1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレン、及びUV吸収剤としてのその使用
本願は、1以上のオゾン分子が封入されている新規内包フラーレンを開示する。フラーレンは、例えばC60-フラーレン(Buckminsterフラーレン)、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択される。本願は、更に、内包フラーレンとキャリア物質とを含んでなる組成物を開示する。ここで、例えば、キャリア物質は、L-アスコルビン酸又はビタミンEを含んでなる皮膚ローションのような皮膚ローションである。更に、新規フラーレンの種々の使用、例えば皮膚UV保護のため;サングラス中又はその表面上での、窓ガラス中又はその表面上での、繊維、織物、衣類、木、ペンキ、紙、クッション、革製品、ヘアケア製品及び植物中又はその表面上での使用が開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子(すなわち「フラーレン捕獲オゾン」)が封入されており、効率的UV吸収剤としての使用を示唆される内包フラーレン(endohedral fullerene)の形態である新規の原理(principle)に関する。その分子構造は、UV吸収剤としてのオゾンの利益を提供すると同時に、そうしなければ反応性種であるオゾンを本質的に非反応性である環境中に残す。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
UV線に対する保護は、デンマークにおける次第に高まりつつある問題である。なぜならば、照射強度及び皮膚ガン患者数がオゾン層の希薄化と同調して増大することが予測によって示されているからである。25年にわたって、皮膚ガンの発生が20%増えるであろう。皮膚ガンは、UV線の多くの有害効果のうちの1つにすぎない。UV線に対する保護が無いことに伴う問題は、一国家の懸案事項のみならず地球規模の問題、例えば皮膚ガンの発生率が次の10年以内に50%増加すると予想されているニュージーランドの問題でもある。
【0003】
オゾン(又は三酸素、(O3))は、3つの酸素原子からなる三原子分子である。これは、二原子O2より遥かに安定でない酸素同素体である。地表レベルのオゾンは、動物の呼吸系に有害効果を有する大気汚染物質である。大気圏上層部のオゾン層は、潜在的に障害性の紫外光を地球表面に到達させないフィルターとして機能している。
オゾン分子は、240〜320nmの波長を有する紫外線を吸収する。三原子オゾン分子は二原子分子酸素と遊離酸素原子とになる:
O3 (気体) + (240nm < 放射線 < 320nm) → O2 (気体) + O・ (気体)
【0004】
生成した原子状酸素は、直ぐに他の酸素分子と反応してオゾンを再形成する:
O2 + O・ + M → O3 + M
ここで「M」は、余剰の反応エネルギーを奪い去る第3の物体を指す。このように、OとO2とが一緒になるときに放出される化学エネルギーは、分子移動の運動エネルギーに変換される。全体としての効果は、正味のオゾン損失なしで、透過性UV光を熱に変換することである。このサイクルが、安定したバランスでオゾン層を維持しつつ、(ほとんどの生物にとって有害である)UV線から大気圏下層部を保護する。これは、成層圏における2つの主要な熱源の1でもある(もう1つは、O2がO原子に光分解されるときに放出される運動エネルギーである)。
【0005】
Curl, Kroto及びSmalley (Krotoら,Nature, Vol 318, p. 162, 1985)は、最初に、実験室でC60-フラーレン(「バッキーボール」)を作製し同定した。原型(native)フラーレンへの最も一般的なルートの1つは、グラファイトロッド間に電流を流すことによりこれらを高温に加熱し、次いで得られる煤(炭素微粒子)中のフラーレンを他の炭素化合物から分離することを包含する。代表的には、結晶の約75%がC60-フラーレン分子であり、23%がC70-フラーレン分子であり、残りがより大きな分子を含んでなる。後に、種々の他のグループがより大量のフラーレンを、商業的規模でも製造することができるようになり、現在では、C60-、C70-、C76-、C78-、C82-及びC84-フラーレン並びに種々の誘導体が商業的供給元から入手可能となったと同時に、製品価格が劇的に下落した。Birkettはフラーレンの化学についての優れた総説を作成した(http://www.rsc.org/ej/IC/1998/ic094055.pdf)。
【0006】
フラーレンの製造についての一般的な方法及び考慮すべき事項は、Karl M. Kadish & Rodney S. Ruoff, 「fullerenes - Chemestry, Physics, and Technology」, Wiley-Interscience 2000, ISBN 0-471-29089-0. Chapter 8: Endohedral Metallofullerenes: Production, Separation, and Structural Propertiesに記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の目的
UV吸収に関するオゾンの有益な性質を利用し、同時にオゾンの望ましくない性質を取り除くことを可能にする新たな分子構造を提供することが、本発明の実施形態の1つの目的である。このような新たな分子構造は種々の技術分野で、例えば日焼け防止ローション(皮膚ローション)、日除け、抗老化製品など、サングラス、繊維、日除け、風除けなどにおいて応用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
上記課題を解決するために、本発明は、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンを提供する。
更に、本発明は、上記内包フラーレンとキャリア物質、例えば皮膚ローションとを含んでなる組成物である。
【0009】
更に、本発明は、本明細書に記載の内包フラーレンの、皮膚UV保護のため;サングラス中又はその表面上;窓ガラス中又はその表面上;繊維、織物、衣類、木、ペンキ、紙、クッション、革、ヘアケア製品及び植物中又はその表面上での使用を提供する。
この新規内包フラーレンは、例えばUVA-、UVB-、UVC-、UVD-線を吸収する能力を有する最適化された日焼け止めを構成するための、オゾン分子(これは、単独及び特にフラーレンとの組合せで、例えば太陽からのUV光に対して保護するための優れた紫外光吸収体である)の実用的で日用的な使用を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はフラーレン(ここではC60-フラーレン)中へのオゾン分子の導入を説明する。この図は、プログラムGaussian-09 (www.gaussian.com)を用いたコンピュータシミュレーションの結果として作成した。
【図2】図2はフラーレン捕獲オゾンのUV吸収性分子構造としての作用を説明する。
【図3】図3は開口(open-cage)フラーレン誘導体C1の生成を説明する。
【図4】図4は開口フラーレン誘導体C2、C3及びC4の生成を説明する。
【図5】図5は開口フラーレン誘導体C5の合成を説明する。
【図6】図6はC5中の二酸素の挿入を説明する。
【図7】図7はイオウ原子の除去によるO2@C5のオリフィスのサイズ減少を説明する。
【図8】図8はO2@C4のO2@C7への減少を説明する。
【図9】図9はC60内部の二酸素O2@C60を説明する。
【図10】図10はフラーレン中にイオンを注入するためのビーム装置の概略を説明する。
【図11】図11はイオン注入によるO3@C60製造の概略を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な開示
上記のように、本発明は、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンを提供する。
【0012】
定義
本発明に関して、用語「フラーレン」は、球体、楕円体、チューブなどのような中空構造の形態である、専ら炭素から構成された種々の分子を包含するものとする。本発明に関して、構造は、少なくとも1つのオゾン分子を捕獲することができるような構造でなければならず、よって、少なくとも1つのオゾン分子がその中に捕獲されるに十分な空間を提供する少なくとも1つの閉鎖腔を含まなけらばならない。
フラーレンは、代表的には、炭素原子数に従って、例えばC60-フラーレン、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン、C120-フラーレンなどに分類される。
【0013】
最も知られたフラーレンの1つは、通常「C60」又は「バッキーボール」と呼ばれるBuckminsterフラーレン(IUPAC名称(C60-Ih)[5,6]フラーレン)である。
他に特に示さない限り、用語「フラーレン」及び「1以上のフラーレン」は、単一タイプのフラーレン(例えばC60-フラーレン)並びに2種以上のタイプのフラーレンの組合せ(例えば、C60-、C70-、… C84-、C120-フラーレンなどの混合物)を包含するものとする。
【0014】
更に、本発明に関して「フラーレン」はまた、分子構造の外側に種々の基が共有結合している誘導体を包含するものとする。この例は、複数のヒドロキシ基を有するフラーレンである。このような誘導体化フラーレン(例えばヒドロキシ基で誘導体化されたもの)は、原型フラーレン(これは、周知なことに全く疎水性である)より親水性にされており、したがって親水性の物質、例えば皮膚ローション中により容易に組み入れられる。
用語「内包フラーレン」とは、追加の原子、分子、イオン又はクラスターが内圏中に封入されているフラーレンをいう。本発明に関して、このような内包フラーレンはその中に少なくとも1つのオゾン分子、場合により2以上のオゾン分子が封入されている。
【0015】
1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造
1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンは、1以上の原子又は小分子をフラーレン中に導入するための公知の方法、例えば以下に記載の方法(方法A及びB)に従って製造されてもよい。
【0016】
方法A
この方法により、オゾン分子は、フラーレン構造が形成された後に、フラーレン中に導入される。導入は以下の変法の1以上に従って達成され得る:
方法Aの第1の変法では、(1)フラーレン構造にオリフィスを開口し、(2)オリフィスを拡げ、(3)オゾン分子(場合により、二酸素分子)を該構造中にオリフィスを通じて導入し、(4)オリフィスのサイズを減少させ、最後に(5)オリフィスを完全に閉鎖することによりフラーレンを再構築する。この方法は、Michihisa Murata, 「100% Encapsulation of a Hydrogen Molecule into an Open-Cage Fullerene Derivative and Gas-Phase Generation of H2@C60」, Institute for Chemical Research, Kyoto University, 2006の「Method」に一般論として記載されている(http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/64942/1/D_Murata_Michihisa.pdf)。
【0017】
方法Aのこの変法では、主として二酸素分子(特にフラーレンあたり1つの二酸素分子)を構造中にオリフィスを通じて導入することができる(工程(3))。その後、オリフィスのサイズを減少させ(工程(4))、オリフィスを完全に閉鎖することによりフラーレンを再構築する(工程(5))。最後に、例えばフラーレンサンプルを酸素イオンと衝突させることにより、第3の酸素原子をフラーレン構造中に導入する。図10に説明する装置のようなビーム装置が、適切に使用され得る。
【0018】
この変法の1つの利点は、オリフィスを通じてのフラーレン内への挿入の間、オゾンの反応性が回避される(工程(4)及び(5))ことである。こうして、二酸素分子が封入されているフラーレン構造中に1つの余分な酸素原子が導入される。フラーレン中での反応O2+O・により、オゾン(O3)が生成する。
【0019】
よって、現時点で非常に興味深い実施形態において、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンは、以下の方法により製造される:
(1)フラーレン構造にオリフィスを開口させ、
(2)オリフィスを拡げ、
(3)1以上の二酸素分子(特に1つの二酸素分子)を該構造中にオリフィスを通じて導入し、
(4)オリフィスのサイズを減少させ、
(5)オリフィスを完全に閉鎖することによりフラーレンを再構築し、
(6)フラーレンを酸素イオンと衝突させることにより、二酸素分子をオゾン分子に変換させる。
【0020】
この観点で、本発明はまた、1以上の二酸素分子、特に1つの二酸素分子が封入されている内包フラーレンを提供する。このようなフラーレンは、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造に有用であり得る。
よって、更なる実施形態において、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンは、以下の方法により製造される:
(a)1以上の二酸素分子、特に1つの二酸素分子が封入されている内包フラーレンを用意し、
(b)該フラーレンを酸素イオンと衝突させることにより、二酸素分子をオゾン分子に変換させる。
【0021】
方法Aの第2の変法は、オゾン分子(或いは二酸素分子)をイオン化することを必要とする。オゾン分子(場合により、二酸素分子)を最初にイオン化する。イオン化オゾン分子を電界中で加速させてイオン化オゾンビームを生成し、これを次いでフラーレンのサンプル(例えば薄い固体サンプル又はガス雲として)と接触させる(実験の章も参照)。
【0022】
よって、本発明はまた、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造方法を提供し、該方法は
・ 1以上のフラーレンを含んでなるサンプルを用意する工程;
・ オゾン及び/又は二酸素をイオン化し、イオン化オゾン及び/又は二酸素を電界中で加速させて、イオン化オゾン及び/又は二酸素のビームを用意する工程;
・ イオン化オゾン及び/又は二酸素のビームを1以上のフラーレンのサンプルと衝突させる工程;そして
1以上のオゾン及び/又は二酸素分子、特に1つのオゾン又は二酸素分子をその内部に有するフラーレンを採集し、必要な場合、二酸素分子を変換させて少なくとも1つのオゾン分子を生成させる工程
の基本工程を含んでなる。
【0023】
第1の工程では、1以上のフラーレンのサンプルは、例えばガス雲中又は僅か1〜10分子、特に1〜5分子の薄層で、分子の大多数がイオン化オゾンビームに直接接近可能であるような様式で提示されるべきである。サンプルは、代表的には、イオン化オゾンビームに対して適切に接近可能となるように、真空チャンバに配置される(下記参照)。
第2工程におけるオゾンのイオン化及び加速は、従来の装置を用いる従来の方法により達成される。
イオン化オゾンビームを1以上のフラーレンのサンプルと衝突させる第3工程もまた、従来の装置で達成される。
最後に、その内部に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を有するフラーレンを採集し、適用まで適切に、好ましくは不活性雰囲気中に貯蔵する。
【0024】
方法Aの第3の変法では、1以上のオゾン分子(及び/又は二酸素分子)、特に1つのオゾン又は二酸素分子を、高圧によりフラーレン内部に導入する。よって、この代替法では、製造の基本工程は:
・ 1以上のフラーレンを含んでなるサンプルを用意し;
・ その中に加圧されたオゾン(又は二酸素)を有するチャンバに1以上のフラーレンを配置し;そして
・ その内部に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子(又は二酸素分子)を有するフラーレンを採集する。
【0025】
方法B
この方法では、フラーレンを製造する時に、オゾン分子(場合により二酸素分子)をフラーレンに捕獲させる。内包材料に捕獲されたオゾン分子の製造は、2つの可能な方法(下記の2つの変法を参照)で達成される。
方法Bの第1の変法では、オゾンガスの存在下で2つの黒鉛電極間にアークを生じさせることによりフラーレンを製造する。幾らかの割合のフラーレンがその中に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を封入している、フラーレン混合物が製造される。
方法Bの第2の変法では、オゾンガスの存在下でグラファイト標的に強力なレーザを衝突させることによりフラーレンを製造する。幾らかの割合のフラーレンがその中に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を封入している、フラーレン混合物が製造される。
【0026】
C60-フラーレンが最も一般的なフラーレンであるにしても、代表的には、フラーレン内でより豊富なオゾン分子を得るためには、この方法及びこの化合物には、より大きなフラーレンさえも利用することが有利である。よって、フラーレンは、代表的には、C60-フラーレン、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択されるが、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンからフラーレンを選択することが尚より有利であり、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択することが尚更に有利であると考えられる。
【0027】
上記方法の効率は100%未満であり得、その結果フラーレン分子の一部はその内部にオゾン分子を有しない可能性があり得ることを理解すべきである。1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの優れた性質に起因して、依然として、一部が原型フラーレンからなり、一部は内包フラーレン(フラーレン捕獲オゾン)からなるサンプルは種々の産業分野で非常に価値あると考えられる(下記参照)。
【0028】
内包フラーレンのサンプル中のオゾン分子及び/又は二酸素分子の実数は、質量分析により決定することができる(下記の「実験」の章を参照)。
こう言えるので、(一部は原型フラーレンからなり、一部は内包フラーレン(フラーレン捕獲オゾン又は二酸素)からなる)フラーレンサンプルは、クロマトグラフィー手段により、内包フラーレンに関して富化し得る。
クロマトグラフィー手段による精製(及び富化)はまた、炭素煤を除去するために有益である。なぜならば、上記技法は、代表的には、望ましい内包フラーレンに加えて、かなり大量の炭素煤を生じるからである。
【0029】
発明の具体的実施形態
本発明の内包フラーレンは、代表的には、キャリア物質との組合せで使用される。
1つの実施形態では、キャリア物質は皮膚ローション、日焼け止め、抗老化製品などである。好ましくは、皮膚ローションは、L-アスコルビン酸及びビタミンEから選択される少なくとも一方のような抗酸化剤を含む。
【0030】
産業応用
本発明の背後にある最初の根本理由は、特に皮膚ローションに優れたUV保護特性を提供する目的で、UV吸収に関するオゾンの有益な特性を利用することを可能にする適切な新たな分子構造を製造することである。
新規なフラーレン捕獲オゾン構造は、フラーレンそれ自体がUV-A範囲(400nm〜320nm)の光を吸収することができる点及びオゾンがUV-B範囲(320nm〜280nm)、UV-C範囲(280nm〜185nm)及びUV-D範囲(185nm〜10nm)の光を吸収できる点で効率的なUV保護を提供することを可能にする。
【0031】
よって、本発明の1つの興味深い観点は、内部に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を有する1以上のフラーレン分子が含まれている皮膚ローションである。当然のことながら、皮膚ローション中のフラーレン分子の「装填量(load)」及びフラーレン分子内のオゾン分子の「装填量」に依存して、この皮膚ローションは、太陽からの有害なUV線に対する100%に近い保護を提供することができる。
他の興味深い産業応用として、コーティング層にフラーレン捕獲オゾンを有するか、又は−おそらくは、より効果的には−眼鏡を構成する材料(例えばガラス又はポリマー)中にフラーレン捕獲オゾンが組み入れられているサングラスを挙げることができる。同じことが、フラーレン捕獲オゾンによりUV吸収特性を有して提供され得るコンタクトレンズにも当てはまる。
【0032】
他の興味深い産業応用として、その上のコーティング層にフラーレン捕獲オゾンを有するか又はそれ自体にフラーレン捕獲オゾンが組み入れられているガラス(例えば、窓ガラス、日除けガラス、風除けガラス)を挙げることができる。
種々のタイプの製品、例えば繊維、織物、(例えば子供用の、水着のような)衣類、(庭の備品、パネル、家具などのような)木、ペンキ、(本、室外ポスター、雑誌、新聞、写真のような)紙、クッション、革、ヘアケア製品、植物なども興味深い。これらの表面が、フラーレン捕獲オゾンを含ませることによりUV吸収特性を有して提供され得る。更に多くの応用が考えられる。
【実施例】
【0033】
実験
実施例1−オゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造(方法A、第1の変法)
先ず、「分子手術(molecular surgery)」の方法論に従い、O2@C60を製造する。この手順は以下の工程からなる:(1)C60フレームワークにオリフィスを開口させ、(2)オリフィスを拡げ、(3)オリフィスを通じてO2を押し込み、(4)オリフィスのサイズを減少させ、そして(5)最後に、オリフィスを完全に閉鎖することにより元のC60形態を再生する。
【0034】
(1)に従ってC60フレームワークにオリフィスを開口させる:
ODCB (4mL)中のフラーレンC60 (50mg)及び3-(2-ピリジル)-5,6-ジフェニル-1,2,4-トリアジン(21mg)の混合物を180℃で17時間アルゴン下で還流させる。次いで、得られる溶液を直接、シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーに供する。CS2-酢酸エチル(20:1)での溶出により、開口フラーレン誘導体C1 (35mg)が褐色粉体として得られる(図3参照)。
【0035】
(2)に従って、オリフィスを拡げる:
(a)Pyrexフラスコにおいて、CCl4 (65mL)中の化合物C1 (66mg)の紫色溶液に高圧水銀ランプ(500W)を20cmの距離から6時間、大気下で照射する。得られる褐色溶液を蒸発させ、残留する黒色固体をODCB (3mL)に溶解させる。次いで、これを、Cosmosil 5PBBカラム(10mm×250mm)を用いてODCBで溶出(流速、2mL/分)させる分取HPLCに供する。これにより、9回のリサイクルの後に、異なる3つの開口フラーレン誘導体C2 (40mg、保持時間:8.7分)、C3 (21mg、保持時間:9.2分)及びC4 (1mg、保持時間:9.1分)が全て褐色粉体として得られる(図4を参照)。
【0036】
(b)ODCB (15mL)中の化合物C2 (32mg)及び元素イオウ(S8として8mg)の加温し撹拌した溶液に、アルゴン下で、180℃のテトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(7.1μL)を加える。この溶液を180℃で30分間還流させ、次いで得られる暗赤褐色溶液を蒸発により約3mLに濃縮する。次いで、これをペンタン(30mL)に激しく撹拌しながら加えて、褐色の沈殿物を得る。遠心分離により採集した沈殿物を、次いでODCB (2mL)中に溶解する。得られる溶液をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーに供し、トルエン-酢酸エチル(30:1)で溶出させると、好適な開口フラーレン誘導体C5 (25mg)が褐色粉体として得られる(図5を参照)。
【0037】
製造した化合物C5は、サイズが長軸5.64Åで短軸3.75Åであるオリフィスを有する。このオリフィスは、酸素分子の短軸が約3.0Åであるので、O2が通過するに十分な空間を与え、250℃まで熱的に安定である。
1のオリフィスを通って小さな原子又は分子を挿入する実現可能性についての洞察を得るために、Murataら(Michihisa Murata、「100% Encapsulation of a Hydrogen Molecule into an Open-Cage Fullerene Derivative and Gas-Phase Generation of H2@C60」京都大学化学研究所2006, http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/64942/1/D_Murata_Michihisa.pdf)は、この化合物中へのHe、Ne、H2及びArの挿入に必要な活性化エネルギーの計算を行った。そのエネルギーは、19.0、26.2、30.1及び97.8kcal mol-1と計算された。Gaussian-09ソフトウェアを用いて、C60中へのO3の挿入に必要な活性化エネルギーを136.8kJ/mol (32,7kcal mol-1)と算出した。これは、Murataらにより計算された値の範囲内である。
【0038】
(3)に従ってオリフィスを通じてO2を押し込む:
(a)アルミホイル片に軽く包んだ開口フラーレンC5粉 (775mg)を、高圧O2ガス(800atm)下でオートクレーブ中で200℃に加熱する。8時間後、アルミホイルをCS2で洗浄することにより粉体を回収する(図6参照)。
【0039】
(4)に従ってオリフィスのサイズを減少させる:
(a)先ず、O2@C5のスルフィド単位の酸化をm-クロロパー安息香酸(MCPBA)により行って、イオウ原子を直ちに除去可能にする。トルエン(200mL)中O2@C5 (107mg)及びm-クロロパー安息香酸(34mg)の混合物を、窒素下室温にて13時間撹拌する。次いで、溶媒を減圧下で蒸発させ、残留する褐色固体をメタノール(50mL)で2回洗浄し、真空乾燥させて、O2@C6 (106mg)を褐色固体として得る(図7参照)。
(b)Pyrex-ガラスフラスコにおいて、ベンゼン(150mL)中O2@C6 (52mg)の撹拌溶液に、20cmの距離に置いたキセノンランプ(500W)を室温にて17時間アルゴン下で照射する。減圧下での溶媒の除去後、残留する褐色固体をシリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーに供する。CS2-酢酸エチル(30:1)での溶出により、O2@C4 (21mg)が褐色固体として得られる(図7参照)。
【0040】
(5)に従って、最後に、オリフィスの完全な閉鎖により元のC60形態を再生する:
(a)乾燥テトラヒドロフラン(10mL)中の亜鉛粉(299mg)の撹拌懸濁液に、四塩化チタン(250μl)の液滴を滴下によりアルゴン下で0℃にて加え、混合物を2時間還流する。得られる黒色スラリの1-mL部分を、ODCB (7mL)中O2@C4 (49mg)の撹拌溶液にアルゴン下室温にて加える。80℃で2時間の加熱後、得られる褐色がかった紫色溶液を室温に冷却する。次いで、溶液をCS2 (20mL)で希釈し、得られる溶液を飽和NaHCO3水溶液(50mL)で洗浄する。有機層をMgSO4で乾燥させ、減圧下で蒸発させて、残留する褐色固体を得る。これを次いでシリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーに供する。CS2-酢酸エチル(20:1)での溶出により、O2@C7 (42mg)を褐色固体として得る(図8を参照)。
【0041】
(b)アルミホイル片に軽く包んだO2@C7粉(245mg)をガラス管(内径20mm)中に置き、これを真空(1mmHg)下で密封し、電気炉で340℃に2時間加熱する。得られる黒色固体はCS2に完全に可溶であり、この溶液をシリカゲルでパックしたガラス管に通して、O2@C60を褐色固体として得る。分取Cosmosil Buckyprepカラム(直接接続した2つのカラム、10mm×250mm、移動相としてトルエンを有する;流速、4mL/分)でのHPLCを使用したこの生成物の分離により、20回のリサイクル(合計保持時間、399分)後に、分析的に純粋なO2@C60を得ることができる(図9を参照)。
【0042】
O3@C60製造における最後の工程は、上記の合成から得られた分析的に純粋なO2@C60に残りの酸素原子を導入することである。
【0043】
図10はビーム装置の概要を示す。中心にあるのはシリンダーであり、これは秒当たり数分回転する。シリンダーの一方の側にはオーブンがあり、フラーレン(この場合にはO2@C60)のビームを生じる。他方の側にはイオン源がある。酸素イオンがイオン化チャンバで作られ、酸素イオンの速度は、イオン化チャンバ中のフィラメント電流を変えることで制御される。次いで、酸素イオンは、電界によりチャンバ外に引き寄せられ、加速され、イオンレンズセットで集束させられる。イオンビームは幾つかの角度に曲げられて、イオン化チャンバ中で生じる可能性のある準安定な原子及びVUV光子から分離される。次いで、イオンビームが表面に当たり、ここで少量の酸素が内包フラーレン分子に侵入し、既に封入されていたO2と共にそこに捕獲されて、O3を生成する(図11を参照)。このイオンは、表面を僅か1又は2分子の深さまでしか透過することができないので、表面は連続して再生(renew)しなければならない。フラーレンビームの中ほどでのシリンダーの回転がこのことを行う。数時間の稼動後、シリンダーを装置から取り出し、サンプルをシリンダー表面から回収することができる。
【0044】
実施例2−コンピュータシミュレーション
C60中へのオゾン分子の封入の実現可能性を、Gaussian-09ソフトウェアを用いるコンピュータシミュレーションによって検証した(図1も参照)。プログラムGaussian-09及びハートリー-フォック又はセルフコンシステントフィールド法を使用して電子構造計算を行った。これは、電子が一組の軌道に、軌道あたり2つ、一方はスピンアップ、他方はスピンダウンで入ることを仮定している。シミュレーションは、各軌道の大雑把な近似から始め、より正確な近似を算出し、その後電子を挿入した。エネルギーの最も低い軌道から始めた。軌道がもはや変化しなくなるまで、このプロセスを繰り返した。各軌道は、単純な基底関数の組合せとして表された:軌道x = a1*f1+a2*f2+a3*f3+...。fは、分子中の所定原子上の水素様軌道のような基底関数である。次いで、最も低いエネルギーが得られるように、全てのaを変化させて計算した。各核を固定位置で保持して計算を行った。各核についての力を算出するようにプログラムを設定し、その後総エネルギーを低くするように動かした。次いで、これをエネルギーが最小となるまで繰り返した。最初に、空のC60及び遊離のオゾンについて計算を行った。その後、オゾンをC60の内部に入れて、計算を続けた。ハートリー-フォック近似では、各電子は、本質的に、その他の電子を、点粒子のセットとしてよりはむしろ分散電荷雲として見る。電子は、所定位置で1つの電子を見出す確率がその他の全ての電子がどこに位置しているかに無関係である点で無相関であると定義された。この相関誤差を補正することは可能であるが、その計算はより大規模となる。結合していない2つの分子が存在している本件の場合、相関補正により、引力が与えられて、エネルギーが減少する。基本的に、相関は、O3中の電子をC60中の電子から離すように動かし、エネルギーを僅かに減少させる。補正を含ませることにより、組込みエネルギーが減少する。補正無しで、組込みエネルギーは136.8kJ/mol.であると判明した。
遊離O3中での結合長さは1.197Åである一方、C60中に組み入れられたオゾンの結合長さは1.183Åである。遊離O3の結合角は119.09度である一方、シミュレーションは、C60中に組み入れられたオゾンについて116.6度の結合角を示す。
【0045】
実施例3−1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造(方法A、第2の変法)
1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造について、種々の方法が上記に記載されている。これら方法の1つでは、ビーム装置(実施例1及び図10を参照)を、1以上のオゾン分子が封入されているフラーレンを直接製造するために使用する。
代替のアプローチは、先ず、二酸素の磁気特性を利用して磁界中で二酸素を加速することである。この方法により、二酸素のビームが生成され、フラーレンに当てられる。その後、捕捉した二酸素を有するフラーレンが上記システムに進入し、生成したイオン化酸素ビームに当てられる。この方法により、プロセス効率が増大し、より高速でオゾン含有フラーレンを製造し得る。
【0046】
実施例4−1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレンのサンプルの分析
フラーレン分子中のオゾン分子(又はオゾン及び二酸素分子の組合せ)の数は、従来の質量分析装置又はNMR分光装置で決定することができる。
原型フラーレン(あれば)及びより重い構成物のMSピークの強度に基づいて、フラーレン中のオゾン(及び−該当すれば−二酸素)の平均「装填量」を容易に算出することができる。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子(すなわち「フラーレン捕獲オゾン」)が封入されており、効率的UV吸収剤としての使用を示唆される内包フラーレン(endohedral fullerene)の形態である新規の原理(principle)に関する。その分子構造は、UV吸収剤としてのオゾンの利益を提供すると同時に、そうしなければ反応性種であるオゾンを本質的に非反応性である環境中に残す。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
UV線に対する保護は、デンマークにおける次第に高まりつつある問題である。なぜならば、照射強度及び皮膚ガン患者数がオゾン層の希薄化と同調して増大することが予測によって示されているからである。25年にわたって、皮膚ガンの発生が20%増えるであろう。皮膚ガンは、UV線の多くの有害効果のうちの1つにすぎない。UV線に対する保護が無いことに伴う問題は、一国家の懸案事項のみならず地球規模の問題、例えば皮膚ガンの発生率が次の10年以内に50%増加すると予想されているニュージーランドの問題でもある。
【0003】
オゾン(又は三酸素、(O3))は、3つの酸素原子からなる三原子分子である。これは、二原子O2より遥かに安定でない酸素同素体である。地表レベルのオゾンは、動物の呼吸系に有害効果を有する大気汚染物質である。大気圏上層部のオゾン層は、潜在的に障害性の紫外光を地球表面に到達させないフィルターとして機能している。
オゾン分子は、240〜320nmの波長を有する紫外線を吸収する。三原子オゾン分子は二原子分子酸素と遊離酸素原子とになる:
O3 (気体) + (240nm < 放射線 < 320nm) → O2 (気体) + O・ (気体)
【0004】
生成した原子状酸素は、直ぐに他の酸素分子と反応してオゾンを再形成する:
O2 + O・ + M → O3 + M
ここで「M」は、余剰の反応エネルギーを奪い去る第3の物体を指す。このように、OとO2とが一緒になるときに放出される化学エネルギーは、分子移動の運動エネルギーに変換される。全体としての効果は、正味のオゾン損失なしで、透過性UV光を熱に変換することである。このサイクルが、安定したバランスでオゾン層を維持しつつ、(ほとんどの生物にとって有害である)UV線から大気圏下層部を保護する。これは、成層圏における2つの主要な熱源の1でもある(もう1つは、O2がO原子に光分解されるときに放出される運動エネルギーである)。
【0005】
Curl, Kroto及びSmalley (Krotoら,Nature, Vol 318, p. 162, 1985)は、最初に、実験室でC60-フラーレン(「バッキーボール」)を作製し同定した。原型(native)フラーレンへの最も一般的なルートの1つは、グラファイトロッド間に電流を流すことによりこれらを高温に加熱し、次いで得られる煤(炭素微粒子)中のフラーレンを他の炭素化合物から分離することを包含する。代表的には、結晶の約75%がC60-フラーレン分子であり、23%がC70-フラーレン分子であり、残りがより大きな分子を含んでなる。後に、種々の他のグループがより大量のフラーレンを、商業的規模でも製造することができるようになり、現在では、C60-、C70-、C76-、C78-、C82-及びC84-フラーレン並びに種々の誘導体が商業的供給元から入手可能となったと同時に、製品価格が劇的に下落した。Birkettはフラーレンの化学についての優れた総説を作成した(http://www.rsc.org/ej/IC/1998/ic094055.pdf)。
【0006】
フラーレンの製造についての一般的な方法及び考慮すべき事項は、Karl M. Kadish & Rodney S. Ruoff, 「fullerenes - Chemestry, Physics, and Technology」, Wiley-Interscience 2000, ISBN 0-471-29089-0. Chapter 8: Endohedral Metallofullerenes: Production, Separation, and Structural Propertiesに記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の目的
UV吸収に関するオゾンの有益な性質を利用し、同時にオゾンの望ましくない性質を取り除くことを可能にする新たな分子構造を提供することが、本発明の実施形態の1つの目的である。このような新たな分子構造は種々の技術分野で、例えば日焼け防止ローション(皮膚ローション)、日除け、抗老化製品など、サングラス、繊維、日除け、風除けなどにおいて応用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
上記課題を解決するために、本発明は、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンを提供する。
更に、本発明は、上記内包フラーレンとキャリア物質、例えば皮膚ローションとを含んでなる組成物である。
【0009】
更に、本発明は、本明細書に記載の内包フラーレンの、皮膚UV保護のため;サングラス中又はその表面上;窓ガラス中又はその表面上;繊維、織物、衣類、木、ペンキ、紙、クッション、革、ヘアケア製品及び植物中又はその表面上での使用を提供する。
この新規内包フラーレンは、例えばUVA-、UVB-、UVC-、UVD-線を吸収する能力を有する最適化された日焼け止めを構成するための、オゾン分子(これは、単独及び特にフラーレンとの組合せで、例えば太陽からのUV光に対して保護するための優れた紫外光吸収体である)の実用的で日用的な使用を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はフラーレン(ここではC60-フラーレン)中へのオゾン分子の導入を説明する。この図は、プログラムGaussian-09 (www.gaussian.com)を用いたコンピュータシミュレーションの結果として作成した。
【図2】図2はフラーレン捕獲オゾンのUV吸収性分子構造としての作用を説明する。
【図3】図3は開口(open-cage)フラーレン誘導体C1の生成を説明する。
【図4】図4は開口フラーレン誘導体C2、C3及びC4の生成を説明する。
【図5】図5は開口フラーレン誘導体C5の合成を説明する。
【図6】図6はC5中の二酸素の挿入を説明する。
【図7】図7はイオウ原子の除去によるO2@C5のオリフィスのサイズ減少を説明する。
【図8】図8はO2@C4のO2@C7への減少を説明する。
【図9】図9はC60内部の二酸素O2@C60を説明する。
【図10】図10はフラーレン中にイオンを注入するためのビーム装置の概略を説明する。
【図11】図11はイオン注入によるO3@C60製造の概略を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な開示
上記のように、本発明は、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンを提供する。
【0012】
定義
本発明に関して、用語「フラーレン」は、球体、楕円体、チューブなどのような中空構造の形態である、専ら炭素から構成された種々の分子を包含するものとする。本発明に関して、構造は、少なくとも1つのオゾン分子を捕獲することができるような構造でなければならず、よって、少なくとも1つのオゾン分子がその中に捕獲されるに十分な空間を提供する少なくとも1つの閉鎖腔を含まなけらばならない。
フラーレンは、代表的には、炭素原子数に従って、例えばC60-フラーレン、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン、C120-フラーレンなどに分類される。
【0013】
最も知られたフラーレンの1つは、通常「C60」又は「バッキーボール」と呼ばれるBuckminsterフラーレン(IUPAC名称(C60-Ih)[5,6]フラーレン)である。
他に特に示さない限り、用語「フラーレン」及び「1以上のフラーレン」は、単一タイプのフラーレン(例えばC60-フラーレン)並びに2種以上のタイプのフラーレンの組合せ(例えば、C60-、C70-、… C84-、C120-フラーレンなどの混合物)を包含するものとする。
【0014】
更に、本発明に関して「フラーレン」はまた、分子構造の外側に種々の基が共有結合している誘導体を包含するものとする。この例は、複数のヒドロキシ基を有するフラーレンである。このような誘導体化フラーレン(例えばヒドロキシ基で誘導体化されたもの)は、原型フラーレン(これは、周知なことに全く疎水性である)より親水性にされており、したがって親水性の物質、例えば皮膚ローション中により容易に組み入れられる。
用語「内包フラーレン」とは、追加の原子、分子、イオン又はクラスターが内圏中に封入されているフラーレンをいう。本発明に関して、このような内包フラーレンはその中に少なくとも1つのオゾン分子、場合により2以上のオゾン分子が封入されている。
【0015】
1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造
1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンは、1以上の原子又は小分子をフラーレン中に導入するための公知の方法、例えば以下に記載の方法(方法A及びB)に従って製造されてもよい。
【0016】
方法A
この方法により、オゾン分子は、フラーレン構造が形成された後に、フラーレン中に導入される。導入は以下の変法の1以上に従って達成され得る:
方法Aの第1の変法では、(1)フラーレン構造にオリフィスを開口し、(2)オリフィスを拡げ、(3)オゾン分子(場合により、二酸素分子)を該構造中にオリフィスを通じて導入し、(4)オリフィスのサイズを減少させ、最後に(5)オリフィスを完全に閉鎖することによりフラーレンを再構築する。この方法は、Michihisa Murata, 「100% Encapsulation of a Hydrogen Molecule into an Open-Cage Fullerene Derivative and Gas-Phase Generation of H2@C60」, Institute for Chemical Research, Kyoto University, 2006の「Method」に一般論として記載されている(http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/64942/1/D_Murata_Michihisa.pdf)。
【0017】
方法Aのこの変法では、主として二酸素分子(特にフラーレンあたり1つの二酸素分子)を構造中にオリフィスを通じて導入することができる(工程(3))。その後、オリフィスのサイズを減少させ(工程(4))、オリフィスを完全に閉鎖することによりフラーレンを再構築する(工程(5))。最後に、例えばフラーレンサンプルを酸素イオンと衝突させることにより、第3の酸素原子をフラーレン構造中に導入する。図10に説明する装置のようなビーム装置が、適切に使用され得る。
【0018】
この変法の1つの利点は、オリフィスを通じてのフラーレン内への挿入の間、オゾンの反応性が回避される(工程(4)及び(5))ことである。こうして、二酸素分子が封入されているフラーレン構造中に1つの余分な酸素原子が導入される。フラーレン中での反応O2+O・により、オゾン(O3)が生成する。
【0019】
よって、現時点で非常に興味深い実施形態において、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンは、以下の方法により製造される:
(1)フラーレン構造にオリフィスを開口させ、
(2)オリフィスを拡げ、
(3)1以上の二酸素分子(特に1つの二酸素分子)を該構造中にオリフィスを通じて導入し、
(4)オリフィスのサイズを減少させ、
(5)オリフィスを完全に閉鎖することによりフラーレンを再構築し、
(6)フラーレンを酸素イオンと衝突させることにより、二酸素分子をオゾン分子に変換させる。
【0020】
この観点で、本発明はまた、1以上の二酸素分子、特に1つの二酸素分子が封入されている内包フラーレンを提供する。このようなフラーレンは、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造に有用であり得る。
よって、更なる実施形態において、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンは、以下の方法により製造される:
(a)1以上の二酸素分子、特に1つの二酸素分子が封入されている内包フラーレンを用意し、
(b)該フラーレンを酸素イオンと衝突させることにより、二酸素分子をオゾン分子に変換させる。
【0021】
方法Aの第2の変法は、オゾン分子(或いは二酸素分子)をイオン化することを必要とする。オゾン分子(場合により、二酸素分子)を最初にイオン化する。イオン化オゾン分子を電界中で加速させてイオン化オゾンビームを生成し、これを次いでフラーレンのサンプル(例えば薄い固体サンプル又はガス雲として)と接触させる(実験の章も参照)。
【0022】
よって、本発明はまた、1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造方法を提供し、該方法は
・ 1以上のフラーレンを含んでなるサンプルを用意する工程;
・ オゾン及び/又は二酸素をイオン化し、イオン化オゾン及び/又は二酸素を電界中で加速させて、イオン化オゾン及び/又は二酸素のビームを用意する工程;
・ イオン化オゾン及び/又は二酸素のビームを1以上のフラーレンのサンプルと衝突させる工程;そして
1以上のオゾン及び/又は二酸素分子、特に1つのオゾン又は二酸素分子をその内部に有するフラーレンを採集し、必要な場合、二酸素分子を変換させて少なくとも1つのオゾン分子を生成させる工程
の基本工程を含んでなる。
【0023】
第1の工程では、1以上のフラーレンのサンプルは、例えばガス雲中又は僅か1〜10分子、特に1〜5分子の薄層で、分子の大多数がイオン化オゾンビームに直接接近可能であるような様式で提示されるべきである。サンプルは、代表的には、イオン化オゾンビームに対して適切に接近可能となるように、真空チャンバに配置される(下記参照)。
第2工程におけるオゾンのイオン化及び加速は、従来の装置を用いる従来の方法により達成される。
イオン化オゾンビームを1以上のフラーレンのサンプルと衝突させる第3工程もまた、従来の装置で達成される。
最後に、その内部に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を有するフラーレンを採集し、適用まで適切に、好ましくは不活性雰囲気中に貯蔵する。
【0024】
方法Aの第3の変法では、1以上のオゾン分子(及び/又は二酸素分子)、特に1つのオゾン又は二酸素分子を、高圧によりフラーレン内部に導入する。よって、この代替法では、製造の基本工程は:
・ 1以上のフラーレンを含んでなるサンプルを用意し;
・ その中に加圧されたオゾン(又は二酸素)を有するチャンバに1以上のフラーレンを配置し;そして
・ その内部に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子(又は二酸素分子)を有するフラーレンを採集する。
【0025】
方法B
この方法では、フラーレンを製造する時に、オゾン分子(場合により二酸素分子)をフラーレンに捕獲させる。内包材料に捕獲されたオゾン分子の製造は、2つの可能な方法(下記の2つの変法を参照)で達成される。
方法Bの第1の変法では、オゾンガスの存在下で2つの黒鉛電極間にアークを生じさせることによりフラーレンを製造する。幾らかの割合のフラーレンがその中に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を封入している、フラーレン混合物が製造される。
方法Bの第2の変法では、オゾンガスの存在下でグラファイト標的に強力なレーザを衝突させることによりフラーレンを製造する。幾らかの割合のフラーレンがその中に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を封入している、フラーレン混合物が製造される。
【0026】
C60-フラーレンが最も一般的なフラーレンであるにしても、代表的には、フラーレン内でより豊富なオゾン分子を得るためには、この方法及びこの化合物には、より大きなフラーレンさえも利用することが有利である。よって、フラーレンは、代表的には、C60-フラーレン、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択されるが、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンからフラーレンを選択することが尚より有利であり、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択することが尚更に有利であると考えられる。
【0027】
上記方法の効率は100%未満であり得、その結果フラーレン分子の一部はその内部にオゾン分子を有しない可能性があり得ることを理解すべきである。1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの優れた性質に起因して、依然として、一部が原型フラーレンからなり、一部は内包フラーレン(フラーレン捕獲オゾン)からなるサンプルは種々の産業分野で非常に価値あると考えられる(下記参照)。
【0028】
内包フラーレンのサンプル中のオゾン分子及び/又は二酸素分子の実数は、質量分析により決定することができる(下記の「実験」の章を参照)。
こう言えるので、(一部は原型フラーレンからなり、一部は内包フラーレン(フラーレン捕獲オゾン又は二酸素)からなる)フラーレンサンプルは、クロマトグラフィー手段により、内包フラーレンに関して富化し得る。
クロマトグラフィー手段による精製(及び富化)はまた、炭素煤を除去するために有益である。なぜならば、上記技法は、代表的には、望ましい内包フラーレンに加えて、かなり大量の炭素煤を生じるからである。
【0029】
発明の具体的実施形態
本発明の内包フラーレンは、代表的には、キャリア物質との組合せで使用される。
1つの実施形態では、キャリア物質は皮膚ローション、日焼け止め、抗老化製品などである。好ましくは、皮膚ローションは、L-アスコルビン酸及びビタミンEから選択される少なくとも一方のような抗酸化剤を含む。
【0030】
産業応用
本発明の背後にある最初の根本理由は、特に皮膚ローションに優れたUV保護特性を提供する目的で、UV吸収に関するオゾンの有益な特性を利用することを可能にする適切な新たな分子構造を製造することである。
新規なフラーレン捕獲オゾン構造は、フラーレンそれ自体がUV-A範囲(400nm〜320nm)の光を吸収することができる点及びオゾンがUV-B範囲(320nm〜280nm)、UV-C範囲(280nm〜185nm)及びUV-D範囲(185nm〜10nm)の光を吸収できる点で効率的なUV保護を提供することを可能にする。
【0031】
よって、本発明の1つの興味深い観点は、内部に1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子を有する1以上のフラーレン分子が含まれている皮膚ローションである。当然のことながら、皮膚ローション中のフラーレン分子の「装填量(load)」及びフラーレン分子内のオゾン分子の「装填量」に依存して、この皮膚ローションは、太陽からの有害なUV線に対する100%に近い保護を提供することができる。
他の興味深い産業応用として、コーティング層にフラーレン捕獲オゾンを有するか、又は−おそらくは、より効果的には−眼鏡を構成する材料(例えばガラス又はポリマー)中にフラーレン捕獲オゾンが組み入れられているサングラスを挙げることができる。同じことが、フラーレン捕獲オゾンによりUV吸収特性を有して提供され得るコンタクトレンズにも当てはまる。
【0032】
他の興味深い産業応用として、その上のコーティング層にフラーレン捕獲オゾンを有するか又はそれ自体にフラーレン捕獲オゾンが組み入れられているガラス(例えば、窓ガラス、日除けガラス、風除けガラス)を挙げることができる。
種々のタイプの製品、例えば繊維、織物、(例えば子供用の、水着のような)衣類、(庭の備品、パネル、家具などのような)木、ペンキ、(本、室外ポスター、雑誌、新聞、写真のような)紙、クッション、革、ヘアケア製品、植物なども興味深い。これらの表面が、フラーレン捕獲オゾンを含ませることによりUV吸収特性を有して提供され得る。更に多くの応用が考えられる。
【実施例】
【0033】
実験
実施例1−オゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造(方法A、第1の変法)
先ず、「分子手術(molecular surgery)」の方法論に従い、O2@C60を製造する。この手順は以下の工程からなる:(1)C60フレームワークにオリフィスを開口させ、(2)オリフィスを拡げ、(3)オリフィスを通じてO2を押し込み、(4)オリフィスのサイズを減少させ、そして(5)最後に、オリフィスを完全に閉鎖することにより元のC60形態を再生する。
【0034】
(1)に従ってC60フレームワークにオリフィスを開口させる:
ODCB (4mL)中のフラーレンC60 (50mg)及び3-(2-ピリジル)-5,6-ジフェニル-1,2,4-トリアジン(21mg)の混合物を180℃で17時間アルゴン下で還流させる。次いで、得られる溶液を直接、シリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーに供する。CS2-酢酸エチル(20:1)での溶出により、開口フラーレン誘導体C1 (35mg)が褐色粉体として得られる(図3参照)。
【0035】
(2)に従って、オリフィスを拡げる:
(a)Pyrexフラスコにおいて、CCl4 (65mL)中の化合物C1 (66mg)の紫色溶液に高圧水銀ランプ(500W)を20cmの距離から6時間、大気下で照射する。得られる褐色溶液を蒸発させ、残留する黒色固体をODCB (3mL)に溶解させる。次いで、これを、Cosmosil 5PBBカラム(10mm×250mm)を用いてODCBで溶出(流速、2mL/分)させる分取HPLCに供する。これにより、9回のリサイクルの後に、異なる3つの開口フラーレン誘導体C2 (40mg、保持時間:8.7分)、C3 (21mg、保持時間:9.2分)及びC4 (1mg、保持時間:9.1分)が全て褐色粉体として得られる(図4を参照)。
【0036】
(b)ODCB (15mL)中の化合物C2 (32mg)及び元素イオウ(S8として8mg)の加温し撹拌した溶液に、アルゴン下で、180℃のテトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(7.1μL)を加える。この溶液を180℃で30分間還流させ、次いで得られる暗赤褐色溶液を蒸発により約3mLに濃縮する。次いで、これをペンタン(30mL)に激しく撹拌しながら加えて、褐色の沈殿物を得る。遠心分離により採集した沈殿物を、次いでODCB (2mL)中に溶解する。得られる溶液をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーに供し、トルエン-酢酸エチル(30:1)で溶出させると、好適な開口フラーレン誘導体C5 (25mg)が褐色粉体として得られる(図5を参照)。
【0037】
製造した化合物C5は、サイズが長軸5.64Åで短軸3.75Åであるオリフィスを有する。このオリフィスは、酸素分子の短軸が約3.0Åであるので、O2が通過するに十分な空間を与え、250℃まで熱的に安定である。
1のオリフィスを通って小さな原子又は分子を挿入する実現可能性についての洞察を得るために、Murataら(Michihisa Murata、「100% Encapsulation of a Hydrogen Molecule into an Open-Cage Fullerene Derivative and Gas-Phase Generation of H2@C60」京都大学化学研究所2006, http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/64942/1/D_Murata_Michihisa.pdf)は、この化合物中へのHe、Ne、H2及びArの挿入に必要な活性化エネルギーの計算を行った。そのエネルギーは、19.0、26.2、30.1及び97.8kcal mol-1と計算された。Gaussian-09ソフトウェアを用いて、C60中へのO3の挿入に必要な活性化エネルギーを136.8kJ/mol (32,7kcal mol-1)と算出した。これは、Murataらにより計算された値の範囲内である。
【0038】
(3)に従ってオリフィスを通じてO2を押し込む:
(a)アルミホイル片に軽く包んだ開口フラーレンC5粉 (775mg)を、高圧O2ガス(800atm)下でオートクレーブ中で200℃に加熱する。8時間後、アルミホイルをCS2で洗浄することにより粉体を回収する(図6参照)。
【0039】
(4)に従ってオリフィスのサイズを減少させる:
(a)先ず、O2@C5のスルフィド単位の酸化をm-クロロパー安息香酸(MCPBA)により行って、イオウ原子を直ちに除去可能にする。トルエン(200mL)中O2@C5 (107mg)及びm-クロロパー安息香酸(34mg)の混合物を、窒素下室温にて13時間撹拌する。次いで、溶媒を減圧下で蒸発させ、残留する褐色固体をメタノール(50mL)で2回洗浄し、真空乾燥させて、O2@C6 (106mg)を褐色固体として得る(図7参照)。
(b)Pyrex-ガラスフラスコにおいて、ベンゼン(150mL)中O2@C6 (52mg)の撹拌溶液に、20cmの距離に置いたキセノンランプ(500W)を室温にて17時間アルゴン下で照射する。減圧下での溶媒の除去後、残留する褐色固体をシリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーに供する。CS2-酢酸エチル(30:1)での溶出により、O2@C4 (21mg)が褐色固体として得られる(図7参照)。
【0040】
(5)に従って、最後に、オリフィスの完全な閉鎖により元のC60形態を再生する:
(a)乾燥テトラヒドロフラン(10mL)中の亜鉛粉(299mg)の撹拌懸濁液に、四塩化チタン(250μl)の液滴を滴下によりアルゴン下で0℃にて加え、混合物を2時間還流する。得られる黒色スラリの1-mL部分を、ODCB (7mL)中O2@C4 (49mg)の撹拌溶液にアルゴン下室温にて加える。80℃で2時間の加熱後、得られる褐色がかった紫色溶液を室温に冷却する。次いで、溶液をCS2 (20mL)で希釈し、得られる溶液を飽和NaHCO3水溶液(50mL)で洗浄する。有機層をMgSO4で乾燥させ、減圧下で蒸発させて、残留する褐色固体を得る。これを次いでシリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーに供する。CS2-酢酸エチル(20:1)での溶出により、O2@C7 (42mg)を褐色固体として得る(図8を参照)。
【0041】
(b)アルミホイル片に軽く包んだO2@C7粉(245mg)をガラス管(内径20mm)中に置き、これを真空(1mmHg)下で密封し、電気炉で340℃に2時間加熱する。得られる黒色固体はCS2に完全に可溶であり、この溶液をシリカゲルでパックしたガラス管に通して、O2@C60を褐色固体として得る。分取Cosmosil Buckyprepカラム(直接接続した2つのカラム、10mm×250mm、移動相としてトルエンを有する;流速、4mL/分)でのHPLCを使用したこの生成物の分離により、20回のリサイクル(合計保持時間、399分)後に、分析的に純粋なO2@C60を得ることができる(図9を参照)。
【0042】
O3@C60製造における最後の工程は、上記の合成から得られた分析的に純粋なO2@C60に残りの酸素原子を導入することである。
【0043】
図10はビーム装置の概要を示す。中心にあるのはシリンダーであり、これは秒当たり数分回転する。シリンダーの一方の側にはオーブンがあり、フラーレン(この場合にはO2@C60)のビームを生じる。他方の側にはイオン源がある。酸素イオンがイオン化チャンバで作られ、酸素イオンの速度は、イオン化チャンバ中のフィラメント電流を変えることで制御される。次いで、酸素イオンは、電界によりチャンバ外に引き寄せられ、加速され、イオンレンズセットで集束させられる。イオンビームは幾つかの角度に曲げられて、イオン化チャンバ中で生じる可能性のある準安定な原子及びVUV光子から分離される。次いで、イオンビームが表面に当たり、ここで少量の酸素が内包フラーレン分子に侵入し、既に封入されていたO2と共にそこに捕獲されて、O3を生成する(図11を参照)。このイオンは、表面を僅か1又は2分子の深さまでしか透過することができないので、表面は連続して再生(renew)しなければならない。フラーレンビームの中ほどでのシリンダーの回転がこのことを行う。数時間の稼動後、シリンダーを装置から取り出し、サンプルをシリンダー表面から回収することができる。
【0044】
実施例2−コンピュータシミュレーション
C60中へのオゾン分子の封入の実現可能性を、Gaussian-09ソフトウェアを用いるコンピュータシミュレーションによって検証した(図1も参照)。プログラムGaussian-09及びハートリー-フォック又はセルフコンシステントフィールド法を使用して電子構造計算を行った。これは、電子が一組の軌道に、軌道あたり2つ、一方はスピンアップ、他方はスピンダウンで入ることを仮定している。シミュレーションは、各軌道の大雑把な近似から始め、より正確な近似を算出し、その後電子を挿入した。エネルギーの最も低い軌道から始めた。軌道がもはや変化しなくなるまで、このプロセスを繰り返した。各軌道は、単純な基底関数の組合せとして表された:軌道x = a1*f1+a2*f2+a3*f3+...。fは、分子中の所定原子上の水素様軌道のような基底関数である。次いで、最も低いエネルギーが得られるように、全てのaを変化させて計算した。各核を固定位置で保持して計算を行った。各核についての力を算出するようにプログラムを設定し、その後総エネルギーを低くするように動かした。次いで、これをエネルギーが最小となるまで繰り返した。最初に、空のC60及び遊離のオゾンについて計算を行った。その後、オゾンをC60の内部に入れて、計算を続けた。ハートリー-フォック近似では、各電子は、本質的に、その他の電子を、点粒子のセットとしてよりはむしろ分散電荷雲として見る。電子は、所定位置で1つの電子を見出す確率がその他の全ての電子がどこに位置しているかに無関係である点で無相関であると定義された。この相関誤差を補正することは可能であるが、その計算はより大規模となる。結合していない2つの分子が存在している本件の場合、相関補正により、引力が与えられて、エネルギーが減少する。基本的に、相関は、O3中の電子をC60中の電子から離すように動かし、エネルギーを僅かに減少させる。補正を含ませることにより、組込みエネルギーが減少する。補正無しで、組込みエネルギーは136.8kJ/mol.であると判明した。
遊離O3中での結合長さは1.197Åである一方、C60中に組み入れられたオゾンの結合長さは1.183Åである。遊離O3の結合角は119.09度である一方、シミュレーションは、C60中に組み入れられたオゾンについて116.6度の結合角を示す。
【0045】
実施例3−1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造(方法A、第2の変法)
1以上のオゾン分子、特に1つのオゾン分子が封入されている内包フラーレンの製造について、種々の方法が上記に記載されている。これら方法の1つでは、ビーム装置(実施例1及び図10を参照)を、1以上のオゾン分子が封入されているフラーレンを直接製造するために使用する。
代替のアプローチは、先ず、二酸素の磁気特性を利用して磁界中で二酸素を加速することである。この方法により、二酸素のビームが生成され、フラーレンに当てられる。その後、捕捉した二酸素を有するフラーレンが上記システムに進入し、生成したイオン化酸素ビームに当てられる。この方法により、プロセス効率が増大し、より高速でオゾン含有フラーレンを製造し得る。
【0046】
実施例4−1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレンのサンプルの分析
フラーレン分子中のオゾン分子(又はオゾン及び二酸素分子の組合せ)の数は、従来の質量分析装置又はNMR分光装置で決定することができる。
原型フラーレン(あれば)及びより重い構成物のMSピークの強度に基づいて、フラーレン中のオゾン(及び−該当すれば−二酸素)の平均「装填量」を容易に算出することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレン。
【請求項2】
C60-フラーレン、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択される請求項1に記載の内包フラーレン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内包フラーレン及びキャリア物質を含んでなる組成物。
【請求項4】
キャリア物質が皮膚ローションである請求項4に記載の組成物。
【請求項5】
皮膚ローションがL-アスコルビン酸及びビタミンEから選択される少なくとも一方のような抗酸化剤を含んでなる請求項5に記載の組成物。
【請求項6】
a.皮膚UV保護のため;
b.サングラス中又はその表面上での;
c.ガラス中又はその表面上での;
d.i. 繊維、
ii. 織物、
iii. 衣類、
iv. 木、
v. ペンキ、
vi. 紙、
vii. クッション、
viii.革、
ix. ヘアケア製品、又は
x. 植物
中又はその表面上での
請求項1又は2に記載の内包フラーレンの使用。
【請求項7】
以下の基本工程:
(a)1つの二酸素分子が封入されている内包フラーレンを用意する工程、
(b)該フラーレンを酸素イオンと衝突させることにより、該二酸素分子をオゾン分子に変換させる工程
を含んでなる請求項1又は2に記載の内包フラーレンの製造方法。
【請求項1】
1以上のオゾン分子が封入されている内包フラーレン。
【請求項2】
C60-フラーレン、C70-フラーレン、C76-フラーレン、C78-フラーレン、C82-フラーレン、C84-フラーレン及びC120-フラーレンから選択される請求項1に記載の内包フラーレン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内包フラーレン及びキャリア物質を含んでなる組成物。
【請求項4】
キャリア物質が皮膚ローションである請求項4に記載の組成物。
【請求項5】
皮膚ローションがL-アスコルビン酸及びビタミンEから選択される少なくとも一方のような抗酸化剤を含んでなる請求項5に記載の組成物。
【請求項6】
a.皮膚UV保護のため;
b.サングラス中又はその表面上での;
c.ガラス中又はその表面上での;
d.i. 繊維、
ii. 織物、
iii. 衣類、
iv. 木、
v. ペンキ、
vi. 紙、
vii. クッション、
viii.革、
ix. ヘアケア製品、又は
x. 植物
中又はその表面上での
請求項1又は2に記載の内包フラーレンの使用。
【請求項7】
以下の基本工程:
(a)1つの二酸素分子が封入されている内包フラーレンを用意する工程、
(b)該フラーレンを酸素イオンと衝突させることにより、該二酸素分子をオゾン分子に変換させる工程
を含んでなる請求項1又は2に記載の内包フラーレンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図7】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図7】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−523372(P2012−523372A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505153(P2012−505153)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054889
【国際公開番号】WO2010/119063
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(511247208)
【氏名又は名称原語表記】BUCKY’O’ZUN APS
【住所又は居所原語表記】Skaering Strandvej 6, DK−8250 Ega, Denmark
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054889
【国際公開番号】WO2010/119063
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(511247208)
【氏名又は名称原語表記】BUCKY’O’ZUN APS
【住所又は居所原語表記】Skaering Strandvej 6, DK−8250 Ega, Denmark
【Fターム(参考)】
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