説明

(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸1水和物の製造方法および光学分割剤の回収方法

【課題】(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で光学分割する方法、および(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を簡便に回収する方法を提供する。
【解決手段】(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を1モル使用し、アセトンを1.1〜1.4L、さらに水1〜3モルを加えて、50〜54℃で結晶化させる、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の製造方法、および光学分割した後のろ液を濃縮して、ろ液中に存在する理論量の(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸1モルに対して、1〜1.6Lの水を加え、塩酸を加えてpHを1〜0.1の範囲に調整して(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の製造方法および光学分割剤の回収方法に関する。さらに詳しくは、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で光学分割して、抗鬱剤塩酸パロキセチンの有用な中間体である(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の製造方法および光学分割剤(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物は抗鬱剤である塩酸パロキセチンの有用な中間体である。
(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物は、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で光学分割して得られるが、従来、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で分割する方法が、いくつか提案されている。
例えば、水溶媒で光学分割する方法(特許文献1)、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンをセライトなどで一旦ろ過し、アセトン:水=0.1〜0.5:1の溶媒系で光学分割する方法などである(特許文献2)。

【特許文献1】特開平10‐291975号公報
【特許文献2】特開2001‐131148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の方法は、水溶媒中で光学分割する方法であるが、得られる結晶の純度が充分でなく、光学純度を向上させるために再結晶をする必要があり、結晶化時間の延長により光学異性体が増加する傾向にあった。
特許文献2には、溶媒量が(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1重量部に対して約15倍容量使用し、セライトなどを用いてろ過をする操作が好ましいと記載されている。
また、特許文献2には、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1重量部(g)に対して10倍容量(ml)のアセトン溶媒に、アセトンの0.86容量%の水を加えて、光学分割する方法も記載されているが、光学異性体が3.2%混入し、収率が32.7%と必ずしも満足すべきものでない。このため、水主体の溶媒にアセトンを加えて光学分割する方法が好ましいと記載されている。

工業的に光学分割する場合、時間経過により光学異性体が増加する傾向にあるときには、結晶の熟成、ろ過、洗浄などの時間が制限される。
工業的には、1つの単位操作で、仕込み量が多いほど効率的であり、溶媒量が多いと容積効率が低下し、経済的でない。
また、光学分割に使用した(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を、良好な純度で、簡便な操作で回収して再利用するための方法は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で光学分割する方法において、結晶化のための最少量のアセトンと水の量、および結晶化温度を特定することにより、結晶化の時間によって、光学異性体の混入することなく、効率的に高い収率で(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物を経済的に得る方法、および光学分割に使用した(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を、簡便な操作で収率よく高純度で回収する方法を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1](3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を1モル使用し、アセトンを1.1〜1.4L、さらに水1〜3モルを加えて、50〜54℃の温度で結晶化させることを特徴とする、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の製造方法、
[2]50〜54℃の温度で結晶化させた後、5〜10℃/時間の割合で冷却し、27〜31℃で熟成する上記[1]に記載の方法、
[3](3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で光学分割し、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物をろ過したあとの(3R,4S)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を主成分とするろ液を濃縮し、ろ液中に存在する理論量の(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸1モルに対して、1〜1.6Lの水を加え、塩酸を加えてpHを1〜0.1に調整し、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を結晶化させて回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の方法により、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸により効率的に光学分割して、抗鬱剤塩酸パロキセチンの有用な中間体として好適に使用しうる、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物を製造することができる。
さらに、光学分割に使用した(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を簡便な操作で収率よく高純度で回収することができるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。

1.(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の製造

本発明は大気下で実施してもよいし、窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施してもよい。
本発明で使用される(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジは種々の方法で製造できる。例えば、特許文献2の参考例記載の方法により製造することができる。

光学分割剤である(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸は特許3257779号公報記載の方法により製造することができる。

(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の使用量としては、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、1モルを使用する。
(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の使用量が1モル未満の場合は、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の収率が低下する虞がある。
(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の使用量が1モルを超える場合は、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物に、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンの異性体が混入する虞がある。
【0007】
アセトンの使用量としては、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、通常1.1〜1.4Lである。
(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンの1gに対しては5.3〜6.7mlである。

アセトンの使用量が、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して1.1L未満であると、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物に異性体が混入する虞がある。
アセトンの使用量が1.4Lを超えると、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の収率が低下する虞がある。
【0008】

本発明の製造方法はまず、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジと(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸をアセトンに溶解する。
溶解温度は特に限定されないが、通常50〜56℃で溶解することができる。
(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンと(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸をアセトンに溶解した後、ろ過処理をすることなく光学分割することができる。これはアセトン主体の溶媒を使用することにより、不溶物がなく、従来のろ過、洗浄等の操作をすることなく、光学分割することができる。
【0009】
次いで水を加える。水の使用量としては、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、通常1〜3モル、好ましくは1.5〜2.5モルである。
水の使用量が1モル未満の場合は、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の収率が低下する虞がある。

水の使用量が3モルを超える場合は、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物に異性体が混入する虞がある。
【0010】
光学分割の温度は50〜54℃の範囲である。通常この温度範囲で(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の結晶が析出する。
結晶の析出が認められない場合は、少量の種結晶を添加してもよい。種結晶の量は特に限定されないが、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、通常0.1〜10ミリモル程度でよい。

結晶化の時間は特に限定されないが、通常1〜4時間で晶析、熟成させる。
50〜54℃の温度で結晶化させた後、徐冷却する。
冷却速度としては、通常5〜10℃/時間の割合で徐冷却する。冷却速度が10℃/時間を超えると、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物に光学異性体が混入する虞があり、5℃/時間を下回る場合は、時間がかかるために経済的でない。
【0011】
徐冷却後、27〜31℃で結晶を熟成する。熟成温度が27℃未満であると、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物に光学異性体が混入する虞があり、31℃を超えると(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の収率が低下する虞がある。
【0012】
熟成時間は特に限定されないが、2時間で十分である。熟成時間を24時間まで延長しても光学純度には影響しない。
【0013】
析出した(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の結晶はろ過する。
ろ過温度は熟成の温度と同じ27〜31℃でよい。(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の結晶はアセトンで洗浄する。洗浄アセトンの使用量は、通常(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して400〜450mlである。
【0014】
得られた(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の結晶は、通常60℃未満の温度で乾燥する。乾燥を早めるために減圧下乾燥してもよい。
(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の光学異性体の混入は、通常1.5%以下である。
【0015】
得られた(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物は、抗鬱剤である塩酸パロキセチンの有用な中間体として好適に使用する事ができる。
【0016】
2.(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の回収

(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物をろ別したろ液から(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を回収することができる。
ろ液はまず濃縮する。濃縮は減圧下で濃縮してもよいが、常圧で濃縮してもよい。濃縮は内部温度が、通常70℃になるまで濃縮する。留去したアセトンは回収アセトンとして利用することができる。
濃縮液は20〜30℃に冷却した後、水を加える。加える水の量としては、ろ液中に存在する理論量の(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸1モルに対して、通常1〜1.6Lである。
加える水の量が1L未満の場合は、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の純度が低下する虞があり、1.6Lを超えると、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の収量が低下する虞がある。
【0017】
次いで塩酸を加える。塩酸としては、通常使用される35%塩酸またはそれに順ずる濃度の塩酸でよい。塩酸はpHを調整しつつ加える観点より、滴下して加えることが好ましい。
塩酸の使用量としては、ろ液中に存在する理論量の(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸1モルに対して、通常2モル量で、液のpHが1〜0.1の範囲となればよい。塩酸量が少なく、pHが1を超える場合は(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の回収率が低下する虞があり、塩酸を過剰に使用してpHが0.1以下となると、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の純度が低下する虞がある。
【0018】
結晶が析出しにくい場合は(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の種結晶を少量添加してもよい。
【0019】
析出した(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の結晶は、通常20〜30℃で30分から1時間程度熟成し、2〜4℃まで冷却する。
【0020】
冷却速度は、通常5〜10℃/時間でよい。
冷却速度が10℃/時間を超えると(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸に不純物が混入する虞があり、5℃/時間を下回る場合は、時間がかかるために経済的でない。
【0021】
(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の結晶は、通常2〜4℃の温度で熟成する。熟成時間は通常1時間以上であればよい。
【0022】
(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の結晶は、ろ過し、水で洗浄する。洗浄する水の量は特に限定されないが、結晶化のために使用した水の半分量程度でよい。
得られた(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の結晶は、85℃までの浴温で減圧乾燥する。
【0023】
得られる(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸は純度が、通常99.5%以上であり、そのまま(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンの光学分割に使用する事ができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンは、特許文献2の参考例に記載の方法により製造した。
また、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸は特許3257779号公報の方法により製造した。

光学純度の測定は以下の方法により実施した。
HPLC条件
検出器 :UV 265nm
カラム :SUMICHIRAL OA‐4000(4.6mmφ×25cm)
カラム温度 :25℃
移動相 :ヘキサン/2‐プロパノール/メタノール/トリフルオロ酢酸混液(2000:200:40:1)
流量 :1.0mL/min
【0026】
実施例1
(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物
反応容器に、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン100g(0.4779モル)と(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸124.08g(0.4779モル)を加え、アセトン600mlで加熱溶解した。50〜54℃で水17.22g(0.957モル)を加え、同温度範囲で3時間攪拌した。
5〜10℃/時間の割合で冷却し、27〜31℃で16時間熟成した。同温度でろ過、200mlのアセトンで洗浄し、60℃で減圧下、乾燥した。(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物97.06gを得た。収率は42.2%、光学異性体含量は1.1%であった。
【0027】
実施例2
実施例1と同じ条件で実施し、熟成時間を24時間とした場合の光学異性体は1.4%であった。

実施例3
実施例1の方法により得られたろ液309.1gを、内温70℃に達するまで濃縮してアセトンを留去した。20〜30℃の範囲で水140gを加え、35%塩酸28.2gを滴下した。pHが約1となっていることを確認し、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸の結晶を少量加えて1時間攪拌した。5〜10℃/時間の割合で冷却し、2〜4℃で1.5時間熟成した。2〜4℃で析出結晶をろ過、水70gで洗浄し、減圧下80〜85℃で乾燥した。(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸26.94gを得た。収率は76.7%、純度は99.73%であった。
回収した(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を、実施例1の方法に使用することにより、同様の収率、純度で(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物を得ることができる。
【0028】
比較例1
反応容器に、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン50gと(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸65.1g、水575mlおよびろ過助剤(ラジオライト)1.0gを加え、約85℃で加熱溶解し、ろ過、水50mlで洗浄した。ろ液にアセトン125mlを加え、約50℃で(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の種結晶を添加した後、42〜48℃で0.5時間攪拌した。0.5〜0.7℃/分の割合で冷却し、28〜32℃で熟成した。熟成2時間でサンプリングすると、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンの光学異性体は0.4%、熟成16時間でサンプリングすると光学異性体は10.0%であった。
【0029】
比較例2
アセトン90ml、(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン10.0g(47.8ミリモル)、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸13.0g(50.1ミリモル)、セライト0.2gを混合し、43℃まで昇温し、濾過してアセトン10mlで洗い込んだ。母洗液を27℃まで冷却し、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の種結晶を接種したが晶析しなかった為、20℃で水0.86g(47.8ミリモル)を加えたところ、晶析した。再度57℃まで昇温溶解した後、28〜32℃まで冷却し、1時間熟成した後、濾過、アセトン20mlで洗浄し、乾燥して(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物7.60g(収率32.7%)を得た。光学異性体の含量は3.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン1モルに対して、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を1モル使用し、アセトンを1.1〜1.4L、さらに水1〜3モルを加えて、50〜54℃の温度で結晶化させることを特徴とする、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物の製造方法。
【請求項2】
50〜54℃の温度で結晶化させた後、5〜10℃/時間の割合で冷却し、27〜31℃で熟成する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(3SR,4RS)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジンを(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸で光学分割し、(3S,4R)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸 1水和物をろ過したあとの(3R,4S)‐トランス‐4‐(4‐フルオロフェニル)‐3‐ヒドロキシメチルピペリジン (+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を主成分とするろ液を濃縮し、ろ液中に存在する理論量の(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸1モルに対して、1〜1.6Lの水を加え、塩酸を加えてpHを1〜0.1に調整し、(+)‐2’‐クロロタルトラニル酸を結晶化させて回収する方法。

【公開番号】特開2006−282605(P2006−282605A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105851(P2005−105851)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】