説明

2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法

【課題】シアノエチル化置換率が高く、高い誘電率を示す2−シアノエチル基含有有機化合物の製造法を提供する。
【解決手段】アクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応による2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法であって、第4級アンモニウム塩を触媒とすることを特徴とする2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応によって2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法において、特定の触媒を使用することによって、シアノエチル基置換率が高く、高い誘電率を有する2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−シアノエチル基含有有機化合物は、極性の高い2−シアノエチル基を含有することから、電界中に置かれると大きな双極子モーメントを形成し、高い誘電率を示すことから有機分散型EL、フィルムコンデンサーあるいは電池用の耐熱性セパレータ等、高誘電性材料を必要とする様々な分野で使用されている。
【0003】
ここで、2−シアノエチル基含有有機化合物は、例えばアクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応によって製造することができる。
これまで、アクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応によって、2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法として、いくつかの方法が提案されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−18601号公報
【特許文献2】特開昭59−226001号公報
【特許文献3】特開平4−357695号公報
【特許文献4】特開平5−178903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのいずれの方法も、触媒として苛性ソーダ等の塩基性物質が使用されている。ここで、触媒は水酸基含有有機化合物の水酸基の求核性を高めて、アクリロニトリルとのマイケル付加反応性を高める機能を有する。しかし、このような塩基性物質を触媒として使用する方法では、シアノエチル化置換率があまり上がらず、所望される高い誘電性を示さないといった問題があり、更に高いシアノエチル化置換率を有する2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法が求められている。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、シアノエチル化置換率が高く、高い誘電率を示す2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために種々検討した結果、アクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応によって2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法において、触媒として第4級アンモニウム塩を使用することによって、シアノエチル基置換率が高く、高い誘電率を有する2−シアノエチル基含有有機化合物が製造できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、アクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応による2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法であって、第4級アンモニウム塩を触媒とすることを特徴とする2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高いシアノエチル化置換率及び誘電率を有する2−シアノエチル基含有有機化合物が製造でき、これを使用した応用製品の性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。
2−シアノエチル基含有有機化合物は、水酸基含有有機化合物とアクリロニトリルとを出発物質とし、以下に示すようなマイケル付加反応によって製造することができる。
【0010】
R−OH + CH=CH−CN → R−O−CH−CH−CN
(式中、R−OHは水酸基含有有機化合物、R−O−CH−CH−CNは2−シアノエチル基含有有機化合物を示す。)
【0011】
出発原料である水酸基含有有機化合物中の水酸基のモル数に対するシアノエチル基で置換された水酸基のモル数の比は、シアノエチル化置換率(%)と呼ばれる。
【0012】
水酸基含有有機化合物はR−OHで表され、R−OHはブドウ糖、果糖、ガラクトース等の単糖類、麦芽糖、ショ糖、乳糖等の二糖類等の糖類、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール、セルロース、でんぷん、プルラン等の多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ジヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ジヒドロキシプロピルプルラン等の多糖類誘導体、ポリビニルアルコール等のいずれか、もしくはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0013】
これらの中でも、有機分散型EL用途やリチウムイオン2次電池用途としての皮膜形成性やバインダー性等を考慮すると、特に多糖類、多糖類誘導体あるいはポリビニルアルコールであることが好ましい。これら水酸基含有有機化合物から製造できる2−シアノエチル基含有有機化合物はポリマーであるため、皮膜形成性、バインダー性の優れたものとなるからである。
【0014】
第4級アンモニウム塩としては、下記一般式(1)又は(2)で表されるものが例示できる。
【0015】
・X (1)
CH・X (2)
【0016】
式中、R〜Rは、同一又は異なる炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜14の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基を表す。かかる直鎖の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、分岐の脂肪族炭化水素基としては、イソプロピル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0017】
また、X-はアニオン基を示し、上記4級アンモニウムイオンとの組み合わせで第4級アンモニウム塩を形成するものであればよく、F-、Cl-、Br-、I-、CHCOO-、CFSO-、CFCFSO-、SO-、OH-、CHSO-、BF-、ClO-、PF-、HSO-、HF-、ICl-、BH-等を例示できる。
【0018】
一般式(1)における4級アンモニウムイオンの具体例としては、トリメチルエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルテトラデシルアンモニウム、トリメチルヘキシルデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、トリメチル2−エチルヘキシルアンモニウム、ジメチルエチルドデシルアンモニウム、ジメチルエチルテトラデシルアンモニウム、ジメチルエチルヘキサデシルアンモニウム、ジメチルエチルオクタデシルアンモニウム、ジメチルエチル2−エチルヘキシルアンモニウム、メチルジエチルドデシルアンモニウム、メチルジエチルテトラデシルアンモニウム、メチルジエチルヘキサデシルアンモニウム、メチルジエチルオクタデシルアンモニウム、メチルジエチル2−エチルヘキシルアンモニウム、ジメチルジヘキシルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジデシルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム等が挙げられる。
【0019】
一般式(2)における4級アンモニウムイオンの具体例としては、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリ−n−ブチルアンモニウム、ベンジルテトラ−n−ブチルアンモニウム、ベンジルジメチルデシルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム、ベンジルジメチル2−エチルヘキシルアンモニウム等が挙げられる。
【0020】
また、一般式(1)又は(2)で表される4級アンモニウム塩としては、上記4級アンモニウムイオンと上記アニオンX-との任意の組み合わせのものが挙げられる。本発明においては、一般式(1)又は(2)で表される4級アンモニウム塩はそれぞれ単独で使用してもよいし、併用で使用してもよい。
【0021】
これら第4級アンモニウム塩の中でも、効果、価格、入手の容易さ等を考慮すると、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリエチルアンモニウムのいずれか、もしくはこれらの組み合わせが好適に使用される。
【0022】
第4級アンモニウム塩は、水酸基含有有機化合物100質量部に対し、0.3〜70質量部、好ましくは0.5〜50質量部の範囲で添加することが望ましい。0.3質量部よりも少ないとシアノエチル化置換率が低く、所望の高誘電性にならない場合があり、また70質量部を超えてもシアノエチル化置換率が向上せず、その経済的負担に見合うメリットがない。
【0023】
なお、シアノエチル化置換率を更に向上させるために、触媒として更に塩基性物質を併用することができる。塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等、及び炭酸水素カリウムのアルカリ金属炭酸水素塩等が挙げられ、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
塩基性物質は、水酸基含有有機化合物100質量部に対し、0〜70質量部、好ましくは0〜50質量部の範囲で添加することが望ましい。70質量部を超えると塩基性物質に由来する金属不純物の残存量が多くなり、応用製品の性能を劣化させる場合がある。
【0025】
第4級アンモニウム塩を単独で用いる場合、及び第4級アンモニウム塩と塩基性物質とを併用する場合において、触媒全質量中の第4級アンモニウム塩の含有量は0.5〜100質量%の範囲、好ましくは1.0〜100質量%とすることが望ましい。0.5質量%よりも少ないとシアノエチル置換率が向上せず、また塩基性物質に由来する金属塩不純物の残存量が多くなり、応用製品の性能を劣化させる場合がある。
【0026】
2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法の具体例としては、水酸基含有有機化合物を水に溶解、次に触媒として第4級アンモニウム塩又は必要に応じて更に塩基性を添加し、引き続きアクリロニトリルを添加して、0〜60℃において2〜12時間反応を行うことによって製造される。この場合、予め水に触媒を溶解させた後、これに水酸基含有有機化合物を溶解させ、その後、アクリロニトリルを添加して反応を行うことも可能である。アクリロニトリルは溶剤としての役割も兼ねることができるが、必要に応じ、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、アセトン等、アクリロニトリルと反応しない希釈溶剤を添加することもできる。
【0027】
アクリロニトリルの添加量は、反応生成物である2−シアノエチル基含有有機化合物のシアノエチル化置換率によって異なり、水酸基含有有機化合物の水酸基1モル当たり好ましくは1〜10モル、より好ましく2〜7モルの範囲とする。1モルよりも少ないとシアノエチル置換率が向上せず、所望の高誘電性にならない場合があり、また10モルよりも多くしても、シアノエチル置換率の向上が見られず、経済的負担に見合うメリットがない。なお、アクリロニトリルが溶媒を兼ねる場合のアクリロニトリルの添加量は、水酸基含有有機化合物の水酸基1モル当たり3モル以上、好ましく6モル以上とすることが好ましい。3モルより少ないと反応液の粘性が大きくなるため、反応液を十分に攪拌することができない場合がある。2−シアノエチル基含有有機化合物のシアノエチル化置換率は、ケルダール法により求められる窒素含有量から測定することができる。
【0028】
反応終了後、有機層を取り出し、これに水を加えて生成物を析出させる。析出した粗生成物を大量の水で洗浄することにより精製されるが、生成物をアセトン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させ再析出させることによって精製してもよい。精製後、脱水・乾燥をして最終的に2−シアノエチル基含有有機化合物が得られる。
【0029】
このようにして製造される2−シアノエチル基含有有機化合物の特徴は、シアノエチル化置換率及び誘電率が高く、金属塩不純物が少ないことである。携帯端末機器の液晶表示や道路標識・広告のバックライトとして使用されている発光素子の有機分散型ELの場合、使用するバインダーの誘電率が高い程、輝度が高く、また含有する金属塩不純物が少ない程ELの寿命が向上するので、本発明の製造方法によって製造された2−シアノエチル基含有有機化合物を使用することにより、有機分散型ELの輝度、寿命を向上させ、その応用製品の品質を高めることができる。また、誘電率が高い物質は、イオン導電性が良好となることはよく知られている。イオン導電性の高い素材は、リチウムイオン電池の負荷特性等の性能向上に有用であることから、この分野への応用も期待できる。例えば、リチウムイオン電池に使用される耐熱性のセパレータは、ポリオレフィン系フィルム等のセパレータ基板の片面又は両面にアルミナ等の無機粒子をバインダーで固めた耐熱性多孔質層を備え、耐熱性を改良したセパレータである。このセパレータに、イオン導電性に優れた2−シアノエチル基含有有機化合物をバインダーとして使用すれば、耐熱性多孔質層を備えた耐熱性セパレータを有するリチウムイオン電池は、負荷特性に優れたものになる。また、当該2−シアノエチル基含有有機化合物は、上記のように金属塩不純物が少ないことから、サイクル特性が良好なリチウムイオン電池を提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の具体的態様を説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
攪拌機付反応フラスコに水4.55質量部を仕込み、プルラン1質量部を溶解させた後、40質量%水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液0.75質量部(水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム換算量:0.3質量部)を加え、これにアクリロニトリル5質量部とアセトン4質量部を加えて、25℃で8時間反応させた。
その後、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムと同当量の酢酸を含む20質量%の酢酸水溶液を加えた。反応液は水層と有機層の2層に分かれており、有機層を抜き出し、これを水中に注ぎながら攪拌し、粗2−シアノエチルプルランを析出させた。
粗2−シアノエチルプルランは、水で繰り返し洗浄後、アセトンに再溶解させ再び水中で析出させ、脱水、減圧乾燥して、精製2−シアノエチルプルランを得た。
【0032】
[実施例2]
攪拌機付反応フラスコに水7.55質量部を仕込み、ポリビニルアルコール(PVA)1質量部を溶解させた後、40質量%水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液0.75質量部(水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム換算量:0.3質量部)を加え、これにアクリロニトリル6.5質量部とアセトン4.5質量部を加えて32℃で6時間反応させる以外は実施例1と同様に処理して、2−シアノエチルポリビニルアルコールを得た。
【0033】
[実施例3]
攪拌機付反応フラスコに水4.85質量部を仕込み、プルラン1質量部を溶解させた後、40質量%水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液0.25質量部(水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム換算量:0.1質量部)を加える以外は、実施例1と同様に処理して、2−シアノエチルプルランを得た。
【0034】
[実施例4]
アクリロニトリル添加量を2質量部とし、15℃において20時間反応させる以外は実施例1と同様にして2−シアノエチルプルランを得た。
【0035】
[実施例5]
攪拌機付反応フラスコに水8質量部を仕込み、置換モル数1.5のヒドロキシエチルセルロース(HEC)1質量部を溶解させた後、40質量%水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液0.75質量部を加え、これにアクリロニトリル4.0質量部とアセトン4.5質量部を加えて32℃で6時間反させた。反応液は水層と有機層の2層に分かれており、有機層を抜き出し、これを水中に注ぎながら攪拌し、粗2−シアノエチルヒドロキシエチルセルロースを析出させた。粗2−シアノエチルヒドロキシエチルセルロースは水で繰り返し洗浄後、アセトンに再溶解させ再び水中で析出させ、脱水、減圧乾燥して精製シアノエチルヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0036】
[実施例6]
攪拌機付反応フラスコに水7.3質量部を仕込み、ポリビニルアルコール(PVA)1質量部を溶解させた後、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.2質量部及び10質量%苛性ソーダ水溶液0.7質量部(苛性ソーダ換算量:0.07質量部)を加えこれにアクリロニトリル6.5質量部とアセトン4.5質量部を加えて32℃で6時間反応させた後、苛性ソーダと同当量の酢酸を含む20質量%の酢酸水溶液を加えた。その後は実施例1と同様に処理して2−シアノエチルポリビニルアルコールを得た。
【0037】
[実施例7]
攪拌機付反応フラスコに水4.4質量部を仕込み、ポリビニルアルコール1質量部を溶解させた後、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.0125質量部及び10質量%苛性ソーダ水溶液(苛性ソーダ換算量:0.4質量部)を加えて、これにアクリロニ
トリル6.5重量部とアセトン4.5重量部を加えて32℃で6時間反応させた。その後は実施例6と同様に処理して2−シアノエチルポリビニルアルコールを得た。
【0038】
[比較例1]
攪拌機付反応フラスコに水2.3質量部を仕込み、プルラン1質量部を溶解させた後、10質量%苛性ソーダ水溶液5.5質量部(苛性ソーダ換算量:0.55質量部)を加え、これにアクリロニトリル5質量部とアセトン4質量部を加えて25℃で8時間反応させた後、苛性ソーダと同当量の酢酸を含む20質量%の酢酸水溶液を加えた。その後は実施例1と同様に処理して、2−シアノエチルプルランを得た。
【0039】
[比較例2]
攪拌機付反応フラスコに水4.4質量部を仕込み、ポリビニルアルコール1質量部を溶解させた後、10質量%苛性ソーダ水溶液5.5質量部(苛性ソーダ換算量:0.55質量部)を加え、これにアクリロニトリル6.5質量部とアセトン4.5質量部を加えて32℃で6時間反応させた。その後は実施例6と同様に処理して2−シアノエチルポリビニルアルコールを得た。
【0040】
実施例及び比較例で得られた2−シアノエチルプルラン、2−シアノエチルポリビニルアルコール、及び2−シアノエチルヒドロキシエチルセルロース(以下、「試料」とする場合がある。)について、ケルダール法にて窒素含有量を求め、この分析値からシアノエチル化置換率を求めた。
また、得られた試料の窒素含有量、比誘電率及び試料中に含まれる金属塩不純物の指標となる灰分を、下記の方法で測定した。これらの結果を表1に示す。
【0041】
窒素含有量の測定
ケルダールフラスコに試料を正確に量り取り、硫酸を加え、液の沸点を上昇させるための硫酸カリウムと、分解を促進する触媒である硫酸銅を加え、よく撹拌した。溶液が沸騰するまでフラスコを加熱し、反応を進行させ、液が透明になったら加熱をやめ、室温になるまで放置した。水酸化ナトリウムと水を加えてアルカリ性として、蒸留した。蒸留物を濃度既知の塩酸水溶液中に導き、含まれるアンモニアを吸収させた。この水溶液にpH指示薬を加えて滴定することで、試料に含まれていた窒素分を算出した。
【0042】
灰分の測定
灰分を残存金属塩不純物量の指標として、以下の方法により測定した。
試料5質量部を正確に磁性るつぼにとり、熱板上で加熱し、炭化させる。冷却後、濃硫酸1容量部加え、硫酸の白煙が出なくなるまで加熱する。
次に、これを450〜550℃の電気炉で恒量になるまで加熱し、放冷した後、残量を測定する。灰分(質量%)は、以下の式から算出される。
【0043】
灰分(硫酸塩)%={残量(g)/試料(g)}×100
【0044】
誘電率の測定
アセトン/ジメチルホルムアミド(9/1質量比)混合溶剤に試料を溶かし、アルミ箔上にキャスティングした後、120℃で4時間乾燥し、約40μm厚フィルムを調製する。
次いで、表面をアルミ蒸着してLCRメーターにより1V、1KHz、20℃、交流の条件で静電容量を測定する方法により求めた。
【0045】
【表1】

【0046】
触媒として第4級アンモニウム塩を使用した実施例1〜5、及び第4級アンモニウム塩と塩基性物質とを併用した実施例6、7は、シアノエチル基置換率が高くなり、比較例と比べて誘電率が上昇したことは明らかである。また、実施例1〜7は、塩基性物質を使用しなかったか、あるいは使用量が少なかったことに起因して、残存金属塩不純物量の指標たる灰分も少ない結果となった。
一方で、触媒に塩基性物質のみを用いた比較例1、2においては、実施例と比較してシアノエチル基置換率が低く、誘電率も低い結果となった。また、塩基性物質の使用量が多かったために、灰分も多い結果となった。
【0047】
更に、下記の方法に従い、有機分散型ELとしての評価及びリチウムイオン2次電池としての評価を行った結果を、表2に示す。
【0048】
有機分散型ELとしての評価
試料1質量部に対し、N,N'−ジメチルホルムアミド2質量部を加えて室温下、撹拌、溶解した。この試料溶液に電場発光性の平均粒径28μmのEL用硫化亜鉛蛍光体(タイプ723L、米国シルバニア社製、ZnS:Cu)3.2質量部を配合して、よく混練し、発光層用の蛍光体ペーストを調製した。また、同じ組成の試料溶液3質量部に、平均粒径1.5μmのチタン酸バリウム(BT−100P、富士チタン社製)4.6質量部を配合してよく混練し、絶縁反射層用のペーストを調製した。
次に、80μm厚のアルミシート基板上にスクリーン印刷法によって上記絶縁反射層用ペーストを印刷し、その乾燥後、その層上に、同じくスクリーン印刷法によって蛍光体ペーストを塗布し、乾燥することで発光層を形成した。乾燥後における層の厚さは、絶縁反射層が約24μm、発光層が約65μmであった。
次いで、透明導電性フィルム(エレクリスタ300C、日東電工社製)の導電面側に給電線として銀ペーストを印刷乾燥し、りん青銅よりなるリード電極を取り付けた後、透明導電性フィルムの給電線印刷面と発光層を重ね合わせて加熱圧着(140℃・5kg/cm)した。背面電極となるアルミシート基板にリード電極を取り付けた後、一体化した積層素子全体にポリクロロトリフルオロエチレンよりなる防湿シート(ELシーラーNo.4810N、同前)を、熱圧着(120℃・5kg/cm)により封止し、有機分散型電ELを得た。これらの素子に1KHz、100Vの電圧を印加した場合の初期輝度及び温度50℃で湿度90%の雰囲気で放置した場合の半減期(輝度が初期輝度の半分となる時間)を測定した。
【0049】
リチウムイオン2次電池としての評価
[セパレータの製造]
試料10質量部をメチルエチルケトン190質量部に溶解させた溶液にAl(アルミナ)40質量部を添加し、ボールミルで混合し、スラリーを調製した。調整されたスラリーはディップコーティング法でポリエチレン製微多孔膜(厚み16μm、空孔率40%)にコートし、乾燥して耐熱セパレータを作成した。
【0050】
[正極の製造]
正極活物質であるLiCoO85質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック 10質量部と、バインダーであるPVDF5質量部とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として均一になるように混合して正極合剤含有ペーストを調製した。この正極合剤含有ペーストを、アルミニウム箔からなる厚さ15μmの集電体の両面に、塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が150μmの正極を作製した。更にこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0051】
[負極の製造]
負極活物質である黒鉛95質量部とバインダーであるPVDF5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合して負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に、塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚142μmの負極を作製した。更にこの負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0052】
<電池の製造>
上記に示した方法により得られた正極と負極とを下記のセパレータを介して渦巻状に巻回して巻回電極体とした。この巻回電極体を押しつぶして扁平状にし、アルミニウム製外装缶に入れ、有機電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを2:1の体積比で混合した溶媒に、LiPFを濃度1mol/lで溶解させた溶液)を注入した後に封止を行って、リチウムイオン2次電池を作成した。
【0053】
<電池のサイクル特性評価>
作製したリチウムイオン2次電池について、充放電測定装置(北斗電工社製HJ−101SM6)を使用し、充放電を100サイクル繰り返した。充放電の条件として、充電については、1.6mA/hで4.2Vまでの充電を行い、放電については1.6mA/hで2.75Vまでの放電を行った。
そして、1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量から、サイクル特性を以下により算出した。サイクル特性が80%以上であれば良好(○)と評価し、80%未満であれば不良(×)と判断した。
【0054】
サイクル特性(%)=(100サイクル目の放電容量)÷(1サイクル目の放電容量)×100
【0055】
<負荷特性評価>
作成されたリチウムイオン2次電池について0.2Cの電流値で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.2Vでの定電圧充電を行う定電流−定電圧充電を行った。充電終了までの総充電時間は15時間とした。充電後の各電池を、0.2Cの放電電流で、電池電圧が3.0Vになるまで放電させて放電容量(0.2C放電容量)を測定した。次に、各電池について、前記と同じ条件で充電を行った後、2Cの放電電流で、電池電圧が3.0Vになるまで放電させて放電容量(2C放電容量)を測定し、各電池の0.2C放電容量に対する2C放電容量の割合(負荷特性)を調べた。なお、前記の充電及び放電は、全て温度が20℃の環境下で実施した。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例1〜7の2−シアノエチル基含有有機化合物を用いた有機分散型ELは、高いシアノエチル基置換率の影響による高い誘電率に起因して、初期輝度が高く、また、金属塩不純物の含有量が少ないことに起因して、半減期も長い結果となった。
一方で、比較例1及び比較例2の2−シアノエチル基含有有機化合物を用いた有機分散型ELは、低いシアノエチル基置換率の影響により誘電率が高くないため、初期輝度は高くならなかった。また、灰分が多いことに起因して金属塩不純物の含有量が多いため、半減期が短く、寿命の短い有機分散型ELとなった。
【0058】
実施例1〜7の2−シアノエチル基含有有機化合物を用いたリチウムイオン2次電池は、金属塩不純物が少ないことに起因して、サイクル特性に優れるものとなった。また、高い誘電率に起因してイオン導電性にも優れることから、負荷特性にも優れる結果となった。
一方で、比較例1及び2のシアノエチル基含有有機化合物を用いたリチウムイオン2次電池は、灰分が多く、金属塩不純物の含有量の多い2−シアノエチル基含有機化合物を使用しているため、サイクル特性が悪かった。また、誘電率が低く、イオン導電性が良くないために、負荷特性の悪いリチウムイオン2次電池となった。
【0059】
以上の結果から、2−シアノエチル基含有有機化合物を製造するにあたり、第4級アンモニウム塩を触媒として用いることが、有機ELの輝度や寿命、及びリチウムイオン2次電池のサイクル特性や付加特性を向上させる結果となることは、明確である。
【0060】
本発明にかかる製造方法によれば、シアノエチル化置換率が高く、高い誘電率を示す2−シアノエチル基含有有機化合物を容易に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルと水酸基含有有機化合物とのマイケル付加反応による2−シアノエチル基含有有機化合物を製造する方法であって、
第4級アンモニウム塩を触媒とすることを特徴とする2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩が、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリエチルアンモニウムのいずれか、もしくはこれらの組み合わせである請求項1記載の2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法。
【請求項3】
触媒として、更に塩基性物質を併用する請求項1又は請求項2記載の2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法。
【請求項4】
前記塩基性物質が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩のいずれか、もしくはこれらの組み合わせである請求項3記載の2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法。
【請求項5】
前記水酸基含有有機化合物が、糖類又は糖アルコール、多糖類、多糖類誘導体及びポリビニルアルコールのいずれか、もしくはこれらの組み合わせである請求項1〜4いずれか1項に記載の2−シアノエチル基含有有機化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−224851(P2012−224851A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86346(P2012−86346)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(591222005)松垣薬品工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】