説明

2−チエニルウレア誘導体

【課題】本発明は、sEH活性を阻害することで、EETsを増加させ、血管拡張作用に基づいた降圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患あるいは、自己免疫疾患治療剤、さらには高脂血症及び糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群の治療剤として期待される、2-チエニルウレア誘導体を提供する。
【解決手段】本発明は、下記一般式で表される2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容な塩。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(soluble epoxide hydrolase,以後、必要によりsEHと省略することがある)を阻害する2−チエニルウレア誘導体に関するものである。本発明の化合物はsEH活性を阻害することで、エポキシエイコサトリエノイックアシッド(Epoxyeicosatrienoic acids,以後、必要によりEETsと省略することがある)を増加させ、血管拡張作用に基づいた高血圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患、あるいは、自己免疫疾患治療剤、さらには高脂血症および糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群の治療剤として期待される。
【背景技術】
【0002】
EETsはアラキドン酸からP450代謝経路により産生される血管作動性エイコサノイドであるが、哺乳動物においてはエポキシ基の位置により5,6-EET、8,9-EET、11,12-EET、14,15-EET等の異性体が生合成される。これらEETsには種々の生理作用が報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
EETsは強力な血管拡張物質として知られており、摘出した腎、肝あるいは脳血管を生理的に存在しうる濃度域で拡張させる。一部のEETsは血管内皮細胞で産生され、血管平滑筋細胞に存在するCa2+-activated K+-channelを活性化させることから、血管内皮細胞由来の過分極因子(Endothelium-derived hyperpolarization factor; EDHF)の1つとして考えられている(非特許文献2参照)。
【0004】
EETsはNFκBおよびIκBキナーゼの転写抑制により、TNFα刺激によるVCAM-1発現を阻害することが報告されている(非特許文献3参照)。NFκBおよびIκBキナーゼは炎症反応において中心的な役割を担っているため、血管内あるいは組織内で増加したEETsは抗炎症作用を持つと考えられている。
【0005】
また、EETsあるいはCYP4Aによる代謝産物(19あるいは20-hydroxy EET)が転写因子Peroxisome Proliferator - Activated Receptor (PPAR)αを活性化することが報告されている(非特許文献4参照)。PPARα活性化作用を持つフィブレート系薬剤は、肝臓において脂質代謝関連遺伝子発現を亢進させることから血中脂質低下剤として使用されている。さらに11,12-EETが血管内皮細胞において転写因子forkhead transcription factor(FOXO)-1を抑制することも知られている(非特許文献5参照)。FOXO-1の活性化は脂肪細胞の成熟化を抑制することから、糖尿病における耐糖能異常との関わりが注目されており(非特許文献6参照)、実験的にもFOXO-1ノックアウトマウスは耐糖能異常が改善している(非特許文献7参照)。従ってEETsは血管性あるいは炎症疾患に有効性が期待できるだけでなく、内分泌代謝調節にも関与すると考えられる。
【0006】
Epoxide hydrolaseはエポキシ基やarene oxide基に水分子を付加して水解する酵素群の総称である。ほ乳類では異物性のepoxide, 変異原性物質のepoxide等の加水分解を司っていると考えられ、soluble epoxide hydrolase(sEH)、leukotriene A4 hydrolase、cholesterol epoxide hydrolaseまたはmicrosomal epoxide hydrolase(mEH)等が報告されている。このうちsEHはアラキドン酸やリノレン酸等の長鎖不飽和脂肪酸由来epoxideの代謝に深く関与している。一方、mEHも長鎖不飽和脂肪酸由来epoxideの代謝を行うが、その反応速度は低いと考えられている。
【0007】
sEHはほぼ全ての臓器に活性が認められ、生理的には細胞内で産生されたEETsを、不活性物質であるDihydroxyeicosatrienoic acid(DHET)へ変換する反応を担っている。sEHはAgII誘発性高血圧モデル(非特許文献8参照)あるいは自然発症型高血圧モデル(SHR)(非特許文献9参照)の腎臓で発現亢進することが報告されている。これらの結果はsEHが高血圧に関与することを示唆しており、実験的にもsEH ノックアウトマウスは平均血圧が正常動物に比べて低いことが証明されている(非特許文献10参照)。
【0008】
これまでにsEH阻害物質として、ピラゾリルフェニル誘導体(特許文献1参照)やアミド、ウレアおよびウレタン誘導体(特許文献2参照)が報告されている。
特許文献2には、sEH阻害活性についての記載があるウレア誘導体として、N-置換基がヘテロアリール基である化合物が記載されているが、ヘテロアリール基が4-ピリジル基、5-テトラゾリル基および9-アクリジニル基である化合物のみであり、チオフェン環を有するウレア誘導体に関する記載はない。
【0009】
一方、種々のモデル動物でsEH阻害剤の有効性が報告されており、AngiotensinII(AgII)誘発性高血圧モデルではsEH阻害剤であるN-cyclohexyl-N-dodecylureaに降圧作用が認められている(非特許文献8参照)。また高血圧に伴い腎機能低下の指標であるアルブミン尿が増加するが、別のsEH阻害剤である1-cyclohexyl-3-dodecylureaは、これを著明に抑制した(非特許文献11参照)。SHRにおいてもN, N'-dicyclohexylureaは尿中の14, 15-DHET量を減少させ、それに伴い降圧作用を有する(非特許文献9参照)。さらにsEH阻害剤である1-cyclohexyl-3-dodecyl ureaは血小板由来成長因子刺激に伴う血管平滑筋細胞増殖を抑制するため、動脈硬化治療剤としても期待できる(非特許文献12参照)。
【0010】
また、リノレン酸(あるいはleukotoxinおよびisoleukotoxin)のsEHによる代謝産物(leukotoxin-diolおよびisoleukotoxin-diol)は成人呼吸促迫症候群(ARDS)の原因物質であり、sEH阻害剤4-phenylchalconeがその死亡率を改善できることが報告されている(非特許文献13参照)。さらに、別のsEH阻害剤1-(4-aminophenyl)pyrazolesがTリンパ球からのIL-2産生を抑制することが報告されており、自己免疫疾患治療剤としても期待される(特許文献3参照)。
【0011】
このような背景から、sEH阻害剤は、血管拡張作用に基づいた高血圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患、あるいは、自己免疫疾患、さらには高脂血症および糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群の治療剤として期待される。
【0012】
【非特許文献1】Chem Biol Interact., 129, 41-59(2000)
【非特許文献2】Circ Res., 78, 415-423(1996)
【非特許文献3】Science. 285(5431),1276-1279(1999)
【非特許文献4】J Biol Chem., 277, 38, 35105-35112(2002)
【非特許文献5】J Biol Chem., 278, 32, 29619-29625(2003)
【非特許文献6】Dev Cell., 4, 119-129(2003)
【非特許文献7】Nat Genet., 32, 245-253.(2002)
【非特許文献8】Hypertension, 39, 690-694(2002)
【非特許文献9】Circ Res., 87, 992-998(2000)
【非特許文献10】J Biol Chem., 275, 51, 40504-40510(2000)
【非特許文献11】J Am Soc Nephrol. 15, 1244-53(2004)
【非特許文献12】Proc Natl Acad Sci U S A. 99, 2222-7(2002)
【非特許文献13】Am J Respir Cell Mol Biol. 25, 434-8(2001)
【特許文献1】国際公開第WO03/00255号
【特許文献2】米国特許US6531506号
【特許文献3】国際公開第WO00/23060号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、sEH活性を阻害することで、EETsを増加させ、血管拡張作用に基づいた高血圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患あるいは、自己免疫疾患治療剤、さらには高脂血症および糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群の治療剤として期待される、2−チエニルウレア誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決する目的で鋭意探索研究した結果、以外にも2−チエニルウレア誘導体が、優れたsEH阻害活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明は、sEH阻害薬として有用な下記一般式(1)
【0016】
【化1】

(1)
[式中、R1はC1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、式
【0017】
【化2】

で表される基またはヘテロアリール基を示し、R2は水素原子、ハロゲン原子またはC1-6アルキル基を示し、R3、R4、R5およびR6は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、C1-6アルコキシ基、-NR78、トリフルオロメチル基、ニトロ基、-CONR78、-COOR7、-NR7COR8、-S(O)m7、-SO2NR78,-NR7SO28,C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、トリフルオロメトキシ基、C1-6アルカノイル基、C4-7シクロアルキルカルボニル基またはシアノ基を示し、R7およびR8は同一または異なって水素原子またはC1-6アルキル基を示し、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数を示す。]
で表される2−チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物を提供する。
【0018】
好ましくは、上記一般式(1)においてR1がC1-6アルキル基または式
【0019】
【化3】

で表される基である、上記2−チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物を提供する。
【0020】
より好ましくは、上記一般式(1)においてR1がC1-6アルキル基または式
【0021】
【化4】

で表される基であり、R2がハロゲン原子またはC1-6アルキル基である、上記2−チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物を提供する。
【0022】
さらに好ましくは、上記一般式(1)においてR1がC1-6アルキル基または式
【0023】
【化5】

で表される基であり、R2がハロゲン原子またはC1-6アルキル基であり、R3が水素原子またはハロゲン原子を示し、R4がハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基またはシアノ基である、上記2−チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物を提供する。
【0024】
本発明の態様によると、上記一般式(1)においてR1がC1-6アルキル基であり、R2がハロゲン原子またはC1-6アルキル基であり、R3が水素原子またはハロゲン原子を示し、R4がハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基またはシアノ基である、上記2−チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物を提供する。
【0025】
特に好ましくは、上記一般式(1)で表される化合物のうち、
1-[3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[4-[(4-クロロフェニル)スルホニル]-3-メチル-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチル-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[4-(tert-ブチルスルホニル)-3-クロロ-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)-2-チエニル]-3-[2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-[(4-クロロフェニル)スルホニル]-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-[(4-クロロベンジル)スルホニル]-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[4-(ブチルスルホニル)-3-メチル-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-(メチルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-(プロピルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、
1-[3-クロロ-4-(エチルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア、若しくは1-[4-(ブチルスルホニル)-3-クロロ-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物を提供する。
【0026】
本発明の他の態様によると、上記の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬学的に許容される塩又はその水和物を含有する医薬を提供する。
【0027】
本発明の他の態様によると、上記の2-チエニルウレア誘導体若しくはその製薬学的に許容される塩又はその水和物を含有する可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を提供する。 本発明の他の態様によると、上記の2-チエニルウレア誘導体若しくはその製薬学的に許容される塩又はその水和物を有効成分として含有する高血圧、腎疾患または脳梗塞治療薬を提供する。
【0028】
ここで、「ハロゲン原子」とはフッ素原子、塩素原子または臭素原子を意味する。
【0029】
「C1-6アルキル基」とは、炭素数1から6の直鎖または分枝鎖状の無置換または置換されたアルキル基を意味し、その無置換体として具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0030】
「C3-6シクロアルキル基」とは無置換または置換された炭素数3から6のシクロアルキル基を意味し、その無置換体として具体的にはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0031】
「ヘテロアリール基」とは酸素原子、窒素原子または硫黄原子より選択された1から3個のヘテロ原子を含む5から7員環の無置換または置換された、単環またはベンゼン環若しくは同一または異なる芳香族複素環と縮環した芳香族複素環を意味し、その無置換体として具体的には2-フラニル基、3-フラニル基、2-チエニル基、3-チエニル基、2-オキサゾリル基、2-チアゾリル基、2-イミダゾリル基、1,2,4-トリアゾール-3-イル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-ベンゾチエニル基、2-インドリル基または2-キノリル基等が挙げられる。
【0032】
「C1-6アルコキシ基」とは炭素数1から6の直鎖または分枝鎖状の無置換または置換されたアルコキシ基を意味し、その無置換体として具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチロキシ基、イソペンチロキシ基、ネオペンチロキシ基、tert-ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基等が挙げられる。
【0033】
「C2-6アルケニル基」とは、炭素数2から6の直鎖または分枝鎖状の無置換または置換されたアルケニル基を意味し、その無置換体として具体的にはビニル基、アリル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ホモアリル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、イソプレニル基、1-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0034】
「C2-6アルキニル基」とは、炭素数2から6の直鎖または分枝鎖状の無置換または置換されたアルキニル基を意味し、その無置換体として具体的にはエチニル基、1-プロピニル基、プロパギル基、1-メチルプロパギル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基、1-ヘキシニル基等が挙げられる。
【0035】
「C1-6アルカノイル基」とは、炭素数1から6の直鎖状または分枝鎖状の無置換または置換されたアシル基を意味し、その無置換体として具体的にはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。
【0036】
「C4-7シクロアルキルカルボニル基」とは、無置換または置換された炭素数3から6のシクロアルキルカルボニル基を意味し、その無置換体としてシクロプロピルカルボニル基、シクロブチルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基等を挙げることができる。
【0037】
上記の適当な置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基、シクロペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基等のシクロアルコキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、シクロペンチロキシカルボニル基、シクロヘキシロキシカルボニル基等のシクロアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、シクロペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基等の(無)置換カルバモイル基、シアノ基、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、シクロプロピルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基等のアシル基等が挙げられる。
【0038】
また、製薬学的に許容される塩とは、アルカリ金属類、アルカリ土類金属類、アンモニウム、アルキルアンモニウムなどとの塩、鉱酸又は有機酸との塩であり、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、アルミニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ぎ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、ラクトビオン酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アジピン酸塩、システインとの塩、N−アセチルシステインとの塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、よう化水素酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、ピクリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデカン酸塩、アクリル酸ポリマーとの塩、カルボキシビニルポリマーとの塩を挙げることができる。
【0039】
本発明化合物の製造方法を以下に詳細に説明するが、例示されたものに特に限定されない。例えば、R2が塩素原子である本発明化合物は図1に記載の製造法により製造することが出来る。
【0040】
図1中、R1、R3およびR4は前述と同意義であり、Raは炭素数1〜6個の低級アルキル基を示す。すなわち、文献[J.Heterocyclic Chem.,36,659(1999).]記載の方法に従い(置換アルキルまたはアリールスルホニル)アセトニトリルより製造されるチオフェン誘導体(3)を出発物質とし、Sandmeyer反応、Curtius転移反応を経て2-チエニルウレア誘導体(2)を製造することが出来る。
【0041】
3-アミノチオフェン-2-カルボン酸エステル誘導体(3)は3-クロロチオフェン-2-カルボン酸エステル誘導体(4)に変換することが出来る。すなわち、亜硝酸ナトリウム-塩酸を用いてジアゾニウム塩とした後、塩化第一銅-塩酸によるクロロ化反応を用いることが出来、反応溶媒としては水またはテトラヒドロフラン、アセトン等の水溶性溶媒と水との混合溶媒を用いることが出来、反応温度は-20℃〜室温であり、好ましくは0℃である。また、亜硝酸tert-ブチル-クロロトリメチルシランによる反応などを用いることもでき、反応溶媒としてはクロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒を単一または混合して用いることが出来、反応温度は-20℃〜室温であり、好ましくは0℃である。
【0042】
次に3-クロロチオフェン-2-カルボン酸エステル誘導体(4)は、例えば、塩基性条件下での加水分解等の一般的なエステルの加水分解方法を用いて、相当する3-クロロチオフェン-2-カルボン酸(5)にすることが出来る。塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物や炭酸カリウム等の炭酸塩を用いることが出来、反応溶媒としてはメタノールやエタノール等のアルコールと水との混合溶媒またはテトラヒドロフラン、アルコール、水の混合溶媒を用いることが出来、反応温度は0℃〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。
【0043】
次いで、3-クロロチオフェン-2-カルボン酸誘導体(5)からイソシアネート誘導体(6)を経てアニリン誘導体(7)と反応させて目的とする2-チエニルウレア誘導体(2)を製造することが出来る。これらの反応はカルボン酸誘導体からイソシアネートを経由して尿素誘導体へと導く一般的な合成法を用いて実施することができ、例えば、3-クロロチオフェン-2-カルボン酸(5)を塩化チオニルやオキザリルクロリドなどを用いて酸クロライドとする。このとき反応溶媒としてはクロロホルムやテトラヒドロフラン等の非プロトン性溶媒を用いることができ、反応温度は0℃〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。次にアジ化ナトリウム等のアジ化物を用いて酸アジドとする。このとき、臭化テトラブチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩他、相関移動触媒を用いることでクロロホルムやジクロロメタン等のハロゲン系溶媒と水との二層系反応を行うことも出来、0℃〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。次に酸アジドを転移させイソシアネート誘導体(6)としアニリン誘導体(7)と反応させることにより、本発明化合物である2-チエニルウレア誘導体(2)を製造することが出来る。このとき、反応溶媒としてはテトラヒドロフラン、トルエン、クロロホルムなどの非プロトン性溶媒を用いることが出来、反応温度は室温〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。
【0044】
また、本発明の化合物(2)は、イソシアネート誘導体(6)からアミン誘導体(8)を経由してイソシアネート誘導体(9)と反応することによって製造することもできる。すなわち、例えば、イソシアネート誘導体(6)をtert-ブタノール等のアルコールと反応させ、酸またはアルカリ加水分解後に脱炭酸させることにより、アミン誘導体(8)を得ることが出来る。このとき、反応溶媒としてはテトラヒドロフラン、トルエン、クロロホルムなどの非プロトン性溶媒を用いることが出来、反応温度は室温〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。アルコールとしてtert-ブタノールを用いた場合は塩化水素-酢酸エチル溶液などによりアミン誘導体(8)を得ることが出来る。
【0045】
次に、アミン誘導体(8)をイソシアネート誘導体(9)と反応させることにより本発明化合物である2-チエニルウレア誘導体(2)を製造することが出来る。このとき、反応溶媒としてはテトラヒドロフラン、トルエン、クロロホルムなどの非プロトン性溶媒を用いることが出来、反応温度は室温〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。
【0046】
また、R2が低級アルキル基である本発明化合物の2-チエニルウレア誘導体(15)は図2に記載の製造法により製造することが出来る。
【0047】
図2中、R3およびR4は前期と同意義であり、Rbは炭素数1〜6個の低級アルキル基を示す。Rcは炭素数1〜6個の低級アルキル基、C3−6シクロアルキル基または式
【0048】
【化6】

で表される基を示す。3-ブロモチオフェン誘導体(10)は、例えば、n-ブチルリチウムやリチウムジイソプロピルアミド等の有機金属化合物を用いてメタル化した後、イオウと反応させ、次いでRc−X(式中Xは、ハロゲン原子を示す)と反応させることによって、スルフィド誘導体(11)を得ることが出来る。このとき、反応溶媒としてはテトラヒドロフラン、トルエン、クロロホルムなどの非プロトン性溶媒を用いることが出来、反応温度は−100℃〜室温である。
【0049】
次にスルフィド誘導体(11)を例えば、過酸化水素水や3-クロロ過安息香酸等の過酸化物を用いる酸化等の一般的なスルフィドのスルホへの酸化方法を用いることによって、スルホン(12)とすることができる。このとき反応溶媒としては酢酸やクロロホルム等のハロゲン化溶媒を用いることが出来、反応温度は室温〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。
【0050】
次にスルホン誘導体(12)を発煙硝酸や硝酸-硫酸等のニトロ化剤を用いてニトロ化してニトロ誘導体(13)を得ることが出来る。このとき反応温度は0℃〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。
【0051】
次いで、ニトロ誘導体(13)を鉄粉-酢酸、鉄粉-塩化アンモニウムによる還元等の一般的なニトロ基の還元条件を用いてアミノ誘導体(14)を得ることが出来る。このとき、反応溶媒としてはメタノール、エタノール等のアルコール単独または水との混合溶媒を用いることが好ましく、反応温度は室温〜用いる反応溶媒の沸点の範囲が好ましい。
【0052】
得られたアミノ誘導体(14)は前述と同様の方法により、イソシアネート誘導体(9)と反応させ、R2が低級アルキル基である本発明化合物である2-チエニルウレア誘導体(15)を製造することが出来る。
【0053】
また、Rが置換フェニル基、Rが低級アルキル基である誘導体は、例えば、市販の4−[(4−クロロフェニル)スルホニル]−5−メチルチオフェン−2−カルボン酸から、図1に示すCurtius転移を経由し、アニリン(7)との縮合を経る方法にて製造することができる。
【0054】
本発明における「可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤」とは、sEHによる基質の加水分解を触媒する作用を阻害する化合物を意味する。当該阻害剤の活性は、例えば、ヒト由来のsEHと、その基質であるEETsとを、被検化合物存在下で反応させ、当該反応によって生成される Dihydroxyeicosatrienoic acid (DHET) の量を測定することで確認することができる。本発明の阻害剤は、被検化合物の非存在下で反応させたDHETの産生量と比較した場合にその産生量が減少しているものであればよいが、本発明の充分な効果を得るためには、被検化合物無添加時のDHET産生量を100%として、被検化合物存在下に50%産生量が阻害される化合物濃度(IC50値)が10μM以下であることが好ましく、1μM以下がより好ましい。具体的には、例えば、試験例1の記載に従って確認することができる。
【0055】
このように、本発明の化合物は、sEHの活性を阻害することが可能であるから、sEHの活性に起因する疾患、特にsEHの活性によるEETsの減少に起因する疾患の治療に有用である。
【0056】
そのような疾患としては、例えば、高血圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患や自己免疫疾患治療剤、高脂血症および糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群を挙げることができる。
【0057】
特に、EETsは、強力な血管拡張物質(Circ Res. 1996 78:415-23)であるから、sEHによる基質の加水分解作用を抑制する本発明の化合物を使用すれば、生体内でのEETsの濃度を生理的な濃度領域内で一定に維持することが可能である。そのため、正常な血管拡張作用を維持することが可能であり、優れた循環器疾患の治療薬として利用することが可能であると考えられる。
【0058】
さらに、本発明の化合物は、強力な血管拡張物質であるEETsの加水分解を抑制することから、既知の降圧剤と組み合わせて使用することで、高血圧に対する優れた治療剤とすることができる。既知の降圧剤としては、例えば、Seloken、Tenormin等のβ−遮断剤、Cardura等のα−遮断剤、Norvasc、Adalat等のカルシウム拮抗剤、Torasemide、Spironolactone等の降圧利尿剤、Prinivil、Vasotec等のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、Cozaar、Diovan等のアンジオテンシンII(A−II)拮抗剤等があげられる。本発明の化合物とは異なる作用の降圧剤を組み合わせることで、優れた降圧作用を得ることができる。
【0059】
本発明の医薬は、全身的または局所的に直腸内、皮下、筋肉内、静脈内、経皮等の非経口投与することができるが、本発明の化合物は経口投与によっても優れた血漿中濃度を得ることができることから、経口投与剤とすることも可能である。
【0060】
本発明の化合物を医薬として用いるためには、固体組成物、液体組成物およびその他の組成物のいずれの形態でもよく、必要に応じて最適のものが選択される。
【0061】
本発明の医薬は、本発明の化合物に薬学的に許容されるキャリヤーを配合して製造することができる。具体的には、常用の賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、糖衣剤、pH調整剤、溶解剤または水性若しくは非水性溶媒などを添加し、常用の製剤技術によって、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤、乳剤、懸濁剤、注射剤等に調製する事ができる。賦形剤、増量剤としては、たとえば、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、デンプン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、ゴマ油、カカオバター、エチレングリコール等やその他常用されるものを挙げることができる。
【0062】
また、本発明化合物は、α、β若しくはγ−シクロデキストリンまたはメチル化シクロデキストリン等と包接化合物を形成させて製剤化することができる。
【0063】
本発明化合物の投与量は、疾患、症状、体重、年齢、性別、投与経路等により異なるが、成人に対し、好ましくは0.1〜1000 mg / kg体重/日であり、より好ましくは0.1〜200 mg / kg体重/日であり、これを1日1回または数回に分けて投与することができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明の化合物は、sEHの活性を阻害する作用を有しており、sEHの活性に起因する疾患、特にsEHの活性によるEETsの減少に起因する疾患の治療に有用である。
【0065】
このような疾患としては、例えば、高血圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患や自己免疫疾患治療剤、高脂血症および糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群を挙げることができる。
【0066】
特に、強力な血管拡張作用を有するEETsの加水分解作用を抑制することが可能であるため、高血圧、腎疾患、脳梗塞等の循環器疾患に対して有用である。
【0067】
また、本発明の化合物は、注射剤等に比べ苦痛が少なく、投与が容易な経口投与剤とすることが可能である。
【0068】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
実施例1 1-[3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)チオフェン-2-イル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア
【0070】
【化7】

化合物1−1
(1) 亜硝酸tert-ブチル(21.8g,211mmol)の四塩化炭素(350ml)溶液に0℃でクロロトリメチルシラン(22.8g,211mmol)を15分間かけて滴下し、さらに1時間攪拌した。反応溶液に3-アミノ-4-(イソプロピルスルホニル)チオフェン-2-カルボン酸エチル(19.5g,70.3mmol)のクロロホルム(120ml)溶液を滴下し、0℃で1時間攪拌した。反応溶液に水を加え、クロロホルムで抽出し、水、飽和食塩水で洗浄した。MgSO4上で乾燥した後、溶媒を減圧留去して3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)チオフェン-2-カルボン酸エチル(14.35g)を得た。1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ ppm 1.30 - 1.47 (m, 9 H) 3.51 - 3.71 (m, 1 H) 4.41 (q, J=7.03 Hz, 2 H) 8.33 (s, 1 H)。
(2) 3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)チオフェン-2-カルボン酸エチル(14.35g,48.4mmol)のエタノール(145ml)溶液に1N-水酸化ナトリウム水溶液(145ml)を加え、30分間還流した。室温まで冷却した後、濃塩酸で中和し、溶媒を減圧濃縮して酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。溶媒を減圧留去して3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)チオフェン-2-カルボン酸(12.33g)を得た。1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ ppm 1.37 (d, J=7.03 Hz, 6 H) 3.52 - 3.70 (m, 1 H) 8.42 (s, 1 H)。
(3) 3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)チオフェン-2-カルボン酸(12.33g,45.9mmol)の(1:1)クロロホルム-テトラヒドロフラン(230ml)溶液に塩化チオニル(5.02ml,68.9mmol)を加え、90分間加熱還流した。室温まで冷却後、溶媒を減圧留去して、残留物をクロロホルム(230ml)に溶解した。これに臭化テトラブチルアンモニウム(148mg,0.459mmol)を加え、0℃に冷却してアジ化ナトリウム(8.95g,138mmol)の水(31ml)溶液を滴下した。0℃でさらに2時間拡販した後、反応液を水にあけクロロホルムで抽出した。有機層を水、飽和食塩水の順で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。乾燥剤を減圧濾過して母液に3-アミノベンゾトリフルオライド(37.0g,230mmol)を加え、5時間還流した。反応液を水にあけ、クロロホルムで抽出した。有機層を水、飽和食塩水の順で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。溶媒を減圧留去した後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[溶出溶媒:ヘキサン-酢酸エチル(1:1)]にて精製し、ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒で再結晶して表題化合物(7.62g)を淡褐色粉末として得た。
【0071】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ ppm ;1.39 (d, J=6.84 Hz, 6 H) 3.47 - 3.61 (m, 1 H) 7.30 - 7.47 (m, 2 H) 7.61 - 7.68 (m, 1 H) 7.73 - 7.84 (m, 2 H) 8.06 (bs, 1 H) 8.32 (bs, 1 H)。
【0072】
以下の化合物は同様の方法により製造することが出来る。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例2 1-[4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルチオフェン-2-イル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア
【0075】
【化8】

化合物2−1
(1)3-ブロモ-4-メチルチオフェン(2.0g,11.3mmol)のジエチルエーテル(38ml)溶液に−78℃で0.7Nイソプロピルリチウム-ヘキサン溶液(16.94ml)を加え、同温度で15分間攪拌した。反応溶液にイオウ末(0.38g,11.9mmol)を加え、−78℃で20分間攪拌した後、さらに0℃で1時間攪拌した。反応溶液に0.5N塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した後、溶媒を減圧留去して3-メルカプト-4-メチルチオフェン(1.54g)を得た。
【0076】
得られた3-メルカプト-4-メチルチオフェン(1.54g,11.3mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(22ml)溶液に0℃で60%油性水素化ナトリウム(0.54g,13.6mmol)を加え、同温度で15分間攪拌した後、2-ヨードプロパン(2.26ml,22.6mmol)を加え、一晩攪拌した。反応溶液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液、水、飽和食塩水の順で洗浄し、MgSO4上で乾燥した後、溶媒を減圧留去して3-(イソプロピルチオ)-4-メチルチオフェン(1.70g)を得た。
【0077】
次に3-(イソプロピルチオ)-4-メチルチオフェン(1.70g,9.9mmol)の酢酸(15ml)溶液に28%過酸化水素水(4.5ml)を加え、1.5時間還流した。室温まで冷却した後、反応溶液を砕いた氷にあけ、2N水酸化ナトリウム水溶液で塩基性(pH9.0)とした。クロロホルムで抽出した後、飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残留物に発煙硝酸(9ml)を冷却しながら少しずつ加え、さらに0℃で30分間攪拌した。反応溶液を水にあけ、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水の順で洗浄し、MgSO4上で乾燥した後、溶媒を減圧留去して4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチル-2-ニトロチオフェン(0.93g)を得た。
【0078】
次に4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチル-2-ニトロチオフェン(0.93g,3.8mmol)のエタノール(15ml)溶液に、鉄粉(1.04g,18.7mmol)、塩化アンモニウム(0.12g,2.2mmol)と水(3ml)を加え、2時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、不溶物をろ過し、溶媒を減圧留去した。残留物にクロロホルムを加え、MgSO4上で乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[溶出溶媒;ヘキサン-酢酸エチル(3:2)]にて精製して2-アミノ-4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルチオフェン(0.51g)を得た。
【0079】
1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ ppm 1.32 (d, J=7.03 Hz, 6 H) 2.21 (s, 3 H) 3.02 - 3.25 (m, 1 H) 3.67 (bs, 2 H) 7.37 (s, 1 H)。
(2)2-アミノ-4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチルチオフェン(0.23g,1.05mmol)のテトラヒドロフラン(5ml)溶液にイソシアン酸3-(トリフルオロメチル)フェニル(0.24g,1.26mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ[溶出溶媒;ヘキサン-酢酸エチル(3:2)]にて精製して表題化合物(0.33g)を得た。
1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ ppm 1.36 (d, J=6.59 Hz, 6 H) 2.27 (s, 3 H) 3.15 - 3.32 (m, 1 H) 7.24 - 7.48 (m, 2 H) 7.63 - 7.90 (m, 5 H)。
【0080】
以下の化合物は同様の方法により製造した。
【0081】
【表2】

【0082】
試験例1
sEH阻害作用
ジメチルスルホキシド(DMSO)で種々濃度に調製した被験薬溶液を、250mM ショ糖、0.1mM エチレンジアミン四酢酸及び0.1mM ジチオスレイトールを含む10mM トリス塩酸(pH7.4)緩衝液に加え、酵素源としてヒト肝臓細胞質画分(Analytical Biological Services社)と室温にて保温した。15分間後に基質として14,15-[5,6,8,9,11,12,14,15(n)- 3H] epoxyeicosatrienoic acid([3H]14,15-epoxyeicosatrienoic acid)を添加し、室温でさらに60分間反応させた。メタノール添加により反応を停止(終濃度50%)させた後、反応液中に含まれる基質([3H]14,15-epoxyeicosatrienoic acid)と反応生成物([3H]14,15-dihydroxyeicosatrienoic acid)をオクタドデシルシラン樹脂(ワコーゲル50C18)に吸着させた。60%メタノール溶液で基質と反応生成物を分離した後、被検化合物無添加時の[3H]14,15-dihydroxyeicosatrienoic acid産生量を100%として、被検化合物存在下に50%産生量が阻害される化合物濃度(IC50値)を算出した。
【0083】
結果を表3に示した。
【0084】
【表3】

【0085】
試験例2
血管拡張増強作用
混合ガス(95%O2-5%CO2)を通気した37℃のKrebs-Hensleit液(118mM 塩化ナトリウム、4.7mM 塩化カリウム、1.8mM 塩化カルシウム、1.2mM 硫酸マグネシウム、1.2mM リン酸二水素ナトリウム、25mM炭酸水素ナトリウム、11.1mM ブドウ糖)中にラット摘出大動脈(Sprague-Dawleyラット、12-14週齢、雄)を懸垂して1時間安定化させた後、等尺性の発生張力を測定した。DMSO又は化合物1−1(10-5M)を反応液に加え、10分後にノルエピネフリン(10-7M)を添加してラット大動脈を収縮させた。収縮反応が平衡に達した直後に、14、15-epoxyeicosatrienoic acid (14、15-EET、10-8-10-5M)を累積的に添加し拡張反応をアイソメトリックトランスデューサー(日本光電、TB-612T)を介して測定した。血管拡張反応はノルエピネフリンによる収縮反応を100%とし、14、15-EET添加時の拡張率(%Relaxation)として算出した。
【0086】
結果を図3に示した。本発明のsEH阻害活性を有する化合物を投与することにより、ラット摘出大動脈の収縮が有意に緩和されることが確認された。
【0087】
これらの結果より、sEH阻害作用を有する本発明の2−チエニルウレア誘導体を使用すれば、優れた血管拡張作用を得ることが可能であり、高血圧等の循環器疾患に対して有効な治療薬の提供が可能になると考えられる。
【0088】
本発明のsEH阻害活性を有する2−チエニルウレア誘導体は、当該阻害活性により、体内のEETsの加水分解を抑制し、EETsの減少に起因する疾患、特に血管拡張作用に基づいた高血圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患に有効な薬剤の提供が可能になると考えられる。
【0089】
試験例3 ラット血漿中濃度推移
化合物1−1を5%アラビアゴム溶液に懸濁(5mg/ml、●または15mg/ml、○)させた後、Sprague-Dawleyラット(7週齢、雄、n=3)に2ml/kgでそれぞれ経口投与した。15、30、60、120、240、480分後に尾静脈より0.3ml採血した後、EDTA・2K処理した。4℃で11200×g、5分間遠心後の上清をLC-Massにて分析した。
【0090】
結果を図4に示した。本発明の化合物は、経口投与によって高い血漿中濃度を得ることができ、また、当該濃度が長時間維持されることが示された。
【0091】
これらの結果より、本発明の化合物を利用すれば、注射剤等に比べ苦痛が少なく、投与が容易な経口投与剤とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、sEH活性を阻害する2-チエニルウレア誘導体を提供することができる。これにより体内のEpoxyeicosatrienoic acidsを増加させ、血管拡張作用に基づいた降圧、腎疾患、脳梗塞を含む循環器疾患に有効な薬剤の提供が可能になる。さらに、NFκB/IκBキナーゼ活性化を介する一連の炎症性疾患あるいは、自己免疫疾患治療剤、または高脂血症及び糖尿病を含む内分泌代謝疾患や成人呼吸促迫症候群の治療剤の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、2-チエニルウレア誘導体(2)の製造方法を示す。
【図2】図2は、2-チエニルウレア誘導体(15)の製造方法を示す。
【図3】図3はノルエピネフリンによって収縮したラット摘出大動脈に14、15-EETを添加した際の拡張反応をアイソメトリックトランスデューサーを介して測定した結果を示す(試験例2)。
【図4】図4は、本発明の化合物をラットに経口投与した際のラット血漿中濃度の推移をLC-Massにて測定した結果を示す(試験例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(1)
[式中、R1はC1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、式
【化2】

で表される基またはヘテロアリール基を示し、R2は水素原子、ハロゲン原子またはC1-6アルキル基を示し、R3、R4、R5およびR6は同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、C1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、C1-6アルコキシ基、-NR78、トリフルオロメチル基、ニトロ基、-CONR78、-COOR7、-NR7COR8、-S(O)m7、-SO2NR78,-NR7SO28,C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、トリフルオロメトキシ基、C1-6アルカノイル基、C4-7シクロアルキルカルボニル基またはシアノ基を示し、R7およびR8は同一または異なって水素原子またはC1-6アルキル基を示し、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数を示す。]で表される2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物。
【請求項2】
R1がC1-6アルキル基または式
【化3】

で表される基である請求項1に記載の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容な塩またはその水和物。
【請求項3】
R2がハロゲン原子またはC1-6アルキル基である請求項1または2に記載の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物。
【請求項4】
R3が水素原子またはハロゲン原子を示し、R4がハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基またはシアノ基である請求項1から3いずれか1項に記載の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物。
【請求項5】
R1がC1-6アルキル基であり、R2がハロゲン原子またはC1-6アルキル基であり、R3が水素原子またはハロゲン原子を示し、R4がハロゲン原子、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基またはシアノ基である請求項1に記載の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物。
【請求項6】
1-[3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[4-[(4-クロロフェニル)スルホニル]-3-メチル-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[4-(イソプロピルスルホニル)-3-メチル-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[4-(tert-ブチルスルホニル)-3-クロロ-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-(イソプロピルスルホニル)-2-チエニル]-3-[2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-[(4-クロロフェニル)スルホニル]-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-[(4-クロロベンジル)スルホニル]-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[4-(ブチルスルホニル)-3-メチル-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-(メチルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-(プロピルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[3-クロロ-4-(エチルスルホニル)-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
1-[4-(ブチルスルホニル)-3-クロロ-2-チエニル]-3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレア;
から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩またはその水和物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の2-チエニルウレア誘導体若しくはその薬理学的に許容される塩又はその水和物を含有する医薬。
【請求項8】
可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤である請求項7記載の医薬。
【請求項9】
高血圧、腎疾患または脳梗塞治療薬である請求項8記載の医薬。
【請求項10】
経口投与剤であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−1496(P2009−1496A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299465(P2005−299465)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】