説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特にレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く、また、工程数を少なく製造し、各工程の蒸留生成後の釜残の少ない製造法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物に飽和カルボン酸を付加して飽和カルボン酸付加体を製造する酸付加工程と、前記飽和カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルとをエステル交換させるエステル交換工程と、を順次行うことで、下記式(4a)または(4b)で表される(メタ)アクリル酸エステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環構造を持つ(メタ)アクリル酸エステルは塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用である。中でも、ArFエキシマレーザーリソグラフィーでは照射光に対する透明性を有するレジスト樹脂が探索されており、前記の(メタ)アクリル酸エステルが有力候補となっている。例えば、特許文献1には、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートと6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートとの混合物(本明細書では、この混合物を「5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物」のように記載する)を重合したポリマーがレジスト用ポリマーとして有望であることが記載されており、上記(メタ)アクリル酸エステルの製造法が記載されている。具体的には、シアノノルボルネンにカルボン酸を付加し、蒸留精製することで精製カルボン酸付加体を得、前記カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルをエステル交換させるエステル交換工程とが記載されている。しかし、精製カルボン酸付加体を蒸留する工程で、得られる精製カルボン酸付加体に対し、蒸留後に反応釜に残る高沸点物(以下釜残という)が多いという問題があった。
【0003】
さらに、レジスト用ポリマー用モノマーとして有望であるモノマーとして、特許文献2に、8−および9−(メタ)アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−デカン−3−オンの混合物の製造方法が記載されている。この先行文献には、シクロペンタジエンもしくはジシクロペンタジエンの分解物と無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって得られる化合物を、テトラヒドロホウ酸ナトリウムなどの還元剤を用いて還元して得られる下記式(1−1)で表される4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オンを出発原料とした以下に示すような製造方法が記載されている。
【0004】
【化1】

【0005】
この先行文献によると、下記式(2)で表されるアルコールを合成し、これを(メタ)アクリロイル化することにより得られるとされている。この下記式(2)で表されるアルコールを合成する方法として
(i)二重結合をエポキシ化し、還元する、
(ii)ハイドロボレーションの後、酸化的に加水分解する、
(iii)ギ酸または酢酸などの低級カルボン酸を付加して得られるエステルを加水分解する、
(iv)酢酸第二水銀を付加して還元(オキシマーキュレーション反応、デマーキュレーション反応)する、
といった方法が挙げられる。中でも、(iii)の方法で下記式(2)で表されるアルコールを合成し、(メタ)アクリロイル化することにより製造する方法が収率、経済性、大規模化の点から好ましいとされる。
【0006】
【化2】

【特許文献1】特開2005−263757号公報
【特許文献2】国際公開第02/46179号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、(iii)の合成法による(メタ)アクリル酸エステルの製造方法においても、式(2)で表されるアルコールの収率が低いため、最終目的物質の(メタ)アクリル酸エステルの収率が十分高いとはいえない。また、工程数も十分少ないとはいえないという問題点があった。
【0008】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特にレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く、また、工程数を少なく製造し、各工程の蒸留生成後の釜残の少ない製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討した結果、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特に安定性に優れたレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く、また、工程数を少なく製造する方法を見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一の要旨は、下記式(1)で表される化合物に飽和カルボン酸を付加して飽和カルボン酸付加体を製造する酸付加工程と、
前記飽和カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルとをエステル交換させるエステル交換工程と、
を順次行う下記式(4a)または(4b)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【0011】
【化3】

【0012】
(式(1)中、A1およびA2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいはA1とA2とが一緒になって−O−、−S−、または炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、または炭素数1〜6のアルコールでエステル化されたカルボキシ基を表す。式(4a)および(4b)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、A1およびA2、R2およびR3は式(1)と同義である。)を表す。
【0013】
また、本発明の第二の要旨は、前記式(1)で表される化合物として、下記式(1−1)で表される化合物を使用した前記の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【0014】
【化4】

【0015】
また、本発明の第三の要旨は、前記式(1)で表される化合物として、下記式(1−2)で表される化合物を使用した前記の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。
【0016】
【化5】

【0017】
なお、本明細書では、上記式(4a)または(4b)で表される(メタ)アクリル酸エステルを下記式(4)のように記載する。
【0018】
【化6】

【発明の効果】
【0019】
本発明は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として、特にレジスト用樹脂の原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く、また、工程数が少なく、各工程の蒸留生成後の釜残が少ない方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法である。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸およびアクリル酸の総称を表す。
【0021】
前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、前記式(1)で表される化合物に飽和カルボン酸を付加する工程(酸付加工程)と、得られた飽和カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルとエステル交換させる工程(エステル交換工程)とを順次行って得られる。酸付加工程とエステル交換工程の間に、酸触媒を除去する洗浄工程を経ることが、エステル交換工程での収率および重合防止の点で好ましく、また、得られる(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするレジスト用樹脂の保存安定性の点で好ましい。
【0022】
1.前記式(1)で表される化合物
前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルをレジスト用途に用いる場合は、エッチング耐性の点で、A1およびA2は一緒になって炭素数1〜6のアルキレン基、または−O−となることが好ましく、炭素数1〜2のアルキレン基、または−O−となることがより好ましい。したがって、前記式(1)で表される化合物においても同様である。また、R2とR3は、水素基となることが前記式(1)で表される化合物の入手のしやすさの点で好ましい。
【0023】
特に好ましい化合物としては具体的には下記式(1−1)または(1−2)で表される化合物が挙げられる。
【0024】
【化7】

【0025】
前記式(1)で表される化合物は、例えばシクロペンタジエンとジエノフィルとのディールス・アルダー反応によって得られる。例えば、式(1−1)で表される4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オンはシクロペンタジエンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって得られる化合物を、例えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウムなどの還元剤と反応させることによって得られる。なお、シクロペンタジエンは、一旦単離してからディールス・アルダー反応に供してもよいし、ジシクロペンタジエンを熱分解後生成するシクロペンタジエンを単離せずそのままディールス・アルダー反応に供してもよい。
【0026】
無水マレイン酸とシクロペンタジエンとの環化付加反応は容易に進行するが、必要に応じてルイス酸などの触媒を使用し、無溶媒またはメタノールなどの溶媒中で行うことが好ましい。
【0027】
2.酸付加工程
前記式(1)で表される化合物は、下記の反応式(I)によって飽和カルボン酸(R4COOH)を付加して下記式(3)で表される化合物(酸付加体)へと変換される。
【0028】
【化8】

【0029】
(反応式(I)中、R4は水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表す。)
酸付加工程で用いる飽和カルボン酸としては、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸が好ましい。反応性が高く、経済性の点からギ酸が特に好ましい。また、該カルボン酸は沸点が低いため、酸付加工程後に残留した場合、減圧することで容易に除去することができる。飽和カルボン酸は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0030】
残留した飽和カルボン酸によって、下記の問題が生じるおそれがある。
1)加水分解が起こり、生成物が下記式(2)で表される化合物などに転換してしまい、収率が低くなる。
2)レジストの安定性に悪影響を及ぼす。
3)次の水洗工程で水相に溶解し、中間体であるエステルを水相に溶かす相溶剤として働き、収率が低下する。
【0031】
このため、酸付加工程後に残留する過剰な飽和カルボン酸は、高収率で目的物を得るという点から、減圧除去することが好ましい。
【0032】
酸付加工程で用いる飽和カルボン酸の使用量は、特に制限されないが、前記式(1)で表される化合物1モルに対して、2〜15モルの範囲であることが好ましい。飽和カルボン酸の使用量が、2モル以上の場合に、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、飽和カルボン酸の使用量が、15モル以下の場合に、反応後の過剰な飽和カルボン酸の除去を安易に行うことができる傾向にある。飽和カルボン酸の使用量は、3〜8モルの範囲であることが特に好ましい。反応に際して、式(1)で表される化合物と飽和カルボン酸の添加の順序については任意である。また、全量を一度に仕込んでもよいし、数回に分けて加える方法を採ってもよい。
【0033】
酸付加工程は、酸触媒の存在下で行ってもよい。酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素などのルイス酸;硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;リンタングステン酸、ケイタングステン酸等のヘテロポリ酸;強酸性イオン交換樹脂などが挙げられ、反応性が高い点から、硫酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、取り扱いが容易であることから、p−トルエンスルホン酸が特に好ましい。酸触媒は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
酸触媒の使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対し、0.03〜0.3モルの範囲が好ましい。酸触媒の使用量が0.03モル以上の場合、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、酸触媒の使用量が0.3モル以下の場合、副生成物の生成抑制と、酸付加反応後の精製が安易にできる傾向にある。酸触媒の使用量は、0.05〜0.25モルの範囲が特に好ましい。
【0035】
酸付加工程を行う温度は、50〜150℃の範囲が好ましい。反応温度が50℃以上の場合、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、反応温度が150℃以下の場合、副生成物の生成を抑制できる傾向にある。反応温度は、70〜130℃の範囲であることが特に好ましい。
【0036】
酸付加工程には溶媒を使用することができる。溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は、常法によりあらかじめ脱水しておくと高い反応収率が得られるため好ましい。溶媒は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。ただし、収率が良好である点から、無溶媒で酸付加反応を行うことが好ましい。
【0037】
酸付加反応に要する時間は、バッチサイズ、酸触媒、反応条件により異なるが、1〜12時間の範囲であることが好ましい。反応時間が1時間以上の場合、収率が向上する傾向にあり、また、反応時間が12時間以下の場合、副生成物の生成が抑制できる傾向にある。反応時間は、2〜8時間の範囲であることが特に好ましい。
【0038】
酸付加工程では、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を共存させることが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されないが、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、p−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、フェノチアジン、N−ニトロソジフェニルアミン、銅塩、金属銅、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−[H−(OCH2CH2n−O]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(ただしn=1〜18)などが挙げられる。重合禁止剤は一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも重合抑制に有効である。
【0039】
酸付加工程終了後は、収率の点から、反応液に残留している未反応の飽和カルボン酸の少なくとも一部、好ましくは実質的に全てを除去しておくことが好ましい。
【0040】
酸付加工程で用いる飽和カルボン酸は沸点が低いため減圧により除去することが好ましい。通常は、温度40〜100℃、圧力5〜50torr(666.5〜6665Pa)の範囲で減圧除去可能である。温度が40℃以上で、圧力が50torr(6665Pa)以下である場合、除去の時間が短縮される傾向にあり、温度100℃以下で、圧力が5torr(666.5Pa)以上である場合、生成した酸付加体が散逸しにくい傾向がある。温度50〜70℃、圧力10〜30torr(1333〜3999Pa)の範囲が特に好ましい。
【0041】
一方、酸触媒の存在下で酸付加反応を行った場合、反応後に残留した酸触媒は容易に減圧除去できない。
【0042】
このため、水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ水溶液で反応液を水洗あるいは中和水洗して、酸触媒を除去する方法;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ粉末を加え、攪拌の後、中和塩をろ過して酸触媒を除去する方法;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等のアミンを加え、酸触媒を中和する方法等により、酸触媒を除去することが好ましい。中でも、酸触媒の除去が効果的に行える点から、アルカリ水溶液で中和洗浄して酸触媒を除去した後、有機溶媒で抽出する方法がより好ましい。抽出に用いる有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等が挙げられ、抽出効率が高く、溶媒の使用量が少なくできる点から、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましく、前記式(3)で表される化合物の純度が高くできる点から、トルエンおよびトルエンと酢酸エチルの混合溶媒が特に好ましい。
【0043】
下記式(2)で表される化合物はこの工程における副生成物として生成する。
【0044】
【化9】

【0045】
該副生成物は、例えば脱水条件で酸付加反応を行うことにより生成を抑制することができる。また、蒸留、カラムクロマトグラフィー等公知の方法で精製してもよい。ただし、前記式(2)で表される化合物は、次のエステル交換工程において、前記式(4)で表される化合物の原料として用いることができるので、このような生成抑制や低減処置を省略することにより製造コストを下げることもできる。
【0046】
得られた前記式(3)で表される化合物は、蒸留、カラムクロマトグラフィー等公知の方法で精製してもよいし、精製せず、そのまま次の工程に用いてもよい。次の工程での反応性が高くなる点では、蒸留精製することが好ましく、収率が高くなる点では精製を行わないことが好ましい。
【0047】
蒸留精製する場合は、蒸留収率が高いという点で、薄膜蒸留を用いることが望ましい。さらに、蒸留収率を高めるという点で、飽和カルボン酸付加体より沸点の高い物質を飽和カルボン酸付加体と混合して蒸留することが好ましい。飽和カルボン酸付加体より沸点の高い物質として例えばポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール800等のポリエチレングリコールを用いることができ、好ましくはポリエチレングリコール600である。
【0048】
3.エステル交換工程
本発明において、前記式(4)で表される化合物は、前記酸付加体と式(11)で表される(メタ)アクリル酸エステル1種または2種以上とをエステル交換させるエステル交換反応によって製造する(反応式(II))。
【0049】
【化10】

【0050】
(反応式(II)中、R5は任意の置換基である)
5は通常炭素数1〜4のアルキル基、またはアルケニル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、ブチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基等が挙げられ、反応性が高い点から、メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基が好ましく、副生成物が少ない点から、イソプロピル基が好ましい。
【0051】
また、前記式(11)で表される(メタ)アクリル酸エステルは、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上用いる場合は、(メタ)アクリル酸エステルを始めから混合して用いてもよいし、一方を後から添加してもよい。
【0052】
前記式(11)で表される(メタ)アクリル酸エステルの使用量は、前記式(3)で表される化合物の合計1モルに対して、2〜15モルの範囲であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの使用量が2モル以上の場合、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、(メタ)アクリル酸エステルの使用量が15モル以下の場合、(11)で表される(メタ)アクリル酸エステルの除去の時間が短縮できる傾向にある。(メタ)アクリル酸エステルの使用量は特に3〜10モルの範囲が好ましい。
【0053】
エステル交換反応を行う際には、通常、触媒を使用する。触媒は、エステル交換反応を進行させるものであれば、特に限定されないが、例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン類;ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどのジアルキル錫オキシド類;アルミニウムアルコキシレートおよびアルカリ金属アルコキシレート類が挙げられ、反応性の面からテトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシチタンが好ましく、副生成物が少ない点から、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド、テトラメトキシチタンが好ましく、反応性が優れ、副反応が少ない点から、テトラメトキシチタンが特に好ましい。また、反応性が優れる点から、テトライソプロポキシチタンが好ましく、さらに、テトライソプロポキシチタンを含む2種以上の触媒を併用すると副生成物が減少するため特に好ましい。併用する触媒としては、テトラメトキシチタン、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドが、副生成物が少なく、好ましく用いることができる。
【0054】
このようなエステル交換触媒の使用量は、少ないと反応が進行しにくく、多いと副生成物が増加し、反応後のエステル交換触媒を溶解させることが困難である。エステル交換触媒の使用量は、原料である前記式(3)で表される化合物1モルに対して、0.01〜0.2モルの範囲が好ましい。エステル交換触媒の使用量が、0.01モル以上の場合、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、エステル交換触媒量が、0.2モル以下の場合副生成物の生成が抑制できる傾向にある。エステル交換触媒量は、0.05〜0.15モルの範囲が特に好ましい。
【0055】
また、エステル交換触媒は、全量を一度に仕込んでもよいし、数回に分けて加える方法を採ってもよい。エステル交換反応を十分に進行させるには、下記に示される反応温度に達してから加えるのが好ましい。エステル交換触媒を二種以上用いる場合には、全量を一度に仕込んでもよいし、いずれかのエステル交換触媒を任意のタイミングで加えても良い。
【0056】
エステル交換反応の反応温度は、50〜150℃の範囲であることが好ましい。反応温度が、50℃以上の場合、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、反応温度が、150℃以下の場合、副生成物の生成および重合を抑制する傾向がある。反応温度は、80〜130℃の範囲が特に好ましい。
【0057】
エステル交換反応の時間は、バッチサイズ、エステル交換触媒、反応条件により異なるが、1〜12時間の範囲であることが好ましい。反応時間が1時間以上の場合、収率および反応速度を向上させることができる傾向にある。また、反応時間が12時間以下の場合、副生成物の生成および重合を抑制することができる傾向がある。反応時間は、2〜8時間の範囲が特に好ましい。
【0058】
エステル交換反応の際に、系内の水分が多いと触媒活性が低下したり副生成物が増加したりするため、エステル交換反応を開始する前に系内の水分を除去しておくことが好ましい。エステル交換反応を開始する前の系内の水分量としては、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましい。水分を除去する方法としては、特に限定されないが、例えばディーン・スタークトラップやデカンター等の装置を用いて、トルエン等の高沸点溶剤と共沸させる方法が挙げられる。
【0059】
また、エステル交換反応を行う際には、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を共存させることが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されず、酸付加工程で使用するものと同様のものが使用できる。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも有効である。
【0060】
エステル交換反応終了後は、反応液をそのまま濃縮し、蒸留、カラムクロマトグラフィー等で精製してもよいが、精製後にエステル交換触媒が残存する場合があることから、エステル交換触媒を溶解した後に精製することが好ましい。エステル交換触媒の溶解は、必要に応じて反応液を有機溶媒で希釈し、水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ水溶液で反応液を水洗あるいは中和水洗することによって行ってもよいし、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ粉末を加え、攪拌の後、中和塩をろ過することで行ってもよいし、水および塩酸、硫酸等の酸を加え、エステル交換触媒を溶解させることによって行ってもよい。工程が簡略であり、生成物の収率が良好であることから、水および酸を加え、エステル交換触媒を溶解させる方法が好ましい。
【0061】
特に、エステル交換触媒として広く用いられるテトラアルコキシチタン類は、水と接触した際に大量の不溶物が発生し、これを溶解するのが困難である。テトラアルコキシチタン類は、一方で、酸と接触させることで不溶物が発生するが、これは水溶性の塩であるため水を加えると溶解する。したがって、本発明において、テトラアルコキシチタン類を溶解するためには、反応液に酸を加えた後に、水を加えて溶解し、溶解することが好ましい。そのために添加する酸としては特に限定されないが、使用量が少なくできる点から、硫酸、硝酸、塩酸等の強酸が好ましく、取り扱いが容易である点から、硫酸が特に好ましい。
【0062】
エステル交換触媒の溶解の際、希釈に用いる有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等が挙げられ、抽出効率が高く、溶媒の使用量が少なくできる点から、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテルが好ましく、収率が良好である点からトルエン、酢酸エチルがより好ましい。
【0063】
得られた前記式(4)で表される化合物の混合物は、カラムクロマトグラフィー、(減圧)蒸留等で精製することが好ましく、溶媒、微量金属等の不純物が低減できる点から、単蒸留、薄膜蒸留等の減圧蒸留によって精製することがより好ましい。蒸留を行う際には、重合が起こる場合があるため、重合禁止剤を共存させることが好ましい。重合禁止剤としては、重合を抑制するものであれば特に限定されず、酸付加工程で使用するものと同様のものが使用できる。また、空気あるいは酸素を吹き込みながら反応を行うことも重合抑制に有効である。
【0064】
本発明の製造方法によって得られる(メタ)アクリル酸エステルの具体例を以下に示す。式中、R1は水素原子またはメチル基を表す。
【0065】
【化11】

【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で得られた中間体および生成物は1H−NMRにより同定を行った。
【0067】
1H−NMRの測定>
日本電子(株)製、JNM−GX270型FT−NMR(商品名)を用いて、約5質量%の試料の重水素化クロロホルム溶液を直径5mmφの試験管に入れ、測定温度25℃、観測周波数270MHz、シングルパルスモードにて、16回の積算で行った。
【0068】
<ガスクロマトグラフィー>
サンプリングした試料をアセトンに希釈し、J&W Scientific製キャピラリーカラムDB−5を装着したヒューレット・パッカード製ガスクロマトグラフ5890シリーズII(商品名)を用いて分析した。
【0069】
<実施例1>
8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その1)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オン 130g(0.87モル)、ギ酸208.6g(4.35モル)を仕込み、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸7.7ml(0.087モル)を徐々に加えた後、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコ内の温度を100℃に保ったまま、6時間反応させた。
【0070】
反応終了後、反応液を冷却し60℃、2660Paの条件で未反応のギ酸を除去した。その後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル400ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液400mlを加えた。これを分液ロートに移し、分液した後、さらに水層から、400mlの酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチル層を合わせて、20%食塩水400mlで洗浄した。この酢酸エチル層をエバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した後、濃縮液を減圧蒸留したところ、下記式(5)で表される8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が88.4g(0.45モル、収率51.8%)得られた。この時の釜残は5.6gであった。
【0071】
【化12】

【0072】
8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その1)
攪拌機、温度計、ディーン・スタークおよび還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、得られた8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物を78.5g(0.40モル)、アクリル酸エチル200.2g(2.00モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.12gを仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、100℃まで温度を昇温した。その後、テトライソプロポキシチタン70.1g(0.02モル)を添加し、フラスコの温度を100℃に保ったまま、5.5時間反応させた(エステル交換工程)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、転換率93.6%で下記式(6)で表される8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が生成していることが確認された。
【0073】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル243mlで希釈し、濃硫酸6.92mlを加えたところ沈殿が生成した。ここに水264mlを加えたところ、沈殿は溶解した。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、酢酸エチル層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液264mlで洗浄した。これをエバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した後、濃縮液を、減圧蒸留により精製したところ、下記式(6)で表される8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が62.2g(0.28モル、収率70.0%)得られた。この時の釜残は0.62gであった。
【0074】
【化13】

【0075】
<実施例2>
8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その2)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オン 130g(0.87モル)、ギ酸208.6g(4.35モル)、メタンスルホン酸17.7g(0.17モル)を仕込み、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコ内の温度を100℃に保ったまま、6時間反応させた。
【0076】
反応終了後は実施例1と同様の方法で後処理して、前記式(5)で表される8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が86.1g(0.44モル、収率50.4%)得られた。この時の釜残は5.2gであった。
【0077】
8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その2)
攪拌機、温度計、ディーン・スタークおよび還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、得られた8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物を78.5g(0.40モル)、アクリル酸メチル172.2g(2.00モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.10g、テトライソプロポキシチタン70.1g(0.02モル)、n−ヘキサン4mlを仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、80℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を80℃に保ったまま、5時間反応させた(エステル交換工程)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、転換率88.3%で前記式(6)で表される8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が生成していることが確認された。
【0078】
反応終了後は実施例1と同様の方法で後処理して、前記式(6)で表される8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が57.8g(0.26モル、収率65.0%)得られた。この時の釜残は0.50gであった。
【0079】
<実施例3>
8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その3)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オン 130g(0.87モル)、ギ酸208.6g(4.35モル)、p−トルエンスルホン酸33.1g(0.17モル)を仕込み、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコ内の温度を100℃に保ったまま、5時間反応させた。
【0080】
反応終了後は実施例1と同様の方法で後処理して、前記式(5)で表される8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が86.5g(0.44モル、収率50.7%)得られた。この時の釜残は5.2gであった。
【0081】
8−および9−メタクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その1)
攪拌機、温度計、ディーン・スタークおよび還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、得られた8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物を78.5g(0.40モル)、メタクリル酸t−ブチル284.4g(2.00モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.17gを仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、100〜120℃で反応した。その後、テトライソプロポキシチタン70.1g(0.02モル)を添加し、フラスコの温度を80℃に保ったまま、6時間反応させた(エステル交換工程)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、転換率89.9%で下記式(7)で表される8−および9−メタクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が生成していることが確認された。
【0082】
反応終了後は実施例1と同様の方法で後処理して、前記下記式(7)で表される8−および9−メタクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が68.0g(0.29モル、収率72.0%)得られた。この時の釜残は0.5gであった。
【0083】
【化14】

【0084】
<実施例4>
8−および9−ホルミオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた3Lガラス製三口フラスコに、4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オン 264.7g(1.74モル)、ギ酸417.2g(8.7モル)を仕込み、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15.4ml(0.174モル)を徐々に加えた後、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコ内の温度を100℃に保ったまま、6時間反応させた。
【0085】
反応終了後、反応液を冷却し60℃、2660Paの条件で未反応のギ酸を除去した。その後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル800ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液800mlを加えた。これを分液ロートに移し、分液した後、さらに水層から、800mlの酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチル層を合わせて、20%食塩水800mlで洗浄した。この酢酸エチル層をエバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した後、濃縮液を減圧蒸留したところ、下記式(8)で表される8−および9−ホルミオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が34.8g(0.18モル、収率10.1%)得られた。この時の釜残は0.9gであった。
【0086】
【化15】

【0087】
8−および9−メタクリロイルオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成
攪拌機、温度計、ディーン・スタークおよび還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、得られた8−および9−ホルミオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物を29.7g(0.15モル)、メタクリル酸メチル75.1g(0.75モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.05g、テトライソプロポキシチタン2.13g(0.0075モル)を仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、100℃に昇温した。フラスコの温度を100℃に保ったまま、5時間反応させた(エステル交換工程)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、転換率91.5%で下記式(9)で表される8−および9−メタクリロイルオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が生成していることが確認された。
【0088】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル91mlで希釈し、濃硫酸6.92mlを加えたところ沈殿が生成した。ここに水99mlを加えたところ、沈殿は溶解した。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、酢酸エチル層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液99mlで洗浄した。これをエバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した後、濃縮液を、減圧蒸留により精製したところ、下記式(9)で表される8−および9−メタクリロイルオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が25.3g(0.11モル、収率70.8%)得られた。この時の釜残は0.30gであった。
【0089】
【化16】

【0090】
<比較例1>
8−および9−ヒドロキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた2Lガラス製三口フラスコに、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]−8−デセン−3−オン 52.6g(0.35モル)、ギ酸71.7g(1.56モル)を仕込み、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸5.3g(0.035モル)を徐々に加えた後、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコ内の温度を100℃に保ったまま、6時間反応させた。
【0091】
反応終了後、反応液を冷却し60℃、2660Paの条件で未反応のギ酸を除去した。その後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル160ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液160mlを加えた。これを分液ロートに移し、分液した後、さらに水層から、160mlの酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチル層を合わせて、20%食塩水160mlで洗浄した。この酢酸エチル層をエバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した後、濃縮液を減圧蒸留したところ、前記式(5)で表される8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が35.3g(0.18モル、収率51.4%)得られた。この時の釜残は、2.20gであった。
【0092】
次いで、攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた1Lガラス製三口フラスコに、得られた8−および9−ホルミオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物35.3g(0.18モル)、メタノール100mlを入れた。攪拌しながら、これに10%水酸化カリウム水溶液100gを加え、室温で12時間攪拌してアルカリ加水分解し、メタノールをエバポレーターで30℃、3990Paの条件で留去した。これを酢酸エチル100mlで3回抽出し、酢酸エチル層を合わせて水150mlで洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した。濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、下記式(10)で表される8−および9−ヒドロキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が24.3g(0.14モル、収率80.3%)得られた。この時の釜残は0.23gであった。
【0093】
【化17】

【0094】
8−および9−メタクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物の合成(その2)
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた0.5Lガラス製三口フラスコに、得られた8−および9−ヒドロキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物を18.5g(0.11モル)、脱水ジクロロメタン90mlを入れた。滴下ロートの一方にはトリエチルアミン14.5g(0.14モル)、もう一方にはメタクリル酸クロライド13.8g(0.13モル)を仕込み、フラスコの内部を窒素置換して氷浴で内温を約2℃にした。そして、フラスコ内を攪拌しながらトリエチルアミンとメタクリル酸クロライドを、メタクリル酸クロライドに対して取りエチルアミンが若干過剰になるように調製しながら、50分かけて滴下した。滴下終了後、ジメチルアミノピリジン0.27g(0.002モル)を加えて内温が室温に戻るのに任せて24時間反応させた。
【0095】
この反応液に水90mlを注意しながら加えしばらく攪拌し、分液ロートで分液後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液90mlで洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレーターで40℃、2660Paで濃縮した。濃縮液を、減圧蒸留により精製したところ、前記式(7)で表される8−および9−メタクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物が17.5g(0.07モル、収率67.3%)得られた。この時の釜残は1.30gであった。
【0096】
<比較例2>
5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた3Lガラス製三口フラスコに、2−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン350.0g(アルドリッチ社製、2.9モル)、ギ酸676.5g(14.7モル)、p−トルエンスルホン酸111.7g(0.59モル)を仕込み、攪拌しながら100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を100℃に保ったまま、3時間反応させた(酸付加工程)。反応終了後、反応液を冷却し60℃、18torr(2399Pa)の条件で未反応のギ酸を除去した(酸除去工程)。その後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、トルエン900ml、酢酸エチル900ml、水720mlを加えた。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン/酢酸エチル層を濃縮し減圧蒸留したところ、下記式(11)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメート135.7g得られた。この時の釜残は65.0gであった。
【0097】
この組成物をサンプリングしガスクロマトグラフィーにより分析したところ、下記式(11)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物が92.5%含まれており、純分換算で下記式(11)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物が2.3モル(収率79%)であることが分かった。
【0098】
【化18】

【0099】
5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物の合成
攪拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた3Lガラス製三口フラスコに、得られた5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−ホルメートの混合物を含む組成物135.7g、メタクリル酸メチル411.2g(3.1モル)、テトライソプロポキシチタン23.4g(0.08モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.14gを仕込み、エアーバブリングおよび攪拌を行いながら、100℃まで温度を昇温した。その後、フラスコの温度を100℃に保ったまま、2時間反応させた(エステル交換工程)。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、生成物の93.5%が下記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物であることが確認された。
【0100】
反応終了後、反応液を氷浴で冷却し、攪拌しながら、酢酸エチル410mlで希釈し、硫酸53gを加えたところ沈殿が生成した。ここに水410mlを加えたところ、沈殿は溶解した。これを分液ロートに移し、水層を除去した後、トルエン層を濃縮した。この濃縮液を、減圧蒸留により精製したところ、下記式(12)で表される5−および6−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプチル−2−メタクリレートの混合物が145.0g(2.12モル、全収率73%)得られた。この時の釜残は、4.35gであった。
【0101】
【化19】

【0102】
本発明の製造方法(実施例1、2、3および4)によれば、8−および9−アクリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物、8−および9−メタリロイルオキシ−4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物、並びに8−および9−メタクリロイルオキシ−4,10−ジオキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オンの混合物を収率良く、また、工程数を少なく製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルを収率良く、また、工程数を少なく製造する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物に飽和カルボン酸を付加して飽和カルボン酸付加体を製造する酸付加工程と、
前記飽和カルボン酸付加体と(メタ)アクリル酸エステルとをエステル交換させるエステル交換工程と、
を順次行う下記式(4a)または(4b)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】

(式(1)中、A1およびA2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいはA1とA2とが一緒になって−O−、−S−、または炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、または炭素数1〜6のアルコールでエステル化されたカルボキシ基を表す。式(4a)および(4b)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、A1およびA2、R2およびR3は式(1)と同義である。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物として、下記式(1−1)で表される化合物を使用した請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記式(1)で表される化合物として、下記式(1−2)で表される化合物を使用した請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化3】


【公開番号】特開2008−162946(P2008−162946A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354349(P2006−354349)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】