説明

2−ストロークエンジン油

【課題】排気ガスにおける煙を減少させるだけでなく低い炭素沈着物形成をもたらすなど優秀な性能を有する2−ストロークエンジン油の提供。
【解決手段】300〜2000の分子量(Mn)を有するポリブテンポリマーまたはポリマーの混合物からなる2−ストロークエンジン油において、740cm−1でのポリマーにおける−CH2CH2−n−ブテン単位の赤外吸光度と、4315cm−1と4345cm−1との間のC−H上音吸光度との比として規定されるポリマー骨格におけるn−ブテンの比率が700以下のMnの数値を有するポリブテンにつき<0.2であり、Mn=>700のポリブテンにつき<0.12であることを特徴とする2−ストロークエンジン油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー骨格にn−ブテンを極めて低レベルしか含まない或いは実質的に含まないポリブテンベース油からなる2−ストロークエンジン油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2−ストロークエンジン油は一般に、燃料と混合して使用されると共に2−ストロークエンジンの可動部品を潤滑させる潤滑組成物である。この種のエンジンは50hpより高く100hpまで上昇する出力を持った船外エンジン、並びにモータサイクルだけでなくたとえばチェーンソー、スキドゥまたはスノーモビルでも使用しうるような空冷エンジンを包含する。これらエンジンの特徴はその高い回転速度であり、その結果として従来使用されているエンジンよりも熱くなる。
【0003】
先ず最初に、この種のエンジンに関する潤滑剤の主たる要件は、始動を容易化させるべく低温度だけでなく、エンジン部品に沈着物が形成してエンジンの性能を低下させ或いは悪影響を受けた部品に損傷をもたらしうるような汚染を回避すべく比較的高い操作温度でも、油の安定かつ連続的な薄膜を前記部品上に形成しうることであった。
【0004】
極く最近、環境的に優しい油に焦点が集まり、すなわち燃料および潤滑剤の燃焼から生ずる排気ガスが綺麗であり、悪臭が最少であり、目に見える煙を出さず、さらに油/燃料の比を低減させる油に焦点が集まっている。
【0005】
長年にわたり、ポリブテンは目に見える排気煙を低レベルしか放出せず、しかもエンジン排気系にて低レベルしか炭素沈着物を形成しない点において鉱油よりも有利である2−ストローク油における成分として使用されている。1968年に出願されたGB−A−1287579号(ザ・ブリティッシュ・ペトロリアム・カンパニー・リミテッド社)は、たとえば潤滑剤としてのポリイソブチレンポリマーの使用を記載している。しかしながら典型的には、この英国特許出願はポリ(イソ)ブテンの製造方法を示さないだけでなく、実際にこれらポリイソブチレンを製造するための原料として使用されるC4供給原料を示していない。従来使用されているポリ(イソ)ブテンは常に、n−ブテンおよびイソブテンを包含するブテンの混合物、たとえば主としてブタジエンラフィネートまたは流体接触熱分解(FCC)法からの粗製C4流であって20〜40%のn−ブテンを含有する供給原料から生産されることが周知されている。これはGB−A−1340804号(ラボフィナSA社、1972年に出願)から明らかなようにGB−A−12875779号の出願時点の話であり、GB−A−1340804号はポリマーが4個の炭素原子を有する炭化水素を含有したフラクションから製造されることを記載しており、さらにそこから生産されるポリマーはポリブチレンとポリイソブチレンとを変動する比率で(一般に5〜70%のポリイソブチレンおよび95〜30%のポリ−n−ブチレン)含有すると言われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリマー骨格中にn−ブテンを極めて低レベルしか含まず或いは実質的に含まないポリブテンを用いて、2−ストロークエンジンからの排気ガスにおける目に見える煙を減少させるだけでなく、低レベルの炭素沈着物しか形成しないなど優秀な性能を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって本発明は、300〜2000の分子量(Mn)を有するポリブテンポリマーまたはポリマーの混合物からなる2−ストロークエンジン油において、740cm−1でのポリマーにおける−CHCH−n−ブテン単位の赤外吸光度と、4315cm−1と4345cm−1との間のC−H上音吸光度との比として規定されるポリマー骨格におけるn−ブテンの比率が700以下のMnの数値を有するポリブテンにつき<0.2であり、Mn=>700のポリブテンにつき<0.12であることを特徴とする2−ストロークエンジン油に関する。
【0008】
ポリマー骨格におけるn−ブテン(以下「NB」と称する)の比率に関する定義は、これが定量測定には困難な概念であるため、赤外吸光技術により規定されている。これらの問題を避けるため、市販のポリブテンと現在使用されているn−ブテン含有量の低いPIBとの対応する赤外吸光度(特定周波数における)を対比することにより固有の方法を開発するよう決した。この方法は、ポリマー骨格における相対的n−ブテン含有量の指標として740cm−1における−CHCH−吸収を用いる。この方法を、DTGS検出器とCsI ビームスプリッタとが装着されたニコレット 740 FTIR分光計と共に用いた。分光計は、小セクションが切除された0.2mmのテフロン(登録商標)スペーサを備えるKBrウィンドーと適切なセルホルダーとを有した。試料のスペクトルは、4cm−1の解像にて得た。次いで800cm−1領域と700cm−1領域とにおける二つの最小値の基線限界の間における740cm−1バンドの吸光度ピーク高さを測定した。さらに4335cm−1バンドを、基線限界4750cm−1と3650cm−1との間の吸光度ピーク高さを測定して特性化した。相対的n−ブテン含有量を次のように計算した:
740cm−1における吸光度/4335cm−1における吸光度
これが下記する計算に用いた方法である。
【0009】
これを実施するため、比較的低いn−ブテン含有量を有し或いはこれを実質的に含まないポリブテン(PIB)を本出願人によるEP−A−0 145 235号に記載された方法により作成し、すなわち予備生成した三弗化硼素−エタノール複合体をイソブテンの重合につき触媒として使用する(そこに記載された方法を参考のためここに引用する)。この方法は、n−ブテン含有量が低いだけでなく実質的に塩素を含まないポリマーを与えた。この種の方法における生成物は、実施例に使用したウルトラビス(登録商標)級のポリブテン(BPケミカルス・リミテッド社から市販)である。n−ブテン含有量が低い或いは実質的にこれを含まないポリブテンは、供給原料および/または工程条件を慎重に選択して他の方法により作成することもできる。比較目的で、使用した比較的高いn−ブテン含有量を有するポリブテンは市販のハイビス(登録商標)級(これもBPケミカルス・リミテッド社から入手しうる)とした。
【0010】
下表のデータから判るように、各吸光度比には顕著な差が存在する。
【0011】
【表1】

【0012】
註*:PNB 07はn−ブテンが多くかつイソブテンが少ないC4流から製造された実験ポリマーである。
**:以下PPIB5と称し、これはイソブテンが多いC4流から製造されたポリマーであって実質的にn−ブテンを含まない。
【0013】
この表1から明らかなように、最も一般的な種類のポリブテンポリマーは、700未満の分子量(Mn)にて0.2より充分高くかつMn>700にて0.12より充分高い吸光度比を有する。
【0014】
さらに本発明の特徴は、ここで用いるPIBポリマーが実質的に塩素を含まなくてもよいことである。塩素もしくはその誘導体が排気ガス中に存在することは望ましくなく、したがって塩素フリーのPIBを使用することが最も望ましい。たとえばそれぞれハイビス(登録商標)5およびハイビス(登録商標)10から作成された2−ストロークエンジン油は−97ppmおよび−45ppmの塩素を有したのに対し、ウルトラビス(登録商標)5およびウルトラビス(登録商標)10から得られたものはそれぞれ<5ppmの塩素を有することが判明した。これは、塩素含有化合物をウルトラビス(登録商標)級のポリブテンの製造に使用しないという事実に起因する。したがって、ポリブテンにおける塩素のレベルは検出レベルよりも低く、実質的に塩素を含まないと考えられる。
【0015】
したがって他の具体例によれば本発明は、300〜2000の数平均分子量(Mn)を有するポリブテンポリマーまたはポリマーの混合物からなり、740cm−1でのポリマーの赤外吸光度と4335cm−1における吸光度との比により規定されるポリマー骨格におけるn−ブテンの比率が700以下のポリマーのMn値にて<0.2であり、>700のポリマーのMnにて<0.12であり、潤滑油が実質的に塩素を含まないことを特徴とする2−ストロークエンジン油である。
【0016】
本発明の2−ストロークエンジン油に使用されるPIBは好適には310〜1300の範囲のMnにつき2〜670cStの範囲、好ましくは3〜250cStの範囲の粘度を有し、低煙油の製造に最も適している。
【0017】
2−ストロークエンジン油組成物に存在するPIBの量は好適には15〜80%w/w、より典型的には25〜50%w/wの範囲である。この種の2−ストローク油中に一般に存在する他の成分は鉱油であって、20〜70%w/wの範囲のレベルで使用される。
【0018】
この種の2−ストロークエンジン油組成物の洗剤力を向上させるには、低灰分の添加剤およびたとえばケロシンのような希釈剤を添加して組成物の取扱性を向上させると共にこれと燃料との混和性を増大させるのが通常である。
【0019】
この種の2−ストロークエンジン油組成物はさらに合成エステル、ポリ−α−オレフィンおよびアルキル化ベンゼンをも含有して高性能の製品を得ることができる。
【0020】
評価すべく用いる標準的試験法は、2−ストローク油の性能を分類すべく日本自動車標準規格協会(JASO)により開発されたものである。これら試験の1つ(M342)は、試験サイクルの一部に際し排気煙の形成を測定する手順を含む。その結果は煙指数として現わされ、煙指数100としてランクされる標準2−ストローク油に対し内部基準化される。煙指数が高い程、煙放出の減少が大となる。この試験は70ccスズキ・ゼネレータSX 800 Rを用いる。油の煙試験における結果を下表2に示す。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0022】
実施例1:
ウルトラビス(登録商標)5ポリブテン(38%w/w)をソルベント・ニュートラル500鉱油(36%w/w)および添加剤パッケージADX 3110(8%w/w、BPケミカルス・アディチブス・リミテッド社)と60℃にてミキサで配合した。次いでケロシン(18%w/w)を添加し、配合物の油特性を測定した。
【0023】
本発明によらない比較実験において同量の材料を互いに混合したが、ただしウルトラビス(登録商標)5ポリブテンの代りにハイビス(登録商標)5ポリブテンを用いた。
【0024】
上記2種の組成物のJASO煙試験が示したところでは、ポリマー骨格における低n−ブテン含有量のウルトラビス(登録商標)5ポリブテンはハイビス(登録商標)5を有する対応の組成物よりも煙放出の減少が大であった。試験の結果を下表3に示す。
【0025】
実施例2:
実施例1の手順を反復したが、ただし使用したソルベント・ニュートラル鉱油はSN500とSN150との配合物(19/81 w/w)とした。さらに、使用したポリブテンはウルトラビス(登録商標)10(本発明による)およびハイビス(登録商標)10(比較試験、本発明によらない)とした。使用した各成分のそれぞれの量は厳密には同一でない。何故なら、各成分の厳密かつ正確な測定は実用的でなく、性能を測定するのに重要でないからである。使用した特定組成物を下表2に示す。
【0026】
JASO煙試験が示したところでは、ポリマー骨格における低n−ブテン含有量のウルトラビス(登録商標)10ポリブテンを含有する組成物は比較的高いn−ブテン含有量を有するハイビス(登録商標)10を含有した対応の組成物よりも煙放出の減少が大であった。この煙試験の結果を下表3に示す:
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
註*:740cm−1における吸光度と4335cm−1における吸光度との比。
【0030】
実施例3:
ウルトラビス(登録商標)PB25ポリブテン(36.6% w/w)をソルベント・ニュートラル500鉱油(37.3% w/w)および添加剤パッケージADX 3110(8.1% w/w、BPケミカルス・アディチブス・リミテッド社)と60℃にてミキサで配合した。次いでケロシン(18.6% w/w)を添加し、配合物の油特性を測定した。
【0031】
比較比試験(本発明によらない)において同量の材料を互いに混合したが、ウルトラビス(登録商標)PB25ポリブテンの代りにハイビス(登録商標)PB25ポリブテンを用いた。
【0032】
これら2種の組成物に存在する各成分を下表4に示す:
【0033】
【表4】

【0034】
これら組成物を上記したようにJASO煙試験にかけ、得られた結果を下表5に示す:
【0035】
【表5】

【0036】
註*:740cm−1における吸光度と4335cm−1における吸光度との比。
【0037】
このように、これら組成物の両者につき行なったJASO煙試験が示したところでは、ポリマー骨格中に低n−ブテン含有量を有するウルトラビス(登録商標)PB25ポリブテンを含有した組成物はポリマー骨格中に比較的高いn−ブテン含有量を有するハイビス(登録商標)PB25ポリブテンを含有した対応の組成物よりも煙放出の減少が大であった。
【0038】
実施例4:
実施例1の手順を反復したが、ただし使用したポリブテンをそれぞれPPIB5(本発明による)およびハイビス(登録商標)5(比較試験、本発明によらない)とした。処方に使用した各成分のそれぞれの量は厳密には同一でない。何故なら、このような厳密かつ正確な各成分の測定は性能を測定するのに重要でないからである。これら組成物における各成分を下表6に示す:
【0039】
【表6】

【0040】
上記と同様にこれら組成物につきJASO煙試験を行ない、得られた結果を下表7に示す:
【0041】
【表7】

【0042】
このように、JASO煙試験が示したところでは、ポリマー骨格中にn−ブテンを実質的に含まないPPIB5ポリブテンを含有した組成物はポリマー骨格中に比較的高いn−ブテン含有量を有するハイビス(登録商標)5ポリブテンを含有した対応の組成物よりも煙放出の減少が大であった。
【0043】
本発明の2−ストロークエンジン油によれば、2−ストロークエンジンからの排気ガスにおける目に見える煙を減少させるだけでなく、低レベルの炭素沈着物しか形成しない等の効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300〜2000の分子量(Mn)を有するポリブテンポリマーまたはポリマーの混合物からなる2−ストロークエンジン油において、740cm−1でのポリマーにおける−CHCH−n−ブテン単位の赤外吸光度と、4315cm−1と4345cm−1との間のC−H上音吸光度との比として規定されるポリマー骨格におけるn−ブテンの比率が700以下のMnの数値を有するポリブテンにつき<0.2であり、Mn=>700のポリブテンにつき<0.12であることを特徴とする2−ストロークエンジン油。
【請求項2】
300〜2000の数平均分子量(Mn)を有するポリブテンポリマーまたはポリマーの混合物からなり、740cm−1でのポリマーの赤外吸光度と4335cm−1における吸光度との比により規定されるポリマー骨格におけるn−ブテンの比率が700以下のポリマーのMnにて<0.2であり、>700のポリマーのMnにて<0.12であることを特徴とする請求項1に記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項3】
ポリブテンポリマーが実質的に塩素を含まない請求項1または2に記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項4】
ポリブテンポリマーが、ポリマーにおける不飽和結合の60%以上をビニリビン(……=CH)型とする請求項3に記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項5】
ポリブテンが310〜1300の範囲のMnにつき2〜674cStの範囲の粘度を有する請求項1〜4のいずれかに記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項6】
エンジン油に存在するポリブテンの量が15〜80%w/wの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項7】
エンジン油が20〜70%w/wの範囲のレベルにて鉱油を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項8】
エンジン油が低灰分の添加物と炭化水素希釈剤とを含有して、油の取扱性を向上させると共に油と燃料との混和性を向上させる請求項1〜7のいずれかに記載の2−ストロークエンジン油。
【請求項9】
エンジン油が合成エステル、ポリ−α−オレフィンおよびアルキル化ベンゼンを含有して高性能製品を生成する請求項1〜8のいずれかに記載の2−ストロークエンジン油。

【公開番号】特開2008−189933(P2008−189933A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51392(P2008−51392)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【分割の表示】特願平6−194294の分割
【原出願日】平成6年8月18日(1994.8.18)
【出願人】(505229003)イネオス ヨーロッパ リミテッド (20)
【Fターム(参考)】