記載の(メタ)アクリル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2010−254907(P2010−254907A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109475(P2009−109475)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】