説明

(+)−(S)−クロピドグレル重硫酸塩形態−Iの新規な製造方法

本発明は、血小板凝集抑制剤の新規な製造方法に関する。特に、本発明は、下記式のメチル-(+)-(S)-α-(2-クロロフェニル)-6,7-ジヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン-5(4H)-アセタート重硫酸塩形態Iの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、血小板凝集抑制剤の新規な製造方法に関する。特に、本発明は、下記式のメチル-(+)-(S)-α-(2-クロロフェニル)-6,7-ジヒドロチエノ[3,2-c]ピリジン-5(4H)-アセタート重硫酸塩(bisulfate)形態Iの製造方法に関する。
【化1】

【0002】
(発明の背景)
クロピドグレルは血小板凝集の抑制剤である。その血小板抑制活性により、クロピドグレルは虚血性脳卒中または心臓発作の発症の抑制に有効な薬剤となる。クロピドグレルは血小板凝集を抑制することによって動脈閉塞となる可能性を減らし、その結果脳卒中および心臓発作を予防する。最近の研究により、クロピドグレルはアスピリンと比較して血小板凝集をより効果的に阻害することが示されている。クロピドグレルは、はるかに低い用量においてさえ、アスピリンよりはるかに効果が高い。より効果が高いことに加え、クロピドグレルはアスピリンと比べて消化管出血を引き起こすことがはるかに少ない。
欧州特許第281459号は、テトラヒドロチエノピリジン誘導体の鏡像異性体および医薬的に許容されるそれらの塩について説明する。この特許は、クロピドグレル硫酸水素塩(hydrogen sulfate)(即ち右旋性異性体であり、優良な血小板凝集抑制活性を有する;一方で左旋性異性体は活性がより低い)について特にクレームする。EP 281459は、クロピドグレル硫酸水素塩の具体的な多形体の存在について言及していない。
クロピドグレルの右旋性異性体は、アセトン中の10-L-カンファースルホン酸などの光学活性酸を使用してラセミ化合物から塩形成し、次いで、一定の旋光能を有する生成物が得られるまで塩の継続的再結晶化を行い、次いで、塩基により右旋性異性体をその塩から解離させることにより調製される。その後、前記塩基を氷冷アセトンに溶解し、そして濃硫酸を添加して沈殿させるという標準的方法によって、クロピドグレル硫酸水素塩を得る。その後、このようにして得た沈殿を濾過により単離し、洗浄し、乾燥して白色結晶の形態のクロピドグレル硫酸水素塩を得る。米国特許第4,874,265号;第5,132,435号;第6,258,961号、第6,215,005号および第6,180,793号は、クロピドグレル硫酸水素塩の調製に使用し得る方法について説明する。
【0003】
クロピドグレル重硫酸塩形態IおよびIIは、国際公開番号WO 99/65915で初めて開示されたが、しかしながら形態-IはもともとEP 281459で開示された。米国特許第6,429,210号;第6,504,030号および米国特許出願2002/019829 A1は、クロピドグレル硫酸水素塩形態IおよびIIの製造方法を開示する。これらの多形体は、クロピドグレルカンファー硫酸塩をアセトンに溶解し、次いで周囲温度で濃硫酸を添加することによって調製される。余分のアセトンを蒸留し、残渣を0-5℃に冷却し、次いで濾過してクロピドグレル形態-Iを得る。クロピドグレルの形態-IIは、3-6ヶ月の期間の後に残りの母液から得られる。これらの米国特許は形態-I単独の製造方法は開示しておらず、従って、クロピドグレル硫酸水素塩形態-Iの収率に大きなロスがある。米国特許出願2003/0114479は、クロピドグレル硫酸水素塩形態-I、II、III、IV、Vおよびアモルファス形態の製造方法を開示する。前記出願はまた、アモルファスなクロピドグレル硫酸水素塩からのクロピドグレル硫酸水素塩形態-Iの調製についてクレームする。米国特許出願2003/0114479の明細書は、アルコールとエーテルの様々な組み合わせを使用して、収率56-88%でクロピドグレル硫酸水素塩形態-Iを調製する方法を開示する。
【0004】
本発明
本発明は、クロピドグレル重硫酸塩(bisulfate)またはメチル-(+)-(S)-α-(2-クロロフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2,-c]ピリジン-5-アセタートの重硫酸塩を調製するための新規な方法に関する。より具体的には、本発明は、以下の式を有するクロピドグレル重硫酸塩形態-1を調製するための新規方法に関する。
【化2】

【0005】
イソプロピルアルコール、イソプロピルエーテル、2-ブタノール等の単一溶媒では形態-Iと形態-IIの混合物が生じた(IR値およびXRD値により証明)。種結晶として純粋な形態-Iをアセトン内で使用した場合であっても、(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-IIしか得られなかった。
(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iを良好な収率および高純度形態で得るために最適な溶媒は、酢酸エチルであることが観察された。クロピドグレル重硫酸塩の形態-Iは、IRおよびXRDによって十分に特徴付けられている。これらの値は形態-Iについて報告された値(米国特許6,429,210 B1において報告されたもの)と同一である。酢酸エチル溶媒を使用して調製されたクロピドグレル重硫酸塩形態-IのHPLC純度は99%を超えていることが明らかになった。我々の方法では融点の上昇が観察された。即ち、米国特許6,429,210 B1に開示された181.2℃に対し、198から200℃であった。この融点の上昇は、形態-Iの純度が“210号”特許において報告されたものより高いことを示す。
エステル溶媒、より具体的には酢酸エチル内でクロピドグレル重硫酸塩を製造する本発明の方法は、従来技術において報告された他の溶媒の組み合わせと比較して所要時間が短い。さらには、形態-Iの収率と純度がそれぞれ88%、99%であることが観察された。クロピドグレル重硫酸塩形態-Iについて、この方法により得た収率および純度は従来技術で報告されたものより優れている。クロピドグレル重硫酸塩形態-Iの比旋光度[α]D20 は、1.61gm/メタノール100mlの濃度で、+55.16°であった。クロピドグレル重硫酸塩は、1H NMR分析、13C NMR分析、質量分析およびCHN分析により特徴づけられる。(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iは、IR分析、XRD分析および融点分析に基づいて確認された。
【0006】
これらの値は以下のように表にまとめられる。比較のため、表には形態-IIの値を併せて示す。
(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iおよび形態-IIのIR、XRD、HPLC純度、融点および比旋光度は、以下のように表にまとめられる。
表:(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iおよび形態-IIの比較用の分析データ

【0007】
この方法により得た形態-Iは安定であることが判明し、他の形態には変換しない。
本発明の方法のこれらすべての技術的および経済的利点に加えて、所望の生成物、即ちクロピドグレル重硫酸塩形態-Iの収率および質が非常に優れたものとなった。本発明の方法は工業規模に適している。
以下の実施例は本発明をより明確に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0008】
(実施例)
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明をこれらに限定するものではない。
(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iの調製
(a) (+)-(S)-クロピドグレルの分割
ラセミ化合物であるクロピドグレル塩基12gm(0.037mole)(米国特許第4,529,596号に説明される手順に従って調製)をアセトン(100ml)に溶解し、そこに、20℃で、20mlアセトン中のL-カンファー-10-スルホン酸5.196gm(0.037mole)の溶液を滴下した。この混合物を還流温度で7〜8時間加熱し、そして室温に冷却した。この混合物に種結晶として(+)-(S)-クロピドグレル-カンファー-スルホン酸塩(塩基の2.5重量%)を添加し、室温で10-12時間撹拌した。生成物を吸引濾過して(+)-(S)-クロピドグレル-カンファー-スルホン酸塩を得、そしてアセトンで洗浄して5.20gmの生成物を得た。(+)-(S)-クロピドグレルは文献に基づいた比旋光度に基づいて特徴付けられ、(+)-(S)-クロピドグレルの [α]D20 は、1.68gm/メタノール100mlの濃度で+24.70°であることが明らかになった。上記化合物5.20gmを最小限量の水で処理し、5℃で重炭酸ナトリウムでアルカリ性にし、得られた混合物をジクロロメタン内で抽出し、次いで溶媒を除去することによって、収量4.92gmおよび純度99.96%(HPLCに基づく)の形態で、油状の(+)-(S)-クロピドグレルが得られた。
(+)-(S)-クロピドグレルの構造は、1H NMR、13C NMRおよび比旋光度などのスペクトル値に基づいて特定した。
【0009】
(b) (+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-I
(+)-(S)-クロピドグレル4.50gm(0.0139mole)を酢酸エチル50mlに溶解し、そして種結晶として(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-I(塩基の2.5重量%)を添加した。撹拌の最中に、濃硫酸1.50gm(0015mole)を室温で与える。すべてを添加した後、反応スラリーを還流温度で1時間過熱する。次いで、それを室温で1時間撹拌する。次いで、生成物を吸引濾過して酢酸エチルで洗浄し、その後60-70℃で6-8時間減圧乾燥する。完全に乾燥させた後に、純度99.96%および1.61gm/メタノール100mlの濃度で[α]D20 = +55.1°である、4.0gmの(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iを得た。
この(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-I は、1H NMR分析、13C NMR分析、質量分析およびCHN分析により特徴付けられる。(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩の形態-Iは、IR、XRDおよび融点等に基づいて確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が99.96であり、1.61gm/メタノール100mlの濃度で[α]D20 = +51.16°であり、粒径が約62〜約426μmである、(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-I。
【請求項2】
請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
B) (+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iを形成するのに十分な時間、酢酸溶媒中で硫酸溶液に、
A) 下記式の化合物を接触させる工程、
【化1】

および
C) (+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iを単離する工程、
を含む、(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iの調製方法。
【請求項4】
(+)-(S)-クロピドグレルと濃硫酸とのモル比が約1:1である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶媒が酢酸溶媒である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
溶媒が酢酸エチルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(+)-(S)-クロピドグレルに、種結晶として(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iが添加される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
種結晶の添加が、(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iの約1.5〜約3.5重量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iが2.5重量%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
硫酸が濃硫酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
硫酸が室温で添加される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
接触の工程が還流温度で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
(+)-(S)-クロピドグレルが還流温度で約30分〜約1.5時間加熱される、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
加熱時間が約1時間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
加熱の終了後に混合物が室温で約45分〜約1.5時間撹拌される、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
撹拌時間が約1時間である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(+)-(S)-クロピドグレル重硫酸塩形態-Iの純度が99%より高い、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
単離収率が約85〜約95%である、請求項3に記載の方法。
【請求項19】
単離収率が約89%である、請求項3に記載の方法。

【公表番号】特表2007−516934(P2007−516934A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507351(P2005−507351)
【出願日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【国際出願番号】PCT/IB2003/003104
【国際公開番号】WO2005/012300
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(503070889)ウォックハート・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】Wockhardt Limited
【Fターム(参考)】