説明

10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の製造方法

【課題】ルイス酸触媒を用いる場合と比較して反応温度及び反応時間を削減できる、10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】2−フェニルフェノール化合物を、ハメットの酸度関数が−12以下であるブレンステッド酸の存在下、三ハロゲン化リンと反応させることを特徴とする10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止剤、防炎剤、可塑剤、殺虫剤、殺菌剤等の原料として有用な、10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物は、酸化防止剤、防炎剤、可塑剤、殺虫剤、殺菌剤等の原料として有用である。
【0003】
従来、10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の製造方法としては、例えば、特許文献1〜4において、2−フェニルフェノール化合物を、ルイス酸触媒又は反応系においてルイス酸に変化する金属若しくは金属酸化物の存在下、三ハロゲン化リンと反応させる製造方法が知られている。
【0004】
しかしながら、上記ルイス酸触媒を用いる製造方法は、次の問題点を有する。即ち、上記ルイス酸触媒を用いる製造方法は、反応系の温度を、180℃を超える温度に設定する必要があり、更に反応終了までに10時間程度の長時間を必要とするため、エネルギー、コスト等を浪費するという問題点がある。
【0005】
また、上記問題点の改善のため、触媒量を増量する試みがされているが、増量に見合う効果が得られ難いばかりか、目的物に触媒が混在するなどの新たな問題が生じている。
【特許文献1】特公昭49−45397号公報
【特許文献2】特開2001−172290号公報
【特許文献3】米国特許第3,702,878号明細書
【特許文献4】米国特許第5,391,798号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ルイス酸触媒を用いる場合と比較して反応温度及び反応時間を削減できる、10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のブレンステッド酸を触媒として採用する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記の10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の製造方法に関する。
【0009】
1.下記一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。〕
で示される2−フェニルフェノール化合物を、ハメットの酸度関数が−12以下であるブレンステッド酸の存在下、三ハロゲン化リンと反応させることを特徴とする、
下記一般式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
〔式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。Xは、ハロゲン原子を示す。〕
で示される10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の製造方法。
【0014】
2.2−フェニルフェノール化合物は、2−フェニルフェノールである、上記項1に記載の製造方法。
【0015】
3.前記ブレンステッド酸は、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホンイミドからなる群から選択された少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の製造方法。
【0016】
4.前記ブレンステッド酸は、下記一般式(3)
【0017】
【化3】

【0018】
〔式中、m、n及びyは、同一又は異なって、整数を示す。〕
で示される酸性ポリマーである、上記項1又は2に記載の製造方法。
【0019】
5.反応時における反応系の温度は、120〜180℃である、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0020】

以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明の製造方法は、下記一般式(1)
【0022】
【化4】

【0023】
〔式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。〕
で示される2−フェニルフェノール化合物を、ハメットの酸度関数が−12以下であるブレンステッド酸の存在下、三ハロゲン化リンと反応させることを特徴とする。
【0024】
これにより、下記一般式(2)
【0025】
【化5】

【0026】
〔式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。Xは、ハロゲン原子を示す。〕
で示される10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物を従来法に比して効率的に製造できる。
【0027】
本発明の製造方法は、従来のルイス酸触媒に代えて、ハメットの酸度関数が−12以下であるブレンステッド酸を触媒として用いるため、特に反応温度及び反応時間の観点で優位性がある。
【0028】
2−フェニルフェノール化合物
本発明の製造方法は、原料として2−フェニルフェノール化合物を用いる。
【0029】
2−フェニルフェノール化合物は、一般式(1)で示される。一般式(1)において、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。
【0030】
2−フェニルフェノール化合物としては、上記条件を満たす限り限定的でなく、例えば、2−フェニルフェノール、4−メチル−2−フェニルフェノール、3−エチル−2−フェニルフェノール、2−フェニル−5−プロピルフェノール、2−フェニル−6−イソプロピルフェノール、3−ブチル−2−フェニルフェノール、4−t−ブチル−2−フェニルフェノール、5−ベンジル−2−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,6−ジフェニル−4−メチルフェノール、2−(4−トルイル)フェノール、2−(2−エチルフェニル)フェノール、2−(3−プロピルフェニル)フェノール、2−(4−クミル)フェノール、2−(2−ブチルフェニル)フェノール、2−(3−t−ブチルフェニル)フェノール、2−(4−ベンジルフェニル)フェノール、2−(2,4−キシレニル)フェノール、4−t−ブチル−2−(4−トルイル)フェノール、2−(2−ビフェニル)フェノール等が挙げられる。
【0031】
上記2−フェニルフェノール化合物の中でも、工業的に安価に入手できる観点からは、2−フェニルフェノールが好ましい。
【0032】
ブレンステッド酸(触媒)
本発明の製造方法は、触媒としてハメットの酸度関数(H)が−12以下であるブレンステッド酸を用いる。
【0033】
ここで、ハメットの酸度関数とは、比較的濃厚な酸の溶液の酸性度を表す尺度であり、中性塩基(B)の特殊な指示薬群を用いて、ある溶液がこれらの指示薬にプロトンを移動させる傾向を、その指示薬の変色の度合いで定義したものである。指示薬の酸型BHの解離定数KBH+が既知であれば、その溶液の酸度hは次のように定義される。
【0034】
=KBH+(CBH+/C
ここで、CBH+/Cは指示薬の共役酸BHとその共役塩基Bの濃度比であり実験的に測定できる。−loghをHと記載し、このHをハメットの酸度関数という(化学大辞典「東京化学同人」)。
【0035】
なお、100%硫酸は、H=−12であり、本発明の製造方法において用いるブレンステッド酸は、100%硫酸と比べて同等又はそれよりも強酸であるブレンステッド酸と換言できる。
【0036】
上記ブレンステッド酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸(H=−14.5)、ノナフルオロブタンスルホン酸(H=−13.2)、トリフルオロメタンスルホンイミド(H≦−12)等の含フッ素系ブレンステッド酸が挙げられる。上記ブレンステッド酸の中でも、触媒性能やコストの観点より、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。
【0037】
その他、上記ブレンステッド酸としては、酸性ポリマーも使用できる。例えば、下記一般式(3)
【0038】
【化6】

【0039】
〔式中、m、n及びyは、同一又は異なって、整数を示す。〕
で示される酸性ポリマーが挙げられる。
【0040】
上記酸性ポリマーとしては、ビーズ状超強酸ポリマー(登録商標「Nafion」型番「NR−50」デュポン製)が好ましい。
【0041】
なお、上記酸性ポリマーは、有効表面積を高めるために、シリカ粉末などの担体に担持して用いてもよい。例えば、アモルファスシリカに担持した上記酸性ポリマー(登録商標「Nafion」型番「SAC−13」デュポン製)は、上記「NR−50」よりも有効表面積が約1万倍大きくより好ましい。
【0042】
これらのブレンステッド酸は、単独又は2種以上を混合して使用できる。なお、かかるブレンステッド酸は、従来のルイス酸触媒に代わるものであるが、必要に応じてルイス酸触媒を併用することができる。
【0043】
三ハロゲン化リン
三ハロゲン化リンとしては限定的ではなく、三塩化リン、三臭化リン、三フッ化リン、三ヨウ化リン等が使用できる。
【0044】
上記三ハロゲン化リンの中でも、三塩化リンが好ましい。三塩化リンを用いる場合には、10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物のXに塩素原子を容易に導入できる。また、三塩化リンはコストの観点からも好ましい。
【0045】
反応条件
本発明の製造方法は、上記ブレンステッド酸の存在下、2−フェニルフェノール化合物と三ハロゲン化リンとを反応させる。
【0046】
具体的には、加熱下において上記3成分を撹拌して反応させればよい。より詳細には、2−フェニルフェノール化合物と触媒量のブレンステッド酸との混合物を後記の所定温度にまで加熱し、そこに三ハロゲン化リンを滴下することにより反応させることが好ましい。
【0047】
反応系には溶媒を使用することもできる。例えば、ブレンステッド酸として上記酸性ポリマーを用いる場合には、溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、反応に対して不活性であれば良く、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0048】
ブレンステッド酸の添加量は限定されないが、2−フェニルフェノール化合物のmol量に対して、0.05〜2mol%程度が好ましく、0.2〜1.5mol%程度がより好ましい。
【0049】
2−フェニルフェノール化合物と三ハロゲン化リンのモル比は限定されないが、順に、1:1〜2程度が好ましく、1:1.1〜1.5程度がより好ましい。
【0050】
温度条件については次の通りである。即ち、2−フェニルフェノール化合物と触媒量のブレンステッド酸との混合物(必要に応じて溶媒などを含む)は、三ハロゲン化リンとの反応に先立って、予め120〜200℃程度(好ましくは120〜180℃程度)に加熱することが好ましい。
【0051】
上記温度が安定した後、三ハロゲン化リンを滴下する。滴下時間は限定的ではなく、触媒の種類とその使用量、三ハロゲン化リンの種類等に応じて変わるが、好適な実施態様では0.5〜2時間程度で滴下終了することができる。三ハロゲン化リン(特に三塩化リン)は沸点が低いために、大量滴下すると反応系温度を急激に低下させるおそれがある。そのため、反応系における三ハロゲン化リンの消費量に応じた滴下速度(滴下時間)を設定する必要がある。三ハロゲン化リンの消費量は主に触媒の種類に依存し、従来のルイス酸触媒と比較して本発明で使用するブレンステッド酸の方が単位時間当たりの消費量が大きい(即ち反応効率が高い)。そのため、同量の三ハロゲン化リン及び触媒を用いる場合には、本発明の製造方法による場合の方が反応時間を短縮し易い。なお、三ハロゲン化リンの滴下初期は、反応速度が速く、ハロゲン化水素ガスが激しく発生するので、滴下速度に留意する。
【0052】
温度条件、触媒条件等にもよるが、通常3〜12時間程度、好ましくは4〜8時間程度で反応終了(滴下開始から反応終了までの時間)する。反応終了は、例えば、ハロゲン化水素ガスの発生終了又はHPLCによって確認できる。
【0053】
反応終了後は、減圧留去などによって三ハロゲン化リンの残渣を除去できる。次いで、微量に副成する橙色析出物(黄燐等の混合物と考えられる)は、濾過によって分離できる。
【0054】
10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物は、一般式(2)で示される。一般式(2)において、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。また、Xはハロゲン原子を示す。
【0055】
一般式(2)におけるR〜Rは、原料の2−フェニルフェノール化合物の構造に対応する。また、三ハロゲン化リンの種類に応じて、Xの種類は定まる。
【0056】
本発明の製造方法によって得られる10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物は、次工程の使用に適した純度を有している。10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の粘性が高い場合や固体の場合は、塩素系溶剤やエーテル系溶剤により希釈してから用いれば良い。また、必要に応じて、適当な溶媒を用いて再結晶することにより純度を高めることができる。
【0057】
10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物は、高分子化合物、潤滑油、酸化防止剤、防炎剤、可塑剤、殺虫剤、殺菌剤の原料化合物として有用である。
【発明の効果】
【0058】
本発明の製造方法によれば、ルイス酸触媒を用いる場合と比較して反応温度及び反応時間を削減しつつ、10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物を効率的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0060】
以下の実施例及び比較例では、UV検出器付高速液体クロマトグラフィー(型番「LC−10」株式会社島津製作所製)によって化合物の純度確認を行った。
【0061】
また、300MHz核磁気共鳴吸収分析装置(型番「JNM−AL300」日本電子株式会社製)によって水素核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル及び炭素核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルを測定し、270MHz核磁気共鳴吸収分析装置(型番「JNM−EX270」日本電子株式会社製)によってリン核磁気共鳴(31P−NMR)スペクトルを測定し、化合物(生成物)の構造同定を行った。
【0062】
実施例1
側管付滴下漏斗、コンデンサー及び温度計を備えた撹拌機付4つ口フラスコに、2−フェニルフェノール17.02g及びトリフルオロメタンスルホン酸0.23gを投入し、側管付滴下漏斗には三塩化リン17.17gを投入した。
【0063】
マントルヒーターでフラスコを150℃まで加熱した。途中、約60℃でフラスコ内の固体が溶解したのを確認して撹拌を開始した。フラスコ内の温度が150℃で安定した後、三塩化リンの滴下を開始した。三塩化リンの滴下開始と共に反応系より塩化水素ガスの発生を確認した。
【0064】
約30分かけて全量の三塩化リンを滴下し、更に150℃で撹拌を4時間続けたところ、塩化水素ガスの発生がなくなった。
【0065】
反応液を冷却し、ジクロロメタンに溶解し、減圧濾過してジクロロメタン不溶のオレンジ色の析出物を濾別した。
【0066】
濾液を減圧濃縮し、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.57gを得た。HPLCにて純度を確認したところ97.8%であった。
【0067】
下記に目的物のNMR測定結果を示す。
【0068】
H−NMR(CDCl):δ/ppm 7.20−7.98(m, 8 aromatic H)
13C−NMR(CDCl):δ/ppm 121.0−148.1(12 aromatic C)
31P−NMR(CDCl):δ/ppm 134.2
実施例2
トリフルオロメタンスルホン酸0.23gの代わりにノナフルオロブタンスルホン酸0.45gを用いたこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.83gを得た。HPLCにて純度を確認したところ98.0%であった。
【0069】
実施例3
トリフルオロメタンスルホン酸0.23gの代わりにトリフルオロメタンスルホンイミド0.42gを用いたこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.61gを得た。HPLCにて純度を確認したところ98.8%であった。
【0070】
実施例4
トリフルオロメタンスルホン酸0.23gの代わりに酸性ポリマー(登録商標「Nafion」型番「SAC−13」)を1.70g用いたこと、三塩化リンを1.5時間かけて滴下したこと及び滴下後の撹拌時間を5時間とした以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.20gを得た。HPLCにて純度を確認したところ96.9%であった。
【0071】
実施例5
反応温度を180℃としたこと、三塩化リン滴下後の攪拌時間を2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.53gを得た。HPLCにて純度を確認したところ98.8%であった。
【0072】
実施例6
反応温度を120℃としたこと、三塩化リン滴下後の攪拌時間を10時間に変更したこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.33gを得た。HPLCにて純度を確認したところ96.2%であった。
【0073】
実施例7
トリフルオロメタンスルホン酸の使用量を1/10にしたこと、三塩化リンを120分かけて滴下したこと、滴下後の反応時間を8時間としたこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン23.60gを得た。HPLCにて純度を確認したところ96.5%であった。
【0074】
実施例8
トリフルオロメタンスルホン酸の使用量を10倍にしたこと、三塩化リン滴下後の反応時間を3時間としたこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.80gを得た。HPLCにて純度を確認したところ99.4%であった。
【0075】
比較例1
トリフルオロメタンスルホン酸0.23gの代わりに塩化亜鉛0.21gを用いたこと、三塩化リンを150分かけて滴下したこと、滴下後の撹拌時間を5.5時間としたこと以外は、実施例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.83gを得た。HPLCにて純度を確認したところ98.0%であった。
【0076】
比較例2
塩化亜鉛0.21gの代わりに金属亜鉛0.10gを用いたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.63gを得た。HPLCにて純度を確認したところ98.1%であった。
【0077】
比較例3
塩化亜鉛0.21gの代わりに酸化亜鉛0.13gを用いたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.02gを得た。HPLCにて純度を確認したところ97.7%であった。
【0078】
比較例4
塩化亜鉛0.21gの代わりに塩化アルミニウム0.21gを用いたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン23.13gを得た。HPLCにて純度を確認したところ96.1%であった。
【0079】
比較例5
反応温度を180℃としたこと、三塩化リンを90分かけて滴下したこと、滴下後の反応時間を3時間としたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.83gを得た。HPLCにて純度を確認したところ99.1%であった。
【0080】
比較例6
反応温度を120℃としたこと、三塩化リンの滴下後の反応時間を10時間としたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン19.24gを得た。HPLCにて純度を確認したところ12.0%であった。
【0081】
比較例7
塩化亜鉛の使用量を1/10(0.021g)にしたこと、三塩化リンを190分かけて滴下したこと、滴下後の反応時間を10時間としたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン20.92gを得た。HPLCにて純度を確認したところ46.5%であった。
【0082】
比較例8
塩化亜鉛の使用量を10倍(2.1g)にしたこと、三塩化リンを90分かけて滴下したこと、滴下後の反応時間を3時間としたこと以外は、比較例1と同様に反応を行ったところ、10−クロロ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン24.10gを得た。HPLCにて純度を確認したところ97.4%であった。
【0083】
各実施例及び比較例における反応条件及び目的物純度を下記表1にまとめて示す。
【0084】
【表1】

【0085】
〔表1中、触媒量は2−フェニルフェノール化合物のモル量に対するmol%を示す。三ハロゲン化リン比は2−フェニルフェノール化合物のモル量を1とした場合の三ハロゲン化リンのモル比を示す。純度は目的物の純度を示す。実施例4の触媒量はモル量の記載が困難であることを示す。〕
表1に示された結果についての考察
同一番号の実施例と比較例は、時間(滴下及び撹拌時間)以外の条件が対応している。
【0086】
実施例1〜4と比較例1〜4とを対比すると、実施例1〜4の方が、同等の純度(高純度)の目的物を得るために要する時間(滴下及び撹拌時間の合計)が短いことが分かる。
【0087】
実施例5と比較例5とを対比すると、反応温度が180℃と高い。同等の純度(高純度)の目的物を得るために要する時間はどちらも比較的短いが、実施例5の方が、より優位性が高いことが分かる。
【0088】
実施例6と比較例6とを対比すると、反応温度が120℃と低い。実施例6は長時間を要するものの高純度の目的物を得ている。一方、比較例6は長時間を要しても目的物の純度は12%と顕著に低い。低温でも反応性が良好な点で、実施例6の方が優位性は高い。
【0089】
実施例7と比較例7とを対比すると、触媒量が0.002mol%と少ない。実施例7は長時間を要するものの高純度の目的物を得ている。一方、比較例7は長時間を要しても目的物の純度は46.5%と低い。反応効率が良好な点で、実施例7の方が優位性は高い。
【0090】
実施例8と比較例8とを対比すると、触媒量が0.153mol%と多い。同等の純度(高純度)の目的物を得るために要する時間はどちらも比較的短いが、実施例8の方が、より優位性が高いことが分かる。
【0091】
以上より、本発明の製造方法は、ルイス酸触媒を用いる従来法に比して、反応温度及び反応時間の観点でとりわけ優位性が高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

〔式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。〕
で示される2−フェニルフェノール化合物を、ハメットの酸度関数が−12以下であるブレンステッド酸の存在下、三ハロゲン化リンと反応させることを特徴とする、
下記一般式(2)
【化2】

〔式中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アルケニル基又はアラルキル基を示す。Xは、ハロゲン原子を示す。〕
で示される10−ハロゲノ−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン化合物の製造方法。
【請求項2】
2−フェニルフェノール化合物は、2−フェニルフェノールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ブレンステッド酸は、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホンイミドからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ブレンステッド酸は、下記一般式(3)
【化3】

〔式中、m、n及びyは、同一又は異なって、整数を示す。〕
で示される酸性ポリマーである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
反応時における反応系の温度は、120〜180℃である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−223934(P2007−223934A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45710(P2006−45710)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000157717)丸菱油化工業株式会社 (14)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【Fターム(参考)】