説明

(S)−または(R)−3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸の製造法

【課題】プロピオン酸アミドのラセミ体形態または光学活性異性体形態を唯一の窒素源として利用する新規微生物および新規酵素、さらに、トリフルオロアセト−酢酸エステルから、(S)-または(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】プロピオンアミドのラセミ体形態またはその光学活性異性体形態を唯一の窒素源として利用する微生物を取得し、該微生物をプロピオン酸アミドのラセミ体形態に作用させることにより、光学活性プロピオン酸アミド形態及び光学活性プロピオン酸形態を取得する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、(S)-または(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸の新規製造法、および式
【化16】

【0002】
で表されるプロピオンアミドのラセミ体形態またはその光学活性異性体形態を唯一の窒素源として利用する能力を有する新規微生物に関する。
【0003】
(S)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸は、治療用アミドの重要な製造用中間体である(EP-A 0 524 781)。
【0004】
以下の記載においては、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸を2,2-HTFMPSと、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドを2,2-HTFMPAと略称する。
【0005】
J. Chem. Soc., 1951, p. 2329には、ジメトキシストリキニーネを用いて、対応するラセミ体を所望の(S)エナンチオマーに変換する(S)-2,2-HTFMPSの製造法が記載されている。この製造法の欠点は、ラセミ体分割に使用するジメトキシストリキニーネが非常に高価なことである。
【0006】
EP-A 0 524 781には、(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを用いて、対応するラセミ体を所望の(S)エナンチオマーに変換する(S)-HTFMPSの製造法が記載されている。この製造法の欠点は、多量の(S)-(-)-α-メチルベンジルアミンを使用しなければならないため、この場合もまた非常に経費がかかる製造法となることである。
【0007】
本発明の目的は、(S)-または(R)-2,2-HTFMPSの技術的に可能で経済的な製造法を提供することである。
【0008】
この目的は、本発明の請求項1および請求項11に記載の微生物、請求項4に記載のポリペプチドならびに請求項15および16に記載の製造法により達成される。
【0009】
したがって、本発明は、野生のいわゆる「野生型」微生物から選ばれる微生物、それ由来の酵素抽出物、立体特異的アミドヒドロラーゼ活性を有するそれから単離された酵素、および「野生型」から単離され立体特異的アミドヒドロラーゼをコードするDNA/DNA断片に関する。さらに、本発明は、これらのDNA断片またはベクターを含むいわゆる遺伝的に操作された微生物に関する。もう1つの主題は、前記微生物を使用する(S)-または(R)-2,2-HTFMPSの製造法および(S)-または(R)-2,2-HTFMPAの製造法である。
【0010】
本発明は、以下の図面により更に詳しく例示される。
【0011】
図1は、単離されたDNAの制限地図を示す。
【0012】
図2は、プラスミドpPRS1bを示す。
【0013】
図3は、プラスミドpPRS2aを示す。
【0014】
図4は、該アミドヒドロラーゼの最適pHを示す。
【0015】
図5は、該アミドヒドロラーゼのミカエリス−メンテン速度論を示す。
【0016】
図6は、該アミドヒドロラーゼの最適温度を示す。
【0017】
図7は、該アミドヒドロラーゼに対するメタノールの効果を示す。
【0018】
本発明の「野生型」は、通常の微生物学的方法を用いて土壌サンプル、汚泥または排水から単離することができる。本発明では、これらを、適当な炭素源と共に、式VIのプロピオンアミドのラセミ体形態またはその光学活性異性体形態の1つを唯一の窒素源として含む培地内で常法により培養することにより、そのような単離を行なう。ついで、式VIのプロピオンアミドを唯一の窒素源として利用する安定なものを、培養により得られる培養物から選択する。
【0019】
「野生型」は、適当な炭素源としての糖、糖アルコールまたはカルボン酸を成長基質として利用する能力を有する。使用しうる糖としては、例えば、グルコース、アラビノース、ラムノース、ラクトースまたはマルトースが挙げられる。使用しうる糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、マンニトールまたはグリセロールが挙げられる。クエン酸は、使用しうるカルボン酸の一例である。炭素源としては、グリセロールまたはグルコースが好ましく使用される。
【0020】
使用しうる選択培地および増殖培地としては、当業者が通常使用するもの、例えば、Kullaら, Arch. Microbiol. 135, pp. 1-7, 1983に記載の無機塩培地が挙げられる。
【0021】
増殖中および選択中に該微生物の活性酵素を誘導するのが好都合である。式VIで表されるプロピオンアミドのラセミ体形態もしくはその光学活性異性体形態の1つ、アセトアミドまたはマロン酸ジアミド形態を、酵素誘導物質として使用することができる。
【0022】
増殖および選択は、通常、0〜42℃、好ましくは20〜37℃の温度、および4〜9のpH、好ましくは6〜8のpHで行なう。
【0023】
好ましい「野生型」は、プロピオンアミド(式VI)を利用するロドコッカス(Rhodococcus)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、バシラス(Bacillus)属およびシュードモナス(Pseudomonas)属のものが挙げられる。特に好ましいのは、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1(DSM 11009)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(DSM 11623)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)ID-622(DSM 11344)、アルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus)ID-620(DSM 11350)、バシラス・エスピー(Bacillus sp.)ID-621(DSM 11351)、クレブシエラ・プランティクラ(Klebsiella planticula)ID-624(DSM 11354)およびクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)ID-625(DSM 11355)の種の微生物、ならびにそれらの機能的に等価な変異体および突然変異体である。クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)(DSM 11009)、クレブシエラ・プランティクラ(Klebsiella planticula)ID-624(DSM 11354)およびクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)ID-625(DSM 11355)の「野生型」は、(R)-アミドヒドロラーゼ活性を優先的に有し、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)ID-622(DSM 11344)、アルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus)ID-620(DSM 11350)およびバシラス・エスピー(Bacillus sp.)ID-621(DSM 11351)の「野生型」は、(S)-アミドヒドロラーゼ活性を優先的に有する。DSM 11010、DSM 11009と称される微生物は1996年6月24日に、DSM 11355、DSM 11354と称される微生物は1996年12月27日に、DSM 11351、DSM 11350およびDSM 11344と称される微生物は1996年12月13日に、DSM 11623と称される微生物は1997年6月20日に、ブダペスト条約に基づき、ドイチェ・ザムルング・フォン・ミクロオルガニスメン・ウント・ツェルクルテュレン・ゲーエムベーハー、マスケローダーベーク 1ベー、デー−38124 ブラウンシュバイク(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Mascheroderweg 1b、D-38124 Braunschweig)に寄託されている。
【0024】
「野生型」の「機能的に等価な変異体および突然変異体」は、もとの微生物と実質的に同じ特性と機能とを有する株を意味すると理解されるべきである。そのような変異体および突然変異体は、例えば紫外線照射によりランダムに、あるいは例えばインターカレート物質(例えば、アクリジン色素)による化学突然変異誘発により特異的に生成させることができる。
【0025】
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1(DSM 11009)の分類学的記載
細胞の形状 桿状
幅(μm) 1.0〜1.2
長さ(μm) 1.2〜2.0
運動性 −
グラム反応 −
3%KOHによる溶菌 +
アミノペプチダーゼ(Cerny) +
胞子 −
オキシダーゼ −
カタラーゼ +
嫌気性増殖 +
グルコースからの気体 +
以下からの酸(ASA)
グルコース +
フルクトース +
キシロース +
エリトリトール −
アドニトール +
D-マンノース +
L-ラムノース +
イノシトール +
ソルビトール +
α-メチル-D-グルコシド +
セロビオース +
マルトース +
ラクトース +
D-アラビトール +
ONPG +
ADH −
LDC w
ODC −
VP +
インドール +
H2Sの生成 −
シモンズクエン酸塩 +
ウレアーゼ +
メチルレッド −
以下の加水分解
ゼラチン −
DNA −
Tween 80 −
【0026】
シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)の分類学的記載
細胞の形状 桿状
幅(μm) 0.7〜0.8
長さ(μm) 1.5〜3.5
運動性 +
グラム反応 −
3%KOHによる溶菌 +
アミノペプチダーゼ(Cerny) +
胞子 −
オキシダーゼ +
蛍光 +
カタラーゼ +
41℃での増殖 −
ADH +
ウレアーゼ −
ゼラチンの加水分解 +
硝酸塩の還元 −
脱窒 −
スクロースからのレバン +
レシチナーゼ +
基質の利用
アジピン酸塩 −
クエン酸塩 +
マレイン酸塩 +
L-マンデル酸塩 −
酢酸フェニル −
D-グルコース +
マルトース −
トレハロース +
マンニトール +
アドニトール +
アセトアミド +
馬尿酸塩 −
トリプタミン −
ブチルアミン −
【0027】
略語
ASA:アセチルサリチル酸
ONPG:O-ニトロ-フェニルガラクトシダーゼ
ADH:アルコールデヒドロゲナーゼ
LDC:乳酸デカルボキシラーゼ
ODC:オルニチンデカルボキシラーゼ
VP:フォゲス・プロスカウエル。
【0028】
立体特異的アミドヒドロラーゼ活性を有する本発明の酵素は、例えば、式
【化17】

【0029】
で表されるプロピオンアミドのラセミ体形態またはその(R)異性体形態を加水分解する能力を有する前記の「野生型」ならびにその機能的に等価な変異体および突然変異体から得ることができる。
【0030】
該酵素の「機能的に等価な変異体および突然変異体」は、実質的に同じ特性と機能とを有する酵素を意味すると理解されるべきである。そのような変異体および突然変異体は、例えば突然変異によりランダムに生成させることができる。
【0031】
該酵素は、
a)pH10±0.5の最適pH、
b)pH10で65〜70℃の最適温度、および
c)32mM(100mM CAPS緩衝液(3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸)(pH10)中、60℃)の、基質(R)-2,2-HTFMPAに関するKM値、
特に、
d)5〜20%のメタノール濃度が抑制効果を有し、
e)N末端アミノ酸配列がMet-Lys-Trp-Leu-Glu-Glu-Ser-Ile-Met-Ala-Lys-Arg-Gly-Val-Gly-Ala-Ser-Arg-Lys-Proであることにより特徴づけるのが好都合である。
【0032】
この立体特異的アミドヒドロラーゼは、式VIで表されるプロピオンアミドのラセミ体形態またはそのR異性体形態を唯一の窒素源として利用する能力を有する前記の「野生型」から単離することができる。該アミドヒドロラーゼは、「野生型」のクレブシエラ(Klebsiella)属、好ましくはクレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1(DSM 11009)またはクレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(DSM 11623)から単離するのが好都合である。
【0033】
勿論、この酵素は、これらの「野生型」に由来する遺伝的に操作された微生物からも単離することができる。
【0034】
立体特異的アミドヒドロラーゼを得るためには、炭素源、窒素源、無機塩およびビタミン源を含む水性栄養培地内で常法で該「野生型」を増殖させる(培養する)。該「野生型」は、20〜35℃の温度およびpH 6〜8で培養するのが好都合である。ついで、例えばフレンチプレスを用いて細胞破壊を行なった後、それ自体は公知の酵素精製方法により該酵素を単離することができる。
【0035】
特に配列番号(SEQ ID No.)2のアミノ酸配列により示される立体特異的アミドヒドロラーゼをコードし、図1に示す制限地図および特に配列番号1のヌクレオチド配列により特徴づけられる本発明のDNAまたは本発明のDNA断片は、また、それらの機能的に等価な遺伝子変異体および突然変異体、すなわち、野生型生物の遺伝子に由来する遺伝子のうち、その遺伝子産物がその生物学的機能に関して実質的に未修飾であるものを含む。したがって、機能的に等価な遺伝子変異体および突然変異体は、例えば、遺伝暗号の公知の縮重の範囲内の塩基交換を含む。なぜなら、該遺伝子配列を、発現が生じる或る特定の微生物の好ましいコドン使用頻度に適合させるために、それらを例えば人工的に生成させることが可能だからである。また、該遺伝子変異体および突然変異体は、塩基またはコドンの欠失、挿入および置換を含む(ただし、これは、このようにして修飾された遺伝子の遺伝子産物が、それらの生物学的機能に関して実質的に未改変のままである場合に限られる)。これは、例えば、野生型の配列に対して高度の相同性(例えば、70%を超える相同性)を示し、厳しいハイブリダイゼーション条件下、例えば、60〜70℃の温度および0.5〜1.5Mの塩含量(特に、67℃の温度および0.8Mの塩含量)で野生型配列の相補鎖とハイブリダイズしうる遺伝子配列を含む。
【0036】
本発明の立体特異的アミドヒドロラーゼを単離するための出発物質として使用する前記の「野生型」は、本発明のDNAの出発物質として使用することができる。
【0037】
本発明の無傷の遺伝子または無傷のDNA断片は、該アミドヒドロラーゼ遺伝子の部分配列を含有する標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによる公知方法でアミドヒドロラーゼ遺伝子またはその断片を単離しクローニングすることが可能な適当な微生物(例えば、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca))に関する遺伝子ライブラリーから、公知の方法により単離することができる。以下、該アミドロヒドロラーゼ遺伝子をsadと略称することにする。
【0038】
転写を促進させるために、好ましくは、sad遺伝子を強力なプロモーターの制御下に配置する。プロモーターの選択は、所望の発現条件、例えば、構成的発現または誘導的発現が望ましいか否か、あるいは発現を引き起こす微生物に左右される。
【0039】
適当なプロモーターとしては、λファージのプロモーターPLおよびPR(Schauderら, Gene, 52, 279-283, 1987を参照されたい)、Ptrcプロモーター(Amannら, Gene, 69, 301-315, 1988)、プロモーターPNm、PS1(M. Labesら, Gene, 89, 37-46, 1990)、Ptrpプロモーター(Amannら, Gene, 25, 167-178, 1983)、Placプロモーター(Amannら, Gene, 25, 167-178, 1983)ならびに構成的または誘導的プロモーターとして使用しうる前記PtacおよびPlacプロモーターのハイブリッドであるPtacプロモーター(RusselおよびBennett, Gene, 20, 231-243, 1982)が挙げられる。好ましくは、Placプロモーターを使用する。
【0040】
本発明のDNA断片は、例えば、適当な生産株内での(R)-2,2-HTFMPSの製造における使用には、適当な公知ベクター内、好ましくは、発現ベクター内に公知方法で組込むのが好都合である。ベクターとしては、自律的および自己複製プラスミドまたは組込みベクターを使用することができる。
【0041】
選択したベクターの型に応じて、種々の微生物内でsad遺伝子を発現させることができる。適当なベクターとしては、特異的な宿主域を有するベクターと、広い宿主域を有するベクターとの両方が挙げられる。特異的な宿主域を有するベクターとしては、例えば、大腸菌(E. coli)に関しては、pBR322(Bolivarら, Gene, 2, 95-113)、商業的に入手可能なpBLUESCRIPT-KS+(登録商標)、pBLUESCRIPT-SK+(登録商標)(Stratagene)、pUC18/19(Yanisch-Perronら, Gene 33, 103-119, 1985)、pK18/19(Pridmore, Gene, 56, 309-312, 1987)、pRK290X(Alvarez-Moralesら, Nucleic Acid Research, 14, 4207-4227)およびpRA95(Nycomed Pharma AS, Huidove, Denmarkから入手可能)が挙げられる。好ましくは、pBLUESCRIPT-KS+(登録商標)を使用する。
【0042】
広い宿主域のベクターとしては、グラム陰性菌に適したすべてのベクターを使用することができる。そのような広い宿主域のベクターとしては、例えば、pRK290(Dittaら, PNAS, 77, 7347-7351, 1980)またはそれらの誘導体、pKT240(Bagdasarianら, Gene, 26, 273-282, 1983)またはその誘導体、pGSS33(Sharpe, Gene, 29, 93-102, 1984)、pVK100(KnaufおよびNester, Plasmid, 8, 45-54, 1982)およびその誘導体、pME285(HaasおよびItoh, Gene, 36, 27-36, 1985)およびその誘導体が挙げられる。
【0043】
例えば、プラスミドpPRS1b(図2)、pPRS2a(図3)、pPRS4およびpPRS7は、このようにして入手した。
【0044】
発酵のための生産株(すなわち、例えば(R)-2,2-HTFMPSの製造に使用しうる株)を得るためには、本発明のベクターまたはDNA断片を、発現に適した所望の宿主株内に導入しなければならない。この目的には、該微生物を、それ自体公知の常法により、本発明のDNA断片を含有するベクターで形質転換するのが好都合である。したがって、該微生物は、本発明のDNA断片をベクター分子上に又は染色体内に組込まれた形態で含有することが可能である。
【0045】
適当な宿主株、好ましくは、基質および出発物質に対して高い許容性を有する株としては、例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属、コマモナス(Comamonas)属、バシラス(Bacillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)/アグロバクテリウム(Agrobacterium)属またはエシェリキア(Escherichia)属の微生物が挙げられ、最後のものが好ましい。特に好ましいのは、大腸菌(Escherichia coli)DH5、大腸菌(Escherichia coli)XL1-Blue(登録商標)および大腸菌(Escherichia coli)XL1-Blue MRF’(登録商標)の微生物である。したがって、適当な生産株としては、例えば、プラスミドpPRS1b、pPRS2a、pPRS4またはpPRS7をそれぞれ含有する大腸菌(Escherichia coli)DH5および大腸菌(Escherichia coli)XL1-Blue MRF’(登録商標)の種の微生物が挙げられる。
【0046】
大腸菌(Escherichia coli)XL1-Blue MRF’(登録商標)/pPRS2aの微生物は、ブダペスト条約に従いDeutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、D-38124 Braunschweig、Mascheroderweg 1bに1997年6月30日に DSM 11635で寄託されている。
【0047】
形質転換された宿主株(生産株)は、該ベクター上または該DNA断片上に位置するマーカー遺伝子により該株が耐性を示す抗生物質を補充した選択栄養培地から分離することができる。
【0048】

【化18】

【0049】
で表される(S)-または(R)-2,2-HTFMPSおよび/または式
【化19】

【0050】
で表される(R)-または(S)-2,2-HTFMPAの本発明の製造法は、式
【化20】

【0051】
で表されるプロピオンアミドを、本発明の前記微生物により、あるいは立体特異的アミドヒドロラーゼ活性を示すそれから単離された酵素により変換することを含む。
【0052】
(R)-2,2-HTFMPSおよび/または(S)-2,2-HTFMPAの製造法は、「野生型」のクレブシエラ(Klebsiella)属、好ましくは、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1(DSM 11009)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(DSM 11623)、クレブシエラ・プランティクラ(Klebsiella planticula)ID-624(DSM 11354)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)ID-625(DSM 11355)の種を使用して、あるいはこれらの「野生型」に由来する遺伝的に操作された微生物を使用して、あるいは立体特異的アミドヒドロラーゼ活性を有する酵素を使用して実施するのが好都合である。
【0053】
(S)-2,2-HTFMPSおよび/または(R)-2,2-HTFMPAの製造法は、「野生型」のシュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属またはバシラス(Bacillus)属、特に、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)ID-622(DSM 11344)、アルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus)ID-620(DSM 11350)およびバシラス・エスピー(Bacillus sp.)ID-621(DSM 11351)の種を使用して実施するのが好都合である。
【0054】
該生物変換は、常法で微生物を増殖させた後、休止細胞(炭素源およびエネルギー源をもはや要求しない非増殖細胞)上または増殖中の細胞上で行なうことができる。該生物変換は、好ましくは、休止細胞上で行なう。
【0055】
該生物変換には、低いモル濃度のリン酸緩衝液、HEPES緩衝液、前記無機塩培地などの当業者が通常使用する培地を使用することができる。
【0056】
該生物変換は、プロピオンアミド(式VI)を、該濃度が10重量%、好ましくは2.5重量%を超えないように1回または連続的に加えることにより行なうのが好都合である。
【0057】
培地のpHは、4〜10、好ましくは5〜9.5とすることが可能である。該生物変換は、10〜60℃、好ましくは20〜40℃の温度で行なうのが好都合である。
【0058】
得られた(S)-または(R)-2,2-HTFMPS、または(S)-または(R)-2,2-HTFMPAはそれぞれ、例えば抽出などの通常の後処理方法により単離することができる。
【0059】
(S)-または(R)-2,2-HTFMPS、または(S)-または(R)-2,2-HTFMPAのそれぞれの収量は、培地内の栄養素を変化させることにより、および問題の微生物に発酵条件を適合させることにより常法で向上させることができる。
【0060】
適宜、(S)-または(R)-2,2-HTFMPAを、塩基の存在下で化学的に又はロドコッカス(Rhodococcus)属の微生物を使用して微生物学的に加水分解して、対応する酸を得る。
【0061】
塩基としては、水酸化アルカリ金属を使用することができる。水酸化アルカリ金属として、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを使用するのが好都合である。
【0062】
該微生物学的加水分解は、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)またはロドコッカス・エスピー(Rodococcus sp.)S-6の種の微生物を使用して、好ましくはロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328(DSM 6710)の種の微生物またはその機能的に等価な変異体および突然変異体を使用して行なうのが好都合である。ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328は、米国特許第5 258 305号に記載されており、ブダペスト条約に従い1991年9月13日にDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、D-38124 Braunschweig, Mascheroderweg 1bに寄託されている。通常は、実際の微生物学的加水分解を行なう前に、これらの微生物をGilliganら(Appl. Microbiol. Biotech., 39, 1993, 720-725)の方法により増殖させる。原則として、該微生物学的加水分解は、当該技術分野で通常用いられている方法で行なう。該加水分解は、20〜40℃の温度およびpH 6〜9で行なうのが好都合である。
【0063】

【化21】

【0064】
で表されるプロピオンアミドを得るには、まず第1工程において、式
【化22】

【0065】
で表されるトリフルオロアセタートを、鉱酸を使用して、式
【化23】

【0066】
で表されるトリフルオロアセトンに変換する。
【0067】
使用しうる鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸が挙げられる。好ましく使用される酸は、硫酸、リン酸または硝酸、特に硫酸である。
【0068】
該反応の第1工程は、極性プロトン性溶媒(例えば、低級アルコール、水または低級アルコール/水の混合物)中で行なうのが好都合である。使用しうる低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノールまたはイソブタノールが挙げられる。
【0069】
該反応の第1工程は、50〜100℃の温度、好ましくは70〜95℃の温度で行なうのが好都合である。
【0070】
本発明の製造法の第2工程においては、トリフルオロアセトン(式IV)をシアン化物と反応させて、式
【化24】

【0071】
で表されるプロピオニトリルを得る。
【0072】
好都合に使用されるシアン化物は、シアン化アルカリ金属、例えばシアン化ナトリウムまたはシアン化カリウム、好ましくはシアン化ナトリウムである。
【0073】
該反応の第2工程は、鉱酸の存在下で行なうのが好都合である。適当な鉱酸としては、前記のものが挙げられる。好ましい鉱酸は硫酸である。通常、トリフルオロアセトンに対して過剰の鉱酸を使用する。トリフルオロアセトン1mol当たり1〜10molの鉱酸を使用するのが好ましい。使用しうる溶媒は、第1工程のものと同じである。
【0074】
第2工程は、−20〜100℃、好ましくは0〜20℃の温度で行なうのが好都合である。
【0075】
本発明の製造法の第3工程では、式Vで表されるプロピオニトリルを、濃鉱酸中で化学的に又はロドコッカス(Rhodococcus)属の突然変異微生物を使用して微生物学的に、式VIで表されるプロピオンアミドに変換する。
【0076】
使用しうる鉱酸は、第1工程および第2工程と同じである。「濃鉱酸」は、以下においては、30〜100%の強度の鉱酸を意味すると理解されるべきである。第3工程においては、75〜100%の強度、好ましくは90〜100%の強度の鉱酸を使用するのが好都合である。第3工程における化学反応は、0〜160℃、好ましくは70〜120℃の温度で行なうのが好都合である。
【0077】
ロドコッカス(Rhodococcus)属の突然変異微生物は、アミダーゼをもはや含有しておらず、したがって、アミドを対応する酸に変換する能力をもはや有していない。該突然変異は、常法(J.H. Miller, Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory, 1972, p.24)により行なうことができる。好都合な突然変異法としては、フレームシフト法、欠失法またはトランスポゾン挿入法が挙げられる。
【0078】
突然変異のための適当な微生物種は、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)またはロドコッカス・エスピー(Rodococcus sp.)S-6である。前記のロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328(DSM 6710)を突然変異させて、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328-2(DSM 11636)およびその機能的に等価な変異体および突然変異体を得るのが好都合である。微生物TG 328-2は、ブダペスト条約に従いDeutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, D-38124 Braunschweig, Mascheroderweg 1bに1997年6月30日に寄託されている。この微生物は、前記の未突然変異微生物と同じ条件下で培養する。
【0079】
(R)-および(S)-2,2-HTFMPAは、今日まで文献未記載の化合物であり、したがって、これらもまた本発明の一部である。それらは、例えば塩基存在下での加水分解により(R)-または(S)-2,2-HTFMPSを製造するための新規中間体として使用することができる。
【0080】
実施例1
トリフルオロアセトンの製造
濃硫酸(強度96%; Merck)500g(4.9mol)を蒸留水1Lに加え、該混合物を73℃に加熱した。ついでトリフルオロアセタート500g(2.69mol)をゆっくり加えると、その過程で2相が形成された。該バッチを還流温度まで加熱し、その過程で生じたトリフルオロアセトンを留去した。2時間後、約90%の収率に相当するトリフルオロアセトン293.8gを無色液体として単離した。GC分析は、92.1%の純度を示した。
【0081】
実施例2
2-ヒドロキシ-2-メチル-3,3,3-トリフルオロメチルプロピオニトリルの製造
シアン化ナトリウム39.4g(0.763mol)を蒸留水174mlに加え、該混合物を−1℃まで冷却した。ついでトリフルオロアセトン100g(0.822mol)を滴下したところ、その過程で該反応混合物の温度が6℃まで上昇した。トリフルオロアセトンの添加の終了後、6N硫酸293.4g(1.4916molのH)を4〜5℃で加えた。ついで該反応混合物を室温で一晩攪拌した。ついで該バッチを酢酸エチルまたはtert-ブチルメチルエーテルで抽出し、合わせた有機相を32℃で大気圧下または大気圧より若干低い圧力(300〜120mbar)下で蒸留した。合計88gの生成物(GCによる測定で91.2%の純度)を得た。これは、75.6%の収率に相当する。
【0082】
実施例3
a)(R,S)-2,2-HTFMPAの化学的製造
98%の強度の硫酸を、アルゴン雰囲気下で反応容器内に導入した。2-ヒドロキシ-2-メチル-3,3,3-トリフルオロメチルプロピオニトリル15g(GCで86.9%)をこれに加え、該反応混合物を95℃に加熱した。出発物質を加えた後、該反応混合物を114℃で15分間加熱した。ついで該反応混合物を5℃に冷却したところ、その過程で粘性の褐色溶液が生じた。ついで蒸留水40gを滴下した。この過程で、該反応混合物の温度が15℃を超えないように注意した。この過程で生じた黄色っぽい懸濁液を−15℃で15分間冷却し、ついで濾過した。濾過ケーキを氷冷水20mlで洗浄し、ついで真空中で乾燥した。これにより、淡黄色の粗製生成物12.64gが得られた。ついで該粗製生成物を酢酸エチル13ml中で還流し、ついで室温に冷却した。この懸濁液をヘキサン15mlで処理し、該混合物を0℃に冷却した。ついで該混合物をヘキサンで、もう1回洗浄した。真空中での乾燥により生成物11.8gが得られた。これは、収率80.2%に相当する。
【0083】
融点:143.1〜144.3℃。
【0084】
b)(R,S)-2,2-HTFMPAの微生物的製造(ロドコッカス(Rhodococcus)属の突然変異微生物を使用)
突然変異のためには、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328を、添加されたアクリジンICR191と共に、標準的な方法により「普通ブイヨン」中、30℃で一晩インキュベートした。ついで該細胞を収穫し、0.9%の強度のNaCl溶液を使用して洗浄した。ついで該細胞を、新鮮な培地中、30℃で一晩インキュベートした。
【0085】
逆選択剤としてのフルオロアセトアミドの存在下、Gilliganら(Appl. Microbiol. Biotech., 39, 1993, 720-725)に記載されている無機塩培地中、該突然変異細胞を選択した。この逆選択剤は、増殖中の細菌を破壊するにすぎない。アミダーゼをもはや含有せず(R,S)-2,2-HTFMPA上でもはや増殖しない突然変異体は生存し、濃縮される。ついで該細胞を収穫し、0.9%の強度のNaCl溶液で洗浄し、新鮮な培地中で一晩インキュベートし、ついでプレートアウト(plate out)した。該コロニーを、ニトリルヒドラターゼ活性に関して試験した。所望の突然変異の頻度は2%であった。
【0086】
ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328-2の突然変異体を、Gilliganら(同誌)に記載の無機塩培地中で増殖させた。洗浄した細胞を、37℃の100mMリン酸緩衝液(pH7.7)中の2-ヒドロキシ-2-メチル-3,3,3-トリフルオロメチルプロピオニトリル溶液(1%の強度)および(R,S)-2,2-HTFMPA溶液(1%の強度)の両方と共に、OD650nm=5.0でインキュベートした。16時間後、GC分析は、該ニトリルが該アミドに定量的に変換されており、一方、該アミドが酸へ加水分解されていなことを示した。
【0087】
実施例4
アミドヒドロラーゼを含有する微生物(野生型)による(S)-2,2-HTFMPAおよび(R)-2,2-HTFMPSの製造
4.1 (R)-および(S)-アミダーゼ活性を有する微生物の選択および分離
リン酸緩衝液(0.1M, pH7.0)100mlを土壌サンプル10gに加え、該混合物を10分間放置し、濾過した。ついで該上清(5.0ml)または排水(ARA, Visp)1mlを、グリセロールおよび(R,S)-HTFMPA(炭素/窒素比5:1)を含有する無機塩培地(25ml; Kullaら, Arch. Microbiol. 135, pp. 1-7, 1983)中で継代培養した。ついで、(R)-および/または(S)-2,2-HTFMPAを唯一の窒素源として利用しうる混合培養が形成されるまで、この培養をインキュベートした。ついでこの培養を繰返し継代培養し、混合培養が形成されるまで30℃でインキュベートした。
【0088】
通常の微生物学的手法を用いて、これらの微生物の純粋培養を維持した。
【0089】
ついで、得られた微生物株を、(R,S)-2,2-HTFMPA上での増殖に関して寒天プレート上で試験した。陽性株を更に試験した。ついでこれらの株を使用して、予備培養培地に接種した。この予備培養内に含有されていた微生物を該無機塩培地に移し、ついでそれが(R)-2,2-HTFMPAおよび/または(S)-2,2-HTFMPAを唯一の窒素源として選択的に利用する能力に関して試験し、該上清を、(R)-2,2-HTFMPSまたは(S)-2,2-HTFMPSの形成に関して、およびそれらの2つのアミドエナンチオマーの一方の濃度に関してGCで調べた。
【0090】
4.2 (R)-または(S)-2,2-HTFMPAアミドヒドロラーゼ活性の測定
該ヒドロラーゼ活性を測定するために、該微生物懸濁液を650nmで4.0の光学濃度にした。0.5重量%の(R,S)-HTFMPAで補足したリン酸緩衝液(100mM, pH7.0)を、媒体として使用した。この懸濁液を、振とうしながら30℃で2時間インキュベートした。該ヒドロラーゼにより遊離したNH4+を、比色定量により、あるいはアンモニウム電極を用いて測定し、HTFMPAをGCにより測定した。生成した1mmolのNH4+が、変換された1mmolのHTFMPAに等しいという条件で、変換された(R)-または(S)-HTFMPAのg/l/時間/650nmでの光学濃度として、該活性を表した。
【表1】

【0091】
4.3 (S)-2,2-HTFMPAおよび(R)-2,2-HTFMPSの製造
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1(DSM 11009)、クレブシエラ・プランティクラ(Klebsiella planticula)ID-624(DSM 11354)またはクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)ID-625(DSM 11355)を、炭素源としてのグリセロールと唯一の窒素源としての(R,S)-2,2-HTFMPAとを含有する無機塩培地寒天プレート上、30℃で2日間インキュベートした。該無機塩培地の組成は、Kullaら, Arch. Microbiol., 135, pp. 1-7, 1983に記載されている。プレーティングしたこれらの微生物を使用して、30℃で2日間インキュベートしたのと同じ組成の予備培養培地をインキュベートした。誘導およびバイオマス生産のために、同じ無機塩培地(600ml)に予備培養50mlを接種し、該培地を30℃で21時間インキュベートした。ついで該細胞を遠心分離により収穫し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に取った。該細胞を0.05Mリン酸緩衝液(500ml, pH8.0)に再懸濁した後、650nmで10の光学濃度を得、1.0重量%の(R,S)-2,2-HTFMPAを加えた。40℃で約5.5時間インキュベートした後、(R)-2,2-HTFMPAを、対応する酸に完全に変換した。これは、100%の光学純度(ee)および48%の収率に相当した。
【0092】
該反応の経過は、NH4+の遊離および該上清のGC分析に基づいてモニターした。
【0093】
4.4 (S)-アミドヒドロラーゼを含有する微生物を使用する(S)-2,2-HTFMPSおよび(R)-2,2-HTFMPAの製造
シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)ID-622(DSM 11344)、アルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus)ID-620(DSM 11350)およびバシラス・エスピー(Bacillus sp.)ID-621(DSM 11351)の微生物を、実施例4.1と同様にして分離した。誘導時間は2日間であり、その他のすべての条件は、実施例4.3と同じであった。
【0094】
実施例4.3とは異なり、これらの微生物を使用する生物変換は、0.5重量%の(R,S)-2,2-HTFMPAで行なった。シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)株は、(S)-特異的ヒドロラーゼを有し、pH6.0での該ヒドロラーゼの活性は、変換された(S)-2,2-HTFMPA(ee=86%)0.09g/l/時間/O.D.650nmとして測定した。
【0095】
4.5 (S)-2,2-HTFMPAおよび(R)-2,2-HTFMPSの後処理
a)抽出によるもの
(S)-2,2-HTFMPAおよび(R)-2,2-HTFMPS(実施例4.3から得たもの)、0.1.Mリン酸緩衝液(250ml)(pH10)を含有する反応混合物196mlを、酢酸エチル(200ml)で3回抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、ついで40℃、50mbarで蒸発させた。これにより、湿性生成物912mgを得た。この生成物を熱酢酸エチル(1.3ml)に溶解し、ついで該溶液を室温まで冷却した。ヘキサン(2ml)を加えることにより、該生成物が沈殿した。該混合物を0℃に冷却し、該生成物を濾去し、ついで真空中、50℃で乾燥した。これにより、使用量の半分に対して78.2%の収率に相当する(S)-2,2-HTFMPA 791mgを得た。(S)異性体のみが、キラルGC分析により確認された。残りの水相を濃HClでpH 1にし、ついで酢酸エチル(200ml)で2回抽出した。該抽出物を40℃で蒸発させ、ついで乾燥した。ついでトルエン1mlを加え、該混合物を室温に冷却した。さらにヘキサン2mlを加え、該混合物を0℃に冷却した。該固体をヘキサンで2〜3回洗浄し、ついで乾燥した。真空中35℃での乾燥後に、該水相から合計664mgの(R)-2,2-HTFMPSを得た。これは、使用量の半分に対して65.7%の収率に相当する。(R)異性体のみが、キラルGC分析により確認された。
【0096】
b)電気透析によるもの((S)-2,2-HTFMPSの直接単離)
(S)-2,2-HTFMPAおよび(R)-2,2-HTFMPS(実施例4.3から得たもの)を含有する反応混合物を限外濾過に付して、細胞物質を除去した。得られた溶液を電気透析に付した。(R)-2,2-HTFMPSおよび全緩衝塩が、該膜中を移動した。電気透析が終了した後、純粋な(S)-2,2-HTFMPAの溶液(2342.2g)を得た。この溶液を135℃、20mbarで蒸留し、やがて生成物447gを得た。ついで固体NaOH(0.8mol)32.7gを加え、該反応混合物を3時間還流した。この時間の経過後、(S)-2,2-HTFMPAは完全に(S)-2,2-HTFMPSに変換されていた。該溶液を25℃未満の温度に冷却し、濃HCl 93.6gを使用して、該pHを13.8から1.0にした。該水相を酢酸エチル(500ml)で2回抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、ついで濾過した。粘性懸濁液が得られるまで、該溶液をロータリーエバポレーター上で濃縮した。この懸濁液を2回、それぞれトルエン20mlで処理し、ついで、得られた懸濁液を再濃縮した。ついで、さらにトルエン10mlを加え、ついで該混合物を還流した。該溶液を室温に冷却し、ヘキサン(30ml)で処理すると、やがて該生成物が沈殿した。該懸濁液を−10℃に冷却し、該生成物を限外濾過により集めた。真空中での乾燥(温度<35℃)により、純粋な(S)-2,2-HTFMPS(ee値 99.7%)14.1g(0.0892g)が得られた。これは、収率35%(出発物質の半分に基づき計算)に相当する。
【0097】
実施例5
a)(S)-2,2-HTFMPAから(S)-2,2-HTFMPSへの化学的加水分解
水酸化ナトリウム0.47g(11.6mmol)を蒸留水5mlに加えた。これに(S)-2,2-HTFMPA 650mg(4.14mmol)を加え、該混合物を還流した。2時間後、該反応混合物を室温に冷却し、10%強度のHClを使用してpHを1.0にした。ついで該混合物を酢酸エチル(10ml)で2回抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、40℃以下で蒸発させた。真空オーブン中での乾燥(35℃で45分間)により、(S)-2,2-HTFMPS 618mgを得た。これは、収率94.4%に相当する。この一方の異性体のみが、キラルGC分析により確認された。
【0098】
b)(S)-2,2-HTFMPAから(S)-2,2-HTFMPSへの微生物的加水分解
ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)TG 328(DSM 6710)を、Gilliganら(同誌)に記載の無機塩培地中で増殖させた。洗浄したOD650nm=5.0の細胞を、(S)-2,2-HTFMPA溶液(100mMリン酸緩衝液中1%, pH7.7)と共に37℃でインキュベートした。16時間後、GC分析は、(S)-2,2-HTFMPAが(S)-2,2-HTFMPSへ定量的に変換されていたことを示した。
【0099】
実施例6
6.1 クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1の莢膜陰性突然変異体
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1は、望ましくない特性を発酵中に該株に付与する粘性莢膜を形成した。莢膜陰性株は、細胞分離およびそれに続く後処理の点で有利であった。
【0100】
以下に記載のとおりにアクリジンICR 191(J.H. Miller Experiments in Molecular Genetics, Cold Springs Harbor, 1972)を用いて、莢膜陰性突然変異体を分離した。
【0101】
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1を、アクリジンICR 191の存在下に0.2%のグルコースを含有する無機塩培地中に接種し、30℃で一晩インキュベートした。ついでこの培養を新鮮な培地中で継代培養し、再び30℃で一晩インキュベートした。該培養を希釈し、普通寒天上にプレーティングした。非粘性コロニーを拾い、調べた。該突然変異体が0.18%の頻度で分離された。そのような突然変異体の一例は、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(DSM 11623)である。この突然変異体は、野生型と同じ増殖挙動を示す。該(R)特異的酵素は、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1と同じ活性を有するが、該株は粘性莢膜を形成しない。酵素の特徴づけおよび遺伝子クローニングのために、この突然変異体を使用した。
【0102】
6.2 クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(PRS1の莢膜陰性突然変異体)の染色体DNAの調製
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17の新鮮な一晩培養物(栄養酵母ブロス100ml、30℃)の染色体DNAを、R.H. Chesneyら(J. Mol. Biol., 130, 1979, 161-173)の改変法により単離した。
【0103】
遠心分離(15分、6500×g、4℃)により収穫した細胞を、Tris緩衝液(2.25ml, 0.05mol/l, pH 8.0, 10%(w/v)スクロース)に再懸濁した。
【0104】
リゾチーム溶液(10mg/ml; 0.25mol/l Tris HCl緩衝液, pH8.0)375μlおよび0.1mol/l EDTA(pH8.0)900μlを加えた後、該懸濁液を氷上で10分間冷却した。ついで5%(w/v)SDS 450μlおよびリボヌクレアーゼ(10mg/ml H2O)50μlを加え、該混合物を37℃で30分間インキュベートした。スパーテルチップ一杯(spatula-tipful)のプロテイナーゼKおよびプロナーゼ(20ml/ml H2O)400μlを加えた後、インキュベーションを2時間継続した。CsCl 4.3gと混合した後、該混合物を遠心分離し(30分、40,000×g、20℃)、臭化エチジウム(10mg/ml)250μlで処理し、該混合物を超遠心機(Vti 62.5管、8時間以上、246,000×g、20℃)中で遠心分離した。該DNAバンドを、長波長紫外線下で該管から抜き取った。4容量のTE緩衝液(10mmol/l Tris HCl, pH8.0, 1mmol/l EDTA)を加えた後、水で飽和させたn-ブタノールで該臭化エチジウムを3回抽出した。該DNAをイソプロパノールで沈殿させ、TE緩衝液中に取り、65℃で15分間インキュベートした。該物質は、4℃で保存することが可能であった。
【0105】
6.3 染色体DNAの制限処理および連結
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17の5μgおよびベクターDNA(pBLUESCRIPT-KS+(登録商標))4.5μgをそれぞれ、制限緩衝液の合計容量100μl中、20単位の制限酵素HindIIIで切断した(37℃で6.5時間)。該DNAをエタノールで沈殿させ、Speed VacR濃縮器中で乾燥した。該沈殿物を連結緩衝液(20mmol/l Tris緩衝液, 10mmol/l DTT (ジチオトレイトール), 10mmol/l MgCl2, 0.6mol/l ATP (アデノシン三リン酸), pH7.2)中に取り、合わせた(連結容量100μl)。
【0106】
1単位のT4 DNAリガーゼを加えた後、該混合物を13℃で一晩インキュベートした。該連結混合物のDNAをイソプロパノールで沈殿させ、形質転換のために水30μl中に取った。
【0107】
6.4 大腸菌XL1-Blue MRF’(登録商標)の形質転換および選択
コンピテント大腸菌(E. coli)XL1-Blue MRF’(登録商標)細胞を、S. FiedlerおよびR. Wirth(Analyt. Biochem., 170, 1988, 38-44)が記載している方法に従いエレクトロポレーションにより該連結混合物で形質転換した。
【0108】
プラスミドを検出するために、アンピシリン(100μg/ml)により普通寒天上で選択を行ない、「インサート」を検出するために、37℃でのインキュベーション中に0.5mmol/l IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)およびX-Gal(30μg/ml, 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)で選択を行なった。
【0109】
形質転換頻度1.7×108cfu/ml(「コロニー形成単位」Δ生存細胞)では、実質的にすべてのコロニーがHindIII「インサート」を保持していた。
【0110】
実施例7
(R)特異的アミドヒドロラーゼ遺伝子に関するクレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17遺伝子ライブラリーのスクリーニング
H. Kullaら(Arch. Mikrobiol., 135, 1983, 1-7)の記載のとおりに、C源としての0.4%(v/v)グリセロール、唯一のN源としての0.2%(w/v)(R,S)-2,2-HTFMPAおよびプラスミドの安定化のためのアンピシリン(5μg/ml)を用いて、ハイブリッドプラスミド(HindIII「インサート」)を保持するコロニーを、最少培地寒天上でのその増殖能に関して調べた。該プラスミド中のDNA「インサート」上に無傷アミドヒドロラーゼ遺伝子sadを含有するクローンのみが、N源として(R,S)-HTFMPAを利用しこれを所望の(R)-酸に変換しこの最少培地上で増殖する能力を有していた。このようにして選択したすべてのクローンが、約2.73kbのHindIII「インサート」とベクターpBLUESCRIPT-KS+(登録商標)とのハイブリッドプラスミドを含有していた。
【0111】
これにより、pPRS2aと称されるプラスミドを有する大腸菌(E. coli)XL1-Blue MRF’(登録商標)株を同定することが可能であり、該株からプラスミドpPRS2aを単離し、より詳しく特徴づけた。
【0112】
実施例8
クローン化HindIII断片上のアミドヒドロラーゼ遺伝子(sad)の位置決定
8.1 pPRS2aの制限地図
XhoI、DraII、SmaI、PstI、SalI、BamHIに関するpPRS2aの大まかな制限地図を、常法(Current Protocols Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York, 1987, 第2節)に従う制限分析により得た。該制限地図を図1に示す。
【0113】
8.2 アミドヒドロラーゼN末端ペプチド配列に基づく混合DNAオリゴマーの調製
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17アミドヒドロラーゼN末端ペプチド配列の混合DNAオリゴマーの調製と、DNAシンセサイザーを使用するその合成とが、該遺伝暗号により可能になった。
【0114】
LON T−4
5’ CAK CAK CTN ACN GAR GAR ATG CA 3’
AS His His Leu Thr Glu Glu Met AS=アミノ酸配列。
【0115】
8.3 プラスミドpPRS2aの制限断片の「サザンブロットハイブリダイゼーション」
種々の制限処理(BamHI、SmaI、DraII、HindIII、EcoRI)の後にpPRS2aから得、アガロースゲル電気泳動(0.6%)により分離したDNA断片を、公知の「サザンブロット法」(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York, 1987, 第2.9節以下参照)によりニトロセルロースにトランスファーした。
【0116】
また、該DNAオリゴマーの3’末端を、ジゴキシゲニンで標識した。「サザンブロット」のハイブリダイゼーションは、公知手法(前記参照文献に記載)に従った。
【0117】
N末端タンパク質配列に対応するヌクレオチドオリゴマーとのハイブリダイゼーションは、該ハイブリッドプラスミドpPRS2a上での1.44kbのSmaI/BamHI DNA断片または1.52kbのDraII/BamHI DNA断片の同定を可能にした。
【0118】
8.4 ヒドロラーゼ遺伝子(sad)のサブクローニング
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17からの(R)特異的アミドヒドロラーゼをコードする1.52kbのDraII/BamHI DNAまたは1.91kbのPstI/BamHI DNA断片を、等しく消化されたベクターDNA pBLUESCRIPT-KS+(登録商標)中に挿入した。
【0119】
1.52kbのDraII/BamHI DNA断片を含有するベクターpBLUESCRIPT-KS+(登録商標)を、ハイブリッドプラスミドpPRS7と称することにした。1.91kbのPstI/BamHI DNA断片を含有するベクターpBLUESCRIPT-KS+(登録商標)を、ハイブリッドプラスミドpPRS4と称することにした。
【0120】
8.5 ヒドロラーゼ遺伝子(sad)の配列決定
前記8.3にも記載の1.44kbのSmaI/BamHI断片を、レーザー蛍光DNAシークエネーターを用いるSangerのジデオキシ法(改変法)による蛍光配列決定に付した。このようにして、配列番号1と称されるヌクレオチド配列を決定し、それから、配列番号2として別々に示すアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列を導き出した。
【0121】
実施例9
(R)-アミドヒドロラーゼクローンの活性の測定
該活性の測定は、実施例4.2に記載されているのと同様にして行なった。
【0122】
実例として、大腸菌(E. coli)/pPRS1bおよび大腸菌(E. coli)/pPRS2aでの結果を表2に示す。
【表2】

【0123】
実施例10
酵素の精製および酵素の特徴づけ
10.1 酵素の精製
精製中、該活性画分を比色定量により測定した。ついで無細胞抽出物および純粋な酵素の活性を、GC法で測定した。クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1細胞(200ml, 100mMリン酸緩衝液(pH7.5)中OD650=21)を、19000psi(1309bar)のフレンチプレスに3回通すことにより破壊した。ベンゾナーゼ(1μl×30ml抽出物-1)を加え、ついで該抽出物を100000×gで15分間遠心分離した。該上清(2.94mg×ml-1)を80℃で10分間加熱し、沈殿したタンパク質をついで遠心分離で除去した。該上清(170ml, 0.83mg×ml-1)を、予め50mMリン酸緩衝液(pH7.5; 緩衝液A)で平衡化したHiLoad Q-Sepharose 26/10クロマトグラフィーカラム(Pharmacia)に適用した。緩衝液A 130mlを使用して、該カラムから未結合タンパク質を溶出した。ついで直線勾配(500ml; 緩衝液A中1M NaClから0M NaCl)を得、流速を2.5ml×分-1とした。5mlの画分を集め、活性に関して試験した。最も活性な画分(30〜37; 40ml)を合わせ、限外濾過により7.5mlに濃縮し、ついでゲル濾過クロマトグラフィー(Sephadex G-25M, PD 10, Pharmacia)により該緩衝液を10mMリン酸緩衝液(pH7.5)と交換した。ついで該活性画分を、10mMリン酸緩衝液で平衡化されているヒドロキシアパタイトカラム(5ml; Bio-Scale CHTI, BioRad)に適用した。1mlの画分を、勾配(90ml; 0.5mMリン酸緩衝液から10mMリン酸緩衝液, pH7.5)を用いて流速2.0ml×分-1で集め、活性に関して試験した。画分17〜25および32〜34で活性が示された。画分19ならびに画分33および34のタンパク質(Mr 37000)は、SDS-PAGEによれば純粋であった。画分20のタンパク質は、95%を超える純度を示した。画分20〜25を合わせ、200μlまで濃縮し、ついでゲル濾過クロマトグラフィーカラム(Superose 12; Pharmacia)に適用した。SDS-PAGEは、画分23〜26が純粋であることを示した。
【0124】
10.2 タンパク質の配列決定
N末端のアミノ酸をウエスタンブロット法により得、ついで該タンパク質をトリプシンで消化し、該ペプチドをHPLCで単離し、配列決定した。
【表3】

【0125】
10.3 酵素の特徴づけ
該アミダーゼを特徴づけるために、熱処理した無細胞抽出物を使用した。クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(DSM 11623)(OD650=160)の細胞を、19000psi(1309bar)のフレンチプレスに3回通すことにより破壊した。ベンゾナーゼ(1μl×30ml抽出物-1)を加え、ついで該抽出物を20000×gで1時間遠心分離した。該上清(約20mg×ml-1タンパク質)を70℃で10分間加熱し、沈殿したタンパク質をついで遠心分離で除去した。該上清(約2.0mg×ml-1)を、5.0mg×ml-1タンパク質まで濃縮し、ついで−20℃で保存した。この熱処理により、望まないタンパク質の約90%が除去された。0.5mg×ml-1のタンパク質濃度まで、反応速度は該タンパク質濃度と正比例した。したがって、通常、0.2mg×ml-1のタンパク質濃度を試験に用いた。最適pHを決定するためには、(R,S)-2,2-HTFMPA(基質)の濃度を0.5%(32mM)、温度を40℃とした。表4に記載の緩衝液をこの試験で使用した。
【表4】

【0126】
該反応に対する温度の効果を、100mM CAPS緩衝液(pH10.0)中、0.5%(32mM)の基質濃度で判定した。基質濃度の効果は、100mM CAPS緩衝液(pH10.0)中、60℃で判定し、メタノールの効果は、100mM CAPS緩衝液(pH10.0)中、1%(64mM)の基質濃度で40℃および60℃で判定した。該反応のKm値は、BiosoftのEnzfitterプログラムを用いて決定した。
【0127】
図4は、最適pHを示す。最適pHは、9.5〜10.5(100mM CAPS緩衝液、基質濃度32mM)である。
【0128】
図5は、ミカエリス−メンテン速度論を示す。(R)-2,2-HTFMPAのKm値は、32mM(100mM CAPS緩衝液(pH10)中、60℃)である。
【0129】
図6は、最適温度を示す。最適温度は、70℃(100mM CAPS緩衝液、基質濃度32mM)である。
【0130】
図7は、メタノールの効果を示す。該反応は、5〜20%のメタノール濃度で阻害された。
【0131】
10.4 酵素の固定化
熱処理された無細胞抽出物を、Eupergit C(Rohm GmbH)を用いて固定化した。この目的には、Eupergit C(3.0g)を、1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)中の熱処理された無細胞抽出物(タンパク質濃度: 51mg)に加えた。該混合物を、穏やかに攪拌しながら室温で90時間インキュベートした。該固定化酵素を、濾過により取り出し、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)20mlで4回洗浄した。支持体に結合した酵素(49mg)は、9.5gの固定化酵素(新鮮重)を与え、これを、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH10.0)中に4℃で保存した。該固定化酵素の活性および安定性を試験するために、小さなクロマトグラフィーカラムに、5g(25mgのタンパク質)をローディングした。ぜん動ポンプ(0.135ml×分-1)を使用して、該基質(100mM CAPS緩衝液(pH10)中の4%ラセミ体アミド100ml)をカラムとリザーバとの間で循環させた。全工程を水浴中で行なった。ある間隔で、分析用のサンプルを採取した。該酵素は、200時間後にも依然として活性であった。3つの生物変換(それぞれ4gのラセミ体基質を使用し、1つは60℃で行ない、残りの2つは40℃で行なった)が、合計6gの(S)-アミドを与えた。反応の開始時に、非固定化酵素(比活性=114μg×分-1×mgタンパク質-1)に匹敵(41%)する固定化酵素(比活性=47μg×分-1×mgタンパク質-1)を60℃で加えた。
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、単離されたDNAの制限地図を示す。
【図2】図2は、プラスミドpPRS1bを示す。
【図3】図3は、プラスミドpPRS2aを示す。
【図4】図4は、該アミドヒドロラーゼの最適pHを示す。
【図5】図5は、該アミドヒドロラーゼのミカエリス−メンテン速度論を示す。
【図6】図6は、該アミドヒドロラーゼの最適温度を示す。
【図7】図7は、該アミドヒドロラーゼに対するメタノールの効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

で表されるプロピオンアミドのラセミ体形態またはその光学活性異性体形態を唯一の窒素源として利用する能力を有することを特徴とする微生物、および該微生物由来の酵素抽出物。
【請求項2】
ロドコッカス(Rhodococcus)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、バシラス(Bacillus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属またはシュードモナス(Pseudomonas)属の請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1(DSM 11009)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)PRS1K17(DSM 11623)、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)ID-622(DSM 11344)、アルスロバクター・ラモサス(Arthrobacter ramosus)ID-620(DSM 11350)、バシラス・エスピー(Bacillus sp.)ID-621(DSM 11351)、クレブシエラ・プランティクラ(Klebsiella planticula)ID-624(DSM 11354)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)ID-625(DSM 11355)の種もしくはシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)(DSM 11010)の種またはそれらの機能的に等価な変異体および突然変異体である、請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
アミドヒドロラーゼ活性を有し、式
【化2】

で表される(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドを加水分解する能力を有するポリペプチド。
【請求項5】
配列番号2に示されるアミノ酸配列またはその断片、またはアミノ酸の欠失、置換、挿入、逆位、付加および/または交換を有するこの配列もしくはこの配列断片の機能的に等価な誘導体を含む、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項4または5のいずれかに記載のポリペプチドをコードするDNA配列。
【請求項7】
請求項4および5のいずれかに記載のポリペプチドを宿主内で発現させるためのDNA配列であって、
(a)配列番号1に示される配列、その断片およびそれらと相補的な配列、および遺伝暗号の変異のためにコード領域内で縮重しているそれらに由来する配列を有するDNA、および
(b)(a)に記載の配列のコード領域とハイブリダイズするDNA配列またはその断片
から選ばれるDNA配列を含んでなるDNA配列。
【請求項8】
図1に示される制限地図により特徴づけられる請求項6または7に記載のDNA配列、またはその機能的に等価な変異体および突然変異体。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載のDNA配列を含有する組換えDNA分子またはベクター。
【請求項10】
プラスミドpPRS1b、pPRS7、pPRS4またはプラスミドpPRS2aである、請求項9に記載の組換えDNA分子。
【請求項11】
請求項9および10のいずれかに記載の組換えDNA分子またはベクターを含有する微生物。
【請求項12】
エシェリキア(Escherichia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、コマモナス(Comamonas)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、リゾビウム(Rhizobium)/アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、バシラス(Bacillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはアグロバクテリウム(Agrobacterium)属の微生物から選ばれる、請求項11に記載の微生物。
【請求項13】
プラスミドpPRS1b、pPRS2a、pPRS4またはプラスミドpPRS7を含有する微生物大腸菌(Escherichia coli)DH5。
【請求項14】
プラスミドpPRS1b、pPRS2a、pPRS4またはプラスミドpPRS7を含有する微生物大腸菌(Escherichia coli)XL1-Blue MRF’(登録商標)。
【請求項15】

【化3】

で表される(S)-または(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸および/または式
【化4】

で表される(R)-または(S)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドの製造法であって、式
【化5】

で表されるプロピオンアミドを、請求項1〜3または11〜13に記載の微生物またはそれら由来の酵素抽出物により、あるいは請求項4または5に記載のポリペプチドにより、式I、II、VIIまたはVIIIで表される化合物へ変換し、所望により、これらの化合物を単離することを含んでなる製造法。
【請求項16】

【化6】

で表される(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸および/または式
【化7】

で表される(S)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドの製造法であって、式
【化8】

で表されるプロピオンアミドを、請求項2に記載のクレブシエラ(Klebsiella)属の微生物により、あるいは請求項11〜14に記載の微生物または請求項4および5に記載のポリペプチドにより、式IIで表される化合物へ変換し、所望により、この化合物および/またはこの変換中に生成する式VIIで表される化合物を単離することを含んでなる製造法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の製造法であって、第1工程で、式
【化9】

で表されるトリフルオロアセタートを、鉱酸を使用して、式
【化10】

で表されるトリフルオロアセトンに変換し、これを第2工程で、シアン化物を使用して、式
【化11】

で表されるプロピオニトリルに変換し、これを第3工程で、濃鉱酸を使用して化学的に又はロドコッカス(Rhodococcus)属の突然変異微生物を使用して微生物学的に、式
【化12】

で表されるプロピオンアミドに変換することにより、式
【化13】

で表されるプロピオンアミドを得ることを特徴とする製造法。
【請求項18】
第1工程および第3工程で使用する鉱酸が、硫酸、リン酸または硝酸であることを特徴とする、請求項17に記載の製造法。
【請求項19】
第2工程で使用するシアン化物が、シアン化アルカリ金属であることを特徴とする、請求項17または18に記載の製造法。
【請求項20】

【化14】

で表されるプロピオンアミドの変換を、クレブシエラ(Klebsiella)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、バシラス(Bacillus)属、エシェリキア(Escherichia)属、コマモナス(Comamonas)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)/アグロバクテリウム(Agrobacterium)属またはシュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を使用して行なうことを特徴とする、請求項15〜19のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項21】

【化15】

で表される(S)-または(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドを、塩基の存在下で化学的に又はロドコッカス(Rhodococcus)属の微生物を使用して微生物学的に、式IまたはIIで表される化合物へ加水分解することを特徴とする、請求項15〜20のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項22】
(R)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミド。
【請求項23】
(S)-3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−148694(P2008−148694A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−315256(P2007−315256)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【分割の表示】特願平10−504811の分割
【原出願日】平成9年7月10日(1997.7.10)
【出願人】(398075600)ロンザ ア−ゲ− (58)
【Fターム(参考)】