説明

(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体の製造法

【課題】
医薬品中間体として有用な(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体を、簡便かつ工業的に有利に製造できる方法を提供する。
【解決手段】
(2R,3S)又は(2S,3R)−3−フェニルグリシド酸塩をアンモニアと反応させ(2R,3R)又は(2S,3S)−3−フェニルイソセリン塩あるいは、さらに中和して(2R,3R)又は(2S,3S)−3−フェニルイソセリンとした後に、晶析により精製を行うことで副生する位置異性体を効率的に除去することができる。また、晶析に付したもしくは付していない上記化合物を通常の方法でエステル化し、晶析精製することで、位置異性体ならびに他の不純物を効率的に除去することができる。本製造法により、(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体を簡便かつ工業的に有利に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として有用な(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体の製造法としては、例えばフェニル基とカルボキシル基がトランス位である3−フェニルグリシド酸塩をアンモニアと反応させ、得られたエリスロ−3−フェニルイソセリン塩をエステル化した後に、光学活性酒石酸を用いて分割する方法(特許文献1)が知られている。
【0003】
しかしながら上記方法は分割法であるがゆえに最高収率は50%であり、工業的に生産するにあたり実用的かつ経済的な方法とは言い難い。
【0004】
光学活性な(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルグリシド酸塩とアンモニアを反応させれば分割することなく(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン塩を得ることができ、中和することにより(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリンを、さらにエステル化することにより(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリンエステルを得ることができる。このような方法としては、桂皮酸誘導体の不斉エポキシ化により得た光学活性3−フェニルグリシド酸誘導体を開環させる方法が知られているものの、具体的方法は開示されておらず、工業的に実施可能かどうか不明である(特許文献2)。
【0005】
また、桂皮酸誘導体の不斉エポキシ化により光学活性な3−フェニルグリシド酸塩を得る方法は、多くの例が報告されている(例えば非特許文献1〜3)ものの、いずれも高価であったり毒性が懸念される試薬や触媒を用いる必要があり、工業的に有利な製法とするには改善すべき点が多い。
【0006】
一方、上記光学活性な3−フェニルグリシド酸塩は、2−クロロ−3−オキソ−3−フェニルプロピオン酸エステルを不斉還元して得られる光学活性な2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エステルを、適当な溶媒(例えば、低級アルカノール)中、塩基(例えば、アルカリ金属アルコキシド)の存在下、−10から50℃、とりわけ0℃〜室温で分子内閉環し、そこに水を添加してエステル基を加水分解することによっても得ることができる。
【0007】
光学活性な2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エステル誘導体の製法としては、微生物を用いて2−クロロ−3−オキソ−3−(p−メトキシフェニル)プロピオン酸メチルを不斉還元して3Rまたは3S−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−(p−メトキシフェニル)プロピオン酸メチルを製造する方法が知られている(特許文献3)。しかしながら、仕込濃度(0.2%)及び収率(1〜60%)が低く、実用的製法とはいい難い。また、アンチ体、とりわけ(2S、3S)体を高選択的に生成する微生物としてはアルスロバクター・プロトホルミエ及びストレプトマイセス・オリボクロモゲネス等が報告されているが、いずれも収率は5%以下である。
【0008】
さらに光学活性な3−フェニルグリシド酸塩が得られても、アンモニアとの反応においては、位置異性体である3−フェニルセリン塩の副生を避けることは困難であるが、その効率的な除去法は知られていない。
【0009】
単離精製法としては、当該化合物のジアステレオマーである(2R,3S)−3−フェニルイソセリン塩の晶析による単離精製方法は知られているが(特許文献4)、同様な方法で(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン塩が単離されるかどうかは不明である。
【0010】
したがって、医薬品中間体として有用な(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体の実用的かつ経済的な製造法の開発は強く待ち望まれている。
【特許文献1】WO2003/003804
【特許文献2】WO2005/058893
【特許文献3】特公平7−79706
【特許文献4】特表平6−504549
【非特許文献1】Tetrahedron 1994,50,4323
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc. 2002,124,14544
【非特許文献3】J.Org.Chem.2004,69,4217
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記を鑑み、本発明の目的は、(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体を簡便かつ工業的に有利に製造できる実用的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記に鑑み鋭意検討を行った結果、(2S,3S)あるいは(2R,3R)−3−フェニルグリシド酸またはその塩をアンモニアと反応させ(2R,3R)あるいは(2S,3S)−3−フェニルイソセリンまたはその塩とした後に、通常の方法でエステル化し(2R,3R)あるいは(2S,3S)−3−フェニルイソセリンアルキルエステルまたはその塩とする過程において、(2R,3S)あるいは(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸またはそのアルカリ塩とアンモニアの反応で副生する(2S,3S)あるいは(2R,3R)−3−フェニルセリンまたはその塩、あるいは続くエステル化において不純物として混在する(2S,3S)あるいは(2R,3R)−3−フェニルセリンエステルまたはその塩が、晶析により効率的に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は一般式(1);
【0014】
【化12】

【0015】
(式中、R1は置換基を有していてもよいフェニル基を表し、R2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基を表し、*1は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3S)あるいは(2S,3R)であることを表す)で表される化合物とアンモニアとの反応により得られる一般式(2);
【0016】
【化13】

【0017】
(式中、R1、R2は前記と同じ意味を表し、*2は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3R)あるいは(2S,3S)であることを表す)で表される化合物を、さらに晶析工程に付すことを特徴とする前記式(2)で表される化合物の製造法に関する。
【0018】
また、本発明は、前記式(1)で表される化合物とアンモニアとの反応により、前記式(2)で表される化合物とし、続いてエステル化し、得られる一般式(3);
【0019】
【化14】

【0020】
(式中、R1および*は前記と同じ意味を表し、R3はC1〜C4のアルキル基を表す)で表される化合物を、さらに、晶析工程に付すことを特徴とする前記式(3)で表される化合物の製造法に関する。
【0021】
また、本発明は一般式(5);
【0022】
【化15】

【0023】
(式中、R1、R3は前記と同じ意味を表す。Xはハロゲン原子を表す)で表される化合物に、当該化合物のカルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を作用させることによる、一般式(7);
【0024】
【化16】

【0025】
(式中、R1、R3および*2は前記と同じ意味を表す)で表される化合物の製造法に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明により医薬品中間体として有用な(2R,3R)および(2S,3S)−3−フェニルイソセリン誘導体を簡便かつ工業的に有利に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「置換基を有していてもよい」とは、他の原子あるいは置換基によって置換されていてもよいことを示す。「置換基」とは、反応に悪影響を与えない限り特に限定されるものではなく、具体的には、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0028】
まず、一般式(1);
【0029】
【化17】

【0030】
で表される化合物の製造法について説明する。前記式(1)で表される化合物(以下化合物(1))において、R1は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。置換基を有しても良いフェニル基としては、例えば、4−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−クロロフェニル基、又はフェニル基が挙げられ、好ましくは、フェニル基である。R2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基を表す。言うまでもなく化合物(1)は、R2がアルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基の場合にはこれらとのカルボン酸塩の形態である。アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウムが挙げられる。また、窒素性塩基としては、アンモニアおよびメチルアミン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミンなどの1級アミン類、ジメチルアミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの2級アミン類、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン類が挙げられる。R2として好ましくはアルカリ金属であるリチウム、カリウム、ナトリウム、または水素であり、さらに好ましくはナトリウムまたは水素であり、とりわけ好ましくはナトリウムである。*1は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3S)あるいは(2S,3R)であることを表し、好ましくは(2R,3S)体である。
【0031】
化合物(1)を得る方法としては特に制限されないが、以下に工業的規模で実施可能な、(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸塩を得る方法について説明する。
【0032】
一般式(5);
【0033】
【化18】

【0034】
で表される化合物のカルボニル基を不斉還元し、得られた一般式(6);
【0035】
【化19】

【0036】
または一般式(7);
【0037】
【化20】

【0038】
で表される化合物を、塩基で処理して環化した後、エステル基を加水分解することより得る方法が好ましい。ここで、前記式(5)で表される化合物(以下化合物(5))、前記式(6)で表される化合物(以下化合物(6))および前記式(7)で表される化合物(以下化合物(7))において、R1は前述のとおりである。R3はC1〜C4のアルキル基を表す。C1〜C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基が挙げられ、好ましくはエチル基である。Xはハロゲン原子を表し、例えばフッ素、臭素、塩素、ヨウ素が挙げられる。好ましくは塩素、臭素であり、塩素が特に好ましい。*は不斉炭素原子を表し、立体配置がSであることが好ましい。*2は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3R)あるいは(2S,3S)であることを表し、好ましくは(2S,3S)体である。
【0039】
まず、化合物(6)と化合物(7)の選択について説明する。化合物(6)を塩基で処理し環化反応を行うと、2位の立体配置によらずトランス型グリシド酸誘導体を生成することが知られている(Tetrahedron 1995,6,2211を参照)。すなわち2位の立体にかかわらず、化合物(1)を得ることができるため、どちらを選択してもよいが、より高い選択性において環化反応を行うためには、化合物(7)を選択することが好ましい。
【0040】
不斉還元の方法としては、化合物(6)または化合物(7)を高選択的に与える方法であれば、特に限定されないが、光学活性化合物によって修飾されたヒドリド還元剤を用いて還元する方法、不斉遷移金属触媒存在下に水素化する方法、不斉遷移金属触媒存在下に水素移動型で還元する方法、若しくは微生物、或いは微生物由来の酵素を用いて還元する方法等があげられる。工業的に実施するには微生物由来の酵素を用いて還元する方法が好ましい。以下に、例えば化合物(5)のカルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源の存在下、化合物(5)を立体選択的に還元することにより化合物(7)を得る方法について説明する。
【0041】
ここで、「酵素源」とは、上記還元活性を有する酵素自体はもちろんのこと、上記還元活性を有する微生物の培養物およびその処理物も含まれる。「微生物の培養物」とは、菌体を含む培養液あるいは培養菌体を意味し、また、その処理物であってもよい。「その処理物」とは、例えば、粗抽出液、凍結乾燥菌体、アセトン乾燥菌体、またはそれら菌体の破砕物等を意味する。さらに上記酵素源は、公知の手段で固定化して、固定化酵素又は固定化菌体として用いることもできる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行うことができる。
【0042】
本発明において、化合物(5)のカルボニル基を(2S,3S)選択的に還元する能力を有する酵素源としては、デボシア(Devosia)属、パエニバチルス(Paenibacillus)属、またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物由来の酵素源が挙げられ、好ましくは、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、パエニバチルス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、シュードモナス・プティダ(Pseudomonas putitda)、またはシュードモナス・ストゥトゼリ(Pseudomonas stutzeri)等の微生物由来の酵素源が挙げられる。化合物(5)のカルボニル基を(2R,3R)選択的に還元する能力を有する酵素源としては、デボシア(Devosia)属に属する微生物由来の酵素源が挙げられ、好ましくは、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)由来の酵素源が挙げられる。
【0043】
また、上記還元酵素の由来となる微生物としては、野生株または変異株のいずれでもよい。あるいは細胞融合または遺伝子操作等の遺伝学的手法により誘導される微生物も用いることができる。さらにはこれら微生物由来の還元酵素を生産する能力を有する組換え微生物であってもよい。該酵素を生産する組換え微生物は、例えば、これらの酵素を単離及び/または精製して酵素のアミノ酸配列の一部または全部を決定する工程、このアミノ酸配列に基づいて酵素をコードするDNA配列を得る工程、このDNAを他の微生物に導入して組換え微生物を得る工程、及びこの組換え微生物を培養して、本酵素を得る工程を含有する方法により得ることができる(WO98/35025を参照)。
【0044】
上記のような組換え微生物としては、上記還元酵素をコードするDNAを有するベクターで形質転換された形質転換微生物が挙げられる。また、宿主微生物としては大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。より好ましくは、上記デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)NBRC13584株由来のカルボニル還元酵素遺伝子(WO2004/027055参照)を有するベクターで形質転換されたEscherichia coli HB101(pNTDR) 受託番号FERM BP−08457(平成14年5月29日 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている)等が挙げられる。
【0045】
酵素源として用いる微生物のための培養培地は、その微生物が増殖し得るものである限り特に限定されない。例えば、炭素源として、グルコース、シュークロース等の糖質、エタノール、グリセロール等のアルコール類、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸及びそのエステル類、菜種油、大豆油等の油類、窒素源として、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、ふすま、酵母エキスなど、無機塩類として、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、燐酸1水素カリウム、燐酸2水素カリウムなど、他の栄養源として、麦芽エキス、肉エキス等を含有する通常の液体培地が使用することができる。培養は好気的に行い、通常、培養時間は1〜5日間程度、培地のpHが3〜9、培養温度は10〜50℃で行うことができる。
【0046】
本発明において、化合物(5)のカルボニル基の還元反応は、適当な溶媒に基質となる化合物(5)、補酵素NAD(P)H及び前記微生物の培養物またはその処理物等を添加し、pH調整下攪拌することにより行うことができる。
【0047】
反応条件は用いる酵素、微生物またはその処理物、基質濃度等によって異なるが、通常、基質濃度は約0.1〜100重量%、好ましくは1〜60重量%であり、補酵素NAD(P)Hは基質に対して0.0001〜100モル%、好ましくは0.001〜0.1モル%、反応温度は10〜60℃、好ましくは20〜50℃であり、反応のpHは4〜9、好ましくは5〜8であり、反応時間は1〜120時間、好ましくは1〜72時間で行うことができる。また、反応には有機系の溶媒を混合して用いてもよい。有機系溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ヘキサン、イソプロパノール、メタノール、ジイソプロピルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。基質は一括または連続的に添加して行うことができる。また、反応はバッチ方式または連続方式で行うことができる。
【0048】
本発明の還元工程において、一般に用いられる補酵素NAD(P)H再生系を組み合わせて用いることにより、高価な補酵素の使用量を大幅に減少させることができる。代表的なNAD(P)H再生系としては、例えば、グルコース脱水素酵素及びグルコースを用いる方法が挙げられる。
【0049】
還元酵素遺伝子及びこの酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素(例えばグルコース脱水素酵素)の遺伝子を同一宿主微生物内に導入した形質転換微生物、すなわち、本発明の還元酵素をコードするDNA及び該酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素(例えばグルコース脱水素酵素)の遺伝子を同一宿主微生物内に導入した形質転換微生物の培養物またはその処理物等を用いて、上記と同様の反応を行えば、別途に補酵素の再生に必要な酵素源を調整する必要がないため、より低コストで化合物(7)を製造することができる。
【0050】
上記のような形質転換微生物としては、上記還元酵素をコードするDNA及び該酵素が依存する補酵素を再生する能力を有する酵素をコードするDNAの両者を有するプラスミドで形質転換された形質転換微生物が挙げられる。ここで、補酵素を再生する能力を有する酵素としては、グルコース脱水素酵素が好ましく、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素が、また、宿主微生物としては大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。そのような好ましい形質転換微生物として、Escherichia coli HB101(pNTRDG1) 受託番号FERM BP−08458(平成14年5月29日 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている)が挙げられる。
【0051】
形質転換微生物の培養は、それらが増殖する限り、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む液体栄養培地を用いて実施できる。また、形質転換微生物中の補酵素再生能を有する酵素の活性は、常法により測定することができる。例えば、グルコース脱水素酵素の活性は、1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、100mMのグルコース、2mMの補酵素NADPまたはNAD、および酵素を添加し、25℃で1分間反応させた際の、波長340nmにおける吸光度の増加速度から算出できる。
【0052】
なお、本発明の還元工程を、補酵素再生系と組み合わせて実施する、または、酵素源として上記形質転換微生物の培養物もしくはその処理物を用いる場合は、補酵素として、より安価な酸化型のNAD(P)を添加して反応を行うことも可能である。
【0053】
還元反応で生じた化合物(7)は、常法により精製することが出来る。例えば、反応液を遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒を減圧下に除去し、そして減圧蒸留又はクロマトグラフィー等の処理を行う事により、精製することができる。
【0054】
化合物(7)の環化反応は、適当な溶媒中、塩基で処理することにより行うことができる。用いる塩基としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどの水素化アルカリ金属、水素化カルシウムなどの水素化アルカリ土類金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩を挙げることができる。上記の塩基のうち、好ましくはアルカリ金属アルコキシドであり、ナトリウムエトキシドが特に好ましい。塩基の使用量は、反応が円滑に進行すればよく特に限定されるものではないが、化合物(7)に対して1〜5モル倍量が好ましく、経済的観点から1〜2モル倍量が特に好ましい。使用する溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられるが、好ましくはアルコール類であり、エタノールが特に好ましい。
【0055】
続くエステル加水分解は、通常の方法(例えば実験科学講座22,日本化学会編,丸善株式会社を参照)において行えばよく、特に限定されるものではない。例えば、酸による方法およびアルカリによる方法のどちらでも可能であるが、化合物(7)の環化反応に過剰のナトリウムエトキシドを用いた場合には、水を加えることで系中に残存するナトリウムエトキシドが水酸化ナトリウムとなりそのまま加水分解反応を行うことができる。また残存するナトリウムエトキシドの量が少ない場合には、必要なアルカリを追加添加してやればよい。用いるアルカリの例としては、化合物(7)の環化反応において挙げたとおりであり、好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0056】
かくして得られた化合物(1)は、アンモニアとの反応により一般式(2);
【0057】
【化21】

【0058】
で表される化合物(以下化合物(2))に変換される。ここで、R1およびR2は、前記のとおりである。R2が水素原子である場合には、アミノ基が適当な酸との塩を形成していてもよい。塩を形成する酸としては、特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸またはメタンスルホン酸である。*2は前記に同じであるが、好ましくは(2R,3R)体である。原料として(2R,3S)体の化合物(1)を用いた場合は(2R,3R)体の化合物(2)が、(2S,3R)体の化合物(1)を用いた場合は(2S,3S)体の化合物(2)が得られる。
【0059】
次に、化合物(1)とアンモニアによるアミノ化反応により、化合物(2)に変換する工程について説明する。ここで用いる化合物(1)には前述の方法で得たものでも良いし、別途取得したものでも良い。
【0060】
本工程においては、一般式(8);
【0061】
【化22】

【0062】
で表される位置異性体が副生成物として生成する。前記式(8)で表される化合物(以下化合物(8))において、R1およびR2は前述のとおりである。R2が水素原子である場合には、アミノ基が適当な酸との塩を形成していてもよい。塩を形成する酸としては、特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸またはメタンスルホン酸である。*2は前記に同じである。化合物(8)の立体配置は、生成した化合物(2)において優先する立体配置と逆のものが優先して生成する。
【0063】
反応は有機溶媒中および/または水中で行われ、有機溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのクロロアルカン類、ベンゼンあるいはトルエンなどの置換ベンゼン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール類から選択される1種以上の溶媒を用いることができる。2種以上の混合溶媒を用いる場合には、その混合比は特に限定されるものではない。化合物(2)を収率良く得るためには、溶媒として水、または、水と有機溶媒の混合溶媒が好ましく、さらに好ましくは水である。
【0064】
アンモニアの使用量は、反応が円滑に進行し収率良く化合物(2)が得られれば特に限定されるものではないが、好ましくは化合物(1)に対して1〜100モル倍量であり、位置異性体である化合物(8)の副生を抑制し収率良く化合物(2)を得るためには、5〜50モル倍量であることが特に好ましい。アンモニアは、ガスとして用いてもよいし、水溶液あるいは適当な有機溶媒の溶液として用いてもよい。
【0065】
反応温度は、あまり低いと反応収率の低下もしくは反応完結までに長時間を要することがあり、逆にあまり高いと化合物(8)の副生が増加するだけでなく、反応器内が高圧となるため工業規模での製造において現実的ではない。好ましくは0〜100℃であり、特に好ましくは20〜80℃である。反応時間は、化合物(1)の消失が確認されるまで行えばよく、一般的には1〜36時間程度である。
【0066】
本反応において得られた化合物(2)を晶析工程に付すことにより化合物(8)およびその他の不純物を効率的に除去することができる。言うまでもなく、要求される化合物(2)の品質に応じて晶析工程を実施しなくとも良い。
【0067】
まず化合物(1)とアンモニアとの反応後に得られた化合物(2)を晶析する方法について説明する。晶析は、R2がアルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基でありカルボン酸塩の形態である化合物(2)、R2が水素原子である化合物(2)、あるいは化合物(2)においてR2が水素原子で、かつアミノ基が酸との塩を形成している化合物(2)のいずれにおいても実施することができるが、工業的規模での製造を考えた場合、工程数が短縮できまた煩雑な操作も少ないことから、R2がアルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基でありカルボン酸塩の形態である化合物(2)として、あるいはR2が水素原子である化合物(2)として行うことが好ましい。さらに好ましくは、R2がアルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基でありカルボン酸塩の形態である化合物(2)として行う場合である。いずれの晶析においても、1回の晶析において目的とする品質が得られない場合には2回以上、晶析を行い品質を向上させることができる。同じ晶析方法を繰り返し行ってもよいし、異なる化合物(2)の形態で晶析を行ってもよい。
【0068】
本晶析工程では化合物(8)で表される化合物を効率よく除去することができる。晶析溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのクロロアルカン類、ベンゼンあるいはトルエンなどの置換ベンゼン類、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサンあるいはペンタンなどのアルカン類、酢酸エチルあるいは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類および水からなる群から選択される1種以上の溶媒で行うことができ、晶析を行う化合物(2)の形態に応じて最適な溶媒を選択すればよい。
【0069】
好ましくは、一般式(4);
3OH (4)
(R3は前記に同じ)で表されるアルコール類及び水からなる群から選択される1種以上の溶媒であり、さらに好ましくは水およびエタノールである。
【0070】
アミノ化反応の後で、R2がアルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基でありカルボン酸塩の形態である化合物(2)として晶析を行う方法の例として、R2がナトリウムである場合について説明する。
【0071】
この場合の晶析溶媒としては、前述した溶媒群のうち水およびアルコール類から選択される2種以上を用いて行うことが好ましい。アルコールとしては、前記式(4)で表されるアルコール類が挙げられ、より具体的には、メタノール、エタノール、n−ブタノール、イソプロパノール、sec−ブタノール、t−ブタノールが挙げられる。これらの群より選択される2種以上のアルコールにより晶析を行ってもよいし、これらの群より選択される1種以上のアルコールと水により晶析を行うこともできる。好ましくは水とアルコールの組み合わせであり、特に好ましくは水とエタノールである。
【0072】
晶析はR2がナトリウムである化合物(2)の水溶液にエタノールを加えることにより実施できるが、前工程のアミノ化反応の溶媒が水の場合には、アンモニアを除去した後に所定量まで反応液を濃縮し、エタノールを加えることにより実施することができる。以下に、その方法について説明する。
【0073】
アミノ化反応後にアンモニアを除去し、水濃縮を行う場合の濃縮度としてはR2がナトリウムである化合物(2)の濃度が5〜50wt%の範囲が好ましく、良好な晶析収率でR2がナトリウムである化合物(2)を取得するためには10〜40wt%が特に好ましい。濃縮終了後、所定量のエタノールを加えるが、エタノールの量としては水に対して1〜20倍重量が好ましく、特に好ましくは5〜15倍重量である。晶析はエタノールを加えた後で所定温度まで加熱した後に、所定温度まで冷却することにより行われるが、その温度範囲は−20〜80℃の範囲が好ましく、不純物の除去率および晶析収率の観点からより好ましくは−5〜60℃の範囲である。
【0074】
次にアミノ化反応の後で、R2が水素原子である化合物(2)として晶析を行う方法について説明する。
【0075】
晶析溶媒としては、前述した溶媒群のうち水およびアルコール類から選択される2種以上を用いて行うことが好ましい。アルコールとしては、前記式(4)で表されるアルコール類が挙げられる。これらの群より選択される1種以上のアルコールと水、または水により晶析を行うこともでき、好ましくは水とエタノールまたは水単独である。
【0076】
前工程のアミノ化反応の溶媒が水の場合には、アンモニアを除去した後に所定量まで反応液を濃縮し、酸を加えて適当なpHに調整することにより晶析を実施することができる。以下に、その方法について説明する。
【0077】
水濃縮を行う場合の濃縮度としてはR2が水素原子である化合物(2)の濃度が5〜50wt%の範囲が好ましく、良好な晶析収率でR2が水素原子である化合物(2)を取得するためには10〜40wt%が特に好ましい。濃縮終了後、適当な酸を加えることにより所定のpHに調整することにより晶析を行う。加える酸としては特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸である。pHとしては、結晶が良好な収率で取得できるpHであれば特に限定されるものではないが、例えば4〜9の範囲であり、特に好ましくは5〜8の範囲である。
【0078】
水単独溶媒で所定のpHに調整しても結晶の取得率が低い場合には、エタノールなどのアルコールを添加することで晶析収率を向上させることができる。添加するエタノールの量としては、特に限定されるものではなく、十分な結晶の析出が認められるまで添加すればよい。晶析の温度範囲としては、−20〜80℃の範囲が好ましく、不純物の除去率および晶析収率の観点からより好ましくは−5〜60℃の範囲である。
【0079】
前記式(2)においてR2が水素原子で、かつアミノ基が酸との塩を形成している化合物を得たい場合には、例えば上記方法において得られたR2が水素原子である化合物(2)を適当な溶媒に溶解し、酸を添加して塩を形成させることにより得ることができる。
【0080】
ここで用いる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのクロロアルカン類、ベンゼンあるいはトルエンなどの置換ベンゼン類、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサンあるいはペンタンなどのアルカン類、酢酸エチルあるいは酢酸イソプロピルなどのエステル類、メチルエチルケトンなどのケトン類および水からなる群から選択される1種以上の溶媒で行うことができ、生成する塩が結晶として収率よく析出し、なおかつ品質の向上が認められる溶媒を選択すればよい。
【0081】
用いる酸としては、例えば蟻酸、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸または硫酸である。
【0082】
次に化合物(2)をエステル化し一般式(3);
【0083】
【化23】

【0084】
で表される化合物を得る方法について説明する。前記式(3)で表される化合物(以下化合物(3))において、R1およびR3は前記に同じである。化合物(3)においてアミノ基は適当な酸との塩を形成していても良い。化合物(3)の塩を形成する酸としては、特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸またはメタンスルホン酸であり、塩酸が特に好ましい。*2は前記に同じであり、好ましくは(2R,3R)体である。原料として(2R,3R)体の化合物(2)を用いた場合は(2R,3R)体の化合物(3)が、(2S,3S)体の化合物(2)を用いた場合は(2S,3S)体の化合物(3)が得られる。
【0085】
ここで用いる化合物(2)は、前述の方法にて化合物(1)とアンモニアの反応により得られた化合物(2)をそのまま用いてもよいし、晶析工程に付したものを用いても良い。
【0086】
エステル化は通常の方法(例えば実験科学講座22,日本化学会編,丸善株式会社を参照)において行えばよく、特に制限されるものではないが、例えば適当な酸の存在下、前記式(4)で表されるアルコール類との反応により行う方法について説明する。用いるアルコールとしては、所望のエステルに相当するアルコールを選択すればよく、その使用量は化合物(2)に対して5〜200モル倍量が好ましく、特に好ましくは10〜100モル倍量である。
【0087】
用いる酸としては、反応が良好な収率で進行すれば特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸であり、特に好ましくはメタンスルホン酸である。酸の使用量は、化合物(2)に対して2〜20モル倍量であり、好ましくは2〜10モル倍量である。
【0088】
反応温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは25℃から使用するアルコールの沸点までの範囲であり、特に好ましくは40℃から使用するアルコールの沸点の範囲である。反応時間は、化合物(2)の消失が確認されるまで行えばよく、特に制限されるものではないが一般的には1〜24時間程度である。
【0089】
反応後の後処理は通常の方法にて行えばよく、特に限定されるものではないが、例えば反応終了後に水を加え、さらに適当な塩基により中和した後にアルコールを除去し、残った水層のpHをアルカリ性にしてから適当な有機溶媒にて抽出を行うことにより化合物(3)を系中の無機塩と効率的に分離することができる。
【0090】
中和およびアルコール除去後に水層をアルカリ性とするための塩基としては、特に限定されるものではなく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩を挙げることができる。経済的観点および酸との反応によりガスを発生させることがないことなどから、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物の使用が好ましく、特に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0091】
抽出溶媒としては、化合物(3)を水層から効率的に抽出できる溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えばジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのクロロアルカン類、ベンゼンあるいはトルエンなどの置換ベンゼン類、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサンあるいはペンタンなどのアルカン類、酢酸エチルあるいは酢酸イソプロピルなどのエステル類が挙げられ、好ましくはジクロロメタン、トルエン、メチル−t−ブチルエーテル、酢酸エチルであり、特に好ましくは酢酸エチルである。
【0092】
得られた抽出液は、濃縮後に必要に応じて晶析工程に付すことにより、高純度の化合物(3)を得ることができる。化合物(2)が、不純物として位置異性体である化合物(8)を含有している場合、化合物(8)はエステル化反応により一般式(9);
【0093】
【化24】

【0094】
で表される化合物(以下、化合物(9))となる。化合物(9)において、R1およびR3は前述のとおりである。化合物(9)においてアミノ基は適当な酸との塩を形成していてもよい。塩を形成する酸としては、特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸またはメタンスルホン酸であり、塩酸が特に好ましい。*2は前記に同じであり、好ましくは(2S,3S)体である。
【0095】
化合物(3)に不純物として含有される不純物(9)は晶析により除去することが可能である。したがって、化合物(3)またはその塩を得る場合には、化合物(1)をアンモニアと反応させた後、得られた化合物(2)を晶析工程に付し、化合物(8)およびその他の不純物を除去するか、化合物(2)を晶析することなくエステル化を行った後に化合物(9)およびその他の不純物を晶析工程により除去するか、あるいは化合物(1)とアンモニアとの反応後とエステル化反応後の両方で晶析工程を行うかの方法がある。いずれの方法を選択するかは、要求される品質から決定すればよい。より高純度の化合物(3)を得るためには、アミノ化反応およびエステル化反応の両方の工程後に晶析を行うことが好ましい。言うまでもなく要求される化合物(3)の品質に応じて晶析を行わなくともよい。
【0096】
晶析に用いる溶媒は、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのクロロアルカン類、ベンゼンあるいはトルエンなどの置換ベンゼン類、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサンあるいはペンタンなどのアルカン類、酢酸エチルあるいは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトンあるいはメチルエチルケトンなどのケトン類および水からなる群より1種以上の溶媒を選択して行うことができる。抽出溶媒として酢酸エチルを用いた場合には、抽出液を所定量まで濃縮し、そのまま酢酸エチル溶液より晶析を行うことも可能であるし、上記群の中から選択される適当な溶媒を貧溶媒として用いることも可能である。
【0097】
以下に、抽出溶媒として酢酸エチルを用い、抽出液を濃縮後に貧溶媒としてヘキサンを用いる晶析法について説明する。抽出液の濃縮度としては、化合物(3)の濃度が5〜50wt%の範囲が好ましく、良好な晶析収率で化合物(3)を取得するためには10〜30wt%が特に好ましい。濃縮終了後、所定量のヘキサンを加えるが、ヘキサンの量としては、酢酸エチルに対して30〜200v/v%が好ましく、特に好ましくは30〜150wt%である。晶析は抽出液の濃縮後、所定の温度まで加熱し析出した固形分を溶解させてからヘキサンを加え、所定温度まで冷却することにより行われるが、その温度範囲は−20〜80℃の範囲が好ましく、不純物の除去率および晶析収率の観点からより好ましくは−5〜60℃の範囲である。
【0098】
化合物(3)を酸との塩として得たい場合には、上記で得られた化合物(3)に適当な酸を加えて得ることができるし、抽出液あるいは、抽出液を濃縮し適当な溶媒に置換した後で酸を加えることにより、化合物(3)の塩を直接、結晶として取得することも可能である。
【0099】
用いる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのクロロアルカン類、ベンゼンあるいはトルエンなどの置換ベンゼン類、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサンあるいはペンタンなどのアルカン類、酢酸エチルあるいは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトンあるいはメチルエチルケトンなどのケトン類および水からなる群より1種以上の溶媒を選択して行うことができ、用いる酸の種類に応じて最適の溶媒を選択すればよい。また2種以上の混合溶媒を用いる場合には、その混合比は特に限定されるものではない。
【0100】
用いる酸としては、特に限定されるものではないが、例えば蟻酸、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸または硫酸であり、塩酸が特に好ましい。晶析温度としては、−20〜80℃の範囲で行うことが好ましく、不純物の除去率および晶析収率の観点からより好ましくは−5〜60℃の範囲である。
【0101】
化合物(3)あるいは化合物(3)の塩のいずれを最終製品として得る場合にも、1回の晶析では目的とする品質が得られない場合には、2回以上晶析を行うことができる。晶析を2回以上行う場合には、同じ溶媒で繰り返し行ってもよいし、異なる溶媒で行ってもよい。
【0102】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0103】
(実施例1)(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩
(2S,3S)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(14.33g、62.67mmol)、EtOH(30mL)からなる溶液に、室温にて20wt%NaOEt/EtOH(23.46g、68.94mmol)を加え、40分攪拌した。析出する無機塩をろ別し、EtOH(30mL)にて洗浄、ろ液に水(30mL)、30wt%NaOH水溶液(9.19g、68.94mmol)を加えた。室温にて35分攪拌後、別途合成したラセミ−3−フェニルグリシド酸ナトリウム塩を標品としてHPLC分析により反応液中の(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸ナトリウム塩の含量を求め、収率を算出したところ98.3%であった。減圧下、反応液を濃縮前の約30wt%まで濃縮し、得られたオレンジ色のスラリーに28wt%アンモニア水溶液(124.9mL、1.85mol)を加えた。反応液を耐圧反応器に移し、50℃に加温し19時間攪拌した後に室温まで冷却し、減圧下、アンモニアを除去した。得られた反応液中の(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩を標品を用いたHPLC分析にて定量したところ、収率68.8%であった。また位置異性体である(2S,3S)−3−フェニルセリンナトリウム塩の収率を、同様にHPLCによる定量分析にて求めたところ収率18.4%であった。減圧下、(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩含量が約30wt%となるまで濃縮し、得られたスラリーにEtOH(255mL)を加え50℃にて30分攪拌し、室温まで攪拌しながら放冷、さらに0〜1℃まで冷却し同温にて30分、攪拌した。析出した結晶をろ別し、EtOH(80mL)にて洗浄した後に、減圧下、50℃にて約18時間乾燥させることにより白色結晶(8.21g)を得た。ろ液中の(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩および(2S,3S)−3−フェニルセリンナトリウム塩の含量から、結晶中の(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩含量は90.4wt%(晶析収率86.2%)であり、(2S,3S)−3−フェニルセリンナトリウム塩含量1.4wt%(除去率95.2%)であった。
【0104】
〔収率の分析〕
(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸ナトリウム塩
カラム:ナカライ社製COSMOSIL C18 AR (4.6mm×250mm)、溶離液:アセトニトリル/0.5wt%KH2PO4水溶液(pH=3.0)=5/5、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:40℃、溶出時間:(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸ナトリウム塩 3.4分。
【0105】
(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩
カラム:フェノメネックス社製Luna 5μ C18(2) (4.6mm×250mm)、溶離液:アセトニトリル/0.5wt%KH2PO4水溶液(pH=2.0)=1/9、流速:0.5ml/min、検出:210nm、カラム温度:40℃、溶出時間:(2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩 5.7分、(2S,3S)−3−フェニルセリンナトリウム塩 6.7分。

1H NMR(D2O、400MHz)δ7.27−7.38(m、5H)、4.18(d、1H、J=4.4Hz)、4.14(d、1H、J=4.2Hz)

(実施例2)(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステル
実施例1にて得られた白色結晶(8.21g)((2R,3R)−3−フェニルイソセリンナトリウム塩:36.54mmol、(2S,3S)−3−フェニルセリンナトリウム塩:0.54mmol含有)に、EtOH(200mL)およびMsOH(18.37g、191.2mmol)を加え、加熱還流を20時間行った。室温まで放冷後、水(200mL)を加え30wt%NaOH水溶液にてpHを6.67とした。減圧下、EtOHを留去し、30wt%NaOH水溶液にてpHを11.87とした。酢酸エチルにて抽出(3X150mL)し、抽出液を飽和食塩水(200mL)にて洗浄した。抽出液中の(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステルおよび(2S,3S)−3−フェニルセリンエチルエステルの含量を、標品を用いたHPLCによる定量分析にて求めたところ、(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステルは32.62mmol(収率89.3%)、(2S,3S)−3−フェニルセリンエチルエステルは0.38mmolであった。抽出液を(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステルが約17wt%となるまで濃縮し、得られたスラリーを40℃に加熱すると均一の溶液となった。同温にてヘキサン(25mL)を加え、室温まで攪拌しながら放冷、さらに0〜2.5℃まで冷却し同温にて1時間、攪拌した。析出した結晶をろ別し、ヘキサン(30mL)にて洗浄した後に、減圧下、50℃にて約12時間乾燥させることにより白色結晶(5.82g)を得た。HPLC分析にて(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステルおよび(2S,3S)−3−フェニルセリンエチルエステルの含量を求めたところ、(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステルは>99.9wt%(晶析収率85.2%)であり、(2S,3S)−3−フェニルセリンエチルエステルは不検出であった。
【0106】
〔収率の分析〕
カラム:ナカライ社製COSMOSIL C18 AR (4.6mm×250mm)、溶離液:アセトニトリル/0.5wt%KH2PO4水溶液(pH=2.0)=2/8、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:40℃、溶出時間:(2R,3R)−3−フェニルイソセリンエチルエステル 3.3分、(2S,3S)−3−フェニルセリンエチルエステル 3.9分。

1H NMR(CDCl3、400MHz)δ7.23−7.33(m、5H)、4.44(d、1H、J=4.1Hz)、4.30(d、1H、J=3.9Hz)、4.06−4.12(m、2H)、1.16(t、3H、J=7.1Hz)

(実施例3)(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸ナトリウム塩
(2S,3S)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル(3.72g、16.3mmol)、EtOH(10mL)からなる溶液に、室温にて20wt%NaOEt/EtOH(12.19g、35.86mmol)を加え、1時間攪拌した。析出する無機塩をろ別し、EtOH(10mL)にて洗浄、ろ液に水(323mg、17.93mmol)のEtOH(5mL)溶液を加え、室温にて1時間攪拌後、内容物の流動性が低かったため水(10mL)を加え、析出した白色結晶をろ別した。結晶をEtOH(20mL)にて洗浄、約12時間、真空乾燥させることにより白色結晶(1.46g)を得た。このものをHPLCにて分析したところ、(2R,3S)−3−フェニルグリシド酸ナトリウム塩を84.1wt%含有していることがわかった(収率37.2%)。

(実施例4) 2−クロロベンゾイル酢酸エチルエステルの微生物還元
グリセリン1.5%、プロエキス1.0%、酵母エキス0.5%の組成からなる液体培地(pH7.0)を調製し、大型試験管に5mlづつ分注し、120℃で20分間蒸気殺菌した。これらの液体培地に表1に示した微生物をそれぞれ1白金耳植菌し、30℃で2〜3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離により菌体を集め、2−クロロベンゾイル酢酸エチルエステルを0.2%およびグルコース2%を含んだ0.1Mリン酸緩衝液(pH5.5)1mlに懸濁し、栓付試験管中で20時間30℃で振とうした。反応後、等量体積の酢酸エチルにより抽出し、抽出液中の生成物をHPLCで分析することにより、収率(%)、ジアステレオマー比((2R,3R)/(2S,3R))、及び光学純度(%e.e.)を求めた。結果を表1に示した。
【0107】
〔収率の分析〕
カラム:YMC社製YMC−Pack Pro C18 AS−303 (4.6mm×250mm)、溶離液:0.1%リン酸/アセトニトリル=5/5、流速:1ml/min、検出:220nm、カラム温度:30℃、溶出時間:2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル 8.9分、2−クロロベンゾイル酢酸エチルエステル 13.8分。
【0108】
〔ジアステレオマー比、及び光学純度の分析〕
カラム:ダイセル化学工業社製CHIRALCEL OJ−H(4.6mm×250mm)、溶離液:ヘキサン/イソプロピルアルコール=9/1、流速:1ml/min、検出:220nm、カラム温度:30℃、溶出時間:(2R,3R)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル 14.4分、(2S,3S)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル 15.1分、(2R,3S)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル 20.5分、(2S,3R)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル 24.5分。
【0109】
【表1】

【0110】
(実施例5) (2S,3S)−2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル
バクト−トリプトン1.6%、バクト−イーストエキス1%、塩化ナトリウム1%(pH7.0)からなる培地50mlを含む500ml坂口フラスコに入れ殺菌後、Escherichia coli HB101(pNTDRG1)FERM BP−08458を植菌し、37℃で24時間振とう培養した。培養終了後、2−クロロベンゾイル酢酸エチルエステル 5gとグルコース 4.8g、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+) 15mgを添加し、30%NaOHでpHを6.5に保ちながら44時間反応させた。反応終了後、酢酸エチル150mlで2回抽出し、得られた有機相を減圧濃縮し、油状の2−クロロ−3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸エチルエステル 4.8gを得た。得られたものを実施例4記載の方法に従い分析したところ、Anti/Syn=99.2/0.8、Anti体(2S,3S)の光学純度は99.4%e.e.であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中、R1は置換基を有していてもよいフェニル基を表し、R2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基を表し、*1は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3S)あるいは(2S,3R)であることを表す)で表される化合物とアンモニアとの反応により得られる一般式(2);
【化2】

(式中、R1、R2前記と同じ意味を表し、*2は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3R)あるいは(2S,3S)であることを表す)で表される化合物を、さらに晶析工程に付すことを特徴とする前記式(2)で表される化合物の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の方法で得られた前記式(2)で表される化合物をエステル化し、一般式(3);
【化3】

(式中、R1および*2は前記と同じ意味を表し、R3はC1〜C4のアルキル基を表す)で表される化合物とすることを特徴とする前記式(3)で表される化合物の製造法。
【請求項3】
請求項2記載の方法で得られた前記式(3)で表される化合物の晶析工程を含むことを特徴とする前記式(3)で表される化合物の製造法。
【請求項4】
前記式(2)で表される化合物の晶析工程を、クロロアルカン類、置換ベンゼン類、エーテル類、アルコール類、アルカン類、エステル類、ケトン類および水からなる群から選択される1種以上の溶媒を用いて行う請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
前記式(2)で表される化合物の晶析工程を、一般式(4);
3OH (4)
(式中、R3はC1〜C4のアルキル基を表す)で表されるアルコール類および水から選択される1種以上の溶媒を用いて行う請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
晶析温度が−20〜80℃である請求項4または5記載の製造法。
【請求項7】
一般式(1);
【化4】

(式中、R1は置換基を有していてもよいフェニル基を表し、R2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、窒素性塩基を表し、*1は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3S)あるいは(2S,3R)であることを表す)で表される化合物とアンモニアとの反応により、一般式(2);
【化5】

(式中、R1、R2は前記と同じ意味を表し、*2は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3R)あるいは(2S,3S)であることを表す)で表される化合物とし、続いてエステル化し、得られる一般式(3);
【化6】

(式中、R1および*2は前記と同じ意味を表し、R3はC1〜C4のアルキル基を表す)で表される化合物を、さらに、晶析工程に付すことを特徴とする前記式(3)で表される化合物の製造法。
【請求項8】
前記式(3)で表される化合物の晶析工程を、クロロアルカン類、置換ベンゼン類、エーテル類、アルコール類、アルカン類、エステル類、ケトン類および水からなる群から選択される1種以上の溶媒を用いて行う請求項7に記載の製造法。
【請求項9】
晶析温度が−20〜80℃である請求項8記載の晶析法。
【請求項10】
前記式(1)で表される化合物とアンモニアの反応において、アンモニアの使用量が前記式(1)で表される化合物に対して1〜100モル倍量である請求項1〜9のいずれかに記載の製造法。
【請求項11】
前記式(1)で表される化合物とアンモニアの反応において、反応温度が0〜100℃である請求項1〜10記載の製造法。
【請求項12】
前記式(1)で表される化合物とアンモニアの反応を水または水と有機溶媒の混合溶媒中で行うことを特徴とする請求項1〜11記載の製造法。
【請求項13】
前記式(1)で表される化合物が、一般式(5);
【化7】

(式中、R1およびR3は前記と同じ意味を表し、Xはハロゲン原子を表す)で表される化合物のカルボニル基を不斉還元し、得られた一般式(6);
【化8】

(式中、R1、R3、Xは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す)で表される化合物を、塩基で処理して環化した後、エステル基を加水分解することより得られたものである請求項1〜12のいずれかに記載の製造法。
【請求項14】
前記式(1)で表される化合物が、前記式(5)で表される化合物のカルボニル基を不斉還元し、得られた一般式(7);
【化9】

(式中、R1、R3、Xおよび*2は前記と同じ意味を表す)で表される化合物を、塩基で処理して環化した後、エステル基を加水分解することより得られたものである請求項1〜13のいずれかに記載の製造法。
【請求項15】
前記式(5)で表される化合物の不斉還元を、当該化合物を(2S,3S)選択的、又は(2R,3R)選択的に還元する能力を有する酵素源を作用させることにより行うことを特徴とする、請求項13または14に記載の製造法。
【請求項16】
(2S,3S)選択的な酵素源が、デボシア(Devosia riboflavina)属、パエニバチルス(Paenibacillus)属、またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物由来の酵素源である請求項15記載の製造法。
【請求項17】
(2S,3S)選択的な酵素源が、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、パエニバチルス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、シュードモナス・プティダ(Pseudomonas putitda)、及びシュードモナス・ストゥトゼリ(Pseudomonas stutzeri)からなる群より選択される微生物由来の酵素源である請求項16記載の製造法。
【請求項18】
(2S,3S)選択的な酵素源が、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)由来のカルボニル還元酵素で形質転換された組換え大腸菌の培養物又はその処理物である請求項16および17のいずれかに記載の製造法。
【請求項19】
(2R,3R)選択的な酵素源が、デボシア(Devosia )属に属する微生物由来の酵素源である請求項15記載の製造法。
【請求項20】
(2R,3R)選択的な酵素源が、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)由来の酵素源である請求項19記載の製造法。
【請求項21】
一般式(5);
【化10】

(式中、R1は置換基を有していてもよいフェニル基を表し、R3はC1〜C4のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す)で表される化合物に、当該化合物のカルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を作用させることにより、一般式(7);
【化11】

(式中、R1、R3は前記と同じ意味を表し、*2は不斉炭素原子でありその立体配置は(2R,3R)あるいは(2S,3S)であることを表す)で表される化合物を製造する方法であって、デボシア(Devosia)属、パエニバチルス(Paenibacillus)属、またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物に由来し、前記式(5)で表される化合物を(2S,3S)選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて、前記式(7)で表される化合物の(2S,3S)体を製造するか、デボシア(Devosia)属に属する微生物に由来し、前記式(5)で表される化合物を(2R,3R)選択的に還元する能力を有する酵素源を用いて、前記式(7)で表される化合物の(2R,3R)体を製造することを特徴とする製造法。
【請求項22】
(2S,3S)選択的な酵素源が、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)、パエニバチルス・アルベイ(Paenibacillus alvei)、シュードモナス・プティダ(Pseudomonas putitda)、及びシュードモナス・ストゥトゼリ(Pseudomonas stutzeri)からなる群より選択される微生物由来の酵素源である請求項21記載の製造法。
【請求項23】
(2S,3S)選択的な酵素源が、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)由来のカルボニル還元酵素で形質転換された組換え大腸菌の培養物又はその処理物である請求項21または22に記載の製造法。
【請求項24】
(2R,3R)選択的な酵素源が、デボシア・リボフラビナ(Devosia riboflavina)由来の酵素源である請求項23記載の製造法。
【請求項25】
1が無置換のフェニル基である請求項1〜24のいずれかに記載の製造法。
【請求項26】
2が水素またはアルカリ金属である請求項1〜20のいずれかに記載の製造法。
【請求項27】
前記式(2)の立体配置が(2R,3R)体であることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載の製造法。

【公開番号】特開2009−114065(P2009−114065A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44263(P2006−44263)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】