説明

2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドの製造方法

【課題】大容量の冷却器や大量の無機酸を使用しなくても、比較的短時間で2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを高転化率で水和させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造し得る方法の提供。
【解決手段】2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルに対して0.5〜1モル倍の無機酸(例えば硫酸)の存在下、温度40〜70℃で、連続反応器、回分反応器3などを用いて転化率80%〜98%となるように連続式にて水和させ、さらに水和反応液に含まれる未反応ニトリルを転化率99.9%以上となるように回分式にて水和させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミド〔以下、アミドと略称することがある。〕は式(A)

で示される化合物であって、式(G)

で示される2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸〔以下、HMBAと略称することがある。〕の製造中間体として有用である。このアミド(A)の製造方法としては、式(B)

で示される2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル〔以下、ニトリルと略称することがある。〕を無機酸(D)の存在下に水〔H2O〕(C)と水和させる方法が知られており、特許文献1〔特開2001−187779号公報の段落番号0013、0038、0046および0052〕には、反応装置として槽型反応器を用い、この反応器にニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)を導入し、導入完了後も十分な時間をかけて水和させる回分式にてアミド(A)を製造する方法が開示されている。かかる方法では、ニトリル等の原料を導入した後に十分な時間をかけて水和させるので、導入されたニトリル(B)のうちの99.9%以上を水和することができる。
【0003】
ところで、ニトリルを水和させる際の温度が高いと、生成したアミドの加水分解が起こりHMBAが生成するが、同時にアンモニア〔NH3〕も副生する。アンモニアが副生すると、無機酸と塩を形成して無機酸を消費するため、水和が進行しにくくなって、未反応のニトリルが残り易くなる。このため、少ない量の無機酸で、高い転化率でニトリルを水和させるには、生成したアミドが加水分解されないよう、70℃以下の温度で水和させることが好ましい。
【0004】
しかし、ニトリルの水和反応は発熱量が非常に大きく、しかも反応の初期には極めて速やかに進行し、特にニトリル、水および無機酸の導入時には温度が急激に上昇し易い。このため、70℃以下の温度を維持して水和させるためには、急激な温度の上昇に見合った大容量の冷却器を用いて除熱しながら水和させるか、あるいはニトリル等の原料を極めて長時間かけて、少量ずつ反応器に導入する必要があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−187779号公報の段落番号0038、0046および0052
【非特許文献1】「改訂六版 化学工学便覧」(平成11年2月25日、丸善(株)発行)第186頁〜第187頁
【非特許文献2】「改訂六版 化学工学便覧」(平成11年2月25日、丸善(株)発行)第1028頁〜第1030頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小容量の冷却器であっても、反応熱による急激な温度上昇を抑えながら反応させうる方法としては、連続反応器を用いて連続式にて反応させる方法が一般的であるが、連続式での反応だけでニトリルを高い転化率で水和させてアミドを得るには、ニトリルを速やかに水和させなければならず、そのために大量の無機酸を用いる必要がある。
【0007】
そこで本発明者は、大容量の冷却器や大量の無機酸を使用しなくても、ニトリルを高転化率で水和させてアミドを製造し得る方法を開発するべく鋭意検討した結果、連続式にて転化率80%以上98%以下となるようにニトリルを水和させると共に、得られた水和反応液中の未反応にトリルを回分式にて水和させることにより、連続式での水和では98%以下の比較的低い転化率でニトリルを水和させればよいので、無機酸の使用量を少なくでき、また回分式での水和では、既に転化率80%以上で水和された後であるので、急激な反応の進行がなくて発熱も少なく、小容量の冷却器でも十分に除熱できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル(B)を無機酸(D)の存在下に水和させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミド(A)を製造する方法であって、
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル(B)を無機酸(D)の存在下に転化率が80%以上98%以下となるように連続式にて水和させて水和反応液(E)を得、
得られた水和反応液(E)に含まれる未反応の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル(B)を転化率99.9%以上となるように回分式にて水和させる
ことを特徴とする2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミド(A)の製造方法を提供するものである。図1〜図6には、本発明の製造方法でニトリル(B)を無機酸(D)の存在下に水(C)と反応させてアミド(A)を製造するための製造設備(1)の一例を模式的に示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ニトリルを先ず連続反応器で水和させるので、大容量の冷却
器や、大量の無機酸を用いる必要がなく、また、高い転化率でアミドを製造することがで
きる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1〜図9を用いて本発明の製造方法について説明する。図1〜図6に示す製造設備(1)は、本発明の製造方法でアミド(A)を製造するためのものであり、連続反応器(2)および回分反応器(3)を備えている。図7〜図9には、この製造設備(1)に使用し得る連続反応器(2)の例を模式的に示す。
【0011】
本発明の方法は、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル(B)を水和させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミド(A)を製造する方法である。水和に用いる水(C)の使用量は、化学量論的にはニトリル(B)に対して1モル倍以上であればよいが、好ましくは0.1質量倍以上であり、通常は0.4質量倍以下である。
【0012】
ニトリルの水和は無機酸(D)の存在下に行われる。無機酸としては、例えば硫酸が好ましく用いられ、その使用量はニトリルに対して通常0.5モル倍以上、好ましくは0.6モル倍以上であり、1モル倍を超えてもよいが、本発明の製造方法では1モル倍以下であっても転化率よくアミドを得ることができるので、通常は1モル倍以下、好ましくは0.8モル倍以下程度である。
【0013】
本発明の製造方法では、先ずニトリル(B)を無機酸(D)の存在下に連続式にて水和させて水和反応液(E)を得る。通常はニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)を連続反応器(2)に導入し、この連続反応器(2)にて連続式にて水和させる。連続反応器(2)とは、連続操作によってニトリル(B)を無機酸(D)の存在下に水(C)と反応させるための反応器である。
【0014】
ニトリル(B)は、無機酸と混合されることなく、あるいは無機酸(D)のうちの少量と予め混合されて連続反応器(2)に導入される。ニトリル(B)は、水(C)とあらかじめ混合し、ニトリル水溶液として導入されてもよいし、水(C)と混合することなく導入されてもよいし、ニトリル(B)の製造方法によっては、ニトリルの製造過程で含まれる水を含んだまま導入されてもよい。
【0015】
無機酸(D)および水(C)はそれぞれ独立して連続反応器(2)に導入されてもよいが、通常は、あらかじめ混合して無機酸水溶液(D')として導入される。
【0016】
連続反応器(2)としては、例えば図7(a)に示すように、槽型反応器本体(20a)を単独で用い、これにニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)を連続的に導入し、攪拌しながら、内部の水和反応液(E)を連続的に抜き出す連続攪拌槽型反応器(CSTR、Continuous Stirred Tank Reactor)(2a)が挙げられる〔非特許文献1:「改訂六版 化学工学便覧」(平成11年2月25日、丸善(株)発行)第186頁〜第187頁〕。図7(a)に示す連続攪拌槽型反応器(2a)は、本体(20a)にニトリル(B)を導入するニトリル導入管(21)と、無機酸水溶液(D')として水(B)および無機酸(D)を導入する無機酸水溶液導入管(22)とを備えている。本体(20a)はジャケット(23)で覆われており、このジャケット(23)内の冷媒によって冷却されている。冷媒は、ポンプ(24)によって循環され、冷却器(25)によって冷却されている。本体(20a)には、攪拌機(26)が設けられており、導入されたニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)は、この攪拌機(26)によって攪拌されながら反応する。得られた水和反応液(E)は、抜出管(27)から連続的に抜き出される。図1には、連続反応器(2)として、この連続攪拌槽型反応器(2a)を用いた例を示している。
【0017】
連続反応器(2)として、図7(b)に示すように、上記連続攪拌槽型反応装置(2a)を2台以上用い、これらを直列に連結した直列連続攪拌槽型反応器(2b)も挙げられる〔非特許文献1:「改訂六版 化学工学便覧」(平成11年2月25日、丸善(株)発行)第186頁〜第187頁〕。直列連続攪拌槽型反応器(2b)において、連続攪拌槽型反応器(2a)は通常、2台〜5台程度が直列に連結された構成となっている。図7(b)には、2台を直列に連結した例を示している。また、図2には、連続反応器として、この直列連続攪拌槽型反応器(2b)を用いた例を示している。
【0018】
連続反応器(2)として、図8(a)に示すような管型反応器(2c)も挙げられる。管型反応器(2c)とは、管状の反応器本体(20c)を備え、その一端(21c)からニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)を連続的に導入し、他端(27c)に向けて流通させながら反応させて、他端(27c)から連続的に抜き出す反応器であり、例えばプラグフローリアクターなどが挙げられる。図8(a)に示す管型反応器(2c)は、反応器本体(20c)と、該反応器本体の一端(21c)に接続されたニトリル導入管(21)および無機酸水溶液導入管(22)と、該反応器本体の他端(27c)に接続された抜出管(27)とを備え、この反応器本体(20c)の周囲はジャケット(23)で覆われている。ジャケット(23)には冷媒が充填されていて、例えば、この冷媒をポンプ(24)によって循環させながら冷却器(25)で冷却することで、反応器本体(20)での水和により生ずる水和熱が除熱される。図8(a)では、管状の反応器本体(20)として直管状のものを例示しているが、コイル状になっていてもよい。管型反応器(2c)は、図8(b)に示すように管状の反応器本体(20c)を複数並列に接続してジャケット(23)で覆われた構成になっていてもよい。図3および図4には、連続反応器として、この管型反応器(2c)を用いた例を示している。
【0019】
連続反応器(2)として、図9に示すようなループ型反応器(2d)も挙げられる。ループ型反応器(2d)とは、内部で反応液が循環するループ管(20d)を備え、このループ管(20d)にニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)を連続的に導入し、ループ管(20d)内を循環させながら連続的に水和させると共に、ループ管(20d)から反応液を連続的に抜き出すことにより、連続的に反応させる反応器である〔非特許文献2:「改訂六版 化学工学便覧」(平成11年2月25日、丸善(株)発行)第1028頁〜第1030頁〕。図9に示すループ管型反応器(2d)では、ループ管(20d)にポンプ(24)および冷却器(25)が設けられており、このポンプ(24)によってループ管(20)内部の反応液(E)を循環させながら、冷却器(25)で除熱する。ループ型反応器(2)によれば、ニトリル(B)を連続的に水和させることができる。また、ループ管(20d)には、ニトリル(B)を導入するニトリル導入管(21)と、無機酸水溶液(D')として水(B)および無機酸(D)を導入する無機酸水溶液導入管(22)とが接続され、反応液(E)の一部を抜き出すための抜出管(27)も接続されている。抜出管(27)は、ループ管(20)に直接接続されていてもよいが、ループ管(20)に導入されるニトリル(B)、水(C)および無機酸の液量が変動しても一定の液量で抜き出せるように、ループ管(20)の途中に設けられたタンク部(28)で接続されていることが好ましい。図5および図6には、連続反応器として、このループ型反応器(2d)を用いた例を示している。
【0020】
かかる連続反応器(2)により、ニトリル(B)を連続式にて水和させることができるが、この連続反応器(2)では通常40℃〜70℃程度の水和温度で水和させる。水和温度が40℃未満では水和が十分に進行しない。また、70℃を超えたのでは、HMBAと共にアンモニアが副生してアミド(A)を高転化率で得にくい傾向にあり、この傾向は無機酸の使用量がニトリルに対して1モル倍以下の場合に顕著である。
【0021】
ニトリル(B)の連続式にて水和させる際の転化率は80%以上、好ましくは85%以上、98%以下、好ましくは95%以下である。ニトリルの転化率が80%未満で、導入したニトリルのうちの20%を超える量が水和されないまま未反応ニトリルとして残ると、次の回分式にて未反応ニトリルを水和させるときに生ずる発熱が大きくなり、また、連続式にてニトリルを転化率98%を超えて水和させるには、無機酸(D)の使用量を多くする必要があるため、いずれも好ましくない。
【0022】
連続反応器(2)により連続式にて水和させる際におけるニトリル(B)の転化率は、水和温度の他、滞留時間により調整できる。滞留時間が短いと転化率は低くなり、長いと転化率は高くなる。滞留時間を短くするには、連続反応器(2)として内容積の小さいものを用いたり、連続反応器(2)へのニトリル(B)、水(C)および無機酸(D)の導入量を多くすればよい。滞留時間を長くするには、内容量の大きな連続反応器(2)を用いたり、ニトリル等の導入量を少なくすればよい。連続式にてニトリル(B)を水和させる際における滞留時間は通常0.2時間〜2時間程度である。
【0023】
連続反応器(2)からは抜出管(27)を通じて、連続的に、ニトリル(B)が水和された後の水和反応液(E)が抜き出される。抜き出された水和反応液(E)には、目的の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドや、未反応の水、無機酸などの他、未反応の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルが含まれている。また、アミドが加水分解して生成したHMBAが含まれていることもある。
【0024】
抜出管(27)から抜き出された水和反応液(E)には未反応のニトリルが含まれるが、かかるニトリルはを回分式にて水和させる。未反応ニトリルを回分式にて水和させるには、水和反応液(E)を回分反応器(3)に導入し、この回文反応器(3)にて回分式にて水和させる。回分反応器(3)とは、回分操作によって、水和反応液(E)に含まれる未反応のニトリルを水和するための反応器であって、例えば槽型反応器(30)が用いられる〔非特許文献1:「改訂六版 化学工学便覧」(平成11年2月25日、丸善(株)発行)第186頁〜第187頁〕。
【0025】
回分式にて未反応のニトリルを水和するには、例えば、かかる回分反応器(3)に水和反応液(E)を導入し、その後、水和反応液(E)を水和温度に維持しながら反応させる回分操作により、反応反応液に含まれる未反応のニトリルを水と反応させて水和させればよい。
【0026】
水和反応液(E)は、連続反応器(2)から連続的に抜き出される。これに対して、回分反応器(3)へは、回分操作によって間欠的に導入される。このため、例えば図1、図3および図5に示すように、連続反応器(2)と回分反応器(3)との間に水和反応液貯蔵タンク(4)を挿入しておき、連続反応器(2)から連続的に抜き出された水和反応液(E)を、この水和反応液貯蔵タンク(4)に連続的に貯蔵しつつ、このタンク(4)から必要量を抜き出して回分反応器(3)に導入してもよい。水和反応液貯蔵タンク(4)に貯蔵される間にも、水和反応液(E)に含まれる未反応ニトリルが水和されてアミドとなり、発熱することがあるので、水和反応液貯蔵タンク(4)にもジャケット(43)を設けておき、ポンプ(44)によって、冷却器(45)で冷却された冷媒をこのジャケット(43)の中に循環させて、除熱してもよい。
【0027】
また、図2、図4および図6に示すように、2以上の回分反応器(3、3')を用い、これら複数の回分反応器(3、3')を交互に使用することとして、これら複数の回分反応器のうちの1台(3)で水和させている間に、他の回分反応器(3')に連続反応器(2)から抜き出された水和反応液(E)を導入してもよい。
【0028】
なお、水和反応液(E)を連続反応器(2)から回分反応器(3)へ導入する間や、水和反応液貯蔵タンク(4)に貯蔵している間にも水和が進み、水和反応液(E)に含まれる未反応のニトリル(B)の一部が水和されてアミドとなってもよい。
【0029】
図1〜図6に示す回分反応器(3)は、槽型反応器本体(30)の周囲にジャケット(33)が設けられており、ポンプ(34)によって、このジャケット(33)に冷却器(35)からの冷媒を通すことで、除熱することができる。
【0030】
かかる回分反応器(3)により、未反応にトリルを回分式にて水和させることができるが、この回分反応器(3)では通常40℃〜70℃程度の水和温度で水和させる。かかる温度で水和させるために通常は、槽型反応器本体(30)内がこの温度範囲となるように、通常はジャケット(33)により除熱しながら水和させる。水和温度が40℃未満では水和が十分に進行しない。また、70℃を超えたのでは、HMBAと共にアンモニアが副生して、ニトリルの転化率が却って低下する傾向にあり、この傾向は無機酸の使用量がニトリルに対して1モル倍以下の場合に顕著である。
【0031】
水和は通常、攪拌下に行われ、図1および図2に示す回分反応器(3)では、攪拌機(36)により攪拌しながら水和させている。
【0032】
回分反応器の本体(30)で水和されるニトリルはは、既に80%以上の転化率でニトリルが水和された後の水和反応液(E)に含まれる未反応ニトリルであるので、水和速度は比較的緩やかで、発熱量も少なく、比較的容量の小さな冷却器(35)であっても70℃以下の水和温度を維持しながら水和させることができる。
【0033】
回分式で水和させるにあたり、未反応ニトリルは、先の連続反応器(2)に導入されたニトリルのうちでアミド(A)に転化されたものの割合を示す転化率で99.9%以上、実質的には100%となるまで水和させる。回分反応器(3)における水和に要する時間は、通常0.2時間〜2時間程度である。
【0034】
かくして水和させることで、実質的にニトリルを含まない反応液としてアミド(A)を得ることができる。また、この反応液には目的のアミド(A)の他、未反応の水および無機酸が含まれ、またアミドが加水分解されて生成するHMBAが僅かに含まれていてもよい。
【0035】
かくして本発明の方法で反応液としてアミド(A)得るが、得られたアミド(A)を加水分解することで、HMBAを得ることができる。アミド(A)は通常、反応液のまま加水分解される。
【0036】
アミド(A)を加水分解するには、例えば得られた反応液に水(F)を加え、加熱すればよい。加える水(F)の量は、先の水和で用いた無機酸(D)に対して1質量倍〜2質量倍程度である。無機酸(D)として硫酸を用いた場合には、水(F)と共に、硫酸アンモニウムや重硫酸アンモニウムを加えてもよい〔特許文献1:特開2001−187779号公報の段落番号0038、0046および0052〕。
【0037】
加水分解温度は通常90℃〜130℃である。90℃未満では十分に加水分解できない傾向にある。大気圧下での反応液の沸点が130℃未満である場合もあり、その場合には加圧下に加熱することで大気圧下での沸点を超える加水分解温度まで加熱することもできるが、加圧のための設備が不要である点で、大気圧下での反応液の沸点以下の温度で加水分解することが好ましい。加水分解の過程で沸点の低い軽沸分が揮発することもあるが、この軽沸分は加水分解中、または加水分解後にパージすればよい。加水分解に要する時間は通常、2時間〜5時間程度である。
【0038】
加水分解は、先の水和に用いた回分反応器(3)の抜出管(37)から反応液(A)を抜き出し、別の回分反応器に移送して行われてもよいが、先に用いた回分反応器(3)から反応液を抜き出すことなく、そのまま水導入管(38)から水(F)を加え、加熱して加水分解してもよい。アミドの加水分解により生ずる発熱は比較的少ないので、回分反応器であっても、小容量の冷却器で十分に除熱することができる。
【0039】
かくして加水分解することで、加水分解液として2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸(HMBA)(G)を得ることができる。得られたHMBAは、精製して飼料添加物などとして用いられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
【0041】
実施例1
図1に示すような、連続反応器(2)として槽型反応器本体(20a)を一台用いた連続攪拌槽型反応器(2a)を用い、これ(2a)に、55℃にて、ニトリル導入管(21)を通じて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル(B)を131.20g/時間(1モル/時間)で、また無機酸水溶液導入管(23)を通じて63%硫酸水溶液(D')を116.76g/時間(硫酸換算で0.75モル/時間、水43.20g/時間)で、それぞれ連続的に導入しつつ、ジャケット(23)により除熱して内温を55℃に維持しながら、平均滞留時間45分(0.75時間)でニトリルを水和させ、抜出管(27)より水和反応液(E)を連続的に抜き出す。
【0042】
ニトリル 131.20g(1モル)を63%硫酸116.76gと混合すると、0.92Jの混合熱を生ずる。ニトリルを水和させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドとすると、ニトリル 1モルあたり93.56Jの水和熱が生じ、55℃で反応させた場合に45分後にはニトリルの約90%が水和されるので、この槽型反応器本体(20a)での水和反応による発熱量は1時間あたり84.20J(=93.56J×0.90)である。よって、この槽型反応器(20a)からは、85.12J/時間(=0.92+84.20)の速度で除熱すればよい。
【0043】
抜き出された水和反応液(E)は、水和反応液貯蔵タンク(4)に送り、55℃で貯蔵する。この貯蔵タンク(4)には、6時間分の水和反応液(E)(1488g)が貯蔵される。6時間の貯蔵中にも水和が進行し、転化率は99%となるが、このときの水和反応は、概ね均等の速度で進行し、その間に生ずる発熱量は50.52J(=93.56J×0.09×6)であるので、この貯蔵タンク(4)からは8.42J/時間(=50.52/6)の速度で除熱すればよい。
【0044】
水和反応液貯蔵タンク(4)に貯蔵された6時間分の水和反応液(E)を55℃のまま回分反応器(3)を構成する空の槽型反応器本体(30)に送って充填し、充填完了後、更に1時間の間55℃を維持すると、水和反応液(E)に含まれていた未反応ニトリルを実質的に転化率100%で水和させることができる。このときの水和反応は、ほぼ均等の速度で進行し、その間に生ずる発熱量は5.61J(=93.56J×0.01×6)であるので、この槽型反応器(30)からは、0.935J/時間(=5.61J/6時間)の速度で除熱すればよい。
【0045】
実施例2
図2に示すように、連続反応器(2)として2台の連続攪拌槽型反応器(2a)を直列に連結した直列連続攪拌槽型反応器(2b)を用い、これ(2b)に、ニトリル導入管(21)を通じてニトリル(B)を131.20g/時間(1モル/時間)で、また無機酸水溶液導入管(23)を通じて63%硫酸水溶液(D')を116.76g/時間(硫酸換算で0.75モル/時間、水43.20g/時間)で、それぞれ連続的に導入しつつ、冷却器(25)によりジャケット(33)から除熱して内温を55℃に維持しながら、2台の連続攪拌槽型反応器(2a)での合計の平均滞留時間が45分(0.75時間)となるように抜出管(27)より水和反応液(E)を連続的に抜き出すことにより、ニトリルを水和させる。この2台の連続攪拌槽型反応器(2a、2a)からは、合計、85.12J/時間の除熱速度で除熱すればよい。
【0046】
直列連続槽型反応器(2b)の抜出管(27)から抜き出された水和反応液(E)は、55℃のまま回分反応器(3)を構成する空の槽型反応器本体(30)に直接送って6時間かけて充填し、充填完了後、更に6時間の間55℃を維持すると、水和反応液(E)に含まれていた未反応ニトリルは実質的に転化率100%で水和される。このときの水和反応は、ほぼ均等の速度で進行し、その間に生ずる発熱量は56.14J(=93.56J×0.1×6)であるので、この槽型反応器(30)からは、9.36J/時間(=56.14J/6時間)の除熱速度で除熱すればよい。
【0047】
実施例3
図1に示す製造設備に代えて、図3に示すように連続反応器(2)として管型反応器(2c)を用いた製造設備(1)を用いる以外は実施例1と同様に操作することにより、ニトリルを水和させる。この製造設備(1)では、管型反応器(2c)からは85.12J/時間の除熱速度で、貯蔵タンク(4)からは8.42J/時間の除熱速度で、槽型反応器(30)からは0.936J/時間の除熱速度でそれぞれ除熱すればよい。
【0048】
実施例4
図2に示す製造設備に代えて、図4に示すように連続反応器(2)として管型反応器(2c)を用いた製造設備(1)を用いる以外は実施例2と同様に操作することにより、ニトリルを水和させる。この製造設備では、管型反応器(2c)からは1時間あたり85.12J/時間の除熱速度で除熱すればよく、また、槽型反応器(30)からは合計9.36J/時間の除熱速度で除熱すればよい。
【0049】
実施例5
図1に示す製造設備に代えて、図5に示すように連続反応器(2)としてループ型反応器(2d)を用いた製造設備(1)を用いる以外は実施例1と同様に操作することによりニトリルを水和させる。この製造設備(1)では、ループ型反応器(2d)からは85.12J/時間の除熱速度で、貯蔵タンク(4)からは8.42J/時間の除熱速度で、槽型反応器(30)からは0.935J/時間の除熱速度でそれぞれ除熱すればよい。
【0050】
実施例6
図2に示す製造設備に代えて、図6に示すように連続反応器(2)としてループ型反応器(2d)を用いた製造設備(1)を用いる以外は実施例2と同様に操作することによりニトリルを水和させる。この製造設備では、ループ型反応器(2d)からは85.12J/時間の除熱速度で除熱すればよく、また、槽型反応器(30)からは、1時間あたり9.36J/時間で除熱すればよい。
【0051】
比較例1
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル 131.20gと63%流酸水溶液 116.76gとを空の槽型反応器(30)に55℃でそれぞれ独立して同時に導入すると、速やかに反応が進行し、1分後には転化率90%で水和されてアミドが生成する。この間の発熱量は混合による混合熱0.92Jと、水和による発熱量84.20Jとの合計85.12Jであるが、この間、温度を55℃に維持するには、この合計熱量85.12Jを1分間で除熱しなければならないため、5107J/時間の除熱速度で除熱しなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の製造方法により2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造するための設備の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の製造方法により2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造するための設備の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の製造方法により2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造するための設備の一例を模式的に示す図である。
【図4】本発明の製造方法により2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造するための設備の一例を模式的に示す図である。
【図5】本発明の製造方法により2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造するための設備の一例を模式的に示す図である。
【図6】本発明の製造方法により2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造するための設備の一例を模式的に示す図である。
【図7】連続反応器の一例を模式的に示す図である。
【図8】連続反応器の一例を模式的に示す図である。
【図9】連続反応器の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0053】
A:2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミド(アミド)
B:2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリル(ニトリル)
C:水 D:無機酸 D':無機酸水溶液(水+無機酸)
E:水和反応液 F:水
G:2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸(HMBA)
1:製造設備
2:連続反応器
2a:連続攪拌槽型反応器 20a:槽型反応器本体
2b:直列連続攪拌槽型反応器
2c:管型反応器 20c:管型反応器本体
2d:ループ型反応器 20d:ループ型反応器本体
21:ニトリル導入管 22:無機酸水溶液導入管
23:ジャケット 24:ポンプ 25:冷却器
26:攪拌機 27:抜出管
3、3':回分反応器
30:槽型反応器本体
33:ジャケット 34:ポンプ 35:冷却器
36:攪拌機 37:抜出管 38:水導入管
4:水和反応液貯蔵タンク
43:ジャケット 44:ポンプ 45:冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを無機酸の存在下に水和させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを製造する方法であって、
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを無機酸の存在下に転化率が80%以上98%以下となるように連続式にて水和させて水和反応液を得、
得られた水和反応液に含まれる未反応の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルを転化率99.9%以上となるように回分式にて水和させる
ことを特徴とする2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドの製造方法。
【請求項2】
無機酸が硫酸であり、その使用量が2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンニトリルに対して0.5モル倍〜1モル倍である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
連続槽型反応器、直列連続槽型反応器、管型反応器またはループ型反応器を用いてニトリルを連続式にて水和させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
40℃〜70℃で連続式にて水和させ、40℃〜70℃で回分式にて水和させる請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の製造方法で2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを得、
得られた2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミドを加水分解する
ことを特徴とする2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−161499(P2009−161499A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2989(P2008−2989)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】