説明

1つの反応装置から他の反応装置へ移動する時のポリマー製品のブロッキングを減らす方法

ダブルループ反応装置でのオレフィン重合に関するものであり、特に、極めて活性な触媒系を用いたオレフィンの重合方法。ダブルループ反応装置の第一ループ反応装置から第二ループ反応装置へポリマー製品を移動する際のブロッキングを減少させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルループ反応装置でのオレフィン重合に関するものであり、特に、極めて活性な触媒系を用いたオレフィンの重合方法に関するものである。
本発明は、ダブルループ反応装置の第一ループ反応装置から第二ループ反応装置へポリマー製品を移動する際のブロッキングを減少させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(PE)はエチレン(CH2=CH2)モノマーと任意成分の1種または複数のコモノマーとの重合で合成される。PEは安価で、安全で、ほとんどの環境で安定で、加工も容易なため多くの用途で利用されている。ポリエチレンはその性質に応じて一般にいくつかのタイプ、例えばLDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)などに分類される(ただし、これらに限定されるものではない)。各タイプのポリエチレンは異なる性質と特性を有し、種々の用途で用いられている。
【0003】
エチレンの重合はループ反応装置内でモノマー、希釈剤および触媒と、任意成分のコモノマーー及び水素とを用いて行われる。このエチレン重合はポリマー製品が通常希釈剤中に懸濁した固体粒子から成るスラリー条件下で行われる。液体の希釈剤中にポリマー固体粒子を効率良く懸濁状態に維持するために、反応装置のスラリー含有物をポンプで連続的に循環させる。製品は沈殿脚を介して排出される。沈殿脚はバッチで作動される。沈殿脚中に沈殿させるのは、製品スラリーとして最終的に回収するスラリーの個体濃度を増加させるためである。この製品はフラッシュラインを通ってフラッシュタンクへ排出される。フラッシュタンクではほとんどの希釈剤と未反応モノマーとが排出され、際循環される。ポリマー粒子は乾燥され、必要に応じて添加剤が加えられる。ポリマーは最終的に押し出され、ペレット化される。
【0004】
ダブルループ系は、各反応装置に互いに異なる重合条件を与えて(一般には1つの反応装置と他方の反応装置で水素量とコモノマーの量を変化させる)高度にテーラーメードのポリオレフィンを製造できるので極めて望ましいものである。さらに、ダブルループ系を用いることで単一ループ系よりも反応装置内での触媒の累積滞留時間を長くすることででき、その結果、触媒収率が改善される。ポリマー製品は1つ又は複数の移送ライン(transfer line)を通って第一反応装置から第二反応装置へ移送される。排出プロセスはバッチで行われるので、また、蓄積時間が短いことを考慮すると、移送ライン中を循環する材料の平均速度は1m/秒以下である。そのため、残留モノマーが重合して(特にメタロセンのような活性が極めて高い触媒系を用いた場合)沈殿および詰まるのを回避する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、移送速度を上げる、および/または、移送ライン中の触媒の反応性を抑える必要がある。
本発明の目的は、移送ラインを通るポリマー製品の移送速度を上げることにある。
本発明のさらに他の目的は、沈殿脚中および移送ライン中で生じる重合のレベルを下げることにある。
本発明のさらに他の目的は、沈殿脚中でのポリマーの残留時間を減少させることにある。
これらの目的の少なくとも一部は本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の(a)〜(d)の段階を有することを特徴とする、スラリーダブルループ反応装置でのエチレンとα−オレフィンとを単独重合または共重合において、1つのループ反応装置から他方のループ反応装置への移送ライン中での沈殿および閉塞を減らす方法にある:
(a) 第1の反応装置の温度を膨潤温度より5〜7℃低い温度になるように下げ、および/または
(b) 第1の反応装置と第2の反応装置との間の圧力差Δpを1〜5バールにし且つ特許文献1に記載のように反応装置の排出と同期させ、および/または
(c) 沈殿脚中で行なわれる重合によって(a)で定義のマージン(限界)より高い温度とならないように、第1の反応装置の各沈殿脚での滞留時間を減少させ、および/または
(d) 特許文献2に記載のように沈殿した全てのポリマーが除去するように、移送ラインの方へ向かう各沈殿脚の出口に位置した製品テイクオフ弁の回転速度を調節する。
【特許文献1】欧州特許第EP-A-1,803,498号公報
【特許文献2】欧州特許第EP-A-1,596,981号公報
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】直列に接続された2つの単一ループ反応装置を示す図。
【図2】沈殿脚の部品を示す図。
【図3】図3のa、b、cは製品取出(PTO)弁を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
膨潤温度(swelling temperature)は同時出願の欧州特許出願EP07119993.9号の第8頁第26行〜第10頁第29行、請求書1〜10に記載のものである。この膨潤温度はコモノマーの濃度とポリマーの数平均分子量との関数で計算され、さらに固体含有率と樹脂の分子量分布も考慮に入れる。
【0009】
移送ラインでの閉塞を防ぐためには(a)〜(d)の全ての特徴を備えていることが好ましい。
【実施例】
【0010】
[図1]は直列に接続された2つの単一のループ反応装置100と116とを示している。2つの反応装置100、116はいずれも互いに接続した複数のパイプ104から成る。パイプセグメント104の垂直セクションは熱ジャケット105を備えているのが好ましい。反応物はライン107を介して反応装置100へ導入される。触媒と任意成分の助触媒または活性剤はコンダクト106を介して反応装置100、116の一方または両方へ導入できる。重合スラリーは矢印108で示すような一つまたは複数のポンプ(例えば軸流ポンプ101)によってループ反応装置100、116全体を一方向に循環する。ポンプには電気モーター102から電力が供給できる。ポンプは一組の回転インペラ103を備えることができる。
【0011】
反応装置100および116は一つまたは複数の沈殿脚109をさらに備えている。沈殿脚109は反応装置100、116のパイプ104に接続されている。沈殿脚109は遮断弁110を備えているのが好ましい。沈殿脚はさらに、製品テイクオフまたは吐出弁111を備えているか、下流側セクションに直結することができる。反応装置100の沈殿脚109の出口の下流には移送ライン112が設けられている。沈殿脚109に沈殿したポリマースラリーはこの移送ライン112を通り、必要な場合にはピストンバルブ115を備えた入口を通って、他の反応装置116へ送ることができる。複数のループ反応装置を並列に用いる必要がある場合には、移送ライン112に沿って流れを三方向弁(three-way valve)114を用いて製品回収ゾーンへ流すことができる。反応装置116の沈殿脚109中に沈殿したポリマー・スラリーは一つまたは複数の製品回収ライン113によって除去され、例えば製品回収ゾーンへ送られる。
【0012】
温度は膨潤温度よりも数度低く、一般には5〜7℃、好ましくは約6℃低い温度に保つのが有利である。水素、オフガスおよびヘキセンの量は最終製品の好ましい物性を得ることができるように各反応装置で調整される。両方のループ反応装置が同一のメルトインデックス及び密度を有するように運転できる。
【0013】
2つのループ反応装置を接続しているラインには動圧差が加わる。第二反応装置の圧力は所定の圧力差を維持するために第一反応装置内の圧力変化によってリアルタイムで制御される。この機構は特許文献1に記載されている。ダブルループ反応装置の二つの反応装置間の圧力差は一般に0.5バールであるが、各ダンプ(排出)の終わりの2つのループの圧力差は設定差より大きくなることがある。
【0014】
本発明では、二つの反応装置間の圧力差は少なくとも1バールまで上昇し、好ましくは1〜2.5バールの間であり、より好ましくは1.5〜2バールの間である。これによって製品が一つの反応装置から移送ライン112を通って他の反応装置へ移送されるときにかなり効率的な流れが保証される。
【0015】
同期した反応装置からの排出は特許文献1に記載されている。上記圧力は一般に設定値(set-point)弁と沈殿脚のダンピングとの相互反応で制御される。各設定値に達する毎に、一つの沈殿脚がダンプ(排出)する。その結果、上記圧力は設定値より低い値に降下する。これは圧力制御を維持するのに必要である。圧力が十分に下降しない場合に制御を回復するシナリオも存在する。このタイプの制御はバッチプロセスの沈殿脚ダンピングを、連続プロセスのループ反応装置の重合にリンクするのに必要である。第二反応装置の設定値は動的制御システムを用いて第一反応装置のプロセス値に直接リンクされる。
【0016】
沈殿脚での滞留時間は減少する。すなわち、沈殿脚はジャケットが無く、従って、未反応生成物の排出前に未制御の重合が生じた時に大きな熱に曝される。不要な熱のレベルは温度と濃度の変化に起因する触媒系の反応性の変化の関数として予測される。沈殿脚中での典型的な滞留時間は40秒である。本発明ではこれが30秒、好ましくは20秒に短縮される。望ましくない重合に起因する熱の量は沈殿脚内での滞留時間の関数として推定できる。例えば滞留時間が約20秒の場合、通常運転条件下での温度上昇は6℃程度である。沈殿脚中のモノマーの消費量は沈殿脚を出た製品のモノマーの濃度を測定することで推定される。反応装置出口でのモノマー濃度は一般に5〜8重量%である。反応装置中での推定濃度は反応装置の出口で測定される濃度より約0.75重量%高い。比較のために、沈殿脚中での滞留時間が40秒の場合、類似重合条件の場合、温度上昇は10℃のオーダーである。
【0017】
ポリマー製品は各沈殿脚の端部に位置した製品取出回転(product take-out、PTO)弁111を介して沈殿脚から放出される。このPTO弁は180°または90°の回転弁にすることができる。その機構は特許文献2に記載されている。固体粒子はこの弁を介して沈殿脚から流出できる。この製品取出用の180°回転弁は空気駆動の複動アクチュエータによって操作される。この弁は沈殿した製品が完全に排出できるような回転速度で回転されるのが好ましい。一般的な回転速度は180°回転するのに1〜2.5秒、好ましくは1.5〜2秒である。上記の空気システムは制御弁がV−ボールバルブであることを特徴とする空気式調節弁から成る機構で制御される。制御弁は自動制御弁であるのが好ましい。
【0018】
[図2]は管路20に接続された沈殿脚22の下側部品を示し、製品取出(PTO)弁23を有している。このPTO弁は回転弁で、その回転は機構Mで制御される。
【0019】
沈殿脚22のPTO弁23は周期的に開かれ、それによって沈殿脚22中に存在するポリマー粒子は管路20中へ送られる。PTO弁23の開口時間は沈殿脚22中に存在する実質的に全ての粒子が管路20へ送られ、フリーのモノマーおよびフリーの希釈剤が実質的に反応装置中に残るように、細かく制御される。
【0020】
2種類のPTO弁が使用される。最も一般的な弁は可動部が180°回転するもので、弁は閉位置(0°)から開位置(90°)、次いで閉位置(180°)へ連続的に滑らかに回転する。次のサイクルで弁は逆回転する。また、90°回転弁も使用できる。この場合には可動部が閉位置(0°)からは開位置(90°)まで回転し、開位置でしばらく開位置を維持し、それから閉位置(0°)へ逆回転する。
【0021】
PTO弁は一般に空気圧で駆動される。[図3a]に示すように各PTO弁23には回転速度を制御するダブル空気圧アクチュエータ40が備えられている。180°回転弁の場合にはPTOの回転速度が特に重要で、それが直接開時間を制御する。
【0022】
ダブル空気圧アクチュエータ40へ送られた空気気流はソレノイドで駆動される二方向装置45によって方向が決められる。[図3b]は二方向装置45の1つの位置を示しており、ここでは導管50から来た空気が管路42を介してアクチュエータ40へ送られ、また、戻り流が管路41を介して管路51を通って出る。[図3c]は二方向装置45の他の位置を示し、ここでは管路50から来た空気が管路41を介してアクチュエータ40へ送られ、戻り流が管路42を介して管路52を通って出る。
【0023】
制御弁61および62は空気の出口流を調節する。各弁61、62には個別の装置が設けられていて、PTO弁23中のボールが同時に同じ速度で回転しなかった場合に空気圧で駆動されるPTO弁を制御する。制御弁61、62は自動制御されるのが好ましい。
【0024】
本発明では非常に活性のある触媒系を使用するのが好ましい。好ましい触媒系はメタロセン触媒またはチーグラー‐ナッタ触媒成分と活性化剤とをベースにしたものである。より好ましい触媒はメタロセン触媒系である。公知の任意のメタロセン触媒成分を使用することができる。
【0025】
メタロセン触媒成分は1つまたは2つのリガンドに結合した金属原子を有する遷移金属錯体であると記載できる。その好ましい実施例のメタロセン触媒は一般式:MXを有する。ここで、Mは周期律表の第4族金属、Xはシクロペンタジエニル(Cp)、インデニル、フルオレニルまたはこれらの誘導体の一つまたは二つの基から成るリガンドである。さらに好ましいメタロセン触媒成分はエチレン‐ビステトラヒドロインデニルジルコニウム二塩化物またはビス-(n-ブチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウム二塩化物またはジメチルシリルエン‐ビス(2-メチル-4-フェニル-インデニル)ジルコニウム二塩化物である。最も好ましいメタロセン成分はエチレン‐ビステトラヒドロインデニルジルコニウム二塩化物である。
【0026】
メタロセン触媒成分はイオン化作用を有する活性化剤で活性化しなければならない。好ましい活性化剤はアルミノキサンまたは硼素含有錯体から選ばれる。最も好ましい活性化剤はメチルアルミノキサン(MAO)である。
【0027】
触媒成分はMAOを含浸したシリカ担体上に担持されているのが好ましい。あるいは、活性化剤として特許文献3に記載のようなフッ素化された活性担体にしてMAOの使用を不用にすることができる。
【特許文献3】欧州特許第EP-A-1 709091号公報
【0028】
本発明はスラリーダブルループ反応装置でのエチレンの単独およびα−オレフィンとの共重合で使用できれる。モノマーはエチレンまたはプロピレンから選ぶのが好ましく、エチレンであるのが好ましい。本発明の使用に適したコモノマーはエチレンおよび脂肪族C3〜C20のα−オレフィンであるが、これらに限定されるものではない。適したC3〜C20のα−オレフィンの例にはプロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンが含まれる。本発明の特に好ましい実施例はエチレンとヘキセンとの共重合である。
【0029】
本発明で使用するのに適した希釈剤は炭化水素溶剤、例えば脂環式および芳香族の炭化水素溶剤またはそのハロゲン化誘導体であるが、これらに限定さるものではない。最も好ましい希釈剤はイソブタンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(d)の段階を有することを特徴とする、スラリーダブルループ反応装置でのエチレンとα−オレフィンとを単独重合または共重合において、1つのループ反応装置から他方のループ反応装置への移送ライン中での沈殿および閉塞を減らす方法:
(a) 第1の反応装置の温度を膨潤温度より5〜7℃低い温度になるようにセットし、
(b) 第1の反応装置と第2の反応装置との間の圧力差Δpを1〜5バールにし且つ反応装置の排出と同期させ、
(c) 沈殿脚中で行われる重合によって(a)で定義のマージン(限界)より高い温度とならないように、第1の反応装置の各沈殿脚での滞留時間を減少させ、
(d)沈殿した全てのポリマーが除去するように、移送ラインの方へ向かう各沈殿脚の出口に位置した製品テイクオフ弁の回転速度を調節する。
【請求項2】
温度を膨潤温度より6℃低くする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の反応装置と第2の反応装置との間の圧力差を1.5〜2.5バールにする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の反応装置と第2の反応装置との間の圧力差を1.5〜2バールにする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
沈殿脚中の滞留時間を20秒以下にする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
各沈殿脚の出口に位置した製品取出(PTO)弁が180°または90°回転弁である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
各沈殿脚の出口に位置した製品取出(PTO)弁の回転速度が1.5〜2秒で180°のオーダーである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
モノマーがエチレンで、任意成分のコモノマーがヘキセンである請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公表番号】特表2011−503275(P2011−503275A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532567(P2010−532567)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064935
【国際公開番号】WO2009/059968
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】